(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037714
(43)【公開日】2022-03-09
(54)【発明の名称】放射能汚染物質の安定減容化材、および放射能汚染物質の安定減容化方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/30 20060101AFI20220302BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20220302BHJP
G21F 9/16 20060101ALI20220302BHJP
G21F 9/32 20060101ALI20220302BHJP
B09B 3/20 20220101ALI20220302BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20220302BHJP
B09B 3/25 20220101ALI20220302BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20220302BHJP
B09B 3/50 20220101ALI20220302BHJP
B09C 1/06 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
G21F9/30 515F
G21F9/28 Z
G21F9/16 521F
G21F9/30 531M
G21F9/32 A
G21F9/32 F
B09B3/00 301H
B09B3/00 ZAB
B09B3/00 301M
B09B3/00 301R
B09B3/00 301S
B09B3/00 303J
B09B3/00 303L
B09B3/00 303M
B09B3/00 303N
B09B3/00 303P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141983
(22)【出願日】2020-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】520325234
【氏名又は名称】山形商事有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100213746
【弁理士】
【氏名又は名称】川成 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100221752
【弁理士】
【氏名又は名称】古川 雅与
(72)【発明者】
【氏名】久保田 亨
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AA41
4D004AA46
4D004AA50
4D004AB09
4D004CA04
4D004CA14
4D004CA22
4D004CA28
4D004CB13
4D004CB33
4D004CB50
4D004CC13
(57)【要約】
【課題】通常は廃棄される都市ゴミ等の焼却灰を有効利用することで、放射性物質で汚染されたトリチウム水や汚染土壌を、運搬および保管等に適した形に固形化することで、安定減容化を可能とする放射能汚染物質の安定減容化材および安定減容化方法を提供する
【解決手段】金属元素を含有する焼却灰を、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、低酸素還元雰囲気中で加熱処理することにより放射能汚染物質の安定減容化材を製造し、処理対象である放射能汚染物質に、前記の放射能汚染物質の安定減容化材を、添加し混合することによって、放射能汚染物質を安定減容化できるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素を含有する焼却灰を、
内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、
低酸素還元雰囲気中で加熱処理することにより放射能汚染物質の安定減容化材を製造し、
処理対象である放射能汚染物質に、前記の放射能汚染物質の安定減容化材を、
添加し混合することを特徴とする放射能汚染物質の安定減容化方法。
【請求項2】
金属元素を含有する焼却灰を、
内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、
低酸素還元雰囲気中で加熱処理することにより放射能汚染物質の安定減容化材を製造し、
処理対象である放射能汚染物質に、前記の放射能汚染物質の安定減容化材を加え、
更にセメントを加えて混練した後に、
乾燥固化させることを特徴とする請求項1に記載の放射能汚染物質の安定減容化方法。
【請求項3】
処理対象である放射能汚染物質に、
前記の放射能汚染物質の安定減容化材を加え、更にセメントを加えて混練した後に、乾燥固化させて固化生成物とし、
該固化生成物を粉砕した微粉末を、
内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、
低酸素還元雰囲気中で加熱処理することを特徴とする請求項1または2に記載の放射能汚染物質の安定減容化方法。
【請求項4】
処理対象である放射性汚染物質が、
放射能汚染土壌もしくはトリチウム汚染水であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項の記載の放射能汚染物質の安定減容化方法。
【請求項5】
金属元素を含有する焼却灰を、
内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、
低酸素還元雰囲気中で加熱処理することにより製造したことを特徴とする放射能汚染物質の安定減容化材。
【請求項6】
都市ゴミの焼却灰を、
内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、
