(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038040
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】切離装置及び観測装置
(51)【国際特許分類】
B63B 22/08 20060101AFI20220303BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
B63B22/08
G01N33/18 106D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142323
(22)【出願日】2020-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】303057044
【氏名又は名称】株式会社ソニック
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】小梨 昭一郎
(72)【発明者】
【氏名】桐本 兼輔
(72)【発明者】
【氏名】北田 紀生
(57)【要約】
【課題】計測機器の回収率を向上することが可能な切離装置等を提供すること。
【解決手段】切離装置は、浮力材に結合された計測機器に連結され、重錘と、所与の水深に到達したときの水圧により作動して重錘を計測機器から切り離すように構成された第1切離機構と、水底に到達したときの水底からの反力により作動して重錘を計測機器から切り離すように構成された第2切離機構とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮力材に結合された計測機器に連結される切離装置であって、
重錘と、
所与の水深に到達したときの水圧により作動して前記重錘を前記計測機器から切り離すように構成された第1切離機構と、
水底に到達したときの前記水底からの反力により作動して前記重錘を前記計測機器から切り離すように構成された第2切離機構とを備えた、切離装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記計測機器には、前記第1切離機構が連結され、
前記第1切離機構には、結合部材を介して前記第2切離機構が結合され、
前記第2切離機構には、前記重錘が結合され、
前記第1切離機構の作動時には、前記第1切離機構から前記結合部材が切り離され、
前記第2切離機構の作動時には、前記結合部材から前記第2切離機構が切り離される、切離装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1切離機構は、
押込部材を格納する水密容器と、
前記結合部材を支持する支持板とを備え、
前記支持板は、前記押込部材と切断部材とで挟持され、前記切断部材に作用する水圧により破断される、切離装置。
【請求項4】
請求項2又は3において、
前記第2切離機構は、
前記結合部材に接続して前記第2切離機構及び前記重錘を支持する支持部と、
着底板とを備え、
前記支持部は、前記着底板が前記水底に到達し前記反力により移動したときに前記結合部材との接続を解放する、切離装置。
【請求項5】
浮力材に結合された計測機器と、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の切離装置とを備える、観測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛直方向の海洋観測において、計測機器に重錘を取り付けて自由落下方式で投下し、目的の深度まで達したか着底した後、重錘を切り離し、浮力により計測機器を自己浮上させて計測機器及び観測データを回収するための切離装置及び観測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切離装置として、着底を感知して切り離しを行う反力式切離装置や、観測船から送信された超音波を受信して切り離しを行う音響式切離装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の切離装置では、計測機器の回収率は80%~90%程度であり、大水深になるほど誤作動、不作動、行方不明の事例が報告されている。海洋での観測装置は高価であり、何より観測データは補填のきかない貴重なものである。従って、計測機器の100%の回収が望まれている。
【0005】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、計測機器の回収率を向上することが可能な切離装置及び観測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、浮力材に結合された計測機器に連結される切離装置であって、重錘と、所与の水深に到達したときの水圧により作動して前記重錘を前記計測機器から切り離すように構成された第1切離機構と、水底に到達したときの前記水底からの反力により作動して前記重錘を前記計測機器から切り離すように構成された第2切離機構とを備えた切離装置に関する。
【0007】
本発明によれば、所与の水深に到達したときに第1切離機構が作動して重錘が切り離され計測機器が浮上するが、第1切離機構が作動しない場合であっても、水底に到達したときに第2切離機構が作動して重錘が切り離され計測機器が浮上するため、切離機構の冗長化を実現して計測機器の回収率を向上することができる。
【0008】
(2)また本発明に係る切離装置では、前記計測機器には、前記第1切離機構が連結され、前記第1切離機構には、結合部材を介して前記第2切離機構が結合され、前記第2切離機構には、前記重錘が結合され、前記第1切離機構の作動時には、前記第1切離機構から前記結合部材が切り離され、前記第2切離機構の作動時には、前記結合部材から前記第2切離機構が切り離されてもよい。
