(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038330
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】調光シート及び調光装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20220303BHJP
G02F 1/1345 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1345
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142769
(22)【出願日】2020-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕介
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088GA10
2H088HA01
2H088HA02
2H088HA05
2H092GA48
2H092GA55
2H092GA58
2H092HA25
2H092NA25
2H092PA01
2H092QA15
2H092RA10
(57)【要約】
【課題】樹脂製の透明電極層と外部配線とを接合する接合領域を縮小する。
【解決手段】調光シートは、樹脂からなる透明支持層13Aと、透明支持層13Aに支持され且つ酸化インジウムを主成分とする透明電極層12Aと、透明電極層12Aの調光領域SLに支持され、透明電極層12Aの電圧印加によって透過率を変える調光層11と、透明電極層12Aの接合領域SA及び金属材からなる外部配線40Aを合金材料の溶融によって電気的に接合し且つインジウムを含む接合部41Aとを備え、合金材料の融点が、透明支持層13Aのガラス転移点以上であり、透明電極層12Aの接合領域SAに、溶融による透明支持層13Aの熱変形に由来する凹凸構造を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる透明支持層と、
前記透明支持層に支持され且つ酸化インジウムを主成分とする透明電極層と、
前記透明電極層の調光領域に支持され、前記透明電極層の電圧印加によって透過率を変える調光層と、
前記透明電極層の接合領域及び金属材からなる外部配線を合金材料の溶融によって電気的に接合し且つインジウムを含む接合部とを備え、
前記合金材料の融点が、前記透明支持層のガラス転移点以上であり、
前記接合領域及び前記外部配線が前記接合部を介して電気的に接合された状態において前記透明電極層の前記接合領域に凹凸構造を備える
調光シート。
【請求項2】
前記透明電極層において前記接合領域の表面が前記調光領域の表面よりも粗い
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記接合部は、スズを含む
請求項1又は2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記透明支持層を構成する樹脂は、ポリエチレンテレフタレートである
請求項1から3のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記接合部を保護する封止層をさらに備える
請求項1から4のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項6】
前記外部配線は、前記透明支持層の縁に沿って延在する被覆配線である
請求項1から5のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
前記凹凸構造は、前記合金材料の溶融による前記透明支持層の熱変形に由来する構造である
請求項1から6のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項8】
調光シートと、
前記調光シートに給電を行う電気配線と、を備え、
前記調光シートは、
樹脂からなる透明支持層と、
前記透明支持層に支持され且つ酸化インジウムを主成分とする透明電極層と、
前記透明電極層の調光領域に支持され、前記透明電極層の電圧印加によって透過率を変える調光層と、
前記透明電極層の接合領域及び金属材からなる外部配線を合金材料の溶融によって電気的に接合し且つインジウムを含む接合部とを備え、
前記合金材料の融点が、前記透明支持層のガラス転移点以上であり、
前記接合領域及び前記外部配線が前記接合部を介して電気的に接合された状態において前記透明電極層の前記接合領域に凹凸構造を備える
調光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シート及び調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備えている。一対の透明電極層間の電位差に応じて液晶分子の配向状態が変わることにより、調光シートの光透過率が変わる。
