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特開2022-37158錐体細胞における増強された遺伝子発現のための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037158
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】錐体細胞における増強された遺伝子発現のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/67 20060101AFI20220301BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220301BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20220301BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20220301BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220301BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220301BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220301BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20220301BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C12N15/67 Z
C12N15/864 100Z
C07K14/00 ZNA
A61K35/761
A61K48/00
A61K31/7088
A61P27/02
A61P27/06
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021205899
(22)【出願日】2021-12-20
(62)【分割の表示】P 2019143618の分割
【原出願日】2015-03-17
(31)【優先権主張番号】61/954,330
(32)【優先日】2014-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/127,185
(32)【優先日】2015-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516279086
【氏名又は名称】アドヴェラム バイオテクノロジーズ, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ ナイツ
(72)【発明者】
【氏名】モーリーン ナイツ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ダブリュー. チャルベルク
(57)【要約】
【課題】錐体細胞において遺伝子を発現させるためのポリヌクレオチドカセット、発現ベクターおよび方法を提供すること。
【解決手段】一局面において、哺乳動物の網膜の錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現のためのポリヌクレオチドカセットが提供され、このポリヌクレオチドカセットは、(a)網膜錐体細胞に特異的なプロモーター領域と、(b)上記プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と、(c)ポリアデニル化部位とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の網膜の錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現のためのポリヌクレオチドカセットであって、該ポリヌクレオチドカセットが、
(a)配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、および配列番号89からなる群より選択される配列に対して85%またはそれを超える配列同一性を有する配列からなる5’非翻訳領域(5’UTR);
(b)配列番号5、配列番号59、および配列番号60からなる群より選択される配列に対して85%またはそれを超える配列同一性を有する配列を含むイントロン;
(c)配列番号51または配列番号52、あるいはその機能性断片に対して85%またはそれを超える配列同一性を有するエンハンサー配列;
(d)配列番号80に対して80%またはそれを超える配列同一性を有する短縮型オプシンプロモーターを含むプロモーター領域;
(e)配列番号72または配列番号73からなるポリヌクレオチド配列を含む翻訳開始配列;
(f)該プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列;および
(g)該コード配列に作動可能に連結したポリアデニル化部位
を含む、ポリヌクレオチドカセット。
【請求項2】
前記5’UTRが、ポリヌクレオチドATGを含まない、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項3】
前記5’UTRが、配列番号85または配列番号86の全長に対して85%またはそれを超える配列同一性を有する配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項4】
前記イントロンが、前記5’UTRを含むポリヌクレオチド配列内に位置する、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項5】
前記エンハンサー配列が、配列番号51の全長に対して85%またはそれを超える配列同一性を有する配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項6】
前記コード配列の発現が、哺乳動物の錐体細胞に導入した際、前記プロモーター領域を配列番号1のプロモーター領域で置き換えた場合の前記コード配列の発現よりも大きい、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項7】
a)AAVカプシドタンパク質と、
b)AAV ITRが隣接した請求項1に記載のポリヌクレオチドカセットと
を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項8】
請求項7に記載のrAAVと医薬賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項9】
錐体細胞障害の治療または予防を必要とする哺乳動物における錐体細胞障害の治療または予防における使用のための、請求項8に記載の医薬組成物であって、前記コード配列が、治療用遺伝子産物をコードしており、前記rAAVが、該哺乳動物の該錐体細胞において該治療用遺伝子産物を発現する、医薬組成物。
【請求項10】
前記錐体細胞障害が、黄斑ジストロフィー、色覚障害、または中心黄斑の視覚障害である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記色覚障害が、1色覚、青錐体1色覚、1型色覚、2型色覚、および3型色覚からなる群より選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記使用が、疾患の症状の変化を検出することをさらに含み、該変化が、前記哺乳動物の色を知覚する能力の増大を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記黄斑ジストロフィーが、スタルガルト黄斑ジストロフィー、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、脊髄小脳失調症7型、およびバルデー・ビードル症候群-1からなる群より選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記中心黄斑の視覚障害が、加齢黄斑変性症、黄斑部毛細血管拡張症、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底変性症、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、杆体錐体ジストロフィー、レーバー先天性黒内障、およびX連鎖性網膜分離症からなる群より選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記使用が、疾患の症状の変化を検出することをさらに含み、該変化が、前記哺乳動物の視力喪失の速度の低減を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記コード配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、ならびに(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Val236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Val279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む治療用遺伝子産物をコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項17】
前記ポリヌクレオチドカセットが、配列番号95を含み、前記治療用遺伝子産物が、配列番号9および配列番号11からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、請求項16に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項18】
前記コード配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、ならびに(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Val236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Val279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む治療用遺伝子産物をコードする、請求項7に記載のrAAV。
【請求項19】
前記ポリヌクレオチドカセットが、配列番号95を含み、前記治療用遺伝子産物が、配列番号9および配列番号11からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、請求項18に記載のrAAV。
【請求項20】
請求項8に記載のrAAVと医薬賦形剤とを含む医薬組成物であって、前記コード配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、ならびに(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Val236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Val279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む治療用遺伝子産物をコードする、医薬組成物。
【請求項21】
前記ポリヌクレオチドカセットが、配列番号95を含み、前記治療用遺伝子産物が、配列番号9および配列番号11からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記コード配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、ならびに(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Val236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Val279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む治療用遺伝子産物をコードする、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記錐体細胞障害が、1色覚、青錐体1色覚、1型色覚、2型色覚、および3型色覚からなる群より選択される色覚障害であり、前記治療用遺伝子産物が、配列番号7、配列番号9、および配列番号11からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドである、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記錐体細胞障害が、青錐体1色覚であり、前記治療用遺伝子産物が、配列番号9および配列番号11からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記ポリヌクレオチドカセットが、配列番号95を含む、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記治療用遺伝子産物が、配列番号9および配列番号11からなる群より選択されるポリペプチドを含む、請求項25に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
米国特許法§119(e)にしたがって、この出願は、2014年3月17日に出願された米国仮特許出願第61/954,330号および2015年3月2日に出願された米国仮特許出願第62/127,185号(これらの完全な開示は、参考として本明細書に援用される)の出願日に対する優先権を主張する。
【0002】
配列表に関する声明
この出願に伴う配列表が、紙でのコピーの代わりにテキストフォーマットで提供され、これは、ここで参考として本明細書に援用される。この配列表を含むテキストファイルの名称は、AVBI_005_02WO_ST25.txtである。このテキストファイルは、308KBであり、2015年3月17日に作成されたものであり、そしてEFS-Webを介して電子的に提出される。
【0003】
発明の分野
本発明は、網膜障害の遺伝子療法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
眼の視覚障害は、多くの場合、錐体細胞における公知の一次的欠陥に関する。これらとしては、スタルガルト黄斑ジストロフィー、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、脊髄小脳失調症7型、およびバルデー・ビードル症候群-1などの黄斑ジストロフィー、ならびに1色覚(achromotopsia)、青錐体1色覚(blue cone monochromacy)、1型色覚(protan defect)、2型色覚(deutan defect)、および3型色覚(tritan defect)を含めた色覚障害が挙げられる。
【0005】
公知の原因が錐体光受容体に固有のものである障害に加えて、錐体細胞を標的とすることによって治療することができる中心黄斑の視覚障害が存在する(霊長類の中で)。これらとしては、加齢黄斑変性症、黄斑部毛細血管拡張症、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底変性症、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、およびX連鎖性網膜分離症が挙げられる。
【0006】
既存の治療に関する限定に対処する、眼疾患を治療および防止するための有望な手法は、アデノ随伴ウイルス(AAV)などの遺伝子療法ベクターを用いて治療剤を眼に送達することである。AAVは、4.7kbの一本鎖DNAウイルスである。野生型AAVは非病原性であり、いかなる公知の疾患とも病因学的関連がないので、AAVに基づく組換えベクターには優れた臨床的安全性が伴う。さらに、AAVにより、眼、筋肉、肺、および脳を含めた多数の組織への高度に効率的な遺伝子送達および持続的な導入遺伝子発現の可能性がもたらされる。さらに、AAVは、ヒト臨床試験において将来性があることが示されている。1つの例は、レーバー先天黒内障であり、その場合、rAAVベクターの単回網膜下投与によって送達された治療薬を用いた治療を受けた患者では、治療の初日から4年超にわたって治療剤の発現による持続的な臨床的利益が生じた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に眼疾患、特に錐体細胞を治療するための遺伝子療法において使用するためのポリヌクレオチドカセットおよび発現ベクターの設計に関して、いくつもの難題が残っている。1つの重要な難題は、標的細胞において、特に網膜の錐体細胞において導入遺伝子の十分な発現を得ることである。遺伝子移入後の導入遺伝子の十分にロバストな発現が当技術分野において長年必要とされており、まだ対処されていない。いくつかの場合には、ある特定のベクター、例えば、プラスミドDNAベクターの有効性に関して、より効率的な発現が必要である。他の場合では、より好都合な安全性プロファイルを有するより低い治療用量または投与のより侵襲性の少ない経路(例えば、硝子体内と網膜下)を可能にするために、より効率的な遺伝子発現カセットが望ましい。いくつかの状況では、効率的な発現は、強力な、遍在するプロモーターを使用して達成されているが、多くの場合、標的細胞型においてのみ発現する核酸発現カセットを使用して高い導入遺伝子発現を得ることが望ましい。
【0008】
例えば米国特許出願US2012/0172419に開示されている、錐体細胞において導入遺伝子を発現させるための以前の試みでは、いくらかの将来性が示されたが、多くの場合、発現レベルは、最適よりも低かったか細胞特異的ではなかった。いくつもの視覚障害が錐体細胞における一次的欠陥に起因することを考慮すれば、錐体細胞において導入遺伝子を高い発現レベルで特異的に発現させることは、当技術分野における意味のある進歩である。したがって、錐体細胞において遺伝子を発現させるための改善された方法ならびに最適化された核酸カセットおよびベクターが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、錐体細胞において遺伝子を発現させるためのポリヌクレオチドカセット、発現ベクターおよび方法を提供する。
【0010】
本発明の一部の態様では、哺乳動物の網膜の錐体細胞において導入遺伝子を発現させるためのポリヌクレオチドカセットが提供される。一部の実施形態では、導入遺伝子の発現は、増強された発現である。ある特定の実施形態では、コード配列の発現は、配列番号1に作動可能に連結した導入遺伝子の発現よりも大きい。一部の実施形態では、導入遺伝子の発現は錐体特異的なものである。
【0011】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、網膜錐体細胞における遺伝子の発現を促進するプロモーター領域と、ポリアデニル化部位とを含む。一部の実施形態では、発現は錐体細胞において特異的なものである。一部のそのような実施形態では、プロモーター領域は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、および配列番号83からなる群より選択される配列、またはその機能性断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態では、プロモーター領域は、492ヌクレオチド未満の長さである。一部の実施形態では、プロモーター領域は、配列番号55の全長またはその機能性断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列から本質的になる。
【0012】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、本明細書では5’UTRと称される、コード配列に対して5’にある非翻訳領域をコードするポリヌクレオチド配列を含む。一部のそのような実施形態では、5’UTRは、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、および配列番号89からなる群より選択される配列、またはその断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列を含む。一部の実施形態では、5’UTR配列の一部または全部は、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号53、配列番号54、配列番号55、または配列番号79に開示されているプロモーター領域に含まれる。一部の実施形態では、5’UTR配列は、プロモーター配列に対して異種性のものである。一部の実施形態では、5’UTRは、配列番号85もしくは配列番号86の全長、またはその断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列から本質的になる。一部の実施形態では、5’UTRは、ポリヌクレオチドATGを含まない。
【0013】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットはイントロンを含む。一部のそのような実施形態では、イントロンは、配列番号5、配列番号59、および配列番号60からなる群より選択される配列に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列を含む。ある特定の実施形態では、イントロンは、5’UTRをコードするポリヌクレオチド配列内に位置する。
【0014】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは翻訳開始配列を含む。一部のそのような実施形態では、翻訳開始配列は、配列番号72または配列番号73から本質的になるポリヌクレオチド配列を含む。
【0015】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットはエンハンサー配列を含む。一部のそのような実施形態では、エンハンサー配列は、配列番号52またはその機能性断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、エンハンサー配列は、配列番号51の全長に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列から本質的になる。
【0016】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、プロモーターに作動可能に連結したコード配列を含む。一部の実施形態では、コード配列は、プロモーター領域および/または5’UTR配列に対して異種性である。一部の実施形態では、コード配列は、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、ならびに(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Val236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Val279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体に対して少なくとも85%、90%、または95%の配列同一性を有するポリペプチドをコードする。一部の実施形態では、コード配列は、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、または配列番号71に対して少なくとも85%、90%、または95%の配列同一性を有する。一部の実施形態では、転写開始部位とコード配列の末端との間の配列は、500ヌクレオチド超の長さである導入遺伝子のオープンリーディングフレーム以外のオープンリーディングフレームを含有しない。一部の実施形態では、転写開始部位とコード配列の末端との間の配列は、273ヌクレオチド超の長さである導入遺伝子のオープンリーディングフレーム以外のオープンリーディングフレームを含有しない。一部の実施形態では、転写開始部位とコード配列の末端との間の配列は、250ヌクレオチド超の長さである導入遺伝子のオープンリーディングフレーム以外のオープンリーディングフレームを含有しない。一部の実施形態では、コード配列の少なくとも1つのオープンリーディングフレームが除去されている。
【0017】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、網膜錐体細胞における遺伝子の発現を促進するプロモーター領域と、5’非翻訳領域と、イントロンと、翻訳開始配列と、プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と、ポリアデニル化部位とを含む。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、遺伝子の発現を網膜錐体細胞において特異的に促進するプロモーター領域と、5’非翻訳領域と、イントロンと、翻訳開始配列と、プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と、ポリアデニル化部位とを含む。
【0018】
本発明の一部の態様では、本発明のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターが提供される。一部の実施形態では、遺伝子送達ベクターは、組換えアデノ随伴ウイルスであり、組換えアデノ随伴ウイルスは、AAVカプシドタンパク質を含む。一部の実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、野生型AAVカプシドタンパク質である。他の実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、改変体AAVカプシドタンパク質である。ある特定の実施形態では、改変体AAVカプシドタンパク質は、LGETTRP(配列番号96)、NETITRP(配列番号97)、KAGQANN(配列番号98)、KDPKTTN(配列番号99)、KDTDTTR(配列番号100)、RAGGSVG(配列番号101)、AVDTTKF(配列番号102)、およびSTGKVPN(配列番号103)からなる群より選択されるAAV GHループ内のペプチド挿入を含む。
【0019】
本発明の一部の態様では、本発明のポリヌクレオチドカセットおよび医薬賦形剤を含む医薬組成物が提供される。一部の実施形態では、医薬組成物は、本発明の遺伝子送達ベクターと医薬賦形剤とを含む。
【0020】
本発明の一部態様では、錐体細胞において導入遺伝子を発現させるための方法が提供される。一部の実施形態では、方法は、1つまたは複数の錐体細胞に、本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明の遺伝子送達ベクターを有効量で接触させるステップを含み、導入遺伝子が、1つまたは複数の錐体細胞において検出可能なレベルで発現される。一部の実施形態では、方法は、in vitroにおけるものである。他の実施形態では、方法は、in vivoにおけるものである。ある特定のそのような実施形態では、接触させるステップは、ポリヌクレオチドカセットまたは遺伝子送達ベクターを哺乳動物の眼の硝子体内に注射することを含む。他のそのような実施形態では、方法は、ポリヌクレオチドカセットまたは遺伝子送達ベクターを哺乳動物の眼の網膜下腔内に注射することを含む。一部の実施形態では、方法は、錐体細胞における導入遺伝子の発現を検出するステップをさらに含み、発現が、錐体細胞の80%またはそれ超で検出される。一部の実施形態では、発現は、錐体細胞に対して特異的である。
【0021】
本発明の一部の態様では、錐体細胞障害に対する治療または予防を必要とする哺乳動物における錐体細胞障害を治療または予防するための方法が提供される。一部の実施形態では、方法は、哺乳動物の眼に本発明の医薬組成物を有効量で投与するステップを含み、コード配列が治療用遺伝子産物をコードするものである。一部の実施形態では、投与するステップは、医薬組成物を哺乳動物の眼の硝子体内に注射することを含む。他のそのような実施形態では、方法は、医薬組成物を哺乳動物の眼の網膜下腔内に注射することを含む。
【0022】
一部の実施形態では、錐体細胞障害は、色覚障害である。ある特定の実施形態では、色覚障害は、1色覚、青錐体1色覚、1型色覚、2型色覚、および3型色覚からなる群より選択される。一部のそのような実施形態では、方法は、疾患の症状の変化を検出するステップをさらに含み、変化が、哺乳動物の色を知覚する能力の増大を含む。一部の実施形態では、錐体細胞障害は、黄斑ジストロフィーである。ある特定の実施形態では、黄斑ジストロフィーは、スタルガルト黄斑ジストロフィー、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、脊髄小脳失調症7型、およびバルデー・ビードル症候群-1からなる群より選択される。一部の実施形態では、錐体細胞障害は、中心黄斑の視覚障害である。ある特定の実施形態では、中心黄斑の視覚障害は、加齢黄斑変性症、黄斑部毛細血管拡張症、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底変性症、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、杆体-錐体ジストロフィー、レーバー先天性黒内障、およびX連鎖性網膜分離症からなる群より選択される。一部のそのような実施形態では、方法は、疾患の症状の変化を検出するステップをさらに含む。一部のそのような実施形態では、変化は、錐体細胞の健康の安定化および/または哺乳動物の視力喪失の速度の低減を含む。特定のそのような実施形態では、変化は、錐体細胞の健康の改善および/または哺乳動物の視力の改善を含む。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
哺乳動物の網膜の錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現のためのポリヌクレオチドカセットであって、
(a)網膜錐体細胞に特異的なプロモーター領域と、
(b)前記プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と、
(c)ポリアデニル化部位と
を含む、ポリヌクレオチドカセット。
(項目2)
前記プロモーター領域が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、および配列番号83からなる群より選択される配列、またはその機能性断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む、項目1に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目3)
