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特開2022-36766NDフィルタ及びNDフィルタの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036766
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】NDフィルタ及びNDフィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20220301BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
G02B5/00 A
C23C14/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141137
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】西本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓郎
【テーマコード(参考)】
2H042
4K029
【Fターム(参考)】
2H042AA06
2H042AA11
2H042AA22
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA24
4K029BA01
4K029BA17
4K029BA46
4K029BB02
4K029BC07
4K029CA05
4K029CA06
4K029DA04
4K029DC02
4K029DC03
4K029DC16
4K029DC35
4K029JA02
(57)【要約】
【課題】可視域等の特定波長域における透過率分布の平坦性と反射防止性能とが、より高い水準で両立したNDフィルタ等を提供する。
【解決手段】本発明のNDフィルタ1は、基板2と、基板2の1以上の面である成膜面の側に配置される光学膜4と、を備えている。光学膜4は、TiとNbとの混合物(Ti+Nb)から成る光吸収層10を含んでいる。光学膜4は、基板2の成膜面に対し、直接配置されても良いし、中間膜を介して間接的に配置されても良い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の1以上の面である成膜面の側に配置される光学膜と、
を備えており、
前記光学膜は、TiとNbとの混合物から成る光吸収層を含んでいる
ことを特徴とするNDフィルタ。
【請求項2】
前記光学膜は、誘電体から成る誘電体層を含んでいる
ことを特徴とする請求項1に記載のNDフィルタ。
【請求項3】
前記光吸収層におけるTiとNbとの元素数比は、Ti:Nb=15:85~75:25の範囲内とされている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のNDフィルタ。
【請求項4】
基板を置いた成膜室内でTiとNbとを同時にスパッタすることで、TiとNbとの混合物から成る光吸収層を前記基板に形成する
ことを特徴とするNDフィルタの製造方法。
【請求項5】
前記光吸収層におけるTiとNbとの元素数比が、Tiのターゲットにおける成膜室内での露出面の面積と、Nbのターゲットにおける成膜室内での露出面の面積との比率によって制御される
ことを特徴とする請求項4に記載のNDフィルタの製造方法。
【請求項6】
TiのターゲットとNbのターゲットとが結合されたTi+Nb用ターゲットをターゲットとして、前記光吸収層が形成される
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のNDフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ND(Neutral Density)フィルタ、及びNDフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視域内で光の透過率の分布が平坦であるNDフィルタとして、特許第4623349号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
このNDフィルタ(第1の実施の形態,[0015]以下,図1)は、ハードコート層付き基板の上に光学多層体を有している。光学多層体において、基板側から1,3層目がNb層とされ、2,4層目がSiO層とされている。Nb層は、[0023]に記載される通り、DCスパッタリング法により形成される。
この第1の実施の形態に対し、ハードコート層に代えて密着層としてのSi層を配置した実施例1では([0048]以下,図6)、400nm(ナノメートル)以上700nm以下の波長域において、透過率分布が平坦であり、反射率が1.9%程度となっている。
【0003】
又、同様なNDフィルタとして、特開2004-295015号公報(特許文献2)に記載されたものが知られている。
このNDフィルタ(実施の形態,図1(B))は、透明基板上に第一の光学フィルムを備えている。第一の光学フィルムにおいて、基板側から1,5層目がSiO層とされ、3層目がAl層とされ、2,4層目がTi+TiO層とされている。この第一の光学フィルムの各層は、[0016]以下に記載される通り、真空蒸着により形成される。特にTi+TiO層は、真空蒸着により、Tiに対する酸素の反応度合、即ちxの値に係る制御が比較的に容易である。これに対し、仮に第一の光学フィルムをスパッタリングにより形成することを考えたとしても、スパッタリングではTiに対する酸素の反応性が高いため、xの値の制御が困難である。よって、Ti+TiO層を含む第一の光学フィルムの形成に、スパッタリングを用いることはできない。
又、[0015]において、このNDフィルタの光吸収膜の金属材料の変更例として、Tiに代えて、Cr,Nb,Ni,NiCr,NiFe及びこれらの混合物から選択された金属が挙げられている。しかし、変更例として、TiとNbとの混合物は、挙げられておらず、当該混合物の層の構成及び形成といった具体例は全く示されていない。