【0003】
近年、調光シートの適用分野の拡大に伴い、調光シートが取り付けられる対象物も多様化しつつあるため、調光シートの曲げ性の向上や軽量化が要請されている。そのため、透明電極層(透明電極フィルム)の基材には、軽量で曲げ性に優れる透明樹脂フィルムが用いられることがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、透明電極層には、リード線やフレキシブルプリント基板等の外部配線が接合される。透明電極層の基材である透明支持層に樹脂製のものを用いる場合、その耐熱性が低いことから、透明支持層と外部電極配線とを接合する接合材には、例えば常温で接合可能な導電性テープや、粘接着材料内に金で被覆した粒子を分散させた異方性導電フィルム等が用いられる。
【0006】
接合材は、一方の透明支持層、透明電極層及び機能層を剥離することにより形成された、他方の透明電極層の接合領域に設けられる。導電性テープを用いる方法では、塗工部以外をマスキングした上で塗工部に液状の導電性ペーストを塗工し、乾燥した導電性ペーストを介して導電性テープを接合する。このため、マスキングのためのスペースを接合領域に含める必要があり、接合領域が比較的広範囲とならざるを得なかった。また、異方性導電フィルムを用いる方法では、異方性導電フィルムを金属治具により熱圧着する工程のため、この場合も透明電極層の露出領域を広範囲にする必要があった。調光装置を設置する際は、接合領域は外側から見えないようにサッシ等の建材に収容するため、極力小さくすることが望ましい。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂製の透明電極層と外部配線とを接合する接合領域を縮小することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する調光シートは、樹脂からなる透明支持層と、前記透明支持層に支持され且つ酸化インジウムを主成分とする透明電極層と、前記透明電極層の調光領域に支持され、前記透明電極層の電圧印加によって透過率を変える調光層と、前記透明電極層の接合領域及び金属材からなる外部配線を合金材料の溶融によって電気的に接合し且つインジウムを含む接合部とを備え、前記合金材料の融点が、前記透明支持層のガラス転移点以上であり、前記接合領域及び前記外部配線が前記接合部を介して電気的に接合された状態において前記透明電極層の前記接合領域に凹凸構造を備える。
【0009】
上記課題を解決する調光装置は、調光シートと、前記調光シートに給電を行う電気配線と、を備え、前記調光シートは、樹脂からなる透明支持層と、前記透明支持層に支持され且つ酸化インジウムを主成分とする透明電極層と、前記透明電極層の調光領域に支持され、前記透明電極層の電圧印加によって透過率を変える調光層と、前記透明電極層の接合領域及び金属材からなる外部配線を合金材料の溶融によって電気的に接合し且つインジウムを含む接合部とを備え、前記合金材料の融点が、前記透明支持層のガラス転移点以上であり、前記接合領域及び前記外部配線が前記接合部を介して電気的に接合された状態において前記透明電極層の前記接合領域に凹凸構造を備える。
【0010】
上記各構成によれば、酸化インジウムを主成分とする透明電極層と金属材からなる外部配線とを、インジウムを含む合金材料を用いて接合することにより、接合性を高めることができる。また、合金材料の融点を透明支持層のガラス転移点以上とし凹凸構造を透明電極層に設けると、透明電極層と接合部との接合性が高められる。つまり、透明電極層と外部配線とを良好な接合性をもって接合できるため、液状の導電ペーストを塗工して形成するような従来の接合構造に比べ、接合領域の縮小を図ることができる。
【0011】
上記調光シートにおいて、前記透明電極層において前記接合領域の表面が前記調光領域の表面よりも粗いものであってもよい。
上記構成によれば、透明支持層のガラス転移点以上の温度で合金材料を溶融することによって、透明支持層の接合領域のみの表面を粗くする。これにより、調光層の光学特性を低下させずに、透明電極層と外部配線との接合性を良好にすることができる。
【0012】
上記調光シートにおいて、前記接合部は、スズを含んでいてもよい。
上記構成によれば、接合部はスズを含むため、融点を比較的低くすることができる。これにより、透明支持層の調光領域への熱による悪影響を抑制することができる。
【0013】
上記調光シートにおいて、前記透明支持層を構成する樹脂は、ポリエチレンテレフタレートであってもよい。
上記構成によれば、透明支持層を構成する樹脂は、インジウムを含む合金材料の融点よりも低いガラス転移点を有するポリエチレンテレフタレートからなるため、接合性を高めるための凹凸構造が形成されやすい。
