(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036987
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】内視鏡的切除術を使用する粘膜病変の治療のために用いられる組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/08 20060101AFI20220301BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220301BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220301BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220301BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220301BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K47/38
A61K47/36
A61P1/00
A61L31/04 120
A61L31/12
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021189361
(22)【出願日】2021-11-22
(62)【分割の表示】P 2018553316の分割
【原出願日】2017-01-04
(31)【優先権主張番号】P201630003
(32)【優先日】2016-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(71)【出願人】
【識別番号】518238241
【氏名又は名称】アヘンシア プブリカ エンプレサリアル サニタリア ホスピタル デ ポニエンテ
(71)【出願人】
【識別番号】512047623
【氏名又は名称】ウニベルシダ デ グラナダ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE GRANADA
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モラレス モリーナ ホセ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】アコスタ ロブレス ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】ガジェゴ ロホ フランシスコ ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】クラレス ナベロス ベアトリス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内視鏡的切除術による粘膜病変の治療、例えば、胃腸粘膜のポリープ及び/又は腫瘍の切除におけるリフティング剤として用いられる組成物を提供する。
【解決手段】a.0.005%~2%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、b.0.0001%~0.5%の濃度のヒアルロン酸と、を含む組成物であって、ここで、前記組成物の粘度が、5mPa*s~100mPa*sである、組成物を使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.0.005%~2%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、
b.0.0001%~0.5%の濃度のヒアルロン酸と、
を含む組成物であって、
ここで、前記組成物の粘度が、5mPa*s~100mPa*s、好ましくは5mPa*s~50mPa*s、より好ましくは10mPa*s~40mPa*sである、
組成物。
【請求項2】
前記セルロース由来水溶性ポリマーの濃度が、0.01%~1%、より好ましくは0.1%~0.5%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸の濃度が、0.0001%~0.3%、好ましくは0.001%~0.1%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
a.0.005%~0.4%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、
b.0.0001%~0.09%の濃度のヒアルロン酸と、
を含む、組成物。
【請求項5】
前記組成物の粘度が5mPa*s~100mPa*s、好ましくは5mPa*s~50mPa*s、より好ましくは10mPa*s~40mPa*sである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記セルロース由来水溶性ポリマーが、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、並びにそれらの組み合わせから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸が、1000kDa未満、好ましくは800kDa未満、より好ましくは500kDa~800kDaの分子量を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ヒアルロン酸が、100mPa*s~300mPa*s、好ましくは150mPa*s~250mPa*sの1%水溶液中の粘度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ヒアルロン酸が、ヒアルロン酸ナトリウム塩である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ヒアルロン酸の濃度が、0.001%~0.012%、好ましくは0.002%~0.008%、より好ましくは0.003%~0.006%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記セルロース由来水溶性ポリマーの濃度が、0.1%~0.4%、より好ましくは約0.2%~約0.3%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記水溶性セルロース由来ポリマーが、カルボキシメチルセルロース、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウムである、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記カルボキシメチルセルロースが、500kDa超、好ましくは800kDa超、好
ましくはおよそ900kDaの分子量を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記カルボキシメチルセルロースが、1%水溶液中で500mPa*s~4500mPa*s、好ましくは1000mPa*s~3000mPa*s、より好ましくは1500mPa*s~2500mPa*s、更に好ましくは2200mPa*s~2300mPa*sの粘度を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記カルボキシメチルセルロースナトリウムが、1%水溶液中で1000mPa*s超の粘度を有し、0.2%~0.3%の濃度で前記組成物中に見られる、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
1%~30%に含まれる濃度で、好ましくは糖、多価アルコール及び塩、並びにそれらの組み合わせから選択される、浸透圧調整剤及び/又はpH調整剤を更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記調整剤が、10%~20%、好ましくは16%~18%、より好ましくは17.5%までの濃度である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記調整剤が、糖、好ましくはフルクトース又はイヌリンである、請求項16又は17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、好ましくは生理食塩水又は糖生理食塩水の溶液を含む水性組成物である、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物が、pH3~8、好ましくはpH4~7、より好ましくはpH5~6である、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、500mOs/L~3000mOs/L、好ましくは1500mOs/L~2500mOs/L、より好ましくは約1700mOs/Lのモル浸透圧濃度を有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
染料、好ましくはインジゴカルミン又はメチレンブルーを更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が1以上の有効成分を更に含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記有効成分が、血管収縮剤、好ましくはエピネフリンであり、より好ましくは、エピネフリンの濃度が0.000025%~0.5%である、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物が、
0.0001%~0.09%の濃度のヒアルロン酸と、
0.005%~0.4%の濃度のカルボキシメチルセルロースナトリウムと、
pH5~6の十分量のフルクトース又はイヌリンと、
十分量の生理食塩水と、
任意に、0.0001%~0.01%の濃度のエピネフリンと、
任意に、染料(0.1%~5%の溶液を0.01ml~0.1ml、好ましくは0.05ml)と、
を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記組成物が、
0.0001%~0.09%の濃度のヒアルロン酸と、
0.005%~0.4%の濃度のカルボキシメチルセルロースナトリウムと、
pH5~6の十分量のフルクトース又はイヌリンと、
十分量の生理食塩水と、
任意に、0.0001%~0.01%の濃度のエピネフリンと、
任意に、染料(0.1%~5%の溶液を0.01ml~0.1ml、好ましくは0.05ml)と、
のみからなる、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物が、
0.003%の濃度のヒアルロン酸と、
0.2%~0.3%の濃度のカルボキシメチルセルロースナトリウムと、
pH5~6の十分量のフルクトース又はイヌリンと、
十分量の生理食塩水と、
任意に、0.005%の濃度のエピネフリンと、
任意に、染料(0.1%~5%の溶液を0.01ml~0.1ml、好ましくは0.05ml)と、
を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
前記組成物が、
0.003%の濃度のヒアルロン酸と、
0.2%~0.3%の濃度のカルボキシメチルセルロースナトリウムと、
pH5~6の十分量のフルクトース又はイヌリンと、
十分量の生理食塩水と、
任意に、0.005%の濃度のエピネフリンと、
任意に、染料(0.1%~5%の溶液を0.01ml~0.1ml、好ましくは0.05ml)と、
のみからなる、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
組成物を得る方法であって、
a.2%水溶液中で3000mPa*s~5000mPa*sの粘度を有する水溶性セルロース由来ポリマーのゲルと、水性溶媒とを混合する工程と、
b.工程a)で得られた溶液と、ヒアルロン酸とを混合する工程と、
c.任意に、染料及び/又は1以上の有効成分若しくは賦形剤を、工程b)の間に、又はb)で前記組成物を得た後に組み込む工程と、
を含み、
前記混合プロセスを、5mPa*s~100mPa*s、好ましくは5mPa*s~50mPa*s、より好ましくは10mPa*s~40mPa*sの粘度を有する溶液を達成するまで行い、前記組成物において、前記水溶性セルロース由来ポリマーの濃度が0.005%~2%であり、前記ヒアルロン酸の濃度が0.0001%~0.5%である、
方法。
【請求項30】
他の賦形剤、好ましくは浸透圧調整剤及び/又はpH調整剤、より好ましくはフルクトース又はイヌリンが、工程a)で使用される水性溶媒に予め溶解されている、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
2%水溶液中で3000mPa*s~5000mPa*sの粘度を有する前記セルロース由来水溶性ポリマーのゲルが、
3000mPa*s~5000mPa*sの粘度に達するまで、200rpm~500rpmの一定の撹拌、45℃~55℃の温度で一定の加熱を維持することによって、水性溶媒中に2%の前記ポリマーを溶解すること、
を含む方法によって作製される、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物中、前記セルロース由来水溶性ポリマーの濃度が0.005%~0.4%であり、前記ヒアルロン酸の濃度が0.0001%~0.09%である、請求項29~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記セルロース由来水溶性ポリマーがカルボキシメチルセルロースである、請求項29~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記水性溶媒が生理食塩水である、請求項29~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
滅菌工程を更に含む、請求項29~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記滅菌が、0.2μm~1μm、好ましくは0.45μmのフィルタによる濾過によって行われる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記滅菌が、加熱滅菌によって、好ましくは間欠滅菌によって行われる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項29~37のいずれか一項に記載の方法によって得られる、又は得ることができる組成物。
【請求項39】
請求項29~37のいずれか一項に記載の方法によって得られる、又は得ることができる、請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項40】
前記組成物が医薬組成物である、請求項1~28、38又は39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
