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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038088
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
A61B8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142388
(22)【出願日】2020-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芝田 宏靖
(72)【発明者】
【氏名】佐山 俊之
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD03
4C601DE01
4C601EE09
4C601JB34
4C601JC06
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、被検体の静脈を迅速に検出することである。
【解決手段】超音波診断装置は、超音波プローブ10と、超音波プローブ10が被検体に接する圧力を検出する圧力センサ26と、演算部18とを備えている。演算部18は、超音波プローブ10が受信する超音波に基づいて、被検体における血流方向を示すドプラデータを生成するドプラ演算処理と、超音波プローブ10が受信する超音波に基づいて、被検体の断層画像を生成するBモード演算処理と、圧力センサ26による圧力検出値が異なる場合における各ドプラデータに基づいて、断層画像に現れる静脈を検出する血管解析処理とを実行する。ドプラ演算処理、Bモード演算処理および血管解析処理は、演算部18が備えるドプラ演算処理部32、Bモード演算処理部30および血管解析処理部36がそれぞれ実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブと、
前記超音波プローブが被検体に接する圧力を検出する圧力センサと、
演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記超音波プローブが受信する超音波に基づいて、前記被検体における血流方向を示す血流方向データを生成するドプラ演算処理と、
前記超音波プローブが受信する超音波に基づいて、前記被検体の断層画像を生成するBモード演算処理と、
前記圧力センサによる圧力検出値が異なる場合における各前記血流方向データに基づいて、前記断層画像に現れる静脈を検出する血管解析処理と、を実行することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記血管解析処理は、
前記断層画像に現れる判定対象血管を前記血流方向データに基づいて検出する処理と、
前記圧力検出値が圧力閾値を超えるときにおける前記判定対象血管の面積と、前記圧力検出値が前記圧力閾値以下であるときにおける前記判定対象血管の面積と、の比較に基づいて、前記断層画像に現れる静脈を検出する処理を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記血管解析処理は、
前記圧力検出値が前記圧力閾値以下であるときにおける前記判定対象血管の面積に対する、前記圧力検出値が前記圧力閾値を超えるときにおける前記判定対象血管の面積の比率である面積維持率が、所定の縮小閾値以下であるときに前記判定対象血管を静脈であると判定する処理を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記血管解析処理は、
複数の前記判定対象血管のそれぞれについて前記血流方向データに基づく血流方向を求め、
静脈であると判定された第1の前記判定対象血管とは異なる第2の前記判定対象血管の血流方向が、第1の前記判定対象血管の血流方向と同一である場合に、第2の前記判定対象血管を静脈であると判定する処理を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記血管解析処理は、
複数の前記判定対象血管のそれぞれについて前記血流方向データに基づく血流方向を求め、
静脈であると判定された第1の前記判定対象血管とは異なる第2の前記判定対象血管の血流方向が、第1の前記判定対象血管の血流方向と異なる場合に、第2の前記判定対象血管を動脈であると判定する処理を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記演算部は、