前記プロモーター領域が、配列番号55の全長またはその機能性断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列から本質的になる、項目2に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目4)
前記コード配列の5’側にある非翻訳領域をコードするポリヌクレオチド配列を含む、項目1から3のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目5)
前記コード配列の5’側にある非翻訳領域をコードする前記ポリヌクレオチド配列が、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、および配列番号89からなる群より選択される配列、またはその断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列を含む、項目4に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目6)
前記コード配列の5’側にある前記非翻訳領域が、ポリヌクレオチドATGを含まない、項目4または5に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目7)
前記コード配列の5’側にある非翻訳領域をコードする前記ポリヌクレオチド配列が、配列番号85もしくは配列番号86の全長、またはその断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列から本質的になる、項目4に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目8)
イントロンをさらに含む、項目1から7のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目9)
前記イントロンが、配列番号5、配列番号59、および配列番号60からなる群より選択される配列に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列を含む、項目8に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目10)
前記イントロンが、前記コード配列の5’側にある非翻訳領域をコードする前記ポリヌクレオチド配列内に位置する、項目9に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目11)
翻訳開始配列をさらに含む、項目1から10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目12)
前記翻訳開始配列が、配列番号72または配列番号73から本質的になるポリヌクレオチド配列を含む、項目11に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目13)
配列番号52またはその機能性断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有するエンハンサー配列をさらに含む、項目1から12のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目14)
前記エンハンサー配列が、配列番号51の全長に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列から本質的になる、項目13に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目15)
前記コード配列の発現が、哺乳動物の錐体細胞に導入した際、前記プロモーター領域を配列番号1のプロモーター領域で置き換えた場合の前記コード配列の発現よりも大きい、項目1から14のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目16)
a)AAVカプシドタンパク質と、
b)AAV ITRが隣接した項目1から15までのいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセットと
を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
(項目17)
項目1から15のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセットまたは項目16に記載のrAAVと医薬賦形剤とを含む医薬組成物。
(項目18)
錐体細胞において導入遺伝子を発現させるための方法であって、
1つまたは複数の錐体細胞に、項目1から15までのいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセットまたは項目16に記載の組換えアデノ随伴ウイルスを有効量で接触させるステップ
を含み、前記導入遺伝子が、1つまたは複数の前記錐体細胞において検出可能なレベルで発現される、方法。
(項目19)
前記錐体細胞における発現を検出するステップを含み、発現が、前記錐体細胞の60%またはそれ超で検出される、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記導入遺伝子が、錐体細胞において特異的に検出可能なレベルで発現される、項目19に記載の方法。
(項目21)
錐体細胞障害に対する治療または予防を必要とする哺乳動物における錐体細胞障害を治療または予防するための方法であって、前記哺乳動物の眼に項目17に記載の医薬組成物を有効量で投与するステップを含み、コード配列が治療用遺伝子産物をコードするものである、方法。
(項目22)
前記錐体細胞障害が、黄斑ジストロフィー、色覚障害、または中心黄斑の視覚障害である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記色覚障害が、1色覚、青錐体1色覚、1型色覚、2型色覚、および3型色覚からなる群より選択される、項目22に記載の方法。
(項目24)
疾患の症状の変化を検出するステップをさらに含み、前記変化が、前記哺乳動物の色を知覚する能力の増大を含む、項目22または23に記載の方法。
(項目25)
前記黄斑ジストロフィーが、スタルガルト黄斑ジストロフィー、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、脊髄小脳失調症7型、およびバルデー・ビードル症候群-1からなる群より選択される、項目21に記載の方法。
(項目26)
前記中心黄斑の視覚障害が、加齢黄斑変性症、黄斑部毛細血管拡張症、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底変性症、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、杆体錐体ジストロフィー、レーバー先天性黒内障、およびX連鎖性網膜分離症からなる群より選択される、項目21に記載の方法。
(項目27)
疾患の症状の変化を検出するステップをさらに含み、前記変化が、前記哺乳動物の視力喪失の速度の低減を含む、項目25または26に記載の方法。
(項目28)
哺乳動物の網膜の錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現のためのポリヌクレオチドカセットであって、
(a)網膜錐体細胞に特異的なプロモーター領域と、
(b)前記プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と、
(c)ポリアデニル化部位と
を含む、ポリヌクレオチドカセット。
(項目29)
哺乳動物の網膜の錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現のためのポリヌクレオチドカセットであって、
(a)網膜錐体細胞に特異的なプロモーター領域と、
(b)5’非翻訳領域と、
(c)イントロンと、
(d)翻訳開始配列と、
(e)前記プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と、
(f)ポリアデニル化部位と
を含む、ポリヌクレオチドカセット。
(項目30)
転写開始部位と前記翻訳開始部位との間の配列が、ポリヌクレオチドATGを含有しない、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目31)
前記プロモーター領域が492塩基対未満の長さである、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目32)
前記プロモーター領域を用いた前記コード配列の発現が、配列番号1として列挙されているプロモーター領域を用いた発現よりも大きい、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目33)
転写開始部位と前記コード配列の末端との間の配列が、500ヌクレオチド超の長さである前記導入遺伝子のオープンリーディングフレーム以外のオープンリーディングフレームを含有しない、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット
(項目34)
転写開始部位と前記コード配列の末端との間の配列が、250ヌクレオチド超の長さである前記導入遺伝子のオープンリーディングフレーム以外のオープンリーディングフレームを含有しない、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目35)
転写開始部位と前記コード配列の末端との間の配列が、100ヌクレオチド超の長さである前記導入遺伝子のオープンリーディングフレーム以外のオープンリーディングフレームを含有しない、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目36)
前記コード配列についてのオープンリーディングフレーム以外に273bp超のオープンリーディングフレームを含有しない、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目37)
前記コード配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、ならびに(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Val236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Val279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体からなる群より選択されるポリペプチドを含む治療用タンパク質をコードする、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目38)
前記コード配列が、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、および配列番号71からなる群より選択されるポリヌクレオチド、ならびに(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Val236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Val279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体をコードするポリヌクレオチドを含む、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目39)
前記プロモーター領域が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号53、配列番号54、および配列番号55からなる群より選択される配列を含む、項目28または29に記載のポリヌクレオチドカセット。
(項目40)
哺乳動物における錐体細胞遺伝子療法のための方法であって、錐体細胞遺伝子療法を必要とする哺乳動物の眼に、
(a)網膜錐体細胞に特異的なプロモーター領域と、
(b)前記プロモーター領域に作動可能に連結した、治療薬をコードするコード配列とを含むポリヌクレオチドカセットを含む組換え遺伝子送達ベクターを投与するステップを含み、
前記哺乳動物の錐体細胞における前記治療薬のin vivo発現が、錐体細胞遺伝子療法を必要とする前記哺乳動物の治療に役立つ、方法。
(項目41)
哺乳動物における錐体細胞遺伝子療法のための方法であって、錐体細胞遺伝子療法を必要とする前記哺乳動物の眼に、
(a)網膜錐体細胞に特異的なプロモーター領域と、
(b)5’非翻訳領域と、
(c)イントロンと、
(d)翻訳開始配列と、
(e)前記プロモーター領域に作動可能に連結した、治療薬をコードするコード配列とを含むポリヌクレオチドカセットを含む組換え遺伝子送達ベクターを投与するステップを含み、
前記哺乳動物の錐体細胞における前記治療薬のin vivo発現が、錐体細胞遺伝子療法を必要とする前記哺乳動物の治療に役立つ、方法。
(項目42)
前記遺伝子療法が、錐体細胞障害の治療に役立つ、項目40または41に記載の方法。
(項目43)
前記遺伝子療法が、分泌タンパク質の送達に役立つ、項目40または41に記載の方法。
(項目44)
前記イントロンが、配列番号5、配列番号59、および配列番号60からなる群より選択されるポリヌクレオチドを含む、項目41に記載の方法。
(項目45)
前記錐体細胞障害が、青錐体1色覚、1型2色覚、2型2色覚、1型3色覚、2型3色覚、1色覚、不完全1色覚、杆体錐体変性症、網膜色素変性症(RP)、黄斑変性症、錐体ジストロフィー、失明、スタルガルト病、およびレーバー先天性黒内障からなる群より選択される、項目42に記載の方法。
(項目46)
前記プロモーターが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号52、配列番号53、配列番号54、および配列番号55からなる群より選択される配列を含む、項目40または41に記載の方法。
(項目47)
前記遺伝子送達ベクターが、前記プロモーターの上流にエンハンサーエレメントをさらに含み、前記遺伝子が前記エンハンサーエレメントに作動可能に連結している、項目40または41に記載の方法。
(項目48)
前記遺伝子送達ベクターが、スプライスドナー/アクセプター領域を含むイントロンをさらに含み、前記イントロンが、前記プロモーター領域の下流に位置し、かつ遺伝子の上流に位置する、項目40に記載の方法。
(項目49)
前記コード配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、ならびに:(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Val236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Val279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体からなる群より選択されるポリペプチドを含む治療用タンパク質をコードする、項目40または41に記載の方法。
(項目50)
前記コード配列が、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、および配列番号71からなる群より選択されるポリヌクレオチドを含む治療用タンパク質をコードする、項目40に記載の方法。
(項目51)
前記遺伝子送達ベクターが、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子送達ベクターを含む、項目40、41または46に記載の方法。
(項目52)
前記哺乳動物において視覚的能力を回復させる、項目40、41または46に記載の方法。
(項目53)
前記哺乳動物が、青錐体1色覚、1型2色覚、2型2色覚、1型3色覚、2型3色覚に罹患している霊長類であり、前記霊長類が、前記療法の結果として新しい色を見ることが可能になる、項目40、41または46に記載の方法。
(項目54)
前記プロモーターが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号52、配列番号53、配列番号54、および配列番号55からなる群より選択される配列を含み、遺伝子が、配列番号7、配列番号9、配列番号11、ならびに(i)Thr65Ile(ii)Ile111Val(iii)Ser116Tyr(iv)Leu153Met(v)Ile171Val(vi)Ala174Val(vii)Ile178Val(viii)Ser180Ala(ix)Ile230Thr(x)Ala233Ser(xi)Va1236Met(xii)Ile274Val(xiii)Phe275Leu(xiv)Tyr277Phe(xv)Va1279Phe(xvi)Thr285Ala(xvii)Pro298Ala、および(xviii)Tyr309Pheからなる群より選択される配列番号11の多形体からなる群より選択される配列を含むポリペプチドをコードする、項目40または41に記載の方法。
(項目55)
前記哺乳動物が、光受容体は健康である視覚障害を有する霊長類である、項目40または41に記載の方法。
(項目56)
項目1、28、または29のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセットを含むパッケージされたウイルス粒子を含む製剤。
(項目57)
項目1、28、または29のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドカセットを用いてトランスフェクトまたは形質導入された組換え宿主細胞。
【0023】
本開示の新規の特色は、添付の特許請求の範囲において詳細に記載されている。本発明の原理が利用されている例示的な実施形態が記載されている以下の発明の詳細な説明および添付の図面を参照することにより、本発明の特徴および利点がよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A図1Aは、錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現のためのポリヌクレオチドカセットを示す概略図である。
【0025】
図1B図1Bは、錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現のためのポリヌクレオチドカセットを含むウイルスベクターを示す概略図である。
【0026】
図2図2は、スプライスドナーのコンセンサス配列(A/C)A G G T Pu A G U;枝部位C T Pu A Py;Pyリッチ領域;およびアクセプターN C A G Gを含めた標準的な特徴を含有するイントロンの例を示す図である。
【0027】
図3A図3Aは、5’UTR mRNA構造の例である(配列番号56)、pR2.1由来の5’UTR mRNA構造(Mancusoら)を示す図である。この5’UTRは、2つの上流AUGおよびオープンリーディングフレーム(ORF)、高レベルの塩基対合およびヘアピン構造、ならびにより短いコザック配列を有する。
【0028】
図3B図3Bは、本開示の最適化されたカセットに由来する5’UTR mRNAおよび構造(配列番号57)の例を示す図である。5’UTRは、上流AUGもORFも含まない。さらに、図3Aの5’UTRと比較して、図3Bの5’UTRは短く、塩基対合が少なく、また、コザック配列がより長い。
【0029】
図4A図4Aは、コドン最適化前のポリヌクレオチドカセットを示す図である。長さが250ヌクレオチドを超えるオープンリーディングフレーム(ORF)が配列の下に灰色で示されている。
【0030】
図4B図4Bは、コドン最適化後であるが非導入遺伝子ORF除去前のポリヌクレオチドカセットを示す図である。250ヌクレオチドを超えるORFが配列図の下に灰色で示されている。SV40ポリAから始まり1,365塩基に及ぶ逆方向の新しいORFの導入に留意されたい。
【0031】
図4C図4Cは、コドン最適化およびORF除去後のポリヌクレオチドカセットを示す図である。250ヌクレオチドを超えるORFが配列図の下に灰色で示されている。配列が最適化されており、したがって、新しく導入されたORFが短縮または除去されていることに留意されたい。
【0032】
図5図5は、硝子体内に送達されたAAV2改変体AAV2-7m8が、どのように、硝子体内に送達されたAAV2よりも効率的に霊長類の中心窩および傍中心窩内の網膜細胞に形質導入されるかを例示する図である。AAV2.CMV.GFP(左上);AAV-2.5T.CMV.GFP(右上)(Excoffon K. J.ら、2009年、Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 106巻:3865~3870頁);(左下)AAV2-7.8.CMV.GFP(Dalkara Dら、Sci Transl Med. 2013年6月12日;5巻(189号):189ra76);またはAAV-ShH10.CMV.GFP(右下)(Klimczak RRら PLoS One. 2009年10月14日;4巻(10号):e7467頁)のベクターゲノム5×1011個を50μLの体積でアフリカミドリザルの硝子体に注射し、8週間後にin vivoでのOCT蛍光イメージングによってGFP発現を観察した。
【0033】
図6図6は、pMNTC調節カセットにより、霊長類の中心窩錐体における遺伝子発現がどのくらいロバストに促進されるかを例示する図である。(a~b)AAV2-7m8.MNTC.GFPをヒヒの中心硝子体内に注射し、(a)5週間後および(b)8週間後に眼底蛍光によって発現を観察した。(cおよびd)AAV2-7m8.MNTC.GFPを用いた注射のおよそ6カ月後の15ミクロンの窩の切片内の、低拡大率(c)および高拡大率(d)での天然のGFP蛍光。
【0034】
図7図7は、AAV-送達MNTC.GFPの硝子体内注射後のマウス網膜の錐体におけるロバストかつ錐体特異的な遺伝子発現を例示する図である。(a~b)マウスがベクターゲノム5.04×1010個の硝子体内注射を硝子体内注射によって受けた11週間後のGFP蛍光の例。(c~e)注射の14週間後に組織学的検査のために網膜を採取し、錐体外節を、L/Mオプシンに対する抗体を用いて標識した(赤色)。(c)では、赤色チャネルをオフにし、したがって、ネイティブなGFPのみが可視であり、(d)は、赤色チャネルをオンにして錐体外節の可視化を可能にした同じ画像である。(c)と(d)の比較により、全てではないにしてもほとんどの錐体がウイルスによって形質導入されたことが示される。(e)錐体光受容体のプロファイルを示す、cおよびdと同じ網膜からの、異なる角度からの画像。
【0035】
図8A図8は、スナネズミ網膜の錐体における、pMNTC調節カセットによって導かれた遺伝子発現を例示する図である。CMV、pR2.1、またはMNTCプロモーターの制御下でGFPを有するウイルスのベクターゲノム1×1010~2×1010個を5μL体積でスナネズミの硝子体内に注射し、GFP発現を指定の時点で眼底蛍光イメージングによって可視化した。(a)硝子体内投与の4週間後に可視化した、AAV2-7m8.CMV.GFPおよびAAV2-7m8.MNTC.GFPによって導かれたGFPの発現。スナネズミ12-10、12-11、および12-12にはAAV2-7m8.CMV.GFPを注射し、スナネズミ12-13、12-14、および12-15にはAAV2-7m8.MNTC.GFPを注射した。OD、oculus dexter(右眼)。OS、oculus sinister(左眼)。(b)AAV2-7m8.pR2.1.GFPおよびAAV2-7m8.MNTC.GFPによって導かれたGFPの発現、4週間後および8週間後に眼底蛍光イメージングによって検出した。
図8B図8は、スナネズミ網膜の錐体における、pMNTC調節カセットによって導かれた遺伝子発現を例示する図である。CMV、pR2.1、またはMNTCプロモーターの制御下でGFPを有するウイルスのベクターゲノム1×1010~2×1010個を5μL体積でスナネズミの硝子体内に注射し、GFP発現を指定の時点で眼底蛍光イメージングによって可視化した。(a)硝子体内投与の4週間後に可視化した、AAV2-7m8.CMV.GFPおよびAAV2-7m8.MNTC.GFPによって導かれたGFPの発現。スナネズミ12-10、12-11、および12-12にはAAV2-7m8.CMV.GFPを注射し、スナネズミ12-13、12-14、および12-15にはAAV2-7m8.MNTC.GFPを注射した。OD、oculus dexter(右眼)。OS、oculus sinister(左眼)。(b)AAV2-7m8.pR2.1.GFPおよびAAV2-7m8.MNTC.GFPによって導かれたGFPの発現、4週間後および8週間後に眼底蛍光イメージングによって検出した。
【0036】
図9A図9A~9Dは、pMNTC調節カセットにより、錐体プロモーターpR2.1よりもロバストな、霊長類の中心窩錐体における遺伝子発現がもたらされることを実証する図である。AAV2-7m8.MNTC.GFPまたはAAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノム5×1011個を50μLの体積で示されている通りアフリカミドリザルの硝子体内に注射した(AAV2-7m8.MNTC.GFPを動物271および472に注射し、AAV2-7m8.pR2.1.GFPを動物500および509に注射した)。(a)2週間、(b)4週間、(c)8週間、および(d)12週間の時点で、眼底蛍光カメラ(a、b、c、d)またはHeidelberg Spectralis OCTでの自己蛍光を使用して網膜をGFPについてin vivoにおいて可視化した(a、b;第8週および第12週についてのデータは示していない)。OD、oculus dexter(右眼)。OS、oculus sinister(左眼)。
図9B図9A~9Dは、pMNTC調節カセットにより、錐体プロモーターpR2.1よりもロバストな、霊長類の中心窩錐体における遺伝子発現がもたらされることを実証する図である。AAV2-7m8.MNTC.GFPまたはAAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノム5×1011個を50μLの体積で示されている通りアフリカミドリザルの硝子体内に注射した(AAV2-7m8.MNTC.GFPを動物271および472に注射し、AAV2-7m8.pR2.1.GFPを動物500および509に注射した)。(a)2週間、(b)4週間、(c)8週間、および(d)12週間の時点で、眼底蛍光カメラ(a、b、c、d)またはHeidelberg Spectralis OCTでの自己蛍光を使用して網膜をGFPについてin vivoにおいて可視化した(a、b;第8週および第12週についてのデータは示していない)。OD、oculus dexter(右眼)。OS、oculus sinister(左眼)。
図9C図9A~9Dは、pMNTC調節カセットにより、錐体プロモーターpR2.1よりもロバストな、霊長類の中心窩錐体における遺伝子発現がもたらされることを実証する図である。AAV2-7m8.MNTC.GFPまたはAAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノム5×1011個を50μLの体積で示されている通りアフリカミドリザルの硝子体内に注射した(AAV2-7m8.MNTC.GFPを動物271および472に注射し、AAV2-7m8.pR2.1.GFPを動物500および509に注射した)。(a)2週間、(b)4週間、(c)8週間、および(d)12週間の時点で、眼底蛍光カメラ(a、b、c、d)またはHeidelberg Spectralis OCTでの自己蛍光を使用して網膜をGFPについてin vivoにおいて可視化した(a、b;第8週および第12週についてのデータは示していない)。OD、oculus dexter(右眼)。OS、oculus sinister(左眼)。
図9D図9A~9Dは、pMNTC調節カセットにより、錐体プロモーターpR2.1よりもロバストな、霊長類の中心窩錐体における遺伝子発現がもたらされることを実証する図である。AAV2-7m8.MNTC.GFPまたはAAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノム5×1011個を50μLの体積で示されている通りアフリカミドリザルの硝子体内に注射した(AAV2-7m8.MNTC.GFPを動物271および472に注射し、AAV2-7m8.pR2.1.GFPを動物500および509に注射した)。(a)2週間、(b)4週間、(c)8週間、および(d)12週間の時点で、眼底蛍光カメラ(a、b、c、d)またはHeidelberg Spectralis OCTでの自己蛍光を使用して網膜をGFPについてin vivoにおいて可視化した(a、b;第8週および第12週についてのデータは示していない)。OD、oculus dexter(右眼)。OS、oculus sinister(左眼)。
【0037】
図10A図10A~10Dは、最適化されたpMNTCエレメントのそれぞれの、よりロバストな観察された発現への寄与を実証する図である。(a)pMNTC発現カセットおよびpR2.1発現カセット。(b)pMNTC内の各エレメントを1つずつpR2.1内の対応するエレメントで置き換えた実験的な発現カセット。(c、d)注射の(c)4週間後および(d)8週間後にIVISイメージングによって検出された、試験物のそれぞれを硝子体内に注射したスナネズミの網膜におけるルシフェラーゼ導入遺伝子の発現(構築物当たりn=6~8の眼)。「7M8.CMV」は陽性対照としての機能を果たした。
図10B図10A~10Dは、最適化されたpMNTCエレメントのそれぞれの、よりロバストな観察された発現への寄与を実証する図である。(a)pMNTC発現カセットおよびpR2.1発現カセット。(b)pMNTC内の各エレメントを1つずつpR2.1内の対応するエレメントで置き換えた実験的な発現カセット。(c、d)注射の(c)4週間後および(d)8週間後にIVISイメージングによって検出された、試験物のそれぞれを硝子体内に注射したスナネズミの網膜におけるルシフェラーゼ導入遺伝子の発現(構築物当たりn=6~8の眼)。「7M8.CMV」は陽性対照としての機能を果たした。
図10C図10A~10Dは、最適化されたpMNTCエレメントのそれぞれの、よりロバストな観察された発現への寄与を実証する図である。(a)pMNTC発現カセットおよびpR2.1発現カセット。(b)pMNTC内の各エレメントを1つずつpR2.1内の対応するエレメントで置き換えた実験的な発現カセット。(c、d)注射の(c)4週間後および(d)8週間後にIVISイメージングによって検出された、試験物のそれぞれを硝子体内に注射したスナネズミの網膜におけるルシフェラーゼ導入遺伝子の発現(構築物当たりn=6~8の眼)。「7M8.CMV」は陽性対照としての機能を果たした。
