(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037982
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】地熱発電システム
(51)【国際特許分類】
F03G 4/00 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
F03G4/00 541
F03G4/00 551
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142234
(22)【出願日】2020-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】金 志勲
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁則
(72)【発明者】
【氏名】林 謙年
(72)【発明者】
【氏名】松村 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】福田 聖二
(57)【要約】
【課題】還元水ポンプを不要あるいは還元水ポンプの電力消費量を抑制し、かつシリカ等の析出を防止できる地熱発電システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る地熱発電システム1は、生産井から採取された地熱流体を気水分離器3で水蒸気と熱水に気水分離し、分離された水蒸気及び熱水の熱エネルギーを用いてタービン7を駆動して発電すると共に、前記熱水を還元水として還元井に戻すものであって、前記還元水を還元井へ戻す還元水ライン25に蒸気インジェクタ27を設け、蒸気インジェクタ27に気水分離器3で分離された水蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産井から採取された地熱流体を気水分離器で水蒸気と熱水に気水分離し、分離された水蒸気及び熱水の熱エネルギーを用いてタービンを駆動して発電すると共に、前記熱水を還元水として還元井に戻す地熱発電システムであって、
前記還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに前記気水分離器で分離された水蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とする地熱発電システム。
【請求項2】
生産井から採取された地熱流体を気水分離器で1次蒸気と熱水に気水分離し、分離された1次蒸気、及び、熱水をフラッシャに導入して発生する2次蒸気を用いてタービンを駆動して発電すると共に、前記フラッシャから排出される熱水を還元水として還元井に戻す地熱発電システムであって、
前記還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに前記気水分離器で分離された1次蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とする地熱発電システム。
【請求項3】
生産井から採取する地熱流体の流量を調整する第1流量調整弁と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の流量を調整する第2流量調整弁と、
前記タービンに供給する1次蒸気の流量を検知する第1流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の流量を検知する第2流量検知装置と、前記タービンに供給する2次蒸気の流量を検知する第3流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の流量を検知する第4流量検知装置と、
前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の温度を検知する第1温度検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の温度を検知する第2温度検知装置と、前記蒸気インジェクタから排出された還元水の温度を検知する第3温度検知装置と、
前記蒸気インジェクタに供給する還元水の圧力を検知する第2圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタから排出された還元水の圧力を検知する第3圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタのスロート部の圧力を検知する第4圧力検知装置と、
前記タービンの発電する電力を検知する電力検知装置と、
