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  • 特開-ラケット用ストリング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037387
(43)【公開日】2022-03-09
(54)【発明の名称】ラケット用ストリング
(51)【国際特許分類】
   A63B 51/02 20150101AFI20220302BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20220302BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
A63B51/02
D01F6/62 302E
D01F6/92 307A
D01F6/92 307G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141497
(22)【出願日】2020-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000219288
【氏名又は名称】東レ・モノフィラメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】西口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友和
(72)【発明者】
【氏名】野中 元一
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB81
4L035BB91
4L035EE09
4L035EE20
4L035HH01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】衝撃吸収性、反発性、耐久性いずれも兼ね備えたラケット用ストリングを提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマー5~15質量%、ポリオレフィン系樹脂2~10質量%を含有するポリエステル系樹脂モノフィラメントであって、前記熱可塑性エラストマーが、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位及び/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントとを主たる構成成分とするポリエステル系エラストマーであることを特徴とするラケット用ストリング。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂75~93質量%、熱可塑性エラストマー5~15質量%、ポリオレフィン系樹脂2~10質量%を含有するポリエステル系樹脂モノフィラメントであって、前記熱可塑性エラストマーが、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位及び/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントとを主たる構成成分とするポリエステル系エラストマーであるラケット用ストリング。
【請求項2】
300Nの引張強力で長さ方向に負荷を与え、該負荷を取り除いた際に観察されるヒステリシスロス率が45~55%、かつ300N強力時の中間伸度が4~8%である請求項1に記載のラケット用ストリング。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリペンテン-1、ポリメチルペンテン、ポリメチルヘキセンから選ばれた少なくとも1種である請求項1または2に記載のラケット用ストリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニス、バドミントン、スカッシュ等に使用するラケット用ストリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テニスやバドミントン等のラケット用ストリングには、牛や羊の腸等から作られた天然ガットや、ポリアミド繊維やポリエステル繊維等から作られた合成樹脂製ストリングが提供されている。
【0003】
天然ガットは、反発性、制球性、衝撃吸収性等の打球性に優れているが、耐水性が悪いために、使用・保管環境によっては使用寿命が短くなりやすく、しかも非常に高価であるため、近年では耐久性、量産性、経済性等に優れた合成樹脂製ストリングが数多く使用されている。
【0004】
合成樹脂製ストリングとしては、ナイロン製繊維(マルチフィラメント/モノフィラメント)の芯糸の周囲にナイロンモノフィラメントの皮糸を編組/巻付けしたものや、ポリエステルモノフィラメントを単独で使用するものが代表的である。
【0005】
しかし、合成樹脂製ストリングは天然ガットに比べて衝撃吸収性が低く、打球時にプレイヤーへの負担が大きくなりやすいことが問題となっている。
【0006】
この問題点に対し、熱可塑性ポリエステルと熱可塑性ポリエステルエラストマーからなる芯鞘型ポリエステル系モノフィラメント(特許文献1)、熱可塑性エラストマーを構成素材の一部に使用した海島型複合モノフィラメント(特許文献2)、海島型複合モノフィラメントからなるラケット用ガット(特許文献3)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-128814号公報
【特許文献2】特開2007-282661号公報
【特許文献3】特開2007-229284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の発明のモノフィラメントをラケット用ストリングに用いた場合には、従来のポリエステルモノフィラメントからなるラケット用ストリングに比べれば高い衝撃吸収性が得られるものの、芯鞘型モノフィラメントであるため芯層と鞘層の剥離の問題が生じ、打球性が変化しやすい、また、界面剥離が生じることで反発性が徐々に低下していく等、耐久性の点で十分と言えるものではなかった。
