(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036854
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】水耕栽培用マット
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20220301BHJP
A01G 24/18 20180101ALI20220301BHJP
A01G 24/30 20180101ALI20220301BHJP
A01G 24/44 20180101ALI20220301BHJP
A01G 24/48 20180101ALI20220301BHJP
A01G 7/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
A01G31/00 612
A01G31/00 617
A01G24/18
A01G24/30
A01G24/44
A01G24/48
A01G7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141278
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】花房 秀和
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022BA06
2B022BA12
2B022BA22
2B022BB02
2B022DA12
2B314MA42
2B314PC04
2B314PC09
2B314PC16
2B314PC24
2B314PC44
(57)【要約】
【課題】動力を必要とせずに植物の株元に気体を供給できる水耕栽培用マットを提供する。
【解決手段】本発明に係る水耕栽培用マット1は、マット材2中に有機酸と反応して気体を発生する無機化合物3を含有している。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マット材中に有機酸と反応して気体を発生する無機化合物を含有していることを特徴とする、水耕栽培用マット。
【請求項2】
前記気体が、二酸化炭素であることを特徴とする、請求項1に記載の水耕栽培用マット。
【請求項3】
前記無機化合物が、炭酸塩および炭酸水素塩のいずれか一方またはその両方であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の水耕栽培用マット。
【請求項4】
前記無機化合物は、気体の発生量/経過時間で算出される発生速度係数が600以上である即効性のもの、前記発生速度係数が30以上600未満である中速性のものおよび前記発生速度係数が30未満である遅効性のもののうちから選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水耕栽培用マット。
【請求項5】
前記有機酸が、植物由来であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水耕栽培用マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の播種から収穫に至る育成に用いられる水耕栽培用マットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋内型の植物工場では管理性やメンテナンス性、生産数量を稼ぐ目的で、水耕栽培による栽培方式が一般的となっている。
水耕栽培方法の一つとして、パネルを溶液槽内に浮上させて水耕栽培を行う、いわゆるフロート式の水耕栽培がある。例えば、特許文献1には、植栽体(植物)を保持した状態で栽培養液に浮かべられる平板状の水耕栽培用フロートが記載されている。この水耕栽培用フロートは、所要の浮力をもつ平板状の浮力基体と、炭粉を練成固結して構成されかつ前記浮力基体の表面に設けられた炭層体とを備えたことを特徴としている。特許文献1には、植栽保持穴が所定間隔で適数個形成されており、この植栽保持穴に植栽体を挿入保持すると記載されている。このような水耕栽培用フロートを用いた水耕栽培は、一般的に、所定日数間隔で養液槽内に順次フロートを投入するとともに、終点位置に到達したフロートでは植栽体が収穫可能に生育するよう管理している。
【0003】
植物工場では、生産量の向上を目的として栽培面積あたりの植付数量を増やす傾向にある(例えば、80株/m2→120株/m2)。しかし、この栽培方法では植物同士の間隔が狭くなるため、植物の生育によって葉が生い茂るようになると、植物の株元では空気の停滞が起こりやすくなる。すると株元は湿気た状態となり、病気や害虫の温床になる恐れがあった。また、葉が生い茂ると光合成に必要な二酸化炭素も供給され難くなるため、光合成の効率が落ち、生産効率が減少する恐れがあった。
【0004】
このような状況を解決し得る技術が、例えば、特許文献2に記載されている。特許文献2に記載の養液栽培用パネルは、培養液上に浮かべられるものであり、上面と下面間が中空となったプラスチック製の中空パネルに、前記上面と前記下面間を上下に貫通する筒状の植え付け部が複数設けられている。そして、この養液栽培用パネルは、前記中空パネルの上面に、前記中空の部分に通じる気体の供給または排出用口と、前記植え付け部の周辺または前記植え付け部間に前記中空の部分と通じる気体の吹き出しまたは吸引用孔とが設けられていることを特徴としている。特許文献2には、この養液栽培用パネルによれば、養液栽培する植物の株元の湿気を抑えて植物を健康に育成することができると記載されている。また、特許文献2には、この養液栽培用パネルによれば、養液栽培する植物の生育環境を、低コストで植物の栽培に適した環境にすることも可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-171944号公報