医薬として用いられる、請求項1~28、38又は39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項42】
組織の異なる層の分離を必要とする治療方法のために用いられる、
a.0.005%~0.4%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、
b.0.0001%~0.3%の濃度のヒアルロン酸と、
を含む組成物であって、
前記組成物が、分離される組織の1つに、又は両方の組織の間に位置する組織に、注射によって、好ましくは内視鏡注射によって投与される、組成物。
【請求項43】
前記組成物が、分離される組織の1つに、又は両方の組織の間に位置する組織に、注射によって、好ましくは内視鏡注射によって投与される、組織の分離を必要とする治療方法のために用いられる、請求項1~28、38又は39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項44】
前記方法が、粘膜、好ましくは胃腸管の粘膜の一部の切除を含む、粘膜中の病変の治療方法のために用いられる、請求項42又は43に記載の組成物。
【請求項45】
前記組成物が、内視鏡的粘膜下注射によって投与される、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
前記治療方法が粘膜の内視鏡的切除術であり、好ましくはi)内視鏡的粘膜下層切除術(EMR)及びii)内視鏡的粘膜下層剥離術(EDS)からなる群から選択され、より好ましくはEMRである、請求項42~45のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項47】
前記注入圧が、好ましくは直径23Gの内視鏡用注射針を使用する場合、0.1kgf~12kgf、より好ましくは0.25kgf~10kgf、更に好ましくは0.5kgf~10kgfであり、特に好ましくは1.0kgf~7kgfである、請求項42~46のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項48】
前記組成物の保持時間が、少なくとも45分間、好ましくは60分間以上である、請求項42~47のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項49】
前記保持時間における突起の平均高さが、少なくとも3mm、好ましくは4mm以上である、請求項42~48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項50】
請求項1~28、38又は39のいずれか一項に記載の組成物を含むコンテナと、任意に、請求項40~47のいずれか一項に記載の治療方法のために用いられる指示書とを備えるキット。
【請求項51】
胃腸管粘膜中の病変の治療、好ましくは腫瘍及び/又はポリープの治療のために用いられる、
a.0.005%~0.4%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、
b.0.0001%~0.3%の濃度のヒアルロン酸と、
を含む組成物。
【請求項52】
胃腸管の粘膜中の病変の治療、好ましくは腫瘍及び/又はポリープの治療のために用いられる、請求項1~28、38又は39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項53】
請求項1~28、38又は39のいずれか一項に記載の組成物を含むコンテナと、任意に、胃腸管の粘膜中の病変の治療、好ましくは腫瘍及び/又はポリープの治療のために用いられる指示書とを備えるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学及び薬学の分野に含まれる。上記発明は、水溶性セルロース由来ポリマーとヒアルロン酸とを含む、好ましくはカルボキシメチルセルロースとヒアルロン酸とを含む組成物、好ましくは薬学的水溶液に関する。また、本発明は、医薬の製造における、特に、内視鏡的切除術による粘膜中の病変の治療のために用いられる、例えば、胃腸管粘膜中のポリープ及び/又は腫瘍の切除のために用いられる上記組成物、好ましくは薬学的水溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
前悪性消化性(pre-malignant digestive)(すなわち、初期新生物)病変の治療は、
主に、新たな内視鏡の開発、及び新たな内視鏡装置の出現によってもたらされた大きな変化を経た。内視鏡的粘膜下層切除術(一般に、粘膜切除術と称される)及び内視鏡的粘膜下層剥離術の開発により、これらの低侵襲技術を用いて、胃腸粘膜の初期腫瘍性病変は、実質的にはそれらの全体が、内視鏡的に切除可能である。
【0003】
ヨーロッパ、アメリカ、中国、インド及び日本は、潜在的に切除可能な胃腸腫瘍の罹患率が最も高い地域である(非特許文献1)。この技術の使用は、リンパ節転移の可能性が低い初期腫瘍の場合に対する治療選択肢として一般に認められている。粘膜切除術は、従来の手術と比較して低侵襲で低コストの技術であるため、また病変を治癒するものであることから、内視鏡的切除術(粘膜切除術と粘膜下層剥離の両方)はこれらの国々において非常に広く普及しつつある(非特許文献2)。西洋社会では、最も一般的な技術は、より単純でより安全な技術であり、内視鏡的粘膜下層剥離術よりも治療介入期間が短い(日本等のアジア諸国でより発展した)粘膜切除術である。
【0004】
内視鏡的粘膜下層切除手術の容易さ及び安全性と並んで、切除効率を改善する目的で、慣例的には切除のため指定される区域の粘膜下組織に通常注入される有機染料と関連して、リフティング剤(lifting agent)、慣例的には生理食塩水が使用され、それは、病変
の挙上(lifting)をもたらして損傷した組織の境界を定め、摘除することを可能とする
。
【0005】
しかしながら、理想的なリフティング剤又は粘膜下注射溶液がないといった、内視鏡的切除術における制限要因が存在する。とりわけ、程度の低い突起のため、また特にリフティング剤が注入後直ちに末梢組織に拡散するために、切除プロセスが終了する前に突起又は隆起が消滅し、やむを得ず外科医がリフティング剤の注入を繰り返すという事実により、従来の薬剤を使用して病変領域を正確に摘除することは難しい場合がある。
【0006】
粘膜下注射用の溶液としての使用に対して商業的に入手可能な数少ない製品の1つは、Glyceol(商標)である(非特許文献3)。また、10%グリセロールを含む以外は同じ混合順序で高張液+/-アドレナリンの使用が記載されている。グリセロール溶液は、費用対効果が高く、準備が容易であるが、その高粘性及び短時間しか続かない効果が使用を制限し得る。さらに、レオロジーの見地から、グリセロール溶液はニュートン特性を有する流体である。さらに、グリセロール溶液は高粘性であるため、粘膜下層レベルでの注入が困難である。さらに、「フューム(fumes)」を生じる可能性があり、これが上
記技術の実施を困難なものにする。
【0007】
また、ヒアルロン酸を使用することができるが、費用が高いこと、及び注入された場合の粘度が、その使用を制限し得る(非特許文献4)。Hui P他は、粘膜を挙上させておく
のにHAは食塩水より有効であると最近報告した(非特許文献5)。さらに、特許文献1は、内視鏡的粘膜下層剥離法における注射溶液としての使用について試験した0.1%~1%のヒアルロン酸溶液を記載しているようである。
【0008】
ヒアルロン酸とヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)はいずれも非常に粘性であり、注入をより容易にするため、しばしば希釈しなければならない。さらに、HPMCは、注入部位において組織傷害及び炎症と関連した(非特許文献6、非特許文献7)。特許文献2は、粘膜切除又はポリープ切除の治療介入における粘膜下注射のため0.83%のHPMCの使用を記載している。具体的には、切除領域をマーキングする代替法が使用された2群の動物において上記溶液の注入を23G針によって行ったところ、それぞれ36分間及び38分間の平均挙上時間が得られた、in vivoアッセイが記載されている。
【0009】
さらに、2%超の濃度のカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液は、内視鏡的粘膜下層剥離術(EDS)の方法における粘膜下注射に最適であると記載されている。具体的には、in vitroモデル中の粘膜下層における0.5%~1.5%の溶液の粘膜下注射では、筋肉層から粘膜層を分離することはできなかった。対照的に、200mPa*Sの粘度を特徴とする、2%~3.5%のカルボキシメチルセルロースの溶液の粘膜下注射では、実際に両方の層が分離した。上記結果に基づいて、動物モデルにおける実験のため2.5%の濃度を選択した。2%超のCMC溶液は非常に粘性であるため、上記粘膜下注射を実施するために特殊な18G針を必要とした(非特許文献8、非特許文献6)。
【0010】
非特許文献9は、濃度1.5%のカルボキシメチルセルロースナトリウムの溶液を内視鏡的切除術に使用する初期の胃癌患者における研究に言及している。上記溶液を25G針で粘膜下層に注入した。粘膜下層への溶液の注入から処置の終わりまでの平均治療時間は、31.4分間であった。しかしながら、挙上の平均持続時間は示されていない。
【0011】
CMCとヒアルロン酸との組み合わせは、他の使用について記載され、例えば特許文献3では、眼又は関節の外科的用途のために用いられる、分子量100kDa未満のセルロース由来水溶性ポリマーとのヒアルロン酸溶液の使用について述べられており、ヒアルロン酸と1%のCMCとの組み合わせに言及している。さらに、特許文献4は、眼、耳、又は鼻への適用のために用いられるヒアルロン酸と防腐剤(例えば塩化ベンザルコニウム)とを含む組成物に関するものである。70kDa~700kDaの分子量を有する陰イオンセルロース誘導体の使用に言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国特許第20110057877号
【特許文献2】国際公開第03/074108号
【特許文献3】米国特許出願公開第2004241155号
【特許文献4】欧州特許第1992362号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Pavithran K, et al., "Gastric Cancer in India". Gastric Cancer. 2002;5: 240-3
【非特許文献2】Ono H, et al., "Endoscopic mucosal resection for treatment of early gastric cancer" Gut. 2001;2(48):225-9
【非特許文献3】Uraoka T, et al., "Submucosal injection solution for gastrointestinal tract endoscopic mucosal resection and endoscopic submucosal dissection". Drug Des Devel Ther. 2009;2:131-8
【非特許文献4】Jung YS, Park DII. "Submucosal injection solutions for endoscopic mucosal resection and endoscopic submucosal dissection of gastrointestinal neoplasms". Gastrointest Interv. 2013;2:73-77
【非特許文献5】Hui P, Long ZY, Jun HX, Wei W, Yong HJ, Peng LH. "Endoscopic resection with hyaluronate solution for gastrointestinal lesions: systematic review and meta-analysis" Surg Laparosc Endosc Percutan Tech. 2014;24(3):193-8
【非特許文献6】Uraoka T, et al., "Submucosal injection solution for gastrointestinal tract endoscopic mucosal resection and endoscopic submucosal dissection". Drug Des Devel Ther. 2008; 2:131-8
【非特許文献7】"Endoscopic mucosal resection and endoscopic submucosal dissection", Gastrointestinal endoscopy 2008, 68:1 11-18
【非特許文献8】Yamasaki et al. "A novel method of endoscopic submucosal dissection with blunt abrasion by submucosal injection of sodium carboxymethylcellulose: an animal preliminary study". Gastrointestinal Endoscopy 2006; 64(6), 958-965
【非特許文献9】Hikichi et al. 2012 ("Novel Injection Technique: Endoscopic Submucosal Dissection by Submucosal Injection of Sodium Carboxymethylcellulose for Early Gastric Cancer"; Gastrointestinal Endoscopy, 2012, 75 (4S), Sa1765)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
結論として、現在、胃腸粘膜の一部の切除を含む内視鏡治療におけるリフティング剤として用いられる組成物を見つけることが必要とされている。その溶液は、低コストであり、容易に入手可能であり、最適な粘度を有しなければならない。最適な粘度は、一方では容易に注入することができ、標準的な注射針(例えば、21G、23G、又は25G)の使用を可能とし、他方では長時間(例えば、少なくとも45分間、好ましくはおよそ60分間以上)に亘って病変の良好な挙上をもたらすものである。内視鏡治療の期間は病変のサイズに依存し、理想的な組成物は、内視鏡法の間、挙上(突起又は隆起とも称される)の一貫性の喪失に起因する再注入を不要とする。さらに、上記組成物は無毒でなくてはならず、注入組織の組織傷害、出血及び/又は炎症等のいかなる副作用もなく、したがって安全な内視鏡的介入を可能とする。最後に、理想的な組成物は、そのレオロジー特性を失わずに、滅菌を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