気水分離機で分離された1次蒸気のうちタービン側に供給される蒸気と蒸気インジェクタに流入させる蒸気量との分配比、生産井の増産比とフラッシュ発電出力の増加割合との関係、地熱流体に含まれるシリカ濃度分析値、地熱流体の蒸気と熱水の比率、フラッシュ発電装置や蒸気インジェクタの設計仕様を格納するデータベースと、
前記各検知装置の検知信号を入力して、前記データベースに格納された情報に基づいて必要とされる発電出力とするための地熱流体の流量、及び還元水でシリカを析出させないため、又は、シリカの析出を抑制するために必要とされる前記蒸気インジェクタへ供給する1次蒸気の流量を演算し、該演算値に基づいて前記第1流量調整弁及び前記第2流量調整弁を制御する制御装置を備えたことを特徴とする請求項2記載の地熱発電システム。
【請求項4】
生産井から採取する地熱流体の流量を調整する第1流量調整弁と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の流量を調整する第2流量調整弁と、
前記タービンに供給する1次蒸気の流量を検知する第1流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の流量を検知する第2流量検知装置と、前記タービンに供給する2次蒸気の流量を検知する第3流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の流量を検知する第4流量検知装置と、
前記蒸気インジェクタに供給する還元水の温度を検知する第2温度検知装置と、前記蒸気インジェクタから排出された還元水の温度を検知する第3温度検知装置と、
前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の圧力を検知する第1圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の圧力を検知する第2圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタから排出された還元水の圧力を検知する第3圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタのスロート部の圧力を検知する第4圧力検知装置と、
前記タービンの発電する電力を検知する電力検知装置と、
気水分離機で分離された1次蒸気のうちタービン側に供給される蒸気と蒸気インジェクタに流入させる蒸気量との分配比、生産井の増産比とフラッシュ発電出力の増加割合との関係、地熱流体に含まれるシリカ濃度分析値、地熱流体の蒸気と熱水の比率、フラッシュ発電装置や蒸気インジェクタの設計仕様を格納するデータベースと、
前記各検知装置の検知信号を入力して、前記データベースに格納された情報に基づいて必要とされる発電出力とするための地熱流体の流量、及び還元水でシリカを析出させないため、又は、シリカの析出を抑制するために必要とされる前記蒸気インジェクタへ供給する1次蒸気の流量を演算し、該演算値に基づいて前記第1流量調整弁及び前記第2流量調整弁を制御する制御装置を備えたことを特徴とする請求項2記載の地熱発電システム。
【請求項5】
生産井から採取された地熱流体である水蒸気の熱エネルギーを用いてタービンを駆動して発電すると共に、前記水蒸気の凝縮水を還元水として還元井に戻す地熱発電システムであって、
前記還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに前記地熱流体である水蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とする地熱発電システム。
【請求項6】
生産井から採取された地熱流体である水蒸気を用いてタービンを駆動して発電すると共に、前記タービンから排出される水蒸気を冷却したものである複水を還元水として還元井に戻す地熱発電システムであって、
前記還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに前記地熱流体である水蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とする地熱発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地熱発電システムには、特許文献1の従来技術に例示されているように、フラッシュ式地熱発電システムとバイナリー式地熱発電システムがある。
このうち、フラッシュ式地熱発電システムは、生産井から採取された地熱流体を気水分離器で水蒸気と熱水に分離し、分離された水蒸気、及び熱水からフラッシャーで生成したフラッシュ蒸気を用いてタービンを駆動して発電するというものである。
【0003】
