(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038366
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】たばこ用香喫味改善剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A24B 15/32 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
A24B15/32
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142831
(22)【出願日】2020-08-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】角田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓
(72)【発明者】
【氏名】瀧嶋 俊介
【テーマコード(参考)】
4B043
【Fターム(参考)】
4B043BB22
4B043BC02
4B043BC19
4B043BC39
(57)【要約】
【課題】新規なたばこ用香喫味改善剤を提供する。
【解決手段】たばこ用香喫味改善剤は、1,3-フィタジエンを有効成分として含む。また、たばこ用香喫味改善剤は、2,4-フィタジエンを有効成分として含む。当該たばこ用香喫味改善剤を、たばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加することにより、たばこ製品の香喫味を改善することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3-フィタジエンを有効成分として含む、たばこ用香喫味改善剤。
【請求項2】
2,4-フィタジエンを有効成分として含む、たばこ用香喫味改善剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のたばこ用香喫味改善剤において、
さらにネオフィタジエンを含む、たばこ用香喫味改善剤。
【請求項4】
(a)イソフィトールを脱水触媒下で加熱する工程、
を含む、たばこ用香喫味改善剤の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のたばこ用香喫味改善剤の製造方法において、
前記脱水触媒は、リン酸、リン酸二水素塩、硫酸または硫酸水素塩である、たばこ用香喫味改善剤の製造方法。
【請求項6】
(b)1,3-フィタジエンをたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加する工程、
を含む、たばこの香喫味改善方法。
【請求項7】
(c)2,4-フィタジエンをたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加する工程、
を含む、たばこの香喫味改善方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のたばこの香喫味改善方法において、
(d)ネオフィタジエンを前記たばこ製品または前記原材料に添加する工程、
を含む、たばこの香喫味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たばこ用の香喫味改善剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たばこの香喫味の改善を目的として、様々な添加剤がたばこ製造原料やたばこ製品に使用されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、たばこの燃焼煙の成分の1つであるネオフィタジエン(7,11,15-トリメチル-3-メチレン-1-ヘキサデセン)(非特許文献1,2参照)が、たばこの風味増強剤として(特許文献1)、液体たばこ用添加物として(特許文献2)、喫煙品または無煙たばこの材料(ポリマー)として(特許文献3)、それぞれ応用できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献4には、l-メントール又はボルネオールのテルペングルコシドを含むたばこ香喫味改良剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-007687号公報
【特許文献2】特表2012-529893号公報
【特許文献3】特表2014-508201号公報
【特許文献4】特開平5-219929号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤森嶺,金子肇,日本農芸化学会誌,53巻,9号,R95(1979).
