(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038319
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】インターフェロン-γ産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/365 20060101AFI20220303BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220303BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220303BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220303BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220303BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20220303BHJP
A23F 3/16 20060101ALN20220303BHJP
A23G 3/34 20060101ALN20220303BHJP
【FI】
A61K31/365
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 111
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
A23F3/16
A23G3/34 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142755
(22)【出願日】2020-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏文
(72)【発明者】
【氏名】高垣 晶子
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B027
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B014GB06
4B014GG07
4B014GG18
4B014GK03
4B014GK04
4B014GK06
4B014GL03
4B014GL04
4B014GL10
4B014GP14
4B018LB01
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE03
4B018MD08
4B018MD59
4B018MD91
4B018ME08
4B018ME09
4B018MF13
4B027FB01
4B027FC06
4B027FP85
4B117LC04
4B117LK08
4B117LK12
4B117LK16
4B117LL02
4B117LL09
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZB03
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZC41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】長年食されて安全性が経験的に確認されている天然物由来の成分を有効成分とするインターフェロン-γの産生促進剤、インターフェロン-γの産生を促進するための医薬品、サプリメント又は飲食品の提供。
【解決手段】式(I)で表される5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを有効成分とするインターフェロン-γの産生促進剤及び式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬品、サプリメント又は飲食品。
[R
1及びR
2は各々独立に、OH又はH;波線の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で表される5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを有効成分とするインターフェロン-γの産生促進剤。
【化1】
(式(I)のR
1及びR
2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素原子(H)を表し、波線の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい。)
【請求項2】
請求項1記載のインターフェロン-γの産生促進剤を有効成分として含有するインターフェロン-γの産生を促進するための医薬品。
【請求項3】
がんを治療又は予防するための医薬品であることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬品。
【請求項4】
請求項1記載のインターフェロン-γの産生促進剤を有効成分として含有するインターフェロン-γの産生を促進するためのサプリメント。
【請求項5】
請求項1記載のインターフェロン-γの産生促進剤を有効成分として含有するインターフェロン-γの産生を促進するための飲食品。
【請求項6】
免疫活性を維持向上するためのサプリメント又は飲食品であることを特徴とする請求項4又は5記載のサプリメント又は飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要なカテキン代謝物である5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを有効成分とする、インターフェロン-γ(以下、「IFN-γ」ともいう)の産生促進剤やIFN-γ産生を促進するための医薬品、サプリメント又は飲食品に関する。また、IFN-γの産生を促進することで、免疫機能を向上させ、がんやウイルス性疾患を含む疾病の予防/または治療を目指すことを目的とする医薬品、サプリメント又は飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免疫は、体内に侵入する病原体やウイルスなどの抗原から身を守る防御システムであり、種々の器官、臓器、細胞が密に連携することで機能を発揮する。ところが、一旦機能が障害されると抗体産生の低減や抗原侵入頻度の増加などが起こり、感染症やがん、自己免疫疾患をはじめとする疾病の引き金となる。免疫機能低下と加齢との関連性は非常に深く、高齢になるにつれて免疫機能が衰え、がんを始めとした様々な疾患への罹患リスクが高まる。近年は急速な高齢化による医療費の増大が社会問題化しており、高齢者のQOL(クオリティー オブ ライフ)向上のため、毎日の健康維持を目的とした免疫機能の増強の必要性は多くの人の関心を集めている。