【0014】
上記調光シートにおいて、前記接合部を保護する封止層をさらに備えていてもよい。
上記構成によれば、接合部は封止層によって保護されるため、水分等から接合部を保護することができる。
【0015】
上記調光シートにおいて、前記外部配線は、前記透明支持層の縁に沿って延在する被覆配線であってもよい。
上記構成によれば、外部配線は、透明支持層の縁に沿って延在する被覆配線であるため、接合部に加わる負荷を軽減させて接合の安定性を高めることができる。
【0016】
上記調光シートにおいて、前記凹凸構造は、前記合金材料の溶融による前記透明支持層の熱変形に由来する構造であってもよい。
上記構成によれば、合金材料の融点を透明支持層のガラス転移点以上とし合金材料を溶融することによって、透明支持層の熱変形に由来する凹凸構造を透明電極層に設けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂製の透明電極層と外部配線とを接合する接合領域を縮小することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】調光装置の一実施形態について調光装置の平面構造を示す図。
【
図2】
図1における2-2線に沿った断面構造を示す図。
【
図3】
図1における3-3線に沿った断面構造を示す図。
【
図4】上記実施形態の調光シートの一部の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1~
図4を参照して、調光シート及び調光装置の一実施形態を説明する。本実施形態の調光シート10は、調光シート10に駆動電圧が印加されていないときに入射光を散乱させて透光性を低下させ、調光シート10に駆動電圧が印加されたときに透光性を上昇させるノーマルタイプである。
【0020】
[調光シートの構成]
図1が示すように、調光シート10は、取付対象としての透明板50に取り付けられている。透明板50は、ガラスや樹脂等からなる透明な板状の部材である。透明板50は、単層構造を有していてもよいし、複層構造を有していてもよい。この調光シート10と給電を行うための外部配線40A,40Bとにより調光装置1が構成される。外部配線40A,40Bは、金属導線を絶縁被膜で覆ったリード線である。
【0021】
調光シート10は、外部配線40A,40Bが接合される接合領域SA,SBを備えている。接合領域SBは、調光シート10の裏面に位置し、接合領域SAは、調光シート10の表面110に位置する。接合領域SAと外部配線40Aとは、接合部41Aを介して電気的に接続されている。また、接合領域SBと外部配線40Bとは、接合部41Bを介して電気的に接続されている。
【0022】
調光シート10のうち接合領域SA,SBを除く部分は、駆動電圧のオン/オフにより光透過率が可変である調光領域SLである。外部配線40A,40Bは、駆動電圧の印加を制御する駆動回路(図示略)に接続されている。駆動回路は、操作スイッチ等から操作信号を入力し、操作信号に応じて調光シート10に印加される駆動電圧を制御する。
【0023】
調光シート10が設置された状態においては、接合領域SA,SBは、透明板50を支持する建材等の内側に収容され、外部からは視認されない状態になっている。なお、
図1では、便宜上、接合領域SA,SBにおける構造が明確になるように大きく図示しているが、接合領域SA,SBが長方形状である場合には、長手方向の長さが数mm~十数mm、短手方向の長さが数mm程度の領域であればよい。また、接合領域SA,SBの位置は、調光シート10の端部であればよく、
図1のように調光シート10の隅部を切り欠いて形成されてもよいし、調光シート10の端縁からオフセットした位置に接合領域SA,SBを設けてもよい。
【0024】
図2及び
図3は、接合領域SA,SBを含む部分における調光シート10の断面構造を示す。
図2が示すように、調光シート10は、調光層11と、透明電極層12Aおよび透明電極層12Bと、透明支持層13Aおよび透明支持層13Bとを備えている。透明電極層12A及び透明電極層12Bは、調光層11を挟んでいる。また、透明支持層13A及び透明支持層13Bは、調光層11及び透明電極層12A,12Bを挟んでいる。透明支持層13Aは、透明電極層12Aを支持し、透明支持層13Bは、透明電極層12Bを支持している。調光シート10は、透明支持層13Bに設けられた透光性を有する接着層51を介して透明板50に取り付けられている。
【0025】
接合領域SAは、調光シート10のなかで接合領域SAに支持されていた調光層11の一部、透明電極層12Bの一部、および透明支持層13Bの一部が取り除かれることにより形成される。つまり、接合領域SAは、透明電極層12Aの裏面のなかの一部である。接合領域SAには、合金材料からなる接合部41Aが接続されている。接合部41Aは、接合領域SAと外部配線40Aとを接合している。