前記断層画像に血流方向を示す画像を重ねた断層血流画像を生成する断層血流画像生成処理と、
前記断層血流画像を表示部に表示させる表示処理と、を実行することを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、被検体の静脈を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置が広く用いられている。超音波診断装置は、被検体に対して超音波を送受信することで被検体の断層画像を生成し、ディスプレイに表示する。断層画像は、被検体の診断の他、被検体に対する施術にも用いられる。例えば、静脈が現れる断層画像を表示しながら静脈に針を穿刺する施術がある。
【0003】
超音波診断装置には、血液が流れる方向(血流方向)をドプラ法によって解析し、断層画像上に血流方向を色彩によって表すものがある。静脈に穿刺を行う施術者は、断層画像上に示された血流方向によって、血管が静脈であるか動脈であるかを識別し、静脈に対して穿刺を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-167795号公報
【特許文献2】特開2007-222291号公報
【特許文献3】特開2017-225632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドプラ法によって断層画像に示される血流方向は、超音波プローブから離れる方向または超音波プローブに向かう方向のいずれかである。施術者は、被検体に対する超音波プローブの姿勢と、断層画像に表された色彩の両者に基づいて、断層画像に示された血管が静脈であるか動脈であるかを判断する必要があり、経験の浅い施術者にとっては静脈の特定が困難であった。
【0006】
上記の特許文献1および2には、静脈と動脈とを識別する超音波診断装置が記載されている。特許文献1に記載されている超音波診断装置では、頸動脈等、特定の動脈について識別が可能であり、様々な血管についての識別は困難である。また、特許文献2に記載されている動脈識別装置は、断層画像に基づき管壁を特定する複雑な演算処理を実行する。そのため、静脈と動脈を迅速に識別することが困難な場合がある。
【0007】
本発明の目的は、被検体の静脈を迅速に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超音波プローブと、前記超音波プローブが被検体に接する圧力を検出する圧力センサと、演算部と、を備え、前記演算部は、前記超音波プローブが受信する超音波に基づいて、前記被検体における血流方向を示す血流方向データを生成するドプラ演算処理と、前記超音波プローブが受信する超音波に基づいて、前記被検体の断層画像を生成するBモード演算処理と、前記圧力センサによる圧力検出値が異なる場合における各前記血流方向データに基づいて、前記断層画像に現れる静脈を検出する血管解析処理と、を実行することを特徴とする。
【0009】
望ましくは、前記血管解析処理は、前記断層画像に現れる判定対象血管を前記血流方向データに基づいて検出する処理と、前記圧力検出値が圧力閾値を超えるときにおける前記判定対象血管の面積と、前記圧力検出値が前記圧力閾値以下であるときにおける前記判定対象血管の面積と、の比較に基づいて、前記断層画像に現れる静脈を検出する処理を含む。
【0010】
望ましくは、前記血管解析処理は、前記圧力検出値が前記圧力閾値以下であるときにおける前記判定対象血管の面積に対する、前記圧力検出値が前記圧力閾値を超えるときにおける前記判定対象血管の面積の比率である面積維持率が、所定の縮小閾値以下であるときに前記判定対象血管を静脈であると判定する処理を含む。
【0011】
望ましくは、前記血管解析処理は、複数の前記判定対象血管のそれぞれについて前記血流方向データに基づく血流方向を求め、静脈であると判定された第1の前記判定対象血管とは異なる第2の前記判定対象血管の血流方向が、第1の前記判定対象血管の血流方向と同一である場合に、第2の前記判定対象血管を静脈であると判定する処理を含む。
【0012】
望ましくは、前記血管解析処理は、複数の前記判定対象血管のそれぞれについて前記血流方向データに基づく血流方向を求め、静脈であると判定された第1の前記判定対象血管とは異なる第2の前記判定対象血管の血流方向が、第1の前記判定対象血管の血流方向と異なる場合に、第2の前記判定対象血管を動脈であると判定する処理を含む。
