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特開2022-38523デスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038523
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】デスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/216 20060101AFI20220303BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
A61K31/216
A61P29/00
A61K36/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020143086
(22)【出願日】2020-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】504447198
【氏名又は名称】二村 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】二村 芳弘
【テーマコード(参考)】
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C088AB38
4C088AC04
4C088BA32
4C088CA14
4C088CA17
4C088CA25
4C088MA02
4C088NA14
4C088ZB11
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA04
4C206DB20
4C206DB54
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB11
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】 デスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体及びその製造方法
【解決手段】デスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体は1分子のオルト-クマル酸、1分子のフェノール化合物及び1分子のプシコースより構成されている。分子式はC23H26O9であり、分子量は446.5である。その製造方法はムラサキシキブと金粉末を原料として乳酸桿菌で発酵させる工程からなる。デスモグレイン1増加作用を介した抗アレルギー作用や抗炎症作用を示し、炎症抑制や皮膚表皮細胞の増殖を目的とした化粧料に利用される。抗炎症剤の医薬品に利用される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で示されるデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体。
【化1】
【請求項2】
ムラサキシキブと金粉末を乳酸桿菌で発酵した発酵液を精製する工程よりなる式(1)で示される請求項1に記載のデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デスモグレイン1(Desmoglein1)は細胞接着作用を示すデスモゾームや細胞間隙に局在するタンパク質であり、カルシウムを結合することにより細胞を結合させている。たとえば、表皮細胞では表皮細胞の角質層を形成し、角質バリアとして外敵の侵入を防御している。また、炎症性細胞では炎症性分泌を抑制することにより抗炎症作用を発揮する。
【0003】
デスモグレイン1の減少は細胞接着の低下を引き起こし、表皮や角質の疾患と関係している。また、デスモグレイン1の減少は角質バリアの低下による細菌感染や免疫低下と関係し、表皮細胞の増殖も抑制される。
【0004】
デスモグレイン1に係る発明として例えば、角層剥離改善剤の発明があり、ここではデスモグレイン1及びデスモコリン1から選ばれる1種以上を分解する角層細胞間接着タンパク質分解促進剤が記載されている。しかし、皮膚のバリアや炎症抑制のための働きは明確ではなく、産業上の利用には至っていない(例えば、特許文献1参照)
【0005】
また、例えば、合成免疫受容体およびその使用方法の発明があり、ここではデスモグレイン1と免疫反応の関係が記載されているものの、化学物質による反応性であり、安全性に課題がある。(例えば、特許文献2参照)。このように疾患の治療または予防を目的としてデスモグレイン1が研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2018-111895
