(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038820
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】大口径ズームレンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 15/20 20060101AFI20220303BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
G02B15/20
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020143494
(22)【出願日】2020-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000131326
【氏名又は名称】株式会社シグマ
(72)【発明者】
【氏名】村上 仁
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA02
2H087KA03
2H087MA15
2H087NA14
2H087NA17
2H087PA11
2H087PA13
2H087PA14
2H087PA16
2H087PA19
2H087PA20
2H087PB15
2H087PB17
2H087QA02
2H087QA03
2H087QA07
2H087QA17
2H087QA19
2H087QA21
2H087QA25
2H087QA32
2H087QA34
2H087QA39
2H087QA41
2H087QA42
2H087QA45
2H087QA46
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA36
2H087RA44
2H087SA43
2H087SA47
2H087SA49
2H087SA53
2H087SA55
2H087SA62
2H087SA63
2H087SA64
2H087SA65
2H087SA76
2H087SB04
2H087SB15
2H087SB16
2H087SB27
2H087SB32
2H087UA06
(57)【要約】
【課題】デジタルカメラやビデオ用のレンズに好適な、諸収差が良好に補正された、迅速なフォーカス動作が可能な、小型の大口径ズームレンズを提供する。
【解決手段】物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群L1と、負の屈折力を有する第2レンズ群L2と、開口絞りSと、正の屈折力を有する第3レンズ群L3と、負の屈折力を有する第4レンズ群L4と、正の屈折力を有する第5レンズ群L5からなり、ズーミングに際して各レンズ群の間隔が変化し、且つ第5レンズ群L5が不動であり、第4レンズ群L4が光軸方向に移動することでフォーカシングを行い、所定の条件式を満足させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群L1と、負の屈折力を有する第2レンズ群L2と、開口絞りSと、正の屈折力を有する第3レンズ群L3と、負の屈折力を有する第4レンズ群L4と、正の屈折力を有する第5レンズ群L5からなり、
ズーミングに際して前記各レンズ群の間隔が変化し、且つ前記第5レンズ群L5が不動であり、
前記第4レンズ群L4が光軸方向に移動することでフォーカシングを行い、
以下の条件式を満足することを特徴とする大口径ズームレンズ。
(1) 0.90<f1/fT<2.25
(2) 2.90<|f1/f2|<6.00
(3) 13.0<LTw*FnoT/Ymax<20.0
ここで、
fT:望遠端における全系の無限遠状態での焦点距離
f1:第1レンズ群L1の焦点距離
f2:第2レンズ群L2の焦点距離
LTw:広角端における光学全長
FnoT:望遠端における無限遠状態でのF値
Ymax:最大像高
【請求項2】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の大口径ズームレンズ。
(4) 0.35<|f3/f4|<0.74
ここで、
f3:第3レンズ群L3の焦点距離
f4:第4レンズ群L4の焦点距離
【請求項3】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の大口径ズームレンズ。
(5) 0.011<ΔPgF3p_ave
ここで、
ΔPgF3p_ave:第3レンズ群L3に含まれる正レンズの異常分散性の平均値
ΔPgF3pi=PgF3pi-0.64833+0.00180×νd3pi
ΔPgF3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズの異常分散性
PgF3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズのg線、F線間における部分分散比
νd3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズのアッベ数
【請求項4】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の大口径ズームレンズ。
(6) 0.55<Ymax/BF
ここで、
