(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038950
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】動物用カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61D 1/08 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
A61D1/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020143689
(22)【出願日】2020-08-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 羽田真吾は、株式会社緑書房が発行する『臨床獣医』、2019年12月号(2019年12月2日発行)、第2~6頁で、羽田真吾が発明した動物用カテーテルを用いて牛の子宮洗浄法を検討した結果について発表した。
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人帯広畜産大学
(71)【出願人】
【識別番号】391016705
【氏名又は名称】クリエートメディック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104237
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】羽田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により、子宮洗浄を簡単な作業で容易に行うことができる動物用カテーテルを提供する。
【解決手段】牛の子宮内に挿入して洗浄液を注入および回収するチューブ本体11と、その途中に設けられ、子宮内の適所に留置する膨張可能なバルーン20と、を有し、チューブ本体11でバルーン20より先端側は、子宮内にある2つの内腔に合わせて分岐し、該分岐した分岐部15は、それぞれ先端が各内腔の奥で洗浄液が貯まる箇所まで到達する長さを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の子宮を洗浄するために用いる動物用カテーテルにおいて、
長尺に延びて可撓性があり子宮内に挿入して洗浄液を注入および回収するチューブ本体と、
前記チューブ本体の途中に設けられ、子宮内の適所に留置する膨張可能なバルーンと、を有し、
前記チューブ本体で前記バルーンより先端側は、子宮内にある2つの内腔に合わせて分岐し、該分岐した分岐部は、それぞれ先端が前記各内腔の奥で洗浄液が貯まる箇所まで到達する長さを備えることを特徴とする動物用カテーテル。
【請求項2】
前記チューブ本体の内部で、洗浄液を注入する流入路と、洗浄液を回収する流出路とを、それぞれ分離して設けたことを特徴とする請求項1に記載の動物用カテーテル。
【請求項3】
前記流入路からの洗浄液の供給口を、前記各分岐部のそれぞれ基端側に開設し、
前記流出路への洗浄液の回収口を、前記各分岐部のそれぞれ先端側に開設したことを特徴とする請求項2に記載の動物用カテーテル。
【請求項4】
前記流出路に接続される外部径路の途中に、逆止弁を設けたことを特徴とする請求項1,2または3に記載の動物用カテーテル。
【請求項5】
前記チューブ本体を子宮内に挿入するとき、前記各分岐部の先端側を含めた前記チューブ本体の内部に挿入するスタイレットが組み合わされることを特徴とする請求項1,2,3または4に記載の動物用カテーテル。
【請求項6】
前記各分岐部の長さに差を設けて、短い方の分岐部の先端側にループを装着し、
前記チューブ本体を子宮内に挿入するとき、長い方の分岐部に、前記スタイレットを挿入すると共に、該長い方の分岐部の内部に導いた前記ループに前記スタイレットを通すことで、前記各分岐部を1本にまとめた状態で前記チューブ本体を子宮内に挿入可能であり、
前記チューブ本体を子宮内に挿入した後、前記スタイレットを抜き取ることで、前記各分岐部の先端側を両側へ分離可能としたことを特徴とする請求項5に記載の動物用カテーテル。
【請求項7】
前記チューブ本体を子宮内に挿入するとき、前記各分岐部の先端側を含めた前記チューブ本体の外側に装着する外筒が組み合わされることを特徴とする請求項1,2,3または4に記載の動物用カテーテル。
【請求項8】
前記動物は、牛であり、
前記子宮内にある2つの内腔は、子宮角であり、
前記バルーンを留置する子宮内の適所は、子宮体部であり、