高齢者に限らず、免疫低下は様々な疾病発症の要因になることから、予防医学の概念に基づいた免疫学研究が注目されている。季節性インフルエンザウイルスの感染予防や、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症など、新規ウイルスも含めた感染症リスクへの対策として身体の免疫機能の維持・向上は多くの人にとって高い関心の的であり、疾病予防に向けた免疫機能強化の重要性はますます高まっている。
【0003】
生体において、免疫は自然免疫と獲得免疫の2大システムから成り立っている。自然免疫は、初期の免疫応答を主体とした抗原非特異的な先天性免疫であり、獲得免疫はB細胞やT細胞などのリンパ球を主体とした抗原特異的な後天性免疫である。
自然免疫は、抗原侵入後の数分から数時間という極めて速やかな時間内に起こり、獲得免疫の予備段階として働く。自然免疫を担う細胞群には、樹状細胞やマクロファージ、好中球などの貪食細胞やNK細胞などが挙げられ、抗原の分解や消化、サイトカイン産生などに関与する。
一方、獲得免疫は細胞性免疫と体液性免疫に大別され、細胞性免疫ではCD4陽性ヘルパーT細胞やCD8陽性キラーT細胞による細胞内抗原の排除に、体液性免疫ではB細胞より産生された抗体による細胞外抗原の排除や毒素の中和を行う。また、獲得免疫は一度誘導されると長期にわたり抗原を記憶し、同一の抗原が再度侵入した際に速やかに応答することができる。
【0004】
上記のような自然免疫や獲得免疫の免疫調整機能は、複合的に体内で発揮されて日常の健康維持に重要な役割を果たしている。このため、免疫機能の賦活化は、疾病の治療および予防ならびに健康増進にとり重要と認識されている。体内の免疫賦活化を促進する物質については、これまで様々な免疫賦活物質が見出されている。医学的な免疫機能低下に対する治療法としては、免疫賦活剤を用いた薬物療法が知られている。例えば、ピシバニールは好中球、マクロファージ、リンパ球などの増加促進やNK細胞の活性促進により免疫賦活に関与する。一般に、免疫賦活剤はがん患者の延命を目的として化学療法と併用されることが多い。しかし、副作用として発熱や疼痛、さらにはアナフィラキシー様症状や急性腎不全など重篤な症状をきたす可能性もある。このため、健常者が疾病予防を目的に摂取する場合には、副作用のリスクが低く、日常的に摂取可能な天然物由来の免疫賦活物質が好ましく、食品成分での免疫賦活の探求が行われている。
【0005】
天然物由来の免疫賦活物質については、海藻に含まれる多糖類であるフコイダンや(特許文献1、2)、ペクチン類やオリゴ糖、β-グルカンなどの水溶性食物繊維などが報告されている。フコイダンは海藻類に存在するフコースを主成分とし、硫酸基を持っている多糖類で、一般的にコンプ、ワカメ、モズクなど褐藻類の粘質物に多く含まれている。フコイダンの生理活性としては抗血栓、抗ウイルス、抗腫瘍、免疫調節、抗酸化、胃腸保護機能などが報告されている(非特許文献1~3)。一方で、ペクチン類やオリゴ糖、β-グルカンなどの水溶性食物繊維は腸内細菌叢の維持に働くと共に、腸管免疫を活性化することで免疫増強に寄与することが報告されている(非特許文献4~6)。しかしながら、多糖類や食物繊維はいずれも難消化性の高分子であることから、体内へ吸収される割合が極めて少ないという課題が存在する。
【0006】
これまで植物ポリフェノールの一種であるカテキンについて長年にわたり研究されている。カテキンとはフラバン-3-オールを基本骨格とするフラバノールであり、モノマーである茶カテキン類はよく知られ、幅広い健康機能が報告されている。茶カテキンには、抗酸化作用、抗菌、抗ウイルス、抗う蝕、抗突然変異、血小板凝集抑制、血中コレステロール低下、血糖上昇抑制、抗アレルギー、消臭作用など非常に広範な生理活性が報告されている。茶及び茶由来のカテキン類の免疫調節作用に関する研究も行われており、18~70歳のヒトを対象とした介入研究では、茶カテキン類及びテアニンの摂取によりγδT細胞の作用が増強され、風邪やインフルエンザ様症状の発生を抑制することが報告されている(非特許文献7)。また、茶カテキン類の血中IgG、IgA産生誘導作用(特許文献3)や、エピガロカテキン/エピガロカテキンガレートのある一定比率での摂取がマクロファージ貪食作用の活性化及び分泌型IgA産生の促進に寄与すること(特許文献4)、さらに、茶葉ポリフェノールの一種であるストリクチニンがヒト単核球やB細胞におけるIL-4シグナリングを阻害すること(非特許文献8)などが報告されている。
【0007】
茶カテキン類の優れた生理機能が数多く報告される一方で、茶カテキン類の生体内動態に関する研究も広く行われている。カテキン類は生体内への吸収量が非常に低く、経口摂取した大部分のカテキン類は腸内において腸内微生物(腸内細菌)の作用により分解され、代謝物として生体内へ吸収されることが示されている。腸内微生物によるカテキン類の代謝に関する報告は多く(非特許文献9~12)、主な代謝物として5-ヒドロキシフェニル-γ-バレロラクトン(5-hydroxyphenyl-γ-valerolactone)や5-ヒドロキシフェニル-4-ヒドロキシ-吉草酸(5-hydroxyphenyl-4-hydroxy-valeric acid)などが挙げられる。また、5-フェニル吉草酸(5-phenyl-valeric acid)、3-ヒドロキシフェニルプロピオン酸(3-hydroxyphenyl-propionic acid)、ヒドロキシフェニル酢酸(hydroxyphenyl acetic acid)、安息香酸(benzoic acid)など様々な代謝物が尿中から見出されている(非特許文献13~15)。
【0008】
このような研究背景から、茶カテキン摂取後に腸内細菌によって分解異化されて生じた代謝物の生体機能性への関与を調べる目的で、腸内細菌代謝産物である数種類の化合物に関して機能性の評価が行われ、報告されている。特に、式(I)の5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンは、茶カテキンを始めとするフラバン-3-オール構造に共通する主要な腸内細菌代謝物として、近年では機能性についての報告がなされている(特許文献5、非特許文献16~18)。茶カテキンの中でも、もっとも含有量の高いエピガロカテキンガレート(以後「EGCG」とも略す)の腸内細菌代謝物の免疫調整作用については、in vitroでのマウス脾臓CD4陽性細胞及びマウスパイエル板細胞の増殖促進作用によって、高い免疫細胞増殖促進効果を有することが確認されている(特許文献6、非特許文献19)。さらに5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの中でも、EGCG代謝物の中でも主要な代謝物として報告のある、5-(3、5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンに関して、10mg/kgの投与量で2週間、マウスへ経口投与後の脾臓において、高いナチュラルキラー(NK)細胞の活性化作用がある事も見出されている(特許文献7、非特許文献19)。しかしながら、当該代謝物のマウス脾臓での高いNK細胞の活性化作用に関する作用機序に関しては、報告がない。