また、バイナリー式地熱発電システムは、上記のフラッシュ式地熱発電システムと同様に、特許文献1の背景技術に例示されており、生産井から採取された地熱流体と低沸点媒体と熱交換し、これによって生成された蒸気を用いてバイナリータービンを駆動して発電するというものである。
【0004】
図7は、一般的なフラッシュ式の地熱発電システム49の構成を示す図である。
図7において、3は生産井から採取された地熱流体を1次蒸気と熱水に気水分離する気水分離器、5は気水分離器3で分離された熱水をフラッシュして2次蒸気を発生させるフラッシャ、7は気水分離器3で分離された1次蒸気、及び、フラッシャ5で発生した2次蒸気を導入して駆動するタービン、9はタービン7によって駆動する発電機、11はタービン7から排出される蒸気を冷却して液化する復水器、13は復水ライン15に設けられて復水器11で液化された復水を冷却塔に送液する復水ポンプ、17は復水を冷却する冷却塔、19はフラッシャ5から出てきた熱水を大気開放するフラッシュタンク、21は熱水を滞留させてシリカ成分を析出・除去させる滞留槽、23は滞留槽21を経た熱水を還元井に戻す還元水ポンプである。
【0005】
上記のように構成された地熱発電システム49においては、生産井から採取された地熱流体が気水分離器3で熱水と1次蒸気に気水分離され、1次蒸気はタービン7に送られ、熱水はフラッシャ5に送られる。フラッシャ5に送られた熱水はフラッシャ5によってフラッシュされ、これによって発生した2次蒸気はタービン7に導入される。
タービン7に導入された1次蒸気及び2次蒸気によってタービン7が駆動され、タービン7の駆動によって発電機9が駆動して発電される。
タービン7に供給された蒸気(1次蒸気及び2次蒸気)は復水器11で液化されて復水ポンプ13で冷却塔17に供給される。冷却塔17で冷却された復水はその一部を復水器11の冷却水として使用されるとともに、還元井に還元される。
一方、フラッシャ5から出てきた熱水はフラッシュタンク19に供給される。フラッシュタンク19から発生した蒸気は還元もしくは熱利用され、熱水は大気開放系の滞留槽21に入る。地熱流体は、一般にシリカ、カルシウム等が含まれており、滞留槽21で1時間程度滞留させることによってこれらを析出・除去し、その後還元水ポンプ23によって還元井に戻される。
【0006】
図7には、生産井から無次元流量(1)の地熱流体を採取した場合における、システムの途中での熱水等の流量、温度等の一例が示されている。
地熱流体は、気水分離器3で、流量(0.26)、温度160℃の1次蒸気と、流量(0.74)、温度160℃の熱水に分離される。熱水はフラッシャ5で、流量(0.051)、温度120℃の2次蒸気が発生させた後、フラッシュタンク19に供給され、フラッシュタンク19で発生する流量(0.024)、温度104℃のフラッシュ蒸気は熱利用される。その後熱水は滞留槽21を経て、流量(0.665)、温度95℃の還元水となって、還元水ポンプ23によって0.4MPaに昇圧されて還元井に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような地熱発電システム49においては、電動機で駆動する還元水ポンプ23の電力が必要となり、その消費電力の分だけ外部に供給する電力量が低下する。
また、一般に滞留槽21の熱水は前述したようなシリカ、カルシウム等の成分が過飽和の状態となっており、滞留後も飽和濃度までは低下しない。そのため、還元水を還元井に戻す輸送管や還元井付近に付着して流路抵抗となり、輸送動力の増大や還元井の呑み込み量の減少を生じさせる。この結果、計画通りに蒸気や熱水を生産できなくなり、発電出力の低下、地熱発電所の経済性の低下を招く。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、還元水ポンプを不要あるいは還元水ポンプの電力消費量を抑制し、かつシリカ等の析出を防止できる地熱発電システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る地熱発電システムは、生産井から採取された地熱流体を気水分離器で水蒸気と熱水に気水分離し、分離された水蒸気及び熱水の熱エネルギーを用いてタービンを駆動して発電すると共に、前記熱水を還元水として還元井に戻すものであって、前記還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに前記気水分離器で分離された水蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)本発明に係る地熱発電システムは、生産井から採取された地熱流体を気水分離器で1次蒸気と熱水に気水分離し、分離された1次蒸気