低酸素雰囲気あるいは還元雰囲気中で加熱処理することを特徴とする放射能汚染物質の安定減容化材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能汚染物質の安定減容化方法に関するものであり、通常は廃棄される都市ゴミ等の焼却灰を有効利用すると共に、放射性物質で汚染された汚染土壌や汚染水を運搬および保管等に適した形に固形化可能となる、放射能汚染物質の安定減容化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災時に発生した福島第一原子力発電所の事故により、原子炉内で燃料デブリとなった放射線物質が冷却水に触れることで汚染水が生じた。この汚染水は、原子炉建屋内など広範囲に広がったばかりでなく、地下水が流入したこと等により汚染水の量が日々増大し続ける事態となっている。汚染水には、炉心物質が溶出した放射性物質であるセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131、トリチウム(三重水素)といった種々の放射性核種が多く含まれている。このうち短寿命核種は時間とともに消滅していくが、半減期の長いものは消滅までに長い期間が必要となるためなんらかの処理をおこなって無害化する必要がある。
【0003】
その対策として、前浄化設備を用いて汚染水からセシウム、ストロンチウムを低減した後に、多核種設備(ALPS)により放射性物質を除去する処理がおこなわれている。ALPS処理により、核種のうちのほとんどは、放出可能とされる法律で定められた告示濃度限界値以下にまで除去されている。しかし、放射性物質のうちトリチウムは、このALPSを用いても取り除くことができない。このため、ALPS処理後のトリチウム残存水はトリチウム水とも呼ばれている。トリチウム水は、トリチウムが残存しているためそのまま放出することができず、現段階では福島第一原子力発電所敷地内の貯蔵タンクに入れて保管する措置がとられている。しかし、上述のように汚染水に地下水が流入することでALPSで処理せねばならない汚染水は日々増大し続けるため、ALPS処理後のトリチウム水を貯蔵するための多数のタンクが敷地内に設置される事態となっている。膨大な貯蔵タンクの存在は、管理コストが膨らむのみならず用地圧迫にも繋がり、廃炉作業のためのスペース確保にも悪影響を与えている。もはや貯蔵限界を迎えたこのトリチウム水をどう処分すべきか多くの議論がなされ社会問題となっていることはよく知られているところである。
【0004】
トリチウムは、三重水素とも呼ばれる水素の放射性同位体であり、β線を放出してヘリウム3に変わる。半減期は12.33年である。トリチウムから放出されるβ線は非常にエネルギーの低いものではあるが、人体内に水として取り込まれる性質があることから「人体に取り込まれ易いが、また出ても行き易い」放射性物質と言われる。この点は同じ放射性物質であるセシウム137やストロンチウム90、ヨウ素131とは大きく異なる点である。溶融炉心のデブリ(瓦礫)の冷却水は、ホウ素を混入させた水が用いられるが、水に含まれているわずかな重水素とホウ素に中性子が放射されることによりトリチウムが発生する。このため、溶融炉の冷却に水を使用する限りトリチウムが発生することになる。そして、水素の放射性同位体であることから、水素とトリチウムは化学的性質がほぼ同じであり、加えてトリチウムは水分子の一部となって存在するため、イオン化して水に溶けているセシウム等の他の放射性物資とは異なり、トリチウムを取りこんだ水分子のみ分離することは極めて困難である。特に、汚染水をALPSで処理した後のいわゆるトリチウム水に含まれているトリチウムは極微量であるため、これを取り出すには膨大なエネルギーとコストが必要となり現実的ではないとされている。
【0005】
しかし、原発敷地内に貯蔵タンクを新たに設置する余地がなくなっていく中、何らかの形でトリチウム水を処理することは急務となっている。これまでにも多種多様なトリチウム水の処理方法が提案されているが、それらは大がかりな装置を必要とするものが多かった。そんな中、吸水性ポリマー中にトリチウムを濃縮して一定期間保管する減容化方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、吸水性ポリマー中に濃縮する方法では、濃縮されたトリチウム水を含む吸水性ポリマーの放射線量が規制値を超えるため、保管には厳重な管理が必要となる。トリチウム水の処理は前述のように急務であり、大がかりな装置を必要としない簡便な方法で手軽に多量の汚染水を素早く安価に処理でき、かつ処理後に安定・安全な処分もしくは保管や運搬が可能となる処理方法が求められている。本発明は、以上のような事情を鑑み、通常は廃棄される都市ゴミ等の焼却灰を有効利用することで、放射性物質で汚染された汚染水を、運搬および保管等に適した形に固形化することを可能とする放射能汚染物質の安定減容化材および安定減容化方法を提供するものである。また同時に、トリチウム水と同様に各地でその処理および保管が社会問題となっている汚染土壌、すなわち、原発事故によって放出されたセシウム等の放射性物質により汚染された土地を除染する過程で大量に生じた汚染土壌についても同様に安定減容化できる安定減容化材およびその方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、金属元素を含有する焼却灰を内壁がセラミック加工された焼却炉を用いて加熱することにより安定減容化材を製造し、当該安定減容化材に処理対象となる放射能汚染物質を混合することで安定的に減容化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の放射能汚染物質の安定減容化方法の発明は、金属元素を含有する焼却灰を、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、低酸素還元雰囲気中で加熱処理することにより放射能汚染物質の安定減容化材を製造し、処理対象である放射能汚染物質に当該安定減容化材を添加し混合することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の放射能汚染物質の安定減容化方法の発明は、請求項1に記載の発明において、処理対象である放射能汚染物質に放射能汚染物質の安定減容化材を加え、更にセメントを加えて混練した後に乾燥固化させることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の放射能汚染物質の安定減容