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特開2022-36890抗微生物部材の抗微生物性能判断方法、抗微生物性能の計測方法、抗微生物部材の良品判定方法、抗微生物部材の再生方法、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法、及び、部材表面の銅(I)付着量の計測方法
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  • 特開-抗微生物部材の抗微生物性能判断方法、抗微生物性能の計測方法、抗微生物部材の良品判定方法、抗微生物部材の再生方法、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法、及び、部材表面の銅(I)付着量の計測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036890
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】抗微生物部材の抗微生物性能判断方法、抗微生物性能の計測方法、抗微生物部材の良品判定方法、抗微生物部材の再生方法、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法、及び、部材表面の銅(I)付着量の計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/20 20190101AFI20220301BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220301BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220301BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20220301BHJP
   A01N 55/02 20060101ALI20220301BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20220301BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
G01N33/20
G01N21/78 A
G01N21/78 Z
G01N33/15 Z
A01N25/34 A
A01N55/02 160
A01N59/20 Z
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067789
(22)【出願日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020140728
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021059941
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃章
(72)【発明者】
【氏名】石野 暢好
【テーマコード(参考)】
2G054
2G055
4H011
【Fターム(参考)】
2G054AA04
2G054AB10
2G054CA10
2G054CD03
2G054CE02
2G054EA04
2G054EA05
2G054EA06
2G054EB01
2G054EB02
2G054FA10
2G054GA03
2G054GB01
2G054GB05
2G054GE06
2G054JA01
2G054JA06
2G055AA30
2G055BA20
2G055CA06
2G055FA02
4H011AA04
4H011BB16
4H011BB18
4H011BC19
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】抗微生物部材が使用された現場で一価銅(銅(I))を含む抗微生物部材の抗微生物性能を知る方法を提供する。
【解決手段】銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された抗微生物部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させる工程と、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、上記抗微生物部材の抗微生物性能を判断する工程と、を含むことを特徴とする抗微生物部材の抗微生物性能判断方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された抗微生物部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させる工程と、
前記選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、前記抗微生物部材の抗微生物性能を判断する工程と、を含むことを特徴とする、抗微生物部材の抗微生物性能判断方法。
【請求項2】
前記選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、前記抗微生物部材の表面の銅(I)付着量を計測し、
前記抗微生物部材の表面の銅(I)付着量と前記抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、前記抗微生物部材の抗微生物性能を判断する請求項1に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項3】
前記選択的銅(I)検知物質の物性の変化は、前記選択的銅(I)検知物質が銅(I)と接触することにより生じる前記選択的銅(I)検知物質の色の変化であり、前記選択的銅(I)検知物質の色の変化を観察することにより前記抗微生物部材の抗微生物性能を判断する、請求項1又は2に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項4】
前記選択的銅(I)検知物質の色と銅(I)付着量の関係を表す色見本と、前記抗微生物部材の表面に前記選択的銅(I)検知物質を接触させた際の前記選択的銅(I)検知物質の色の変化を対比して観察する請求項3に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項5】
前記選択的銅(I)検知物質の物性の変化は、前記選択的銅(I)検知物質が銅(I)と接触することにより生じる前記選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化であり、前記選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化を測定することにより前記抗微生物部材の抗微生物性能を判断する、請求項1又は2に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項6】
前記選択的銅(I)検知物質がフェナントロリン構造をもった物質であり、
前記抗微生物部材の表面に前記選択的銅(I)検知物質を接触させることにより前記選択的銅(I)検知物質の色の変化が生じた部位において可視分光光度計により485nmの吸収ピーク強度(OD485)と700nmの吸収ピーク強度(OD700)を測定してその差分OD485-OD700の値を求め、OD485-OD700の値が所定値以上である場合に抗微生物性能を有すると判断する、請求項5に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項7】
前記抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の前記選択的銅(I)検知物質を接触させる請求項1~6のいずれか1項に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項8】
前記抗微生物部材と一定面積の樹脂フィルムの間に一定量の前記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を注入することにより、前記抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の前記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させる請求項7に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項9】
前記抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の前記選択的銅(I)検知物質を接触させた後、前記選択的銅(I)検知物質を回収する請求項7又は8に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項10】
その内側に一定面積を有する枠を前記抗微生物部材の表面に配置し、前記枠内に一定量の前記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を注入することにより、前記抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の前記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させる請求項7に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項11】
前記選択的銅(I)検知物質は、吸収体に保持されてなる請求項1~10のいずれか1項に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項12】
前記選択的銅(I)検知物質は、吸収体に溶液として保持されてなる請求項1~10のいずれか1項に記載の抗微生物性能判断方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載された抗微生物性能判断方法により、抗微生物部材の抗微生物性能を計測することを特徴とする抗微生物性能の計測方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載された抗微生物性能判断方法における、抗微生物部材の表面に接触した後の選択的銅(I)検知物質の物性と抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、測定対象である抗微生物部材の良品/不良品の判定を行うことを特徴とする抗微生物部材の良品判定方法。
【請求項15】
請求項14に記載された抗微生物部材の良品判定方法に基づき、抗微生物部材が不良品と判定された場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを特徴とする抗微生物部材の再生方法。
【請求項16】
抗微生物性能が付与された抗微生物部材について、請求項14に記載された抗微生物部材の良品判定方法に基づき、抗微生物部材の良品/不良品の判定を行い、
抗微生物部材が良品であると判定した場合、これを抗微生物部材の所有者に告知するか、もしくは測定対象である抗微生物部材に良品である旨を表記し、
抗微生物部材が不良品であると判定した場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを抗微生物部材の所有者に提案することを特徴とする抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法。
【請求項17】
銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させる工程と、