、及び、熱水をフラッシャに導入して発生する2次蒸気を用いてタービンを駆動して発電すると共に、前記フラッシャから排出される熱水を還元水として還元井に戻すものであって、前記還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに前記気水分離器で分離された1次蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、生産井から採取する地熱流体の流量を調整する第1流量調整弁と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の流量を調整する第2流量調整弁と、前記タービンに供給する1次蒸気の流量を検知する第1流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の流量を検知する第2流量検知装置と、前記タービンに供給する2次蒸気の流量を検知する第3流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の流量を検知する第4流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の温度を検知する第1温度検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の温度を検知する第2温度検知装置と、前記蒸気インジェクタから排出された還元水の温度を検知する第3温度検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の圧力を検知する第2圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタから排出された還元水の圧力を検知する第3圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタのスロート部の圧力を検知する第4圧力検知装置と、前記タービンの発電する電力を検知する電力検知装置と、気水分離機で分離された1次蒸気のうちタービン側に供給される蒸気と蒸気インジェクタに流入させる蒸気量との分配比、生産井の増産比とフラッシュ発電出力の増加割合との関係、地熱流体に含まれるシリカ濃度分析値、地熱流体の蒸気と熱水の比率、フラッシュ発電装置や蒸気インジェクタの設計仕様を格納するデータベースと、前記各検知装置の検知信号を入力して、前記データベースに格納された情報に基づいて必要とされる発電出力とするための地熱流体の流量、及び還元水でシリカを析出させないため、又は、シリカの析出を抑制するために必要とされる前記蒸気インジェクタへ供給する1次蒸気の流量を演算し、該演算値に基づいて前記第1流量調整弁及び前記第2流量調整弁を制御する制御装置を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
(4)また、上記(2)に記載のものにおいて、生産井から採取する地熱流体の流量を調整する第1流量調整弁と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の流量を調整する第2流量調整弁と、前記タービンに供給する1次蒸気の流量を検知する第1流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の流量を検知する第2流量検知装置と、前記タービンに供給する2次蒸気の流量を検知する第3流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の流量を検知する第4流量検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の温度を検知する第2温度検知装置と、前記蒸気インジェクタから排出された還元水の温度を検知する第3温度検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する1次蒸気の圧力を検知する第1圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタに供給する還元水の圧力を検知する第2圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタから排出された還元水の圧力を検知する第3圧力検知装置と、前記蒸気インジェクタのスロート部の圧力を検知する第4圧力検知装置と、前記タービンの発電する電力を検知する電力検知装置と、気水分離機で分離された1次蒸気のうちタービン側に供給される蒸気と蒸気インジェクタに流入させる蒸気量との分配比、生産井の増産比とフラッシュ発電出力の増加割合との関係、地熱流体に含まれるシリカ濃度分析値、地熱流体の蒸気と熱水の比率、フラッシュ発電装置や蒸気インジェクタの設計仕様を格納するデータベースと、前記各検知装置の検知信号を入力して、前記データベースに格納された情報に基づいて必要とされる発電出力とするための地熱流体の流量、及び還元水でシリカを析出させないため、又は、シリカの析出を抑制するために必要とされる前記蒸気インジェクタへ供給する1次蒸気の流量を演算し、該演算値に基づいて前記第1流量調整弁及び前記第2流量調整弁を制御する制御装置を備えたことを特徴とするものである。
