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特開2022-36977低減されたポリソルベート分解を有する製剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036977
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】低減されたポリソルベート分解を有する製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/26 20060101AFI20220301BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20220301BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220301BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220301BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K47/40
A61K9/08
A61K47/42
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021188331
(22)【出願日】2021-11-19
(62)【分割の表示】P 2018534668の分割
【原出願日】2016-12-28
(31)【優先権主張番号】62/272,965
(32)【優先日】2015-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】コノリー, ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ハンバーグ, リディア
(72)【発明者】
【氏名】ホルツ, エミリー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】薬学的製剤中のポリソルベートの分解を低減する方法を提供する。
【解決手段】方法は、シクロデキストリンをポリソルベートを含む水性製剤中に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比が、約37.5:1超である。好ましくは、ポリソルベートが、ポリソルベート20またはポリソルベート80であり、さらに好ましくは、シクロデキストリンが、HP-βシクロデキストリン、HP-γシクロデキストリン、またはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法であって、前記方法が、シクロデキストリンを前記製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比が、約37.5:1超である、前記方法。
【請求項2】
ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法であって、前記方法が、シクロデキストリンを前記製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比が、約37.5:1超であり、前記製剤が、約0.005%~0.4%のポリソルベートを含む、前記方法。
【請求項3】
ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法であって、前記方法が、約0.01%~30%の濃度までシクロデキストリンを前記製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比が、約37.5:1超であり、前記製剤が、約0.005%~0.4%のポリソルベートを含む、前記方法。
【請求項4】
ポリソルベートを含む水性製剤中の顕微鏡で見える粒子及び可視の粒子の量を低減する方法であって、シクロデキストリンを前記製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比が、約37.5:1超である、前記方法。
【請求項5】
ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解産物を脱凝集し、可溶化する方法であって、前記方法が、シクロデキストリンを前記製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比が、約37.5:1超である、前記方法。
【請求項6】
前記ポリソルベートが、ポリソルベート20またはポリソルベート80である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記シクロデキストリンが、HP-βシクロデキストリン、HP-γシクロデキストリン、またはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記製剤中のポリソルベートの濃度が、約0.01%~0.4%の範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記製剤中のポリソルベートの濃度が、約0.01%~0.1%の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記製剤中のポリソルベートの濃度が、約0.02%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記製剤中のシクロデキストリンの濃度が、約0.5~30%の範囲である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記製剤中のシクロデキストリンの濃度が、約15%である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリソルベート分解が、約50%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%低減される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
1mL当たり約1,000、約750、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径約2ミクロン超のポリソルベート粒子が形成される、請求項1~4または6~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記製剤が、約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、または少なくとも約24ヶ月間安定している、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記製剤が、約1℃~約10℃で少なくとも約48ヶ月間安定している、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記製剤が、約2℃~約8℃で少なくとも約48ヶ月間安定している、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記製剤が、ポリペプチドをさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリペプチドが、抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、または抗体断片である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記製剤中のポリペプチド濃度が、約1mg/mL~約250mg/mLである、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記製剤が、約4.5~約7.0のpHを有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記製剤が、約4.5~約6.0のpHを有する、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記製剤が、約6.0のpHを有する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記製剤が、安定剤、緩衝液、界面活性剤、及び張性剤(tonicity agent)からなる群から選択される1つ以上の賦形剤をさらに含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記製剤が、対象への投与に好適な薬学的製剤である、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記製剤が、対象への静脈内、皮下、筋肉内、または硝子体内投与に好適な薬学的製剤である、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ポリソルベートと、シクロデキストリンと、を含む水性製剤であって、前記製剤が、約1℃~約10℃で少なくとも約6ヶ月間保管されており、前記製剤中の初期のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比が、少なくとも約37.5:1であり、前記製剤中のポリソルベートの量が、前記製剤中のポリソルベートの初期量の少なくとも約80%である、前記製剤。
【請求項29】
ポリソルベートと、シクロデキストリンと、を含む水性製剤であって、前記製剤が、約1℃~約10℃で少なくとも約6ヶ月間保管されており、前記製剤中のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比が、少なくとも約37.5:1であり、約1%未満の前記ポリソルベートが分解されている、前記製剤。
【請求項30】
前記シクロデキストリンが、HP-βシクロデキストリン、HP-γシクロデキストリン、またはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンである、請求項28または29に記載の製剤。
【請求項31】
前記製剤中のポリソルベートの濃度が、約0.01%~0.4%の範囲である、請求項28~30のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項32】
前記製剤中のポリソルベートの濃度が、約0.01%~0.1%の範囲である、請求項28~31のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項33】
前記製剤中のポリソルベートの濃度が、約0.02%である、請求項28~32のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項34】
前記製剤中のシクロデキストリンの濃度が、約0.5~30%の範囲である、請求項28~33のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項35】
前記製剤中のシクロデキストリンの濃度が、約15%である、請求項28~34のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項36】
前記ポリソルベート分解が、約50%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%低減される、請求項28~35のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項37】
1mL当たり約1,000、約750、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径約2ミクロン超のポリソルベート粒子が形成される、請求項28~36のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項38】
前記製剤が、ポリペプチドをさらに含む、請求項28~37のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項39】
前記ポリペプチドが、抗体である、請求項38に記載の製剤。
【請求項40】
前記抗体が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、または抗体断片である、請求項39に記載の製剤。
【請求項41】
前記製剤中のポリペプチド濃度が、約1mg/mL~約250mg/mLである、請求項38~40のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項42】
前記製剤が、約2℃~約8℃で少なくとも約6ヶ月間安定している、請求項28~41のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項43】
前記製剤が、約1℃~約10℃で少なくとも約48ヶ月間安定している、請求項28~42のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項44】
前記製剤が、約2℃~約8℃で少なくとも約48ヶ月間安定している、請求項28~43のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項45】
前記製剤が、約4.5~約7.0のpHを有する、請求項28~44のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項46】
前記製剤が、約4.5~約6.0のpHを有する、請求項28~45のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項47】
前記製剤が、約6.0のpHを有する、請求項28~46のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項48】
前記製剤が、安定剤、緩衝液、界面活性剤、及び張性剤からなる群から選択される1つ以上の賦形剤をさらに含む、請求項28~47のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項49】
前記製剤が、対象への投与に好適な薬学的製剤である、請求項28~48のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項50】
前記製剤が、対象への静脈内、皮下、筋肉内、または硝子体内投与に好適な薬学的製剤である、請求項28~49のいずれか一項に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年12月30日出願の米国仮出願第62/272,965号の利益を主張するものであり、この内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、シクロデキストリン及びポリソルベートを含む水性薬学的製剤、ならびにポリソルベート分解を低減し、ポリソルベート分解産物を脱凝集し、可溶化するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
薬学的製剤は一般的に、ポリソルベート20及び80(PS20及びPS80)、つまり、親水性ポリオキシエチレン頭部基及び疎水性脂肪酸尾部からなる非イオン性界面活性剤を含有する。界面活性剤の製剤への添加により、誘導表面変性及び凝集からタンパク質を保護する(Geisen,Diabetologia27:212-218(1984);Wang,Int.J.Pharm.289:1-30(2005))。タンパク質の凝集は、原薬(DS)及び薬品(DP)の加工中、長期間の保管中、輸送中、及び投与中に起こり得る(Cromwell et al.,AAPS J.8:E572-E579(2006))。界面活性剤(例えば、PS20)の添加により、濾過中(Maa et al.,J.Pharm.Sci.87:808-812(1998)、Maa et al.,Biotechnol.Bioeng.50:319-328(1996))、攪拌中(Liu et al.,J.Pharm.Sci.102:2460-2470(2013))、冷凍-解凍中(Kreilgaard et al.,J.Pharm.Sci.87:1597-1603(1998)、Hillgren et al.,Int.J.Pharm.237:57-69(2002))、凍結乾燥中(Carpenter,Protein Sci.13:54-54(2004)、Carpenter et al.,Pharm.Res.14:969-975(1997))、再構成中(Webb et al.,J.Pharm.Sci.91:543-558(2002))、投与中(Kumru et al.,J.Pharm.Sci.101:3636-3650(2012))、及び保管中にタンパク質に負荷をかけ得る界面相互作用が最小限に抑えられ得ることが示されている。
【0004】
加工中、長期間の保管中、及び投与中に活性薬学的有効成分(API)を確実に安定させるためには、ポリソルベート分解を防止することが重要である。しかしながら、PS20は、加水分解性及び酸化経路を介して分解の影響を受けやすい(Kumru,et al.,J.Pharm.Sci.101:3636-3650(2012)、Mahler et al.,Abstr Pap Am Chem S.239:(2010))。
【0005】
ポリソルベートの酸化分解は、十分に特性化されており、かつ広く研究されている(Kerwin,J.Pharm.Sci.97:2924-2935(2008)、Kishore et al.,J.Pharm.Sci.100:721-731(2011))。酸化は典型的には、(1)エチレンオキシド基の自動酸化、及び(2)不飽和の部位におけるラジカル酸化という2つの機構の状況下で起こる(Kishore et al.,J.Pharm.Sci.100:721-731(2011))。ポリソルベートの酸化分解が観察されているが、PS20酸化は、抗酸化剤(例えば、メチオニン)と共製剤化することによりタンパク質製剤中で軽減され得ることが示されている。アミノ酸残基の酸化を防止するために、トリプトファンを含有する製剤も開発されている(US2014/0322203、US2014/0314)酸化及びポリソルベートの加水分解性分解経路は、特有の分解産物プロファイルにより区別可能である。ポリソルベートの加水分解性分解は、主に脂肪酸を産生し、ポリソルベートの酸化分解は、ペルオキシド、アルデヒド、酸、キートン(keytone)、n-アルカン、脂肪酸エステル、及び他の分解産物を含むより多様な分解産物を産生する(Ravuri et al.,Pharm.Res.28:1194-1210(2011))。
【0006】
PS20を分解する2,2’-アゾビスイソブチラミジニウム(AAPH)を使用するポリソルベートの酸化分解のための応力モデルが、既に記載されている(Borisov et al.,J.Pharm.Sci.104:1005-1018(2015))。類似の手法を使用して、関連する条件下でポリソルベートの酸化分解を低減する製剤を開発するために代表的な応力モデルが使用され得る。
【0007】
精製されたエステラーゼ(例えば、ブタ肝臓エステラーゼなど)及びリパーゼ(例えば、ツイーナーゼなど)を使用する加水分解のための応力モデルが、既に記載されている(Labrenz,J.Pharm..Sci.103L2268-2277(2014))。類似の手法を使用して、代表的な応力モデルが、関連する条件下でポリソルベートの触媒性分解を低減する製剤を開発するために使用され得る。
【0008】
近年、モノクローナル抗体(mAb)製剤中のポリソルベートの酵素分解が報告されている。例えば、Labrenzは、CHO由来mAb製剤中で観察されたポリソルベート80(PS80)分解を、PS20分解プロファイルに基づいて、一般的な生物製剤加水分解機構よりむしろ特定の酵素機構に起因するとした(Labrenz et al.,J.Pharm.Sci.103:2268-2277(2014))。CHO細胞ゲノムの配列決定により、ポリソルベートを分解することができる様々な宿主細胞タンパク質(HCP)(例えば、リパーゼ)が特定されている(S.Hammond et al.,Biotech.Bioeng.109:1353-1356(2012))。その後、Leeらが、特定のHCPの発現を低減することにより、対照の試料に対して、PS80の加水分解が実質的に低減したことを示した。これら最近の発見は、生物製剤製造に伴うリパーゼが、上流工程において発現されることを確立する。下流精製工程(例えば、タンパク質A)は、HCPを除去することができるが、いくつかのHCPは、類似の特性を有し、故に、原薬及び薬品中に微量に保持されるAPI分子と共精製され得ることが示されている(K.Lee,et al.,A Chinese Hamster Ovary Cell Host Cell Protein That Impacts PS-80 Degradation.AccBio Conference(2015)。恐らく、高活性を有するリパーゼは、検出不能なレベルでも著しいポリソルベート分解をもたらし得る。低減されたリパーゼ発現を有する細胞を操作すること、及び下流工程ステップ(例えば、クロマトグラフィー)を通して、タンパク質薬物からリパーゼを特定し、除去するための多くの努力が行われている。しかしながら、PS20及びPS80の酵素分解は、生物学的製剤開発において著しい課題を残し、PS20の加水分解性分解または触媒性分解を低減するための最適な製剤を特定するための著しい努力は報告されていない。
【0009】
ポリソルベート分解は、タンパク質薬物製剤の安定性及び貯蔵寿命に影響を与え得る多くの結果を有する。ポリソルベート分解物は、溶液中に可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子の形成をもたらし得る乏しい可溶性脂肪酸を含む。PS20の損失により、タンパク質製剤に対するPS20の保護効果も低減し得る。加えて、添加研究は、PS20関連分解物のうちのいくつかが、タンパク質薬物の安定性に影響を与え得ることを裏付けたが、薬学関連条件下では影響を与えないことが観察された(Kishore et al.,Pharm.Res.28:1194-1210(2011)。
【0010】
ポリソルベート分解を低減する方法が必要とされており、この方法により、製剤(例えば、ポリペプチド)上のポリソルベートの保護効果は時間が経過しても維持される。これにより、加工中、長期間の保管中、及び投与中においてより安定したポリペプチド製剤がもたらされ、ついては、ポリペプチド製剤の貯蔵寿命を延ばし、分解及び期限切れ製剤による無駄が低減されることになる。
【0011】
特許出願及び公報を含む、本明細書に引用される全ての参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれている。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法を提供し、本方法は、シクロデキストリンを製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの態様において、本発明は、ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法を提供し、本方法は、シクロデキストリンを製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超であり、製剤は、約0.005%~0.4%のポリソルベートを含む。いくつかの態様において、本発明は、ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法を提供し、本方法は、約0.01%~30%の濃度までシクロデキストリンを製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超であり、製剤は、約0.005%~0.4%のポリソルベートを含む。いくつかの態様において、本発明は、ポリソルベートを含む水性製剤中の顕微鏡で見える粒子及び可視の粒子の量を低減する方法を提供し、シクロデキストリンを製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超であり、製剤は、ポリソルベート及びポリペプチドを含む。いくつかの態様において、本発明は、シクロデキストリンを製剤に添加することを含む、水性製剤中のポリソルベート分解産物を脱凝集し、可溶化する方法を提供し、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超であり、製剤は、ポリソルベート及びポリペプチドを含む。
【0013】
上記の態様のいくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート20またはポリソルベート80である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、HP-βシクロデキストリン、HP-γシクロデキストリン、またはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンである。いくつかの実施形態において、製剤中のポリソルベートの濃度は、約0.01%~0.4%の範囲である。いくつかの実施形態において、製剤中のポリソルベートの濃度は、約0.01%~0.1%の範囲である。いくつかの実施形態において、製剤中のポリソルベートの濃度は、約0.02%である。いくつかの実施形態において、製剤中のシクロデキストリンの濃度は、約0.5~30%の範囲である。いくつかの実施形態において、製剤中のシクロデキストリンの濃度は、約15%である。
【0014】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、ポリソルベート分解は、約50%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%低減される。いくつかの実施形態において、1mL当たり約1,000、約750、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径約2ミクロン超のポリソルベート粒子が形成される。
【0015】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、製剤は、ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、抗体である。いくつかの実施形態において、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、または抗体断片である。いくつかの実施形態において、製剤中のポリペプチド濃度は、約1mg/mL~約250mg/mLである。
【0016】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、製剤は、約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、または少なくとも約24ヶ月間安定している。いくつかの実施形態において、製剤は、約1℃~約10℃で少なくとも約48ヶ月間安定している。いくつかの実施形態において、製剤は、約2℃~約8℃で少なくとも約48ヶ月間安定している。
【0017】
いくつかの実施形態において、製剤は、約4.5~約7.0のpHを有する。いくつかの実施形態において、製剤は、約4.5~約6.0のpHを有する。いくつかの実施形態において、製剤は、約6.0のpHを有する。
【0018】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、製剤は、安定剤、緩衝液、界面活性剤、及び張性剤(tonicity agent)からなる群から選択される1つ以上の賦形剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、製剤は、対象への投与に好適な薬学的製剤である。いくつかの実施形態において、製剤は、対象への静脈内、皮下、筋肉内、または硝子体内投与に好適な薬学的製剤である。
【0019】
いくつかの態様において、本発明は、ポリペプチドと、ポリソルベートと、シクロデキストリンと、を含む水性製剤を提供し、製剤は、約1℃~約10℃で少なくとも約6ヶ月間保管されており、製剤中の初期のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、少なくとも約37.5:1であり、製剤中のポリソルベートの量は、製剤中のポリソルベートの初期量の少なくとも約80%である。いくつかの態様において、本発明は、ポリペプチドと、ポリソルベートと、シクロデキストリンと、を含む水性製剤を提供し、製剤は、約1℃~約10℃で少なくとも約6ヶ月間保管されており、製剤中のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、少なくとも約37.5:1であり、約1%未満のポリソルベートが分解されている。
【0020】
上記の態様のいくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、HP-βシクロデキストリン、HP-γシクロデキストリン、またはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンである。いくつかの実施形態において、製剤中のポリソルベートの濃度は、約0.01%~0.4%の範囲である。いくつかの実施形態において、製剤中のポリソルベートの濃度は、約0.01%~0.1%の範囲である。いくつかの実施形態において、製剤中のポリソルベートの濃度は、約0.02%である。いくつかの実施形態において、製剤中のシクロデキストリンの濃度は、約0.5~30%の範囲である。いくつかの実施形態において、製剤中のシクロデキストリンの濃度は、約15%である。
【0021】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、ポリソルベート分解は、約50%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%低減される。いくつかの実施形態において、1mL当たり約1,000、約750、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径約2ミクロン超のポリソルベート粒子が形成される。
【0022】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、製剤は、約2℃~約8℃で少なくとも約6ヶ月間安定している。いくつかの実施形態において、製剤は、約1℃~約10℃で少なくとも約48ヶ月間安定している。いくつかの実施形態において、製剤は、約2℃~約8℃で少なくとも約48ヶ月間安定している。
【0023】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、製剤は、ポリペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、抗体である。いくつかの実施形態において、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、または抗体断片である。製剤中のポリペプチド濃度は、約1mg/mL~約250mg/mLである。
【0024】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、製剤は、約4.5~約7.0のpHを有する。いくつかの実施形態において、製剤は、約4.5~約6.0のpHを有する。いくつかの実施形態において、製剤は、約6.0のpHを有する。
【0025】
上記の態様及び実施形態のいくつかの実施形態において、製剤は、安定剤、緩衝液、界面活性剤、及び張性剤からなる群から選択される1つ以上の賦形剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、製剤は、対象への投与に好適な薬学的製剤である。いくつかの実施形態において、製剤は、対象への静脈内、皮下、筋肉内、または硝子体内投与に好適な薬学的製剤である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】40℃で24時間、賦形剤不含(対照)、15%(w/v)のスクロース、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有する5mMのAAPHで酸化された試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図2】0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDの両方を有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中でCandida AntarticaリパーゼB(黒色)、リポタンパク質リパーゼ(灰色)、及びウサギ肝臓エステラーゼ(白色)酵素を使用して消化された試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図3A】0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中でCandida AntarcticaリパーゼB(黒色)、リポタンパク質リパーゼ(灰色)、及びウサギ肝臓エステラーゼ(白色)酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された、≧2μM(図3A)、≧5μM(図3B)、≧10μM(図3C)、及び≧25μM(図3D)の1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図3B】0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中でCandida AntarcticaリパーゼB(黒色)、リポタンパク質リパーゼ(灰色)、及びウサギ肝臓エステラーゼ(白色)酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された、≧2μM(図3A)、≧5μM(図3B)、≧10μM(図3C)、及び≧25μM(図3D)の1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図3C】0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中でCandida AntarcticaリパーゼB(黒色)、リポタンパク質リパーゼ(灰色)、及びウサギ肝臓エステラーゼ(白色)酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された、≧2μM(図3A)、≧5μM(図3B)、≧10μM(図3C)、及び≧25μM(図3D)の1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図3D】0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中でCandida AntarcticaリパーゼB(黒色)、リポタンパク質リパーゼ(灰色)、及びウサギ肝臓エステラーゼ(白色)酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された、≧2μM(図3A)、≧5μM(図3B)、≧10μM(図3C)、及び≧25μM(図3D)の1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図4】室温で5時間、15μg/mLのPPLを使用して消化された、0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有する0.02%(w/v)のPS80を含有するタンパク質不含試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS80の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図5A】0.02%(w/v)のPS80、ならびに0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で5時間、15μg/mLのPPLを使用して消化された試料に関して、(図5A)≧1.4μM、(図5B)≧2μM、(図5C)≧5μM、(図5D)≧10μM、(図5E)≧15μM、及び(図5F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図5B】0.02%(w/v)のPS80、ならびに0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で5時間、15μg/mLのPPLを使用して消化された試料に関して、(図5A)≧1.4μM、(図5B)≧2μM、(図5C)≧5μM、(図5D)≧10μM、(図5E)≧15μM、及び(図5F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図5C】0.02%(w/v)のPS80、ならびに0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で5時間、15μg/mLのPPLを使用して消化された試料に関して、(図5A)≧1.4μM、(図5B)≧2μM、(図5C)≧5μM、(図5D)≧10μM、(図5E)≧15μM、及び(図5F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図5D】0.02%(w/v)のPS80、ならびに0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で5時間、15μg/mLのPPLを使用して消化された試料に関して、(図5A)≧1.4μM、(図5B)≧2μM、(図5C)≧5μM、(図5D)≧10μM、(図5E)≧15μM、及び(図5F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図5E】0.02%(w/v)のPS80、ならびに0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で5時間、15μg/mLのPPLを使用して消化された試料に関して、(図5A)≧1.4μM、(図5B)≧2μM、(図5C)≧5μM、(図5D)≧10μM、(図5E)≧15μM、及び(図5F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図5F】0.02%(w/v)のPS80、ならびに0%(w/v)のHP-β-CD及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で5時間、15μg/mLのPPLを使用して消化された試料に関して、(図5A)≧1.4μM、(図5B)≧2μM、(図5C)≧5μM、(図5D)≧10μM、(図5E)≧15μM、及び(図5F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図6】時間の関数として、15%(w/v)のスクロース(円)、HP-α-CD(ひし形)、及びHP-β-CD(三角)を含有するタンパク質不含試料中で、室温で15μg/mLのPPL酵素を用いて消化された試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図7】賦形剤不含(対照)、15%(w/v)のスクロース、1%(w/v)のメチオニン、15%(w/v)のPEG1500、15%(w/v)のPVP、15%(w/v)のHP-α-CD、15%(w/v)のHP-β-CD、15%(w/v)のSBE-β-CD、及び15%(w/v)のHP-γ-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図8A】賦形剤不含(対照)、15%(w/v)のスクロース、1%(w/v)のメチオニン、15%(w/v)のPEG1500、15%(w/v)のPVP、15%(w/v)のHP-α-CD、15%(w/v)のHP-β-CD、15%(w/v)のSBE-β-CD、及び15%(w/v)のHP-γ-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された、≧2μM(図8A)、≧5μM(図8B)、≧10μM(図8C)、及び≧25μM(図8D)の1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図8B】賦形剤不含(対照)、15%(w/v)のスクロース、1%(w/v)のメチオニン、15%(w/v)のPEG1500、15%(w/v)のPVP、15%(w/v)のHP-α-CD、15%(w/v)のHP-β-CD、15%(w/v)のSBE-β-CD、及び15%(w/v)のHP-γ-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された、≧2μM(図8A)、≧5μM(図8B)、≧10μM(図8C)、及び≧25μM(図8D)の1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図8C】賦形剤不含(対照)、15%(w/v)のスクロース、1%(w/v)のメチオニン、15%(w/v)のPEG1500、15%(w/v)のPVP、15%(w/v)のHP-α-CD、15%(w/v)のHP-β-CD、15%(w/v)のSBE-β-CD、及び15%(w/v)のHP-γ-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された、≧2μM(図8A)、≧5μM(図8B)、≧10μM(図8C)、及び≧25μM(図8D)の1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図8D】賦形剤不含(対照)、15%(w/v)のスクロース、1%(w/v)のメチオニン、15%(w/v)のPEG1500、15%(w/v)のPVP、15%(w/v)のHP-α-CD、15%(w/v)のHP-β-CD、15%(w/v)のSBE-β-CD、及び15%(w/v)のHP-γ-CDを有する0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された、≧2μM(図8A)、≧5μM(図8B)、≧10μM(図8C)、及び≧25μM(図8D)の1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図9】賦形剤不含(対照)、15%(w/v)のSBE-β-CD、15%(w/v)のHP-α-CD、15%(w/v)のHP-β-CD、15%(w/v)のHP-γ-CD、及び15%(w/v)のスクロースを有する0.02(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中で、Candida AntarcticaリパーゼBを使用して消化された試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図10A】PS-20の酵素分解の結果として産生された既存の粒子の再可溶化を評価するために、様々な賦形剤(HP-α-CD、HP-β-CD、HP-γ-CD、SBE-β-CD、PVP、PEG1500、スクロース、及びメチオニン)を添加した後、試料に関して、HIACにより決定された(図10A)≧2μM、及び(図10B)≧5μMの1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図10B】PS-20の酵素分解の結果として産生された既存の粒子の再可溶化を評価するために、様々な賦形剤(HP-α-CD、HP-β-CD、HP-γ-CD、SBE-β-CD、PVP、PEG1500、スクロース、及びメチオニン)を添加した後、試料に関して、HIACにより決定された(図10A)≧2μM、及び(図10B)≧5μMの1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示する。
図11A】15μg/mLのPPL酵素を使用して室温で4.5時間酵素消化することにより生成されたPS20関連粒子を含む、15.0%(w/v)のHP-β-CDの添加前(図11A)、添加後(図11B)のバイアルを表示する。15%(w/v)のHP-β-CDの添加後、可視の粒子は存在しない。
図11B】15μg/mLのPPL酵素を使用して室温で4.5時間酵素消化することにより生成されたPS20関連粒子を含む、15.0%(w/v)のHP-β-CDの添加前(図11A)、添加後(図11B)のバイアルを表示する。15%(w/v)のHP-β-CDの添加後、可視の粒子は存在しない。
図12A】5℃で27ヶ月間保管された0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中の、HIACにより決定された、(図12A)≧1.4μM、(図12B)≧2μM、(図12C)≧5μM、(図12D)≧10μM、(図12E)≧15μM、及び(図12F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図12B】5℃で27ヶ月間保管された0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中の、HIACにより決定された、(図12A)≧1.4μM、(図12B)≧2μM、(図12C)≧5μM、(図12D)≧10μM、(図12E)≧15μM、及び(図12F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図12C】5℃で27ヶ月間保管された0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中の、HIACにより決定された、(図12A)≧1.4μM、(図12B)≧2μM、(図12C)≧5μM、(図12D)≧10μM、(図12E)≧15μM、及び(図12F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図12D】5℃で27ヶ月間保管された0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中の、HIACにより決定された、(図12A)≧1.4μM、(図12B)≧2μM、(図12C)≧5μM、(図12D)≧10μM、(図12E)≧15μM、及び(図12F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図12E】5℃で27ヶ月間保管された0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中の、HIACにより決定された、(図12A)≧1.4μM、(図12B)≧2μM、(図12C)≧5μM、(図12D)≧10μM、(図12E)≧15μM、及び(図12F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図12F】5℃で27ヶ月間保管された0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中の、HIACにより決定された、(図12A)≧1.4μM、(図12B)≧2μM、(図12C)≧5μM、(図12D)≧10μM、(図12E)≧15μM、及び(図12F)≧25μMの1ミリリットル当たりの顕微鏡で見える粒子数の平均(n=3)を表示する。
図13】0.02%(w/v)のPS20及び異なる量のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。S字モデルを使用してデータを適合する。
図14A】0%、つまり賦形剤不含(対照)、0、0.5、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された(図14A)0.005%、(図14B)0.02%、(図14C)0.1%、及び(図14D)0.4%のPS20を含有する試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図14B】0%、つまり賦形剤不含(対照)、0、0.5、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された(図14A)0.005%、(図14B)0.02%、(図14C)0.1%、及び(図14D)0.4%のPS20を含有する試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図14C】0%、つまり賦形剤不含(対照)、0、0.5、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された(図14A)0.005%、(図14B)0.02%、(図14C)0.1%、及び(図14D)0.4%のPS20を含有する試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図14D】0%、つまり賦形剤不含(対照)、0、0.5、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された(図14A)0.005%、(図14B)0.02%、(図14C)0.1%、及び(図14D)0.4%のPS20を含有する試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。
図15A】0.02%のPS20、ならびに0、0.1、0.5、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された(図15A)≧2μM、(図15B)≧5μM、(図15C)≧10μMの1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示するパネル棒グラフを表示する。
図15B】0.02%のPS20、ならびに0、0.1、0.5、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された(図15A)≧2μM、(図15B)≧5μM、(図15C)≧10μMの1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示するパネル棒グラフを表示する。
図15C】0.02%のPS20、ならびに0、0.1、0.5、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、HIACにより決定された(図15A)≧2μM、(図15B)≧5μM、(図15C)≧10μMの1ミリリットル当たりの粒子数の平均(n=3)を表示するパネル棒グラフを表示する。
図16】異なるHP-β-CD対PS20のモル比を含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化された試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の平均(n=3)相対パーセントを表示する。S字モデルを使用してデータを適合する。
図17A】0、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有する、15μg/mLのPPL酵素を使用して、室温で4.5時間消化された(図17A)対照、(図17B)モノクローナル抗体(mAb)、(図17C)二重特異性抗体(BsAb)、及び(図17D)単一Fab抗体(sFAb)試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の相対パーセントを表示する。
図17B】0、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有する、15μg/mLのPPL酵素を使用して、室温で4.5時間消化された(図17A)対照、(図17B)モノクローナル抗体(mAb)、(図17C)二重特異性抗体(BsAb)、及び(図17D)単一Fab抗体(sFAb)試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の相対パーセントを表示する。
図17C】0、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有する、15μg/mLのPPL酵素を使用して、室温で4.5時間消化された(図17A)対照、(図17B)モノクローナル抗体(mAb)、(図17C)二重特異性抗体(BsAb)、及び(図17D)単一Fab抗体(sFAb)試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の相対パーセントを表示する。
図17D】0、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有する、15μg/mLのPPL酵素を使用して、室温で4.5時間消化された(図17A)対照、(図17B)モノクローナル抗体(mAb)、(図17C)二重特異性抗体(BsAb)、及び(図17D)単一Fab抗体(sFAb)試料に関して、RP-ELSDにより決定されたPS20の相対パーセントを表示する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書の発明は、シクロデキストリンを製剤に添加することにより、ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法に関し、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。本発明は、水溶液中の顕微鏡で見える粒子及び可視の粒子の量を低減する方法、ならびにシクロデキストリンを溶液に添加することを含む、ポリソルベートを含むポリソルベート分解産物を脱凝集し、可溶化する方法も提供し、シクロデキストリン対ポリソルベートの比は、約37.5:1超である。本発明は、ポリソルベートと、シクロデキストリンと、を含む安定した水性製剤をさらに提供し、製剤中のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、少なくとも約37.5:1である。いくつかの実施形態において、製剤は、ポリペプチドをさらに含む。
【0028】
I.定義.