【0009】
一方、特許文献2および3に記載の発明の海島型モノフィラメントをラケット用ストリングとして用いた場合には、芯鞘型モノフィラメントをラケット用ストリングとして用いた場合よりも界面剥離の課題は相応に改善されるものの、海島複合構造であるため、長期間に亘る使用や、一般に言われるパワーヒッターが強い力で打球を繰り返して行う場合には、モノフィラメントが断面方向に変形と復元を繰り返すため海相と島相の界面剥離が生じてしまい打球性が変化するなど、ラケット用ストリングとしてはいずれも不十分なものであった。
【0010】
本発明は上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。したがって本発明の目的は、衝撃吸収性と反発性を両立し、耐久性も兼ね備えたラケット用ストリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリエステル系樹脂75~93質量%、熱可塑性エラストマー5~15質量%、ポリオレフィン系樹脂2~10質量%を含有するポリエステル系樹脂モノフィラメントであって、前記熱可塑性エラストマーが、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位及び/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントとを主たる構成成分とするポリエステル系エラストマーであるラケット用ストリングが提供される。
【0012】
本発明のラケット用ストリングにおいては、
300Nの引張強力で長さ方向に負荷を与え、該不可を取り除いた際に観察されるヒステリシスロス率が45~55%、かつ300N強力時の中間伸度が4~8%であること、
前記ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリペンテン-1、ポリメチルヘキセン、ポリメチルペンテンから選ばれた少なくとも1種であること、がいずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たした場合には、さらに優れた効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、衝撃吸収性と反発性を両立し、耐久性も兼ね備えたラケット用ストリングを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】引張試験における応力-歪み曲線の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明のラケット用ストリングは、ポリエステル系樹脂、熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系樹脂、を含有するポリエステル系樹脂モノフィラメントであることが必要である。
【0017】
本発明においてポリエステル系樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記する場合もある)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート等のポリエステル樹脂を、単独または2種類以上の共重合、または、それらのブレンドしたものを総称するものである。本発明においては、かかるポリエステル系樹脂として、汎用性、耐熱性、高剛性の観点からPETが好ましく使用される。
【0018】
本発明に用いられるポリエステル系樹脂の固有粘度は、0.65~1.5が好ましく、さらに0.9~1.4であればより好ましい。ポリエステル系樹脂の固有粘度が斯かる範囲である場合、ラケット用ストリングとして十分な強力が得られ使用時のストリングの破断が防止できるばかりか、好ましいヒステリシスロス率が実現できるなど望ましい効果を奏することに繋がる。
【0019】
ここで、本発明でいう固有粘度は、以下の方法によって測定したものである。即ち、溶解用試験管(以降、試験管という)に、溶媒として25mlのオルソクロロフェノール(以降、OCPという)と約3mmにカットしたPETモノフィラメント試料2g±0.001gを入れる。試料を投入した試験管をドライ・ブロックバスにセットし100℃で30分間加熱しながらPETモノフィラメント試料をOCPに溶解する(以降、PETモノフィラメント試料をOCPに溶解したものをOCP溶液という)。このOCP溶液を流水にて15分間冷却後、OCP溶液20mlをホールピペットで計量しオストワルド粘度管に採取する。引き続き、25℃に温度調整した恒温水槽にOCP溶液を採取したオストワルド粘度管をセットし30分間放置、定法に従いオストワルド粘度管内を流下するOCP溶液の流下時間を測定し算出した固有粘度値である。
【0020】
また、本発明に用いるポリエステル系樹脂モノフィラメントは、本発明の効果を損なわない範囲、具体的には1質量%以下であれば酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸等の各種無機粒子や架橋高分子粒子等の粒子類の他、従来公知の抗酸化剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、フッ素樹脂類、ポリアミド類およびポリスチレン等を含むことができる。
【0021】
本発明において熱可塑性エラストマーとは、加熱により軟化して流動性を示し、冷却すればゴム弾性を有する状態に戻る性質を持ったエラストマーであって、通常、ゴム弾性の発現に寄与するソフトセグメントと常温において架橋点を形成するハードセグメントから成るものである。かかる熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられるが、耐熱性、機械特性等の観点から、140℃以上250℃以下の融点を有するポリエステル系エラストマーが好ましく、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位及び/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントとを主たる構成成分とするポリエステル系エラストマーであることがより好ましい。ここで主たる構成成分とは、ポリエステル系エラストマーの構成成分のうち質量基準で50%を超える構成成分であることを示す。