【特許文献2】特願2019-529518
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、既存の植物エキスによるデスモグレイン1の増加作用は著しく軽度であり、産業上への利用が限定されるという課題がある。一方、化学合成された物質は安全性に問題があり、また、環境に化学物質が流出して環境に悪影響を及ぼすことからその利用が限られている。
【0008】
そこで、副作用が弱く優れたデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈する天然由来の物質及びその製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は下記の式(1)で示されるデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体に関するものである。
【0010】
【化1】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項2に記載の発明は式(1)で示される請求項1に記載のデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
【0013】
請求項1に記載のオルト-クマル酸誘導体によれば、副作用が少ない、かつ、優れたデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈する天然由来の物質が得られる。
【0014】
請求項2に記載の製造方法によれば、効率良く、かつ、環境に悪影響を及ぼすことなく、天然物を原料としてデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体を製造する製造方法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
【0016】
デスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体とは以下の式(1)で示される構造からなる。
【0017】
【化2】
【0018】
ここに示したオルト-クマル酸誘導体は炎症性細胞に直接作用し、デスモグレイン1を増加させる。炎症性細胞におけるデスモグレイン1の増加は炎症性細胞の細胞間接着や炎症性細胞と免疫細胞との接触性を高める。細胞が強固になることにより、炎症性サイトカインやプロスタグランジン、ブラジキニンなどの炎症メディエーターの分泌を抑制する。さらに、炎症性酵素の漏出を防ぐことにより抗炎症作用を発揮する。さらに、皮膚では表皮細胞の細胞間接合を強固にすることにより、外敵の侵入を防御する。
【0019】
すなわち、ここで示すオルト-クマル酸誘導体はデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を発揮する他に、細胞膜の保護作用及び細胞増殖作用を発揮する。すなわち、デスモグレイン1増加は細胞膜のタンパク質結合を強固とし、細胞膜の刺激に対する抵抗性を高める。細胞膜の抵抗性が高いことは細胞の寿命が長くなることになる。また、細胞の分裂にも細胞膜が関与していることから、細胞の増殖にも適している。さらに、デスモグレイン1増加作用により細胞膜の受容体が安定化して細胞機能が亢進され、細胞の働きが高まる。
【0020】
このオルト-クマル酸誘導体は式(1)で示すように1分子のオルト-クマル酸、1分子のフェノール化合物及び1分子のプシコースより構成されている。分子式はC23H26O9であり、炭素23個、水素26個及び酸素9個から構成されている。分子量は446.5である。
【0021】
このオルト-クマル酸誘導体はオルト-クマル酸、フェノール化合物及びプシコースを原料として有機化学的に合成することができ、標準品として構造解析の目的で利用できる。また、ダイヤイオンHP-20(三菱化学(株)社製)及びXAD-2またはXAD-4(ロームアンドハース社製)、セファデックスLH-20(アマシャムファルマシア社製)、イオン交換担体IRA-410(ロームアンドハース社製)、逆相担体DM1020T(富士シリシア社製)により精製され、純度94%以上の精製品を得ることができる。
【0022】
