(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038872
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】脈波特定装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
A61B5/02 310H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020143573
(22)【出願日】2020-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】304020498
【氏名又は名称】サクサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】望月 規之
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA10
4C017AC27
4C017AC28
4C017BC17
4C017FF05
(57)【要約】
【課題】センサのサンプリング周期で決まる分解能よりも高い分解能で脈拍の周期を容易に測定できるようにする。
【解決手段】脈拍を示す信号をサンプリングした脈波データを取得するデータ取得部と、脈波データのサンプリング値のうち、振幅値が極大となる基準サンプリング値を含む連続した2つのサンプリング値を通る第1直線と、2つのサンプリング値以外の基準サンプリング値と連続する1つのサンプリング値を通り、第1直線の傾きの正負が反転している傾きを有する第2直線との交差位置を、脈波データのピークのタイミングとして特定するピーク特定部と、ピーク特定部が特定した複数のピークの間隔に基づいて、脈拍の周期又は周波数を特定する脈拍特定部と、を有する脈波特定装置を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈拍を示す信号をサンプリングした脈波データを取得するデータ取得部と、
前記脈波データのサンプリング値のうち、振幅値が極大となる基準サンプリング値を含む連続した2つのサンプリング値を通る第1直線と、前記2つのサンプリング値以外の前記基準サンプリング値と連続する1つのサンプリング値を通り、前記第1直線の傾きの正負が反転している傾きを有する第2直線との交差位置を、前記脈波データのピークのタイミングとして特定するピーク特定部と、
前記ピーク特定部が特定した複数の前記ピークの間隔に基づいて、前記脈拍の周期又は周波数を特定する脈拍特定部と、
を有する脈波特定装置。
【請求項2】
前記ピーク特定部は、前記第1直線と前記第2直線との前記交差位置の振幅値が、前記基準サンプリング値の振幅値よりも大きくなった場合に、前記交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定する、請求項1に記載の脈波特定装置。
【請求項3】
前記ピーク特定部は、
前記基準サンプリング値と前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値とを通る前記第1直線と、前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値を通る前記第2直線とが交差する第1交差位置と、
前記基準サンプリング値と前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値とを通る前記第1直線と、前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値を通る前記第2直線とが交差する第2交差位置と
のうち、振幅値が大きい方の交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定する、請求項1または2に記載の脈波特定装置。
【請求項4】
前記ピーク特定部は、前記第1直線の傾きの絶対値が所定の範囲の値となった場合に、前記交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の脈波特定装置。
【請求項5】
前記データ取得部は、前記脈波データのサンプリング周波数よりも高い予備測定周波数で前記脈波データをサンプリングした予備測定サンプリング値を取得し、
前記ピーク特定部は、複数の前記予備測定サンプリング値のうち、振幅値が極大となるサンプリング値を含む複数の前記予備測定サンプリング値に基づき、前記所定の範囲を定める、
請求項4に記載の脈波特定装置。
【請求項6】
前記ピーク特定部は、