【0004】
更に、同様なNDフィルタとして、特許第4981456号公報(特許文献3)に記載されたものが知られている。
このNDフィルタ(NbOの実施例,[0045],図13)の膜は、全11層であり、基板側から数えて奇数層目がSiO層とされ、偶数層目がNbO層とされている。NbO層は、上述のTiOの場合と同様に、スパッタリングではなく、蒸着で形成される。このNDフィルタの400nm以上700nm以下の波長域での透過率は平坦であり、反射率分布は最大4~5%となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4623349号公報
【特許文献2】特開2004-295015号公報
【特許文献3】特許第4981456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の各NDフィルタでは、可視域の光に対する反射率に低減の余地があり、特に特許文献1に係る1.9%程度を下回る反射率の確保、即ちより優れた反射防止性能の確保が求められている。
又、上述の各NDフィルタにおいて、層の材質を維持したまま、現実的なコストの範囲内で、可視域の透過率分布の平坦性と反射率の低減とを両立することは、困難である。
【0007】
そこで、本発明の主な目的は、可視域等の特定波長域における透過率分布の平坦性と反射防止性能とがより高い水準で両立したNDフィルタ,NDフィルタの製造方法を提供することである。
又、本発明の他の主な目的は、製造コストの低いNDフィルタ,NDフィルタの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、NDフィルタにおいて、基板と、前記基板の1以上の面である成膜面の側に配置される光学膜と、を備えており、前記光学膜は、TiとNbとの混合物から成る光吸収層を含んでいることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、上記発明において、前記光学膜は、誘電体から成る誘電体層を含んでいることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記光吸収層におけるTiとNbとの元素数比は、Ti:Nb=15:85~75:25の範囲内とされていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、NDフィルタの製造方法において、基板を置いた成膜室内でTiとNbとを同時にスパッタすることで、TiとNbとの混合物から成る光吸収層を前記基板に形成することを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、上記発明において、前記光吸収層におけるTiとNbとの元素数比が、Tiのターゲットにおける成膜室内での露出面の面積と、Nbのターゲットにおける成膜室内での露出面の面積との比率によって制御されることを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、上記発明において、TiのターゲットとNbのターゲットとが結合されたTi+Nb用ターゲットをターゲットとして、前記光吸収層が形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の主な効果は、可視域等の特定波長域における透過率分布の平坦性と反射防止性能とがより高い水準で両立したNDフィルタ,NDフィルタの製造方法が提供されることである。
又、本発明の他の主な効果は、製造コストの低いNDフィルタ,NDフィルタの製造方法が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るNDフィルタの模式的な横断面図である。
図2】Ti単体から成る層であるTi層、及びNb単体から成る層であるNb層における、光学定数のうちの屈折率の分布(約300nm以上900nm以下の波長域内)がそれぞれ示されたグラフである。
図3】Ti層及びNb層における、光学定数のうちの消衰係数の分布(同波長域内)がそれぞれ示されたグラフである。
図4】NDフィルタの製造装置の模式的な上面図である。
図5図2の動作例のフローチャートである。
図6】(A)は、Ti+Nb用ターゲットに係るドラム側の面の模式図であり、(B)は、別のTi+Nb用ターゲットに係るドラム側の面の模式図である。
図7】各実施例及び各比較例に係る基板の光学定数(屈折率及び消衰係数)が示されるグラフである。
図8】実施例1における特定波長域及び隣接域(380nm以上750nm以下)での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図9】実施例2における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図10】実施例3における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図11】実施例4における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図12】比較例1における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図13】比較例2における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図14】Ti+Nb層におけるTiの元素比率(Ti比率,%)を横軸とし、特定波長域(400nm以上700nm以下)での透過率の幅ΔTを縦軸とした平面に、実施例1~4及び比較例1~2についてプロットしたグラフである。