図10D図10A~10Dは、最適化されたpMNTCエレメントのそれぞれの、よりロバストな観察された発現への寄与を実証する図である。(a)pMNTC発現カセットおよびpR2.1発現カセット。(b)pMNTC内の各エレメントを1つずつpR2.1内の対応するエレメントで置き換えた実験的な発現カセット。(c、d)注射の(c)4週間後および(d)8週間後にIVISイメージングによって検出された、試験物のそれぞれを硝子体内に注射したスナネズミの網膜におけるルシフェラーゼ導入遺伝子の発現(構築物当たりn=6~8の眼)。「7M8.CMV」は陽性対照としての機能を果たした。
【発明を実施するための形態】
【0038】
定義
「ベクター」とは、本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドを含むまたはポリヌクレオチドと結合し、ポリヌクレオチドの細胞への送達を媒介するために使用することができる高分子または高分子の結合体(association)を指す。例示的なベクターとしては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、リポソーム、および他の遺伝子送達ビヒクルが挙げられる。
【0039】
「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスに対する略語であり、ウイルス自体またはその誘導体を指すために使用することができる。この用語は、別段の必要性がある場合を除き、全ての亜型、および天然に存在する形態と組換え形態の両方を包含する。「AAV」という用語は、AAV1型(AAV-1)、AAV2型(AAV-2)、AAV3型(AAV-3)、AAV4型(AAV-4)、AAV5型(AAV-5)、AAV6型(AAV-6)、AAV7型(AAV-7)、AAV8型(AAV-8)、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAV、およびヒツジAAVを含む。「霊長類AAV」とは、霊長類に感染するAAVを指し、「非霊長類AAV」とは、非霊長類哺乳動物に感染するAAVを指し、「ウシAAV」とは、ウシ科の哺乳動物に感染するAAVを指す、などである。
【0040】
「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」または「rAAVベクター粒子」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質(典型的には野生型AAVのカプシドタンパク質全て)およびカプシドに包まれた(encapsidated)ポリヌクレオチドrAAVベクターで構成されるウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、「rAAVベクター粒子」または単に「rAAVベクター」と称されるのが典型的である。したがって、ベクターはrAAV粒子内に含有されるので、rAAV粒子の作製とは、rAAVベクターの作製を必ず含む。
【0041】
「複製欠損」という用語は、本発明のAAVウイルスベクターに対して本明細書で使用される場合、AAVベクターがそのゲノムを独立して複製およびパッケージングすることができないことを意味する。例えば、被験体の細胞にrAAVビリオンを感染させると、感染細胞において異種遺伝子が発現するが、感染細胞はAAV rep遺伝子およびcap遺伝子ならびにアクセサリー機能遺伝子を欠くという事実から、rAAVはそれ以上複製できない。
【0042】
「AAV改変体」または「AAV変異体」とは、本明細書で使用される場合、a)改変体AAVカプシドタンパク質であって、対応する親AAVカプシドタンパク質に対して少なくとも1つのアミノ酸の差異(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含み、また、対応する、天然に存在するAAVカプシドタンパク質内に存在するアミノ酸配列を含まない親AAVカプシドタンパク質を含むAAVビリオンによる網膜細胞の感染性と比較して網膜細胞の感染性の増大を付与するものである、改変体AAVカプシドタンパク質、およびb)異種遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸で構成されるウイルス粒子を指す。
【0043】
「rAAV」という略語は、組換えアデノ随伴ウイルスを指し、組換えAAVベクター(または「rAAVベクター」)とも称される。「rAAVベクター」とは、本明細書で使用される場合、AAV起源のものではないポリヌクレオチド配列(すなわち、AAVに対して異種性のポリヌクレオチド)、典型的には細胞の遺伝学的形質転換のための目的の配列を含むAAVベクターを指す。一般に、異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つ、一般には2つのAAV逆位末端反復配列(ITR)が隣接している。rAAVベクターという用語は、rAAVベクター粒子とrAAVベクタープラスミドのどちらも包含する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」または「コード配列」という用語は、in vitroまたはin vivoにおける、遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を指す。いくつかの場合には、遺伝子は、コード配列、すなわち遺伝子産物をコードする配列からなるまたはそれから本質的になる。他の場合では、遺伝子は、追加的な非コード配列を含む。例えば、遺伝子は、コード領域の前の領域と後ろの領域、例えば、個々のコードセグメント(エクソン)の間の5’非翻訳(5’UTR)または「リーダー」配列および3’UTRまたは「トレーラー」配列、ならびに介在配列(イントロン)を含んでも含まなくてもよい。
【0045】
本明細書で使用される場合、「治療用遺伝子」とは、発現させると、それが存在する細胞または組織に対して、または当該遺伝子が発現する哺乳動物に対して有益な効果を付与する遺伝子を指す。有益な効果の例としては、状態もしくは疾患の徴候もしくは症状の寛解、状態もしくは疾患の防止もしくは阻害、または所望の特性の付与が挙げられる。治療用遺伝子としては、細胞または哺乳動物における遺伝的欠損を補正する遺伝子が挙げられる。
【0046】
本明細書で使用される場合、導入遺伝子とは、ベクターによって細胞に送達される遺伝子である。
【0047】
本明細書で使用される場合、「遺伝子産物」という用語は、ポリペプチド、ペプチド、タンパク質または低分子干渉RNA(siRNA)、miRNAもしくは低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を含めた干渉RNAなどの、ポリヌクレオチド配列の所望の発現産物を指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。この用語は、修飾、例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質付加、リン酸化、または標識構成成分とのコンジュゲーションがなされたアミノ酸のポリマーも包含する。
【0049】
「含む」とは、列挙された要素が、例えば、組成物、方法、キットなどに必要であるが、例えば、特許請求の範囲内に入る組成物、方法、キットなどを形成するために他の要素が含まれていてもよいことを意味する。例えば、プロモーターに作動可能に連結した治療用ポリペプチドをコードする遺伝子を「含む」発現カセットは、遺伝子およびプロモーターに加えて、他の要素、例えば、ポリ-アデニル化配列、エンハンサーエレメント、他の遺伝子、リンカードメインなどを含み得る発現カセットである。
【0050】
「から本質的になる」とは、記載されている、例えば、組成物、方法、キットなどの範囲が、例えば、組成物、方法、キットなどの基本的な特性および新規の特性に実質的な影響を及ぼさない指定の材料またはステップに限定されることを意味する。例えば、プロモーターに作動可能に連結した治療用ポリペプチドをコードする遺伝子およびポリアデニル化配列「から本質的になる」発現カセットは、遺伝子の転写または翻訳に実質的な影響を及ぼさない限りは、追加的な配列、例えば、リンカー配列を含んでよい。別の例として、列挙された配列「から本質的になる」改変体、または変異体、ポリペプチド断片は、それが由来する全長のナイーブなポリペプチドに基づいて配列の境界に、列挙された配列のアミノ酸配列プラスまたはマイナス約10アミノ酸残基、例えば、列挙された結合アミノ酸残基よりも10、9、8、7、6、5、4、3、2または1残基少ない、または列挙された結合アミノ酸残基よりも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10残基多いアミノ酸残基を有する。
【0051】
「からなる」とは、組成物、方法、またはキットから、特許請求の範囲において指定されていないあらゆる要素、ステップ、または成分が排除されることを意味する。例えば、プロモーターに作動可能に連結した治療用ポリペプチドをコードする遺伝子、およびポリアデニル化配列「からなる」発現カセットは、プロモーター、治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、およびポリアデニル化配列のみからなる。別の例として、列挙された配列「からなる」ポリペプチドは、列挙された配列のみを含有する。
【0052】
本明細書で使用される場合、「配列同一性」例えば、「%配列同一性」という用語は、ヌクレオチド配列アラインメントプログラムを使用してアラインメントしたときの2つまたはそれ超のポリヌクレオチドの間、またはアミノ酸配列アラインメントプログラムを使用してアラインメントしたときの2つまたはそれ超のポリペプチド配列の間の同一性の程度を指す。同様に、「同一」またはパーセント「同一性」という用語は、2つまたはそれ超のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に関して本明細書で使用される場合、例えば、配列比較アルゴリズム、例えばSmith-Watermanアルゴリズムなどを使用して、または目視検査によって測定して、最大の対応について比較およびアラインメントしたときに同じまたは指定の百分率のアミノ酸残基またはヌクレオチドを有する2つの配列を指す。例えば、2つのアミノ酸配列の間のパーセント同一性は、GCGソフトウェアパッケージ内のGAPプログラムに組み入れられたNeedlemanおよびWunsch(1970年、J. Mol. Biol. 48巻:444~453頁)アルゴリズムを使用し、Blossum62行列またはPAM250行列のいずれか、ならびにギャップ重みづけ(gap weight)16、14、12、10、8、6、または4および長さ重みづけ(length weight)1、2、3、4、5、または6を使用して決定することができる。別の例として、2つのヌクレオチド配列の間のパーセント同一性は、GCGソフトウェアパッケージ内のGAPプログラムを使用して、NWSgapdna.CMP行列ならびにギャップ重みづけ40、50、60、70、または80および長さ重みづけ1、2、3、4、5、または6を使用して決定することができる。特に好ましいパラメータのセット(そして別段の指定がない限り使用されるべきもの)は、ギャップペナルティ(gap penalty)12、ギャップ伸長ペナルティ(gap extend penalty)4、およびフレームシフトギャップペナルティ(frameshift gap penalty)5を用いたBlossum62スコアリング行列である。2つのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の間のパーセント同一性は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み入れられたE. MeyersおよびW. Miller(1989年、Cabios、4巻:11~17頁)のアルゴリズムを使用し、PAM120重み付け残基表(weight residue table)、ギャップ長ペナルティ(gap length penalty)12およびギャップペナルティ4を使用して決定することもできる。例えば、他のファミリーメンバーまたは関連する配列を同定するために公共のデータベースに対する検索を実施するための「クエリ配列」として本明細書に記載の核酸およびタンパク質配列を使用することができる。そのような検索は、Altschulら(1990年、J. Mol. Biol、215巻:403~10頁)のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)を使用して実施することができる。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長(wordlength)=12を用いて実施して、本発明の核酸分子と相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索を、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施して、本発明のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較する目的でギャップを挿入したアラインメントを得るために、Altschulら(1997年、Nucleic Acids Res、25巻:3389~3402頁)に記載のGapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)の初期設定のパラメータを使用することができる。
【0053】
「%相同性」という用語は、本明細書では、本明細書の「%同一性」という用語と互換的に使用され、配列アラインメントプログラムを使用してアラインメントしたときの2つまたはそれ超のアラインメントされた配列の間の核酸またはアミノ酸配列同一性のレベルを指す。例えば、本明細書で使用される場合、80%相同性とは、規定のアルゴリズムによって決定された80%配列同一性と同じことを意味し、したがって、所与の配列の相同体は、所与の配列の長さにわたって80%超の配列同一性を有する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「相補物」および「相補的」という用語は、逆平行のヌクレオチド配列内の相補的な塩基残基の間で水素結合が形成されると互いと対形成することが可能な2つの逆平行のヌクレオチド配列を指す。例えば、shRNAは、標的配列に対して相補的、すなわち、100%相補的、または実質的に相補的、例えば、80%相補的、85%相補的、90%相補的、95%相補的、98%相補的、またはそれ超相補的であり得る。「発現」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞における内在性遺伝子、導入遺伝子またはコード配列の転写および/または翻訳を包含する。
【0055】
「発現ベクター」とは、本明細書で使用される場合、目的の遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む上記のまたは当技術分野で公知のベクター、例えば、プラスミド、ミニサークル(minicircle)、ウイルスベクター、リポソームなどを包含し、意図された標的細胞において遺伝子産物の発現をもたらすために使用されるものである。発現ベクターはまた、標的における遺伝子産物の発現を容易にするための、コード領域に作動可能に連結した制御エレメントも含む。制御エレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、UTR、miRNAターゲティング配列などと、発現のために作動可能に連結した遺伝子(複数可)の組合せは、時には、「発現カセット」と称される。そのような制御エレメントは多く公知であり、当技術分野において入手可能である、または当技術分野において入手可能な構成成分から容易に構築することができる。
【0056】
「プロモーター」とは、本明細書で使用される場合、RNAポリメラーゼの結合を導き、それにより、RNA合成を促進するDNA配列、すなわち、転写を導くために十分な最小の配列を包含する。プロモーターおよび対応するタンパク質またはポリペプチドの発現は、遍在する、つまり、広範囲の細胞、組織および種において強力に活性なものであってもよく、細胞型特異的、組織特異的、または種特異的なものであってもよい。プロモーターは、「構成的」、つまり、継続的に活性なものであってもよく、「誘導性」、つまり、生物要因または非生物要因の有無によって活性化または非活性化されるものであってよい。プロモーター配列と連続していてもしてなくてもよいエンハンサー配列も本発明の核酸構築物またはベクターに含まれる。エンハンサー配列は、プロモーター依存性遺伝子発現に影響を及ぼすものであり、ネイティブな遺伝子の5’領域または3’領域に位置してよい。
【0057】
「エンハンサー」とは、本明細書で使用される場合、隣接する遺伝子の転写を刺激または阻害するシス作用性エレメントを包含する。転写を阻害するエンハンサーは「サイレンサー」とも称される。エンハンサーは、コード配列から、および転写される領域の下流の位置から、数キロベース対(kb)までの距離にわたって、いずれの方向にも機能し得る(すなわち、コード配列と結び付けることができる)。
【0058】
「終結シグナル配列」とは、本明細書で使用される場合、例えば、ポリアデニル化シグナル配列などの、RNAポリメラーゼに転写を終結させる任意の遺伝子エレメントを包含する。
【0059】
「ポリアデニル化シグナル配列」とは、本明細書で使用される場合、後にポリアデニル化コンセンサス配列AATAAAが続く、RNA転写物のエンドヌクレアーゼ切断に必要な認識領域を包含する。ポリアデニル化シグナル配列により、「ポリA部位」、すなわち、転写後ポリアデニル化によってアデニン残基が付加されるRNA転写物上の部位がもたらされる。
【0060】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結(operatively linked)」または「作動可能に連結(operably linked)」という用語は、遺伝子エレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、終結シグナル配列、ポリアデニル化配列などが近位にあり、当該エレメントが予測された様式で作動することが可能な関係にあることを指す。例えば、プロモーターによりコード配列の転写の開始が補助される場合、プロモーターは、コード領域に作動可能に連結している。この機能的な関係が維持される限りは、プロモーターとコード領域との間に残基が介在してもよい。本明細書で使用される場合、「異種性」という用語は、比較されている実体の残りとは遺伝子型として別個の実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子工学の技法によって異なる種に由来するプラスミドまたはベクターに導入されたポリヌクレオチドは異種ポリヌクレオチドである。別の例として、そのネイティブなコード配列から取り出され、天然には連結して見いだされないコード配列に作動可能に連結したプロモーターは、異種プロモーターである。したがって、例えば、異種遺伝子産物をコードする異種核酸を含むrAAVは、天然に存在する、野生型AAVには通常含まれない核酸を含むrAAVであり、コードされる異種遺伝子産物は、天然に存在する野生型AAVによって通常はコードされない遺伝子産物である。
【0061】
「内在性」という用語は、ヌクレオチド分子または遺伝子産物を参照して本明細書で使用される場合、宿主ウイルスまたは細胞において天然に存在するまたはそれに付随する、例えば、遺伝子または遺伝子エレメント、または遺伝子産物、例えば、RNA、タンパク質を指す。
【0062】
「ネイティブ」という用語は、本明細書で使用される場合、野生型ウイルスまたは細胞に存在するヌクレオチド配列、例えば、遺伝子、または遺伝子産物、例えば、RNA、タンパク質を指す。「改変体」という用語は、本明細書で使用される場合、参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列、例えば、ネイティブなポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の変異体、すなわち、参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に対して100%未満の配列同一性を有するものを指す。言い換えると、改変体は、参照ポリヌクレオチド配列、例えば、ネイティブなポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に対して少なくとも1つのアミノ酸の差異(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。例えば、改変体は、全長のネイティブなポリヌクレオチド配列に対して70%またはそれ超の配列同一性、全長のネイティブなポリヌクレオチド配列に対して、例えば、75%または80%またはそれ超の同一性、例えば、85%、90%、または95%またはそれ超、例えば、98%または99%の同一性などを有するポリヌクレオチドであってよい。別の例として、改変体は、全長のネイティブなポリペプチド配列に対して70%またはそれ超の配列同一性、例えば、75%または80%またはそれ超、例えば、85%、90%、または95%またはそれ超の同一性など、例えば、全長のネイティブなポリペプチド配列に対して98%または99%の同一性を有するポリペプチドであってよい。改変体は、参照、例えば、ネイティブな配列の断片と70%またはそれ超の配列同一性、例えば、ネイティブな配列と75%または80%またはそれ超、例えば、85%、90%、または95%またはそれ超、例えば、98%または99%同一性などの同一性を共有する参照、例えば、ネイティブな配列の改変体断片も含み得る。
【0063】
本明細書で使用される場合、「生物活性」および「生物活性のある」という用語は、細胞内の特定の生物学的エレメントに帰する活性を指す。例えば、「免疫グロブリン」、「抗体」またはその断片もしくは改変体の「生物活性」とは、抗原性決定因子に結合し、それにより、免疫学的機能を促進する能力を指す。別の例として、ポリペプチドまたはその機能性断片もしくは改変体の生物活性とは、ポリペプチドまたはその機能性断片もしくは改変体の、例えば、結合、酵素活性などのネイティブな機能を行う能力を指す。第3の例として、遺伝子調節エレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、コザック配列などの生物活性とは、調節エレメントまたはその機能性断片もしくは改変体の、それぞれ、作動可能に連結した遺伝子の発現の翻訳を調節する、すなわち、促進する、増強する、または活性化する能力を指す。
【0064】
「投与」または「導入」という用語は、本明細書で使用される場合、組換えタンパク質を発現させるためのベクターを細胞に、被験体の細胞および/もしくは器官に、または被験体に送達することを指す。そのような投与または導入は、in vivo、in vitroまたはex vivoで行うことができる。遺伝子産物を発現させるためのベクターは、典型的には、異種DNAを物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、電気穿孔、微量注射またはリポフェクション)によって細胞に挿入することを意味するトランスフェクション;典型的には、感染因子、すなわちウイルスによって導入することを指す感染;または、典型的には、細胞にウイルスを安定に感染させることまたは1つの微生物から別の微生物にウイルス性因子(例えば、バクテリオファージ)によって遺伝物質を移入すること意味する形質導入によって細胞に導入することができる。
【0065】
「形質転換」とは、典型的には、異種DNAを含む細菌または癌遺伝子を発現し、したがって、継続的な成長モードに変換されている細胞(腫瘍細胞など)を指すために使用される。細胞を「形質転換する」ために使用されるベクターは、プラスミド、ウイルスまたは他のビヒクルであり得る。
【0066】
典型的には、細胞は、異種DNA(すなわち、ベクター)を細胞に投与、導入または挿入するために使用される手段に応じて、「形質導入された」、「感染した」;「トランスフェクトされた」または「形質転換された」と称される。「形質導入された」、「トランスフェクトされた」および「形質転換された」という用語は、本明細書では、異種DNAの導入方法にかかわらず互換的に使用することができる。
【0067】
「宿主細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、ベクターを用いて形質導入、感染、トランスフェクトまたは形質転換された細胞を指す。ベクターは、プラスミド、ウイルス粒子、ファージなどであってよい。例えば温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞に以前使用されたものであり、当業者には明らかになるであろう。「宿主細胞」という用語は、元の形質導入、感染、トランスフェクトまたは形質転換された細胞、およびその後代を指すことが理解されよう。
【0068】
「治療」、「治療すること」などの用語は、本明細書において、一般に、所望の薬理的効果および/または生理的効果を得ることを意味するように使用される。効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に防止すること、例えば、被験体において疾患またはその症状が起こる可能性を低減させることに関して予防的なものであってよく、かつ/または、疾患および/もしくは疾患に起因する有害作用に対する部分的なまたは完全な治癒に関して治療的であってよい。「治療」とは、本明細書で使用される場合、哺乳動物における疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患の素因があり得るが、今のところはまだそれを有すると診断されていない被験体において疾患が生じることを防止すること;(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発症を阻止すること;または(c)疾患を軽減すること、すなわち、疾患の退縮を引き起こすことを含む。治療剤は、疾患または傷害の発生の前、その間、またはその後に投与することができる。治療により患者の望ましくない臨床症状が安定化するまたは低減するような、進行中の疾患の治療が特に興味深い。そのような治療は、罹患組織が完全に機能喪失する前に行うことが望ましい。主題の療法は、疾患の症候性の段階において、いくつかの場合には疾患の症候性の段階の後に施されることが望ましい。
【0069】
「個体」、「宿主」、「被験体」および「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用され、これだけに限定されないが、サルおよびヒトを含めたヒトおよび非ヒト霊長類;哺乳動物の競技動物(例えば、ウマ);哺乳動物の農場動物(例えば、ヒツジ、ヤギなど);哺乳動物の愛玩動物(イヌ、ネコなど);およびげっ歯類(例えば、マウス、ラットなど)を含めた哺乳動物を指す。
【0070】
本発明の種々の組成物および方法が下に記載されている。本明細書には特定の組成物および方法が例示されているが、いくつもの代替的な組成物および方法が本発明の実施の使用に適用可能であり、適切であることが理解される。本発明の発現構築物および方法の評価は、当技術分野において標準の手順を使用して行うことができることも理解されよう。
【0071】
本発明の実施では、別段の指定のない限り、当業者の技術の範囲内に入る、細胞生物学、分子生物学(組換え技法を含む)、微生物学、生化学および免疫学の従来の技法を用いる。そのような技法は、それぞれが参照により本明細書に明白に組み込まれる、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第2版(Sambrookら、1989年);「Oligonucleotide Synthesis」(M. J. Gait編、1984年);「Animal Cell Culture」(R. I. Freshney編、1987年);「Methods in Enzymology」(Academic Press, Inc.);「Handbook of Experimental Immunology」(D. M. Weir & C. C. Blackwell編);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J. M. Miller & M. P. Calos編、1987年);「Current Protocols in Molecular Biology」(F. M. Ausubelら編、1987年);「PCR: The Polymerase Chain Reaction」(Mullisら編、1994年);および「Current Protocols in Immunology」(J. E. Coliganら編、1991年)などの文献において十分に説明されている。
【0072】
本発明のいくつかの態様が例示のために適用の例を参照して下に記載されている。多数の特定の詳細、関係、および方法は、本発明の完全な理解をもたらすために記載されていることが理解されるべきである。しかし、本発明は、特定の詳細のうちの1つまたは複数を伴わずにまたは他の方法を用いて実施できることは関連分野の当業者には容易に理解されよう。本発明は、例示されている行為または事象の順序に限定されず、いくつかの行為は他の行為または事象と異なる順序で、かつ/またはそれと同時になされ得る。さらに、例示された行為または事象の全てが本発明による方法体系を実行するために必要であるとは限らない。
【0073】
本明細書において使用される用語法は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明を限定するものではない。本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈によりそうでないことが明白に示されない限り、複数の形態も同様に含むものとする。さらに、「含む(including)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」という用語またはその変形が発明の詳細な説明および/または特許請求の範囲のいずれかにおいて使用されている限りでは、そのような用語は、「含む(comprising)」という用語と同様に、包括的なものとする。
【0074】
「約」または「およそ」という用語は、当業者により決定される特定の値に対する許容される誤差範囲内に入ることを意味し、許容される誤差範囲は、一部において、どのように値を測定または決定するか、つまり、測定システムの限界に依存する。例えば、「約」とは、当技術分野における実施に従って、1または1超の標準偏差の範囲内を意味し得る。あるいは、「約」とは、所与の値の20%まで、好ましくは10%まで、より好ましくは5%まで、およびより好ましくはさらに1%までの範囲を意味し得る。あるいは、特に生物システムまたはプロセスに関して、この用語は、値の1桁分の範囲内、好ましくは5倍以内、およびより好ましくは2倍以内を意味し得る。特定の値が出願および特許請求の範囲に記載されている場合、別段の指定のない限り、特定の値について許容される誤差範囲を意味する「約」という用語が想定されているものとする。