【0026】
接合部41Aの少なくとも一部は、封止層55Aに覆われている。封止層55Aは、接合部41Aと共に接合領域SAの全体を覆う。封止層55Aは、水分や酸素などを含む大気に対して高いガスバリア性を有し、かつ、水分や雨水などに対して、低い吸水性を有する。封止層55Aは、調光層11の端面と接合部41Aとの間、および透明電極層12Bの端面と接合部41Aとの間に介在する。封止層55Aは、調光層11の端面と接合部41Aとの電気的な接続を遮断し、また透明電極層12Bの端面と接合部41Aとの電気的な接続を遮断するための絶縁性を有する。
【0027】
図3が示すように、接合領域SAと同様に、接合領域SBは、調光シート10のなかで接合領域SBに支持されていた調光層11の一部、透明電極層12Aの一部、および透明支持層13Aの一部が取り除かれることにより形成される。つまり、接合領域SBは、透明電極層12Bの表面のなかの一部である。透明電極層12Aには、合金材料からなる接合部41Bが接続されている。接合部41Bは、接合領域SBと外部配線40Bとを接合している。
【0028】
接合部41Bの少なくとも一部は、封止層55Bに覆われている。封止層55Bは、接合部41Bと共に接合領域SBの全体を覆う。封止層55Bは、封止層55Aと同様に、高いガスバリア性と低い吸水性とを有する。封止層55Bは、調光層11の端面と接合部41Bとの間、および透明電極層12Aの端面と接合部41Bとの間に介在する。封止層55Bは、調光層11の端面と接合部41Bとの電気的な接続を遮断し、また透明電極層12Aの端面と接合部41Bとの電気的な接続を遮断するための絶縁性を有する。
【0029】
透明電極層12A,12Bに、外部配線40A,40Bを介して駆動電圧が印加されているとき、調光層11が含む液晶分子が配向され、液晶分子の長軸方向が電界方向に沿った向きとなる。その結果、調光層11を光が透過しやすくなるため、調光領域SLは、透明になる。一方、透明電極層12A,12Bに駆動電圧が印加されていないとき、液晶分子の長軸方向の向きは不規則になる。そのため、調光層11に入射した光は散乱する。その結果、調光領域SLは白濁して不透明になる。
【0030】
次に、調光シート10を構成する各層の材料について説明する。
調光層11は、液晶組成物を含む。調光層11は、例えば、高分子ネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、カプセル型ネマティック液晶(NCAP:Nematic Curvilinear Aligned Phase)等から構成される。例えば、高分子ネットワーク型液晶は、3次元の網目状を有した高分子ネットワークを備え、高分子ネットワークが有する空隙に液晶分子を保持する。調光層11が含む液晶分子は、例えば、誘電率異方性が正であって、液晶分子の長軸方向の誘電率が液晶分子の短軸方向の誘電率よりも大きい。液晶分子は、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系の液晶分子である。
【0031】
透明電極層12A,12Bは、インジウム(In)及びスズ(Sn)を含む材料であって、酸化インジウムを主成分とする材料からなる。透明電極層12A,12Bを構成する材料は、具体的には、酸化インジウムに対して3質量%以上15質量%以下の酸化スズを添加した酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウムスズ亜鉛(ITZO)、酸化珪素を含む酸化インジウムスズ(ITSO)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0032】
透明支持層13A,13Bは、ガラス転移点Tgを有する透明な樹脂から形成されている。透明支持層13A,13Bのガラス転移点Tgは、接合部41A,41Bを構成する合金材料の融点以下である。透明支持層13A,13Bを構成する材料は、具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリサルホン、シクロオレフィンポリマー、トリアセチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0033】
接合部41A,41Bは、合金材料を溶融することにより形成されている。合金材料の融点Tm1は、透明支持層13A,13Bのガラス転移点Tg以上且つ透明支持層13A,13Bの融点Tm2未満である(Tg≦Tm1<Tm2)。
【0034】
本願発明者は、接合部41A,41Bを構成する接合材料と、接合領域SA,SBを構成する透明導電材料とを鋭意研究するなかで、インジウム(In)が含有された合金材料を用いて形成した接合部41A,41Bは、インジウムが含有されていない接合部に比べて、透明電極層12A,12Bとの接合強度が高いことを見出した。その理由は明らかではないが、溶融した接合材と透明電極層12A,12Bとの間に、インジウムが生成反応に寄与する金属間化合物が生成するためと考えられる。
