(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037440
(43)【公開日】2022-03-09
(54)【発明の名称】シース
(51)【国際特許分類】
E04C 5/10 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
E04C5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141582
(22)【出願日】2020-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 一治
(72)【発明者】
【氏名】小西 正伸
(72)【発明者】
【氏名】川村 剛史
(72)【発明者】
【氏名】阪井 光尚
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164DA12
(57)【要約】
【課題】グラウトを注入する際の位置的自由度が高く、かつ、部品点数が少なく作業性が良好なシースを提供する。
【解決手段】内面から外面に貫通する貫通孔11が周面に形成された中空筒状のシース本体10と、貫通孔11に挿し込まれ、一端21が貫通孔11の内縁に嵌合する管状の管状部材20と、を有する、あるいは、内面から外面に貫通する貫通孔11が周面に形成された中空筒状のシース本体10と、貫通孔11に挿し込まれる管状部材20と、を有し、管状部材20の一端が、径方向外向きに拡径して貫通孔11の内縁に嵌合する拡径部23を有する構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面から外面に貫通する貫通孔(11)が周面に形成された中空筒状のシース本体(10)と、
前記貫通孔(11)に挿し込まれ、一端が前記貫通孔(11)の内縁に嵌合する管状の管状部材(20)と、
を有するシース。
【請求項2】
内面から外面に貫通する貫通孔(11)が周面に形成された中空筒状のシース本体(10)と、
前記貫通孔(11)に挿し込まれる管状部材(20)と、
を有し、前記管状部材(20)の一端が、径方向外向きに拡径して前記貫通孔(11)の内縁に嵌合する拡径部(23)を有するシース。
【請求項3】
前記管状部材(20)の前記一端(21)の管内部に挿入されることによって、前記一端(21)を径方向外向きに押し広げて前記拡径部(23)を形成する管状の拡径部材(30)をさらに有する請求項2に記載のシース。
【請求項4】
前記拡径部材(30)の外周面に、その軸方向に対して傾斜するテーパ面(31)が形成されており、前記テーパ面(31)の小径側から前記一端(21)に挿入される請求項3に記載のシース。
【請求項5】
前記シース本体(10)又は前記管状部材(20)の少なくとも一方が可撓性素材からなり、前記管状部材(20)の前記一端とは反対側の他端側に引き抜き力を作用することによって、前記シース本体(10)又は前記管状部材(20)の少なくとも一方を弾性変形させて、前記一端を前記貫通孔(11)から引き抜くことを可能とした請求項1から4のいずれか1項に記載のシース。
【請求項6】
前記シース本体(10)が、その軸方向両端に中空筒状の管体(42)を接続可能とする接続端部(12、13)を有する請求項1から5のいずれか1項に記載のシース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート製の部材にプレストレスを与える鋼材を挿通するためのシースに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高速道路の高架橋等に用いられる床版は、例えば直方体形状の所定の大きさ(例えば、縦方向及び横方向の幅が数メートル程度で、厚さが数十センチメートルから1メートル程度)のコンクリート製の部材(例えば、プレキャストコンクリート製のセグメント)を接続することによって形成される。コンクリート製の部材は、一般的に圧縮に強く、引張には弱い性質を有しているため、このセグメント内に鋼材(PC鋼材)を挿通し、この鋼材を緊張することによって、セグメント(床版)に予め圧縮力(プレストレス)を与えて強度を担保している。
【0003】
この鋼材は、セグメント内に予め埋設された中空筒状のシースの内部に設けられる。この鋼材による圧縮力の付与後に、シース内には鋼材の腐食を防止するためのグラウトが充填される。
【0004】
このシースとして、例えば、下記特許文献1、2に記載のものが提案されている。
【0005】
