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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038899
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】発電素子
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/08 20060101AFI20220303BHJP
   H01G 7/02 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H02N1/08
H01G7/02 D
H01G7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020143613
(22)【出願日】2020-08-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス:https://www.powermems2019.org/ ウェブサイトの掲載日:2019年(令和1年)12月2日 ・集会名:PowerMEMS 2019(The 19th International Conference) 開 催 日:2019年(令和1年)12月2日~6日 ・ウェブサイトのアドレス:https://doi.org/10.18494/SAM.2020.2854 ウェブサイトの掲載日:2020年(令和2年)7月31日
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】517177729
【氏名又は名称】仙台スマートマシーンズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】桑野 博喜
(72)【発明者】
【氏名】レ バン ミン
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 春彦
(72)【発明者】
【氏名】グエン ホアン フン
(57)【要約】
【課題】発電量をさらに向上させることができる、エレクトレットを利用した発電素子を提供する。
【解決手段】表面に、エレクトレットから成る凸部11を有している。エレクトレットは、強誘電体分極エレクトレットから成ることが好ましい。凸部11は、縦方向および横方向の長さが0.1mm乃至5mmで、複数の角を有する表面形状を成し、高さが0.1mm乃至5mmであることが好ましい。さらに、凸部11は、表面に沿って縦方向および横方向に0.10mmより大きく、10mm以下の周期で周期的に設けられていることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、エレクトレットから成る凸部を有することを特徴とする発電素子。
【請求項2】
前記エレクトレットは、強誘電体分極エレクトレットから成ることを特徴とする請求項1記載の発電素子。
【請求項3】
前記凸部は、縦方向および横方向の長さが0.1mm乃至5mmで、複数の角を有する表面形状を成し、高さが0.1mm乃至5mmであることを特徴とする請求項1または2記載の発電素子。
【請求項4】
前記凸部は、複数から成り、前記表面に沿って縦方向および横方向に0.10mmより大きく、10mm以下の周期で周期的に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発電素子。
【請求項5】
前記凸部の表面を覆うよう設けられた薄膜を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発電素子。
【請求項6】
前記薄膜は、SiOから成ることを特徴とする請求項5記載の発電素子。
【請求項7】
前記凸部との間に間隔をあけて、少なくとも前記凸部を気密的に覆うよう設けられた被覆膜を有し、
前記被覆膜の内部を真空にして成る、または、前記被覆膜の内部に不活性ガスを充填して成ることを
特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発電素子。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレクトレットを利用した静電誘導型の振動発電装置として、間隔をあけて1対の導電性板を配置し、各導電性板の間で一方の導電性板に接するようエレクトレットを設けて成り、各導電性板の間隔がエレクトレットの表面に垂直な方向に変位することにより、他方の導電性板とエレクトレットとの間の静電容量が変化して発電するよう構成されたものがある(例えば、特許文献1または2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-120388号公報
【特許文献2】国際公開WO2014/148371号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1または2記載の振動発電装置は、エレクトレットとして、強誘電性、焦電性、圧電性の材料などの自発分極現象を利用した強誘電体分極エレクトレット(FDE;ferroelectric dipole electret)を用いており、比較的大きい発電量が得られている。しかし、より効率的な発電を目指して、発電量をさらに向上させることが常に期待されている。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、発電量をさらに向上させることができる、エレクトレットを利用した発電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る発電素子は、表面に、エレクトレットから成る凸部を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る発電素子は、表面に、エレクトレットから成る凸部を有しており、表面のエレクトレットが平坦の場合と比べて、凸部に電界を集中させて、電界を高めることができる。その電界が高い領域を利用して発電を行うことにより、表面のエレクトレットが平坦の場合と比べて、発電量をさらに向上させることができる。