このオルト-クマル酸誘導体の構造は核磁気共鳴装置(例えば、ブルカー製NMR)により、CDCL3中における1H-NMRと13C-NMRの解析を行うことにより解析される。この構造は400MHzの1H-NMR解析により、2.62、2.65、2.77、2.83、4.38、4.44、4.62、4.80、4.86、4.98、5.39、5.43、5.72、7.88及び8.18ppmにピークが認められる。
【0023】
さらに、CDCL3中400MHzの13C-NMRの解析により、9.9、10.5、39.1、63.7、72.6、75.1、77.7、79.0、81.7、89.2、105.5、111.7、113.6、115.9、118.9、131.1、134.9、155.9、156.2、158.6及び161.8ppmにピークが認められる。
【0024】
構成成分であるオルト-クマル酸は植物由来の物質で、オルト-クマル酸は不飽和結合を有し、ハーブや種子などに含有される天然の有機化合物である。このオルト-クマル酸誘導体は過剰量を摂取された際には生体内で分解され、排泄されることから安全性が高い。また、体内や環境中での蓄積性は認められず、環境への安全性も高い。
【0025】
ここで示したオルト-クマル酸誘導体はオルト-クマル酸のカルボキシル基とフェノール化合物の水酸基がエステル結合している。また、オルト-クマル酸の水酸基とプシコースの水酸基がエステル結合している。このような結合によりオルト-クマル酸誘導体は安定化する。オルト-クマル酸の不飽和結合部分には電子が豊富であり、このオルト-クマル酸誘導体を酸化から防止し、吸収率を高めて細胞に接触しやすくする。
【0026】
このオルト-クマル酸誘導体の光学的な差異による活性の違いはない。このオルト-クマル酸誘導体は細胞外では親水性と疎水性の両性を示して細胞膜に接触し、細胞膜を通過して細胞内に浸透する。
【0027】
オルト-クマル酸誘導体のデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用は炎症性細胞に接触して細胞膜を安定化し、炎症性物質であるサイトカイン類やプロスタグランジン類、炎症性酵素の分泌を抑制することに起因している。
【0028】
オルト-クマル酸、フェノール化合物及びプシコースはいずれも天然界に存在しており、安全性も確認されていることから、このオルト-クマル酸誘導体の安全性は高い。
【0029】
また、このオルト-クマル酸誘導体は脂肪に蓄積されることはなく、体内で濃縮されないことから蓄積性の毒性も少ない。さらに、環境に対しても蓄積性もなく、安全である。
【0030】
さらに、このオルト-クマル酸誘導体は皮膚や頭髪では皮膚上皮細胞や毛母細胞のデスモグレイン1増加作用を介して炎症を抑制し、一方、皮膚細胞や毛母細胞の増殖性を示す。また、細胞膜では細胞外マトリックスを増加させ、皮膚や頭皮を保護する。さらに、軽度な抗菌作用を示し、皮膚や頭皮の細菌感染やニキビなどの炎症反応を抑制する抗炎症反応を呈する。
【0031】
このオルト-クマル酸誘導体の製造方法としては有機化学的に合成する方法があり、その他に植物、野菜類、藻類や動物から抽出する方法、また、植物などを発酵して得ることが可能である。このうち、発酵法により植物から製造されることは安全性が高く、製造効率が高いことから好ましい。発酵に用いられる植物としてはオルト-クマル酸やオルト-クマル酸を含有している果実、種子、緑茶、緑豆などの豆類、ムラサキシキブの果実、ラベンダーなどのハーブ類、ベルガモットやミカンなどの柑橘類が適している。特に、オルト-クマル酸を豊富に含むムラサキシキブの果実や柑橘系種子が原料として好ましい。特に、ムラサキシキブは抗酸化作用のあるオルト-クマル酸含量が高いことから好ましい。
【0032】
このオルト-クマル酸誘導体の製造方法としてはムラサキシキブ(学名CALLICARPA JAPONICA)の果実と金粉末を乳酸桿菌で発酵させる工程であることから収率が高く、純度の高いオルト-クマル酸誘導体が得られることから好ましい。ムラサキシキブと金粉末を乳酸桿菌で発酵した発酵液を精製する工程よりなる製造方法により製造されるデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体として目的とするオルト-クマル酸誘導体を製造方法により限定することが可能である。
【0033】
