(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036877
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】砥粒
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20220301BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20220301BHJP
B24B 31/00 20060101ALI20220301BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220301BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220301BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C09K3/14 550C
B24C11/00 B
B24B31/00 C
C08L71/02
C08L67/00
C08L77/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155977
(22)【出願日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2020140981
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本多 真理子
(72)【発明者】
【氏名】金築 亮
【テーマコード(参考)】
3C158
4J002
【Fターム(参考)】
3C158AA02
3C158AA09
3C158AA16
3C158AA18
3C158AB06
3C158AB08
3C158CA01
3C158DA02
4J002AA011
4J002CF001
4J002CH022
4J002CL001
4J002FD020
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】対象物の表面等を傷つけることなく、また、繰り返しの作業による摩擦に対して損傷しにくく耐久性を有し、さらに、作業時の摩擦によって帯電しにくい砥粒を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)に、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂が配合されてなる樹脂組成物により構成され、直径が50μm~3000μm、長さが0.05mm~10mmであるペレット状物からなることを特徴とする砥粒。
熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂であることを好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)に、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂が配合されてなる樹脂組成物により構成され、直径が50μm~3000μm、長さが0.05mm~10mmであるペレット状物からなることを特徴とする砥粒。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の砥粒。
【請求項3】
熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂が、樹脂組成物中に1~15質量%配合していることを特徴とする請求項1または2記載の砥粒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の砥粒が、バリ取りに用いられることを特徴とするバリ取り用砥粒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂によって構成される砥粒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形物としては、金型の内部に合成樹脂材料を充填して成形する射出成形、トランスファ成形でできる樹脂成形物、溶融金属を型に流し込んで成形される鋳物、あるいは3Dプリンターを用いて造形した樹脂製の成形等の種々の成形物が挙げられ、これらの成形物には、不要なバリが付着していることから、バリを取り除く作業(いわゆるバリ取り)が行われている。バリ取り作業としては、砥粒が用いられ、砥粒を対象物に吹きつける、砥粒を対象物に接する状態で流動させる、容器中に対象物と砥粒を入れて一緒にかき回す等により行われる。
【0003】
バリ取り用の砥粒としては、ガラス、スチール、アルミナ、また、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの合成樹脂等の各種素材からなるものが使用されており、対象物の素材等に応じて適宜選択されているが、砥粒の硬度や形状によって、対象物の表面に傷をつける恐れがあった。また、バリ取り時には、摩擦によって砥粒が損傷すると、バリ取り作業効率が低下することになる。また、摩擦により静電気が発生すると、砥粒が対象物に張り付いてしまい、効果的にバリ取りが行えないという問題がある。特許文献1には、バリ取り用投射材に帯電防止剤を含有させることによって、この問題に対処することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、対象物の表面等を傷つけることなく、また、繰り返しの作業による摩擦に対して損傷しにくく耐久性を有し、さらに、作業時の摩擦によって帯電しにくい砥粒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂(A)に、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂が配合されてなる樹脂組成物により構成され、直径が50μm~3000μm、長さが0.05mm~10mmであるペレット状物からなることを特徴とする砥粒を要旨とする。
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の用砥粒は、樹脂製等の成形物を作成した際に生成されるバリを取り除く際や、成形物の表面を研磨する等において用いるものであり、熱可塑性樹脂(A)に、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂が配合されてなる樹脂組成物により構成される。
【0008】
熱可塑性樹脂(A)は、樹脂組成物を構成する主体となる樹脂であり、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂を好ましく用いる。
