(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036968
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンおよびその誘導体の製造
(51)【国際特許分類】
A61K 8/33 20060101AFI20220301BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20220301BHJP
C07D 307/83 20060101ALI20220301BHJP
A23L 27/20 20160101ALN20220301BHJP
【FI】
A61K8/33
A61Q13/00 101
C07D307/83 CSP
A23L27/20 F
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021187099
(22)【出願日】2021-11-17
(62)【分割の表示】P 2018512996の分割
【原出願日】2016-09-12
(31)【優先権主張番号】62/217,094
(32)【優先日】2015-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/259,269
(32)【優先日】2015-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517257629
【氏名又は名称】ピー2・サイエンス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】P2 Science, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・フォリー
(72)【発明者】
【氏名】ヨンホア・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】タニア・サラム
(57)【要約】 (修正有)
【課題】3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンに由来する、感覚刺激性化合物を提供する。
【解決手段】3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンに由来する、式(I)の化合物、場合により置換されていてよいその誘導体およびその異性体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シアノヒドリン形成を経由して、ヒドロキシケトンからニトリルを含むシアノヒドリン中間体を形成する工程;および、
(b)酸性水溶液の存在下、前記シアノヒドリン中間体の前記ニトリルを加水分解およびラクトン化し、α-ヒドロキシラクトンを形成する工程
を含むα-ヒドロキシラクトンを製造する方法であって、前記α-ヒドロキシルラクトンが3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンである、方法。
【請求項2】
ヒドロキシケトンが1-(2-ヒドロキシ-4-メチル-シクロヘキシル)エタノン)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シアノヒドリン形成が、塩化アンモニウム存在下、シアニド塩水溶液混合物を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記シアニド塩がシアン化ナトリウムまたはシアン化カリウムを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記シアノヒドリン形成中に、非水相との反応を容易にするために相間移動触媒を使用する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記シアノヒドリン中間体の加水分解工程が強酸性水溶液を用いて実施され、該酸性水溶液が濃塩酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンに由来する、式(I)
【化1】
または式(II)
【化2】
から選択される感覚刺激性化合物、場合により置換されていてよいその誘導体およびその異性体。
【請求項8】
式(I)および式(II)の感覚刺激性化合物が芳香製剤を向上させるために使用される、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
式(I)および式(II)の感覚刺激性化合物が風味製剤を向上させるために使用される、請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
α-ヒドロキシラクトンに由来する以下の一般式(III)
【化3】
〔式中、Xはハロゲンである〕
の化合物および/または以下の式(I)の異性体および/またはそのポリマー誘導体。
【請求項11】
Xが塩素である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
