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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038226
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】AD変換装置及び制御システム
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/12 20060101AFI20220303BHJP
   H03M 1/10 20060101ALI20220303BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H03M1/12 C
H03M1/10 C
G05B23/02 302M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142608
(22)【出願日】2020-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 広志
【テーマコード(参考)】
3C223
5J022
【Fターム(参考)】
3C223AA11
3C223BA02
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB03
3C223FF27
3C223FF35
5J022AA01
5J022AA02
5J022AC04
5J022BA01
5J022CA07
5J022CD02
5J022CF10
(57)【要約】
【課題】制御システムの高精度化を図りつつ制御システムに対する信頼性を向上させること。
【解決手段】入力モジュール10は、センサSから入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するΔΣ型のメインADC50と、当該メインADC50により変換されたデジタル信号を監視する第1MCU60及び第2MCU70とを備えている。第1MCU60にはセンサSからのアナログ信号をデジタル信号に変換する逐次比較型のサブADC63が設けられており、第2MCU70にはセンサSからのアナログ信号をデジタル信号に変換する逐次比較型のサブADC73が設けられている。メインADC50は、MCU60,70とは別に設けられた変換用の集積回路であり、メインADC50により変換されたデジタル信号の変換値は、サブADC63,73により各々変換された複数のデジタル信号の変換値に基づいて設定された基準範囲と対比される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機器を制御対象として制御を行う制御システムに適用され、センサ部から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するメインAD変換器と当該メインAD変換器により変換された前記デジタル信号を監視する監視手段とを備えているAD変換装置であって、
前記メインAD変換器は、当該メインAD変換器を制御するマイコンとは別に設けられた変換用の集積回路であり、
前記監視手段は、
前記メインAD変換器よりも変換精度が低いAD変換器であって前記センサ部から入力された前記アナログ信号をデジタル信号に各々変換する複数のサブAD変換器と、
前記複数のサブAD変換器により各々変換された複数のデジタル信号の変換値に基づいて所定の閾値を設定する設定部と、
前記メインAD変換器により変換されたデジタル信号の変換値と前記所定の閾値とを対比する対比部と
を有しているAD変換装置。
【請求項2】
前記複数のサブAD変換器として、第1AD変換器と第2AD変換器とを有し、
前記監視手段は、前記第1AD変換器が内蔵された第1マイコンと、前記第2AD変換器が内蔵された第2マイコンとを有し、
前記第1マイコン及び前記第2マイコンは、それぞれの動作を互いに監視可能となっている請求項1に記載のAD変換装置。
【請求項3】
前記複数のサブAD変換器として、第1AD変換器と第2AD変換器とを有し、
前記第1AD変換器及び前記第2AD変換器は、デジタル信号への変換精度が同一又は略同一となっている請求項1又は請求項2に記載のAD変換装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記第1AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値及び前記第2AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値のうち相対的に大きい変換値に基づいて前記所定の閾値の下限値を設定し、相対的に小さい変換値に基づいて前記所定の閾値の上限値を設定する構成となっている請求項3に記載のAD変換装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記第1AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値及び前記第2AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値のうち相対的に大きい変換値から正の所定値を引いて前記所定の閾値の下限値を設定し、相対的に小さい変換値に前記正の所定値を足して前記所定の閾値の上限値を設定する構成となっている請求項3又は請求項4に記載のAD変換装置。
【請求項6】
前記設定部は、前記サブAD変換器の変換精度に応じて前記所定の閾値の前記上限値を引き下げ、当該変換精度に応じて前記所定の閾値の前記下限値を引き上げる構成となっている請求項5に記載のAD変換装置。
【請求項7】
前記監視手段は、前記第1AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値と前記第2AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値とを対比し、それら変換値の差がそれらAD変換器の変換精度に基づいて定められた所定値よりも大きい場合には所定の異常処理を実行する構成となっている請求項3乃至請求項6のいずれか1つに記載のAD変換装置。
【請求項8】
前記メインAD変換器はΔΣ型のAD変換器であり、前記サブAD変換器は逐次比較型のAD変換器である請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載のAD変換装置。
【請求項9】
前記サブAD変換器は、前記メインAD変換器よりもデジタル信号への変換精度は低い一方、前記メインAD変換器よりもデジタル信号への変換に要する所要時間は短くなっており、
前記監視手段は、所定の開始契機が成立したことに基づいて前記メインAD変換器に変換の開始が指示される際に、前記サブAD変換器の変換値又は当該変換値に相関のある相関値の記憶を開始し、