前記選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、前記部材の表面の銅(I)付着量を計測する工程と、を含むことを特徴とする、部材表面の銅(I)付着量の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物部材の抗微生物性能判断方法、抗微生物性能の計測方法、抗微生物部材の良品判定方法、抗微生物部材の再生方法、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法、及び、部材表面の銅(I)付着量の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から微量の銀、銅、亜鉛等の金属イオンが抗菌・抗カビ効果を有することはよく知られており、このような抗菌性の金属イオンは、例えば硝酸銀のような金属塩の形態で殺菌剤、消毒剤等に添加され各種分野で広く使用されている。こういった金属イオン、特に抗ウイルス活性に優れる一価銅(銅(I))を含む抗微生物剤は様々なものが市場に出回っているが、一度抗微生物性能を付与した後で抗微生物性能がどの程度維持されているかを判断する方法は知られていない。
【0003】
特許文献1には、I価の銅を含む溶液をネオクプロインまたはバソクプロインのアルコール溶液中に注入し、得られる錯体溶液を吸光光度法によって分析することを特徴とするI価の銅の分析方法が開示されている。また、特許文献2には、一価銅と錯体を形成する物質を含む銅めっき液を含むpH4~10のサンプル溶液及びバソクプロインジスルホン酸二ナトリウム試薬を混合した吸光度測定用溶液を調整する調整工程と、前記調整工程において調整された吸光度測定用溶液の吸光度の収束前の時点における吸光度を測定する吸光度測定工程と、前記吸光度測定工程において測定された吸光度に基づいて、前記銅めっき液中の一価銅濃度を推定する濃度推定工程と、を含むことを特徴とする一価銅の濃度測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-249775号公報
【特許文献2】特許第5757523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抗微生物部材に抗微生物性能を付与した後、時間経過後に抗微生物性能が維持されているかを判断するためには、抗微生物部材に微生物を接種して所定期間の試験を行う必要がある。しかし、この方法を抗微生物部材が建築材料等として使用された後に現場で使用することはできないため、抗微生物部材が使用された現場で抗微生物部材の抗微生物性能を知る方法が要望されていた。
なお、特許文献1及び2に記載された方法は、液中の一価銅(銅(I))の濃度を間接的に計測する方法であるが、銅化合物を含む抗微生物部材の抗微生物性能を知る方法ではない。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、抗微生物部材が使用された現場で一価銅(銅(I))を含む抗微生物部材の抗微生物性能を知る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための抗微生物部材の抗微生物性能判断方法は、銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された抗微生物部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させる工程と、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、上記抗微生物部材の抗微生物性能を判断する工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の抗微生物部材の抗微生物性能判断方法では、抗微生物部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させ、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、抗微生物部材の抗微生物性能を判断する。
この判断には、抗微生物部材の抗微生物性能を計測することを含み、その計測された抗微生物性能が予め決められた抗微生物性能と比較されて、その性能の良否を判定することを含む。
選択的銅(I)検知物質の物性の変化としては、後述するような、選択的銅(I)検知物質の色の変化、光の吸収波長の変化等が挙げられる。これらの物性の変化をそれぞれの物性に適した方法で確認する。
この確認は、抗微生物部材の抗微生物性能を計測することを含み、その計測された抗微生物性能が予め決められた抗微生物性能と比較されて、その性能の良否を判定することを含む。
この方法であると、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から抗微生物部材が使用された現場で抗微生物部材の抗微生物性能を知ることができる。
上記選択的銅(I)検知物質は、検知物質を溶解させる溶媒中に溶解させた溶液であってもよい。
【0009】
本発明の抗微生物性能判断方法では、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、上記抗微生物部材の表面の銅(I)付着量を計測し、上記抗微生物部材の表面の銅(I)付着量と上記抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、上記抗微生物部材の抗微生物性能を判断することが好ましい。
【0010】
抗微生物部材の抗微生物性能は、抗微生物部材の表面の銅(I)の付着量と相関がある。そのため、選択的銅(I)検知物質の物性と抗微生物部材の表面の銅(I)の付着量との関係を事前に求めておき、その関係と現場で得られた選択的銅(I)検知物質の物性を照らし合わせることにより抗微生物部材の表面の銅(I)付着量を計測することができる。そして、銅(I)付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係と照らし合わせることで抗微生物部材の抗微生物性能を定量的に計測、判断することができる。
なお、本明細書では、銅(I)とは一価の銅イオンを指し、遊離した一価の銅イオンのみならず、CuOやCuIなどの陰イオンと結合して銅化合物として存在するものも含み、Cu(I)やCuと同義である。
【0011】
本発明の抗微生物性能判断方法では、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化は、上記選択的銅(I)検知物質が銅(I)と接触することにより生じる上記選択的銅(I)検知物質の色の変化であり、上記選択的銅(I)検知物質の色の変化を観察することにより上記抗微生物部材の抗微生物性能を判断することが好ましい。
【0012】
選択的銅(I)検知物質の物性の変化を選択的銅(I)検知物質の色の変化の観察により行う場合、現場で作業者の目視によって簡便に行うことができる。抗微生物性能の判断のために機器を用意する必要がなく、作業性が高い。
【0013】
また、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化を上記選択的銅(I)検知物質の色の変化の観察により行う場合には、上記選択的銅(I)検知物質の色と銅(I)付着量の関係を表す色見本と、上記抗微生物部材の表面に上記選択的銅(I)検知物質を接触させた際の上記選択的銅(I)検知物質の色の変化を対比して観察することが好ましい。
色見本との対比を行うことにより、作業者の主観による判断のばらつきが小さくなり、また、半定量的な抗微生物性能の測定を行うことができる。
上記選択的銅(I)検知物質は、検知物質を溶解させる溶媒中に溶解させた溶液であってもよい。
【0014】
本発明の抗微生物性能判断方法では、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化は、上記選択的銅(I)検知物質が銅(I)と接触することにより生じる上記選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化であり、上記選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化を測定することにより上記抗微生物部材の抗微生物性能を判断することが好ましい。
選択的銅(I)検知物質の物性の変化を選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化を測定することにより行う場合、吸光度を測定する機器を用いて色の変化を数値化して判断することにより、選択的銅(I)検知物質の物性の変化を定量的に計測、判断することができ、作業者ごとの判断のばらつきを小さくすることができる。
【0015】
また、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化を上記選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化により行う場合には、上記選択的銅(I)検知物質がフェナントロリン構造をもった物質であることが望ましい。このような物質は、銅(I)と選択的に結合して発色および分光光度計により所定の吸収ピークを有するからである。
フェナントロリン構造をもった物質としては、1、10-フェナントロリン構造を有していることが望ましい。特に、バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム(2、9-ジメチル-4、7-ジフェニル-1、10-フェナントロリンジスルホン酸二ナトリウム:2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthrolinedisulfonicacid disodiumsaltとも表記される)、ネオクプロイン(2,9-ジメチル-1、10-フェナントロリン:2,9-Dimethyl-1,10-phenanthrolineとも表記される)が望ましい。
上記抗微生物部材の表面に上記選択的銅(I)検知物質を接触させることにより上記選択的銅(I)検知物質の色の変化が生じた部位において可視分光光度計により485nmの吸収ピーク強度(OD485)と700nmの吸収ピーク強度(OD700)を測定してその差分OD485-OD700の値を求め、OD485-OD700の値が所定値以上である場合に抗微生物性能を有すると判断することが好ましい。
この方法であると抗微生物部材の抗微生物性能をより正確に判断することができる。
上記選択的銅(I)検知物質は、検知物質を溶解させる溶媒中に溶解させた溶液であってもよい。
【0016】
本発明の抗微生物性能判断方法では、上記抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の上記選択的銅(I)検知物質を接触させることが好ましい。
このようにすると一定条件で選択的銅(I)検知物質を抗微生物部材の表面に接触させることができるので、抗微生物部材の抗微生物性能を正確に判断することができる。
【0017】
本発明の抗微生物性能判断方法では、上記抗微生物部材と一定面積の樹脂フィルムの間に一定量の上記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を注入することにより、上記抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の上記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させることが好ましい。
また、本発明の抗微生物性能判断方法では、その内側に一定面積を有する枠を上記抗微生物部材の表面に配置し、上記枠内に一定量の上記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を注入することにより、上記抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の上記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させることが好ましい。
これらの方法により、抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させて抗微生物部材の抗微生物性能を正確に判断することができる。
【0018】
また、本発明の抗微生物性能判断方法では、上記抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の上記選択的銅(I)検知物質を接触させた後、上記選択的銅(I)検知物質を回収するようにしてもよい。