(a)以下の式(IV):
【化4】
を有するα-ヒドロキシルラクトン化合物を提供する工程;
(b)前記α-ヒドロキシルラクトン化合物を脱酸素化する工程
を含む感覚刺激性化合物を製造する方法。
【請求項13】
ハロゲン化試薬を用いて前記α-ヒドロキシラクトン化合物をハロゲン化し、その後還元して以下の式(V)
【化5】
および式(VI)
【化6】
を有する異性体の一方または双方を形成させる、請求項13に記載の方法。
【請求項14】
α-ヒドロキシラクトン化合物を、クロロ化し、酸存在下で亜鉛を用いて還元することにより脱酸素化する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸が酢酸である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
塩化チオニルまたは三塩化リンを用いて前記クロロ化を実施する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
以下の式(VII):
【化7】
を有する化合物の異性体または誘導体を製造する方法であって、
(a)塩基存在下で前記化合物を水素化して、以下の式(VIII)~(XI)
【化8】
【化9】
を含む異性体で富化された異性体混合物を得る、
方法
【請求項18】
前記塩基を、水素化中の前記化合物の開環および異性化を促進するために導入する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
以下の式(XII)
【化10】
および式(XIII)
【化11】
を有する異性体の組合せを少なくとも20%有する異性体3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンを含む、感覚刺激性組成物。
【請求項20】
(a)一般式(XIV):
【化12】
を有する化合物を提供する工程;
(b)前記化合物を脱水する工程
を含む、(R)-1-(4-メチルシクロヘキシ-1-エン-1-イル)エタノンを製造する方法。
【請求項21】
前記脱水が酸により触媒される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記酸がカチオン性樹脂である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記脱水を継続的に実施する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記脱水を昇温して実施する、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記温度が80℃~140℃の間である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
(a)一般式(XV):
【化13】
のα-ヒドロキシルラクトンを提供する工程;
(b)前記α-ヒドロキシルラクトンのヒドロキシル基を脱離する工程
を含む、ミントラクトンの製造方法。
【請求項27】
ヒドロキシル基を脱離する工程を、前記α-ヒドロキシルラクトンをハロゲン化し、ハロゲンを脱離することにより実施する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ヒドロキシル基を脱離する工程を、強酸を用いて昇温して実施する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記強酸がリン酸である、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、合衆国法典第35章第119条(e)のもと、2015年9月11日に出願された米国仮出願第62/217,094号および2015年11月24日に出願された米国仮出願第62/259,269の優先権の利益を主張するものである。前記の各特許出願の全体的な開示は、参照により全体に包含させる。
【0002】
発明の分野
本発明は一般に、3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンからのミントラクトンの製造方法に関する。より具体的には、本発明はイソプレゴールからの3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンの製造方法ならびに新たなおよび既存の感覚刺激性化合物を生産するための3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンの誘導化方法に関する。
【背景技術】
【0003】
一般に、ミントラクトンはミント油の天然成分であり、3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンの潜在的な前駆体であり、貴重な風味および香料成分である。Koch(米国特許第6,512,126号)により記載されるような式:
【化1】