BF:バックフォーカス
【請求項5】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の大口径ズームレンズ。
(7) 0.45<|f4/fT|<1.10
ここで、
f4:第4レンズ群L4の焦点距離
【請求項6】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の大口径ズームレンズ。
(8) 1.00<|βT5^2*(1-βT4^2)|<3.70
ここで、
βT4:第4レンズ群L4の望遠端における無限遠状態での横倍率
βT5:第5レンズ群L5の望遠端における無限遠状態での横倍率
【請求項7】
前記第4レンズ群L4が1枚の負レンズからなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の大口径ズームレンズ。
【請求項8】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の大口径ズームレンズ。
(9) 25.8<νd2n-νd2p
ここで、
νd2n:第2レンズ群L2に含まれる負レンズのアッベ数の平均値
νd2p:第2レンズ群L2に含まれる正レンズのアッベ数の平均値
【請求項9】
前記第1レンズ群L1が1枚の負レンズと1枚の正レンズを含み、以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の大口径ズームレンズ。
(10) 1.70<Nd1
(11) 31.0<νd1p-νd1n
ここで、
Nd1:第1レンズ群L1に含まれるレンズの屈折率の平均値
νd1p:第1レンズ群L1に含まれる正レンズのアッベ数の平均値
νd1n:第1レンズ群L1に含まれる負レンズのアッベ数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置に用いられる結像光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置が普及している。
【0003】
その中で、結像光学系と撮像素子の間にファインダー光学系へ光線を導くためのミラーを有するものが広く知られている。しかし近年、そのミラー部分を取り除き、結像光学系と撮像素子の間隔を短くした撮像装置がある。
【0004】
その中で、撮像素子は大型のものを使用しつつ撮像装置は小型化させたものが普及している。小型化された撮像装置に対して、結像光学系も小型化が要求されている。
【0005】
また撮像素子の画素小型化に伴い、結像光学系に高い性能が要求されている。
【0006】
また撮影機会を逃さないための迅速なフォーカス駆動が要求されている。
【0007】
またF値が小さな明るい結像光学系への要求がある。明るい光学系を使用することで、暗い場所でも短いシャッタースピードで撮影が可能となる。また浅い被写界深度を活かした表現が可能となる。
【0008】
一方、大型の撮像素子で、F値が小さくなると、結像光学系内を通過する光線高が大きくなり、フォーカス群の径が大きくなるためフォーカス群の重量が大きくなる。そのため、フォーカス群を軽量化するための配置、構成が重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-001349号公報
【特許文献2】特開2018-197774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ポジティブリード型のズームレンズは全系の小型化を図りつつ、大口径比化を図ることが比較的容易である。その中でフォーカス群を小型軽量にし、かつ諸収差を良好に補正するためには、フォーカスレンズ群の選定や、各群の屈折力を適切に配置することが重要になってくる。
【0011】
特許文献1では、フォーカス群の軽量なズームレンズが開示されている。
【0012】
しかし、上述した光学系では望遠端でのF値が5.6程度と暗いという問題がある。
【0013】
特許文献2では、望遠端でのF値が2.8程度の明るいズームレンズが開示されている。
【0014】
しかし、上述した光学系ではフォーカス群の枚数が多く重量が大きいという問題がある。フォーカス群の重量が大きいと、速度が低下するだけでなく、作動させるためのアクチュエータも大型化するため、小型軽量化には不向きである。
【0015】
本発明は、上記課題に対し、ポジティブリード型のズームレンズをベースになされたものであり、デジタルカメラやビデオ用のレンズに好適な、諸収差が良好に補正された、迅速なフォーカス動作が可能な、小型の大口径ズームレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の大口径ズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群L1と、負の屈折力を有する第2レンズ群L2と、開口絞りSと、正の屈折力を有する第3レンズ群L3と、負の屈折力を有する第4レンズ群L4と、正の屈折力を有する第5レンズ群L5からなり、ズーミングに際して各レンズ群の間隔が変化し、且つ第5レンズ群L5が不動であり、第4レンズ群L4が光軸方向に移動することでフォーカシングを行い、以下の条件式を満足することを特徴とする。
(1) 0.90<f1/fT<2.25
(2) 2.90<|f1/f2|<6.00