化方法の発明は、請求項1または2に記載の発明において、処理対象である放射能汚染物質に放射能汚染物質の安定減容化材を加え、更にセメントを加えて混練した後に乾燥固化させて固化生成物とし、当該固化生成物を粉砕した微粉末を、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて低酸素還元雰囲気中で加熱処理することを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の放射能汚染物質の安定減容化方法の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明において、処理対象である放射性汚染物質が、放射能汚染土壌もしくはトリチウム汚染水であることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載の放射能汚染物質の安定減容化材の発明は、金属元素を含有する焼却灰を、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて低酸素還元雰囲気中で加熱処理することにより製造したことを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載の放射能汚染物質の安定減容化材の製造方法の発明は、都市ゴミの焼却灰を、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて低酸素雰囲気あるいは還元雰囲気中で加熱処理することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の放射能汚染物質の安定減容化方法によれば、通常は廃棄される焼却灰を有効利用して、簡便で手軽な方法で多量の汚染水を素早く安価に、保管や運搬に適した安定的固化物にすることができる。このため、現在、社会問題化している多量のトリチウム水を効率的に処理できることが期待できるものである。また、本発明の方法による処理対象は汚染水に限られず、汚染土壌のような固形物である汚染物質の処理も可能なものであり、汚染濃度が高い場合には本発明の方法を繰り返すことで放射線濃度を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に用いる遠赤外線触媒還元装置の一形態について、装置全体を示す側面図である。
【
図2】本発明に用いる遠赤外線触媒還元装置の一形態について、装置の処理槽を示す図であり、(a)は側面から見た内部構造を示す断面図(b)は上から見た内部構造を示す断面図である。
【
図3】本発明に用いる遠赤外線触媒還元装置の一形態について、装置の加熱装置部を示す図であり、(a)は側面から見た内部構造を示す断面図(b)は上から見た内部構造を示す断面図である。
【
図4】本発明に用いる遠赤外線触媒還元装置の一形態について、装置の下部ホッパー部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は内部構造を示す断面図である。
【
図5】処理前の放射能汚染土壌のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図6】処理後の焼却灰のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図7】処理前の放射能汚染土壌のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図8】処理後の焼却灰のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図9】処理前の放射能汚染土壌のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図10】処理後の焼却灰のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図11】処理前の放射能汚染土壌のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図12】処理後の焼却灰のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図13】処理前の放射能汚染土壌のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【
図14】処理後の焼却灰のγ線スペクトルを示す(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態における放射能汚染物質の安定減容化材は、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、金属元素を含有する焼却灰を、低酸素還元雰囲気中で加熱処理することで製造される。そして、処理対象となる放射性汚染物質に、この放射能汚染物質の安定減容化材と、セメントと固化剤を加えて混練し、乾燥固化させることで、放射能汚染物質を安定的に減容化することができるものである。これにより、放射能汚染物質を運搬および保管等に適した形に固化することができるため、管理負担を大幅に軽減することが可能となる。また、放射能汚染物質を当該方法により固化させることで得られた固化生成物は、粉砕して微粉末状態とし、ふたたび前記の遠赤外線触媒還元装置を用いて、低酸素還元雰囲気中で加熱処理をおこなうことで、放射線量を低減させて、安定再生資源として用いることが可能となる。
【0018】
