(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037628
(43)【公開日】2022-03-09
(54)【発明の名称】再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法及びポリ塩化ビニル樹脂のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/06 20060101AFI20220302BHJP
A47G 27/02 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
C08J11/06
A47G27/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141860
(22)【出願日】2020-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】仁木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 光
(72)【発明者】
【氏名】泉 達郎
【テーマコード(参考)】
3B120
4F401
【Fターム(参考)】
3B120AB04
4F401AA13
4F401AB03
4F401AC20
4F401BA13
4F401BB09
4F401CA14
4F401CA25
4F401CA28
4F401CA34
4F401CA89
4F401CB02
4F401FA01Z
4F401FA02Z
4F401FA08Z
4F401FA11Z
4F401FA20Z
(57)【要約】
【課題】ポリ塩化ビニル含有製品から汎用性の高い再生ポリ塩化ビニル樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法は、(A)ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む被処理物を準備する工程と、(B)可塑剤の揮発温度よりも高く且つ205℃以下の温度で被処理物を加熱処理することによって被処理物に含まれる可塑剤の量を低減させる工程とを含み、上記被処理物は、粒径5mm以下の破砕物、又は、厚さ1mm以下の断片である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む被処理物を準備する工程と、
(B)前記可塑剤の揮発温度よりも高く且つ205℃以下の温度で前記被処理物を加熱処理することによって前記被処理物に含まれる前記可塑剤の量を低減させる工程と、
を含み、
前記被処理物が、粒径5mm以下の破砕物、又は、厚さ1mm以下の断片である、再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法。
【請求項2】
(B)工程前の前記被処理物に含まれる前記可塑剤の量を100質量部とすると、(B)工程後の前記被処理物に含まれる前記可塑剤の量が10質量部以下となるように、(B)工程において前記加熱処理を実施する、請求項1に記載の再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法。
【請求項3】
(B)工程は、大気圧下において、前記被処理物の温度を150~200℃に保持することを含む、請求項1又は2に記載の再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法。
【請求項4】
(B)工程は、ゲージ圧表記で-100~-20kPaの減圧下において、前記被処理物の温度を150~180℃に保持することを含む、請求項1又は2に記載の再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記可塑剤がフタル酸ジオクチル、フタル酸ジ-n-ブチル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル及びアジピン酸ジイソノニルからなる群から選らばれる少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法。
【請求項6】
(B)工程の前に、前記可塑剤の揮発温度を把握する工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記被処理物がタイルカーペットから得られる破砕物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記被処理物が以下のステップを経て得られるものである、請求項7に記載の再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法。
(a1)パイル糸で構成されるパイル層と、前記パイル糸の一部が埋め込まれており且つポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを少なくとも含む下地層とを備えるタイルカーペットを破砕するステップ。