【0009】
NK細胞活性化に関わる重要なサイトカインの一つに、インターフェロン(IFN)が挙げられる。IFNは体内でウイルスなどの病原体や腫瘍細胞などの異物に対して産生されるサイトカイン一つで、その名称の由来はウイルスを抑制する因子として発見された経緯から、ウイルス干渉因子(Interference Factor)として「Interferon(IFN)」と呼ばれている。感染などの異物侵入に伴う抗原刺激に応じてT細胞の分化が進むと、主にヘルパーT細胞のサブセットの一つであるTh1からIFN-γが産生され、細胞障害性T細胞(CTL)、マクロファージ、NK細胞の活性化など免疫応答促進に働き、ウイルス、腫瘍細胞の排除に関わり、体内の免疫機能に関して重要な役割を担っている。
実際に、IFNは治療薬としても利用されており、IFNを投与し、ウイルス性疾患やガンの治療を目的とした治療法は、インターフェロン治療と呼ばれている。現在、医薬品として3種類のインターフェロン(α製剤、β製剤、γ製剤)が承認され、B型・C型ウイルス肝炎のほかに腎がん、慢性骨髄性白血病や多発性骨髄腫などにも使用されている。また、B型・C型ウイルス肝炎の治療では、α製剤とβ製剤が用いられている。しかしながら、IFNはタンパク質であるため、投与後に体内で吸収分解されるという欠点があり、効果を持続させるためには連日の投与が必要なため、長期期間の投与では患者への負荷も大きいという課題がある。また、IFN製剤による治療では、副作用についてすでに多くのものが知られており、発現頻度の高いものや重篤なものもあることから、治療を行う際の課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001-181303号公報
【特許文献2】国際公開第2009/075290号パンフレット
【特許文献3】特開2005-232115号公報
【特許文献4】特開2011-168579号公報
【特許文献5】特開2018-118939号公報
【特許文献6】特開2016-003200号公報
【特許文献7】特開2016-160238号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Phytother.Res., 26, 1898-1903(2012)
【非特許文献2】J. Nutr., 143,1794-1798(2013)
【非特許文献3】Biosci. Biotechnol. Biochem., 78,1743-1747(2014)
【非特許文献4】J. Nutr., 127, 663-667(1997)
【非特許文献5】腸内細菌学雑誌, 18,7-14(2004)
【非特許文献6】Scand. J. Immunol., 78, 61-68(2013)
【非特許文献7】J. Am. Coll. Nutr., 26, 445-452, (2007)
【非特許文献8】Biochem. Biophys. Res. Commun.,280, 53-60, (2001)
【非特許文献9】J. Agric. Food Chem., 49, 4102-4112 (2001)
【非特許文献10】Chem. Res. Toxicol., 13, 177-184 (2000)
【非特許文献11】J. Agric. Food Chem., 51, 5561-5566 (2003)
【非特許文献12】J. Agric. Food Chem., 51, 6893-6898 (2003)
【非特許文献13】J. Agric. Food Chem., 58, 1313-1321 (2010)
【非特許文献14】J. Agric. Food Chem., 58, 1296-1304 (2010)
【非特許文献15】Chem. Pharm. Bull., 45, 888-893 (1997)
【非特許文献16】Nat .Prod .Rep.,36, 714-752 (2019)
【非特許文献17】Nutrients., 11, 2260 (2019)
【非特許文献18】Int. J. Mol. Sci., 20, e3630, (2019)
【非特許文献19】J. Agric. Food Chem., 64, 3591-3597,(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、天然物由来で生体への吸収率や安全性が高く、T細胞を活性化する、IFN-γの産生促進剤、若しくはIFN-γの産生を促進するための医薬品、サプリメント又は飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、主要な茶カテキン類の代謝物である5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンのマウス脾臓におけるNK細胞活性化作用に関する作用機序について鋭意検討を重ねた結果、当該代謝物に、マウス脾臓由来CD4陽性T細胞からIFN-γの産生促進作用があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下に開示されるとおりのものである。
[1] 下記の式(I)で表される5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを有効成分とするインターフェロン-γの産生促進剤。
【化1】
(式(I)のR
1及びR
2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素原子(H)を表し、波線の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい。)
[2] [1]記載のインターフェロン-γの産生促進剤を有効成分として含有するインターフェロン-γの産生を促進するための医薬品。
[3] がんを治療又は予防する医薬品であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の医薬品。
[4] [1]記載のインターフェロン-γの産生促進剤を有効成分として含有するインターフェロン-γの産生を促進するためのサプリメント。
[5] [1]記載のインターフェロン-γの産生促進剤を有効成分として含有するインターフェロン-γの産生を促進するための飲食品。
