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特開2022-38384筆記具用水性インキ組成物、筆記具、および筆記具用カートリッジインキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038384
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物、筆記具、および筆記具用カートリッジインキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20220303BHJP
【FI】
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142867
(22)【出願日】2020-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】飛世 博愛
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB01
4J039BC07
4J039BC15
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA42
4J039GA26
4J039GA27
4J039GA28
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、耐ドライアップ性能、分散安定性、インキ貯蔵体内のインキ反転性、および耐ボタ落ち性に優れた筆記具用水性インキ組成物および、それを用いた筆記具を提供すること。
【解決手段】顔料と、αグルカンまたはαグルカン誘導体と、ポリオキシアルキレンアリールエーテルと、水とを含んでなる筆記具用水性インキ組成物と、それを収容する筆記具および筆記具用カートリッジインキ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、αグルカンまたはαグルカン誘導体と、ポリオキシアルキレンアリールエーテルと、水とを含んでなることを特徴とする、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記αグルカンまたはαグルカン誘導体が、α1,4-1,6グルカンまたはα1,4-1,6グルカン誘導体である、請求項1に記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記αグルカンまたはαグルカン誘導体の含有率が、前記インキ組成物の総質量を基準として0.001~1質量%である、請求項1または2に記載のインキ組成物。
【請求項4】
剪断速度380sec-1における粘度が50mPa・s以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のインキ組成物。
【請求項5】
樹脂分散剤をさらに含んでなり、前記顔料が前記樹脂分散剤により分散されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のインキ組成物。
【請求項6】
前記顔料が、有機顔料である請求項1~5のいずれか1項に記載のインキ組成物。
【請求項7】
前記ポリオキシアルキレンアリールエーテルが、下記式(II):
Ar-[O(RO)m1H]n1 (II)
(ここで、
Arは、ベンゼン骨格を2以上含むアリールであり、
は、炭素数1~4のアルキレンであり、
m1は、3~30の数であり、
n1は1~3の数であり、
式中に複数のRまたはm1が含まれるとき、それらは相互に同一であっても異なってもよい)
で表される、請求項1~6のいずれか1項に記載のインキ組成物。
【請求項8】
水溶性有機溶剤をさらに含んでなる、請求項1~7のいずれか1項に記載のインキ組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のインキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
【請求項10】
一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路とを有するペン芯を備えた、請求項9に記載の筆記具。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載のインキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具用カートリッジインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物、筆記具、および筆記具用カートリッジインキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インキ組成物によって筆跡を形成する筆記具は、ペン先から着色剤を含むインキ組成物を筆記対象に吐出させることで筆跡を形成する。インキ組成物は、基材表面を被覆する塗膜層を形成するような塗料組成物や、微小な液滴を射出して対象物に画像を形成させるインクジェット式などのプリンター用インキ組成物など、目的に応じて多種多様のものがある。しかし、筆記具用インキ組成物は、それらとは異なり、毛管現象などを利用して適切な量のインキ組成物を筆記対象に吐出させるための物性を備える必要がある。
【0003】
インキ組成物に含まれる着色剤は大別すると、染料と顔料とに分類することができて、目的に応じて選択される。染料はインキ組成物の均一性が高い傾向にあり、各種のインキ組成物に広く用いられている。しかしながら、一般的に染料は筆跡の耐水性や耐光性などの筆跡堅牢性が不足する傾向があり、改良が望まれている。一方、顔料は、筆跡堅牢性が高いがインキ組成物の分散安定性の観点で改良が必要である。特に、万年筆などに用いるインキ組成物は、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を介して毛細管現象によりペン先へインキを誘導することなどから、低粘度であることが求められる。このような低粘度のインキ組成物においては、特にインキ組成物の分散安定性の改良が望まれている。分散安定性の改良のためには、増粘剤などを用いてインキ組成物の粘度を増加させることが有効な場合が多いが、低粘度が求められるインキ組成物には増粘作用のある添加剤の組み合わせが困難である。
【0004】