前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値の振幅値が、前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値の振幅値よりも大きい場合、前記基準サンプリング値と前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値とを通る前記第1直線と、前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値を通る前記第2直線とが交差する第1交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定し、
前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値の振幅値が、前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値の振幅値よりも小さい場合、前記基準サンプリング値と前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値とを通る前記第1直線と、前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値を通る前記第2直線とが交差する第2交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定する、
請求項1または2に記載の脈波特定装置。
【請求項7】
コンピュータにより実行されると、前記コンピュータを請求項1から6のいずれか一項に記載の前記脈波特定装置として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波特定装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体に取り付けられたセンサ等から脈拍を示す電気信号を取得して解析することにより、生体の状態等を推定する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。例えば、被験者の脈拍の周期に基づいて、被験者の自律神経を解析できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような生体の状態の推定は、センサのサンプリング周期をより高くすることで脈拍の周期の測定誤差を低減させて精度を向上できる。しかしながら、センサのサンプリング周期をより高くすると、センサの消費電力、コスト、回路規模等が大きくなってしまうという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、センサのサンプリング周期で決まる分解能よりも高い分解能で脈拍の周期を容易に測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、脈拍を示す信号をサンプリングした脈波データを取得するデータ取得部と、前記脈波データのサンプリング値のうち、振幅値が極大となる基準サンプリング値を含む連続した2つのサンプリング値を通る第1直線と、前記2つのサンプリング値以外の前記基準サンプリング値と連続する1つのサンプリング値を通り、前記第1直線の傾きの正負が反転している傾きを有する第2直線との交差位置を、前記脈波データのピークのタイミングとして特定するピーク特定部と、前記ピーク特定部が特定した複数の前記ピークの間隔に基づいて、前記脈拍の周期又は周波数を特定する脈拍特定部と、を有する脈波特定装置を提供する。
【0007】
前記ピーク特定部は、前記第1直線と前記第2直線との前記交差位置の振幅値が、前記基準サンプリング値の振幅値よりも大きくなった場合に、前記交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定してもよい。
【0008】
前記ピーク特定部は、前記基準サンプリング値と前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値とを通る前記第1直線と、前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値を通る前記第2直線とが交差する第1交差位置と、前記基準サンプリング値と前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値とを通る前記第1直線と、前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値を通る前記第2直線とが交差する第2交差位置とのうち、振幅値が大きい方の交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定してもよい。
【0009】
前記ピーク特定部は、前記第1直線の傾きの絶対値が所定の範囲の値となった場合に、前記交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定してもよい。
【0010】