特許文献1に係るシースは、グラウトが充填されるシース本体21に、グラウト6の充填に際して内部空気を排出するための排気口30が形成され、この排気口30に、排気用のホース7を繋ぐための排気筒31が接続されている。この排気筒31は、シース本体21の管壁から管軸方向と直交する方向に突出している(特許文献1の段落0016、
図1等参照)。
【0006】
また、特許文献2に係るシースは、接続シース33の周壁に中空孔37が穿設されパイプ立設部39が形成されている。パイプ立設部39には、グラウト注入管20を構成する接続管21の端面26がパッキン23を介して当接され、パイプ立設部39の裏面には、接続シース33の内部側からパッキン24が挿入され、さらにその上から固定管22が接続管21の座繰孔27に向かって挿入される。さらに、固定管22の突条32を接続管21の凹条28に係合することにより、縁部30との間で接続シース33が挟持される。このように、突条32と凹条28の係合とする代わりに、グラウト注入管40に形成された雌ネジ46とパイプ立設部39に形成された雄ネジ50の螺合とすることもできる(特許文献2の段落0031~0033、0043~0046、
図2、
図4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3933986号公報
【特許文献2】特開2002-129705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に係るシースは、シース本体21に排気筒33が予め接続されているため、このシース本体21に対するホース7の接続位置の自由度が低い。このため、現場において、ホース7の取り回しに支障が生じる虞がある。
【0009】
また、特許文献2に係るシースは、接続シース33への中空孔37の穿設位置を変えることができるため、特許文献1に係るシースと比較してその自由度は高い。しかしながら、接続シース33と固定管22及び接続管21との間にそれぞれパッキン23、24を介装しなければならず、部品点数が多くなる上に作業性が悪い。
【0010】
そこで、この発明は、グラウトを注入する際の位置的自由度が高く、かつ、部品点数が少なく作業性が良好なシースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、内面から外面に貫通する貫通孔が周面に形成された中空筒状のシース本体と、前記貫通孔に挿し込まれ、一端が前記貫通孔の内縁に嵌合する管状の管状部材と、を有するシース、あるいは、内面から外面に貫通する貫通孔が周面に形成された中空筒状のシース本体と、前記貫通孔に挿し込まれる管状部材と、を有し、前記管状部材の一端が、径方向外向きに拡径して前記貫通孔の内縁に嵌合する拡径部を有するシースを構成した。
【0012】
このようにすると、シース本体に形成される貫通孔の位置を変えることによって、グラウト等の充填剤を注入する際の高い位置的自由度を確保することができる。また、管状部材をシース本体に形成された貫通孔に嵌合させるだけで良いので、作業性は非常に良好である。しかも、貫通孔の内縁と管状部材の一端が嵌合しているため、高い水密性を確保することができる。
【0013】
この拡径部を有する構成においては、前記管状部材の前記一端の管内部に挿入されることによって、前記一端を径方向外向きに押し広げて前記拡径部を形成する管状の拡径部材をさらに有する構成とするのが好ましい。
【0014】
このようにすると、全長に亘って外径が一定の一般的な管状部材(例えば市販のホース)を採用することもできるため、この管状部材の調達コストを抑制することができる。
【0015】
この拡径部材を用いる構成においては、前記拡径部材の外周面に、その軸方向に対して傾斜するテーパ面が形成されており、前記テーパ面の小径側から前記一端に挿入される構成とするのが好ましい。
【0016】
このようにすると、管状部材の一端にスムーズに拡径部材を挿入することができ、高い作業性を確保することができる。
【0017】
前記各構成においては、前記シース本体又は前記管状部材の少なくとも一方が可撓性素材からなり、前記管状部材の前記一端とは反対側の他端側に引き抜き力を作用することによって、前記シース本体又は前記管状部材の少なくとも一方を弾性変形させて、前記一端を前記貫通孔から引き抜くことを可能とした構成とするのが好ましい。
【0018】
このようにすると、セグメント(シース)の内部に不要物が残らないため、このセグメントの品質を一層高めることができる。
【0019】
前記各構成においては、前記シース本体が、その軸方向両端に中空筒状の管体を接続可能とする接続端部を有する構成とするのが好ましい。