「薬学的製剤」という用語は、活性成分の生物学的活性が有効になるような形態であり、かつ製剤が投与される対象に対して許容できない程度に毒性であるさらなる成分を含有しない調製物を指す。かかる製剤は、滅菌である。
【0029】
「滅菌」製剤は、無菌であるか、または全ての生存微生物及びそれらの胞子を含まないか、またはそれらを本質的に含まない。
【0030】
「安定した」製剤とは、内部のタンパク質が保管時にその物理的安定性、及び/または化学的安定性、及び/または生物学的活性を本質的に保持する製剤である。好ましくは、製剤は、保管時に、その物理的及び化学的安定性、ならびにその生物学的活性を本質的に保持する。安定製剤は、保管時にそのレベルのポリソルベートも保持し得る。保管期間は一般に、製剤の意図される貯蔵寿命に基づいて選択される。タンパク質の安定性を測定するための様々な分析技法が当該技術分野で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery,247-301,Vincent Lee Ed.Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991)及びJones,Adv.Drug Delivery Rev.10:29-90(1993)で概説されている。安定性は、選択された露光量及び/または温度で選択された期間にわたって測定され得る。安定性は、凝集体形成の評価(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、濁度を測定することにより、及び/または目視検査により);ROS形成の評価(例えば、光ストレスアッセイまたは2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(AAPH)ストレスアッセイを使用することにより);タンパク質の特定のアミノ酸残基の酸化(例えば、モノクローナル抗体のTrp残基及び/またはMet残基);カチオン交換クロマトグラフィー、画像キャピラリー等電点電気泳動(icIEF)、またはキャピラリーゾーン電気泳動を使用した電荷不均一性の評定;アミノ末端またはカルボキシ末端配列分析;質量分光分析;還元された無傷な抗体を比較するためのSDS-PAGE分析;ペプチドマップ(例えば、トリプシンまたはLYS-C)分析;タンパク質の生物学的活性または標的結合機能(例えば、抗体の抗原結合機能)の評価などを含む様々な異なる方法で質的及び/または量的に評価され得る。不安定性は、凝集、脱アミド(例えば、Asn脱アミド)、酸化(例えば、Met酸化及び/またはTrp酸化)、異性化(例えば、Asp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えば、ヒンジ領域断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン(複数可)、N末端伸長、C末端プロセシング、グリコシル化差異などのうちのいずれか1つ以上を伴い得る。
【0031】
タンパク質は、それが、色及び/または透明度の目視検査時に、またはUV光散乱もしくはサイズ排除クロマトグラフィーにより測定されたときに、凝集、沈殿、及び/または変性の兆候をほとんどまたは全く示さない場合、薬学的製剤中で「その物理的安定性を保持する」。
【0032】
タンパク質は、所与の時点での化学的安定性が、タンパク質が以下に定義されるその生物学的活性を依然として保持しているとみなされるようなものである場合、薬学的製剤中で「その化学的安定性を保持する」。化学的安定性は、タンパク質の化学的に改変された形態を検出及び定量化することにより評定され得る。化学的改変は、例えば、トリプシンペプチドマッピング、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、及び液体クロマトグラフィー-質量分析(LC/MS)を使用して評価され得るタンパク質酸化を伴い得る。他のタイプの化学的改変には、例えば、イオン交換クロマトグラフィーまたはicIEFにより評価され得るタンパク質の電荷改変が含まれる。
【0033】
タンパク質は、所与の時点でのタンパク質の生物学的活性が、例えば、モノクローナル抗体の抗原結合アッセイで決定される、薬学的製剤が調製された時点で呈される生物学的活性の約10%以内(アッセイのエラー内)である場合、薬学的製剤中で「その生物学的活性を保持する」。
【0034】
本明細書で使用される場合、タンパク質の「生物学的活性」とは、標的に結合するタンパク質の能力、例えば、抗原に結合するモノクローナル抗体の能力を指す。これは、インビトロまたはインビボで測定され得る生物学的応答をさらに含み得る。かかる活性は、アンタゴニスト活性またはアゴニスト活性であり得る。
【0035】
「酸化感受性の」タンパク質は、メチオニン(Met)、システイン(Cys)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)、及びチロシン(Tyr)などであるが、これらに限定されない、酸化しやすいことが見出されている1つ以上の残基(複数可)を含むタンパク質である。例えば、モノクローナル抗体のFab部分内のトリプトファンアミノ酸またはモノクローナル抗体のFc部分内のメチオニンアミノ酸が酸化感受性であり得る。
【0036】
「等張」とは、目的とする製剤がヒト血液と本質的に同じ浸透圧を有することを意味する。等張製剤は一般に、約250~350mOsmの浸透圧を有する。等張性は、例えば、蒸気圧または氷凍結型浸透圧計を使用して測定され得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「緩衝液」とは、その酸-塩基コンジュゲート成分の作用によりpHの変化に抵抗する緩衝溶液を指す。本発明の緩衝液は好ましくは、約4.5~約8.0の範囲のpHを有する。例えば、酢酸ヒスチジンは、pHをこの範囲内で制御する緩衝液の例である。
【0038】
「保存料」とは、例えば、内部の細菌作用を本質的に低減させ、故に多目的製剤の産生を容易にするために製剤に任意に含まれ得る化合物である。可能性のある保存料の例には、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム(アルキル基が長鎖化合物である塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウムの混合物)、及び塩化ベンゼトニウムが含まれる。他の種類の保存料には、芳香族アルコール、例えば、フェノール、ブチル、及びベンジルアルコール、アルキルパラベン、例えば、メチルまたはプロピルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾールが含まれる。一実施形態において、本明細書における保存料は、ベンジルアルコールである。
【0039】
本明細書で使用される場合、「界面活性剤」とは、表面活性剤、好ましくは、非イオン性界面活性剤を指す。明細書における界面活性剤の例には、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20及びポリソルベート80);ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188);トリトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウレル(laurel)硫酸ナトリウム;オクチルグルコシドナトリウム;ラウリルスルホベタイン、ミリスチルスルホベタイン、リノレイルスルホベタイン、またはステアリルスルホベタイン;ラウリルサルコシン、ミリスチルサルコシン、リノレイルサルコシン、またはステアリルサルコシン;リノレイルベタイン、ミリスチルベタイン、またはセチルベタイン;ラウロアミドプロピル(lauroamidopropyl)ベタイン、コカミドプロピルベタイン、リノールアミドプロピルベタイン、ミリスタミドプロピルベタイン、パルミドプロピル(palmidopropyl)ベタイン、またはイソステアラミドプロピルベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル(lauroamidopropyl));ミリスタミドプロピルジメチルアミン、パルミドプロピルジメチルアミン、またはイソステアラミドプロピルジメチルアミン;メチルココイルタウリン酸ナトリウムまたはメチルオレイルタウリン酸二ナトリウム;ならびにMONAQUAT(商標)シリーズ(Mona Industries,Inc.,Paterson,N.J.);ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、ならびにエチレン及びプロピレングリコールのコポリマー(例えば、Pluronics,PF68など)などが含まれる。
【0040】
「薬学的に許容される」賦形剤または担体は、本明細書で使用される場合、薬学的に許容される担体、安定剤、緩衝液、酸、塩基、糖、保存料、界面活性剤、張性剤などを含み、これらは全て当該技術分野で周知されている(Remington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd Ed.,Pharmaceutical Press,2012)。薬学的に許容される賦形剤の例には、緩衝液、例えば、ホスフェート、シトレート、アセテート、及び他の有機酸;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、L-トリプトファン、及びメチオニン;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP);アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、もしくはリジン;単糖、二糖、及び他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、もしくはデキストリン;金属錯体、例えば、Zn-タンパク質錯体;キレート剤、例えば、EDTA;糖アルコール、例えば、マンニトールもしくはソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;及び/または非イオン性界面活性剤、例えば、ポリソルベート、ポロキサマー、ポリエチレングリコール(PEG)、及びPLURONICS(商標)が含まれる。「薬学的に許容される」賦形剤または担体は、対象に適度に投与されて、用いられる活性成分の有効用量を提供することができ、かつそれに曝露される対象に用いられる投薬量及び濃度で非毒性のものである。
【0041】
「ポリソルベート」(PSとも略される)という用語は、本明細書で使用される場合、脂肪酸でエステル化されたペグ化ソルビタンを指し、それには、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、及びポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)が含まれる。
【0042】
「シクロデキストリン」という用語は、環状構造内で、アルファ-(l,4)グリコシド結合と連結されるd-グルコピラノース単位と結合されるグルコース分子を含む化合物のファミリーを指す。例示的なシクロデキストリンには、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CDまたはHP-ベータ-シクロデキストリン)、2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(HP-α-CDまたはHP-アルファ-シクロデキストリン)、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HP-γ-CDまたはHP-ガンマ-シクロデキストリン)、β-シクロデキストリン(β-CDまたはベータ-シクロデキストリン)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-β-CDまたはSBE-ベータ-シクロデキストリン)、α-シクロデキストリン(α-CDまたはアルファ-シクロデキストリン)、及びγ-シクロデキストリン(γ-CDまたはガンマ-シクロデキストリン)が含まれる。シクロデキストリンの同義語には、Cavitron、環状オリゴ糖、シクロアミュロ―ス(cycloamulose)、及びシクログルカンが含まれる。
【0043】
「張性剤」という用語は、溶液の相対濃度を調整するか、または維持するために使用される作用物質を指す。好ましい張性剤には、多価糖アルコール、好ましくは、三価以上の糖アルコール、例えば、グリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールが含まれる。
【0044】
「安定剤」という用語は、タンパク質及び抗体などの粗大荷電生体分子を安定させる作用物質を指す。張性剤は、粗大荷電生体分子とともに使用されるとき、安定剤としての役割も果たし得る。
【0045】
「低減されたポリソルベート分解」は、一定期間の経過後、類似の保管条件下の対照と比較するとより多くのポリソルベートが試料中に残る状態を指す。例えば、一定期間の経過後に95%の残存ポリソルベートを有する試料は、同じ期間の経過後、50%の残存ポリソルベートを有する対照試料と比較すると低減されたポリソルベート分解を示す。
【0046】
「脱凝集」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリソルベート分解により引き起こされる可視の粒子及び/または顕微鏡で見える粒子の低減を指す。例えば、作用物質をポリソルベートを含有する溶液に添加すると、可視の粒子及び/または顕微鏡で見える粒子の量が低減される場合、その作用物質がポリソルベート分解産物を脱凝集させるのに有効である。
【0047】
「可溶化する」という用語は、固形を液体中に溶解することを指す。例えば、化合物が作用物質の存在下でより容易に溶解する場合、その作用物質が化合物を可溶化するのに有効である。
【0048】
「w/w比」という用語は、別の溶質の質量により除算された1つの溶質の質量を指す。例えば、100mgのシクロデキストリン及び1mgのポリソルベートを含有する溶液は、100:1のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比を有する。一実施形態によると、シクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。
【0049】
「水性製剤」は、投与に好適な水系液体製剤を指す。製剤は、抗体または小分子などの療法剤を含有し得、好ましくは、滅菌である。水性製剤は、緩衝液、安定剤、張性剤、及び賦形剤も含有し得る。
【0050】
製剤化されるタンパク質は、好ましくは本質的に純粋であり、望ましくは本質的に均質である(例えば、夾雑タンパク質などを含まない)。「本質的に純粋な」タンパク質とは、組成物の総重量に基づいて、少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95重量%のタンパク質(例えば、モノクローナル抗体)を含む組成物を意味する。「本質的に均質な」タンパク質とは、組成物の総重量に基づいて、少なくとも約99重量%のタンパク質(例えば、モノクローナル抗体)を含む組成物を意味する。
【0051】
「タンパク質」、「ポリペプチド」、及び「ペプチド」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために本明細書で互換的に使用される。ポリマーは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、修飾アミノ酸を含んでもよく、非アミノ酸により中断されていてもよい。これらの用語は、自然に、または介入により、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、もしくは任意の他の操作または修飾、例えば、標識成分とのコンジュゲーションにより修飾されたアミノ酸ポリマーも包含する。例えば、アミノ酸(例えば、非天然アミノ酸などを含む)の1つ以上の類似体を含有するタンパク質、ならびに当該技術分野で既知の他の修飾もこの定義に含まれる。本明細書におけるこの定義に包含されるタンパク質の例には、例えば、レニンなどの哺乳動物タンパク質;成長ホルモン、例えば、ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ-1-抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;レプチン;凝固因子、例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子;抗凝固因子、例えば、タンパク質C;心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性剤;プラスミノーゲン活性化因子、例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA);ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子-アルファ及び-ベータ;腫瘍壊死因子受容体、例えば、死受容体5及びCD120;TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL);B細胞成熟抗原(BCMA);B-リンパ球刺激因子(BLyS);増殖誘導リガンド(APRIL);エンケファリナーゼ;RANTES(活性化時に調節され、T細胞が正常に発現及び分泌している);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-アルファ);血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミン;ミュラー管阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;微生物タンパク質、例えば、ベータ-ラクタマーゼ;DNase;IgE;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA)、例えば、CTLA-4;インヒビン;アクチビン;血小板由来内皮細胞成長因子(PD-ECGF);血管内皮成長因子ファミリータンパク質(例えば、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、及びP1GF);血小板由来成長因子(PDGF)ファミリータンパク質(例えば、PDGF-A、PDGF-B、PDGF-C、PDGF-D、及びそれらの二量体);線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリー、例えば、aFGF、bFGF、FGF4、及びFGF9;上皮成長因子(EGF);ホルモンまたは成長因子受容体、例えば、VEGF受容体(複数可)(例えば、VEGFR1、VEGFR2、及びVEGFR3)、上皮成長因子(EGF)受容体(複数可)(例えば、ErbB1、ErbB2、ErbB3、及びErbB4受容体)、血小板由来成長因子(PDGF)受容体(複数可)(例えば、PDGFR-α及びPDGFR-β)、及び線維芽細胞成長因子受容体(複数可);TIEリガンド(アンジオポイエチン、ANGPT1、ANGPT2);アンジオポイエチン受容体、例えば、TIE1及びTIE2;タンパク質AまたはD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、ニューロトロフィン-5、もしくはニューロトロフィン-6(NT-3、NT-4、NT-5、もしくはNT-6)、または神経成長因子、例えば、NGF-b;形質転換成長因子(TGF)、例えば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、またはTGF-β5を含むTGF-アルファ及びTGF-ベータ;インスリン様成長因子I及びII(IGF-I及びIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP);CDタンパク質、例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、及びCD20;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);ケモカイン、例えば、CXCL12及びCXCR4;インターフェロン、例えば、インターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ、及びインターフェロン-ガンマ;コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M-CSF、GM-CSF、及びG-CSF;サイトカイン、例えば、インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-10;ミッドカイン;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原、例えば、AIDSエンベロープの一部分など;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;調節タンパク質;インテグリン、例えば、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4、及びVCAM;エフリン;Bv8;デルタ様リガンド4(DLL4);Del-1;BMP9;BMP10;ホリスタチン;肝細胞成長因子(HGF)/分散因子(SF);Alk1;Robo4;ESM1;パールカン;EGF様ドメインマルチプル7(EGFL7);CTGF及びそのファミリーのメンバー;トロンボスポンジン、例えば、トロンボスポンジン1及びトロンボスポンジン2;コラーゲン、例えば、コラーゲンIV及びコラーゲンXVIII;ニューロピリン、例えば、NRP1及びNRP2;プレイオトロフィン(PTN);プログラニュリン;プロリフェリン;Notchタンパク質、例えば、Notch1及びNotch4;セマフォリン、例えば、Sema3A、Sema3C、及びSema3F;腫瘍関連抗原、例えば、CA125(卵巣癌抗原);イムノアドヘシン;ならびに上述のタンパク質のうちのいずれかの断片及び/または変異形、ならびに例えば、上述のタンパク質のうちのいずれかを含む1つ以上のタンパク質に結合する抗体断片を含む抗体が含まれる。
【0052】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広義に使用され、具体的には、それらが所望の生物学的活性を呈する限り、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を網羅する。
【0053】
「単離された」タンパク質(例えば、単離された抗体)とは、その天然環境の成分から特定及び分離され、及び/または回収されたものである。その天然環境の夾雑成分は、タンパク質の研究的、診断的、または治療的使用を妨害するであろう材料であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク性または非タンパク性溶質を含み得る。単離されたタンパク質は、組換え細胞内にインサイツでタンパク質を含むが、これは、タンパク質の天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないためである。しかしながら、通常、単離されたタンパク質は、少なくとも1つの精製ステップにより調製される。
【0054】
「天然抗体」とは、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖が1つのジスルフィド共有結合により重鎖に連結しているが、ジスルフィド連結の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重鎖及び軽鎖は、規則的に離間した鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一方の端に可変ドメイン(V)を有し、いくつかの定常ドメインが続く。各軽鎖は、一方の端に可変ドメイン(V)を有し、その他方の端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと整列しており、軽鎖の可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間に界面を形成すると考えられている。
【0055】
「定常ドメイン」という用語は、抗原結合部位を含む可変ドメインである免疫グロブリンの他方の部分に対してより保存されたアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子の部分を指す。定常ドメインは、重鎖のCH1、CH2、及びCH3ドメイン(集合的に、CH)、ならびに軽鎖のCHL(またはCL)ドメインを含む。
【0056】
抗体の「可変領域」または「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖可変ドメインは、「VH」と称され得る。軽鎖可変ドメインは、「VL」と称され得る。これらのドメインは一般に、抗体の最も可変の部分であり、抗原結合部位を含む。
【0057】
「可変」という用語は、可変ドメインのある特定の部分の配列が抗体間で大きく異なるという事実を指し、各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合及び特異性において使用される。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって均等に分布していない。これは、超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメント内、または軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方に集中している。いくつかの実施形態において、HVRは、相補性決定領域(CDR)である。
【0058】
可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖及び軽鎖可変ドメインは各々、ベータシート構造を接続し、かつある場合には、その一部を形成するループを形成する、3つのHVRにより接続されたベータシート立体配置を主に採用する4つのFR領域を含む。各鎖内のHVRは、FR領域により近接近して一緒に保持されており、他方の鎖のHVRとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,National Institute of Health,Bethesda,Md.(1991))。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与しないが、抗体の抗体依存性細胞毒性への関与などの様々なエフェクター機能を呈する。
【0059】
任意の哺乳動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいてカッパ(「κ」)及びラムダ(「λ」)と呼ばれる2つの明らかに異なるタイプのうちの1つに割り当てられ得る。
【0060】
IgG「アイソタイプ」または「サブクラス」という用語は、本明細書で使用される場合、それらの定常領域の化学的及び抗原的特徴により定義される免疫グロブリンのサブクラスのうちのいずれかを意味する。それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)が異なるクラスに割り当てられ得る。免疫グロブリンには5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMが存在し、これらのうちのいくつかは、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2にさらに分けられ得る。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配置は周知されており、一般に、例えば、Abbas et al.Cellular and Mol.Immunology,4th ed.,W.B.Saunders,Co.(2000)に記載されている。抗体は、抗体の1つ以上の他のタンパク質またはペプチドとの共有または非共有会合により形成されるより大きい融合分子の一部であり得る。
【0061】
「完全長抗体」、「無傷抗体」、及び「全抗体」という用語は、以下に定義される抗体断片ではない、その実質的に無傷の形態の抗体を指すために本明細書で互換的に使用される。これらの用語は具体的には、Fc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0062】
「抗体断片」は、無傷抗体の一部分を含み、好ましくはその抗原結合領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)、及びFv断片、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0063】
抗体のパパイン消化により、各々が単一の抗原結合部位を有する「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片、ならびに名称が容易に結晶化するその能力を反映する残りの「Fc」断片が産生される。ペプシン処理は、F(ab’)断片を生成し、これは、2つの抗原結合部位を有し、依然として抗原を架橋することができる。Fab断片は、重鎖及び軽鎖可変ドメインを含み、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)も含む。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端での数個の残基の付加だけFab断片とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を持つFab’の本明細書における表記である。F(ab’)抗体断片は元来、間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として産生されたものであった。抗体断片の他の化学的カップリングも知られている。
【0064】
「Fv」は、完全な抗原結合部位を含む最小抗体断片である。一実施形態において、二本鎖Fv種は、密接に非共有会合している1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種において、1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインは、軽鎖及び重鎖が二本鎖Fv種における構造に類似している「二量体」構造で会合し得るように、柔軟性ペプチドリンカーにより共有連結され得る。各可変ドメインの3つのHVRが相互作用してVH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を定義するのは、この立体配置においてである。集合的に、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら、全結合部位よりも低い親和性ではあるが、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でさえも、抗原を認識してそれに結合する能力を有する。
【0065】
「一本鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖内に存在する。一般に、scFvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これにより、scFvが抗原結合に所望の構造を形成することが可能になる。scFvの概説に関しては、例えば、Pluckthun,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照されたい。
【0066】
「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する抗体断片を指し、これらの断片は、同じポリペプチド鎖内の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)(VH-VL)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、これらのドメインは、別の鎖の相補的ドメインと対合させられ、2つの抗原結合部位を作り出す。ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る。ダイアボディは、例えば、EP404,097、WO1993/01161、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)、及びHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)でより完全に記載されている。トリアボディ及びテトラボディも、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)に記載されている。
【0067】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、実質的に同種の抗体集団から得られた抗体を指し、例えば、その集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る可能な突然変異、例えば、自然発生突然変異を除いて同一である。故に、「モノクローナル」という修飾語は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示す。ある特定の実施形態において、かかるモノクローナル抗体は典型的には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、標的結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列からの単一の標的結合ポリペプチド配列の選択を含む過程により得られたものである。例えば、選択過程は、ハイブリドーマクローン、ファージクローン、または組換えDNAクローンのプールなどの複数のクローンからの特有のクローンの選択であり得る。選択された標的結合配列が、例えば、標的への親和性の改善、標的結合配列のヒト化、細胞培養中でのその産生の改善、インビボでのその免疫原性の低減、多重特異性抗体の作製などを行うようにさらに改変されてもよく、改変された標的結合配列を含む抗体も本発明のモノクローナル抗体であることを理解されたい。異なる決定基(エピトープ)に対して指向される異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、それらには他の免疫グロブリンが典型的に夾雑していないという点で有利である。