前記データ取得部は、前記脈波データのサンプリング周波数よりも高い予備測定周波数で前記脈波データをサンプリングした予備測定サンプリング値を取得し、前記ピーク特定部は、複数の前記予備測定サンプリング値のうち、振幅値が極大となるサンプリング値を含む複数の前記予備測定サンプリング値に基づき、前記所定の範囲を定めてもよい。
【0011】
前記ピーク特定部は、前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値の振幅値が、前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値の振幅値よりも大きい場合、前記基準サンプリング値と前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値とを通る前記第1直線と、前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値を通る前記第2直線とが交差する第1交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定し、前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値の振幅値が、前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値の振幅値よりも小さい場合、前記基準サンプリング値と前記基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値とを通る前記第1直線と、前記基準サンプリング値よりも時間的に前のサンプリング値を通る前記第2直線とが交差する第2交差位置を前記脈波データのピークのタイミングとして特定してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、コンピュータにより実行されると、前記コンピュータを第1の態様の前記脈波特定装置として機能させる、プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、センサのサンプリング周期で決まる分解能よりも高い分解能で脈拍の周期を容易に測定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る脈波特定装置100の構成例を示す。
【
図2】本実施形態に係る脈波特定装置100の動作フローの一例を示す。
【
図3】本実施形態に係るデータ取得部110が取得する脈波データの一例を示す。
【
図4】本実施形態に係るピーク特定部130が基準サンプリング値P10を用いて特定した脈波データのピークのタイミングの第1例を示す。
【
図5】本実施形態に係るピーク特定部130が基準サンプリング値P10を用いて特定した脈波データのピークのタイミングの第2例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<脈波特定装置100の構成例>
図1は、本実施形態に係る脈波特定装置100の構成例をセンサ10と共に示す。脈波特定装置100は、生体の脈波を取得して、生体の脈拍の周期または周波数を特定する。ここで、脈波は、心臓が血液を送り出すことによって発生する血管の容積変化の波形である。
【0016】
センサ10は、このような脈波を測定する脈波センサである。センサ10は、例えば、生体の体表面から赤外線、赤色光等を照射し、生体を透過した光の時間的な変化を電気信号に変換し、心臓の脈動に応じた血流量の変化を検出する透過型脈波センサである。この場合、センサ10は、例えば、生体の指先、耳たぶ等の表面を測定する。これに代えて、センサ10は、生体の体表面から赤外線、赤色光、緑色光等を照射し、生体内で反射された光の時間的な変化を電気信号に変換する反射型脈波センサであってもよい。この場合、反射光の強度レベルは、動脈の血液内における酸化ヘモグロビンの流量に対応して変化する。この場合、センサ10が測定可能な生体の部位は、動脈に光が届く程度に動脈に近い体表面を有する部位であればよい。
【0017】
脈波は、このようなセンサ10を用いた透過型脈波測定、反射型脈波測定等の光電脈波法によって測定できる。本実施形態において、光電脈波法によって測定された脈波の電気信号を、脈拍を示す信号とする。脈波特定装置100は、データ取得部110と、記憶部120と、ピーク特定部130と、脈拍特定部140と、出力部150とを備える。
【0018】
データ取得部110は、脈拍を示す信号をサンプリングした脈波データを取得する。データ取得部110は、センサ10から脈波データを取得してもよく、これに代えて、センサ10が過去に測定した脈波データをデータベース等から取得してもよい。データ取得部110は、例えば、ネットワークを介して脈波データを取得する。また、データ取得部110は、複数のセンサ10から脈波データをそれぞれ取得してもよい。
【0019】