[6] 免疫活性を維持向上するためのサプリメント又は飲食品であることを特徴とする[4]又は[5]記載のサプリメント又は飲食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを有効成分とするIFN-γ産生促進剤は生体内において優れたIFN-γ産生促進作用を有するため、免疫力を高める効果によって様々な免疫疾患を予防・治療を目的とした、医薬品、特定保健食品、健康食品等の疾病予防に利用出来る。
【0016】
本発明の有効成分は、茶カテキン類を経口摂取したときに腸内細菌によって分解されて生成した代謝物である。長年にわたる茶の飲用によって茶カテキンの安全性は経験的に充分確認されている。また、茶飲用後の生体内で生成している代謝物に関しても、茶と同様にその安全性は経験的に確認されていると言える。
【0017】
さらに、当該化合物は茶カテキンが腸内細菌によって低分子化された化合物であり、緑茶飲料後の尿中からの報告例も多いことから、体内への吸収率が高いことが容易に推測される。このため、低用量での効果が期待できる。
【0018】
また、従来のインターフェロン治療では、長期投与の必要性から患者への負荷も大きかったが、本発明により生体でのIFN-γ産生を増加させることで、長期投与の負担が低減され、効果的な治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】マウス脾臓CD4陽性T細胞に対して、5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(式(I)の化合物)を添加した場合の培養上清中のIFN-γ含有量を調べた結果を示す図である(Means±S.E.,n=4,Mann Whitney Test, *P<0.05)。
【
図2】ヒトT細胞性白血病株Jurkat細胞に対して、5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(式(I)の化合物)を添加した場合の培養上清中のATPレベル値(%)を調べた結果を示す図である(Mean±S.E.,n=6,Unpaired t test, *P<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のインターフェロン-γ産生促進剤は、下記式(I)で表される5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを有効成分として含む。5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを有効成分として含むことにより、インターフェロン-γの産生を促進することができる。
【化2】
(式(I)のR
1及びR
2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素原子(H)を表し、波線の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい。)
【0021】
本発明のIFN-γの産生促進剤としては、上記化合物を有効成分とするIFN-γの産生促進剤(以下、「本件IFN-γの産生促進剤」ともいう)であれば特に制限されず、かかるIFN-γの産生促進剤はどのような形態であってもよく、例えば、水溶液や混濁物や乳化物などの液状形態、ゲル状やペースト状の半固形状形態、粉末や顆粒やカプセル、タブレットなどの固形状形態であってもよい。
【0022】
本件IFN-γ産生促進剤は、製剤化のために通常使用され薬学的に許容される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、香味剤、緩衝剤などの添加物を含んでいてもよい。
【0023】
本件IFN-γの産生促進剤の摂取量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常成人一人あたり、1回に有効成分である本件化合物の含量として0.1mg~1000mg、好ましくは1mg~500mgの範囲で、1日1回から数回経口又は非経口摂取することができる。
【0024】
本発明の医薬品としては、式(I)の化合物を有効成分として含有するIFN-γの産生を促進するための医薬品(以下、「本件医薬品」ともいう)であれば特に制限されず、かかる医薬品としては日本薬局方に収められている医薬品であって、胃がん、大腸がん、肺がん、前立腺がん、乳がん、子宮がん、食道がん、肝臓がん、悪性リンパ腫などのがんや、アトピー性皮膚炎、花粉症などのアレルギーや、関節リウマチ、乾癬性関節炎などの自己免疫疾患や、白血病などの血液疾患や、B型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝炎などの免疫機能の障害に起因する疾患を治療又は予防するための医薬品を挙げることができるが、がんを治療又は予防するための医薬品、すなわち抗がん剤であることが好ましい。
【0025】
本件医薬品の製剤形態としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、散剤、カプセル剤、トローチ剤、チュアブル剤、液剤(ドリンク剤)、輸液剤などが挙げられる。外用剤の場合は、皮膚表面や粘膜などから体内へ吸収されるものであればどのような形態でもよく、例えばローション剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、テープ剤、パッチ剤、エアゾール剤、吸引剤などが挙げられる。
【0026】
また、本件医薬品は、製剤化のために通常使用され薬学的に許容される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、香味剤、緩衝剤などの添加物を含んでいてもよい。
【0027】
本件医薬品の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常成人一人あたり、1回に有効成分である式(I)の化合物の含量として0.1mg~1000mg、好ましくは1mg~500mgの範囲で、1日1回から数回経口又は非経口投与することができる。
【0028】
本件IFN-γ産生促進剤を医薬部外品として用いてもよい。上記医薬部外品としては、厚生労働大臣が指定した医薬部外品であって、吐き気その他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止や、あせも、ただれなどの防止や、脱毛の防止、育毛又は除毛を行うための医薬部外品であれば特に限定されず、医薬部外品の製剤形態としては、例えば内服液剤、健康飲料、ビタミン含有保健剤、錠剤、顆粒剤、液剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、テープ剤、パッチ剤、エアゾール剤などが挙げられる。
【0029】
本発明のサプリメントとしては、式(I)の化合物を有効成分として含有するIFN-γの産生を促進するためのサプリメント(以下、「本件サプリメント」ともいう)であれば特に制限されず、かかるサプリメントはどのような形態であってもよく、例えば、水溶液や混濁物や乳化物などの液状形態、ゲル状やペースト状の半固形状形態、粉末や顆粒やカプセル、タブレットなどの固形状形態であってもよい。