【非特許文献2】R.L.Rowland,J.Am.Chem.Soc.,79,5007(1957).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に記載されたネオフィタジエンは、前述の通り、元々たばこの燃焼煙の成分の1つであることから、たばこの匂いの生成を目的としてたばこの代替品に使用する場合には有用であるものの、たばこの香喫味を改善する効果は低かった。
【0008】
また、特許文献4に記載されたたばこ香喫味改良剤は、例えば、たばこの製造工程中、乾燥工程や膨化処理工程等のたばこを高温にさらす工程において、その添加物が揮発または熱分解してしまい、香喫味改善効果が十分に得られないという問題があった。
【0009】
以上より、特許文献1~4に記載されたたばこ用香喫味改善剤は、たばこの香喫味を改善する要望に十分対応できておらず、新規なたばこ用香喫味改善剤の開発が期待されている。本発明の課題は、新規なたばこ用香喫味改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンがたばこの香喫味改善剤として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
かくして、本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
[1] 1,3-フィタジエンを有効成分として含む、たばこ用香喫味改善剤。
[2] 2,4-フィタジエンを有効成分として含む、たばこ用香喫味改善剤。
[3] [1]または[2]に記載のたばこ用香喫味改善剤において、さらにネオフィタジエンを含む、たばこ用香喫味改善剤。
[4] (a)イソフィトールを脱水触媒下で加熱する工程、を含む、たばこ用香喫味改善剤の製造方法。
[5] [4]に記載のたばこ用香喫味改善剤の製造方法において、前記脱水触媒は、リン酸、リン酸二水素塩、硫酸または硫酸水素塩である、たばこ用香喫味改善剤の製造方法。
[6] (b)1,3-フィタジエンをたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加する工程、を含む、たばこの香喫味改善方法。
[7] (c)2,4-フィタジエンをたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加する工程、を含む、たばこの香喫味改善方法。
[8] [6]または[7]に記載のたばこの香喫味改善方法において、(d)ネオフィタジエンを前記たばこ製品または前記原材料に添加する工程、を含む、たばこの香喫味改善方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規なたばこ用香喫味改善剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味する。また、「香喫味」とは、たばこの喫煙時に感じる「香り、におい、味、刺激、のみごたえ」等の嗅覚・味覚刺激の総称である。また、「喫煙時」とは、たばこの利用者(喫煙者)がたばこを燃焼させ、生じた煙を喫(の)む(喫(す)うともいう)場合に限られず、たばこの利用者が無煙たばこまたは液体たばこを口に含み、口および/または鼻で生理的または官能的に味わう場合も含む概念である。
(たばこ用香喫味改善剤)
以下、本発明の一実施の形態に係るたばこ用香喫味改善剤(以下、本件香喫味改善剤という。)について、詳細に説明する。
【0014】
本件香喫味改善剤は、1,3-フィタジエン(3,7,11,15-テトラメチル-1,3-ヘキサデカジエン)を有効成分として含む。本件香喫味改善剤に含まれる1,3-フィタジエンは、従来、それ自体の香気特性について一切確認されておらず、たばこ用香喫味改善剤としての用途が検討されてこなかった化合物である。
【0015】
また、本件香喫味改善剤は、2,4-フィタジエン(3,7,11,15-テトラメチル-2,4-ヘキサデカジエン)を有効成分として含む。本件香喫味改善剤に含まれる2,4-フィタジエンは、従来、それ自体の香気特性について一切確認されておらず、たばこ用香喫味改善剤としての用途が検討されてこなかった化合物である。
【0016】
例えば、非特許文献1に示すように、たばこの品種は、黄色種、バーレー種、オリエント種、葉巻種、在来種の大きく5つに分けられ、どの品種においても乾葉抽出物の揮発性成分(すなわちたばこの香気成分)としてネオフィタジエンが含まれていることは知られているが、1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンがたばこの香気成分には含まれているという報告はない。
【0017】