【0013】
望ましくは、前記演算部は、前記断層画像に血流方向を示す画像を重ねた断層血流画像を生成する断層血流画像生成処理と、前記断層血流画像を表示部に表示させる表示処理と、を実行する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被検体の静脈を迅速に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す図である。
図2A】血管解析処理のフローチャートである。
図2B】血管解析処理のフローチャートである。
図3】血管解析処理のフローチャートである。
図4】血管解析処理によって検出する静脈の種別と圧力閾値を例示する図である。
図5】超音波プローブによって押圧される前における被検体の断層血流画像を模式的に示す図である。
図6】超音波プローブによって押圧されているときにおける被検体の断層血流画像が模式的に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
各図を参照して本発明の実施形態について説明する。複数の図面に示されている同一の構成要素については同一の符号を付して、その説明を簡略化する。
【0017】
図1には、本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成が示されている。超音波診断装置は、超音波プローブ10、圧力センサ26、送受信部12、演算部18、表示部20、制御部22および操作部24を備えている。操作部24は、キーボード、マウス、回転ツマミ、レバー等を含み、ユーザの操作に基づく操作情報を制御部22に出力する。制御部22は、操作情報に基づいて超音波診断装置の全体的な制御を行う。表示部20は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等であってよい。また、表示部20は、操作部24と共にタッチパネルを構成してもよい。
【0018】
演算部18は、Bモード演算処理部30、ドプラ演算処理部32、表示処理部34および血管解析処理部36を備えている。演算部18はプログラムを実行することで、これらの構成要素(Bモード演算処理部30、ドプラ演算処理部32、表示処理部34および血管解析処理部36)を内部に構成するプロセッサであってよい。
【0019】
演算部18が備える1つの構成要素は、分散処理を実行する複数のプロセッサによって構成されてもよい。また、演算部18が備える複数の構成要素のうちの一部または全部は、外部のコンピュータによって構成されてもよい。外部のコンピュータは、演算部18に直接接続されたものでもよいし、インターネット等の通信回線に接続されたものでもよい。演算部18が備える1つの構成要素は、分散処理を実行する外部の複数のコンピュータによって構成されてもよい。さらに、演算部18が備える複数の構成要素のうちの一部または全部は、ハードウエアとしての電子回路によって個別に構成されてもよい。
【0020】
超音波診断装置は被検体の断層画像を求めるBモードで動作する。Bモードでは、制御部22の制御によって、送受信部12、超音波プローブ10、演算部18および表示部20が以下に説明されるように動作する。
【0021】
送受信部12は、送信回路14および受信回路16を備えている。超音波プローブ10は、複数の振動素子を備えている。送信回路14は、各振動素子に送信信号を出力する。各振動素子は、送信信号を超音波に変換し、被検体に送信する。送信回路14は、各振動素子から発せられる超音波が特定の方向で強め合うように、各振動素子に出力する送信信号の遅延時間を調整し、その特定の方向に超音波による送信超音波ビームを形成すると共に、送信超音波ビームを被検体に対して走査する。
【0022】
複数の振動素子のそれぞれは、被検体で反射した超音波を受信し、電気信号に変換して受信回路16に出力する。受信回路16は、送信超音波ビーム方向から受信された超音波に基づく電気信号が強め合うように、各振動素子から出力された電気信号を整相加算して受信信号を生成し、この受信信号を演算部18に出力する。整相加算によって、超音波プローブ10において受信超音波ビームが形成され、その受信超音波ビームに応じた受信信号が、断層画像を生成する受信信号として送受信部12から演算部18に出力される。なお、以下の説明では、送信超音波ビームおよび受信超音波ビームの総称として「超音波ビーム」の用語を用いる。