本発明の実施形態における放射能汚染物質の安定減容化方法は、大きく分けて2つの工程に分けることができる。まず、本発明の放射能物質の安定減容化材を製造する工程である。以下、この製造工程を、説明の便宜上、工程Iとする場合がある。この工程Iは、上述のように、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置(以下、単に遠赤外線触媒還元装置とする場合もある)を用いて、金属元素を含有する焼却灰を、低酸素還元雰囲気中で加熱処理することで、安定減容化材を製造する工程である。そして、次の工程は、工程Iで製造された安定減容化材を用いて、放射能汚染物質を安定的に減容化する工程である。以下、この安定減容化工程を、説明の便宜上、工程IIとする場合がある。工程IIは、処理対象である放射性汚染物質に、工程Iで製造した安定減容化材と、セメントと固化剤を加えて混練し乾燥固化させることで固化生成物として、放射能汚染物質を安定的に減容化させる工程である。更に次の工程として、工程IIで作成された固化生成物に対してふたたび工程Iと同様の処理をおこなうことによって、放射能汚染物質をより安定化させる工程である。以下、以下、この更なる安定化工程を、説明の便宜上、工程IIIとする場合がある。工程IIIは、工程IIで製造された固化生成物を微粉末状に粉砕して、ふたたび工程Iの工程を繰り返して処理する工程がある。工程IIIは、放射能汚染物質をより安定に、かつ放射線量を大幅に低減させる必要があるときに、必要に応じておこなわれる工程である。
【0019】
出願人はこれまでにも、有害物質を含む廃棄物等を固化生成物として安定に保管するための処理方法を種々提案してきた(特許3814337号、特許3854337号等)。固化生成物とすることで、液状態の場合よりも保管に際しての安定性や安全性は増し、また移動させる場合の安定性・安全性も高まる。更に、固化生成物の形とすることで、粉砕等の二次処理が可能となるためリサイクル利用の可能性も高まることとなる。以下、本発明の放射能汚染物質の安定減容化材および、それを用いた放射能汚染物質の安定減容化方法について、前述したように大きく工程Iから工程IIIに分けて詳述する。
【0020】
本発明の処理方法のうち、放射能汚染物質の安定減容化材を製造する工程である工程Iについて説明する。
工程Iにより製造される本発明の放射能汚染物質の安定減容化材は、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置を用いて、金属元素を含有する焼却灰を外気と絶縁された低酸素状態の空間における還元雰囲気中で、一定温度を一定時間維持して加熱処理することにより、金属元素の焼却灰を無害化処理することで製造されるものである。この加熱処理は触媒存在下でおこなうことが望ましい。
【0021】
加熱処理に際して、外部よりセラミック加工された内壁に熱が加えられることにより、セラミックから遠赤外線が射出されることとなる。遠赤外線は電磁波の一種であり、電磁波とは電場と磁場が交互に押し寄せる波であり、このうち0.75 ~1000 マイクロ・メーター(μm)の波長領域のものは赤外線と呼ばれ、特に3 ~ 1000μm の波長領域のものは遠赤外線と呼ばれる。
【0022】
遠赤外線は加熱作用を有しており、これは物質自体の分子運動や結晶格子振動等の熱振動が、遠赤外線を吸収することで激しくなることにより熱を発生させる性質によるものである。高分子物質や食品等の有機物は、遠赤外線をよく吸収する性質を持っており、吸収された遠赤外線は前述の加熱作用により物質を内部から温める作用を持つ。
【0023】
この波長域は多くの物質(金属は除く)に吸収されやすい性質を持っており、炭酸ガスCO2 や水蒸気H2Oは遠赤外線を吸収する性質を持っている。遠赤外線の加熱作用は、電気極性を持つ分子(水分子)などに振動エネルギーを与えて運動を活発化させる運動エネルギーを与えることによるものであり、遠赤外線エネルギーを得た分子は加速して他の分子と衝突し、衝突により熱に変わるが、遠赤外線そのものは熱ではなく、相手分子に自己発熱をさせる電磁波である。このように、有機物に吸収されやすい遠赤外線は、吸収されることで熱に変わって物質の深部に伝わり内部を温める作用を有する。
【0024】
本発明の放射能汚染物質の安定減容化材の製造に用いる、内壁がセラミック加工された焼却炉を有する遠赤外線触媒還元装置について図を参照しつつ説明する。遠赤外線触媒還元装置の一実施形態について
図1~4に示した。本実施形態はあくまでも一例であり、本発明の遠赤外線触媒還元装置はこれに限定されるものではない。
図1は遠赤外線触媒還元装置1の全体を示す図である。装置は大きく分けて、
図2および
図3に示した焼却炉2部分と、
図4に示した下部ホッパー3から成る。焼却炉2の部分のうち、
図2に示した上部を加熱槽21と、
図3に示した下部を加熱装置部22と称する。
【0025】
図1を参照して、遠赤外線触媒還元装置1の各部および装置1における処理の概要を述べる。後述する前処理をされた焼却灰は、スタンドベルトコンベアー4を通り、ロータリーバルブ5を経て、装置1の最上部に設けられた投入口23より焼却炉2内へ投入される。投入された焼却灰は、焼却炉2内で、触媒の存在下、低酸素還元雰囲気中で加熱処理される。一定温度で一定時間加熱処理された後に、焼却灰は下部ホッパー3に送られ、下部ホッパー3の底部に設けられた処理済み焼却灰取出し口31より排出される。排出された加熱処理済みの焼却灰が、本発明の放射能汚染物質の安定減容化材となる。
【0026】
焼却炉2について詳述する。
図2は、焼却炉2の加熱部22の上部に設けられた加熱槽21の内部構造を示したものである。
図2の(a)は、側面から見た内部構造を示す断面図であり、(b)は、上から見た内部構造を示す断面図である。加熱槽21の最外側は鋼鉄1aで囲われ、その内部は、外側から順に断熱材1b、耐火キャスター1c、耐火煉瓦1dの構成となっている。耐火煉瓦1dの表面は後述するセラミック加工が施されている。開閉扉7は、加熱処理のために装置が稼働している間は閉じられている。頂部および底部は一部の排気口のみ開口した鋼鉄で囲まれているため、加熱処理中の焼却炉内は外気から遮断された減酸素還元雰囲気とされる。
【0027】
図3は、焼却炉2の下部に設けられた加熱部22の内部構造を示したものである。
図3の(a)は、側面から見た内部構造を示す断面図であり、(b)は、上から見た内部構造を示す断面図である。加熱部22は、最外側より鋼鉄1a、断熱材1b、耐熱キャスター1cの順に構成されている。加熱部22の内部は、
図3の(a)に示したように底部及び側部に厚みを持たせて上部を開口した凹状の耐熱キャスター1cの壁が設けられている。外部に取り付けられた加熱装置6により加熱部22が加熱されて加熱槽21も加熱されることとなる。加熱部22の底部には、下部ホッパーに通じる遠赤還元処理灰出口25および熱風出口26が設けられている。
【0028】