また、非特許文献2には、たばこ葉の乾燥・熟成工程のように、脱水触媒が存在しない条件でフィトールの脱水反応が起こると、ネオフィタジエンが生じる一方、1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンは生じないことが記載されており、1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンがたばこの香気成分に含まれないことを裏付けるものである。
【0018】
以上のように、従来1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンの香気特性に注目した研究は一切なかったが、本発明者らは、鋭意研究を重ねたところ、後述の実施例にその一例を示すように、1,3-フィタジエンまたは2,4-フィタジエンを有効成分とする本件香喫味改善剤を、たばこ製品またはたばこ製品の原材料に配合することで、たばこ(たばこ製品)の香喫味を著しく改善するということを発見し、本発明に至ったものである。
【0019】
本件香喫味改善剤の添加対象(本明細書において、「添加」とは、ある対象に噴霧、滴下などによって単に加えること、およびある対象と混ぜ合わせることの、少なくとも1つを含む)としては、その種類や状態については特に限定されず、例えば、天然の葉たばこを原料として製造される葉巻たばこ、紙巻たばこ、パイプたばこ等の他、屑たばこから再生したシートたばこ、または葉たばこ以外の物質を原料として製造される人工たばこ等(以下、これらをまとめて、単にたばこ製品という場合がある。)に添加することができる。また、本件香喫味改善剤は、製品としてのたばこ、または、その原料に添加することもでき、たばこ葉乾燥品もしくは刻上品(たばこ葉を刻んたもの)、たばこ用の巻紙やフィルター、これらの接着剤(糊、バインダー)等、巻紙の燃焼調節剤等のたばこ製造用材料(以下、これらをまとめて、単にたばこ原材料という場合がある。)に添加してもよい。さらに、本件香喫味改善剤は、たばこ用の各種香料組成物(これもたばこ原材料に含まれるものとする。)に添加して、当該香料組成物とともにたばこの香喫味を改善することもできる。
【0020】
本件香喫味改善剤の形態、添加方法(手段)および添加時期は、特に限定されるものではないが、有効成分である1,3-フィタジエンまたは2,4-フィタジエンをエタノール等の有機溶媒に溶かした溶液を本件香喫味改善剤として、たばこ原材料であるたばこ刻みに噴霧または注入することが好ましい。
【0021】
本件香喫味改善剤の添加対象(たばこまたはその原材料)への添加量は、特に限定されるものではないが、具体的には、たばこ刻みに対し本件香喫味改善剤中の有効成分が0.00001質量%(0.1ppm)以上0.1質量%以下となるように添加することが例示でき、その中でも0.0001質量%(1ppm)以上0.005質量%(50ppm)以下となるように添加することが好ましい。
【0022】
また、本件香喫味改善剤は、好ましい形態として、さらにネオフィタジエンを含む。後述の実施例に示すように、1,3-フィタジエンおよび/または2,4-フィタジエンを、ネオフィタジエンと併用することで、香喫味改善効果がさらに増強されることがわかった。この理由として、ネオフィタジエンと1,3-フィタジエンとでは、燃焼した際の生成物が異なり、ネオフィタジエン由来のものとは異なる香喫味が得られることや、特許文献1に記載されているように、ネオフィタジエンはたばこの煙に含まれる揮発物を捕捉する風味キャリアとして作用することが知られているが、1,3-フィタジエンがネオフィタジエンとは異なる揮発物を捕捉して、ネオフィタジエンとは別の風味キャリアとして作用すること等が考えられる。以上のことは、ネオフィタジエンと2,4-フィタジエンとの関係でも同様である。
【0023】
また、本件香喫味改善剤がネオフィタジエンを含む場合において、1,3-フィタジエンとネオフィタジエンとの比率は特に限定されるものではないが、好ましい形態として、本件香喫味改善剤において、1,3-フィタジエンとネオフィタジエンとの質量比は、10:1(1:0.1)~1:10である。いいかえれば、本件香喫味改善剤は、1,3-フィタジエンおよびネオフィタジエンの合計に対し、1,3-フィタジエンを9質量%以上91質量%以下含有する。このように、1,3-フィタジエンとネオフィタジエンとの比率を規定することで、たばこの香喫味の改善効果が十分に得られる。
【0024】
また、本件香喫味改善剤がネオフィタジエンを含む場合において、2,4-フィタジエンとネオフィタジエンとの比率は特に限定されるものではないが、好ましい形態として、本件香喫味改善剤において、2,4-フィタジエンとネオフィタジエンとの質量比は、5:1(1:0.2)~1:50である。いいかえれば、本件香喫味改善剤は、2,4-フィタジエンおよびネオフィタジエンの合計に対し、2,4-フィタジエンを2質量%以上83質量%以下含有する。このように、2,4-フィタジエンとネオフィタジエンとの比率を規定することで、たばこの香喫味の改善効果が十分に得られる。