【0023】
Bモード演算処理部30は、走査方向に応じた各超音波ビーム方向に対して得られた受信信号に基づいて断層画像フレームを生成し、表示処理部34に出力する。表示処理部34は、断層画像フレームに基づく断層画像を表示部20に表示させる。
【0024】
Bモードでは、制御部22の制御によって、送受信部12、超音波プローブ10および演算部18は、被検体に対する超音波ビームの走査を繰り返し実行する。Bモード演算処理部30は、断層画像フレームを所定のフレームレートで時間経過と共に順次求め、表示処理部34に出力する。表示処理部34は、断層画像フレームに基づく断層画像を時間経過と共に順次表示部20に表示させる。これによって、表示部20には、断層画像による動画像が表示される。
【0025】
超音波診断装置は、Bモードの他、超音波ビーム方向に沿った血流速度を求めるドプラモードで動作する。以下の説明では、超音波ビーム方向に沿った血流速度を、単に血流速度という。すなわち、血流速度は、速度ベクトルの超音波ビーム方向に沿った成分を表す。本実施形態では、Bモードの動作における超音波の送受信と、ドプラモードの動作における超音波の送受信が時分割で行われることで、Bモードの動作とドプラモードの動作が時分割で実行される。
【0026】
ドプラモードでは、超音波ビーム方向に沿った血流速度が求められるドプラ解析領域が断層画像上に設定される。ドプラ解析領域は、Bモードにおいて超音波ビームが走査された領域に含まれるように設定される。ドプラ解析領域の設定は操作部24におけるユーザの操作に応じて、ドプラ解析領域を示す情報を制御部22が読み込むことで行われてよい。例えば、超音波ビームが走査される範囲と、被検体における深さの範囲が特定されることでドプラ解析領域が設定される。
【0027】
送受信部12は、ドプラ解析領域に超音波ビームを走査し、各超音波ビームの方向について、ドプラモード用の受信信号を演算部18に出力する。演算部18の内部に構成されたドプラ演算処理部32は、各超音波ビームの方向について、ドプラ解析領域で反射した超音波に対して得られた受信信号のドプラシフト周波数を解析し、ドプラ解析領域内の各位置における血流速度を求める。血流速度の極性は血流方向を示す。例えば、極性が負である血流速度の絶対値が超音波プローブ10から遠ざかる方向への血液の速さを表し、極性が正である血流速度の絶対値が超音波プローブ10に近付く方向への血液の速さを表すように血流速度が定義される。
【0028】
ドプラ演算処理部32は、ドプラ解析領域上の各位置における血流速度を示すドプラデータを時間経過と共に順次生成する。ドプラデータは、例えば、ドプラ解析領域における各座標値に血流速度を対応付けたデータであってよい。
【0029】
表示処理部34は、時間経過と共に順次生成された断層画像フレームおよびドプラデータに基づいて断層血流画像生成処理を実行し、時間経過と共に順次、断層血流画像フレームを生成する。断層血流画像フレームは、血流方向を示す画像を断層画像に重ねた断層血流画像を示すフレームである。断層血流画像は、超音波プローブ10から離れる方向に血液が流れている位置の画素を第1の色彩(例えば青色)で表示し、超音波プローブ10に向かう方向に血液が流れている位置の画素を第2の色彩(例えば赤色)で表示する画像であってよい。また、断層血流画像は、血流速度の絶対値が大きい程、色彩の輝度を大きくした画像であってもよい。表示処理部34は、断層血流画像フレームに基づく断層血流画像を時間経過と共に順次、表示部20に表示させる。これによって、表示部20には断層血流画像の動画像が表示される。
【0030】
次に、血管解析処理について説明する。血管解析処理は、超音波プローブ10によって被検体を押圧したときの血管の変形の度合いに応じて、その血管が静脈であるか否かを判定し、静脈を検出する処理である。静脈および動脈には、外部から圧力が与えられた場合に、静脈の方が動脈よりも変形し易いという性質がある。血管解析処理では、このような静脈および動脈の性質が利用される。血管解析処理では、超音波プローブ10によって被検体が押圧されていないときの血管の断面積に対する、押圧されているときの血管の断面積の比率(面積維持率)が予め定められた縮小閾値以下となったときに、その血管が静脈であると判定される。
【0031】