(3) 13.0<LTw*FnoT/Ymax<20.0
ここで、
fT:望遠端における全系の無限遠状態での焦点距離
f1:第1レンズ群L1の焦点距離
f2:第2レンズ群L2の焦点距離
LTw:広角端における光学全長
FnoT:望遠端における無限遠状態でのF値
Ymax:最大像高
【0017】
また、第2の発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(4) 0.35<|f3/f4|<0.74
ここで、
f3:第3レンズ群L3の焦点距離
f4:第4レンズ群L4の焦点距離
【0018】
また、第3の発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(5) 0.011<ΔPgF3p_ave
ここで、
ΔPgF3p_ave:第3レンズ群L3に含まれる正レンズの異常分散性の平均値
ΔPgF3pi=PgF3pi-0.64833+0.00180×νd3pi
ΔPgF3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズの異常分散性
PgF3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズのg線、F線間における部分分散比
νd3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズのアッベ数
【0019】
また、第4の発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(6) 0.55<Ymax/BF
ここで、
BF:バックフォーカス
【0020】
また、第5の発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(7) 0.45<|f4/fT|<1.10
ここで、
f4:第4レンズ群L4の焦点距離
【0021】
また、第6の発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(8) 1.00<|βT5^2*(1-βT4^2)|<3.70
ここで、
βT4:第4レンズ群L4の望遠端における無限遠状態での横倍率
βT5:第5レンズ群L5の望遠端における無限遠状態での横倍率
【0022】
また、第7の発明の大口径ズームレンズは、さらに第4レンズ群L4が1枚の負レンズからなることを特徴とする。
【0023】
また、第8の発明は、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする大口径ズームレンズである。
(9) 25.8<νd2n-νd2p
ここで、
νd2n:第2レンズ群L2に含まれる負レンズのアッベ数の平均値
νd2p:第2レンズ群L2に含まれる正レンズのアッベ数の平均値
【0024】
また、第9の発明の大口径ズームレンズは、さらに第1レンズ群L1が1枚の負レンズと1枚の正レンズを含み、以下の条件式を満足することを特徴とする。
(10) 1.70<Nd1
(11) 31.0<νd1p-νd1n
ここで、
Nd1:第1レンズ群L1に含まれるレンズの屈折率の平均値
νd1p:第1レンズ群L1に含まれる正レンズのアッベ数の平均値
νd1n:第1レンズ群L1に含まれる負レンズのアッベ数
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、諸収差が良好に補正され、迅速なフォーカス駆動が可能な、デジタルカメラやビデオ用の小型の大口径ズームレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の大口径ズームレンズの実施例1に係るレンズ構成図である。
【
図2】本発明の大口径ズームレンズの実施例2に係るレンズ構成図である。
【
図3】本発明の大口径ズームレンズの実施例3に係るレンズ構成図である。
【
図4】本発明の大口径ズームレンズの実施例4に係るレンズ構成図である。
【
図5】実施例1の大口径ズームレンズの広角端無限遠状態での縦収差図である。
【
図6】実施例1の大口径ズームレンズの広角端撮影距離659mmでの縦収差図である。
【
図7】実施例1の大口径ズームレンズのズーム中間域無限遠状態での縦収差図である。
【
図8】実施例1の大口径ズームレンズのズーム中間域撮影距離980mmでの縦収差図である。
【
図9】実施例1の大口径ズームレンズの望遠端無限遠状態での縦収差図である。
【
図10】実施例1の大口径ズームレンズの望遠端撮影距離1441mmでの縦収差図である。
【
図11】実施例1の大口径ズームレンズの広角端無限遠状態での横収差図である。
【
図12】実施例1の大口径ズームレンズの広角端撮影距離659mmでの横収差図である。
【
図13】実施例1の大口径ズームレンズのズーム中間域無限遠状態での横収差図である。
【
図14】実施例1の大口径ズームレンズのズーム中間域撮影距離980mmでの横収差図である。
【
図15】実施例1の大口径ズームレンズの望遠端無限遠状態での横収差図である。
【
図16】実施例1の大口径ズームレンズの望遠端撮影距離1441mmでの横収差図である。
【
図17】実施例2の大口径ズームレンズの広角端無限遠状態での縦収差図である。
【
図18】実施例2の大口径ズームレンズの広角端撮影距離672mmでの縦収差図である。