例えば、抗微生物部材の表面に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触、反応させた後、当該選択的銅(I)検知物質を含む溶液をマイクロピペッター等で回収して、試験管(マイクロチューブ)等に移し、色の変化の度合いを測定、判定するなどしてもよい。さらに、抗微生物部材の表面に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触、反応させた後、当該選択的銅(I)検知物質を含む溶液を濾紙や繊維シートなどの吸収体に吸い取って、色の変化の度合いを測定、判定することもできる。濾紙や繊維シートなどの吸収体は白色であることが望ましい。色の変化の度合いを測定、判定しやすいという利点があるためである。
選択的銅(I)検知物質を含む溶液を吸収する前の吸収体の白色度(Br)は、イルミナントD65を用いて測定された白色度(D65白色度ともいう)である。吸収体の白色度(Br)は、25.0以上が望ましく、70.0以上がさらに望ましい。
なお、前記吸収体は、濾紙や繊維シートのようなシート状でもよく、シート状、棒状、立方体、直方体、多角柱、球体もしくは粉体のいずれかの形状から選ばれる形態であってもよい。
また、選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させる形態としては、濾紙や繊維シートのような多孔質体に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を吸収させてもよく、選択的銅(I)検知物質を含む溶液をポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性樹脂に含ませることで選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させてもよい。
【0019】
また、本発明の抗微生物性能判断方法では、上記選択的銅(I)検知物質は、吸収体に保持されていてもよい。また、上記選択的銅(I)検知物質は、吸収体に溶液として保持されていてもよい。
例えば、上記選択的銅(I)検知物質を含む溶液を濾紙や繊維シートなどの吸収体に吸収、保持させて、上記選択的銅(I)検知物質を含む試験紙としてもよい。上記選択的銅(I)検知物質を含む試験紙は選択的銅(I)検知物質および当該検知物質を溶解させる溶媒を含んでいる湿式試験紙でもよく、当該溶媒が除去されて、選択的銅(I)検知物質を含んだ乾式試験紙であってもよい。湿式試験紙の場合は、抗微生物部材の表面に湿式の試験紙を配置し、呈色反応を進行させる。乾式試験紙の場合は、抗微生物部材の表面に乾式の試験紙を配置し、溶媒を付与することで呈色反応を進行させる。
濾紙や繊維シートなどの吸収体は白色であることが望ましい。白色の吸収体を利用した湿式もしくは乾式の試験紙を使用することで、上記選択的銅(I)検知物質の呈色反応が進行した場合、選択的銅(I)検知物質の色の変化の度合を特定しやすいという利点がある。
選択的銅(I)検知物質を吸収、保持する前の吸収体の白色度(Br)は、イルミナントD65を用いて測定された白色度(D65白色度ともいう)である。吸収体の白色度(Br)は、25.0以上が望ましく、70.0以上がさらに望ましい。
なお、前記吸収体は、濾紙や繊維シートのようなシート状でもよく、シート状、棒状、立方体、直方体、多角柱、球体もしくは粉体のいずれかの形状から選ばれる形態であってもよい。
また、選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させる形態としては、濾紙や繊維シートのような多孔質体に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を吸収させてもよく、選択的銅(I)検知物質を含む溶液をポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性樹脂に含ませることで選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させてもよい。
【0020】
本発明の抗微生物性能の計測方法は、本発明の抗微生物性能判断方法により抗微生物部材の抗微生物性能を計測することを特徴とする。
本発明の抗微生物性能判断方法を使用すると抗微生物部材の抗微生物性能を計測することができる。
【0021】
本発明の抗微生物部材の良品判定方法は、本発明の抗微生物性能判断方法における、抗微生物部材の表面に接触した後の選択的銅(I)検知物質の物性と抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、測定対象である抗微生物部材の良品/不良品の判定を行うことを特徴とする。
【0022】
本発明の抗微生物部材の再生方法は、本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づき、抗微生物部材が不良品と判定された場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを特徴とする。
【0023】
本発明の抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法は、抗微生物性能が付与された抗微生物部材について、本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づき、抗微生物部材の良品/不良品の判定を行い、抗微生物部材が良品であると判定した場合、これを抗微生物部材の所有者に告知するか、もしくは測定対象である抗微生物部材に良品である旨を表記し、抗微生物部材が不良品であると判定した場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを抗微生物部材の所有者に提案することを特徴とする。
なお、(1)抗微生物部材の良品/不良品の判定を行い、抗微生物部材が良品であると判定した場合、これを抗微生物部材の所有者に告知するか、(2)もしくは測定対象である抗微生物部材に良品である旨を表記し、(3)抗微生物部材が不良品であると判定した場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを抗微生物部材の所有者に提案する場合、(1)~(3)の各行為について対価を請求することでビジネスを行う。
【0024】
本発明の部材表面の銅(I)付着量の計測方法は、銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させる工程と、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、上記部材の表面の銅(I)付着量を計測する工程と、を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明の部材表面の銅(I)付着量の計測方法は、銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させ、選択的銅(I)検知物質の物性の変化を計測する。
そして、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、部材の表面の銅(I)付着量を計測する。
この方法であると、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、部材が使用された現場で部材の表面の銅(I)付着量を知ることができる。
上記選択的銅(I)検知物質は、検知物質を溶解させる溶媒中に溶解させた溶液であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、抗微生物部材の一例としてのトイレブースの一部を模式的に示す斜視図である。
図2図2(a)は、図1に示す領域Aで選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた様子を模式的に示す斜視図であり、図2(b)は、図2(a)において選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた後の抗微生物部材を模式的に示す斜視図である。
図3図3(a)は、図1に示す領域Bで選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた様子を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)において選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた後の抗微生物部材を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法の手順を示すフローチャートである。
図5図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)及び図5(e)は、湿式試験紙を使用した指示薬の色の変化の判定方法の手順を示す写真である。
図6図6は、OD485-OD700の値と抗ウイルス活性値の関係を示す検量線である。
図7図7は、OD485-OD700の値と銅(I)付着量の関係を示す検量線である。
図8図8は、銅(I)付着量と抗ウイルス活性値の関係を示す検量線である。
【0027】
(発明の詳細な説明)
以下、この発明に係る抗微生物性能判断方法の各実施形態について説明する。
まず、この発明で抗微生物性能を判断する対象である抗微生物部材について説明する。
抗微生物部材としては、トイレ関係の部材として、トイレの壁、扉、床、天井、便器、手洗い場等が挙げられる。また、扉や壁にノブ、取っ手、鍵、手摺等が設けられている場合はそれらの部分も抗微生物部材といえる。
トイレとしては住宅、商業施設、オフィス、工場、作業場、食堂、ホテル、駅等の各種建築物に付帯するトイレが挙げられる。また、災害時の避難所、工事現場、イベント会場、キャンプ場、公園等に設置される仮設トイレであってもよい。仮設トイレである場合はテント装置を備えていてもよい。
【0028】
また、他の抗微生物部材としては、タッチパネルの保護用フィルムやディスプレイ用のフィルムであってもよく、フィルムやシートの表面にハードコートが施されていてもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり、ドアノブ等であってもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材のほか、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0029】
本明細書における抗微生物とは、抗ウイルス、抗菌、抗カビ、防カビを含む概念である。従って、抗微生物剤とは、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗カビ剤、防カビ剤を含む概念である。
抗微生物剤は、電磁波硬化型樹脂に含まれて電磁波硬化型樹脂の硬化物の形で抗微生物部材に固着されていることが好ましい。この場合電磁波硬化型樹脂がバインダとして機能する。
【0030】
抗微生物剤は銅を含む。銅は金属としての銅又は銅化合物の形で含まれていてよい。
また、銅又は銅化合物が担持された金属酸化物触媒であってもよく、銅イオンでイオン交換されたゼオライト、及び、銅の錯体から選ばれる少なくとも1種を含む粒子を用いることもできる。また、これらの化合物の水和物であってもよい。
銅を含む抗微生物剤としては、銅(I)を含んでおればよく、例えば、酸化銅(I)(亜酸化銅)、ヨウ化銅(I)、銅(II)のカルボン酸塩(酢酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅等でいずれも水溶性)、銅(II)の水溶性無機塩(硝酸銅、硫酸銅等)を銅(I)に還元したものが挙げられる。
また、銅(I)が担持されたアルミナ、銅(I)が担持されたシリカ、銅(I)が担持された酸化亜鉛、銅(I)が担持された酸化チタン、銅(I)が担持された酸化タングステン、銅(I)が担持されたリン酸カルシウム等の無機粒子が挙げられる。
銅が担持された無機粒子については、さらにナノ銀等の他の金属粒子が担持されていてもよい。
銅イオンでイオン交換されたゼオライトは、さらに銀イオンや亜鉛イオン等の他の金属イオンで交換されていてもよい。
また、銅(I)の錯体であることも好ましい。上記銅(I)の錯体としては、例えば、アセチルアセトンと銅(I)との錯体、5-メチル-2,4-ヘキサンジオン等のβジケトンと銅(I)との錯体、銅(I)(1-ブタンチオレート)、銅(I)(へキサフルオロペンタンジオネートシクロオクタジエン)等が挙げられる。