【特許文献2】特開2019-106937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の養液栽培用パネルは気体の供給に動力を要する。そのため、植物工場の管理コスト・生産コストが高くなる要因となっていた。また、使用中に気体を供給する気体供給装置との接続が切断されたり、停電による動力停止などが起こったりすると機能が停止してしまう。そのため、水耕栽培が続行できなくなったり、養液栽培用パネルが培養液中に沈んでしまったりすることも起こり得る。
【0007】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、動力を必要とせずに植物の株元に気体を供給できる水耕栽培用マットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは前記課題を解決するため鋭意研究した結果、水耕栽培用マットに関し、植物自身の分泌する有機酸に反応して二酸化炭素などの気体が発生し、株元に当該気体を送ることが可能であることを見出した。
【0009】
前記課題を解決した本発明に係る水耕栽培用マットは、マット材中に有機酸と反応して気体を発生する無機化合物を含有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水耕栽培用マットは、動力を必要とせずに植物の株元に気体を供給できる。
前述した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明に係る水耕栽培用マットの一実施形態を示す斜視図である。
【
図1B】本発明に係る水耕栽培用マットの一実施形態を示す斜視図であり、育苗段階の植物を育成している様子を図示している。
【
図2】本発明に係る水耕栽培用マットを使用している一例を示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る水耕栽培用マットを使用している一例を示す斜視図である。
【
図4A】作製したマットを水中に浸漬させてから1分後の様子を撮影した写真である。
【
図4B】作製したマットを2wt%クエン酸水溶液中に浸漬させてから1分後の様子を撮影した写真である。
【
図5】二酸化炭素発生速度の比較検証を行うために用いた二酸化炭素濃度測定装置の構成を示す説明図である。
【
図6】比較検証で得られた経過時間(反応開始から1、3、5、10分)とCO
2発生量との関係を示したグラフである。横軸は経過時間[min]を、縦軸はCO
2発生量[ppm]を示す。
【
図7】光合成試験を行う装置の構成を示す概略構成図である。
【
図8】光合成試験の結果を示すグラフである。図中、横軸は二酸化炭素濃度[ppm]を、縦軸は光合成速度[μmol・s
-1・m
-2]を示す。
【
図9】二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度測定装置の構成を示す概略構成図である。
【
図10】変形例に係る水耕栽培用マットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照して本発明に係る水耕栽培用マット(以下、単に「マット1」という)の一実施形態について詳細に説明する。
【0013】
(マット1)
図1Aは、本発明に係るマット1の一実施形態を示す斜視図である。
図1Bは、本発明に係るマット1の一実施形態を示す斜視図であり、育苗段階の植物5を育成している様子を図示している。
図1Aに示すように、本実施形態に係るマット1は、マット材2中に有機酸と反応して気体を発生する無機化合物3を含有している。
【0014】
マット1の形状は、効率よく製造でき、取り扱いし易いことから、角柱状とするのが好ましい。マット1の大きさは、特に限定されるものではないが、一辺の長さを10~80mm/辺とするのが好ましく、20~40mm/辺とするのがより好ましい。このような大きさにマット1を形成すると播種し易い。また、植物5を好適に支持できる。さらに、栽培株数を確保できる。
【0015】
また、マット1は、
図1Aおよび
図1Bに示すように、水耕栽培を行う植物5の種子や根を保持する保持部4が形成されていることが好ましい。保持部4は、例えば、平面視でI字状または十字状(クロス状)の切り込みを入れたり、半球状または矩形状に凹ませたりすることによって形成できる。なお、
図1には、平面視でI字状の保持部4を形成した様子を示している。保持部4の深さは、例えば、マット1の表面からマット1の高さの1/2などとすることができるが、これに限定されない。
【0016】
マット材2は、植物5の播種から収穫に至る育成を行う土台となるものである。マット材2は、例えば、寒天、ゲル、繊維、ロックウールおよび発泡体のうちから選択されるいずれか一種の素材で形成されていることが好ましいが、これらに限定されない。これらの素材で形成されたマット材2は無機化合物3を含有でき、また、通水性、保水性、通気性などが適度にあるため植物5の播種から収穫までを好適に行える。さらに、これらの素材で形成されたマット材2は自身を構成する構造体によって外部からの養液の流入や流動が抑えられているので、根から分泌された根酸を流亡させ難い。寒天、ゲル、繊維、ロックウールおよび発泡体は特に限定はなく、いずれも任意のものを使用できる。
【0017】