記憶部120は、脈波データを記憶する。また、記憶部120は、脈波特定装置100が動作の過程で生成する、または動作の過程で利用する、中間データ、算出結果、閾値、およびパラメータ等を記憶してもよい。記憶部120は、脈波特定装置100内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してもよい。
【0020】
記憶部120は、コンピュータが脈波特定装置100として動作する場合、脈波特定装置100として機能するOS(Operating System)、およびプログラムの情報を格納してもよい。また、記憶部120は、当該プログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してもよい。例えば、コンピュータは、記憶部120に記憶されたプログラムを実行することによって、脈波特定装置100として機能する。
【0021】
記憶部120は、例えば、コンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、および作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部120は、HDD(Hard Disk Drive)および/またはSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでもよい。また、コンピュータは、GPU(Graphics Processing Unit)等を更に備えてもよい。
【0022】
ピーク特定部130は、脈波データのサンプリング値のうち、振幅値が極大となる基準サンプリング値を含む複数のサンプリング値に基づき、脈波データのピークのタイミングを特定する。ピーク特定部130は、後述するように、脈波データがサンプリングされたタイミングと異なるタイミングにおいても、脈波データのピークを特定できる。言い換えると、ピーク特定部130は、脈波データのサンプリング間隔よりも高い分解能で脈波データのピークのタイミングを特定する。ピーク特定部130は、異なる2以上のピークのタイミングを特定する。
【0023】
脈拍特定部140は、ピーク特定部130が特定した複数のピークの間隔に基づいて、脈拍の周期又は周波数を特定する。脈拍特定部140は、例えば、隣り合うピークのタイミングの時間間隔を脈拍の周期として特定する。また、脈拍特定部140は、隣り合うピークのタイミングの時間間隔の逆数を脈拍の周波数として特定してもよい。
【0024】
出力部150は、特定された脈拍の周期および/または周波数を出力する。出力部150は、例えば、表示装置等を有し、このような脈拍の情報を表示する。出力部150は、脈波の波形と共に脈拍の情報を表示することが好ましい。また、出力部150は、記憶部120、外部のデータベース等に脈拍の情報を記憶してもよい。この場合、出力部150は、ネットワークを介して、特定した脈拍の情報を出力することが好ましい。
【0025】
以上の本実施形態に係る脈波特定装置100は、脈波データのサンプリング値を補間して、脈波データのピークのタイミングを特定する。ここで、脈波特定装置100は、スプライン補間、ラグランジュ補間、多項式補間等といった複雑な処理をすることなく、サンプリング値を通る直線を用いて脈波データのピークのタイミングを特定する。このような脈波特定装置100の動作について次に説明する。
【0026】
<脈波特定装置100の動作フローの一例>
図2は、本実施形態に係る脈波特定装置100の動作フローの一例を示す。脈波特定装置100は、
図2のS210からS300の動作を実行することにより、脈波データが示す脈拍の周期および/または周波数を特定して出力する。
【0027】
まず、データ取得部110は、脈波データを取得する(S210)。データ取得部110は、例えば、
図3に示すような脈波データを取得する。データ取得部110は、取得した脈波データを記憶部120に記憶する。
【0028】
図3は、本実施形態に係るデータ取得部110が取得する脈波データの一例を示す。
図3の横軸は時間を示し、縦軸は振幅の強度レベルを示す。
図3において、実線は生体の脈波を示す。このような脈波を略一定の周期でサンプリングしたサンプリング値の一部の例を白丸で示す。センサ10は、モニタリングを目的とした場合、簡易的な装置であることが望ましく、サンプリング周波数は数十Hz程度となることがある。この場合、例えば、脈波の振幅値が極大となる位置の近傍においては、1つのサンプリング周期の間に振幅値が急峻に変化する。したがって、脈波が極大値となるタイミングが複数のサンプリング値のいずれかのタイミングと一致することはほとんどない。
【0029】
図3には、脈波の振幅値が極大となるタイミングのうち、隣り合う2つのタイミングの例をt1およびt2と示す。なお、t2-t1は脈拍の周期Tであり、脈拍の周期Tの逆数が脈拍の周波数となる。また、脈拍の周波数に60を掛けた値(60/T)が脈拍数となる。