また、インキ組成物には、上記した筆跡の耐水性や耐光性などの筆跡堅牢性や分散安定性のほか、筆跡濃度、耐ドライアップ性能(書き出し性能)、筆跡定着性、筆記品質(かすれ、滲み、裏抜けの少ない筆跡)、インキ貯蔵体内のインキ反転性、耐ボタ落ち性能なども求められる。
【0005】
着色剤として顔料を採用した場合、上記したように分散安定性が不十分となることがあり、それを改良するために様々な検討が行われている。しかしながら、従来の、顔料を用いた筆記具用インキ組成物においては、例えば耐ドライアップ性能などについては改良の余地がある。
【0006】
そこで、耐ドライアップ性能を改良するために、インキ中に、エチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコール溶剤、尿素または尿素誘導体などの各種保湿剤を添加し、耐ドライアップ性能を向上させたインキ組成物が提案されている。(特許文献1、2など)
【0007】
しかしながら、添加する保湿剤の種類やその添加量によっては、良好な耐ドライアップ性能が得られるものの、得られた筆跡に水滴が付着すると筆跡が滲んでしまい筆跡の視認が困難になってしまったりするなど筆跡耐水性に改良の余地があったり、また、筆記するために、ペン先上向き状態や横置き状態から、ペン先下向き状態にした場合に、インキ貯蔵体に収容されたインキ組成物がペン先方向へ流下されず元の位置に留まるなどして、ペン先にまでインキが十分に供給されなかったり、非筆記時でもペン先下向き状態にした場合にインキが垂れ落ちてしまったり、温度変化やキャップ着脱による筆記具内の圧力変化によって、インキがペン先から溢れ出してしまったりするなど、インキ貯蔵体内のインキ反転性、耐ボタ落ち性能などの観点で改良の余地があった。
【0008】
このため、各種の特性を劣化させることなく、優れた耐ドライアップ性能、分散安定性、インキ反転性、耐ボタ落ち性などに優れた、筆記具用水性インキ組成物および筆記具が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08-127446号公報
【特許文献2】特開2004-217730号公報
【特許文献3】特開昭61-247774号公報
【特許文献4】特開2016-069490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記のような課題を解決するもので、耐ドライアップ性能、および分散安定性に優れ、同時に、インキ貯蔵体内のインキ反転性や耐ボタ落ち性などの筆記具に好ましい特性を有する筆記具用水性インキ組成物、およびそれを用いた筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、顔料と、ポリオキシアルキレンアリールエーテルと、αグルカンまたはαグルカン誘導体と、水とを含んでなることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明による筆記具は、前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明による筆記具用カートリッジインキは、前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐ドライアップ性能および分散安定性に加えて、インキ貯蔵体内のインキ反転性や耐ボタ落ち性などの各種特性にも優れた筆記具用水性インキ組成物、およびそれを用いた筆記具が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有率とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0016】
<<筆記具用水性インキ組成物>>
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、簡単に「インキ組成物」ということがある)は、顔料と、αグルカンまたはαグルカン誘導体と、ポリオキシアルキレンアーリルエーテルと、水とを含んでなるものである。以下、本発明のインキ組成物における構成成分について、詳細に説明する。
【0017】
<顔料>
本発明によるインキ組成物は、着色剤として顔料を含む。用いることができる顔料としては、水性媒体に均一に分散可能であれば特に制限されるものではない。顔料は、有機顔料、および無機顔料に大別することができるが、いずれを用いることもできる。また、それらの顔料の表面に物理的または化学的な表面処理を施した加工顔料を用いることもできる。
【0018】
有機顔料としては、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、またはジオキサジン系などが挙げられる。また、無機顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、アルミニウムなどの金属顔料等が挙げられる。
また、顔料として、染料を溶媒に溶解させた液体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたマイクロカプセル顔料を用いてもよい。また、光を吸収して蛍光や燐光を放射する発光性顔料または蓄光性顔料であってもよい、さらには、顔料粒子が光を反射または散乱する光輝性顔料やパール顔料であってもよい。
【0019】
これらのうち、分散安定性の改良効果が大きいので有機顔料が好ましい。また、上記顔料を、単独又は2種以上組み合わせて使用することもできる。顔料の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~8質量% であることがより好ましく、0.1~5質量%であることが特に好ましい。顔料の含有量が上記数値範囲内であれば、水性インキの吐出性の低下を防止することができるとともに、良好な筆跡を得ることができる。
【0020】
また、分散安定性改良のために、顔料に樹脂分散剤を組み合わせたり、表面加工された加工顔料を用いることも好ましい。樹脂分散剤は有機顔料との親和性が高いので、有機顔料と樹脂分散剤とを組み合わせると、分散安定性の改良効果が大きくなるので好ましい。
【0021】
樹脂分散剤としては、非イオン性、アニオン性、またはカチオン性の樹脂分散剤が挙げられるが、そのいずれであってもよい。これらのうち、アニオン性樹脂分散剤は分散安定性に優れている傾向があり、好ましい。このようなアニオン性樹脂分散剤としては、ポリアクリル酸及びその誘導体、アクリル酸共重合体などが挙げられる。そのほか、非イオン性樹脂分散剤を用いることもできる。非イオン性樹脂分散剤としては、ポリビニルピロリドン及びその誘導体、ビニルピロリドン共重合体、などが挙げられる。これらの樹脂分散剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。樹脂分散剤を用いる場合には、含有量は、顔料の総質量を基準として、10~50質量%であることが好ましく、15~35質量%であることがより好ましい。