前記各内腔の奥で洗浄液が貯まる箇所は、子宮角の奥であることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6または7に記載の動物用カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の子宮を洗浄するために用いる動物用カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、動物、特に牛の子宮の疾患時の治療方法として子宮洗浄が知られている。この子宮洗浄を行うには、例えば特許文献1,2に記載された特別な機器を用いる他、一般的なバルーンカテーテルが用いられていた。バルーンカテーテルを用いた子宮洗浄法は、カテーテルを牛の子宮内に挿入し、バルーンを子宮角基部に留置させた状態で、洗浄液の注入ないし回収を繰り返すものである。
【0003】
このような子宮洗浄法によれば、
図7に示すように、子宮内に溜まった洗浄液は、カテーテル先端付近から排出されるが、牛ではカテーテル先端が子宮内で最も背側(要は上側)である子宮角基部に配置される(
図7(a)参照)。そのため、前記配置のままでは、カテーテル先端周辺の洗浄液しか排出できない。従って、カテーテル先端が洗浄液に接するように、直腸越しに子宮を持ち上げる操作が必要であった(
図7(b)参照)。
【0004】
また、牛が属する偶蹄目では、子宮内に2つの内腔があり、牛の子宮の場合は、長さ数cmの子宮体部から直ぐに左右の子宮角(内腔)に分かれている。そのため、一方の子宮角を洗い終えたら、続いて他方の子宮角についても、バルーンカテーテルを挿入し直して同じ洗浄方法を繰り返す必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59-189840号公報
【特許文献2】特開平7-277995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したバルーンカテーテルを用いた子宮洗浄法によれば、高価で特別な機器を用いる必要はないが、牛の子宮洗浄中は、直腸越しに子宮を持ち上げる操作をし続けなければならず、作業が煩雑で面倒であった。また、2つの子宮角を片方ずつしか洗浄することができず、同じ操作を繰り返さなければならないため、いっそう作業が煩雑で面倒であった。
【0007】
本発明は、以上のような従来の技術が有する問題点に着目してなされたものであり、簡易な構成により、子宮洗浄を簡単な作業で容易に行うことができる動物用カテーテルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]動物の子宮を洗浄するために用いる動物用カテーテル(10)において、
長尺に延びて可撓性があり子宮内に挿入して洗浄液を注入および回収するチューブ本体(11)と、
前記チューブ本体(11)の途中に設けられ、子宮内の適所に留置する膨張可能なバルーン(20)と、を有し、
前記チューブ本体(11)で前記バルーン(20)より先端側は、子宮内にある2つの内腔に合わせて分岐し、該分岐した分岐部(15)は、それぞれ先端が前記各内腔の奥で洗浄液が貯まる箇所まで到達する長さを備えることを特徴とする動物用カテーテル(10)。
【0009】
[2]前記チューブ本体(11)の内部で、洗浄液を注入する流入路(12)と、洗浄液を回収する流出路(13)とを、それぞれ分離して設けたことを特徴とする前記[1]に記載の動物用カテーテル(10)。
【0010】
[3]前記流入路(12)からの洗浄液の供給口(12b)を、前記各分岐部(15)のそれぞれ基端側に開設し、
前記流出路(13)への洗浄液の回収口(13b)を、前記各分岐部(15)のそれぞれ先端側に開設したことを特徴とする前記[2]に記載の動物用カテーテル(10)。
【0011】
[4]前記流出路(13)に接続される外部径路の途中に、逆止弁(52)を設けたことを特徴とする前記[1],[2]または[3]に記載の動物用カテーテル(10)。
【0012】
[5]前記チューブ本体(11)を子宮内に挿入するとき、前記各分岐部(15)の先端側を含めた前記チューブ本体(11)の内部に挿入するスタイレット(1)が組み合わされることを特徴とする前記[1],[2],[3]または[4]に記載の動物用カテーテル(10)。
【0013】
[6]前記各分岐部(15a,15b)の長さに差を設けて、短い方の分岐部(15b)の先端側にループ(16)を装着し、
前記チューブ本体(11)を子宮内に挿入するとき、長い方の分岐部(15a)に、前記スタイレット(1)を挿入すると共に、該長い方の分岐部(15a)の内部に導いた前記ループ(16)に前記スタイレット(1)を通すことで、前記各分岐部(15a,15b)を1本にまとめた状態で前記チューブ本体(11)を子宮内に挿入可能であり、