【0031】
銅を含む抗微生物剤としては、銅(I)を含んでおり、さらに銅(II)を含んでいてもよい。銅(I)と銅(II)を含む場合、銅(I)を銅(II)より多く含むことが好ましい。銅(I)と銅(II)のイオンの個数の比率(銅(I)/銅(II))が0.4~50であることが好ましい。
銅のイオンの個数の比率は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にある銅(I)と銅(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される。
【0032】
また、上記電磁波硬化型樹脂について説明する。
未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと重合開始剤と各種添加剤と抗微生物剤とを含んだ抗微生物組成物を用いて基材表面に島状の液滴を形成した後、電磁波を照射することにより、重合開始剤は、開裂反応、水素引き抜き反応、電子移動等の反応を起こし、これにより生成した光ラジカル分子、光カチオン分子、光アニオン分子等が上記モノマーや上記オリゴマーを攻撃してモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応が進行し、抗微生物剤を含む島状の電磁波硬化型樹脂の硬化物が形成される。このような反応により生成する電磁波硬化型樹脂の硬化物を構成する樹脂を電磁波硬化型樹脂という。
【0033】
このような電磁波硬化型樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0034】
上記アクリル樹脂としては、エポキシ変性アクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂(ウレタン変性アクリレート樹脂)、シリコン変性アクリレート樹脂等が挙げられる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0035】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組み合わせたもの等が挙げられる。
アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明の抗微生物性能判断方法では、上記のような抗微生物部材の抗微生物性能を判断する。抗微生物性能の判断には選択的銅(I)検知物質を使用する。
選択的銅(I)検知物質は、単独の場合と、銅(I)と反応して銅化合物となった場合とで異なる色を示す。そのため、選択的銅(I)検知物質の色の変化を観察することで抗微生物部材の表面に存在する銅(I)を検出することができる。
また、選択的銅(I)検知物質の色の変化は選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化を伴うので、可視分光光度計等を用いて光の吸収波長の変化を測定することによって抗微生物部材の表面に存在する銅(I)を検出することができる。
【0037】
選択的銅(I)検知物質としてはフェナントロリン構造をもった物質を使用することができる。フェナントロリン構造をもった物質としては、1、10-フェナントロリン構造を有していることが望ましい。特に、バソクプロインジスルホン酸の塩が望ましく、バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム(2、9-ジメチル-4、7-ジフェニル-1、10-フェナントロリンジスルホン酸二ナトリウム:2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthrolinedisulfonicacid disodiumsaltとも表記される)、ネオクプロイン(2,9-ジメチル-1、10-フェナントロリン:2,9-Dimethyl-1,10-phenanthrolineとも表記される)がより望ましい。
選択的銅(I)検知物質がバソクプロインジスルホン酸二ナトリウムである場合、バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム単独では薄い黄色を示すが、銅(I)と反応して銅化合物となることで橙色を示す。
【0038】
選択的銅(I)検知物質として使用する場合、選択的銅(I)検知物質は水溶液の形で使用することが好ましい。また、アルカリや酸等を加えてもよく、選択的銅(I)検知物質を含む溶液のpHは4.0~10.0であることが好ましい。
【0039】
また、選択的銅(I)検知物質として、フェナントロリン構造をもった物質の塩、例えば、バソクプロインジスルホン酸の塩を使用する場合は、0.1~10重量%の濃度であることが好ましく、1~3重量%の濃度であることがより好ましい。
【0040】
抗微生物部材の抗微生物性能を厳密に測定するためには、抗微生物部材に微生物を接種して微生物の活性値を測定する必要がある。
しかしながら、上記のような選択的銅(I)検知物質の物性の変化と、あらかじめ厳密な方法で測定しておいた抗微生物部材の抗微生物性能との関係が分かっていれば、選択的銅(I)検知物質の物性の変化を確認することで、簡便な方法により、抗微生物部材が使用された現場で抗微生物部材の抗微生物性能を知ることができる。
【0041】
本発明の抗微生物性能判断方法では、銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された抗微生物部材について、抗微生物性能を判断する。
工程としては、抗微生物部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させる工程と、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、抗微生物部材の抗微生物性能を判断する工程と、を含む。
以下に、当該方法の具体的な実施形態について説明する。
上記選択的銅(I)検知物質は、検知物質を溶解させる溶媒中に溶解させた溶液であってもよい。
【0042】
まず、選択的銅(I)検知物質の物性の変化が、選択的銅(I)検知物質が銅(I)と接触することにより生じる選択的銅(I)検知物質の色の変化であり、選択的銅(I)検知物質の色の変化を観察することにより抗微生物部材の抗微生物性能を判断する実施形態について説明する。
以下の実施態様は、選択的銅(I)検知物質として、当該検知物質を溶媒に溶解させた溶液を用いた事例について説明する。選択的銅(I)検知物質の溶液は、濾紙や繊維シートなどの吸収体に吸収、保持させて試験紙(湿式、乾式)とし、当該試験紙を抗微生物部材の表面に接触させてもよい。
なお、前記吸収体は、濾紙や繊維シートのようなシート状でもよく、シート状、棒状、立方体、直方体、多角柱、球体もしくは粉体のいずれかの形状から選ばれる形態であってもよい。
また、選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させる形態としては、濾紙や繊維シートのような多孔質体に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を吸収させてもよく、選択的銅(I)検知物質を含む溶液をポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性樹脂に含ませることで選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させてもよい。
【0043】
この場合に使用する選択的銅(I)検知物質としては、バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム(2、9-ジメチル-4、7-ジフェニル-1、10-フェナントロリンジスルホン酸二ナトリウム:2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthrolinedisulfonicacid disodiumsaltとも表記される)が挙げられる。バソクプロインジスルホン酸二ナトリウムを含む溶液を抗微生物部材に接触させることで銅(I)とバソクプロインジスルホン酸二ナトリウムが反応して色が変化する。具体的には反応前の薄い黄色から反応後の橙色に変化する。銅(I)と反応した量(割合)により色の変化の度合いが異なるので、バソクプロインジスルホン酸二ナトリウムが銅(I)と全く反応していない状態(薄い黄色)から全て銅(I)と反応した状態(橙色)まで、段階的にバソクプロインジスルホン酸二ナトリウムの水溶液の色が変化する。
色が変化することにより抗微生物部材に含まれる銅(I)とバソクプロインジスルホン酸二ナトリウムが反応していること、すなわち抗微生物部材の表面に銅(I)を含む抗微生物部材が存在していることを確認することができる。
この方法は、現場で作業者の目視によって簡便に行うことができる。抗微生物性能の判断のために機器を用意する必要がなく、作業性に優れている。
【0044】
また、選択的銅(I)検知物質の色の変化の度合いにより、抗微生物部材の表面の銅(I)付着量を計測することができる。すなわち、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から抗微生物部材の表面の銅(I)付着量を計測することができる。
そして、抗微生物部材の表面の選択的銅(I)付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、抗微生物部材の抗微生物性能を計測して、予め設定した基準値と比較し、抗微生物性能の良否を判断することが好ましい。
【0045】
抗微生物部材の抗微生物性能は、抗微生物部材の表面の銅(I)付着量と相関がある。そのため、選択的銅(I)検知物質の物性と抗微生物部材の表面の銅(I)付着量との関係を事前に求めておき、その関係と現場で得られた選択的銅(I)検知物質の物性を照らし合わせることにより抗微生物部材の表面の銅(I)付着量を計測することができる。そして、銅(I)付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係と照らし合わせることで抗微生物部材の抗微生物性能を定量的に計測、判断することができる。
【0046】
より正確に銅(I)の付着量を計測したい場合は、選択的銅(I)検知物質の色と銅(I)付着量の関係を表す色見本と、抗微生物部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させた際の選択的銅(I)検知物質の色の変化を対比して観察することが好ましい。
当該色見本としては、銅(I)とバソクプロインジスルホン酸二ナトリウムが全く反応していない状態(黄色)から、バソクプロインジスルホン酸二ナトリウムが全て銅(I)と反応した状態(橙色)までを、銅(I)付着量と対応させて段階的に示したものが挙げられる。
色見本との対比を行うことにより、作業者の主観による判断のばらつきが小さくなり、また、半定量的な抗微生物性能の測定を行うことができる。
【0047】
続いて、選択的銅(I)検知物質を抗微生物部材に接触させる方法について図面を用いて説明する。図1は、抗微生物部材の一例としてのトイレブースの一部を模式的に示す斜視図である。
図1には、トイレブース1の一部である扉10と床20を示している。
そして、扉10において選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させる部位を破線で囲まれた領域Aで示し、床20において選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させる部位を破線で囲まれた領域Bで示している。
トイレブースの扉10は抗微生物部材の表面が垂直面である場合の例であり、トイレブースの床20は抗微生物部材の表面が水平面である場合の例である。
トイレブースの扉及び床において選択的銅(I)検知物質を接触させる部位は、領域A及び領域Bに示す位置に特に限定されるものではなく、任意の部位を採用することができる。また、トイレブースの扉及び床の複数箇所において選択的銅(I)検知物質を接触させて抗微生物性能を判断してもよい。
【0048】