【0075】
本明細書で言及されている全ての刊行物は、引用された刊行物に関連して方法および/または材料を開示し、説明するために参照により本明細書に組み込まれる。矛盾がある限りでは、組み込まれた刊行物のいかなる開示にも本開示が取って代わることが理解される。
【0076】
特許請求の範囲は、いかなる任意選択の要素も排除するように立案することができることにも留意する。そのように、この記述は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連した「単に」、「のみ」などの排他的な用語の使用、または「否定的」限定の使用の前提としての機能を果たすものとする。
【0077】
本明細書で考察されている刊行物は、単に、本出願の出願日より前のそれらの開示について提供されている。本明細書におけるいずれも、本発明が、先行発明に基づいてそのような刊行物に先行する権限がないことを容認するとは解釈されない。さらに、示された刊行物の日付は、独立に確認する必要があり得る実際の刊行物の日付とは異なる可能性がある。
【0078】
別段の指定のない限り、本明細書で使用される用語は全て、当業者にとっての意味と同じ意味を有し、本発明の実施では、当業者の知見の範囲内に入る微生物学および組換えDNA技術の従来の技法を用いる。
【0079】
発明の詳細な説明
本開示は、錐体細胞において遺伝子を発現させるためのポリヌクレオチドカセットおよび発現ベクターを提供する。例えば、個体における、例えば、錐体細胞障害を治療または予防するための、錐体細胞における遺伝子の発現の促進においてこれらの組成物を使用する方法も提供される。これらおよび他の本発明の目的、利点および特徴は、以下により十分に記載されている組成物および方法の詳細を読めば、当業者には明白になるであろう。
【0080】
組成物
本開示の一部の態様では、錐体細胞において導入遺伝子を発現させるための組成物が提供される。「錐体細胞」は、本明細書では、「錐体光受容体」または「錐体」とも称され、比較的明るい光の中で最もよく機能する、眼の網膜内の光受容体細胞の亜型を意味する。錐体は、特定の波長の光に対して感受性であり、したがって、色の知覚を支持する。さらに、錐体は、杆体光受容体よりも刺激に対して速く応答し、杆体よりも像内の細かい詳細および迅速な変化を知覚し、したがって、読書や運転などの視覚的な細部が最も重要になる活動のために高い視力を維持する。錐体は、網膜の断面において、それらの外節が錐体様形状であることによって容易に同定可能である。錐体はまた、網膜内でのそれらの位置によっても容易に同定可能であり、最も高密度の錐体は、「中心窩(fovea centralis)」または「中心窩(foveal pit)」と称される網膜の黄斑の中心に位置する1.5mmの凹部に存在する。
【0081】
本開示の一部の実施形態では、錐体細胞における導入遺伝子の発現をもたらす組成物は、ポリヌクレオチドカセットである。「ポリヌクレオチドカセット」とは、2つまたはそれ超のポリヌクレオチド配列、例えば、調節エレメント、翻訳開始配列、コード配列、終結配列などを、典型的には、互いに作動可能に連結して含むポリヌクレオチド配列を意味する。同様に、「錐体細胞において導入遺伝子を発現させるためのポリヌクレオチドカセット」とは、錐体細胞における導入遺伝子の発現を促進する2つまたはそれ超のポリヌクレオチド配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、5’UTR、翻訳開始配列、コード配列、終結配列などの組合せを意味する。
【0082】
例えば、一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、
(a)錐体細胞におけるコード配列の発現を促進するプロモーター領域と、
(b)プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と
を含む。
別の例として、一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、
(a)網膜錐体細胞におけるコード配列の発現を促進するプロモーター領域と、
(b)翻訳開始配列と、
(c)プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と
を含む。
第3の例として、一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、
(a)網膜錐体細胞におけるコード配列の発現を促進するプロモーター領域と、
(b)5’非翻訳領域と、
(c)翻訳開始配列と、
(d)プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と
を含む。
第4の例として、一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、
(a)網膜錐体細胞におけるコード配列の発現を促進するプロモーター領域と、
(b)5’非翻訳領域と、
(c)イントロンと、
(d)翻訳開始配列と、
(e)プロモーター領域に作動可能に連結したコード配列と
を含む。
第5の例として、一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、
(a)網膜錐体細胞におけるコード配列の発現を促進するプロモーター領域と、
(b)5’非翻訳領域と、
(c)イントロンと、
(d)翻訳開始配列と、
(e)ポリアデニル化配列と
を含む。
【0083】
一部の実施形態では、本開示のポリヌクレオチドカセットにより、錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現がもたらされる。本開示の実用的な実施例によって実証される通り、本発明者らは、錐体細胞における導入遺伝子の増強された発現を個別にかつ相乗的にもたらすいくつものポリヌクレオチドエレメント、すなわち、当技術分野で公知のものと比較して改善されたエレメントを発見した。「増強された」とは、本開示のポリヌクレオチドカセットを有する錐体細胞において、例えば当技術分野で公知の同等の調節エレメントに作動可能に連結した導入遺伝子を有する錐体細胞におけるものと比較して導入遺伝子の発現が増加している、増大している、またはより強力であることを意味する。言い換えると、本開示のポリヌクレオチドカセットからの導入遺伝子の発現は、本開示の1つまたは複数の最適化されたエレメントを含まないポリヌクレオチドカセット、すなわち、参照対照からの発現と比較して増加する、増大する、またはより強力になる。例えば、本明細書に開示されているプロモーターを含むポリヌクレオチドカセットを含む錐体細胞では、例えば当技術分野で公知の異なるプロモーターと作動可能に連結した導入遺伝子を有する錐体細胞におけるものよりも、導入遺伝子の発現が増強される、または増大する、またはより強力になる。別の例として、本明細書に開示されているエンハンサー配列を含むポリヌクレオチドカセットを含む錐体細胞では、異なるエンハンサー配列と作動可能に連結した導入遺伝子を有する錐体細胞におけるものよりも、導入遺伝子の発現が増強される、または増加する、増大する、またはより強力になる。別の例として、本明細書に開示されている5’UTRをコードするポリヌクレオチドカセットを含む錐体細胞では、異なる5’UTRコード配列に作動可能に連結した導入遺伝子を有する錐体細胞におけるものよりも、導入遺伝子の発現が増強される、または増加する、増大する、またはより強力になる。別の例として、本明細書に開示されているイントロンを含むポリヌクレオチドカセットを含む錐体細胞では、当技術分野で公知の異なるイントロン配列に作動可能に連結した導入遺伝子を有する錐体細胞におけるものよりも、導入遺伝子の発現が増強される、または増加する、増大する、またはより強力になる。比較用の参照として使用することができるエレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー配列、5’UTR、およびイントロン)を含む例示的な配列としては、例えば米国特許出願第2013/0317091号に開示されているネイティブなL-オプシンプロモーター(配列番号1)およびその改変体に含まれる配列、合成プロモーターpR2.1(配列番号50)およびその改変体(例えば、pR1.7、pR1.5、pR1.1)に含まれる配列、ならびにIRBP/GNAT2プロモーター(米国特許出願第2014/0275231号)に含まれる配列が挙げられる。
【0084】
理論に束縛されることを望むものではないが、細胞における導入遺伝子の増強された発現は、細胞において遺伝子産物がより速く蓄積すること、または細胞における遺伝子産物がより安定であることに起因すると考えられる。したがって、本開示のポリヌクレオチドカセットによる導入遺伝子の増強された発現は、いくつものやり方で観察することができる。例えば、増強された発現は、導入遺伝子の発現が、ポリヌクレオチドカセットを錐体細胞と接触させた後、導入遺伝子が例えば当技術分野で公知の同等の調節エレメントに作動可能に連結した場合に検出される発現よりも早く、例えば、7日早く、2週間早く、3週間早く、4週間早く、8週間早く、12週間早く、またはそれ超の期間だけ早く検出されることによって観察することができる。増強された発現は、細胞当たりの遺伝子産物の量が増加することによっても観察することができる。例えば、錐体細胞当たりの遺伝子産物の量が2倍増加もしくはそれ超、例えば、3倍増加もしくはそれ超、4倍増加もしくはそれ超、5倍増加もしくはそれ超、または10倍増加もしくはそれ超増加し得る。増強された発現は、ポリヌクレオチドカセットに保有される導入遺伝子を検出可能なレベルで発現する錐体細胞の数の増加として観察することもできる。例えば、導入遺伝子を検出可能なレベルで発現する錐体細胞の数が2倍増加またはそれ超、例えば、3倍増加もしくはそれ超、4倍増加もしくはそれ超、5倍増加もしくはそれ超、または10倍増加もしくはそれ超増加し得る。別の例として、本発明のポリヌクレオチドにより、従来のポリヌクレオチドカセットと比較してより大きな百分率の細胞において検出可能なレベルの導入遺伝子を促進することができ、例えば、従来のカセットにより、例えば、ある特定の領域内の錐体細胞の5%未満で検出可能なレベルの導入遺伝子発現を促進することができる場合、本発明のポリヌクレオチドでは、その領域内の錐体細胞の5%またはそれ超で検出可能なレベルの発現が促進され、例えば、接触させた錐体細胞の10%またはそれ超、15%またはそれ超、20%またはそれ超、25%またはそれ超、30%またはそれ超、35%またはそれ超、40%またはそれ超、または45%またはそれ超、いくつかの場合には50%またはそれ超、55%またはそれ超;60%またはそれ超、65%またはそれ超、70%またはそれ超、または75%またはそれ超、例えば、80%もしくはそれ超、85%もしくはそれ超、90%もしくはそれ超、または95%またはそれ超で検出可能なレベルの遺伝子産物が発現される。増強された発現は、例えば、当技術分野で公知のおよび本明細書に記載の、例えば、眼底撮影法、OCT、補償光学(adaptive optics)、cERG、色覚検査、視力検査などの評価ツールを使用して測定される錐体細胞の生存能力および/または機能の変更として観察することもできる。
【0085】
本開示のポリヌクレオチドカセットは、典型的には、プロモーター領域を含む。その中の任意の適切なプロモーター領域またはプロモーター配列を、当該プロモーター領域により網膜錐体細胞におけるコード配列の発現が促進される限りは、主題のポリヌクレオチドカセットに使用することができる。一部の実施形態では、プロモーターにより、哺乳動物の網膜錐体細胞、より好ましくは霊長類網膜錐体細胞において、より好ましくはCatarrhini網膜錐体細胞において、なおより好ましくはヒト網膜錐体細胞において、遺伝子の発現が特異的に促進される。「特異的に」とは、プロモーターにより、遺伝子の発現が、標的細胞において他の細胞型と比較して優勢に促進されることを意味する。したがって、例えば、錐体細胞における発現を特異的に促進するプロモーター領域を用いると、主題のポリヌクレオチドカセットを眼に送達した後、発現の50%超、例えば、発現の少なくとも60%、65%、70%または75%もしくはそれ超のいずれか、例えば、遺伝子の発現の少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、97%、98%、99%、99.5%、またはそれ超のいずれかが錐体細胞におけるものになる。
【0086】
例示的な適切なプロモーター領域としては、任意の錐体特異的遺伝子に対するプロモーター領域、例えば、492L-オプシンプロモーター領域(配列番号1)、491L-オプシンプロモーター領域(配列番号53)、496L-オプシンプロモーター領域(配列番号79)、M-オプシンプロモーター領域(配列番号2、配列番号54)、最小M-オプシンプロモーター領域(配列番号55、配列番号93)、本明細書において初めて開示されるコアM-オプシンプロモーター配列(配列番号80)、S-オプシンプロモーター領域(配列番号3)、hRKプロモーター領域、および錐体アレスチンプロモーター領域、または錐体細胞における遺伝子の発現を促進する活性を保持するその部分もしくは改変体などが挙げられる。主題のポリヌクレオチドカセットへの使用が見いだされるプロモーター領域の部分または断片の非限定的な例としては、5’UTRのすぐ上流のプロモーター配列、および当技術分野で公知の転写因子に対する標準的な結合配列が挙げられる。そのような部分または断片は、当技術分野で公知のまたは本明細書に記載の任意の都合のよい方法を使用して容易に決定することができる。例えば、配列番号54および配列番号55の5’UTRのすぐ上流のプロモーター配列は、例えば、UCSCゲノムBLATブラウザなどの公的に入手可能なツールを使用して配列番号54のヌクレオチド1~406または配列番号55のヌクレオチド1~154から本質的になる配列をin silico評価することによって、または、例えば本明細書の実用的な実施例に記載の通りレポーター遺伝子との作動可能な連結および錐体細胞への導入による経験的な試験によって容易に決定することができる。一部の実施形態では、ベクター内で他のヌクレオチドエレメントに対してより多くの空間がもたらされるので、短いプロモーター配列が長いプロモーター配列よりも好ましい。一部の実施形態では、プロモーター領域は492塩基対未満の長さである。例えば、一部の実施形態では、機能性断片は、配列番号1のヌクレオチド1~10またはそれ超を含まず、例えば、機能性断片は、配列番号1のヌクレオチド1~20またはそれ超、ヌクレオチド1~30またはそれ超、ヌクレオチド1~40またはそれ超、ヌクレオチド1~50またはそれ超、例えば、配列番号1のヌクレオチド1~60またはそれ超、ヌクレオチド1~70またはそれ超、ヌクレオチド1~80またはそれ超、ヌクレオチド1~90またはそれ超、ヌクレオチド1~100またはそれ超、いくつかの場合には、配列番号1のヌクレオチド1~120もしくはそれ超、ヌクレオチド1~140もしくはそれ超、ヌクレオチド1~160もしくはそれ超、ヌクレオチド1~180もしくはそれ超、ヌクレオチド1~200もしくはそれ超、ヌクレオチド1~220もしくはそれ超、ヌクレオチド1~240もしくはそれ超、またはおよそヌクレオチド1~260を含まない。哺乳動物または霊長類の錐体細胞における発現を駆動することが可能なプロモーター領域を同定するための任意の適切な方法を使用して、本開示のポリヌクレオチドカセットへの使用が見いだされるプロモーター領域およびその中のプロモーター配列を同定することができる。
【0087】
一部の実施形態では、主題のポリヌクレオチドカセットのプロモーター領域は、本明細書に開示されているプロモーター領域、例えば、492L-オプシンプロモーター領域(配列番号1)、491L-オプシンプロモーター領域(配列番号53)、496L-オプシンプロモーター領域(配列番号79)、Mオプシンプロモーター領域(配列番号2、配列番号54)、最小Mオプシンプロモーター領域(配列番号55、配列番号93)、本明細書に開示されているコアM-オプシンプロモーター配列(配列番号80)、またはSオプシンプロモーター領域(配列番号3)、またはその機能性断片もしくは改変体、例えば、上述の配列もしくはその機能性断片に対して、75%またはそれ超、例えば、80%もしくはそれ超、85%もしくはそれ超、90%もしくはそれ超、または95%もしくはそれ超(例えば、80%、85%、90%または95%)の同一性を有する配列のうちの1つを含む。一部の実施形態では、主題のポリヌクレオチドカセットのプロモーター配列は、本明細書に開示されているプロモーター領域、すなわち配列番号1、配列番号53、配列番号79、配列番号2、配列番号54、配列番号55、配列番号93、配列番号80、もしくは配列番号3、またはその機能性断片もしくは改変体、例えば、上述の配列の全長プラスマイナス1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10ヌクレオチド、またはその機能性断片に対して75%もしくはそれ超、例えば、80%もしくはそれ超、85%もしくはそれ超、90%もしくはそれ超、または95%もしくはそれ超(例えば、80%、85%、90%または95%)の同一性を有する配列のうちの1つから本質的になる。一部の実施形態では、主題のポリヌクレオチドカセットのプロモーター領域は、本明細書に開示されているプロモーター領域、すなわち配列番号1、配列番号53、配列番号79、配列番号2、配列番号54、配列番号55、配列番号93、配列番号80、もしくは配列番号3、またはその機能性断片もしくは改変体、例えば、上述の配列の全長またはその機能性断片に対して75%またはそれ超、例えば、80%、85%、90%、95%またはそれ超の同一性を有する配列のうちの1つからなる。ある特定の実施形態では、プロモーター領域は、配列番号74から本質的になる。一部のそのような実施形態では、プロモーター配列は、配列番号80から本質的になる。一部の実施形態では、プロモーターにより、当技術分野で公知の他のプロモーター、例えば、合成プロモーターpR2.1、pR1.7、pR1.1、およびIRBP/GNAT2と比較して、錐体細胞における増強された発現がもたらされる。
【0088】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、エンハンサーエレメントをさらに含む。エンハンサーは、転写を増強することが当技術分野で公知の核酸エレメントであり、当該エンハンサーにより調節される遺伝子と関連したどこにでも、例えば、上流、下流、イントロン内などに位置してよい。プロモーターと組み合わせて使用したときに遺伝子の発現を増強するものである限りは、任意のエンハンサーエレメントを本開示のポリヌクレオチドカセットおよび遺伝子療法ベクターに使用することができる。好ましい実施形態では、エンハンサーエレメントは、網膜錐体細胞に対して特異的である、より好ましくは、エンハンサーエレメントは、霊長類網膜錐体細胞、より好ましくはCatarrhini網膜錐体細胞、なおより好ましくはヒト網膜錐体細胞に対して特異的である。「特異的に」とは、エンハンサーにより、標的細胞において他の細胞型と比較して遺伝子の発現が優勢に増強されることを意味する。したがって、例えば、錐体細胞における発現を特異的に増強するエンハンサーを用いると、ベクターを眼に送達した後、発現の50%超、例えば、発現の少なくとも60%、65%、70%、75%またはそれ超のいずれか、例えば、遺伝子の発現の少なくとも80%、および好ましくは85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、97%、98%、99%、99.5%またはそれ超が錐体細胞におけるものになる。
【0089】
本開示のポリヌクレオチドカセットへの使用が見いだされる例示的なエンハンサー領域としては、エンハンサー活性を保持する、任意の錐体特異的遺伝子またはそれらの断片もしくは改変体に対するエンハンサー領域を含む、それから本質的になる、あるいはそれからなるものが挙げられる。例えば、遺伝子座制御領域(LCR)と称されるL/M最小オプシンエンハンサー(Wangら、1992年、Neuron 9巻:429~440頁)(配列番号52)を使用して、錐体細胞における遺伝子発現を増強することができ、それが存在しないと、青錐体1色覚が生じる(Nathansら、1989年;Science、245巻:831~838頁)。LCRは、例えばAAVベクターを用いた遺伝子療法において有用であることが示されている(Liら、Vision Research 48巻(2008年):332~338頁)。さらに、36bpの「コア」LCR配列から本質的になる機能性断片が、錐体細胞におけるオプシンプロモーターからの発現に必要かつ十分であることが同定されている(Komaromyら Targeting gene expression to cones with human cone opsin promoters in recombinant AAV. Gene
Ther. 2008年;15巻(14号):1049~55頁)(配列番号51)。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットのエンハンサーは、配列番号51または配列番号52を含む。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットのエンハンサーは、配列番号51または配列番号52から本質的になる。
【0090】
L/M最小オプシンエンハンサーの1つまたは複数のコピーを含む100ヌクレオチド、200ヌクレオチド、300ヌクレオチド、400ヌクレオチド、500ヌクレオチド、600ヌクレオチド、700ヌクレオチド、800ヌクレオチド、900ヌクレオチド、1000ヌクレオチド、1100ヌクレオチド、1200ヌクレオチド、1300ヌクレオチド、1400ヌクレオチド、1500ヌクレオチド、1600ヌクレオチド、1700ヌクレオチド、1800ヌクレオチド、1900ヌクレオチド、2000ヌクレオチド、またはそれ超のヌクレオチドのL/Mエンハンサーエレメント、および完全なL/Mオプシンエンハンサー、または、遺伝子の発現を錐体特異的な様式で増強する活性を保持するその他の部分もしくは改変体が本組成物に使用される。本明細書における教示に基づいて当業者には理解される通り、霊長類錐体細胞における発現を駆動することが可能なエンハンサー配列を同定するための任意の適切な方法を使用して、そのようなエンハンサーを同定することができる。
【0091】
プロモーター領域およびエンハンサー領域の長さは、それらの意図された目的に適した任意の長さであってよく、プロモーター領域とエンハンサー領域との間隔は、遺伝子産物の錐体特異的発現を促進するために適した任意の間隔であってよい。種々の好ましい実施形態では、エンハンサーは、プロモーターの0~1500ヌクレオチド上流;0~1250ヌクレオチド上流;0~1000ヌクレオチド上流;0~750ヌクレオチド上流;0~600ヌクレオチド上流;0~500ヌクレオチド上流;0~400ヌクレオチド上流;0~300ヌクレオチド上流;0~200ヌクレオチド上流;0~100ヌクレオチド上流;0~90ヌクレオチド上流;0~80ヌクレオチド上流;0~70ヌクレオチド上流;0~60ヌクレオチド上流;0~50ヌクレオチド上流;0~40ヌクレオチド上流;0~30ヌクレオチド上流;0~20ヌクレオチド上流;または0~10ヌクレオチド上流に位置する。プロモーターは、コードされる遺伝子から任意の適切な距離だけ上流にあってよい。
【0092】
一部の実施形態では、主題のポリヌクレオチドカセットは、5’UTRとも称される、5’非翻訳領域をコードする配列、すなわち、コード配列に対して5’にある非翻訳領域をコードするポリヌクレオチド配列を含む。発現カセットにおいて、5’UTRは、転写開始部位とタンパク質翻訳が開始されるコザック配列の間との配列として当技術分野で公知である。5’UTRの二次mRNA構造が転写レベルに影響を及ぼすことが公知である。具体的には、増強された遺伝子発現のために、本発明における5’UTR領域の配列は、二次構造および非効率的なリボソームスキャニングおよび誤った翻訳開始に起因して翻訳効率を低減させることが公知である上流AUG(uAUG)コドンが最小になるまたは回避されるように選択する(Kozak、1995年、PNAS 92巻:2662頁)。Davuluriら、Genome Research、2000年:10巻(11号);1807~1816頁を参照されたい。例えば、ヒト遺伝子HSP70由来の5’UTR配列(配列番号58)は、おそらくIRES機構に起因した、mRNA翻訳を増強する通常見られない能力が同定されている(Rubtsovaら、2003年、PNAS 278巻(25号):22350~22356頁;Vivinusら、2001年、Eur J Biochem. 268巻:1908~1917頁)。任意の5’UTRを使用することができるが、5’UTRの配列は最小の二次的mRNA構造および上流AUG配列を有することが理想的である。言い換えると、一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットの転写開始部位と翻訳開始部位との間の配列はポリヌクレオチドATGを含有しない。一部の実施形態では、5’UTRは、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、もしくは配列番号89;またはその機能性断片もしくは改変体、例えば、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、および配列番号89からなる群より選択される配列、もしくはその断片に対して85%またはそれ超の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む、それから本質的になる、あるいはそれからなる。一部の実施形態では、5’UTR配列の一部または全部は、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号53、配列番号54、配列番号55、または配列番号79に開示されているプロモーター領域に含まれる。他の実施形態では、5’UTRは、プロモーター領域に含まれない;例えば、5’UTR配列をコードしないコアプロモーター配列である配列番号84を参照されたい。一部の実施形態では、5’UTR配列は、プロモーター配列に対して異種性のものである。種々の好ましい実施形態では、UTRの3’末端は、コード配列の0~20ヌクレオチド上流;0~15ヌクレオチド上流;0~10ヌクレオチド上流;0~9ヌクレオチド上流;0~8ヌクレオチド上流;0~7ヌクレオチド上流;0~6ヌクレオチド上流;または0~5ヌクレオチド上流であり、UTRの5’末端は、近位のプロモーター領域の0~20ヌクレオチド下流;0~15ヌクレオチド下流;0~10ヌクレオチド下流;0~9ヌクレオチド下流;0~8ヌクレオチド下流;0~7ヌクレオチド下流;0~6ヌクレオチド下流;または0~5ヌクレオチド下流である。一部の実施形態では、5’UTRエレメントにより、当技術分野で公知の他の5’UTR、例えば、合成プロモーターpR2.1、pR1.7、pR1.1、およびIRBP/GNAT2に含まれる5’UTRと比較して、錐体細胞における増強された発現がもたらされる。
【0093】
一部の実施形態では、主題のポリヌクレオチドカセットは、スプライスドナー/アクセプター領域を含むイントロンをさらに含む。一部の実施形態では、イントロンは、プロモーター領域の下流に位置し、遺伝子の翻訳開始配列の上流に位置する、すなわち、イントロンは、5’UTR内に位置する。他の実施形態では、イントロンは、遺伝子の翻訳開始配列の下流に位置する、すなわち、イントロンは、コード配列内に位置する。一般に、当技術分野で公知の通り、イントロンは、RNAに転写され、mRNAプロセシングの間にイントロンスプライシングによって除去されるDNAポリヌクレオチドである。イントロンを含有するポリヌクレオチドカセットは、一般に、イントロンを有さないものよりも高い発現を有する。イントロンにより、発現が2倍~500倍刺激され得る(BuchmanおよびBerg、1988年、Mol Cel Bio、8巻(10号):4395頁)。効率的にスプライシングされたイントロンは、プレスプライスドナー、枝分かれ部位、およびPyリッチ領域を含有する(Senapathyら、1990年;Meth. Enzymol. 183巻、252~78頁;WuおよびKrainer、1999年;Mol Cell Biol 19巻(5号):3225~36頁)。5’イントロンは、一般に、3’末端にあるイントロンと比較して、より効率的である(HuangおよびGorman、1990年;Mol Cell Bio、10巻:1805頁)。一般に、イントロンにより遺伝子発現レベルが上昇することが公知であるが、所与のcDNAの特異的な増加(もしあれば)は経験的なものであり、試験しなければならない。例えば、pSIベクター内のキメライントロンにより、CAT発現は21倍上昇したが、ルシフェラーゼ発現の上昇はわずか3倍であった。
【0094】
哺乳動物錐体細胞または霊長類錐体細胞において認識されるスプライスドナー/アクセプター領域を含み、したがって得られたmRNA産物からイントロンをスプライシングにより除去することができる限りは、任意のイントロンを主題のポリヌクレオチドカセットに使用することができる。一実施形態では、イントロンは、配列番号5によるSV40イントロンを含む、それから本質的になる、またはそれからなる。別の実施形態では、イントロンは、pSI(配列番号60)に由来するキメライントロンもしくはその改変体を含む、それから本質的になる、またはそれからなる。別の実施形態では、イントロンは、CMVイントロンAもしくはその改変体を含む、それから本質的になる、またはそれからなる。さらに別の実施形態では、イントロンは、pR2.1イントロン(配列番号59)またはその改変体、あるいは、ウサギまたはヒトベータグロビンイントロンまたはその改変体を含む、それから本質的になる、またはそれからなる(Xuら、2001年、Gene 272巻:149頁;Xuら2002年;J Control Rel 81巻:155頁)。一部のそのような実施形態では、イントロンは、配列番号5、配列番号59、および配列番号60からなる群より選択される配列に対して85%またはそれ超の配列同一性を有する配列を含む。典型的には、イントロンは、プロモーター領域および/または5’UTRに対して異種性である。
【0095】
一部の実施形態では、イントロンは、5’UTR内に存在する。言い換えれば、5’UTRをコードするDNA配列はイントロンDNA配列によって遮られている。例えば、配列番号84である5’UTRのコード配列は、2つの部分、例えば、配列番号85および配列番号86でコードされ、それらの間にイントロン配列があるものであってよい。別の例として、配列番号88である5’UTRのコード配列は、2つの部分、例えば、配列番号89および配列番号73でコードされ、それらの間にイントロン配列があるものであってよい。種々の実施形態では、イントロンの3’末端は遺伝子の0~20ヌクレオチド上流;0~15ヌクレオチド上流;0~10ヌクレオチド上流;0~9ヌクレオチド上流;0~8ヌクレオチド上流;0~7ヌクレオチド上流;0~6ヌクレオチド上流;または0~5ヌクレオチド上流であり、イントロンの5’末端は近位のプロモーター領域の0~20ヌクレオチド下流;0~15ヌクレオチド下流;0~10ヌクレオチド下流;0~9ヌクレオチド下流;0~8ヌクレオチド下流;0~7ヌクレオチド下流;0~6ヌクレオチド下流;または0~5ヌクレオチド下流である。他の実施形態では、イントロンは、遺伝子のコード配列内に存在する。