前記チューブ本体(11)を子宮内に挿入した後、前記スタイレット(1)を抜き取ることで、前記各分岐部(15a,15b)の先端側を両側へ分離可能としたことを特徴とする前記[5]に記載の動物用カテーテル(10A)。
【0014】
[7]前記チューブ本体(11)を子宮内に挿入するとき、前記各分岐部(15)の先端側を含めた前記チューブ本体(11)の外側に装着する外筒(2)が組み合わされることを特徴とする前記[1],[2],[3]または[4]に記載の動物用カテーテル(10)。
【0015】
[8]前記動物は、牛であり、
前記子宮内にある2つの内腔は、子宮角であり、
前記バルーン(20)を留置する子宮内の適所は、子宮体部であり、
前記各内腔の奥で洗浄液が貯まる箇所は、子宮角の奥であることを特徴とする前記[1],[2],[3],[4],[5],[6]または[7]に記載の動物用カテーテル(10,10A)。
【0016】
次に、前述した解決手段に基づく作用を説明する。
前記[1]に記載の動物用カテーテル(10)では、チューブ本体(11)の先端側を動物の子宮に挿入し、バルーン(20)を膨張させて子宮内の適所に留置する。かかる状態で、洗浄液を注入して子宮内の洗浄を行い、その後、子宮内から洗浄液を回収する。チューブ本体(11)にてバルーン(20)より先端側は、牛等の子宮内にある2つの内腔に合わせて分岐しており、分岐した部位は、それぞれ先端が各内腔の奥で洗浄液が貯まる箇所まで到達する。
【0017】
これにより、動物用カテーテル(10)では、子宮内にある2つの内腔を同時に洗浄することが可能となり、同じ作業を各内腔毎に繰り返す必要はなく、大幅に作業時間を短縮することができる。また、動物用カテーテル(10)では、チューブ本体(11)の先端が内腔奥の洗浄液に接しなかった従前と比べて、子宮を持ち上げる操作も不要となり、作業自体も簡素化されて容易に洗浄を行うことができる。さらに、チューブ本体(11)より洗浄液を排出する外部径路の下端側を、チューブ本体(11)の分岐した部位より低い位置とすることで、サイフォンの原理により洗浄液を容易に排出することが可能となる。
【0018】
前記[2]に記載の動物用カテーテル(10)によれば、チューブ本体(11)の内部で、洗浄液を注入する流入路(12)と、洗浄液を回収する流出路(13)とを、それぞれ分離させて設ける。これにより、洗浄液の注入と回収を一つの径路で行う場合にあった回収した洗浄液が子宮内へ逆流する事態を防止することができる。
【0019】
前記[3]に記載の動物用カテーテル(10)によれば、流入路(12)からの洗浄液の供給口(12b)を、各分岐部(15)のそれぞれ基端側に開設し、流出路(13)への洗浄液の回収口(13b)を、各分岐部(15)のそれぞれ先端側に開設した。
【0020】
これにより、供給口(12b)から洗浄液は、子宮内における内腔の入口側から奥に向かって周囲を洗いながら流れ、洗浄し終えた洗浄液は、内腔の奥側より回収口(13b)から回収されるため、洗浄効率が高まる。
【0021】
前記[4]に記載の動物用カテーテル(10)によれば、流出路(13)に接続される外部径路の途中に逆止弁(52)を設ける。これにより、子宮内が陰圧になった時でも、外部径路から空気を吸い込む現象を防ぐことができる。
【0022】
前記[5]に記載の動物用カテーテル(10)によれば、チューブ本体(11)を子宮内に挿入するとき、各分岐部(15)の先端側を含めたチューブ本体(11)の内部にスタイレット(1)を挿入する。これにより、子宮の内部が狭くて複雑な構造であっても、容易かつ迅速にチューブ本体を挿入する作業を行うことが可能となる。
【0023】
前記[6]に記載の動物用カテーテル(10A)によれば、チューブ本体(11)を子宮内に挿入するとき、長い方の分岐部(15a)に、スタイレット(1)を挿入すると共に、長い方の分岐部(15a)の内部に導いた短い方の分岐部(15b)のループ(16)にスタイレット(1)を通す。
【0024】
これにより、各分岐部(15a,15b)を1本にまとめた状態で、チューブ本体(11)を子宮内に円滑に挿入することができる。そして、チューブ本体(11)を子宮内に挿入した後、スタイレット(1)を抜き取ることで、各分岐部(15a,15b)の先端側を両側へ分離させることができる。
【0025】
前記[7]に記載の動物用カテーテル(10)によれば、チューブ本体(11)を子宮内に挿入するとき、各分岐部(15)の先端側を含めたチューブ本体(11)の外側に外筒(2)を装着する。この場合も、子宮の内部が狭くて複雑な構造であっても、容易かつ迅速にチューブ本体を挿入する作業を行うことが可能となる。