を含むヒドロキシメントフロラクトン(I)の水素化および脱離、および式:
【化2】
を含む3-メチルシクロヘキサノン(II)の処理を含むミントラクトンのコスト効率的な生産について、多大な努力がなされている。
【0004】
化合物(II)を、Xiong(中国特許第102,850,309号)により記載されるような水素化ホウ素ナトリウムおよび塩化鉄を含む多段階合成において、ピルビン酸メチルで処理する。これらのアプローチは両方とも実用的であるが、比較的高価な出発物質および試薬(例えばPd/C、NaBH4)を使用する。これらの方法についての別の主な欠点は、これらの方法は光学的富化の高い材料を生成しないことである。シトロネラール(Shishido, et al., Tetrahedron Letters, 33(32), 4589-4592 (1992))およびアルキニルアルデヒド(Gao et al., Journal of Organic Chemistry, 74(6), 2592 (2009))の使用を含むさらなるアプローチが記載されているが、これも経済的な実現可能性に欠ける。
【0005】
天然に存在し、商業的に入手可能なイソプレゴール(III)の使用により、以下の式、スキームAに示すように、安価で商業的に利用可能な試薬を使用して所望の天然の立体化学を全て保持することを可能にするミントラクトン(V)の合成における鍵中間体(IV)を容易に得ることができる。
【化3】
【0006】
イソプレゴール(III)は光学的に純粋なミントラクトンの合成のための出発物質として過去に使用されているが(Chavan et al., Tetrahedron Letters, 49(29), 6429-6436 (1993))、そのアプローチは、ヒドロホウ素化および極低温条件下でのリチウムジイソプロピルアミドを用いた脱プロトン化の使用を含めて、極めてコストが高く商業的な魅力がないという一般的な問題を有していると考えられる。
【0007】
これらの先のアプローチの限界の結果、ミントラクトンおよび3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オン(コウマラクトン(登録商標)としても知られている)のような数種の関連材料は、特に所望の立体配置を有するものを、商業的に得るには極めて高価であり、従ってそれらの使用は制限されている。
【0008】
さらに、ミントラクトンの飽和アナログの特定の異性体は、伝統的経路(Gaudin, Tetrahedron Letters 56(27), 4769-4776 (2000); Gaudin (US 5,464,824))を用いて得ることが困難であり得る。この点において、本明細書に記載の発明はこれらの問題に取り組んでいる。特に、本発明の特定の態様により、化合物(IV)は脱酸素化され、所望の異性体を容易で高収率な方法で直接的に生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先行技術において現在示されている既知のタイプの方法に固有の欠点を考慮して、本発明はミントラクトン、それらの誘導体および関連物質を製造するための改良法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下の記載は、本明細書のいくつかの態様の基本的な理解を提供するために、本明細書の簡略化した概要を開示する。本概要は明細書の広範な概要ではない。それは明細書の鍵となる要素または重要な要素を特定することも、本明細書の範囲の外延を示すことも意図しない。その唯一の目的は、後に開示されるより詳細な説明の前置きをするために、簡略化した形態で明細書のいくつかの概念を開示することである。
【0011】
本明細書には、いくつかは風味および香料成分として有用であり得る化合物、組成物および化合物を生産する方法が記載される。
【0012】
本発明のある態様によって、イソプレゴール(III)をO3で処理して二重結合を開裂させ、亜硫酸ナトリウムまたは任意の適切なクエンチ剤でクエンチし、過酸化物を除去して1-(2-ヒドロキシ-4-メチル-シクロヘキシル)エタノン(VI)を生成させる、ミントラクトン(V)を合成する方法が提供される。本明細書で使用される用語「クエンチする(quenching)」、「クエンチ(quench)」または「クエンチした(quenched)」は、反応を停止させ、中間体生成物を単離または除去できる安定な物質に変換するために、反応性種を分解することを意味することに留意する。このヒドロキシルケトン(VI)はその後、シアン化ナトリウムまたはシアン化カリウム水溶液で、場合により塩化アンモニウムの存在下で処理され、強い酸性水溶液、例えば濃塩酸の存在下で加水分解され、α-ヒドロキシラクトン(IV)を生成し得るシアノヒドリン中間体を生成する。イソプレゴールの他の立体異性体は、対応する形の化合物(IV)を生成させるために同様に使用される。全ての下流の化学反応もまた、イソプレゴールの立体異性体を用いて企図し得る。反応例は以下の式、スキームBにより説明できる。
【化4】
【0013】
