(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039056
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】医薬組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/713 20060101AFI20220303BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220303BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220303BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20220303BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20220303BHJP
A61K 35/12 20150101ALN20220303BHJP
【FI】
A61K31/713
A61P35/04
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/46
A61K9/50
A61K35/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020143848
(22)【出願日】2020-08-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイト(https://www.meeting-schedule.com/jca2019/)で公開された第78回日本癌学会学術総会の講演予稿集の第1220頁、P3367 ウェブサイト掲載日 令和元年9月5日
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】櫨川 舞
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA16
4C076AA64
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB17
4C076BB25
4C076BB27
4C076CC27
4C076CC50
4C076EE57
4C076FF36
4C076FF63
4C076GG42
4C076GG45
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB34
4C087BB63
4C087MA52
4C087MA55
4C087NA13
4C087ZB26
(57)【要約】
【課題】核酸医薬を標的細胞に送達可能な医薬組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】医薬組成物は、投与対象に由来するエクソソームと、前記エクソソームに内包されるオリゴヌクレオチドとを含む。また、医薬組成物の製造方法は、投与対象に由来する血液試料からエクソソームを得ることと、得られたエクソソームにオリゴヌクレオチドを内包させることとを含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
投与対象に由来するエクソソームと、前記エクソソームに内包されるオリゴヌクレオチドとを含む医薬組成物。
【請求項2】
前記オリゴヌクレオチドは、siRNAを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記エクソソームは、投与対象のがん細胞に由来するエクソソームを含む請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記エクソソームは、投与対象の血液試料に由来する請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
転移がんの処置に用いられる請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