【0009】
ポリエステル系樹脂としては、分子内にエステル結合を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば芳香族ポリエステルでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等が挙げられ、また、脂肪族ポリエステルでは、例えばポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクタン等が挙げられる。また、本発明における目的を阻害しない範囲であれば、上記したポリエステルに他のジカルボン酸成分、ジオール成分あるいはオキシカルボン酸成分等を共重合してもよく、あるいは上記したポリエステル同士のブレンドや、上記したポリエステルと共重合したポリエステルとをブレンドしたものであってもよい。共重合できる他の成分としては、ジカルボン酸では、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、セバシン酸、アジピン酸、コハク酸等が挙げられ、ジオール成分では、エタンジオール、プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。ポリエステル系樹脂の相対粘度は、耐久性を考慮して、好ましくは1.4以上であり、より好ましくは1.5以上である。
【0010】
ポリアミド系樹脂としては、分子内にアミド基を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン1010、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリメタキシレンアジパミドやこれら各成分を共重合したものやブレンドしたもの等が挙げられる。ポリアミド系樹脂の相対粘度は、耐久性を考慮して、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは3.0以上である。
【0011】
本発明の砥粒を構成する樹脂組成物は、前記した熱可塑性樹脂(A)に熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂が配合されてなるものである。熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂の配合量は、樹脂組成物中に1~15質量%であることが好ましい。より好ましくは1~12質量%である。熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイドの配合量を1質量%以上とすることにより、摩擦帯電効果を効果的に発揮することができる。一方、配合量を15質量%以下とすることにより、良好な強度を有する砥粒となる。
【0012】
樹脂組成物を構成する樹脂として母体となる熱可塑性樹脂(A)への分散性を考慮し、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂の重量平均分子量は、5万~900万のものがよい。重量平均分子量が5万~900万の熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂は、砥粒を製造するにあたっての溶融押出機内で、熱可塑性樹脂(A)と良好に混合でき、熱可塑性樹脂(A)中に良好に分散する。なお、重量平均分子量50万を超える熱可塑性樹水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂を混合する場合は、温度300℃以上に設定すると、母体となるポリエステル系樹脂中に良好に分散する。また、重量平均分子量50万以下の熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂を混同する場合は、300℃以下であって、熱可塑性樹脂(A)が溶融する温度に設定すればよく、300℃以下の温度において、母体となるポリエステル系樹脂中に良好に分散する。
【0013】
熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂としては、エチレンオキシドのみによって構成される樹脂であっても、また、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとがランダム共重合してなるエチレンオキシド・プロピレンオキシドランダム重合体であってもよい。
【0014】
熱可塑性樹脂(A)中に混合してなる熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂が、共存物の影響を受けにくい非イオン性ポリマーであるため、熱可塑性樹脂(A)との相溶性に優れ良好に分散するため、砥粒の強度を良好に維持することができ、また、母体である熱可塑性樹脂(A)中に熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂均一に分散しているため、砥粒表面においてスリップ剤としても機能すると考えられ、摩擦帯電性と強度とのバランスに優れたものとなると推測する。
【0015】
なお、本発明において、樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて例えば熱安定剤、結晶化剤、顔料、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤等の各種添加剤を添加することができる。また、強度を高めるために、脂肪酸アミド類、例えばメタキシリレンビスステアリルアミド、メタキシリレンビスオレイルアミド、キシレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリン酸アミド等を添加してもよい。
【0016】
本発明の砥粒は、上記した熱可塑性樹脂(A)を主体として、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂が特定量配合した樹脂組成物により構成されるが、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂を含まない熱可塑性樹脂と複合したものであってよい。
【0017】
本発明の砥粒は、前記した樹脂組成物により構成され、直径が50μm~3000μm、長さが0.05mm~10mmであるペレット状物である。直径は、ペレット状物の軸方向に直行する方向における径であり、軸方向に直行する方向の断面形状は、円形であっても、異形であっても、また、中空部を有したものであってもよい。なお、軸方向に直行する面の形状が異形の場合は、長径と短径の平均径が50~3000μmの範囲であればよい。また、軸方向に直行する面に中空部を有する場合は、外径を直径とみなす。長さは、ペレット状物の軸方向の長さである。砥粒の直径および長さを上記範囲とすることにより、取り扱い性が良好で、適度な強度を有する砥粒となる。なお、砥粒の好ましい直径は100μm~1500μm、長さは0.1mm~10mmである。