【0068】
「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法により抗体の産生を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler and Milstein,Nature,256:495-97(1975)、Hongo et al.,Hybridoma,14(3):253-260(1995)、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)、Hammerling et al.,in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas pp.563-681 Elsevier,N.Y.(1981))、組換えDNA方法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)、Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992)、Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004)、Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004)、Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(34):12467-12472(2004)、及びLee et al.,J.Immunol.Methods 284(1-2):119-132(2004)を参照されたい、及びヒト免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子座または遺伝子の一部または全てを有するヒトまたはヒト様抗体を動物で産生するための技術(例えば、WO1998/24893、WO1996/34096、WO1996/33735、WO1991/10741、Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2551(1993)、Jakobovits et al.,Nature 362:255-258(1993)、Bruggemann et al.,Year in Immunol.7:33(1993)、米国特許第5,545,807号、同第5,545,806号、同第5,569,825号、同第5,625,126号、同第5,633,425号、及び同第5,661,016号、Marks et al.,Bio/Technology 10:779-783(1992)、Lonberg et al.,Nature 368:856-859(1994)、Morrison,Nature 368:812-813(1994)、Fishwild et al.,Nature Biotechnol.14:845-851(1996)、Neuberger,Nature Biotechnol.14:826(1996)、ならびにLonberg and Huszar,Intern.Rev.Immunol.13:65-93(1995)を参照されたい)を含む、様々な技法により作製され得る。
【0069】
本明細書におけるモノクローナル抗体は具体的には、所望の生物学的活性を呈する限り、重鎖及び/または軽鎖の一部分が、特定の種に由来する抗体、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または同種である一方で、鎖(複数可)の残りが、別の種に由来する抗体、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または同種である「キメラ」抗体、ならびにかかる抗体の断片が含まれる(例えば、米国特許第4,816,567号、及びMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851-6855(1984)を参照されたい)。キメラ抗体には、PRIMATIZED(登録商標)抗体が含まれ、この抗体の抗原結合領域は、例えば、目的とする抗原でマカクザルを免疫化することにより産生された抗体に由来する。
【0070】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。一実施形態において、ヒト化抗体は、レシピエントのHVR由来の残基が、所望の特異性、親和性、及び/または能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)のHVR由来の残基に置き換えられるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合において、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基に置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含み得る。これらの修飾を行って、抗体の性能をさらに洗練することができる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体は任意に、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのFcの少なくとも一部分も含む。さらなる詳細に関しては、例えば、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988)、及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照されたい。例えば、Vaswani and Hamilton,Ann.Allergy,Asthma & Immunol.1:105-115(1998)、Harris,Biochem.Soc.Transactions 23:1035-1038(1995)、Hurle and Gross,Curr.Op.Biotech.5:428-433(1994)、ならびに米国特許第6,982,321号及び同第7,087,409号も参照されたい。
【0071】
「ヒト抗体」は、ヒトにより産生され、及び/または本明細書に開示されるヒト抗体を作製するための技法のうちのいずれかを使用して作製された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものである。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリを含む当該技術分野で既知の様々な技法を使用して産生され得る。Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381(1991)、Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581(1991)。Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985)、Boerner et al.,J.Immunol.,147(1):86-95(1991)に記載されている方法もヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である。van Dijk and van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.,5:368-74(2001)も参照されたい。ヒト抗体は、抗原曝露に応答してかかる抗体を産生するように修飾されているが、その内因性遺伝子座が無効化されているトランスジェニック動物、例えば、免疫化異種マウスに抗原を投与することにより調製され得る(例えば、XENOMOUSE(商標)技術に関する米国特許第6,075,181号及び同第6,150,584号を参照されたい)。例えば、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術により生成されるヒト抗体に関するLi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:3557-3562(2006)も参照されたい。
【0072】
本明細書で使用されるとき、「超可変領域」、「HVR」、または「HV」という用語は、配列が超可変性であり、及び/または構造的に定義されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は、6つのHVRを含み、3つがVHにあり(H1、H2、H3)、3つがVLにある(L1、L2、L3)。天然抗体において、H3及びL3は、これらの6つのHVRのうちで最も高い多様性を表示し、特にH3が、抗体に優れた特異性を与える上で特有の役割を果たすと考えられている。例えば、Xu et al.,Immunity 13:37-45(2000)、Johnson and Wu,in Methods in Molecular Biology 248:1-25(Lo,ed.,Human Press,Totowa,N.J.,2003)を参照されたい。実際には、重鎖のみからなる自然発生するラクダ科抗体は、軽鎖の不在下で機能的であり、安定している。例えば、Hamers-Casterman et al.,Nature 363:446-448(1993)、Sheriff et al.,Nature Struct.Biol.3:733-736(1996)を参照されたい。
【0073】
いくつかのHVR描写が本明細書で使用されており、本明細書に包含される。Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列可変性に基づくものであり、最も一般的に使用されている(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。代わりに、Chothiaは、構造的ループの位置に言及する(Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。AbM HVRは、Kabat HVRとChothia構造的ループとの間の折衷案を表し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用されている。「接触」HVRは、利用可能な複合体結晶構造の分析に基づく。これらのHVRの各々由来の残基が以下に記載される。
【0074】
HVRは、VL内の24~36または24~34(L1)、46~56または50~56(L2)、及び89~97または89~96(L3)、ならびにVH内の26~35(H1)、50~65、または49~65(H2)、及び93~102、94~102、または95~102(H3)のような「伸長HVR」を含み得る。可変ドメイン残基は、これらの定義の各々に関して、Kabat et al.,(上記参照)に従って番号付けされる。
【0075】
「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書で定義されるHVR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0076】
「Kabatにあるような可変ドメイン残基番号付け」または「Kabatにあるようなアミノ酸位置番号付け」という用語、及びそれらの変形は、Kabat et al.,(上記参照)における抗体の編集物の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインに使用される番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを使用して、実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFRもしくはHVRの短縮、またはそれへの挿入に対応するより少ないアミノ酸または追加のアミノ酸を含み得る。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単一のアミノ酸挿入(Kabatに従う残基52a)を含み得、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatに従う残基82a、82b、及び82cなど)を含み得る。残基のKabat番号付けは、所与の抗体に対して、抗体の配列の相同領域での「標準の」Kabat番号付け配列との整列により決定され得る。
【0077】
Kabat番号付けシステムは一般に、可変ドメイン内の残基(およそ軽鎖の残基1~107及び重鎖の残基1~113)に言及する際に使用される(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。「EU番号付けシステム」または「EU指標」は一般に、免疫グロブリン重鎖定常領域内の残基に言及する際に使用される(例えば、Kabat et al.,(上記参照)で報告されているEU指標)。「KabatにあるようなEU指標」とは、ヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを指す。
【0078】
「直鎖状抗体」という表現は、Zapata et al.(Protein Eng.,8(10):1057-1062(1995))に記載されている抗体を指す。簡潔には、これらの抗体は、相補的軽鎖ポリペプチドと一緒になって一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFcセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。直鎖状抗体は、二重特異性または単一特異性であり得る。
【0079】
ポリクローナル抗体は好ましくは、関連抗原及びアジュバントの複数回皮下(sc)または腹腔内(ip)注射により、動物内に産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質に関連抗原(特に、合成ペプチドが使用される際)をコンジュゲートするのに有用であり得る。例えば、抗原は、二官能性物質または誘導体化剤、例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシイミドエステル(システイン残基を介するコンジュゲーション)、N-ヒドロキシスクシイミド(リジン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl、またはRN=C=NR(式中、R及びRは異なるアルキル基である)を使用して、キーホールリンペットヘモシニアン(KLH)、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、またはダイズトリプシン阻害剤にコンジュゲートされ得る。
【0080】
「多重特異性抗体」という用語は、最も広義に使用され、多重エピトープ特異性を有する(すなわち、1つの生物学的分子上の2つ以上の異なるエピトープに特異的に結合することができるか、または2つ以上の異なる生物学的分子上のエピトープに特異的に結合することができる)抗原結合ドメインを含む抗体を具体的に網羅する。いくつかの実施形態において、多重特異性抗体(二重特異性抗体など)の抗原結合ドメインは、2つのVH/VL単位を含み、第1のVH/VL単位は、第1のエピトープに特異的に結合し、第2のVH/VL単位は、第2のエピトープに特異的に結合し、各VH/VL単位は、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。かかる多重特異性抗体には、完全長抗体、2つ以上のVL及びVHドメインを有する抗体、Fab、Fv、dsFv、scFv、ダイアボディ、二重特異性ダイアボディ、及びトリアボディなどの抗体断片、共有連結または非共有連結された抗体断片が含まれるが、これらに限定されない。重鎖定常領域の少なくとも一部分及び/または軽鎖定常領域の少なくとも一部分をさらに含むVH/VL単位は、「ヘミマー」または「半抗体」とも称され得る。いくつかの実施形態において、半抗体は、単一の重鎖可変領域の少なくとも一部分及び単一の軽鎖可変領域少なくとも一部分を含む。いくつかのかかる実施形態において、2つの半抗体を含み、かつ2つの抗原に結合する二重特異性抗体は、第1の抗原または第1のエピトープに結合するが、第2の抗原または第2のエピトープには結合しない第1の半抗体、及び第2の抗原または第2のエピトープに結合するが、第1の抗原または第1のエピトープには結合しない第2の半抗体を含む。いくつかの実施形態によると、多重特異性抗体は、5M~0.001pM、3M~0.001pM、1M~0.001pM、0.5M~0.001pM、または0.1M~0.001pMの親和性で各抗原またはエピトープに結合するIgG抗体である。いくつかの実施形態において、ヘミマーは、分子内ジスルフィド結合が第2のヘミマーと形成されることを可能にするのに十分な重鎖可変領域の一部分を含む。いくつかの実施形態において、ヘミマーは、例えば、相補的ホール突然変異またはノブ突然変異を含む第2のヘミマーまたは半抗体とのヘテロ二量体化を可能にする、ノブ突然変異またはホール突然変異を含む。ノブ突然変異及びホール突然変異は、以下でさらに論じられる。
【0081】
「二重特異性抗体」は、1つの生物学的分子上の2つの異なるエピトープに特異的に結合することができるか、または2つの異なる生物学的分子上のエピトープに特異的に結合することができる抗原結合ドメインを含む多重特異性抗体である。二重特異性抗体は、本明細書において、「二重特異性」を有するか、または「二重特異的」であるとも称され得る。別途示されない限り、二重特異性抗体により結合される抗原が二重特異性抗体名で列記される順序は無作為である。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、2つの半抗体を含み、各半抗体は、単一の重鎖可変領域及び任意に重鎖定常領域の少なくとも一部分、ならびに単一の軽鎖可変領域及び任意に軽鎖定常領域の少なくとも一部分を含む。ある特定の実施形態において、二重特異性抗体は、2つの半抗体を含み、各半抗体は、単一の重鎖可変領域及び単一の軽鎖可変領域を含み、1つよりも多くの単一の重鎖可変領域を含まず、1つよりも多くの単一の軽鎖可変領域を含まない。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、2つの半抗体を含み、各半抗体は、単一の重鎖可変領域及び単一の軽鎖可変領域を含み、第1の半抗体は、第1の抗原に結合し、第2の抗原には結合せず、第2の半抗体は、第2の抗原に結合し、第1の抗原には結合しない。
【0082】
「ノブ・イントゥ・ホール」または「KnH」技術という用語は、本明細書で使用される場合、2つのポリペプチドを、それらが相互作用する界面で一方のポリペプチドに隆起(ノブ)を導入し、他方のポリペプチドに空洞(ホール)を導入することにより、インビトロまたはインビボで一緒に対合することを誘導する技術を指す。例えば、KnHは、抗体のFc:Fc結合界面、CL:CH1界面、またはVH/VL界面に導入されている(例えば、US2011/0287009、US2007/0178552、WO96/027011、WO98/050431、及びZhu et al.,1997,Protein Science 6:781-788を参照されたい)。いくつかの実施形態において、KnHは、多重特異性抗体の製造中に2つの異なる重鎖の対合を一緒に駆動する。例えば、Fc領域内にKnHを有する多重特異性抗体は、各Fc領域に連結された単一の可変ドメインをさらに含み得るか、または類似のもしくは異なる軽鎖可変ドメインと対合する異なる重鎖可変ドメインをさらに含み得る。KnH技術を使用して、2つの異なる受容体細胞外ドメインを一緒に、または異なる標的認識配列(例えば、アフィボディ(affibody)、ペプチボディ(peptibody)、及び他のFc融合物を含む)を含む任意の他のポリペプチド配列を対合することもできる。
【0083】
「ノブ突然変異」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリペプチドが別のポリペプチドと相互作用する界面で隆起(ノブ)をポリペプチドに導入する突然変異を指す。いくつかの実施形態において、他方のポリペプチドは、ホール突然変異を有する(例えば、各々が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、US5,731,168、US5,807,706、US5,821,333、US7,695,936、US8,216,805を参照されたい)。
【0084】
「ホール突然変異」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリペプチドが別のポリペプチドと相互作用する界面で空洞(ホール)をポリペプチドに導入する突然変異を指す。いくつかの実施形態において、他方のポリペプチドは、ノブ突然変異を有する(例えば、各々が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、US5,731,168、US5,807,706、US5,821,333、US7,695,936、US8,216,805を参照されたい)。
【0085】
「約」という用語は、本明細書で使用される場合、当業者により決定されるそれぞれの値の許容できる誤差範囲を指し、これは、その値がどのように測定または決定されるか、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」とは、当該技術分野での1実施当たり1つまたは1つよりも多くの標準偏差以内を意味し得る。本明細書における「約」値またはパラメータへの言及は、その値またはパラメータ自体を対象とする実施形態を含み、それを説明する。例えば、「約X」に言及する記述は、「X」の記述を含む。
【0086】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別途内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。故に、例えば、「化合物(a compound)」への言及は、任意に、2つ以上のかかる化合物の組み合わせを含むといった具合である。
【0087】
II.製剤及び調製
本明細書の発明は、ポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法に関し、本方法は、シクロデキストリンを製剤に添加することを含み、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの実施形態において、本発明は、シクロデキストリンを溶液に添加することを含む、ポリソルベートを含む水溶液中の顕微鏡で見える粒子及び可視の粒子の量を低減する方法を提供し、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの実施形態において、本発明は、シクロデキストリンを製剤に添加することを含む、水性製剤中のポリソルベート分解産物を脱凝集し、可溶化する方法を提供し、得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、HP-βシクロデキストリン、HP-γシクロデキストリン、またはスルホブチルエーテルベータ-シクロデキストリンである。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、HP-αシクロデキストリンである。いくつかの実施形態において、製剤は、ポリペプチドをさらに含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、本方法は、ポリビニルピロリドン(PVP)を製剤に添加することを含み、得られたPVP対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの実施形態において、本発明は、PVPを溶液に添加することを含む、ポリソルベートを含む水溶液中の顕微鏡で見える粒子及び可視の粒子の量を低減する方法を提供し、得られたPVP対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの実施形態において、本発明は、PVPを製剤に添加することを含む、水性製剤中のポリソルベート分解産物を脱凝集し、可溶化する方法を提供し、得られたPVP対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。
【0089】
いくつかの実施形態において、本発明は、ポリソルベートと、シクロデキストリンと、を含む水性製剤を提供し、1%未満のポリソルベートが、約1℃~約10℃での少なくとも約6ヶ月間~少なくとも約48ヶ月間の保管後に分解されており、製剤中のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、少なくとも約37.5:1である。いくつかの実施形態において、本発明は、ポリソルベートと、PVPと、を含む水性製剤を提供し、1%未満のポリソルベートが、約1℃~約10℃での少なくとも約6ヶ月間~少なくとも約48ヶ月間の保管後に分解されており、製剤中のPVP対ポリソルベートのw/w比は、少なくとも約37.5:1である。いくつかの実施形態において、製剤は、約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間~少なくとも約少なくとも約48ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間安定している。いくつかの実施形態において、製剤は、約0.005%~0.4%のポリソルベートを含む。いくつかの実施形態において、製剤は、約0.005%~0.4%のポリソルベートを含み、シクロデキストリンは、約0.01%~30%の濃度まで製剤に添加される。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、HP-βシクロデキストリン、HP-γシクロデキストリン、またはスルホブチルエーテルベータ-シクロデキストリンである。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、HP-αシクロデキストリンである。いくつかの実施形態において、ポリソルベート分解は、約50%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%低減される。さらなる実施形態において、1mL当たり約1,000、約750、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径約2ミクロン超のポリソルベート粒子が形成される。いくつかの実施形態において、製剤は、ポリペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、タンパク質濃度は、約1mg/mL~約250mg/mLである。いくつかの実施形態において、タンパク質濃度は、約250mg/mL超である。いくつかの実施形態において、製剤は、約4.5~約7.0、または約4.5~約6.0、または約6.0のpHを有する。いくつかの実施形態において、製剤は、安定剤、緩衝液、界面活性剤、及び張性剤のうちの1つ以上をさらに含む。さらなる実施形態において、製剤は、対象への静脈内、皮下、筋肉内、または硝子体内投与に好適である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、または抗体断片である。いくつかの実施形態において、製剤は、小分子、核酸、脂質、及び/または炭水化物をさらに含む。
【0090】
製剤中のタンパク質及び抗体は、当該技術分野で既知の方法を使用して調製され得る。抗体(例えば、完全長抗体、抗体断片、及び多重特異性抗体)を調製するための非限定的な例示的な方法が本明細書に提供される。水性製剤中の抗体は、抗体を生成するための当該技術分野で利用可能な技法を使用して調製され、その例示的な方法は、以下の節により詳細に記載される。本明細書における方法は、ペプチド系阻害剤などの他のタンパク質を含む製剤の調製のために当業者により適合され得る。例えば、治療的タンパク質産生のための、一般に十分に理解され、かつ一般的に用いられる技法及び手順に関して、Sam Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2012)、Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.eds.(2003)、Short Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.,eds.,J.Wiley and Sons(2002)、Horswill et al.,Current Protocols in Protein Science,(2006)、Antibodies,A Laboratory Manual,Harlow and Lane,eds.(1988)、R.I.Freshney,Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique and Specialized Application,6th ed.,J.Wiley and Sons(2010)を参照されたく、それらの全ては、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0091】
A.抗体の調製
本明細書に提供される水性製剤中の抗体は、目的とする抗原に対して指向される。好ましくは、抗原は、生物学的に重要なポリペプチドであり、障害に罹患している哺乳動物への抗体の投与により、その哺乳動物に治療的利益がもたらされ得る。しかしながら、非ポリペプチド抗原に対して指向される抗体も企図される。
【0092】
抗原がポリペプチドである場合、それは、膜貫通分子(例えば、受容体)、または成長因子などのリガンドであり得る。例示的な抗原には、分子、例えば、血管内皮成長因子(VEGF);CD20;ox-LDL;ox-ApoB100;レニン;成長ホルモン、例えば、ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ-1-抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;凝固因子、例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子;抗凝固因子、例えば、タンパク質C;心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性剤;プラスミノーゲン活性化因子、例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA);ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子-アルファ及び-ベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(活性化時に調節され、T細胞が正常に発現及び分泌している);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-アルファ);血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミン;ミュラー管阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;微生物タンパク質、例えば、ベータ-ラクタマーゼ;DNase;IgE;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA)、例えば、CTLA-4;インヒビン;アクチビン;ホルモンまたは成長因子受容体;タンパク質AまたはD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、ニューロトロフィン-5、もしくはニューロトロフィン-6(NT-3、NT4、NT-5、もしくはNT-6)、または神経成長因子、例えば、NGF-β;血小板由来成長因子(PDGF);線維芽細胞成長因子(FGF)、例えば、aFGF及びbFGF;上皮成長因子(EGF);形質転換成長因子(TGF)、例えば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、またはTGF-β5を含むTGF-アルファ及びTGF-ベータ;インスリン様成長因子I及びII(IGF-I及びIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様成長因子結合タンパク質;CDタンパク質、例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、及びCD20;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン、例えば、インターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ、及びインターフェロン-ガンマ;コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M-CSF、GM-CSF、及びG-CSF;インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原、例えば、AIDSエンベロープの一部分など;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;調節タンパク質;インテグリン、例えば、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4、及びVCAM;腫瘍関連抗原、例えば、HER2、HER3、またはHER4受容体;ならびに上述のポリペプチドのうちのいずれかの断片が含まれる。
