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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039136
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】凹凸欠陥の検出方法および検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20220303BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
G01N21/88 J
G01N21/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144005
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】592010519
【氏名又は名称】システム精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 秀毅
【テーマコード(参考)】
2G043
2G051
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA05
2G043FA01
2G043HA01
2G043HA09
2G043JA03
2G043LA02
2G043NA01
2G051AA71
2G051AB01
2G051AB03
2G051AB07
2G051BA10
2G051CA02
2G051CA07
2G051CB05
2G051CC07
2G051CC09
2G051DA08
2G051EA14
2G051EA16
2G051EB05
2G051EC01
(57)【要約】
【課題】被検査物の被検査面における凹凸欠陥を検出する。
【解決手段】凹凸欠陥の検出装置は、被検査面にレーザ光を照射するレーザ発振器16と、レーザ光の被検査面に対する照射位置を相対的に走査移動する走査機と、被検査面の異物および凹凸欠陥からの弾性散乱を検出する弾性散乱用光検出器21と、被検査面の異物からの非弾性散乱を検出する非弾性散乱用光検出器22と、凹凸欠陥に対応した前記弾性散乱の検出信号を前記非弾性散乱の検出信号により特定する欠陥判定処理制御部とを有し、被検査面に凹凸欠陥が存在するか否かを検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物の被検査面における凹凸欠陥を検出する凹凸欠陥の検出方法であって、
前記被検査面に照射されたレーザ光の異物および凹凸欠陥からの弾性散乱光を検出し、
前記被検査面に照射されたレーザ光の異物からの非弾性散乱光を検出し、
前記レーザ光の前記被検査面に対する照射位置を相対的に走査移動し、
凹凸欠陥に対応した前記弾性散乱光の検出信号を前記非弾性散乱光の検出信号により特定し、前記被検査面に凹凸欠陥が存在するか否かを検出する、凹凸欠陥の検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の凹凸欠陥の検出方法において、
異物に応じた前記弾性散乱光の検出信号と異物に応じた前記非弾性散乱光の検出信号とを相殺し、前記弾性散乱光の凹凸欠陥に応じた検出信号により、前記被検査面に凹凸欠陥が存在するか否かを検出する、凹凸欠陥の検出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の凹凸欠陥の検出方法において、
前記凹凸欠陥の前記被検査面における位置情報を演算し、前記凹凸欠陥の位置を検出する、凹凸欠陥の検出方法。
【請求項4】
被検査物の被検査面における凹凸欠陥を検出する凹凸欠陥の検出装置であって、
前記被検査面にレーザ光を照射する光源と、
前記レーザ光の前記被検査面に対する照射位置を相対的に走査移動する走査機と、
前記被検査面の異物および凹凸欠陥からの弾性散乱光を検出する弾性散乱用光検出器と、
前記被検査面の異物からの非弾性散乱光を検出する非弾性散乱用光検出器と、
凹凸欠陥に対応した前記弾性散乱光の検出信号を前記非弾性散乱光の検出信号により特定する欠陥判定処理制御部と、を有し、
前記被検査面に凹凸欠陥が存在するか否かを検出する、凹凸欠陥の検出装置。
【請求項5】
請求項4記載の凹凸欠陥の検出装置において、
前記欠陥判定処理制御部は、異物に応じた前記弾性散乱光の検出信号と、前記走査機からの位置情報に基づいて前記異物に応じた前記非弾性散乱光の検出信号とを相殺し、前記弾性散乱光の凹凸欠陥に応じた検出信号により、前記被検査面に凹凸欠陥が存在するか否かを検出する、凹凸欠陥の検出装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の凹凸欠陥の検出装置において、
前記欠陥判定処理制御部は、前記走査機からの位置情報に基づいて、前記凹凸欠陥の前記被検査面における位置を表示する、凹凸欠陥の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の被検査物の被検査面における凹部、キズおよび突起部などの凹凸欠陥を検出する凹凸欠陥の検出方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク基板等を被検査物として、これの表面にレーザ光を照射して表面を検査する技術が開発されている。被検査面にレーザ光を照射すると、被検査面に存在する異物だけでなく、被検査物の材料不良や製造工程における不良による凹凸やキズなどの凹凸欠陥によっても散乱光が生じる。レーザ光の散乱の強度、回折方向および正反射光の変位などの複数の光の振る舞いなどから被検査面の凹凸欠陥と異物を識別することが行われていたが、異物と凹凸欠陥とで同じように振る舞う散乱光が発生する場合には、異物と凹凸欠陥とを識別する精度が著しく低下する。