また、ムラサキシキブの代替植物として、ウツボグサ(学名PRUNELLA VULGARIS)、エゾムラサキ(学名MYOSOTIS SYLVATICA)、オオシマザクラ(学名PRUNUS SPECIOSA)、オドリコソウ(学名LAMIUM ALBUM)、オニユリ(学名LILIUM TIGRINUM)、カワラヨモギ(学名ARTEMISIA CAPILLARIS)、ゲンノショウコ(学名GERANIUM THUNBERGII)コブシ(学名MAGNOLIA KOBUS)、サトザクラ(学名PRUNUS LANNESIANA)、シマカンギク(学名CHRYSANTHEMUM INDICUM)、スイカズラ(学名LONICERA JAPONICA)、スミレ(学名VIOLA MANDSHURICA)ソメイヨシノ(学名PRUNUS YEDOENSIS)、ツバキ(学名CAMELLIA JAPONICA)、ハマナス(学名ROSA RUGOSA)サクラソウ(学名PRIMULA SIKKIMENSIS)、ヤマザクラ(学名PRUNUS SERRULATA)、サイカチ(学名GLEDITSIA JAPONICA)、ヒシ(学名TRAPA JAPONICA)、マルキンカン(学名CITRUS JAPONICA)、オウレン(学名COPTIS JAPONICA)、カガミグサ(学名AMPELOPSIS JAPONICA)、カナムグラ(学名HUMULUS JAPONICUS)、クサボケ(学名CHAENOMELES JAPONICA)、コウホネ(学名NUPHAR JAPONICUM)、ササユリ(学名LILIUM JAPONICUM)、ジャノヒゲ(学名OPHIOPOGON JAPONICUS)、シラカンバ(学名BETULA PLATYPHYLLA)、スギ(学名CRYPTOMERIA JAPONICA)、センブリ(学名SWERTIA JAPONICA)、ツメレンゲ(学名OROSTACHYS JAPONICA)、トチバニンジン(学名PANAX JAPONICUS)、ネズミモチ(学名LIGUSTRUM JAPONICUM)、ネナシカズラ(学名CUSCUTA JAPONICA)、ハンノキ(学名ALNUS JAPONICA)、ヒキオコシ(学名ISODONIS JAPONICUS)、ヒトリシズカ(学名CHLORANTHUS JAPONICUS)、ヒノキバヤドリギ(学名KORTHALSELLA JAPONICA)、フキ(学名PETASITES JAPONICUS)、ボタンボウフウ(学名PEUCEDANUM JAPONICUM)、マゴジャクシ(学名GANODERMA NEO-JAPONICUM)、ヤブジラミ(学名TORILIS JAPONICA)、ヤマノシモ(学名DIOSCOREA JAPONICA)、ワサビ(学名WASABIA JAPONICA)の全草、種子、菌糸体や子実体が用いられる。いずれも天然物であり、安全性が高い点から好ましい。
【0034】
このデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体は医薬品として注射剤または経口剤または塗布剤などの非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、塗布剤、ゲル剤、歯磨き粉等に配合されて利用される。これらの製剤により抗炎症作用が抑制される。
【0035】
また、経口剤としては錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。前記の錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。
【0036】
さらに、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の素材を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を添加することができる。
【0037】
非経口剤としては、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。
【0038】
注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
【0039】
食品製剤として関節や風邪などの炎症を抑制する健康食品、美容を目的とした美容食品、美容を目的とした食品、ダイエット食品、神経細胞や筋肉細胞の維持を目的とした滋養強壮剤、毛髪の促進のための食品などに利用される。また、保健機能食品として、栄養機能食品や特定保健用食品に利用することは好ましい。
【0040】
得られた食品製剤をイヌやネコなどのペットや家畜動物に利用する場合、炎症を抑制するための関節炎対策を含む全身の健康を維持する目的として、飼料や動物用サプリメントとして利用される。
【0041】