化合物(IV)はその後、既知の条件で処理され、アルコールを脱離して光学的に純粋なミントラクトンを生成し(Shishido et al., Tetrahedron Letters, 33(32), 4589-4592 (1992))、その後還元されて光学的に富化した3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンを生成し得る。化合物(IV)はまた、脱酸素化され(例えばハロゲン化および還元により)、光学的に富化した3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンを生成し得る。従って、式(IV)の化合物はミントラクトンを製造するための重要な中間体を表す。
【0014】
別の実施態様において、化合物(IV)はまた、エステル化またはアルキル化により誘導化され、新たな感覚刺激性化合物を製造でき、それらのいくつかは本明細書に記載のものである。
【0015】
別の実施態様において、ミントラクトン(V)はまた、接触水素化条件下、塩基で処理され、異性体の所望の混合物を生成し得る。特に、水素化条件下、塩基でのミントラクトン(V)の処理により、所望の異性体(VII)および(VIII)が生成するが、所望の異性体(IX)および(X)もまた得られ、極めて望ましい嗅覚特性が混合物に付与される。
【0016】
この点において、本発明は以下の式:
【化5】
および/または式(VIII)の化合物
【化6】
および/または式(IX)の化合物
【化7】
および/または式(X)の化合物
【化8】
を有する異性体を提供する。
【0017】
別の実施態様において、化合物(IV)はヒドロキシル位で誘導化され、新たな感覚刺激性化合物(XI)
【化9】
および(XII)
【化10】
を生成する。
【0018】
この点において、化合物(XI)および(XII)は3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンに由来する。化合物(XI)および(XII)はココナッツおよびバターに類似する微かな、甘い、クリーミーな香りを含む。従って、化合物(XI)および(XII)は香料および風味製剤において使用される。
【0019】
特定の実施態様において、化合物(IV)はハロゲン化され、化合物(XIII):
【化11】
〔式中、Xはハロゲンである〕
を提供する。このハライド中間体(XIII)は脱ハロゲン化され、化合物(VII)および(VIII)を提供し得る。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明はミントラクトン、その誘導体および関連物質の産業上利用可能であり、経済的で有利な製造方法に関する。当業者に明らかな種々の変更は、本発明の概念および範囲内であるとみなされる。
【0021】
用語「典型的な」は、例、場合または説明として提供することを意味するために本明細書で使用される。「典型的な」として本明細書に記載されるあらゆる態様または設計は、必ずしも他の態様または設計よりも好ましいまたは有利であるものとして理解されない。むしろ、用語「典型的な」の使用は、具体的な方法における概念を開示することを意図する。本出願で使用される用語「または」は、包括的な「または」ではなく排他的な「または」を意味する。本出願および添付の特許請求の範囲において使用される冠詞「ある(a)」および「ある(an)」は一般的に、特に明記されない限りまたは単一の形態を示す状況から明確でない限り、「1以上」または「少なくとも1つ」と理解されるべきである。さらに、「式」、「化合物」および「構造」は、特に明記されない限り、互換的に使用される。
【0022】
ヒドロキシケトン(VI)を得るためのイソプレゴール(III)のオゾン分解は既知の反応であり、水の存在下、良好な収率で実施できる。しかしながら、驚くべきことに、このβ-ヒドロキシケトンは、塩化アンモニウムの存在下、NaCNまたはKCNのようなシアニド塩で処理したとき、対応するエノンへ容易に脱離しない。むしろこのケトンは環境温度および圧力でシアノヒドリンを良好な収率で形成する。また驚くべきことに、塩化アンモニウムが存在するとき、ストレッカー型の条件(Strecker, Annalen der Chemie und Pharmazie, 91(3), 349-351 (1854))に類似していると予想されるようなアミノ酸を一切形成しない。さらに、このシアノヒドリンは酸性水溶液の存在下で容易に加水分解され、その位置で一見同時の分子内ラクトン化が起こり、化合物(IV)をα-ヒドロキシ位についての立体異性体の混合物として得る。シアノヒドリン形成中、非水層との反応を容易にするために相間移動触媒を使用することに留意する。
【0023】
理論に縛られることを望まないが、反応は化合物(VI)へのシアニド付加を経て進行し、以下の式で示される構造(XIV)により表される中間体を生成する。このニトリル(XIV)はその後対応する酸へ加水分解されるが、所望の化合物への同時の分子ラクトン化を受けても受けなくてもよい。この経路を以下の式、スキームCに示す。