投与対象に由来する血液試料からエクソソームを得ることと、得られたエクソソームにオリゴヌクレオチドを内包させることとを含む医薬組成物の製造方法。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチドは、siRNAを含む請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記エクソソームは、投与対象のがん細胞に由来するエクソソームを含む請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記医薬組成物は、転移がんの処置に用いられる請求項6から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の医薬組成物を、対象に投与することを含む、疾患の処置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソーム(エキソソーム)は、真核細胞においてエンドソーム区画で形成される膜結合性の細胞外小胞である。エクソソームは、タンパク質、核酸等の機能性生体分子を内包して受容細胞に送達することができる。例えば、特許文献1には、生物学的治療剤を含むミルク由来エクソソームが提案されている。また、腫瘍細胞に由来するエクソソームには、特定の臓器を指向する特性があることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、核酸医薬を標的細胞に送達可能な医薬組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本発明は以下の態様を包含する。第1態様は、投与対象に由来するエクソソームと、エクソソームに内包されるオリゴヌクレオチドとを含む医薬組成物である。オリゴヌクレオチドはsiRNAを含んでいてよい。エクソソームは、投与対象のがん細胞に由来するエクソソームを含んでいてよく、投与対象の血清に由来してよい。また、医薬組成物は、転移がんの処置に用いられてよい。
【0006】
第2態様は、投与対象に由来する血清からエクソソームを得ることと、得られたエクソソームにオリゴヌクレオチドを内包させることとを含む医薬組成物の製造方法である。オリゴヌクレオチドは、siRNAを含んでいてよい。エクソソームは、投与対象のがん細胞に由来するエクソソームを含んでいてよい。
【0007】
第3態様は、前記医薬組成物を、対象に投与することを含む疾患の処置方法である。医薬組成物が含むオリゴヌクレオチドはsiRNAを含んでいてよい。医薬組成物が含むエクソソームは、投与対象のがん細胞に由来するエクソソームを含んでいてよい。エクソソームは、投与対象の血清に由来してよい。疾患の処置方法は、転移がんの処置に用いられてよい。
【0008】
第4態様は、投与対象に由来するエクソソームと、エクソソームに内包される生物学的治療薬とを含む医薬組成物である。生物学的治療薬は、投与対象に由来するエクソソーム中に天然には存在しないものであってよい。生物学的治療薬は、ペプチドもしくはタンパク質またはオリゴヌクレオチドであってよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、核酸医薬を標的細胞に送達可能な医薬組成物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】がん細胞由来のエクソソームの肺への集積性を示す図である。
【
図2】がん細胞由来のエクソソームの肺への集積性を示すグラフである。
【
図3】がん細胞由来のエクソソームのsiRNAの細胞への送達性を示す図である。
【
図4】がん細胞由来のエクソソームのsiRNAの細胞への送達性を示すグラフである。
【
図5】がん細胞由来のエクソソーム製剤の標的タンパク質の発現抑制を示す図である。
【
図6】がん細胞由来のエクソソーム製剤の標的タンパク質の発現抑制を示すグラフである。
【
図7】がん細胞由来のエクソソーム製剤の肺へのがん転移抑制を示す図である。
【
図8】がん細胞由来のエクソソーム製剤の肺へのがん転移抑制を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、医薬組成物及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す医薬組成物及びその製造方法に限定されない。
【0012】
医薬組成物
医薬組成物は、投与対象に由来するエクソソームと、エクソソームに内包されるオリゴヌクレオチドとを含む。医薬組成物は、エクソソームの由来である投与対象に投与され、投与対象が有する疾患の処置に適用される。オリゴヌクレオチドがエクソソームに内包されていることで、オリゴヌクレオチドの分解が抑制され、生体中での安定性が向上すると共に細胞透過性を向上させることができる。また、エクソソームが投与対象に由来することで低い抗原性を達成でき、高い安全性を担保することができる。
【0013】
医薬組成物の投与対象は、例えば、哺乳動物であってよく、哺乳動物はヒトを含む。また、投与対象は、非ヒト動物であってもよい。さらに投与対象は疾患を有する哺乳動物であってもよい。投与対象における疾患には、がん、悪性黒色腫、眼底黒色腫、乳癌、膵臓癌、大腸癌、骨肉腫等の転移がん等が含まれる。疾患の処置とは、疾患について施される何らかの処置であればよく、例えば、疾患の治療、改善、進行の抑制(悪化の防止)、予防、疾患に起因する症状の緩和等が挙げられる。