図2(a)は、図1に示す領域Aで選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた様子を模式的に示す斜視図であり、図2(b)は、図2(a)において選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた後の抗微生物部材を模式的に示す斜視図である。
選択的銅(I)検知物質を抗微生物部材に接触させる際には、抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の選択的銅(I)検知物質を接触させることが好ましい。
また、抗微生物部材と一定面積の樹脂フィルムの間に一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液を注入することにより、抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させることが好ましい。
図2(a)では、一定面積の樹脂フィルム30を使用し、抗微生物部材である扉10と樹脂フィルム30の間に一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液40が注入された様子を示している。
【0049】
一定面積の樹脂フィルムを使用し、一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液を使用することで、抗微生物部材と選択的銅(I)検知物質が接触する条件(面積あたりの選択的銅(I)検知物質の接触量)を揃えることができるので、抗微生物部材の抗微生物性能を正確に判断することができる。
また、抗微生物部材と樹脂フィルムの間に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を注入すると、表面張力によって抗微生物部材と樹脂フィルムの間に選択的銅(I)検知物質を含む溶液が保持される。
抗微生物部材の表面が垂直面であっても抗微生物部材と樹脂フィルムの間に保持された溶液は垂れることがないので、垂直面である抗微生物部材の表面に対しても選択的銅(I)検知物質を含む溶液を所定の時間接触させることができる。
【0050】
樹脂フィルムとしては、OPPフィルム(2軸延伸ポリプロピレンフィルム)、LDPEフィルム(低密度ポリエチレンフィルム)、HDPE(高密度ポリエチレンフィルム)、PETフィルム(ポリエチレンテレフタラートフィルム)等の樹脂フィルムを使用することができる。
また、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる面積は、特に限定されるものではないが、1~25cmであることが好ましい。例えば、4cm×4cmの領域(16cm)とすることができる。
また、選択的銅(I)検知物質を含む溶液の使用量は1~30μLであることが好ましい。例えば、20μLとすることができる。
また、抗微生物部材の面積当たりの、選択的銅(I)検知物質を含む溶液の使用量が1~1.5μL/cmであることが好ましい。例えば、1.25μL/cmとすることができる。
また、選択的銅(I)検知物質を含む溶液と抗微生物部材を接触させる時間は、選択的銅(I)検知物質と銅(I)の反応が充分に行われる時間であれば特に限定されるものではないが、2~5分であることが好ましい。例えば3分とすることができる。
【0051】
選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に所定時間接触させた後は、選択的銅(I)検知物質を回収する。選択的銅(I)検知物質の回収は、選択的銅(I)検知物質を含む溶液をマイクロピペッターを用いて回収する方法等により行うことができる。
マイクロピペッターにて回収した選択的銅(I)検知物質を含む溶液は、試験管(マイクロチューブ)等に移されて、選択的銅(I)検知物質を含む溶液の色の変化の度合いの測定もしくは判定に使用される。また、マイクロピペッターを用いて回収する代わりに、所定時間抗微生物部材に接触させた選択的銅(I)検知物質を含む溶液を濾紙や繊維シートなどの吸収体に吸収、保持させて選択的銅(I)検知物質の色の変化の度合いを測定もしくは判定してもよい。
なお、前記吸収体は、濾紙や繊維シートのようなシート状でもよく、シート状、棒状、立方体、直方体、多角柱、球体もしくは粉体のいずれかの形状から選ばれる形態であってもよい。
また、選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させる形態としては、濾紙や繊維シートのような多孔質体に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を吸収させてもよく、選択的銅(I)検知物質を含む溶液をポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性樹脂に含ませることで選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させてもよい。
そして、樹脂フィルムを抗微生物部材の表面から剥離する。
図2(b)には、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させ、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を回収し、樹脂フィルムを剥離した後の抗微生物部材を示しており、抗微生物部材の表面に存在する銅(I)と選択的銅(I)検知物質との反応後に抗微生物部材の表面50の色が変化している状態を示している。
【0052】
図3(a)は、図1に示す領域Bで選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた様子を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)において選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた後の抗微生物部材を模式的に示す斜視図である。
図3(a)に示す領域Bは、抗微生物部材の表面が水平面である場合に相当する。
図3(a)には、抗微生物部材の表面が水平面である場合に使用できる好ましい実施形態として、その内側に一定面積を有する枠を抗微生物部材の表面に配置し、枠内に一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液を注入することにより、抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させる方法を示している。
図3(a)には、その内側に一定面積を有する枠60を抗微生物部材である床20の表面に配置し、枠60内に一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液40が注入された様子を示している。
【0053】
その内側に一定面積を有する枠を使用し、一定量の選択的銅(I)検知物質を含む溶液を使用することで、抗微生物部材と選択的銅(I)検知物質が接触する条件(面積あたりの選択的銅(I)検知物質の接触量)を揃えることができるので、抗微生物部材の抗微生物性能を正確に判断することができる。
【0054】
枠としては、選択的銅(I)検知物質との反応に影響を与えない材料であればよく、樹脂製、セラミック製、金属製等の材質の枠を使用することができる。
また、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる面積は、特に限定されるものではないが、1~25cmであることが好ましい。例えば、4cm×4cmの領域(16cm)とすることができる。
また、選択的銅(I)検知物質を含む溶液の使用量は1~30μLであることが好ましい。例えば、20μLとすることができる。
また、抗微生物部材の面積当たりの、選択的銅(I)検知物質を含む溶液の使用量が1~1.5μL/cmであることが好ましい。例えば、1.25μL/cmとすることができる。
また、選択的銅(I)検知物質を含む溶液と抗微生物部材を接触させる時間は、選択的銅(I)検知物質と銅の反応が充分に行われる時間であれば特に限定されるものではないが、2~5分であることが好ましい。例えば3分とすることができる。
【0055】
選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に所定時間接触させた後には、選択的銅(I)検知物質を回収する。
選択的銅(I)検知物質の回収は、選択的銅(I)検知物質を含む溶液をマイクロピペッターを用いて回収する方法等により行うことができる。
マイクロピペッターにて回収した選択的銅(I)検知物質を含む溶液は、試験管(マイクロチューブ)等に移されて、選択的銅(I)検知物質を含む溶液の色の変化の度合いの測定もしくは判定に使用される。また、マイクロピペッターを用いて回収する代わりに、所定時間抗微生物部材に接触させた選択的銅(I)検知物質を含む溶液を濾紙や繊維シートなどの吸収体に吸収、保持させて選択的銅(I)検知物質の色の変化の度合いを測定もしくは判定してもよい。
そして、枠を抗微生物部材の表面から取り外す。
なお、前記吸収体は、濾紙や繊維シートのようなシート状でもよく、シート状、棒状、立方体、直方体、多角柱、球体もしくは粉体のいずれかの形状から選ばれる形態であってもよい。
また、選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させる形態としては、濾紙や繊維シートのような多孔質体に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を吸収させてもよく、選択的銅(I)検知物質を含む溶液をポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性樹脂に含ませることで選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させてもよい。
図3(b)には、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させ、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を回収し、枠を取り外した後の抗微生物部材を示しており、抗微生物部材の表面に存在する銅(I)と選択的銅(I)検知物質との反応後に抗微生物部材の表面50の色が変化している状態を示している。
【0056】
図2(a)に示す形態、図3(a)に示す形態のいずれにおいても、また、その他の方法により選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた場合においても、以下のことがいえる。
選択的銅(I)検知物質の色の変化を観察することにより抗微生物部材の抗微生物性能を判断する場合、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に所定時間接触させた後、当該溶液が抗微生物部材に接触した状態での色を観察してもよい。また、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を回収した後に、回収した溶液の色を観察してもよい。また、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を回収した後の抗微生物部材の表面の色を観察してもよい。
【0057】
選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に所定時間接触させ、選択的銅(I)検知物質を回収した後には、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させた抗微生物部材の表面に対して拭き取りや洗浄を行うことで、抗微生物部材の表面の色調を選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させる前の色調に戻すことができる。
【0058】
続いて、選択的銅(I)検知物質の物性の変化が、選択的銅(I)検知物質が銅(I)と接触することにより生じる選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化であり、選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化を測定することにより抗微生物部材の抗微生物性能を判断する実施形態について説明する。