【0003】
散乱光には、弾性散乱および非弾性散乱がある。弾性散乱とは、物質に光を照射したときに物質との間でエネルギーのやり取りを生じることなく、照射された光と同一波長の散乱光であり、レイリー散乱とも言われる。一方、非弾性散乱とは、物質の分子振動によって入射光とは異なる波長に散乱し、光を物質に照射させたときに物質との間でエネルギーのやり取りが生じる散乱光であり、ラマン散乱とも言われる。
【0004】
ラマン散乱における入射光と異なった波長(振動数)は分子の固有振動数になっているため、そのスペクトルを分光し解析することによって、物質中の分子や化合物を同定することができるという利点がある。複数の異なる成分を持つ物質、または単一成分を持つ物質に連続してレーザ光を照射した場合には、各々の物質の種類に応じて波長も光強度も異なるラマン散乱が生じる。
【0005】
特許文献1は、半導体ウエハの表面にレーザ光を照射し、表面からの散乱光に基づいてウエハの表面に異物が存在するか否かを検出する異物検査装置を開示している。この異物検査装置においては、表面からの散乱光のうちラマン散乱光成分を分光フィルターにより除去し、ラマン散乱光成分の除去された散乱光を受光素子により受光し、その信号に基づいて異物の存在位置およびその大きさを検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-115593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、被検査体表面に生じる散乱光を波長別に分光し、分光された光の波長のうち異物に固有の波長に基づいて異物を検出するようにした異物検査装置を開示している。さらに、特許文献1は、入射光と同一波長のレイリー散乱光を遮断し、ラマン散乱光を分光した後にストークス光を抽出して、異物を検出する検査装置も開示している。光は無機化合物や有機物などの化学結合などの物質と比べた場合には、純金属などの金属結合の物質の中に入り込めず、ラマン散乱は、非常に微弱であり、実質的には殆ど発生しない。このため、非弾性散乱であるラマン散乱により被検査物の表面を検査する装置においては、被検査物の表面の凹凸部に照射されたレーザ光のラマン散乱は、レイリー散乱に比較して非常に弱いため、反射光として捉えることができない。
【0008】
本発明の目的は、被検査物の被検査面における凹凸欠陥を検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の凹凸欠陥の検出方法は、被検査物の被検査面における凹凸欠陥を検出する凹凸欠陥の検出方法であって、前記被検査面に照射されたレーザ光の異物および凹凸欠陥からの弾性散乱光を検出し、前記被検査面に照射されたレーザ光の異物からの非弾性散乱光を検出し、前記レーザ光の前記被検査面に対する照射位置を相対的に走査移動し、凹凸欠陥に対応した前記弾性散乱光の検出信号を前記非弾性散乱光の検出信号により特定し、前記被検査面に凹凸欠陥が存在するか否かを検出する。
【0010】
本発明の凹凸欠陥の検出装置は、被検査物の被検査面における凹凸欠陥を検出する凹凸欠陥の検出装置であって、前記被検査面にレーザ光を照射する光源と、前記レーザ光の前記被検査面に対する照射位置を相対的に走査移動する走査機と、前記被検査面の異物および凹凸欠陥からの弾性散乱光を検出する弾性散乱用光検出器と、前記被検査面の異物からの非弾性散光を検出する非弾性散乱用光検出器と、凹凸欠陥に対応した前記弾性散乱光の検出信号を前記非弾性散乱光の検出信号により特定する欠陥判定処理制御部と、を有し、前記被検査面に凹凸欠陥が存在するか否かを検出する。
【発明の効果】
【0011】
被検査面に単波長のレーザ光を照射すると、被検査面に付着した異物からの散乱光は弾性散乱光と非弾性散乱光とを含み、弾性散乱光は弾性散乱用光検出器により検出され、非弾性散乱光は非弾性散乱用光検出器により検出される。被検査面の凹凸欠陥にレーザ光が照射されると、凹凸欠陥からの散乱光は弾性散乱光のみであり、非弾性散乱光は実質的に発生しない。弾性散乱用光検出器は異物からの弾性散乱光と凹凸欠陥による弾性散乱光とを検出するが、何れであるかを判定することができない。非弾性散乱用光検出器は異物からの散乱光を検出し、凹凸欠陥による散乱光を実質的には検出しない。このことから、弾性散乱用光検出器の検出信号から非弾性散乱用光検出器の検出信号を相殺すると、弾性散乱用光検出器における異物と凹凸欠陥の検出信号の中から凹凸欠陥による信号だけを特定することができる。これにより、凹凸欠陥を異物と区別して高精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態である凹凸欠陥の検出装置を示す構成図である。
図2】他の実施の形態である凹凸欠陥の検出装置を示す構成図である。
図3】入射光と同じ波長の散乱光である弾性散乱と物質の固有振動によって生じる非弾性散乱の波長(振動数)毎の差と各散乱光強度を示す線図である。
図4】(A)はレーザ光の異物からの散乱光の強度イメージを示す線図であり、(B)は弾性散乱用光検出器による弾性散乱の検出信号のイメージを示し、(C)は非弾性散乱用光検出器による非弾性散乱の検出信号のイメージを示す。