【0014】
医薬組成物を構成するエクソソームは、医薬組成物の投与対象に由来する。エクソソームは、例えば、投与対象から採取された生体液試料、投与対象から採取された細胞の培養上清から抽出することができる。生体液試料としては、全血、血漿、血清等の血液試料、尿、涙液、唾液、髄液等を挙げることができる。投与対象から採取された細胞としては、腫瘍細胞、免疫細胞(正常細胞)等が挙げられる。エクソソームは投与対象の血液試料から抽出されることが好ましく、血清から抽出されることがより好ましい。エクソソームの抽出は、例えば、市販のエクソソーム抽出キットを用いて、キットの取扱説明書に準じて行うことができる。
【0015】
ここで本明細書における「エクソソーム」という用語は、「微小胞」、「リポソーム」、「エキソソーム」、「エクソソーム様粒子」、「エクソソーム様小胞」、「脂肪球皮膜」、「ナノベクター」、「アーキソーム」、「ラクトソーム」、「細胞外小胞」、「アルゴソーム」、「アポトーシス小体」、「エピジジモソーム」、「プロミニノソーム」、「プロスタソーム」、「デキソソーム」、「テキソソーム」、「オンコソーム」という用語およびその概念を包含するものである。また、エクソソームの平均粒子径は、例えば20nm以上200nm以下であってよい。
【0016】
医薬組成物を構成するエクソソームは、投与対象が有するがん細胞に由来するエクソソームを含むことが好ましい。がん細胞に由来するエクソソームを含むことで、高い臓器指向性を得ることができる。がん細胞に由来するエクソソームには、がん細胞が産生するエクソソームが含まれる。がん細胞は、原発巣の種類によって、転移先がある程度特定されることが知られている。がんの主な転移先は、例えば、メラノーマであれば、肺等であり、眼内黒色腫であれば肝臓等であり、乳がんであれば肺、肝臓、脳、骨等であり、膵がんであれば肝臓等であり、大腸がんであれば肝臓等であり、骨肉腫であれば肺等である。このような高い臓器指向性を有するエクソソームを含む医薬組成物は、転移がんの処置に特に有効であると考えられる。
【0017】
がん細胞に由来するエクソソームの表面には、例えば、CD9、CD63、CD81等のテトラスパニン類、インテグリン、ICAM-1、VCAM-1等の接着因子、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、各種受容体、コレステロール、各種抗体、セラミド等が存在していると考えられる。
【0018】
エクソソームに内包されるオリゴヌクレオチドは、投与対象に由来するエクソソームが元々内包し得るオリゴヌクレオチドとは異なるものであって、疾患の処置に用いられるものであれば特に制限されない。オリゴヌクレオチドとしては、siRNA、shRNA、miRNA、siRNA発現ベクター、shRNA発現ベクター、miRNA発現ベクター、アンチセンス核酸、デコイ核酸、アプタマー、CpGオリゴ等が挙げられる。オリゴヌクレオチドは、少なくともsiRNAを含むことが好ましい。オリゴヌクレオチドの塩基配列は、特に制限されず、医薬組成物の目的等に応じて適宜選択されればよい。オリゴヌクレオチドは、1本鎖であっても、2本鎖であってもよい。
【0019】
siRNAは、21から23塩基対からなる二本鎖RNAである。siRNAはRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象に関与しており、mRNAを分解することによって配列特異的に標的遺伝子の発現を抑制することができる。siRNAは二本鎖RNAであるが、各RNA鎖の3’部分が2塩基分突出した構造をとっている。siRNAはヘアピン状のRNAあるいは長鎖の二本鎖RNAからダイサーと呼ばれる酵素によって切り出されて産生されることが知られており、その結果としてそれぞれの鎖は5’末端にリン酸基と3’末端にヒドロキシ基を有した構造となっている。siRNAは、例えば、細胞増殖を抑制する機能、浸潤を抑制する機能、遊走を抑制する機能、免疫を抑制する機能等を有するものであってよい。siRNAの標的遺伝子としては、例えば、Glypcian-3、CyclinB1等を挙げることができる。
【0020】
miRNAは、20から25塩基長の機能性核酸である。miRNAは、機能性のncRNA(ノンコーディングRNA)であり、他の遺伝子の発現を調節するという生命現象において重要な役割を担っていると考えられている。miRNAは、標的mRNAの3’非翻訳領域(UTR)に結合し、翻訳を阻害することによって、標的遺伝子発現を調節すると考えられている。miRNAは、例えば、細胞増殖を抑制する機能、浸潤を抑制する機能、遊走を抑制する機能、免疫を抑制する機能等を有するものであってよい。miRNAの標的遺伝子としては、例えば、Glypcian-3、CyclinB1等を挙げることができる。