この実施形態の方法は、選択的銅(I)検知物質の色の変化の目視観察による判断が難しい場合においても適用することができる。
【0059】
この場合に使用する選択的銅(I)検知物質としては、フェナントロリン構造を持った物質を使用することができる。フェナントロリン構造をもった物質としては、1、10-フェナントロリン構造を有していることが望ましい。特に、バソクプロインジスルホン酸の塩が望ましく、バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム(2、9-ジメチル-4、7-ジフェニル-1、10-フェナントロリンジスルホン酸二ナトリウム:2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthrolinedisulfonicacid disodiumsaltとも表記される)、ネオクプロイン(2,9-ジメチル-1、10-フェナントロリン:2,9-Dimethyl-1,10-phenanthrolineとも表記される)がより望ましい。
【0060】
上述したように、選択的銅(I)検知物質を抗微生物部材に接触させることで選択的銅(I)検知物質が銅と反応して色が変化する。色が変化することに伴い、可視光の吸収波長が変化することになる。
そのため、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を回収した後に、当該溶液に対して、可視分光光度計等を用いて波長ごとの吸光度を測定し、吸光度を数値化して判断することにより、選択的銅(I)検知物質の物性の変化を定量的に計測、判断することができる。
このような方法であると、作業者ごとの判断のばらつきを小さくすることができる。
【0061】
また、特定の波長の吸光度に着目して、その吸光度の変化を測定することにより、抗微生物部材の表面の銅(I)付着量を計測することができる。すなわち、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から抗微生物部材の表面の銅(I)付着量を計測することができる。
そして、抗微生物部材の表面の銅(I)付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、抗微生物部材の抗微生物性能を判断することが好ましい。
【0062】
選択的銅(I)検知物質がバソクプロインジスルホン酸二ナトリウムである場合、着目する波長としては、485nm及び700nmが挙げられる。
バソクプロインジスルホン酸二ナトリウムが銅(I)と反応していない状態では485nmにピークが見られないが、銅(I)との反応が進むにつれて485nmの吸収ピーク強度が大きくなる。また、不純物による吸収ピーク強度のベースアップを除外するため、銅(I)との反応で変化のない700nmの吸収をベースラインとして差分して、485nmでの吸収ピーク強度としている。485nmの吸収ピーク強度が大きいほど抗微生物部材の表面の銅(I)付着量が多いといえる。
【0063】
従って、銅(I)付着量が既知の試料を複数準備し、当該試料と選択的銅(I)検知物質を接触させ、選択的銅(I)検知物質の色の変化が生じた部位において可視分光光度計により485nm及び700nmの吸収ピーク強度を測定し、銅(I)付着量と485nm及び700nmの吸収ピーク強度との関係から検量線を作成することができる。
当該検量線を用いることによって、銅(I)付着量が未知の試料について銅(I)付着量の定量を行うことができる。
また、検量線は、485nmの吸収ピーク強度(OD485)と700nmの吸収ピーク強度(OD700)を測定してその差分OD485-OD700の値を求め、OD485-OD700の値と銅(I)付着量の関係を示す線として作成してもよい。
このような検量線を使用する方法によると、より正確に銅(I)付着量の定量を行うことができる。
【0064】
また、銅(I)付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係をあらかじめ調べておくことによって、抗微生物性能と485nm及び700nmの吸収ピーク強度との関係から検量線を作成してもよい。また、「抗微生物性能」と「OD485およびOD700の差分の値」との関係から検量線を作成してもよい。このような検量線を使用すると、吸光度の変化から抗微生物部材の抗微生物性能を定量的に計測、判断することができる。
【0065】
選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる方法としては、上述した図2(a)及び図3(a)に示すような方法を使用することができるのでその詳細な説明は省略する。
選択的銅(I)検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させたのち、選択的銅(I)検知物質を含む溶液を回収して、この溶液について可視分光光度計等の機器による吸光度の測定をすることが好ましい。
【0066】
ここまで説明した本発明の抗微生物性能判断方法により、抗微生物部材の抗微生物性能に関する情報を得ることができる。
本発明の抗微生物性能判断方法は、銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された抗微生物部材が所定期間使用されたのち、抗微生物性能が維持されているかの判断に使用することが好ましい。
本発明の抗微生物性能判断方法を使用すると、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から抗微生物部材が使用された現場で抗微生物部材の抗微生物性能を知ることができる。
この過程では、抗微生物部材に微生物を接種して所定期間の試験を行う必要はなく、抗微生物性能の確認を簡便に行うことができる。
そして、本発明の抗微生物性能判断方法による判断を踏まえ、抗微生物性能が維持されていれば抗微生物部材を良品と判定し、維持されていなければ不良品と判定することができる。また、不良品と判定した抗微生物部材については抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことにより抗微生物部材を再生するようにしてもよい。
【0067】
以下に、本発明の抗微生物性能判断方法を使用した、本発明の抗微生物部材の良品判定方法、抗微生物部材の再生方法、及び、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法について説明する。
【0068】
本発明の抗微生物部材の良品判定方法は、本発明の抗微生物性能判断方法における、抗微生物部材の表面に接触した後の選択的銅(I)検知物質の物性と抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、測定対象である抗微生物部材の良品/不良品の判定を行うことを特徴とする。
【0069】
本発明の抗微生物性能判断方法を使用することにより、抗微生物部材の抗微生物性能に関する情報を得ることができる。
その結果、抗微生物性能が充分と判断されれば良品と判定し、不充分であると判断されれば不良品と判定する。
良品/不良品の判定の基準として、選択的銅(I)検知物質の物性の変化の種類に応じて以下のようにすることができる。
【0070】
選択的銅(I)検知物質の色の変化を作業者が目視観察する場合は、作業者が有する判断基準により判断する。また、選択的銅(I)検知物質の色と銅(I)付着量の関係を表す色見本に基づき、特定の色見本の色よりも銅(I)付着量が多い側の色である場合を良品とするような判断基準により判断してもよい。
【0071】
選択的銅(I)検知物質の光の吸収波長の変化を測定する場合は、特定波長の吸光度に着目して判断する。例えば選択的銅(I)検知物質としてバソクプロインジスルホン酸二ナトリウムを用いて、485nmと700nmの吸収ピーク強度の差分が特定の強度以上の場合に、良品とするような判断基準を定めてもよい。
これらの判断基準を使用する場合に、「銅(I)付着量」と「485nm及び700nmの吸収ピーク強度の差分」との関係を示す検量線を使用して、銅(I)付着量が所定値以上の場合を良品と判断してもよい。
また、「抗微生物性能」と「485nm及び700nmの吸収ピーク強度の差分」との関係を示す検量線を使用してもよい。この場合は抗微生物性能が所定値以上の場合に良品とするような判断基準により判断すればよい。
【0072】
本発明の抗微生物部材の再生方法は、本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づき、抗微生物部材が不良品と判定された場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを特徴とする。
抗微生物部材が不良品と判定された場合は、銅(I)を含む抗微生物剤を除去した後、あらためて抗微生物処理を施してもよく、銅(I)を含む抗微生物剤を除去することなく、重ねて抗微生物処理を施してもよい。
抗微生物処理を施す前に抗微生物剤を除去する場合、除去しない場合のいずれの場合も、本発明における「抗微生物処理を施す」ことに含まれる。
【0073】
抗微生物部材が良品であるか、不良品であるかの判断は、上述した本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づいて行う。その結果、抗微生物部材が不良品と判定された場合に、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことにより、抗微生物部材を再生することができ、再度抗微生物性能を発揮させることができる。
【0074】
抗微生物部材の表面に対する抗微生物処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法により行うことができる。
まず、銅(I)を含む抗微生物剤と未硬化の電磁波硬化型樹脂と分散媒と重合開始剤と各種添加剤とを含む抗微生物組成物を抗微生物部材の表面に散布する被覆工程を行う。
続いて必要に応じて、上記被覆工程により散布された上記抗微生物組成物を乾燥させて上記分散媒を除去する乾燥工程を行う。
最後に上記乾燥工程で分散媒を除去した上記抗微生物組成物中の上記未硬化の電磁波硬化型樹脂を硬化させる硬化工程を行う。
これらの工程により、抗微生物部材の表面に抗微生物剤を含む電磁波硬化型樹脂の硬化物を形成させることができ、抗微生物部材を再生することができる。
なお、電磁波硬化型樹脂に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。
【0075】
本発明の抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法は、抗微生物性能が付与された抗微生物部材について、本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づき、抗微生物部材の良品/不良品の判定を行い、抗微生物部材が良品であると判定した場合、これを抗微生物部材の所有者に告知するか、もしくは測定対象である抗微生物部材に良品である旨を表記し、抗微生物部材が不良品であると判定した場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを抗微生物部材の所有者に提案することを特徴とする。
【0076】
図4は、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法の手順を示すフローチャートである。
まず、抗微生物性能が付与された抗微生物部材が、その用途に従って使用され、また適宜拭き取り等の清掃が行われる(ステップS1)。なお、図4のステップS1では、拭き取り等の清掃についての記述は省略している。
【0077】
抗微生物部材を使用した後、抗微生物部材の良品/不良品の判定を行う(ステップS2)。当該判定は本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づいて行う。
抗微生物部材の良品/不良品を判定する頻度は特に限定されるものではなく、現場の状況等によって適宜定めることができるが、1~3年ごとに行うことが好ましい。
【0078】
ステップS2における判定の結果、抗微生物部材が良品であると判定した場合には、これを抗微生物部材の所有者に告知するか、もしくは測定対象である抗微生物部材に良品である旨を表記する(ステップS3)。