【0096】
一部の実施形態では、本開示のポリヌクレオチドカセットは、「コザック配列」または「コザック翻訳開始配列」としても公知の翻訳開始配列を含む。これは、リボソームが付着し、翻訳が開始される核酸配列である。例として、ACCATGG(Kozak、1986年、Cell、44巻:283~292頁)および(GCC)GCC(A/G)CCATGG(Kozak、1987年、Nucl Acid Res;15巻(20号):8125頁)(配列番号73)が挙げられる。任意の適切なコザック配列をポリヌクレオチドカセットに使用することができ、それは網膜錐体細胞におけるコード配列の発現が増加するように選択することが好ましい。一実施形態では、翻訳開始配列は配列番号72を含む。代替の実施形態では、翻訳開始配列は配列番号73を含む。一部の実施形態では、コザックエレメントにより、当技術分野で公知の他のコザック配列、例えば、合成プロモーターpR2.1、pR1.7、pR1.1、およびIRBP/GNAT2に含まれるコザック配列と比較して、錐体細胞における増強された発現がもたらされる。
【0097】
本発明の一部の態様では、例えば、遺伝子が細胞の生存能力および/または機能に対して有する効果を決定するために、錐体細胞障害を治療するなどのために、主題のポリヌクレオチドカセットを使用して遺伝子を動物の錐体細胞に送達する。したがって、一部の実施形態では、本開示のポリヌクレオチドカセットは、導入遺伝子としてin vitroまたはin vivoにおいて動物の錐体細胞に送達される遺伝子をさらに含む。遺伝子コード配列は、典型的には、主題のポリヌクレオチドカセットのプロモーター領域に作動可能に連結しており、エンハンサーエレメントが存在する例では、主題のポリヌクレオチドカセットのエンハンサーエレメントに作動可能に連結しており、したがって、プロモーターおよび場合によってエンハンサーエレメントにより、被験体の錐体細胞におけるコード配列またはcDNAの発現が促進される。
【0098】
錐体細胞において発現されるコード配列は、任意のポリヌクレオチド配列、例えば、遺伝子産物をコードする遺伝子またはcDNA、例えば、ポリペプチドまたはRNAに基づく治療薬(siRNA、アンチセンス、リボザイム、shRNAなど)であってよい。コード配列は、それが作動可能に連結したプロモーター配列および/または5’UTR配列に対して異種性であってよい、すなわち、天然にはそれと作動可能に結びついていないものであってよい。あるいは、コード配列は、それが作動可能に連結したプロモーター配列および/または5’UTR配列に対して内在性であってよい、すなわち、天然にそのプロモーターまたは5’UTRと結びついたものであってよい。遺伝子産物は、錐体細胞において内因的に作用するものであってもよく、外因性に作用するものであってもよい、例えば、分泌されるものであってもよい。例えば、導入遺伝子が治療用遺伝子である場合、コード配列は、錐体細胞疾患または障害を治療するための治療薬として、または、これだけに限定されないが、4色型色覚の促進を含めた、他の点で視覚を増強するための手段として使用することができる所望の遺伝子産物またはその機能性断片もしくは改変体をコードする任意の遺伝子であってよい。種々の好ましい実施形態では、導入遺伝子は、以下からなる群より選択される治療用タンパク質またはその機能性断片もしくは改変体をコードする:
(a)配列番号7(配列番号6)Homo sapiensオプシン1(錐体色素)、短波長感受性(OPN1SW)、mRNA NCBI Reference Sequence:NM_001708.2;
(b)配列番号9(配列番号8)Homo sapiensオプシン1(錐体色素)、中波長感受性(OPN1MW)、mRNA NCBI Reference Sequence:NM_000513.2;
(c)配列番号11(配列番号10)Homo sapiensオプシン1(錐体色素)、長波長感受性(OPN1LW)、mRNA NCBI Reference Sequence:NM_020061.4;
(d)配列番号13(配列番号12)ATP結合性カセット網膜遺伝子(ABCR)遺伝子(NM_000350);
(e)配列番号15(配列番号14)網膜色素上皮に特異的65kDタンパク質遺伝子(RPE65)(NM._000329);
(f)配列番号17(配列番号16)網膜結合性タンパク質1遺伝子(RLBP1)(NM._000326);
(g)配列番号19(配列番号18)ペリフェリン/網膜変性症遅延遺伝子(NM_000322);
(h)配列番号21(配列番号20)アレスチン(SAG)(NM_000541);
(i)配列番号23(配列番号22)アルファ-トランスデューシン(GNAT1)(NM_000172);
(j)配列番号24 グアニル酸シクラーゼ活性化因子1A(GUCA1A)(NP_000400.2);
(k)配列番号25 網膜特異的グアニル酸シクラーゼ(GUCY2D)(NP_000171.1);
(l)配列番号26&27 錐体環状ヌクレオチドゲーティング陽イオンチャネルのアルファサブユニット(CNGA3)(NP_001073347.1またはNP_001289.1);
(m)配列番号28 ヒト錐体トランスデューシンアルファサブユニット(不完全1色覚(incomplete achromotopsia));
(n)配列番号29 錐体cGMP特異的3’,5’-環状ホスホジエステラーゼサブユニットアルファ’、タンパク質(錐体ジストロフィー4型);
(o)配列番号30 網膜錐体ロドプシン感受性cGMP3’,5’-環状ホスホジエステラーゼサブユニットガンマ、タンパク質(網膜錐体ジストロフィー3A型);
(p)配列番号31 錐体杆体ホメオボックス、タンパク質(錐体杆体ジストロフィー);
(q)配列番号32 錐体光受容体環状ヌクレオチドゲーティングチャネルベータサブユニット、タンパク質(1色覚);
(r)配列番号33 錐体光受容体cGMPゲーティング陽イオンチャネルベータ-サブユニット、タンパク質(全色盲(total color blindness)、例えば、Pingelapese Islandersの間での);
(s)配列番号35(配列番号34)網膜色素変性症1(常染色体優性)(RP1);
(t)配列番号37(配列番号36)網膜色素変性症GTPアーゼ調節因子相互作用タンパク質1(RPGRIP1);
(u)配列番号39(配列番号38)PRP8;
(v)配列番号41(配列番号40)中心体タンパク質290kDa(CEP290);
(w)配列番号43(配列番号42)IMP(イノシン5’-一リン酸)デヒドロゲナーゼ1(IMPDH1)、転写物改変体1;
(x)配列番号45(配列番号44)アリール炭化水素受容体相互作用タンパク質様1(AIPL1)、転写物改変体1;
(y)配列番号47(配列番号46)レチノールデヒドロゲナーゼ12(オールトランス/9-シス/11-シス)(RDH12);
(z)配列番号49(配列番号48)レーバー先天黒内障5(LCA5)、転写物バリアント1;および
(aa)例示的なOPN1LW/OPN1MW2多形体(OPN1LW(Lオプシン)ポリペプチド配列と比較;数字の左側のアミノ酸はLオプシン配列に存在する残基であり、数字はLオプシンにおける残基番号であり、数字の右側の残基はLオプシンからの変異(variation)である。これらの実施形態による多形体は、Thr65Ile;Ile111Val;Ser116Tyr;Leu153Met;Ile171Val;Ala174Val;Ile178Val;Ser180Ala;Ile230Thr;Ala233Ser;Val236Met;Ile274Val;Phe275Leu;Tyr277Phe;Val279Phe;Thr285Ala;Pro298Ala;Tyr309Pheから選択されるアミノ酸置換のうちの1つまたは複数を含み得る;
(ab)追加的なオプシン配列変異1(配列番号61);
(ac)追加的なオプシン配列変異2(配列番号62);
(ad)追加的なオプシン配列変異3(配列番号63);
(ae)追加的なオプシン配列変異4(配列番号64);
(af)追加的なオプシン配列変異5(配列番号65);
(ag)追加的なオプシン配列変異6(配列番号65);
(ah)追加的なオプシン配列変異7(配列番号66);
(ai)追加的なオプシン配列変異8(配列番号67);
(aj)追加的なオプシン配列変異9(配列番号68);
(ak)hCHR2(チャネルロドプシン)(配列番号69);
(al)NpHR(ハロロドプシン)(配列番号70);および
(am)eGFP(配列番号71)。
一部の実施形態では、導入遺伝子によりコードされるコード配列は、上または本明細書に開示されている配列によりコードされるポリペプチドに対して少なくとも85%配列同一性、例えば、少なくとも90%配列同一性、例えば、少なくとも95%配列同一性、少なくとも98%配列同一性、または少なくとも99%配列同一性を有するポリペプチドをコードする。したがって、例えば、コード配列は、OPN1LW、OPNIMW、またはOPN1SWによりコードされるポリペプチドに対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%同一性、少なくとも98%配列同一性、または少なくとも99%配列同一性を有する錐体オプシンをコードする。一部の実施形態では、コード配列は、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、または配列番号71に対して少なくとも85%、90%、95%、98%または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0099】
(a)~(c)および(aa~aj)に列挙されているタンパク質は全て色覚に関与する。例示的な多形体としては、それらを発現する錐体細胞における色素のスペクトルに影響を及ぼす65位、116位、180位、230位、233位、277位、285位、および309位におけるものが挙げられる。274位、275位、277位、279位、285位、298位および309位は一緒になってLオプシンとMオプシンを区別する。
【0100】
(d)~(z)に列挙されているタンパク質は、網膜色素変性症(ポリペプチド「e」~「l」、「s」~「y」)、不完全1色覚(ポリペプチド「m」)、スタルガルト(ポリペプチド「d」);レーバー先天黒内障(ポリペプチド「z」);錐体ジストロフィー4型などの錐体ジストロフィー(ポリペプチド「n」);網膜錐体ジストロフィー;例えば、網膜錐体ジストロフィー3A型(ポリペプチド「o」);錐体杆体ジストロフィー(ポリペプチド「p」);1色覚(ポリペプチド「q」);および全色盲、例えば、Pingelapese Islandersの間(ポリペプチド「r」)におけるものなどの、例示的な眼疾患関連遺伝子である。
【0101】
本発明の一実施形態では、発現を増強するために、導入遺伝子コード配列を、まれに表されるコドンをより頻繁に表されるコドンで置き換えることによって改変または「コドン最適化」する。コード配列は、翻訳のためのアミノ酸をコードするmRNA配列の部分である。翻訳の間、61種のトリヌクレオチドコドンのそれぞれが20種のアミノ酸のうちの1つに翻訳され、それにより、遺伝暗号の縮重、または重複性が生じる。しかし、異なる細胞型、および異なる動物種は、同じアミノ酸をコードするtRNA(それぞがアンチコドンを有する)を異なる頻度で利用する。遺伝子配列が、対応するtRNAでまれに表されるコドンを含有する場合、リボソーム翻訳機構は遅くなり、効率的な翻訳が妨げられる可能性がある。特定の種に関する「コドン最適化」によって発現を改善することができ、その場合、コード配列を、同じタンパク質配列をコードするが、高度に表され、かつ/または高度に発現されるヒトタンパク質に利用されるコドンを利用するように変更する(Cid-Arreguiら、2003年;J. Virol. 77巻:4928頁)。本発明の一態様では、導入遺伝子のコード配列を、哺乳動物または霊長類においてまれに発現するコドンが霊長類において頻繁に発現するコドンで置き換えられるように改変する。例えば、一部の実施形態では、導入遺伝子によりコードされるコード配列は、上または本明細書に開示されている配列によりコードされるポリペプチドに対して少なくとも85%配列同一性、例えば、少なくとも90%配列同一性、例えば、少なくとも95%配列同一性、少なくとも98%同一性、少なくとも99%同一性を有するポリペプチドをコードし、コード配列の少なくとも1つのコドンのヒトにおけるtRNA頻度は、上または本明細書に開示されている配列の対応するコドンよりも高い。
【0102】
本発明の追加的な実施形態では、導入遺伝子コード配列を、所望の導入遺伝子をコードしないオープンリーディングフレーム(ORF)の終結または除去により、発現が増強されるように改変する。オープンリーディングフレーム(ORF)は、開始コドンの後に続く、終止コドンを含有しない核酸配列である。ORFは、順方向であっても逆方向であってもよく、また、目的の遺伝子と比較して「インフレーム」であっても「アウトオブフレーム」であってもよい。そのようなオープンリーディングフレームには、発現カセットにおいて目的の遺伝子と並んで発現する潜在性があり、また、望ましくない有害作用が導かれる可能性がある。本発明の一態様では、導入遺伝子のコード配列を、コドン使用をさらに変更することにより、オープンリーディングフレームが除去されるように改変する。これは、開始コドン(ATG)を排除し、逆方向の終止コドン(TAG、TAA、またはTGA)またはアウトオブフレームORFを導入する一方で、目的の遺伝子におけるアミノ酸配列を保存し、高度に利用されるコドンを維持する(すなわち、頻度が20%未満のコドンを回避する)ことによって行われた。本発明では、コドン最適化および非導入遺伝子ORFの除去のいずれによっても、または両方の技法を使用することによって導入遺伝子コード配列を最適化することができる。当業者には明らかになるように、コドン最適化の間に導入されたORFを除去するために、コドン最適化後に非導入遺伝子ORFを除去するまたは最小限にすることが好ましい。コドン最適化およびORF除去の例が図3A~3Cに示されている。
【0103】
一部の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドカセットは、ポリアデニル化領域をさらに含む。当技術分野で理解されている通り、RNAポリメラーゼII転写物は、ポリAシグナル、ポリA領域またはポリA尾部としても公知のポリアデニル化領域の切断および追加で終結する。ポリA領域は、多くの場合モチーフAAUAAAの反復を伴う多数の連続したアデノシン一リン酸を含有する。SV40、ウシ成長ホルモン、ヒト成長ホルモンおよびウサギベータグロビンに由来するものを含めたいくつかの効率的なポリアデニル化部位が同定されている(Xuら、2001年;Gene 272巻:149頁;Xuら、2002年;J Control Rel. 81巻:155頁)。錐体細胞において導入遺伝子を発現させるための最も効率的なポリAシグナルは、細胞型および目的の種および使用する特定のベクターに左右され得る。本発明の一部の実施形態では、ポリヌクレオチドカセットは、配列番号74、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号90もしくは配列番号91または前述の配列のいずれかのその機能性断片もしくは改変体からなる群より選択されるポリA領域を含む、それから本質的になる、またはそれからなる。ある特定の実施形態では、ポリA領域は、配列番号90またはその改変体を含む。一部のそのような実施形態では、ポリA領域は、配列番号90またはその改変体から本質的になる。
【0104】
当業者には理解される通り、上述のポリヌクレオチドエレメントのうちの2つまたはそれ超を組み合わせて、本開示のポリヌクレオチドカセットを創出することができる。したがって、例えば、主題のポリヌクレオチドカセットは、改善された5’UTR配列、例えば、配列番号84または配列番号85と作動可能に組み合わせた配列番号80と作動可能に連結した改善されたプロモーター配列を含むプロモーター領域を含んでよい;例えば、配列番号2、配列番号54、配列番号55、配列番号93、配列番号94、または配列番号95を参照されたい。別の例として、主題のポリヌクレオチドカセットは、改善されたプロモーター配列または領域、例えば、配列番号80、配列番号2、配列番号54、配列番号55、または配列番号93と作動可能に組み合わせた配列番号51または配列番号52と作動可能に連結した改善されたエンハンサー配列または領域を含んでよい;例えば、配列番号92または配列番号95を参照されたい。別の例として、主題のポリヌクレオチドカセットは、改善されたイントロン配列、例えば、配列番号60と作動可能に組み合わせた配列番号84または配列番号86と作動可能に連結した改善された5’UTR配列を含んでよい;例えば、配列番号94または配列番号95を参照されたい。別の例として、主題のポリヌクレオチドカセットは、改善されたイントロン配列および改善されたコザック配列、例えば、配列番号60とおよび配列番号73と作動可能に組み合わせた配列番号84または配列番号86と作動可能に連結した改善された5’UTR配列を含んでよい;例えば、配列番号95を参照されたい。別の例として、主題のポリヌクレオチドカセットは、作動可能に連結した、改善されたエンハンサー、改善されたプロモーター、改善された5’UTR、改善されたイントロン、改善されたコザックおよび改善されたポリA領域を含んでよい;例えば、配列番号95を参照されたい。本明細書に開示されているまたは当技術分野で公知のエレメントの他の組合せは、当業者には容易に理解されよう。
【0105】
さらに、当業者には理解される通り、ポリヌクレオチドカセットは、場合によって、これだけに限定されないが、クローニングを容易にするための制限部位および特定の遺伝子発現ベクターに対する調節エレメントを含めた他のエレメントを含有してよい。調節配列の例としては、AAVベクターに対するITR、プラスミドベクターに対する細菌配列、ファージインテグラーゼベクターに対するattP部位またはattB部位、およびトランスポゾンに対する転移因子が挙げられる。
【0106】
遺伝子療法ベクター
上で示唆した通り、本発明の一部の態様では、例えば、遺伝子が細胞の生存能力および/または機能に対して有する効果を決定するために、錐体細胞障害を治療するなどのために、主題のポリヌクレオチドカセットを使用して、遺伝子を動物の錐体細胞に送達する。したがって、本発明の一部の態様では、錐体細胞における導入遺伝子の発現をもたらす組成物は遺伝子送達ベクターであり、当該遺伝子送達ベクターは本開示のポリヌクレオチドカセットを含む。
【0107】
錐体細胞へのポリヌクレオチド配列の送達への使用が見いだされる任意の都合のよい遺伝子療法ベクターは本開示の遺伝子送達ベクターに包含される。例えば、ベクターは、一本鎖核酸または二本鎖核酸、例えば、一本鎖DNAまたは二本鎖DNAを含んでよい。例えば、遺伝子送達ベクターは、裸のDNA、例えば、プラスミド、ミニサークルなどであってよい。別の例として、遺伝子送達ベクターは、ウイルス、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはレトロウイルス、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳がんウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV))またはレンチウイルスであってよい。アデノ随伴ウイルスの使用を包含する実施形態が以下により詳細に記載されているが、当業者には同様の知見が理解されることおよび当業者は同様に非AAV遺伝子療法ベクターにも導かれ得ることが予想される。例えば、全開示が参照により本明細書に組み込まれる、例えば、米国特許第7,585,676号および米国特許第8,900,858号におけるレトロウイルスベクターに関する考察、ならびに例えば、米国特許第7,858,367号におけるアデノウイルスベクターに関する考察を参照されたい。
【0108】
一部の実施形態では、遺伝子送達ベクターは、組換えアデノ随伴ウイルスである(rAAV)。そのような実施形態では、主題のポリヌクレオチドカセットは、5’末端および3’末端で機能性AAV逆位末端反復(ITR)配列が隣接している。「機能性AAV ITR配列」とは、ITR配列が、AAVビリオンのレスキュー、複製およびパッケージングに関して意図された通り機能することを意味する。したがって、本発明の遺伝子送達ベクターに使用するためのAAV ITRは必ずしも野生型ヌクレオチド配列を有さなくてよく、ヌクレオチドの挿入、欠失もしくは置換によって変更されたものであってよい、または、AAV ITRは、いくつかのAAV血清型、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10のいずれかに由来するものであってよい。好ましいAAVベクターは、野生型REP遺伝子およびCAP遺伝子が全部または一部欠失しているが、機能性の隣接ITR配列を保持する。
【0109】
そのような実施形態では、主題のポリヌクレオチドカセットは、これだけに限定することなく、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10などを含めた任意のアデノ随伴ウイルス血清型に由来するものであってよいAAVカプシド内に包まれている。例えば、AAVカプシドは、野生型、またはネイティブなカプシドであってよい。特に興味深い野生型AAVカプシドは、AAV2、AAV5、およびAAV9を含む。しかし、ITRと同様に、カプシドは、必ずしも野生型ヌクレオチド配列を有さなくてよく、むしろ、カプシドが錐体細胞を形質導入することができるものである限りは、VP1配列、VP2配列またはVP3配列内のヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更されたものであってよい。言い換えると、AAVカプシドは、改変体AAVカプシドであってよい。特に興味深い改変体AAVカプシドとしては、全開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願US2014/0294771に開示されている、AAV2の残基580~600または別のAAVの対応する残基、例えば、LGETTRP、NETITRP、KAGQANN、KDPKTTN、KDTDTTR、RAGGSVG、AVDTTKF、またはSTGKVPN内にペプチド挿入を含むものが挙げられる。一部の実施形態では、AAVベクターは、1つのAAVのカプシド(cap)遺伝子と異なるAAV由来のrep遺伝子およびITRとを使用することによって創出される、「シュードタイピング」されたAAV、例えば、AAV2由来のrepとAAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、またはAAV9由来のcapとを、AAV2に基づくベクターを含有するプラスミドと共に使用することによって創出される、シュードタイピングされたAAV2である。例えば、AAVベクターは、rAAV2/1、rAAV2/3、rAAV2/4、rAAV2/5、rAAV2/6、rAAV2/7、rAAV2/8、rAAV2/9などであってよい。rAAVは、AAVベクターがそのゲノムを独立してさらに複製しパッケージングすることができないという点で複製欠損であることが好ましい。例えば、錐体細胞にrAAVビリオンを用いて形質導入すると、形質導入された錐体細胞において遺伝子が発現されるが、形質導入された錐体細胞はAAV rep遺伝子およびcap遺伝子ならびにアクセサリー機能遺伝子を欠くという事実に起因して、rAAVは複製することができない。
【0110】
本開示のポリヌクレオチドカセットを封入する遺伝子療法ベクター、例えば、rAAVビリオンは、標準の方法体系を使用して作製することができる。例えば、rAAVビリオンの場合では、本発明によるAAV発現ベクターを産生細胞に導入し、その後、AAVヘルパー構築物を導入することができ、ヘルパー構築物は、産生細胞において発現させることができるAAVコード領域を含むものであり、AAVベクターの不在下でAAVヘルパー機能を補完する。この後、ヘルパーウイルスおよび/または追加的なベクターを産生細胞に導入し、ここで、ヘルパーウイルスおよび/または追加的なベクターにより、効率的なrAAVウイルス産生を支持することが可能なアクセサリー機能がもたらされる。次いで、産生細胞を培養してrAAVを産生させる。これらのステップは、標準の方法体系を使用して行う。本発明の組換えAAVベクターを封入する複製欠損AAVビリオンは、AAVパッケージング細胞およびパッケージング技術を使用する当技術分野で公知の標準の技法によって作出される。これらの方法の例は、例えば、それらの全体が参照により本明細書に明白に組み込まれる、米国特許第5,436,146号;同第5,753,500号、同第6,040,183号、同第6,093,570号および同第6,548,286号に見いだすことができる。パッケージングするためのさらなる組成物および方法は、同様にその全体が参照により本明細書に組み込まれるWangら(US2002/0168342)に記載されている。
【0111】
これだけに限定されないが、以下の実施例に記載されているものを含めた、主題のポリヌクレオチドカセットを送達するためのウイルス粒子を産生させるための任意の適切な方法を使用することができる。錐体細胞を有効に形質導入するために適した任意の濃度のウイルス粒子を、in vitroまたはin vivoにおいて錐体細胞と接触させるために調製することができる。例えば、ウイルス粒子を、1ml当たりベクターゲノム10個またはそれ超、例えば、1mL当たりベクターゲノム5×10個;1mL当たりベクターゲノム10個;1mL当たりベクターゲノム5×10個、1mL当たりベクターゲノム1010個、1mL当たりベクターゲノム5×1010個;1mL当たりベクターゲノム1011個;1mL当たりベクターゲノム5×1011個;1mL当たりベクターゲノム1012個;1mL当たりベクターゲノム5×1012個;1mL当たりベクターゲノム1013個;1mL当たりベクターゲノム1.5×1013個;1mL当たりベクターゲノム3×1013個;1mL当たりベクターゲノム5×1013個;1mL当たりベクターゲノム7.5×1013個;1mL当たりベクターゲノム9×1013個;1mL当たりベクターゲノム1×1014個、1mL当たりベクターゲノム5×1014個またはそれ超であるが、典型的には、1mL当たりベクターゲノム1×1015個以下の濃度で製剤化することができる。同様に、所望の効果を付与するまたは疾患を治療するための網膜錐体細胞の適切な形質導入をもたらすために適した任意の総数のウイルス粒子を哺乳動物または霊長類の眼に投与することができる。種々の好ましい実施形態では、眼当たり少なくとも10個;5×10個;10個;5×10個、1010個、5×1010個;1011個;5×1011個;1012個;5×1012個;1013個;1.5×1013個;3×1013個;5×1013個;7.5×1013個;9×1013個、1×1014個のウイルス粒子、または5×1014個もしくはそれ超のウイルス粒子であるが、典型的には、1×1015個以下のウイルス粒子を注射する。哺乳動物または霊長類の眼へのベクターの投与は任意の適切な回数で行うことができる。一実施形態では、方法は、単回投与を含み、他の実施形態では、担当臨床医が適切であると考える期間にわたって多数回投与を行う。
【0112】
主題のウイルスベクターは、これだけに限定することなく、ベクターゲノム1×10個またはそれ超、例えば、ベクターゲノム1×10個、1×1010個、1×1011個、1×1012個または1×1013個もしくはそれ超、特定の例では、ベクターゲノム1×1014個であるが、通常は4×1015個以下ベクターゲノムを含めた任意の適切な単位投薬量に製剤化することができる。いくつかの場合には、単位投薬量は、最大でベクターゲノム約5×1015個、例えば、ベクターゲノム1×1014個またはそれ未満、例えば、1×1013個、1×1012個、1×1011個、1×1010個、または1×10個のベクターゲノムもしくはそれ未満、特定の例では、ベクターゲノム1×10個またはそれ未満、および典型的には、ベクターゲノム1×10個以上である。いくつかの場合には、単位投薬量は、ベクターゲノム1×1010~1×1011個である。いくつかの場合には、単位投薬量は、ベクターゲノム1×1010~3×1012個である。いくつかの場合には、単位投薬量は、ベクターゲノム1×10~3×1013個である。いくつかの場合には、単位投薬量は、ベクターゲノム1×10~3×1014個である。
【0113】
いくつかの場合には、医薬組成物の単位投薬量は、感染多重度(MOI)を使用して測定することができる。MOIとは、細胞に核酸を送達することができるベクターまたはウイルスのゲノムの比または倍率を意味する。いくつかの場合には、MOIは1×10であり得る。いくつかの場合には、MOIは1×10~1×10であり得る。いくつかの場合には、MOIは1×10~1×10であり得る。いくつかの場合には、本開示の組換えウイルスのMOIは、少なくとも約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、および1×1018である。いくつかの場合には、本開示の組換えウイルスのMOIは1×10~3×1014である。いくつかの場合には、本開示の組換えウイルスのMOIは、最大で約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、および1×1018である。
【0114】
一部の態様では、医薬組成物の量は、組換えウイルス約1×10~約1×1015個、組換えウイルス約1×10~約1×1014個、組換えウイルス約1×1010~約1×1013個、または組換えウイルス約1×1011~約3×1012個を含む。
【0115】
主題のrAAV組成物の調製において、例えば、哺乳動物細胞(例えば、293細胞)、昆虫細胞(例えば、SF9細胞)、微生物および酵母を含めた、rAAVビリオンを産生させるための任意の宿主細胞を用いることができる。宿主細胞はまた、AAV rep遺伝子およびcap遺伝子が宿主細胞において安定に維持されるパッケージング細胞であってもよく、またはAAVベクターゲノムが安定に維持されパッケージングされる産生細胞であってもよい。例示的なパッケージング細胞および産生細胞は、SF-9細胞、293細胞、A549細胞またはHeLa細胞に由来するものである。AAVベクターは、当技術分野で公知の標準の技法を使用して精製し、製剤化する。
【0116】