【0030】
また、本件サプリメントは、ロイシン、バリンなどのアミノ酸、亜鉛、カルシウムなどのミネラル、ビタミンA、ビタミンB1、B2、B6、B12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、βカロテン、コエンザイムQ10などのビタミンや、通常サプリメントの製剤に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、香味剤、緩衝剤などの添加物を含んでいてもよい。
【0031】
本件サプリメントの摂取量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常成人一人あたり、1回に有効成分である式(I)の化合物の含量として0.1mg~1000mg、好ましくは1mg~500mgの範囲で、1日1回から数回経口又は非経口摂取することができる。
【0032】
本発明の飲食品としては、式(I)の化合物を有効成分として含有するIFN-γの産生を促進するための飲食品(以下、「本件飲食品」ともいう)であれば特に制限されず、かかる飲食品はどのような形態であってもよく、例えば、水溶液や混濁物や乳化物などの液状形態、ゲル状やペースト状の半固形状形態、粉末や顆粒やカプセル、タブレットなどの固形状形態であってもよい。
【0033】
本件飲食品としては、例えば、即席食品類(即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席味噌汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズドライ食品など)、炭酸飲料、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)の果汁や果汁飲料や果汁入り清涼飲料、柑橘類の果肉飲料や果粒入り果実飲料、トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガスなどの野菜を含む野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料やタバコなどの嗜好飲料・嗜好品類、マカロニ・スパゲッティ、麺類、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉、ギョーザの皮などの小麦粉製品、キャラメル・キャンディー、チューイングガム、チョコレート、クッキー・ビスケット、ケーキ・パイ、スナック・クラッカー、和菓子・米菓子・豆菓子、デザート菓子などの菓子類、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類、甘味料などの基礎調味料、風味調味料、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類などの複合調味料・食品類、バター、マーガリン類、マヨネーズ類、植物油などの油脂類、牛乳・加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリームなどの乳・乳製品、素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済み冷凍食品などの冷凍食品、水産缶詰め、果実缶詰め・ペースト類、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、水産乾物類、佃煮類などの水産加工品、畜産缶詰め・ペースト類、畜肉缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物・煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)などの農産加工品、ベビーフード、ふりかけ・お茶漬けのりなどの市販食品などが挙げられる。
【0034】
なお、本発明の他の態様としては、(a)5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを対象に投与することを特徴とするIFN-γの産生促進方法や、(b)5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを対象に投与することを特徴とする免疫賦活方法や、(c)本件IFN-γ産生促進剤、本件医薬品、本件サプリメント又は本件飲食品として使用するための5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンや、(d)本件IFN-γ産生促進剤、本件医薬品、本件サプリメント又は本件飲食品の調製における5-(ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの使用を挙げることができる。
【0035】
本件IFN-γの産生促進剤、本件医薬品、本件サプリメント又は本件飲食品の有効成分である本件化合物は、カテキン代謝物、すなわちヒト、ラット、マウス、ブタなどの哺乳動物の生体内に生息する微生物の作用などにより、カテキン類から生成しうる化合物であることから、安全性に優れたIFN-γの産生促進剤、医薬品、サプリメント又は飲食品とすることが可能である。
【0036】
式(I)の化合物を本件IFN-γ産生促進剤、本件飲医薬品、本件サプリメント又は本件飲食品に含有させるには、精製された式(I)の化合物を含有させてもよく、あるいは、粗精製された式(I)の化合物を含有する組成物を含有させてもよい。
【0037】
式(I)の化合物は、次の文献に示す公知の有機化学合成法(SYNTHESIS, 9, 1512-1520, 2010)などにより得ることができ、例えば、3,5-(tert-ブチルジメチルシロキシ)ブロモベンゼン(3,5-(tert-Butyldimethylsiloxy)bromobenzene)を基質としてスワーン酸化、ウィッティヒ反応を含む7つの反応を用いることで調製することが可能である。
【0038】
また、式(I)の化合物は、上記非特許文献7~9に示す腸内微生物を用いた微生物変換法により製造することも可能である。微生物変換法によりカテキン代謝物である式(I)の化合物を製造する場合、ラットやヒトの腸内微生物を含む糞や盲腸内容物を培養して腸内微生物を増殖させた後、培養菌体を緩衝液、生理食塩水、水などに懸濁させ、懸濁液に基質となるカテキン類を加えてインキュベーション処理する方法を挙げることができる。
【0039】
基質として加えるカテキン類としては、非ガレート型カテキン類である(+)-エピガロカテキン、(-)-エピガロカテキン、(-)-ガロカテキンや、ガレート型カテキン類である(-)-ガロカテキンガレート、(-)-エピガロカテキンガレートを挙げることができ、(-)-エピガロカテキンであることが好ましい。