前記設定部は、前記メインAD変換器による変換の完了を待って、記憶されている前記変換値又は前記相関値から平均値を算出し、当該平均値に基づいて前記所定の閾値を設定する構成となっている請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載のAD変換装置。
【請求項10】
前記所定の閾値を設定する基準となる前記平均値は、移動平均により算出される平均値である請求項9に記載のAD変換装置。
【請求項11】
前記複数のサブAD変換器として、第1AD変換器と第2AD変換器とを有し、
前記監視手段は、前記第1AD変換器が設けられた第1マイコンと、前記第2AD変換器が設けられた第2マイコンとを有し、
前記第1マイコンには、
前記第1AD変換器の変換値又は当該変換値に相関のある相関値を記憶する第1記憶部と、
前記第1記憶部に記憶されている前記変換値又は前記相関値の平均値を算出する第1算出部と
が設けられており、
前記第2マイコンには、
前記第2AD変換器の変換値又は当該変換値に相関のある相関値を記憶する第2記憶部と、
前記第2記憶部に記憶されている前記変換値又は前記相関値の平均値を算出する第2算出部と
が設けられている請求項9又は請求項10に記載のAD変換装置。
【請求項12】
前記対比部による対比結果が前記メインAD変換器により変換されたデジタル信号の変換値が前記所定の閾値に含まれていることを示す対比結果である場合には、前記メインAD変換器の変換値を産業機器の制御装置へ入力し、前記対比部による対比結果が前記メインAD変換器により変換されたデジタル信号の変換値が前記所定の閾値から外れていることを示す対比結果である場合には、前記メインAD変換器の変換値に代えて当該対比結果を明示する所定の値を前記制御装置へ入力する手段を備えている請求項1乃至請求項11のいずれか1つに記載のAD変換装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1つに記載のAD変換装置を備え、当該AD変換装置から入力されたデジタル信号に基づいて産業機器を制御する制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AD変換装置、AD変換装置を有する制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器用の制御システムにおいては、センサ部(例えば温度センサや流量センサ)からのアナログ信号をAD変換器にてデジタル信号に変換した後にコントローラ等の制御装置へ入力するAD変換装置(入力モジュール)を備えているものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-238450
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した制御システムにおいては、入力モジュールに適用されるAD変換器をマイコンとは別の専用ICとすることにより、AD変換(制御システム)の高精度化等を容易に実現することができる。これは、産業機器のパフォーマンスを向上させる上で好ましい。但し、マイコンとは別に設けられたAD変換器についてはマイコンに内蔵されたAD変換器(汎用品)と比べて故障等の判定が困難となる。このため、AD変換器に故障が発生する等してデジタル信号への変換が正常に行われなかった場合であっても当該デジタル信号(例えば許容誤差を超える誤差を含んだデジタル信号)がそのままコントローラ等へ入力される可能性が高くなると懸念される。これは、制御システム(産業機器)に対する信頼性の向上を図る上で好ましくない。このように、制御システムの高精度化を図りつつ制御システムに対する信頼性の向上を図る上ではAD変換装置に係る構成に未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、制御システムの高精度化を図りつつ制御システムに対する信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段について記載する。
【0007】
第1の手段.産業機器を制御対象として制御を行う制御システムに適用され、センサ部(センサS)から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するメインAD変換器(メインADC50)と当該メインAD変換器により変換された前記デジタル信号を監視する監視手段(第1MCU60及び第2MCU70)とを備えているAD変換装置であって、
前記メインAD変換器は、当該メインAD変換器を制御するマイコンとは別に設けられた変換用の集積回路であり、
前記監視手段は、
前記メインAD変換器よりも変換精度が低いAD変換器であって前記センサ部から入力された前記アナログ信号をデジタル信号に各々変換する複数のサブAD変換器(サブADC63,73)と、
前記複数のサブAD変換器により各々変換された複数のデジタル信号の変換値に基づいて所定の閾値(基準範囲DE)を設定する設定部(制御部61においてステップS211の処理を実行する機能)と、
前記メインAD変換器により変換されたデジタル信号の変換値と前記所定の閾値とを対比する対比部(制御部61においてステップS212の処理を実行する機能)と
を有しているAD変換装置。
【0008】
メインAD変換器をマイコンとは別に設けられた変換用の集積回路とすることにより、マイコンに内蔵されたAD変換器と比較して、変換精度等の向上に係る制約を好適に緩和できる。これは、制御システムの高精度化を実現する上で好ましい。第1の手段に示すAD変換装置にはメインAD変換器の他に複数のサブAD変換器が設けられており、センサ部からのアナログ信号についてはメインAD変換器及び複数のサブAD変換器にて各々デジタル信号に変換される。そして、複数のサブAD変換器により各々変換された複数のデジタル信号の変換値に基づいて上記所定の閾値(許容範囲)が設定される。所定の閾値とメインAD変換器の変換値とを対比することにより、当該メインAD変換器の変換値に許容範囲を超える誤差が発生していることを特定できる。本第1の手段においては特に、変換精度の低い監視用のサブAD変換器を複数併用することにより、所定の閾値の確からしさを向上させている。これにより、制御システムの高精度化を図りつつ制御システムに対する信頼性を向上させることができる。
【0009】
監視機能の追加によって変換値(メインAD変換器による変換値)のコントローラ等への入力が大きく遅延されることを抑制できる。例えば、AD変換器の変換精度については変換所要時間と相関があり、精度を高くしようとすれば変換所要時間も長くなる傾向がある。ここで、上述の如くサブAD変換器の変換精度はメインAD変換器の変換精度よりも低く抑えられている。これにより、監視機能の追加によって変換値(メインAD変換器による変換値)のコントローラ等への入力が大きく遅延されることを抑制できる。