機械的-薬理学的効果を有し、ヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースとを含む、本発明の組成物、好ましくは薬学的水溶液を、実施例1において、院内薬局で製造された10%グリセロール溶液と比較した。両溶液は、生理食塩水、フルクトース、アドレナリン、及び染料としてメチレンブルーを更に含んだ。
【0016】
20例の粘膜切除術を行い、溶液を内視鏡により腸粘膜下組織へ導入した場合、挙上又は隆起は、傷害された組織を正確に摘除することができるように、血管の通っている(irrigated by blood vessels:血管によって灌注される)区域から病変の区域(例えば、腫瘍及び/又はポリープ)を平均45分間に亘って分離して血管の通っている組織を回避することにより、出血のリスクが減少し、また回復も早いことが観察された。粘膜下組織に注入された溶液は、その後、副作用をもたらすことなく、再吸収され、治療介入が行われるのに十分な時間を与えた。10%グリセロール溶液で観察された利点は以下の通りであった。
腸レベルでの化合物のより長い保留性、
最小量の製品の注入による組織の大きな膨張、
最適な粘度(容易な製品の注入)、
投与された製品のその後の完全な再吸収、
フュームがない、
少なくとも24時間の物理化学的な安定性、及び少なくとも30日間の微生物学的安定性。
【0017】
第2の後向き研究(実施例2)は、平均27mmのサイズを有する、15mm以上の扁平病変の結腸内視鏡的粘膜切除術に供された10名の患者で行われた。より大きなサイズの病変の切除のために用いられる内視鏡的方法において本発明の組成物を研究する場合、どの患者にも「隆起」の一貫性の喪失のため再注入する必要はなく、また溶液は、72分間の平均時間に亘って腸粘膜下組織に留まったことがわかった。生じた「隆起」は筋層の「粘膜固有層(propria)」から粘膜層を分離し、治療介入全体を通して有効であり、ど
の患者の治療介入の間も合併症は観察されなかった。粘膜下組織に注入された溶液は、いずれの場合も何の問題もなくその後再吸収され、治療介入の間も、処置を行ってから1ヶ月後及び3ヶ月後のフォローアップ通院の間のいずれにも、使用した溶液に起因する炎症又は組織傷害の何らの兆候も示さなかった。
【0018】
さらに、特性評価及び安定性研究(実施例3)では、カルボキシメチルセルロース(擬塑性挙動)及びヒアルロン酸(ニュートン挙動)で構成される本発明の溶液が、無視できるチキソトロピー値を有する擬塑性流体であることが観察された。これは、溶液に経時的に非常に安定した粘度を与える。
【0019】
したがって、第1の態様では、本発明は、
0.0001%~5%の濃度のヒアルロン酸と、
0.005%~2%の濃度のセルロース(例えばカルボキシメチルセルロース)由来水溶性ポリマーと、
を含む組成物、好ましくは薬学的水溶液に関する。
【0020】
第2の態様では、本発明は、組成物を得る方法であって、
a)2%水溶液中で3000mPa*s~5000mPa*sの粘度を有するセルロース由来水溶性ポリマーのゲルと、水性溶媒とを混合する工程と、
b)工程a)で得られた溶液と、ヒアルロン酸とを混合する工程と、
c)任意に、染料及び/又は1以上の有効成分若しくは賦形剤を、工程a)の間に、又はa)で上記組成物を得た後に組み込む工程と、
を含む、方法に関する。
【0021】
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様に記載される方法によって得られる、又は得られうる組成物に関する。該組成物は、本発明の第2の態様による方法によって得られる本発明の第1の態様による組成物であることが好ましい。
【0022】
関連する態様では、本発明は、診断の、手術の、及び/又は治療的な処置の方法における有用な化合物の投与のための本発明の組成物(好ましくは医薬組成物)の使用に関する。上記化合物は、薬理活性を有する有効成分、及び放射性同位元素、又は診断目的で一般に使用される他の化合物を含む。
【0023】
別の更なる態様では、本発明は、医薬として用いられる本発明の組成物に関する。
【0024】
関連する態様では、本発明は、関節を冒す症候群又は疾患の治療における、好ましくは潤滑剤として用いられる本発明の組成物に関する。
【0025】
さらに、本発明は、組織の分離を必要とする治療方法のために用いられる本発明の第1
及び第3の態様による組成物に関し、該組成物を、分離される組織の1つに、又は両方の組織の間に位置する組織に注射によって、好ましくは内視鏡注射によって投与する。
【0026】
別の更なる態様では、本発明は、治療のための医薬製品の製造のために用いられる本発明の第1又は第3の態様による組成物(好ましくは薬学的溶液)に関し、粘膜中の病変の治療は、粘膜の一部の切除、通常は内視鏡的切除を含む。
【0027】
関連する態様では、本発明は、粘膜中の病変の治療方法のために用いられる本発明の第1又は第3の態様による組成物(好ましくは薬学的溶液)に関し、該方法は、粘膜の一部の切除、通常は内視鏡的切除を含む。さらに、別の態様では、本発明は、粘膜の一部の切除、通常は内視鏡的切除術のための治療的有効量の上記溶液の注射を含む、患者における粘膜中の病変の治療方法に関する。
【0028】
またさらに、本発明は、胃腸管の粘膜中の病変の治療のために用いられる本発明の組成物に関する。関連する態様では、本発明は、胃腸管の粘膜中の病変の治療のための医薬の製造における本発明の組成物の使用に関する。最後に、本発明はまた、胃腸管の粘膜中の病変の治療方法に関し、該方法は、治療的有効量の上記組成物の注射、典型的には内視鏡注射を含む。
【0029】
更なる態様では、本発明は、粘膜下注射のための溶液として、又は内視鏡的切除術におけるリフティング剤としての本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)の使用に関する。
【0030】
本発明の別の態様では、キットが更に提供され、該キットは、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)を含む1以上のコンテナと、任意に、本明細書に記載されるもの等の治療法におけるその使用のための、好ましくは内視鏡的切除術の治療方法における(好ましくはリフティング剤としての)粘膜下注射のために用いられる指示書とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】0時点における製剤1-試料M1502グリセロールの粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート1)を示す図である。
【
図2】6ヶ月目における製剤1-試料M1502グリセロールの粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート1)を示す図である。
【
図3】0時点における製剤2-試料M1502ヒアルロン酸の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート1)を示す図である。
【
図4】6ヶ月目における製剤2-試料M1502ヒアルロン酸の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート1)を示す図である。
【
図5】0時点、製剤3-冷蔵庫におけるアドレナリンなしの試料M1502の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート1)を示す図である。
【
図6】6ヶ月目、製剤3-冷蔵庫におけるアドレナリンなしの試料M1502の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート2)を示す図である。
【
図7】0時点、製剤4-室温におけるアドレナリンなしの試料M1502の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート2)を示す図である。
【
図8】6ヶ月目、製剤4-室温におけるアドレナリンなしの試料M1502の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート1)を示す図である。
【
図9】0時点、製剤5-冷蔵庫におけるアドレナリンを含む試料M1502の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート2)を示す図である。
【
図10】6ヶ月目、製剤5-冷蔵庫におけるアドレナリンを含む試料M1502の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート1)を示す図である。
【
図11】0時点、製剤6-室温におけるアドレナリンを含む試料M1502の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート2)を示す図である。
【
図12】6ヶ月目、製剤6-室温におけるアドレナリンを含む試料M1502の粘度曲線(四角)及び流動曲線(三角)(レプリケート1)を示す図である。
【
図13】0時点、冷蔵庫における製剤3(アドレナリンなし)の伝送プロファイル及び後方散乱プロファイルを示す図である。
【
図14】30日目、冷蔵庫における製剤3(アドレナリンなし)の伝送プロファイル及び後方散乱プロファイルを示す図である。
【
図15】30日目、室温における製剤4(アドレナリンなし)の伝送プロファイル及び後方散乱プロファイルを示す図である。
【
図16】0時点、冷蔵庫における製剤5(アドレナリンあり)の伝送プロファイル及び後方散乱プロファイルを示す図である。
【
図17】30日目、冷蔵庫における製剤5(アドレナリンあり)の伝送プロファイル及び後方散乱プロファイルを示す図である。
【
図18】90日目、冷蔵庫における製剤5(アドレナリンあり)の伝送プロファイル及び後方散乱プロファイルを示す図である。
【
図19】30日目、室温における製剤6(アドレナリンあり)の伝送プロファイル及び後方散乱プロファイルを示す図である。
【
図20】90日目、室温における製剤6(アドレナリンあり)の伝送プロファイル及び後方散乱プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
本明細書で使用される「水性組成物」の用語は、任意に、他の互いに混和性の溶媒と混和された水(例えば水溶性有機溶媒)と、それに溶解された1以上の化学物質とを含む、液体又は半固体の組成物(例えば、溶液、懸濁液又はゲル)を指す。
【0033】
「医薬組成物」の用語は、好適な投与経路によって投与される被験体に対して有害な濃度で毒性又は感染性とされる薬剤を含まない組成物に関する。上記医薬組成物は無菌であることが好ましい。
【0034】
本明細書で使用される「薬学的に許容可能な塩」の用語は、本明細書に記載される化合物の相対的に無毒の有機塩付加塩及び無機酸付加塩を指す。これらの塩は、化合物の最終の単離及び精製の間にin situで作製され得るか、又はその遊離塩基形態で精製された化合物と、好適な有機酸若しくは無機酸とを別々に反応させて、そのようにして形成された塩を単離することにより作製され得る。代表的な塩として、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩(tosylate)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩(naphthilate)、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩
、及びラウリルスルホン酸塩等が挙げられる。これらは、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属に基づく陽イオン、また同様に、無毒なアンモニウム、第四級アンモニウム、限定されないが、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン等を含むアミン陽イオンを含み得る(例えば、引用することにより本明細書の一部をなす、Berge S.M, et al., "Pharmaceutical Salts," J.Pharm.Sci., 1977;66:1-19を参照されたい)。
【0035】
本明細書で使用される「治療的有効量」の用語は、被験体に個別の量の本発明の組成物を投与した後に有効である量を指す。
【0036】
本明細書で使用される「被験体」の用語は、哺乳動物を指す。被験体は、ヒト、ペット
、飼い慣らされていない(non-domestic)家畜、及び動物園の動物からなる群から選択されることが好ましい。例えば、被験体は、ヒト、イヌ、ネコ、雌ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、クマ等から選択され得る。好ましい実施形態では、上記哺乳動物はヒトである。
【0037】
本明細書で使用される「新生物」又は「腫瘍性病変」は、好ましくは身体の任意の部分の皮膚及び軟組織に位置する、異形成、前癌病変、癌病変、新生物細胞、腫瘍、良性腫瘍、悪性腫瘍、固形腫瘍、癌腫等を包含する。
【0038】
本明細書で使用される「前癌病変」の用語は、異形成症候群を含む異常な腫瘍性増殖に代表される症候群を含む。非限定的な例として、異形成症候群に加えて、病変が臨床上、識別可能かどうかにかかわらず、母斑症、ポリポーシス症候群、腸ポリープ、子宮頚部の前癌病変(すなわち、子宮頚部異形成)、前立腺異形成、気管支異形成、並びに乳房異形成及び/又は膀胱異形成が挙げられる。
【0039】
本明細書で使用される「擬塑性」の用語は、見かけ粘度又は粘稠度(consistency)が
、剪断速度が増加するにつれて減少する流体を指す。したがって、流体の粘度の減少は時間に依存せず、流体の粘度は、流体が内視鏡用注射針によって組織に注入される際に圧力を加えることによってほぼ瞬間的に減少するが、圧力が解放されると直後に急速にその初期粘度を回復する。擬塑性はキャッソン(Casson)降伏値を使用して評価され得る。より大きなキャッソン降伏値は、静止時の粘度がより高いため、拡散することなく挙上が長時間維持され得ることを意味する。あまりにも高いキャッソン降伏値は、高い注入圧力をもたらし、注入の間の操作性に影響を及ぼす。本発明の医薬組成物のキャッソン降伏値は、好ましくは0.1~100、より好ましくは0.5~75、更に好ましくは1~50である。
【0040】
本発明の組成物
本発明の第1の態様は、0.005%~2%のカルボキシメチルセルロースを含む、組成物、好ましくは水性組成物に関し、該組成物は、
0.0001%~5%の濃度のヒアルロン酸と、
0.005%~2%の濃度のセルロース(例えばカルボキシメチルセルロース)由来水溶性ポリマーと、
を含むことが好ましい。
【0041】