【0022】
また、本発明のラケット用ストリングは、ポリエステル系樹脂75~93質量%、熱可塑性エラストマー5~15質量%、ポリオレフィン系樹脂2~10質量%を含有するポリエステル系樹脂モノフィラメントである。
【0023】
ここで、熱可塑性エラストマーの質量比率が上記範囲を上回る場合は、モノフィラメントの剛性が低下し、ラケット用ストリングとしての十分な強度が得られにくくなり、熱可塑性エラストマーの質量比率が上記範囲を下回る場合は、衝撃吸収性が低下し、プレイヤーへの負担が大きくなってしまうことに繋がる。
【0024】
また、ポリオレフィン系樹脂の質量比率が上記範囲を上回る場合も、モノフィラメントの剛性が低下し、ラケット用ストリングとしての十分な強度が得られにくくなり、逆に、ポリオレフィン系樹脂の質量比率が上記範囲を下回る場合は、反発性が低下し、やわらかい打球感が損なわれてしまうなどの問題が生じる。
【0025】
ここで、本発明に用いられるポリエステル系エラストマーにおけるハードセグメントは、いわゆる結晶性芳香族ポリエステル単位からなる。結晶性芳香族ポリエステル単位とは、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成される構造を有するポリエステル系エラストマーを構成するポリエステルの部分構造である。なお、本明細書の記載において、結晶性芳香族ポリエステル単位を構成するポリエステルの構造を芳香族ジカルボン酸とジオールで特定するのは、芳香族ジカルボン酸およびジオールそれぞれについて複数種のものを適用する場合があり、そのような場合の構造を、化学名で的確に表現することは、困難であるという事情によるためである。すなわち、芳香族ジカルボン酸とジオールはそれに由来する構造単位を特定するために用いられる。従って、異なる原料を用いて得られたポリエステルであっても、芳香族ジカルボン酸およびジオールを出発物質として得られる構造を有するものであれば、これを排除するものではなく、その合成法も特に限定されるものではない。
【0026】
前記芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、および3-スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、必要によっては、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。さらにジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0027】
つぎに、前記ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、および4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。
【0028】
これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0029】
かかるハードセグメントの好ましい例は、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位である。また、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるものも好ましく用いられる。
【0030】
本発明に用いられるポリエステル系エラストマーのソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントである。なお、本明細書の記載において、脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントを構成するポリエステルの構造を原料で特定するが、これは、ジカルボン酸およびジオールそれぞれについて複数種のものを適用する場合があり、そのような場合の構造を、化学名で的確に表現することは、困難であるという事情によるためであり、それらに由来する構造単位を特定するために用いられること等は、ハードセグメントにおける場合と同様である。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールなどが挙げられる。また、脂肪族ポリエステル としては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステル のなかで得られるポリエステル系エラストマーの弾性特性からは、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、及びポリエチレンアジペートなどの使用が好ましく、これらの中でも特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、及びエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールの使用が好ましい。また、これらのソフトセグメントの数平均分子量としては共重合された状態において300~6000程度であることが好ましい。
【0031】
本発明においてポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン系単量体のラジカル重合、イオン重合等で得られるオレフィン系単独重合体又は共重合体等を主成分とするものである。
【0032】
かかるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリペンテン-1、ポリメチルヘキセン、ポリメチルペンテンなどから選ばれた少なくとも1種の使用が好ましく、さらには、耐久性、反発性の高いラケット用ストリングが得られやすいとの理由から、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはその共重合樹脂または混合樹脂を用いるのが好ましい。