【0040】
式(I)の化合物を得るには、まず微生物変換により、基質となるカテキン類を式(II)記載の化合物に変換する必要がある。カテキン類を下記式(II)で表される化合物(1-(3,4、5-ジヒドロキシフェニル)-3-(2,4,6-トリヒドロキシフェニル)-プロパン-2-オール)に変換する能力を持つ微生物の好ましい例としては、エガーテラ・レンタ:Eggerthella lenta JCM9979株や、アドラークルーツィア・エクオーリファシエンス:Adlercreutzia equolifaciens MT4s-5株(受託番号FERM P-21738)及びJCM14793株、アサッカロバクター・セラツス:Asaccharobacter celatus JCM14811株、スラッキア・エクオーリファシエンス:Slackia equolifaciens JCM16059株を挙げることができる(Biol. Pharm. Bull., 38, 325-330, 2015参照)。
【0041】
【化3】
(式(II)のR
1及びR
2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素原子(H)を表し、波線の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい。)
【0042】
なお、特に式(I)で表される化合物のうちR1がHである化合物を得るには、式(II)記載の化合物のうちR1がHである化合物を得る必要がある。その場合、培地中に水素及び/又は蟻酸を添加する必要がある。また、水素や蟻酸を培地中に添加しない場合には、水素及び/又は蟻酸生成能を有する微生物を共存させることも可能である。このような微生物の例として、大腸菌(Escherichia coli)、ブチリシモナス属菌を挙げることができ、大腸菌K12株(Escherichia coli K12)、ブチリシモナス・ビローサ(Butyricimonas virosa)JCM15149、ブチリシモナス・シネルジスティカ(Butyricimonas synergistica)JCM15184、ブチリシモナス・パラビローサ(Butyricimonas paravirosa)JCM18677などであることが好ましい。
【0043】
式(II)で表される化合物を、式(I)で表される化合物に変換する能力を有する微生物の好ましい例としては、フラボニフラクター属細菌(旧学名;ユウバクテリウム属細菌及びクロスリジウム属細菌)を挙げることができ、フラボニフラクター・プラウティ:Flavonifractor plautii(旧学名;ユウバクテリウム・プラウティ:Eubacterium plautii)ATCC29863株、フラボニフラクター・プラウティ:Flavonifractor plautii(旧学名;ユウバクテリウム・プラウティ:Eubacterium plautii)MT42株(受託番号FERM P-21765)及びフラボニフラクター・プラウティ:Flavonifractor plautii(旧学名;クロストリジウム・オルビシンデンス:Clostridium orbiscindens)ATCC49531株であることが好ましい。
【0044】
上記のカテキン類を式(II)で表される化合物に変換する能力を持つ微生物と、上記式(II)で表される化合物を式(I)記載の本件化合物に変換する能力を有する微生物を共存させた培養菌体懸濁液又は培養液に、カテキン類及び/又はカテキン含有物を基質として添加し、嫌気条件下でインキュベーション処理することで上記の本件化合物含有物を容易に得ることができる。インキュベーション処理方法については、上記微生物を培養後、集菌したものを緩衝液や生理食塩水、水などに懸濁させ基質を添加する方法、若しくは上記微生物の培養時あるいは培養開始後一定期間経過後に基質を添加する方法がある。さらに、上記微生物の生育する培養液中に基質を添加し、嫌気条件下でインキュベーション処理することで式(I)の化合物を容易に得ることもできる。
【0045】
上記に示した微生物を培養する場合には、該当微生物が生育できる栄養源含有培地に接種し、嫌気的条件下で培養する。培養菌体を得るための微生物培養及び基質存在下での微生物培養は、一般的な嫌気性微生物の培養方法を採用することができる。また、培養菌体を集菌した後、上記基質の存在下でインキュベーション処理する場合にも、嫌気条件下で行うことが望ましい。培養に用いられる培地としては、上記微生物が生育できる培地であれば特に限定されないが、例えばGAMブイヨン(日水製薬(株)製)などが利用可能である。
【0046】
培養条件は、上記微生物が生育しうる範囲内で適宜選択することができる。通常、pH6.0~7.5、35~40℃であり、好ましくはpH6.5~7.3、37~39℃である。培養時間は通常24~120時間、好ましくは48~72時間である。上述した各種の培養条件は、使用する微生物の種類や特性、外部条件などに応じて適宜変更でき、最適条件を選択することができる。
【0047】
微生物変換法によりカテキン代謝物を製造する場合、調製時には数種類のカテキン代謝物を含む抽出物が得られるが、精製を重ねることで高純度のカテキン代謝物を得ることが出来る。有機合成方法と同様に種々の既知精製手段を選択し、組み合わせて行うことで所望する純度が得られる。例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ブタノールなどを用いた溶媒抽出、合成樹脂吸着剤の脱吸着を利用する方法、シリカゲルなどのカラムクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを単独あるいは適宜組み合わせて分離・精製し、抽出物中のカテキン代謝物の含有率を調節することが出来る。
【0048】
以下に、式(I)の化合物の製造例、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0049】
[式(I)の化合物の製造]
(製造例1:エガーテラ・レンタJCM9979株とフラボニフラクター・プラウティATCC49531株及び大腸菌K12株の共存下での(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの製造)
【0050】