【0021】
エクソソームに内包されるオリゴヌクレオチドは、siRNA及びmiRNAの少なくとも一方を発現するベクターであってもよい。ベクターを用いることで、siRNA又はmiRNAの効果をより持続させることができる。
【0022】
エクソソームに内包されるオリゴヌクレオチドは天然型のヌクレオチド残基から構成されていてもよく、非天然型の修飾ヌクレオチド残基を含んで構成されていてもよい。非天然型の修飾ヌクレオチド残基としては、例えば、ヌクレオシド間のホスホジエステル結合を修飾したもの、リボースの2’水酸基を修飾したもの、分子内架橋されたリボースを含むもの、プリン塩基及びピリミジン塩基の少なくとも一方を修飾したもの等が含まれる。ホスホジエステル結合部分の修飾の例としては、例えば、ホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、メチルチオホスホネート化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化、ペプチド結合置換等が挙げられる。リボースの2’水酸基の修飾の例としては、2’-O-メチル化、2’-O-メトキシエチル化、2’-O-アミノプロピル(AP)化、2’-フルオロ化、2’-O-メチルカルバモイルエチル化、3,3-ジメチルアリル化等が挙げられる。リボースの分子内架橋体の例としては、2’位と4’位が架橋したヌクレオチド(2’,4’-BNA)が挙げられる。2’,4’-BNAには、例えば、LNAとも称されるロックド核酸(α-L-メチレンオキシ(4’-CH2-O-2’)BNA又はβ-D-メチレンオキシ(4’-CH2-O-2’)BNA、ENAとも称されるエチレンオキシ(4’-(CH2)2-O-2’)BNA)、β-D-チオ(4’-CH2-S-2’)BNA、アミノオキシ(4’-CH2-O-N(R)-2’)BNA(Rは、H又はCH3)、2’,4’-BNANCとも称されるオキシアミノ(4’-CH2-N(R)-O-2’)BNA(Rは、H又はCH3)、2’,4’-BNACOC、3’アミノ-2’,4’-BNA,5’-メチルBNA,cEt-BNAとも称される(4’-CH(CH3)-O-2’)BNA,cMOE-BNAとも称される(4’-CH(CH2OCH3)-O-2’)BNA,AmNAとも称されるアミド型BNA(4’-C(O)-N(R)-2’)BNA(Rは、H又はCH3)等が挙げられる。塩基部分の修飾の例としては、ハロゲン化;メチル化、エチル化、n-プロピル化、イソプロピル化、シクロプロピル化、n-ブチル化、イソブチル化、s-ブチル化、t-ブチル化、シクロブチル化等のアルキル化;水酸化;アミノ化;脱アミノ化;デメチル化等が挙げられる。
【0023】
エクソソームに内包されるオリゴヌクレオチドの量は、目的等に応じて適宜選択すればよい。例えば、エクソソームの質量に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であればよく、好ましくは、0.2質量%以上1.0質量%以下であってよい。
【0024】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでいてもよい。薬学的に許容される担体としては、医薬品の製剤に慣用されている担体であれば、いずれも使用することができる。担体としては、例えば、半固形製剤または液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤またはpH調整剤、無痛化剤などが挙げられる。更に必要に応じて、保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、清涼化剤または矯味矯臭剤、消泡剤、粘稠剤等の添加物を含んでいてもよい。
【0025】
液状製剤における溶剤としては、例えば、精製水、エタノール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油などが挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、カルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プロピレングリコール、ポビドン、メチルセルロース、モノステアリン酸グリセリンなどが挙げられる。