化粧料として常法に従って界面活性化剤、溶剤、増粘剤、賦形剤等とともに用いることができる。例えば、クリーム、毛髪用ジェル、洗顔剤、美容液、化粧水等の形態とすることができ、炎症を抑制する化粧料となる。化粧料の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状または粉末状として用いることができる。特に、毛母細胞を増殖させ、育毛作用を期待した化粧料に利用される。
【0042】
また、植物活性化剤として植物細胞の細胞膜を強固にさせる機序により植物を元気にさせる用途にも使用できる。豆類、穀物、米類、根菜類や花にも使用でき、収穫高や品質を高め、植物の生育と寿命を高める。切り花の保持にも利用できる。
【0043】
次に、ムラサキシキブと金粉末を乳酸桿菌で発酵した発酵液を精製する工程よりなる製造方法により製造されるデスモグレイン1増加作用を介した抗炎症作用を呈するオルト-クマル酸誘導体の製造方法について述べる。目的とするオルト-クマル酸誘導体は式(1)で示される分子式C23H26O9からなる物質である。ここに示す製造方法は天然物のみを原料とする発酵法及び精製法による。この発酵法と精製法は化学合成による製造方法とは異なり、化学的な不純物ができにくく、安全性が高く、環境に悪い影響を及ぼさない。
【0044】
ムラサキシキブと金粉末を用いた発酵による製造方法では清浄な発酵タンクに日本産のムラサキシキブと金粉末に乳酸桿菌を添加し、発酵される。
【0045】
原料となるムラサキシキブ(学名CALLICARPA JAPONICA)は、日本産、中国産、アメリカ産、オーストラリア産などいずれの産地でも良いが、たとえば、有限会社養庄園(大阪)製のムラサキシキブは品質が高いことから好ましい。
【0046】
ムラサキシキブの果実は使用に際して、株式会社奈良機械製作所製の自由ミル、スーパー自由ミル、サンプルミル、ゴブリン、スーパークリーンミル、マイクロス、減圧乾燥機として東洋理工製の小型減圧乾燥機、株式会社マツイ製の小型減圧伝熱式乾燥機DPTH-40、エーキューエム九州テクノス株式会社製のクリーンドライVD-7、VD-20、中山技術研究所製DM-6などの粉砕機で粉砕される。この粉砕により発酵の工程が効率的に進行しやすいことから好ましい。さらに、金粉末は日本産が好ましい。堀金箔粉株式会社の金粉末、たとえば、食用黄金箔、24K、純度99.99は品質が高いことから好ましい。
【0047】
用いる乳酸桿菌は学名Lactobacillusの細菌であり、通常の発酵に利用される有用菌であり、真正類、ラクトバチルス科に属す。形状が桿状で、胞子を形成せずに、主として乳酸を発酵する。いくつかの亜種があるが、ラクトバチルス カゼイの発酵力が安定している。
【0048】
この乳酸桿菌は安全性が高く、使用経験が豊富である。特に、活性が高い東亜薬品工業株式会社製のLC菌末トーアカゼイ菌は好ましい。また、発酵の反応性が高く、使用しやすい点から好ましい。
【0049】
前記の発酵に関するそれぞれの添加量は、ムラサキシキブ果実1重量に対し、金粉末は0.001~0.01重量、乳酸桿菌0.001~0.05重量が好ましい。乳酸桿菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
【0050】
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
【0051】
また、この発酵は、34~40℃に加温され、発酵は3日間から10日間行われる。
【0052】
発酵後、90℃程度の加温により乳酸桿菌が死滅し、発酵が停止される。この発酵の工程によって目的とするオルト-クマル酸誘導体が製造される。
【0053】
前記の発酵により生成された発酵物は含水エタノールで抽出されることは、生成物を効率良く回収でき、次の工程が実施しやすいことから、好ましい。また、得られた発酵物を超音波破砕処理することは、生成物が分離しやすいことから、好ましい。また、凍結乾燥などにより、濃縮することは、以下の工程が短時間に実施できることから好ましい。
【0054】
前記の発酵物を分離し、精製することは純度の高い物質として摂取量を減少させることができる点から好ましい。この精製の方法としては、分離用の樹脂などの精製操作を利用することが好ましい。
【0055】
例えば、分離用担体または樹脂により分離され、分取されることは好ましい。分離用担体または樹脂としては、表面が後述のようにコーティングされた、多孔性の多糖類、酸化珪素化合物、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン-ビニルベンゼン共重合体等が用いられる。0.1~300μmの粒度を有するものが好ましく、粒度が細かい程、精度の高い分離が行なわれるが、分離時間が長い欠点がある。