(a2)前記タイルカーペットの破砕物から、前記下地層の破砕物である被処理物を選別するステップ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって製造された再生ポリ塩化ビニル樹脂を、ポリ塩化ビニル含有製品の原料の少なくとも一部として使用する、ポリ塩化ビニル樹脂のリサイクル方法。
【請求項10】
前記ポリ塩化ビニル含有製品がタイルカーペットである、請求項9に記載のポリ塩化ビニル樹脂のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法及びポリ塩化ビニル樹脂のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルモノマー(CH2=CHCl)の付加重合によって合成させる樹脂である。ポリ塩化ビニル樹脂は、それ単独では硬質であるのに対し、ポリ塩化ビニル樹脂に可塑剤を添加することによって軟質化する。ポリ塩化ビニル樹脂と、可塑剤とを含む組成物は、例えば、タイルカーペット、可撓性フィルム、ホース及び自動車内外装部材に使用されている。
【0003】
近年、地球環境の保全の観点から、ポリ塩化ビニル樹脂についても、そのリサイクルが推進されている。例えば、特許文献1,2は、廃タイルカーペットから再生タイルカーペットを製造する方法を開示している。タイルカーペットは、パイル糸で構成されるパイル層と、パイル糸の一部が埋め込まれている下地層(「裏打ち層」とも称される。)とを備え、下地層にポリ塩化ビニル及び可塑剤が配合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-206317号公報
【特許文献2】特開2011-50729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリ塩化ビニル製品から得られる再生ポリ塩化ビニル樹脂は、バージンのポリ塩化ビニル樹脂と比較して加工性に劣り且つ製品の品質も必ずしも満足できるものではないことが知られている(例えば、特許文献1段落[0006]参照)。このため、再生ポリ塩化ビニル樹脂の利用は特定の製品に限定されるにとどまっている。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ポリ塩化ビニル含有製品から汎用性の高い再生ポリ塩化ビニル樹脂を製造する方法を提供する。また、本開示は、ポリ塩化ビニル樹脂のリサイクル方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリ塩化ビニル樹脂のリサイクルについて検討している過程において、ポリ塩化ビニル樹脂製品に含まれる可塑剤が再生ポリ塩化ビニル樹脂の加工性を低下させる一因であることを見出し、以下の発明を完成させるに至った。
【0008】
本開示に係る再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法は以下の工程を含む。
(A)ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む被処理物を準備する工程。
(B)可塑剤の揮発温度よりも高く且つ205℃以下の温度で被処理物を加熱処理することによって被処理物に含まれる可塑剤の量を低減させる工程。
上記被処理物は、粒径5mm以下の破砕物、又は、厚さ1mm以下の断片である。
【0009】
上記製造方法によれば、(B)工程において、可塑剤の揮発温度よりも高い温度に被処理物を加熱することで、可塑剤の量が低減されたポリ塩化ビニル樹脂を得ることができる。また、加熱温度を205℃以下とすることで、ポリ塩化ビニル樹脂の熱分解を抑制でき、再生ポリ塩化ビニル樹脂の熱による劣化及び塩素の発生を抑制できる。(A)工程において、被処理物を所定のサイズ(粒径又は厚さ)とすることで、(B)工程の加熱処理を効率的に実施することができる。
【0010】
(B)工程前の被処理物に含まれる可塑剤の量を100質量部とすると、(B)工程後の被処理物に含まれる可塑剤の量が10質量部以下となるように、(B)工程において加熱処理を実施することが好ましい。被処理物に含まれる可塑剤の量をこの程度にまで低減することで、優れた性質の再生ポリ塩化ビニル樹脂、換言すれば、バージンのポリ塩化ビニル樹脂に十分に近い再生ポリ塩化ビニル樹脂を得ることができる。
【0011】
(B)工程の加熱処理を大気圧下で実施する場合、(B)工程は被処理物の温度を150~200℃に保持することを含むことが好ましい。所定の温度に保持する時間は、その温度(保持温度)や可塑剤を低減すべきレベルに応じて設定すればよい。
【0012】
(B)工程の加熱処理を、-100~-20kPa(ゲージ圧)の減圧下で実施する場合、(B)工程は被処理物の温度を150~180℃に保持することを含むことが好ましい。所定の温度に保持する時間は、その温度(保持温度)や可塑剤を低減すべきレベルに応じて設定すればよい。
【0013】
(B)工程における加熱処理の条件は、例えば、可塑剤の種類に応じて適宜設定すればよい。被処理物に可塑剤として含まれ得る化合物は以下のとおりである。
・フタル酸ジ-n-ブチル(DBP、沸点:340℃、蒸気圧:1700Pa、25℃における蒸気圧:5.9×10-3Pa)