【0093】
(i)抗原の調製
他の分子に任意にコンジュゲートされる可溶性抗原またはその断片は、抗体を生成するための免疫原として使用され得る。受容体などの膜貫通分子の場合、これらの断片(例えば、受容体の細胞外ドメイン)が免疫原として使用され得る。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞が免疫原として使用され得る。かかる細胞は、天然源(例えば、がん細胞株)に由来し得るか、または膜貫通分子を発現するように組換え技法により形質転換された細胞であり得る。抗体の調製に有用な他の抗原及びその形態は、当業者には明らかであろう。
【0094】
(ii)ある特定の抗体に基づく方法
ポリクローナル抗体は好ましくは、関連抗原及びアジュバントの複数回皮下(sc)または腹腔内(ip)注射により、動物内に産生される。二官能性物質または誘導体化剤、例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシイミドエステル(システイン残基を介するコンジュゲーション)、N-ヒドロキシスクシイミド(リジン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl、またはRN=C=NR(式中、R及びRは異なるアルキル基である)を使用して、関連抗原を、免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えば、キーホールリンペットヘモシニアン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、またはダイズトリプシン阻害剤にコンジュゲートすることが有用であり得る。
【0095】
動物は、例えば、100μgまたは5μgのタンパク質またはコンジュゲート(それぞれ、ウサギまたはマウスの場合)を3体積のフロイント完全アジュバントと組み合わせ、複数の部位で溶液を皮内注射することにより、抗原、免疫原性コンジュゲート、または誘導体に対して免疫化される。1ヶ月後、動物は、複数の部位での皮下注射により、フロイント完全アジュバント中のペプチドまたはコンジュゲートの最初の量の1/5~1/10で追加免疫される。7~14日後、動物が採血され、血清が抗体力価に関してアッセイされる。動物は、力価が水平状態になるまで追加免疫される。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なるタンパク質にコンジュゲートされた抗原及び/または異なる架橋試薬によりコンジュゲートされた抗原で追加免疫される。コンジュゲートは、タンパク質融合物として組換え細胞培養中でも作製され得る。また、ミョウバンなどの凝集剤が、免疫応答を増強するために好適に使用される。
【0096】
本発明のモノクローナル抗体は、まず、Kohler et al.,Nature,256:495(1975)により記載され、例えば、Hongo et al.,Hybridoma,14(3):253-260(1995)、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)、Hammerling et al.,in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier,N.Y.,1981)、及びNi,Xiandai Mianyixue,26(4):265-268(2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマに関する)にさらに記載されているハイブリドーマ法を使用して作製され得る。追加の方法には、例えば、ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒト天然IgM抗体の産生に関して、米国特許第7,189,826号に記載されているものが含まれる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)は、Vollmers and Brandlein,Histology and Histopathology,20(3):927-937(2005)及びVollmers and Brandlein,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology,27(3):185-91(2005)に記載されている。
【0097】
様々な他のハイブリドーマ技法に関しては、例えば、US2006/258841、US2006/183887(完全ヒト抗体)、US2006/059575、US2005/287149、US2005/100546、US2005/026229、ならびに米国特許第7,078,492号及び同第7,153,507号を参照されたい。ハイブリドーマ法を使用してモノクローナル抗体を産生するための例示的なプロトコルが以下に記載される。一実施形態において、マウスまたはハムスターなどの他の適切な宿主動物は、免疫化に使用されるタンパク質に特異的に結合する抗体を産生するか、またはその抗体を産生することができるリンパ球を誘発するように免疫化される。抗体は、本発明のポリペプチドまたはその断片、及びアジュバント、例えば、モノホスホリル脂質A(MPL)/ジクリノミコール酸トレハロース(TDM)(Ribi Immunochem.Research,Inc.,Hamilton,Mont.)の複数回の皮下(sc)または腹腔内(ip)注射により動物内に産生される。本発明のポリペプチド(例えば、抗原)またはその断片は、組換え方法などの当該技術分野で周知の方法を使用して調製することができ、これらのうちのいくつかは、本明細書にさらに記載される。免疫化された動物由来の血清が抗抗原抗体に関してアッセイされ、ブースター免疫化が任意に投与される。抗抗原抗体を産生する動物由来のリンパ球が単離される。あるいは、リンパ球は、インビトロで免疫化され得る。
【0098】
次いで、リンパ球は、ポリエチレングリコールなどの好適な融合剤を使用して骨髄腫細胞に融合し、ハイブリドーマ細胞を形成する。例えば、Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59-103 Academic Press,(1986)を参照されたい。効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高レベルの抗体産生を支援し、かつHAT培地などの培地に感受性を示す骨髄腫細胞が使用され得る。例示的な骨髄腫細胞には、マウス骨髄腫株、例えば、Salk Institute Cell Distribution Center,San Diego,Calif.USAから入手可能なMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍由来のもの、ならびにAmerican Type Culture Collection,Rockville,Md.USA.から入手可能なSP-2またはX63-Ag8-653細胞が含まれるが、これらに限定されない。ヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株も、ヒトモノクローナル抗体の産生に関して記載されている(Kozbor,J.Immunol.,133:3001(1984)、Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63 Marcel Dekker,Inc.,New York(1987)。
【0099】
そのように調製されたハイブリドーマ細胞は、播種され、好適な培養培地、例えば、融合していない親骨髄腫細胞の成長または生存を阻害する1つ以上の物質を含有する培地で成長する。例えば、親骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマのための培養培地は、典型的には、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン(HAT培地)を含み、これらの物質は、HGPRT欠損細胞の成長を防止する。好ましくは、例えば、Even et al.,Trends in Biotechnology,24(3),105-108(2006)に記載されているように、ウシ胎仔血清などの動物由来の血清の使用を低減するために、無血清ハイブリドーマ細胞培養法が使用される。
【0100】
ハイブリドーマ細胞培養の生産性を改善するためのツールとしてのオリゴペプチドは、Franek,Trends in Monoclonal Antibody Research,111-122(2005)に記載されている。具体的には、標準の培養培地がある特定のアミノ酸(アラニン、セリン、アスパラギン、プロリン)、またはタンパク質加水分解画分で富化され、アポトーシスが3~6つのアミノ酸残基から構成される合成オリゴペプチドにより著しく抑制され得る。これらのペプチドは、ミリモル濃度またはより高い濃度で存在する。
【0101】
ハイブリドーマ細胞が成長する培養培地は、本発明の抗体に結合するモノクローナル抗体の産生に関してアッセイされ得る。ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降またはインビトロ結合アッセイ、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)により決定され得る。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、スキャッチャード分析により決定され得る。例えば、Munson et al.,Anal.Biochem.,107:220(1980)を参照されたい。
【0102】
所望の特異性、親和性、及び/または活性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞が特定された後、クローンは、限界希釈手順によりサブクローニングされ得、標準の方法により成長し得る。例えば、Goding(上記参照)を参照されたい。この目的に好適な培養培地には、例えば、D-MEMまたはRPMI-1640培地が含まれる。加えて、ハイブリドーマ細胞は、動物における腹水腫瘍としてインビボで成長し得る。サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体は、例えば、タンパク質A-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、または親和性クロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順により、培養培地、腹水、または血清から好適に分離される。タンパク質をハイブリドーマ細胞から単離する1つの手順が、US2005/176122及び米国特許第6,919,436号に記載されている。この方法は、結合過程で離液性塩などの最小限の塩を使用することを含み、好ましくは、溶出過程で少量の有機溶媒を使用することも含む。
【0103】
(iii)ある特定のライブラリスクリーニング方法
本発明の抗体は、コンビナトリアルライブラリを使用して、所望の活性(複数可)を有する抗体に関してスクリーニングすることにより作製され得る。例えば、ファージディスプレイライブラリを生成し、所望の結合特徴を保有する抗体に関するかかるライブラリをスクリーニングするための様々な方法が当該技術分野で知られている。かかる方法は一般に、Hoogenboom et al.in Methods in Molecular Biology 178:1-37,O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,N.J.,(2001)に記載されている。例えば、目的とする抗体を生成する1つの方法は、Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-93(2004)に記載されているようなファージ抗体ライブラリの使用による。
【0104】
原則として、合成抗体クローンは、ファージコートタンパク質に融合した抗体可変領域(Fv)の様々な断片をディスプレイするファージを含むファージライブラリをスクリーニングすることにより選択される。かかるファージライブラリは、所望の抗原に対する親和性クロマトグラフィーによりパニングされる。所望の抗原に結合することができるFv断片を発現するクローンは、抗原に吸着し、故に、ライブラリ内の非結合クローンから分離される。次いで、結合クローンは、抗原から溶出し、追加の抗原吸着/溶出サイクルによりさらに富化され得る。本発明の抗体のうちのいずれも、目的とするファージクローンに関して選択するのに好適な抗原スクリーニング手順を設計して、続いて、目的とするファージクローン由来のFv配列、及びKabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 1-3:91-3242,Bethesda Md.(1991)に記載されている好適な定常領域(Fc)配列を使用する完全長抗体クローンの構築により得ることができる。
【0105】
ある特定の実施形態において、抗体の抗原結合ドメインは、約110個のアミノ酸を有する2つの可変(V)領域から形成され、各々が軽(VL)鎖及び重(VH)鎖由来であり、両方が3つの超可変ループ(HVR)または相補性決定領域(CDR)を提示する。可変ドメインは、Winter et al.,Ann.Rev.Immunol.,12:433-455(1994)に記載されているように、VH及びVLが短い柔軟性ペプチドを介して共有連結される一本鎖Fv(scFv)断片として、またはそれらが各々定常ドメインに融合して非共有結合的に相互作用するFab断片としてのいずれかで、ファージ上に機能的にディスプレイされ得る。本明細書で使用される場合、scFvをコードするファージクローン及びFabをコードするファージクローンは、集合的に「Fvファージクローン」または「Fvクローン」と称される。
【0106】
VH及びVL遺伝子のレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により別個にクローニングされ、ファージライブラリ内でランダムに組換えられ得、次いで、これは、Winter et al.,Ann.Rev.Immunol.,12:433-455(1994)に記載されているように、抗原結合クローンに関して検索され得る。免疫化源由来のライブラリは、ハイブリドーマの構築を必要とすることなく、高親和性抗体を免疫原に提供する。あるいは、ナイーブレパートリーは、Griffiths et al.,EMBO J,12:725-734(1993)に記載されているように、クローニングされて、いずれの免疫化も伴うことなく、単一のヒト抗体源を広範囲の非自己抗原及び自己抗原に提供することができる。最後に、ナイーブライブラリは、Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381-388(1992)に記載されているように、幹細胞由来の再配置されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、かつランダム配列を含むPCRプライマーを使用することによっても合成的に作製されて、高度可変CDR3領域をコードし、インビトロでの再配置を達成することができる。
【0107】
ある特定の実施形態において、マイナーコートタンパク質pIIIへの融合により抗体断片をディスプレイするために、線維状ファージが使用される。抗体断片は、例えば、Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載されているように、VH及びVLドメインが柔軟性ポリペプチドスペーサーにより同じポリペプチド鎖上で接続される一本鎖Fv断片として、または、例えば、Hoogenboom et al.,Nucl.Acids Res.,19:4133-4137(1991)に記載されているように、一方の鎖がpIIIに融合し、他方の鎖が細菌宿主細胞ペリプラズムに分泌され、このペリプラズムにおいて、Fabコートタンパク質構造のアセンブリが野生型コートタンパク質のうちのいくつかをディスプレイすることによりファージ表面上にディスプレイされるようになるFab断片としてディスプレイされ得る。
【0108】
一般に、抗体遺伝子断片をコードする核酸は、ヒトまたは動物から収集される免疫細胞から得られる。抗抗原クローンに好意的にバイアスされたライブラリが所望される場合、対象は、抗原で免疫化されて抗体応答を生じさせ、脾臓細胞及び/または循環B細胞、他の末梢血リンパ球(PBL)が、ライブラリ構築のために回収される。一実施形態において、抗抗原クローンに好意的にバイアスされたヒト抗体遺伝子断片ライブラリは、抗原免疫化により抗原に対するヒト抗体を産生するB細胞が生じるように、機能的ヒト免疫グロブリン遺伝子アレイを持つ(かつ機能的内因性抗体産生系を欠く)トランスジェニックマウスに抗抗原抗体応答を生じさせることにより得られる。ヒト抗体産生トランスジェニックマウスの生成は、以下に記載される。
【0109】
抗抗原反応性細胞集団のさらなる富化は、抗原特異的膜結合抗体を発現するB細胞の単離に好適なスクリーニング手順を使用することにより、例えば、抗原親和性クロマトグラフィー、または細胞の蛍光色素標識抗原への吸着、続いて、フロー活性化細胞選別(FACS)を使用した細胞分離により得ることができる。
【0110】
あるいは、免疫化されていないドナー由来の脾臓細胞及び/またはB細胞、または他のPBLの使用により、可能な抗体レパートリーのより良好な表示が提供され、抗原が抗原性ではない任意の動物(ヒトまたは非ヒト)種を使用した抗体ライブラリの構築も可能になる。インビトロ抗体遺伝子構築を組み込むライブラリの場合、幹細胞が対象から収集されて、再配置されていない抗体遺伝子セグメントをコードする核酸を提供する。目的とする免疫細胞は、様々な動物種、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、オオカミ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、及びトリ種などから得ることができる。
【0111】
抗体可変遺伝子セグメント(VH及びVLセグメントを含む)をコードする核酸は、目的とする細胞から回収され、増幅される。再配置されたVH及びVL遺伝子ライブラリの場合、所望のDNAは、Orlandi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),86:3833-3837(1989)に記載されているように、ゲノムDNAまたはmRNAをリンパ球から単離し、続いて、再配置されたVH及びVL遺伝子の5’及び3’末端に一致するプライマーとのポリメラーゼ鎖反応(PCR)を行い、それにより、発現のための多様なV遺伝子レパートリーを作製することにより得ることができる。V遺伝子は、Orlandi et al.(1989)及びWard et al.,Nature,341:544:546(1989)に記載されているように、成熟Vドメインをコードするエクソンの5’末端のバックプライマー、及びJ-セグメント内にあるフォワードプライマーを用いて、cDNA及びゲノムDNAから増幅され得る。しかしながら、cDNAから増幅するために、バックプライマーは、Jones et al.,Biotechnol.,9:88-89(1991)に記載されているようにリーダーエクソン内にもあり、フォワードプライマーは、Sastry et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),86:5728-5732(1989)に記載されているように定常領域内にもある。相補性を最大限に生かすために、Orlandi et al.(1989)またはSastry et al.(1989)に記載されているように、縮重がプライマーに組み込まれ得る。ある特定の実施形態において、ライブラリの多様性は、例えば、Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)の方法に記載されているように、またはOrum et al.,Nucleic Acids Res.,21:4491-4498(1993)の方法に記載されているように、免疫細胞核酸試料中に存在する全ての利用可能であるVH及びVL配置を増幅するために、各V遺伝子ファミリーを標的とするPCRプライマーを使用することにより最大化される。増幅されたDNAの発現ベクターへのクローニングの場合、希少制限部位が、Orlandi et al.(1989)に記載されているように、一方の端におけるタグとして、または、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)に記載されているように、タグ付けされたプライマーでのさらなるPCR増幅によりPCRプライマー内に導入され得る。
【0112】
合成的に再配置されたV遺伝子のレパートリーは、インビトロでV遺伝子セグメントから誘導され得る。ヒトVH遺伝子セグメントの大半は、クローニング及び配列決定され(Tomlinson et al.,J.Mol.Biol.,227:776-798(1992)に報告される)、及びマッピングされており(Matsuda et al.,Nature Genet.,3:88-94(1993)に報告される)、これらのクローニングされたセグメント(H1及びH2ループの全ての主な立体配座を含む)を使用して、Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381-388(1992)に記載されているように、多様な配列及び長さのH3ループをコードするPCRプライマーで多様なVH遺伝子レパートリーを生成することができる。VHレパートリーは、Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4457-4461(1992)に記載されているように、単一の長さで長いH3ループに特化した全ての配列多様性を用いても作製され得る。ヒトVκ及びVλセグメントは、クローニング及び配列決定されており(Williams and Winter,Eur.J.Immunol.,23:1456-1461(1993)に報告される)、それらを使用して、合成軽鎖レパートリーを作製することができる。合成V遺伝子レパートリーは、VH及びVLフォールドの範囲、ならびにL3及びH3の長さに基づいて、かなりの構造多様性を有する抗体をコードする。V遺伝子コードDNAの増幅後、生殖系列V遺伝子セグメントが、Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381-388(1992)の方法に従ってインビトロで再配置され得る。
【0113】
抗体断片のレパートリーは、いくつかの方法でVH遺伝子レパートリー及びVL遺伝子レパートリーを一緒に組み合わせることにより構築され得る。各レパートリーは、異なるベクターで作り出され得、これらのベクターは、例えば、Hogrefe et al.,Gene,128:119-126(1993)に記載されるように、インビトロで組換えられ得るか、またはコンビナトリアル感染、例えば、Waterhouse et al.,Nucl.Acids Res.,21:2265-2266(1993)に記載されているloxP系によりインビボで組換えられ得る。インビボ組換え手法は、Fab断片の二本鎖性質を利用して、E.coli形質転換効率により課せられるライブラリサイズの制限を打開する。ナイーブVH及びVLレパートリーは、一方がファージミドに、他方がファージベクターに別個にクローニングされる。次いで、これらの2つのライブラリは、ファージミド含有細菌のファージ感染により組み合わせられ、これにより、各細胞が異なる組み合わせを含むようになり、ライブラリサイズが存在する細胞の数(約1012個のクローン)のみにより制限されるようになる。これらのベクターはいずれもインビボ組換えシグナルを含み、これにより、VH及びVL遺伝子が単一のレプリコンに組換えられ、ファージビリオンに共パッケージングされるようになる。これらの巨大なライブラリは、良好な親和性(約10-8MのK -1)を有する多数の多様な抗体を提供する。
【0114】
あるいは、レパートリーは、例えば、Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:7978-7982(1991)に記載されているように同じベクターに順次にクローニングされ得るか、またはPCRにより一つにアセンブルされ、次いで、例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)に記載されているようにクローニングされ得る。PCRアセンブリを使用して、VH及びVL DNAを、柔軟性ペプチドスペーサーをコードするDNAと連結して、一本鎖Fv(scFv)レパートリーを形成することもできる。なお別の技法において、Embleton et al.,Nucl.Acids Res.,20:3831-3837(1992)に記載されているように、PCRによりリンパ球内のVH及びVL遺伝子を組み合わせ、次いで、連結された遺伝子のレパートリーをクローニングするために、「細胞内PCRアセンブリ」が使用される。
【0115】
ナイーブライブラリ(天然または合成のいずれか)により産生された抗体は、中程度の親和性(約10~10-1のK -1)を有するものであり得るが、親和性成熟は、Winter et al.(1994)(上記参照)に記載されているように、二次ライブラリを構築し、かつそれから再選択することによりインビトロで模倣され得る。例えば、突然変異は、Hawkins et al.,J.Mol.Biol.,226:889-896(1992)の方法か、またはGram et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA,89:3576-3580(1992)の方法にある変異性ポリメラーゼ(Leung et al.,Technique 1:11-15(1989)に報告される)を使用することによりランダムインビトロで導入され得る。加えて、親和性成熟は、選択された個別のFvクローンにおいて、1つ以上のCDRをランダムに突然変異させることにより、例えば、目的とするCDRに及ぶランダム配列を持つプライマーでのPCRを使用し、より高い親和性のクローンに関してスクリーニングすることにより行われ得る。WO9607754(1996年3月14日公開)は、免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域における突然変異誘発を誘導して、軽鎖遺伝子のライブラリを作り出すための方法を記載している。別の有効な手法は、Marks et al.,Biotechnol.,10:779-783(1992)に記載されているように、免疫化されていないドナーから得られた天然に存在するVドメイン変異形のレパートリーを用いてファージディスプレイにより選択されたVHまたはVLドメインを組換え、いくつかの鎖リシャッフリングラウンドでより高い親和性に関してスクリーニングすることである。この技法により、約10-9M以下の親和性を有する抗体及び抗体断片の産生が可能になる。
【0116】
ライブラリのスクリーニングは、当該技術分野で既知の様々な技法により達成され得る。例えば、抗原は、吸着プレートに付着した宿主細胞で発現された吸着プレートのウェルを被覆するために使用され得るか、または細胞選別で使用され得るか、またはストレプトアビジン被覆ビーズで捕捉するためにビオチンにコンジュゲートされ得るか、またはファージディスプレイライブラリをパニングするための任意の他の方法で使用され得る。
【0117】
ファージライブラリ試料は、吸着剤を用いてファージ粒子の少なくとも一部分への結合に好適な条件下で固定化抗原と接触する。通常、pH、イオン強度、温度などを含む条件は、生理学的条件を模倣するように選択される。固相に結合したファージは洗浄され、次いで、例えば、Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA,88:7978-7982(1991)に記載されているように、酸により、または、例えば、Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載されているように、アルカリにより、または、例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)の抗原競合方法と類似の手順で抗原競合により溶出される。ファージは、単一の選択ラウンドで20~1,000倍富化され得る。さらに、富化されたファージは、細菌培養中で成長し、さらなる選択ラウンドに供され得る。
【0118】
選択の効率は、洗浄中の解離速度、及び単一のファージ上の複数の抗体断片が抗原と同時に会合し得るかを含む多くの要因に依存する。速い解離速度(及び弱い結合親和性)を有する抗体は、短時間の洗浄、多価ファージディスプレイ、及び固相中の抗原の高被覆密度の使用により保持され得る。高密度は、多価相互作用によりファージを安定させるだけでなく、解離したファージの再結合にも有利に働く。遅い解離速度(及び良好な結合親和性)を有する抗体の選択は、Bass et al.,Proteins,8:309-314(1990)及びWO92/09690に記載されているように、長時間の洗浄及び一価ファージディスプレイの使用、ならびにMarks et al.,Biotechnol.,10:779-783(1992)に記載されているように、抗原の低被覆密度の使用により促進され得る。
【0119】
わずかに異なる親和性しか有しなくとも、抗原に対して異なる親和性を有するファージ抗体間での選択が可能である。しかしながら、選択された抗体のランダム突然変異(例えば、いくつかの親和性成熟技法で行われる)により、大半が抗原に結合し、数個のみより高い親和性を有する多くの突然変異体が生み出される可能性がある。抗原を制限することにより、希少高親和性ファージが競合排除され得る。全てのより高い親和性の突然変異体を保持するために、ファージは、抗原に対して一定の標的モル親和性よりも低いモル濃度のビオチン化抗原ではなく、過剰ビオチン化抗原とインキュベートされ得る。次いで、高親和性結合ファージは、ストレプトアビジン被覆常磁性ビーズにより捕捉され得る。かかる「平衡捕捉」により、わずか2倍高い親和性を有する突然変異体クローンの、より低い親和性を有するかなりの過剰なファージからの単離を可能にする感度で、抗体がそれらの結合親和性に従って選択されることが可能になる。解離速度に基づいて区別するために、固相に結合したファージを洗浄する際に使用される条件を操作することもできる。
【0120】
抗抗原クローンは、活性に基づいて選択され得る。ある特定の実施形態において、本発明は、抗原を自然に発現する生細胞に結合するか、または浮遊抗原もしくは他の細胞構造に付着した抗原に結合する抗抗原抗体を提供する。かかる抗抗原抗体に対応するFvクローンは、(1)上述のように抗抗原クローンをファージライブラリから単離し、任意に、ファージクローンの単離集団を、その集団を好適な細菌宿主で成長させることにより増幅すること、(2)それぞれ、遮断及び非遮断活性が所望される抗原及び第2のタンパク質を選択すること、(3)抗抗原ファージクローンを固定化抗原に吸着させること、(4)過剰な第2のタンパク質を使用して、第2のタンパク質の結合決定基と重複するか、またはそれと共有される抗原結合決定基を認識するいずれの所望されないクローンも溶出すること、ならびに(5)ステップ(4)の後に吸着したまま留まっているクローンを溶出することにより選択され得る。任意に、所望の遮断/非遮断特性を有するクローンは、本明細書に記載の選択手順を1回以上繰り返すことによりさらに富化され得る。
【0121】
本発明のハイブリドーマ由来モノクローナル抗体またはファージディスプレイFvクローンをコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、ハイブリドーマまたはファージDNA鋳型から目的とする重鎖及び軽鎖コード領域を特異的に増幅するように設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用することにより)容易に単離及び配列決定される。単離されると、DNAは、発現ベクター内に置かれ、次いで、それらは、免疫グロブリンタンパク質を別様に産生しないE.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトされて、組換え宿主細胞における所望のモノクローナル抗体の合成が得られる。抗体コードDNAの細菌における組換え発現に関する概説には、Skerra et al.,Curr.Opinion in Immunol.,5:256(1993)、及びPluckthun,Immunol.Revs,130:151(1992)が含まれる。
【0122】
本発明のFvクローンをコードするDNAは、重鎖及び/または軽鎖定常領域をコードする既知のDNA配列(例えば、適切なDNA配列はKabat et al.,(上記参照)から得ることができる)と組み合わせられて、完全長または部分長重鎖及び/または軽鎖をコードするクローンを形成することができる。IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgE定常領域を含む任意のアイソタイプの定常領域がこの目的のために使用され得、かかる定常領域が任意のヒトまたは動物種から得ることができることが理解される。ある動物(ヒトなど)種の可変ドメインDNAから誘導され、次いで、別の動物種の定常領域DNAに融合して、「ハイブリッド」完全長重鎖及び/または軽鎖のコード配列(複数可)を形成するFvクローンは、本明細書で使用されるような「キメラ」及び「ハイブリッド」抗体の定義に含まれる。ある特定の実施形態において、ヒト可変DNAから誘導されたFvクローンは、ヒト定常領域DNAに融合して、完全長または部分長ヒト重鎖及び/または軽鎖のコード配列(複数可)を形成する。