【
図19】実施例2の大口径ズームレンズのズーム中間域無限遠状態での縦収差図である。
【
図20】実施例2の大口径ズームレンズのズーム中間域撮影距離992mmでの縦収差図である。
【
図21】実施例2の大口径ズームレンズの望遠端無限遠状態での縦収差図である。
【
図22】実施例2の大口径ズームレンズの望遠端撮影距離1439mmでの縦収差図である。
【
図23】実施例2の大口径ズームレンズの広角端無限遠状態での横収差図である。
【
図24】実施例2の大口径ズームレンズの広角端撮影距離672mmでの横収差図である。
【
図25】実施例2の大口径ズームレンズのズーム中間域無限遠状態での横収差図である。
【
図26】実施例2の大口径ズームレンズのズーム中間域撮影距離992mmでの横収差図である。
【
図27】実施例2の大口径ズームレンズの望遠端無限遠状態での横収差図である。
【
図28】実施例2の大口径ズームレンズの望遠端撮影距離1439mmでの横収差図である。
【
図29】実施例3の大口径ズームレンズの広角端無限遠状態での縦収差図である。
【
図30】実施例3の大口径ズームレンズの広角端撮影距離663mmでの縦収差図である。
【
図31】実施例3の大口径ズームレンズのズーム中間域無限遠状態での縦収差図である。
【
図32】実施例3の大口径ズームレンズのズーム中間域撮影距離985mmでの縦収差図である。
【
図33】実施例3の大口径ズームレンズの望遠端無限遠状態での縦収差図である。
【
図34】実施例3の大口径ズームレンズの望遠端撮影距離1428mmでの縦収差図である。
【
図35】実施例3の大口径ズームレンズの広角端無限遠状態での横収差図である。
【
図36】実施例3の大口径ズームレンズの広角端撮影距離663mmでの横収差図である。
【
図37】実施例3の大口径ズームレンズのズーム中間域無限遠状態での横収差図である。
【
図38】実施例3の大口径ズームレンズのズーム中間域撮影距離985mmでの横収差図である。
【
図39】実施例3の大口径ズームレンズの望遠端無限遠状態での横収差図である。
【
図40】実施例3の大口径ズームレンズの望遠端撮影距離1428mmでの横収差図である。
【
図41】実施例4の大口径ズームレンズの広角端無限遠状態での縦収差図である。
【
図42】実施例4の大口径ズームレンズの広角端撮影距離453mmでの縦収差図である。
【
図43】実施例4の大口径ズームレンズのズーム中間域無限遠状態での縦収差図である。
【
図44】実施例4の大口径ズームレンズのズーム中間域撮影距離677mmでの縦収差図である。
【
図45】実施例4の大口径ズームレンズの望遠端無限遠状態での縦収差図である。
【
図46】実施例4の大口径ズームレンズの望遠端撮影距離1037mmでの縦収差図である。
【
図47】実施例4の大口径ズームレンズの広角端無限遠状態での横収差図である。
【
図48】実施例4の大口径ズームレンズの広角端撮影距離453mmでの横収差図である。
【
図49】実施例4の大口径ズームレンズのズーム中間域無限遠状態での横収差図である。
【
図50】実施例4の大口径ズームレンズのズーム中間域撮影距離677mmでの横収差図である。
【
図51】実施例4の大口径ズームレンズの望遠端無限遠状態での横収差図である。
【
図52】実施例4の大口径ズームレンズの望遠端撮影距離1037mmでの横収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の大口径ズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群L1と、負の屈折力を有する第2レンズ群L2と、開口絞りSと、正の屈折力を有する第3レンズ群L3と、負の屈折力を有する第4レンズ群L4と、正の屈折力を有する第5レンズ群L5からなり、ズーミングに際して各レンズ群の間隔が変化し、且つ第5レンズ群L5が不動であり、第4レンズ群L4が光軸方向に移動することでフォーカシングを行い、以下の条件式を満足することを特徴とする。
(1) 0.90<f1/fT<2.25
(2) 2.90<|f1/f2|<6.00
(3) 13.0<LTw*FnoT/Ymax<20.0
ここで、
fT:望遠端における全系の無限遠状態での焦点距離
f1:第1レンズ群L1の焦点距離
f2:第2レンズ群L2の焦点距離
LTw:広角端における光学全長
FnoT:望遠端における無限遠状態でのF値
Ymax:最大像高
【0028】
条件式(1)は、第1レンズ群L1と望遠端での全系の焦点距離の比を規定することにより、コンパクト化と諸収差の補正を両立させている。
【0029】
条件式(1)の上限を超え、第1レンズ群L1の屈折力が弱くなると、第1レンズ群L1での光線収斂作用が小さくなるため第2レンズ群L2に入射する光線高さが大きくなり、光学系の大型化を招く。
【0030】
条件式(1)の下限を超え、第1レンズ群L1の屈折力が強くなると、第1レンズ群L1で発生する非点収差を抑えるのが困難となる。
【0031】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(1)の上限を2.05、下限を1.05とすることが好ましい。
【0032】
条件式(2)は、第1レンズ群L1と第2レンズ群L2の焦点距離の比を規定することにより、コンパクト化と諸収差の補正を両立させている。