【0056】
例えば、逆相担体または樹脂として表面が疎水性化合物でコーティングされたものは、疎水性の高い物質の分離に利用される。陽イオン物質でコーティングされたものは陰イオン性に荷電した物質の分離に適している。また、陰イオン物質でコーティングされたものは陽イオン性に荷電した物質の分離に適している。特異的な抗体をコーティングした場合には、特異的な物質のみを分離するアフィニティ担体または樹脂として利用される。
【0057】
アフィニティ担体または樹脂は、抗原抗体反応を利用して抗原の特異的な調製に利用される。分配性担体または樹脂は、シリカゲル(メルク社製)等のように、物質と分離用溶媒の間の分配係数に差異がある場合、それらの物質の単離に利用される。
【0058】
これらのうち、製造コストを低減することができる点から、吸着性担体または樹脂、分配性担体または樹脂、分子篩用担体または樹脂及びイオン交換担体または樹脂が好ましい。さらに、分離用溶媒に対して分配係数の差異が大きい点から、逆相担体または樹脂及び分配性担体または樹脂はより好ましい。
【0059】
分離用溶媒として有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒に耐性を有する担体または樹脂が用いられる。また、医薬品製造または食品製造に利用される担体または樹脂は好ましい。
【0060】
これらの点から吸着性担体としてダイヤイオン(HP-20型またはHP21型、三菱化学(株)社製)及びXAD-2またはXAD-4(ロームアンドハース社製)、分子篩用担体としてセファデックスLH-20(アマシャムファルマシア社製)、分配用担体としてシリカゲル、イオン交換担体としてIRA-410(ロームアンドハース社製)、逆相担体としてDM1020T(富士シリシア社製)がより好ましい。
【0061】
これらのうち、ダイヤイオンHP-20型、セファデックスLH-20及びDM1020Tはさらに好ましい。
【0062】
得られた抽出物は、分離前に分離用担体または樹脂を膨潤化させるための溶媒に溶解される。その量は、分離効率の点から抽出物の重量に対して1~35倍量が好ましく、4~25倍量がより好ましい。分離の温度としては物質の安定性の点から4~30℃が好ましく、10~25℃がより好ましい。
【0063】
分離用溶媒には、水、または、水を含有する低級アルコール、親水性溶媒、親油性溶媒が用いられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが用いられるが、食用として利用されているエタノールが好ましい。
【0064】
セファデックスLH-20を用いる場合、分離用溶媒には低級アルコールが好ましい。シリカゲルを用いる場合、分離用溶媒にはクロロホルム、メタノール、酢酸またはそれらの混合液が好ましい。
【0065】
ダイヤイオンHP-20型及びDM1020Tを用いる場合、分離用溶媒はメタノール、エタノール等の低級アルコールまたは低級アルコールと水の混合液が好ましい。
【0066】
また、活性を含む画分を採取して乾燥または真空乾燥により溶媒を除去し、粉末または濃縮液として得ることは溶媒による影響を除外できることから、好ましい。
【0067】
また、最終抽出を食用油や化粧料に用いる油脂で実施することは、得られる活性部分が油の中で安定に維持することから好ましい。例えば、大豆油、米ぬか油、グレープシード油、オリーブ油、ホホバ油で抽出することは好ましい。
【0068】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。なお、これらは一例であり、素材、原料や検体の違いに応じて常識の範囲内で条件を変更させることが可能である。
【実施例0069】
大阪府内で栽培されたムラサキシキブの果実1kgを有限会社養庄園(大阪府)より購入して用いた。この500gをミキサーで攪拌した。
【0070】
得られたムラサキシキブの粉砕物を清浄な発酵タンク(大脇エンジニア製、150kg容量)に入れた。
【0071】
これに水道水8Lに懸濁した。このムラサキシキブの懸濁液をオートクレーブ(トミー精巧製、SR-240)に入れて121℃で滅菌した。
【0072】
これとは別に東亜薬品工業株式会社製のLC菌末トーア カゼイ菌を滅菌水に懸濁して35℃で1日間発酵させて前培養液とした。