【0123】
本発明のハイブリドーマに由来する抗抗原抗体をコードするDNAは、例えば、ハイブリドーマクローンに由来する相同マウス配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列を置換することによっても修飾され得る(例えば、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984)の方法にあるように)。ハイブリドーマ由来抗体またはFvクローン由来抗体もしくは断片をコードするDNAは、免疫グロブリンコード配列に、非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全てまたは一部を共有連結することによりさらに修飾され得る。この様式で、本発明のFvクローンまたはハイブリドーマクローン由来の抗体の結合特異性を有する「キメラ」または「ハイブリッド」抗体が調製される。
【0124】
(iv)ヒト化及びヒト抗体
非ヒト抗体をヒト化するための様々な方法が当該技術分野で知られている。例えば、ヒト化抗体は、非ヒトである源からそれに導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしば、「移入」残基と称され、これらは典型的には、「移入」可変ドメインから得られる。ヒト化は本質的に、Winter及び同僚(Jones et al.,Nature,321:522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature,332:323-327(1988)、Verhoeyen et al.,Science,239:1534-1536(1988))の方法に従って、齧歯類CDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列に置換することにより行われ得る。したがって、かかる「ヒト化」抗体は、実質的に無傷のヒト可変ドメイン未満が、非ヒト種からの対応する配列により置換されたキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。実際には、ヒト化抗体は典型的には、いくつかのCDR残基及び場合によってはいくつかのFR残基が齧歯類抗体における類似の部位由来の残基により置換されるヒト抗体である。
【0125】
ヒト化抗体の作製に使用されるヒト可変ドメインの選択は、軽鎖及び重鎖のいずれも、抗原性を低減させるのに非常に重要である。いわゆる「最良適合」法に従って、齧歯類抗体の可変ドメインの配列は、既知のヒト可変ドメイン配列の全ライブラリに対してスクリーニングされる。次いで、齧歯類のものに最も近いヒト配列が、ヒト化抗体のためのヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れられる(Sims et al.,J.Immunol.,151:2296(1993)、Chothia et al.,J.Mol.Biol.,196:901(1987))。別の方法は、軽鎖または重鎖の特定の下位群の全てのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークを使用する。同じフレームワークがいくつかの異なるヒト化抗体に使用され得る(Carter et al.,Proc.Natl.Acad Sci.USA,89:4285(1992)、Presta et al.,J.Immunol.,151:2623(1993))。
【0126】
抗体が抗原に対する高親和性及び他の好ましい生物学的特性を保持してヒト化されることがさらに重要である。この目標を達成するために、本方法の一実施形態によると、ヒト化抗体は、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用した親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析過程により調製される。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に利用可能であり、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推定三次元立体配座構造を図解及び表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示の検査により、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能な役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンのその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このように、標的抗原(複数可)に対する親和性の増加などの所望の抗体特徴が達成されるように、FR残基がレシピエント及び移入配列から選択され、組み合わせられ得る。一般に、超可変領域残基は、抗原結合への影響に直接かつ最も実質的に関与する。
【0127】
本発明のヒト抗体は、上述のように、ヒト由来のファージディスプレイライブラリから選択されたFvクローン可変ドメイン配列(複数可)を既知のヒト定常ドメイン配列(複数可)と組み合わせることにより構築され得る。あるいは、本発明のヒトモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法により作製され得る。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株が、例えば、Kozbor J.Immunol.,133:3001(1984)、Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,Marcel Dekker,Inc.,New York,pp.51-63(1987)、及びBoerner et al.,J.Immunol.,147:86(1991)により記載されている。
【0128】
内因性免疫グロブリン産生の不在下で免疫化時にヒト抗体の全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を産生することが可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(J)遺伝子のホモ接合型欠失により、内因性抗体産生の完全な阻害がもたらされることが記載されている。かかる生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入により、抗原曝露時にヒト抗体の産生がもたらされる。例えば、Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993)、Jakobovits et al.,Nature,362:255-258(1993)、Bruggermann et al.,Year in Immuno.,7:33(1993)、及びDuchosal et al.Nature 355:258(1992)を参照されたい。
【0129】
遺伝子シャッフリングを使用して、ヒト抗体を非ヒト抗体、例えば、齧歯類抗体から誘導することもでき、ヒト抗体は、出発非ヒト抗体と類似の親和性及び特異性を有する。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法に従って、本明細書に記載のファージディスプレイ技法により得られた非ヒト抗体断片の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のいずれかが、ヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで置き換えられ、非ヒト鎖/ヒト鎖scFvまたはFabキメラ集団を作り出す。抗原を用いた選択により、非ヒト鎖/ヒト鎖キメラscFvまたはFabの単離がもたらされ、ここで、ヒト鎖が一次ファージディスプレイクローンにおける対応する非ヒト鎖の除去時に破壊された抗原結合部位を復元する、すなわち、エピトープがヒト鎖パートナーの選択を管理する(インプリントする)。残りの非ヒト鎖を置き換えるためにこの過程が繰り返されると、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日公開のPCT WO93/06213を参照されたい)。CDRグラフティングによる非ヒト抗体の伝統的なヒト化とは異なり、この技法は、非ヒト起源のFRまたはCDR残基を有しない完全なヒト抗体を提供する。
【0130】
(v)抗体断片
抗体断片は、酵素消化などの伝統的な手段または組換え技法により生成され得る。ある特定の状況において、全抗体ではなく抗体断片を使用する利点がある。より小さいサイズの断片により、迅速なクリアランスが可能になり、固形腫瘍へのアクセスの改善がもたらされ得る。ある特定の抗体断片の概説に関しては、Hudson et al.Nat.Med.9:129-134(2003)を参照されたい。
【0131】
抗体断片を産生するための様々な技法が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷抗体のタンパク質分解消化により得られた(例えば、Morimoto et al.,Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117(1992)、及びBrennan et al.,Science,229:81(1985)を参照されたい)。しかしながら、これらの断片は、現在、組換え宿主細胞により直接産生され得る。Fab、Fv、及びScFv抗体断片が全て、E.coliで発現され、E.coliから分泌され得るため、これらの断片の容易な大量産生が可能になる。抗体断片は、上記で論じられた抗体ファージライブラリから単離され得る。あるいは、Fab’-SH断片は、E.coliから直接回収され、化学的にカップリングされて、F(ab’)断片を形成することができる(Carter et al.,Bio/Technology 10:163-167(1992))。別のアプローチに従って、F(ab’)断片は、組換え宿主細胞培養から直接単離され得る。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含むインビボ半減期が増加したFab及びF(ab’)断片が、米国特許第5,869,046号に記載されている。抗体断片を産生するための他の技法は、当業者に明らかであろう。ある特定の実施形態において、抗体は、一本鎖Fv断片(scFv)である。WO93/16185、米国特許第5,571,894号、及び同第5,587,458号を参照されたい。Fv及びscFvは、定常領域を欠く無傷な結合部位を有する唯一の種であり、故に、それらは、インビボでの使用中の非特異的結合の低減に好適であり得る。scFv融合タンパク質が構築されて、scFvのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかでのエフェクタータンパク質の融合をもたらすことができる。Antibody Engineering,ed.Borrebaeck(上記参照)を参照されたい。抗体断片は、例えば、米国特許第5,641,870号に記載されているような「直鎖状抗体」でもあり得る。かかる直鎖状抗体は、単一特異性または二重特異性であり得る。
【0132】
(vi)多重特異性抗体
多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有し、これらのエピトープは通常、異なる抗原由来である。かかる分子が通常2つの異なるエピトープのみに結合する(すなわち、二重特異性抗体、BsAb)一方で、三重特異性抗体などの追加の特異性を有する抗体は、本明細書で使用される場合、この表現により包含される。二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製され得る(例えば、F(ab’)二重特異性抗体)。
【0133】
二重特異性抗体を作製するための方法が当該技術分野で知られている。完全長二重特異性抗体の伝統的な産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づき、これらの2つの鎖は、異なる特異性を有する(Millstein et al.,Nature,305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のランダムな分類により、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、10個の異なる抗体分子の可能性のある混合物を産生し、それらのうちの1つのみが正しい二重特異性構造を有する。親和性クロマトグラフィーステップにより通常行われる正しい分子の精製はやや厄介であり、生成物収率は低い。類似の手順がWO93/08829及びTraunecker et al.,EMBO J.,10:3655-3659(1991)に開示されている。
【0134】
異なる手法によると、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体-抗原結合部位)が免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合する。この融合は好ましくは、ヒンジ、CH2、及びCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。融合物のうちの少なくとも1つに存在する軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を有することが典型的である。免疫グロブリン重鎖融合物、及び、所望の場合、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、別個の発現ベクターに挿入され、好適な宿主生物に共トランスフェクトされる。これにより、構築に使用される3つのポリペプチド鎖の不等比が最適収率を提供する実施形態において、3つのポリペプチド断片の相互割合の調整時に高い柔軟性が提供される。しかしながら、等比での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現により高収率がもたらされる場合、またはそれらの比率が特に重要ではない場合に、2つまたは3つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を1つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0135】
この手法の一実施形態において、二重特異性抗体は、一方のアームにおける第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、他方のアームにおけるハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分のみにおける免疫グロブリン軽鎖の存在により容易な分離法が提供されるため、この非対称構造が、所望の二重特異性化合物の望ましくない免疫グロブリン鎖の組み合わせからの分離を容易にすることが見出された。この手法は、WO94/04690に開示されている。二重特異性抗体の生成のさらなる詳細に関しては、例えば、Suresh et al.,Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照されたい。
【0136】
WO96/27011に記載されている別の手法によると、一対の抗体分子間の界面は、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体の割合を最大化するように操作され得る。1つの界面は、抗体定常ドメインのC3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法において、第1の抗体分子の界面由来の1つ以上の小さいアミノ酸側鎖は、より大きい側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えられる。大きい側鎖(複数可)と同一または類似のサイズの補償「空洞」は、大きいアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(例えば、アラニンまたはトレオニン)で置き換えることにより第2の抗体分子の界面上に作り出される。これにより、ホモ二量体などの他の望ましくない最終産物よりもヘテロ二量体の収率を増加させるための機構が提供される。
【0137】
二重特異性抗体には、架橋または「ヘテロコンジュゲート」抗体が含まれる。例えば、ヘテロコンジュゲート中の抗体の一方がアビジンにカップリングし、他方がビオチンにカップリングし得る。かかる抗体は、例えば、望ましくない細胞を免疫系細胞の標的とするために(米国特許第4,676,980号)、かつHIV感染を治療するために(WO91/00360、WO92/200373、及びEP03089)提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の好都合な架橋法を使用して作製され得る。好適な架橋剤が当該技術分野で周知されており、いくつかの架橋技法とともに米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0138】
抗体断片から二重特異性抗体を生成するための技法もこの文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学連結を使用して調製され得る。Brennan et al.,Science 229:81(1985)は、無傷抗体がタンパク質分解的に切断されてF(ab’)断片を生成する手順を記載している。これらの断片は、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元されて、隣接するジチオールを安定させ、分子間ジスルフィド形成を防止する。次いで、生成されたFab’断片は、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換される。次いで、Fab’-TNB誘導体の一方がメルカプトエチルアミンでの還元によりFab’-チオールに再変換され、等モル量の他方のFab’-TNB誘導体と混合されて、二重特異性抗体を形成する。産生された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化用の作用物質として使用され得る。
【0139】
近年の進歩により、化学的にカップリングされて二重特異性抗体を形成することができるFab’-SH断片のE.coliからの直接回収が容易になった。Shalaby et al.,J.Exp.Med.,175:217-225(1992)は、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)分子の産生を記載している。各Fab’断片は、E.coliから別個に分泌され、インビトロで直接化学的カップリングに供されて、二重特異性抗体を形成した。
【0140】
二重特異性抗体断片を組換え細胞培養から直接作製及び単離するための様々な技法についても記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを使用して産生されている。Kostelny et al.,J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)。Fos及びJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合により2つの異なる抗体のFab’部分に連結した。抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元してモノマーを形成し、次いで、再酸化して抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法は、抗体ホモ二量体の産生にも利用され得る。Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)により記載されている「ダイアボディ」技術により、二重特異性抗体断片を作製するための代替機構が提供されている。断片は、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーにより軽鎖可変ドメイン(V)に接続した重鎖可変ドメイン(V)を含む。したがって、1つの断片のV及びVドメインは、別の断片の相補的V及びVドメインと対合させられ、それにより、2つの抗原結合部位を形成する。一本鎖Fv(sFv)二量体を使用することにより二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略も報告されている。Gruber et al,J.Immunol,152:5368(1994)を参照されたい。
【0141】
2より多くの原子価を有する抗体が企図される。例えば、三重特異性抗体が調製され得る。Tuft et al.,J.Immunol.147:60(1991)。
【0142】
(vii)単一ドメイン抗体
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、単一ドメイン抗体である。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てもしくは一部分または軽鎖可変ドメインの全てもしくは一部分を含む単一のポリペプチド鎖である。ある特定の実施形態において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,Mass.、例えば、米国特許第6,248,516号を参照されたい)。一実施形態において、単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てまたは一部からなる。
【0143】
(viii)抗体変異形
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体のアミノ酸配列修飾(複数可)が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/または他の生物学的特性を改善することが望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列変異形は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な変化を導入することにより、またはペプチド合成により調製され得る。かかる修飾には、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/またはそれへの挿入、及び/またはその置換が含まれる。欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせが行われて、最終構築物に到達することができるが、但し、最終構築物が所望の特徴を保有することを条件とする。主題の抗体アミノ酸配列が作製された時点で、アミノ酸改変がその配列に導入され得る。
【0144】
(ix)抗体誘導体
本発明の抗体は、当該技術分野で既知であり、かつ容易に利用可能である追加の非タンパク質性部分を含有するようにさらに修飾され得る。ある特定の実施形態において、抗体の誘導体化に好適な部分は、水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例には、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のため、製造時に有利であり得る。ポリマーは、任意の分子量のものであり得、分岐状または非分岐状であり得る。抗体に付着するポリマーの数は異なり得、1つよりも多くのポリマーが付着する場合、それらは同じ分子であっても異なる分子であってもよい。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/または種類は、改善される抗体の特定の特性または機能、抗体誘導体が定義された条件下である療法に使用されるかなどを含むが、これらに限定されない考慮すべき事項に基づいて決定され得る。
【0145】
(x)ベクター、宿主細胞、組換え法
抗体は、組換え方法を使用して産生することもできる。抗抗原抗体の組換え産生に関して、抗体をコードする核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のために複製可能なベクターに挿入される。抗体をコードするDNAは、容易に単離され得、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)配列決定され得る。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分は一般に、以下のもの、すなわち、シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終結配列のうちの1つ以上を含むが、これらに限定されない。
【0146】
(a)シグナル配列成分
本発明の抗体は、直接のみならず、異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとしても組換え的に産生され得、この異種ポリペプチドは好ましくは、成熟タンパク質またはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有するシグナル配列または他のポリペプチドである。選択された異種シグナル配列は好ましくは、宿主細胞により認識及び処理される(例えば、シグナルペプチダーゼにより切断される)ものである。天然抗体シグナル配列を認識も処理もしない原核宿主細胞に関して、シグナル配列は、例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、または熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核シグナル配列により置換される。酵母分泌に関して、天然シグナル配列は、例えば、酵母インベルターゼリーダー、因子リーダー(Saccharomyces及びKluyveromyces α-因子リーダーを含む)、もしくは酸性ホスファターゼリーダー、C.albicansグルコアミラーゼリーダー、またはWO90/13646に記載されているシグナルにより置換され得る。哺乳動物細胞発現において、哺乳動物シグナル配列、ならびにウイルス分泌リーダー、例えば、単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。
【0147】
(b)複製起点
発現ベクター及びクローニングベクターのいずれも、ベクターが1つ以上の選択された宿主細胞内で複製することを可能にする核酸配列を含む。一般に、クローニングベクターにおいて、この配列は、ベクターが宿主染色体DNAとは無関係に複製することを可能にする配列であり、複製起点または自己複製配列を含む。かかる配列は、様々な細菌、酵母、及びウイルスに関して周知されている。プラスミドpBR322由来の複製起点が大半のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド起点が酵母に好適であり、様々なウイルス起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、またはBPV)が哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般に、複製起点成分は、哺乳動物発現ベクターに必要とされない(SV40起点は、初期プロモーターを含むという理由だけで、典型的に使用され得る)。
【0148】
(c)遺伝子成分の選択
発現ベクター及びクローニングベクターは、選択可能なマーカーとも命名される選択遺伝子を含み得る。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質もしくは他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、もしくはテトラサイクリンへの耐性を与えるか、(b)栄養要求性欠損を補完するか、または(c)複合培地から入手不可能な重要な栄養素を供給するタンパク質、例えば、Bacilliに関してD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子をコードする。
【0149】
選択スキームの一例は、宿主細胞の成長を停止させる薬物を利用する。異種遺伝子での形質転換に成功した細胞は、薬物耐性を与えるタンパク質を産生し、故に選択レジメンに耐え抜く。かかる優性選択の例は、薬物であるネオマイシン、ミコフェノール酸、及びハイグロマイシンを使用する。
【0150】
哺乳動物細胞に好適な選択可能なマーカーの別の例は、抗体コード核酸、例えば、DHFR、グルタミンシンテターゼ(GS)、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン-I及び-II、好ましくは、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなどを取り込むための細胞成分の特定を可能にするものである。
【0151】
例えば、DHFR遺伝子で形質転換された細胞は、DHFRの競合アンタゴニストであるメトトレキサート(Mtx)を含有する培養培地中で形質転換体を培養することにより特定される。これらの条件下で、DHFR遺伝子は、任意の他の共形質転換された核酸とともに増幅される。内因性DHFR活性が欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(例えば、ATCC CRL-9096)が使用され得る。
【0152】
あるいは、GS遺伝子で形質転換された細胞は、GS阻害剤であるL-メチオニンスルホキシミン(Msx)を含有する培養培地中で形質転換体を培養することにより特定される。これらの条件下で、GS遺伝子は、任意の他の共形質転換された核酸とともに増幅される。GS選択/増幅系が、上述のDHFR選択/増幅系と組み合わせて使用され得る。
【0153】
あるいは、目的とする抗体をコードするDNA配列、野生型DHFR遺伝子、及び別の選択可能なマーカー、例えば、アミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼ(APH)で形質転換または共形質転換された宿主細胞(具体的には、内因性DHFRを含む野生型宿主)は、選択可能なマーカー、例えば、アミノグリコシド抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシン、またはG418用の選択剤を含有する培地中で成長した細胞により選択され得る。米国特許第4,965,199号を参照されたい。
【0154】
酵母での使用に好適な選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7中に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb et al.,Nature,282:39(1979))。trp1遺伝子は、トリプトファン中で成長する能力を欠く酵母の突然変異菌株に対する選択マーカー、例えば、ATCC番号44076またはPEP4-1を提供する。Jones,Genetics,85:12(1977)。次いで、酵母宿主細胞ゲノム中でのtrp1病変の存在により、トリプトファンの不在下での成長による形質転換の検出に有効な環境が提供される。同様に、Leu2が欠損した酵母菌株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を持つ既知のプラスミドにより補完される。
【0155】
加えて、1.6μmの環状プラスミドpKD1由来のベクターが、Kluyveromyces酵母の形質転換に使用され得る。あるいは、組換え仔牛キモシンの大規模産生のための発現系として、K.lactisが報告された。Van den Berg,Bio/Technology,8:135(1990)。Kluyveromycesの工業用菌株による成熟組換えヒト血清アルブミンの分泌のための安定した多コピー発現ベクターも開示されている。Fleer et al.,Bio/Technology,9:968-975(1991)。
【0156】
(d)プロモーター成分
発現ベクター及びクローニングベクターは一般に、宿主生物により認識され、かつ抗体をコードする核酸に作動可能に連結されるプロモーターを含む。原核宿主との使用に好適なプロモーターには、phoAプロモーター、β-ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼプロモーター、トリプトファン(trp)プロモーター系、ならびにハイブリッドプロモーター、例えば、tacプロモーターが含まれる。しかしながら、他の既知の細菌プロモーターも好適である。細菌系で使用するためのプロモーターは、抗体をコードするDNAに作動可能に連結されるシャイン-ダルガノ(S.D.)配列も含む。
【0157】
真核生物のためのプロモーター配列が知られている。事実上全ての真核遺伝子が、転写が開始する部位からおよそ25~30塩基上流に位置するATに富んだ領域を有する。多くの遺伝子の転写開始から70~80塩基上流に見られる別の配列は、Nが任意のヌクレオチドであり得るCNCAAT領域である。大半の真核遺伝子の3’末端は、コード配列の3’末端へのポリA尾部の付加のためのシグナルであり得るAATAAA配列である。これらの配列は全て、真核発現ベクターに好適に挿入される。
【0158】
酵母宿主との使用に好適なプロモーター配列の例には、3-ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の糖分解酵素、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼのプロモーターが含まれる。
【0159】