図15】実施例5における特定波長域及び隣接域(380nm以上750nm以下)での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図16】実施例6における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図17】実施例7における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図18】実施例8における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図19】比較例3における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図20】比較例4における同波長域での透過率並びに表面反射率及び界面反射率に係るグラフである。
図21】Ti+Nb層におけるTiの元素比率(Ti比率,%)を横軸とし、特定波長域(400nm以上700nm以下)での透過率の幅ΔTを縦軸とした平面に、実施例5~8及び比較例3~4についてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面を用いて説明される。
尚、本発明は、以下の例に限定されない。
【0013】
≪NDフィルタの構成等≫
本発明に係るNDフィルタは、特定波長域内の光に係る透過率の分布が平坦であるフィルタであり、当該光をほぼ均一に透過するものである。例えば、当該波長域内で透過率[%]の最大値と最小値の差が好ましくは15ポイント以内であり、より好ましくは10ポイント以内であり、更に好ましくは5ポイント以内である。
特定波長域として、例えば可視域あるいは可視域内の波長域が挙げられる。可視域あるいは可視域内の波長域は、例えば何れも400nm以上700nm以下であり、その下限は、380nm、390nm、410nmあるいは420nm等とされても良いし、その上限は、760nm、あるいは780nm、800nm等とされても良い。可視域と可視域内の波長域とが一致していなくても良い。
又、特定波長域は、可視域に代えて、あるいは可視域と共に、紫外域あるいは赤外域に属するものとされても良いし、これらの組合せに属するものとされても良い。
以下では、均一に透過する対象としての特定波長域が400nm以上700nm以下であるものとして説明がなされる。尚、この説明により、特定波長域が400nm以上700nm以下に限定されるものではない。
【0014】
図1に例示されるように、本発明に係るNDフィルタ1は、基板2と、光学膜4とを有する。
光学膜4は、基板2の成膜面に対し形成される。成膜面は、基板2の片面である。尚、成膜面は、基板2の両面であっても良い。光学膜4が基板2の両面に形成される場合、各面の光学膜4の構成は、互いに同一でも異なっていても良いところ、好ましくは、当該構成は互いに同一とされる。又、一方の面に本発明に係る光学膜4が形成され、他方の面に本発明に属さない光学多層膜あるいは光学単層膜が形成されても良い。
【0015】
基板2は、透明(半透明を適宜含む)であれば、ポリカーボネイト等の樹脂、あるいはガラスを始めとしていかなる材質であっても良いところ、好ましくはアルカリ元素を含んだガラスであり、より好ましくは強化ガラスであり、例えば化学強化ガラスである。
強化ガラス製の基板2は、表面に圧縮応力層が形成されているので、表面にクラックが生じたとしても、圧縮応力によりクラックの成長が抑制され、通常の(強化処理されていない)ガラス製の基板2よりも衝撃に強い。
又、基板2は、好ましくは巻き取り不能であり、ロール化不能であるものが好ましい。塑性変形を生じない限り巻き取れない程度に柔軟でない基板であれば、光学膜4等がより一層安定して形成され、NDフィルタ1がより一層頑丈になる。
【0016】
光学膜4は、1あるいは複数の層を含む膜であり、特定波長域の光(特定光)を吸収する光吸収層10を1以上備えていて、特定光の均一な透過(ND)を実現する機能を具備する。
光学膜4は、複数の層を含む場合、光学多層膜となる。
尚、光学膜4より基板側及び空気側の少なくとも一方において、ハードコート膜、防汚膜、反射防止膜、及び導電膜の少なくとも何れか等といった他の1以上の膜が付与されても良い。又、これらハードコート膜、導電性膜等は、光学膜4に含まれるものとして扱われても良い。
【0017】
光吸収層10は、それぞれ金属であるTi(チタン)とNb(ニオブ)との混合物製である。即ち、光学膜4は、TiとNbとの混合物(Ti+Nb)から成る層である光吸収層10を含んでいる。
光吸収層10におけるTiとNbとの比率は、どのようなものであっても良いところ、好ましくは元素数比でTi:Nb=15:85(Tiの元素数比率15%以上)から75:15(同75%以下)である。
光吸収層10は、蒸着あるいはスパッタリング等により形成され、好ましくはスパッタリングにより形成される。
尚、光学膜4において、Ti+Nb以外の光吸収層が1以上含まれていても良い。
【0018】
可視光の均一な透過のための吸収については、吸収[%]が簡易的に「100-(透過率[%]+反射率[%])」で表されることから、可視域における分光透過率分布及び分光反射率分布の少なくとも一方が平坦であることによって把握することができ、反射率が小さい場合には分光透過率分布が平坦であることによって把握することができる。吸収の平坦性については、吸収の最大値と最小値の差で評価され、分光透過率分布の平坦性については、透過率の最大値と最小値の差で評価され、いずれも差が小さいほど平坦性が高い。高い平坦性は、均一な減光をもたらすものとしてニーズが存在する。
又、例えばNDフィルタ1付きのカメラの撮像素子で利用する光は、NDフィルタ1の透過光であるところ、NDフィルタ1における反射光は、撮像素子及び光学系におけるノイズの原因となるから、NDフィルタ1の反射率をなるべく低減する要請がある。
尚、NDフィルタ1全体として所望の透過率を実現するため、光吸収層10による可視光の吸収は、光学膜4の他の層若しくは他の膜又は基板2における吸収、透過率、反射率の分布に応じた分布とされて良い。
【0019】
図2は、Ti単体から成る層であるTi層、及びNb単体から成る層であるNb層における、光学定数のうちの屈折率の分布(約300nm以上900nm以下の波長域内)がそれぞれ示されたグラフである。