【0073】
ムラサキシキブの懸濁液9kgに堀金箔粉株式会社から購入した金粉末(食用黄金箔、24K金粉末、金99.99%含有)1gを添加した。ここに前培養液10gを添加して36℃から38℃の発酵タンクで4日間発酵させた。発酵の程度はオルト-クマル酸誘導体の分析、気泡の発生及び発酵液の色の変化などで観察した。発酵後、発酵液を95~96℃の加温槽に入れて20分間加温し、滅菌した。これを冷却後、ろ過し、ろ液として7.3kgを得た。これをオルト-クマル酸誘導体含有エキスとした。これを冷暗所にて保管した。
【0074】
前述のオルト-クマル酸誘導体含有エキスの5kgに7%エタノール含有精製水2Lを添加した。これを濾紙により濾過し、濾液をダイヤイオンHP-20型(三菱化学製)200gを7%エタノール液に懸濁・充填したカラムに供した。
【0075】
これに3Lの13%エタノール液を添加して清浄した。さらに、25%エタノール液を2L添加して洗浄した。この後、69%エタノールを供して目的とするオルト-クマル酸誘導体を溶出させた。ここで精製されたオルト-クマル酸誘導体は減圧蒸留により、エタノール部分を除去し、水溶液とした。この水溶液をさらに上記方法により精製した。この精製工程を合計3回繰り返し、99.5%の純度を示すオルト-クマル酸誘導体を得てこれを検体1とした。なお、この検体1はHPLCによる分析で単一ピークを呈した。
【0076】
以下にオルト-クマル酸誘導体の同定試験について説明する。
(試験例1)
【0077】
上記のように得られた実施例1のオルト-クマル酸誘導体である検体1を含水エタノールに溶解し、高速液体クロマトグラフィ(HPLC、島津製作所)で分析した。さらに、CDCL3中で核磁気共鳴装置(NMR、ブルカー製)にて解析した。
【0078】
その結果、CDCL3中における400MHzの1H-NMR解析により、2.62、2.65、2.77、2.83、4.38、4.44、4.62、4.80、4.86、4.98、5.39、5.43、5.72、7.88及び8.18ppmにピークが認められた。
【0079】
さらに、CDCL3中400MHzの13C-NMRの解析により、9.9、10.5、39.1、63.7、72.6、75.1、77.7、79.0、81.7、89.2、105.5、111.7、113.6、115.9、118.9、131.1、134.9、155.9、156.2、158.6及び161.8ppmにピークが認められた。
【0080】
以下に、13C-NMRの解析結果のチャートを示した。(横軸単位はppm、縦軸単位はピーク強度を示す。)
【0081】
つまり、実施例1の検体1は有機化学的に合成し精製された標準品と同一の分析結果を示した。目的とするオルト-クマル酸誘導体と同定された。すなわち、1分子のオルト-クマル酸、1分子のフェノール化合物及び1分子のプシコースより構成されていた。
【0082】
以下に、ヒトリンパ単核細胞を用いた抗炎症性の確認試験について述べる。
(試験例2)
【0083】
タカラバイオ株式会社より購入したヒトリンパ単核細胞(HLyMC)を用いた。培養液としては専用の培養液を購入して用いた。予め培養した1000個の細胞を35mm培養シャーレに播種し、5%炭酸ガス下、37℃で培養した。これにリンパ球刺激剤としてインターロイキン-6(コスモバイオ製)を10ng添加した。精製水を用いる溶媒対照群、前記の実施例1で得られた検体1または陽性対照として抗ヒスタミン剤であるエピナスチン塩酸塩を用いた。これらを10mg/mlの最終濃度で添加した。さらに、これを48時間培養した。培養上清を採取してヒスタミン量をヒスタミン測定キット(キッコーマン製、チェックカラー ヒスタミン)を用いて定量した。また、培養上清に含有される炎症性サイトカインの測定としてIL-1α及びTNFα量をELISA法により定量した。IL-1αの測定には、ケイマンケミカル製(輸入元funakoshi)の定量キット及びTNFαの測定にはプロテインテック製(輸入元コスモバイオ)の定量キットを用いた。なお、シャーレは5枚を用いてその平均値を算出して評価した。
【0084】
その結果、検体1の10mg/mlの添加によりヒスタミン量は溶媒対照群の値に比して平均値として42%に減少した。また、対照とした抗ヒスタミン剤であるエピナスチン塩酸塩の添加ではヒスタミン量は対照群に比して53%となった。検体1はエピナスチン塩酸塩よりも優れたヒスタミン抑制作用を示した。この結果から、検体1の抗ヒスタミン作用が確認された。
【0085】