【0008】
本発明に係る発電素子で、前記エレクトレットは、強誘電体分極エレクトレットから成ることが好ましい。この場合、発電量を特に向上させることができる。
【0009】
本発明に係る発電素子で、凸部は、いかなる形状を成していてもよく、例えば、表面形状が丸形や三角形、四角形、複雑形状などであってもよい。凸部は、特に、縦方向および横方向の長さが0.1mm乃至5mmで、複数の角を有する表面形状を成し、高さが0.1mm乃至5mmであることが好ましい。この場合、凸部の表面の角や、角が連続した側縁部で特に電界を高めることができるため、発電量を向上させることができる。また、凸部は、表面から、凸部の周囲の凹部の底に向かって、垂直または垂直に近い側面を有することが好ましい。
【0010】
本発明に係る発電素子で、前記凸部は、複数から成り、前記表面に沿って縦方向および横方向に0.10mmより大きく、10mm以下の周期で周期的に設けられていることが好ましい。この場合、周期的に電界が高い領域を発生させることができ、発電量を向上させることができる。隣り合う凸部の間は、間隔があいていれば、いかなる間隔であってもよく、例えば、0.05mmより小さい間隔であってもよい。
【0011】
本発明に係る発電素子は、前記凸部の表面を覆うよう設けられた薄膜を有していてもよい。この場合、エレクトレットの表面に、不純物原子などが付着するのを防ぐことができ、発電量の低下を抑えることができる。薄膜は、不純物原子などの付着を防止可能であれば、いかなるものから成っていてもよく、例えば、SiOから成っていてもよい。
【0012】
本発明に係る発電素子は、前記凸部との間に間隔をあけて、少なくとも前記凸部を気密的に覆うよう設けられた被覆膜を有し、前記被覆膜の内部を真空にして成っていてもよく、前記被覆膜の内部に不活性ガスを充填して成っていてもよい。この場合にも、エレクトレットの表面に、不純物原子などが付着するのを防ぐことができ、発電量の低下を抑えることができる。不活性ガスは、不純物原子などの付着を防止可能であれば、いかなるものであってもよく、例えば、窒素ガスであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発電量をさらに向上させることができる、エレクトレットを利用した発電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態の発電素子を示す(a)走査型電子顕微鏡(SEM)写真、(b) (a)の一部を拡大したSEM写真である。
図2】本発明の実施の形態の発電素子(Patterned FDE)および比較例(Flat FDE)の、(a)シミュレーションにより求めた電界分布を示すマップ、(b) (a)から求めた、凸部の側縁からy軸方向に沿った電界分布を示すグラフである。
図3】本発明の実施の形態の発電素子の、出力電圧を測定するための装置を示す回路図、および、発電素子を振動させたときの出力電圧を示すグラフ(挿入図)である。
図4】本発明の実施の形態の発電素子の、(a)発電素子の凸部の表面と上方の電極との間隔と、出力電圧(Output voltage)および発電量(Output power)との関係を示すグラフ、(b)負荷抵抗と、出力電圧および発電量との関係を示すグラフ、(c)発電素子の振動の加速度と、発電量および振動振幅(Displacement)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例および図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図4は、本発明の実施の形態の発電素子を示している。
図1に示すように、発電素子10は、強誘電体分極エレクトレット(FDE)の薄膜から成り、その表面に、縦方向および横方向に周期的に設けられた多数の凸部11を有している。
【0016】
各凸部11は、ダイシング(dicing)により形成され、表面形状が正方形の四角柱状を成し、表面の正方形の各辺に沿って縦方向および横方向に所定の間隔をあけて配置されている。各凸部11は、周囲の凹部12の底に向かって垂直な側面を有し、表面に沿った断面形状が、表面形状と同じ大きさの正方形を成している。図1に示す具体的な一例では、各凸部11は、表面形状が1mm×1mmの正方形であり、周囲の凹部12の底からの高さが1mmである。また、隣り合う凸部11の間隔が、0.5mmであり、縦方向および横方向の周期が、1.5mmである。なお、凸部11は、表面形状が四角形に限らず、三角形や五角形などの多角形であってもよい。
【0017】
なお、発電素子10は、凸部11の表面を覆うよう設けられた薄膜を有していてもよい。この場合、エレクトレットの表面に、不純物原子などが付着するのを防ぐことができ、発電量の低下を抑えることができる。薄膜は、不純物原子などの付着を防止可能であれば、いかなるものから成っていてもよく、例えば、SiOから成っていてもよい。
【0018】
また、発電素子10は、凸部11との間に間隔をあけて、少なくとも凸部11を気密的に覆うよう設けられた被覆膜を有し、被覆膜の内部を真空にして成っていてもよく、被覆膜の内部に不活性ガスを充填して成っていてもよい。この場合にも、エレクトレットの表面に、不純物原子などが付着するのを防ぐことができ、発電量の低下を抑えることができる。不活性ガスは、不純物原子などの付着を防止可能であれば、いかなるものであってもよく、例えば、窒素ガスであってもよい。
【実施例0019】