【0022】
一般的に、顔料は分散媒に分散された分散物の状態で市販されていることが多いことから、そのような分散物を用いることが便利である。本発明によるインキ組成物は、そのような分散物に由来する樹脂分散剤を含んでもよい。
【0023】
用いられる顔料の粒子径は制限されない。しかし、分散安定性、筆跡堅牢性、インキ吐出性、筆跡濃度などを高いレベルで維持するために、平均粒子径が20~1000nmであることが好ましく、50~500nmであることがより好ましく、80~200nmであることが特に好ましい。ここで、粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定したものである。
【0024】
<αグルカンまたはαグルカン誘導体>
本発明によるインキ組成物は、αグルカンまたはαグルカン誘導体(以下、簡単にαグルカン類ということがある)を含む。
【0025】
αグルカン類は、優れた保水力を有し、さらに造膜性を有するものである。このため、本発明において、インキ組成物がペン先に被膜を形成して、水分蒸発を抑制するために耐ドライアップ性能を向上させることができる。そして形成される被膜は、筆記時にかかる物理的応力で容易に破壊されるので、書き出しには、被膜が容易に破壊されて、筆跡の形成を阻害することがない。さらに、筆跡が形成された後は、筆跡に耐水性を付与して、筆跡堅牢性を改良することも可能である。
【0026】
αグルカンは、グルコースがα結合により多数連結した、例えば重量平均分子量5,000以上、好ましくは10,000以上の高分子であり、結合様式の違いにより、α1,3グルカン、α1,4グルカン、α1,6グルカン、α1,4-1,6グルカンなどに区別される。具体的には、α1,3グルカンとしてはムタン、α1,4グルカンとしてはアミロース、α1,6グルカンとしてはデキストラン、α1,4-1,6グルカンとしてはグリコーゲン、アミロペクチン、プルランなどが挙げられる。αグルカン誘導体は、上記αグルカンを化学的に修飾するなどして得られるものである。また、αグルカンにはデンプンを酵素等で分解した、相対的に分子量の小さいデキストリンも包含される。
【0027】
本発明に用いられるαグルカン類は、特に限定されるものではないが、本発明においては、α1,4-1,6グルカンまたはα1,4-1,6グルカン誘導体であることが好ましい。また、αグルカンは、重量平均分子量が5,000~500,000のものが好ましく、重量平均分子量が50,000~400,000のものがさらに好適である。ここで、本発明においては、αグルカン類はインキ組成物の品質安定性の観点から合成により形成されたものが好ましい。デンプンの分解により得られる、分子量の小さいデキストリンもαグルカン類に包含されるが、合成により得られたαグルカン類を用いることが好ましい。また、プルランおよびプルラン誘導体は、上記の各特性の改良効果が大きいので好ましい。
【0028】
プルランは、下記式(I)で示されるような、グルコースがα-1,4結合で3分子連なったマルトトリオースを構成単位とし、マルトトリオースがα-1,6結合を介して連結した構造を有する水溶性高分子多糖である。水に溶けやすく、人体に対して無毒、無刺激、無味、無臭の化合物である。プルランの由来や製造方法に制限はないが、通常、プルラン生産能を有する微生物を培養し、培養物からプルラン含有物を採取する方法が好適に用いられる。かかる微生物としては、オーレオバシディウム・プルランスが挙げられる。
【0029】
【化1】

式中、n1は整数を表す。
【0030】
プルラン誘導体は、前記プルランを化学的に修飾するなどして得られる、プルランから誘導される物質であれば限定されない。例えば、ジアルデヒドプルラン、アミノアルキル化プルラン、カルボキシル化プルラン、架橋プルラン、プルランの硫酸エステル誘導体、また、コレステロールプルランなどのプルラン-ステロール誘導体などが挙げられる。
【0031】
また、前記プルラン誘導体としては、プルラン-ステロール誘導体が好ましく、特には、プルランにコレステロールを化学結合に導入してなる化合物であるプルラン-コレステロール誘導体を用いることがより好ましい。これは、プルラン-コレステロール誘導体は、金属や合成樹脂などに吸着しやすく、ペン先に良好な被膜を形成しやすいためと考える。さらに、入手の容易性や化合物の経時安定性を考慮すると、プルラン-コレステロール誘導体は、プルランにコレステロールをヘキサメチレンジイソシアネートで付加した化合物であるヘキシルジカルバミン酸コレステリルプルラン(コレステロールプルラン)であることが好ましい。前記へキシルジカルバミン酸コレステリルプルランとしては、下記式(Ia)で示される化合物が挙げられる。
【0032】
【化2】

式中、naは整数を表す。
【0033】
よって、本発明においては、優れた耐ドライアップ性能と優れた筆跡定着性および筆跡耐水性が得られやすい、プルランまたは、ヘキシルジカルバミン酸コレステリルプルラン(コレステロールプルラン)が好適に用いられる。
【0034】
なお、プルランとしては、市販品の一例としては、例えば、株式会社林原製の医薬品級プルラン(商品名「日本薬局方プルラン」)、化粧品級プルラン(商品名「化粧品用プルラン」)及び食品添加物級プルラン(商品名「食品添加物プルラン」)などが挙げられ、好適に使用できる。
【0035】
また、コレステロールプルランを含んでなる市販品の一例としては、Meduseedsシリーズ(日油株式会社製)などが挙げられ、具体的には、Meduseeds-C1やMeduseeds-CPなどが挙げられる。なお、Meduseeds-CPは、へキシルジカルバミン酸コレステリルプルラン、水、ブチレングリコール、メチルパラベン、フェノキシエタノールを含む。
【0036】
本発明のインキ組成物におけるαグルカン類の含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.001~1質量%であることが好ましい。0.001質量%以上であれば、αグルカンまたはαグルカン誘導体の保水力と造膜能を十分に得て、優れた耐ドライアップ性能が得られやすく、1質量%以下であれば、インキ組成物中における溶解性が安定し、また、ペン先からの良好なインキ吐出性を維持し、良好な筆跡を残しやすい。さらに、0.005~0.5質量%であることがより好ましく、0.01~0.1質量%であることが特に好ましい。