【0009】
本発明によれば、第1切離機構が作動した場合は、第1切離機構から結合部材が切り離されるため、第1切離機構を回収することができ、第2切離機構が作動した場合は、結合部材から第2切離機構が切り離されるため、第1切離機構及び結合部材を回収することができる。
【0010】
(3)また本発明に係る切離装置では、前記第1切離機構は、押込部材を格納する水密容器と、前記結合部材を支持する支持板とを備え、前記支持板は、前記押込部材と切断部材とで挟持され、前記切断部材に作用する水圧により破断されてもよい。
【0011】
(4)また本発明に係る切離装置では、前記第2切離機構は、前記結合部材に接続して前記第2切離機構及び前記重錘を支持する支持部と、着底板とを備え、前記支持部は、前記着底板が前記水底に到達し前記反力により移動したときに前記結合部材との接続を解放してもよい。
【0012】
(5)また本発明は、浮力材に結合された計測機器と、上記切離装置とを備える観測装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の観測装置の構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0015】
図1は、本実施形態の観測装置の構成の一例を示す図である。なお本実施形態の観測装置は
図1の構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
図1に示す観測装置は、浮力材1と、計測機器を格納する格納容器2と、重錘4を含む切離装置5とを備える。
【0016】
浮力材1と格納容器2は、いずれも透明なガラス製の真球体(ガラス球)であり、その内部に真球の中空部を有している。格納容器2の内部(中空部)や外部(ガラス球の外表面)には、例えば、塩分濃度計、水温計、圧力計や、DO(溶存酸素量)、pCO2(二酸化炭素分圧)及びpH(水素イオン濃度)を測定するための機器(センサ、データ処理基板、PC等の制御装置、電源)が配置されている。ガラス球は上半球部と下半球部とからなり、ガラス球を密閉する際には、上半球部と下半球部の合わせ面を一致させて1つの全球体にし、バキュームバルブから真空ポンプにより真空吸引した後、上半球部と下半球部の合わせ面の境界線の上にテープを巻き付ける。
【0017】
浮力材1と格納容器2は枠組部材3により固定される。枠組部材3の下部には、重錘4を含む切離装置5が連結され、枠組部材3の上部には、GPS発信機6が設置される。
【0018】
この観測装置は、枠組部材3(浮力材1、格納容器2)と切離装置5が連結された状態で観測船から投下され、観測を開始する。この状態において観測装置は浮力を上回る重量を持ち、海底に向かって沈降しながら鉛直観測を行う。海中において切離装置5が作動すると、重錘4を含む切離装置5の一部は枠組部材3から切り離され、観測装置はその重量を上回る浮力を得て浮上し、海面に到達する。海面浮上後はGPS発信機6が観測装置の位置を間欠的且つ定期的に発信する。観測船は、GPS発信機6からの位置信号を受信した後、任意の時点で観測装置を回収する。
【0019】
本実施形態の観測装置の運用方法では、観測装置の下降速度を減じて計測値の質を向上することができる。一般に計測機器はその応答に時間的遅れを伴うため、連続観測により
鉛直分布を求める場合には観測装置の移動速度が遅いほど精度面で有利になる。他方、移動速度の低下は計測時間の増加を伴うため、観測船の待機を必要とする観測(観測船からウインチにより観測装置を垂下して行う観測や、音響式切離装置を用いた観測)では費用の増加を避けられない。本実施形態の観測装置は観測船の待機を必要としないため、必要とされる精度に応じた観測計画を立てることが容易になる。
【0020】
また、本実施形態の観測装置の運用方法では、大深度観測に対する船舶運航の自由度を増大できる。本実施形態の観測装置の運用にあたり、観測船が拘束される時間は海中投入時と観測終了後の回収時である。従って、一航海当たりの計測点数を増大して費用効率の向上を図ることや、他に主目的を持つ場合の航海に便乗して観測を行い、費用低減を図ることも可能になる。これは、大深度海域における観測データの空間密度の向上に貢献するものである。
【0021】
図2は、切離装置5の拡大図である。切離装置5は、所与の水深に到達したときの水圧により作動する圧力式の第1切離機構と、海底(水底)に到達したときの反力により作動する着底式の第2切離機構とを備える。第1切離機構と第2切離機構のいずれが作動した場合においても、同一の重錘4が切り離される。第1切離機構は枠組部材3の下部に連結され、第1切離機構には結合部材11を介して第2切離機構が結合され、第2切離機構には重錘4が結合される。
【0022】
第1切離機構は、水密容器7と支持板8とを備える。支持板8は、結合部材11を鉛直上方向に支持するが、第1切離機構の作動時には水圧によって剪断破壊されて支持力を失い、結合部材11以下に配置された構成部品(結合部材11、第2切離機構、重錘4)は第1切離機構から切り離される。
【0023】
第2切離機構は、支持部9と着底板10とを備える。支持部9は、半円状の爪部を外側に展開して結合部材11に懸垂する構造を持ち、第2切離機構と重錘4を支持する。この爪部は着底板10から鉛直上向きの力を受けた場合に外れる(結合部材11との接続を解放する)機構を内部に持ち、着底板10が海底に到達する(着底する)と海底からの反力により当該機構が動作し、第2切離機構及び重錘4は結合部材11から切り離される。
【0024】
図3は、第1切離機構の内部構造を示す図である。水密容器7は、押込部材12を格納する。押込部材12は、水密容器7の内部において、ある程度の範囲で上下方向に移動可能である。押込部材12の下部には切断部材13が連結される。切断部材13は径の小さな上部と径の大きな下部からなり、切断部材13の上部は支持板8に設けられた開口を貫通して押込部材12の下部に挿入され、切断部材13の下部は外部に露出している。支持板8は、切断部材13(切断部材13の上部と下部とがなす段差)と押込部材12の下端部とで挟持される。装置の使用時は、