上記組成物は、透明でもよく、又は濁っていてもよい水溶液又は水和ゲルであることが好ましい。本発明では、別段の指示がない限り、濃度は重量/体積で表される。
【0042】
好ましい実施形態では、任意に本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、上記(好ましくは水性)組成物は、
0.005%~2%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、
0.0001%~0.5%の濃度のヒアルロン酸と、
を含み、該組成物の粘度は、5mPa*s~100mPa*s、好ましくは5mPa*s~50mPa*s、より好ましくは10mPa*s~40mPa*sである。最も好ましい範囲内の粘度の例は、15mPa*s~30mPa*sであり、20mPa*s~40mPa*sである。
【0043】
本発明で使用される「ヒアルロン酸」の用語は、グルクロン酸及びN-アセチルグルコサミンからなる少なくとも1つの構成単位を含む多糖を指す。また、ヒアルロン酸は、その薬学的に許容可能な塩を含み、特に制限されない、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等を含む。また、「ヒアルロン酸」の用語は、欧州特許出願公開第2537867号に記載
されるもの等のそれらの誘導体も含む。上記ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ナトリウム塩であることが好ましい。
【0044】
本発明では、本発明で使用されるポリマーの分子量に言及する場合、当業者は平均分子量を述べていると理解するであろう。平均分子量を特定する方法は、当業者によってよく知られており、例えば、浸透圧法(メンブレン又は蒸気圧浸透法)を使用するアッセイ、末端基の分析、レーザー光散乱、超遠心分析法による沈降平衡、粘度計、イン-ライン化検出によるポリマー試料分画技術:液体サイズ排除クロマトグラフィー(SEC/GPC)及びマトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析:(MALDI)質量分析、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
ヒアルロン酸は、高分子量であってもよく、又は低分子量であってもよい。典型的には、多糖の鎖が1000kDa超、好ましくは1500kDa超、又は1800kDa超であるものが、高分子量ヒアルロン酸とされる。一方、1000kDa未満、好ましくは800kDa未満、より好ましくは600kDa未満、更に好ましくは300kDa未満、又は250kDa未満の分子量を有するそれらの鎖は、通常、低分子量ヒアルロン酸とされる。特定の実施形態では、本発明の組成物のヒアルロン酸は、好ましくは500kDa~800kDaの平均分子量を有する低分子量ヒアルロン酸である。
【0046】
同様に、ヒアルロン酸はその粘度によっても定義され得る。本発明の組成物(好ましくは医薬組成物)のヒアルロン酸は、低粘度ヒアルロン酸であることが好ましく、例えば、該ヒアルロン酸は、1%水溶液中で100mPa*s~300mPa*s、好ましくは150mPa*s~250mPa*sの粘度を有する。また、中粘度又は高粘度のヒアルロン酸を使用してもよい。
【0047】
薬学的溶液の粘度は、粘度計を使用することによって従来通り測定される。今日、測定目的が様々な多くの用途の異なる種類の粘度計が存在する。当業者は、最も好適な粘度計、例えば、ブルックフィールドLV(例えば、30rpmでスピンドル3を使用する)、又は粘度計Haake VT500等の回転式粘度計(スピンドル粘度計とも称される)をどのようにして選択するかわかるであろう。当業者は、分析される薬学的溶液に依存するスピンドル(シリンダ又はプレートとも称される)、及びrpmをどのように調整するかわかるであろう。ゲルの最終粘度は、開始原料の特徴、その濃度、及び温度に依存することを考慮しなければならない。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明の組成物のヒアルロン酸は、低分子量、好ましくは超低分子量であり、低粘度のヒアルロン酸である。ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ナトリウムであることが好ましい(例えば、Uromac(商標)、Nakafarma, ES; Morales et al., The Journal of Urology 1996, 156.45-48)。
【0049】
特定の実施形態では、任意に本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、ヒアルロン酸の濃度は、0.0001%~0.3%であり、これには0.001%~0.1%、0.0001%~0.09%、好ましくは0.001%~0.012%、より好ましくは0.002%~0.008%、更に好ましくは0.003%~0.006%が含まれる。
【0050】
セルロース由来水溶性化合物は、当業者に良く知られている。セルロース由来水溶性化合物は、限定されないが、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ア
ルキルセルロース、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
本発明の組成物の特定の実施形態では、任意に本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、セルロース由来水溶性ポリマーの濃度は、0.01%~1%、より好ましくは0.1%~0.5%である。より好ましい実施形態では、セルロース由来水溶性ポリマーの濃度は、0.1%~0.4%、より好ましくは約0.2%~約0.3%である。
【0052】
別の好ましい実施形態では、本発明は、任意に本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、
0.005%~0.4%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、
0.0001%~0.09%の濃度のヒアルロン酸と、
を含む、(好ましくは水性)組成物に関する。
【0053】
上記組成物の粘度は、5mPa*s~100mPa*s、より好ましくは5mPa*s~50mPa*s、更に好ましくは10mPa*s~40mPa*sであることが好ましい。
【0054】
上記セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)由来水溶性ポリマーは、典型的には500kDa超、好ましくは800kDa超、より好ましくはおよそ900kDaの分子量を有する。
【0055】
カルボキシメチルセルロース、すなわちCMCは、セルロースに由来する有機化合物であり、ヒドロキシル基に結合したカルボキシメチル基で構成され、グルコピラノースポリマー中に存在し、一般式RnOCH2-COOHを有する。本明細書で使用されるように、上記用語は、ナトリウム塩又はカリウム塩等のその薬学的に許容可能な塩も含む。CMCは、カルメロースナトリウムとも称される、カルボキシメチルセルロースナトリウムとしてしばしば使用される。上記カルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースナトリウムであることが好ましい。
【0056】
本発明の組成物の特定の実施形態では、任意に、本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、カルボキシメチルセルロースの濃度は、0.005%~2%、又は0.005%~1.9%、又は0.005%~1.8%、又は0.005%~1.7%、又は0.005%~1.6%、又は0.005%~1.5%である。カルボキシメチルセルロースの濃度は、好ましくは0.025%~1.5%、より好ましくは0.01%~1%、更に好ましくは0.1%~0.5%である。
【0057】
本発明の医薬組成物の別の特定の実施形態では、カルボキシメチルセルロースの濃度は、2%未満、1.9%未満、1.8%未満、1.7%未満、1.6%未満、又は1.5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.5%未満である。
【0058】
特定の好ましい実施形態では、カルボキシメチルセルロースの濃度は、約0.3%~約0.2%である。
【0059】
カルボキシメチルセルロースは、高粘度、中粘度、又は低粘度のカルボキシメチルセルロースであってもよい。したがって、例えば、以下の表は、CMC溶液をその高粘度、中粘度、又は低粘度に従って定義し、2%水溶液中で(例えば水又は生理食塩水中で)、20℃にて上記値を測定した場合の上記分類の各々に対する粘度範囲を与える。上記条件は、実施例の溶液の製造で使用されたものであった。
【0060】
【0061】
粘度はセンチポアズ(cP)で表され得る。1Poise=dynaxsec/cm2=1g/cmxsec。時に粘度は、IS単位による圧力測定値であるミリパスカル秒(mPa.s)で表される。1パスカル=1ニュートン×m2で表される;換算係数:(1cP=10-3Pa・s=1mPa・s)。
【0062】
特定の実施形態では、任意に、本発明の他の実施形態の1以上の特徴を組み合わせて、上記水溶性セルロース(例えばCMC)由来ポリマーの粘度範囲が、例えば30rpmでスピンドル3を使用するブルックフィールドLV粘度計によって、25℃にて1%水溶液中(例えば水又は生理食塩水中)で測定される場合、セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)由来水溶性ポリマーは、500mPa*s~4500mPa*s、好ましくは1000mPa*s~3000mPa*s、より好ましくは1500mPa*s~2500mPa*s、更に好ましくは2200mPa*s~2300mPa*s(例えば、2237mPa*s)の粘度を有する。
【0063】
CMCとスクロースとの混合物のレオロジー特性が以前に記載され(Cancela, M.A et al., 2005 "Effects of temperature and concentration on carboxymethylcellulose with sucrose rheology" Journal of Food Engineering, Vol. 71, pp 419-424)、スクロ
ースを含む又はそれを含まない、いずれの混合物も擬塑性のように作用することがわかった。接線応力に応じた歪み速度の変動は、指数関数的であり、CMC及びスクロース(グルコース+フルクトース)の濃度を増加させることによって粘度が上昇する。温度が上昇する場合には、その反対が起こる。
【0064】
好ましい実施形態では、任意に本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、上記カルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースナトリウムであり、1%水溶液中で1000mPa*s超の粘度を有し、0.2%~0.3%の濃度で上記組成物中に見られる。
【0065】
本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、他の、好ましくは擬塑性レオロジー特性を有する多糖を更に含み得る。多糖の例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、及びサクランである。それらの組み合わせも使用され得る。特定の実施形態では、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は唯一の多糖としてCMCを含む。
【0066】
さらに、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、浸透圧調整剤、pH調整剤、防腐剤、染色剤、及び1以上の有効成分(例えば、血管収縮剤又は止血剤)等の他の有効成分及び/又は薬学的賦形剤を含み得る。
【0067】
上記組成物は、水性組成物が好ましい。上記水性組成物は、慣例的には水又は水溶液を含む。水溶液の非限定的な例として、以下が挙げられる:
水。
通常生理食塩水溶液(生理食塩水):0.9%又は154mmol/Lの塩化ナトリウムを含む。
高張生理食塩水溶液:3%~5%又は513mmol/L~855mmol/Lの塩化ナトリウムを含む。
低張生理食塩水溶液:0.45%又は77mmol/Lの塩化ナトリウムを含む。
リンゲル乳酸溶液:例えば、102mmol/Lの塩化ナトリウム;28mmol/Lの乳酸ナトリウム;4mmol/Lの塩化カリウム、及び1.5mmol/Lの塩化カルシウム。
5%デキストロース溶液:278mmol/Lのグルコースの濃度を与える。
プラズマライト(Plasma-Lyte)型溶液:マグネシウム、酢酸、及びグルコン酸のイオ
ンが存在する、乳酸リンゲルに類似する混合物。
高張グルコース血清:278×2mmol/L、278×4mmol/L、278×8mmol/Lの濃度の、10%、20%、40%のグルコースを含む。
糖生理食塩水(Glucosaline)溶液:慣例的には、0.45%塩化ナトリウム及び5%
グルコースを含む。
アルブミン溶液:注射用水に5%~25%無菌ヒトアルブミンを含む。
【0068】
好ましい実施形態では、上記水溶液は生理食塩水を含む。
【0069】
特定の実施形態では、任意に本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、好ましくは、糖、多価アルコール、及びそれらの塩、並びにそれらの組み合わせから選択される、1%~30%の浸透圧調整剤及び/又はpH調整剤を更に含む。本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)の特定の実施形態では、上記調整剤は、10%~20%、好ましくは16%~18%、より好ましくは17.5%の濃度で見られる。
【0070】
多価アルコールの例として、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、トレイトール、リビトール、ミオイノシトール、ガラクチトール、ソルビトール、グリセロール、それらの誘導体、及びそれらの組み合わせが挙げられる。ソルビトール、グリセロール、及びそれらの組み合わせが特に好ましい。
【0071】