【0026】
以上のような動物用カテーテル(10)は、前記[8]に記載したように、使用対象とする動物は例えば牛であり、子宮内にある2つの内腔は子宮角であり、バルーン(20)を留置する子宮内の適所は、子宮体部であり、各内腔の奥で洗浄液が貯まる箇所は子宮角の奥である場合に、最適に適用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る動物用カテーテルによれば、簡易な構成により、子宮洗浄を簡単な作業で容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態の動物用カテーテルを示す正面図である。
【
図2】本実施形態の動物用カテーテルのバルーンより手前位置の断面図である。
【
図3】本実施形態の動物用カテーテルのバルーンのある位置の断面図である。
【
図4】本実施形態の動物用カテーテルのバルーンより先端の分岐部の断面図である。
【
図5】本実施形態の動物用カテーテルの使用状態を示す説明図である。
【
図6】本実施形態の動物用カテーテルの使用状態を示す模式図である。
【
図7】従来の動物用カテーテルの使用状態を示す模式図である。
【
図8】本実施形態の別例の動物用カテーテルを示す正面図である。
【
図9】本実施形態の別例の動物用カテーテルにおける外筒を示す説明図である。
【
図10】本実施形態の変形例の動物用カテーテルを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づき、本発明を代表する実施形態を説明する。
図1~
図6、
図8および
図9は、本発明の実施形態を示している。
本実施形態に係る動物用カテーテル10は、動物の子宮を洗浄するのに用いるものである。以下、動物用カテーテル10を、動物のうち、子宮内に2つの子宮角(内腔)のある偶蹄目、特に牛の子宮洗浄に用いる場合を例に説明する。
【0030】
<動物用カテーテル10の概要>
図1に示すように、動物用カテーテル10は、長尺に延びて可撓性があり牛の子宮内に挿入して洗浄液を注入および回収するチューブ本体11を有している。チューブ本体11の途中には、子宮内の適所に留置する膨張可能なバルーン20が設けられている。ここで子宮内の適所とは、牛の場合は
図5に示すように、子宮頸管a1に続く子宮角基部a3の手前の子宮体部a4である。子宮角基部a3より先が、左右の子宮角a2に分かれている。
【0031】
バルーン20は、チューブ本体11の進入方向の前方となる先端側(
図1中で左側)の途中に設けられている。また、チューブ本体11の進入方向の後方となる基端側(
図1中で右側)には、カテーテルヘッド30が設けられている。さらに、動物用カテーテル10には、後述するがチューブ本体11に洗浄液を供給するための洗浄液供給チューブ40と、チューブ本体11から排出された洗浄液を外部に導く回収液排出チューブ50と、が接続されている。
【0032】
<チューブ本体11>
図1に示すように、チューブ本体11は、長尺に延びて可撓性のある細長い管状に形成され、自由に湾曲させることができる。チューブ本体11の材質は、例えばシリコーンゴムやポリウレタン、軟質ポリ塩化ビニル等の柔軟な合成樹脂が適している。チューブ本体11は、その内部に軸線方向へ延びる内腔を備えている。かかる内腔は、複数の径路に分離されており、
図2~
図4に示すように、洗浄液が流入する流入路12と、洗浄液が流出する流出路13と、バルーン20を膨張させる給排路14と、を備えている。
【0033】
図2~
図4に示すように、流入路12は、洗浄液を流入させるものである。流入路12は、チューブ本体11の軸心から偏心した位置で、軸方向に延びる細い管路(ルーメン)として形成されている。流入路12の先端側は、後述するバルーン20の先端側の直ぐ先より分岐した分岐部15の基端側で、それぞれ複数の供給口12bとして外部に開設されている。また、流入路12の基端側は、後述するカテーテルヘッド30の内部に連通している。なお、洗浄液は、具体的には例えば、生理食塩水やリンゲル液等が適している。
【0034】
流出路13は、子宮内を洗浄した後の洗浄液を流出させるものである。流出路13は、チューブ本体11の軸心を中心として延びる主たる管路(ルーメン)として貫通形成されている。流出路13の先端側は、各分岐部15の先端側で、それぞれ複数の回収口13bとして外部に開設されている。また、流出路13の基端側は、後述するカテーテルヘッド30の内部に連通している。なお、子宮から排出された洗浄液は、以下の説明で「回収液」とも表現する。