【0020】
このようにすると、シース本体に、鋼材を挿通する管体を容易に延設することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明では、シース本体に形成された貫通孔の内縁に管状部材の一端を嵌合することによってシースを構成したので、グラウトを注入する際の位置的自由度が高く、かつ、部品点数が少なく作業性を良好とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明に係るシースの第一実施形態を示す、その一部を切り欠いた正面図
【
図3】拡径部材を管状部材に挿入した状態を示す断面図
【
図4】
図3に示す管状部材をその他端側に引っ張った状態を示す断面図
【
図5】
図4に示す管状部材をその他端側にさらに強く引っ張った状態を示す断面図
【
図6】コンクリート製のセグメントに埋設されたシースに鋼材を挿通した状態を示す側面図
【
図7】この発明に係るシースの第二実施形態を示す、その一部を切り欠いた正面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係るシース1の第一実施形態を図面に基づいて説明する。このシース1は、
図1に示すように、シース本体10と管状部材20を主要な構成要素としている。このシース1は、プレキャストコンクリート製のセグメント40(
図6参照)に埋設され、このセグメント40を接続して形成される橋梁や高速道路の高架橋等の床版に、プレストレスを与える鋼材41(PC鋼材)を挿通するための部材である。なお、この発明に係るシース1は、プレキャストコンクリート製のセグメント40のみならず、現場で打設するコンクリート製のセグメントに対しても適用することができる。
【0024】
シース本体10は、内面から外面に貫通する貫通孔11が周面に形成された中空筒状の部材である。このシース本体10は、その軸方向両端に中空筒状の管体42を接続可能とする接続端部12、13(管体42の受け口)を有する。このように接続端部12、13を形成することにより、このシース本体10は、管体42同士を接続する中子状のジョイント(接続管)として機能する。
【0025】
貫通孔11は、基本的には工場内での孔あけ加工によって形成されるが、現地における管状部材20の取り付け位置の選択自由度をさらに高めるために、その現地に孔あけ用の加工工具を持ち込み、作業状況に対応してその現地で貫通孔11を形成してシース1を組み立ててもよい。
【0026】
この実施形態においては、シース本体10の素材としてポリエチレンを採用したが、この素材は特に限定されるものではなく、他の樹脂材や金属材を採用することもできる。
【0027】
管状部材20は、貫通孔11に嵌合する一端21から、この一端21とは反対側の他端22に至る管状の部材である。この実施形態では、管状部材20として可撓性を有するナイロン製の市販のホースを採用したが、この素材は適宜変更することもできる。この管状部材20は、一端21側がシース本体10に形成された貫通孔11に嵌合した状態で、他端22側がセグメント40の表面に露出する程度の長さとされる(
図6参照)。
【0028】
管状部材20の一端21の管内部には、
図2に示す管状の拡径部材30が挿入されている。この拡径部材30は、その外周面に、その軸方向に対して傾斜するテーパ面31が形成された部材であり、軸方向の他端側から一端側に向けてその外径が次第に拡径している。この実施形態においては、拡径部材30の素材としてポリエチレンを採用したが、この素材は特に限定されるものではなく、ポリプロピレン等の他の樹脂材や真鍮等の金属材を採用することもできる。
【0029】
図3に示すように、管状部材20の一端21に拡径部材30をそのテーパ面31の小径側から挿入すると(
図3中の白抜き矢印を参照)、この一端21の外径が径方向外向きに押し広げられて拡径し(
図3中の矢印eを参照)、拡径部23が形成される。このように拡径部23を形成することによって、シース本体10に形成された貫通孔11の内縁に管状部材20の外周が強く密接して、高い水密性が確保される。
【0030】
管状部材20の一端21に拡径部材30が挿入された状態で、
図4に示すようにこの管状部材20をその他端側に少し引っ張ると(
図4中の白抜き矢印を参照)、拡径部材30が、管状部材20とともにシース本体10に形成された貫通孔11側に若干引き込まれる。このとき、拡径部材30がくさびの役割を果たし、貫通孔11の内縁に管状部材20の外周がさらに強く密接することで貫通孔11の内縁と管状部材20との間の隙間が完全になくなるため、シース1の水密性の指標となる内水圧試験の合格基準も十分満たすことができる。