図4は、下部ホッパー3を示したものである。下部ホッパー3は、焼却炉2に適合した大きさの公知のものを制限なく用いることができる。本実施形態では、下部ホッパー3の壁部は、加熱部22と同様に、最外側より鋼鉄1a、断熱材1b、耐熱キャスター1cの順に構成されている。
【0029】
本発明に用いる遠赤外線触媒還元装置1の大きさには特に制限はなく、処理量に応じた大きさを適宜選択することができる。また、本装置1に使用する断熱材1bや断熱キャスター1c等の断熱素材は公知のものを制限なく使用することができる。
【0030】
遠赤外線触媒還元装置1の内壁である耐火煉瓦1dは、焼却炉2の内側面にセラミック加工が施されている。セラミック加工は耐火煉瓦1dの表面にセラミックを貼り付ける等の公知の方法により施すことができる。また、セラミックを含有する液体に耐火煉瓦を所定時間浸すことで煉瓦にセラミックを含ませる加工を施したものでもよい。使用するセラミックは、アルミナAl2O3、ジルコニアZrO2、チッ化アルミAlN、炭化ケイ素SiC、チッ化ケイ素Si3N4、フォルステライト2MgO・SiO2,サイアロンSiAlON、チタン酸バリウムBaTiO3、フェライトM2+O・Fe2O3、ムライト3Al2O3・2SiO2等の一般的なものを用いることができる。中でも、安価で耐熱性や機械強度が高く、化学物質に対する浸食対抗性も備えているアルミナを好ましく用いることができる。アルミナは強い化学結合を有し、化学的にも物理的にも高い安定性をもち、耐熱性(融点2500℃)、室温熱伝導率、高強度、高硬度、電気絶縁性、耐食性など多様の性質を持つ優れた材料である。
【0031】
また、焼却炉2の内壁に設けられるセラミック加工された耐火煉瓦1dの表面や煉瓦-煉瓦間には金属触媒を存在させることが望ましい。金属触媒は、Pt、Pd、Ti等の公知の金属触媒を用いることができる。
【0032】
本工法による加熱処理は、低酸素還元雰囲気で加熱することにより行なうが、これは、酸化反応を極力小さくし、焼却灰に含まれる重金属の安定化反応を促進することを目的とするものである。加熱条件は、温度約300℃~900℃(炉内温度400~1000℃)で、10分間から3時間、好ましくは20分~40分間維持することによりおこなわれる。300℃より低い温度では重金属の安定化が十分ではなく、900℃を超えるとエネルギー消費量が多大となり経済的に得策ではない。加熱温度を350~700℃の範囲とするのがより好ましい。加熱時間は、長いほど無害化反応の進行は完全になるが、処理工程やコストなどの経済的観点から3時間以内のできるだけ短い時間とすることが好適である。熱分解は、単純に燃焼させるのみである熱分解ではなく、セラミックスから発生する電磁波である遠赤外線と、触媒の相乗効果によってもたらされる分子運動による熱の発生を利用して、燃焼と電磁波と触媒による化学反応により物質を分解する還元処理により、安定化されたリサイクル資源となる再生資源を生産することが可能となる。
【0033】
本発明の放射能汚染物質の安定減容化材は、金属元素を含有する焼却灰を一定条件で加熱処理することで製造される。焼却灰は、各種の金属化合物を含む焼却灰であれば、特に制限なく利用することができる。そのような焼却灰としては、例えば、一般廃棄物である都市ゴミを通常の方法で焼却処理することによって排出される都市ゴミの焼却灰を好ましく使用することができる。都市ゴミの焼却灰には、後述するように遷移元素等の金属元素が多種含まれている。このため、わざわざ金属元素を加えずとも、金属元素の存在下で加熱する効果を得ることができ、本発明の安定減容化材の製造に最適なものである。他の例としては、例えば、活性汚泥、下水汚泥、消化汚泥などの汚泥類の焼却灰、産業廃棄物の焼却灰も原料とすることができる。ただし、有害なダイオキシン類を含有しない焼却灰であることがより望ましい。これらの焼却灰にはカドミウム、鉛、六価クロムのような有害物質が含有されている場合があり、更に、有害物質の種類、含有量は常に変動するものであるが、本方法はこれらの変動にも確実に対応できるものである。また、原料とする都市ゴミの焼却灰中にこれらの金属類が十分でない場合には、チタン化合物やマグネシウム化合物、ハイドロソーダライトなどを適宜添加することが好ましい。
【0034】
原料として特に好適な都市ゴミの焼却灰について更に詳しく述べる。都市ゴミの焼却灰は多種多様な物質から成る都市ゴミを高温で燃やしたものであるため、30元素以上の金属元素が含まれている。具体的には、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Pb等が酸化物として存在しており、これらの金属が本発明の処理方法における加熱処理に際して有用な働きをすることで、焼却灰から放射能汚染物質の安定減容化材を製造することが可能となる。
【0035】
焼却灰にはダイオキシン類や重金属類の有害物質が含まれていることから、法律では埋め立処分することとなっている。しかし、埋め立て処分場の設置問題等から、現在ではセメントに添加剤として利用することも認められている。だが、たとえ微量であっても重金属類を含有する焼却灰を無害化せずに用いるのは好ましくない。実際、セメントと共に高温焼成処理しても重金属類は安定とはならず、エコセメントで生じる事故の原因はそのようなセメントの不純物の悪戯であったと言える。
【0036】
特に、焼却灰に含まれる金属はそのままの形では水に溶けるため、焼却灰から溶出して環境汚染に繋がることが懸念される。焼却灰を資源として利用するためには、これらの含有金属を安定化して無害化する必要がある。またその処理工程は、環境に負荷をかけることなく安価に処理できる経済性が求められる。 本発明の安定減容化方法は、低温(例えば、400℃以下)で処理ができるため経済面で優れていると共に二酸化炭素の排出量も低減できるため環境への負荷の面でも安全である。本方法の基本的考え方はSNC工法と命名され、15年間に亘る実証により安全性と安定性が確認されている。更に、処理後の物質が資源として利用範囲が広いことも実証済みである。
【0037】