【0014】
(5)本発明に係る地熱発電システムは、生産井から採取された地熱流体である水蒸気の熱エネルギーを用いてタービンを駆動して発電すると共に、前記水蒸気の凝縮水を還元水として還元井に戻すものであって、前記還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに前記地熱流体である水蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とするものである。
【0015】
(6)本発明に係る地熱発電システムは、生産井から採取された地熱流体である水蒸気を用いてタービンを駆動して発電すると共に、前記タービンから排出される水蒸気を冷却したものである複水を還元水として還元井に戻すものであって、前記還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに前記地熱流体である水蒸気の一部と、前記還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、該蒸気インジェクタに気水分離器で分離された1次蒸気と、還元水を導入して、該還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしたことにより、還元水ポンプを不要あるいは還元水ポンプの電力消費量を抑制し、かつシリカ等の析出を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態に係る地熱発電システムの構成を説明する説明図である。
【
図2】
図1に示した地熱発電システムに用いる蒸気インジェクタの説明図である。
【
図3】本実施の形態に係る地熱発電システムの他の態様の説明図である(その1)。
【
図4】水中シリカの溶解度曲線を示すグラフである。
【
図5】本実施の形態に係る地熱発電システムの他の態様の説明図である(その2)。
【
図6】本実施の形態に係る地熱発電システムの実施例の説明図である。
【
図7】従来の地熱発電システムの構成を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態に係る地熱発電システムについて、フラッシュ式のものを例に挙げて
図1に基づいて説明する。なお、
図1において、従来例を説明した
図7と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0019】
本実施の形態に係るフラッシュ式の地熱発電システム1は、生産井から採取された地熱流体を気水分離器3で1次蒸気と熱水に気水分離し、分離された1次蒸気、及び、熱水をフラッシャ5に導入して発生する2次蒸気を用いてタービン7を駆動して発電すると共に、フラッシャ5から排出される熱水を還元水として還元井に戻すものである。
そして、還元水を還元井へ戻す還元水ライン25に蒸気インジェクタ27とインジェクタ27に還元水を送水する送水ポンプ28を設け、蒸気インジェクタ27に気水分離器3で分離された1次蒸気の一部と、還元水を導入して、還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにしている。
本実施の形態においては、還元水を還元井に戻す還元水ライン25に蒸気インジェクタ27を設けた点に特徴があるので、以下においては、蒸気インジェクタ27の構成と、動作について説明する。
【0020】
<蒸気インジェクタ>
蒸気インジェクタ27は、一般に液流に蒸気を混合してその熱と運動量を渡し、導入された液圧より高温、高圧の噴出液を得る装置である。
蒸気インジェクタ27は、
図2に示すように、還元水が供給される筒状の還元水供給部29と、還元水供給部29を覆うように設けられ、水蒸気が供給される水蒸気供給部31と、還元水と水蒸気が混合される混合部33と、混合部33の下流側で縮径されたスロート部35と、スロート部35の下流側で拡径されたディフューザ部37とを備えている。
【0021】
上記のように構成された蒸気インジェクタ27において、還元水供給部29に還元水を、水蒸気供給部31に水蒸気(1次蒸気)を供給すると、混合部33において水蒸気と還元水が接触して水蒸気が凝縮する。水蒸気の凝縮によって蒸気インジェクタ27の内部(混合部33)の圧力が低下することにより、還元水と水蒸気を吸引する作用が発生する。