エガーテラ・レンタJCM9979株を30mLのGAMブイヨン(日水製薬(株)製)に植菌し、pH7.2、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液1とした。また、大腸菌K12株及びユウバクテリウム・プラウティATCC49531株は10mLのGAMブイヨンを用いてpH7.2、37℃で24時間嫌気培養し、前培養液2とした。(-)-エピガロカテキン290mgを含む100mLのGAMブイヨンにJCM9979株の前培養液1を30mL、大腸菌K12株及びATCC49531株の前培養液2を10mL加え、pH7.2、37℃で72時間嫌気培養した。得られた培養液1mLをサンプリングして高速遠心分離(15000×g、10分、4℃)により菌体を除去し、上清液を下記LC/MS分析条件で分析することで5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンと5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシ吉草酸の生成を確認した。LC/MS分析条件は下記の通りである。
【0051】
(LC/MS条件)
・カラム:Capcellpak C18 MG(2.0i.d.×100.0mm、5μm、(資生堂社製)
・流速:0.2mL/分
・カラム温度:40℃
・溶媒
溶媒A:水:アセトニトリル:酢酸(100:2.5:0.1 容量比(v/v/v))
溶媒B:水:アセトニトリル:メタノール:酢酸(35:2.5:65:0.1 容量比(v/v/v/v))
・グラジエント条件:0分 A;100% B;0%、3分 A;100% B;0%、25分 A;0% B;100%、25.1分 A;100% B;0%、33分 A;100% B;0%
・検出器:PDA及び質量分析計
・インターフェース:ESI
・ポラリティ:ネガティブ
【0052】
培養液を高速遠心分離(10000×g、20分間、20℃)し、菌体を除去した。得られた上清に5M塩酸水を加えてpH2.0に調整した。培養液中に含まれる5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシ吉草酸を、酸性条件下で脱水縮合させ、80℃で約2時間インキュベートして5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンへ変換した。得られた培養液を200mLの酢酸エチルで3回抽出した。酢酸エチル相を合一し、エバポレーターにより濃縮し、得られた濃縮液を分取HPLCに供した。分取HPLC条件は下記のようである。
【0053】
(分取HPLC条件)
・カラム:Capcellpak MG(20i.d.×150mm、5μm、(資生堂社製)
・流速15mL/分
・溶媒:
溶媒A:アセトニトリル:メタノール:水:酢酸(5:5:90:0.3 容量比(v/v/v))
溶媒B:アセトニトリル:メタノール:水:酢酸(5:65:30:0.5 容量比(v/v/v))
・グラジエント条件:0分 A;80% B;20%、5分 A;80% B;20%、20分 A;10% B;90%、25分 A;1% B;90%、26分 A;80% B;20%、35分 A;80% B;20%、
・検出器:UV270nmとした。
【0054】
分取後、上記LC/MS分析条件で分析を行い、目的とする代謝物の含まれる画分を確認した。その後、分取液をエバポレーターで濃縮乾固し、乾固物に5mLの純水を加えて再度濃縮乾固する操作を3回繰り返して画分中の酢酸を完全除去した。最後に、少量の純水を加えて溶解させた乾固物を凍結乾燥させることで5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを45mg得た。
【0055】
[実施例1:5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンのマウス脾臓CD4陽性T細胞を用いたIFN-γ産生に関する評価試験]
以下にマウス脾臓CD4陽性T細胞からのIFN-γの産生の評価試験について説明する 。
【0056】
(a)使用動物及び飼育方法
8週齢の雄性BALB/cマウスを無菌特殊環境下で予備飼育後、試験に用いた。飼育条件は、室温20℃、相対湿度60%、照射時間12時間(8時~20時)とした。
【0057】
(b)マウス脾臓CD4陽性T細胞の調製及び試験方法
マウスより脾臓を摘出し、5mLのロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640培地を入れた5mLディッシュに浸した。次に、脾臓をスライドガラスですり潰して細胞懸濁液とし、金属メッシュを用いてろ過した。ろ過後、遠心分離(350×g、5分、4℃)により上清液を除去し、赤血球溶解バッファーで1分間培養した後、新しいRPMI1640培地を10mL加えて懸濁した。この洗浄操作を2回繰り返し行った後、EasySep Mouse CD4+ T Cell Isolation Kit (ST-19852 ベリタス)を用いてCD4陽性T細胞を分離した。操作は記載されたプロトコールに従って実施した。分離したCD4陽性T細胞を、96穴プレートにRPMI培地にて1×106 cells/mLとなるように1mLずつ播種した。
【0058】
5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを10mMの濃度になるように、10%DMSOで溶解した。この溶液をさらに培養液で500倍に希釈し、調製したマウス脾臓CD4陽性T細胞の培養液に対して、100μL添加することで、最終濃度を10μMに設定した。コントロール群では、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を培養液でさらに500倍希釈した溶液を用いて、試験区と同様に処理をした。37℃、5%CO2下で培養し、24時間後の培養上清液中に含まれるIFN-γの量を「Mouse, IFN-g DuoSet Kit(R&D Systems社製、型番:DY485)」を用いて測定した。操作は本製品の製品データシートに記載されたアッセイ手順に従って実施した。
【0059】
(c)統計処理方法
得られた測定結果を平均値(Mean)及び標準誤差(S.E.)で示し、Mann Whitney Testによりコントロール群との有意差を調べた。結果を
図1に示す。有意水準は、異符号間をp<0.05とした。
【0060】
図1において、縦軸は培養上清液中のIFN-γの含有値(pg/mL)を示す。
図1に示すように、(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを10μMで作用させたマウス脾臓CD4陽性T細胞では、IFN-γの生成量が有意に上昇していることが確認された。
【0061】
[実施例2:5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンのヒトT細胞性白血病株Jurkat細胞のATPレベルに関する評価試験]
以下にヒトT細胞性白血株Jurkat細胞のATPレベル評価試験について説明する。
【0062】
(a)ヒトT細胞性白血病Jurkat細胞の調製及び試験方法