・フタル酸ジオクチル(DOP、沸点:386℃、200℃における蒸気圧:160Pa、68℃における蒸気圧:6.7×10-3Pa)
・フタル酸ジイソノニル(DINP、沸点:403℃、200℃における蒸気圧:80Pa、20℃における蒸気圧:6×10-5Pa)
・フタル酸ジイソデシル(DIDP、沸点:420℃、200℃における蒸気圧:53Pa、25℃における蒸気圧:5.1×10-5Pa)
・アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA、沸点:335℃、200℃における蒸気圧:310Pa、20℃における蒸気圧:1.0×10-4Pa)
・アジピン酸ジイソノニル(DINA、沸点:>250℃、200℃における蒸気圧:120Pa、20℃における蒸気圧:<0.1HPa)
・トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(TOTM、沸点:414℃、100℃における蒸気圧:<2.8×10-4Pa)
・リン酸トリクレジル(TCP、沸点:410℃、200℃における蒸気圧:74.7Pa)
【0014】
上記化合物(可塑剤)のうち、沸点及び蒸気圧の点から、(B)工程において塩素の発生を抑制しつつ、含有量を十分に低減できるものは、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)であると言える。なお、これらの化合物は、ポリ塩化ビニル製品において可塑剤として広く使用されている。
【0015】
上記製造方法は、(B)工程の前に、被処理物に含まれる可塑剤の揮発温度を把握する工程を含んでもよい。この工程を実施することで、(B)工程における加熱処理の条件を好適なものに設定しやすいという利点ある。なお、可塑剤の揮発温度は、可塑剤の種類(化合物)を特定することによって把握してもよいし、被処理物を熱分析することによって把握してもよい。
【0016】
上記被処理物は、例えば、タイルカーペットから得られる破砕物である。この破砕物は、例えば、以下のステップを経て得られるものである。
(a1)パイル糸で構成されるパイル層と、パイル糸の一部が埋め込まれており且つポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを少なくとも含む下地層とを備えるタイルカーペットを破砕するステップ。
(a2)タイルカーペットの破砕物から、下地層の破砕物である被処理物を選別するステップ。
【0017】
本開示に係るポリ塩化ビニル樹脂のリサイクル方法は、上記方法によって製造された再生ポリ塩化ビニル樹脂を、ポリ塩化ビニル含有製品の原料の少なくとも一部として使用するものである。上記方法によって製造された再生ポリ塩化ビニル樹脂をタイルカーペットの原料の少なくとも一部として使用してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、ポリ塩化ビニル含有製品から汎用性の高い再生ポリ塩化ビニル樹脂を製造する方法が提供される。また、本開示によれば、ポリ塩化ビニル樹脂のリサイクル方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1はタイルカーペットの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態に係る再生ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法は以下の工程を含む。
(A)ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む被処理物を準備する工程。
(B)可塑剤の揮発温度よりも高く且つ205℃以下の温度で被処理物を加熱処理することによって被処理物に含まれる可塑剤の量を低減させる工程。
上記被処理物は、粒径5mm以下の破砕物、又は、厚さ1mm以下の断片である。
【0022】
この製造方法によれば、(B)工程において、可塑剤の揮発温度よりも高い温度に被処理物を加熱することで、可塑剤の量が低減されたポリ塩化ビニル樹脂を得ることができる。また、加熱温度を205℃以下とすることで、ポリ塩化ビニル樹脂の熱分解を抑制でき、再生ポリ塩化ビニル樹脂の熱による劣化及び塩素の発生を抑制できる。(A)工程において、被処理物を所定のサイズとすることで、(B)工程の加熱処理を効率的に実施することができる。
【0023】
以下、タイルカーペットから再生ポリ塩化ビニル樹脂を製造する場合を例に挙げて本実施形態について説明する。
図1に示すタイルカーペット10は、パイル糸で構成されるパイル層1と、パイル糸の一部が埋め込まれている下地層3とを備える。本実施形態における下地層3は二層構造を有し、パイル層1と接している中間層3aと、基材層3bとによって構成されている。中間層3aの厚さは、例えば、1~2mmである。基材層3bの厚さは、例えば、1~2mmである。下地層3の厚さ(中間層3aと基材層3bの厚さの合計)は、例えば、2~4mmである。なお、タイルカーペット10は、製造過程で生じる裁断端材であっても、一般家庭又はオフィスから廃棄処分に供される使用済みのものであってもよい。