さらに、IL-1α量は溶媒対照群の値に比して平均値として55%に減少した。また、対照とした抗ヒスタミン剤であるエピナスチン塩酸塩の添加ではIL-1α量は対照群に比して79%となった。TNFα量は溶媒対照群の値に比して平均値として52%に減少した。また、対照とした抗ヒスタミン剤であるエピナスチン塩酸塩の添加ではTNFα量は対照群に比して80%となった。このように炎症性サイトカインの著しい減少が認められた。
【0086】
また、前記の検体処理した細胞を懸濁し、超音波破砕機により分散し、遠心分離機により細胞懸濁液を採取した。この細胞液に含まれるデスモグレイン1量をELISA法(MBL製、製品番号7880)により定量した。すなわち、抗デスモグレイン1抗体をコートした48孔マイクロプレートに細胞懸濁液を添加し、洗浄後、HRP標識した二次抗体を添加し、発色して定量した。
【0087】
その結果、検体1を添加したヒトリンパ単核細胞のデスモグレイン1量は溶媒対照群の値に比して平均値として238%に増加した。また、対照とした抗ヒスタミン剤であるエピナスチン塩酸塩添加のデスモグレイン1量は溶媒対照群の値に比して平均値として103%であった。
【0088】
この結果から、検体1はヒトリンパ単核細胞のデスモグレイン1量を増加させることにより、ヒスタミンや炎症性サイトカインの抑制として現れる抗炎症作用を発揮したと考えられる。
【0089】
以下に、ヒト皮膚由来表皮細胞を用いたケラチン産生の確認試験について述べる。
(試験例4)
【0090】
ヒト皮膚表皮細胞(ヒトケラチノサイト、ZEN―BIO製)をコスモバイオ社より購入して用いた。専用の培養液(ZEN―BIO製、KM-2)を用いて37℃、5%炭酸ガス下で培養した。増殖期にある細胞をトリプシン含有培地にて剥離した。まず、生細胞数をトリパンブルー色素排除法により顕微鏡下で計数した。
【0091】
細胞数を1mLあたり1000個に調整して5mLずつ培養シャーレに播種してさらに、37℃、5%炭酸ガス下で培養した。これを紫外線照射装置(ロックタイト、出力88MH)により紫外線を照射して細胞にダメージを与えた。照射はシャーレの蓋を外して1時間実施した。
【0092】
この紫外線照射により表皮細胞が障害を受け、この障害に対する回復を試験した。なお、この方法は皮膚領域において試験物質の評価に実施される方法である。
【0093】
ここに試験物質として検体1及び対照物質としてヒトEGF(フナコシ製)をいずれも生理食塩液に懸濁し、希釈して最終濃度で0.1mg/mLになるように添加した。
【0094】
なお、溶媒対照として生理食塩液を用いた。これを37℃で3日間培養して生細胞数を顕微鏡下で計数した。さらに、細胞を精製水に分散して超音波破砕機により細胞分散液を得た。この細胞分散液中に含まれるケラチン量をELISA法(コスモ・バイオ株式会社)により定量した。さらに、この細胞分散液に含まれるデスモグレイン1量をELISA法(MBL製、製品番号7880)により定量した。
【0095】
その結果、溶媒対照の細胞数を100%として検体1の添加により表皮細胞数は233%に増加した。一方、EGF添加群では188%となり。検体1の方が表皮細胞の増殖に優れていた。
【0096】
ケラチン量については溶媒対照の値を100%として検体1の添加によりケラチン量は311%に増加した。一方、EGF添加群ではケラチン量は190%となり、検体1の方がケラチン産生に優れていた。また、この細胞分散液に含まれるデスモグレイン1量は溶媒対照の値を100%として検体1の添加によりデスモグレイン1量は277%に増加した。一方、EGF添加群のデスモグレイン1量は110%となった。検体1の添加によりデスモグレイン1量の増加が認められた。
【0097】
一方、安全性試験の一環として人工皮膚であるEpiSkin(SkinEthic社製)を用いた皮膚刺激性実験では、検体1の添加により刺激性は認められず、安全性が確認された。なお、この安全性試験法は細胞を用いる皮膚刺激性試験評価法として動物を使用しない代替法試験法として確立されている。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明で得られるオルト-クマル酸誘導体は抗炎症作用を示し、かつ、副作用が少ないことから、国民のQOLを改善し、健康な労働人口を増加させ、かつ、医療費を削減できる。また、発明で得られるオルト-クマル酸誘導体は食品としても利用でき、アレルギーや種々の炎症対策の点で食品業界の発展に寄与する。また、皮膚細胞の増殖が認められるため、化粧料として化粧品産業に寄与するものである。