図3には、サンプリング値のうち上述の隣り合う2つのタイミングに対応し、振幅値が極大となるサンプリング値の例をP10およびP20と示す。P20およびP10のタイミングの差分ΔPは、サンプリング値から算出した脈拍の周期であり、実際の周期Tと比較して、誤差が含まれていることがわかる。そこで、ピーク特定部130は、このような誤差を低減させるように脈波データのピークのタイミングを特定する。
【0030】
次に、ピーク特定部130は、脈波データのサンプリング値のうち、振幅値が極大となる基準サンプリング値を含む連続した2つのサンプリング値を通る第1直線を生成する(S220)。ピーク特定部130は、例えば、基準サンプリング値と基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値とを通る直線を第1直線として生成する。
図3の例において、基準サンプリング値は、P10およびP20である。そして、基準サンプリング値P10と、基準サンプリング値P10と時間的に連続する1つのサンプリング値とを用いて第1直線を生成した例を
図4に示す。
【0031】
図4は、本実施形態に係るピーク特定部130が基準サンプリング値P10を用いて特定した脈波データのピークのタイミングの第1例を示す。
図4の横軸は時間を示し、縦軸は振幅の強度レベルを示す。
図4は、実際の脈波の振幅値が極大となるタイミングt1が、基準サンプリング値P10のサンプリングタイミングとサンプリング値P11のサンプリングタイミングとの間に位置する例に対応する。
図4において、直線ABが基準サンプリング値P10を含む連続した2つのサンプリングを通る第1直線の例である。直線ABは、基準サンプリング値P10と基準サンプリング値P10よりも時間的に1つ前のサンプリング値P9とを通る第1直線である。
【0032】
次に、ピーク特定部130は、脈波データのサンプリング値のうち、第1直線を通る2つのサンプリング値以外の基準サンプリング値と連続する1つのサンプリング値を通り、第1直線の傾きの正負が反転している傾きを有する第2直線を生成する(S230)。
図4において、直線CDが第2直線の例である。直線CDは、基準サンプリング値P10よりも時間的に1つ後のサンプリング値P11を通り、直線ABの傾きの正負が反転している傾きを有する第2直線である。
【0033】
例えば、実際の脈波の振幅値が極大となるタイミングt1が、基準サンプリング値P10のサンプリングタイミングとサンプリング値P11のサンプリングタイミングとの間に位置することがある。この場合、直線ABおよび直線CDの交差位置X1のタイミングは、基準サンプリング値P10のタイミングよりも脈波の振幅値が極大となるタイミングに近くなる。
【0034】
そこで、ピーク特定部130は、第1直線と第2直線との交差位置を脈波データのピークのタイミングとして特定する(S240)。
図4において、直線ABおよび直線CDの交差位置X1のタイミングtx1が、ピーク特定部130が特定した脈波データのピークのタイミングの一例である。
【0035】
なお、実際の脈波の振幅値が極大となるタイミングt1が、基準サンプリング値P10のサンプリングタイミングとサンプリング値P9のサンプリングタイミングとの間に位置することもある。この場合、交差位置X1よりも基準サンプリング値P10の方が脈波の振幅値が極大となる位置に近くなる。特に、基準サンプリング値P10の振幅値は、交差位置X1の振幅値よりも大きくなる。
【0036】
そこで、ピーク特定部130は、交差位置X1の振幅値と基準サンプリング値P10の振幅値とを比較する(S250)。ピーク特定部130は、第1直線と前記第2直線との交差位置X1の振幅値が、基準サンプリング値P10の振幅値よりも大きくなった場合に(S250:Yes)、交差位置X1を脈波データのピークのタイミングとして特定する。この場合、脈波特定装置100はS290に進む。
【0037】
また、ピーク特定部130は、交差位置X1の振幅値が、基準サンプリング値P10の振幅値以下になった場合(S250:No)、交差位置X1とは異なる位置を脈波データのピークのタイミングとして特定するためにS260に進む。
【0038】
図5は、本実施形態に係るピーク特定部130が基準サンプリング値P10を用いて特定した脈波データのピークのタイミングの第2例を示す。
図5の横軸は時間を示し、縦軸は振幅の強度レベルを示す。
図5は、実際の脈波の振幅値が極大となるタイミングt1が、基準サンプリング値P10のサンプリングタイミングとサンプリング値P9のサンプリングタイミングとの間に位置する例を示す。この場合、一点鎖線で示す直線ABおよび直線CDの交差位置X1の振幅値は、基準サンプリング値P10の振幅値以下となる。
【0039】
このように交差位置X1の振幅値が基準サンプリング値P10の振幅値以下となっている場合、ピーク特定部130は、例えば、基準サンプリング値と基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値とを通る直線を第1直線として生成する(S260)。