【0035】
給排路14は、後述するバルーン20を膨張させる流体(例えば空気や滅菌蒸留水等)を通過させるものである。給排路14は、チューブ本体11の軸心から偏心した位置(流入路12の反対側)で、軸方向に延びる細い管路(ルーメン)として形成されている。給排路14の先端側は封止され、その手前の途中は、チューブ本体11の外周面より開口してバルーン20の内部に連通している。給排路14の基端側は、後述するカテーテルヘッド30の内部に連通している。
【0036】
<<チューブ本体11の先端側>>
図1に示すように、チューブ本体11でバルーン20より先端側は、牛の子宮内にある2つの子宮角a2(
図5参照)に合わせて分岐している。この2つに分岐した分岐部15は、それぞれ先端が各子宮角a2の奥で洗浄液が貯まる箇所まで到達する長さに設定されている。なお、各分岐部15の外径は、チューブ本体11の基準となる外径の半分程度に設定すると良い。
【0037】
子宮角a2の奥で洗浄液が貯まる箇所とは、
図5,
図6に示すように、子宮角a2の奥であるが、必ずしも最深部ではなく、通常は子宮角a2内で最も腹側(要は下側)にあたる部位である。よって、後述するがバルーン20を子宮体部a4に設置した時に、分岐部15の先端は子宮角a2の中程、つまり子宮全体でみると腹側にあたる場所に設置される。なお、
図5,
図6では、分岐部15を片側のみ図示しているが、これは図面作成の便宜上のものであり、実際には2つの子宮角a2のそれぞれに分岐部15が挿入される。
【0038】
詳しく言えば分岐部15は、チューブ本体11でバルーン20より直ぐ先端側の部位において、1本のチューブ本体11の端面から2つの分岐部15をなすチューブが分岐するように接着されて構成されている。ここで分岐部15を構成するチューブは、
図4に示すように、半円形断面であり2つ合わされば円形となるものと、その一端側に沿って接着される円形断面でより小径のものと、が組み合わされている。
【0039】
図4(a)に示すように、分岐部15のうち円形で小径のチューブの方は、分岐部15全体の直ぐ基端側で途切れており(
図1参照)、その内部は、前記流入路12にそのまま連通接続された小径の流入路12aとなっている。ここで流入路12aは、分岐部15の基端側で直ぐに供給口12bとして開口している。なお、供給口12bの数や形状は、特に限定されるものではなく適宜定め得る設計事項である。
【0040】
図4(a),(b)に示すように、分岐部15のうち半円形断面のチューブの方は、分岐部15全体に亘って延びており、その内部は、前記流出路13にそのまま連通接続された流出路13aとなっている。ここで流出路13aは、分岐部15の基端側から先端側にかけて軸方向に延びており、先端側でそのまま回収口13bとして開口するほか、その手前でも複数箇所で回収口13bとして開口している。なお、回収口13bの数や形状も、特に限定されるものではなく適宜定め得る設計事項である。
【0041】
<<チューブ本体11の基端側>>
図1に示すように、チューブ本体11の基端側には、カテーテルヘッド30が設けられている。カテーテルヘッド30は、流入路12と、流出路13と、給排路14と、にそれぞれ連通する三叉のファネル(漏斗)状に形成されている。カテーテルヘッド30の材質は、チューブ本体11の材質よりも硬度のある合成樹脂が適している。カテーテルヘッド30のうち、チューブ本体11と同軸方向に延びる主管部は、流出路13と連通して洗浄液を排出するための接続コネクタ31となっている。
【0042】
接続コネクタ31の先端側より分岐する一方の管部は、流入路12と連通して洗浄液を注入する接続コネクタ32であり、他方の管部は、給排路14と連通してバルーン20を膨張させる流体を通過させる接続コネクタ33となっている。接続コネクタ33には、バルーン拡張バルブ33aが一体に設けられている。バルーン拡張バルブ33aの内部には逆止弁が備えられており、流体注入用のシリンジ(図示せず)を差し込んだ時だけ、給排路14が外部と連通するように構成されている。
【0043】
<バルーン20>
図1に示すように、バルーン20は、チューブ本体11の先端側の途中に配置され、当該部位の外周面を全周方向に覆う状態で膨張可能に設けられている。詳しく言えばバルーン20は、略円筒形の伸縮可能な袋状に形成されており、バルーン20の先端口縁と基端口縁は、それぞれチューブ本体11の外周面に所定幅の接着代で固着されている。バルーン20の内部に位置するチューブ本体11の途中に、前記給排路14が開口している。
【0044】