錐体細胞をin vivoにおいて接触させる場合、主題のポリヌクレオチドカセットまたは主題のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターを、眼に送達するために必要に応じて処理することができる。具体的には、本発明は、本明細書に記載のポリヌクレオチドカセットまたは遺伝子送達ベクターと、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とを含む医薬組成物を含む。主題のポリヌクレオチドカセットまたは遺伝子送達ベクターは、一般に安全、無毒性、かつ望ましいものであり、霊長類への使用が許容される賦形剤を含む製剤の調製において有用な薬学的に許容される担体、希釈剤および試薬と組み合わせることができる。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体、または、エアロゾル組成物の場合では気体であってよい。そのような担体または希釈剤の例としては、これだけに限定されないが、水、食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。補足的な活性化合物も製剤に組み入れることができる。製剤に使用される溶液または懸濁物としては、注射用水、食塩溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌化合物;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート化化合物;アセテート、シトレートまたはホスフェートなどの緩衝液;凝集を防止するためのTween20などの洗剤;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度を調整するための化合物を挙げることができる。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整することができる。
【0117】
本発明における内用に適した医薬組成物は、滅菌水溶液、または滅菌された注射用溶液または分散物を即時調製するための分散物と滅菌粉末をさらに含む。静脈内投与に関しては、適切な担体として、生理食塩水、静菌水、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。いくつかの場合には、組成物は滅菌されたものであり、容易な注射可能性(syringability)が存在する限りでは、流体であるべきである。ある特定の実施形態では、組成物は製造および保管の条件下で安定であり、また、細菌および真菌などの微生物の混入作用から保護される。担体は、例えば、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、および適切なそれらの混合物を含有する溶媒または分散媒であってよい。妥当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散の場合では必要な粒子サイズを維持することによっておよび界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、等張化剤(isotonic agent)、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。内部の組成物の持続的な吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによってもたらすことができる。
【0118】
滅菌溶液は、必要量の活性化合物を適切な溶媒に、上に列挙されている成分の1つ、または成分の組合せと共に組み入れ、必要に応じて、その後に濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散物は、活性化合物を、基本的な分散媒および上に列挙されているものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み入れることによって調製される。滅菌された注射用溶液を調製するための滅菌粉末の場合では、調製方法は、活性成分と任意の追加的な所望の成分の粉末を予め滅菌濾過したその溶液から得る、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0119】
一実施形態では、活性化合物を、化合物を体からの迅速な排除から保護する担体、例えば、埋め込み物およびマイクロカプセル封入送達系を含めた制御放出製剤などと共に調製する。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤を調製するための方法は当業者には明らかになるであろう。材料は、商業的に得ることもできる。リポソーム懸濁物(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞にターゲティングされるリポソームを含む)を薬学的に許容される担体として使用することもできる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載の通り、当業者に公知の方法に従って調製することができる。
【0120】
経口組成物または非経口組成物を投与の容易さおよび投薬量の均一性のために、単位剤形(dosage unit form)に製剤化することが特に有利である。単位剤形とは、本明細書で使用される場合、治療される被験体に対する単位投薬量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位が、必要な医薬担体と関連して所望の治療効果がもたらされるように算出された所定の量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の仕様は、活性化合物の独特の特性および達成されるべき特定の治療効果、ならびにそのような活性化合物を個人の治療のために配合する技術分野における固有の限定によって規定され、それに直接左右される。
【0121】
医薬組成物は、容器、パック、またはディスペンサー、例えば、シリンジ、例えば、充填済みシリンジに、投与の説明書と共に含めることができる。
【0122】
本発明の医薬組成物は、任意の薬学的に許容される塩、エステル、もしくはそのようなエステルの塩、または、ヒトを含めた動物に投与されると、生物活性のある代謝産物またはその残渣を(直接または間接的に)もたらすことが可能な任意の他の化合物を含む。したがって、例えば、本開示は、本発明の化合物のプロドラッグおよび薬学的に許容される塩、そのようなプロドラッグの薬学的に許容される塩、ならびに他の生物学的同等物にも関する。
【0123】
「プロドラッグ」という用語は、不活性型で調製され、体内またはその細胞内で内在性酵素もしくは他の化学物質の作用および/または条件によって活性型(すなわち、薬物)に変換される治療剤を示す。
【0124】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本発明の化合物の生理的にかつ薬学的に許容される塩、すなわち、親化合物の所望の生物活性を保持し、それに望ましくない毒物学的な影響を与えない塩を指す。種々の薬学的に許容される塩は、当技術分野で公知であり、例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、第17版、Alfonso R. Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、PA、USA、1985年(およびその最新版)、「Encyclopaedia of Pharmaceutical Technology」、第3版、James Swarbrick(編)、Informa Healthcare USA(Inc.)、NY、USA、2007年、およびJ. Pharm. Sci. 66巻:2頁(1977年)に記載されている。また、適切な塩に関する概説については、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use、StahlおよびWermuth(Wiley-VCH、2002年)を参照されたい。
【0125】
薬学的に許容される塩基付加塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属または有機アミンなどの金属またはアミンと形成される。陽イオンとして使用される金属は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどを含む。アミンは、N-N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、およびプロカインを含む(例えば、Bergeら、「Pharmaceutical Salts」、J. Pharma Sci.、1977年、66巻、119頁を参照されたい)。前記酸性化合物の塩基付加塩は、従来の様式で遊離酸の形態を十分な量の所望の塩基と接触させて塩を生じさせることによって調製される。遊離酸の形態は、従来の様式で塩の形態を酸と接触させ、遊離酸を単離することによって再生させることができる。遊離酸の形態は、それらのそれぞれの塩の形態とは、極性溶媒中の溶解度などのある特定の物理特性がいくらか異なるが、他の点では、塩は、本発明の目的上、それらのそれぞれの遊離酸と同等である。
【0126】
主題のポリヌクレオチドカセットまたは遺伝子送達ベクター、例えば組換えウイルス(ビリオン)は、哺乳動物患者、特に霊長類、より具体的にはヒトに投与するための医薬組成物に組み入れることができる。主題のポリヌクレオチドカセットまたは遺伝子送達ベクター、例えば、ビリオンは、非毒性であり、不活性であり、薬学的に許容される水性担体中に、好ましくは3から8までにわたるpH、より好ましくは6から8までにわたるpHで、製剤化することができる。そのような滅菌組成物は、再構成の際に許容されるpHを有する水性緩衝液に溶解させた治療用分子をコードする核酸を含有するベクターまたはビリオンを含む。
【0127】
一部の実施形態では、本明細書において提供される医薬組成物は、治療有効量のベクターまたはビリオンを、薬学的に許容される担体および/または賦形剤、例えば、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ホスフェートおよびアミノ酸、ポリマー、ポリオール、糖、緩衝液、防腐剤および他のタンパク質との混合物で含む。例示的なアミノ酸、ポリマーおよび糖などは、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール化合物、ポリエチレングリコールモノステアレート化合物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、スクロース、フルクトース、デキストロース、マルトース、グルコース、マンニトール、デキストラン、ソルビトール、イノシトール、ガラクチトール、キシリトール、ラクトース、トレハロース、ウシまたはヒト血清アルブミン、シトレート、アセテート、リンゲル液、ハンクス液、システイン、アルギニン、カルニチン、アラニン、グリシン、リシン、バリン、ロイシン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンおよびグリコールである。この製剤は、4℃で少なくとも6カ月にわたって安定であることが好ましい。
【0128】
一部の実施形態では、本明細書において提供される医薬組成物は、緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)またはリン酸ナトリウム/硫酸ナトリウム、トリス緩衝液、グリシン緩衝液、滅菌水、およびGoodら(1966年)Biochemistry 5巻:467頁に記載されているものなどの当業者に公知の他の緩衝液などを含む。医薬組成物がアデノウイルスベクター送達系に含有された腫瘍抑制因子遺伝子を含む緩衝液のpHは、6.5~7.75、好ましくは7~7.5、および最も好ましくは7.2~7.4の範囲内であってよい。
【0129】
方法
上で示唆した通り、本明細書では集合的に「主題の組成物」と称される主題のポリヌクレオチドカセットおよび遺伝子送達ベクターを、動物の錐体細胞における導入遺伝子の発現において用途が見いだされている。例えば、主題の組成物は、例えば、錐体細胞の生存能力および/または機能に対する遺伝子の効果を決定するための研究において使用することができる。別の例として、主題の組成物は、例えば、錐体細胞障害を治療するための医薬に使用することができる。したがって、本発明の一部の態様では、錐体細胞において遺伝子を発現させるための方法であって、錐体細胞を本開示の組成物と接触させるステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、接触させるステップをin vitroで行う。一部の実施形態では、接触させるステップをin vivoで行う、すなわち、主題の組成物を被験体に投与する。
【0130】
錐体細胞をin vitroにおいて主題のポリヌクレオチドカセットまたは主題のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターと接触させる場合、細胞は、任意の哺乳動物種、例えば、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、スナネズミ、リス)、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、霊長類、ヒトに由来するものであってよい。細胞は、樹立細胞株、例えば、WERI細胞、661W細胞に由来するものであってもよく、初代細胞であってもよく、「初代細胞」、「初代細胞株」、および「初代培養物」は、本明細書では互換的に使用され、被験体から引き出され、in vitroにおいて限られた数の培養物の継代、すなわち分割にわたって成長させた細胞および細胞培養物を指す。例えば、初代培養物は、0回、1回、2回、4回、5回、10回、または15回、しかし転換期(crisis stage)を経るには不十分な回数にわたって継代された培養物である。典型的には、本発明の初代細胞株は、in vitroにおいて10回の継代未満にわたって維持されるものである。
【0131】
細胞が初代細胞である場合、任意の都合のよい方法、例えば、全外植(whole explant)、生検などによって哺乳動物から採取することができる。採取された細胞を分散または懸濁させるために、適切な溶液を使用することができる。そのような溶液は、一般に、低濃度、一般に、5~25mMの許容される緩衝液と併せた、ウシ胎仔血清または他の天然に存在する因子を都合よく補充した、平衡塩類溶液、例えば、ノーマルセーライン、PBS、ハンクス平衡塩類溶液などになる。都合のよい緩衝液としては、HEPES、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などが挙げられる。細胞はすぐに使用することもでき、長期間にわたって保管、凍結することができ、解凍し、再使用することができる。そのような場合では、細胞を、通常、10%DMSO、50%血清、40%緩衝培地、または当技術分野で一般に使用されるものと同様のいくつかの他のそのような溶液中に凍結して細胞をそのような凍結温度で保存し、凍結させた培養細胞を解凍するための当技術分野で公知の様式で解凍する。
【0132】
導入遺伝子の発現を促進するために、主題のポリヌクレオチドカセットまたは主題のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターを細胞と約30分~24時間またはそれ超、例えば、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、18時間、20時間、24時間などにわたって接触させる。主題のポリヌクレオチドカセットまたは主題のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターは、主題の細胞に、1回または複数回、例えば、1回、2回、3回、または4回以上もたらすことができ、各接触事象の後いくらかの時間、例えば16~24時間にわたって細胞が薬剤と一緒にインキュベートされ、その後、培地を新鮮な培地と交換し、細胞をさらに培養する。細胞を接触させることは、細胞の生存が促進される任意の培養培地で、かつ任意の培養条件下で行うことができる。例えば、細胞を、ウシ胎仔血清または熱失活ヤギ血清(約5~10%)、L-グルタミン、チオール、特に2-メルカプトエタノール、および抗生物質、例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したイスコフ改変DMEMまたはRPMI 1640などの都合のよい任意の適切な栄養培地中に懸濁させることができる。培養物は、細胞が応答する増殖因子を含有してよい。本明細書で定義されている増殖因子は、培養物中またはインタクトな組織内のいずれかで、膜貫通受容体に対する特異的な効果を通じて細胞の生存、成長および/または分化を促進することが可能な分子である。増殖因子はポリペプチドおよび非ポリペプチド因子を含む。
【0133】
典型的には、細胞における導入遺伝子の発現を生じさせるために、有効量の主題のポリヌクレオチドカセットまたは主題のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターが提供される。本明細書の他の箇所で考察されている通り、有効量は、例えば、導入遺伝子遺伝子産物の存在またはレベルを検出することによって、錐体細胞の生存能力または機能に対する効果を検出することなどによって、経験的に容易に決定することができる。典型的には、効果量の主題のポリヌクレオチドカセットまたは主題のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターにより、同じ量の、当技術分野で公知のポリヌクレオチドカセット、例えば、pR2.1(配列番号50のヌクレオチド1~2274)、pR1.7、pR1.5、pR1.1、またはIRBP/GNAT2カセットよりも大きな、錐体細胞における導入遺伝子の発現が促進される。典型的には、発現は、例えば、当技術分野で公知の参照または対照ポリヌクレオチドカセットからの発現よりも2倍またはそれ超、例えば、3倍、4倍、または5倍もしくはそれ超、いくつかの場合には10倍、20倍または50倍またはそれ超、例えば、100倍増強される。
【0134】
導入遺伝子が選択マーカーである一部の実施形態では、細胞の集団を、改変された細胞を残りの集団から分離することにより、主題のポリヌクレオチドカセットを含むものについて濃縮することができる。分離は、使用される選択マーカーに適した任意の都合のよい分離技法によって行うことができる。例えば、導入遺伝子が蛍光マーカーである場合には、蛍光活性化細胞選別によって細胞を分離することができ、導入遺伝子が細胞表面マーカーである場合には、アフィニティー分離技法、例えば、磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、固体マトリックスに付着させた親和性試薬を用いた「パニング(panning)」、または他の都合のよい技法によって細胞を不均質な集団から分離することができる。正確な分離をもたらす技法としては、例えば多色チャネル、小角および鈍角光散乱検出チャネル、インピーダンスチャネルなどの様々な程度の精巧さを有し得る蛍光細胞分析分離装置が挙げられる。死細胞に関連する色素(例えば、ヨウ化プロピジウム)を用いることにより、死細胞に対して細胞を選択することができる。細胞の生存能力に対して過度に有害ではない任意の技法を用いることができる。主題のポリヌクレオチドを含む細胞について高度に濃縮された細胞組成物はこのように達成される。「高度に濃縮された」とは、遺伝子改変された細胞が、細胞組成物の70%もしくはそれ超、75%もしくはそれ超、80%もしくはそれ超、85%もしくはそれ超、90%もしくはそれ超、例えば、細胞組成物の約95%もしくはそれ超、または98%もしくはそれ超になることを意味する。言い換えれば、組成物は、遺伝子改変された細胞の実質的に純粋な組成物であってよい。
【0135】
錐体細胞をin vivoにおいて主題のポリヌクレオチドカセットまたは主題のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターと接触させる場合、被験体は、任意の哺乳動物、例えば、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、スナネズミ)、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、または霊長類であってよい。ある特定の実施形態では、被験体は、狭鼻小目(Parvorder Catarrhini)の霊長類である。当技術分野で公知の通り、Catarrhiniは、高等霊長類の2つの下位区分の一方であり(もう一方は新世界ザル)、旧世界ザルおよび類人猿を含み、それらが今度はさらに小型類人猿またはテナガザルと、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボ、およびヒトからなる大型類人猿とに分けられる。さらに好ましい実施形態では、霊長類は、ヒトである。
【0136】
主題の組成物は、任意の適切な方法によって被験体の網膜に投与することができる。例えば、主題の組成物は、硝子体内注射または網膜下注射によって眼内に投与することができる。硝子体内注射によってまたは網膜下注射によってベクターを送達するための一般的な方法は、以下の簡単な概略によって例示することができる。これらの実施例は、ただ単に方法のある特定の特徴を例示するものであり、決して限定するものではない。
【0137】
網膜下投与については、ベクターを、手術用顕微鏡を使用した直接観察下で網膜下に注射される懸濁物の形態で送達することができる。典型的には、1~200μL、例えば、50μL、100μL、150μL、または200μLであるが、通常は200μL以下の体積の主題の組成物をそのような方法によって投与する。この手順は、硝子体切除、その後の、ベクター懸濁物を細いカニューレを使用して1つまたは複数の小さな網膜切開部を通して網膜下腔に注射することを伴い得る。簡単に述べると、手術全体を通して、注入カニューレを定位置で縫合して、(例えば、食塩水の)注入によって正常な眼球体積を維持することができる。硝子体切除術は、適切なボアサイズ(例えば、20~27ゲージ)のカニューレを使用して実施し、取り出した硝子体ゲルの体積を、注入カニューレからの食塩水または他の等張性溶液の注入によって置き換える。硝子体切除は、(1)その皮質(後部硝子体膜)の除去により、カニューレの網膜への侵入が容易になること;(2)その除去および流体(例えば、食塩水)での置き換えにより、ベクターの眼内注射を適応させるための空間が創出されること、および(3)その制御された除去により、網膜裂孔および予定外の網膜剥離の可能性が低下することから、有利に実施される。
【0138】
硝子体内投与については、ベクターを懸濁物の形態で送達することができる。最初に、眼の表面に局所麻酔薬を適用し、その後、局所消毒溶液を適用する。器械使用を伴ってまたは伴わずに眼を開いたまま保持し、直接観察下で、短い、細い、例えば、30ゲージの針を用いて強膜を通して被験体の眼の硝子体腔内にベクターを注射する。典型的には、1~100μL、例えば、25μL、50μL、または100μL、通常は100μL以下の体積の主題の組成物を、硝子体を除去せずに硝子体内注射によって眼に送達することができる。あるいは、硝子体切除を実施することができ、硝子体ゲルの全体積を主題の組成物の注入によって置き換える。そのような場合では、約4mLまでの主題の組成物を、例えば、ヒト眼に送達することができる。硝子体内投与は、一般に、耐容性がよい。手順の終わりに、時には注射部位に軽度の発赤が生じる。時々圧痛が生じるが、大多数の患者ではいかなる疼痛も報告されていない。この手順後には眼帯も眼球保護帯も必要なく、また、活動は制限されない。時には、感染の防止を補助するために抗生物質点眼剤が数日間処方される。
【0139】
本開示の方法および組成物は、少なくとも一部において、錐体光受容体細胞の遺伝子療法によって対処することが可能な任意の状態の治療において使用される。したがって、本開示の組成物および方法は、錐体細胞療法を必要とする個体の治療において使用される。錐体細胞療法を必要とする人とは、錐体細胞障害を有するまたはそれが発生するリスクがある個体を意味する。「錐体細胞障害」とは、これだけに限定されないが、錐体細胞内の欠陥に関連する眼の視覚障害、すなわち、錐体に固有の欠陥、例えば、スタルガルト黄斑ジストロフィー、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、脊髄小脳失調症7型、およびバルデー・ビードル症候群-1などの黄斑ジストロフィー;ならびに1色覚、不完全1色覚、青錐体1色覚、および1型色覚、2型色覚、および3型色覚を含めた色覚障害;ならびに錐体細胞を標的とすることによって治療することができる中心黄斑の視覚障害(霊長類)、例えば、加齢黄斑変性症、黄斑部毛細血管拡張症、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底変性症、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、杆体-錐体ジストロフィー、レーバー先天性黒内障、およびX連鎖性網膜分離症を含めた、網膜錐体細胞に影響を及ぼすあらゆる障害を意味する。
【0140】
スタルガルト黄斑ジストロフィー。スタルガルト黄斑ジストロフィーは、スタルガルト病および黄色斑眼底としても公知であり、通常は法的盲まで進行する視力喪失を引き起こす、若年性黄斑変性症の遺伝性の形態である。症状の発症は、通常、6歳から30歳の間だと思われる(平均約16歳~18歳)。ABCA4、CNGB3、ELOVL4、PROM1を含めたいくつかの遺伝子の変異がこの障害に関連する。症状は、典型的には20歳までに発生し、それらとして、不安定な視覚、盲点、かすみ目(blurriness)、色覚が損なわれること、および薄暗い照明への適応困難が挙げられる。スタルガルト病の主要な症状は、20/50から20/200までにわたる視力の喪失である。さらに、スタルガルト病を有する者は、グレアに対して感受性であり、曇った日にはいくらかの軽減がもたらされる。黄斑が損傷を受けると視覚が最も顕著に損なわれ、これは眼底検査によって観察することができる。
【0141】
錐体ジストロフィー。錐体ジストロフィー(COD)は、錐体細胞の喪失を特徴とする遺伝性の眼の障害である。錐体ジストロフィーの最も一般的な症状は、視力喪失(発症年齢は10代後半から60代までにわたる)、明るい光に対する感受性、および不十分な色覚である。視力は、通常は徐々に悪化するが、20/200まで急速に悪化する可能性があり、後に、より重症の場合には、「指数弁」視覚にまで急降下する。色検査表(HRRシリーズ)を使用した色覚検査では、赤色-緑色表と青色-黄色表の両方に関して多くの誤りが明らかとなる。ジストロフィーは、錐体機能の主観的なおよび客観的な異常が検眼鏡検査での変化の前に見られ得るので、一次的なものであると考えられている。しかし、網膜色素上皮(RPE)が急速に関与し始め、主に黄斑が関与する網膜ジストロフィーが生じる。検眼鏡による眼底検査では、錐体ジストロフィーの早期には基本的に正常であり、明確な黄斑の変化は、通常、視力喪失後によく起こる。検眼鏡検査の間に見られる黄斑病変の最も一般的な型は標的状の外観を有し、中心の暗い領域の周囲の萎縮性色素上皮のドーナツ様帯域からなる。別の、より頻度の低い錐体ジストロフィーの形態では、そうではなく、後極の萎縮が拡散し、斑状色素が黄斑の領域に凝集する。まれに、脈絡毛細管板およびより大きな脈絡膜血管の萎縮が患者において早い段階で見られる。微細すぎて検眼鏡では見ることができない網膜中の早期の変化を検出することができるので、蛍光眼底血管造影(FA)は、錐体ジストロフィーを有することが疑われる人の精密検査において有用な補助法である。眼底の変化が広範であり、早い段階での診断が難しいために、網膜電図(ERG)が未だに診断をなすための最良の検査である。ERGにおける異常な錐体機能は、検査を明るい部屋で行った場合に(明所視ERG)シングルフラッシュおよびフリッカー応答(single-flash and flicker response)の低下によって示される。GUCA1A、PDE6C、PDE6H、およびRPGRを含めたいくつかの遺伝子の変異がこの障害に関連付けられる。
【0142】
錐体杆体ジストロフィー。錐体杆体ジストロフィー(CRD、またはCORD)は、色素性網膜症の群に属する遺伝性の網膜ジストロフィーである。CRDは、黄斑の領域に主に局在する、眼底検査において目に見える網膜色素沈着、および錐体細胞と杆体細胞の両方の減少を特徴とする。一次的な杆体光受容体の減少、およびその後に続く二次的な錐体光受容体の減少によって生じる杆体錐体ジストロフィー(RCD)とは対照的に、CRDは、逆の順序の事象を反映する:最初に錐体が関与する、または、時には、錐体と杆体の両方が同時に失われる。症状としては、視力の低下、色覚異常、光嫌悪(photoaversion)および中心視野の感受性の低下、その後に続く進行性の周辺視覚の喪失、および夜盲症が挙げられる。ADAM9、PCDH21、CRX、GUCY2D、PITPNM3、PROM1、PRPH2、RAX2、RIMS1、RPGR、およびRPGRIP1を含めたいくつかの遺伝子における変異がこの障害に関連付けられる。
【0143】
脊髄小脳失調症7型。脊髄小脳失調症は、ゆっくりと進行する歩行の協調不能を特徴とし、多くの場合、手、発話、および眼球運動の協調不良が付随する進行性変性遺伝性疾患である。SCAには多数の型が存在し、脊髄小脳失調症7型(SCA-7)は、他の大多数のSCAとは、協調不良に加えて視覚的な問題が起こり得るという点で異なる。SCA-7は、ATXN7/SCA7遺伝子における常染色体優性変異に関連付けられる。疾患が40歳より前に症状発現した場合、典型的には、協調不良ではなく視覚的な問題が疾患の最も早い徴候である。初期の症状としては、色の区別が困難であることおよび中心視覚の低下が挙げられる。さらに、運動失調の症状(協調不能、眼球運動が遅いこと、および感覚または反射の軽度の変化)が検出可能であり得る。疾患が進行するにつれて運動制御の喪失、不明な発話、および嚥下困難が顕著になる。
【0144】
バルデー・ビードル症候群-1。バルデー・ビードル症候群-1(BBS-1)は、家族内および家族間で観察される様々な表現度および広範囲の臨床的変動性が伴う多面的な障害である。主要な臨床的特徴は、夜盲症が先行する小児発症視力喪失を伴う杆体錐体ジストロフィー;軸後多指症;乳児期の間に症状発現し、成人期全体を通して問題があるままである体幹肥満;全てではないが一部の個体における特定の学習困難;男性性器発育不全症および複合女性尿生殖器奇形;ならびに罹患率および死亡率の主要な原因である腎機能障害である。視力喪失がバルデー・ビードル症候群の主要な特徴の1つである。夜間の視覚に関する問題が小児期の半ばまでに明白になり、その後、周辺視覚に盲点が発生する。時間をわたって、これらの盲点は拡大し、併合して管状視野が生じる。バルデー・ビードル症候群を有する大多数の人では、中心視覚のかすみ(不十分な視力)も発生し、青年期または成人期の初めまでに法的盲になる。バルデー・ビードル症候群は、線毛機能において決定的な役割を果たすことが公知であるまたは疑わしい少なくとも14種の異なる遺伝子(多くの場合、BBS遺伝子と称される)における変異によって生じ得、BBS1およびBBS10における変異が最も一般的である。