【化12】
【0024】
この独創的な、ニトリルにより補助される増炭およびラクトン化は、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、塩化アンモニウムおよび塩酸のような安価な試薬を用いて既知のヒドロキシケトンを化合物(IV)に変換することを可能にする。得られた後すぐに、化合物(IV)はピリジンのような塩基存在下、トシルクロリド、メシルクロリド、塩化チオニルまたはオキシ塩化リンなどの試薬を用いた脱離を経て脱水され、ミントラクトン(V)を与え得る。加熱、強酸(例えばH2SO4、HBr、HCl、HI)およびラジカルにより補助される脱酸素化のような他の脱離技術もまた、使用され得る。
【0025】
さらに、化合物(V)は、触媒(例えばPd、Ru、Ni、Rh、Cuなど)存在下での水素化、ヒドリド還元剤(例えば、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ジイソプロピルアルミニウム、水素化ナトリウムビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウム(商品名Red-Al(登録商標)として入手可能)を用いたヒドリド還元または酵素的還元のような、あらゆるエノン還元技術を用いて3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンへ還元され得る。本明細書で使用される用語「水素化」は、水素が還元剤である還元反応を意味することに留意する。
【0026】
塩基存在下での水素化は、塩基非存在下での水素化により容易に得ることができない所望の異性体混合物を、予想外に提供できたことに留意するべきである。特に塩基処理、例えばナトリウムメトキシドまたは水酸化ナトリウムを用いた処理は、化合物(V)のより嵩高い面からの水素化をもたらし、恐らく「開環」中間体を経て化合物(VII)
【化13】
および化合物(VIII)
【化14】
をもたらし得る。しかしながら、予期せぬことに、塩基での処理はいくつかの生成物がヒドロキシル炭素の位置-いわゆる炭素7a-で反転することを可能とし、化合物(IX)
【化15】
および化合物(X)
【化16】
をもたらし、これらが混合物に強力なクリーミーなまたはラクトン系の性質を付加する。
【0027】
さらに、式(XVI)
【化17】
および式(XVII)
【化18】
を有する化合物を形成する。
【0028】
次の表1は3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンの異性体混合物の割合を示し、ここで、条件Aはメタノールを溶媒として用いた、室温でラネーニッケル存在下での化合物(V)の水素化であり、そして塩基処理は水素化前に室温で2時間、ナトリウムメトキシド(4.0当量)の存在下、メタノール中での化合物(V)の撹拌である。
【表1】
【0029】
化合物(IV)はまた、直接的に脱酸素化され得て、それにより、化合物(VII)および(VIII)におけるような所望の立体化学の保持が可能となる。例えば、化合物(IV)は塩化チオニル、PCl
3、POCl
3、HCl、シアヌル酸クロリド、PCl
5、SO
2Cl
2、CCl
4、PBr
3、HBr、HIまたは任意の他のハロゲン化試薬のような試薬を用いてハロゲン化され得る。本明細書で使用される用語「ハロゲン化試薬」は、ハロゲン原子により芳香族環系の水素原子をハロゲンに置換することができる化合物を意味する。ハライド中間体はその後、触媒(例えばPd、Ru、Ni、Rh、Cu)存在下での接触水素化を用いることにより、電気分解により、または酢酸のような適切な酸中Znを用いて処理することにより、還元される。スキームDに示すように、これらの変換は段階的にまたは連続して実施される。
【化19】
【0030】
本発明の好ましい実施態様は、化合物(XVIII)を生成させるためのSOCl
2またはPCl
3を用いた化合物(IV)の塩素化、および化合物(VII)および(VIII)を高収率かつ高純度で得るために酢酸中高温(70~100℃)でZnを用いてクロロ化生成物をその後処理することを含む。化合物(VII)および(VIII)は極めて強いラクトンおよびクマリンタイプの芳香を有する、極めて需要の高い香料物質であることに留意するべきである。この反応は以下のスキームEにおいて示される。
【化20】
【0031】
化合物(IV)はさらにヒドロキシル位で誘導化され、感覚刺激性化合物を生成し得る。例えば、化合物(IV)はアセチル化されて以下のスキームFに示される化合物(XI)および(XII)を生成し得る。これらの生成物の混合物はココナッツおよびバターを連想させる微かな、甘い、そしてクリーミーな芳香を有する。同様に望ましい性質を有する可能性が高い他のエステルおよびエーテルもまた製造できることが想定される。
【化21】
【0032】
最後に、ヒドロシアノ化およびその後の加水分解中に形成される主な副生成物は、(R)-1-(4-メチルシクロヘキシ-1-エン-1-イル)エタノンとしても知られる、キラルなエノン(XIX)であることが観察された。