【0037】
なお、αグルカン類は、2種以上を組み合わせた混合物として使用することも可能である。
【0038】
<ポリオキシアルキレンアリールエーテル>
本発明によるインキ組成物は、ポリオキシアルキレンアリールエーテルを含んでなる。一般的にポリオキシアルキレンアリールエーテルは界面活性剤としての効果を奏するものであり、優れた分散安定性を維持しながら、インキ組成物の表面張力を適正な範囲に調整できるとともに、インキ貯蔵体内面に対する濡れ性を適正に保つことができる。このため、インキ貯蔵体内におけるインキ反転性の改良に寄与することができ、優れたインキ反転性を得ることができる。さらに、ポリオキシアルキレンアリールエーテルは、ペン芯への濡れ性も適正に保つことができる。このため、インキ貯蔵体内からペン先へのインキ誘導性やペン芯のくし溝間におけるインキ貯留性が良化するため、ペン先からのインキ吐出性が良化し、カスレの少ない明瞭な筆跡を形成することが容易となるとともに、外気温の変化やキャップの着脱などによって、インキ貯蔵体の内圧が変化した場合でも、くし溝間にインキが保持され、ペン先からのインキ漏れが抑制でき、優れた耐ボタ落ち性能も得ることができる。
【0039】
ポリオキシアルキレンアリールエーテルは、アルキレンオキシドが重合した主鎖を有し、側鎖にアリール基を有するものである。主鎖には必要に応じてアリーレンが含まれていてもよい。本発明においてポリオキシアルキレンアリールエーテルは、下記式(II)で表されるものが好ましい。
Ar-[O(RO)m1H]n1 (II)
(ここで、
Arは、ベンゼン骨格を2以上含むアリールであり、
は、炭素数1~4のアルキレンであり、
m1は、3~30の数であり、
n1は1~3の数であり、
式中に複数のRまたはm1が含まれるとき、それらは相互に同一であっても異なってもよい)
【0040】
このようなポリオキシアルキレンアリールエーテルのうち、下記式(IIa)で表されるものが、インキ反転性や耐ボタ落ち性能が得られやすく、より好ましい。
【化3】
式中、
2aは、-CHCH-または-CH(CH)CH-であり、
2bは、炭素数1~3のアルキルであり、
m2は、5~20の数であり、
n2は、1~3の数であり、
2cは、炭素数1~3のアルキレンであり、
p2は0~3の数であり、
q2は1~3の数であり、
式中に、複数のR2a、R2b、R2c、m2、またはp2が含まれるとき、それらは相互に同一であっても異なってもよい)
【0041】
このようなポリオキシアルキレンアリールエーテルは、各種のものが市販されており、本発明においてはそれらから選択して用いることができる。具体的には、
ノイゲンEA-137(商品名、第一工業製薬株式会社製): R2a=-CHCH-、m2=14(平均値)、n2=1、R2c=-CH(CH)-、p2=0、q2=1~3、および
エマルゲンB-66(商品名、花王株式会社製): R2a=-CHCH-、m2=16(平均値)、n2=1、R2c=-CH-、p2=0、q2=3
が好ましく用いることができる。
【0042】
また、ポリオキシアルキレンアリールエーテルには、ノニオン性または、イオン性基を有するアニオン性またはカチオン性のものがあるが、ノニオン性ポリオキシアルキレンアリールエーテルを用いることが好ましい。これは、ノニオン性ポリオキシアルキレンアリールエーテルは、本発明による効果を損なうこと無く、さらに、ポリオキシアルキレンアリールエーテルの効果も十分に得ることができるため、分散安定性と耐ドライアップ性能、さらに、インキ反転性や耐ボタ落ち性能にも優れたインキ組成物を得ることができる。
【0043】
また、ノニオン性ポリオキシアルキレンアリールエーテルを用いる場合、HLB値が10~20であることが好ましく、10~15であることが好ましく、12~14であることが特に好ましい。HLB値が上記数値の範囲内であれば、ポリオキシアルキレンアリールエーテルが水性インキ中で安定に存在し、ポリオキシアルキレンアリールエーテルの効果がより一層得られやすいため、効果的である。
【0044】
なお、HLB値は、例えば、グリフィン法から算出されるものであってよく、一般式として、HLB=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量)から求めることができる。
【0045】
ポリオキシアルキレンアリールエーテルの含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.001~10質量% であることが好ましく、0.001~1質量%であることがより好ましく、0.01~0.5質量%であることがさらに好ましい。耐ドライアップ性能とインキ反転性をより一層バランス良く得ることを考慮すると、0.05~0.2質量%であることが好ましい。
【0046】
<水>
本発明によるインキ組成物は、水を含んでなる。用いられる水としては、特に制限はなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などが挙げられる。
【0047】
<その他の添加剤>
本発明のインキ組成物は、必要に応じて任意の添加剤を含むことができる。用いることができる添加剤について説明すると以下の通りである。
【0048】
<界面活性剤>
本発明によるインキ組成物は、本発明の効果を損なわない範囲でポリオキシアルキレンアリールエーテルとは異なる界面活性剤をさらに含むことができる。このような界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤やアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、またはフッ素系界面活性剤を挙げることができる。これらの界面活性剤は、インキ組成物の表面張力を適正な範囲に調整し、かつ、インキ貯蔵体内面やペン芯に対する濡れ性を適度に保つ効果がある。このため、インキ貯蔵体内のインキ反転性と耐ボタ落ち性をともに改良する効果が得られるとともに、優れたインキ吐出性を得ることができる。
【0049】
水性インキ組成物における界面活性剤の含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、0.001~1.0質量%であることが好ましく、0.01~0.5質量%であることがより好ましい。