【0025】
また、本件香喫味改善剤が1,3-フィタジエンと2,4-フィタジエンとの両方を含む場合において、本件香喫味改善剤における1,3-フィタジエンと2,4-フィタジエンとの比率(配合率、混合率)は特に限定されるものではないが、好ましい形態として、本件香喫味改善剤において、1,3-フィタジエンと2,4-フィタジエンとの質量比は、1:1~50:1である。いいかえれば、本件香喫味改善剤は、1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンの合計に対し、1,3-フィタジエンを50質量%以上98質量%以下含有する。このように、1,3-フィタジエンと2,4-フィタジエンとの比率を規定することで、たばこの香喫味の改善効果が十分得られる。
【0026】
また、本件香喫味改善剤において、1,3-フィタジエンは、トランス-1,3-フィタジエン単独、シス-1,3-フィタジエン単独、トランス-1,3-フィタジエンおよびシス-1,3-フィタジエンの混合物のいずれであっても、たばこの香喫味の改善効果を奏する。後述の本件香喫味改善剤の製造方法によって製造された本件香喫味改善剤には、トランス-1,3-フィタジエンとシス-1,3-フィタジエンとが、例えば質量比で2:1(1:0.5)~1:5の範囲で含まれており、その香喫味改善効果が十分に得られることが確認されている。
【0027】
また、2,4-フィタジエンについては、トランス,トランス-2,4-フィタジエン、シス,トランス-2,4-フィタジエン、トランス,シス-2,4-フィタジエン、シス,シス-2,4-フィタジエンのいずれか単独、またはこれらの2種以上の混合物であってよい。特に、トランス,トランス-2,4-フィタジエンとシス,トランス-2,4-フィタジエンとの混合物、またはトランス,トランス-2,4-フィタジエン単独が、たばこの香喫味の改善に有効に使用でき、後述の本件香喫味改善剤の製造方法によって製造された本件香喫味改善剤には、トランス,トランス-2,4-フィタジエンとシス,トランス-2,4-フィタジエンとが、例えば10:1~1000:1の範囲で含まれている。
【0028】
本件香喫味改善剤は、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、前述した成分以外の他の香料等の成分および/または溶媒(溶剤)など、他の添加物を含有していてもよい。
(たばこ用香喫味改善剤の製造方法)
以下、本件香喫味改善剤の製造方法について、詳細に説明する。
【0029】
本件香喫味改善剤の製造方法は、(a)イソフィトールを脱水触媒下で加熱する工程、を含む。従来、1,3-フィタジエンは、フィトールを酸触媒下で加熱して、フィトールの脱水反応により生成していた。本発明者らは、鋭意研究の結果、フィトールよりも安価なイソフィトールを原料とし、これを脱水触媒下で脱水反応させると、1,3-フィタジエンが生成することを見出した。すなわち、本件香喫味改善剤の製造方法によれば、1,3-フィタジエンを含む本件香喫味改善剤の製造コストを低減することができる。
【0030】
なお、本発明者らは、イソフィトールを脱水触媒下で加熱することによって、1,3-フィタジエンとネオフィタジエンとを同時に生成させることにも成功した。これにより、本件香喫味改善剤の製造方法によれば、1,3-フィタジエンおよびネオフィタジエンをそれぞれ単独で生成させ、その後混合させる場合に比べて、1,3-フィタジエンおよびネオフィタジエンを含む本件香喫味改善剤の製造コストを低減させることができる。
【0031】
同様に、本発明者らは、イソフィトールを脱水触媒下で加熱することによって、1,3-フィタジエンと2,4-フィタジエンとを同時に生成させることにも成功した。これにより、本件香喫味改善剤の製造方法によれば、1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンをそれぞれ単独で生成させ、その後混合させる場合に比べて、1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンを含む本件香喫味改善剤の製造コストを低減させることができる。
【0032】
また、本発明者らは、本件香喫味改善剤の製造方法によって、1,3-フィタジエンを含む本件香喫味改善剤を製造する場合において、1,3-フィタジエンとしては、トランス-1,3-フィタジエンとシス-1,3-フィタジエンとが含まれていることを見出し、かつ、これらの異性体を分離して取り出すことが可能であることを確認した。ただし、前述したように、香喫味改善効果においては、トランス-1,3-フィタジエンとシス-1,3-フィタジエンとの差は特になく、本件香喫味改善剤としては、任意の比率でこれらのシス-トランス異性体を含んでいればよい。
【0033】