【0024】
パイル層1は繊維材料からなるパイル糸で構成されている。繊維材料は合成繊維であっても天然繊維であってもよい。合成繊維として、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維及びアクリル繊維が挙げられる。天然繊維として、例えば、麻、綿、羊毛が挙げられる。パイル層1は、例えば、経パイル織又は緯パイル織の製織によって形成される。パイル層1は、例えば、タフティングマシンを使用してパイル糸を植毛することによって形成してもよいし、接着剤を使用してパイル糸を接着することによって形成してもよい。パイル形態は、カットパイル及びループパイルのいずれであってもよい。
【0025】
中間層3aは、パイル層1と基材層3bによって挟まれている。中間層3aは、パイル糸の一部が埋め込まれておりパイル層1を固定する役割と、パイル層1と基材層3bとを貼り合わせる役割とを果たしている。中間層3aは、ポリ塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、充填剤とを含む組成物からなり、樹脂繊維(例えば、PET繊維)が内包されている。可塑剤はポリ塩化ビニル樹脂に柔軟性を付与するためのものである。充填剤は、例えば、タイルカーペット10の寸法安定性を向上させるためのものである。樹脂繊維はパイル層1のパイル糸を結い付けるためのものである。
【0026】
可塑剤として、例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(TOTM)及びリン酸トリクレジル(TCP)が挙げられる。これらのうち、沸点及び蒸気圧の点から、(B)工程において塩素の発生を抑制しつつ、含有量を高度に低減できるものは、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)及びアジピン酸ジイソノニル(DINA)である。
【0027】
充填剤として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム及びガラス粉末が挙げられる。これらのうち、経済性及び加工性の点から、炭酸カルシウムが好ましい。
【0028】
基材層3bは、タイルカーペット10の裏面を構成している。基材層3bは、ポリ塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、充填剤とを含む組成物からなる。可塑剤は、中間層3aに含まれるものと同様のものであればよい。
【0029】
(A)工程において準備する被処理物は、タイルカーペット10から得られる破砕物である。この破砕物は、以下のステップを経て得ることができる。
(a1)タイルカーペット10を破砕するステップ。
(a2)タイルカーペット10の破砕物から、下地層3の破砕物を選別するステップ。
【0030】
(a1)ステップにおけるタイルカーペット10の破砕は、公知の破砕装置又は裁断装置を使用して実施すればよい。被処理物が断片状である場合、被処理物の厚さは1mm以下である。下限は特に制限はないが、公知の破砕装置又は裁断装置の能力も考慮し、0.1mm以上が好ましい。タイルカーペット10の断片の平面視での面積円相当径は、特に制限はないが、製造装置での取り扱いも含めた観点から、好ましくは12mm以下であり、より好ましくは8mm以下であり、更に好ましくは5mm以下である。被処理物である破片の上記面積円相当径が12mm以下であることで、(B)工程における加熱処理時間を短縮化できる。なお、タイルカーペット10の破砕処理の効率化の観点から、上記面積円相当径の下限値は、0.5mmが好ましい。破片の厚さは、下地層3の厚さ以下(例えば、4mm以下)であり、好ましくは0.5~3mmであり、より好ましくは0.5~2mmである。
【0031】
(a1)ステップにおいて、タイルカーペット10をより細かく破砕(粉砕)することによって、粉状又は粒状の被処理物を調製してもよい。タイルカーペット10の粉砕は、公知の粉砕装置を使用して実施すればよい。この場合、被処理物の粒径は5mm以下であり、好ましくは3mm以下であり、より好ましくは2mm以下である。特に、被処理物の粒径が2mm以下であることで、(B)工程における加熱処理時間をより一層短縮化できる。被処理物の粒径の下限値は、例えば、0.5mmである。被処理物の粒径が0.5mm以上であることで、被処理物が過度に嵩張って取り扱い性が低下することを抑制できる傾向にある。なお、被処理物の粒径は目開きサイズの互いに異なる複数の篩を準備し、被処理物が篩を通過するか否かで把握することができる。
【0032】
(a2)工程における下地層3の破砕物の選別は、例えば、風力分離によって実施することができる。これにより、被処理物から繊維材料を十分に除去することができる。
【0033】