前記した「根酸」とは、植物5の根が分泌する有機酸のことである。「有機酸」とは、カルボン酸(例えば、ギ酸や酢酸)などの有機化合物の酸の総称である。つまり、本実施形態における有機酸は植物由来であることが好ましく、根酸がより好ましい。根酸は植物5の根の成長によって分泌範囲が広がり、分泌量も多くなる。マット1に含まれている無機化合物3は、気体を発生させる発生速度係数が600未満である中速性のものおよび遅効性のものであれば、根酸の分泌範囲の広がりに応じて気体を発生させる化学反応の生じる範囲が徐々に増大し、また、根酸の分泌量の増加に応じて気体の発生量が徐々に増大する。一方、無機化合物3は、発生速度係数が600以上であれば即効性であって、有機酸と速やかに反応して気体を発生させられる。なお、中速性の無機化合物3の発生速度係数は30以上600未満である。遅効性の無機化合物3の発生速度係数は30未満である。
【0018】
発生速度係数は、“発生速度係数=気体の発生量[ppm]/経過時間[min]”で算出できる。例えば、経過時間5分時点における二酸化炭素発生量により発生速度係数を算出できる。発生速度係数の算出において、5分経たずに気体(二酸化炭素)の発生量が所定の上限値(例えば、3000ppm)に達した場合は、当該所定の上限値に達した時間で算出できる。
【0019】
即効性の無機化合物3としては、例えば、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)などが挙げられるが、これらに限定されない。
中速性の無機化合物3としては、例えば、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸マグネシウム(MgCO3)などが挙げられるが、これらに限定されない。
遅効性の無機化合物3としては、例えば、炭酸マンガン(MnCO3)、炭酸亜鉛(ZnCO3)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
これらに例示されるように、本実施形態で用いることのできる無機化合物3は、炭酸塩および炭酸水素塩のいずれか一方またはその両方であることが好ましい。無機化合物3が炭酸塩または炭酸水素塩であると、有機酸(根酸)との反応により、気体である二酸化炭素が発生する。例えば、炭酸水素ナトリウムと酢酸とが反応すると次のようにして二酸化炭素(CO2)が発生する。
NaHCO3+CH3COOH→CH3COONa+H2O+CO2↑
【0021】
そして、このようにして発生した二酸化炭素(気体)がマット1の上に上昇し、植物5の株元に気体を供給する。このように、マット1は、当該気体の発生にあたって動力を必要としない。そして、マット1はこのようにして植物5の株元に気体を供給できるので、葉が生い茂った植物の株元の空気を希釈したり追い出したりすることによって当該株元の湿気た状態を解消できる。
本実施形態では、発生した気体(CO2)はマット1外に放出される。生じたH2Oは養液に混じって根から吸収されたり、マット1外に流出したり、またはそのまま蒸発したりする。生じた酢酸ナトリウム(CH3COONa)は水溶性であるので養液に溶けてマット1外に流出する。その結果、収穫終了後のマット1の重量が軽くなる。植物工場はマット1を数万個から数十万個取り扱うため、廃棄時のマット1の総重量が軽くなることは生産者の労働の軽減に繋がり、また、運搬コストなどが低減するので、廃棄コストの低減に繋がる。
【0022】
発生する気体は、前述したように、二酸化炭素であることが好ましい。発生する気体が二酸化炭素であると植物5のカルビン・ベンソン回路(還元的ペントースリン酸回路)が活性化され、光合成速度が上昇する。従って、植物5の成長促進効果が期待できる。なお、気体は動力を必要とせずに発生させることができ、植物の株元に供給できるものであれば二酸化炭素に限定されず、どのようなものでもよい。例えば、気体は、酸素や窒素などであってもよい。発生する気体が酸素や窒素などである場合、有機酸との反応によってそれらを発生させられるものを公知の無機化合物の中から適宜選択する。
【0023】
本実施形態においては、前記した即効性の無機化合物3、中速性の無機化合物3、遅効性の無機化合物3をそれぞれ単独で含有させることもできるし、任意に選択した二種以上を混合して含有させることもできる。即効性、中速性、遅効性の無機化合物3をそれぞれ単独で含有させた場合、マット1の製造等が容易であり、低コスト化できる。他方、即効性、中速性、遅効性の無機化合物3を任意に選択して二種以上混合させた場合、マット1は、植物5の種類に応じて、また植物5の成長に応じて気体の発生量を調節できる。
【0024】
また、即効性、中速性、遅効性の無機化合物3はそれぞれ一種類だけの無機化合物3だけとしてもよいし、二種類以上の無機化合物3を併用したものであってもよい。即効性、中速性、遅効性の無機化合物3はそれぞれ一種類だけの無機化合物3とした場合、製造等が容易であり、低コスト化できる。他方、即効性、中速性、遅効性の無機化合物3についてそれぞれ二種類以上の無機化合物3を併用した場合、マット1は、植物5に応じて、また成長に応じて気体の発生量を調節できる。
【0025】
無機化合物3の含有量は、無機化合物3の種類、植物5の種類および植物5の成長などに応じて任意に設定可能である。特に限定されるものではないが、一例を挙げるならば、無機化合物3の含有量は0.05~20質量%の範囲で設定可能である。なお、無機化合物3の含有量の下限は0.1質量%、0.25質量%、0.5質量%、1質量%などとすることが可能である。他方、無機化合物3の含有量の上限は15質量%、10質量%、5質量%などとすることが可能である。
【0026】
また、無機化合物3は、マット1中に均質に分散していることが好ましい。このようにすると、マット1は、製造が容易でありながら気体の発生量が場所によって濃淡が生じず、確実に植物5の株元に気体を供給できる。