成長条件により制御された転写のさらなる利点を有する誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に伴う分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ならびにマルトース及びガラクトース利用に関与する酵素のプロモーター領域である。酵母発現での使用に好適なベクター及びプロモーターは、EP73,657にさらに記載されている。酵母エンハンサーも、酵母プロモーターとともに有利に使用される。
【0160】
哺乳動物宿主細胞中のベクターからの抗体転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2など)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、シミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから、または異種哺乳動物プロモーター、例えば、アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターから得られるプロモーターにより制御され得るが、但し、かかるプロモーターが宿主細胞系と適合性であることを条件とする。
【0161】
SV40ウイルスの初期プロモーター及び後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点も含むSV40制限断片として好都合に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの最初期プロモーターは、HindIII E制限断片として好都合に得られる。ウシ乳頭腫ウイルスをベクターとして使用して哺乳動物宿主におけるDNAを発現させるための系は、米国特許第4,419,446号に開示されている。この系の修飾は、米国特許第4,601,978号に記載されている。単純ヘルペスウイルスからのチミジンキナーゼプロモーターの制御下でのマウス細胞におけるヒトβ-インターフェロンcDNAの発現について、Reyes et al.,Nature 297:598-601(1982)も参照されたい。あるいは、ラウス肉腫ウイルス長末端反復がプロモーターとして使用され得る。
【0162】
(e)エンハンサー要素成分
より高次の真核生物による本発明の抗体をコードするDNAの転写はしばしば、エンハンサー配列をベクターに挿入することにより増加する。哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、及びインスリン)由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている。しかしながら、典型的には、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーが使用されるであろう。例には、複製起点の後半側のSV40エンハンサー(bp100~270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後半側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが含まれる。真核プロモーターの活性化のための増強要素について、Yaniv,Nature 297:17-18(1982)も参照されたい。エンハンサーは、抗体コード配列の5’位または3’位でベクターにスプライスされ得るが、好ましくは、プロモーターから5’部位に位置する。
【0163】
(f)転写終結成分
真核宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、または他の多細胞生物由来の有核細胞)で使用される発現ベクターは、転写終結及びmRNAの安定化に必要な配列も含む。かかる配列は一般的に、真核またはウイルスDNAまたはcDNAの5’非翻訳領域、時折、3’非翻訳領域から入手可能である。これらの領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分内のポリアデニル化断片として転写されたヌクレオチドセグメントを含む。1つの有用な転写終結成分は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。WO94/11026及びそこに開示されている発現ベクターを参照されたい。
【0164】
(g)宿主細胞の選択及び形質転換
本明細書におけるベクター中のDNAのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、またはより高次の真核生物細胞である。この目的に好適な原核生物には、グラム陰性またはグラム陽性生物などの真正細菌、例えば、EscherichiaなどのEnterobacteriaceae、例えば、E.coli、Enterobacter、Erwinia、Klebsiella、Proteus、Salmonella、例えば、Salmonella typhimurium、Serratia、例えば、Serratia marcescans、及びShigella、ならびにB.subtilis及びB.licheniformisなどのBacilli(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266,710に開示されているB.licheniformis 41P)、P.aeruginosaなどのPseudomonas、ならびにStreptomycesが含まれる。1つの好ましいE.coliクローニング宿主は、E.coli 294(ATCC 31,446)であるが、E.coli B、E.coli X1776(ATCC 31,537)、及びE.coli W3110(ATCC27,325)などの他の菌株も好適である。これらの例は、限定するものではなく、例証するものである。
【0165】
完全長抗体、抗体融合タンパク質、及び抗体断片は、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされないとき、例えば、治療用抗体が単独で腫瘍細胞破壊に効果を示す細胞毒性薬(例えば、毒素)にコンジュゲートされるときに、細菌中で産生され得る。完全長抗体は、血液循環におけるより優れた半減期を有する。E.coliでの産生がより迅速であり、より費用効率が高い。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現に関しては、例えば、米国特許第5,648,237号(Carter et. al.)、米国特許第5,789,199号(Joly et al.)、米国特許第5,840,523号(Simmons et al.)(発現及び分泌を最適化するための翻訳開始領域(TIR)及びシグナル配列を記載している)を参照されたい。E.coliでの抗体断片の発現を記載している、Charlton,Methods in Molecular Biology,Vol.248,B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.,pp.245-254(2003)も参照されたい。発現後、抗体は、可溶性画分中のE.coli細胞ペーストから単離され得、例えば、アイソタイプに応じてタンパク質AまたはGカラムにより精製され得る。最終精製は、例えば、CHO細胞で発現された抗体を精製するためのプロセスと同様に行われ得る。
【0166】
原核生物に加えて、糸状真菌または酵母などの真核微生物が、抗体コードベクターに好適なクローニングまたは発現宿主である。Saccharomyces cerevisiaeまたは一般的なパン酵母は、より低次の真核宿主微生物の中で最も一般的に用いられる。しかしながら、Schizosaccharomyces pombe;Kluyveromyces宿主、例えば、K.lactis、K.fragilis(ATCC12,424)、K.bulgaricus(ATCC16,045)、K.wickeramii(ATCC24,178)、K.waltii(ATCC56,500)、K.drosophilarum(ATCC36,906)、K.thermotolerans、及びK.marxianus;yarrowia(EP402,226);Pichia pastoris(EP183,070);Candida;Trichoderma reesia(EP244,234);Neurospora crassa;Schwanniomyces、例えば、Schwanniomyces occidentalis;ならびに糸状真菌、例えば、Neurospora、Penicillium、Tolypocladium、及びAspergillus宿主、例えば、A.nidulans及びA.nigerなどのいくつかの他の属、種、及び菌株が本明細書において一般的に利用可能であり、有用である。治療用タンパク質の産生のための酵母及び糸状真菌の使用を論じている概説に関しては、例えば、Gerngross,Nat.Biotech.22:1409-1414(2004)を参照されたい。
【0167】
グリコシル化経路が「ヒト化」されており、部分または完全ヒトグリコシル化パターンを有する抗体の産生をもたらすある特定の真菌及び酵母菌株が選択され得る。例えば、Li et al.,Nat.Biotech.24:210-215(2006)(Pichia pastorisにおけるグリコシル化経路のヒト化を記載している)、及びGerngross et al.(上記参照)を参照されたい。
【0168】
グリコシル化抗体の発現に好適な宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)からも誘導される。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウイルス菌株及び変異形、ならびにSpodoptera frugiperda(毛虫)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Drosophila melanogaster(ミバエ)、及びBombyx moriなどの宿主由来の対応する許容昆虫宿主細胞が特定されている。トランスフェクションのための様々なウイルス菌株、例えば、Autographa californica NPVのL-1変異形及びBombyx mori NPVのBm-5菌株が公的に利用可能であり、かかるウイルスは、特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために、本発明による本明細書におけるウイルスとして使用され得る。
【0169】
綿、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、ウキクサ(Leninaceae)、ムラサキウマゴヤシ(M.truncatula)、及びタバコの植物細胞培養物も宿主として利用され得る。例えば、米国特許第5,959,177号、同第6,040,498号、同第6,420,548号、同第7,125,978号、及び同第6,417,429号(トランスジェニック植物で抗体を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載している)を参照されたい。
【0170】
脊椎動物細胞は、宿主として使用され得、培養(組織培養)中の脊椎動物細胞の繁殖は、日常的な手順になっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例には、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651)、ヒト胚腎臓株(懸濁培養中での成長のためにサブクローニングされた293または293細胞、Graham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977))、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10)、マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980))、サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2)、イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75)、ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065)、マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51)、TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982))、MRC5細胞、FS4細胞、及びヒト肝癌株(Hep G2)がある。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFRCHO細胞(Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ならびにNS0及びSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。抗体産生に好適なある特定の哺乳動物宿主細胞株の概説に関しては、例えば、Yazaki and Wu,Methods in Molecular Biology,248:255-268(2003)を参照されたい。
【0171】
宿主細胞は、抗体産生のために上述の発現またはクローニングベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適切なものとして修飾された従来の栄養培地中で培養される。
【0172】
(h)宿主細胞の培養
本発明の抗体を産生するために使用される宿主細胞は、様々な培地中で培養され得る。Ham’s F10(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販の培地が、宿主細胞の培養に好適である。加えて、Ham et al.,Meth.Enz.58:44(1979)、Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255(1980)、米国特許第4,767,704号、同第4,657,866号、同第4,927,762号、同第4,560,655号、または同第5,122,469号、WO90/03430、WO87/00195、または米国再発行特許第30,985号に記載されている培地のいずれも、宿主細胞の培養培地として使用され得る。これらの培地のいずれも、必要に応じて、ホルモン及び/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びホスフェートなど)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジンなど)、抗生物質(GENTAMYCIN(商標)薬など)、微量元素(マイクロモル範囲の最終濃度で通常存在する無機化合物と定義される)、ならびにグルコースまたは同等のエネルギー源で補充され得る。任意の他の必要な補充物も、当業者に既知であろう適切な濃度で含まれ得る。温度及びpHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞とともに以前に使用されているものであり、当業者には明らかであろう。
【0173】
(xi)抗体の精製
組換え技法を使用するとき、抗体は、細胞内で産生され得るか、細胞膜周辺腔内で産生され得るか、または培地に直接分泌され得る。抗体が細胞内で産生される場合、第1のステップとして、微粒子残屑(宿主細胞または溶解断片のいずれか)が、例えば、遠心分離または限外濾過により除去される。Carter et al.,Bio/Technology 10:163-167(1992)は、E.coliの細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離するための手順を記載している。簡潔には、細胞ペーストが、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で、約30分にわたって解凍される。細胞残屑は、遠心分離により除去され得る。抗体が培地に分泌される場合、かかる発現系由来の上清は一般に、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニットを使用して、最初に濃縮される。タンパク質分解を阻害するためのPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤が前述のステップのうちのいずれかに含まれてもよく、外来性夾雑物の成長を防止するための抗生物質が含まれてもよい。
【0174】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及び親和性クロマトグラフィーを使用して精製され得、親和性クロマトグラフィーが典型的に好ましい精製ステップのうちの1つである。親和性リガンドとしてのタンパク質Aの好適性は、抗体内に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存する。タンパク質Aは、ヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用され得る(Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.62:1-13(1983))。タンパク質Gは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に対して推奨されている(Guss et al.,EMBO J.5:15671575(1986))。親和性リガンドが付着するマトリックスはほぼ、アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。孔制御ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定したマトリックスにより、アガロースで達成され得るよりも速い流速及び短い加工時間が可能になる。抗体がC3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,N.J.)が精製に有用である。タンパク質精製のための他の技法、例えば、イオン交換カラム上での分別、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリン上でのクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラムなど)上でのSEPHAROSE(商標)クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿も、回収される抗体に応じて利用可能である。
【0175】
一般に、研究、試験、及び臨床で使用するための抗体を調製するための様々な方法論が当該技術分野で十分に確立されており、上述の方法論と一致しており、及び/または当業者により目的とする特定の抗体に適切であるとみなされる。
【0176】
B.生物学的に活性な抗体の選択
上述のように産生された抗体は、治療的観点から有益な特性を有する抗体を選択するために、1つ以上の「生物学的活性」アッセイに供され得る。抗体は、それが産生される抗原に結合するその能力に関してスクリーニングされ得る。例えば、抗DR5抗体(例えば、ドロジツマブ)の場合、抗体の抗原結合特性は、死受容体5(DR5)に結合する能力を検出するアッセイで評価され得る。
【0177】
別の実施形態において、抗体の親和性は、例えば、飽和結合、ELISA、及び/または競合アッセイ(例えばRIA)により決定され得る。
【0178】
また、抗体は、例えば、治療薬としてのその有効性を評価するために、他の生物学的活性アッセイに供され得る。かかるアッセイは、当該技術分野で既知であり、抗体の標的抗原及び意図される使用に依存する。
【0179】
目的とする抗原上の特定のエピトープに結合する抗体に関してスクリーニングするために、例えば、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されているものなどの日常的な交差遮断アッセイが行われ得る。あるいは、例えば、Champe et al.,J.Biol.Chem.270:1388-1394(1995)に記載されているようにエピトープマッピングを行って、目的とするエピトープに抗体が結合するかを決定することができる。
【0180】
C.製剤の調製
低減されたポリソルベート分解を有する、ポリソルベート及びシクロデキストリンを含む製剤が本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(HP-α-CD)、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HP-γ-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、β-シクロデキストリン(β-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-β-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン(α-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、γ-シクロデキストリン(γ-CD)である。いくつかの実施形態において、製剤は、ポリソルベート及びポリビニルピロリドン(PVP)を含み、低減されたポリソルベート分解を有する。いくつかの実施形態において、製剤は、ポリペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、約0.001%~約15%の範囲、またはこれらの値の間の任意の範囲である。ある特定の実施形態において、ポリソルベートは、約0.001%~約0.4%、0.01%~約0.4%、約0.01%~約0.3%、約0.01%~約0.2%、約0.01%~約0.1%の範囲である。いくつかの実施形態において、製剤は、約0.001%、約0.005%、約0.01%、約0.02%、約0.03%、約0.04%、約0.05%、約0.06%、約0.07%、約0.08%、約0.09%、約0.1%、約0.4%、約1%、約5%、または約15%のポリソルベートを含む。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート20である。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート40である。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート60である。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート80である。
【0181】
いくつかの実施形態において、ポリビナルピロリドン(polyvinalpyrrolidone)は、モノマーN-ビニルピロリドンから作製されたポリマー分子のクラスである。いくつかの実施形態において、ポリビニルピロリドン(PVP)は、ポビドン(可溶性PVP)である。いくつかの実施形態において、PVPは、ポビドンK12(およそMW:2.5kDa)である。いくつかの実施形態において、PVPは、ポビドンK15(およそMW:8kDa)である。いくつかの実施形態において、PVPは、ポビドンK17(およそMW:10kDa)である。いくつかの実施形態において、PVPは、ポビドンK25(およそMW:30kDa)である。いくつかの実施形態において、PVPは、ポビドンK30(およそMW:50kDa)である。いくつかの実施形態において、PVPは、ポビドンK60(およそMW:400kDa)である。いくつかの実施形態において、PVPは、ポビドンK90(およそMW:1,000kDa)である。いくつかの実施形態において、PVPは、ポビドンK120(3,000kDa)である。いくつかの実施形態において、PVPは、クロスポビドン(不溶性PVP)である。いくつかの実施形態において、PVPは、コポピドン(Copovidone)である。
【0182】
いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、約0.5%~約30%の範囲である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、約1%~約25%、または約5%~約20%、または約10%~約15%の範囲である。さらなる実施形態において、シクロデキストリンは、約0.5%、約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、または約30%の濃度である。いくつかの実施形態において、PVPは、約0.5%~約30%の範囲である。
【0183】
いくつかの実施形態において、製剤中のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの実施形態において、製剤中のシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約50:1超、約100:1超、約150:1超、約250:1超、約750:1超、約1000:1超、または約3000:1超である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、67:1~1000:1ではない。いくつかの実施形態において、製剤中のPVP対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。
【0184】
いくつかの実施形態において、水性製剤は、約10mg/mL~約250mg/mLの範囲、またはこれらの値の間の任意の範囲の濃度のポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、約250mg/mL超の濃度である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、約10mg/mL~250mg/mL、50mg/mL~250mg/mL、100mg/mL~250mg/mL、150mg/mL~250mg/mL、200mg/mL~250mg/mL、10mg/mL~200mg/mL、50mg/mL~200mg/mL、100mg/mL~200mg/mL、150mg/mL~200mg/mL、10mg/mL~150mg/mL、50mg/mL~150mg/mL、100mg/mL~150mg/mL、10mg/mL~100mg/mL、50mg/mL~100mg/mL、10mg/mL~50mg/mLのうちのいずれか一つの範囲、またはこれらの範囲の間の任意の範囲の濃度である。
【0185】
いくつかの実施形態において、水性製剤は、抗体を含む。いくつかの実施形態において、抗体は、(VEGF);CD20;ox-LDL;ox-ApoB100;レニン;成長ホルモン、例えば、ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ-1-抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;凝固因子、例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子;抗凝固因子、例えば、タンパク質C;心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性剤;プラスミノーゲン活性化因子、例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA);ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子-アルファ及び-ベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(活性化時に調節され、T細胞が正常に発現及び分泌している);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-アルファ);血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミン;ミュラー管阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;微生物タンパク質、例えば、ベータ-ラクタマーゼ;DNase;IgE;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA)、例えば、CTLA-4;インヒビン;アクチビン;ホルモンまたは成長因子受容体;タンパク質AまたはD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、ニューロトロフィン-5、もしくはニューロトロフィン-6(NT-3、NT4、NT-5、もしくはNT-6)、または神経成長因子、例えば、NGF-β;血小板由来成長因子(PDGF);線維芽細胞成長因子(FGF)、例えば、aFGF及びbFGF;上皮成長因子(EGF);形質転換成長因子(TGF)、例えば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、またはTGF-β5を含むTGF-アルファ及びTGF-ベータ;インスリン様成長因子I及びII(IGF-I及びIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様成長因子結合タンパク質;CDタンパク質、例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、及びCD20;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン、例えば、インターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ、及びインターフェロン-ガンマ;コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M-CSF、GM-CSF、及びG-CSF;インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原、例えば、AIDSエンベロープの一部分など;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;調節タンパク質;インテグリン、例えば、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4、及びVCAM;腫瘍関連抗原、例えば、HER2、HER3、またはHER4受容体;ならびに上述のポリペプチドのうちのいずれかの断片を対象とする。いくつかの実施形態において、抗体は、抗CD20抗体でない。いくつかの実施形態において、製剤は、抗CD20抗体及び0.2%のポリソルベート(例えば、ポリソルベート80)を含まない。いくつかの実施形態において、製剤は、10%のHP-γシクロデキストリン及び0.03%のポリソルベート20を含まない。いくつかの実施形態において、製剤は、抗CD20抗体、10%のHP-γシクロデキストリン、及び0.03%のポリソルベート20を含まない。
【0186】
いくつかの実施形態において、水性製剤は、安定剤、緩衝液、界面活性剤、及び張性剤からなる群から選択される1つ以上の賦形剤をさらに含む。本発明の水性製剤は、pH緩衝溶液中で調製され得る。本発明の緩衝液は、約pH4.5~約9.0の範囲のpHを有する。ある特定の実施形態において、pHは、約pH4.5~約7.0の範囲、約pH4.5~約6.5の範囲、約pH4.5~約6.0の範囲、約pH4.5~約5.5の範囲、約pH4.5~約5.0の範囲、約pH5.0~約7.0の範囲、約pH5.5~約7.0の範囲、約pH5.7~約6.8の範囲、約pH5.8~約6.5の範囲、約pH5.9~約6.5の範囲、約pH6.0~約6.5の範囲、または約pH6.2~約6.5の範囲である。ある特定の実施形態において、液体製剤は、約4.7~約5.2の範囲、約5.0~6.0の範囲、または約5.2~約5.8の範囲のpHを有する。本発明のある特定の実施形態において、液体製剤は、6.2または約6.2のpHを有する。本発明のある特定の実施形態において、液体製剤は、6.0または約6.0のpHを有する。
【0187】
pHをこの範囲内で制御する緩衝液の例には、有機酸及び無機酸、ならびにそれらの塩が含まれる。例えば、アセテート(例えば、ヒスチジンアセテート、アルギニンアセテート、ナトリウムアセテート)、スクシネート(例えば、ヒスチジンスクシネート、アルギニンスクシネート、ナトリウムスクシネート)、グルコネート、ホスフェート、フマレート、オキサレート、ラクテート、シトレート、及びそれらの組み合わせ。緩衝液濃度は、例えば、緩衝液及び製剤の所望の等張性に応じて、約1mM~約600mMであり得る。
【0188】
追加の界面活性剤は任意に、水性製剤に添加され得る。例示的な界面活性剤には、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188など)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。添加される界面活性剤の量は、それが製剤化抗体の凝集を低減させ、及び/または製剤中の微粒子の形成を最小限に抑え、及び/または吸着を低減させるような量である。例えば、界面活性剤は、約0.001%~約0.5%、約0.005%~約0.2%、約0.01%~約0.1%、または約0.02%~約0.06%、または約0.03%~約0.05%の量で製剤中に存在し得る。ある特定の実施形態において、界面活性剤は、0.04%または約0.04%の量で製剤中に存在する。ある特定の実施形態において、界面活性剤は、0.02%または約0.02%の量で製剤中に存在する。一実施形態において、製剤は、界面活性剤を含まない。
【0189】
時に「安定剤」として既知の張性剤は、組成物中の液体の張性を調整または維持するために存在する。タンパク質及び抗体などの粗大荷電生体分子とともに使用されるとき、張性剤は、それらがアミノ酸側鎖の荷電基と相互作用し、それにより、分子間及び分子内相互作用の可能性を低減させ得るため、しばしば「安定剤」として命名される。張性剤は、他の成分の相対量を考慮して、0.1重量%~25重量%、またはより好ましくは、1重量%~5重量%の任意の量で存在し得る。好ましい張性剤には、多価糖アルコール、好ましくは、三価以上の糖アルコール、例えば、グリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールが含まれる。