【0031】
この実施形態においては、シース本体10、管状部材20、及び、拡径部材30のいずれも樹脂材から構成されており、管状部材20をその他端22側に引っ張ることによって、これらの各部材10、20、30が少しずつ弾性変形する。そして、
図5に示すように、他端22側への引き抜き力をさらに強くすることにより(
図5中の白抜き矢印を参照)、管状部材20の一端21をシース本体10から引き抜くことができる。このように、管状部材20を引き抜くことにより、セグメント40(
図6参照)の品質を一層高めることができる。
【0032】
なお、この引き抜きを可能とするためには、シース本体10、管状部材20、又は、拡径部材30の少なくとも一つの素材を、強い引き抜き力によって弾性変形が可能な可撓性素材で構成する必要がある。また、管状部材20の表面に、予めグリス等の潤滑剤や離型剤を塗布しておくと、この管状部材20をスムーズに引き抜くことができる。
【0033】
床版等の構造物を形成するにあたり、
図6に示すように、互いに離間したシース1(以下、第一のシース1a、第二のシース1bと称する。)同士を管体42で連結し、第一のシース1aの管状部材20からグラウトを充填する一方で、この充填と同時に第二のシース1bの管状部材20からシース1内及び管体42内の空気を抜くようにすると、グラウトの充填作業をスムーズに行うことができる。第二のシース1bの管状部材20から空気の代わりにグラウトが排出された段階で、シース1内及び管体42内の空気がほぼ全て排出されたと判断することができる。
【0034】
グラウトの充填に際しては、このグラウトはシース1内の下側から溜まり始め、空気はシース1の上側に残るため、第一のシース1aの管状部材20をシース本体10の側面に挿入するとともに、第二のシース1bの管状部材20をシース本体10の上面に挿入するのが好ましい。このようにすると、スムーズにシース本体10内等にグラウトを充填しつつ、シース本体10内から空気を抜くことができる。
【0035】
特に、
図6に示すように、シース1及び管体42が水平方向から傾斜してセグメント40内に埋設されているときは、下方側のシース1(第一のシース1a)からグラウトを充填する一方で、上方側のシース1(第二のシース1b)から空気を抜くようにすると、グラウトの充填作業を一層スムーズに行うことができる。
【0036】
この発明に係るシース1の第二実施形態を
図7に示す。この第二実施形態に係る構成は、第一実施形態に係る構成と比較して、シース本体10に形成された貫通孔11に管状部材20の一端21を挿入する点において共通するが、この管状部材20の一端に拡径部23が初めから形成されている点で相違する。
【0037】
この拡径部23は、シース本体10に形成された貫通孔11の内径よりも若干大きい外径を有する。このようにすると、シース本体10の内側から管状部材20の他端22を貫通孔11に通し、この管状部材20を外側に引き抜くようにすると、管状部材20が貫通孔11から完全に抜ける直前に貫通孔11の内縁と拡径部23が嵌合して、管状部材20の抜け止め作用と、貫通孔11の内縁と拡径部23との間の水密作用が発揮される。
【0038】
管状部材20の他端22側への引き抜き力をさらに強くすると、拡径部23が貫通孔11を通過して、管状部材20がシース本体10から引き抜かれる。この第二実施形態の構成によると、管状部材20の一端21に拡径部材30を嵌め込まなくてもよいため、作業時間を短縮できる可能性がある。また、管状部材20を引き抜くことにより、セグメント40(
図6参照)の品質を一層高めることができる。なお、この引き抜きを可能とするためには、シース本体10又は管状部材20の少なくとも一方を、強い引き抜き力によって弾性変形が可能な可撓性素材で構成する必要がある。
【0039】
上記において説明したシース1は全ての点で例示であって、グラウトを注入する際の位置的自由度が高く、かつ、部品点数が少なく作業性が良好なシース1を提供する、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、このシース1の構成部材の形状、素材等に適宜変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 シース
1a 第一のシース
1b 第二のシース
10 シース本体
11 貫通孔
12、13 接続端部
20 管状部材
21 一端
22 他端
23 拡径部
30 拡径部材
31 テーパ面
40 セグメント
41 鋼材
42 管体