図1に示されているように、超音波プローブ10には圧力センサ26が設けられている。圧力センサ26は、超音波プローブ10が被検体を押圧する圧力を検出し、圧力に応じた圧力信号を血管解析処理部36に出力する。血管解析処理部36は、圧力信号に応じて圧力検出値を取得する。なお、本願明細書における「圧力」の用語は、物理学的に厳密に定義された圧力のみならず、圧力の度合いを表す値をも意味する。
【0032】
血管解析処理部36は、圧力検出値が予め定められた圧力閾値を超えるときに断層画像に現れている判定対象血管の面積と、圧力検出値が圧力閾値以下のときに断層画像に現れている判定対象血管の面積との比較に基づいて、判定対象血管が静脈であるか否かを判定する。より詳細には、血管解析処理部36は、圧力検出値が圧力閾値以下のときに断層画像に現れている判定対象血管の面積に対する、圧力検出値が圧力閾値を超えるときに断層画像に現れている判定対象血管の面積の比率である面積維持率が縮小閾値以下であるときに、その判定対象血管を静脈であると判定する。
【0033】
図2Aおよび図2Bには、断層血流画像に複数の血管が現れている場合における血管解析処理のフローチャートが示されている。これらの図面における丸印で囲まれた「A」の符号は、図2Aの処理の流れと、図2Bの処理の流れが接続されることを意味する。このフローチャートに示される処理は、時間経過と共に順次生成される複数のドプラデータのうち1つ、および時間経過と共に順次生成される複数の断層血流画像フレームのうち1つに基づいて行われてよい。また、このフローチャートに示される処理は、時間経過と共に順次生成される複数のドプラデータの移動平均、および時間経過と共に順次生成される複数の断層血流画像フレームの移動平均に基づいて行われてもよい。時間経過と共に順次生成される複数のドプラデータの移動平均とは、最新のドプラデータから過去に遡った複数のドプラデータのそれぞれに含まれる数値についての移動平均を示すデータをいう。また、時間経過と共に順次生成される複数の断層血流画像フレームの移動平均とは、最新の断層血流画像フレームから過去に遡った複数の断層血流画像フレームのそれぞれに含まれる数値についての移動平均を示すフレームをいう。
【0034】
血管解析処理部36は、ドプラデータに基づいて、断層血流画像上の各血管(判定対象血管)を検出する(S101)。判定対象血管の検出は、断層血流画像における血流速度の絶対値が0でない領域または所定の基準値を超える領域として定義されてよい。なお、断層血流画像上の各判定対象血管を検出する処理として、血管解析処理部36は、直接、ドプラデータに基づいて各判定対象血管を検出する処理を実行してもよいし、断層血流画像フレームに基づいて各判定対象血管を検出する処理を実行してもよい。
【0035】
血管解析処理部36は、圧力検出値が圧力閾値を超えるか否かを判定する(S102)。血管解析処理部36は、圧力検出値が圧力閾値を超える場合には、ステップS101で検出された各判定対象血管の領域を押圧時血管領域として認識し(S103)、押圧時血管領域を特定する情報を記憶する。押圧時血管領域を特定する情報には、例えば、断層血流画像上で、押圧時血管領域が占める範囲を示す情報がある。
【0036】
血管解析処理部36は、圧力検出値が圧力閾値以下である場合には、ステップS101で検出された各判定対象血管の領域を解放時血管領域として認識し(S104)、解放時血管領域を特定する情報を記憶する。解放時血管領域を特定する情報には、例えば、断層血流画像上で、解放時血管領域が占める範囲を示す情報がある。
【0037】
血管解析処理部36は、各判定対象血管について押圧時血管領域および解放時血管領域の両者が認識されたか否かを判定する(S105)。血管解析処理部36は、押圧時血管領域および解放時血管領域の両者が認識されたと判定したときは、ステップS106に進み、押圧時血管領域および解放時血管領域の両者が認識されていないと判定したときは、ステップS101に戻る。
【0038】
ステップS102~S105は、ユーザによる操作に基づいて行われてもよい。この場合、表示処理部34は、圧力検出値を表示部20に表示させる。ユーザは超音波プローブ10を被検体に接触させ、被検体を押圧しない状態とする。ユーザは、表示部20に表示された圧力検出値を参照し、圧力検出値が圧力閾値以下であることを確認したときは、解放時血管領域を特定する情報を血管解析処理部36が記憶するための操作を行う。
【0039】