【0010】
第2の手段.前記複数のサブAD変換器として、第1AD変換器(サブADC63)と第2AD変換器(サブADC73)とを有し、
前記監視手段は、前記第1AD変換器が内蔵された第1マイコン(第1MCU60)と、前記第2AD変換器が内蔵された第2マイコン(第2MCU70)とを有し、
前記第1マイコン及び前記第2マイコンは、それぞれの動作を互いに監視可能となっている。
【0011】
例えばマイコンに動作異常が発生して信頼性を担保できない状態であるにも係わらずそれらマイコンに内蔵されたサブAD変換器の変換値に基づいて上記所定の閾値が設定された場合には以下の不都合が生じ得る。すなわち、本来であれば所定の閾値から外れていると判定されるべきメインAD変換器の変換値がそのまま制御システムのコントローラ等へ出力されるといった不都合が生じ得る。この点、第2の手段に示すように、各マイコンの動作を相互に監視する構成とすることにより、マイコンの動作異常を速やかに発見できる。これは、上記不都合の発生を抑制する上で好ましい。
【0012】
第3の手段.前記複数のサブAD変換器として、第1AD変換器(サブADC63)と第2AD変換器(サブADC73)とを有し、
前記第1AD変換器及び前記第2AD変換器は、デジタル信号への変換精度が同一又は略同一となっている。
【0013】
第1AD変換器の変換値及び第2AD変換器の変換値に基づいて所定の閾値を設定する上では、それらサブAD変換器の変換精度を同一又は略同一とすることにより、それら変換値の扱いが容易となる。これにより、所定の閾値を設定するための構成の簡素化に寄与できる。
【0014】
なお、本第3の手段における「前記第1AD変換器と前記第2AD変換器とはデジタル信号への変換精度が同一又は略同一」とは、各変換器の変換精度がカタログ値等に記載された製品仕様において同一となっているものを想定しており、例えば実際に変換精度が完全に一致しているものや各変換器の変換精度に個体差による若干のばらつきが生じるものを含む。
【0015】
第4の手段.前記設定部は、前記第1AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値及び前記第2AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値のうち相対的に大きい変換値に基づいて前記所定の閾値の下限値(下限LL)を設定し、相対的に小さい変換値に基づいて前記所定の閾値の上限値(上限UL)を設定する構成となっている。
【0016】
相対的に大きい変換値に基づいて所定の閾値の下限値を設定し、相対的に小さい変換値に基づいて所定の閾値の上限値を設定する構成とすれば、相対的に小さい変換値に基づいて所定の閾値の下限値を設定し、相対的に大きい変換値に基づいて所定の閾値の上限値を設定する構成と比較して、監視精度を向上させることができる。
【0017】
第5の手段.前記設定部は、前記第1AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値及び前記第2AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値のうち相対的に大きい変換値から正の所定値を引いて前記所定の閾値の下限値を設定し、相対的に小さい変換値に前記正の所定値を足して前記所定の閾値の上限値を設定する構成となっている。
【0018】
相対的に大きい変換値から正の所定値を引いて所定の閾値の下限値を設定し、相対的に小さい変換値に正の所定値を足して所定の閾値の上限値を設定する構成とすれば、相対的に大きい変換値に正の所定値を足して所定の閾値の上限値を設定し、相対的に小さい変換値から正の所定値を引いて所定の閾値の下限値を設定する構成と比較して、監視精度を向上させることができる。
【0019】
第6の手段.前記設定部は、前記サブAD変換器の変換精度に応じて前記所定の閾値の前記上限値を引き下げ、当該変換精度に応じて前記所定の閾値の前記下限値を引き上げる構成となっている。
【0020】
サブAD変換器の変換精度を考慮するようにして所定の閾値を補正することにより、監視精度の向上に寄与できる。
【0021】
第7の手段.前記監視手段は、前記第1AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値と前記第2AD変換器により変換されたデジタル信号の変換値とを対比し、それら変換値の差がそれらAD変換器の変換精度に基づいて定められた所定値よりも大きい場合には所定の異常処理を実行する構成となっている。
【0022】
2つのサブAD変換器の変換値の差を監視し、その差が所定値よりも大きい場合に所定の異常処理を実行する構成とすれば、所定の閾値の設定機能に対する信頼性を好適に向上させることができる。
【0023】
第8の手段.前記メインAD変換器はΔΣ型のAD変換器であり、前記サブAD変換器は逐次比較型のAD変換器である。
【0024】
第8の手段に示すように、メインAD変換器をΔΣ型のAD変換器とし、サブAD変換器を逐次比較型のAD変換器とすれば、第1の手段に示した効果を好適に発揮させることができる。
【0025】
第9の手段.前記サブAD変換器は、前記メインAD変換器よりもデジタル信号への変換精度は低い一方、前記メインAD変換器よりもデジタル信号への変換に要する所要時間は短くなっており、
前記監視手段は、所定の開始契機が成立したことに基づいて前記メインAD変換器に変換の開始が指示される際に、前記サブAD変換器の変換値又は当該変換値に相関のある相関値の記憶を開始し、
前記設定部は、前記メインAD変換器による変換の完了を待って、記憶されている前記変換値又は前記相関値から平均値を算出し、当該平均値に基づいて前記所定の閾値を設定する構成となっている。
【0026】
メインAD変換器による変換完了を待って所定の閾値を設定する構成とすることにより、メインAD変換器の変換完了タイミングとサブAD変換器の変換完了タイミングとのずれによる監視精度の低下を抑制できる。そして、メインAD変換器による変換完了を待つ間にサブAD変換器の変換値又は当該変換値に相関のある相関値を累積→平均値を算出することにより、精度が低いサブAD変換器を用いる場合であっても監視精度を好適に向上させることができる。
【0027】
第10の手段.前記所定の閾値を設定する基準となる前記平均値は、移動平均により算出される平均値である。
【0028】
本第10の手段に示すように移動平均によって平均値を算出する構成とすれば、変換値等の記憶機能によってマイコン等の記憶領域が圧迫されることを抑制できる。
【0029】
第11の手段.前記複数のサブAD変換器として、第1AD変換器(サブADC63)と第2AD変換器(サブADC73)とを有し、
前記監視手段は、前記第1AD変換器が設けられた第1マイコン(第1MCU60)と、前記第2AD変換器が設けられた第2マイコン(第2MCU70)とを有し、