図3は、Ti層及びNb層における、光学定数のうちの消衰係数の分布(同波長域内)がそれぞれ示されたグラフである。
Ti+Nbから成るTi+Nb層では、元素数比でTi:Nb=50:50の場合、屈折率の分布が、Ti層の分布とNb層の分布を平均化したものとなり、消衰係数の分布も同様になる。そして、元素数比でTiがNbに勝った分、屈折率及び消衰係数の各分布は、Ti:Nb=50:50の場合からTi層の分布に寄った分布となり、元素数比でTiがNbに劣った分、屈折率及び消衰係数の各分布は、Ti:Nb=50:50の場合からNb層の分布に寄った分布となる。
Ti層では、特定波長域における光学定数の傾向により、透過率が、特定波長域の短波長側で、長波長側より上昇する。
Nb層では、特定波長域における光学定数の傾向により、透過率が、特定波長域の短波長側で、長波長側より減少する。
Ti+Nb層では、Ti層、Nb層の透過率の増減傾向が、互いに反対の傾向を持つTi及びNbの混合により緩和され、透過率分布が平坦に近づくこととなる。本発明の光吸収層10は、かようなTi+Nbの性質を利用している。
【0020】
更に、光学膜4は、低屈折率材料製の低屈折率層12を1以上有していても良い。かような低屈折率材料としては、酸化シリコン(特にSiO)が例示される。又、低屈折率材料として、他の誘電体材料、あるいは金属材料若しくは金属酸化物材料が用いられても良い。好ましくは、低屈折率層12は、誘電体製の誘電体層である。
光学膜4(光学多層膜)における低屈折率層12及び光吸収層10は、好ましくは交互に配置される。かような光学膜4における層の数は、特に限定されない。光吸収層10は、殆どの誘電体材料より屈折率が高いことから、主に高屈折率層として取り扱える。光学膜4における最も基板側の層(基板に最も近い層)を1層目とした場合、1層目が低屈折率層12とされても良いし光吸収層10とされても良いところ、好ましくは奇数層目が低屈折率層12であり、偶数層目が光吸収層10である。1層目が低屈折率層12であれば、2層目の光吸収層10が基板2側の面に直接成膜されず、基板2側の面は低屈折率層12と接触することとなり、光学膜4の密着性がより良好になる。
【0021】
又、光学膜4は、光吸収層10以外の高屈折率層を1以上有していても良い。高屈折率層は、高屈折率材料から形成されている。かような高屈折率材料としては、例えば誘電体材料、あるいは金属材料若しくは金属酸化物材料が挙げられ、より具体的な例として、酸化ジルコニウム(特にZrO)、酸化チタン(特にTiO)、酸化タンタル(特にTa)、酸化ニオブ(特にNb)、窒化ケイ素(特にSiN,Si)、酸化ハフニウム(特にHfO)の少なくとも何れかが挙げられる。光学膜4の作製の容易性(製造装置の簡略化)の観点から、高屈折率材料と光吸収層10の材料とに共通する部分が存在すること(例えばNbとNb)は、好ましい。同様に、低屈折率材料と高屈折材料とに共通する部分が存在すること(例えばSiOとSiN)は、好ましい。
尚、光学膜4において、複数種類の高屈折率層が含まれていても良く、低屈折率層においても同様である。
【0022】
かような光学膜4が配置された基板2を含むNDフィルタ1は、好適にはカメラ用とされる。
カメラ用NDフィルタは、カメラのレンズの前等に後付けされるものであっても良いし、カメラの光学系に組み込まれた(カメラに内蔵された)ものであっても良い。
又、カメラ用NDフィルタは、車載カメラ用であっても良いし、警備カメラ用であっても良いし、医療機器付属のカメラ用であっても良い。
【0023】
このように、本発明のNDフィルタ1は、基板2と、基板2の1以上の面である成膜面の側に配置される(基板2の成膜面に対し直接配置されても良いし中間膜を介して間接的に配置されても良い)光学膜4と、を備えており、光学膜4は、TiとNbとの混合物(Ti+Nb)から成る光吸収層10を含んでいる。よって、Ti及びNbの各光学特性が平均化されたTi+Nbにより光吸収層10が形成され、透過率分布の平坦性と反射防止性能とが高い水準で両立したNDフィルタ1が提供される。
又、光学膜4は、誘電体から成る誘電体層としての低屈折率層12を含んでいる。よって、NDフィルタ1は、光吸収層10と低屈折率層12との交互膜となり、透過率分布の平坦性と反射防止性能とが更に高い水準で両立したものとなる。
【0024】
≪NDフィルタの製造装置等≫
次いで、上述のNDフィルタ1を製造する装置の実施形態が、説明される。
尚、本発明に係るNDフィルタ1の製造装置は、以下の形態に限定されない。
【0025】
図4は、当該形態に係る製造装置101の模式的な上面図である。
製造装置101は、ドラム型スパッタ成膜装置(カルーセル型スパッタリング装置)であり、1以上の基板2の片面に光学膜4を成膜するものである。
製造装置101は、成膜室としての真空室102と、その中央部において自身の軸周りで回転可能に配置された円筒状のドラム104と、を備えている。ドラム104の外周円筒面には、成膜対象としての基板2が、成膜面を外側に向けた状態で保持されている。
【0026】
真空室102の一面には、第1スパッタ源110が配置されている。
第1スパッタ源110は、第1ターゲットT1をセットするスパッタカソード112と、一対の防着板114と、スパッタガスが適宜流量調整のうえで導入されるスパッタガス導入口116と、を備えている。
スパッタカソード112は、外部直流電源(図示略)と接続されている。
防着板114は、第1ターゲットT1とこれに対向するドラム104の部分との間を、他の真空室102の内部部分から区切るように配置されている。
スパッタガス導入口116は、防着板114によって区切られた空間へ向けてスパッタガスを流す。
【0027】
真空室102の別の一面には、第2スパッタ源120が配置されている。
第2スパッタ源120は、第1スパッタ源110と同様に、第2ターゲットT2をセットするスパッタカソード122と、一対の防着板124と、スパッタガス導入口126と、を備えている。
【0028】