【化22】
【0033】
この共生成物の純度およびキラル合成中間体としてのその潜在的な使用が得られたため、化合物(VI)からの直接的なその製造を探求した。化合物(VI)を高温で、Amberlyst(登録商標)のような酸で処理することにより、優れた変換および純度が得られ得ることが分かった。この経路を以下のスキームGに示す。
【化23】
【0034】
実施例
実施例1:化合物(III)からの化合物(VI)の合成
イソプレゴール(150g、0.97mmol)を水と混合させ、この混合物をオーバーヘッドスターラーおよびガスディフューザを備えたジャケットガラス反応器で10℃に冷却した。反応物が15℃を超えないように注意しながら、O3/O2混合物を反応中5時間バブリングした。出発物質の消費が完了した後、NaHSO3(121g)を0℃で添加し、一晩室温まで昇温させた。水相をその後MTBE(350mLx2)で抽出し、Na2CO3(10%水溶液)で洗浄し、その後Na2SO4で乾燥させ、ろ過し、濃縮した。
これにより138.7gの白色結晶性固体を得て、理論収率は91.3%、概算純度は97.9%であった。1H NMR(CDCl3、500MHz)、δ0.87(d、J=6.5Hz、3H、-CH3)、0.86-0.96(m、2H、-CH2-)、1.16-1.25(m、1H、-CH2-)、1.37-1.44(m、1H、-CH3)、1.62-1.67(m、1H、-CH2-)、1.84-1.91(m、2H、-CH2-)、2.10(s、3H、-CH3)、2.22-2.27(m、1H、-CH-)、3.00(s、ブロード、1H、-OH)、3.71-3.76(m、1H、-CHO-)。
【0035】
実施例2:化合物(VI)からの化合物(IV)の合成
31.2g(20mmol)のヒドロキシケトン(II)、メチルt-ブチルエーテル(100mL)、硫酸水素テトラブチルアンモニウム(0.1g)および飽和NH4Cl水溶液(150mL)を、温度計および250mLの滴下漏斗を備えた500mLの三つ口丸底フラスコに充填した。十分に換気しているフードの中で器具を組み立て、フラスコを氷浴に浸した。温度を15℃以下に保持するように注意しながら、NaCN(19.8g、40mmol)水溶液(100mL)を滴下漏斗により滴下添加した。反応物をこの条件でさらに2時間撹拌した。メチルt-ブチルエーテル(100mL)および水(100mL)を反応混合物に添加し、混合物を分液漏斗に移し、水層を除去した。
有機層を再び水(100mL)で洗浄した。有機層をその後蒸発させ、粗生成物を透明な油状物として得た。生成物をその後80℃~90℃で、HCl(35%)で2時間処理した。反応物をその後H2O(150mL)でクエンチし、Na2CO3(10%)水溶液でpH=5~6まで中性にした。水性混合物を抽出するためにメチルt-ブチルエーテル(250mLx2)を用い、合わせた有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、蒸発させて全ての溶媒を除去した。得られた半固体をヘプタン(50mL)で結晶化させ、即時に白色粉末が形成された。
【0036】
液相をデカンテーションし、固体を再びヘプタン(50mL)で洗浄した。固体を真空下で1時間乾燥させ、生成物を白色固体(22.2g)として得た。水相を硫酸鉄で処理し、廃棄物として別個に保存した。1H-NMRおよび13C-NMRはカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、EtOAc/ヘプタン)によりさらに分離できる2つの異性体が約1:4の比で存在することを示した。
主要異性体:1HNMR(CDCl3、500MHz)、δ0.92(d、J=6.5Hz、3H、-CH3)、0.95-1.01(m、1H、-CH2-)、1.12-1.22(m、2H、-CH2-)、1.22(s、3H、-CH3)、1.46-1.54(m、1H、-CH2-)、1.71-1.74(m、1H、-CH2-)、1.77-1.82(m、1H、-CH2-)、1.84-1.89(m、1H、-CH-)、2.11-2.15(m、1H、-CH-)、3.72(td、J=11Hz、J=4.0Hz、1H、-CHO-)、3.81(s、ブロード、1H、-OH)。13C NMR(125MHz、CDCl3)δ17.5、21.6、22.1、30.9、33.5、38.5、53.4、74.6、79.5、180.3。
【0037】
実施例3:化合物(IV)からの化合物(V)の合成