ヒトT細胞性白血病Jurkat細胞を、96穴プレートに1%FBSを含むRPMI1640培地にて1×106 cells/mLとなるように1mLずつ播種した。10%DMSOを用いて、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの10mMの溶液を調製した。この溶液をさらに培養液で500倍に希釈した後、調整したヒトT細胞性白血病Jurkat細胞に100μL添加し、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの終濃度を10μMに設定した。コントロール群では10%DMSO溶液を培養液で500倍に希釈した溶液を使用して、試験区と同様の処理を行った。培養後の細胞を 遠心分離(350×g、5分、4℃)に供し、上清を除去した。この細胞に、1%FBSを含むRPMI1640培地を、新たに10mL加え、さらに24時間培養した。その後、培養液を遠心分離(100×g、5分、4℃)に供し、上清液中に含まれるATP活性をATPlite 1step(PerkinElmer社製:型番:6016731)を用いて測定した。測定方法はキットのプロトコールに従い行った。
【0063】
(b)統計処理方法
得られた測定結果を平均値(mean)及び標準誤差(S.E.)で示し、独立2群の検定(unpaired test)によりコントロール群との有意差を調べた。結果を
図2に示す。有意水準は、異符号間をp<0.05とした。
【0064】
図2において、縦軸は培養上清中のATPレベル値(%)を示す。
図2に示すように、(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを10μMで作用させたヒトT細胞性白血病株Jurkat細胞では、ATPレベル相対値が有意に上昇していることが確認された。ATPレベルの上昇により、細胞内の代謝活性の上昇が示され、サイトカイン産生能や細胞障害活性の増強等の可能性が示された。
【0065】
[実施例3:錠剤]
(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(0.5重量%)、キシリトール(33.8重量%)、マンニトール(30.6重量%)、微結晶性セルロース(6.1重量%)、着香料(14.1重量%)、ステアリン酸(4.3重量%)、タルク(0.6重量%)及びソルビトール(10.0重量%)を混合した粉体を錠剤プレスによって圧縮し、(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを含有するIFN-γ産生促進又は免疫機能の維持向上を目的とした錠剤を得た。
【0066】
[実施例4:皮膚外用液剤]
精製水に5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(5.0重量%)、グリセリン(5.0重量%)及びプロピレングリコール(4.0重量%)を加え溶解した。一方、エタノール(0.1重量%)にオレイルアルコール(0.1重量%)及び安息香酸(0.05重量%)を室温で溶解した。これを精製水部に加えて可溶化してろ過後、充填することにより、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを含有するIFN-γ産生促進又は免疫機能の維持向上を目的とした皮膚外溶液剤を得た。
【0067】
[実施例5:軟膏]
精製水に5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(3.0重量%)、ハッカ油(0.5重量%)、ティーツリー油(0.3重量%)、ワセリン(25.0重量%)、ステアリルアルコール(20.0重量%)、プロピレングリコール(12.0重量%)、POE硬化ヒマシ油(4.2重量%)、モノステアリン酸グリセリン(1.0重量%)、プロピルパラベン(0.1重量%)及びメチルパラベン(0.1重量%)を湯浴上で加温融解させて混合した後、混合物を室温に冷却し、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを含有するIFN-γ産生促進又は免疫機能の維持向上を目的とした軟膏を得た。
【0068】
[実施例6:キャンディー]
砂糖(33.0重量%)、水飴(66.0重量%)、クエン酸(0.67重量%)、香料(0.21重量%)、着色料(0.07重量%)及び5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(0.05重量%)をキャンディー処方により常法で調製し、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを含有するIFN-γ産生促進又は免疫機能の維持向上を目的としたキャンディーを得た。
【0069】
[実施例7:清涼飲料水]
果糖ブドウ糖液糖(13.0重量%)、クエン酸(0.3重量%)、アスコルビン酸(0.03重量%)、クエン酸ナトリウム(0.02重量%)、香料(グレープフルーツフレーバー)(0.1重量%)及び5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(0.1重量%)に水を加えて溶解し、5Lの飲料を調製した。溶液は100mLをガラス瓶容器に分注して常法により殺菌を行い、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを含有するIFN-γ産生促進又は免疫機能の維持向上を目的とした清涼飲料を得た。
【0070】
[実施例8:無糖茶飲料]
市販無糖茶飲料として緑茶(三井農林(株)製)200mLに5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン0.1gを添加溶解後、常法にて殺菌し、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを含有するIFN-γ産生促進又は免疫機能の維持向上を目的とした無糖茶飲料を得た。
【0071】
[実施例9:スポーツ飲料]
5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(0.1mg)、ビタミンB1塩酸塩(0.45mg)、ビタミンB2(0.2mg)、ビタミンC(10mg)、ナイアシン(0.8mg)、パントテン酸Ca(0.22mg)、クエン酸鉄アンモニウム(12.57mg)、クエン酸(100mg)及び果糖(2.5g)の成分にイオン交換水を加え全量を200mLとし、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを含有するIFN-γ産生促進又は免疫機能の維持向上を目的としたスポーツ飲料を調製した。
本件IFN-γ産生促進剤、本件医薬品、本件サプリメント又は本件飲食品は、IFN-γ産生を促進することから、免疫機能の向上を図り、様々な免疫疾患の予防又は治療分野で有用である。