前記第1マイコンには、
前記第1AD変換器の変換値又は当該変換値に相関のある相関値を記憶する第1記憶部(記憶部62)と、
前記第1記憶部に記憶されている前記変換値又は前記相関値の平均値を算出する第1算出部(制御部61)と
が設けられており、
前記第2マイコンには、
前記第2AD変換器の変換値又は当該変換値に相関のある相関値を記憶する第2記憶部(記憶部72)と、
前記第2記憶部に記憶されている前記変換値又は前記相関値の平均値を算出する第2算出部(制御部71)と
が設けられている。
【0030】
第1の手段等に示したようにメインAD変換器の変換値と所定の閾値とを対比する構成においては、所定の閾値を都度算出することで監視精度の向上が期待できるものの、所定の閾値を設定するまでの時間が間延びすることは好ましくない。この点、本第11の手段に示すように、各マイコンにて変換値等の記憶→平均値の算出を各々実行する構成とすれば、何れかのマイコンに変換値等の記憶及び平均値の算出の各機能を集約する場合と比較して、所定の閾値を設定する際の応答性を好適に向上させることができる。
【0031】
第12の手段.前記対比部による対比結果が前記メインAD変換器により変換されたデジタル信号の変換値が前記所定の閾値に含まれていることを示す対比結果である場合には、前記メインAD変換器の変換値を産業機器の制御装置へ入力し、前記対比部による対比結果が前記メインAD変換器により変換されたデジタル信号の変換値が前記所定の閾値から外れていることを示す対比結果である場合には、前記メインAD変換器の変換値に代えて当該対比結果を明示する所定の値を前記制御装置へ入力する手段を備えている。
【0032】
メインAD変換器の変換値が所定の閾値から外れている場合(安全精度が確保されていないと想定される場合)にはメインAD変換器の変換値に代えて所定の値を入力する構成とすれば、安全精度が確保されていない変換値に基づいて産業機器の制御が実行されることを好適に回避できる。
【0033】
第13の手段の制御システムは、前記AD変換装置を備え、前記AD変換装置から入力されたデジタル信号に基づいて産業機器を制御する。
【0034】
上記構成によれば、制御システムの信頼性を好適に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施形態における入力モジュールを示すブロック図。
図2】変換ブロックの概略図。
図3】各ADCを対比した概略図。
図4】各MCUにて実行される動作確認処理を示すフローチャート。
図5】第1MCUにて実行される診断用処理を示すフローチャート。
図6】各MCUの記憶部を示す概略図。
図7】ΔΣ演算の所要時間とSAR演算の所要時間とを対比した概略図。
図8】各変換データ(演算データ)と基準範囲との関係を示す概略図。
図9】基準範囲設定の流れを示す概略図。
図10】基準範囲とメインADCの変換データとの関係を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、工場等で用いられる産業機器の制御システム(例えばバルブ制御システム)に使用される入力モジュールに具体化されている。
【0037】
図1に示すように、入力モジュール10は、センサS(例えば温度センサや流量センサ)からアナログ信号が入力される入力端子20と、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するメインADC50を有する変換ブロック30と、入力モジュール10及びバルブ制御用の制御装置Cを接続する高速通信バスであるバックプレーン40とを備えている。本実施形態においては、センサSが「センサ部」に相当し、メインADC50が「メインAD変換器」に相当する。
【0038】
変換ブロック30には、メインADC50とともに複数のマイコン(第1MCU60及び第2MCU70)が設けられている。メインADC50は、第1MCU60及び第2MCU70とは別に設けられた変換用の集積回路であり、アナログ信号をデジタル信号に変換するΔΣ変調器(以下、変換部51という)と当該変換部51により変換された変換データの帯域制限やデシメーションを行うデジタルフィルタ(以下、フィルタ部52という)とで構成されている。メインADC50は第1MCU60からの指令(後述する制御信号)に基づいてAD変換を行い、当該メインADC50によって変換されたデジタル信号がバックプレーン40にセットされる。本実施形態におけるメインADC50の変換精度はフルスケールにおける±0.05%である。なお、以下の説明では、デジタル信号の値を「変換値」又は「変換データ」という。
【0039】
メインADC50をマイコンとは別の専用品(詳しくはΔΣ型)とすることは、入力モジュール10(制御システム)の高精度化等を簡易に実現し、産業機器のパフォーマンスを向上させる上で好ましい。但し、マイコンとは別に設けられたADCについてはマイコン内蔵のADC(汎用品)と比べて故障等の判定が困難となる。このため、ADCに故障が発生する等してデジタル信号への変換が正常に行われなかった場合であっても変換データ(例えば許容誤差を超える誤差を含んだ適正でない変換データ)がそのまま制御装置Cへ入力される可能性が高くなると懸念される。これは、制御システム(産業機器)に対する信頼性の向上を図る上で好ましくない。本実施形態では、このような事情に配慮した工夫がなされていることを特徴の1つとしている。以下、当該工夫について説明する。
【0040】
第1MCU60は、CPU(以下、制御部61という)と制御プログラム等の各種プログラムや制御用の各種データを記憶するROM、RAM、バッファ(以下、記憶部62という)とを有し、第2MCU70は、CPU(以下、制御部71という)と制御プログラム等の各種プログラムや制御用の各種データを記憶するROM、RAM、バッファ(以下、記憶部72という)とを有している。第1MCU60及び第2MCU70は相互に通信可能となるように接続されている。
【0041】
センサSからのアナログ信号は、メインADC50に加えて第1MCU60及び第2MCU70にも入力される(図2参照)。第1MCU60及び第2MCU70には、逐次比較型のADCであるサブADCが各々内蔵されており、センサSからのアナログ信号はそれらサブADCにてアナログ信号からデジタル信号に各々変換される。詳細については、後述するが、第1MCU60の制御部61においては、サブADC63,73の各変換データに基づいて、メインADC50の変換データの精度が基準精度(本実施形態においてはフルスケールにおける±1%)となっているかを診断するための基準となる基準範囲DEを設定し、当該基準範囲DEとメインADC50の変換データとを対比することで、メインADC50の変換データが基準精度を満たしているかを診断する。本実施形態においては、上記2つのMCU60,70によりメインADC50用の「監視手段」が構成されており、「第1MCU60」が「第1マイコン」に相当し、「第2MCU70」が「第2マイコン」に相当する。