更に、真空室102の他の一面には、ラジカル源130が配置されている。
ラジカル源130は、ガスをバルブ132により流量調整のうえで導入可能なラジカルガス導入口134と、加速電圧用電源(図示略)により電圧が印加されることでプラズマを発生可能なガン136と、を有する。
ラジカルガス導入口134から真空室102の内部に導入されたガスは、ガン136が発生したプラズマによりラジカル化し、基板2に向かってビーム状に照射される。
【0029】
加えて、ラジカル源130の両脇には、排気部140が設けられている。各排気部140では、真空室102内の排気が行われる。
尚、第1スパッタ源110、第2スパッタ源120、ラジカル源130及び各排気部140の少なくとも何れかの配置、及び設置数は、上述のものに限定されない。
【0030】
製造装置101の動作例(NDフィルタ1の製造方法の例)について、光吸収層10がTi+Nb層であり、更にSiO層の低屈折率層12が基板2から数えて奇数層目に設けられる場合が、主に図5に基づいて説明される。
まず、基板2がドラム104にセットされると共に、第1ターゲットT1としてTi+Nb用ターゲットTTa又はTi+Nb用ターゲットTTb等がセットされ、第2ターゲットT2としてSiがセットされる(ステップS1)。
図6(A)は、Ti+Nb用ターゲットTTaに係るドラム104に対向する面の模式図である。Ti+Nb用ターゲットTTaは、Tiから成るTiのターゲットとしてのTi部150aと、Nbから成るNbのターゲットとしてのNb部152aと、を有する。Ti部150a及びNb部152aは、何れもブロック状であり、ドラム104の円筒面に対する仮想的な接線の方向(接線方向)に並んだ状態で結合されている。Ti部150a及びNb部152aの上下方向の大きさ(高さ)は、同じである。そして、Ti+Nb用ターゲットTTaでは、Ti部150aの接線方向の大きさ(幅)は、Nb部152aの幅と同じとされており、Ti部150aの幅:Nb部152aの幅=50:50となっている。これに、Ti部150aの高さ及びNb部152aの高さが等しいことを加味すると、Ti部150aのドラム104対向面の面積:Nb部152aのドラム104対向面の面積=50:50となる。Ti部150aのドラム104対向面(ドラム104側の面)は、Tiのターゲットにおける真空室102での露出面であり、Nb部152aのドラム104対向面(ドラム104側の面)は、Nbのターゲットにおける真空室102での露出面である。
図6(B)は、Ti+Nb用ターゲットTTbに係るドラム104に対向する面の模式図である。Ti+Nb用ターゲットTTbは、Tiから成るTi部150bと、Nbから成るNb部152bと、を有する。Ti部150bは、幅を除き、Ti部150aと同様に成り、Nb部152bは、幅を除き、Nb部152aと同様に成る。Ti+Nb用ターゲットTTbでは、Ti部150bの幅:Nb部152bの幅=70:30となっており、Ti部150bのドラム104対向面の面積:Nb部152bのドラム104対向面の面積=70:30となる。Ti部150bのドラム104対向面(ドラム104側の面)は、Tiのターゲットにおける真空室102での露出面であり、Nb部152bのドラム104対向面(ドラム104側の面)は、Nbのターゲットにおける真空室102での露出面である。
尚、Ti+Nb用ターゲットTTa,TTbにおける各形状及び各高さの少なくとも一方が、互いに異なっていても良い。Ti+Nb用ターゲットTTa,TTb(50:50,70:30)以外の面積比に係るものが用いられても良い。
【0031】
次に、真空室102の内部が排気される(ステップS2)。
続いて、ドラム104が回転され、ドラム104に保持された基板2が、第1スパッタ源110,第2スパッタ源120,ラジカル源130の各内側を順次繰り返し高速で通過するようにされる(ステップS3)。
次いで、基板2のクリーニングが行われる(ステップS4)。即ち、ラジカル源130のラジカルガス導入口34から酸素(O)ガスが導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル酸素が生成され、移動している基板2に対して所定時間照射される。かようなラジカル酸素の照射により、基板2表面に有機物等が付着していたとしても、有機物等はラジカル酸素及びプラズマで発生する紫外線によって分解剥離され、基板2の表面がクリーニングされる。かようなクリーニングにより、後に形成する膜の密着性が向上する。
【0032】
続いて、光学膜4が形成される(ステップS5)。動作例の光学膜4において、基板2に接する1層目はSiO層であるため、まずSiO層が、主に第2スパッタ源120及びラジカル源130によるSiの堆積と酸化との繰り返しによって形成される。
即ち、ドラム104の回転が維持された状態で、第2スパッタ源120のスパッタガス導入口116から希ガス(ここではArガス)が導入され、スパッタカソード112に直流電圧が印加されることで、第2ターゲットT2表面のSiが、Arによるスパッタにより、基板2の表面上に堆積する。
同時に、ラジカル源130のラジカルガス導入口134からOガスが導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル酸素が生成され、Siの堆積した移動中の基板2に対して照射されて、Siの酸化がなされる。
SiO層の膜厚は、スパッタカソード112への投入電力が一定であり、単位時間当たりの成膜される物理膜厚である成膜レートが一定である場合には、スパッタリングの時間の長短により制御される。よって、所望の膜厚に相当する時間が経過した時点で、スパッタカソード112への電圧印加が停止されて、1層目のSiO層の成膜が完了する。
【0033】
次いで、光吸収層10であるTi+Nb層が、主に第1スパッタ源110によるTi及びNbの堆積によって形成される(光吸収層形成ステップ,スパッタリングによるTi+Nb層の形成)。