3.7g(2mmol)のヒドロキシラクトンおよびピリジン(10mL)を水コンデンサーを備えた250mL三つ口丸底フラスコに加えた。撹拌しながらトシルクロリド(5.7g、3mmol)を固体でゆっくりと添加した。反応物をその後120℃で10時間加熱した。反応物をその後室温まで冷却し、水(100mL)を添加し、pH=5~6までHCl(1N)を添加した。メチルt-ブチルエーテル(100mLx2)を用いて混合物を抽出した。合わせた有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、蒸発させて粗生成物として赤色液体を得た。その後クロマトグラフィーにより精製し(シリカゲル、EtOAc/ヘプタン:5~25%)、生成物(2g)を液体として得た。1H NMR(CDCl3、500MHz)、δ0.90-1.06(m、5H、-CH3、-CH2-)、1.65-1.74(m、1H、-CH2-)、1.79-1.80(m、3H、-CH3)、1.91-1.95(m、1H、-CH2-)、2.18(td、J=14Hz、J=5.5Hz、1H、-CH2-)、2.38-2.43(m、1H、-CH2-)、2.78(dt、J=14Hz、J=2.5Hz、1H、-CH-)、4.60(dd、J=11Hz、J=6.0Hz、1H、-CHO-)。
【0038】
実施例4:化合物(IV)からの化合物(VII)および(VIII)の合成
工程1:化合物(IV)からの化合物(XVIII)の合成
室温で、丸底フラスコで化合物(IV)(36.8g、0.2mol)をTHF(500mL)に溶解し、その後SOCl2(47.6g、0.4mol)で処理した。反応物をその後還流させた。20分後、ピリジン(20mL)を反応物にゆっくりと添加した。全ての出発物質が消費されるまで、反応をGCおよびTLCにより約3時間観察した。反応物をその後室温まで冷却し、相が分離するまで水をゆっくりと添加した。有機相を除去し、水相をMTBE(200mL)で2回抽出した。その後有機相を合わせ、水相がpH8になるまで塩基性水溶液で処理した。
相分離後、有機相をNa2SO4で乾燥させ、ろ過し、濃縮し、ヘプタン(3x100mL)でその後結晶化し、以下の1H NMRを有する主要異性体として灰白色固体(22.0g)として化合物(XVI)を得た:1H NMR(CDCl3、500MHz)、δ1.00-1.12(m、4H、-CH2-、-CH3)、1.18-1.25(m、1H、-CH2-)、1.49-1.72(m、6H、-CH2-、-CH3)、1.72-1.87(m、2H、-CH2-)、2.24-2.27(m、1H、-CH-)、4.11-4.18(m、1H、-CHO-)。13C NMR(125MHz、CDCl3)δ21.9、22.9、23.8、31.0、33.4、37.8、55.5、65.6、80.2、173.9。
【0039】
工程2:化合物(XVIII)からの化合物(VII)および(VIII)の合成
化合物(XVI)(22.0g、108.5mmol)を酢酸に溶解し(62ml)、マグネティックスターラーを備えた丸底フラスコで80℃に昇温した。亜鉛粉末(14g、217mmol)を溶液にゆっくりと添加した。GCおよびTLCが出発原料の完全な消費を示すまで、反応物を2時間撹拌した。反応物を室温まで冷却し、水で希釈し(200mL)、MTBE(2x150mL)で抽出した。水相が塩基性になるまで、合わせた有機相を10重量% Na2CO3水溶液で処理した。有機相を分離し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過および濃縮し、18.8gの粗製の固体を得た。この固体をその後冷却したヘプタンを用いて結晶化させ、ろ過し、主要異性体として9.0gの(VII)の白色結晶および少量異性体として(VIII)を得た。
次の1H NMRを有する主要異性体(約95%)を得た:1H NMR(CDCl3、500MHz)、δ0.97-1.15(m、4H、-CH-、-CH3)、1.13-1.27(m、5H、-CH2-、-CH3)、1.39-1.47(m、1H、-CH2-)、1.56-1.63(m、1H、-CH2-)、1.76-1.79(m、1H、-CH2-)、1.88-.191(m、1H、-CH-)、2.17-2.25(m、2H、-CH2-)、3.69-3.75(m、1H、-CHO-)。13C NMR(125MHz、CDCl3)δ12.4、21.9、26.6、31.3、34.1、38.2、41.3、51.4、82.3、179.3。
【0040】
実施例5:化合物(IV)からの化合物(XI)および(XII)の合成
マグネティックスターラーおよびラバーセプタムを備えた丸底フラスコで、化合物(IV)(5g、27mmol)をN,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.33g、2.7mmol)および100mLのテトラヒドロフラン(THF)と混合した。シリンジを用いて無水酢酸(4.2mL、44mmol)を滴下添加した。GC FID分析により反応が完了したとき、0.8mLのH2Oを添加して、残りの無水物をクエンチし、その後さらに10mLのH2Oを添加した。その後ロータリーエバポレーターを用いて混合物からTHFを除去し、pH=8まで10% Na2CO3水溶液を添加した。水性の混合物をその後酢酸エチルで抽出し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、濃縮して5.9gの有機残渣を得た。