【0042】
逐次比較型のサブADC63,73はΔΣ型のメインADC50よりも変換精度が低くなっているものの(図3参照)、変換精度に劣るサブADCを複数併用することにより、基準範囲DEの確からしさ、すなわち診断機能の確からしさを向上させている。
【0043】
ここで、例えばMCU60,70に動作異常等が発生して信頼性を担保できない状態であるにも係わらず付属のサブADC63、73による変換データに基づいて基準範囲DEが設定された場合には以下の不都合が生じ得る。すなわち、本来であれば基準精度を満たしていないと診断されるべき変換データ(メインADC50の変換データ)が基準精度を満たしていると診断され、そのまま制御装置Cへ出力されるといった不都合が生じ得る。第1MCU60及び第2MCU70については、動作を相互に監視する構成とすることにより、そのような不都合の発生を抑制している。以下、図4を参照して、各MCU60,70の制御部61,71にて各々実行される相互監視用の処理(動作確認処理)について説明する。動作確認処理については、各制御部61、71おいて定期処理の一環として各々実行される処理である。
【0044】
動作確認処理においては先ず、ステップS101にて動作チェックタイミングとなったか否かを判定する。ステップS101にて否定判定をした場合にはそのまま本動作確認処理を終了し、ステップS101にて肯定判定をした場合にはステップS102に進む。ステップS102では、相手側のMCUの動作状況を把握する。各MCUの記憶部62,72には相手側のMCUの動作パターンを示す情報を記憶されており、両MCUで動作パターンを示す情報が共有されている。ステップS103では記憶されている相手側の動作パターンと相手側の現在の動作状況とが一致しているかを確認する。
【0045】
相手側の動作状況が記憶されている動作パターンと一致している場合には、ステップS104にて肯定判定をして、そのまま本動作確認処理を終了する。相手側の動作状況が記憶されている動作パターンと一致していない場合には、ステップS104にて否定判定をしてステップS105に進み、エラー処理を実行した後、本動作確認処理を終了する。
【0046】
ステップS105のエラー処理では、バックプレーン40にセットされる変換データをエラー発生に対応する特殊データ(例えば0V/0mA)に強制的に書き替えるための処理を行う。本実施形態においては、当該特殊データが入力モジュール10(詳しくはMCU60,70)に動作異常が発生している旨を制御装置C側へ報知する報知手段として機能している。以降は、少なくともエラー解除条件が成立するまで(例えばエラー解除操作が実行されるまで)、メインADC50の変換データがバックプレーン40にセットされないように規制されることとなる。つまり、MCU60,70の動作を相互に監視することにより、MCU60,70の動作異常によって基準範囲DEの確からしさを担保できない状況下にてメインADC50の変換データが制御装置Cへ入力されることを回避している。
【0047】
次に、図5を参照して、メインADC50の変換データが上記基準精度を満たしているかを診断するための処理(診断用処理)について説明する。診断用処理は、第1MCU60の制御部61にて定期処理の一環として実行される処理である。
【0048】
診断用処理においては先ず、ステップS201にて基準範囲DEを設定するためのデータ(後述する演算データ)を準備している最中であるか否かを判定する。ステップS201にて否定判定をした場合には、ステップS202に進む。既に説明したように、本実施形態に示すメインADC50についてはΔΣ型である。ΔΣ型のADCは、変換精度が高い反面、変換にある程度の所要時間を要する。このため、第1MCU60からメインADC50に変換開始の指令である制御信号(シンクロ信号)が出力されたとしても、メインADC50にて変換完了となり変換データが第1MCU60に入力されるまでにはある程度のタイムラグが生じる。ステップS202では、メインADC50からの応答を待っている最中(言い換えればメインADC50にて変換用の処理を実行している最中)であるか否かを判定する。ステップS202にて否定判定をした場合には、ステップS203に進む。なお、MCU60からメインADC50への制御信号(シンクロ信号)の出力はメインADC50が変換用の処理を開始したことを意味し、MCU60は応答が来るまでの間逐次AD変換を行いデータを蓄積している状態となる。
【0049】
ステップS203では、メインADC50の変換データを取得するための取得条件が成立したか(開始トリガがONとなったか)否かを判定する。ステップS203にて否定判定をした場合には、そのまま本診断用処理を終了する。ステップS203にて肯定判定をした場合には、ステップS204に進み、メインADC50へ上記制御信号を出力する。その後は、ステップS205にてデータ蓄積開始処理を実行した後、本診断用処理を終了する。ステップS205のデータ蓄積開始処理においては、サブADC63による変換データの蓄積が開始される。
【0050】
上述したようにメインADC50に変換を指示したとしても、変換データ取得までに待ち時間が発生する。本実施形態では、この待ち時間を利用して、サブADC63の変換データを累積し、累積した変換データ群を利用してΔΣ演算に似せた演算を実行することで上記演算データを用意する構成が実現されている。以下、当該演算を実行するための構成について説明する。
【0051】
図6に示すように、記憶部62には第1エリアBE1~第10エリアBE10からなる変換データ記憶エリア66が設けられており、サブADC63による変換データは第1エリアBE1→第2エリアBE2→第3エリアBE3→・・・→第10エリアBE10の順に記憶される構成となっている。そして、第1エリアBE1~第10エリアBE10が全て埋まった場合には、それら変換データの平均値を算出するとともに第1エリアBE1~第10エリアBE10に記憶されている各変換データを消去し、その算出結果(圧縮データ)を記憶部62の圧縮データ記憶エリア67に記憶する。このようにして、変換データを圧縮することにより記憶すべきデータの数が過度に多くなることを抑制している。
【0052】
サブADC63における逐次比較演算(SAR演算)の所要時間については、メインADC50におけるΔΣ演算の所要時間と比べて極めて短くなっており、ΔΣ演算が完了するまでにSAR演算が多数繰り返されることとなる(図7参照)。つまり、1度のΔΣ演算において上記圧縮が幾度も繰り返されることとなる。
【0053】
具体的には、圧縮データ記憶エリア67は、第1エリアCE1~第4エリアCE4で構成されており、最新の圧縮データが第4エリアCE4に記憶されることとなる。この際、第4エリアCE4に記憶されていた圧縮データは第3エリアCE3にシフトされ、第3エリアCE3に記憶されていた圧縮データは第2エリアCE2にシフトされ、第2エリアCE2に記憶されていた圧縮データは第1エリアCE1にシフトされ、第1エリアCE1に記憶されていた最も古い圧縮データは消去される。つまり、圧縮データ記憶エリア67に記憶されている圧縮データは直近(最新)の4つとなるように蓄積が終了するまで随時更新される。