良品と判定した日時を記録しておき、次回の良品/不良品の判定を行う期日を定めておくことも好ましい。抗微生物部材が良品と判断された場合であっても、不良品と判断される判断基準に近いレベルでの良品判定であれば、近い期日で次回の良品/不良品の判定を行うようにすることが好ましい。
そして、そのまま抗微生物部材を使用する(ステップS1に戻る)。
【0079】
ステップS2における判定の結果、抗微生物部材が不良品であると判定した場合には、抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを抗微生物部材の所有者に提案する(ステップS4)。
【0080】
抗微生物処理の提案を受けた所有者は、抗微生物処理を施して抗微生物部材を再生する(ステップS5)。なお、抗微生物処理を行う作業主体は抗微生物処理の提案を受けた所有者である必要はなく、抗微生物処理を行うことのできる事業者であればよい。また、所有者に対して抗微生物処理を提案した事業者であってもよい。これらの事業者は抗微生物処理の提案を受けた所有者からの依頼により抗微生物処理を行うことができる。
再生のための抗微生物処理を施す際には、抗微生物剤を除去した後、あらためて抗微生物処理を行ってもよく、抗微生物剤を除去することなく、重ねて抗微生物処理を行ってもよい。
そして、抗微生物処理を施した抗微生物部材を再度使用する(ステップS1に戻る)。
【0081】
なお、抗微生物処理の提案を受けた所有者が、すぐに抗微生物部材の再生を行わないと判断した場合は、抗微生物部材の再生(ステップS5)を行うことなく、抗微生物部材を使用することもあり得る(ステップS1に戻る)。
すなわち、本発明の抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法は、抗微生物部材の再生(ステップS5)を必須とするものではない。
しかしながら、抗微生物部材が不良品と判定された状態で抗微生物部材の使用を続けると、抗微生物部材の抗微生物性能が充分に発揮されない状態が続くこととなるので、抗微生物部材の再生を行うほうが好ましい。
【0082】
上記の手順でなされる手順が本発明のモニタリングビジネスの方法の一例である。本明細書における「モニタリング」とは、抗微生物部材の抗微生物性能を継続的に監視するステップを有することを意味している。抗微生物部材の抗微生物性能を継続的に監視することで、抗微生物部材を現場に配置しただけでビジネスを完結するのではなく、継続的に抗微生物部材の抗微生物性能が維持されるようにするので、抗微生物部材の抗微生物性能に関する品質保証の観点から有用な方法である。
【0083】
また、本発明の抗微生物性能判断方法において、選択的銅(I)検知物質の物性の変化に関する情報を得る手法は、部材表面の銅(I)付着量の計測方法に応用することができる。
すなわち、本発明の部材表面の銅(I)付着量の計測方法は、銅(I)を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させる工程と、上記選択的銅(I)検知物質の物性の変化から、上記部材の表面の銅(I)付着量を計測する工程と、を含むことを特徴とする。
【0084】
部材の表面の銅(I)付着量の計測方法で銅(I)付着量を計測する対象となる部材は、抗微生物部材には限定されない。抗微生物部材の他には、真鍮製の部材、緑青製の部材等が挙げられ、これらの材料からなるインテリア、屋根瓦等が挙げられる。
部材の表面に選択的銅(I)検知物質を接触させる工程における具体的な方法、及び、選択的銅(I)検知物質の物性の変化から部材の表面の銅(I)付着量を計測する具体的な方法としては、本発明の抗微生物性能判断方法において説明した方法を用いることができる。
部材の表面の銅(I)付着量を計測するために、選択的銅(I)検知物質の物性の変化と銅(I)付着量の関係を示す色見本や検量線を用いてもよい。
以上に説明した実施形態では、選択的銅(I)検知物質は、溶液の形態で使用しているが、上述したように、選択的銅(I)検知物質の溶液を濾紙や繊維シートなどの吸収体に吸収、保持させて、試験紙としてもよい。試験紙は、選択的銅(I)検知物質とそれを溶解させる溶媒を含む湿式試験紙でもよく、上記溶媒が除去されて選択的銅(I)検知物質が濾紙や繊維シートなどの吸収体中に含まれている乾式試験紙であってもよい。
濾紙や繊維シートなどの吸収体は白色であることが望ましい。選択的銅(I)検知物質が銅(I)と反応して色が変化した場合に、その色の変化の度合いを特定しやすいという利点を有する。
吸収体の白色度(Br)は、イルミナントD65を用いて測定された白色度(D65白色度ともいう)である。吸収体の白色度(Br)は、25.0以上が望ましく、70.0以上がさらに望ましい。
湿式試験紙の場合は、抗微生物部材の表面に湿式試験紙を接触させることで、呈色反応を進行させ、乾式試験紙の場合は、抗微生物部材の表面に乾式試験紙を接触させた後、水などの溶媒を付与して呈色反応を進行させてもよい。
なお、前記吸収体は、濾紙や繊維シートのようなシート状でもよく、シート状、棒状、立方体、直方体、多角柱、球体もしくは粉体のいずれかの形状から選ばれる形態であってもよい。
また、選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させる形態としては、濾紙や繊維シートのような多孔質体に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を吸収させてもよく、選択的銅(I)検知物質を含む溶液をポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性樹脂に含ませることで選択的銅(I)検知物質を吸収体に吸収、保持させてもよい。
【実施例0085】
(製造例1:抗微生物性能付与直後を想定)
(1)酢酸銅の濃度が1.75wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フィルム和光純薬社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)を重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用い、8000rpmで30分撹拌して調製した。
上記1.75wt%酢酸銅水溶液と上記紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗微生物組成物を調製した。なお、IGM社製のOmnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)とベンゾフェノンとの重量比1:1の混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶であり、紫外線により還元力を発現する。光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)は、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、結局光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
【0086】
(2)ついで、300mm×300mmの大きさの白色光沢メラミン基板上に、3.0g/分の噴出速度で分散媒を含んだ状態で4.00g/mに相当する混合組成物をスプレーガン(アネスト岩田製LPH-50)を用い、0.1MPaのエアー圧力、30cm/secのストローク速度で霧状に散布し、混合組成物の液滴を白色光沢メラミン基板表面に付着させた。
【0087】
(3)この後、白色光沢メラミン基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cmの照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材である白色光沢メラミン基板にその表面の一部が露出するように銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗微生物性能を備えた抗微生物部材を得た。
また、酢酸銅(II)に含まれる銅(II)は光重合開始剤により還元されてその一部が銅(I)となっている。銅(I)と銅(II)のイオンの個数の比率は、銅(I)/銅(II)=6/4である。銅(I)と銅(II)のイオンの個数の比率は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にある銅(I)と銅(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される。
製造例1で得た抗微生物部材は、抗微生物剤の付与直後を想定している。
【0088】
単位面積あたりの銅(I)の付着量は、以下のように計算する。
事前に、白色光沢メラミン基板(もしくは、白色光沢メラミンの横に紙を載置して白色光沢メラミン基板と同時に抗微生物組成物をスプレー塗布する場合はその紙)の重量を予め測定しておき、抗微生物組成物を付着、硬化させた後の重量との差を測定し、抗微生物部材の表面に実際に付着した、銅化合物を含む抗微生物組成物の硬化物の重量を測定する。
ついで、抗微生物組成物の原料組成比から抗微生物組成物の硬化物中の全銅イオン相当(銅(I)+銅(II)の合計)の重量を計算して、白色光沢メラミン基板(もしくは紙)の面積で除することで、単位面積あたりの全銅イオンの重量を計算する。
銅(I)と銅(II)のイオンの個数の比率が銅(I)/銅(II)=6/4と分かっているので、単位面積あたりの全銅イオンの重量から単位面積当たりの銅(I)の付着量を計算する。下記に示す製造例2についても同様に単位面積当たりの銅(I)の付着量を計算する。
【0089】
(製造例2:抗微生物性能付与の後、時間経過後を想定)
製造例1において、分散媒を含んだ状態で2.29g/mに相当する混合組成物を使用して、抗微生物剤の付与量を減らしたほかは製造例1と同様にして抗微生物部材を得た。
製造例2で得た抗微生物部材は、抗微生物剤の付与後、時間が経過して抗微生物部材の表面の銅(I)付着量が減少した状態を想定している。
【0090】
(製造例3:抗微生物性能が付与されていない状態を想定)
製造例1において使用したメラミン化粧板を、銅を含む溶液(抗微生物剤)の付与を行うことなくそのまま抗微生物部材として使用することとした。
製造例3で得た抗微生物部材は、抗微生物剤を付与していない状態、すなわち表面の銅(I)付着量がゼロの状態を想定している。
【0091】
(製造例4:銅(I)および銅(I)以外の不純物金属を含み、抗微生物性能付与の後、時間経過後を想定)
(1)酢酸銅と塩化亜鉛の濃度がそれぞれ1.75wt%、1.75wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フィルム和光純薬社製)と塩化亜鉛(II)(富士フィルム和光純薬社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅と塩化亜鉛を含む混合水溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)を重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用い、8000rpmで30分撹拌して調製した。
上記1.75wt%酢酸銅、1.75wt%塩化亜鉛の混合水溶液と上記紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗微生物組成物を調製した。
【0092】
(2)ついで、300mm×300mmの大きさの白色光沢メラミン基板上に、3.0g/分の噴出速度で分散媒を含んだ状態で2.29g/mに相当する混合組成物をスプレーガン(アネスト岩田製LPH-50)を用い、0.1MPaのエアー圧力、30cm/secのストローク速度で霧状に散布し、混合組成物の液滴を白色光沢メラミン基板表面に付着させた。
【0093】
(3)この後、白色光沢メラミン基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cmの照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材である白色光沢メラミン基板にその表面の一部が露出するように銅化合物と亜鉛化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗微生物性能を備えた抗微生物部材を得た。