(B)工程において、被処理物を加熱処理することによって被処理物に含まれる可塑剤の量を低減させる。加熱処理の温度は、可塑剤の揮発温度よりも高ければよく、処理時間の短縮化の観点から、可塑剤の揮発温度よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。加熱処理の温度は、ポリ塩化ビニル樹脂の劣化抑制の観点から、205℃以下であり、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは190℃以下である。
【0034】
(B)工程における加熱処理の条件は以下を目安に可塑剤の種類に応じて設定すればよい。すなわち、(B)工程前の被処理物に含まれる可塑剤の量を100質量部とすると、(B)工程後の被処理物に含まれる可塑剤の量が10質量部以下となるように、(B)工程において加熱処理を実施することが好ましい。被処理物に含まれる可塑剤の量をこの程度にまで低減することで、優れた性質の再生ポリ塩化ビニル樹脂、換言すれば、バージンのポリ塩化ビニル樹脂に十分に近い再生ポリ塩化ビニル樹脂を得ることができる。
【0035】
被処理物に含まれる可塑剤の種類が不明である場合、(B)工程の前に、被処理物に含まれる可塑剤の揮発温度を把握する工程を実施してもよい。この工程を実施することで、(B)工程における加熱処理の条件を好適なものに設定しやすいという利点ある。なお、可塑剤の揮発温度は、可塑剤の種類(化合物)を特定することによって把握してもよいし、被処理物を熱分析することによって把握してもよい。
【0036】
(B)工程の加熱処理は大気圧下で実施してもよいし、減圧下で実施してもよい。大気圧下で実施する場合、一般的な加熱炉で処理を実施できるという利点がある。他方、減圧下で実施する場合、処理時間を短縮化できるとともに、加熱温度を低温化できるという利点がある。
【0037】
加熱処理を大気圧下で実施する場合、(B)工程は被処理物の温度を150~200℃に保持することを含むことが好ましい。(B)工程の加熱処理を減圧下で実施する場合、(B)工程は被処理物の温度を150~180℃に保持することを含むことが好ましい。減圧条件は、例えば、-100~-20(ゲージ圧)であり、好ましくは-100~-50kPa(ゲージ圧)であり、より好ましくは-100~-80kPa(ゲージ圧)である。
【0038】
(A)工程及び(B)工程を経て再生ポリ塩化ビニル樹脂を得ることができる。この再生ポリ塩化ビニル樹脂は、可塑剤の量が十分に低減されており且つ熱による劣化が抑制されているため、バージンのポリ塩化ビニル樹脂に近く、種々の製品に適用可能である。すなわち、この再生ポリ塩化ビニル樹脂はリサイクル可能であり、ポリ塩化ビニル含有製品の原料の少なくとも一部として使用することができる。この再生ポリ塩化ビニル樹脂とバージンのポリ塩化ビニル樹脂とを併用して製品を製造してもよい。タイルカーペット10から得られた再生ポリ塩化ビニル樹脂をタイルカーペットの原料の少なくとも一部として再利用してもよい。
【0039】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、二層構造の下地層を有するタイルカーペットを例示したが、下地層は単層であっても、三層以上の積層構造であってもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、タイルカーペットから再生ポリ塩化ビニル樹脂を製造する場合を例示したが、タイルカーペットに限られず、ポリ塩化ビニル樹脂を含む製品(例えば、可撓性フィルム、ホース及び自動車内外装部材)から再生ポリ塩化ビニル樹脂を製造することができる。
【実施例0041】
以下、本開示について実施例及び比較例によって説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
再生ポリ塩化ビニル樹脂を製造するため、以下の廃タイルカーペットを準備した。
<廃タイルカーペット>
・層構成:パイル層/中間層(下地層)/基材層(下地層)
・下地層(中間層/基材層)の組成
ポリ塩化ビニル樹脂(PVC):20質量部(塩素量:10質量部)
可塑剤(フタル酸ジオクチル、DOP):15質量部
炭酸カルシウム(CaCO3):60質量部
炭酸カルシウム以外の充填剤:僅かな量
【0043】
<被処理物の調製>
上記廃タイルカーペットからパイル層を除去した後、下地層(厚さ:1mm)を以下のサイズに切断することによって被処理物1~3をそれぞれ調製した。
・被処理物1:1mm角×1mm厚のサイズの切断片群(目開きサイズ1.18mmの篩を通り、目開きサイズ0.85mm篩を通らないものであって、粒径1mm程度の粒子群を模したもの)
・被処理物2:10mm角×1mm厚のサイズの切断片群(目開きサイズ11.2mmの篩を通り、目開きサイズ9.5mm篩を通らないものであって、面積円相当径12mm程度の断片群を模したもの)
・被処理物3:1~2mm角×1mm厚のサイズの切断片群(目開きサイズ2.00mmの篩を通り、目開きサイズ1.00mm篩を通らないものであって、粒径1.5mm程度の粒子群を模したもの)
【0044】
(実施例1)
熱重量測定装置(TG装置)に空気を模した気体(O2:21体積%、N2:79体積%)を供給しながら、大気圧下において、被処理物1を170℃で2時間にわたって加熱した。これにより、可塑剤の量が低減された再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0045】