【0035】
接合部41A,41Bを構成する合金材料は、例えば鉛(Pb)が含有されていない鉛フリーはんだである。融点が比較的低いはんだであるSn-Zn系はんだに、インジウムを添加することにより、融点を150℃以上250℃未満とした合金材料を用いることができる。Sn-Zn系はんだとして、Sn-Zn-Bi系を用いてもよい。或いは合金材料はSn-Znをベースとする合金材料以外でもよく、Sn-Cu系、Sn-Cu-Ni系、Sn-Ag系、Sn-Cu-Ag系、Sn-Ag-Cu-In系、Sn-Ag-Cu-Ni-Ge系、Sn-BiーCu-In系、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu-Ni-P-Ga系、Sn-Ag-Bi-Cu系、Sn-Bi-Ag-Cu-In系、Sn-Bi-Ag-Cu系、Sn-In-Ag-Bi系、Sn-Zn系、Sn-Zn-Bi系、Bi-Sn系、Sn-In系等を用いてもよい。
【0036】
接合部41A,41Bを構成する合金材料、透明電極層12A,12Bを構成する透明導電材料、及び透明支持層13A,13Bの材料との組み合わせの一例としては、融点Tm1が150℃以上160℃以下のインジウムを含有するSn-Zn系はんだ、酸化インジウムスズ(ITO)、ガラス転移点Tgが60℃付近且つ融点Tm2が250℃付近のポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。
【0037】
封止層55A,55Bを構成する材料は、熱硬化性樹脂、あるいは、光硬化性樹脂である。具体的には、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレートやメタクリルスチレン共重合体であるアクリル系樹脂、ポリスチレンやスチレンアクリロニトリル共重合体やスチレンブタジエンアクリロニトリル共重合体であるポリスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、および、エポキシ系樹脂からなる群から選択されるいずれか1つ又は複数である。
【0038】
図4は、透明支持層13A、透明電極層12A、及び接合部41Aの要部における断面を示す。接合部41Aを構成する合金材料は、合金材料に熱を加えるはんだごて等の治具又は合金材料に超音波を加える治具等により溶融された後、冷却されることによって透明電極層12Aと外部配線40Aとを接合して、透明電極層12Aと外部配線40Aとを電気的に接続する接合部41Aとなる。この際、透明支持層13Aのうち透明電極層12A側の面には微小な凹凸構造100が形成される。凹凸構造100は、透明支持層13Aの表面と対向する視点から見て、例えば0.05mm以上0.2mm以下の凹凸を有する。凹凸構造100は、接合領域SAのなかの接合部41Aと接する範囲の全体に位置する。凹凸構造100は、接合領域SAのなかの封止層55Aと接する範囲の一部にも位置し、かつ接合領域SAと調光領域SLとの境界付近には位置しない。
【0039】
つまり、透明支持層13Aが、ガラス転移点Tgを超える温度で加熱されることにより、透明支持層13Aが熱変形して、凹凸構造100を構成する微小な凹凸が形成される。また、膜厚の薄い透明電極層12Aは、凹凸構造100を構成する凹凸に追従するように変形する。これにより、接合領域SAにおける接合部41A側の面に凹凸構造101が形成される。換言すると、透明電極層12Aのうち調光領域SLの表面粗さに比べ、接合領域SAの表面粗さが大きくなっている。なお、凹凸構造100,101が形成されるのは接合領域SA,SBのみであり、調光領域SLには形成されないため、調光シート10の光学特性には影響を及ぼさない。
【0040】
[作用]
調光シート10及び調光装置1の作用について説明する。上述したように、インジウムを含む接合部41A,41Bを形成すると、接合部41A,41Bと透明電極層12A,12Bとの接合性が高められる。また、本願発明者は、インジウムを含む合金を適切な温度で溶融して接合部41A,41Bを形成すると、透明電極層12Aに凹凸構造101が形成され表面粗さが大きくなることによって、透明電極層12Aと接合部41Aとの接合性がさらに高められるとの知見を得た。その理由は未だ明らかではないが、溶融した合金材料と透明電極層12Aの凹凸構造101との間で接触面積が増加するとともに、接合領域SAに対するインジウムを含有した合金材料の濡れ性が高められるためであると考えられる。
【0041】