【0033】
次に、本発明のラケット用ストリングを構成するポリエステル系樹脂モノフィラメントは、300Nの引張強力で長さ方向に負荷を与え、該負荷を取り除いた際に観察されるヒステリシスロス率が45~55%、かつ300N強力時の中間伸度が4~8%であることが好ましい。
【0034】
ヒステリシスロス率が上記範囲を上回る場合は、ラケット用ストリングとしての反発性が十分に得られにくくなり、逆にヒステリシスロス率が上記範囲を下回る場合、十分な反発性は得られるものの、衝撃吸収性が得られにくくなるからである。
【0035】
さらに、300N強力時の中間伸度が上記範囲内であれば、S-S曲線の初期直線部分が長く、弾性変形域が広くなるので、このポリエステル系樹脂モノフィラメントからなるラケット用ストリングをラケットに張設した後、さらには球を打った時に塑性ひずみが小さくなり、結果としてラケット用ストリングの緩みが生じにくく、良好な耐久性を持たせることができる。一方、300N時伸度が上記の範囲を下回る場合は、少しの応力が加わるだけで塑性変形が生じてしまい、ラケット用ストリングの緩みが起こりやすい。逆に300N時伸度が上記の範囲を上回る場合、ストリング切断時の反動が大きくなりやすい傾向となるため好ましくない。
【0036】
ここで、ヒステリシスロス率は、JIS L1013:2010に従って、島津製作所製のオートグラフAG-1000Gにキャプスタン型チャックを取り付けて用い、300Nの引張強力で長さ方向に負荷を与え、該負荷を取り除いた際に観察される図1に示したような応力-歪み曲線から算出する。
【0037】
即ち、試験片の引張を開始してから引張強力が300Nとなるまでの区間において曲線pで示したような応力-歪み曲線が得られ、引張強力が300Nとなった後、引張強力の値がゼロとなるまでの区間において曲線qで示したような強力-歪み曲線が得られる。このときの引張エネルギーEs(mJ)は、曲線pとX軸と直線rbで囲まれた区間の面積(Sb)となる。
【0038】
そして、2つの曲線(曲線p、曲線q)とx軸とで囲まれた区間の面積(Sa)から損失エネルギー(ΔE:mJ)を算出することができ、ヒステリシスロス率は下記計算によって求めることができる。
【0039】
ヒステリシスロス率(%)=[(ΔE)/(Es)]×100%
また、300N強力時の中間伸度については、JIS L1013:2010に従って、島津製作所製のオートグラフAG-1000Gにキャプスタンチャックを取り付けて用い、試料長25cm、引張り速度30cmの条件で引張試験を行い、この時のS-S曲線を求め、このS-S曲線から300N強力時の中間伸度(300N時伸度)を読取った。また、引張試験の最大強力を繊度で割ったものを破断強度、破断点の伸度を破断伸度とした。
【0040】
次に、本発明のラケット用ストリングの製造方法について説明する。
【0041】
本発明のラケット用ストリングを構成するポリエステル系樹脂モノフィラメントは、通常の溶融紡糸装置を用いて製造することができ、原料となるポリエステル系樹脂、熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系樹脂を計量、混合し、公知の溶融紡糸機に供給し溶融混練した後、紡糸口金孔から押し出すことにより製造することができる。
【0042】
押し出された溶融物は、引き続き冷却媒体中に導かれて冷却固化される。なお、冷却媒体としては、例えば水やポリエチレングリコール等挙げることができるが、モノフィラメントの表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定しない。
【0043】
そして、冷却固化された未延伸糸は、モノフィラメントとして必要な強度を得るために、加熱1段延伸又は多段延伸および弛緩熱処理されるが、本発明においては、全延伸倍率が3.0~5.0倍であり、このうち1段目の延伸配分比を70~100%とした1段又は多段延伸を行った後、0.95~1.00倍の熱処理を行なうことで得ることができる。ここで、全延伸倍率とは延伸過程における延伸倍率の積をいい、熱処理工程での弛緩倍率を含まない。
【0044】
上記の製造方法を適用することにより、本発明のラケット用ストリングに適したポリエステル系樹脂モノフィラメントを得ることができる。
【0045】
なお、加熱延伸や熱処理の際に使用される熱媒体についても、空気、温水、蒸気、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイル等が挙げられるが、モノフィラメントの表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定しない。
【0046】
また、熱媒体の種類によって、延伸温度は60~260℃、熱処理温度は150~260℃を適用することができ、中でも1段目の延伸に70~100℃の温水浴、2段目の延伸に150~250℃の乾熱浴を適用し、その後の熱処理として200~260℃の乾熱浴を適用するのが好ましい。
【0047】
このようにして得られたポリエステル系樹脂モノフィラメントには、必要に応じて、仕上げ油剤を付与したり、樹脂コーティングをしたり、印字したりすることができる。
【0048】
かくして得られる本発明のラケット用ストリングは、衝撃吸収性と反発性を両立し、耐久性も兼ね備えたものであるため、テニス、バドミントン、スカッシュなどのスポーツ用ラケットに使用した場合には、これらの効果を如何なく発揮することができる。
【実施例0049】
以下、本発明のラケット用ストリングを実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明のラケット用ストリングはその主旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
なお、実施例におけるポリエステル系樹脂モノフィラメントおよびラケット用ガットの評価は以下の方法で行った。
【0051】
[直径]
デジタルマイクロメーター(MITUTOYO製)を用いて直径を測定した。