また、無機化合物3は、所定の濃度分布となるように、例えば、マット1の上方から下方に向けて濃度が徐々に低くなるように分散して含有させることができる。このようにすると、マット1は、根の成長に適した濃度の無機化合物3と、有機酸とを反応させることができる。つまり、植物5は、発芽直後は根が小さく根酸の分泌量が少ないので、気体の発生量を多くするためにマット1の上方の無機化合物3の濃度を高くし、植物5がある程度成長すると根が下方に広がって根酸の分泌量が多くなるので、マット1の下方の無機化合物3の濃度を低くすることにより気体の発生量や長期間に渡る二酸化炭素の供給量を確保できるといった調節ができる。
【0027】
マット1は、植物5の播種から収穫に至る育成に特に好適に用いることができる。マット1で育成可能な植物5としては、例えば、C3植物が挙げられる。ここでいう「C3植物」とは、大気中のCO2を直接カルビン・ベンソン回路に取り込むことによって光合成を行う植物をいう。また、植物工場等の水耕栽培で栽培される植物5の多くはC3植物であり、C3植物は葉肉細胞内に存在する葉緑体で光合成を行う。C3植物は、陸上植物の大部分が該当し、マット1はそのような陸上植物のいずれにも適用可能である。ここでいう「陸上植物」とは、陸上に上がった緑色植物の一群であり、種子植物、コケ植物、シダ植物を指す。マット1で育成可能なC3植物としては、例えば、アブラナ科の小松菜、葉大根、キャベツ、キク科のリーフレタス、アカザ科のほうれん草、ユリ科の小ネギ、セリ科のミツバ、シソ科のシソなどが挙げられる。このほか、カルビン・ベンソン回路の前段階として大気中のCO2濃縮経路を持つC4植物や、夜間にCO2の蓄積を行い、昼間にカルビン・ベンソン回路での反応を行うCAM植物への適用も考えられる。ここでいう「C4植物」とは、カルビン・ベンソン回路のほかにCO2濃縮のための経路を持つ植物のことをいい、例えば、イネ科のトウモロコシなどが挙げられる。「CAM植物」とは、CO2の蓄積を夜間に行い、昼に還元する植物のことをいい、サボテンなどが挙げられる。
【0028】
また、マット1には酸化亜鉛(ZnO)を含有させることもできる。ZnOはク溶性化合物である。「ク溶性」とは、水には溶けないが、2.0w/w%のクエン酸水溶液(20℃、pH約2.1)に溶ける性質をいう。従って、ZnOは、植物5の根から分泌される様々な有機酸に徐々に溶解する。有機酸によって溶解して生じたZn(Znイオン)は植物5にとって微量必須元素として機能する。「微量必須元素」とは、植物5にとって必要量は少ないものの、生育に不可欠な元素をいう。なお、植物5における微量必須元素としては、Znの他にも、例えば、Fe、Mn、B、Mo、Cu、Clなどがある。従って、微量必須元素であるZnを根から吸収することで植物5に対する成長促進効果が得られる。
【0029】
マット1中に含有するZnOの量は、4.5mg/欠片以上15.0mg/欠片以下であることが好ましく、4.84mg/欠片以上14.1mg/欠片以下がより好ましい。マット1中に含有するZnOの量がこの範囲であると、植物5はより確実に成長促進効果が得られる。
【0030】
マット材2は、前記例示したもののうち、寒天やゲルであることが好ましい。マット材2をこれらで形成すると、植物5の根の伸長を妨げ難く、根張りに好影響を与える。なお、寒天およびゲルは分散媒が水であるものを用いることが好ましい。寒天は、アガロースやアガロペクチンなどの多糖類から成るものを使用できる。ゲルは、コラーゲンやマンナンなど、有機物を使用したものであることが好ましい。これらの原料で形成した寒天やゲル製のマット材2は、有機物であるので廃棄にあたり焼却が可能であり、また、粉砕や発酵等させた後、土壌に混和すれば肥料や土壌改良剤などとして使用できる。
【0031】
また、マット材2が前記例示したもののうち発泡体である場合、当該発泡体は、樹脂発泡体であることが好ましい。樹脂発泡体は連続気泡を有した構造体であることが好ましい。連続気泡を有する樹脂発泡体は、連続気泡によって毛細管現象が生じ、樹脂発泡体の内部に養液を含有・保持させることができる。さらに、樹脂発泡体は、連続気泡構造により樹脂発泡体の骨格が無数に存在することから、外部から養液が流入し難い。このことから、樹脂発泡体は、内部に張り巡らされた根から分泌された根酸を流亡させ難い。そのため、樹脂発泡体は、根酸と無機化合物とを反応させて気体を発生させることができる。なお、繊維およびロックウールも連続気泡に類似する構造を有しているので同様の効果が期待できる。
【0032】
前記した樹脂発泡体としては、例えば、軟質ポリウレタンフォームが好適に挙げられる。軟質ポリウレタンフォームは水耕栽培において既に広く一般的に用いられているため生産者が取り扱いに慣れており、栽培条件や設備の変更を伴うこともない。
【0033】
本実施形態では、マット材2として軟質ポリウレタンフォーム以外であっても、軟質ポリウレタンフォームと同等のセル数や硬さを有する合成樹脂の発泡体であればどのようなものでも適用できる。そのような合成樹脂の発泡体としては、例えば、ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォームなどが挙げられる。
【0034】
ここで、「セル」とは、多孔質材料の構造における空隙であり、「気泡」と同義である。樹脂発泡体のセル数は、例えば、10~100個/25mmなどとすることができる。このようにすると、マット1の保水性が向上し、特に播種時、発芽直後の植物5に水分を好適に供給できる。また、マット1は、植物5の根の伸長を妨げ難く、根張りに好影響を与える。セル数は、JIS K 6400-1:2004(軟質発泡材料-物理特性の求め方- 付随書1 セル数の求め方)によって求められる。
【0035】
樹脂発泡体の硬さは、例えば、20~300N/314cm2などとすることができる。このようにすると、マット1は、植物5を好適に支持できる。また、マット1は、植物5の根の伸長を妨げ難く、根張りに好影響を与える。さらに、生産者の行う定植や移植などの作業性が良くなる。硬さは、JIS K 6400-2:2012(軟質発泡材料-物理特性- 第2部:硬さ及び圧縮応力-ひずみ特性の求め方)のD法によって求められる。