この製造例は、抗微生物剤の付与後、時間が経過して抗微生物部材の表面の銅(I)付着量が減少し、かつ基材などから不純物金属が混入して、亜鉛(II)が共存した状態を想定している。
【0094】
製造例1~4で得た抗微生物部材の抗ウイルス性を、下記(ファージウイルスを用いた抗ウイルス評価)のように評価した。
また、製造例1~4で得た抗微生物部材に選択的銅(I)検知物質を含む溶液を接触させた際の選択的銅(I)検知物質の物性の変化を、下記(バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム水溶液による変色反応とスペクトル測定)のように評価した。
【0095】
(ファージウイルスを用いた抗ウイルス評価)
抗微生物部材における抗ウイルス性を評価するために、JISZ 2801 抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウイルスの接種」に変更した点である。ウイルスを使用することによる変更点についてはすべてJIS L 1922繊維製品の抗ウイルス性試験方法に基づき変更した。測定結果は抗微生物部材についてJIS L 1922付属書Bに基づき、大腸菌への感染能力を失ったファージウイルス濃度をウイルス不活度として表示する。ここで、ウイルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活性化されたウイルスの濃度(ウイルス不活度)を使用し、このウイルス不活度に基づいて抗ウイルス活性値を算出した。
【0096】
以下、手順を具体的に記載する。
(1)抗微生物部材について、当該抗微生物部材を1辺50mm角の正方形に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウイルス液(>10PFU/mL)を0.1mL接種した。試験ウイルス液は10PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用した。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウイルス液を接種した。
(3)接種したウイルスの液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウイルス液を均等に接種させた後、25℃で4時間反応させた。
(4)接種直後または反応後、SCDLP培地9.9mLを加え、ウイルス液を洗い流した。
(5)JIS L 1922付属書Bによってウイルスの感染値を求めた。
(6)以下の計算式を用いて抗ウイルス活性値を算出した。
Mv=Log(Vb/Vc)
Mv::抗ウイルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの4時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の4時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。
得られた抗ウイルス活性値を表1に示した。
【0097】
(バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム水溶液による変色反応とスペクトル測定)
バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム水溶液による変色反応とスペクトル測定の方法の例として、以下の(手順1)、(手順2)、(手順3)又は(手順4)のような方法が挙げられる。それぞれの方法について説明する。
【0098】
(手順1)
(1)指示薬(選択的銅(I)検知物質を含む溶液)の調整
同仁化学研究所製のバソクプロインジスルホン酸二ナトリウムをイオン交換水に溶解させて2重量%のバソクプロインジスルホン酸二ナトリウム水溶液を得た。
【0099】
(2)抗微生物剤と指示薬の反応
抗微生物部材表面にマイクロピペッターで指示薬を20μL付着させた。4cm四方のポリプロピレンフィルムを指示薬の液滴上から被せるように置き、液がポリプロピレンフィルム全体に行き渡るように指で押した。このときポリプロピレンフィルムから液がはみ出さないようにした。ポリプロピレンフィルム全体に指示薬が行き渡ったら、3分間静置した。
【0100】
(3)指示薬の回収と色の変化の観察
上記3分間の静置後、ピンセットを用いてフィルムを剥がした。
このとき液の凝集性を利用し、液が1箇所に集まるようにした。
指示薬を全量マイクロチューブに回収し、指示薬の色の変化を目視で観察した。
目視で観察した指示薬の色を表1に示した。
【0101】
(4)指示薬のスペクトル(光の吸収波長)の変化の測定
マイクロチューブに回収した指示薬を4μL分取して測定用の試料とした。この試料に対して、紫外・可視分光光度計 ナノビュープラス(セントラル科学貿易社製)を用いて、スペクトル解析を行った。
試料の485nmと700nmの吸収ピーク強度の差分(OD485-OD700)、抗ウイルス活性値、全銅付着量、銅(I)付着量、指示薬の色を表1に示した。
【0102】
(手順2)
本手順は、湿式試験紙を使用した指示薬の色の変化の判定方法である。
図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)及び図5(e)は、湿式試験紙を使用した指示薬の色の変化の判定方法の手順を示す写真である。
【0103】
(1)製造例1~4のいずれかで得られた抗微生物部材表面を水で湿らせたティッシュペーパーで拭いて、その後乾いたティッシュペーパーなどで乾拭きを行い、水分を除去する(図5(a))。
【0104】
(2)白色の濾紙を幅1cm、長さ10cmに切り取って試験紙とし、その片側端を手に持ち、反対側の端を指示薬の液に浸漬させる。1cm程度試験紙の端が浸漬した状態で約2秒間維持することで湿式試験紙とする(図5(b))。
指示薬の液に浸漬させる前の白色の濾紙の白色度(Br)は、イルミナントD65を用いて測定された白色度(D65白色度ともいう)である。白色の濾紙の白色度(Br)を、スガ試験機株式会社製 携帯分光測色計 CC-mを用いて測定したところ、91.6であった。
【0105】
(3)指示薬の液(選択的銅(I)検知物質を含む溶液)を含んだ湿式試験紙を製造例1~4のいずれかで得られた抗微生物部材表面に接触させる(図5(c))。
【0106】
(4)5分間放置して呈色反応を進行させる(図5(d))。
【0107】
(5)5分以上経過後、湿式試験紙を抗微生物部材表面から剥がし、湿式試験紙が抗微生物部材表面と接触した面が上になるように湿式試験紙をひっくり返して、湿式試験紙の色を確認する(図5(e))。結果を表2に示した。
【0108】
(手順3)
手順1と同様であるが、製造例1~4のいずれかで得られた抗微生物部材に接触させた指示薬をマイクロチューブに回収する代わりに、当該指示薬を白色の濾紙(幅1cm×長さ10cm)に吸収させて、指示薬の色の変化を目視で観察した。結果を表2に示した。
指示薬を吸収させる前の白色の濾紙の白色度(Br)は、イルミナントD65を用いて測定された白色度(D65白色度ともいう)である。白色の濾紙の白色度(Br)を、スガ試験機株式会社製 携帯分光測色計 CC-mを用いて測定したところ、91.0であった。
【0109】
(手順4)
本手順は、乾式試験紙を用いた指示薬の色の変化の判定方法である。
【0110】
(1)製造例1~4のいずれかで得られた抗微生物部材表面を水で湿らせたティッシュペーパーで拭いて、その後乾いたティッシュペーパーなどで乾拭きを行い、水分を除去する。
【0111】
(2)白色の濾紙を幅1cm、長さ10cmに切り取って試験紙とし、この試験紙を指示薬の液に浸漬させた後、ドライヤーで乾燥させて乾式試験紙とする。
指示薬の液に浸漬させる前の白色の濾紙の白色度(Br)は、イルミナントD65を用いて測定された白色度(D65白色度ともいう)である。白色の濾紙の白色度(Br)を、スガ試験機株式会社製 携帯分光測色計 CC-mを用いて測定したところ、90.5であった。
【0112】
(3)指示薬の液(選択的銅(I)検知物質を含む溶液)を含んだ乾式試験紙を製造例1~4のいずれかで得られた抗微生物部材表面に接触させ、スポイトで純水を滴下する。
【0113】
(4)5分間放置して呈色反応を進行させる。
【0114】
(5)5分以上経過後、試験紙を抗微生物部材表面から剥がし、試験紙が抗微生物部材と接触した面が上になるように試験紙をひっくり返して、試験紙の色を確認する。結果を表2に記載した。
【0115】
(試験例)
(1)指示薬(銅検知物質を含む溶液)の調整
同仁化学社製のPAR(4-[2-ピリジルアゾ]レゾルシノール)を50mg分取し、1Mの水酸化ナトリウム100mLに溶かし、マグネチックスターラーを用い600rpmで2分撹拌し、500mg/LのPAR水溶液を得た。これを蒸留水を用いて、10倍希釈し、50mg/LのPAR水溶液とした。さらに同仁化学社製のEDTA・2Naを380mg/L加え、32%HCLを数滴滴下し、pHを7.0に調整し、指示薬を得た。
【0116】
(2)抗微生物剤と指示薬の反応
製造例1~4のいずれかで得られた抗微生物部材表面にマイクロピペッターで指示薬を20μL付着させた。4cm四方のポリプロピレンフィルムを指示薬の液滴上から被せるように置き、液がポリプロピレンフィルム全体に行き渡るように指で押した。このときポリプロピレンフィルムから液がはみ出さないようにした。ポリプロピレンフィルム全体に指示薬が行き渡ったら、3分間静置した。
【0117】
(3)指示薬の回収と色の変化の観察
上記3分間の静置後、ピンセットを用いてフィルムを剥がした。このとき液の凝集性を利用し、液が1箇所に集まるようにした。
結果を表2に記載した。この試験例では、製造例4の抗微生物部材について、銅(I)の量が少ないにも関わらず、亜鉛(II)の存在のため、橙色に発色してしまう。
このことから、試験例に係る試薬は銅(I)以外の金属イオンが不純物として存在する場合には、抗ウィルス性能について誤判定される可能性がある。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
また、OD485-OD700の値を横軸にとり、抗ウイルス活性値を縦軸に取った検量線、OD485-OD700の値を横軸にとり、銅(I)付着量を縦軸に取った検量線、銅(I)付着量を横軸にとり、抗ウイルス活性値を縦軸に取った検量線をそれぞれ作成した。
図6は、OD485-OD700の値と抗ウイルス活性値の関係を示す検量線であり、図7は、OD485-OD700の値と銅(I)付着量の関係を示す検量線であり、図8は、銅(I)付着量と抗ウイルス活性値の関係を示す検量線である。
【0121】
これらの結果から、抗微生物部材の銅(I)付着量、OD485-OD700の値及び抗ウイルス活性値の間に相関関係があることが分かる。
そのため、選択的銅(I)検知物質の物性の変化として、光の吸収波長の変化、すなわちOD485-OD700の値の変化を測定することにより、抗微生物部材の銅(I)付着量を計測することができる。そして、抗微生物部材の銅(I)付着量に基づき、抗微生物部材の抗ウイルス活性値を計測することができる。
すなわち、抗微生物部材の抗微生物性能を判断することができる。
【0122】
また、選択的銅(I)検知物質の物性の変化として、指示薬の色の変化及び抗微生物部材の表面の色の変化として観察される、選択的銅(I)検知物質の色の変化の観察を行うことにより、抗微生物部材の抗ウイルス活性値を計測することができる。
すなわち、抗微生物部材の抗微生物性能を判断することができる。
【0123】
また、図6図7及び図8に示すような検量線を使用することにより、OD485-OD700の値に基づいて銅(I)付着量及び抗ウイルス活性値を定量的に計測することができる。
そのため、このような検量線を用いることにより、抗微生物部材の抗微生物性能をより正確に判断することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 トイレブース
10 扉
20 床
30 樹脂フィルム
40 選択的銅(I)検知物質を含む溶液
50 選択的銅(I)検知物質との反応後の抗微生物部材の表面
60 枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8