SNC工法は、施設費が5分の1と安く、エネルギーは2分の1、二酸化炭素は10分の1、維持費も5分の1とすべての面で優れた工法である。実証実験は、東京都下の武蔵野市、三鷹市、二枚橋衛生組合、柳泉園組合、埼玉県の上尾市など11市の自治体の協力の下でおこなわれた。低温触媒還元処理であるSNC工法は、触媒を添加し、400℃以下の減酸素雰囲気下で還元処理をおこなう方法であり、経済産業大臣の「焼却灰再資源化処理プラント」の認定も受けている。SNC工法は、熱分解のみに頼ることなく、焼却灰に含まれている金属元素を触媒として、減酸素雰囲気下で触媒による還元処理をおこなうため、400℃以下の低温であっても十分な化学反応を起こして金属を安定化させることが可能となる。これにより、焼却灰に含まれる金属化合物は安定化され不溶化される。焼却灰は、含有金属がこのように水に溶け出さない状態に安定化されてこそ、無害化されたと言える。重金属を含む異種金属の混合物とも言える焼却灰を効率よく相互分解させ、重金属塩類を触媒として利用して金属塩を溶離し、結晶化させることにより安定化が達成される。この安定化処理にあたっては、金属類の不溶化を進めるために金属硫化物などの硫黄化合物を添加することが好ましい。
【0038】
焼却灰は、極微量元素として含まれる30種以上の金属元素により、いわば混合物を形成した状態にあると言える。また、焼却灰は有機物の含有元素が無機物(熱しゃく減量による)に変化したものであって、小さな粒子である原子、分子、イオンからなり、分子は原子で構成され、イオンはNa+、CL、NH4+、NO3-のように原子又は原子団が電気を帯びたものである。全ての物質は粒子で構成され、かつエネルギーを持っており、このエネルギーが最小となったときに安定した状態となる。物質を作っている粒子はいずれも原子が基本となっている。原子には電子が存在し、電子にはK殻、L殻、M殻など軌道があり、一番外側の軌道にある原子と原子の結合の役目を果たす最外殻電子の数によって原子の化学的性質は決まり、最外殻電子軌道に電子が一杯となったときに元素は安定となる。焼却灰中の金属も、結合に関与する最外殻電子軌道にある価電子を持っているので、他の原子と価電子をやり取りしたり共有したりすることで最外殻電子軌道に電子が満たされた安定した電子配置になろうとする。金属原子は安定するために、結合された金属原子の間を自由に動き回る自由電子が結晶全体に広がることで結晶となるが、結晶の構造は1つには決まっておらず、原子が整然と並んだ構造にある結晶構造も可能であるが簡単に全ての原子が整然と並ぶとは限らず、構造に不整合を生じさせることで反応性を高めることができる。
【0039】
これらの反応を触媒によってさらに促進するのがSNC理論である。触媒となる物質は、気体、液体、固体を問わず多種多様である。焼却灰中から精製する触媒は、金属触媒Fe、Ni等、半導体酸化物NiO、ZnO、MnO2、Cr2O3、V2O5、TiO2等、絶縁性酸化物Al2O3、SiO2、MgO等の超紛粒体がある。焼却灰の無害化は分子の組み換えであり、無尽蔵にある焼却灰を触媒として使用することで固定化の必要がなく、化学反応の後は触媒そのものを資源として利用できる。資源として利用するためには、有害性があってはならない。無害化して安全で安定した物質を成型することができる。処理工程に於いても、経済性が高く環境負荷の小さいものでなげればならない。
【0040】
参考として、焼却灰が金属類の混合物でミネラルであるように、地下資源の鉱物や土壌もミネラルの集合体である。ミネラルは地下資源として安定しているので公害の発生原因とならない。焼却灰のミネラルも無害化してやることで安定化して公害原因とならない。無害化とは、有害指定金属を取り除くことのみを意味するものではない。有害指定金属を地下資源と同じ化合物にすること、即ち金属によって硫黄化合物か燐化合物に化学変化すれば地下資源と同様に安定する。
安定資源は次のような資材として有効利用することができる。
(1)触媒として加工すれば、脱臭剤、脱色剤、浄化剤、脱水剤など。
(2)土壌改良材として
(3)肥料としてミネラルの補充
(4)セメント添加剤として
(5)合成ゼオライト
なお、本工法は添加剤としてミネラル元素が加味され、特許としても7つの周辺特許を持つものである。
【0041】
安定化により焼却灰に含まれる反応性物質を安定固化することで、重金属の溶出を防止する効果が生ずることとなる。そして、安定化処理をおこなった都市ゴミの焼却灰を原料として製造した本発明の放射性汚染物質の安定減容化材も、焼却灰由来の重金属を含有する異種金属の混合物といえるものである。
【0042】
原料とする焼却灰は、加熱処理に先立ち前処理として、乾燥した後に選別処理をおこない、更に粉砕により微粉末状とすることが好ましい。乾燥は公知のどのような方法によってもよいが、後述する加熱処理時に遠赤外線触媒還元装置から排出される排ガスを利用することがエネルギー効率の面で望ましい。選別処理は、例えば、磁石等により磁着させることで原料となる焼却灰に含まれている粗大金属を取り除き、更に振動篩等を用いてガラス類やその他の粗大不純物を選別し除去する。尚、ここで選別されたガラス類は粉砕機等により細かく粉砕して、篩を通した焼却灰に混合して次工程の処理にまわすこともできる。
【0043】
焼却灰の粉砕は、公知の粉砕機等のより行うことができる。焼却灰を微粉末化することによって、焼却灰に含まれる金属化合物の表面積が大きくなって触媒活性が大となり、添加するチタンの酸化物との反応性、ならびに、焼却灰の重金属類を含む異種金属化合物の混合物間あるいは添加するチタンの酸化物との相互分解・反応が良好となる。焼却灰の粉砕は、好ましくは100~300メッシュ、さらに好ましくは150~200メッシュの微粒子に粉砕処理する。このため、焼却灰を微粒子に粉砕処理する粉砕処理装置を還元焼却炉の前に設けることが好適である。
【0044】
粉砕処理時には、Pt、Pd、Ti等の金属触媒を微量添加することが好ましく、また添加剤として硫黄などの含硫化合物(硫黄単体を含む)を、処理全体量の0.1%程度混合することが好ましい。触媒は金属分子を活性のある金属原子にして、化学反応を熱源にたよらず促進する力をもっており、また含硫化化合物の添加により重金属の不溶化が促進されることとなる。 焼却灰と金属触媒との配合割合は、焼却灰100重量部に対して金属触媒を1.0~30重量部加えるのが好ましく、より好ましくは5.0~20重量部を配合するのが好適である。なお、触媒は粒子が細かいため、製造された安定減容化材を篩にかけることで回収し再利用することも可能である。