【0050】
<水溶性有機溶剤>
本発明においては、水溶性有機溶剤を更に含んでなることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来の筆記具用水性インキ組成物用いられるものを使用することができる。
【0051】
例えば、(i)エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。これらを2種類以上組み合わせた混合物として使用することが可能である。
【0052】
本発明のインキ組成物に水溶性有機溶剤を用いる場合、多価アルコール溶剤を用いることが好ましい。これは、多価アルコール溶剤の吸湿効果をインキ組成物に付与することができ、耐ドライアップ性能が改良される傾向があるためである。これは、αグルカン類の被膜形成による蒸発抑制と、多価アルコール溶剤の吸湿効果による蒸発抑制の相乗効果により、ペン先からのインキ中の水分蒸発を効果的に抑制できると考えられる。よって、長期間、さらには乾燥状態が特に強い環境においてペン先が大気に晒された状態にあっても、書き出しからスムーズにインキが吐出され、カスレのない均一な筆跡を残すことができる。また、後述する出没式筆記具のような、特に、ペン先が乾燥し易い環境におかれる筆記具にも好適に用いることができる。
【0053】
また、前記多価アルコール溶剤の中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコールなどのアルキレングリコール、またはグリセリンが好ましい。これらは、吸湿効果を有するために、インキ組成物からの水分の蒸発を抑制する効果が大きく、優れた耐ドライアップ性能が得られるので好ましく用いられる。さらに、本発明においては、ペン先の水分が蒸発した際のインキ吐出性が優れ、良好な筆跡を得ることを考慮すると、グリセリンとアルキレングリコールを併用することが特に好ましい。これらを併用することによって、粘度の過度の上昇を抑制しながら適切な吸湿性を達成できるため、耐ドライアップ性能をより強く発現させることができる。
【0054】
前記水溶性有機溶剤を用いる場合、その含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1~40質量%であることが好ましい。また、耐ドライアップ性能、インキ反転性、耐ボタ落ち性などをバランス良く向上させることを考慮すると、0.5~40質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましく、2~7質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
また、本発明において、αグルカン類と、後述する保湿剤、例えば尿素と、水溶性有機溶剤とを併用することが効果的であり、特には、プルランと尿素と多価アルコール溶剤を併用することが、最も効果的である。保湿剤をさらに含んでなることで、ペン先のインキの乾燥時に、αグルカン類によって形成する皮膜の固化を和らげて、書き出し時からスムーズにペン先からインキが吐出され、より耐ドライアップ性能向上効果が得られるためである。前記尿素を用いる場合、その含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることが好ましい。
【0056】
また、優れた耐ドライアップ性能を得ながらも、滲みなどが抑制された良好な筆跡を得ることを考慮すると、インキ組成物中の水溶性有機溶剤および尿素の総含有量に対する、αグルカン類の含有量の比(αグルカン/(水溶性有機溶剤+尿素))が0.001~0.1であることが好ましく、0.002~0.05であることがより好ましい。
【0057】
<その他の着色剤>
本発明によるインキ組成物は、着色剤として顔料を含んでいるが、色彩調整などのために、必要に応じて、染料を含むこともできる。ただし、染料は一般に筆跡堅牢性を低下させる傾向があるので、染料を含まないことが好ましい。
【0058】
<pH調整剤>
本発明によるインキ組成物は、pH調整剤を含むことができる。pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられ、インキ組成物の経時安定性を考慮すれば、塩基性有機化合物を用いることが好ましく、より考慮すれば、弱塩基性であるトリエタノールアミンを用いることが好ましい。これらのpH調整剤は2種類以上を組み合わせた混合物として使用することもできる。
【0059】
インキ組成物のpH値は11以下であることが好ましい。これは、pH値が11以下であれば、αグルカン類が分解などを起こしにくく、高い経時安定性が得らやすいためである。また、インキ組成物の経時安定性、インキ組成物が接触する金属部材の腐食防止の観点から、pH値は6以上であることが好ましい。したがって、インキ組成物のpH値は、6~11であることがより好ましく、7~10であることがさらに好ましい。なお、本発明において、pH値は、HM-30R型pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。
【0060】
<抗菌性物質>
本発明によるインキ組成物は、抗菌性物質を含むことができる。抗菌性物質としては、フェノール、フェノキシエタノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、オルトフェニルフェノールまたはその塩などが挙げられ、フェノキシエタノール、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(以下、BITということがある)、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下、MITということがある)、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下、OITということがある)、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものがより好ましい。
【0061】
<防錆剤>
本発明によるインキ組成物は、防錆剤を含むことができる。防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0062】
<キレート剤>
本発明によるインキ組成物は、キレート剤を含むことができる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩などが挙げられる。
【0063】
<保湿剤>
本発明によるインキ組成物は、保湿剤を含むことができる。本発明において用いられるαグルカン類や多価アルコール溶剤も保湿効果を示すが、ここでいう保湿剤はそれ以外のものをさす。保湿剤としては、例えば、尿素、ソルビット、N,N,N-トリアルキルアミノ酸、またはヒアルロン酸類などが挙げられ、これらのうち、尿素を好適に用いることができる。
【0064】
<不溶性樹脂>
本発明によるインキ組成物は、水不溶性樹脂を含んでなることができる。ここで、水不溶性樹脂は、固体粒子または液滴の状態でインキ組成物中に含まれる。このような水不溶性樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性樹脂は、例えばエマルジョンの状態でインキ組成物に配合される。
<水溶性ポリエステル樹脂>
本発明によるインキ組成物は、水溶性ポリエステル樹脂をさらに含んでなることができる。水溶性ポリエステル樹脂は、αグルカン類によって形成される被膜の、耐ドライアップ性能、などをさらに向上させる作用を有する。
【0065】
本発明によるインキ組成物に用いることができる水溶性ポリエステル樹脂は、エステル結合をもつポリマーであれば、特に限定されない。しかし、各種特性の改良の観点から、ポリエステル樹脂は飽和共重合ポリエステル樹脂であることが好ましい。このような飽和共重合ポリエステル樹脂のうち、テレフタル酸を主成分とした飽和共重合ポリエステル樹脂がより好ましい。
本発明によるインキ組成物が水溶性ポリエステル樹脂を含む場合、その含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.001~5質量%であることが好ましい。この範囲内であると、上記した各特性の改良効果が期待できる。
【0066】
<消泡剤>
本発明によるインキ組成物は、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤をさらに含むことができる。
【0067】
<潤滑剤>
本発明によるインキ組成物は、脂肪酸などの潤滑剤をさらに含むことができる。なお、リン酸エステル系界面活性剤なども、潤滑剤としての機能を発揮することがあり、それを利用することもできる。
【0068】
<剪断減粘性付与剤>
本発明によるインキ組成物は、剪断減粘性付与剤を含むことができる。剪断減粘性付与剤は、インキ組成物に適当な粘性を与えて実用性を改善できることがある。本発明において、剪断減粘性付与剤は従来公知のものから適宜選択して用いることができる。その具体例としては、キサンタンガム、サクシノグリカン、またはカラギーナンなどの多糖類、およびポリアクリル酸、または架橋型ポリアクリル酸などのポリマーが挙げられる。また、会合性ウレタンなどの合成高分子非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤などを剪断減粘性付与剤として用いることもできる。これらの剪断減粘性付与剤は、2種類以上を組み合わせた混合物として使用することが可能である。
【0069】
<筆記具用インキ組成物の物性>
本発明によるインキ組成物は、相対的に粘度が低いことが好ましい。本発明によるインキ組成物は各種の添加剤を含み、一般的に増粘効果があると考えられている、αグルカン類、水溶性有機溶剤なども含んでいるが、その含有量が好適に調整することによって、剪断速度380sec-1において50mPa・s以下であるような低粘度、または剪断速度380sec-1において2mPa・s以下であるような超低粘度のインキ組成物とすることができる。このような粘度が低いインキ組成物は、後述するような、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備えた筆記具に用いた場合には、ペン芯の機能を十分に働かせ、優れたインキ吐出性を得ることができる。このため、本発明のインキ組成物は、前記ペン芯を備えた筆記具に好適に用いることができる。さらに、本発明のインキ組成物は、インキの分散安定性を維持しながらも、超低粘度インキに調整することが可能であることから、前記ペン芯を有した万年筆に、特に好適に用いることができる。
【0070】
また、本発明によるインキ組成物の表面張力は、20℃環境下において、35~60mN/mであることが好ましく、40~55mN/mであることがより好ましい。インキ組成物はこのような表面張力を有することで、重力、大気圧、衝撃等による運動エネルギーなどの外力に対する適度な抗力を有し、かつ、ペン芯などのインキ流量調節部材に対して適度な濡れ性を有することから、ペン先からのインキのボタ落ちを効果的に抑制することが可能となる。インキ組成物の表面張力は、ポリオキシアルキレンアリールエーテルの含有量などを調整することで、適切に調整することが可能である。
【0071】
<<インキ組成物の製造方法>>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、マグネットホットスターラー、プロペラ攪拌機、ホモジナイザー攪拌機、ホモディスパー、ホモミキサー、遊星式撹拌機などの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0072】
<<筆記具>>
本発明の筆記具用水性インキ組成物を充填する筆記具自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来から汎用のものが適用でき、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップをペン先としたマーキングペン(サインペン)や、ボールペンチップなどをペン先としたボールペン、さらに、金属製のペン先を用いた万年筆など、各種筆記具に用いることができる。
【0073】
筆記具のペン先の材質としては、ボールペンや万年筆では、超硬合金、ステンレス、金などの金属や炭化珪素のなどのセラミックスが例示でき、マーキングペン(サインペン)では、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルなどの合成樹脂が例示できる。
【0074】
本発明によるインキ組成物は、ステンレス、金メッキしたステンレス、14金、18金、22金などの金属に対し吸着しやすい傾向にある。このため、筆記具のインキ吐出部分が金属で形成されている場合、その表面で被膜を形成しやすく、また、その被膜は経時的にも維持されやすい。このため、本発明によるインキ組成物は、ペン先の材質が金属である筆記具に好適に用いることができ、優れた耐ドライアップ性能が得られる。