【0036】
なお、マット1に酸化亜鉛を含有させることや平均粒子径については、例えば、特許第5947993号公報に詳しく記載されている。そのため、本実施形態に係るマット1を実施するにあたって当該文献を参照することもできる。
【0037】
(マット1の製造方法)
マット1は、水耕栽培用マットを製造する一般的な設備および条件で製造することができる。はじめに、マット材2として前記した寒天を用いる場合について説明するが、これに限定されない。
(1)水100容積部(または重量部)に対して寒天を0.1~10重量部、例えば1重量部投入する。
(2)その後、任意の攪拌手段で任意の回転数で攪拌しながら加熱する。
(3)寒天が溶けたら、約40℃まで粗熱をとり、無機化合物3を任意の添加量で添加し、攪拌する。
(4)その後、冷やしてゲル化させるとマット1が得られる。冷やしてゲル化させる際に所定の型に流し込むことでそのままマット1の成形を行うことができる。また、ある程度の大きさでゲル化させた後、カッターなどを用いて所定の大きさ・形状に切断して成形等することもできる。さらに、刃型裁断機を用いてマット1の平面視中心部分に保持部4を設けることができる。これにより、播種が容易となり、また、発芽した植物5の根が容易にマット1を貫通できるようになる。また、刃型裁断機での裁断加工の前または後に、マット1に穴繰り加工を行い、播種時の種の位置ずれ防止加工などを行うこともできる。
ゲルを用いる場合は、ゲルの添加量や加熱温度などを適宜調整すれば、寒天と同様の手順でマット1を製造できる。
【0038】
また、マット1の製造方法の他の一例として、マット材2に樹脂発泡体である軟質ポリウレタンフォームを適用した場合を挙げて具体的に説明する。
まず、ポリオール、イソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒などの配合物および無機化合物3を低圧発泡機、高圧発泡機などの設備で混合して発泡させることによって、スラブフォームやモールドフォームなど任意の形状の軟質ポリウレタンフォームを製造する。ここでいう「ポリオール」とは、複数のアルコール性ヒドロキシル基をもつ化合物で、ポリウレタンの原料となるものである。「イソシアネート」とは-N=C=Oという部分構造をもつ化合物で、ポリオールとともにポリウレタンの原料となるものである。「発泡剤」とは、ベースとなる樹脂に加えることでガスを発生させて発泡構造を形成するためのものである。「整泡剤」とは、均一で細かい泡を形成するためのものである。「スラブフォーム」とは、連続するコンベア上に混合原液を流し、長手方向に対する横断面が矩形または略U字形になるよう連続発泡させた後、所定の中画に切断して得られるフォームのことである。「モールドフォーム」とは、プラスチックなどの型に混合原液を注入して発泡させた後、型から取り出して得られるフォームである。なお、このような軟質ポリウレタンフォームは、ハンド発泡による成形により製造することもできる。ここでいう「ハンド発泡」とは、各原料をビーカーなどに量り込み、撹拌して発泡させる方法である。
【0039】
前記した無機化合物3などの配合の方法は特に限定されない。例えば、イソシアネート以外の配合物をポリオール中にあらかじめ混合して分散し、ポリオールプレミックスとした後、イソシアネートと反応させてもよいし、それぞれの配合物を個別に計量、混合、反応させてもよい。その後、クラッシングや爆発処理によりセル膜を除去してもよい。ここでいう「クラッシング」とは、発泡成形時に生じた気泡のセル膜を破り、成形体の形状を安定させるとともに、フォームの収縮を防ぐなどの目的で行われるものをいう。「爆発処理」とは、爆発のエネルギーによりセル膜を除去することをいう。また、軟質ポリウレタンフォームなどの樹脂発泡体の製造にあたっては、発泡時にセル膜を生じない配合組成とすることもできる。
【0040】
製造した軟質ポリウレタンフォームに対して、バーチカルカッター、スライスカッターなどを用いて二次加工を行い、所定の厚さのシート状に加工する。その後、刃型裁断機などを用いてシート状の軟質ポリウレタンフォームを所定の寸法に裁断することで、マット1を製造することができる。また、トムソン型などの刃型を用いた刃型裁断機による打ち抜き加工、穴繰り機によるくり抜き加工などによって任意の形状のマット1を製造することもできる。
【0041】
刃型裁断機での加工時に、マット1の平面視中心部分に保持部4を設けることができる。これにより、播種が容易となり、また、発芽した植物5の根が容易にマット1を貫通できるようになる。また、刃型裁断機での裁断加工の前または後に、シート状の軟質ポリウレタンフォームに穴繰り加工を行い、播種時の種の位置ずれ防止加工などを行うこともできる。
【0042】
(マット1の使用方法)
図2および
図3は、マット1を使用している一例を示す斜視図である。
図2に示す例は、植物5の発芽および育苗を行っている様子を示している。この場合、マット1は、養液7が入れられた育苗トレイ6などの水耕栽培用トレイや、養液タンク(図示せず)などに入れて使用する。マット1を水耕栽培用トレイや養液タンクに入れる前または入れた後に、保持部4に植物5の種子を播種する。そして、必要に応じてマット1の上方に設けられた光源8から光を照射する。
図3に示す例は、育苗後、定植を行っている様子を示している。
図3では、
図2に示す育苗トレイ6に替えて定植トレイ9を用いるとともに、定植パネル10を用いている。ここでいう定植パネル10とは、例えば、湛液水耕栽培においては、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの材質からなるパネルであり、水または養液に浮かべることができる。この定植パネル10は、パネルに設けられた孔にマット1を固定し、水または養液に浮かべることで植物5の支持、固定、育成を行う。しかし、ここで挙げた例に限定されるものではない。また、