特定の実施形態では、上記浸透圧調整剤及び/又はpH調整剤は糖であり、好ましくは単糖及び/又は二糖である。二糖の用語は、任意の二糖を含み得る。二糖の例として、ラクトース、トレハロース、スクロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、イソスクロース、イソトレハロース、ソルボース、ツラノース、メリビオース、ゲンチオビオース、及びそれらの混合物、好ましくはラクトース、トレハロース、スクロース、及びそれらの組み合わせが挙げられる。単糖の用語は、例えば、マンノース、グルコース(デキストロース)、フルクトース(レブロース)、ガラクトース、キシロース、リボース、又はそれらの任意の組み合わせ等の任意の単糖を含み得る。特定の実施形態では、任意に本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、上記糖は単糖である。好ましい実施形態では、上記糖はフルクトースである。また、上記糖は多糖、例えばフルクトース単位で構成されるイヌリンであってもよい。上記糖(例えばフルクトース)は、防腐剤及びその擬塑性効果に関して、カルボキシメチルセルロースのコアジュバント(coadjuvant)として更に作用し得る。
【0072】
上記塩は、塩化ナトリウムが好ましいが、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫化水銀、クロム酸ナトリウム、及び二酸化マグネシウム等の他の塩、また同様にリン酸塩、及びカルシウム塩も使用され得る。特定の実施形態では、任意に本発明の他の実施形態の1以上の特
徴と組み合わせて、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、食塩水、好ましくは生理食塩水(0.9%NaCl)を含む。
【0073】
上記組成物(好ましくは薬学的溶液)は、500mOs/L~3000mOs/L、好ましくは1500mOs/L~2500mOs/L、より好ましくは1700mOs/Lのモル浸透圧濃度を有することが好ましい。
【0074】
pH調整剤の例として、Tris-HClバッファー、酢酸バッファー、クエン酸及びリン酸のバッファー、又はそれらの組み合わせが挙げられる。本明細書で使用される「酢酸バッファー」、「クエン酸バッファー」及び「リン酸バッファー」の用語は、有機酸(それぞれ、酢酸、クエン酸及びリン酸)及びその塩を含むバッファー系を指し得る。それらは各々、十分な量で添加され得る。本発明による組成物のpHは、3~8の範囲、好ましくは4~7の範囲、より好ましくは5~6の範囲である。
【0075】
本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、好ましくは水溶性である染料、例えば、インジゴカルミン、メチレンブルー、タートラジン、エリトロシン、及びキノリンイエロー等、より好ましくはインジゴカルミン又はメチレンブルーを更に含み得る。慣例的には、希釈した染料を通常使用する。染料は粘膜を着色し、病変深度を判断し、その境界を正確に定めることをより容易にする(Larghi A, Waxman I. "State of the art on endoscopic mucosal resection and endoscopic submucosal dissection", Gastrointest Endosc
Clin North Am. 2007;17:441-69)。
【0076】
本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、1以上の有効成分を更に含み得る。該有効成分は、例えば血管収縮剤であってもよい。エピネフリン(アドレナリンとも称される)が一般に使用される。単独で又はエピネフリンと組み合わせて使用され得る代替の血管収縮剤として、限定されないが、ノルアドレナリン、カフェイン、テオフィリン、及びフェニレフリンが挙げられる。それらは各々、病変の切除の間の出血の制御に適した量で添加され得る。好ましい実施形態では、上記血管収縮剤は、0.000025%~0.5%、好ましくは0.00025%~0.05%、より好ましくは0.001%~0.01%、更に好ましくは0.005%の濃度のエピネフリンである。
【0077】
本発明の組成物で使用され得る他の有効成分として、限定されないが、例えば、0.1%~50%の濃度のイヌリン(抗炎症性/抗菌性);例えば、0.1%~20%の濃度のクエン酸(抗酸化剤/凝固剤/pH補正剤(pH corrector));例えば、0.1%~20%の濃度の亜鉛(ヒーリング剤(healing agent)/抗酸化剤);例えば、0.1%~2
0%の濃度のグルタミン、アラニン及び/又はアルギニン等のアミノ酸(治癒プロセスを支援する免疫調節性アミノ酸)が挙げられる。
【0078】
特定の実施形態では、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、本質的に、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、クロロブタノール、及び塩化ベンザルコニウム等の1以上の防腐剤を含まない。別の実施形態では、特に製剤がマルチドーズ製剤である場合には、防腐剤が製剤に含まれ得る。防腐剤の濃度は、約0.1%~約2%、より好ましくは約0.5%~約1%の範囲に含まれ得る。
【0079】
特定の好ましい実施形態では、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、任意に、本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、
0.0001%~5%(好ましくは0.0001%~0.09%)ヒアルロン酸と、
0.005%~2%(好ましくは0.005%~0.4%)カルボキシメチルセルロースナトリウムと、
pH:5~6の十分量のフルクトース又はイヌリンと、
十分量の生理食塩水と、
任意に、0.0001%~0.01%エピネフリンと、
任意に、染料(0.1%~5%の溶液を0.01ml~0.1ml、好ましくは0.05ml)と、
を含み、又はそれらからなり、上記ヒアルロン酸は低分子量で低粘度のヒアルロン酸であり、及び/又はカルボキシメチルセルロースは高粘度カルボキシメチルセルロースであることが好ましい。
【0080】
本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、任意に、本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、
0.003%ヒアルロン酸と、
0.2%~0.3%カルボキシメチルセルロースナトリウムと、
pH:5~6の十分量のフルクトース又はイヌリンと、
十分量の生理食塩水と、
任意に、0.005%エピネフリンと、
任意に、染料(0.1%~5%溶液を0.01ml~0.1ml、好ましくは0.05ml)と、
を含む、又はそれらのみからなる。
【0081】
他の特定の実施形態では、本発明の組成物は、0.5%~3%(例えば1%)の濃度のクエン酸と、0.5%~3%(例えば2%)の濃度の亜鉛と、2%~10%(例えば5%)の濃度のグルタミン及びアラニン(例えばDipeptiven(商標))と、0.5%~3%(例えば1%)の濃度のポリエチレングリコール(例えばPEG400)とを更に含む。
【0082】
実施例に記載されるものに加えて、患者において以下の製剤を試験し、同様の結果を得た。
【0083】
A)
0.003%ヒアルロン酸、
0.2%~0.3%カルボキシメチルセルロースナトリウム、
十分量のフルクトース、pH:5~6、
十分量の生理食塩水、
1%クエン酸、
2%亜鉛、
5%グルタミン及びアラニン(Dipeptiven(商標))、
1%PEG400、
1%-0.05mLインジゴカルミン、
(pH:5~6)。
【0084】
B)
0.003%ヒアルロン酸、
0.2%~0.3%カルボキシメチルセルロースナトリウム、
10%イヌリン、
十分量の生理食塩水、
1%クエン酸、
2%亜鉛、
5%グルタミン及びアラニン(Dipeptiven(商標))、
1%PEG400、
1%-0.05mLインジゴカルミン、
(pH:5~6)。
【0085】
本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)には無菌の組成物(好ましくは溶液)が好適である。今日、任意の微生物の生存率が10-6未満である場合、製品は無菌であるとされることが認められる。医薬組成物の滅菌について当業者によってよく知られている幾つかの方法があり、一般に、物理的及び化学的な滅菌法として分類され得る。それらのなかでも、物理的なものは、加熱滅菌技術であり、乾熱又は湿熱、紫外線又は電離放射線、及び濾過滅菌システムであり得る。化学的滅菌法は、慣例的には液体又は気体の殺菌剤(例えばオゾン)の使用を指す。本発明では、滅菌剤は物理的なものが好ましい。
【0086】
特定の実施形態では、任意に、本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、上記組成物(好ましくは溶液)は、0.2μm~1μm、好ましくは0.45μmのフィルタによる濾過滅菌工程を含む方法によって得られる。例えば、抗菌性で耐圧性の0.45μmエアーフィルターが使用され得る。メンブレンの材料は、ナイロン支持体上のアクリル共重合体であってもよい。
【0087】
特定の実施形態では、任意に、本発明の他の実施形態の1以上の特徴と組み合わせて、上記組成物/溶液は、湿熱滅菌工程を含む方法によって得られる。既存の方法論は、使用される温度により100℃超(例えば、加圧蒸気(オートクレーブ))、およそ100℃(流通蒸気)、又は100℃未満(間欠滅菌)に分類され得る。好ましい実施形態では、上記湿熱滅菌法は、100℃以下の温度を使用し、滅菌工程は間欠滅菌によることが好ましい。高温では、熱は慣例的に擬塑性特性を有する溶液の粘度を減少させることから、本発明の組成物を100℃超の温度に供しないことにより、溶液の粘度の喪失を回避することができる。
【0088】
本発明の組成物を得る方法
第2の態様では、本発明は、組成物を得る方法であって、
a)2%水溶液中で3000mPa*s~5000mPa*sの粘度を有するセルロース由来水溶性ポリマーのゲルと、水性溶媒とを混合する工程と、
b)工程a)で得られた溶液と、ヒアルロン酸とを混合する工程と、
c)任意に、染料及び/又は1以上の有効成分若しくは賦形剤を、工程a)の間に、又はa)で上記組成物を得た後に組み込む工程と、
を含む、方法に関する。
【0089】
上記混合プロセスは、5mPa*s~100mPa*s、より好ましくは5mPa*s~50mPa*s、更に好ましくは10mPa*s~40mPa*sの粘度を有する組成物を得るまで行うことが好ましい。
【0090】
好ましい実施形態では、本発明の第2の態様による組成物中の上記セルロース由来水溶性ポリマーの濃度は0.005%~2%であり、ヒアルロン酸の濃度は0.0001%~0.5%である。上記組成物では、上記水溶性セルロース由来ポリマーの濃度は、0.005%~0.4%であり、ヒアルロン酸の濃度は0.0001%~0.09%であることが好ましい。
【0091】
a)及びb)における上記混合方法は、一般に、200rpm~500rpm(好ましくは約300rpm)の一定の撹拌、及び45℃~55℃(好ましくは約50℃)の温度の一定の加熱のもとで行われる。
【0092】
また、本発明の他の態様で記載されるように、他の賦形剤及び/又は有効成分は、工程a)で使用される水性溶媒に予め溶解されおり、好ましくは浸透圧調整剤及び/又はpH
調整剤、より好ましくはフルクトース又はイヌリンが溶解されていることが考慮される。
【0093】
2%の溶液中、3000mPa*s~5000mPa*sの粘度を有する上記セルロース由来水溶性ポリマーのゲルは、例えば、
3000mPa*s~5000mPa*sの所望の粘度に達するまで、200rpm~500rpmの一定の撹拌、及び45℃~55℃の温度の一定の加熱を維持することにより、上記ポリマーを水性溶媒中に2%で溶解させること、
を含む方法によって作製され得る。
【0094】
上記撹拌プロセスは、3時間~6時間、好ましくはおよそ5時間行われることが好ましい。
【0095】
上記セルロース由来水溶性ポリマーは、カルボキシメチルセルロースであることが好ましい。さらに、上記水性溶媒は生理食塩水であることが好ましい。特定の及び好ましい実施形態と並んで、上記組成物の他の特徴が上に記載されている。
【0096】
本発明の医薬組成物を得る上記方法は、滅菌工程を更に含み得る。可能な滅菌法は上に記載されている。
【0097】
特定の実施形態では、上記滅菌工程は、0.2μm~1μm、好ましくは0.45μmのフィルタによる濾過によって行われる。別の特定の実施形態では、上記滅菌工程は、加熱滅菌によって、好ましくは間欠滅菌によって行われる。
【0098】
上記方法は、本発明の組成物を含む容器(例えば、注射器)の無菌充填のための追加の工程を含み得る。
【0099】
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様に記載される方法によって得られる又は得ることができる組成物に関する。上記組成物は、第2の態様による方法によって得られる本発明の第1の態様による組成物であることが好ましい。
【0100】
本発明の組成物の使用
本発明の組成物は、医薬組成物であることが好ましい。該医薬組成物は、選択される投与経路と適合するように製剤化される。上記投与を行う方法は、当業者に知られている。投与を行う方法として、例えば、皮下、関節内、粘膜、粘膜下の経路等による非経口経路(好ましくは血管内経路を除く)による注射が挙げられる。また、経口、経鼻、眼、直腸、又は局所の経路が考慮され、制御放出製剤、遅延放出製剤、又は徐放性製剤であることも考慮される。特定の実施形態では、上記製剤は粘膜下注射のためのものである。
【0101】
別の追加の態様では、本発明は医薬として用いられる本発明の組成物に関する。
【0102】
関連する態様では、本発明は、診断、外科的治療及び/又は治療的処置の方法に有用な化合物の投与のための担体としての本発明の組成物(好ましくは医薬組成物)の使用に関する。上記化合物は、薬理活性を有する有効成分、及び放射性同位元素、又は診断目的で一般に使用される他の化合物を含む。
【0103】
関連する態様では、本発明は、関節を冒す症候群又は疾患の治療における、好ましくは潤滑剤として用いられる本発明の組成物に関する。
【0104】
さらに、本発明は、組織の分離を必要とする治療方法のために用いられる本発明の第1及び第3の態様による組成物に関し、該組成物を、分離される組織の1つに、又は両方の
組織の間に位置する組織に注射によって、好ましくは内視鏡注射によって投与する。
【0105】
好ましい実施形態では、本発明は、組織の異なる層の分離を必要とする治療法における使用のために用いられる、
0.005%~0.4%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、
0.0001%~0.3%の濃度のヒアルロン酸と、
を含む、(好ましくは水性)組成物に関し、該組成物は、分離される組織のうちの1つ、又は両方の組織の間に位置する組織において、注射によって、好ましくは内視鏡注射によって投与される。
【0106】
上記水性組成物、好ましい特徴、及びその特定の実施形態は、それを得る方法と並んで、本発明の先の態様に記載されている。
【0107】