【0145】
1色覚。1色覚、または杆体1色覚は、被験体の色の知覚が完全に欠如し、したがって、被験体には黒色、白色、および灰色の色合いのみしか見えないという障害である。他の症状としては、視力の低下、羞明、眼振、小さな中心暗点、および偏心固視が挙げられる。この障害は、最初に生後約6カ月の小児において、それらの羞明活性および/またはそれらの眼振によって認められる頻度が高い。視力および眼の動きの安定性は、一般に、生後6~7年の間に改善される(しかし20/200近くのままである)。CNGB3、CNGA3、GNAT2、PDE6C、およびPDE6HIにおける変異がこの障害に関連付けられている。
【0146】
不完全1色覚。不完全1色覚は、1色覚と同様であるが、浸透度が低い。不完全1色覚では、症状は、減弱した形態であること以外は完全な1色覚の症状と同様である。不完全1色覚を有する個体では視力が低下し、眼振または羞明が伴うまたは伴わない。さらに、これらの個体では、錐体細胞機能の部分的な機能障害のみが示されるが、再度杆体細胞機能は保持される。
【0147】
青錐体1色覚。青錐体(S錐体)1色覚(BCM)は、稀なX連鎖先天性定常錐体機能障害症候群であり、およそ100,000個体に1個体が罹患している。BCMに罹患している男性は、L-オプシン遺伝子およびM-オプシン遺伝子の遺伝子座における変異に起因して、網膜の機能的な長波長感受性(L)錐体または中波長感受性(M)錐体を有さない。出生時から色の識別が重度に損なわれ、視覚は、残りの保存されたS錐体および杆体光受容体に由来する。BCMでは、典型的には、視力の低下(6/24から6/60へ)、振子様眼振、羞明が示され、患者は多くの場合、近視を有する。杆体特異的であり最大の網膜電図(ERG)は、通常、明確な異常を示さず、30Hz錐体ERGは検出することができない。シングルフラッシュ明所視ERGは多くの場合、たとえ小さく遅くても記録可能であり、S錐体ERGは十分に保存される。
【0148】
色覚異常。色覚異常(CVD)、または色盲は、通常の照明条件下で色を見るまたは色の差異を知覚する能力がないことまたは能力が低下していることである。色盲に罹患している個体は、いくつもの色覚検査、例えば、カラーERG(cERG)、仮性同色表(石原表、ハーディ-ランド-リッター多色表(Hardy-Rand-Ritter polychromatic plate))、ファーンズワース・マンセル100ヒューテスト、ファーンズワースパネルD-15、シティユニバーシティテスト(City University test)、コリナールール(Kollner’s rule)などのいずれかを使用して同定することができる。色覚異常の例としては、1型色覚、2型色覚、および3型色覚が挙げられる。1型色覚は、1型2色覚(赤色光に対する非感受性)および1型3色覚(赤色光に対する感受性の低下)を含み、L-オプシン遺伝子(OPN1LW)における変異に関連付けられる。2型色覚は、2型2色覚(緑色光に対する非感受性)および2型3色覚(緑色光に対する感受性の低下)を含み、M-オプシン遺伝子(OPN1MW)における変異に関連付けられる。3型色覚は、3型2色覚(青色光に対する非感受性)および3型3色覚(青色光に対する感受性の低下)を含み、S-オプシン遺伝子(OPN1SW)における変異に関連付けられる。
【0149】
加齢黄斑変性症。加齢黄斑変性(AMD)は、50歳を超えた人の視力喪失の主な原因の1つである。AMDは、読書、運転、および顔の認識などの詳細な作業のために必要である中心視覚に主に影響を及ぼす。この状態における視力喪失は、黄斑における光受容体の段階的な劣化に起因する。側面(周辺)視覚および夜間視力は一般に影響を受けない。
【0150】
研究者は、乾性、または「非滲出」型と、湿性、または「滲出」もしくは「新生血管」型として公知の加齢黄斑変性症の2つの主要な型について記載しており、これらはどちらも、主題のポリヌクレオチドカセットの状況で導入遺伝子を送達することによって治療することができる。
【0151】
乾性AMDは、網膜色素上皮と基礎をなす黄斑の脈絡膜との間にドルーゼンと称される黄色の沈着物が蓄積することを特徴とし、これは眼底写真によって観察することができる。これにより、ゆっくりと進行する視力喪失が生じる。この状態は、典型的には、両眼の視覚に影響を及ぼすが、視力喪失は、一方の眼で他方よりも前に起こることが多い。他の変化としては、色素変化およびRPE萎縮が挙げられる。例えば、ある場合では中心地図状萎縮、または「GA」と称される、網膜色素上皮の萎縮およびその後の眼の中心部における光受容体の喪失が観察される。乾性AMDは、CD59および補体カスケード内の遺伝子における変異に関連付けられている。
【0152】
湿性AMDは、乾性AMDが進行した状態であり、乾性AMD患者の約10%で起こる。病理学的変化としては、網膜色素上皮細胞(RPE)機能障害、RPE下の流体集合、および黄斑の領域における脈絡膜血管新生(CNV)が挙げられる。重症の場合、流体漏出、RPEまたは神経網膜脱離および破裂した血管からの出血が起こり得る。湿性AMDの症状としては、視覚的な歪み、例えば、直線が波状または湾曲して見えること、出入り口もしくは道路標識が一方に傾いて見えること、または目的物が実際よりも小さくまたは遠く見えることなど;中心視覚の低下;色の強度または輝度の低下;および視野内の明確に定義された霧視点(blurry spot)または盲点を挙げることができる。発症は突然であり得、急速に悪化する。診断には、被験体の中心視覚における欠陥を検査するためのアムスラーグリッド(黄斑変性症では、グリッド内の直線が消える、壊れる、または歪むということが引き起こされ得る)、血管または網膜の異常を観察するための蛍光眼底血管造影図、および網膜腫脹または漏出血管を検出するための光干渉断層撮影法の使用が含まれ得る。いくつもの細胞因子がCNVの発生に関係づけられており、それらとして、血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、色素上皮由来因子(PEDF)、低酸素症誘導性因子(HIF)、アンジオポエチン(Ang)、ならびに他のサイトカイン、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびその他が挙げられる。
【0153】
黄斑部毛細血管拡張症。黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)は、黄斑の傍中心窩の領域における病理学的に拡張した血管の形態(毛細血管拡張症)である。液体が満たされた嚢胞の発生に起因して、組織が劣化し、網膜の構造が瘢痕化し、それにより、光受容体細胞の栄養が損なわれ、視覚が恒久的に破壊される。MacTelには、1型および2型の2つの型が存在する。黄斑部毛細血管拡張症2型は、両側性疾患であり、その有病率は、40歳およびそれより年長の人において0.1%もの高さであることが最近示されている。生体顕微鏡により、網膜の透明度の低下、結晶性沈着、軽度に拡張した毛細血管、平滑化した細動脈、網膜色素プラーク、中心窩の萎縮、および新生血管複合体が示され得る。蛍光眼底血管造影により、初期相では末梢血管拡張性毛細血管が小窩に対して主に側頭側に示され、後期相では過蛍光が拡散する。高分解能光干渉断層撮影法(OCT)により、光受容体の内節と外節の境界の破壊、網膜の内側または外側のレベルでの低反射性腔、および後期における網膜の萎縮が示され得る。1型黄斑部毛細血管拡張症では、疾患は大抵、一方の眼で起こり、それにより2型と区別される。通常はMacTelによって全盲は引き起こされないが、一般に、10~20年かけて、読書および運転視覚に必要である中心視覚の喪失が引き起こされる。
【0154】
網膜色素変性症。網膜色素変性症(RP)は、中心視覚の喪失に至る可能性がある、進行性の周辺視覚の喪失および夜間視力の困難(夜盲症(nyctalopia))を特徴とする遺伝性障害の群である。RPの徴候および症状の提示は変動するが、古典的なものとして、夜盲症(nyctalopia)(夜盲症(night blindness)、RPの最も一般的で最も早い症状);視力喪失(通常は周辺であるが、進行した場合には、中心の視力喪失);および光視症(閃光を見ること)が挙げられる。RPは、多くの遺伝性疾患の集合であるので、身体的所見には著しい変動性が存在する。眼の検査には、視力および瞳孔反応の評価、ならびに前眼部の評価、網膜の評価、および眼底検査的評価が伴う。いくつかの場合には、RPは、症候群、例えば、聴力損失(アッシャー症候群、ワールデンブルグ症候群、アルポート症候群、レフサム病);カーンズ・セイヤー症候群(外眼筋麻痺、眼瞼下垂、心ブロック、および色素性網膜症);無ベータリポ蛋白血症(脂肪吸収不良、脂溶性ビタミン欠乏症、脊髄小脳変性症、および色素性網膜変性症);ムコ多糖症(例えば、ハーラー症候群、シャイエ症候群、サンフィリポ症候群);バルデー・ビードル症候群(多指症、体幹肥満、腎機能障害、低身長、および色素性網膜症);および神経セロイドリポフスチン沈着症(認知症、発作、および色素性網膜症;小児型はヤンスキー・ビールショースキー病として公知であり、若年型はフォークト・シュピールマイアー・バッテン病として公知であり、成体型はクーフス症状群として公知である)も付随する症候群の一態様である。網膜色素変性症は、最も一般的には、RHO、RP2、RPGR、RPGRIP1、PDE6A、PDE6B、MERTK、PRPH2、CNGB1、USH2A、ABCA4、BBS遺伝子における変異に関連付けられる。
【0155】
糖尿病性網膜症。糖尿病性網膜症(DR)は、糖尿病の合併症によって引き起こされる網膜に対する損傷であり、最終的には失明に至る可能性がある。理論に束縛されることを望むものではないが、高血糖に誘導される壁内の周皮細胞死および基底膜の肥厚により血管壁の機能不全が導かれると考えられる。これらの損傷により、血液網膜関門の形成が変化し、また、網膜血管がより浸透性になる。
【0156】
糖尿病性網膜症には、非増殖性糖尿病性網膜症(NPDR)、および増殖性糖尿病性網膜症(PDR)の2つのステージがある。非増殖性糖尿病性網膜症は、糖尿病性網膜症の第1のステージであり、眼底検査によって診断され、糖尿病と併存する。視覚が低下している場合では、蛍光眼底血管造影を行って眼の背部の血管および存在し得るあらゆる網膜虚血を可視化することができる。糖尿病を有する全ての人がNPDRを生じるリスクを有し、したがって、主題のベクターを用いた予防的治療の候補になる。増殖性糖尿病性網膜症は、糖尿病性網膜症の第2のステージであり、網膜の新血管形成、硝子体出血、および霧視を特徴とする。いくつかの場合には、血管結合組織増殖により、牽引性網膜剥離が引き起こされる。いくつかの場合には、前房隅角への血管の成長も起こる可能性があり、血管新生緑内障が引き起こされる。NPDRを有する個体は、PDRが発生するリスクが高く、したがって、主題のベクターを用いた予防的治療の候補になる。
【0157】
糖尿病黄斑浮腫。糖尿病黄斑浮腫(DME)は、糖尿病を少なくとも20年にわたって有している患者のほぼ30%に罹患する、進行した、視覚が限定される、糖尿病性網膜症の合併症であり、DRに起因する視力喪失の大半の原因となっている。DMEは、血漿構成要素の周囲の網膜への漏出、その結果としての網膜浮腫を引き起こす、血液網膜関門を損傷する網膜の微小血管の変化から生じる。理論に束縛されることを望むものではないが、高血糖、細胞シグナル伝達経路の持続的な変更、および白血球媒介性傷害を伴う慢性微小血管炎症により、慢性の網膜微小血管の損傷が導かれ、それにより、VEGFの眼内レベルの上昇が誘発され、今度はそれにより、脈管構造の浸透性が上昇すると考えられる。
【0158】
DMEが発生するリスクがある患者としては、長時間にわたって糖尿病を有している患者、および重症の高血圧症(高血圧)、体液貯留、低アルブミン血症、または高脂血症のうちの1つまたは複数が生じている患者が挙げられる。DMEの一般的な症状は、霧視、フローター、複視、および、状態を治療せずに進行させた場合の最終的な失明である。DMEは、眼底検査により、黄斑の中心の2乳頭径以内の網膜の肥厚として診断される。用いることができる他の方法としては、網膜の腫脹、嚢胞状浮腫、および漿液性網膜剥離を検出するための光干渉断層撮影法(OCT);限局性の漏出の領域と拡散した漏出の領域を区別し、場所を突き止め、それにより、浮腫を治療するためにレーザー光凝固を使用する場合にはレーザー光凝固の設置をガイドする蛍光眼底造影;および網膜における長期間にわたる変化を評価するために使用することができるカラー立体眼底撮影法が挙げられる。特に、黄斑浮腫の進行を追跡し、主題の医薬組成物の投与後のその治療を観察するために視力を測定することもできる。
【0159】
網膜静脈閉塞症。網膜静脈閉塞症(RVO)は、網膜から血液を流出させる循環の一部の遮断である。この遮断により、毛細血管にせき止める圧力が引き起こされる可能性があり、それにより、出血が導かれる可能性があり、また流体および血液の他の構成要素の漏出も導かれる可能性がある。
【0160】
緑内障。緑内障とは、多くの場合、眼内の流体圧力(眼圧)(IOP)の上昇が付随する視神経損傷をもたらす眼(ocular)(眼(eye))の障害の群を記載する用語である。この障害は、大まかに2つの主要なカテゴリー、「開放隅角」緑内障および「閉塞隅角」(または「隅角閉塞」)緑内障に分けられる。開放隅角緑内障は、米国における緑内障の症例の90%を占める。開放隅角緑内障は、無痛であり、急性発作がない。唯一の徴候は、徐々に進行する視野の喪失、および視神経の変化(眼底検査での陥凹/乳頭径比の上昇)である。閉塞隅角緑内障は、米国における緑内障の症例の10%未満を占めるが、他の国(特にアジア諸国)では緑内障の症例の半分にも及ぶ。閉塞隅角を有する患者の約10%で、突発性の眼の疼痛、光の周りに光ぼけが見えること、赤目、眼圧が非常に高いこと(>30mmHg)、悪心および嘔吐、突発的な視覚の低下、および瞳孔の固定された中間散大を特徴とする急性隅角閉塞発症が示される。また、いくつかの場合には、卵形瞳孔も付随する。DLK、NMDA、INOS、CASP-3、Bcl-2、またはBcl-xlによりコードされるタンパク質の活性を調節することにより、この状態を治療することができる。
【0161】
ソースビー眼底変性症。ソースビー眼底変性症は、TIMP3遺伝子における変異に関連付けられる常染色体優性の網膜疾患である。臨床的に、初期の、周辺中央(midperipheral)の、ドルーゼンおよび色覚異常が見いだされる。一部の患者は夜盲症を訴える。最も一般的に、示される症状は、治療不能な黄斑下血管新生に起因する、30代から40代で症状発現する突発性の視力喪失である。組織学的には、ブルッフ膜のレベルで厚さ30μmの物質を含有する集密的な脂質が蓄積する。
【0162】
卵黄様黄斑ジストロフィー。卵黄様黄斑ジストロフィーは、進行性の視力喪失を引き起こす可能性がある遺伝性眼障害である。卵黄様黄斑ジストロフィーは、黄斑の基礎をなす細胞における脂肪性の黄色色素(リポフスチン)の蓄積に関連する。時間をわたって、この物質の異常な蓄積により、明瞭な中心視覚のために重要な細胞が損傷を受ける可能性がある。結果として、この障害を有する人は、多くの場合、中心視覚を失い、視界がかすんだまたは歪んだものになる可能性がある。卵黄様黄斑ジストロフィーは、典型的には、側面(周辺)視覚にも夜間に見る能力にも影響を及ぼさない。
【0163】
研究者は、卵黄様黄斑ジストロフィーの、同様の特徴を有する2つの形態について記載している。早期発症型(ベスト病として公知)は、通常は小児期に生じ、症状の発症および視力喪失の重症度は広範に変動する。早期発症型は、VMD2/BEST1遺伝子における変異に関連付けられる。成人発症型(成人卵黄様黄斑ジストロフィー)は、遅く、通常は成人期半ばに始まり、時間をわたってゆっくりと悪化する視力喪失が引き起こされる傾向がある。成人発症型は、PRPH2遺伝子における変異に関連付けられている。卵黄様黄斑ジストロフィーの2つの形態は、それぞれ、眼検査の間に検出することができる黄斑の特徴的な変化を有する。
【0164】
杆体錐体ジストロフィー。杆体錐体ジストロフィーは、夜盲症および周辺視野の広がりの喪失が導かれる杆体機能障害が支配的な問題であるかまたは少なくとも錐体機能障害と同様の重症度で起こる、進行性疾患のファミリーである。網膜の周辺中央におけるスカラップ縁ラクナ萎縮(scallop-bordered lacunar atrophy)が見られる可能性がある。黄斑は、臨床検査によって軽度にのみ関与するが、網膜中心の薄化は全ての場合において見られる。色弱は、初期には軽症であり、通常はより重症になる。視野は中程度または重度に狭まるが、若年の個体では典型的な輪状暗点が存在する。周辺網膜は、「白色点」を含有し、多くの場合、白点状網膜炎において見られる網膜の変化と似ている。網膜色素変性症は、この定義に含まれる疾患の主な群であり、全体として、およそ3,500人に1人に罹患すると推定される。使用される分類基準に応じて、網膜色素変性症の全患者の約60~80%が、明快な網膜疾患の杆体錐体ジストロフィーのパターンを有し、他の症候性の形態を考慮に入れると、全ての網膜色素変性症の約50~60%が杆体錐体ジストロフィー非症候性カテゴリーに入る。
【0165】
レーバー先天性黒内障。レーバー先天性黒内障(LCA)は、典型的には、生後1年以内に明らかになる重症の網膜のジストロフィーである。通常は視覚機能が不十分であり、多くの場合、眼振、瞳孔応答が緩慢であるまたはほとんどないこと、羞明、高度の遠視、および円錐角膜を伴う。視力は20/400よりも良くなることはめったにない。特徴的な所見は、眼を突くこと、押すこと、およびこすることを含むフランチェスケッティの眼指徴候である。眼底の外観は大きく変動する。網膜は、最初は正常に見えるが、小児期の後期には網膜色素変性症によく似ている色素性網膜症が頻繁に観察される。網膜電図(ERG)は、特徴的に「検出可能でない」または重度に亜正常である。17種の遺伝子における変異によりLCAが引き起こされることが公知である:GUCY2D(遺伝子座名:LCA1)、RPE65(LCA2)、SPATA7(LCA3)、AIPL1(LCA4)、LCA5(LCA5)、RPGRIP1(LCA6)、CRX(LCA7)、CRB1(LCA8)、NMNAT1(LCA9)、CEP290(LCA10)、IMPDH1(LCA11)、RD3(LCA12)、RDH12(LCA13)、LRAT(LCA14)、TULP1(LCA15)、KCNJ13(LCA16)、およびIQCB1。総合して、これらの遺伝子における変異が、全LCA診断の半分超の原因であることが推定される。LCAに関する少なくとも1種の他の疾患遺伝子座が報告されているが、遺伝子は分かっていない。
【0166】
X連鎖性網膜分離症。X連鎖性網膜分離症(XLRS)は、対称的な両側性の黄斑の関与を特徴とし、生後10年以内、いくつかの場合には、生後3カ月の早さで発症する。眼底検査により、時には車輪のスポークパターンの陥凹が生じる、黄斑におけるスキーシス(網膜の神経線維層の分裂)の領域が示される。主に下側頭への周辺網膜のスキーシスが個体のおよそ50%において起こる。罹患した男性は、典型的には、20/60~20/120の視覚を有する。視力は、多くの場合、10代および20代の間に劣化するが、その後、50代または60代まで比較的安定したままになる。X連鎖若年性網膜分離症の診断は、眼底所見、電気生理学的検査、および分子遺伝学的検査の結果に基づく。RS1は、X連鎖若年性網膜分離症に関連することが公知の唯一の遺伝子である。
【0167】
錐体細胞障害に罹患しているまたは錐体細胞障害が発生するリスクがある個体は、当技術分野で公知の通り、これだけに限定することなく、当業者に公知の、眼底撮影法;光干渉断層撮影法(OCT);補償光学(AO);網膜電図検査、例えば、ERG、カラーERG(cERG);仮性同色表(石原表、ハーディ-ランド-リッター多色表)、ファーンズワース・マンセル100ヒューテスト、ファーンズワースパネルD-15、シティユニバーシティテスト、コリナールールなどの色覚検査;ならびにETDRS文字検査(ETDRS letters test)、スネレン視力検査(Snellen visual acuity test)、視野検査、コントラスト感度検査などの視力検査などを含めた、障害の症状を検出するための技法を使用して容易に同定することができる。それに加えて、またはその代わりに、錐体細胞障害に罹患しているまたは錐体細胞障害が発生するリスクがある個体は、当技術分野で公知の通り、これだけに限定することなく、PCR、DNA配列解析、制限消化、サザンブロットハイブリダイゼーション、質量分析などを含めた、錐体細胞障害に関連する遺伝子変異を検出するための技法を使用して容易に同定することができる。一部の実施形態では、方法は、錐体細胞療法を必要とする個体を同定するステップを含む。そのような例では、例えば、本明細書に記載のまたは当技術分野で公知の症状を検出することによるもの、本明細書または当技術分野で公知の遺伝子の変異を検出することによるものなどの、個体が錐体細胞障害の症状を有するまたは錐体細胞障害が発生するリスクがあるかどうかを決定するための任意の都合のよい方法を利用して、錐体細胞療法を必要とする個体を同定することができる。
【0168】
本主題の方法の実施において、主題の組成物を、典型的には、被験体の網膜に、錐体細胞における導入遺伝子の発現をもたらすために有効な量で送達する。一部の実施形態では、方法は、錐体細胞における導入遺伝子の発現を検出するステップを含む。
【0169】
導入遺伝子の発現を検出するためのいくつものやり方が存在し、そのいずれも、主題の実施形態において使用することができる。例えば、発現は、直接、すなわち、遺伝子産物の量を、例えばRNAレベルで、例えばRT-PCR、ノーザンブロット、RNAse保護によって;または、タンパク質レベルで、例えばウエスタンブロット、ELISA、免疫組織化学的検査などによって測定することによって検出することができる。別の例として、発現は、間接的に、すなわち、被験体における錐体光受容体の生存能力または機能に対する遺伝子産物の影響を検出することによって検出することができる。例えば、導入遺伝子によりコードされる遺伝子産物により錐体細胞の生存能力が改善される場合、導入遺伝子の発現は、錐体細胞の生存能力の改善を、例えば、眼底撮影法、光干渉断層撮影法(OCT)、補償光学(AO)などによって検出することによって検出することができる。導入遺伝子によりコードされる遺伝子産物により錐体細胞の活性が変更される場合、導入遺伝子の発現は、錐体細胞の活性の変化を、例えば、送達されたポリヌクレオチドの存在を検出するやり方として、網膜電図(ERG)およびカラーERG(cERG);機能性補償光学;仮性同色表(石原表、ハーディ-ランド-リッター多色表)、ファーンズワース・マンセル100ヒューテスト、ファーンズワースパネルD-15、シティユニバーシティテスト、コリナールールなどの色覚検査;ならびにETDRS文字検査、スネレン視力検査、視野検査、コントラスト感度検査などの視力検査によって検出することによって検出することができる。いくつかの場合には、生存能力の改善と錐体細胞機能の改変の両方を検出することができる。
【0170】
一部の実施形態では、主題の方法により、治療的利益、例えば、障害の発生の防止、障害の進行の停止、障害の進行の逆転などがもたらされる。一部の実施形態では、主題の方法は、治療的利益が達成されたことを検出するステップを含む。当業者には、そのような治療的有効性の測定基準を改変される特定の疾患に適用可能であることが理解され、また、治療的有効性を測定するために使用する適切な検出方法が理解されよう。例えば、黄斑変性症の治療における治療的有効性は、黄斑変性症の速度の低下または黄斑変性症の進行の休止、例えば、眼底撮影法、OCT、またはAOにより、主題の組成物を投与した後の検査結果と主題の組成物を投与する前の検査結果を比較することによって観察され得る効果として観察することができる。別の例として、進行性の錐体機能障害の治療における治療的有効性は、錐体機能障害の進行の速度の低下として、錐体機能障害の進行の休止として、または錐体機能の改善として、例えば、ERGおよび/もしくはcERG;色覚検査;機能性補償光学;ならびに/または視力検査により、例えば主題の組成物を投与した後の検査結果と主題の組成物を投与する前の検査結果を比較し、錐体の生存能力および/または機能の変化を検出することによって観察することができる効果として観察することができる。第3の例として、色覚異常の治療における治療的有効性は、個体の色の知覚、例えば、赤色波長の知覚、緑色波長の知覚、青色波長の知覚の変更として、例えば、cERGおよび色覚検査により、例えば、主題の組成物を投与した後の検査結果を主題の組成物を投与する前の検査結果と比較し、錐体の生存能力および/または機能の変化を検出することによって観察することができる効果として観察することができる。
【0171】
主題の導入遺伝子を使用した導入遺伝子の発現は、ロバストであることが予想される。したがって、いくつかの場合には、例えば、遺伝子産物のレベルを測定することによって、治療的有効性を測定することなどによって検出される導入遺伝子の発現を、投与後2カ月またはそれ未満の時点で、例えば、投与後4週間、3週間または2週間またはそれ未満、例えば、主題の組成物の投与後1週間の時点で観察することができる。導入遺伝子の発現はまた、ある期間にわたって持続することも予測される。したがって、いくつかの場合には、例えば、遺伝子産物のレベルを測定することによって、治療的有効性を測定することなどによって検出される導入遺伝子の発現は、主題の組成物の投与後2カ月またはそれ超の時点で、例えば、4カ月、6カ月、8カ月、または10カ月またはそれ超、いくつかの場合には1年またはそれ超、例えば、2年、3年、4年、または5年、特定の例では、5年超の時点で観察することができる。
【0172】
ある特定の実施形態では、方法は、導入遺伝子の錐体細胞における発現を検出するステップを含み、発現は、本開示の1つまたは複数の改善されたエレメントを含まないポリヌクレオチドカセット、すなわち、参照対照、例えば、例えば、全開示が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第2013/0317091号に開示されているpR2.1プロモーターまたはその改変体(例えば、pR1.7、pR1.5、pR1.1など)、または米国特許出願第2014/0275231号に開示されている合成IRBP/GNAT2プロモーターからの発現と比較して増強されたものである。典型的には、発現は、参照、すなわち、例えば当技術分野で公知の対照ポリヌクレオチドカセットからの発現と比較して2倍またはそれ超、例えば、より早い検出、高レベルの遺伝子産物、細胞に対するより強力な機能的影響などによって証明される通り、例えば、3倍、4倍、または5倍またはそれ超、いくつかの場合には、10倍、20倍または50倍またはそれ超、例えば、100倍増強される。
【0173】
典型的には、主題の組成物が本開示の主題のポリヌクレオチドカセットを含むrAAVである場合、変化を達成するための有効量は、ベクターゲノム約1×10個またはそれ超、いくつかの場合には、ベクターゲノム1×10個、1×1010個、1×1011個、1×1012個、または1×1013個またはそれ超、特定の例では、ベクターゲノム1×1014個またはそれ超、および通常はベクターゲノム1×1015個以下になる。いくつかの場合には、送達されるベクターゲノムの量は、最大でベクターゲノム約1×1015個、例えば、ベクターゲノム1×1014個またはそれ未満、例えば、ベクターゲノム1×1013個、1×1012個、1×1011個、1×1010個、または1×10個もしくはそれ未満、特定の例では、ベクターゲノム1×10個、典型的には、ベクターゲノム1×10個以上である。いくつかの場合には、送達されるベクターゲノムの量は、ベクターゲノム1×1010個~1×1011個である。いくつかの場合には、送達されるベクターゲノムの量は、ベクターゲノム1×1010個~3×1012個である。いくつかの場合には、送達されるベクターゲノムの量は、ベクターゲノム1×10個~3×1013個である。いくつかの場合には、送達されるベクターゲノムの量は、ベクターゲノム1×10個~3×1014個である。
【0174】
いくつかの場合には、投与される医薬組成物の量は、感染多重度(MOI)を使用して測定することができる。いくつかの場合には、MOIは、核酸を送達することができる細胞に対するベクターまたはウイルスのゲノムの比または倍率を指し得る。いくつかの場合には、MOIは、1×10であり得る。いくつかの場合には、MOIは、1×10~1×10であり得る。いくつかの場合には、MOIは、1×10~1×10であり得る。いくつかの場合には、本開示の組換えウイルスのMOIは、少なくとも約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、および1×1018である。いくつかの場合には、本開示の組換えウイルスのMOIは、1×10~3×1014である。いくつかの場合には、本開示の組換えウイルスのMOIは、最大で約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、および1×1018である。
【0175】
一部の態様では、医薬組成物の量は、組換えウイルスの粒子約1×10~約1×1015個、組換えウイルスの粒子約1×10~約1×1014個、組換えウイルスの粒子約1×1010~約1×1013個、または組換えウイルスの粒子約1×1011~約3×1012個を含む。
【0176】
個々の用量は、典型的には、被験体に対する測定可能な効果を生じさせるために必要な量以上であり、主題の組成物またはその副産物の吸収、分布、代謝、および排出(「ADME」)に関する薬物動態学および薬理学に基づいて、したがって、被験体内の組成物の処分(disposition)に基づいて決定することができる。これには、投与経路ならびに投薬量の考察が含まれ、これは、網膜下への適用(主に局部的な効果のために、作用が望まれる場所に直接適用する)、硝子体内への適用(汎網膜効果のために、硝子体内に適用する)、または非経口的適用(全身経路、例えば、静脈内、筋肉内などによって適用する)のために調整することができる。用量および/または投薬レジメンの有効量は、前臨床アッセイから、安全性および漸増および用量範囲試験、個々の臨床医-患者関係、ならびに本明細書に記載されており、以下の実験の節で例示されているものなどのin
vitroアッセイおよびin vivoアッセイから、経験的に容易に決定することができる。
【0177】
本明細書において参照されている、かつ/または本出願データシートに列挙されている上記の全ての米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0178】