バルーン20は、給排路14を通じて流体による加圧ないし減圧の操作により、チューブ本体11の周りで拡張ないし収縮する。すなわち、バルーン20は、給排路14より流体が導入される加圧操作により、チューブ本体11を中心として例えば前後が若干潰れた球形に膨張し(
図1参照)、給排路14より流体が排出される減圧操作により、チューブ本体11の外周面に密着するように収縮する。なお、バルーン20の材質は、柔軟性があり弾性変形が可能な材質であれば良く、例えばシリコーンゴム等が適している。
【0045】
<付帯する構成>
図1に示すように、チューブ本体11を子宮内に挿入するとき、各分岐部15の先端側を含めたチューブ本体11の内部に挿入するスタイレット1が組み合わされる。スタイレット1は、チューブ本体11の内部に挿入して内芯とするものである。スタイレット1の先端側は、2つの分岐部15に合わせて分岐している。スタイレット1の材質は、例えばステンレス等の金属が適している。なお、スタイレット1の代わりに、チューブ本体11の外側に装着する外筒2(
図8参照)を組み合わせても良い。外筒2について、詳しくは後述する。
【0046】
また、チューブ本体11の使用時には、そのカテーテルヘッド30の接続コネクタ32に、洗浄液の供給部41からチューブ本体11の流入路12に洗浄液を供給するための洗浄液供給チューブ40が接続される。ここで供給部41は、所定量の洗浄液を貯留可能な筒状のケースであり、その上部に設けられた管状の洗浄液注入口41aを介して、図示省略した洗浄液のバッグに連通接続される。なお、洗浄液のバッグは、例えば生理食塩水バッグをそのまま用いると良い。
【0047】
洗浄液供給チューブ40には、カテーテルヘッド30の接続コネクタ32に接続される先端側から順に、三方活栓42と、クランプ43を設けると良い。三方活栓42およびクランプ43は、それぞれ洗浄液供給チューブ40を流れる洗浄液の流量を調整するためのものである。
【0048】
また、チューブ本体11の使用時には、そのカテーテルヘッド30の接続コネクタ31には、三方活栓51を介して回収液排出チューブ50が接続される。三方活栓51は、回収液排出チューブ50を開閉して流路を切り替えるものである。また、回収液排出チューブ50の途中には逆止弁52が設けられている。
【0049】
回収液排出チューブ50の排出口(先端側)は、例えばバケツ等の回収部に配される。詳しくは後述するが、回収液排出チューブ50の排出口とチューブ本体11の各分岐部15との上下の位置関係により、サイフォンの原理によってポンプ等の動力を用いることなく洗浄液を回収することができる。
【0050】
<動物用カテーテル10の作用>
次に、本実施形態に係る動物用カテーテル10の作用を説明する。
牛の子宮洗浄は、繁殖管理上必要な不受胎治療の手段であり、特に牛の分娩後、子宮内に未だ胎膜や胎盤の名残である内容物が残っている場合、排出させる必要がある。そこで、本動物用カテーテル10を用いて牛の子宮洗浄を行う場合、
図1において、先ずカテーテルヘッド30の接続コネクタ32に洗浄液供給チューブ40を接続し、チューブ本体11の流入路12を洗浄液で満たす。
【0051】
続いて、挿入用のスタイレット1を、チューブ本体11の流出路13に挿入する。チューブ本体11の先端側の各分岐部15にも、それぞれスタイレット1の先端側の分岐した部位を挿入して内芯とする。かかる状態で動物用カテーテル10を牛の子宮に導入する。すなわち、チューブ本体11の先端側をスタイレット1と共に、
図5に示す牛の子宮頸管a1に押し込みながら通過させる。そして、各分岐部15を子宮角a2に挿入してから、スタイレット1を抜去する。
【0052】
バルーン20には、バルーン拡張バルブ33aから流体(例えば空気や滅菌蒸留水等)を注入する。このとき、流体を注入するシリンジを押した時の圧が強いようであれば、バルーン20が子宮頸管a1内にあるので、チューブ本体11をさらに押し進めて膨張させる。このようにしてバルーン20を、子宮体部a4の位置に留置する。すると、各分岐部15の先端側は、それぞれ子宮角a2の奥で洗浄液が貯まる箇所に到達する。
【0053】
その後、洗浄液注入口となる接続コネクタ32に、洗浄液供給チューブ40を介して洗浄液の供給部41を接続し、チューブ本体11の流入路12から洗浄液を子宮内へ供給する。洗浄液の供給中は、チューブ本体11の流出路13を三方活栓51によって閉じておく。洗浄液の流量は、洗浄液供給チューブ40の途中にある三方活栓42およびクランプ43によって必要に応じて調整する。
【0054】