【0054】
また、ステップS205のデータ蓄積開始処理では、第2MCU70へも制御信号(シンクロ信号)が出力される。第2MCU70においても当該制御信号を受信したことに基づいて、サブADC73による変換データの蓄積を開始する。具体的には第2MCU70の記憶部72には、第1MCU60の記憶部62と同様に、第1エリアBE1~第10エリアBE10からなる変換データ記憶エリア76が設けられており、サブADC73による変換データを第1エリアBE1→第2エリアBE2→第3エリアBE3→・・・→第10エリアBE10の順に記憶する。そして、第1エリアBE1~第10エリアBE10が全て埋まった場合には、それら変換データの平均値を算出するとともに第1エリアBE1~第10エリアBE10に記憶されている各変換データを消去し、その算出結果(圧縮データ)を記憶部72の圧縮データ記憶エリア77に記憶する。このようにして、変換データを圧縮することにより記憶すべきデータの数が過度に多くなることを抑制している。
【0055】
具体的には、圧縮データ記憶エリア77は、第1MCU60の圧縮データ記憶エリア67と同様に、第1エリアCE1~第4エリアCE4で構成されており、最新の圧縮データが第4エリアCE4に記憶されることとなる。この際、第4エリアCE4に記憶されていた圧縮データは第3エリアCE3にシフトされ、第3エリアCE3に記憶されていた圧縮データは第2エリアCE2にシフトされ、第2エリアCE2に記憶されていた圧縮データは第1エリアCE1にシフトされ、第1エリアCE1に記憶されていた最も古い圧縮データは消去される。つまり、圧縮データ記憶エリア77に記憶されている圧縮データは直近(最新)の4つとなるように蓄積が終了するまで随時更新される。
【0056】
図5に示す診断処理の説明に戻り、ステップS202にて肯定判定をした場合、すなわちメインADCからの応答を待っている最中である場合には、ステップS206に進む。ステップS206ではメインADCからの応答があったか否か、すなわちメインADC50の変換データを取得したか否かを判定する。ステップS206にて否定判定をした場合には、そのまま本診断用処理を終了する。ステップS206にて肯定判定をした場合には、ステップS207に進む。ステップS207では、演算データ準備処理を行う。
【0057】
ステップS207の演算データ準備処理では演算データ準備終了フラグをセットする。このフラグがセットされることで、次に変換データ記憶エリア76の第1エリアBE1~第10エリアBE10が全て埋まったタイミングで、サブADC63における変換が終了し、それ以上の変換データの蓄積が回避されることとなる。また、演算データ準備処理では、第2MCU70に対して以下の指示を行う。すなわち、次に変換データ記憶エリア76の第1エリアBE1~第10エリアBE10が全て埋まったタイミングで、それ以上の変換データの蓄積を終了する旨を指示する。
【0058】
ステップS201の説明に戻り、当該ステップS201にて肯定判定をした場合、すなわちステップS207にて演算データ準備終了フラグがセットされた場合には、ステップS208に進む。ステップS208では演算データの準備が完了したか否かを判定する。具体的には、サブADC63に係る演算データと、サブADC73に係る演算データとが揃っているか否かを判定する。
【0059】
具体的には、演算データ準備終了フラグがセットされている状況下にて、第1MCU60の変換データ記憶エリア76(第1エリアBE1~第10エリアBE10)が全て埋まり、圧縮データ記憶エリア67の圧縮データが更新された際に、圧縮データ記憶エリア67の第1エリアCE1~第5エリアCE5の平均値が算出される。この演算結果が上記基準範囲DEの設定の元になる1つ目の演算データである。つまり、サブADC63に係る当該演算データは、サブADC63の変換データの移動平均である。
【0060】
また、第2MCU70においても、演算データ準備終了フラグがセットされている状況下にて、変換データ記憶エリア76(第1エリアBE1~第10エリアBE10)が全て埋まり、圧縮データ記憶エリア77の圧縮データが更新された場合には、圧縮データ記憶エリア67の第1エリアCE1~第5エリアCE5の平均値が算出される。この演算結果が上記基準範囲DEの設定の元になる2つ目の演算データである。つまり、サブADC73に係る当該演算データは、サブADC73の変換データの移動平均である。なお、サブADC73に係る演算データは、演算完了後に速やかに第1MCU60に送信される。
【0061】
サブADC63,73に係る2つの演算データが揃っていない場合にはステップS208にて否定判定をして本診断用処理を終了する。それら2つの演算データが揃っている場合にはステップS208にて肯定判定をしてステップS209に進む。
【0062】
ステップS209では演算データの対比処理を実行する。第1MCU60のサブADC63及び第2MCU70のサブADC73については製品仕様における変換精度(例えばカタログ値)が同一となるものが採用されている。より詳しくは、第1MCU60及び第2MCU70は同一製品となっている。ステップS209の対比処理においては、本実施形態においてはサブADC63,73の変換精度の2倍が演算データの差(ズレ)を許容する許容範囲となるように規定されている。なお、本実施形態におけるサブADC63,73の変換精度については何れも±0.5%となっている。
【0063】
2つの演算データの差(ズレ)が当該許容範囲内である場合には、ステップS210にて肯定判定をしてステップS211に進む。ステップS211では、メインADC50の変換データの診断を行う基準となる上記基準範囲DEを設定する。ここで、図7及び図8を参照して、基準範囲DEの設定態様について補足説明する。なお、以下の説明では便宜上、診断によって担保すべき基準精度(許容誤差)を「±α」、サブADC63,73の変換精度(変換誤差)を「±β」、メインADC50の変換精度(変換誤差)を「±γ」と記載する。
【0064】
上述したように第1MCU60のサブADC63及び第2MCU70のサブADC73については製品仕様における変換精度(例えばカタログ値)が同一となるものが採用されている。但し、製品仕様における変換精度が同一であったとしても、製品の個体差等によって変換データには差が生じ得る(図8参照)。本実施形態における基準範囲DEの設定処理においては、図9に示すように、第1MCU60のサブADC63の変換データ群の平均値である演算データ及び第2MCU70のサブADC73の変換データ群の平均値である演算データと、基準精度「±α」と、サブADC63,73の変換精度「±β」とに基づいて基準範囲DEの上限UL及び下限LLを決定する。