即ち、ドラム104の回転が維持された状態で、第1スパッタ源110のスパッタガス導入口126から希ガス(ここではArガス)が導入され、スパッタカソード122に直流電圧が印加されることで、第1ターゲットT1表面のTi及びNbが、Arによるスパッタにより、基板2の表面上に堆積する。ここでは、ラジカル源130は、不動作とされる。尚、ドラム104の回転は、1層目の形成後であって2層目の形成前等において、一時的に変速されたり一旦停止されたりしても良い。
Arによるスパッタは、第1ターゲットT1のドラム104対向面に、微小でない時間では均等に作用する。よって、第1ターゲットT1としてTi+Nb用ターゲットTTaが用いられた場合、Ti部150a及びNb部152aの各ドラム104対向面の面積比に応じてTi及びNbが出て基板2の成膜面に堆積し、即ち光吸収層10として元素数比でTi:Nb=50:50となるTi+Nb層が形成される。又、第1ターゲットT1としてTi+Nb用ターゲットTTbが用いられた場合、同様に光吸収層10として元素数比でTi:Nb=70:30となるTi+Nb層が形成される。
Ti+Nb層の膜厚は、SiO層と同様に時間により制御可能であり、所望の膜厚に相当する時間が経過した時点でスパッタカソード112への電圧印加が停止されて、2層目のTi+Nb層の成膜が完了する。
【0034】
そして、同様にSiO層の成膜とTi+Nb層の成膜が適宜繰り返されることにより、光学膜4の形成がなされる。SiO層及びTi+Nb層は、基板2の成膜面の全体に行き渡る。
光学膜4の形成が完了すれば、ドラム104が止められ、適宜冷却が行われた後、光学膜4付き基板2、即ちNDフィルタ1が取り出される(ステップS6)。
尚、光学膜4の上(外側)に、製造装置101あるいは別の装置によって更に防汚膜等が付与されても良い。
【0035】
このように、本発明のNDフィルタ1の製造方法は、基板2を置いた真空室102内でTiとNbとを同時にスパッタすることで、TiとNbとの混合物(Ti+Nb)から成る光吸収層10を基板2に形成するものである。よって、蒸着が困難であるTi+Nbが容易に安定して製造され、特定波長域における透過率分布の平坦性と反射防止性能とがより高い水準で両立したNDフィルタが、製造コストの低い状態で製造される。
又、本発明のNDフィルタ1の製造方法において、光吸収層10におけるTiとNbとの元素数比が、Ti部150a,150b等における真空室102内での露出面の面積と、Nb部152a,152b等における真空室102内での露出面の面積との比率によって制御される。よって、面積比の調整により、容易に所望の元素比率に係るTi+Nbが得られ、容易にNDフィルタ1の光学特性の微調整が行える。
更に、本発明のNDフィルタ1の製造方法において、Ti部150a,150b等とNb部152a,152b等とが結合されたTi+Nb用ターゲットTTa,TTb等をターゲットとして、光吸収層10が形成される。よって、通常のスパッタリング装置にTi+Nb用ターゲットTTa,TTb等をセットするだけでTi+Nb層が形成されることとなり、特定波長域における透過率分布の平坦性と反射防止性能とがより高い水準で両立したNDフィルタが、より一層製造コストの低い状態で製造される。
【実施例0036】
次いで、本発明の好適な実施例、及び本発明に属さない比較例が、前段(実施例1~4,比較例1~2)及び後段(実施例5~8,比較例3~4)に分けて説明される。
尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、下記の実施例が実質的には比較例となったり、下記の比較例が実質的には実施例となったりすることがある。
【0037】
[実施例1~4及び比較例1~2]
≪実施例1~4の構成等≫
実施例1のNDフィルタ1は、上述の製造装置101により、フラットで透明な白板ガラス製の基板2(コーニング社製B270)の片面に、光学膜4のみが成膜されることで形成された。この基板2の光学定数(屈折率及び消衰係数)が、図7に示される。又、光学膜4は、次の[表1]に示されるように、基板2に最も近い1層目がSiO層(低屈折率層12)とされた状態で、SiO層がTi+Nb層(光吸収層10)と交互に積層された全7層の構成を有する。
実施例1の光学膜4における各層の膜厚は、特定波長域(400nm以上700nm以下)において透過率が25%前後となり、且つ特定波長域において表面反射率の最大値が1%以下となり、且つ特定波長域において界面反射率の最大値が1%以下となるように設計された。ここで、表面反射率は、光学膜4の空気接触面(最外層の外面)に対し、空気側(外側)から垂直入射(入射角0°)する光の反射率であり、界面反射率は、基板2と光学膜4(の1層目)との界面に対し、基板2側から垂直入射する光の反射率である。これらの設計要素における優先度は、最大表面反射率1%以下及び最大界面反射率1%以下の要素を優位とし、透過率25%における平坦性の確保を、当該要素より劣後するようにした。
【0038】
より詳しくは、実施例1における光学膜4の成膜において、真空室102の内部は、成膜開始時点で2×10-4Pa(パスカル)とされた。
又、ドラム104の回転数は、100rpm(回毎分)とされた。
更に、基板2のクリーニングでは、ラジカル源130のラジカルガス導入口134から酸素(O)ガスが500sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute;毎分500ミリリットル)の流量で導入された状態で、ガン136に高周波電圧が投入電力3kW(キロワット)で印加されて、ラジカル酸素が生成され、移動している基板2に対して30秒間照射された。
製造装置101は、室温環境下に置かれ、真空室102、ドラム104及び基板2に対する加熱はなされず、ラジカル源130等の動作による発熱を加味しても、全工程中における基板2の最大温度は150℃であった。