バルーン20の直ぐ先の各分岐部15の基端側にある供給口12bから洗浄液は排出される。洗浄液により子宮内部は洗浄されて、洗浄後の洗浄液は子宮角a2内に溜まる。子宮内全域に洗浄液が溜まったところで、流入路12を閉じる一方、流出路13を開けて、洗浄後の洗浄液を外部へ排出させる。子宮角a2内では、各分岐部15の先端側にある回収口13bから洗浄液が回収され、チューブ本体11の流出路13を経て、カテーテルヘッド30の接続コネクタ33より三方活栓51を介して回収液排出チューブ50へ導かれる。
【0055】
このとき、回収液排出チューブ50の排出口を、子宮角a2よりも低い位置に設置した回収液受け用のバケツ等に入れると、サイフォンの原理によって洗浄後の洗浄液を容易に回収することができる。なお、子宮内に十分な量の洗浄液を供給したにも関わらず排出されない場合には、粘性の高い残留物が詰まっている可能性がある。かかる場合には、カテーテルヘッド30の接続コネクタ31にシリンジ接続し、陰圧をかけることにより内容物を吸引することができる。
【0056】
回収液がスムーズに流れる準備が整ったら、流出路13を閉じる一方、流入路12を開けて洗浄液を子宮内に供給する。洗浄液の一定量の流入あるいは自然落下での流入が止まったら、流入路12を閉じる一方、流出路13を開けて洗浄液を外部へ排出する。このような操作を、回収される洗浄液が十分にきれい(透明)になるまで繰り返し、洗浄液の濁りを見極めて洗浄を終了する。
【0057】
本実施形態の動物用カテーテル10では、チューブ本体11でバルーン20より先端側が、牛の子宮内にある2つの子宮角a2に合わせて分岐しており、各分岐部15は、それぞれ先端が各子宮角a2内の奥で洗浄液が貯まる箇所まで到達する。これにより、子宮内にある2つの子宮角a2を同時に洗浄することが可能となり、同じ作業を各子宮角a2毎に繰り返す必要はなく、大幅に作業時間を短縮することができる。
【0058】
また、本実施形態の動物用カテーテル10では、チューブ本体11の先端が子宮角a2内の奥の洗浄液に接しなかった従前と比べて、子宮を持ち上げる操作も不要となり、作業自体も簡素化されて容易に洗浄を行うことができる。さらに、チューブ本体11より洗浄液を排出する回収液排出チューブ50の下端側を、チューブ本体11の各分岐部15より低い位置とすることで、サイフォンの原理によってポンプ等の動力を用いることなく洗浄液を容易に排出することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態の動物用カテーテル10によれば、チューブ本体11の内部で、洗浄液を注入する流入路12と、洗浄液を回収する流出路13とを、それぞれ完全に分離させて設けている。これにより、従来のように洗浄液の注入と回収を一つの経路で兼用していた場合にあった、途中まで回収してきた洗浄液が再び子宮内へ押し戻されて逆流する事態を防止することができる。
【0060】
また、本実施形態の動物用カテーテル10によれば、流入路12からの洗浄液の供給口12bを、各分岐部15のそれぞれ基端側に開設し、流出路13への洗浄液の回収口13bを、各分岐部15のそれぞれ先端側に開設している。これにより、供給口12bから洗浄液は、子宮内における子宮角a2の入口側から奥に向かって周囲を洗いながら流れ、洗浄し終えた洗浄液は、子宮角a2の奥側より回収口13bから回収される。このため、洗浄効率が高まり、流入路12および流出路13を開けたままの状態で自動洗浄も可能となる。
【0061】
また、本実施形態の動物用カテーテル10において、流出路13に接続される回収液排出チューブ50の途中に、逆止弁52を設けている。かかる逆止弁52を設けた場合には、子宮内が陰圧になった時でも、回収液排出チューブ50から空気を吸い込む現象を防ぐことができる。
【0062】
さらに、本実施形態の動物用カテーテル10によれば、チューブ本体11を子宮内に挿入するとき、各分岐部15の先端側を含めたチューブ本体11の内部にスタイレット1を挿入して内芯とする。これにより、牛の子宮のように子宮頸管a1が狭くて複雑な構造であっても、容易かつ迅速にチューブ本体11を挿入する作業を行うことが可能となる。
【0063】
<<外筒2について>>
前記実施形態では、チューブ本体11を子宮内に挿入するときに、内芯となるスタイレット1を用いたが、この内芯の代わりに
図8に示す外筒2を用いても良い。詳しく言えば外筒2は、少なくともバルーン20から分岐部15の先端側に亘る長さに設定されている。外筒2の材質は、例えばステンレス等の金属が適している。なお、外筒2として、具体的には例えば、受精卵を採取したり精液注入するための金属製の管状器具をそのまま代用しても良い。
【0064】