【0065】
具体的には、2つの演算データのうち大きい一方から絶対値αを引いて仮の下限を決定し、小さい一方に絶対値αを足して仮の上限を決定する。つまり、2つの変換データに基準精度「±α」を加味した場合に両範囲が重複する部分が仮の基準範囲として決定される。そして、この仮決定された範囲を変換精度「±β」を用いて補正する。具体的には、仮の上限から絶対値βを引いて上限ULを決定し、仮の下限に絶対値βを足して下限LLを決定する。このようにして仮の基準範囲を減縮(圧縮)することで診断基準となる基準範囲DEが設定される。
【0066】
図5の診断用処理の説明に戻り、ステップS211の設定処理を実行した後は、ステップS212の診断処理(対比処理)を実行する。具体的には、メインADC50から取得した変換データが、当該メインADC50の変換精度「±γ」を加味した場合であっても、上記基準範囲DEに収まっているか否かを判定する。
【0067】
メインADC50の変換データに当該メインADC50の変換精度「±γ」を加味したとしてもその全体が基準範囲DE内である場合には、メインADC50の変換データが基準精度に適合していると診断する(図10の左側参照)。これに対して、メインADC50の変換データが基準範囲DEに位置していない場合や、メインADC50の変換データが基準範囲DEに位置してはいるものの当該メインADC50の変換精度「±γ」を加味することでその一部が基準範囲DE外となる場合には、メインADC50の変換データが基準精度に適合していないと診断する(図10の右側参照)。
【0068】
メインADC50の変換データが基準精度に適合している場合には、ステップS213にて肯定判定し、ステップS214の変換データ設定処理を実行する。この設定処理では、メインADC50の変換データをそのままバックプレーン40にセットする。これに対して、メインADC50の変換データが基準精度に適合していない場合には、又は上記ステップS210にて否定判定をした場合(すなわち演算データのずれが許容範囲を超えている場合)には、ステップS215のエラー処理を実行する。
【0069】
このエラー処理では、バックプレーン40にセットされる変換データをエラー発生に対応する特殊データ(例えば0V/0mA)に強制的に書き替えるための処理を行う。本実施形態においては、当該特殊データが入力モジュール10(詳しくはADC50)に異常が発生している旨を制御装置C側へ報知する報知手段として機能している。以降は、少なくともエラー解除条件が成立するまで(例えばエラー解除操作が実行されるまで)、バックプレーン40への上記変換データのセットが回避されることとなる。制御装置Cにおいては、当該特殊データの入力によりMCUにエラーが発生している旨を把握する。
【0070】
なお、ステップS105に示した異常報知との差別化を図り、入力モジュール10にどの様なエラーが発生しているかを制御装置Cで特定可能とすべく、バックプレーン40にセットされるデータをエラーの種類毎に異ならせることをも可能である。
【0071】
ステップS214,S215の処理を実行した後は、ステップS216に進み、演算データ等の各種データを消去して本診断用処理を終了する。なお、データの消去態様については任意である。
【0072】
以上詳述した実施形態によれば、以下の優れた効果を奏する。
【0073】
メインADC50をMCU60,70とは別に設けられた変換専用の集積回路とすることにより、変換精度等の向上に係る制約を好適に緩和できる。これは、制御システムの高精度化を実現する上で好ましい。本実施形態に示した入力モジュール10にはメインADC50の他に複数のサブADC63,73が設けられており、センサSからのアナログ信号についてはメインADC50及びサブADC63,73にて各々デジタル信号に変換される。そして、サブADC63,73により各々変換された複数のデジタル信号の変換データに基づいて基準範囲DEが設定される。この基準範囲DEとメインADC50の変換データとを対比することにより、メインADC50の変換データに基準精度を超える誤差が発生していることを特定できる。
【0074】
本実施形態においては特に、変換精度の低い監視用のサブADC63,73を併用することにより、基準範囲DEの確からしさを向上させている。これにより、制御システムの高精度化を図りつつ制御システムに対する信頼性を向上させることができる。
【0075】
ADCの変換精度については変換所要時間と相関があり、精度を高くしようとすれば変換所要時間も長くなる傾向がある。ここで、上述の如くサブADC63,73の変換精度はメインADC50の変換精度よりも低く抑えられてはいるものの、変換所要時間についてはメインADC50よりも短くなっている。これにより、監視機能の追加によって変換データ(メインADC50による変換データ)の制御装置Cへの入力が大きく遅延されることを抑制できる。
【0076】
MCU60,70に動作異常等が発生して信頼性を担保できない状態であるにも係わらずそれらMCU60,70に内蔵されたサブADC63,73の変換データ(詳しくは演算データ)に基づいて基準範囲DEが設定された場合には以下の不都合が生じ得る。すなわち、本来であれば基準精度に適合していないと診断されるべき変換データがそのまま制御装置Cへ出力されるといった不都合が生じ得る。この点、各MCU60,70の動作を相互に監視する構成とすることにより、MCU60,70の動作異常を速やかに発見できる。これは、上記不都合の発生を抑制する上で好ましい。
【0077】
第1MCU60のサブADC63の変換精度と第2MCU70のサブADC73の変換精度とが製品仕様において同一となっている。このような構成とすれば、それらサブADC63,73の変換データ(詳しくは演算データ)から基準範囲DEの設定に係る構成を簡素化する上で好ましい。
【0078】
各サブADC63,73の変換データ(詳しくは演算データ)のうち相対的に大きいデータからサブADC63,73の変換精度の絶対値βを引いて基準範囲DEの下限LLを決定し、相対的に小さいデータにサブADC63,73の変換精度の絶対値βを足して基準範囲DEの上限ULを決定する構成によれば、変換精度が低いMCU内蔵のADC(汎用品)を用いて基準範囲DEを設定する場合であっても、変換精度の低さが診断結果の確からしさに大きく影響することを抑制できる。
【0079】
メインADC50による変換完了を待って基準範囲DEを設定することにより、メインADC50の変換完了タイミングとサブADC63,73の変換完了タイミングとのずれによる診断精度の低下を抑制できる。そして、メインADC50による変換完了を待つ間にサブADC63,73の変換データ(圧縮データ)を累積し、それらデータから平均値を算出することにより、精度が低いサブADC63,73を用いる場合であっても診断精度を好適に向上させることができる。特に、上記実施形態に示したように平均値を移動平均によって算出する構成とすれば、変換データや演算データ等の記憶機能によって記憶部62,72の記憶領域が圧迫されることを抑制できる。特に、メインADC50のフィルタ設定に変換時間が左右される構成においては、上述の如く変換時間の影響を抑えることはフィルタ設定の自由度を高める上で好ましい。