【0045】
更に、粉砕された焼却灰にはチタンの酸化物を添加することが好ましい。チタンの酸化物としては、例えば、酸化チタン、チタン酸塩としてチタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸鉄、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸アルミニウム、またはチタン複合酸化物として、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、チタンを含む複合酸化物などを挙げることができる。また、チタン鉱石と称されている、イルメナイト、ゲイキ石、バイロファン石などの粉砕物を特別な処理を施すことなく用いることができる。焼却灰に対して、上記チタンの酸化物をチタンとして0.0001~0.05重量%、好適には0.0005~0.05重量%、さらに好適には0.001~0.01量%添加混合して加熱処理することにより、燃焼灰に含有される金属化合物間との反応が生起される。
【0046】
微粉砕化され、各種の添加剤が混合された焼却灰は、内壁がセラミック加工された遠赤外線触媒還元処理装置へ、装置上部より投入される。遠赤外線触媒還元処理装置へ投入された焼却灰は、酸化反応を極力小さくして金属酸化物を金属状態に近づけると同時に、共存する金属類間の反応を促進するために、減酸素還元雰囲気下で加熱される。減酸素還元雰囲気下とすることで、通常、金属もしくは非金属元素の酸化物の混合体であって、場合によっては毒性物質の発生もあり得る焼却灰の酸化反応を抑えて、焼却灰中に含まれる有害物質の除去または無害化をおこなうことができる。減酸素還元雰囲気は、遠赤外線触媒還元処理装置を外気から遮断可能な構造とすることや、装置内に窒素(N2)ガスを送って減酸素雰囲気とし、触媒を存在させることで作ることができる。
【0047】
本発明に用いる遠赤外線触媒還元処理装置は、公知の焼却灰処理施設の焼却炉の内壁をセラミック加工した形態で使用することも可能である。例えば、特開2001-942号公報や特開2000-24625号公報に開示されている焼却灰の無害化・再資源化のための処理装置は、処理物を還元雰囲気中で加熱処理するための加熱装置を有し、本発明の遠赤外線触媒還元処理装置と主要な処理装置については共通する。したがって、開示されている焼却灰処理装置を基本構造として本発明に用いる遠赤外線触媒還元処理装置を構築することもできる。
【0048】
以下、これまで説明してきた工程Iにより製造された本発明の安定減容化材を用いた放射能汚染物質の安定減容化方法である工程IIについて説明する。
【0049】
本発明の放射能汚染物質の安定減容化材は、以下のように使用される。放射能汚染物質に、本発明の安定減容化材を加え、更にセメントと固化剤を加えよく混練する。これを乾燥固化することにより、安定化された固化生成物とできるものである。これにより、放射能汚染物質を、運搬や保管に適した固化物として安定的に減容化することができ、管理負担が大幅に軽減されることとなる。
以下に、本工程IIについて詳細に説明する。
【0050】
以下、説明のために本発明の一実施態様であるトリチウム水を安定減容化する場合を例として、具体的に詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の安定減容化材に対してセメントを30重量%投入し、更に、固化剤をトリチウム水で100倍に希釈したものを水の代わりとして加えて、混合物の水分量を概ね60%に調整し、よく混練する。そして、出来上がった混練物を自然乾燥により固化させる。水分含有量が6%程度になるまで乾燥させることで固化生成物となり、安定化と減容化が達成される。本実施形態の場合には、トリチウム水は概ね100%減容されたことになる。
【0051】
本工程IIで用いる固化剤としては、例えば、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、塩化カルシウム(CaCl2)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、硫酸カリウム(K2SO4)、硫酸カルシウム(CaSO4)、硫化鉄(FeS)および/または硫酸ナトリウム(Na2SO4)から成るものを用いることができる。例えば、基本成分を岩石形成性のケイ酸ナトリウムと炭酸ナトリウムとして、他成分は基本成分と同量~1/4の程度の量とすることができる。一例を挙げれば、ケイ酸ナトリウム20%、塩化カルシウム10%、炭酸ナトリウム20%、硫酸カリウム5%、硫酸カルシウム5%、硫化鉄5%、硫酸ナトリウム20%、残部水分から成るものを用いることができる。
【0052】
通常のセメント固化では、固化剤を例えば水で100倍に希釈し、必要に応じてポルトランドセメントを混合した後、混練してペースト状とし、成形した後に乾燥させて固化させることになるが、本発明の放射能汚染物質の安定減容化方法では、この固化剤を希釈するのに用いる水の代わりとして処理対象であるトリチウム水を使用することで、トリチウム水を安定的に減容化するものである。また、処理対象が例えば汚染土壌である場合には、固化剤を通常の水で希釈したものにポルトランドセメントを混合し、更に処理対象である汚染土壌を加えて混練し、成形して乾燥させて固化させる方法をとることで、処理対象が汚染土壌のような固形物の場合にも安定減容化することが可能である。ここで乾燥方法に関しては特に制限はなく、例えば自然乾燥によってもよい。このようにして作成された固化生成物は安定であり、例えば金属元素の溶出試験をおこなっても有害金属の溶出は基準値以下の値しか検出されず、安定化されていることが分かる。
【0053】
次に、放射能汚染物質の更に安定化させたい場合におこなう工程IIIについて説明する。この工程は、例えば、セシウムを含有する汚染土壌を工程IIにより固化生成物とした場合に、更に工程IIIによる処理をおこなうことで放射線量を低減して、より安全に保管・運搬ができるようにするための工程である。汚染物質がトリチウム水のような場合には、放射線量は既に問題とならないレベルであるため工程IIの処理のみで安全に保管・運搬が可能であるが、処理対象となる放射能汚染物質の放射線レベルが高い場合には、工程IIの後に本工程IIIをおこなうことが望ましい。