図3では、養液7は、養液供給配管13とオーバーフロー管14とにより定植トレイ9と養液タンク12との間を水中モータ11の送液力により循環している。本実施形態では、このようにして養液7を循環させたり、養液を定期的に入れ替えたりしつつ、水耕栽培を行い、収穫期がきたら適宜収穫する。
【0043】
以上に説明したように、マット1は、マット1に含有される無機化合物3と、根の成長によって分泌される有機酸とを反応させることにより気体を発生させる。発生した気体はマット1の上に上昇し、植物5の株元に気体を供給できる。また、マット1は、当該気体の発生にあたって動力を必要としない。そして、マット1はこのようにして植物5の株元に気体を供給できるので、葉が生い茂った植物5の株元の空気を希釈したり追い出したりすることによって当該株元の湿気た状態を解消できる。通常の空調設備では生い茂った葉に邪魔されて植物5の株元の湿気た空気を希釈したり追い出したりすることはできないが、マット1を使用すればそれが可能となる。しかも、前記したようにマット1は気体の供給に動力を必要としないため、植物工場の管理コスト・生産コストを低減できる。さらに、マット1を使用すれば、従来技術と違って気体を供給する気体供給装置を使用しないので、当該装置との接続が切断するという恐れがそもそもなく、停電になった場合であっても気体を株元に供給でき、植物5を育成できる。
【実施例0044】
次に、実施例により本発明に係るマット1についてより具体的に説明する。
〔1〕無機化合物3の諸特性
実施例で用いた無機化合物3の諸特性を表1および表2に示す。
表1は、それぞれ水と、有機酸の代表例として2wt%クエン酸水溶液とに対する炭酸塩および炭酸水素塩の二酸化炭素発生の検証を行った結果を示している。表1の検証は、溶液の量100mL、溶液の温度23℃、無機化合物3の添加量5g、マグネティックスターラーの回転数500rpm、攪拌時間10分の条件で行った。
表2は、炭酸塩および炭酸水素塩の二酸化炭素発生量(投入量0.10g)を試算した結果を示している。
【0045】
【0046】
表1に示すように、炭酸塩および炭酸水素塩には、水に溶けるものとそうでないものとがあった。2wt%クエン酸水溶液は、水よりも無機化合物3の溶解性が高いことが確認された。また、2wt%クエン酸水溶液は、炭酸塩および炭酸水素塩からCO2を発生できること(評価「〇」)が確認された。
【0047】
【0048】
各無機化合物3のCO2発生量や2000ppmの濃度とするのに必要な空気の量(体積)などの試算結果は、表2に示すとおりとなった。
【0049】
〔2〕発泡確認試験
水50mLに0.5gの寒天を投入した。マグネティックスターラー(500rpm)で攪拌しながら加熱した。寒天が溶けたら、約40℃まで粗熱をとり、NaHCO
3を10wt%添加し、攪拌した。その後、冷やしてゲル化させてマット1を作製した。このようにして作製したマット1を水中および2wt%クエン酸水溶液中のそれぞれに浸漬させ、1分後の様子を確認した。
図4Aおよび
図4Bはそれぞれそれらを撮影した写真である。
図4Bに示すように、2wt%クエン酸水溶液中に1分浸漬したマット1の表面に気泡がたくさん発生していることが確認された。図示はしないが、K
2CO
2を添加したマット1およびCaCO
3を添加したマット1を前記と同様にして作製し、これらについても同様の発泡確認試験を行った。その結果、2wt%クエン酸水溶液中に浸漬すると、マット1の表面に気泡がたくさん発生していることが確認された。
【0050】
〔3〕二酸化炭素発生速度の比較検証
表3に示す各種の無機化合物3(メーカはいずれも富士フイルム和光純薬株式会社)について、二酸化炭素(CO2)発生速度の比較検証を行った。
【0051】
【0052】
検証方法は次のようにして行った。本比較検証は、
図5に示す二酸化炭素濃度測定装置50を用意し、この二酸化炭素濃度測定装置50内で二酸化炭素を発生させてその濃度を測定することにより行った。二酸化炭素濃度測定装置50は、蓋部51により開閉可能な穴部52を天面部53に有する密閉容器54(幅300mm×奥行100mm×高さ250mm)と、この穴部52の真下に配置された、2wt%クエン酸水溶液の入った開口容器55と、密閉容器54内においてこの開口容器55の近くに配置された二酸化炭素濃度測定器56(マザーツール社製ZG106 CO2 Monitor)とで構成されている。また、無機化合物3を添加するために、両端部が開口した添加用筒57を使用した。比較検証の手順は次のとおりである。
【0053】
(1)密閉容器54内に2wt%クエン酸水溶液(23℃)の入った開口容器55および二酸化炭素濃度測定器56をそれぞれ配置した。
(2)密閉容器54の天面部53の蓋部51を開けて穴部52から添加用筒57を挿入し、開口容器55に入っている2wt%クエン酸水溶液の直上に添加用筒57の一方の端部がくるように配置した。
(3)添加用筒57の他方の端部から無機化合物3を添加した後、添加用筒57を素早く穴部52から引き抜き、蓋部51で蓋をし、密閉した。
(4)そして、この状態で二酸化炭素濃度測定器56を使用して時間ごと(反応開始から1、3、5、10分)の二酸化炭素濃度を測定し、二酸化炭素発生速度を算出した。
【0054】
その結果を表4に示す。表4は、CO2発生量[ppm]と、その発生量のCO2を測定した反応開始からの経過時間[min]と、これらから算出される発生速度係数とを示している。発生速度係数は下記式で算出した。なお、NaHCO3は経過時間1分でCO2発生量が3000ppmに達し、CaCO3は経過時間3分でCO2発生量が3000ppmに達したので、その経過時間で発生速度係数を算出した。