【0080】
メインADCの変換データと基準範囲DEとを対比する構成においては、基準範囲DEを都度設定することで診断精度の向上が期待できるものの、基準範囲DEを設定するまでの時間が間延びすることは好ましくない。この点、本実施形態に示したように、各MCU60、70の制御部61,71にて変換データ等の記憶→平均値の演算を各々実行する構成とすれば、何れかのマイコンにそれらの機能を集約する場合と比較して、基準範囲DEを設定する際の応答性を好適に向上させることができる。
【0081】
<その他の実施形態>
なお、上述した実施形態の記載内容に限定されず例えば次のように実施してもよい。ちなみに、以下の各構成を個別に上記実施形態に対して適用してもよく、一部又は全部を組み合わせて上記各実施形態に対して適用してもよい。
【0082】
・上記実施形態では、各サブADC63,73の変換データ(平均値)のうち、大きい平均値に基づいて基準範囲DEの下限LLを決定し、小さい平均値に基づいて基準範囲DEの上限ULを決定する構成としたが、これに限定されるものではない。各サブADC63,73の変換データ(平均値)の両方に基づいて基準範囲DEの上限ULを決定し、各サブADC63,73の変換データ(平均値)の両方に基づいて基準範囲DEの下限LLを決定する構成とすることも可能である。例えば、2つの平均値の中間値(平均値)を算出し、その算出結果に基づいて基準範囲DEの上限UL及び下限LLを決定する構成としてもよい。
【0083】
・上記実施形態では、変換データの診断に際して参照される基準範囲をサブADC63,73の変換精度を考慮して減縮(補正)する構成としたが、これに限定されるものではない。基準範囲とメインADCの変換データとを対比することで上記診断を行う構成においては、メインADC50の変換データを補正の対象とすることも可能である。具体的には、図9に示したようにメインADC50の変換データに幅を持たせる場合に、サブADC63,73の変換精度の絶対値βを上乗せ(上下に拡張)するとよい。
【0084】
・上記実施形態では、第1MCU60及び第2MCU70を、サブADC63,73の変換精度を揃えるべく製品仕様が共通となる同一の製品を用いる構成としたが、少なくともサブADCの変換精度が一致するのであれば、MCUを同一の製品とする必要は必ずしもない。
【0085】
なお、メインADC50と比べて精度が劣るサブADCについてはその数を複数とすることで基準範囲DE(所定の閾値)の精度を向上させる構成としたが、このような思想を具現化する上では第1MCU60のサブADC63の製品仕様(変換精度)と第2MCU70のサブADC73の製品仕様(変換精度)とを必ずしも一致させる必要はない。すなわち、変換精度の異なる複数のサブADCを併用する構成を否定するものでは無い。
【0086】
・上記実施形態では、2つのMCU60,70を併用し、それらMCU60,70の動作を相互に監視する構成としたが、これに限定されるものではない。当該監視機能については省略することも可能である。この場合、入力モジュール10に含まれる監視用のMCUの数を1つとし、一方のサブADCをMCUとは別に設けられた変換専用の集積回路(専用品)とすることも可能である。
【0087】
・上記実施形態では、メインADC50をΔΣ型のADCとしたが、これに限定されるものではない。MCU60,70に内蔵された診断用のサブADC63,73と比べて変換精度が高いものであればその種類については任意である。
【0088】
・上記実施形態では、サブADC63,73の変換データを記憶部72に蓄積し、それら変換データの平均値を移動平均によって算出することによりメインADC50の変換データ(ΔΣ演算の結果)との乖離を抑える構成としたが、これに限定されるものではない。サブADC63,73の変換データのばらつき等を軽減して基準範囲DEの精度を高める上では、算術平均や加重平均等の他の演算によって平均値を算出する構成とすることも可能である。
【0089】
・上記実施形態では、メインADC50の変換データが基準範囲DEに適合していないと診断された場合には、当該変換データに代えて不適合となった旨を明示するデータがバックプレーン40にセットされる構成(エラー処理)としたが、不適合となった旨を制御装置C側で特定することができるのであればエラー処理の具体的内容については任意に変更してもよい。例えば、変換データとは別に異常信号を出力する構成とすることも可能である。また、これらの構成に代えて又は加えて、コントローラ等からのリクエストに対する応答を規制する構成としてもよい。
【0090】
・上記実施形態では、入力モジュール10に搭載されたMCU(サブADC)の数を2つとしたが3つとしてもよいし4つ以上としてもよい。この場合、各サブADCによる変換データの全てに基づいて基準範囲DEを設定する構成としてもよいし、各サブADCによる変換データの一部に基づいて基準範囲DEを設定する構成としてもよい。
【0091】
・上記実施形態では、第1MCU60に内蔵されたサブADC63と第2MCU70に内蔵されたサブADC73とを用いてメインADC50の変換データを監視(診断)する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、入力モジュール10に複数のサブADCが内蔵された1のMCUを配設し、当該MCUに内蔵された複数のサブADCを用いてメインADC50の変換データを監視(診断)する構成とすることも可能である。
【0092】
・上記実施形態では、入力モジュール10がセンサSを含まない構成としたが、入力モジュール10がセンサSを含む構成とすることも可能である。
【0093】
・上記実施形態では、バルブ制御システムに入力モジュール10を適用した場合について例示したが、これに限定されるものではない。加工装置、組立装置、運搬装置等の産業機器における他の制御システムに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0094】
10…入力モジュール、20…端子、30…変換ブロック、40…バックプレーン、50…メインADC、60…第1MCU、61…制御部、62…記憶部、63…サブADC、65…プログラム記憶エリア、66…変換データ記憶エリア、67…演算結果記憶エリア、70…第2MCP、71…制御部、72…記憶部、73…サブADC、75…プログラム記憶エリア、76…変換データ記憶エリア、77…演算結果記憶エリア、DE…基準範囲、S…センサ、LL…下限、UL…上限。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10