図5において、ピーク特定部130は、基準サンプリング値P10と基準サンプリング値P10よりも時間的に1つ後のサンプリング値P11とを通る直線EFを第1直線とする。
【0040】
次に、ピーク特定部130は、脈波データのサンプリング値のうち、第1直線を通る2つのサンプリング値以外の基準サンプリング値と連続する1つのサンプリング値を通り、第1直線の傾きの正負が反転している傾きを有する第2直線を生成する(S270)。
図5において、ピーク特定部130は、基準サンプリング値P10よりも時間的に1つ前のサンプリング値P9を通り、第1直線の傾きの正負が反転している傾きを有する直線GHを第2直線とする。
【0041】
そして、ピーク特定部130は、第1直線と第2直線との交差位置を脈波データのピークのタイミングとして特定する(S280)。
図5において、直線EFおよび直線GHの交差位置X2のタイミングtx2が、ピーク特定部130が特定した脈波データのピークのタイミングの一例である。
【0042】
そして、脈波特定装置100はS220に戻り、脈波データの次の基準サンプリング値に対応するピークのタイミングを特定する(S290:Yes)。脈波特定装置100は、例えば、次の基準サンプリング値P20を用いて、対応するピークのタイミングを特定する。脈波特定装置100は、少なくとも2以上の基準サンプリング値に対応するピークのタイミングを順次特定する。脈波特定装置100は、予め定められた数の基準サンプリング値に対応するピークのタイミングを特定してもよく、脈波データに含まれている基準サンプリング値に対応するピークのタイミングを全て特定してもよい。
【0043】
脈拍特定部140は、ピーク特定部130が複数のピークのタイミングを特定した後に(S290:No)、脈拍の情報を特定する(S300)。脈拍特定部140は、例えば、隣り合う2つのピークのタイミングの差分を、脈拍の周期として特定する。また、脈拍特定部140は、ピーク特定部130が3以上の複数のピークのタイミングを特定した場合、異なる複数の隣り合う2つのピークのタイミングの差分をそれぞれ算出して、複数の差分を脈拍の周期の時間的な変化として特定してもよい。
【0044】
また、脈拍特定部140は、特定した脈拍の周期の逆数を脈拍の周波数として特定してもよく、脈拍数を更に特定してもよい。出力部150は、脈拍特定部140が特定した脈拍の情報を出力する。出力部150は、ディスプレイ、記憶装置等に脈拍の情報を出力する。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る脈波特定装置100は、基準サンプリング値を含む複数のサンプリング値を通る直線を用いて脈波データを補間することにより、脈波の極大値に対応するタイミングを特定する。これにより、脈波特定装置100は、複雑な計算をすることなく、脈拍データのサンプリング間隔よりも高い分解能で簡便に脈拍の周期および/または周波数を特定できる。
【0046】
なお、脈波の極大値と極大値の近傍の部分は、脈波の他の部分と比較して急峻に変化する部分である。したがって、既知の補間式等を用いて脈波を表現する場合、例えば、より多くのサンプリング値を用いてより高次の成分を用いないと、極大値の近傍の部分を精度よく補間することができない。これに対して、脈波特定装置100は、第1直線と、第1直線の傾きの正負を反転した傾きを有し、第1直線と比較して急峻に変化する第2直線とを用いる。これにより、脈波特定装置100は、直線を用いた補間でありながら急峻に変化する極大値の近傍を精度よく補間することができる。したがって、脈波特定装置100は、脈波を検出したセンサのサンプリング周期で決まる分解能よりも高い分解能で脈拍の周期を容易に測定することができる。
【0047】
以上の本実施形態に係る脈波特定装置100は、第1直線および第2直線の交差位置の振幅値と基準サンプリング値の振幅値とを比較することにより、脈波データのピークのタイミングを特定する例を説明したが、これに限定されることはない。脈波特定装置100は、1つの基準サンプリング値に対応する異なる2つの交差位置の振幅値を比較することにより、脈波データのピークのタイミングを特定してもよい。
【0048】
例えば、ピーク特定部130は、上述のように、基準サンプリング値P10と基準サンプリング値P10よりも時間的に前のサンプリング値P9とを通る第1直線ABと、基準サンプリング値P10よりも時間的に後のサンプリング値P11を通る第2直線CDとが交差する第1交差位置X1を特定する。そして、ピーク特定部130は、基準サンプリング値P10と基準サンプリング値P10よりも時間的に後のサンプリング値P11とを通る第1直線EFと、基準サンプリング値P10よりも時間的に前のサンプリング値P9を通る第2直線GHとが交差する第2交差位置X2とのうち、振幅値が大きい方の交差位置を脈波データのピークのタイミングとして特定する。
【0049】
図4の例のように、実際の脈波の振幅値が極大となるタイミングt1が、基準サンプリング値P10のサンプリングタイミングとサンプリング値P11のサンプリングタイミングとの間に位置する場合、第1交差位置X1の振幅値の方が第2交差位置X2の振幅値よりも大きくなる。また、