発生速度係数=CO2発生量[ppm]/経過時間[min]
【0055】
【0056】
そして、
図6は、比較検証で得られた経過時間(反応開始から1、3、5、10分)とCO
2発生量との関係を示したグラフである。表4および
図6に示すように、無機化合物3は、経過時間とCO
2発生量との関係でみると、反応開始後、速い速度でCO
2を発生するグループ(即効性の無機化合物3)、中程度の速度でCO
2を発生するグループ(中速性の無機化合物3)、およびゆっくりした速度でCO
2を発生するグループ(遅効性の無機化合物3)の3つに大別できることが確認された。
【0057】
即効性の無機化合物3は、二酸化炭素濃度測定装置50内の二酸化炭素濃度が5分以内に3000ppmに達した。即効性の無機化合物3の気体(二酸化炭素)を発生させる発生速度係数は600以上であった。
中速性の無機化合物3は、5分経過時の二酸化炭素濃度測定装置50内の二酸化炭素濃度が675ppm~939ppmであった。中速性の無機化合物3の気体(二酸化炭素)を発生させる発生速度係数は30以上600未満であった。
遅効性の無機化合物3は、5分経過時の二酸化炭素濃度測定装置50内の二酸化炭素濃度が50ppm~109ppmであった。遅効性の無機化合物3の気体(二酸化炭素)を発生させる発生速度係数は30未満であった。
【0058】
植物5は、成長により二酸化炭素要求量が異なる。すなわち、植物5が大きくなるにつれて二酸化炭素要求量が増加する。また、植物5が成長すると葉が生い茂り、植物5の株元への二酸化炭素の供給が不十分になるのは、栽培中期から収穫期(終了時)である。すなわち、育苗トレイ6から定植トレイ9への移植した後、収穫までは密植状態となるため、植物5の株元への二酸化炭素の供給が不十分になる。これらの事情と、無機化合物3および有機酸の反応速度との兼ね合いから、効果の違う(例えば、気体の発生速度係数の違う)無機化合物3を複数種用いて配合することで、より効率的かつ持続的に気体(二酸化炭素)を植物の株元に供給できると考えられる。
【0059】
〔4〕光合成試験
植物5の生育が進み、根が大きくなるにつれて有機酸の分泌量も多くなる。そのため、マット1から発生する気体(二酸化炭素)の量も多くなる。また、植物工場では、光合成を促すためCO2濃度を700~2000ppmと増加させて栽培している。そこで、光合成試験を行い、二酸化炭素濃度を700~2000ppmとした場合における葉面積あたりの光合成速度を検証した。
【0060】
光合成試験は、
図7に示す装置70を用い、次のようにして行った。
〔試験方法〕
(1)同化箱71に植物5を設置した。本試験における「同化箱」とは、植物5の光合成を行う密閉可能な容器である。同化箱71は、透明アクリル樹脂からなり、同化箱71への空気の流入口、流出口を設けてある。同化箱71内に植物5を入れて密閉し、光源8から光を照射することにより植物5に光合成を行わせ、同化箱71前後の空気中CO
2濃度から光合成速度を求めるものである。
(2)植物5は、水の入ったビーカー72に入れ、揚水可能な状態にした。
(3)エアーポンプ73および配管74により、CO
2濃度調整気体を流量計75、送気側CO
2モニタ76を経由し、同化箱71へ供給した。送気する気体の流速は500mL/分で供給した。
(4)同化箱71には、光合成を行うための光を上面より光源8から照射した。光源8は、三波長型蛍光灯(昼光色)、照度15000lxを用いた。
(5)光合成後の空気は排気側CO
2モニタ77を経由して排出させた。
(6)送気、排気のCO
2濃度の差分、空気流量の関係から、植物5の葉面積あたりの光合成速度を算出した。試験時間は30分とした。
【0061】
なお、マット1による植物5の育成は、下記1.〔発芽〕、2.〔育苗〕、3.〔定植〕の栽培行程を実施する小型循環試験により行った。なお、栽培する植物5は葉大根とし、栽培日数は、1.〔発芽〕期間を3日、2.〔育苗〕期間を10日、3.〔定植〕期間を43日とした。各工程は下記のようにして行った。各工程の雰囲気温度は約20℃とした(
図2、
図3を参照)。
【0062】
1.〔発芽〕
図2参照
本試験における「発芽」とは、マット1に植物5の種子を播種し、種子が発芽するまでの工程をいい、以下の手順により行った。
(1)育苗トレイ6に隙間なく敷き詰めたマット1に水道水を20mL/欠片の割合で含浸させた。
(2)前記(1)の各マット1に対して、種子を1粒播種した。
(3)発芽は暗所で3日間行った。また、水の蒸発を防ぐため、育苗トレイ6に蓋(図示せず)をした。
【0063】
2.〔育苗〕
図2参照
本試験における「育苗」とは、発芽した植物5の芽を、定植可能な程度の大きさ(植物5の根が、マット1の下部を貫通する程度)まで育てる工程をいい、以下の手順により行った。
(4)発芽を行った後、育苗トレイ6中の水道水を養液7に置き換え、光源8を照射した。
(5)光源8は、三波長型蛍光灯((昼光色)、照度10000lxとした。また、1日の照射は、14時間連続照射後、10時間を暗所として行った。育苗期間は10日間とした。栽培環境は、温度20℃、相対湿度60%、CO
2濃度700ppmとした。
【0064】
3.〔定植〕
図3参照
本試験における「定植」とは、育苗工程によってある程度の大きさまで育った苗を、
図3に示す循環装置中の定植パネル10に等間隔に設けた孔一つにつき、植物5の苗が生えたマット1一つを固定し、収穫まで栽培を行う工程をいい、以下の手順により行った。なお、
図3に示す循環装置は、養液7が循環している。
(6)育苗を行った後、定植パネル10に等間隔に設けられた孔一つにつき、植物5の苗が生えたマット1一つを固定し、定植を行った。孔間は80mmとした。なお、マット1一つあたりの定植トレイ9内の養液7の量が1Lになるように管理した。