【0022】
水蒸気が吸引される際に高速流となり、この運動エネルギーが、還元水に受け渡され、還元水(混合水)を加速する。また、水蒸気と還元水との接触により、還元水の温度が上昇する。そして、還元水(混合水)がスロート部35を通過後に拡径されたディフューザ部37において流速が低下し、これによって圧力回復されて、還元水(混合水)は昇圧されて吐出される。
【0023】
以上のように、還元水ライン25に蒸気インジェクタ27を設けたことにより、蒸気インジェクタ27によって還元水の水圧を高めることができるので、還元水ポンプ23が不要になるか、あるいは還元水ポンプ23の動力を低減することができる。
また、蒸気インジェクタ27によって、還元水が水蒸気(1次蒸気)と接触することで、還元水が加温されて飽和濃度を上昇するとともに、還元水が希釈されてシリカ濃度を低下させるので、シリカ等の析出を防止することもできる。
還元水の圧力上昇及び温度上昇についての具体例については、後述の実施例で説明する。
【0024】
なお、上述した蒸気インジェクタ27は、水蒸気供給部31が還元水供給部29を覆うように設けられているが、これに限定されるものではなく、供給された還元水と水蒸気が互いに接触しながら同一方向に流出する構造となっていればよい。例えば、上述したものとは逆に、還元水供給部29が筒状の水蒸気供給部31を覆うように設けても良い。
【0025】
また、蒸気インジェクタ27の起動時に内部の流体を流出しやすくするために、スロート部35またはその上流側にドレン管39を設け、ドレン管39に蒸気インジェクタ27から流出する方向のみに流体を流すような開閉弁、例えば逆止弁41を設けるようにしてもよい。このようにすることで、蒸気インジェクタ27の起動を容易にする効果が得られる。
【0026】
なお、本実施の形態では、貯留槽21から還元水を送る還元水ライン25に蒸気インジェクタ27を設けているが、冷却塔17から復水を送る復水ライン15には蒸気インジェクタ27を設けていない。これは、気水分離器3で発生する1次蒸気やフラッシャ5で発生する2次蒸気などの水蒸気はシリカ濃度が低く、それらの蒸気を復水器で液化した復水はシリカ析出を抑制する必要がないからである。
もっとも、蒸気インジェクタを設けることで、ポンプの動力を低減することができるので、復水ライン15に蒸気インジェクタを設けて、復水ポンプ13の電力消費量を抑制するようにしてもよい。
【0027】
上記の実施の形態における地熱発電システム1は、気水分離器3で分離された1次蒸気の一部を蒸気インジェクタ27で利用するため、フラッシュ発電システムで利用する1次蒸気の量が減少し、その分だけ発電出力が減少する。
この点、発電出力を、蒸気インジェクタ27を用いない場合と同一にするには、生産井の増産比を制御して、増産される地熱流体からの熱エネルギーで補填するようにすればよい。
このように、発電出力は同一のまま、あるいは任意の必要とされる発電出力としつつ、1次蒸気の一部を蒸気インジェクタ27で利用する制御方法について、
図3に基づいて説明する。
【0028】
この場合の装置構成の一例としては、
図3に示すように、生産井から地熱流体を採取するラインに地熱流体の流量を調整する第1流量調整弁43を設け、また気水分離器3から蒸気インジェクタ27に蒸気を供給するラインに水蒸気(1次蒸気)量を調整する第2流量調整弁45を設け、これら第1流量調整弁43及び第2流量調整弁45を制御する制御装置47を設けるようにする。
なお、
図3において、F1~F4、T1~T3、P1~P4、Wは、それぞれ流量検知装置、温度検知装置、圧力検知装置、電力検知装置、液面検知装置を示しており、各装置の検知信号は、制御装置47に入力されるようにする。
【0029】
各検知装置を具体的に示すと、以下の通りである。
F1:タービン7に供給する1次蒸気の流量を検知する第1流量検知装置
F2:蒸気インジェクタ27に供給する1次蒸気の流量を検知する第2流量検知装置
F3:タービン7に供給する2次蒸気の流量を検知する第3流量検知装置
F4:蒸気インジェクタ27に供給する還元水の流量を検知する第4流量検知装置
T1:蒸気インジェクタ27に供給する1次蒸気の温度を検知する第1温度検知装置
T2:蒸気インジェクタ27に供給する還元水の温度を検知する第2温度検知装置
T3:蒸気インジェクタ27から排出された還元水の温度を検知する第3温度検知装置
P1:蒸気インジェクタ27に供給する1次蒸気の圧力を検知する第1圧力検知装置
P2:蒸気インジェクタ27に供給する還元水の圧力を検知する第2圧力検知装置