更なる態様では、本発明は、粘膜、好ましくは胃腸管の粘膜の一部の切除を含む、粘膜中の病変の治療のための医薬の製造における本発明の第1又は第3の態様による組成物(好ましくは薬学的溶液)の使用に関する。
【0108】
関連する態様では、本発明は、粘膜中の病変の治療方法における使用のための、本発明の第1又は第3の態様による組成物(好ましくは薬学的溶液)に関し、該方法は、粘膜の一部の切除を含む。さらに、別の態様では、本発明は、患者における粘膜中の病変の治療方法に関し、該方法は、粘膜の一部の切除のための治療的有効量の上記組成物(好ましくは溶液)の注射、慣例的には内視鏡注射を含む。
【0109】
またさらに、本発明は、胃腸管の粘膜中の病変の治療のために用いられる本発明の組成物に関する。関連する態様では、本発明は、胃腸管の粘膜中の病変の治療のための医薬の製造における本発明の組成物の使用に関する。最後に、本発明はまた、胃腸管の粘膜中の病変の治療方法に関し、該方法は、治療的有効量の上記組成物の注射、慣例的には内視鏡注射を含む。
【0110】
好ましくは、上記(好ましくは水性)組成物は、
0.005%~0.4%の濃度のセルロース由来水溶性ポリマーと、
0.0001%~0.3%の濃度のヒアルロン酸と、
を含む。
【0111】
上記水性組成物、好ましい特徴、及びその特定の実施形態は、それを得る方法と並んで、本発明の先の態様に記載されている。
【0112】
また、本発明は、粘膜下注射用の組成物(好ましくは溶液)として、又は内視鏡的切除術の治療方法(例えば外科的治療方法)におけるリフティング剤としての本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)の使用に関する。
【0113】
本発明による組成物は、粘膜の切除における使用に特に適している。上記切除は、慣例的には、腫瘍性病変(例えば初期腫瘍)、又は前腫瘍性病変(例えばポリープ)等の粘膜層中の病変又は損傷組織の内視鏡的切除を含む。
【0114】
粘膜の切除のための技術が複数記載されている。粘膜の内視鏡的切除のための技術の具体例として、内視鏡的粘膜下層切除術(EMR)すなわち粘膜切除術、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、腹腔鏡的粘膜切除術、尿路鏡的(uteroscopic)粘膜切除術、経尿道
的膀胱腫瘍切除術、及びレーザー粘膜切除術が挙げられる。本発明による組成物は、粘膜の切除のためのこれらの技術のいずれにも使用することができる。
【0115】
特定の実施形態では、上記内視鏡的切除術は、粘膜切除術及び内視鏡的粘膜下層剥離術かなる群から選択される。標準ではないが、病変が20mm未満~30mmである場合、通常粘膜切除術が行われ、内視鏡的粘膜下層剥離術は、一般により大きな病変(最大6cm~7cm)に対して行われる(B.-H. Min, et al., "Clinical outcomes of endoscopic submucosal dissection (ESD) for treating early gastric cancer: comparison with
endoscopic mucosal resection after circumferential precutting (EMR-P)", Digestive and Liver Disease. 2009;3 (41):201-9)。上記内視鏡的切除術は、内視鏡的粘膜下
層切除術(EMR)又は粘膜切除術であることが好ましい。
【0116】
一般に、粘膜切除術は、切除される粘膜の領域の境界を定めること(病変の限定)と、無菌であることが好ましい組成物(好ましくは溶液)を、慣例的には注射針が連結される注射器を使用して、粘膜下組織に注入することとを含む。上記組成物/溶液は、厳密に必要とされるよりも多い傷害を引き起こさないように、摘出される区域を挙上して、胃腸管の残りの層から該区域を分離する。浸透させる容量は、病変のサイズに応じて変化し得る。上記治療介入において極めて重要な工程は、病変を摘出する前の病変の境界の識別である。通常、粘膜中の病変の90%超は、粘膜切除術(1回以上のセッション)で完全に切除される。一方、内視鏡的粘膜下層剥離術は、大きな腫瘍表面、一般に結腸直腸の「一括(en bloc)」切除からなる。この目的で、病変を挙上させる組成物/溶液を、粘膜下組
織レベルに注入する。病変に隣接する粘膜は、粘膜下層の切開の前に好適なマージン(margin)で切開される。その目的のため、周囲の粘膜の完全な又は部分的な切開が、確立されたプロトコル及び病変の性質に従って最初に行われる(B.-H. Min, et al., "Clinical
outcomes of endoscopic submucosal dissection (ESD) for treating early gastric cancer: comparison with endoscopic mucosal resection after circumferential precutting (EMR-P)", Digestive and Liver Disease. 2009;3(41):201-9.、Yamamoto K, et al., "Colorectal endoscopic submucosal dissection: Recent technical advances for safe and successful procedures". World J Gastrointest Endosc 2015 October 10; 7(14): 1114-1128)。
【0117】
本発明による組成物は、粘膜、又は粘膜下組織、粘膜、若しくは上皮等の周辺組織への注入によって適用されることが好ましい。そのなかでも、粘膜下注射による投与が好ましい。
【0118】
本発明による組成物が適用され得る身体各部の例として、食道、胃、十二指腸、胆管、小腸、大腸、結腸、直腸等の臓器の消化管粘膜(digestive mucosa)、また呼吸器(例えば肺)の粘膜、又は尿生殖器(例えば膀胱、尿道、膣、及び子宮)の粘膜が挙げられる。それらの中でも、上部消化管(食道から胃又は十二指腸まで)の粘膜及び下部消化管(小腸、例えば十二指腸より下の空腸及び回腸)の粘膜、及び大腸(結腸、直腸)が好ましい。慣例的には、上記治療は、粘膜下層に本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)を注入することを含む。
【0119】
好ましい実施形態では、注入部位は、本明細書で胃腸管とも称される、消化管の臓器の粘膜下組織である。本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)は、平滑筋蠕動の直接阻害剤と組み合わせて使用され得て、内視鏡術、例えば、腹壁切開、内視鏡手術、消化管の内視鏡検査、又は消化管蠕動が抑制されなければならない別の医療行為による消化管手術の間、スプレー装置又は鉗子によって消化管の内部に局所噴霧され得る。
【0120】
本発明の組成物(好ましくは溶液)は、内視鏡的切除用の種々の器具と共に使用され得る。可変サイズ(30mm~10mm)の楕円形マルチフィラメントポリペクトミースネア(polypectomy snares)が、通常使用される。"Endoscopic mucosal resection and en
doscopic submucosal dissection", Gastrointestinal endoscopy 2008, 68:1 11-18の論文の表1及び表2は、それぞれ市販で入手可能な、粘膜切除術(EMR)用及び内視鏡的粘膜下層剥離術用の器具を詳述する。
【0121】
本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)の注入は、内視鏡用注射針によって一般に行われる。
【0122】
好ましい実施形態では、任意に、本発明の他の態様に記載される1以上の特徴と組み合わせて、本発明の組成物は、胃腸管の臓器の粘膜下層への内視鏡注射によって投与される。
【0123】
内視鏡用注射針の直径(G)は、針の外径に関する基準であり、より大きなゲージ番号は、より小さな外径の針を意味する。本発明の薬学的溶液と共に使用される内視鏡用注射針のゲージ番号は、手術部位に応じて選択されるが、一般に21G~25G、好ましくは23Gである。同じゲージ番号を有する場合であっても、異なる製造業者によって作られた内視鏡用注射針は異なる内径を有する場合がある。一般的には、可能な限り小さな直径を有する針を使用することが好ましく、また、25sG、26G、26sG、27G、28G、29G、30G、31G、32G、又は33G等の25G未満のサイズの針を使用することもできる。使用される針のサイズは、組成物の粘度特性及び該組成物を投与するために使用される器具に従って選択される。
【0124】
注入圧を最小限にするように設計された市販の内視鏡用注射針がある。特定の実施形態では、23G以上の直径を有する内視鏡用注射針が使用される場合であっても、オペレーターによって、好ましくは難なく、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)を注入することができる。一般に、内視鏡用注射針の有効チューブ長は、1000mm以上、好ましくは1500mm~最長2500mmである。
【0125】
粘膜下注射に対する溶液の注入圧を、例えば、測定溶液で満たした5ml又は10ml容のプラスチック製ルアーロック注射器を使用して測定することができる。直径23G及び注射器に接続されるチューブ用に1600mmの有効チューブ長を有する内視鏡用注射針を使用することができる。注射器はテクスチャアナライザー(Shimadzu Corporation製のEZ Test 500N)に固定され、100mm/分の定速度で注射器ピストンを押す。内視鏡用注射針の先端を通って注射器中の測定溶液を放出するのに必要な力を25℃で測定し、注入圧として定義する。注入圧が14kgf以上である場合、測定溶液は内視鏡用注射針の先端を通って放出されるが、注射器ピストンの周辺で損失があり、さらに注射器ピストンは、テクスチャアナライザーに代えて片方の手で押しても動かない。注入圧が約11kgfである場合、注射器ピストンをテクスチャアナライザーに代えて片方の手で押すと、測定溶液は針の先端を通って放出され得る。特定の実施形態では、任意に、本発明の他の態様に記載される1以上の特徴と組み合わせて、上記測定が先の段落に記載される本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)の注入圧は、好ましくは0.1kgf~12kgf、より好ましくは0.25kgf~10kgf、更に好ましくは0.5kgf~10kgfであり、1.0kgf~7kgfが特に好ましい。
【0126】
別の特定の実施形態では、任意に、本発明の他の態様に記載される1以上の特徴と組み合わせて、組成物(好ましくは溶液)の保持時間は、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも45分間、例えば30分間~1時間である。組成物/溶液の保持時間は60分間以上であることがより好ましい。保持時間が終了すると、溶液の完全な再吸収が次第に起こることが好ましい。組成物/溶液の保持時間は、内視鏡オペレーターが病変及び摘出物の境界を区別することを可能とする十分な高さを有する突起又は隆起が維持される期間として定義される。保持時間中の突起の平均高さは少なくとも3mm、好ましくは4mm以
上、例えば4mm~10mm、5mm~8mm、又は6mm~7mmであることが好ましい。上記突起は、一般に、粘膜の切除が行われる臓器の腔の20%~40%、好ましくは30%~35%に等しい。
【0127】
本発明による組成物をコンテナに詰めて保管することができる。本発明の別の態様では、本発明の組成物(好ましくは薬学的溶液)を含むコンテナと、任意に、本発明の先の態様に記載される治療方法のために用いられる、好ましくは内視鏡的切除術の治療方法における粘膜下注射のために用いられる組成物(好ましくは溶液)としてのその用途のために用いられる指示書とを備えるキットが更に提供される。
【0128】
医薬組成物が供給されるコンテナは、例えば10ml~50ml容の注射器、好ましくはルアーロック注射器、バイアル、又はアンプル等の本発明の医薬製剤を保持することができる任意の従来のコンテナであってもよい。本発明は、本発明の組成物を含む1以上のコンテナと内視鏡用注射針とを含むアセンブリを提供し得る。代替的には、上記キットは、本発明の組成物が予め装填された1以上の内視鏡用注射針を備え得る。
【0129】
本明細書で分析される任意の実施形態は、本発明の任意の組成物、医薬組成物、キット、医学的用途、治療方法、及び/又は医薬の製造方法に関して実施され得ることが意図され、その逆も同様である。本明細書に記載される特定の実施形態は、本発明の非限定的な実例により示されることが理解される。本発明の主な特長は、本発明の範囲から逸脱することなく、幾つかの実施形態において使用され得る。当業者は、単純な通例の実験により、本明細書に記載される具体的な方法に対する多くの等価物を認識し、又は決定することができる。これらの等価物は、本発明の範囲に含まれ、特許請求の範囲によって意図されるものとする。
【0130】
全ての特許公報及び特許出願は、各個別の特許且つ又は特許出願が具体的かつ個別に引用されることにより本明細書の一部をなすと示されるのと同じ程度に、引用されることにより本明細書の一部をなす。
【0131】
「1つの(a)」の単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1以上の」、「少なく
とも1つの」、及び「1又は1より多い」の意味とも一致する。「別の」/「他の」の用語の使用もまた、1以上を指す場合がある。特許請求の範囲での「又は」の用語の使用は、それが選択肢のみを指すこと、又は選択肢が相互に排他的であることを明示的に示さない限り、「及び/又は」を言うために使用される。
【0132】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「含む(comprise)」(並びに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」等の含む(comprise)という単語の任意の形式)、
「有する(have)」(並びに「有する(have)」及び「有する(has)」等のこの単語の
任意の形式)、「含む、を挙げる(include)」(並びに「含む、を挙げる(includes)
」及び「含む、を挙げる(include)」等の含む、を挙げる(include)の任意の形式)、又は「含む(contain)」(並びに「含む(contains)」及び「含む(contain)」等の含む(contain)の任意の形式)の単語は、包括的又は非限定的(open)であり、言及され
ていない追加の要素又は方法の工程を排除しない。本明細書で使用される「のみから本質的になる(essentially consisting of)」の表現は、特許請求の範囲を、指定される物