等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、D-マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤またはpH調整剤としては、例えば、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0026】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などが挙げられる。着色剤としては、例えば、食用色素(例:食用赤色2号若しくは3号、食用黄色4号若しくは5号等)、β-カロテンなどが挙げられる。甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテームなどが挙げられる。清涼化剤または矯味矯臭剤としては、例えばl-メントールまたはハッカ水などが挙げられる。消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサンまたはシリコン消泡剤などが挙げられる。粘稠剤としては、例えばキサンタンガム、トラガント、メチルセルロースまたはデキストリンなどが挙げられる。
【0027】
医薬組成物は、必要に応じて、抗がん剤を含有していてもよく、抗がん剤と併用してもよい。抗がん剤としては、例えば、代謝拮抗剤、分子標的薬、アルキル化剤、植物アルカロイド剤、抗癌性抗生物質、プラチナ製剤、ホルモン剤、生物学的応答調節剤、免疫チェックポイント阻害剤などが挙げられる。
【0028】
抗がん剤のうち、例えば、代謝拮抗剤としてはゲムシタビン、シタラビン、エノシタビン、テガフール、カルモフールなどが挙げられる。分子標的薬としてはイマチニブ、ゲフィチニブ、スニチニブ、セツキシマブなどが挙げられる。アルキル化剤としてはイホスファミド、シクロホスファミド、ダカルバシンなどが挙げられる。植物アルカロイド剤としてはドセタキセル、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチンなどが挙げられる。抗がん性抗生物質としてはピラルビビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、ペプロマイシンなどが挙げられる。プラチナ製剤としてはシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンなどが挙げられる。ホルモン剤としてはエキセメスタン、タモキシフェン、プレドニゾロンなどが挙げられる。生物学的応答調節剤としてはインターフェロン、インターロイキンなどが挙げられる。免疫チェックポイント阻害剤としては、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブなどがあげられる。
【0029】
医薬組成物における有効成分の含量は、剤形、投与量等により異なるが、例えば、組成物全体の0.1質量%以上20質量%以下、又は0.1質量%以上10質量%以下である。また、医薬組成物の投与用量は、投与対象、疾患、症状、剤形、投与ルート等により適宜選択される。投与用量は、例えば、成人の癌患者に経口投与する場合、有効成分として、1日あたり、通常約0.1mg以上500mg以下、又は約0.5mg以上100mg以下であり、1回又は数回に分けて投与することができる。
【0030】
医薬組成物は、その剤形により非経口または経口投与することができる。非経口投与される剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、点眼剤、経鼻剤、経肺剤などが挙げられる。また、経口投与される剤形としては、例えば、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの液体状製剤もしくはゼリー剤などの半固形製剤が挙げられる。
【0031】
医薬組成物の製造方法
医薬組成物の製造方法は、投与対象に由来する血液試料からエクソソームを得る第1工程と、得られたエクソソームに所望のオリゴヌクレオチドを内包させる第2工程とを含む。
【0032】
第1工程では、医薬組成物の投与対象から血液試料を採取し、採取した血液試料からエクソソームを抽出して得る。投与対象は、例えば、哺乳動物であり、哺乳動物はヒトを含む。また、投与対象は、非ヒト動物であってもよい。さらに投与対象は、腫瘍を有する哺乳動物であってよく、がんを有する哺乳動物であってもよい。第1工程は、投与対象から採取した血液試料に遠心分離等の常法により、血清を得ることを含んでいてよい。血液試料からのエクソソームの抽出は、例えば、市販のエクソソーム抽出キットを用いて、キットの取扱説明書に準じて行うことができる。
【0033】