図5の例のように、実際の脈波の振幅値が極大となるタイミングt1が、基準サンプリング値P10のサンプリングタイミングとサンプリング値P9のサンプリングタイミングとの間に位置する場合、第2交差位置X2の振幅値の方が第1交差位置X1の振幅値よりも大きくなる。
【0050】
したがって、ピーク特定部130がより大きい振幅値の交差位置を選択することにより、脈波データのピークのタイミングとして適切な交差位置を特定することができる。なお、この場合、ピーク特定部130は、特定した交差位置の振幅値と基準サンプリング値P10の振幅値とを更に比較してもよい。ピーク特定部130は、交差位置の振幅値よりも基準サンプリング値P10の振幅値が大きくなった場合、基準サンプリング値P10を脈波データのピークのタイミングとして特定する。また、ピーク特定部130は、基準サンプリング値P10の振幅値よりも交差位置の振幅値が大きくなった場合、選択した交差位置を脈波データのピークのタイミングとして特定する。
【0051】
これに代えて、または、これに加えて、ピーク特定部130は、第1直線の傾きの絶対値が所定の範囲の値となった場合に、当該第1直線と対応する第2直線との交差位置を脈波データのピークのタイミングとして特定してもよい。
【0052】
例えば、データ取得部110は、脈波データのサンプリング周波数よりも高い予備測定周波数で脈波データをサンプリングした予備測定サンプリング値を取得する。ピーク特定部130は、複数の予備測定サンプリング値のうち、振幅値が極大となるサンプリング値を含む複数の予備測定サンプリング値を理想的な脈波データとして用いる。ピーク特定部130は、例えば、理想的な脈波データを予備測定周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングした場合において、第1直線の傾きの適切な範囲をシミュレーション等により予め定めることができる。ピーク特定部130は、このように定められた第1直線の傾きの範囲を所定の範囲として定める。
【0053】
これに代えて、ピーク特定部130は、基準サンプリング値に対応するピークのタイミングを特定した場合の第1直線の傾きの情報を予め複数蓄積することにより、第1直線の傾きの適切な範囲を予め定めてもよい。これにより、ピーク特定部130は、第1直線の傾きを算出することにより、当該第1直線がピークのタイミングを特定するために用いるべき直線か否かを容易に判定することができる。
【0054】
これに代えて、ピーク特定部130は、基準サンプリング値の前後のサンプリング値の振幅値に基づいて脈波データのピークのタイミングを特定してもよい。例えば、ピーク特定部130は、基準サンプリング値P10よりも時間的に後のサンプリング値P11の振幅値と基準サンプリング値P10よりも時間的に前のサンプリング値P9の振幅値とを比較する。
【0055】
そして、ピーク特定部130は、サンプリング値P11の振幅値の方がサンプリング値P9の振幅値よりも大きい場合、基準サンプリング値P10と基準サンプリング値P10よりも時間的に前のサンプリング値P9とを通る第1直線と、基準サンプリング値よりも時間的に後のサンプリング値P11を通る第2直線とが交差する第1交差位置X1を脈波データのピークのタイミングとして特定する。ピーク特定部130がこのようにして特定した第1交差位置X1は、
図4で説明した結果と同様の結果となる。
【0056】
また、ピーク特定部130は、サンプリング値P11の振幅値の方がサンプリング値P9の振幅値よりも小さい場合、基準サンプリング値P10と基準サンプリング値P10よりも時間的に後のサンプリング値P11とを通る第1直線と、基準サンプリング値P10よりも時間的に前のサンプリング値P9を通る第2直線とが交差する第2交差位置X2を脈波データのピークのタイミングとして特定する。ピーク特定部130がこのようにして特定した第2交差位置X2は、
図5で説明した結果と同様の結果となる。
【0057】
なお、ピーク特定部130は、サンプリング値P11の振幅値とサンプリング値P9の振幅値とが略同一の値の場合、基準サンプリング値P10とサンプリング値P9とを通る直線を第1直線としてもよく、これに代えて、基準サンプリング値P10とサンプリング値P11とを通る直線を第1直線としてもよい。この場合、いずれの直線を第1直線としても、第1直線と第2直線とが交差する交差位置はほぼ同じ位置となるので、ピーク特定部130は、いずれの直線を第1直線としても、脈波データのピークのタイミングをほぼ同じ交差位置に特定することができる。
【0058】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0059】
10 センサ
100 脈波特定装置
110 データ取得部
120 記憶部
130 ピーク特定部
140 脈拍特定部
150 出力部