【0190】
いくつかの実施形態において、製剤は、インビボ投与のためのものである。いくつかの実施形態において、製剤は、滅菌である。製剤は、滅菌濾過膜を通す濾過により滅菌にされ得る。本明細書における治療製剤は一般に、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針により穿刺可能なストッパーを有する静脈注射用溶液袋またはバイアル内に置かれる。投与経路は、好適な様式での長期間にわたる単回または複数回ボーラスまたは注入、例えば、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、病巣内、または関節内経路による注射もしくは注入、あるいは局所投与、吸入、または持続放出もしくは徐放手段などの既知の認められている方法に従うものである。
【0191】
本発明により提供される水性製剤は、ポリペプチド、ポリソルベート、及びシクロデキストリンを含み、保管期間後、増強されたポリソルベート安定性を示す。一実施形態において、ポリソルベート安定性は、保管期間後、製剤中に残っているポリソルベートの相対パーセントとして表される。例えば、初期に0.1%のポリソルベートを含有し、保管期間後に0.09%のポリソルベートを含有する製剤の場合、10%のポリソルベートが分解されている。さらなる実施形態において、溶液中のポリソルベートの量は、蒸発光散乱検出(RP-ELSD)を使用して、逆相超高性能液体クロマトグラフィーにより決定される(Kim,J & Qiu,J.2014,Analytica Chimica Acta 806:144-151)。いくつかの実施形態において、試料中のポリソルベートの濃度は、異なるポリソルベート濃度を使用して生成される標準曲線と試料結果とを比較することにより決定される。
【0192】
いくつかの実施形態において、製剤が約1℃~約10℃で、約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、5%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、5%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約4℃~約6℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、5%未満のポリソルベートが分解されている。
【0193】
いくつかの実施形態において、製剤が約1℃~約10℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、1%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、1%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約4℃~約6℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、1%未満のポリソルベートが分解されている。
【0194】
いくつかの実施形態において、製剤が約1℃~約10℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、0.1%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、0.1%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約4℃~約6℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、0.1%未満のポリソルベートが分解されている。
【0195】
いくつかの実施形態において、製剤が約22℃~約28℃で、少なくとも約1ヶ月間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約7ヶ月間、少なくとも約8ヶ月間、少なくとも約9ヶ月間、少なくとも約10ヶ月間、少なくとも約11ヶ月間、または少なくとも約12ヶ月間保管された後、5%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約22℃~約28℃で、少なくとも約1ヶ月間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約7ヶ月間、少なくとも約8ヶ月間、少なくとも約9ヶ月間、少なくとも約10ヶ月間、少なくとも約11ヶ月間、または少なくとも約12ヶ月間保管された後、1%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約22℃~約28℃で、少なくとも約1ヶ月間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約7ヶ月間、少なくとも約8ヶ月間、少なくとも約9ヶ月間、少なくとも約10ヶ月間、少なくとも約11ヶ月間、または少なくとも約12ヶ月間保管された後、0.1%未満のポリソルベートが分解されている。
【0196】
いくつかの実施形態において、製剤が約-15℃~約-25℃で、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、少なくとも約48ヶ月間、少なくとも約54ヶ月間、少なくとも約60ヶ月間、少なくとも約66ヶ月間、または少なくとも約72ヶ月間保管された後、5%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約-15℃~約-25℃で、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、少なくとも約48ヶ月間、少なくとも約54ヶ月間、少なくとも約60ヶ月間、少なくとも約66ヶ月間、または少なくとも約72ヶ月間保管された後、1%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、製剤が約-15℃~約-25℃で、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間、少なくとも約54ヶ月間、少なくとも約60ヶ月間、少なくとも約66ヶ月間、または少なくとも約72ヶ月間保管された後、0.1%未満のポリソルベートが分解されている。
【0197】
いくつかの実施形態において、製剤は、約-8℃~約-80℃で保管される。いくつかの実施形態において、製剤は、約-20℃、-40℃、-70℃、または-80℃で保管される。
【0198】
本明細書の発明により提供される製剤は、可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子などのポリソルベート分解産物を低減するのに有効である。一実施形態において、可視の粒子は、ガラスバイアル内に試料を置き、チンダル光の存在下で試料を回転させることにより観察される。一実施形態において、顕微鏡で見える粒子は、高確度(HIAC)粒子測定器を使用して分析される。いくつかの実施形態において、HRDL-150検出器及び1mLのシリンジが備え付けられたHIAC9703粒子測定器が使用され得る。いくつかの実施形態において、機器の性能は、各測定期間前に、3000カウント/mLでNISTの追跡可能な2μmのポリスチレンビーズ標準物を用いて実証され得る。いくつかの実施形態において、HIAC機器は、10mL/分の流量、0.1mLの風袋量、及び0.4mLの試料体積になるように構成され得る。特定の実施形態において、試料は、0.4mL分の4回の実行を使用して分析され得、各試料の最初の実行分を、試料の残りによる測定誤差を防止するために捨てた。2、5、10、15、及び25μmのフィルターサイズが分析のために使用され得る。
【0199】
いくつかの実施形態において、製剤は、1mL当たり約10,000、約5,000、約1,000、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径1.4μ超の粒子を有する。いくつかの実施形態において、製剤は、1mL当たり約10,000、約5,000、約1,000、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径2μ超の粒子を有する。いくつかの実施形態において、製剤は、1mL当たり約1250、約150、約100、約50、約25、約20、約15、約10、約5、約4、約3、約2、または約1個未満の、直径5μ超の粒子を有する。いくつかの実施形態において、製剤は、1mL当たり約250、約150、約100、約50、約25、約20、約15、約10、約5、約4、約3、約2、または約1個未満の、直径10μの粒子を有する。いくつかの実施形態において、製剤は、1mL当たり約250、約150、約100、約50、約25、約20、約15、約10、約5、約4、約3、約2、または約1個未満の、直径15μ超の粒子を有する。いくつかの実施形態において、製剤は、1mL当たり約250、約150、約100、約50、約25、約20、約15、約10、約5、約4、約3、約2、または約1個未満の、直径25μ超の粒子を有する。
【0200】
III.製剤の投与
水性製剤は、ボーラスとしての静脈内投与、またはある期間にわたる連続注入による投与など、筋肉内、腹腔内、脳髄腔内(intracerobrospinal)、皮下、硝子体内、関節内、関節滑液嚢内、髄腔内、眼球内、経口、局所、または吸入経路による既知の方法に従って、タンパク質(例えば、抗体)での治療を必要とする哺乳動物、好ましくは、ヒトに投与される。一実施形態において、水性製剤は、静脈内投与により哺乳動物に投与される。かかる目的のために、製剤は、例えば、シリンジを使用して、または静脈ラインを介して注射され得る。一実施形態において、液体製剤は、皮下投与により哺乳動物に投与される。
【0201】
タンパク質の適切な投薬量(「治療有効量」)は、例えば、治療される状態、状態の重症度及び経過、タンパク質が予防目的または治療目的のために投与されるか、以前の療法、患者の病歴及びタンパク質への応答、使用されるタンパク質の種類、ならびに主治医の裁量に依存する。タンパク質は、一度にまたは一連の治療にわたって患者に好適に投与され、診断時から任意の時点で患者に投与され得る。タンパク質は、単一治療として、または問題になっている状態の治療に有用な他の薬物もしくは療法とともに投与され得る。「治療」という用語は、本明細書で使用される場合、治療的処置及び予防的手段または予防手段の両方を指す。治療を必要とする者には、障害を既に有する者、ならびに障害が予防されるべき者が含まれる。「障害」とは、本明細書で使用される場合、哺乳動物を問題になっている障害にかかりやすくする病理学的状態を含む慢性及び急性障害または疾患を含むが、これらに限定されない、治療から利益を享受するであろう任意の状態である。
【0202】
薬理学的な意味において、本発明との関連で、タンパク質(例えば、抗体)の「治療有効量」とは、抗体が有効である治療のための障害の予防または治療に有効な量を指す。一般的な提案として、投与されるタンパク質の治療有効量は、例えば、1回以上の投与によるかどうかに関わらず、約0.1~約50mg/患者の体重kgの範囲で毎日投与されることになるであろうが、使用されるタンパク質の典型的な範囲は約0.3~約20mg/kg、好ましくは約0.3~約15mg/kgである。しかしながら、他の投薬量レジメンも有用であり得る。例えば、タンパク質は、1、2、3、もしくは4週間当たり、約100もしくは400mgの用量で投与され得るか、または1、2、3、もしくは4週間当たり、約1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、15.0、もしくは20.0mg/kgの用量で投与される。注入物などの用量は、単回用量で、または複数回用量(例えば、2回用量または3回用量)で投与されてもよい。この療法の進展は、従来の技法により容易に監視される。
【0203】
IV.ポリソルベート分解を低減する方法
ポリソルベートを含有する水性製剤中のポリソルベート分解を低減する方法が本明細書に提供され、本方法はシクロデキストリンを製剤に添加することを含む。ポリソルベートを含有する水溶液中の可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子の量を低減する方法も本明細書に提供され、本方法はシクロデキストリンを製剤に添加することを含む。本発明は、シクロデキストリンを製剤に添加することを含む、水溶液中のポリソルベート分解産物を脱凝集させ、可溶化するための方法も含む。いくつかの実施形態において、製剤は、ポリペプチド、核酸、脂質、及び/または炭水化物をさらに含む。
【0204】
ポリビニルプリロリドン(polyvinylpryrrolidone)(PVP)及びポリソルベートを含む水性製剤中のポリソルベートを低減する方法が本明細書に提供される。ポリソルベートを含有する水溶液中の可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子の量を低減する方法も本明細書に提供され、本方法はPVPを製剤に添加することを含む。本発明は、PVPを製剤に添加することを含む、水溶液中のポリソルベート分解産物を脱凝集させ、可溶化するための方法も含む。いくつかの実施形態において、製剤は、ポリペプチド、核酸、脂質、及び/または炭水化物をさらに含む。
【0205】
いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、約0.001%~約0.4%の範囲、またはこれらの値の間の任意の範囲である。ある特定の実施形態において、ポリソルベートは、約0.001%~約0.4%、約0.01%~約0.4%、約0.01%~約0.3%、約0.01%~約0.2%、または約0.01%~約0.1%の範囲である。いくつかの実施形態において、製剤は、約0.001%、約0.005%、約0.01%、約0.02%、約0.03%、約0.04%、約0.05%、約0.06%、約0.07%、約0.08%、約0.09%、約0.1%、または約0.4%のポリソルベートを含む。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート20である。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート40である。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート60である。いくつかの実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート80である。
【0206】
いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、約0.5%~約30%の濃度まで添加される。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、約1%~約25%、約5%~約20%、または約10%~約15%の範囲である。さらなる実施形態において、シクロデキストリンは、約0.5%、約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、または約30%の濃度まで添加される。いくつかの実施形態において、PVPは、約0.5%~約30%の濃度まで添加される。
【0207】
いくつかの実施形態において、製剤は、10%のHP-γシクロデキストリン及び0.03%のポリソルベート20を含まない。いくつかの実施形態において、製剤は、抗CD20抗体、10%のHP-γシクロデキストリン、及び0.03%のポリソルベート20を含まない。
【0208】
いくつかの実施形態において、製剤中の得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの実施形態において、製剤中の得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、約50:1超、約100:1超、約150:1超、約250:1超、約750~1超、約1000:1超、または約3000:1超である。いくつかの実施形態において、製剤中の得られたシクロデキストリン対ポリソルベートのw/w比は、67:1~1000:1ではない。いくつかの実施形態において、製剤中の得られたPVP対ポリソルベートのw/w比は、約37.5:1超である。いくつかの実施形態において、製剤中の得られたPVP対ポリソルベートの比は、250:1である。
【0209】
いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(HP-α-CD)、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HP-γ-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-β-CD)であり、いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、β-シクロデキストリン(β-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン(α-CD)である。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、γ-シクロデキストリン(γ-CD)である。
【0210】
いくつかの実施形態において、水性製剤は、10mg/mL~250mg/mLの範囲の濃度のポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、250mg/mLを上回る濃度である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、30mg/mL~150mg/mL、50mg/mL~150mg/mL、または100~150mg/mLの範囲の濃度である。
【0211】
いくつかの実施形態において、水性製剤は、抗体を含む。いくつかの実施形態において、抗体は、(VEGF);CD20;ox-LDL;ox-ApoB100;レニン;成長ホルモン、例えば、ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ-1-抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;凝固因子、例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子;抗凝固因子、例えば、タンパク質C;心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性剤;プラスミノーゲン活性化因子、例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA);ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子-アルファ及び-ベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(活性化時に調節され、T細胞が正常に発現及び分泌している);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-アルファ);血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミン;ミュラー管阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;微生物タンパク質、例えば、ベータ-ラクタマーゼ;DNase;IgE;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA)、例えば、CTLA-4;インヒビン;アクチビン;ホルモンまたは成長因子受容体;タンパク質AまたはD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、ニューロトロフィン-5、もしくはニューロトロフィン-6(NT-3、NT4、NT-5、もしくはNT-6)、または神経成長因子、例えば、NGF-β;血小板由来成長因子(PDGF);線維芽細胞成長因子(FGF)、例えば、aFGF及びbFGF;上皮成長因子(EGF);形質転換成長因子(TGF)、例えば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、またはTGF-β5を含むTGF-アルファ及びTGF-ベータ;インスリン様成長因子I及びII(IGF-I及びIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様成長因子結合タンパク質;CDタンパク質、例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、及びCD20;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン、例えば、インターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ、及びインターフェロン-ガンマ;コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M-CSF、GM-CSF、及びG-CSF;インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原、例えば、AIDSエンベロープの一部分など;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;調節タンパク質;インテグリン、例えば、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4、及びVCAM;腫瘍関連抗原、例えば、HER2、HER3、またはHER4受容体;ならびに上述のポリペプチドのうちのいずれかの断片を対象とする。いくつかの実施形態において、抗体は、抗CD20抗体でない。
【0212】
いくつかの実施形態において、安定剤、緩衝液、界面活性剤、及び張性剤からなる群から選択される1つ以上の賦形剤が、水性製剤中に含まれる。pH緩衝溶液中で調製される本発明の方法が行われ得る。本発明の緩衝液は、約pH4.5~約9.0の範囲のpHを有する。ある特定の実施形態において、pHは、約pH4.5~約7.0の範囲、約pH4.5~約6.6の範囲、約pH4.5~約6.0の範囲、約pH4.5~約5.5の範囲、約pH4.5~約5.0の範囲、約pH5.0~約7.0の範囲、約pH5.5~約7.0の範囲、約pH5.7~約6.8の範囲、約pH5.8~約6.5の範囲、約pH5.9~約6.5の範囲、約pH6.0~約6.5の範囲、または約pH6.2~約6.5の範囲である。ある特定の実施形態において、液体製剤は、約4.7~約5.2の範囲、約5.0~6.0の範囲、または約5.2~約5.8の範囲のpHを有する。本発明のある特定の実施形態において、液体製剤は、6.2または約6.2のpHを有する。本発明のある特定の実施形態において、液体製剤は、6.0または約6.0のpHを有する。
【0213】
pHをこの範囲内で制御する緩衝液の例には、有機酸及び無機酸、ならびにそれらの塩が含まれる。例えば、アセテート(例えば、ヒスチジンアセテート、アルギニンアセテート、ナトリウムアセテート)、スクシネート(例えば、ヒスチジンスクシネート、アルギニンスクシネート、ナトリウムスクシネート)、グルコネート、ホスフェート、フマレート、オキサレート、ラクテート、シトレート、及びそれらの組み合わせ。緩衝液濃度は、例えば、緩衝液及び製剤の所望の等張性に応じて、約1mM~約600mMであり得る。
【0214】
追加の界面活性剤は任意に、水性製剤に添加され得る。例示的な界面活性剤には、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188など)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。添加される界面活性剤の量は、それが製剤化抗体の凝集を低減させ、及び/または製剤中の微粒子の形成を最小限に抑え、及び/または吸着を低減させるような量である。例えば、界面活性剤は、約0.001%~約0.5%、約0.005%~約0.2%、約0.01%~約0.1%、約0.02%~約0.06%、または約0.03%~約0.05%の量で製剤中に存在し得る。ある特定の実施形態において、界面活性剤は、0.04%または約0.04%の量で製剤中に存在する。ある特定の実施形態において、界面活性剤は、0.02%または約0.02%の量で製剤中に存在する。一実施形態において、製剤は、界面活性剤を含まない。
【0215】
本方法は、水性製剤の張性を調整または維持するために、時に「安定剤」として既知の張性剤の使用を伴い得る。タンパク質及び抗体などの粗大荷電生体分子とともに使用されるとき、張性剤は、それらがアミノ酸側鎖の荷電基と相互作用し、それにより、分子間及び分子内相互作用の可能性を低減させ得るため、しばしば「安定剤」として命名される。張性剤は、他の成分の相対量を考慮して、0.1重量%~25重量%、またはより好ましくは、1重量%~5重量%の任意の量で存在し得る。好ましい張性剤には、多価糖アルコール、好ましくは、三価以上の糖アルコール、例えば、グリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールが含まれる。
【0216】
いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約1℃~約10℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、分解されている5%未満のポリソルベートをもたらす。いくつかの実施形態において、製剤は、約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、5%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約4℃~約6℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、分解されている5%未満のポリソルベートをもたらす。
【0217】
いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約1℃~約10℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、分解されている1%未満のポリソルベートをもたらす。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、分解されている1%未満のポリソルベートをもたらす。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約4℃~約6℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、分解された1%未満のポリソルベートをもたらす。
【0218】
いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約1℃~約10℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、分解されている0.1%未満のポリソルベートをもたらす。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約2℃~約8℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、分解されている0.1%よりのポリソルベートをもたらす。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約4℃~約6℃で、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間保管された後、分解されている0.1%未満のポリソルベートをもたらす。
【0219】
いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約22℃~約28℃で、少なくとも約1ヶ月間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約7ヶ月間、少なくとも約8ヶ月間、少なくとも約9ヶ月間、少なくとも約10ヶ月間、少なくとも約11ヶ月間、または少なくとも約12ヶ月間保管された後、分解されている5%未満のポリソルベートをもたらす。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約22℃~約28℃で、少なくとも約1ヶ月間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約7ヶ月間、少なくとも約8ヶ月間、少なくとも約9ヶ月間、少なくとも約10ヶ月間、少なくとも約11ヶ月間、または少なくとも約12ヶ月間保管された後、分解されている1%未満のポリソルベートをもたらす。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約22℃~約28℃で、少なくとも約1ヶ月間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約7ヶ月間、少なくとも約8ヶ月間、少なくとも約9ヶ月間、少なくとも約10ヶ月間、少なくとも約11ヶ月間、または少なくとも約12ヶ月間保管された後、分解されている0.1%未満のポリソルベートをもたらす。
【0220】
いくつかの実施形態において、製剤が約-15℃~約-25℃で、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、少なくとも約48ヶ月間、少なくとも約54ヶ月間、少なくとも約60ヶ月間、少なくとも約66ヶ月間、または少なくとも約72ヶ月間保管された後、5%未満のポリソルベートが分解されている。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約-15℃~約-25℃で、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、少なくとも約48ヶ月間、少なくとも約54ヶ月間、少なくとも約60ヶ月間、少なくとも約66ヶ月間、または少なくとも約72ヶ月間保管された後、分解されている1%未満のポリソルベートをもたらす。いくつかの実施形態において、本方法は、製剤が約-15℃~約-25℃で、少なくとも約12ヶ月間、少なくとも約18ヶ月間、少なくとも約24ヶ月間、少なくとも約30ヶ月間、少なくとも約36ヶ月間、少なくとも約42ヶ月間、または少なくとも約48ヶ月間、少なくとも約54ヶ月間、少なくとも約60ヶ月間、少なくとも約66ヶ月間、または少なくとも約72ヶ月間保管された後、分解されている0.1%未満のポリソルベートをもたらす。
【0221】
本発明により提供される方法は、顕微鏡で見える粒子及び可視の粒子の数を低減するのに有効である。いくつかの実施形態において、1mL当たり約10,000、約5,000、約1,000、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径1.4μ超の粒子が形成される。いくつかの実施形態において、製剤は、1mL当たり約10,000、約5,000、約1,000、約500、約250、約150、約100、約50、または約25個未満の、直径2μ超の粒子を有する。いくつかの実施形態において、1mL当たり約1250、約150、約100、約50、約25、約20、約15、約10、約5、約4、約3、約2、または約1個未満の、直径5μ超の粒子が形成される。いくつかの実施形態において、1mL当たり約250、約150、約100、約50、約25、約20、約15、約10、約5、約4、約3、約2、または約1個未満の、直径10μの粒子が形成される。いくつかの実施形態において、1mL当たり約250、約150、約100、約50、約25、約20、約15、約10、約5、約4、約3、約2、または約1個未満の、直径15μ超の粒子が形成される。いくつかの実施形態において、1mL当たり約250、約150、約100、約50、約25、約20、約15、約10、約5、約4、約3、約2、または約1個未満の、直径25μ超の粒子が形成される。
【0222】
製剤中でポリソルベート分解産物を再可溶化する方法も本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、ポリソルベートの添加後、製剤中に存在する1.4μ超の粒子の数は、100、1000、2000、5000、または10000倍低減される。いくつかの実施形態において、ポリソルベートの添加後、製剤中に存在する直径2μ超の粒子の数は、100、1000、2000、5000、または10000倍低減される。いくつかの実施形態において、ポリソルベートの添加後、製剤中に存在する直径5μ超の粒子の数は、100、1000、2000、5000、または10000倍低減される。いくつかの実施形態において、ポリソルベートの添加後、製剤中に存在する直径10μ超の粒子の数は、100、1000、2000、5000、または10000倍低減される。いくつかの実施形態において、ポリソルベートの添加後、製剤中に存在する直径15μ超の粒子の数は、100、1000、2000、5000、または10000倍低減される。いくつかの実施形態において、ポリソルベートの添加後、製剤中に存在する直径25μ超の粒子の数は、100、1000、2000、5000、または10000倍低減される。
【0223】
V.製品