よって、液状の導電ペーストの塗工や、異方性導電フィルムの熱圧着等といった広範囲の接合領域を必要とする接合工程を行わずとも、透明電極層12A,12Bと金属材からなる外部配線40A,40Bとを良好な接合性をもって接合することができる。よって接合領域SA,SBの面積を縮小することができる。
【0042】
以上説明したように、上記実施形態によれば以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)酸化インジウムを主成分とする透明電極層12A,12Bと金属材からなる外部配線40A,40Bとを、インジウムを含む合金材料を用いて接合することにより、接合性を高めることができる。また、合金材料の融点Tm1を透明支持層13A,13Bのガラス転移点Tg以上とし合金材料を溶融することによって、透明支持層13A,13Bの熱変形に由来する凹凸構造101を透明電極層12A,12Bに設けると、透明電極層12A,12Bと接合部41A,41Bとの接合性が高められることが発明者によって見出された。つまり、透明電極層12A,12Bと外部配線40A,40Bとを良好な接合性をもって接合できるため、液状の導電ペーストを塗工して形成するような従来の接合構造に比べ、接合領域SA,SBの縮小を図ることができる。
【0043】
(2)透明支持層13A,13Bのガラス転移点Tg以上の温度で合金材料を溶融することによって、透明支持層13A,13Bの接合領域SA,SBのみの表面を粗くする。これにより、調光領域SLの光学特性を低下させずに、透明電極層12A,12Bと外部配線40A,40Bとの接合性を良好にすることができる。
【0044】
(3)接合部41A,41Bはスズを含むため、融点を比較的低くすることができる。これにより、透明支持層13A,13Bの調光領域SLへの熱による悪影響を抑制することができる。
【0045】
(4)透明支持層13A,13Bを構成する樹脂は、インジウムを含む合金材料の融点Tm1よりも低いガラス転移点Tgを有するポリエチレンテレフタレートからなるため、接合性を高めるための凹凸構造100が形成されやすい。
【0046】
(5)接合部41A,41Bは封止層55A,55Bによって保護されるため、水分等から接合部41A,41Bを保護することができる。
(6)上記(1)に準じた効果が得られるため、被覆配線である外部配線40A,40Bを透明支持層13A,13Bの縁に沿って延在させることが可能となる。そして、透明支持層13A,13Bの縁に沿って長い距離にわたり支持される外部配線40A,40Bの構造を採用できれば、外部配線40A,40Bを曲げることによって発生する負荷が、接合部41A,41Bにかかりにくい。その結果、外部配線40A,40Bと接合領域SA,SBとの接合を安定させることができる。
【0047】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。また、以下の各変形例は、組み合わせて実施してもよい。
【0048】
・透明電極層12A,12Bは、インジウムを含有したものであればよく、酸化亜鉛、酸化スズを母材としインジウムを添加したものであってもよい。
・透明電極層12A,12Bは、単層構造であっても複数の層からなる積層構造であってもよい。例えば、透明電極層12A,12Bは、1乃至複数の種類の金属元素からなる金属層と、インジウムを含み金属層の表面を覆う保護層とを備えるものであってもよい。
【0049】
・上記実施形態では、接合部41A,41Bを保護する封止層55A,55Bを設けたが、接合部41A,41Bを水分等から保護できるそのほかの構成が設けられていれば、封止層55A,55Bを省略しても良い。
【0050】
・上記実施形態では、調光シート10をノーマルタイプのものとした。これに代えて、調光シート10をリバースタイプのものとしてもよい。要は、調光シート10は、透明電極層12A,12Bと接合部41A,41Bとを接合する接合領域SA,SBを備えていればよく、その他の構成は特に限定されない。
【0051】
[実施例]
図5及び
図6を参照して、上記実施形態の一例である実施例について具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【0052】
[実施例1]
(スペーサービーズの散布工程)
ジビニルベンゼンを主材料とする25μmのスペーサを、任意の量のアルコール系溶媒に分散させた。なお、スペーサ量は、塗布後に所定の専有面積比率となるよう計量し調整した。酸化インジウムスズ(ITO)からなる厚さ50μmの透明電極層12A,12Bが形成された表面処理済みPETフィルム(融点250℃~260℃)を1対準備し、PETフィルムの各々に、アルコール系溶媒に分散させたスペーサを散布し、オーブンにより100℃下で加熱し、溶剤を除去した。
【0053】
(調光シートの製膜)