(実施例2)
被処理物1を180℃で2時間にわたって加熱したことの他は、実施例1と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0046】
(実施例3)
被処理物1を190℃で2時間にわたって加熱したことの他は、実施例1と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0047】
(実施例4)
被処理物1を200℃で2時間にわたって加熱したことの他は、実施例1と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0048】
(実施例5)
被処理物1を150℃で2時間にわたって加熱したことの他は、実施例1と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0049】
(比較例1)
被処理物1を210℃で2時間にわたって加熱したことの他は、実施例1と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0050】
(比較例2)
被処理物1を220℃で2時間にわたって加熱したことの他は、実施例1と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0051】
(比較例3)
被処理物1を250℃で2時間にわたって加熱したことの他は、実施例1と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0052】
表1に実施例1~5及び比較例1~3の熱分析結果を示す。実施例1~5では塩素の発生はほとんど認められなかったため、重量減少は主に可塑剤によるものであると推察される。加熱温度が210℃以上(保持時間2時間)であると、ポリ塩化ビニル樹脂の熱分解による塩素の発生が認められた。重量減少率は下記式から求めた。
重量減少率(%)=(加熱前の被処理物1の重量-加熱後の被処理物1の重量)/(加熱前の被処理物1の重量)×100
【0053】
【0054】
(実施例6)
箱型電気炉を使用し、大気圧下において、被処理物2を190℃で2時間にわたって加熱した。これにより、可塑剤の量が低減された再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0055】
(実施例7)
被処理物2を190℃で3時間にわたって加熱したことの他は、実施例6と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0056】
(実施例8)
被処理物2を190℃で4時間にわたって加熱したことの他は、実施例6と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0057】
(実施例9)
被処理物2を190℃で6時間にわたって加熱したことの他は、実施例6と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0058】
表2に実施例6~9の分析結果を示す。実施例6~9では塩素の発生はほとんど認められなかったため、重量減少は主に可塑剤によるものであると推察される。以下の表における「可塑剤量」は再生ポリ塩化ビニル樹脂における可塑剤の残存量である。この可塑剤の残存量はガスクロマトグラフを使用して測定した。なお、加熱処理前の可塑剤量は、上述のとおり、15質量部であった。また、重量減少率は下記式から求めた。
重量減少率(%)=(加熱前の被処理物2の重量-加熱後の被処理物2の重量)/(加熱前の被処理物2の重量)×100
【0059】
【0060】
(実施例10)
箱型電気炉を使用し、大気圧下において、被処理物3を190℃で2時間にわたって加熱した。これにより、可塑剤の量が低減された再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0061】
(実施例11)
被処理物3を190℃で3時間にわたって加熱したことの他は、実施例10と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0062】
(実施例12)
被処理物3を190℃で4時間にわたって加熱したことの他は、実施例10と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0063】
(実施例13)
被処理物3を190℃で6時間にわたって加熱したことの他は、実施例10と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0064】
表3に実施例10~13の分析結果を示す。実施例10~13では塩素の発生はほとんど認められなかったため、重量減少は主に可塑剤によるものであると推察される。以下の表における「塩素量」は再生ポリ塩化ビニル樹脂における塩素の残存量である。この塩素の残存量は自動燃焼ハロゲン硫黄分析システムを使用して測定した。なお、加熱処理前の塩素量は、上述のとおり、10質量部であった。また、重量減少率は下記式から求めた。