また、本件香喫味改善剤の製造方法によって、2,4-フィタジエンを含む本件香喫味改善剤を製造する場合において、2,4-フィタジエンとしては、1,3-フィタジエンと同様にシス/トランス異性体が得られる、すなわちトランス,トランス-2,4-フィタジエン、シス,トランス-2,4-フィタジエン、トランス,シス-2,4-フィタジエン、およびシス,シス-2,4-フィタジエンが得られると考えられる。通常は、これら4種の異性体のうち安定な構造である、トランス,トランス-2,4-フィタジエンおよびシス,トランス-2,4-フィタジエンが主な異性体として含まれ、特に安定なトランス,トランス-2,4-フィタジエンが多く含まれる。本件香喫味改善剤としては、例えばトランス,トランス-2,4-フィタジエンとシス,トランス-2,4-フィタジエンとの任意の比率の混合物を用いてよく、当該混合物中、トランス,トランス-2,4-フィタジエンの割合は95%以上、好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である。または、トランス,トランス-2,4-フィタジエンを分離して取り出し、単独で本件香喫味改善剤として使用してもよい。
【0034】
また、本発明者らは、イソフィトールの脱水反応における脱水触媒を変化させることによって、トランス-1,3-フィタジエン、シス-1,3-フィタジエン、2,4-フィタジエン(上述のように、主にトランス,トランス-2,4-フィタジエンおよびシス,トランス-2,4-フィタジエンが生成され、特に前者が生成される)およびネオフィタジエンの配合比率をある程度任意に制御することができることを確認している。脱水触媒とは、以下に示したイソフィトールの脱水反応を進行させられるものを意味し、例えば、無機酸またはその塩、有機酸またはその塩、イオン交換樹脂が例示できる。無機酸またはその塩の例としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、およびスルホン酸化合物、ならびにその塩が挙げられ、有機酸またはその塩の例としては酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸、および酒石酸、ならびにその塩が挙げられ、イオン交換樹脂としてはダイヤイオン(登録商標)SK-1Bが挙げられるが、これらに限定されない。1,3-フィタジエンおよび2,4-フィタジエンが効率よく生成するとの観点から、リン酸、リン酸二水素塩、硫酸、硫酸水素塩が好ましく、1,3-フィタジエンが最も効率よく生成するリン酸が最も好ましい。
【0035】
以上で説明した本件香喫味改善剤の製造方法において、前記(a)工程を化学反応式で表すと、次の反応式1の通りである。
【0036】
【0037】
(たばこの香喫味改善方法)
本発明の一実施の形態に係るたばこの香喫味改善方法(すなわち本件香喫味改善剤の使用方法であり、以下、本件香喫味改善方法という。)は、(b)1,3-フィタジエンをたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加する工程、を含む。
【0038】
前述したように、1,3-フィタジエンは、本件香喫味改善剤の有効成分であり、1,3-フィタジエンをたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加することで、たばこ製品の香喫味を改善することができる。添加する1,3-フィタジエンは、常温で液体であるため、たばこ製品またはたばこ製品の原材料に直接添加してもよいし、エタノール等の溶媒で希釈してから添加してもよい。
【0039】
また、本発明の一実施の形態に係るたばこの香喫味改善方法(すなわち本件香喫味改善剤の使用方法であり、以下、本件香喫味改善方法という。)は、(c)2,4-フィタジエンをたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加する工程、を含む。
【0040】
前述したように、2,4-フィタジエンは、本件香喫味改善剤の有効成分であり、2,4-フィタジエンをたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加することで、たばこ製品の香喫味を改善することができる。添加する2,4-フィタジエンは、常温で液体であるため、たばこ製品またはたばこ製品の原材料に直接添加してもよいし、エタノール等の溶媒で希釈してから添加してもよい。
【0041】
また、本件香喫味改善方法は、好ましい形態として、(d)ネオフィタジエンを前記たばこ製品または前記原材料に添加する工程、を含む。
【0042】
前述したように、本件香喫味改善剤において、ネオフィタジエンを、1,3-フィタジエンおよび/または2,4-フィタジエンとともにたばこ製品またはたばこ製品の原材料に添加することで、たばこ製品の香喫味をさらに改善することができる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]たばこ用香喫味改善剤の製造方法