スペーサ散布済の透明電極層12A,12B上にポリマーネットワーク型液晶塗料(KN-F-001-01-00、九州ナノテック光学株式会社製)を塗布した後、照度20mW/cm2の高圧水銀灯を用いて350nm以下の波長をカットし、窒素雰囲気下、照射時間30秒で紫外線照射を行った。その際、紫外線を照射している際の照射装置内の温度は25℃に制御した。こうして得られた1対のシートを積層し、圧力をかけながら貼合することで調光シート10を得た。
【0054】
(接合領域の形成工程)
調光シート10を、幅297mm、高さ420mmの大きさに切断した。また、調光シート10の一方の面の短辺である端部に切り込みを入れ、幅方向10mm且つ高さ方向3mmに亘って透明支持層13B及び透明電極層12Bを、金属板を用いて剥離した。さらに、露出した調光層11を、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、トルエン等の溶媒に含浸した後、金属針で磨耗することで除去し、透明電極層12Aを露出させた。他方の面においても、同様の処理を行い、透明電極層12Bを露出させた。
【0055】
(接合工程)
インジウムを含有し、融点が155℃のハンダ(セラソルザ・エコ#155、黒田テクノ株式会社製)を1mm×10mmに切断し、切断したハンダを、露出させた透明電極層12A,12Bに設置した後、はんだごてを用いて200℃で溶融させ、被覆を5mmの長さで剥離したリード線(UL1007-20-W-100,ミスミ)と透明電極層12A,12Bとをろう接した。次いで、接合箇所を含む透明電極層12A,12Bの接合領域SA,SBを、UV硬化性のエポキシ樹脂を用いて封止した。
【0056】
[実施例2]
接合工程において、接合温度を220℃とした以外は実施例1と同様に作製した。
[実施例3]
接合工程において、接合温度を240℃とした以外は実施例1と同様に作製した。
【0057】
[実施例4]
接合工程において、接合温度を180℃とした以外は実施例1と同様に作製した。
[実施例5]
接合工程において、接合温度を160℃とした以外は実施例1と同様に作製した。
【0058】
[比較例1]
接合工程において、接合温度を270℃とした以外は実施例1と同様に作製した。その結果、透明支持層13A,13Bが溶融して貫通孔が発生してしまい、接合ができなかった。
【0059】
[比較例2]
接合温度を150℃とした以外は実施例1と同様に作製した。その結果、はんだが溶融せず、透明電極層12A,12Bと外部配線40A,40Bとの接合が不可能であった。
【0060】
[比較例3]
露出させた透明電極層12A,12B上にインジウムを含有しないハンダ(M705、千代田工業株式会社製)を用い、250℃で溶融させた以外は実施例1と同様に作製した。ハンダは透明電極層12A,12Bに付着せず、接合が不可能であった。
【0061】
[比較例4]
取り出し工程において、接合領域SAの形成工程において、調光シート10の一方の面の短辺である端部に切り込みを入れ、幅方向10mm且つ高さ方向10mmに亘って表面側の透明支持層13B及び透明電極層12Bを、金属板を用いて剥離し、実施例1と同様に調光層11を除去した。露出した調光層11を、実施例1と同様に除去し、透明電極層12Aを露出させた。他方の面にも同様の処理を行い裏面の透明電極層12Bを露出させた。
【0062】
接合工程において、露出させた透明電極層12Aの隅部を除く上方5mm及び側方5mmの部分をL字状にマスキングテープで覆い、導電ペースト(ドータイトD362,藤倉化成株式会社製)塗布した。3時間乾燥させた後、マスキングテープを除去し導電ペーストの被膜を得た。導電ペースト単独では外部配線との接続が不可能であるため、この導電ペースト被膜上に銅テープ(No.CU-35C,スリーエム製)を貼合した。さらに、この銅テープ上にハンダ(M705,千代田工業株式会社製)を用いて、250℃にて、リード線(UL1007-20-W-100,ミスミ)と透明電極層12Aとを接合した。さらに、透明電極層12Aが露出された接合領域SA全体を、接合部41Aの上からUV硬化性のエポキシ樹脂を用いて封止した。他方の面も同様にして給電構造を形成した。なお、接合領域SA、SBが実施例1よりも大きいのは、液状の導電ペーストを塗工するのにマスキング領域を確保するためである。
【0063】
[比較例5]
取り出し工程において、接合領域の形成工程において、調光シート10の表面の短辺である端部に切り込みを入れ、幅方向10mm且つ高さ方向10mmに亘って表面側の透明支持層13B及び透明電極層12Bを金属板を用いて剥離し、実施例1と同様に調光層11を除去した。露出した調光層11を、実施例1と同様に除去し、透明電極層12Aを露出させた。他方の面にも同様の処理を行い透明電極層12Bを露出させた。
【0064】