第2工程では、抽出されたエクソソームに所望のオリゴヌクレオチドを内包させる。内包されるオリゴヌクレオチドの詳細については、既述の通りである。オリゴヌクレオチドのエクソソームへの内包方法としては、例えば、遺伝子導入試薬を用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。好ましくは遺伝子導入試薬を用いる方法である。遺伝子導入試薬は、市販の遺伝子導入試薬から適宜選択すればよい。オリゴヌクレオチドのエクソソームへの内包は、市販の遺伝子導入試薬の取扱説明書に準じて行えばよい。
【0034】
疾患の処置方法
疾患の処置方法は、有効量の前記医薬組成物を、対象に投与することを含む。医薬組成物の詳細および投与方法は既述の通りである。処置の対象は、例えば、哺乳動物であり、哺乳動物はヒトを含む。また、処置の対象は、非ヒト動物であってもよい。また、疾患は、例えば、悪性黒色腫、眼底黒色腫、乳癌、膵臓癌、大腸癌、骨肉腫等の転移がん等であってよい。
【0035】
本発明は、別の態様として、疾患の処置に用いられる医薬組成物の製造における投与対象に由来し、オリゴヌクレオチドを内包するエクソソームの使用、疾患の処置における投与対象に由来し、オリゴヌクレオチドを内包するエクソソームの使用、疾患の処置に使用される投与対象に由来し、オリゴヌクレオチドを内包するエクソソームを包含する。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
エクソソームの抽出
6週齢のC57BL/6マウス(雌性)の顎骨後部の静脈より、アニマルランセット(Goldenrod,5.5mm)を用いて、1頭あたり100から300μLを採血し、正常マウス由来の血液試料とした。次いで、マウスにマウスメラノーマ高転移株(B16/BL6)を、2×105cells/mouseで皮下移植した。移植から14日後に、上記と同様にして採血して、がんマウス由来の血液試料を得た。
【0038】
血液試料の採取後、4℃、15000rpmで10分間遠心し、50から100μLの血清を採取した。採取した血清を用いてエクソソーム抽出キットPureExo(R)(コスモバイオ)を用い、以下のようにしてエクソソームを回収した。
【0039】
血清100から500μLに対し、合計が2mLになるようにサンプルバッファーを加えた。SolutionA、SolutionB、SolutionCを1:1:1となるように各0.3mLずつ取り、均一な層になるまで十分に混合し、サンプルに全量を加えて転倒混和した後、4℃で30分間静置した。4℃、5,000×gで3分間遠心し、上層と下層をピペットで除く操作を3回行い、エクソソームが抽出されている白い中間層を残して室温で10分間乾燥させた。1×PBSを回収した中間層体積の4倍量加え、40回の激しいピペッティングで再懸濁しボルテックスで混和後、3分間の水平振とうと10回以上の十分なボルテックスによる混和を3セット繰り返した。4℃、5,000xgで5分間遠心し上清をPureExo(R)Columnに移した。PureExo(R)Columnを3,000xgで5分間遠心し、ろ液を「エクソソーム抽出液」とした。
【0040】
siRNAの導入
siRNAとして、グリピカン3(Glypcian-3;GPC3)に対するsiRNAをサーモフィッシャーサイエンティフィックから入手した。血清由来エクソソーム250μg相当のエクソソーム抽出液に100pmolのsiRNAと、2μLの遺伝子導入試薬Lipofectamin2000(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を加え、30分間37℃で静置した。これを実施例1のsiRNA導入エクソソーム製剤とした。
【0041】
実験1
がん移植モデルマウス血清由来エクソソームの肺集積性評価
正常マウス由来及びがんマウス由来のエクソソーム抽出液に対して、遺伝子導入試薬とインドシアニングリーン(ICG)を各種エクソソームと混合し12時間静置させ、ICG標識エクソソームをそれぞれ得た。がんマウス由来の血液試料を得てから14日後に、ICG標識エクソソームを400μg/mouseで、尾静脈内に投与した。投与1日後に、in vivo光イメージング装置Clairvivo OPT plus(島津製作所)を用いて、ICG標識エクソソームの体内分布を測定した。肺に対する集積状態を
図1及び
図2に示す。
図1(A)は、正常マウス由来エクソソーム製剤を投与した後の肺の画像であり、
図1(B)はがんマウス由来エクソソーム製剤を投与した後の肺の画像である。
図2には、蛍光強度を示す。
【0042】
図1(A)に示すように、正常マウス由来エクソソーム製剤を投与した後の肺にはエクソソームがほとんど集積していなかった。一方、
図1(B)に示すように、がんマウス由来エクソソーム製剤を投与した後の肺にはエクソソームが全体的に分布していた。
図2に示されるように、がんマウス由来のエクソソームは、正常マウス由来のエクソソームよりも有意に、肺への集積性が高かった。
【0043】