本発明の別の実施形態において、本発明の液体製剤を保持し、かつ任意にその使用に関する指示を提供する容器を含む製品が提供される。好適な容器には、例えば、ボトル、バイアル、及びシリンジが含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。例示的な容器には、3~20ccの単回使用ガラスバイアルがある。あるいは、複数回投与量製剤の場合、容器は、3~100ccのガラスバイアルであり得る。容器は、製剤を保持し、容器上のラベルまたは容器に付随するラベルは、使用に関する指示を示し得る。製品は、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用に関する指示を有する添付文書を含む、商業的観点及び使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含み得る。
【0224】
VI.キット
本発明の別の実施形態において、ポリソルベート分解を低減するためのキットが提供される。いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載の方法によりポリソルベート分解を低減するのに使用するためのキットを提供する。いくつかの実施形態において、本明細書に提供される製剤のいずれかを含むキットが提供される。一実施形態において、かかるキットは、治療用ペプチドまたは抗体の水性製剤、及び水性製剤に添加され得るシクロデキストリンの溶液の容器を含み、シクロデキストリン対ポリソルベートの比は、37.5:1超である。一実施形態において、かかるキットは、治療用ペプチドまたは抗体の水性製剤、及び水性製剤に添加され得るポリビニルピロリドン(PVP)の溶液の容器を含み、PVP対ポリソルベートの比は、37.5:1超である。
【0225】
本明細書は、当業者が本発明を実践することを可能にするのに十分なものであるとみなされる。本明細書に示され、かつ記載される修正に加えて、本発明の様々な修正が前述の記述から当業者に明らかになり、添付の特許請求の範囲内に含まれる。本明細書で引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、あらゆる目的のために参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例0226】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解される。しかしながら、それらは、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書に記載の実施例及び実施形態が例証のみを目的とするものであり、それを考慮した様々な修正または変更が当業者に提案され、本出願の趣旨及び範囲、ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。
【0227】
材料及び方法
材料
ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を、Cavitron W7 HP5 PharmaとしてAshland Inc.(Ashland,Kentucky)から得た。スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBE-β-CD)を、CaptisolとしてLigand Pharmaceuticals(La Jolla,California)から得た。ヒドロキシプロピル-アルファ-シクロデキストリン(HP-α-CD)、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HP-γ-CD)、ポリエチレングリコール(PEG1500)、及びメチオニンをSigma Aldrich(St.Louis,Missouri)から得た。ポリビニルピロリドン(PVP)を、KollidonPovidoneK-157としてSpectrum Chemical(Gardena,California)から得た。ポリソルベート20(PS20)をCroda Inc.(New Castle,Delaware)から得た。ブタ膵臓リパーゼ(PPL)、Burkholderia sp.由来のリポタンパク質リパーゼ(LPL)、Candida AntarcticaリパーゼB(CALB)、ウサギ肝臓エステラーゼ(RLE)、及び2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(AAPH)をSigma Aldrich Inc.(St.Louis,Missouri)から得た。
【0228】
HIACによる顕微鏡で見える粒子数の決定
HRDL-150検出器及び1mLのシリンジが備え付けられたHIAC9703粒子測定器を使用して、顕微鏡で見える粒子を測定した。各測定期間前に、3000カウント/mLでNISTの追跡可能な2μmのポリスチレンビーズ標準物を用いて、機器の性能を実証した。HIAC機器を、10mL/分の流量、0.1mLの風袋量、及び0.4mLの試料体積になるように構成した。試料を0.4mL分の4回の実行を使用して分析し、各試料の最初の実行分を、試料の残りによる測定誤差を防止するために捨てた。結果を、1.4、2、5、10、15、及び25、50μmの分析フィルターサイズの平均値として報告した。
【0229】
ポリソルベート濃度の決定
蒸発光散乱検出(RP-ELSD)を使用する、逆相超高性能液体クロマトグラフィーを使用してポリソルベート濃度を決定した。Waters Oasis MAXカートリッジカラム(20×2.1mm、30μmの粒子サイズ)で充填されたAgilent1100シリーズの高性能液体クロマトグラフィー系(HPLC)を使用して、試料を分析した。カラムフロースルーを廃棄または100℃に設定したVarian380-LC蒸発性光散乱検出器のいずれかに誘導する切り替え弁を用いてHPLC系を設定した。移動相は、水中の2%のギ酸(ポンプA)及びイソプロパノール中の2%のギ酸(ポンプB)から構成された。ポンプ勾配は、平衡化の間10%ポンプBで均一濃度、1分間20%ポンプBに対して直線状、2.4分間20%ポンプBで均一濃度、0.1分間100%ポンプBに対して直線状、1.1分間100%ポンプBで均一濃度、0.1分間10%ポンプBに対して直線状、及び1.9分間10%ポンプBで最終的に均一濃度であった。切り替え弁は、全ての注入の最初にカラムフロースルーを廃棄に誘導させ、次いで、勾配の最後まで2.4分後に流れを検出器に誘導した。PS20の濃度を定量化するために、0%w/v~0.4%w/vのPS20を含有する20μLの溶液を注入することにより標準曲線を生成した。カラムを通るPS20の移動時間に影響を与えた賦形剤に関して、正確な定量化を容易にするために、関連賦形剤を含有するPS20の標準曲線溶液を分析に含んだ。
【0230】
Seidenaderによる可視の粒子の撮像
60度に傾斜したバイアル搬器を有するSeidenaderV90-T目視検査ユニット(Markt Schwaben,Germany)を使用して、可視の微粒子に関してバイアルを検査した。保持機内にガラスバイアルを置き、バイアルの底部に直通するチンダル光の存在下で回転させることにより、試料の可視の粒子検査を行った。事前回転(すなわち、急速回転)を最初に行って、液体を攪拌し、懸濁させ、粒子を循環させた。回転及び照明後、動いている粒子及び光の中の粒子により、それらを可視にする粒子の反射を引き起こす(すなわち、チンダル効果)。次いで、拡大レンズを使用して可視の粒子が観察された。Samsung(seoul,South Korea)のGalaxy装置を使用して、可視の粒子のビデオ及び写真を得た。
【0231】
濁度の決定
UV分光法を使用して、濁度を決定した。Chemstationソフトウェア(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)を使用して、Agilent8453分光光度計で1cmの経路の長さを有する石英キュベット内の279nm及び320nmにおける吸収を記録することにより、各試料のUV吸収を測定した。
【0232】
タンパク質濃度の決定
Chemstationソフトウェア(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)を使用して、Agilent8453分光光度計で1cmの経路の長さを有する石英キュベット内の340nm~360nmにおける平均吸収を記録することにより測定された各試料のUV吸収により、タンパク質濃度を測定した。各タンパク質に関して、実験的に決定した吸収率を使用することにより、UV濃度決定を計算した。適切な緩衝液に対して、測定値は無であった。
【0233】
実施例1:ポリソルベートの酸化分解
PS20を分解すると前述されている2,2’-アゾビスイソブチラミジニウム(AAPH)を使用して、PS20の酸化分解を阻害するシクロデキストリンの能力を評価した(Borisov et al.,J.Pharm.Sci.104:1005-1018(2015))。PS20の酸化を阻害するシクロデキストリンの能力を評価するために、15%(w/v)のHP-β-CDまたは15%(w/v)のスクロースのいずれかを含有する試料を、対照試料(追加の賦形剤を一切含まない)と比較した。40℃で24時間、賦形剤不含(対照)、15%(w/v)のスクロース、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有する5mMのAAPHで酸化された試料に関して、RP-ELSDによりポリソルベート20分解を決定した。
【0234】
図1に示されるように、データは、HP-β-CD及びスクロースの両方がPS20分解の量を減少させることを裏付ける。AAPHでインキュベーション後、PS20分解において17.9相対パーセントの減少が対照試料中で観察された。対照的に、15%(w/v)のスクロース及びHP-β-CDを含有する試料に関して、それぞれ、PS20分解において9.8及び3.6パーセントのよりわずかな減少が観察された。
【0235】
実施例2:ポリソルベート20の酵素分解におけるHP-β-CDの阻害効果
PS20の酵素分解における15%のHP-β-CDの効果を測定した。追加の賦形剤を含有しないか、15%のスクロースを含有するか、または15%のHP-β-CDを含有する、pH5.5の緩衝液中の0.02%のPS20の試料を、室温で、酵素である、ブタ膵臓リパーゼ(PPL)、リポタンパク質リパーゼ(LPL)、Candida Antarcticaリパーゼ(CALB)、及びウサギ肝臓エステラーゼ(RLE)の各々を用いて消化した。PPL試料を、15μg/mLの酵素を用いて4.5時間消化した。LPL試料を、70μg/mLの酵素を用いて5時間消化した。CALB試料を、0.1mg/mLの固定化酵素を用いて1時間消化した。RLE試料を、15μg/mLの酵素を用いて5時間消化した。全ての消化を室温で実行した。
【0236】
85℃の水浴中で30分間、熱不活性することにより、PPL消化を停止した。LPL及びRLE消化については熱不活性による停止ができなかったため、PS20の含有量に関して試料をすぐに分析した。固定化酵素ビーズを濾過することにより、CALB消化を停止した。粒子形成を可能にするために、CALB試料を5℃で一晩置いた。RLE及びLPL試料を-20℃で一晩凍結させて酵素活性を妨げ、次いで、氷上で解凍した直後に粒子分析した。
【0237】
上述されるように、PS20の含有量に関して全ての試料をインライン蒸発性光散乱検出器(Varian380-LCシリーズ)を用いて高性能液体クロマトグラフィー(Agilent1100シリーズ)により分析した。可視の粒子検査をSeidenader目視検査機器で実行した。顕微鏡で見える粒子分析をHIAC9703粒子測定器で実行した。
【0238】
CALB、RLE、及びLPLで処理した試料は、PS20において59.2%~68.3%の低減を示した(図2)。対照的に、15%のHP-β-CDを含有する試料は、PS20分解に対して著しい阻害を示した。具体的には、これらの試料に関して、PS20の濃度は、14.3%~37.4%低減した(図2及び表1)。
表1-CALB、LPL、及びRLEによるポリソルベート20の酵素分解
【0239】
加えて、HIACデータは、15%(w/v)のHP-β-CDが、顕微鏡で見える微粒子(SVP)の形成を低減することを裏付ける。複数の酵素(CALB、LPL、及びRLE)を用いた酵素分解の後、15%(w/v)のHP-β-CDが試料中に含まれるとき、全ての粒子サイズ種別(≧2、≧5、≧10、及び≧25ミクロンの粒子)に関してSVP/mLはほとんど観察されなかった。LPL及びRLEに関して類似の結果が得られたが、非常にわずかな量の≧10及び>≧25ミクロンの粒子により、≧10及び≧25ミクロンの粒子数測定の説明がつかなかった(図3A~3D)。
【0240】
これらの発見は、代表的なシクロデキストリン複合体であるHP-β-CDが、複数の酵素によるPS20の酵素分解を阻害することができることを裏付ける。理論に束縛されるものではないが、これは、シクロデキストリン分子によるPS20の保護の主要な機構が、シクロデキストリンとポリソルベート分子との間の直接的な相互作用に関与していることを提示し得る。
【0241】
実施例3:ポリソルベート80の酵素分解におけるHP-β-CDの阻害効果
PS80の酵素分解における15%(w/v)のHP-β-CDの効果を測定した。0%及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するpH5.5の緩衝液中の0.02%(w/v)のPS80の試料を、室温で5時間、15μg/mLのブタ膵臓リパーゼ(PPL)を用いて消化した。85℃の水浴中で30分間、熱不活性することにより、PPL消化を停止した。
【0242】
PPL消化の後、RP-ELSDは、PS80においておよそ19相対パーセントの減少を裏付ける(図4)。対照的に、15%(w/v)のHP-β-CDを含有する試料中、PS80分解においておよそ4%の減少が観察された。
【0243】
加えて、HIACデータは、15%(w/v)のHP-β-CDが顕微鏡で見える微粒子(SVP)の平均(n=3)量を低減することを裏付ける。PPLを用いた酵素分解の後、15%(w/v)のHP-β-CDが試料中に含まれるとき、全ての粒子サイズ種別(≧1.4、≧2、≧5、≧10、及び≧25ミクロンの粒子)に関してSVP/mLはほとんど観察されなかった(図5A~5F)。
【0244】
これらの発見は、代表的なシクロデキストリン複合体であるHP-β-CDが、PS80の酵素分解を阻害することができることを裏付ける。これらの結果は、ポリソルベート分解を低減するシクロデキストリンの能力が、粒子形成を低減し、既存の粒子を可溶化するシクロデキストリンの能力が一般に、ポリソルベート分子のクラス(例えば、PS20、PS40、PS60、PS80など)に適用可能であることを提示する。理論に束縛されるものではないが、これは、シクロデキストリン分子によるポリソルベートの保護の主要な機構が、シクロデキストリンと、全てのポリソルベート分子を含む保存された化学的構造サブユニット(例えば、脂肪酸)との間の直接的な相互作用に関与していることを提示し得る。
【0245】
実施例4:ポリソルベート20の酵素分解の反応速度
PS20の酵素分解の反応速度を評価するために、0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料中で、室温で15μg/mLのPPLを用いて試料を消化し、15%のスクロース、15%のHP-β-CD、または15%のHP-α-CDを、約25℃で180時間インキュベートしたPPLを使用して消化した。上述されるように、PS20の含有量に関して全ての試料をインライン蒸発性光散乱検出器(Varian380-LCシリーズ)を用いて高性能液体クロマトグラフィー(Agilent1100シリーズ)により分析した。顕微鏡で見える粒子分析をHIAC9703粒子測定器で実行した。
【0246】
図6中の15%のスクロースの曲線は、PS20分解が、一相指数関数的減衰により説明され得ることを示す。半減期は、32.91時間であり、平坦域は、44%である(図6)。これらの分解反応速度は、その後の研究で25℃で4.5時間PPLを使用する、4.5時間の消化モデルの使用を支持する。
【0247】
実施例5:ポリソルベートの酵素分解におけるシクロデキストリン及び他の賦形剤の阻害効果
HP-α-CD、HP-β-CD、HP-γ-CD、SBE-β-CD、PVP、PEG1500、スクロース、及びメチオニンを含むいくつかの賦形剤を、酵素加水分解に対してPS20を保護するそれらの能力に関して試験した。酵素添加後に、最終濃度0.02%のPS20を含有する、pH5.5の緩衝液中の各賦形剤の溶液を調製した。賦形剤溶液中のHP-α-CD、HP-β-CD、HP-γ-CD、及びSBE-β-CDの濃度は、106mMであった。メチオニン試料は、可溶性の限界により、10mg/mLのメチオニンを含有した。残りの賦形剤(PVP、PEG1500、スクロース)を、HP-β-CDのw/v%と一致するように15w/v%まで添加した。試料を、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を用いて消化し、続いて、85℃で30分の熱不活性を行った。PS20の濃度に関して、インライン蒸発性光散乱検出器を用いて高性能液体クロマトグラフィーを使用して各試料を分析した。次いで、試料を5℃で一晩置いて、粒子を形成させ、前述されるように可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子を分析した。
【0248】
RP-ELSDの結果は、賦形剤のクラスがPS20の酵素分解の程度を決定する上で重要であることを裏付ける(図7)。酵素消化の後、対照試料(すなわち、賦形剤不含)は、PS20分解において58パーセントの減少を有した。15%(w/v)のスクロースを含有する試料に関して、同等の58パーセントのPS20の減少が観察された。これらの発見は、スクロースである非環式二糖類(すなわち、スクロース)がPS20の酵素分解において阻害効果を有さないことを裏付ける。他の賦形剤(例えば、スクロース)の同等の質量が、ポリソルベートの触媒性分解を軽減させないことを裏付ける結果から、シクロデキストリンの阻害効果が質量希釈効果のみによるとは言えない。
【0249】
同様に、メチオニンを含有する試料は、PS20の酵素分解またはSVP形成において阻害効果を有さなかった(図7及び8A~8D)。恐らく、メチオニンは、PS20の酸化分解を防止するであろうが、PS20の酵素分解を防止しないであろう。理論に束縛されるものではないが、この実験において再生されるPS20分解の機構は、加水分解性であり、PS20の酸化分解とは無関係である可能性が高い。
【0250】
結果は、対照試料に対してPEGがPS20分解においてわずかな阻害効果を有することを裏付ける。5%(w/v)のPEG1500を含有する試料に関して、51%のPS20の減少が観察された。
【0251】
評価されたシクロデキストリン分子(HP-α-CD、HP-β-CD、及びSBE-β-CD)の全てが、PS20の酵素分解及びSVP形成において著しい阻害効果を有した(図7及び8A~8D)。興味深いことに、糖サブユニットの数が、シクロデキストリンによる阻害の程度を決定する上で重要であり得る。例えば、HP-α-CD及びHP-β-CDに関して、それぞれ1%及び7%のPS20の減少が観察された。
【0252】
さらに研究を行って、HP-α-CD、HP-β-CD、及びHP-γ-CDの重要性を評価して、シクロデキストリンの環サイズの重要性をさらに理解した。図9に示されるデータは、HP-α-CD及びHP-β-CDを含有する試料に関して、著しいPS20分解は観察されなかったが、対照的に、15%のHP-γ-CDを含有する試料において、PS20分解において約82%の減少が観察されたことを示す。同様に、対照試料(すなわち、賦形剤不含及び15%のスクロース)において、PS20の濃度の著しい減少が観察された(図9)。これらの発見は、よりわずかなシクロデキストリンであるHP-α-CD(空洞直径:4.7~5.2Å、空洞容積:174Å)及びHP-β-CD(空洞直径:6.0~6.5Å、空洞容積:262Å)が、HP-γ-CD(空洞直径:7.5~8.3Å、空洞容積:472Å)よりもポリソルベート20分解のより有効な阻害剤であることを裏付ける。
【0253】
各シクロデキストリンの物理化学的特性よりも、各シクロデキストリンの空洞の寸法及び容積がPS20の酵素分解の分子阻害剤としてのそれらの有効性を決定し得る。理論に束縛されるものではないが、この発見は、保護機構が、シクロデキストリンとポリソルベート20の反応性部位との間のホスト-ゲスト複合化に関与し得ることを提示する。
【0254】
実施例6:シクロデキストリン及び他の賦形剤によるポリソルベート20の酵素分解に関連する可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子の可溶化
いくつかの賦形剤を、PS20の酵素分解の結果として産生される粒子を可溶化するそれらの能力に関して試験した。濃縮したHP-α-CD、HP-β-CD、HP-γ-CD、SBE-β-CD、PVP、PEG1500、スクロース、及びメチオニンの溶液をpH5.5の緩衝液中に三連で調製した。PS20の酵素分解による粒子を調製した。pH5.5の緩衝液中の0.05%のPS20の3つの溶液を、室温で4.5時間、37.5μg/mLのPPLを用いて酵素分解し、続いて、85℃で30分の熱不活性を行った。分解されたPS20溶液を5℃で置いて、粒子を結晶化した。
【0255】
PS20由来の粒子の溶解を防止するために、分解されたPS20溶液中における粒子形成の後、5℃の冷却室で残りの試料の調製を実行した。分解されたPS20溶液の各々を11個の分割量に分割し、濃縮賦形剤を各分割量内に添加した。各試料中の賦形剤の最終濃度は以下の通りであった:スクロースが5%、メチオニンが10mg/mL、PVPが5%、PEG1500が5%、HP-β-CDが15%、HP-β-CDが5%、HP-β-CDが0.5%、HP-α-CDが35.5mM、HP-γ-CDが35.5mM、及びSBE-β-CDが35.5mM。各賦形剤の添加の後、試料を5℃で一晩置いた。翌日、Seidenader目視検査機器で可視の粒子に関してバイアルを検査した。HIAC9703粒子測定器を使用して顕微鏡で見える粒子数を測定した。
【0256】
結果は、対照及び他の賦形剤試料に対して、シクロデキストリン(HP-α-CD、HP-β-CD、及びHP-γ-CD)がSVPの量を著しく低減できたことを裏付ける(図10A及び10B)。これらの結果は、ポリソルベートの酵素分解を防止することに加えて、シクロデキストリンは、ポリソルベート20の酵素消化により生じるPS20分解物を可溶化し得ることも確立する。
【0257】
加えて、15%(w/v)のHP-β-CDの添加の直前及び直後に写真を撮影した。写真により、15%(w/v)のHP-β-CDの添加の前(図11A)及び後(図11B)の、PS20関連の可視の粒子の可溶化が描写される。可視の粒子がすぐに可溶化されたことを写真が写し出したことにより、シクロデキストリンがPS20分解に伴う可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子の可溶性を増加し得るという有力な証拠が提供される。
【0258】
実施例7:シクロデキストリンによるポリソルベート20の酸化分解に関連する可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子の可溶化
HP-β-CDの異なる濃度を、PS20の酸化分解の結果として産生される粒子を可溶化するそれらの能力に関して試験した。濃縮したHP-β-CDの溶液をpH5.5の緩衝液中に三連で調製した。0.02%(w/v)のPS20を含有するタンパク質不含試料を5℃で27ヶ月間保管すると、PS20の酸化分解、ならびにPS20分解産物に関連する可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子の形成がもたらされた。分解されたPS20溶液の各々を3個の分割量に分割し、濃縮賦形剤を各分割量内に添加した。各試料中の賦形剤の最終濃度は以下の通りであった:HP-β-CD(対照)が0%(w/v)、HP-β-CDが5%(w/v)、及びHP-β-CDが15%(w/v)。HP-β-CD濃度を調整した後、試料を5℃で一晩置いた。翌日、HIAC9703粒子測定器を使用して顕微鏡で見える粒子数を測定した。
【0259】
SVPの再可溶化における0%、5%、及び15%(w/v)の濃度のHP-β-CDの効果を試験した。結果は、対照試料(0%のHP-β-CD)に対して、HP-β-CDを含有する試料中のSVPの著しい低減があったことを裏付ける。図12A~12Fに示されるように、15%のHP-β-CDが1.4ミクロン以上の粒子を効果的に再可溶化する一方で、5%のHP-β-CDは、2ミクロン以上の粒子を効果的に再可溶化する。
【0260】
これらの結果は、ポリソルベートの酵素分解を防止すること及びポリソルベート20の酵素消化により生じるPS20分解物を可溶化することに加えて、シクロデキストリンは、ポリソルベート20の酸化消化により生じるPS20分解産物を可溶化し得ることも確立する。
【0261】
実施例8:PS20分解におけるHP-β-CD濃度及びHP-β-CD:PS20の比の効果
PS20分解におけるHP-β-CD濃度の効果を決定するために、0.001、0.01、0.1、1、5、または15%のPS20を含有する試料を4.5時間、15μg/mLのPPLを使用して消化した。図13に示されるように、HP-β-CDの量が増加すると、PS20分解が低減する。
【0262】
PS20の酵素分解における異なるPS20の濃度でのHP-β-CD濃度の効果を評定して、PS20の酵素分解の阻害に最適な濃度を特定した。PS20分解のHP-β-CD濃度への依存性を評価するために、様々なPS20の濃度で異なるHP-β-CD濃度を含有する三連の試料に関して、RP-ELSDを使用してPS20含有量を決定した。0.005%(図14A)、0.02%(図14B)、0.1%(図14C)、及び0.4%(図14D)のPS20を含有する試料を、0%、つまり賦形剤不含(対照)、0、0.5、5、及び15%(w/v)のHP-β-CDを含有するタンパク質不含試料中で、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を使用して消化した。PS20の1mg当たり75mgのPPLの比でPPLを処理溶液の各々に添加し、同等の体積の緩衝液を対照溶液に添加して、酵素分解におけるHP-β-CD対ポリソルベートの比の効果を決定した。85℃の水浴中で30分間、熱不活性することにより、消化を停止した。上述されるように、PS20の濃度に関して、インライン蒸発性光散乱検出器を用いて高性能液体クロマトグラフィーを使用して各試料を分析した。次いで、試料を5℃で一晩置いて、粒子を形成させ、上述されるような可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子の分析の間、氷上に置いた。
表2-HP-β-CD対PS20の比
【0263】
PS20の酵素分解の阻害を完了させるために必要とされるシクロデキストリンの量は、PS20の濃度による(図13及び14A~D)。より低いPS20の濃度(例えば、0.005%のPS20(図14A)において、PS20分解を完全に阻害するために、必要とされるHP-β-CDはわずか0.5%である一方で、0.1%のPS20を含有する試料に対してはHP-β-CDは15%必要とされる(図14C)。同様に、直径2、5、または10μ超の顕微鏡で見える粒子の形成は、シクロデキストリン対ポリソルベートの比による。0.02%のPS20を含有する試料は、顕微鏡で見える粒子の形成を部分的に阻害するために0.5%のHP-β-CDを、及び顕微鏡で見える粒子の形成を完全に阻害するために15%のHP-β-CDを必要とした(図15A~15C)
【0264】
これらの結果は、HP-β-CD対PS20の比(w/w)との関連で説明され得る(図16及び表2)。PS20データは、十分なHP-β-CD:PS20(≧37.5w/w)が、PS20の酵素分解を阻害するために必要とされることを裏付ける(表2)。結果は、HP-β-CD対PS20の比が、PS20及びHP-β-CDの広義の濃度範囲にわたってPS20分解を決定する上で重要であることを提示する。
【0265】
結果は、HP-β-CDによるPS20分解の阻害に可能性のある機構も明確にする。この場合、阻害剤(すなわち、HP-β-CD)の濃度が固定基材(すなわち、PS20)の濃度で増加するために、PS20分解の量は、S字状に異なる(図13)。故に、理論に束縛されるものではないが、シクロデキストリン濃度が増加すると、溶液中の遊離基材濃度が効果的に低減され得、PS20分解の速度が減少する。あるいは、PS20の分解速度を基材-阻害剤複合体により阻害することが可能である。
【0266】
実施例9:抗体保管条件下でのポリソルベート分解
PS20の酵素分解を減少させるシクロデキストリンの能力における、様々なタンパク質分子クラス(例えば、モノクローナル抗体(mAb)、単一Fab抗体(sFAb)、及び二重特異性抗体(BsAb))の影響を評定した。mAb、sFAb、及びBsAb原薬試料を、それらの未変性製剤中に提供した。試料を透析し、0.02%のPS20を有するpH5.5で20mMのヒスチジンアセテートの標的製剤に条件付けて、20mg/mLの最終タンパク質濃度になるようにした。対照試料を、20mMのヒスチジンアセテート、pH5.5、0.02%のPS20を含有するように調製した。mAb、sFAb、BsAb、及び対照試料の各々を部分分割し、異なる量(0%、5%、及び15%)のHPβCDを含有するように条件付けた緩衝液を使用して調整した。試料を、室温で4.5時間、15μg/mLのPPL酵素を用いて消化し、続いて、85℃で30分の熱不活性を行った。PS20の濃度に関して、インライン蒸発性光散乱検出器を用いて高性能液体クロマトグラフィーを使用して各試料を分析した。次いで、試料を5℃で一晩置いて、粒子を形成させ、上述されるように可視の粒子及び顕微鏡で見える粒子を分析した。
【0267】
結果は、0%のHPβCDを含有する各試料が異なる量のPS20分解を有することを裏付ける。結果は、タンパク質を含有する0%のHPβCD試料(図17B~D)が、対照試料(図17A)に対してより高量のPS20分解を有することを示す。タンパク質がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)またはE.Coli細胞内で発現されることにより、タンパク質試料は、PS20分解の総量に寄与する他の不純物(すなわち、リパーゼなど)を含有し得る。
【0268】
0%のHPβCDタンパク質含有試料が、より高量のPS20分解を有するように観察されても、結果は、5%及び15%のHPβCDを含有する試料中で比較可能な量のPS20分解が観察されることを裏付ける。これらの結果は、HPβCDが、評価された全ての分子形式に関して、それらがPS20を触媒性分解する異なる量の不純物を有し得ても、PS20の触媒性分解を軽減する上で同等に有効であることを裏付ける(図17A~D)。これは、タンパク質分子及びそれらの未変性不純物プロファイルの存在が、PS20分解を軽減するために必要であるシクロデキストリン対タンパク質の比に著しく影響を与えないことを確立する。理論に束縛されるものではないが、この発見は、触媒性阻害の機構が、ポリソルベートを分解する酵素ではなく、PS20と直接的に相互作用するシクロデキストリン分子に関与していることを提示する。そうでなければ、ポリソルベートを分解する追加の酵素を含有するタンパク質含有試料は、対照と比較してPS20分解を軽減するためにより多くのHPβCDを必要とするであろう。故に、本明細書に記載のシクロデキストリン対PS20の比は、異なるタンパク質分子及び不純物プロファイルを含有する幅広い範囲の製剤に広義に適用されるはずである。
【0269】
結論
行われた研究は、ポリソルベート(PS20及びPS80)の酵素分解及び酸化分解を阻害するシクロデキストリンの能力を示す。結果は、PVP及びシクロデキストリン(すなわち、HP-α-CD、HP-β-CD、HP-γ-CD、SBE-β-CD)がPS20の酵素分解を防止できたことを裏付ける。さらなる実験は、HP-β-CDが複数の酵素(すなわち、CALB、RLE、LPL、及びPLL)の存在下でポリソルベートを保護していることを裏付ける。理論に束縛されるものではないが、阻害機構は、阻害剤(すなわち、シクロデキストリン)と、基材(すなわち、ポリソルベート)との間の相互作用に関与し得る。包接複合体形成は、遊離基材の濃度を低減し得、かつ包接複合体は、活性部位及び基材との相互作用を直接立体的に阻害もし得る。加えて、濃度研究は、PS20の酵素分解の完全な阻害を提供するのに必要である最適な範囲のHP-β-CD対PS20の比(≧37.5w/w)があることを確立する。
【0270】
PS20の酵素分解を防止することに加えて、結果は、シクロデキストリンが顕微鏡で見える粒子及び可視の粒子の量を効果的に低減し得ることを裏付ける。この様式で、シクロデキストリンは、溶液中の顕微鏡で見える粒子及び可視の粒子を脱凝集させ、溶解する。粒子の形成を効果的に防止することに加えて、結果は、シクロデキストリンが、ポリソルベート分解に関連する既存の粒子を効果的に可溶化し得ることも裏付ける。恐らく、シクロデキストリンは、ポリソルベート分解の産物である遊離脂肪酸の可溶性も増加させる。
【0271】
この研究による発見は、広範囲にわたる実用的意義を有する。結果は、シクロデキストリンを含有する製剤がポリソルベートの酵素分解を防止するために使用され得るという包括的な証拠を提供する。加えて、シクロデキストリンは、酸化分解及び酵素分解の両方によるポリソルベート分解に伴う遊離脂肪酸を可溶化するために使用され得る。故に、シクロデキストリンは、ポリソルベート分解に伴う分解物及び粒子を溶解するための薬品の希釈剤または再構成緩衝液としても有用であり得る。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15A
図15B
図15C
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
【手続補正書】
【提出日】2021-12-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の一の発明。
【外国語明細書】