次に、ユーザは超音波プローブ10を被検体に接触させ、被検体を押圧する状態とする。ユーザは、表示部20に表示された圧力検出値を参照し、圧力検出値が圧力閾値を超えていることを確認したときは、押圧時血管領域を特定する情報を血管解析処理部36が記憶するための操作を行う。次に、ユーザはステップS106を血管解析処理部36に実行させるための操作を行う。
【0040】
血管解析処理部36は、複数の判定対象血管のうち面積維持率が縮小閾値以下であるものを探索する(S106)。ここで、面積維持率は、解放時血管領域の面積に対する押圧時血管領域の面積の比率として定義される。ステップS106で探索される判定対象血管は1つであってよい。血管解析処理部36は、ステップS106で探索された判定対象血管を静脈であると判定する(S107)。血管解析処理部36は、ステップS107で静脈であると判定した判定対象血管と血流方向が同一である他の判定対象血管を、静脈であると判定する(S108)。血管解析処理部36は、ステップS107で静脈であると判定した判定対象血管と血流方向が異なる他の判定対象血管を、動脈であると判定する(S109)。
【0041】
血管解析処理が実行された後、表示処理部34は、断層血流画像上に静脈と動脈とを区別するための色彩や図形を示した血管識別画像を示す画像データを生成し、その画像データに基づく画像を表示部20に表示させてもよい。血管識別画像は、例えば、静脈を第3の色彩で示し、動脈を第4の色彩で示した画像であってもよい。また、血管識別画像は、静脈の管壁を太線や背景とは異なる色彩の線で示した画像であってよい。
【0042】
血管解析処理部36は、図2Bに示されたステップS106~S109に代えて、図3に示されるステップS206~S210を実行してもよい。血管解析処理部36は、複数の判定対象血管のそれぞれについて、解放時血管領域の面積に対する押圧時血管領域の面積の比率である面積維持率を求める(S206)。血管解析処理部36は、各判定対象血管について、面積維持率が縮小閾値以下であるか否かを判定する(S207)。血管解析処理部36は、面積維持率が縮小閾値以下の判定対象血管を静脈であると判定する(S208)。血管解析処理部36は、面積維持率が縮小閾値を超える判定対象血管における血流方向が、ステップS208で静脈であると判定された判定対象血管における血流方向と同一である場合には、面積維持率が縮小閾値を超えるその判定対象血管を静脈であると判定する(S209)。血管解析処理部36は、面積維持率が縮小閾値を超える判定対象血管における血流方向が、ステップS208で静脈であると判定された判定対象血管における血流方向と異なる場合には、面積維持率が縮小閾値を超えるその判定対象血管を動脈であると判定する(S210)。
【0043】
図4には、血管解析処理によって検出する静脈の種別と、圧力閾値が例示されている。この図には、検出する静脈が、内頸静脈、鎖骨下静脈および大腿静脈である場合についての圧力閾値がそれぞれ示されている。男性の場合、それぞれ、1.00N/cm、0.77N/cmおよび0.60N/cmである。女性の場合、それぞれ、1.17N/cm、0.86N/cmおよび0.69N/cmである。なお、上記のフローチャートにおける縮小閾値は、0.7以下(70%以下)の値であってよい。好ましくは、縮小閾値は0.5である。
【0044】
図5には、超音波プローブ10によって押圧される前における被検体の断層血流画像が模式的に示されている。図6には、超音波プローブ10によって押圧されているときにおける被検体の断層血流画像が模式的に示されている。これらの図面に示されているように、断層血流画像には、血管50-1、50-2および50-3と、血管50Aおよび50Bが現れている。血管50-1、50-2および50-3と、血管50Aおよび50Bとでは、異なる色彩で血流方向が表されており、血流方向が異なることが示されている。
【0045】
図5および図6に示されている例では、超音波プローブ10によって被検体を押圧したときに、血管50-1および50-2は大きく変形し、血管50-1および50-2の面積維持率は縮小閾値以下となる。そのため、図2Bのフローチャートに従う処理によれば、血管50-1および50-2のうち少なくとも一方は静脈であると判定される。血管50-1および50-2のうち一方の血管が静脈であると判定された場合、他方の血管は、一方の血管と血流方向が同一であるため静脈であると判定される。さらに、血管50-3は、血管50-1および50-2と血流方向が同一であるため静脈であると判定され、血管50Aおよび50Bは、血管50-1および50-2と血流方向が異なるため動脈であると判定される。