実験2
エクソソーム製剤の細胞内取り込み評価
蛍光標識したsiRNAとして、蛍光色素Alexa Fluor(R)488とsiRNA(GPC3)が結合したAlexa488-siRNA(GPC3)を、サーモフィッシャーサイエンティフィックに合成を依頼して入手した。また、血清由来エクソソーム166μg相当のエクソソーム抽出液に、160pmolのAlexa488-siRNA(GPC3)と、2μLの遺伝子導入試薬Lipofectamin2000(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を加え、30分間37℃で静置した。PBSで200μLとして、これを実験2のsiRNA導入エクソソーム製剤とした。
【0044】
24穴プレートを用い、マウスメラノーマ細胞株B16/BL6を、DMEMに10%FCSを添加した細胞培養液500μLに5×10
4cellsで播種し、5%CO
2で24時間培養した。siRNA導入エクソソーム製剤、またはコントロールとしてPBS、陽性対照としてAlexa488-siRNA(siRNA)を添加した。さらに24時間培養を継続した後、蛍光顕微鏡(EVOS)、フローサイトメトリー(NovoCyte:ACEABioScience)を用いて、培養細胞中へのsiRNA導入を評価した。結果を
図3及び
図4に示す。
図3(A)はコントロールの蛍光顕微鏡画像であり、
図3(B)はがんマウス由来エクソソーム製剤を添加した培養細胞の蛍光顕微鏡画像である。
図4はフローサイトメトリーの結果である。
【0045】
図3及び
図4から、がんマウス由来エクソソーム製剤を添加することで、高効率で培養細胞内にsiRNAが導入されることがわかる。
【0046】
実験3
エクソソーム製剤による標的タンパク質発現量の評価
実験2で、siRNA導入エクソソーム製剤を添加した後、さらに48時間培養を継続した。培養細胞を回収し、ウェスタンブロットにて標的タンパク質の発現量を評価した。ウェスタンブロットは以下のようにして行った。細胞回収の際に、lysis bufferを用いて、細胞溶解液として回収し、SDS-PAGEによる電気泳動を行った。その後、PDVF膜(転写膜)にゲル上のタンパクを転写し、一次抗体として目的タンパクに対する抗体を使用し、転写膜上のタンパクと4℃で一晩反応させた。二次抗体としてペルオキシダーゼ(酵素)が標識された一次抗体IgGに対する抗体を使用し再度転写膜上のタンパクと室温1時間反応させた。最後に基質を加え、二次抗体に標識された酵素が発光することを利用し、転写膜上のタンパクをバンドとして検出し、バンドの面積を算出し、タンパク定量を行った。結果を
図5及び
図6に示す。
【0047】
図5及び
図6から、正常マウス由来エクソソーム製剤、及びがんマウス由来エクソソーム製剤はコントロールに対して有意に、標的タンパク質の発現を抑制した。また、がんマウス由来エクソソーム製剤は、正常マウス由来エクソソーム製剤に対して有意に標的タンパク質の発現を抑制した(p<0.05)。
【0048】
実験4
エクソソーム製剤によるがん転移の評価
6週齢のC57BL/6マウス(雌性)にマウスメラノーマ細胞株B16/BL6を2×105cells/mouseで移植した。移植後14日目に顎骨後部の静脈より、アニマルランセット(Goldenrod,5.5mm)を用いて、1匹あたり100から300μLを採血し、がんマウス由来の血液試料とした。上記と同様にして、血液試料からの血清回収、血清からのエクソソーム抽出、エクソソーム抽出液へのsiRNA導入により、がんマウス由来エクソソーム製剤を調製した。また、メラノーマ細胞株を移植していないマウスを用いて同様にして、正常マウス由来エクソソーム製剤を調製した。正常マウス由来エクソソーム製剤としては、GPC3に対するsiRNAを導入した製剤(GPC3_siRNA)と、ネガティブコントロールのsiRNAを導入した製剤(NC_siRNA)を調製した。
【0049】
上記のマウスについて、マウスメラノーマ細胞株の移植から28日目に腫瘍を切除した。その後3日に1回の割合で、siRNA量として20pmol/mouseのエクソソーム製剤を静脈内に投与した。なお、コントロールにはPBSを投与した。移植から42日後に開胸して肺におけるコロニー数をカウントした。結果を
図7及び
図8に示す。
図7(A)はコントロール、
図7(B)は正常マウス由来エクソソーム製剤(NC_siRNA)、
図7(C)は正常マウス由来エクソソーム製剤(GPC3_siRNA)、
図7(D)はがんマウス由来エクソソーム製剤(GPC3_siRNA)を投与した肺の画像である。
【0050】
図7及び
図8から、GPC3_siRNAを導入したエクソソーム製剤は、コントロールに対して有意に肺転移を抑制することがわかる。