【0052】
[引張強度、300N時伸度]
JIS L1013に準じて、島津製作所製のオートグラフAG-1000Gに平チャックを取り付けて用い、試料長25cm、引張り速度30cmの条件で引張試験を行い、この時のS-S曲線を求め、このS-S曲線から300N強力時の中間伸度(300N時伸度)を読取った。また、引張試験の最大強力を繊度で割ったものを引張強度とした。
【0053】
[ヒステリシスロス率]
JIS L1013:2010に従って、島津製作所製のオートグラフAG-1000Gにキャプスタン型チャックを取り付けて用い、300Nの引張強力で長さ方向に負荷を与え、該負荷を取り除いた際に観察される図1に示したような応力-歪み曲線から算出した。
【0054】
即ち、試験片の引張を開始してから引張強力が300Nとなるまでの区間において曲線pで示したような応力-歪み曲線を得、引張強力が300Nとなった後、引張強力の値がゼロとなるまでの区間において曲線qで示したような強力-歪み曲線を得た。このときの引張エネルギーEs(mJ)は、曲線pとX軸と直線rbで囲まれた区間の面積(Sb)である。
【0055】
そして、2つの曲線(曲線p、曲線q)とx軸とで囲まれた区間の面積(Sa)から損失エネルギー(ΔE:mJ)を算出することができ、ヒステリシスロス率は下記計算によって求めた。
【0056】
ヒステリシスロス率(%)=[(ΔE)/(Es)]×100%。
【0057】
[衝撃吸収性、反発性、耐久性]
上級レベルのテニスプレーヤーにテニスラケットを使用して実際にテニスボールを試打してもらい、従来のポリエステル樹脂製ストリングを使用したテニスラケットと比較して、衝撃吸収性、反発性および耐久性を次の4段階で感応評価した。
◎・・・従来のポリエステル樹脂製ストリングより勝るものであった。
○・・・従来のポリエステル樹脂製ストリングと同等のものであった。
△・・・従来のポリエステル樹脂製ストリングよりわずかに劣るものであった。
×・・・従来のポリエステル樹脂製ストリングより大幅に劣っているものであった。
【0058】
[張力保持率]
JIS L1013:2010に従って、島津製作所製のオートグラフAG-1000Gにキャプスタン型チャックを取り付けて用い、300Nの引張強力で長さ方向に60分間負荷を与え、20分後の試験応力と60分後の試験応力を読み取り、下記計算により張力保持率を算出した。
【0059】
張力保持率(%)=60分後の試験応力/20分後の試験応力×100。
【0060】
[実施例1]
ポリエステル系樹脂にポリエチレンテレフタレート(三井化学製 三井PETTM)、熱可塑性エラストマーにポリエステルエラストマー(東レ・デュポン製 ハイトレル)、ポリオレフィン系樹脂にポリエチレン(三井・デュポン ポリケミカル製 低密度ポリエチレン樹脂)を87:10:3の割合で使用した。
【0061】
まず、これらの原料をエクストルーダー型紡糸機へ供給し、紡糸温度290℃で溶融混練した後、ポリエステル系溶融樹脂組成物を円形断面糸用紡糸ノズルから紡出し、直ちにポリエチレンテレフタレート樹脂のガラス転移温度より5℃以上高い温水浴中で冷却固化させたポリエステル未延伸糸を得た。引き続き、得られた未延伸糸を定法に従い2段延伸で4.6倍の延伸を行った後、連続して熱セットを実施し、直径1.25mmのポリエステル系樹脂モノフィラメントを製造した。このモノフィラメントを、そのまま単糸でラケット用ストリングとして用いた。
【0062】
[実施例2~3、比較例1~5]
樹脂の混合比を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂モノフィラメントを製造し、そのまま単糸でラケット用ストリングとして用いた。
【0063】
[実施例4~6]
ポリオレフィン系樹脂にポリプロピレン(日本ポリプロ製 メタロセン系ポリプロピレン樹脂)を用い、樹脂の混合比を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂モノフィラメントを製造し、そのまま単糸でラケット用ストリングとして用いた。
【0064】
[実施例7]
ポリオレフィン系樹脂にポリエチレン(三井・デュポン ポリケミカル製 低密度ポリエチレン樹脂)とポリプロピレン(日本ポリプロ製 メタロセン系ポリプロピレン樹脂)を共に使用し、樹脂の混合比を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂モノフィラメントを製造し、そのまま単糸でラケット用ストリングとして用いた。
【0065】
[実施例8]
ポリオレフィン系樹脂としてポリメチルペンテン(三井化学製 高剛性タイプTPX樹脂)を用い、樹脂の混合比を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂モノフィラメントを製造し、そのまま単糸でラケット用ストリングとして用いた。
【0066】
[比較例6]
ポリエステル系樹脂の代わりにポリアミド系樹脂としてナイロン6(東レ製 M1041)を使用し、樹脂の混合比を表1の通りとした以外は、同様にしてポリアミド系樹脂モノフィラメントを製造し、そのまま単糸でラケット用ストリングとして用いた。
【0067】
実施例1~8、比較例1~6で得られたラケット用ストリングの特性の評価結果を表1および表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1から明らかなように、本発明のラケット用ストリング(実施例1~8)は、衝撃吸収性と反発性を両立し、耐久性も兼ね備えた実用性の高いものであることが分かる。
【0071】
一方、本発明の条件を満たさないラケット用ストリング(比較例1~6)は衝撃吸収性、反発性、耐久性全てを兼ね備えることのないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のラケット用ストリングは、衝撃吸収性、反発性、耐久性に優れ、やわらかい打球感を得られるため、テニス、バドミントン、スカッシュ等のラケットスポーツ用具として最適に利用することができる。
図1