(7)光源8は、三波長型蛍光灯((昼光色)、照度18000lxとした。また、1日の照射は、14時間連続照射後、10時間を暗所として行った。栽培環境は、温度20℃、相対湿度60%、CO
2濃度700ppmとした。
(8)定植中、植物5の成長が進み、植物5同士が密となり成長の妨げになるため、孔の間隔を広げた定植パネル10に改めて定植を行った。孔間は150mmとした。移植は、初回の定植後43日で行った。
【0065】
なお、本試験において、1.〔発芽〕、2.〔育苗〕、3.〔定植〕の各工程に要した日数を合計したものを栽培日数とした。
そして、水耕栽培終了後、前記した光合成試験にて光合成速度を算出した。その結果を
図8に示す。
図8に示すように、二酸化炭素濃度が高くなるにつれて光合成速度も高くなることが確認された。前述しているように、マット1は、含有する無機化合物3と根から分泌される有機酸との反応により気体を発生させる。従って、発生する気体が二酸化炭素である場合、マット1は植物5の光合成を促進させ、植物5の成長促進効果を向上できると考えられる。
【0066】
〔5〕二酸化炭素発生確認試験
次に、マット1に添加された無機化合物3が植物5の根から分泌される有機酸によって分解し、二酸化炭素が発生するか否かを確認した。無機化合物3は、表5に示す炭酸塩および炭酸水素塩を用いた。具体的には、即効性の無機化合物3であるNaHCO
3、KHCO
3、CaCO
3の3種を用いた。これらの無機化合物3はそれぞれ表5に示す濃度で用いた。マット1のマット材2としては寒天を用いた。植物5はフリルレタス(中原採種場株式会社製L-122)を用いた。二酸化炭素の発生量は、栽培日数45日目に測定した。二酸化炭素の発生量の測定は、
図9に示す二酸化炭素濃度測定装置90を用いて行った。
図9に示す二酸化炭素濃度測定装置90は、天面部91に穴部92を有する密閉容器93(幅250mm×奥行250mm×高さ250mm)と、この穴部92の真下に配置された二酸化炭素濃度測定器94(ティアンドデイ社製TR-76Ui)とで構成されている。二酸化炭素濃度測定装置90の穴部92と植物5の株元との隙間には充填剤が充填され、空気の出入りが行われ難いようになっている。二酸化炭素濃度の測定は、育成している植物5をマット1ごと持ってきて天面部91の穴部92に設置する。
NaHCO
3、KHCO
3、CaCO
3を含有するそれぞれのマット1は、フリルレタス栽培開始から45日目における二酸化炭素発生量が表5に示す値となった。なお、表5中のCO
2発生量は、根から排出されるCO
2量を算出し、除外した値を示している。
【0067】
【0068】
表5に示すように、マット1は、気体を発生する無機化合物3を含有しており、当該無機化合物3と根から分泌されている有機酸との化学反応によって、気体であるCO2を発生できることが確認された。また、マット1は、気体の発生に動力を要しないことが確認された。
【0069】
以上、本発明に係る水耕栽培用マット1について実施形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施形態または実施例の構成の一部を他の実施形態または実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態または実施例の構成に他の実施形態または実施例の構成を加えることも可能である。
【0070】
様々な変形例の一つとして、
図10に示すマット1Aが挙げられる。
図10は、変形例に係る水耕栽培用マット1Aを示す斜視図である。
図10に示すように、マット1Aは、前記した即効性の無機化合物3を含む第1層21と、中速性の無機化合物3を含む第2層22と、遅効性の無機化合物3を含む第3層23とを含む複数層構造とすることができる。このようにすると、第1層21は即効性の無機化合物3を含んでいるので、発芽直後で根が小さく根酸の分泌量が少ない植物5であっても気体の発生量を多くすることができる。また、第2層22は中速性の無機化合物3を含んでいるので、根が成長してその大きさが中程度となり根酸の分泌量が中程度となった植物5によって適度な発生量で気体を発生させ、植物5の株元に供給できる。そして、第3層23は遅効性の無機化合物3を含んでいるので、根が成長して大きくなり根酸の分泌量が多くなった植物5によって適度な発生量で気体を発生させ、植物5の株元に供給できる。なお、
図10では、マット1Aは上方から第1層21/第2層22/第3層23という構成としているが、これに限定されず目的等に応じて、例えば、上下積層でなくてもよく、横方向への展開や、相互に構成順序を入れ替えることができる。
【0071】
また、第1層21、第2層22および第3層23はそれぞれ各層において無機化合物3が均質に分布していることが好ましい。このようにすると、マット1Aは各層において気体の発生量が場所によって濃淡が生じず、植物5の株元に好適に気体を供給できる。なお、これに限定されず、ターゲットとなる植物の根の成長の仕方を加味して、濃淡を調整してもよい。
【0072】
マット1Aは、マット材2(
図10において図示せず)に寒天やゲルを使用する場合は次のようにすることで製造できる。まず、寒天やゲルを溶かして任意の添加量で無機化合物3を添加して第3層23作製用のゾルを調製した後、所定の型に流し入れて冷やし、ゲル化させて第3層23を作製する。そして、同様の操作で調製した第2層22作製用のゾルを第3層23の上に流し入れて冷やし、ゲル化させて第2層22を積層する。さらに、同様の操作で調製した第1層21作製用のゾルを第2層22の上に流し入れて冷やし、ゲル化させて第1層21を積層する。なお、この場合、第1層21、第2層22、第3層23の順で積層して製造することもできる。
また、マット1Aは、第1層21、第2層22および第3層23をそれぞれ別個に作製し、接着剤や溶着などを用いて積層・固着させて製造することもできる。