【0033】
条件式(2)の上限を超え、第1レンズ群L1の屈折力が弱くなると、上述したように第2レンズ群L2に入射する光線高さが大きくなり、光学系の大型化を招く。または、第2レンズ群L2の屈折力が強くなると、第2レンズ群L2で発生する望遠端でのコマ収差や広角端での非点収差を抑えるのが困難となる。
【0034】
条件式(2)の下限を超え、第1レンズ群L1の屈折力が強くなると、上述したように第1レンズ群L1で発生する非点収差を抑えるのが困難となる。または、第2レンズ群L2の屈折力弱くなると、ズーミングにおける第2レンズ群L2の移動量が大きくなり、全長の大型化を招く。
【0035】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(2)の上限を5.40、下限を3.40とすることが好ましい。
【0036】
条件式(3)は、広角端における光学全長と、望遠端におけるF値と、最大像高の比を規定することにより、コンパクト化と諸収差の補正を両立させている。ここで光学全長とは、最も物体側の面から像面までの光軸上の距離である。
【0037】
一般に、光学系のF値が小さくなるほど、光学系内を通過する軸上光線が高くなる。また、最大像高が大きくなるほど、最も物体側もしくは最も像面側に近い群を通過する軸外光線が高くなる。これは条件式(3)のうちFnoT/Ymaxの成分が小さくなることに相当する。このような状況で諸収差を補正するには、光学系の全長を大きくして、光学系内の各面への入射光線を緩くすることが有効であるが、コンパクト化と両立させるためには、望遠端のF値と最大像高に応じて全長を適切に設定する必要がある。
【0038】
条件式(3)の上限を超え、広角端の光学全長が望遠端のF値と最大像高の比に対して大きくなると、全系で発生する諸収差は抑えやすくなるが、光学系の全長が大きくなる。または、望遠端のF値が大きくなり明るい光学系を達成するのが困難となる。
【0039】
条件式(3)の下限を超え、広角端の光学全長が望遠端のF値と最大像高の比に対して小さくなると、全長は小さく抑えられるが、光学系内での光線の曲がり方が大きくなるため各群で発生する収差が増大し、主にズーミング時の非点収差や望遠端での球面収差やコマ収差などの変動を良好に補正することが困難となる。
【0040】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(3)の上限を19.0、下限を14.0とすることが好ましい。
【0041】
開口絞りSを第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の間に配置することで、光線高を小さくすることができ、径方向の小型化に有利となる。また開口絞りSは、第3レンズ群L3の先頭面に配置され共に移動することで、機構が簡略化でき小型化しやすくなるため好ましい。
【0042】
第5レンズ群L5をズーミング時に固定とすることで、防塵機構や防滴機構を複雑化することなく設けることが可能となる。
【0043】
また、本発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(4) 0.35<|f3/f4|<0.74
ここで、
f3:第3レンズ群L3の焦点距離
f4:第4レンズ群L4の焦点距離
【0044】
条件式(4)は、第3レンズ群L3と第4レンズ群L4の焦点距離の比を規定することにより、諸収差の補正を両立させている。
【0045】
条件式(4)の上限を超え、第3レンズ群L3の屈折力が弱くなると、第3レンズ群L3から射出される光線の収斂が弱くなり、第4レンズ群L4の径が大きくなるためフォーカス群の小型軽量化が困難となる。または。第4レンズ群L4の屈折力が強くなると、非点収差を補正するのが困難となる。また、第4レンズ群の偏芯敏感度が大きくなるため好ましくない。
【0046】
条件式(4)の下限を超え、第3レンズ群L3の屈折力が強くなると、望遠端における球面収差やコマ収差を良好に補正するのが困難となる。または、第4レンズ群L4の屈折力が弱くなると、第4レンズ群L4のフォーカス時の移動距離が大きくなるため、光学系の全長を小さくすることが困難となる、または最短撮影距離が大きくなる。
【0047】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(4)の上限を0.68、下限を0.39とすることが好ましい。
【0048】
また、本発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(5) 0.011<ΔPgF3p_ave
ここで、
ΔPgF3p_ave:第3レンズ群L3に含まれる正レンズの異常分散性の平均値
ΔPgF3pi=PgF3pi-0.64833+0.00180×νd3pi
ΔPgF3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズの異常分散性
PgF3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズのg線、F線間における部分分散比
νd3pi:第3レンズ群L3に含まれるi番目の正レンズのアッベ数
【0049】
条件式(5)は、第3レンズ群L3に含まれる正レンズの異常分散性を規定することにより、軸上色収差および倍率色収差の補正を適切に行うものである。