質又は工程、並びに特許請求の範囲に記載される発明の基本的な及び新規な特徴(複数の場合もある)に物理的に影響しないものに限定する。本明細書で使用される「のみからなる(consisting of)」の表現は、例えば、その要素又は限定と通常関連する不純物を除
いて、特許請求の範囲に明示されていない任意の要素、工程、又は原料を排除する。
【0133】
本明細書で使用される「又はそれらの組み合わせ」の用語は、その用語に先行する列挙
される項目の全ての置換及び組み合わせを指す。例えば、「A、B、C又はそれらの組み合わせ」は、A、B、C、AB、AC、BC又はABCの少なくとも1つ、また順番が特定の状況において重要である場合、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC又はCABを含むことが意図される。この例を続けて言うと、BBB、AAA、AB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABB等の1以上の項目又は用語の反復を含む組み合わせが明示的に含まれる。当業者は、文脈から明らかでない限り、慣例的には、任意の組み合わせの項目又は用語の数に対しては何らの限定もないことを理解する。
【0134】
限定を伴わずに、「(その条件)で(on)」、「およそ(around)」、「約(about)
」等の本明細書で使用される近似の単語は、そのように修飾された場合、必ずしも絶対的又は完全でなくてもよいと理解されるが、どちらかと言えば、当業者にとって提示される条件の指定を保証するのに十分に近似すると考えられるであろう条件を指す。記載が変化し得る程度は、起こり得る変化に大きく依存し、当業者は、修飾される特長は、修飾されていない特長の必要とされる特徴及び可能性をまだ有すると認識する。一般に、先の分析を条件とするが、「約」等の近似の単語によって本明細書で修飾される数値は、確立される値から±1%、±2%、±3%、±4%、±5%、±6%、±7%、±10%、±12%、又は±15%変動し得る。上記変動は、0%であることが好ましい。
【実施例0135】
実施例1.効能及び安全性試験:10%グリセロールとの比較
材料及び方法
内視鏡的粘膜下層粘膜切除術(endoscopic submucosal mucosectomy)を行うためエル
・エヒド(アルメリア)のポニエンテ病院で内視鏡診療を行った20名の患者による後向き研究。メチレンブルーを含む、10%グリセロール溶液、5%フルクトース、0.005%アドレナリン溶液を10名の患者に使用した。研究対象の新たな溶液を10名の他の患者に使用した:50mLに十分量の生理食塩水中、0.003%の低密度ヒアルロン酸(HA)(UROMAC(商標))、1%希釈物中1500mPa*S~2500mPa*Sの粘度を特徴とする0.2%のカルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム1500~4500(94224、Guimana)、pH=5~6の十分量のフルクトース、0
.005%アドレナリン、1滴のメチレンブルー(0.05ml)の用時混合溶液(extemporaneous solution)。上記溶液をBD Plastipak(商標)50mL容ルア
ーロック注射器に入れ、使用まで2℃~8℃で保管した。
【0136】
データ収集:病変の数及びサイズ(cm)、病変の完全な摘除のための切除回数(セッション)、溶液の注入回数、各病変に注入された容量(mL)、粘膜切除術の間に有用な隆起の持続期間(分)、内視鏡的介入の開始から再吸収の開始が観察されるまでの時間(分)、組織血管新生(良好/適正/不良)、外科的介入の間の視界を困難にするフュームの発生(あり/なし)、外科的介入の間の出血(あり/なし)、出血のタイプ(軽度/中程度/大量)、外科的介入の合併症、薬物投与後の(検査での)組織の進行(炎症/組織傷害)。
【0137】
両方の溶液を水平ラミナーフローフードにおいて無菌条件下で製造し、Mini Spike Plus V(商標)滅菌フィルタ(Braun)により水平ラミナーフローフード
内で濾過した。以下の物理化学的安定条件を考慮した:pH=5~6、両方の溶液において溶質の沈澱が視認されないだけでなく、30日間に亘って粒子が視認されない。微生物学的安定性を判断するため、両方の溶液の試料を、それらの製造後0日目、7日目、15日目、30日目に培養した。同様に、一次的に粘度を特定できないことを考慮して、発明者らは両方の溶液のモル浸透圧濃度を特定することを選択した。
【0138】
溶液を、23ゲージの内視鏡用注射針を備える、長さ200cm~240cmのカテー
テルに連結されたB/BRAUN Omnifix(商標)10mL容ルアーロック注射器で投与した。この物質に必要な最小の作業チャネルは2.0mm~2.8mmである(Interject(商標)Contrast-Injection Therapy Needle Catheter-Boston Scientific)。
【0139】
結果
全ての患者において、摘出の前に希釈したメチレンブルーを使用して、完全にポリープの境界を定めた。染料は粘膜下組織を染色し、患者において、焼痂の深さの完全な判定を可能とし、正確に境界を定めた。使用されるスネアは、30mm及び10mmのサイズの楕円形マルチフィラメントスネアであり、内視鏡的断片切除術(endoscopic piecemeal resection)を使用して大きな病変を扱った。電気手術器の製造業者の推奨に従い、凝血混合物と共に単極性電流を使用した。
【0140】
いずれの患者も、表面積15mm~40mmの表面、及び0.5mm~1mmの摘出組織の深度を有する3個~6個の病変を提示した。いずれの溶液の使用によっても、病変を摘除するためのセッションの回数に差は観察されなかった。10%グリセロール溶液を用いると、患者は100mL~200mLの溶液を必要とし、6名の患者において該溶液を再注入しなければならなかった。しかしながら、研究対象の溶液を用いると、平均50mLの溶液を必要とし、どの患者にも再注入は必要ではなかった。
【0141】
粘膜切除術の後、溶液を腸の粘膜下組織に導入すると「隆起」を観察することができ、患者に再注入されることを時々必要とする10%グリセロールで観察された15分間と比較して、治療介入が続いた30分間~45分間に亘って血管の通っている区域及び筋肉からポリープの区域を分離した。粘膜切除術のための新たな処方物の使用は、長時間に亘る病変の最適な挙上を提供し、より大きな安全性を与えた。
【0142】
全ての患者は、治療介入に関連するいかなる合併症も提示せずに臨床追跡調査中である。アドレナリンの導入により、出血の潜在的リスクは減少され、回復はより速いと予想された。その後、粘膜下組織に注入された溶液は、何らの問題もなく再吸収され、使用される溶液に続く炎症又は組織損傷の徴候は観察されなかった。しかしながら、患者はまだ追跡調査中であり、これは将来的な来院で確認されなければならない。どの患者でも大出血は観察されず、治療介入中、何らの合併症も観察されなかった。
【0143】
外科的介入に供した組織の血管新生は良好であった。3名の患者では、中程度のフュームの存在が10%グリセロール溶液で観察されて、摘出される区域の視界を部分的に困難にしたが、新たな溶液ではこれは観察されなかった。
【0144】
両方の溶液は、少なくとも30日間に亘って微生物学的安定性を提示した。研究対象の溶液の平均モル浸透圧濃度は、1.710mOs/Lであり、10%グリセロール溶液の平均モル浸透圧濃度は809mOs/Lであった。しかしながら、物理化学的な見地より、また研究されていないことを考慮すると、両方の溶液で2℃~8℃にて24時間の安定性のみが推奨され得る。
【0145】
考察
粘膜切除術の後、機械的-薬理学的効果を有する新たな処方物の結果は、本発明者らの患者において最適化されることを示した。溶液が腸粘膜下組織に組み込まれると「隆起」が生じ、約45分間に亘って血管の通っている区域及び筋肉から病変の区域を分離する。したがってポリープを摘出する場合、出血及び病変のリスクが減少され、回復はより速い。その後、粘膜下組織に注入されたこの溶液は、有害作用を生じることなく再吸収されるようであり、粘膜切除術を行うのに十分な時間を与える。
【0146】
上記処方物は、消化管の初期の腫瘍性病変の粘膜切除術、及び粘膜下内視鏡的剥離等の粘膜下組織への注入のための非常に多くの使用可能性を有する。生じた「隆起」は、グリセロール、生理食塩水、又は他の製品を別々に用いるよりも、この調合剤を用いることでより長く継続するようである。
【0147】
結論
この溶液の利点は、腸レベルでの化合物の高い保留性、少量の製品の注入による組織の大きな膨張、最適な粘度、投与された製品の後の全再吸収、物理化学的及び微生物学的な安定性、並びにこの全てが非常に低コストであることである。
【0148】
実施例2.効能及び安全性試験:10名の追加の患者における本発明の組成物の後向き研究
材料及び方法
15mm以上の扁平病変の結腸内視鏡的粘膜切除を行うため、エル・エヒド(アルメリア)のポニエンテ病院で内視鏡診療を経た10名の患者における後向き研究。研究対象の溶液:50mLに十分量の生理食塩水中、0.003%のヒアルロン酸(HA)150センチポアズ~250センチポアズ(UROMAC(商標))、1500mPa*s~2500mPa*sの粘度を特徴とする0.2%のカルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム1500~4500(94224、Guinama)、pH=5~6の十分量のフルク
トース、及び0.05mLのメチレンブルー。粘膜切除溶液を製造するため、2%-4.500mPa.sの原液から開始して、最終溶液中、0.2%のCMC濃度を使用した。0.9%生理食塩水溶液中、2%高粘度カルボキシメチルセルロース(CMC)((2%溶液中、4.474mPa.s)を製造するプロセスにおいて、約5時間の撹拌の後、所望の粘度のゲルが得られるまで、常に撹拌を(常時、温度50℃で磁気撹拌機により穏やかに)制御した。
【0149】
研究対象の溶液を製造するため、以下のプロトコルを使用した。
【0150】
35gのフルクトースをビーカーに計量し、100mLの生理食塩水で希釈して溶解するまで撹拌する。20gの2%高粘度カルボキシメチルセルロースを計量し、先の溶液に添加する。本発明者らは、1mLの1%アドレナリン、6mLの低粘度ヒアルロン酸、及び1滴のメチレンブルーを添加する間、継続的な撹拌を維持する。それにPSを加えて200mLとする。その溶液を完全に均質になるまで撹拌する。
【0151】
無菌状態は、部分的に制御される条件(クラス100.000)により、空間(部屋)に配置されたクラス100水平ラミナーフローフード(HLFH)における濾過滅菌によって達成される。それをHLFHに運び、カットトランスファー装置(cut transfer device)及び0.22ミクロンフィルタによりビーカーの内容物をBD Plastipa
k(商標)50mL容ルアーロック注射器に注ぎ、使用まで2℃~8℃で保管した。
【0152】
ミダゾラム及びペチジンIVを用いて麻酔専門医によって行われた深鎮静の後、全ての患者に対して上記治療介入を行った。患者において、摘出の前に希釈したメチレンブルーを使用して、完全にポリープの境界を定めた。染料は粘膜を染色し、患者において、焼痂の深さの完全な判定を可能とし、正確に境界を定めた。使用されるスネアは、30mm及び10mmのサイズの楕円形マルチフィラメントスネアであり、内視鏡的断片切除術を使用して大きな病変を扱った。電気手術器の製造業者の推奨に従い、凝血混合物と共に単極性電流を使用した。
【0153】
データ収集:人口統計学、病変の数、溶液の注入回数、注入された容量(mL)、粘膜
切除術中の有用な隆起の持続時間(分)、内視鏡的介入の開始から再吸収の開始が観察されるまでの時間(分)、外科的介入の間の出血、出血のタイプ)、外科的介入の合併症、薬物投与後の(1ヶ月目、3ヶ月目の検査における)組織の進行(炎症/組織傷害)。
【0154】
研究対象の溶液を水平ラミナーフローフードにおいて無菌条件下で製造し、Mini Spike Plus V(商標)滅菌フィルタ(Braun)により水平ラミナーフローフ
ード内で濾過した。
【0155】
溶液を、23ゲージの内視鏡用注射針を備える、長さ200cm~240cmのカテーテルに連結されたB/BRAUN Omnifix(商標)10mL容ルアーロック注射器で投与した。この物質に必要な最小の作業チャネルは2.0mm~2.8mmである(Interject(商標) Contrast-Injection Therapy Needle Catheter-Boston Scientific)。
【0156】
結果
本研究の10名の患者(90%が男性、年齢63.5歳)は、平均サイズ27mm(範囲:15mm~50mm)の平均3個の結腸病変(範囲:1個~5個)を提示し、患者1人当たり、合計24mLの粘膜切除溶液を必要とした。どの患者にも、「隆起」の一貫性の喪失のために上記溶液を再注入する必要はなかった。上記溶液は、平均72分間に亘り腸粘膜下組織に留まった。粘膜切除術の後、治療介入が最長90分間(3名の患者)であり、固有筋層からの粘膜層の分離のため生じた「隆起」が治療介入全体を通して有効であった幾つかの症例が観察され、治療介入の間、どの患者でも合併症は観察されなかった。その後、粘膜下組織に注入された溶液は再吸収され、全ての症例において、治療介入の間も、粘膜切除術を行った後1ヶ月目及び3ヶ月目のフォローアップ通院の間も、使用した溶液に続く何らの問題及び炎症若しくは組織傷害の兆候も観察されなかった。
【0157】
考察
粘膜切除術のための新たな処方物の使用は、60分超に亘る大型の結腸病変の最適な挙上を提供し、治療介入により大きな安全性を与えた。いずれの患者も、治療介入に続く、何らの更なる合併症も提示せず、現在、臨床追跡調査中である。
【0158】
本研究では、溶液を腸粘膜下組織に導入した際、経時的に一貫した「隆起」をもたらし、血管の通っている区域及び筋肉から病変の区域を最長90分間に亘って分離したことが観察された。したがって、ポリープを摘出する場合、合併症の潜在的リスクが減少される。この腸粘膜下組織における溶液の長期間の保留性は、主に2つのムコ多糖物質の混合物に起因する。
【0159】
本明細書で提示される研究で実証されるように、粘度及びモル浸透圧濃度は、溶液の効能及び安全性に関する鍵である。この研究では、溶液は、安全性の問題を生じることなく完全に再吸収された。ここで、正確には、技術革新の一部が、すなわち非常に高粘度CMCを使用することにある場合は、驚いたことに、効能及び安全性に関して最適な臨床結果を達成するため、HAと関連して、低濃度の両方の成分を必要とすることを認める。低粘度HAを本研究で使用したが、中粘度/高粘度のHAを使用することも可能である。
【0160】
結論