P3:蒸気インジェクタ27から排出された還元水の圧力を検知する第3圧力検知装置
P4:蒸気インジェクタ27のスロート部の圧力を検知する第4圧力検知装置
W:タービン7の発電する電力を検知する電力検知装置
L:滞留槽21の液面を検知する液面検知装置
なお、
図3においてはT1とP1の両方を図示しているが、どちらか一方だけを設置すればよい。気水分離器3から分離した水蒸気は飽和蒸気であるから、飽和蒸気表を用いれば、温度と圧力のどちらか一方の検出値から他方の値を一意的に算出できるからである。
【0030】
また、気水分離機3で分離された1次蒸気のうちタービン7側に供給される1次蒸気量と蒸気インジェクタ27に流入させる1次蒸気量との分配比、生産井の増産比とフラッシュ発電出力の増加割合との関係、地熱流体性状(地熱流体に含まれるシリカ濃度分析値、地熱流体の蒸気と熱水の比率、温度、圧力等)、フラッシュ発電装置や蒸気インジェクタ27の設計仕様等の制御に必要な機器等の情報は、制御装置47内にデータベースとして格納されている。
なお、蒸気インジェクタ27に設けられている圧力検知装置は、蒸気インジェクタ27ののど部(スロート部35)の圧力を検知するものである。
【0031】
上記のような装置構成を備えることで、各装置の検知信号が制御装置47に入力され、制御装置47は入力された検知信号とデータベースの情報に基づいて、蒸気インジェクタ27に供給するべき1次蒸気量や、必要とされる地熱流体流量を演算し、演算結果に基づいて第1流量調整弁43及び/又は第2流量調整弁45を制御する。
【0032】
このような制御の具体例を以下に説明する。この制御の目的は、還元水をシリカ等が析出しない温度に昇温すること、及び必要な発電出力となるように、第1流量調整弁43及び/又は第2流量調整弁45を制御することである。
まず、地熱流体のシリカ濃度分析値から還元水のシリカ濃度を計算する。還元水は地熱流体から水蒸気を分離したものであり、地熱流体に比べてシリカが濃縮される。そこで、流量検知装置で計測した1次蒸気、2次蒸気及び還元水の流量に基づいて地熱流体と還元水の流量比を計算し、濃縮された還元水のシリカ濃度を計算する。次に、
図4に一例を示す水中シリカの溶解度曲線から還元水のシリカ濃度の飽和温度を算出し、飽和温度ならびに還元水の温度から、シリカ等が析出しないために必要な還元水の昇温量を演算する。それに基づいて蒸気インジェクタ27に供給する1次蒸気の量と、還元水流量の比率を演算する。また、この演算値と蒸気インジェクタ27の仕様に基づいて、インジェクタ出口最大吐出圧力を演算する。
【0033】
上記のインジェクタ出口最大吐出圧力、蒸気インジェクタ27に供給する1次蒸気と還元水流量との比率、及び、生産井から生産される地熱流体の蒸気と熱水の比率から、蒸気インジェクタ27の昇圧作用で還元可能な生産井の増産可能範囲を演算する。ここで言う増産可能範囲とは、
図7に示した蒸気インジェクタを使用しない場合の生産井の生産量(1)を基準として、これに対する増産量のことを意味している。
【0034】
演算した生産井の増産可能範囲に基づいて発電出力可能範囲を演算し、この発電出力可能範囲内で発電出力を決定する。決定する発電出力は、例えば電力需要状況に応じて必要とされる発電出力、あるいは蒸気インジェクタ27を用いない場合の発電出力等である。
決定した発電出力となるように第1流量調整弁43を制御して、地熱流体を増産する。それと同時に、蒸気インジェクタ27の1次蒸気と還元水の流量比が前述した演算値になるように第2流量調整弁45で蒸気インジェクタ27への1次蒸気流入量を制御する。
【0035】
なお、上記は還元水のシリカ濃度を算出して、そのシリカ濃度における飽和温度まで還元水を昇温することでシリカが析出しないように制御するものであったが、ある程度の析出量が許容されるような場合には、昇温量を調整して、所定の割合だけシリカの析出を抑制するようにしてもよい。この場合における昇温量の演算方法を下記に示す。
【0036】
シリカ析出を抑制する割合(以降、「抑制率」という)を予め設定する(例えば、シリカ析出量を3割減としたい場合には抑制率を0.3とする)。
上記抑制率を達成するために目標とするべき還元水の飽和濃度を「目標飽和濃度」とするとき、抑制率を下記式(1)で定義することができる。
抑制率=(目標飽和濃度-還元水温度における飽和濃度)
/(還元水シリカ濃度-還元水温度における飽和濃度) ・・・(1)
【0037】
前述のように還元水のシリカ濃度を求めたあと、水中シリカの溶解度曲線(