SiO層の形成時、第2スパッタ源120のスパッタガス導入口126からArガスが300sccmで導入され、スパッタカソード122に8kWの投入電力による直流電圧が印加されることで、第2ターゲットT2(純度99.9%以上)の表面のSiが、Arによるスパッタにより、基板2の表面上に堆積した。同時に、ラジカル源130のラジカルガス導入口134からOガスが150sccm導入された状態で、ガン136に高周波電圧が投入電力3kWで印加されて、ラジカル酸素が生成され、Siの堆積した移動中の基板2に対して照射されて、Siの酸化がなされた。
そして、Ti+Nb層の形成時、第1スパッタ源110のスパッタガス導入口116からArガスが300ccmで導入され、スパッタカソード112に6kWの投入電力による直流電圧が印加されることで、第1ターゲットT1(Ti及びNbの各純度99.9%以上)の表面のTi及びNbが、Arによるスパッタにより、基板2の表面上に混合状態で堆積した。ここでは、ラジカル源130は、不動作とした。実施例1では、第1ターゲットT1として、上述のTi+Nb用ターゲットTTaが用いられ、各Ti+Nb層において、Ti及びNbが、元素数比(以下同様)でTi:Nb=50:50となるようにされた。
尚、ドラム104の回転は、一時的に変速されたり一旦停止されたりしても良い。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例2のNDフィルタ1は、次の[表2]に示されるように、第1ターゲットT1におけるTi部及びNb部の面積比、及びTi+Nb層の元素数比を除き、実施例1と同様に形成された。実施例2のTi+Nb層は、Ti:Nb=80:20である。
実施例3のNDフィルタ1は、次の[表3]に示されるように、第1ターゲットT1におけるTi部及びNb部の面積比、及びTi+Nb層の元素数比を除き、実施例1と同様に形成された。実施例3のTi+Nb層は、Ti:Nb=20:80である。
実施例4のNDフィルタ1は、次の[表4]に示されるように、第1ターゲットT1におけるTi部及びNb部の面積比、及びTi+Nb層の元素数比を除き、実施例1と同様に形成された。実施例4のTi+Nb層は、Ti:Nb=70:30である。
【0041】
【表2】
【表3】
【表4】
【0042】
≪比較例1~2の構成等≫
比較例1のNDフィルタは、各光吸収層がTi層とされたことを除き、実施例1と同様に形成された。比較例1の光学膜の構成は、次の[表5]に示される。
比較例2のNDフィルタは、各光吸収層がNb層とされたことを除き、実施例1と同様に形成された。比較例2の光学膜の構成は、次の[表6]に示される。
【0043】
【表5】
【表6】
【0044】
≪透過率及び反射率等≫
図8図13は、順に、実施例1~4,比較例1~2における、特定波長域及びその隣接域(380nm以上750nm以下)での透過率並びに表面反射率及び界面反射率が示されるグラフである。
これらの図によれば、実施例1~4,比較例1~2では、何れも、反射率の低減を優先した結果、表面反射率及び界面反射率が特定波長域全域において1%以下となっている。
【0045】
更に、比較例1(Ti:Nb=100:0)では、特定波長域(400nm以上700nm以下)において、透過率の平坦性が比較的に劣る。比較例1における、透過率の平坦性に関係する、特定波長域での透過率の最大値は27.082%であり、最小値は24.040%であり、当該最大値と最小値との差(透過率の幅ΔT)は3.042となっている。ΔTが小さい程、特定波長域での透過率分布の平坦性が強く(良好に)なる。
又、比較例2(Ti:Nb=0:100)では、特定波長域での透過率の最大値は26.171%であり、最小値は24.137%であり、ΔT=2.035であって、比較例1と同様に、透過率の平坦性が比較的に劣る。
【0046】
これらに対し、実施例1(Ti:Nb=50:50)では、特定波長域での透過率の最大値は25.395%であり、最小値は24.830%であり、ΔT=0.564であって、特定波長域における透過率の平坦性に優れている。
又、実施例2(Ti:Nb=80:20)では、特定波長域での透過率の最大値は26.159%であり、最小値は24.410%であり、ΔT=1.749であって、特定波長域における透過率の平坦性に優れている。
更に、実施例3(Ti:Nb=20:80)では、特定波長域での透過率の最大値は25.677%であり、最小値は24.669%であり、ΔT=0.992であって、特定波長域における透過率の平坦性に優れている。
又更に、実施例4(Ti:Nb=70:30)では、特定波長域での透過率の最大値は25.488%であり、最小値は24.834%であり、ΔT=0.654であって、特定波長域における透過率の平坦性に優れている。
【0047】
図14は、Ti+Nb層におけるTiの元素比率(Ti比率,%)を横軸とし、ΔTを縦軸とした平面に、実施例1~4及び比較例1~2についてプロットしたグラフである。図14では、各プロットをつなぐ曲線、即ち各プロットから得られるTi比率を独立変数とする関数ΔTも示されている。
特定波長域の光が25%の透過率を基準として透過される(ND4)実施例1~4及び比較例1~2に係る図14において、次に述べる理由から、Ti比率は15%以上75%以下であり、換言すれば、Ti+Nb層において、Ti:Nb=15:85~75:25であることが好ましい。即ち、ND4では、透過率25%、即ち光学濃度OD≒0.602が基準とされているところ、透過率の幅ΔTがODにおいて基準の±1.8%以内に収まって十分な平坦性が得られるTi比率の範囲は、概ね15%以上75%以下である。この点更に詳述すると、基準のODに対して1.8%下回るODは、0.602×(1-0.018)=0.5912であり、透過率に換算すると25.633%である。他方、基準のODに対して1.8%上回るODは、0.602×(1+0.018)=0.6128であり、透過率に換算すると24.389%である。よって、ODが基準の±1.8%以内に収まる場合の透過率の幅ΔTは、25.633-24.389=1.244である。図14において、ΔT=1.244となる部分に、水平な両矢印が記載されている。そして、図14において、その両矢印で示されるTi比率の範囲でΔTが1.244以下となり、その範囲の最小値はおよそ15%であり(左側の点線の矢印)、その範囲の最大値はおよそ75%である(右側の点線の矢印)。