この残渣をその後、シリカクロマトグラフィーを用いて精製した。ヘプタン中8~15% 酢酸エチルの溶媒系を溶出液として使用し2つの主生成物を得た。
次の1H NMRを有する主要異性体として一方の化合物を得た:1H NMR(CDCl3、500MHz)、δ1.01(d、J=6.5Hz、3H、-CH3)、1.01-1.08(m、1H、-CH2-)、1.26-1.40(m、2H、-CH2-)、1.41(s、3H、-CH3)、1.55-1.61(m、1H、-CH2-)、1.79-1.88(m、2H、-CH2-)、2.08(s、3H、-CH3)、2.25(dt、J=11Hz、J=1.0Hz、1H、-CH-)、2.65-2.70(m、1H、-CH-)、3.78(td、J=11Hz、J=3.5Hz、1H、-CHO-)。
【0041】
実施例6:化合物(VI)からの化合物(XIX)の合成
4.6gのAmberlyst(登録商標)15触媒を充填した230g(1.47mol)の化合物(VI)のトルエン(500mL)溶液を、水を除去するためのDean Stark装置を備えた丸底フラスコに充填した。全ての水の生成が停止していると考えられるまで、混合物を80~140℃(その間の全ての範囲および部分範囲を含む)、好ましくは110~130℃で7時間加熱した。いくつかの実施態様において、脱水は継続的に実施した。その後Amberlyst(登録商標)をろ過し、トルエンを除去した。単離した残渣を1.0ミリバール付近および65~70℃(ヘッド温度42~48℃)で加熱し、純度>97%の所望の生成物(173.2g)、(R)-1-(4-メチルシクロヘキシ-1-エン-1-イル)エタノン(すなわち、化合物(XIX))を得た:1H NMR(CDCl3、500MHz)、δ0.97(d、J=6.5Hz、3H、-CH3)、1.13-1.21(m、1H、-CH2-)、1.61-1.67(m、1H、-CH2-)、1.80-1.88(m、1H、-CH2-)、2.05-2.14(m、1H、-CH2-)、2.27(s、3H、-CH3)、2.30-2.45(m、2H、-CH2-)、6.85(m、1H、-CH=C)。
以下の1H NMRを有する第2の少量異性体を得た:1H NMR(CDCl3、500MHz)、δ1.02(d、J=6.5Hz、3H、-CH3)、1.00-1.08(m、1H、-CH2-)、1.13-1.20(m、1H、-CH2-)、1.28-1.36(m、1H、-CH2-)、1.61(s、3H、-CH3)、1.57-1.63(m、2H、-CH2-)、1.82-1.86(m、1H、-CH2-)、1.89-1.93(m、1H、-CH-)、2.06(s、3H、-CH3)、2.24-2.28(m、1H、-CH-)、4.13-4.19(m、1H、-CHO-)。
【0042】
従って、本発明は最も実用的かつ好ましいと考えられる実施態様において示され、記載されていると考える。しかしながら、本発明の範囲内で逸脱する可能性があること、および当業者に明らかな変更が行われることが認識される。また上記について、大きさ、物質、形、形態、機能ならびに操作、組立ておよび使用方法を含む本発明の一部との最適な次元的関係は当業者にとって容易に明らかかつ明白であると考えられ、図に示される関係および明細書に記載される関係と同等の関係は全て、本発明により包含されることを意図する。
【0043】
従って、前記は本発明の原則としてのみ例示的であると考えられる。さらに、多くの修正および変更が当業者により容易に実施されるため、本発明を、示され、記載される正確な構築および操作に限定することを望んでおらず、従って、全ての適切な修正物および均等物は、本発明の範囲内に入ると再分類され得る。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ-3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンに由来する、式(I)
【化1】
または式(II)
【化2】
から選択される感覚刺激性化合物、場合により置換されていてよいその誘導体およびその異性体。
【請求項2】
式(I)および式(II)の感覚刺激性化合物が芳香製剤を向上させるために使用される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(I)および式(II)の感覚刺激性化合物が風味製剤を向上させるために使用される、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
α-ヒドロキシルラクトンに由来する以下の一般式(III)
【化3】
〔式中、Xはハロゲンである〕
の化合物および/または以下の式(I)の異性体および/またはそのポリマー誘導体。
【請求項5】
Xが塩素である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
以下の式(XII)
【化4】
および式(XIII)
【化5】
を有する異性体の組合せを少なくとも20%有する異性体3,6-ジメチルヘキサヒドロベンゾフラン-2-オンを含む、感覚刺激性組成物。
【外国語明細書】