<実施例1-1>本発明品1(トランス-1,3-フィタジエン)の製造
フラスコ内にイソフィトール75g、シクロヘキサン75g、および、リン酸(85質量%,1.2g)を入れ、フラスコにディーン・スターク装置およびジムロート冷却器を装着した。その後、フラスコ内を撹拌しながら、フラスコを140~150℃の油浴に浸した。加熱時間は、還流が始まってから2~3時間とした。
【0045】
反応液を冷却した後に飽和食塩水、5質量%重曹水、および、飽和食塩水にて順次洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮し、粗精製物(71g)を得た。この粗精製物を蒸留精製し、目的物(53g)を得た(主な成分比は、ネオフィタジエン:シス-1,3-フィタジエン:トランス-1,3-フィタジエン:トランス,トランス-2,4-フィタジエン=25:25:40:5)。これを任意の濃度にエタノールで希釈した(以下、中間品1という。)。
【0046】
一方で、公知文献(Grossi and Rontani,Tetrahedron Letters,Vol.36,No.18,pp.3141-3144(1995)、以下公知文献1)の方法に従って、トランス-1,3-フィタジエンを合成し、精製して標品1-1とした。
【0047】
次いで、中間品1のGC分取を行った。前記標品1と保持時間およびマススペクトルが一致したものとして、中間品1からトランス-1,3-フィタジエンを得た。このトランス-1,3-フィタジエンを任意の濃度にエタノールで希釈し、本発明品1とした。
【0048】
以下にGC分取の条件を記す。
【0049】
GC:Agilent Technologies 7890A GC System
カラム:InertCap(登録商標) WAX(内径0.25mm,長さ30m,膜厚0.25μm;GLサイエンス社製)
注入口:スプリット/スプリットレス注入口,250℃
オーブン温度:70℃→5℃/min昇温→220℃
ガスおよび流量:He,2.0mL/min
検出器:Agilent Technologies 5975 inert XL MSD
【0050】
<実施例1-2>本発明品2(シス-1,3-フィタジエン)の製造
実施例1-1と同様の方法により中間品1を得た。一方で、実施例1-1に記載の公知文献1の方法に従って、シス-1,3-フィタジエンを合成し、精製して標品1-2とした。次いで、実施例1-1と同様の方法により中間品1をGCにより分取し、標品1-2と保持時間およびマススペクトルが一致したものとして、シス-1,3-フィタジエンを得た。このシス-1,3-フィタジエンを任意の濃度にエタノールで希釈し、本発明品2とした。
【0051】
<実施例1-3>本発明品3(トランス,トランス-2,4-フィタジエン)の製造
実施例1-1と同様の方法により中間品1を得た。一方で、実施例1-1に記載の公知文献1の方法に従って、トランス,トランス-2,4-フィタジエンを合成し、精製して標品1-3とした。次いで、実施例1-1と同様の方法により中間品1をGCにより分取し、標品1-3と保持時間およびマススペクトルが一致したものとして、トランス,トランス-2,4-フィタジエンを得た。このトランス,トランス-2,4-フィタジエンを任意の濃度にエタノールで希釈し、本発明品3とした。
【0052】
<実施例1-4>比較品1(ネオフィタジエン)の製造
実施例1-1と同様の方法により中間品1を得た。一方で、実施例1-1に記載の公知文献1の方法に従って、ネオフィタジエンを合成し、精製して標品1-4とした。次いで、実施例1-1と同様の方法により中間品1をGCにより分取し、標品1-4と保持時間およびマススペクトルが一致したものとして、ネオフィタジエンを得た。このネオフィタジエンを任意の濃度にエタノールで希釈し、比較品1とした。
【0053】
<実施例1-5>本発明品4の製造
実施例1-1と同様の方法により中間品1を得て、これをそのまま本発明品4とした。
【0054】
<実施例1-6>本発明品5の製造
脱水触媒をリン酸ではなく硫酸(96質量%)とした以外は、実施例1-1と同様の方法により目的物を得た(主な成分比は、ネオフィタジエン:シス-1,3-フィタジエン:トランス-1,3-フィタジエン:トランス,トランス-2,4-フィタジエン=25:20:30:10)。これを任意の濃度にエタノールで希釈し、本発明品5とした。
【0055】
<実施例1-7>本発明品6の製造
実施例1-1で製造したトランス-1,3-フィタジエンと、実施例1-2で製造したシス-1,3-フィタジエンと、実施例1-3で製造したトランス,トランス-2,4-フィタジエンとを、35:35:30(質量比)で混合し、任意の濃度にエタノールで希釈し、本発明品6とした。