【0054】
工程IIIでおこなう処理内容は、基本的に工程Iと同様である。すなわち、工程IIにより生成され、水分含有量が概ね40%となっている固化生成物を再度、粉砕して微粉末状とし、金属触媒および添加剤やチタン酸化物を加えて混合し、遠赤外線触媒還元装置へ投入して、減酸素還元雰囲気中で加熱処理をおこなうものである。粉砕工程で加える金属触媒や添加剤、チタン酸化物、遠赤外線触媒還元装置の構成、加熱条件等は前述した工程Iと同様である。微粉末状とした固化生成物を遠赤外線触媒還元装置に通すことで、セラミックから発生する電磁波により水分として吸着されることにより気化し、バグ装置により無害化される。このように、固化生成物に対して再度、工程Iの処理を繰り返すことで焼却灰のみを安定再生資源とすることが可能となる。
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明の実施態様を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0056】
<工程I:安定減容化材の作成>
最初に、工程Iにより本発明の放射能汚染物質の安定減容化材を作成した。処理内容は以下の通りである。一般都市ゴミの焼却灰を乾燥機を用いて水分6%まで乾燥させた後、粉砕機により100~150メッシュに粉砕した。粉砕時に、金属触媒としてPt粉末を微量加え、添加剤として硫黄を処理量の約0.1%となるように加えた。更に、酸化チタンを0.03重量%加えて、粉砕をおこないながらよく撹拌混合した。そして、混合したものを遠赤外線触媒還元装置を通して、以下の条件で加熱処理をおこうことで、放射能汚染物質の安定減容化材を得た。
【0057】
遠赤外線触媒還元装置は
図1~
図7に示したものを使用した。本装置は、焼却炉部分が一辺概ね2mの立方体形状であり、焼却炉部分の内壁はセラミック貼付加工を施してある。更に、炉内の耐火煉瓦部分の表面および煉瓦間に金属触媒として微量のPt粉末を存在させた。また、加熱処理は、粉砕済みの焼却灰は、遠赤外線触媒還元装置の上部より焼却炉内に投入し、400℃に維持された炉内で120分加熱処理をおこなった。
【0058】
<工程II:安定減容化処理>
次に、工程Iにより作成した安定減容化材を用いて、工程IIの処理をおこなうことで試料である汚染土壌の安定減容化処理をおこなった。福島第一原発事故後に各地でおこなわれた土地の除染処理に伴い多量の汚染土壌が発生した。本試験は、上尾市における除染処理により発生した汚染土壌を試験試料として用いた。工程Iにより作成した安定減容化材に対して、ポルトランドセメントを30重量%投入し、更に、試料とする汚染土壌60gと固化剤10gを加えてよく混練しペースト状とした。出来上がった混練物を自然乾燥により水分含有量が40%程度となるまで乾燥させることで固化させ、安定減容化された固化生成物とした。ここで、固化剤はケイ酸ナトリウム20%、塩化カルシウム10%、炭酸ナトリウム20%、硫酸カリウム5%、硫酸カルシウム5%、硫化鉄5%、硫酸ナトリウム20%、残部水分から成るものを用いた。
【0059】
<溶出試験>
作成した固化生成物を粉砕して微粉末状として、重金属の溶出試験をおこなった。試験は、一般財団法人・沖縄県環境科学センターに分析を依頼し、その結果を表1に示した。溶出試験は、アルキル水銀、水銀、カドミウム、鉛、六価クロム、砒素、セレン、1、4-ジオキサンについておこなった。各項目の分析方法は、表1の下部に示された通りである。この試験の結果、アルキル水銀は検出されず、他の金属についても基準値を大幅に下回る値であった。以上の結果より、本発明の安定減容化方法により作成された固化生成物は安定であることが確認された。
【0060】
【0061】
<工程III:遠赤外線触媒還元装置による再処理>
工程IIで得られた固化生成物を再度粉砕して微粉末状とし、工程Iと同様の前処理をおこなって遠赤外線触媒還元装置に再投入して加熱処理をおこなった。加熱条件等も工程Iと同様とした。そして、得られた処理済み焼却灰について放射線量の測定をおこなった。
【0062】
<放射線量の測定>
処理前の汚染土壌と、工程Iから工程IIIにより汚染土壌の処理をおこなって得た処理済み焼却灰は75μmの篩により安定減容化材をふるい落とす処理をおこない、その残分について放射線量の測定を公益財団法人放射線計測協会に測定を依頼した。
測定結果を表2に示した。
【0063】
【0064】
ここで示した除染率(%)は、以下の式により求めた。
【0065】
【0066】
ここで、処理済みの汚染土壌とは、工程IIIにより得られた処理済みの焼却灰を指すものである。表2に示したように、本発明の処理方法を用いて処理をおこなうことで、汚染土壌の初期汚染量から134Csで76~89%程度、137Csで76~88%程度の除染効果が認められた。5回の測定の平均値は、134Csで82.3%、137Csで81.9%であった。参考例として、過去に出願人が特開2014-66614号公報において開示したデータと比較する。同公報で開示した技術のうち、本願の処理方法と類似した処理方法であり、かつ134Csおよび137Csの初期放射線量が開示されている同公報の実施例2の場合と比較する。同公報の実施例2は、放射能濃縮焼却灰を対象とした試験であって、本実施例における放射能汚染土壌とは対象物が異なる他、処理条件の細かな部分も異なっている。その中でも一番の大きな相違点は、本実施例で加熱処理に用いた遠赤外線触媒還元装置は焼却炉の内壁がセラミック加工されている点である。特開2014-66614号公報の実施例2において触媒槽とされている類似処理装置の内壁はセラミック加工がされていないものである。特開2014-66614号公報の実施例2において開示されているデータから除染率を計算すると、134Csで57.6%、137Csで56%であり、本願実施例の方が優れた除染率を示していることがわかる。
本発明は、通常は廃棄される都市ゴミ等の焼却灰を有効利用することで、放射性物質で汚染された汚染土壌や汚染水を運搬および保管等に適した形で安定的に固形化できる放射能汚染物質の安定減容化方法を提供するものである。本発明は、大量の放射能汚染土壌やトリチウム水の放射線量を簡便に経済材的に低減する方法として有用である。