接合工程において、異方性導電膜(CP923CM-25A、ソニーケミカル株式会社製)と、Cu箔とポリイミドからなるフレキシブル基板(大洋工業製)とを、10mm×10mm寸法のサーマルヘッドを有する熱転写装置を用い、温度80℃、圧力0.1MPaで仮圧着した。さらに、異方性導電膜(ACF)付フレキシブル基板(FPC)を、ACF層を下にした状態で、露出した透明電極層12Aに重ね、温度180℃、圧力3Mpaで加圧し本圧着させた。他方の透明電極層12Bも同様にして給電構造を得た。なお、実施例1よりも切込み面積が大きいのは、テープ状のACF及びフィルム状のFPCを、金属治具により熱圧着する必要があるためである。
【0065】
[比較例6]
接合領域SA,SBの形成工程は実施例1と同様に行った。透明電極層12Aを削り、直径0.7mmの穴を形成した。次いで0.5mm×1mmの大きさに切断した、インジウムを含有するハンダ(セラソルザ#155)を、穴に固定した。さらにインジウムを含有するハンダ上にリード線を重ね200℃まで加熱したが、ハンダとリード線との接合が出来ず、冷却後すぐにリード線が脱落した。これはハンダの接合面積があまりにも微小すぎリード線を保持できなかったためと考える。
【0066】
[評価]
図5及び
図6は、実施例1~5の結果、比較例1~6の結果をそれぞれ示している。
(接合性の評価)
目視で実施例1~5及び比較例1~6の接合部41A,41Bの接合性を確認した。実施例1~5の調光シート10は、透明電極層12A,12Bから、接合部41A,41Bや外部配線40A,40Bが脱落したり、透明支持層13A,13Bに孔が空いたりすることなく、透明電極層12A,12Bと接合部41A,41Bとが良好に接合された。一方、比較例1はPETからなる透明支持層13A,13Bが溶解し、比較例2は合金材料が溶解しなかった。比較例3では、合金材料は溶融したものの、透明電極層12A,12B及び接合部41A,41Bが接合しなかった。比較例5,6は、透明電極層12A,12Bと接合部41A,41Bとが良好に接合された。
【0067】
(光学特性の評価)
実施例1~5及び接合性が良好であった比較例4,5について光学特性の評価を行った。実施例1~5及び比較例5は接続したリード線の金属部を鰐口クリップで固定した。比較例6についてはFPCの金属露出部を鰐口クリップで固定した。調光シート10に対し、交流電源装置(PCR-3000WE,菊水電子製)を用い、周波数60Hz、電圧40Vを印加した状態で、ヘイズメータ(NDH-7000SP,スガ試験機製)を用いてヘイズを測定した。実施例1~5及び比較例5,6のいずれも、駆動電圧を印加しない場合(0V)のヘイズ値、駆動電圧を印加した場合(40V)のヘイズ値は好適な範囲に含まれた。
【0068】
(凹凸構造の有無)
実施例1~5について、透明支持層13Aと透明電極層12Aとの接合箇所を透明支持層13A側から光学顕微鏡で確認した結果、微細な凹凸構造が確認された。同様に、透明支持層13Bと透明電極層12Bとの接合箇所を透明支持層13B側から光学顕微鏡で確認した結果、微細な凹凸構造が確認された。接合性が良好ではない比較例1~3については凹凸構造が見られたが、接合性が良好である比較例4,5と接合ができなかった比較例6については凹凸構造が見られなかった。
【0069】
以上により、インジウムを含む合金材料を用いた接合部が透明電極層12A,12Bから脱落せずに接合し且つ凹凸構造が観察された実施例1~5は、接合性、光学特性が良好であり、接合領域SA,SBを縮小できた。比較例1~4,7は、接合性が確保できず、接合性が良好であった比較例5,6は接合領域SA,SBが広範囲となった。
【0070】
以上が本発明の実施形態である。本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、主旨を逸脱しない範囲で適切な設計変更をすることが可能である。例えば、上記実施形態においては、調光シート、より具体的には透明板50は平面であることを想定している。本発明において、透明板50の表面は、平面に限定されるものではなく曲面であってもよい。具体的には、透明板50は、例えば、窓ガラスやガラス壁等の建材であってもよいし、自動車の窓ガラス等の車両用部材であってもよい。また、本発明によれば、上述した微細な凹凸構造によって、既存の構成以上に堅固な接合性能を得ることができる。そのため、曲面の場合、透明電極層12A、12Bに損傷を与えることのない最大曲率を規定する線上に一対の接合領域SA、SBが存在していても実用上問題がない。例えば、曲面が二次曲面の場合、高さ方向に沿って一対の接合領域SA、SBを設計するだけでなく、円周方向に沿って当該接合領域SA、SBを設けることも可能である。つまり、本発明によれば設計自由度を従来以上に向上させる効果も奏する。
【符号の説明】
【0071】
1…調光装置
10…調光シート
11…調光層
12A,12B…透明電極層
13A,13B…透明支持層
40A,40B…外部配線
41A,41B…接合部
55…封止層
55A,55B…封止層
55B…封止層
100,101…凹凸構造