図3に示すように押込部材12を下に降ろした状態で押込部材12と切断部材13との間に支持板8を挟むように各構成部品が配置される。このとき、水密容器7の空洞部分は空気で満たされているため、押込部材12の上部は空気圧を受ける。他方、切断部材13は外部に露出しており、切断部材13には水圧が作用する。従って、水深(すなわち、水圧)の増加に伴って押込部材12と切断部材13は鉛直上向きの力を受け、これらを支える支持板8に剪断力を与える。剪断力が一定水準に達すると支持板8は破断され(第1切離機構が作動し)、結合部材11、結合部材11に接続された第2切離機構、及び、第2切離機構に結合された重錘4が切り離される。第1切離機構の動作圧力(第1切離機構が作動する水圧)は支持板8の材質及び寸法によって変わるため、この関係を予め実験や計算により求めておき、任意の水深で破断するように設計された支持板8を第1切離機構に組み込むことにより、任意の水深で作動する第1切離機構を構成することができる。第1切離機構が動作不良を起こす要因としては、支持板8の寸法精度不良や材質不均一性、更には切断部材13端部の鈍化などが考えられる。支持
板8の材質としては、例えばアルミやプラスチック等の樹脂材が挙げられる。
【0025】
図4は、第2切離機構の内部構造を示す図である。重錘4は内部に空間(中空部)を有し、ホールクランパー15を格納する。また、重錘4には押込棒14が取り付けられており、押込棒14の下端部は着底板10に接続され、押込棒14の上端部は重錘4の中空部に達している。押込棒14は、上下方向に移動可能であり、バネによって下方向に付勢されている。押込棒14に上向き反力が加わっていない状態において、押込棒14の上端部とホールクランパー15の下端部とは離間している。着底板10が着底して上向き反力により着底板10及び押込棒14が重錘4に対して上方向に移動すると、押込棒14の上端部がホールクランパー15の下端部に位置する釦を押し込む。支持部9は、ホールクランパー15の一部であり、
図5に示すように爪部16と下方に先細りになるテーパー部17からなる。テーパー部17は下方向に付勢されており、釦の押し込みに応じて上方向に移動する。
図5の左側は、釦が押し込まれていないときの状態を示す。
図5の左側に示すように、テーパー部17により押し広げられた爪部16が結合部材11に設けられた開口の縁に当たることで結合部材11をクランプする(結合部材11に接続する)。釦の押し込みに応じてテーパー部17が上方に移動すると、
図5の右側に示すように爪部16の広がりが解消されて結合部材11をアンクランプし(第2切離機構が作動し)、第2切離機構(ホールクランパー15、押込棒14、着底板10)及び重錘4が結合部材11から切り離される。第2切離機構の動作における必要条件は、釦の押し込みに十分な上向き反力を得られることである。反力の大きさは海底の材質や形状に対する依存性を持ち、条件次第では動作不要の原因となり得る。
【0026】
本実施形態の観測装置の特徴は、結合部材11を用いることにより、異なる動作原理を持つ二つの機械的切離機構を一つの重錘4に適用可能にした点にある。本実施形態の観測装置によれば、任意の水深に到達したときに水圧式の第1切離機構が作動して重錘4が切り離され格納容器2が浮上するが、動作不良により第1切離機構が作動しない場合であっても、その後海底に到達したときに着底式の第2切離機構が作動して重錘4が切り離され格納容器2が浮上するため、切離機構の冗長化を実現して計測機器の回収率(回収成功率)を向上することができる。圧力型の第1切離機構及び着底式の第2切離機構は、それぞれ単体でみた場合にはその作動条件に不確定要素を含むため、100%の動作確率を達成することは難しい。しかし、両機構の動作原理は異なり動作不良の要因は物理的に異なるものと考えられる。従って、これらを組み合わせた場合の動作確率は両機構の合成確率で与えられる。例えば、各機構の動作確率が各々80%程度と見積もってもその合成確率は96%となり、各々90%であればその合成確率は99%となる。これは、動作不良率で見ると10%~20%から1%~4%まで減少することになり、動作不良率を一桁下げることに相当する。このように、本実施形態の観測装置によれば、第1切離機構及び第2切離機構それぞれの動作確率を各々80%~90%と仮定した場合、計測機器の回収成功率を96%~99%まで向上することができる。
【0027】
また、本実施形態の観測装置では、第1切離機構が作動した場合は、第1切離機構から結合部材11が切り離され第1切離機構を回収することができ、第2切離機構が作動した場合は、結合部材11から第2切離機構が切り離され、第1切離機構及び結合部材11を回収することができる。そのため、第1切離機構の切り離し箇所(第1切離機構と結合部材11の接続部分)や第2切離機構の切り離し箇所(結合部材11と第2切離機構の接続部分)を確認して各機構の作動状態を判定することができる。これは、実海域における切離機構の性能評価に寄与するとともに、これに基づく更なる信頼性向上に向けた有益な情報を与える。
【0028】
本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形
態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0029】
1…浮力材、2…格納容器、3…枠組部材、4…重錘、5…切離装置、6…GPS発信機、7…水密容器、8…支持板、9…支持部、10…着底板、11…結合部材、12…押込部材、13…切断部材、14…押込棒、15…ホールクランパー、16…爪部、17…テーパー部