重量減少率(%)=(加熱前の被処理物3の重量-加熱後の被処理物3の重量)/(加熱前の被処理物3の重量)×100
再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物(加熱後の被処理物3)における可塑剤の残存量はガスクロマトグラフを使用して測定した。
【0065】
【0066】
(実施例14)
管状炉を使用し、大気圧下において、被処理物3を170℃で2時間にわたって加熱した。これにより、可塑剤の量が低減された再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0067】
(実施例15)
被処理物3を170℃で3時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0068】
(実施例16)
被処理物3を170℃で4時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0069】
(実施例17)
被処理物3を170℃で6時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0070】
(実施例18)
被処理物3を170℃で8時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0071】
(実施例19)
被処理物3を170℃で9時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0072】
(実施例20)
被処理物3を170℃で10時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0073】
(実施例21)
被処理物3を170℃で12時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0074】
(実施例22)
被処理物3を170℃で15時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0075】
(実施例23)
被処理物3を170℃で18時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0076】
(実施例24)
被処理物3を170℃で24時間にわたって加熱したことの他は、実施例14と同様にして再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0077】
表4に実施例14~24の分析結果を示す。実施例14~24では塩素の発生はほとんど認められなかったため、重量減少は主に可塑剤によるものであると推察される。以下の表における「-」は測定未実施であることを意味する。再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物(加熱後の被処理物3)における可塑剤の残存量はガスクロマトグラフを使用して測定した。また、重量減少率は下記式から求めた。
重量減少率(%)=(加熱前の被処理物3の重量-加熱後の被処理物3の重量)/(加熱前の被処理物3の重量)×100
【0078】
【0079】
(実施例25)
ガラス容器及びオイルバスを使用し、大気圧下において、被処理物3を170℃で2時間にわたって加熱した。これにより、可塑剤の量が低減された再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0080】
(実施例26)
ガラス容器及びオイルバスを使用し、-95kPa(ゲージ圧)の減圧下において、被処理物3を170℃で1時間にわたって加熱した。これにより、可塑剤の量が低減された再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0081】
(実施例27)
ガラス容器及びオイルバスを使用し、-95kPa(ゲージ圧)の減圧下において、被処理物3を170℃で2時間にわたって加熱した。これにより、可塑剤の量が低減された再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0082】
(実施例28)
ガラス容器及びオイルバスを使用し、-95kPa(ゲージ圧)の減圧下において、被処理物3を170℃で4時間にわたって加熱した。これにより、可塑剤の量が低減された再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物を得た。
【0083】
表5に実施例25~28の分析結果を示す。実施例25~28では塩素の発生はほとんど認められなかったため、重量減少は主に可塑剤によるものであると推察される。なお、再生ポリ塩化ビニル樹脂を含む組成物(加熱後の被処理物3)における可塑剤の残存量はガスクロマトグラフを使用して測定した。また、重量減少率は下記式から求めた。
重量減少率(%)=(加熱前の被処理物3の重量-加熱後の被処理物3の重量)/(加熱前の被処理物3の重量)×100
【0084】