【0046】
また、図3のフローチャートに従う処理によれば、血管50-1および50-2は静脈であると判定される。血管50-3、50Aおよび50Bは、血管50-1および50-2に比べて変形の度合いが小さく、血管50-3、50Aおよび50Bの面積維持率は縮小閾値を超える。しかし、血管50-3における血流方向は、血管50-1および50-2における血流方向と同一である。そのため血管50-3は静脈であると判定される。一方、血管50Aおよび50Bの血流方向は、血管50-1および50-2における血流方向と異なる。そのため血管50Aおよび50Bは動脈であると判定される。
【0047】
このように、本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ10と、超音波プローブ10が被検体に接する圧力を検出する圧力センサ26と、演算部18とを備えている。演算部18は、超音波プローブ10が受信する超音波に基づいて、被検体における血流方向を示す血流方向データとしてのドプラデータを生成するドプラ演算処理と、超音波プローブ10が受信する超音波に基づいて、被検体の断層画像を生成するBモード演算処理と、圧力センサ26による圧力検出値が異なる場合における各ドプラデータに基づいて、断層画像に現れる静脈を検出する血管解析処理とを実行する。ドプラ演算処理、Bモード演算処理および血管解析処理は、演算部18が備えるドプラ演算処理部32、Bモード演算処理部30および血管解析処理部36がそれぞれ実行する。
【0048】
血管解析処理は、断層画像に現れる判定対象血管を血流方向データに基づいて検出する処理と、圧力検出値が圧力閾値を超えるときにおける判定対象血管の面積と、圧力検出値が圧力閾値以下であるときにおける判定対象血管の面積との比較に基づいて、断層画像に現れる静脈を検出する処理を含む。
【0049】
血管解析処理は、圧力検出値が圧力閾値以下であるときにおける判定対象血管の面積に対する、圧力検出値が圧力閾値を超えるときにおける判定対象血管の面積の比率である面積維持率が、所定の縮小閾値以下であるときに判定対象血管を静脈であると判定する処理を含む(S106,S107,S207,S208)。
【0050】
血管解析処理は、複数の判定対象血管のそれぞれについて血流方向を求め、静脈であると判定された第1の判定対象血管とは異なる第2の判定対象血管の血流方向が、第1の判定対象血管の血流方向と同一である場合に、第2の判定対象血管を静脈であると判定する処理を含む(S108,S209)。
【0051】
血管解析処理は、複数の判定対象血管のそれぞれについて血流方向を求め、静脈であると判定された第1の判定対象血管とは異なる第2の判定対象血管の血流方向が、第1の判定対象血管の血流方向と異なる場合に、第2の判定対象血管を動脈であると判定する処理を含む(S109,S210)。
【0052】
本実施形態に係る超音波診断装置によれば、ドプラデータに基づいて判定対象血管が検出され、判定対象血管が静脈であるか否かの判定、さらには、判定対象血管が動脈であるか否かの判定が行われる。判定対象血管の検出は、ドプラデータから血流速度が0でない領域または所定の閾値を超える領域を特定する処理に基づいて行われる。この処理は、断層画像に現れる血管を検出する等の従来の処理に比べて容易であるため、判定対象血管を特定する処理が迅速となる。したがって、本実施形態に係る超音波診断装置によれば、断層血流画像に現れる血管から静脈を検出する処理が迅速となる。静脈を検出する処理が迅速となることから、静脈に穿刺を行う等、静脈に対する施術が容易になる。
【0053】
なお、圧力センサ26は、超音波プローブ10に含まれる複数の振動素子とは別に設けられてもよいし、上記の特許文献3に記載されているように、超音波プローブ10に含まれる複数の振動素子のうちの一部を利用したものであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 超音波プローブ、12 送受信部、14 送信回路、16 受信回路、18 演算部、20 表示部、22 制御部、24 操作部、26 圧力センサ、30 Bモード演算処理部、32 ドプラ演算処理部、34 表示処理部、36 血管解析処理部、50-1,50-2,50-3,50A,50B 血管。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6