【0056】
<実施例1-8>本発明品7の製造
実施例1-1で製造したトランス-1,3-フィタジエンと、実施例1-2で製造したシス-1,3-フィタジエンと、実施例1-6で製造したネオフィタジエンとを、25:25:50(質量比)で混合し、任意の濃度にエタノールで希釈し、本発明品7とした。
【0057】
<実施例1-9>本発明品8の製造
実施例1-1で製造したトランス-1,3-フィタジエンと、実施例1-2で製造したシス-1,3-フィタジエンとを50:50(質量比)で混合し、任意の濃度にエタノールで希釈し、本発明品8とした。
【0058】
[実施例2]たばこ用香喫味改善剤の使用方法(たばこの香喫味改善方法)
<実施例2-1>単品での評価
本発明品1~3のそれぞれを、市販シガレット用ブレンド刻上品に5ppm(0.0005質量%)添加となるように均一に噴霧し、自然乾燥させた後に、シガレットに巻き上げて、サンプル1~3とした。
【0059】
一方、比較品1を、市販シガレット用ブレンド刻上品に5ppm(0.0005質量%)添加となるように均一に噴霧し、自然乾燥させた後に、シガレットに巻き上げて、対照品1とした。また、エタノールのみを、市販シガレット用ブレンド刻上品に均一に噴霧し、自然乾燥させた後に、シガレットに巻き上げて、対照品2とした。
【0060】
官能評価は、サンプル1~3および対照品1,2について、20名のよく訓練されたパネリスト(経験年数10年以上)が試喫して香喫味を評価することにより行った。香喫味の評価は、サンプル1~3を対照品1,2とそれぞれ比べた際に、香り・味・くせが対照品1,2と比べて優れていると判定したパネリストの人数を集計することより行った。
【0061】
官能評価の結果を表1にまとめた。
【0062】
【0063】
表1に示すように、本発明品1~3を香喫味改善剤とするサンプル1~3は、対照品1,2に比べて、たばこの香喫味が改善されていることが確認できた。
【0064】
対照品1,2の比較から、従来知られているように、ネオフィタジエンは、たばこの香喫味改善効果を有することが確認できた。しかしながら、サンプル1,2および対照品1の比較から、1,3-フィタジエンは、ネオフィタジエンに比べて、たばこの香喫味改善効果が優れていることが確認できた。また、サンプル3および対照品1の比較から、2,4-フィタジエンは、ネオフィタジエンに比べて、たばこの香喫味改善効果が優れていることが確認できた。
【0065】
なお、サンプル1,2の比較から、1,3-フィタジエンにおいて、シストランス異性体間でのたばこの香喫味改善効果に差はみられなかった。1,3-フィタジエンは、2,4-フィタジエンよりもたばこの香喫味改善効果が高いことが確認できた。
【0066】
また、表1には示していないが、対照品2とサンプル1~3とを比較した際、サンプル1および2の方が、サンプル3よりも香喫味の改善が顕著であったと13名のパネリストが評価した。
【0067】
<実施例2-2>混合物での評価
実施例2-1と同様に、本発明品4~8のそれぞれを、市販シガレット用ブレンド刻上品に5ppm(0.0005質量%)添加となるように均一に噴霧し、自然乾燥させた後に、シガレットに巻き上げて、サンプル4~8とした。これらサンプル4~8について、実施例2-1と同様に、官能評価を行った。
【0068】
官能評価の結果を表2にまとめた。
【0069】
【0070】
表2に示すように、本発明品4~8を香喫味改善剤とするサンプル4~8は、対照品1,2に比べて、たばこの香喫味が改善されていることが確認できた。
【0071】
表1で説明したように、1,3-フィタジエンにおいて、シストランス異性体間でのたばこの香喫味改善効果に差はみられなかったが、表1のサンプル1,2と表2のサンプル8との比較より、トランス-1,3-フィタジエンとシス-1,3-フィタジエンとの両方を併用することにより、たばこの香喫味改善効果がわずかに増大することが確認できた。
【0072】
サンプル3,6,8の比較から、1,3-フィタジエンを単独で使用する場合および2,4-フィタジエンを単独で使用する場合に比べ、1,3-フィタジエンと2,4-フィタジエンとを併用することによりたばこの香喫味改善効果がさらに増大することが確認できた。
【0073】
サンプル7,8の比較から、1,3-フィタジエンを単独で使用する場合に比べ、1,3-フィタジエンとネオフィタジエンとを併用することによりたばこの香喫味改善効果がさらに増大することが確認できた。
【0074】
サンプル4~8の比較から、1,3-フィタジエン、ネオフィタジエンおよび2,4-フィタジエンを併用することにより、たばこの香喫味の改善効果が最も期待できることが確認できた。
【0075】
[実施例のまとめ]
以上の実施例により、本発明のたばこ用香喫味改善剤は、たばこの香喫味を十分に改善することができ、新規なたばこ用香喫味改善剤として有用である。