この研究では、大型病変における結腸内視鏡的粘膜切除で使用される本発明の医薬組成物が、60分間超、幾つかの症例では最長90分間に亘り腸粘膜下組織に留まることを実証した。全ての症例におけるこの事実は、少量の製品を使用して、標準治療と比較して腸レベルでの化合物のより長い保留性により、大型腸ポリープの摘出における安全で有効な治療介入を可能とした。
【0161】
実施例3.本発明の溶液の特性評価及び安定性の研究:10%グリセロール溶液及び0.2%ヒアルロン酸溶液との比較
材料及び方法
2016年、ポニエンテ病院のUGC薬局(UGC de Farmacia)(薬局)及びグラナダ
大学薬学部ガレヌス及び製薬技術部門(Departamento de Galenica y Tecnologia Farmaceutica)によって研究が行われた。下に示される製剤を製造する方法は、実施例2に記載される通りである。
【0162】
製剤の組成
1.10%グリセロール+pH=5~6の十分量のフルクトース+0.05mLの1%メチレンブルー+50mLに十分量の生理食塩水を含む新たに作製された試料(15/02/16-バッチ:M1502)。はじめから室温で保管した(製剤1)。
【0163】
2.0.4%ヒアルロン酸+pH=5~6の十分量のフルクトース+0.05mLの1%メチレンブルー+50mLに十分量の生理食塩水を含む新たに作製された試料(15/02/16-バッチ:M1502)。はじめから室温で保管した(製剤2)。
【0164】
3.アドレナリンを含まない研究対象の溶液の2つの新たに作製した試料(15/02/16-バッチ:M1502)(0.2%カルボキシメチルセルロース+0.003%ヒアルロン酸+pH=5~6の十分量のフルクトース+0.05mLの1%メチレンブルー+50mLに十分量の生理食塩水)。冷蔵庫(2℃~8℃)(製剤3)、及び室温(製剤4)ではじめから保管した。
【0165】
4.アドレナリンを含む研究対象の溶液の2つの新たに作製した試料(15/02/16-バッチ:M1502)(0.2%カルボキシメチルセルロース+0.003%ヒアルロン酸+pH=5~6の十分量のフルクトース+0.05mLの1%メチレンブルー+50mLに十分量の生理食塩水)。冷蔵庫(2℃~8℃)(製剤5)、及び室温(製剤6)ではじめから保管した。
【0166】
pHに関する研究
作製した製剤のpHを、Crison micropH 200、モデル2000pHメーターで特定した。
【0167】
異なる時間にpHを特定した。粘膜切除ゲルに適した値に関するpHの著しい変動は、溶液の分解又は誤生産を示すことができた。
【0168】
レオロジー研究
固定下部プレート及び可動性上部プレート(Haake PP60 Ti、直径6cm)を備える、平行板形状を有する配置で、HAAKE Rheostress 1回転レオメーター(ドイツ国カールスルーエのThermo Fisher Scientific)を使用して、25℃で製剤のレオロジー特性評価を行った。プレート間の異なる空間を、0.1mmの分離が選択されるまで試験した。
【0169】
装置は、Haake VT500粘度計、及び水再循環系(Haake C25P)を備える恒温槽の要素からなる。レオメーターを、試験を行うためのHAAKE RheoWin(商標)Job Manager V 3.3ソフトウェア、及び得られたデータに対する分析を行うためのRheoWin(商標)Data Manager V 3.3ソフトウェア(ドイツ国カールスルーエのThermo Electron Corporation)を搭載する
コンピューターに接続する。
【0170】
粘度及び流動曲線を、100s-1で0の加速期間又は上昇期間中の3分間、100s-1で1分間(等速期間)、及び最後に0s-1で100の降下期間中の3分間について記録した。100s-1での粘度値を、4℃及び25℃で保管した試料について、t0日目及びt180日目に3回判定した。
【0171】
多重光散乱による光学的特性評価
長期安定性を予測する目的で、Turbiscan(商標)実験室装置(フランス国リュニオンのFormulaction Co.)を使用して、多重光散乱によって製剤を評価した。光源はパルス近赤外線(λ=880nm)である。全体が読取りヘッドによってスキャンされる円筒形のガラスセルに希釈していない試料を入れて保持する。それにより、所与の時間での試料の肉眼的フィンガープリントに対応する、試料の高さに従うライトフローパターン(light flow pattern)を得る。室温で3回測定を行った。
【0172】
安定性研究
pH、粘度、レオロジー挙動、及び外観の変動が製剤中で生じ得る構造変化と関連する可能性があることから、それらを分析する目的で、特性評価研究と平行して安定性研究を行った。
【0173】
それぞれの特別処方物を十分な量で用意し、4℃及び25℃の異なる温度で琥珀色のバイアルに等分して保管した。
【0174】
各処方物の完全な特性評価は、製造後24時間に行い、これを0日目とする。研究期間は6ヶ月であった。
【0175】
1つの処方物、時間、温度当たりに行われた判定の回数は3回であった。
【0176】
平均値及び標準偏差を各アッセイに対して計算した。比較した平均間に有意差があるかどうかを確認する目的で、全ての結果を95%信頼水準に対する統計学的ANOVA処理に供した。
【0177】
結果及び考察
pHに関する研究
以下に示されるデータは、製剤3~製剤6に対応する。製剤の生産から6ヶ月後に測定を行った。
製剤3:冷蔵庫において、アドレナリンを含まない 5.29。
製剤4:室温において、アドレナリンを含まない 5.99。
製剤5:冷蔵庫において、アドレナリンを含む 5.84。
製剤6:室温において、アドレナリンを含む 5.02。
【0178】
得られた結果は、弱酸性のpHを示す。全ての製剤におけるpH値は5~6である。この間隔は、製造pHに対応する。組成又は研究中の時間経過に基づくpH値の著しい変動は観察されない。pHの増加がカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む系の粘度を増加させる(Voigt and Bornschein, 1982)ことを考慮すれば、この事実は製剤のレオロジー安定性に効果がある。
【0179】
レオロジー研究
表1は、100s-1での0時点及び6ヶ月後の試料の平均粘度値(mPa・s)を示す。
【0180】
【0181】
ヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースとを組み合わせる試料は、その他(グリセロールを含む試料、又はヒアルロン酸を含む試料)よりも、はるかに高い(約10倍高い)粘度を有する。これは、後者の粘度が、別々の成分の粘度の合計よりも大きくなるような、系の成分間の相互作用から生じる粘性の相乗作用に起因する。
【0182】
アドレナリンの存在は、さほど粘度値に影響しない。
【0183】
冷蔵庫で低温にて試料を保管することは、室温で保管された試料と比較して、粘度値のかなりの増加を示す。それは、温度が上昇するにつれて、運動エネルギーが粘性力を上回り、粘度の減少に結びつくという事実に起因する(Cancela et al., 2005: "Effects of temperature and concentration on carboxymethylcellulose with sucrose rheology" Journal of Food Engineering, Vol. 71, pp 419-424)。
【0184】
これらの結果は、室温で維持された試料の粘度で粘膜切除術を行うのに必要な効力を達成しない場合の試料の保管に対して考慮に入れられるべきである。
【0185】
保管時間の影響について著しい変化は観察されず、6ヶ月の研究の間、全て安定した試料を検討することができた。
【0186】
温度に加えて、粘度は、とりわけ歪み速度勾配及び圧力等の変数によって非常に影響を受け得るため、これらは最も重要である。
【0187】
試料が速度勾配によって経る変動は、レオロジーの観点から見出され得る異なる種類の流体を分類することを可能とする。
【0188】
したがって、レオロジーの特性評価は、製剤の安定性を評価するためのみならず、最終系の流動挙動について学ぶためにも役立つ。
【0189】
製剤の挙動は、投与(機械的挙動)の間に最終製品の機能特性、品質管理、ポンピング、混合、包装、保管等の基本操作の設計、及び物理的安定性に干渉するため、医療装置の開発における必須基準の1つである。
【0190】
図1~
図12は、研究した粘膜切除用製剤の粘度曲線(正方形)及び流動曲線(三角形)を示す。剪断応力対歪み速度(τ対D)は流動曲線に表されるのに対し、歪み速度による粘度(μ対D)は粘度曲線に示される。
【0191】
見てわかるように、製剤1(6ヶ月)及び製剤2(0時点及び6ヶ月)は、ニュートン挙動を有し、流動曲線は原点から開始する直線である、すなわち剪断応力と歪み速度との間に直線関係がある。さらに、粘度が適用される任意の歪み速度に対して一定であることが、粘度曲線において見られる。この挙動は、ヒアルロン酸と共に製造された製剤において、研究の期間、すなわち6ヶ月に亘って維持され続ける。しかしながら、グリセロールベースの製剤の場合、この挙動は経時的に変動し、0時点に塑性流動を示す。図面によれば、最小の剪断応力(限界応力)を超過するまでこの種の流体は固体のようにふるまい、その値の後は液体のようにふるまう。それにもかかわらず、どのようにして実質的に一定の見掛け粘度値が、ニュートン挙動を示唆する中間歪み速度(50s-1)で達成されるのかがわかる。
【0192】
本発明の製剤について、粘度は、剪断速度が増加するにつれて減少する傾向がある。この挙動は、擬塑性流体に典型的である。この場合、カルボキシメチルセルロースをヒアルロン酸と組み合わせて製造された製剤は静止時に高粘度を有し、4℃及び25℃でそれぞれ35mPa.s又は16mPa.sに近い値に達し得る。沈澱は他の有効成分、及び/又は浸透圧調整剤、pH調整剤、染色剤等の薬学的賦形剤、並びに血管収縮剤又は止血剤の粒子の凝集を悪化させるため、沈澱が防止される場合、これは技術的な見地から理想的である。また、高粘度が正確に病変を摘除するのに適した隆起又は突起を提供するため、生理学的見地から理想的である。この挙動は、保管温度又はアドレナリンの存在にかかわらず類似する。
【0193】
チキソトロピーは、負荷のもとでの構造の構築及び破損に関連する特性である。チキソトロープ流体は、負荷の適用によるそれらの内部構造の変化を特徴とする。力が加えられると、分子内の鎖の破損が生じて、粘度が徐々に減少し、休止時間の後、その構造の再建によって上記力が止むことで、粘度は再び増加し、これは、それらが粘度-時間の関係を示すことを意味する。ヒステリシスサイクルの面積を、チキソトロピーの程度の推定値とすることができ、一般に、より大きなヒステリシスサイクルの面積は、より強いチキソトロープ性を有するために、構造回復がより遅いとされている。
【0194】
試験した試料のチキソトロピー値は表2に含まれる。
【0195】
【0196】
研究した試料は、実質的には無視できるチキソトロピー値を示し、したがって、実質的には適用時間に非依存性の流体である。このむしろわずかな時間に対する粘度の依存性は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)及びヒアルロン酸を含む製剤が、わずかな構造の崩壊しか伴わない、剪断によって変化しないほど十分に強固な構造を有するという事実に起因する。この挙動は、製造後6ヶ月間維持される。
【0197】
非ニュートン流体の挙動を説明しようとした多くのモデルが存在する。この研究では、得られたデータを、ニュートン、ビンガム、オストワルト-デワーレ(Ostwald-de-Waele)、ハーシェル-バークレー及びキャッソンに割り当てた。表3及び表4はそれぞれ、各製剤の最良のモデル及び各パラメーター値を示す。最良モデルを選択する基準は、最も高い直線相関係数(r)による適合に基づいた。製剤1及び製剤2について、更にカイ2乗値を考慮に入れることが必要であった。
【0198】
CMC-Naを含む製剤について得られた結果に基づき、ハーシェル-バークレー法が、実験データに最も適合するレオロジーモデルであると推定された。
【0199】
【0200】
【0201】
表4中、上昇部分及び降下部分について、ニュートン:(1)τ=η×γ、ビンガム:(2)τ=τ
0+η
p×γ、オストワルト-デワーレ:(3)τ=k×(γ)
n、ハーシェル-バークレー:(4)τ=τ
0+k
1×(γ)
n、及びキャッソン:(5)√τ=√τ
0+k
1×√γ)。τが剪断応力である場合、
【数1】
は流体の歪み速度(1/s)であり、τ
0は流体が動き始めるのに必要な限界応力(Pa)であり、η
pは塑性粘度(Pa・s)であり、η
0はゼロ剪断粘度(Pa・s)であり
、Kは粘稠度(s)であり、nは流動指数(flow number)であり、種々の値のnは流体
の挙動を示す。ニュートン流体について、n=1である。n<1の場合、流体は擬塑性であり、n>1の場合、流体はダイラタント性である。
【0202】
多重光散乱による光学的特性評価
機器は、赤外線光源を備える光学ヘッド、及びガラスセル中に位置する試料の高さ全体に沿って走る2つの検出器(T及びBS)を有する。より一般には「後方散乱」と称される、伝送(T)(後方散乱)及び反射(BS)のデータにおける光強度に関して収集されたデータにより、沈澱、沈降、合体(coalescence)、相分離、浮揚等の試料の特性評価
及びプロセスの検出を可能とするプロファイルを得た。要約すると、上記技術は、試料のサイズ又は位置の変化を検出することを可能とし、物理安定度を評価して、製剤の希釈を防止することを可能にする。別の重要な利点は、ヒトの眼でできるよりもはるかに速く不安定化現象を検出することができることであり、従来の安定性方法の前に処方物の不安定化を検出することができる長期安定性を予測する装置とみなされる。アッセイを25℃で行い、サンプリングは0日目、30日目、及び90日目を含んだ。
【0203】
図13~
図20は、試験した製剤の伝送及び後方散乱のプロファイルを示す。それらのプロファイルを解釈するため、曲線の左側はバイアルの下部に相当するのに対し、右側は上部に相当することを考慮に入れなければならない。5mm未満の領域は金属床を表し、52mmより上の後方散乱は、試料を含まない面の開始を表すことが明示されなければならない。
【0204】
沈澱現象が起こる場合、反射信号はバイアルの下部で経時的に増加する。試料がクリーミング現象(creaming phenomenon)を経る場合、バイアルの上部に増加が起こる。不安
定化プロセスが凝集によって生じる場合、バイアル全体にわたって後方散乱が経時的に増加する。
【0205】
伝送信号が±2%以下の偏差を有する場合、液滴サイズにおける有意差はないと考えることができる。10%の変動は製剤不安定性を示す。
【0206】
0時間~24時間の伝送信号及び/又は反射信号の重ね合わせは、製剤安定性を示し、不安定化プロセスの欠如を示す。このパターンは経時的に反復され、アドレナリンの存在と無関係であるか、又は保管温度に従う。したがって、上記製剤が均質な分散物を構成すると結論付けることができた。