【0075】
万年筆は他の筆記具に比べ、ペン先が外気に晒されることが多く、ペン先のインキ組成物が乾燥しやすいので、特に耐ドライアップ性能が高いことが望ましい。本発明によるインキ組成物は、十分な耐ドライアップ耐性を有しているため、万年筆に用いることが特に好適である。
【0076】
また、本発明によるインキ組成物を用いることができる筆記具としては、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、インキ組成物を充填することのできるインキ貯蔵体を備えるものであってもよい。また、前記インキ貯蔵体が、筆記具本体やペン先などに着脱自在に交換可能な構造をもつカートリッジ式筆記具およびコンバーター式筆記具であってもよい。なお、コンバーター式筆記具としては、インキ瓶のようなインキ収容体から、インキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(インキ吸入器)を備えることのできる筆記具が挙げられる。
【0077】
なお、本発明によるインキ組成物を収容した筆記具用カートリッジインキは、インキ組成物が密閉された状態で保存されるため、水分蒸発による濃度変化がなく、また外気の影響が少ないために、経時保存性にも優れる。また、一般的に筆記具用カートリッジインキは、各筆記具に最適な形状を有するため、外気への接触が最低限に抑制され、また接続部分からの液漏れなども少ない。このため、本発明によるインキ組成物は密閉された筆記具用カートリッジインキに収容された状態で供給または頒布されることが好ましい。
【0078】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具は、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式筆記具や、ノック機構または回転機構、またはスライド機構を備えた、軸筒内にペン先を収容可能な出没式筆記具が挙げられる。本発明によるインキ組成物は、十分な耐ドライアップ性能を備えていることから、ペン先が乾燥しやすい条件に置かれていることが多い出没式筆記具に好適に用いることができる。
【0079】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具のインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(機構1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に誘導する機構、(機構2)一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する機構、(機構3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、および(機構4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
【0080】
前述の通り、本発明によるインキ組成物は、インキ組成物の分散安定性を十分に維持しながら、低粘度インキ組成物または超低粘度インキ組成物に調整することが可能なため、(機構1)、(機構2)、または(機構3)のインキ供給機構を備える筆記具に好適に用いることができる。
【0081】
また、本発明のインキ組成物は、前述の通り、(機構2)のペン芯に対する濡れ性も適正に保つことができるため、ペン先からのインキ吐出性が良化し、カスレの少ない明瞭な筆跡を形成することが容易となるとともに、外気温の変化やキャップの着脱などによって、インキ貯蔵体の内圧が変化した場合でも、くし溝間にインキが保持され、ペン先からのインキ漏れが抑制でき、優れた耐ボタ落ち性能も得ることができる。このため、本発明のインキ組成物は、特に、(機構2)を有する筆記具、すなわち、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備える筆記具に特に好適に用いることができる。
【0082】
また、本発明のように、着色剤として顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具とした場合は、インキが乾燥すると、筆記具の、ペン先やインキ貯蔵体(カートリッジ、コンバーター)などの筆記具部材に、インキ中の樹脂成分などによって固着することがある。このような場合、インキが固着したペン先の洗浄に筆記具用洗浄液を用いることが好ましい。筆記具用洗浄液を用いて固着したインキを十分に取り除くことで、筆記性への影響を低減することができること、洗浄後の筆記具に異なるインキ色を使用した場合には、混色を防ぐことが可能となるためである。
【0083】
筆記具用洗浄液として、インキの洗浄性、水への溶解性を考慮して、ノニオン系界面活性剤を含んでなる筆記具用洗浄液を用いることが好ましい。具体的には、界面活性剤のHLB値が4~15であることが好ましく、6~15であることがより好ましい。また、洗浄性を考慮すれば、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤を含んでなる筆記具用洗浄液を用いることが好ましい。
【0084】
特に、一時的にインキを貯留するくし溝とイン流通路と空気通路を有するペン芯という複雑な形状を有する部材を備える筆記具においても、固着したインキを筆記具用洗浄液を用いることで効果的に取り除くことが可能となる。
【0085】
また、筆記具用洗浄液は、フィルムやシートなどの包装体に収容して、筆記具用洗浄液包装体とすることが好ましいが、携帯性や簡便性の点で、1回の使用量をフィルムやシートの包装体に個別包装することが好ましく、さらに、水分蒸発などの長期保存性の向上を考慮すれば、金属材のフィルムで包装することが好ましい。また、筆記具用洗浄液包装体と、本発明のインキ組成物、該インキ組成物を収容してなる筆記具、または該インキ組成物を収容してなる筆記具用カートリッジインキを一緒にした、筆記具セットとして販売することが好ましい。具体的には、筆記具用洗浄液包装体は、インキ瓶などに収容されたインキ組成物や、万年筆、ボールペン、マーキングペン(サインペン)などの筆記具と一緒に筆記具セットとして販売することが好ましく、筆記具用洗浄液を採取するスポイトなどの吸入器、筆記具用洗浄液包装体、筆記具とを一緒にした、筆記具セットとして販売することがより好ましい。
【実施例0086】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0087】