このような外筒2を、各分岐部15も含めたチューブ本体11の外側に装着することにより、子宮の内部が狭くて複雑な構造であっても、容易かつ迅速にチューブ本体11を挿入する作業を行うことが可能となる。チューブ本体11を子宮内に挿入するときは、外筒2を装着したままの状態で子宮頸管a1に押し込み通過させて一時固定し、チューブ本体11のみをバルーン20が外筒2の先端口から出るまで子宮角a2内に各分岐部15を挿入していく。
【0065】
外筒2は、チューブ本体11を子宮内に挿入するとき、外筒2の先端口から各分岐部15の先端が外部に少しだけ出るような状態でチューブ本体11の外側に装着される。
図9(a)に示すように、各分岐部15の先端は、1本に重ね合わせたとき、角がない滑らかな球冠状となるように形成されている。なお、外筒2の抜け止めは、その基端側の内側に配されるバルーン20によって行われる。
【0066】
また、外筒2の先端口より各分岐部15を突出させたとき、各分岐部15の先端同士が互いに離れて左右に広がる状態とする必要がある。そのため、各分岐部15を、元から先端側が互いに左右に反って広がる状態に形成すると良い。あるいは、
図9(b)に示すように、外筒2の先端口から飛び出した各分岐部15の先端を、これらが左右に広がる方向と直交する方向から合わせ目付近に力を加えることで、各分岐部15の先端同士を左右に広げるようにすることも考えられる。
【0067】
<動物用カテーテル10の変形例>
次に、本実施形態の変形例に係る動物用カテーテル10Aについて説明する。
本変形例に係る動物用カテーテル10Aは、各分岐部15a,15bの長さに差を設けて、子宮内で左右の識別が付けられるようにしている。
図10(a)に示すように、長い方の分岐部15aに内芯となるスタイレット1を挿入する(図中の矢印(1)参照)。短い方の分岐部15bの先端側にはループ16が装着されている。ループ16は、ある程度の硬度を備え弾性変形が可能な環状のものであり、例えば釣り糸により形成すると良い。
【0068】
図10(b)に示すように、短い方の分岐部15bにあるループ16を、長い方の分岐部15aの回収口13bに入れる(図中の矢印(2)参照)。そして、
図10(c)に示すように、長い方の分岐部15aに挿入していたスタイレット1を先端側に移動させて(図中の矢印(3)-1参照)、回収口13bより内部にあるループ16に通す。この状態でチューブ本体11を子宮の奥へ挿入し、子宮頸管を通過させる(図中の矢印(3)-2参照)。これにより、子宮への挿入時に各分岐部15a,15bを1本にまとめることができ、各分岐部15a,15bの先端同士がずれることを防ぐこともできる。
【0069】
図10(d)に示すように、各分岐部15a,15bの先端側を子宮頸管に通過させた後にスタイレット1を抜き取り、カテーテル本体11をさらに奥へ進めて、各分岐部15a,15bをそれぞれ両子宮角に押し入れる。そして、バルーン20を子宮体部で膨張させて固定する。これ以降は、前述した洗浄作業を行う。このように、各分岐部15a,15bをまとめて狭い子宮頸管を円滑に通過させた後にスタイレット1を抜くことで、スタイレット1からループ16も外れて、各分岐部15a,15bの先端側を両側へ分離させることができる。
【0070】
以上のような動物用カテーテル10,10Aによれば、例えば牛の子宮洗浄に最適に適用することができる。本実施形態の動物用カテーテル10,10Aを用いて子宮洗浄を行うことにより、子宮内にある不要物を排出し自浄作用を補助することになり、牛の受胎性を回復させることが可能となる。
【0071】
なお、本発明の実施形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、チューブ本体11における分岐部15、バルーン20、それにカテーテルヘッド30の具体的な形状や相対的な大きさは、図示したものに限定されることはない。また、使用対象の動物も必ずしも牛に限らず、子宮内に2つの子宮角(内腔)のある他の偶蹄目に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る動物用カテーテルは、特に牛等の動物の子宮を洗浄するために適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…スタイレット
2…外筒
10,10A…動物用カテーテル
11…チューブ本体
12…流入路
12b…供給口
13…流出路
13b…回収口
14…給排路
15,15a,15b…分岐部
16…ループ
20…バルーン
30…カテーテルヘッド
40…洗浄液供給チューブ
50…回収液排出チューブ
52…逆止弁