【0050】
条件式(5)の下限を超え、第3レンズ群L3の正レンズの異常分散性が小さくなると、2次スペクトルの補正が不足し、ズーミング時の軸上色収差や倍率色収差の変動を抑えるのが困難となる。
【0051】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(5)の下限を0.015とすることが好ましい。
【0052】
また、本発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(6) 0.55<Ymax/BF
ここで、
BF:バックフォーカス
【0053】
条件式(6)は最大像高とバックフォーカスの比を規定したものである。ここでバックフォーカスとは第5レンズ群の最も像面側から像面までの光軸上の空気換算長である。バックフォーカスを適切に設定することにより、全系のコンパクト化が可能となる。
【0054】
条件式(6)の下限を超え、バックフォーカスが大きくなると、全長が大きくなり好ましくない。
【0055】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(6)の下限を0.60とすることが好ましい。
【0056】
また、本発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(7) 0.45<|f4/fT|<1.10
ここで、
f4:第4レンズ群L4の焦点距離
【0057】
条件式(7)は、第4レンズ群L4と望遠端での全系の焦点距離の比を規定することにより、コンパクト化と諸収差の補正を両立させている。
【0058】
条件式(7)の上限を超え、第4レンズ群L4の屈折力が弱くなると、第4レンズ群L4のフォーカス時の移動距離が大きくなるため、光学系の全長を小さくすることが困難となる。
【0059】
条件式(7)の下限を超え、第4レンズ群L4の屈折力が強くなると、第4レンズ群L4で発生する非点収差を抑えるのが困難となり、フォーカス時の収差変動が大きくなる。また、第4レンズ群L4が偏芯した際の収差変動量も大きくなり、好ましくない。
【0060】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(7)の上限を0.95、下限を0.57とすることが好ましい。
【0061】
また、本発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(8) 1.00<|βT5^2*(1-βT4^2)|<3.70
ここで、
βT4:第4レンズ群L4の望遠端における無限遠状態での横倍率
βT5:第5レンズ群L5の望遠端における無限遠状態での横倍率
【0062】
条件式(8)は第4レンズ群L4の像面敏感度を規定したものである。
【0063】
条件式(8)の上限を超え、像面敏感度の絶対値が大きくなると、第4レンズ群L4の移動量に対する像面変動量が大きくなるため、フォーカス制御が困難となる。また第4レンズ群L4の偏芯敏感度を抑制するのが困難となる。
【0064】
条件式(8)の下限を超え、像面敏感度の絶対値が小さくなると、第4レンズ群L4の移動量に対する像面変動量が小さくなるため、第4レンズ群L4のフォーカス時の移動量が増加して小型化が困難となる。または最短撮影距離を小さくすることが困難となる。
【0065】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(8)の上限を3.40、下限を1.40とすることが好ましい。
【0066】
また、本発明の大口径ズームレンズは、さらに第4レンズ群L4が1枚の負レンズからなることを特徴とする。
【0067】
第4レンズ群L4を1枚のレンズで構成することで、軽量化を図ることができ、フォーカシング時の迅速な動作が可能になる。
【0068】
また、本発明の大口径ズームレンズは、さらに以下の条件式を満足することを特徴とする。
(9) 25.8<νd2n-νd2p
ここで、
νd2n:第2レンズ群L2に含まれる負レンズのアッベ数の平均値
νd2p:第2レンズ群L2に含まれる正レンズのアッベ数の平均値
【0069】
条件式(9)は、第2レンズ群L2に含まれる負レンズのアッベ数の平均値と正レンズのアッベ数の平均値の差分を規定することにより、軸上色収差および倍率色収差の補正を適切に行うものである。第2レンズ群L2は光学系の中で大きな変倍作用を担っているため、第2レンズ群L2で発生する色収差を抑えることで、ズーミング時の色収差変動を効果的に抑えることが可能となる。
【0070】
第2レンズ群L2の中で色消しを行うためには、第2レンズ群L2内で使用される正レンズと負レンズのアッベ数の差を大きくすることが有効である。または第2レンズ群L2内で使用される正レンズまたは負レンズの屈折力を大きくすることでも色消しを行うことができるが、この場合、広角端での非点収差や望遠端でのコマ収差が大きくなるため、好ましくない。
【0071】
条件式(9)の下限を超え、第2レンズ群L2の負レンズと正レンズの平均のアッベ数の差が小さくなると、第2レンズ群L2での軸上色収差および倍率色収差の補正が不足し、ズーミングによる色収差の変動が大きくなり好ましくない。
【0072】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(9)の下限を27.0とすることが好ましい。