【0018】
本発明の砥粒は、バリ取り用として好ましく用いられるものであり、対象物の表面に傷をつけることなく、作業効率が向上するものであることから、研磨用としても好ましく用いることもできる。
【0019】
本発明の砥粒を得る方法としては、例えば、前記した樹脂組成物をモノフィラメント糸条となるように溶融紡出して、得られたモノフィラメントを所定の長さに切断することにより得ることができる。モノフィラメントを得る際に、主体となる熱可塑性樹脂(A)を配向結晶化させることによって、良好な強度を有し、耐久性を有する砥粒を得ることができる。
【0020】
具体的には、熱可塑性樹脂(A)からなるチップに、所定量の熱可塑性水溶性ポリエチレンオキサイド系樹脂をブレンドし、溶融混合した後、溶融紡糸する。次いで、溶融紡糸により得られた糸条を冷却し、油剤を付与し、あるいは付与せず、一旦未延伸糸として巻き取った後あるいはいったん巻き取ることなく、引き続いて延伸を施す。溶融紡糸後の糸条の冷却は、室温での冷却、冷却風の吹付けによる冷却、水浴中に通すことによる冷却のいずれでもよい。延伸にあたっての延伸倍率2~8倍とし、熱延伸を施す。熱延伸の加熱手段としては、温水バス中で熱延伸するか、加熱ローラを用いて熱延伸する。熱延伸後は、巻取り操作を連続して行い、モノフィラメントを得、得られたモノフィラメントのフィラメント軸方向に、所定の長さに切断することによって、本発明の砥粒を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、対象物の表面等を傷つけにくく、繰り返しの摩擦に対して損傷しにくく耐久性を有し、かつ、バリ取りや表面研磨による作業時の摩擦によって帯電しにくく、作業効率の良い砥粒を提供することができる。
【実施例0022】
本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、実施例に限定するものではない。
【0023】
実施例1
重量平均分子量100万のポリエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム共重合体(明成化学工業株式会社製、商品名 アルコックス 品番EP-10)5質量%とポリエチレンテレフタレート樹脂チップ95質量%とを混合し、溶融紡糸温度を295℃とし、1.0mmφ×4Hの紡糸口金から溶融紡糸した。紡糸した糸条を50℃の水浴中で冷却した後、巻き取ることなく、速度20m/minで90℃の温浴中で延伸し、さらに巻き取ることなく、120℃の乾熱雰囲気中で総延伸倍率が5.3倍となるように延伸し巻き取った。繊度560dtex(直径0.225mm)のモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントを0.5mm~5mmの長さにカットして、実施例1の砥粒を得た。
【0024】
実施例2
重量平均分子量20万のポリエチレンオキサイド(明成化学工業株式会社製、商品名 アルコックス 品番R-400)2.5質量%とポリアミド6樹脂チップ97.5質量%とを混合し、溶融紡糸温度を265℃とし、1.9mmφ×14Hの紡糸口金から溶融紡糸した。紡糸した糸条を25℃の水浴中で冷却した後、巻き取ることなく、速度30m/minで80℃の温浴中で延伸し、さらに巻き取ることなく、175℃の雰囲気中で総延伸倍率が4.8倍となるように延伸し巻き取った。繊度1858dtex(直径0.45mm)のモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントを0.5mmから5mmにカットして、実施例2の砥粒を得た。
【0025】
比較例1
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート樹脂チップのみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、繊度560dtex(直径0.225mm)のモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントを0.5mm~5mmの長さにカットして比較例1の砥粒を得た。
【0026】
比較例2
実施例2において、ポリアミド6樹脂チップのみを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、繊度1879dtex(直径0.453mm)のモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントを0.5mm~5mmにカットして比較例2の砥粒を得た。
【0027】
得られた実施例1、2および比較例1、2の砥粒を用いて、バリ取り試験を行い、評価した。
【0028】
<バリ取り試験>
バリ取りをする成形品として、3Dプリンターを用いて成形した長さ8cm、幅1cm、厚さ2mmの棒状の成形品を準備した。成形品は、ポリ乳酸樹脂(ユニチカ(株)製のテラマック3Dプリンター用フィラメント)を使用して造形したものである。
【0029】
次いで、3Dプリンターにより造形した成形品に対してバリ取りを行った。プラスチック容器に砥粒20gを入れた。攪拌機(東洋精機製作所製)の先端箇所に成形品を取り付け、撹拌機に取り付けた成形品を、容器内の砥粒中にて382rpmの回転速度で4時間回転させ、成形品のバリ取りを行った。
【0030】
バリ取り試験後、成形品の状態を確認し、成形品の表面に傷をつけることなく、バリが良好に取れているか否かの確認し(バリ取り効果)、また、バリ取り試験後の砥粒について、静電気が発生していないか(摩擦帯電性)および砥粒の表面状態を確認して、砥粒に損傷がないか(摩耗耐久性)を確認し、評価した。
【0031】
実施例1、2の砥粒を用いてバリ取り試験を行った成形品は、いずれも良好にバリが取れており、成形品表面に傷はなかった。また、砥粒は、静電気の発生はわずかであり、作業効率が良好であるものと評価できた。バリ取り試験後の砥粒の表面には、削れた箇所は一部であり、繰り返し使用でき、耐久性が良好であると評価できた。
【0032】
一方、比較例1、2の砥物においては、バリ取り試験により得られた成形体は、いずれも良好にバリが取れており、成形品表面に傷はなかったが、砥粒は、静電気が発生しており、成形品の表面の一部に張り付いていた。また、バリ取り試験後の砥粒の表面には、削れた箇所が多くみられた。