図4参照)から、還元水温度における飽和濃度を算出し、上記式(1)に基づいて目標飽和濃度を演算する。さらに、水中シリカの溶解度曲線から、算出した目標飽和濃度を実現するのに必要な還元水の昇温量を演算する。これに基づいて蒸気インジェクタ27に供給する1次蒸気の量と、還元水流量の比率を演算する。該演算値に基づいて第2流量調整弁45で蒸気インジェクタ27への1次蒸気流入量を制御することにより、所定の割合だけシリカの析出を抑制することができる。
【0038】
なお、還元水は理論的には飽和温度で制御するのが無駄に生産増とならないので好ましい。上記の制御においては、滞留槽21に設けられている液面検知装置によって滞留槽21内の水量が検知されており、還元水の流量条件は滞留槽21のレベル制御を含むとする。
【0039】
また、
図1、
図3に示した例では、生産井から採取される地熱流体を気水分離器3で水蒸気と熱水に気水分離するものであったが、地熱流体が熱水を随伴せずに、ほぼ蒸気だけの場合には、
図5に示すように、気水分離器3を設けることなく、水蒸気を直接タービン7及び蒸気インジェクタ27に導入してもよい。この場合、タービン7から排出される水蒸気を復水器11で液化して、その復水を還元水として還元水ライン25に導入し、還元水ライン25に設けられた蒸気インジェクタ27に地熱流体である水蒸気の一部と、還元水を導入して、還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにする。
前述したように、蒸気を液化した復水はシリカ濃度が低いので、積極的にシリカ析出を抑制する必要はないが、還元水ライン25に蒸気インジェクタ27を設けることによって、還元水の水圧を高める効果があるので、還元水ポンプ23が不要になるか、あるいは還元水ポンプ23の動力を低減することができる。
【0040】
本実施の形態では、フラッシュ式の地熱発電システム1について説明したが、本発明はこの限りではなく、例えば、バイナリー式の地熱発電システムにも適用が可能である。
バイナリー式の地熱発電システムは、前述したように、生産井から採取された地熱流体を気水分離器で気水分離して、分離した水蒸気及び熱水を低沸点媒体と熱交換し、これによって生成された蒸気を用いてバイナリータービンを駆動するものである。熱交換後の還元水を還元井へ戻す還元水ラインに蒸気インジェクタを設け、蒸気インジェクタに気水分離器で分離された水蒸気の一部と、還元水を導入して、還元水の温度と圧力を上昇させて還元井に戻すようにすることで同様の効果を得ることができる。
【実施例0041】
図7に示したケースで、還元水をシリカ等が析出しない温度に昇温する場合の蒸気インジェクタ適用例を以下に示す。
例えば、滞留槽21の出口における還元水のシリカ濃度が480ppmの場合、その飽和温度は115℃であるので(
図4参照)、蒸気インジェクタ27を適用して、還元水温を115℃まで昇温する例について
図6を用いて説明する。
【0042】
本例では、蒸気インジェクタ27で還元水を115℃まで昇温するために、地熱流体の生産を1割増としている。生産井増産分の1次蒸気を蒸気インジェクタ27に導入しているので、タービン7に導入される1次蒸気流量は
図7に示した例と等しく、発電出力は同じである。
【0043】
蒸気インジェクタ27に生産井増産分である無次元流量(0.028)の1次蒸気を導入することで、還元水の温度を115℃に昇温でき、シリカ濃度が480ppm以下の場合には、蒸気インジェクタ27の適用によりシリカが析出しなくなる。
【0044】
生産される地熱流体のシリカ濃度が480ppm以上の場合は、蒸気インジェクタ27を適用してもシリカは析出するが、適用前に比べて析出量が抑制されるのでポンプ交換(高圧化)など還元水配管のメンテナンス費の低減や使用期間の延長による還元井の追加掘削費が削減される。
【0045】
一方、地熱流体を増産することで熱水の流量も増えるので、その結果、還元水流量が多くなり、還元水を還元井へ輸送するのに必要な圧力が大きくなるが、これに関しても蒸気インジェクタ27の昇圧効果によって対応できるので、この点について以下に説明する。
【0046】
還元井へ輸送するのに必要な圧力は流量の2乗に比例するので、本例のように、還元水流量が1.14倍(0.665→0.757)になると必要な圧力は約1.3倍となる。上記インジェクタ27の昇圧効果は、
図6に示す物質収支の場合だと元の還元圧より1.3倍程度増大可能であり、生産増による必要圧力増加分(1.3倍)を賄える。
このように、生産増によって必要となる圧力増加分を上回る昇圧効果を蒸気インジェクタ27によって得ることができるので、還元井へ還元水を輸送するポンプ動力が低減される。
【0047】
上記の実施例に示されるように、フラッシュ発電システムに蒸気インジェクタ27を適用することによって、還元水の加温による還元井でのスケール生成の抑制、還元水の昇圧によるポンプ動力削減(外部に供給できる発電量の増大)、といった効果が期待できる。