周期的に設けられた多数の凸部11を有する発電素子10が生成する電界を、シミュレーションにより求めた。シミュレーションソフトには、COMSOL Multiphysics(登録商標)を用いた。発電素子10は、凸部11を、横方向に一列に5つ並べたものとした。各凸部11は、表面形状を1mm×1mmの正方形とし、周囲の凹部12の底からの高さを1mmとした。また、各凸部11の間隔を1mmとした。シミュレーションの範囲を、横方向(各凸部11の並び方向;x軸)に20mm、縦方向(その垂直方向;y軸)に10mmとし、発電素子10を横方向および縦方向の中央に配置した。また、シミュレーションでは、発電素子10の表面の電荷密度を、残留分極が20 mC/m2となるように設定した。また、比較例として、各凸部11をつないで1つにした発電素子10についても、同様のシミュレーションを行った。
【0020】
シミュレーション結果を、図2(a)に示す。図2(a)に示すように、多数の凸部11を有する発電素子10(Patterned FDE)は、比較例(Flat FDE)と比べて、発生する電界を集中させて高めることができることが確認された。例えば、発電素子10(Patterned FDE)では、各凸部11の側縁部に沿って、約1.5 MV/mの電界が得られており、比較例(Flat FDE)の約2.5倍になっていることが確認された。
【0021】
また、図2(a)の結果から、凸部11の側縁から、y軸方向に沿った電界の分布を計算し、図2(b)に示す。図2(b)に示すように、発電素子10(Patterned FDE)の電界は、凸部11の近傍では、比較例(Flat FDE)よりも非常に大きくなっているが、凸部11から離れるに従って急激に低下し、凸部11から922 μm以上離れると、比較例(Flat FDE)よりも小さくなることが確認された。このことから、多数の凸部11を有する発電素子10では、凸部11の近傍の電界が高い領域を利用して発電を行うことにより、発電量を向上させることができることがわかる。
【実施例0022】
図1に示す発電素子10を製造し、発電量の測定を行った。まず、発電素子10を製造するために、極性を持たないハード系の圧電セラミックスの薄膜(株式会社富士セラミックス製「No. C-2」;20mm×20mm×1.0mm)の表面に、図1に示す凸部11を形成した。ダイシングには、株式会社ディスコ製「DAD3240」を用いた。凸部11を有する圧電薄膜を、シリコンオイル浴中で、Au電極で外部電界を与えることにより、分極させた。外部電界は4.0 kV/mmとし、1時間の分極処理を行った。こうして、強誘電体分極エレクトレット(FDE)から成る発電素子10を製造した。
【0023】
図3に示すように、製造した発電素子10を、上下に間隔をあけて配置された1対の電極21、22のうち、下方の電極21の表面に固定した。このとき、凸部11の表面が上方の電極22との間に間隔をあけて上方の電極22と対向するよう、発電素子10を固定した。発電素子10を下方の電極21と共に、振動制御装置(旭製作所製「G-Master APD-200FCG」)により上下に振動させて、そのときの発電素子10による出力電圧をオシロスコープ(岩崎通信機製「DS-5552」)により測定した。初期状態での発電素子10の凸部11の表面と上方の電極22との間隔を、350μmとし、振動周波数を20 Hzとした。
【0024】
測定された出力電圧を、図3の挿入図に示す。図3の挿入図に示すように、振動周波数と同じ20 Hzの出力電圧が得られており、発電素子10により発電が行われていることが確認された。また、発電素子10に対して正弦振動を与えているにもかかわらず、出力電圧の波形は正弦波にはならないことが確認された。これは、発電素子10の凸部11の表面と上方の電極22との間の容量が、その間隔に比例して変化しないためであると考えられる。
【実施例0025】
実施例2と同様にして、多数の凸部11を有する発電素子10を製造し、図3(a)に示す装置を用いて、発電量の測定を行った。各凸部11は、表面形状を1mm×1mmの正方形とし、周囲の凹部12の底からの高さを1mmとした。また、隣り合う凸部11の間隔を、1.0mmとし、縦方向および横方向の周期を、2.0mmとした。
【0026】
まず、振動の加速度および負荷抵抗(Load resistance;R)を、それぞれ0.5 gおよび30 MΩとして、初期状態での発電素子10の凸部11の表面と上方の電極22との間隔(Initial Gap)を変えて、出力電圧(Output voltage)および発電量(Output power)を測定した。その結果を、図4(a)に示す。図4(a)に示すように、初期状態での凸部11の表面と上方の電極22との間隔が320~350μmのとき、出力電圧および発電量が最大になることが確認された。なお、加速度が0.5 gのときの発電素子10の振幅は303μmであり、初期状態での凸部11の表面と上方の電極22との間隔が320μmより小さいときには、発電素子10が上方の電極22に接触しているため、出力が飽和している。
【0027】
次に、振動の加速度および、初期状態での凸部11の表面と上方の電極22との間隔を、それぞれ0.5 gおよび350μmとして、負荷抵抗を変えて、出力電圧および発電量を測定した。その結果を、図4(b)に示す。図4(b)に示すように、負荷抵抗が106 MΩのとき、発電量が最大になることが確認された。このときの出力電圧および発電量は、それぞれ99.3 Vおよび93.9μWであった。
【0028】
次に、初期状態での凸部11の表面と上方の電極22との間隔、および負荷抵抗を、それぞれ350μmおよび106 MΩとして、振動の加速度を変えて、発電量および振動振幅(Displacement)を測定した。その結果を、図4(c)に示す。図4(c)に示すように、振動の加速度が大きくなるに従って、発電量も大きくなり、振動の加速度が0.6 gのとき、発電量が最大になることが確認された。このときの発電量は、102μWであった。なお、振動振幅は、上方の電極22を取り外して測定しており、振動の加速度が0.6 gのときの振動振幅は、346μmであった。このことから、振動の加速度が0.6 gよりも大きいときには、発電素子10が上方の電極22に接触しているため、発電量は飽和している。
【符号の説明】
【0029】
10 発電素子
11 凸部
12 凹部

21 下方の電極
22 上方の電極


図1
図2
図3
図4