従って、実施例1~4等のNDフィルタ1において、光吸収層10におけるTiとNbとの元素数比が、Ti:Nb=15:85~75:25の範囲内とされると、特定波長域での反射率が1%以下といった高い水準とされながら、ΔTが基準の光学濃度OD(約0.6)に照らし十分に小さくされて、特定波長域での透過率の優れた平坦性が確保される。
【0048】
[実施例5~8及び比較例3~4]
≪実施例5~8の構成等≫
実施例5~8は、光学膜4が全9層とされ、特定波長域での透過率が1%前後とされたことを除き、順に実施例1~4と同様に形成された。但し、実施例5~8における光吸収層10のTi比率は、順に80%,40%,20%,70%とされている。
実施例5~8の構成は、順に次の[表7]~[表10]に示される。
【0049】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0050】
≪比較例3~4の構成等≫
比較例3~4は、光学膜が全9層とされ、特定波長域での透過率が1%前後とされたことを除き、順に比較例1~2と同様に形成された。
比較例3~4の構成は、順に次の[表11]~[表12]に示される。
【0051】
【表11】
【表12】
【0052】
≪透過率及び反射率等≫
図15図20は、順に、実施例5~8,比較例3~4における、特定波長域及びその隣接域(380nm以上750nm以下)での透過率並びに表面反射率及び界面反射率が示されるグラフである。
これらの図によれば、実施例5~8,比較例3~4では、何れも、反射率の低減を優先した結果、表面反射率及び界面反射率が特定波長域全域において1%以下となっている。
【0053】
更に、比較例3(Ti:Nb=100:0)では、特定波長域での透過率の最大値は1.147%であり、最小値は0.946%であり、ΔT=0.201であって、透過率の平坦性が比較的に劣る。
又、比較例4(Ti:Nb=0:100)では、特定波長域での透過率の最大値は1.131%であり、最小値は0.947%であり、ΔT=0.185であって、比較例1と同様に、透過率の平坦性が比較的に劣る。
【0054】
これらに対し、実施例5(Ti:Nb=80:20)では、特定波長域での透過率の最大値は1.133%であり、最小値は0.955%であり、ΔT=0.178であって、特定波長域における透過率の平坦性に優れている。
又、実施例6(Ti:Nb=40:60)では、特定波長域での透過率の最大値は1.110%であり、最小値は0.968%であり、ΔT=0.142であって、特定波長域における透過率の平坦性に優れている。
更に、実施例7(Ti:Nb=20:80)では、特定波長域での透過率の最大値は1.105%であり、最小値は0.964%であり、ΔT=0.141であって、特定波長域における透過率の平坦性に優れている。
又更に、実施例8(Ti:Nb=70:30)では、特定波長域での透過率の最大値は1.107%であり、最小値は0.967%であり、ΔT=0.140であって、特定波長域における透過率の平坦性に優れている。
【0055】
図21は、Ti+Nb層におけるTiの元素比率(Ti比率,%)を横軸とし、ΔTを縦軸とした平面に、実施例5~8及び比較例3~4についてプロットしたグラフである。図14では、各プロットをつなぐ曲線、即ち各プロットから得られるTi比率を独立変数とする関数ΔTも示されている。
特定波長域の光が1%の透過率を基準として透過される(ND100)実施例5~8及び比較例3~4に係る図21において、次に述べる理由から、Ti比率は15%以上75%以下であり、換言すれば、Ti+Nb層において、Ti:Nb=15:85~75:25であることが好ましい。即ち、ND100では、透過率1%、即ち光学濃度OD=2が基準とされているところ、透過率の幅ΔTがODにおいて基準の±1.8%以内に収まって十分な平坦性が得られるTi比率の範囲は、概ね15%以上75%以下である。この点更に詳述すると、基準のODに対して1.8%下回るODは、2×(1-0.018)=1.964であり、透過率に換算すると1.0864%である。他方、基準のODに対して1.8%上回るODは、2×(1+0.018)=2.036であり、透過率に換算すると0.9204%である。よって、ODが基準の±1.8%以内に収まる場合の透過率の幅ΔTは、1.0864-0.9204=0.166である。図21において、ΔT=0.166となる部分に、水平な両矢印が記載されている。そして、図21において、その両矢印で示されるTi比率の範囲でΔTが0.166以下となり、その範囲の最小値はおよそ15%であり(左側の点線の矢印)、その範囲の最大値はおよそ75%である(右側の点線の矢印)。尚、このTi比率の範囲は、上述の通り、実施例1~4(ND4)の場合と同じである。
従って、実施例5~8等のNDフィルタ1において、光吸収層10におけるTiとNbとの元素数比が、Ti:Nb=15:85~75:25の範囲内とされると、特定波長域での反射率が1%以下といった高い水準とされながら、ΔTが基準の光学濃度OD(2)に照らし十分に小さくされて、特定波長域での透過率の優れた平坦性が確保される。
又、実施例1~8とは異なる基準のOD値を有するNDフィルタ1においても、シミュレーションにより、Ti比率の範囲が15~75%となると、ΔTが基準の±1.8%以内に収まり、透過率分布の平坦性に優れて好ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0056】
1・・NDフィルタ、2・・基板、4・・光学膜、10・・光吸収層、12・・低屈折率層(誘電体層)、101・・(NDフィルタ1の)製造装置、102・・真空室(成膜室)、150a,150b・・Ti部(Tiのターゲット)、152a,152b・・Nb部(Nbのターゲット)、TTa,TTb・・Ti+Nb用ターゲット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図20
図21