<実施例101>
下記原材料をプロペラ撹拌により混合して、実施例101のインキ組成物を得た。
ジエチレングリコール:1.50質量%
グリセリン:0.33質量%
プルラン(株式会社林原製): 0.03質量%
ノイゲンEA-137(商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシアルキレンアリールエーテル): 0.10質量%
尿素: 1.00質量%
青色顔料分散体(顔料濃度18質量%、グリセリン含有量7質量%、アクリル樹脂分散剤含有量3.6質量%): 16.67質量%
プロキセルXL-2(商品名、ソー・ジャパン株式会社製、BIT10質量%): 0.20質量%
水: 残部
【0088】
<実施例102~105、比較例101>
原材料の種類および配合量を変更して、実施例102~105および比較例101のインキ組成物を得た。なお、実施例103においては、プルランに代えて、サンデック#30(商品名、三和澱粉工業株式会社製、デキストリン)を用いた。
【0089】
調製されたインキ組成物の組成は、表1に示した通りである。
【0090】
<試験および評価>
得られたインキ組成物を以下の方法で評価を行った。得られた結果は、表1に示した通りである。
【0091】
<耐ドライアップ性能>
金メッキしたステンレス製の字幅Mのペン先を有し、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備えたノック式のキャップレス万年筆(株式会社パイロットコーポレーション製)に、インキ組成物を充填したカートリッジインキを装着して万年筆を作製した。この万年筆をペン先を突出させた状態で20℃65%RHの条件下で放置し、その後、試験用紙に、文字「V」を繰り返し筆記して、かすれなく筆記できるようになった文字数を確認した。筆記試験は5回繰り返して、その平均値を評価結果とした。
A: 0文字 (直ちに筆記可能)
B: 1~5文字
C: 6~10文字
D: 11~19文字
E: 20文字以上
【0092】
<耐ボタ落ち性能>
金メッキしたステンレス製の字幅Mのペン先を有し、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備えたノック式のキャップレス万年筆(株式会社パイロットコーポレーション製)に、インキ組成物を充填したカートリッジインキを装着して万年筆を作製した。この万年筆を減圧下に静置して、インキの漏れ出しの有無を観察した。
A: 5分で70mmHgまで減圧し、5分静置してもインキ漏れ出しなし
B: 4分で60mmHgまで減圧してもインキ漏れ出しなし
C: 4分で60mmHgまで減圧するまでにインキ漏れ出しあり
【0093】
<インキ貯蔵体内のインキ反転性>
ポリメチルペンテン製のインキ吸入器(インキ吸入器内に前後方向に移動可能な樹脂製の移動体を配したもの)を開口部上向きの状態にして、インキ組成物を注入し、移動体がインキ組成物中に完全に浸漬された状態にし、このインキ吸入器を、一時的にインキを貯留するくし溝とイン流通路と空気通路を有するペン芯を備えた万年筆形態のペン先を有する筆記具(パイロットコーポレーション社製、万年筆、FKA-1SR-NCM)に、ペン先が上向きのまま装着した。この筆記具を試験用筆記具として10本用意し、ペン先上向き状態にある試験用筆記具を、ペン先を静かに下向き状態にした際、10秒以内にインキ組成物が、インキ貯蔵体内でペン先側に流下する様子を目視にて確認し、下記基準に従ってインキ貯蔵体内のインキ移動性能を評価した。
A:8本以上
B:6~7本
C:5本以下
【0094】
<粘度>
得られたインキ組成物の粘度をB型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社製、サンプル量20ml)により測定した。
【0095】
<表面張力>
得られたインキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、白金プレート、垂直平板法、協和界面科学株式会社製)により測定した。
【0096】
<pH>
pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃においてインキ組成物のpHを測定した。
【0097】
【表1】


*1: 青色顔料分散体由来
*2: 水および添加剤に由来する水溶性有機溶剤等
【0098】
<実施例201~205、比較例201~202>
実施例101に対して、界面活性剤の種類を変更して、インキ組成物を調製した。界面活性剤としては以下のものを用いた。
ノイゲンEA-137、ノイゲンEA-177(いずれも商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル)
エマルゲンB-66(商品名、花王株式会社製、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル)
エマルゲンA-60およびエマルゲンA-90(商品名、花王株式会社製、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル)
エパン450(商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー)
【0099】
また、上記界面活性剤のHLB値は下記の通りである。ノイゲンEA-137(HLB:13.0)、ノイゲンEA-177(HLB:15.6)、エマルゲンB-66(HLB:13.2)、エマルゲンA-60(HLB:12.8)、エマルゲンA-90(HLB:14.5)
【0100】
<試験および評価>
得られたインキ組成物について、耐ボタ落ち性能とインキ反転性については上記の方法で、分散安定性については、以下の方法で評価を行った。得られた結果は、表2に示した通りである。
【0101】
<分散安定性>
インキ組成物をガラス瓶中に封入し、50℃で12週間保存した後、表面近傍、および瓶の底部分のインキ組成物を採取し、顕微鏡にて異物の発生を目視評価した。
A: 異物無し
B: 凝集物などの異物が微量確認された
C: 凝集物などの異物が確認された
【0102】
【表2】
【0103】
以上の結果より、本発明によるインキ組成物は、耐ドライアップ性能、分散安定性、耐ボタ落ち性、インキ貯蔵体内のインキ反転性などの各特性に優れたものであり、また顔料を用いていることから筆跡の堅牢性にも優れたインキ組成物であることが明らかである。