前述のことから、本明細書には例示のために本発明の特定の実施形態が記載されているが、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく種々の改変が成され得る。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲以外には限定されないことが理解されよう。
【実施例0179】
以下の実施例は、本発明をどのように作製し、使用するかについての全開示および記載を当業者に提供するために提示され、本発明者らが自身の発明とみなすものの範囲を限定するものでもなく、以下の実験が、実施した全ての実験または唯一の実験であることを表すものでもない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関しては正確さを確実にするための試みが行われているが、いくらかの実験的な誤差および偏差が考慮されるべきである。別段の指定のない限り、部分は重量による部分であり、分子量は、重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は、大気圧または大気圧付近の圧力である。
【0180】
分子および細胞生化学における一般的な方法は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版(Sambrookら、HaRBor Laboratory Press 2001年);Short Protocols in Molecular Biology、第4版(Ausubelら編、John Wiley & Sons 1999年);Protein Methods(Bollagら、John Wiley & Sons 1996年);Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagnerら編、Academic Press 1999年);Viral Vectors(Kaplift & Loewy編、Academic Press 1995年);Immunology Methods Manual(I. Lefkovits編、Academic Press 1997年);およびCell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology(Doyle & Griffiths、John Wiley & Sons 1998年)などの標準の教本に見いだすことができる。本開示において言及される遺伝子操作用の試薬、クローニングベクター、およびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma-Aldrich、およびClonTechなどの商業的な供給業者から入手可能である。
【0181】
背景
錐体杆体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、スタルガルト黄斑ジストロフィー、および1色覚などの黄斑ジストロフィー;1型色覚、2型色覚、および3型色覚などの色覚障害;ならびに加齢黄斑変性症、黄斑部毛細血管拡張症、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底変性症、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、およびX連鎖性網膜分離症などの中心黄斑の視覚障害を含めた多くの錐体光受容体に関連する障害を治療するための新しい療法が必要とされている。これらの視覚障害は錐体光受容体の機能および/または生存能力の喪失に関連するので、これらの障害は、錐体光受容体に治療用遺伝子を送達して錐体の生存能力および機能をレスキューすることによって治療可能であり得ることが仮定される。
【0182】
そのために、錐体特異的発現のためにエンハンサー、プロモーター、5’UTR、イントロン、コザック、およびポリアデニル化配列が設計されたポリヌクレオチドカセット「pMNTC」を設計した(図10a)。カセットには、L-オプシンゲノム遺伝子座およびM-オプシンゲノム遺伝子座由来のLCRエンハンサー配列、ならびに転写開始部位の上流の約140ヌクレオチドを含むM-オプシン遺伝子由来の短縮型プロモーター配列を含めた。さらに、カセットには、M-オプシン5’UTRに基づくが、最小の二次構造を有するように(図3を参照されたい)、および3’末端においてイントロンが挿入された追加的な配列を含むように改変した5’非翻訳領域(5’UTR)を含めた。使用したイントロン配列は、ヒトβ-グロビン遺伝子および枝の第1のイントロン由来の5’ドナー部位と、免疫グロブリン遺伝子重鎖可変領域のリーダーと本体との間にあるイントロン由来の3’アクセプター部位とを有するpSIキメライントロンであった(Bothwell, A.L.ら(1981年)Heavy chain variable region contribution to the NPb family of antibodies: Somatic mutation evident in a gamma 2a variable region. Cell 24巻、625~37頁)。ドナー部位およびアクセプター部位の配列は、枝分かれ部位と共に、スプライシングのコンセンサス配列に適合するように変化させた(Senapathy, P.、Shapiro, M.B.およびHarris, N.L.(1990年)Meth. Enzymol. 183巻、252~78頁)。pMNTC ポリヌクレオチドカセットには、強力なコザック配列およびSV40ポリアデニル化配列も含めた。
【0183】
導入遺伝子を錐体細胞に送達するための最良のAAVを同定するための実験も実施した。遺伝子療法を目的とした、網膜の細胞へのポリヌクレオチドの成功裏の送達は、AAVおよびレンチウイルスなどのウイルスベクターを使用して達成されている。しかし、これらのウイルスは、非ヒト霊長類(NHP)網膜の細胞に到達させるためには網膜下に注射しなければならず、この手順には網膜損傷のリスクがある。より破壊的でない手法は、硝子体内注射による投与である。しかし、AAVまたはレンチウイルスを硝子体内送達した後の錐体光受容体の効率的な形質導入は実証されたことがない:網膜錐体細胞を高効率で形質導入する能力を有するAAVに関する報告が存在する(Meriganら、IOVS 2008年、49 E-abstract4514)一方、後の報告では、これらのベクターの有効性が疑問視されている(Yinら、IOVS 2011年、52巻(5号):2775~2783頁)。
【0184】
結果
AAV2の定向進化により、野生型AAV2よりも良好に光受容体に形質導入することが可能なウイルス改変体「7m8」の同定が導かれた(DalkaraらSci Transl Med 2013年)。しかし、網膜は、杆体と錐体の2つの型の光受容体を含有し、AAV2-7m8により錐体光受容体それ自体に、およびより詳細には、窩の高度に錐体が豊富な領域内の錐体光受容体に形質導入することが可能かどうかを実証した報告は存在しない。この可能性を試験するために、本発明者らは、GFPに作動可能に連結した遍在するプロモーターCMVの発現カセットを有するAAV2-7m8をアフリカミドリザルの網膜に硝子体内注射によって送達した。硝子体内に送達されたAAV2-7m8.CMV.GFPにより、霊長類の中心窩(中心窩の中心にある直径0.35mmの杆体が存在しない網膜の領域)および傍中心窩(凹部の縁)内の網膜細胞への形質導入が、硝子体内に送達されたAAV2または網膜細胞への形質導入が当技術分野において以前示されている他のAAV改変体よりも効率的になされると思われた。AAV2-7m8によっても試験した他のAAVによっても、霊長類窩の錐体、小窩を取り囲み、窩の傾きを形成する直径1.5mmの錐体が豊富な網膜の領域への形質導入はできないと思われた(図5)。
【0185】
本発明者らは、次に、GFPに作動可能に連結したpMNTCを含むゲノムをAAV2-7m8カプシド内にパッケージングし、このベクター組成物の、硝子体内に注射された際にin vivoで錐体細胞においてGFP導入遺伝子を発現させる能力を評価した。いくつもの種において、マウス(3%錐体)、ラット(1%錐体)、スナネズミ(13%錐体)、および非ヒト霊長類(5%錐体)を含めた全光受容体の間で様々な数の網膜錐体細胞を用いて発現を評価した。図5の本発明者らの結果に反して、非ヒト霊長類の窩全体を通して強力な遺伝子発現を検出することができた(図6)。これらのデータから、硝子体内に送達されたAAV2-7m8により、実際、網膜の錐体への形質導入が可能であること、および、pMNTCが錐体細胞においてロバストな発現カセットとして作用することが示される。ラット(データは示していない)およびスナネズミ(図8A)の硝子体内に注射した網膜においてもロバストなレポーター遺伝子発現が見られ、全ての種において、発現レベルおよび解剖学的位置は錐体の存在量および位置と相関した。
【0186】
pMNTC誘導性発現の細胞特異性を決定するために、形質導入されたマウス網膜の全組織標本(whole mount)を、錐体LオプシンおよびMオプシンに対して特異的である抗体を使用して免疫組織化学的検査によって分析した。錐体光受容体の外節のみを標識するL/Mオプシンの発現が、AAV2-7m8.MNTC.GFPベクターからGFPが発現したマウス網膜の錐体の事実上全てで観察され(図7)、これにより、導入遺伝子のMNTC誘導性発現が高度に錐体特異的であることが示される。さらに、L/Mオプシン特異的抗体により標識された錐体の外節の80%またはそれ超でもGFP導入遺伝子が発現し、これにより、AAV2-7m8により錐体への形質導入が高度に効率的になされることが示される(図7)。
【0187】
次に本発明者らは、pMNTCの錐体細胞における発現を促進する能力と、pR2.1の錐体細胞における発現を促進する能力を比較した。pR2.1は、ヒトL/Mオプシンエンハンサー(「LCR」)およびヒトL-オプシン遺伝子由来のプロモーター領域を含む。さらに、pR2.1は、その3’末端で追加的な5’UTR配列と融合したL-オプシン5’UTRを含み、改変SV40後期16sイントロン配列が挿入されている。この後にL-オプシンコザック配列が続き、次いでこれが典型的には導入遺伝子とインフレームで連結している。カセットの最後はSV40ポリA尾部である。
【0188】
AAV2-7m8.MNTC.GFPおよびAAV2-7m8.pR2.1.GFPのウイルス調製物をin vivoでスナネズミおよび非ヒト霊長類の網膜に硝子体内送達し、2週間後、4週間後、8週間後、および12週間後に眼底自己蛍光およびOCTによって網膜をin vivoでイメージングした。pMNTC.GFP発現カセットを有するrAAVで形質導入されたスナネズミ網膜では、pR2.1.GFP発現カセットを有するスナネズミ網膜と比較してGFPレポーター発現がより早く、より強力に、より多くの錐体において検出された(図8B)。同様に、pMNTC.GFP発現カセットを有するrAAVで形質導入された非ヒト霊長類網膜では、pR2.1発現カセットで形質導入されたNHP網膜と比較して、GFPレポーター発現がより早く、より多くの錐体において検出された(図9、n=4の眼)。スナネズミおよびNHPのどちらにおいても、試験期間全体を通して、GFPは、一貫して、pMNTCから、pR2.1からよりも強力であることが観察された。
【0189】
pMNTC発現カセット内のエレメントのそれぞれの、発現の全体的な改善に対する寄与を決定するために、pMNTC内のエレメントのそれぞれを1つずつpR2.1発現カセット由来の対応するエレメントで置換した一連の発現構築物をクローニングした。次いで、これらの構築物をAAV2-7m8にパッケージングし、硝子体内注射によってスナネズミ網膜に送達した。4週間後および8週間後にin vivoにおいて、眼全体にわたるレポーター発現の定量的な読み取りをもたらすin vivo生物発光(IVIS imaging system、PerkinElmer)によってスナネズミ網膜を評価した。
【0190】
予測通り、pMNTCの制御下でのルシフェラーゼレポーターの発現は、pR2.1の制御下でのルシフェラーゼレポーターの発現よりも高かった。pMNTCプロモーター配列を、それに対して最も高い配列相同性を有するpR2.1プロモーター配列(配列番号83)で置き換えることにより、発現が低下し(構築物pMNTC_pR2.1 L3’P)、同様に、pR2.1の5’UTRより遠位にあるpR2.1プロモーター配列(配列番号82)を含めた場合も発現が低下した(構築物pMNTC_pR2.1-L5’P)。また、pMNTC 5’UTRに、pR2.1 5’UTRにおいて観察される2つの偽の開始配列(「AUG1」および「AUG2」)を導入することによっても発現が低下した(構築物pMNTC_2.1-AUG1/2)。興味深いことに、pMNTC 5’UTRを、これらの偽の開始を除去した改変pR2.1 5’UTR配列(配列番号87、ヌクレオチド17をCに変化させ、nt61および62をCAに変化させた)で置き換えた場合には発現は低下せず(pMNTC_pR2.1-5’UTR)、これにより、pR2.1 5’UTRエレメント内に偽のAUGがなければ、pR2.1-5’UTRにより錐体細胞における強力な発現が促進されることが示唆される。同様に興味深いことに、pR2.1イントロン(配列番号59)により、pMNTCのpSIキメライントロンよりもロバストな発現がもたらされると思われ、これにより、本開示のポリヌクレオチドカセットにpR2.1イントロンを含めることを、錐体細胞における発現をさらに改善するために使用できることが示唆される。最後に、L/Mエンハンサー(pR2.1およびpMNTCのどちらにおいても見いだされる)を除去することによっても発現が低下した。ポリA尾部も最初は発現に対して有意な影響を及ぼすと思われたが、このpR2.1エレメントを含むpMNTC構築物の再配列決定により、ポリA尾部は導入遺伝子に作動可能に連結していないことが明らかになり、それにより、何故この構築物からはバックグラウンドレベルの発現しか観察されなかったのかが説明される。したがって、L/MオプシンLCR、LオプシンプロモーターではなくMオプシンコアプロモーターを含めること、および5’UTR内の偽の開始を排除することは全て、pMNTCプロモーターを使用して達成される遺伝子発現の増強に寄与する。
【0191】
結論として、本発明者らは、網膜の錐体に対するポリヌクレオチドの硝子体内送達のために使用することができる、GHループ内に7m8ペプチドを含むAAV改変体を同定した。同様に、本発明者らは、錐体光受容体における強力な発現を促進するために使用することができるいくつものポリヌクレオチドカセットエレメントを同定した。総合すると、これらの発見は、錐体に関連する障害に対する治療剤の開発を容易にすることができる改善を表すものである。
【0192】
材料および方法
in vitroでのWERI-RB-1細胞における導入遺伝子発現。ShaabanおよびDeeb、1998年;IOVS 39巻(6号)885~896頁に記載されている方法に従って、錐体光受容体色素細胞を発現するWERI-Rb-1網膜芽細胞腫細胞に、本開示のポリヌクレオチドカセットをトランスフェクトする。クローニング(Maniatisら)などの、分子生物学の十分に確立された技法を使用して、または新規のDNA合成により、ポリヌクレオチドカセットをプラスミドDNAとしてトランスフェクトする。全ての調節エレメントをカセット内に配置し、増強型GFPタンパク質を駆動するために使用する。次いで、非ウイルストランスフェクションに関する確立された技法を使用して、例えば、脂質に基づくトランスフェクション試薬(Altogen Biosystems、NV)またはリポフェクタミンLTX(Life Technologies)を使用してプラスミドDNAを細胞に導入する。次いで、細胞を72時間にわたって培養し、フローサイトメトリーおよび蛍光顕微鏡を使用してeGFP発現を測定する。本発明のポリヌクレオチドカセット(すなわち、錐体光受容体での発現のために設計した構築物)をトランスフェクトした細胞における導入遺伝子発現を、最適化されていない対応物(すなわち、pR2.1に基づくもの)と比較し、改善されたエレメントを有するカセットからのほうが強力であることが見いだされる。
【0193】
661W細胞などの、錐体オプシンを発現する他の哺乳動物の細胞株を使用したin vitroにおける発現も評価する(Tanら、IOVS 2004年;45巻(3号)764~768頁)。
【0194】
同様に、錐体光受容体に特異的なタンパク質を発現するように操作した非光受容体細胞株を使用したin vitroにおける発現を評価する。そのような系は、CRX/Sp1を発現するように遺伝子操作されたHEK293細胞を用いて記載されている(Khaniら、IOVS 2007年;48巻:3954頁)。生理的遺伝子(オプシン、ACHR遺伝子)だけでなくマーカー遺伝子も使用する(eGFP、dsRed、mCherry、ルシフェラーゼ)。生理的遺伝子を、mRNAレベル(例えば、RT-PCRによって)またはタンパク質レベル(例えば、ELISAまたはウエスタンブロットによって)を調査することによって試験する。
【0195】
動物飼育。全ての実験は、American Physiological SocietyおよびSociety for Neuroscienceにより採用された動物の飼育および使用に関する原理に合致し、Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認されたものであった。
【0196】
小動物試験。発現カセットのコード配列によりコードされる遺伝子産物の発現を、マウス、ラット、およびスナネズミにおいてin vivoで評価する。これは、発現カセットを含むrAAV調製物をin vivoで硝子体内注射することによって達成される(Liら、2008年;Mol Vis 48巻:332~338頁)。その代わりにプラスミドDNAの電気穿孔を実施することができることに留意されたい(Matsuda/Cepko)。
【0197】
マウス試験。この試験において使用したマウスはC57BL/6であった。動物をケタミン/キシラジンで麻酔した(110mg/kg、腹腔内)。試験物をローディングした斜端(beveled)34ゲージ使い捨て針を眼の硝子体に挿入し、体積1.5μl中rAAVのベクターゲノム5.04×1010個を硝子体内に注射した。
【0198】
スナネズミおよびラット試験。この試験ではスナネズミ(Meriones unguiculatus)およびブラウンノルウェーラットを使用した。10%フェニレフリンおよび0.5%トロピカミドを用いて瞳孔を散大させた。動物を、ケタミン/キシラジン溶液(ラットに対しては70mg/mLのケタミンおよび10mg/mLのキシラジン;スナネズミに対しては25mg/mLのケタミンおよび0.3mg/mLのキシラジン)0.1~0.2mLの腹腔内または筋肉内注射を用いて麻酔した。100μLのHamiltonシリンジ中に試験物をローディングした斜端34ゲージ使い捨て針を、縁から約1mmの最適化された上側頭点(superior-temporal point)において強膜を通して眼の硝子体に挿入した。体積5μL中試験物(2×1010vgのrAAV.GFP、または1.15×1010vgのrAAV.ルシフェラーゼ)のベクターゲノム1×1010~2×1010個を、微量注入ポンプを用いて硝子体内にゆっくりと注射し、その後、適切な試験物の分配を確実にするために、針の先端を注射された眼に注射位置で10秒間保持した。次いで、針を抜いた。
【0199】
非ヒト霊長類(NHP)試験。ポリヌクレオチドカセットおよび発現ベクターを大型動物においても試験する。これは、AAVを使用することによって、例えば、Mancusoらの技法を使用して行う。簡単に述べると、AAVカセットを作出し、発現カセットをカプシドで包むAAVを製造し、ウイルス調製物を非ヒト霊長類に、硝子体内(硝子体内に最大170μL)または網膜下(異なる位置に最大3回、100μLの注射;注射前に硝子体切除術を実施することができる)に注射する。レポーター(GFP)、カラーERG、および/または、ケンブリッジカラーテスト(Cambridge Color Test)を使用したまたは標的が視野に入った時にサッケード(眼球運動)を行うよう訓練した動物に対する行動検査によって発現を評価する。アイトラッカーを使用してサッケードをモニターする。治療前に、動物を、色覚検査を実施するためにまたは色の付いた標的を見た時にサッケードを行うように訓練する。ERGを実施して存在する錐体のスペクトル感度を推定する。色覚検査成績およびERGからのデータにより、動物が二色性色覚(色盲)であることの証拠がもたらされる。GFP遺伝子を有するベクターを受けた動物に関して、RetCam IIまたは同様のデバイスをGFPの励起を生じさせる光の下で用いた眼底イメージングを使用して発現をモニターする。動物の内在性色素と比較してスペクトル感度が異なる光色素遺伝子を受けた動物に関して、最大106の異なる網膜の位置においてスペクトル感度を測定するための多焦点カラーERGを使用して、および行動検査によって発現をモニターする。
【0200】
ヒヒを、10~15mg/kgのケタミン、その後セボフルラン(sevofluorane)を用いて鎮静させた。アフリカミドリザルを、5:1 ケタミン:キシラジンミックス(100mg/mlのケタミンおよび20mg/mlのキシラジンを0.2ml/kg)を筋肉内注射することで鎮静させた。局所的10%フェニレフリンを用いて散瞳を達成した。開瞼器を眼に設置して注射を容易にした。塩酸プロパラカイン0.5%、次いで5%ベタジン溶液の滴下を適用し、その後、滅菌食塩水ですすいだ。ヒヒ(図6)には、3.4×1013vgのrAAVの調製物60μlを硝子体内(ITV)注射して眼当たり2.02×1012vgの最終用量を得た。アフリカミドリザルには、1×1013のrAAVベクターの調製物50μLをITV注射して、眼当たり5×1011vgの最終用量を得た。外科的な拡大率の下で縁の約2.5mm後方の鋸状縁のレベルで下側頭に挿入した31ゲージ0.375インチの針(Terumo)を使用して中心硝子体へのITV注射を行って、眼球外および眼球内の針の配置の完全な可視化を可能にした。中心硝子体の位置を注射時に針の先端で直接観察することによって確認した。ITV注射の後に、局所的な三重抗生物質軟膏剤を投与した。
【0201】
細隙灯生体顕微鏡検査。各サルの眼の前眼部を、ベースラインスクリーニング中および注入後第4週(28日目)、第8週(56日目)および第12週(84日目)に細隙灯生体顕微鏡検査によって検査して炎症をモニターした。異常は観察されなかった。
【0202】
眼底検査および写真。ラットおよびスナネズミ網膜の眼検査および眼底撮影法を、Phoenix Micron IV眼底顕微鏡を使用して実施した。全ての動物に対してベースラインスクリーニング/写真撮影を行って、眼の健康を確認し、次いで、指定時点で写真撮影してGFP導入遺伝子の発現をモニターした。視神経および網膜に関するあらゆる変化または病変全体の外観をカラー眼底撮影法によって記録し、フルオレセインフィルターを用いた蛍光眼底イメージングを使用してGFPの発現を可視化した。
【0203】
NHPの網膜検査、眼底色および蛍光写真、ならびに自己蛍光OCTを、Topcon
TRC-50EX網膜カメラをCanon 6DデジタルイメージングハードウェアおよびNew Vision Fundus Image Analysis SystemソフトウェアおよびSpectralis OCT Plusと共に使用することよって実施した。全ての動物に対してベースラインイメージングを行った。GFP発現も硝子体内ベクター注射後第2週、第4週、第8週、および第12週に実証した。
【0204】
IVIS Imaging System。rAAV.ルシフェラーゼを送達した後の網膜におけるルシフェラーゼの発現を、硝子体内注射の2週間後、4週間後および8週間後にIVIS Imaging Systemを使用してin vivoで定量化した。スナネズミに150mg/kgのルシフェリン(PerkinElmer)(15mg/mlのルシフェリン、15ml/kgの用量)を皮下注射した。およそ22分後、動物を、4%イソフルランを3~5分吸入させることによって鎮静させた。その後すぐに、動物をイメージングプラットフォームに対で置き、各動物の一方の眼の発光を定量化し、その後すぐに反対側の眼のイメージングを行った。ナイーブなスナネズミを陰性標準として使用し、発光のバックグラウンドレベルは、典型的には、毎秒1×10光子の発光を記録した。イメージングの前にファントムマウス(生物発光イメージング用のXPM-2 Perkin Elmerファントムマウス)を使用した生物発光の検証を実施してイメージングシステムの較正を確実にした。
【0205】
免疫組織化学的検査。致死量のペントバルビタールナトリウムを用いてマウスを安楽死させ、まず、PBS中、1mL当たり2単位のヘパリンを含有する0.13Mのリン酸緩衝食塩水(PBS)pH7.2~7.4を用い、次にPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用い、次にPBS中4%パラホルムアルデヒド+1%グルタルアルデヒドを用いた心臓灌流によって組織を固定した。グルタルアルデヒドがRPEに付着した神経網膜を保持する働きをし、したがって、錐体の外節はインタクトなままであった。各溶液を投与の直前に約37℃に温め、灌流液約35~40mLを各段階で送達した。灌流を停止したら、マウスを湿ったペーパータオルで包み、2~3時間さらに固定させた後、眼球摘出および切開を行った。
【0206】
恒久的なインクを使用して眼の方向に印を付け、前眼部を取り出し、アイカップを4%PFA中に4℃で一晩固定し、次いで、PBS中、4℃で保管した。4%PFAに2時間にわたって浸漬した組織の間の切開した網膜を平坦化し、次いで、それらを培養プレートに移してさらに6時間にわたって固定することによって網膜全組織標本を作出した。その後、PFAを0.03%アジ化ナトリウム(Sigma)を含有するPBSと交換した。
【0207】
回転式卓上振とう機で抗体標識を行った。非特異的な標識を遮断するために、全組織標本を、PBS(pH7.4)中、5%ロバ血清(Jackson ImmunoResearch、Cat番号004-000-120)、1mg/mlのBSA(Jackson ImmunoResearch、Cat番号001-000-161)、および0.03%トリトンX-100を含有する溶液と一緒に4℃で一晩インキュベートした。この試験において使用した一次抗体は、1:200に希釈したウサギ抗赤色-緑色(L/M)オプシン(Millipore、Cat番号AB5405)であった。検体をPBS中で3回、それぞれ30分にわたって洗浄し、次いで、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、ジヒドロクロリド1:10,000;Invitrogen、Cat番号D-21490)プラス二次抗体と一緒に4℃で一晩インキュベートした。L/M-オプシン抗体に対する二次抗体は、抗体希釈緩衝液中に1:200に希釈した、Alexa Fluor 488で標識したロバ抗ウサギIgG(H+L)(Invitrogen、Cat番号A21206)であった。二次抗体と一緒にインキュベートした後、3回の30分にわたるPBS洗浄、4%パラホルムアルデヒドを用いた30分にわたる後固定、およびさらに3回の30分にわたるPBS洗浄を行った。最後に、網膜スライスを、グリセロール中2%DABCOを伴うスライド上に置き、カバーガラスで覆った。
【0208】
顕微鏡。マウス網膜全組織標本の広視野画像を、Nikon Eclipse E1000を20×(オープンエア)対物レンズおよび1.5×光学ズームを伴うカメラセットと共に使用して取得した。各検体について、0.5μm離して50枚の光学的切片を取得し、M-オプシンZ-スタックをImageJで再構築した。Z-スタックを、外節の長さが面内になるように方向付け、抗体染色の開始場所と終了場所の間の距離を外節の長さの推定値として測定した。さらに、Z-スタックの3D投影を生成し、外節内の可視のM-オプシンを有する錐体の数を定量化することができた。
【0209】
Olympus FluoViewTM FV1000を使用して共焦点像スライスを取得した。20×油浸レンズを使用して切片を画像化し(0.5μm離して40枚の画像を取得した)、Z-スタックをImageJで再構築した。Adobe Photoshopを使用してチャネル曝露レベルを画像内および画像にわたって平衡させた。網膜全組織標本について、10×オープンエアレンズを使用して画像を取得し、Adobe Photoshopのネイティブモザイク構築ソフトウェアを用いてモザイクを構築した。
【0210】
ポリヌクレオチドカセットの組織特異性を試験する実験。この場合、GFPをコードする構築物を、硝子体内、網膜下、または静脈内などの1つまたは複数の投与経路によって注射する。次いで、動物を屠殺し、組織を、qPCR(構築物の存在を示すDNA配列を検出するため)およびGFP発現(構築物が活発に発現する領域を検出するため)によって分析する。DNA配列が存在しないことにより、所与の組織への体内分布がないことが示され、一方、DNA配列が存在し、それと共に導入遺伝子発現(mRNAまたはタンパク質レベル)が欠如していることにより、ベクターは存在しているがその組織では発現していないことが示される。このように、錐体光受容体に対する特異性のレベルを確立し、視神経、肝臓、脾臓、または脳組織などの標的とされていない組織における発現を伴わず、発現を標的錐体光受容体細胞に制限することに関する本発明の有用性を決定するために使用することができる。硝子体内AAVは、脳に生体内分布することが公知であり(Provostら)、したがって、錐体光受容体を標的とするための、高度に発現する改善された構築物は、発現を網膜の標的細胞に限定し、オフターゲットの導入遺伝子発現に付随する潜在的な有害事象を限定するために有用であると思われる。
【0211】
上記では、ただ単に本発明の原理が例示されている。当業者は本明細書においてはっきりとは記載されていない、または示されていないが、本発明の原理を具体化し、その主旨および範囲内に含まれる種々の取り合わせを考案することができることが理解されよう。さらに、本明細書において列挙されている全ての例および条件付きの言葉は、主に、読者が本発明の原理および当技術分野を推進するために本発明者らが与える概念を理解するために役立てることを意図しており、そのような具体的に列挙された実施例および条件に限定されないと解釈されるべきである。さらに、本明細書において、本発明の原理、態様および実施形態ならびにその特定の実施例が列挙されている全ての記載は、それらの構造的等価物および機能的等価物の両方を包含するものとする。さらに、そのような等価物は、現在公知の等価物と、今後開発される等価物、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を果たす、開発される任意の要素の両方を包含するものとする。したがって、本発明の範囲は、本明細書に示され、記載されている例示的な実施形態に限定されるものではない。そうではなく、本発明の範囲および主旨は、添付の特許請求の範囲によって具体化される。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D
【配列表】
2022037158000001.app
【外国語明細書】