【0073】
また、本発明の大口径ズームレンズは、さらに第1レンズ群L1が1枚の負レンズと1枚の正レンズを含み、以下の条件式を満足することを特徴とする。
(10) 1.70<Nd1
(11) 31.0<νd1p-νd1n
ここで、
Nd1:第1レンズ群L1に含まれるレンズの屈折率の平均値
νd1p:第1レンズ群L1に含まれる正レンズのアッベ数の平均値
νd1n:第1レンズ群L1に含まれる負レンズのアッベ数
【0074】
第1レンズ群L1では、ズーミング時の球面収差、コマ収差、歪曲収差の変動が大きい。これらの収差をズーム全域で小さく抑えるためには、屈折率の高いレンズを使用して曲率を緩くすることが有効である。また負レンズと正レンズのアッベ数差を大きく取り第1レンズ群L1での色消しを行うことで、ズーム全域での軸上色収差や倍率色収差を小さく抑えることが可能となる。
【0075】
条件式(10)の下限を超え、第1レンズ群L1に使用されるレンズの屈折率の平均値が小さくなると、各面の曲率が大きくなるため非点収差や歪曲収差を補正するのが困難となる。
【0076】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(10)の下限を1.741.73とすることが好ましい。
【0077】
条件式(11)の下限を超え、第1レンズ群L1の正レンズのアッベ数の平均値と負レンズのアッベ数の差分が小さくなると、第1レンズ群L1での色消しが不十分となり、特に倍率色収差の補正が困難となる。
【0078】
本発明の効果をさらに確実にするためには、条件式(11)の下限を33.0とすることが好ましい。
【0079】
次に、本発明の大口径ズームレンズに係る実施例のレンズ構成について説明する。なお、以下の説明ではレンズ構成を物体側から像側の順番で記載する。
【実施例0080】
図1は、本発明の実施例1の大口径ズームレンズのレンズ構成図である。
【0081】
実施例1は、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群L1と、負の屈折力を有する第2レンズ群L2と、開口絞りSと、正の屈折力を有する第3レンズ群L3と、負の屈折力を有する第4レンズ群L4と、正の屈折力を有する第5レンズ群L5からなる。また広角端から望遠端への変倍の際に、第1レンズ群L1と第2レンズ群L2の間隔が大きくなり、第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の間隔が小さくなり、第3レンズ群L3と第4レンズ群L4の間隔が大きくなり、第4レンズ群L4と第5レンズ群L5の間隔が大きくなり、第5レンズ群L5は不動である。またフォーカシングの際に、第4レンズ群L4が光軸方向に移動する。
【0082】
第1レンズ群L1は、物体側から順に、両凹レンズと両凸レンズの接合レンズ、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズからなる。
【0083】
第2レンズ群L2は、物体側から順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、像面側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる。
【0084】
第3レンズ群L3は、物体側から順に、両凸レンズ、両凹レンズと両凸レンズの接合レンズ、像面側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズ、両凸レンズからなる。
【0085】
第4レンズ群L4は、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる。
【0086】
第5レンズ群L5は、像面側に凸面を向けた正メニスカスレンズからなる。
実施例2は、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群L1と、負の屈折力を有する第2レンズ群L2と、開口絞りSと、正の屈折力を有する第3レンズ群L3と、負の屈折力を有する第4レンズ群L4と、正の屈折力を有する第5レンズ群L5からなる。また広角端から望遠端への変倍の際に、第1レンズ群L1と第2レンズ群L2の間隔が大きくなり、第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の間隔が小さくなり、第3レンズ群L3と第4レンズ群L4の間隔が大きくなり、第4レンズ群L4と第5レンズ群L5の間隔が大きくなり、第5レンズ群L5は不動である。またフォーカシングの際に、第4レンズ群L4が光軸方向に移動する。
第2レンズ群L2は、物体側から順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、両凹レンズと両凸レンズの接合レンズ、像面側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる。
第3レンズ群L3は、物体側から順に、両凸レンズ、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズと両凸レンズの接合レンズ、両凹レンズと両凸レンズの接合レンズ、両凸レンズからなる。