図5】(A)はレーザ光の凹凸欠陥からの散乱光の強度イメージを示す線図であり、(B)は弾性散乱用光検出器による弾性散乱の検出信号のイメージを示し、(C)は非弾性散乱用光検出器による非弾性散乱の検出信号のイメージを示す。
図6】凹凸欠陥の検出装置における欠陥判定処理制御部を示すブロック図である。
図7】(A)は被検査面における異物からの散乱光と凹凸欠陥からの散乱光とを受光した弾性散乱用光検出器の検出信号と被検査面の被検査物の位置のイメージを示し、(B)は同様の散乱光を受光した非弾性散乱用光検出器の検出信号と被検査面の検出物の位置のイメージを示し、(C)は凹凸欠陥に対応した弾性散乱光の検出信号を非弾性散乱光の検出信号により特定した被検査面における凹凸欠陥の検出信号と被検査面の被検査物の位置のイメージを示す。
図8】被検査面における凹凸欠陥の検査フローと判定アルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。一実施の形態である凹凸欠陥の検出装置10は、図1に示されるように、例えば、ハードディスク用のアルミニウム製のサブストレートつまりアルミ基板を被検査物Wとし、その金属製の表面つまり被検査面Sにおけるキズ、凹部および突起等の欠陥(以下、凹凸欠陥と言う)を検出するために使用される。
【0014】
検出装置10は、支持台11に配置される移動ステージ12を有し、移動ステージ12は、図1において矢印Xで示す左右方向(X軸方向)、および紙面に垂直の方向(Y軸方向)に移動自在に支持台11に配置されており、移動ステージ12はX軸方向とY軸方向に水平面に沿って移動自在である。移動ステージ12には回転モータ13が装着され、回転モータ13により回転駆動される回転軸14には、金属製の被検査物Wを保持するチャック15が設けられている。被検査物Wである円板形状のアルミ基板の中央部には貫通孔が設けられており、チャック15は貫通孔の内周面に係合する図示しないコレットを備えている。
【0015】
検出装置10は光源としてのレーザ発振器16を有し、レーザ発振器16は被検査面Sの斜め上方に配置され、被検査面Sに向けて単波長のレーザ光を照射する。レーザ光の光路上には集光レンズ17が配置され、レーザ発振器16から照射されたレーザ光は集光レンズ17により集光され、被検査面Sには集光されたレーザスポット光が照射される。単波長レーザとしては、例えば、波長488nm、出力300mWの個体レーザに設定されている。
【0016】
被検査面Sからの散乱光を集光するために、被検査面Sに対向して集光部材としての集光レンズ18が配置されている。集光レンズ18に代えて集光ミラーを集光部材とすることもできる。集光された散乱光は、受光系の光軸に配置されたハーフミラー19により2つの系統に分けられる。2つの散乱光の一方は弾性散乱用光検出器21に入射され、他方は非弾性散乱用光検出器22に入射される。ハーフミラー19と非弾性散乱用光検出器22の間には、レーザ光と同じ波長の光つまり弾性散乱光が非弾性散乱用光検出器22に入射するのを遮断するために光学フィルター23が配置されている。光学フィルター23としては、例えばノッチフィルターまたはロングパスフィルターやショートパスフィルター、さらにはこれらを組み合わせたものを使用することができる。
【0017】
弾性散乱用光検出器21は散乱光のうち弾性散乱(レイリー散乱)を受光し、非弾性散乱用光検出器22は散乱光のうち非弾性散乱(ラマン散乱)を受光する。弾性散乱用光検出器21と非弾性散乱用光検出器22には、例えば、光電子倍増管がそれぞれ設けられている。
【0018】
この検出装置においては、被検査物Wを高速で移動するためにレーザが照射されたポイントの信号をメガヘルツ単位で高速に処理しなければならず、分光によるスペクトル解析は行わない。このことから、処理に時間を要するCCDやCMOSセンサーなどは用いない。
【0019】
ラマン散乱の光強度はレイリー散乱の強度に対して10-6程度と微弱であるが、照射光に対してはその振動数の4乗に比例する。そのため、波長の短い照射レーザ光ほどラマン散乱の強度は強くなる。
【0020】
図1においては、ハーフミラー19を透過した散乱光を弾性散乱用光検出器21に入射し、ハーフミラー19が反射した散乱光を非弾性散乱用光検出器22に入射させるようにしているが、これらの位置を逆転させても良い。その場合においては、弾性散乱用光検出器21の位置に配置されることになる非弾性散乱用光検出器22とハーフミラー19との間には光学フィルター23が配置される。
【0021】
レーザ光は被検査面Sの所定の照射位置に向けて照射される。一方、被検査物Wは回転モータ13により高速で回転駆動されるとともに、移動ステージ12により被検査面の外周面の法線方向に沿って移動される。このように、被検査物Wを走査移動することにより、レーザ光は被検査面Sをスパイラルスキャンする。ただし、被検査物を固定支持し、レーザ光を被検査面に対して走査移動させるようにしても良い。つまり、レーザ光の被検査面Sに対する照射位置の走査移動は相対的であれば良い。移動ステージ12と回転モータ13は、レーザ光の被検査面に対する照射位置を相対的に走査移動する走査機を構成している。
【0022】
走査時における移動ステージ12の移動方向は、X軸方向とY軸方向の一方に移動され、被検査物Wを走査開始位置に位置決めするときには二軸方向に移動される。走査移動方向としては、被検査物を回転させることなく、二軸方向に移動させることにより、レーザ光を被検査物に対して走査移動させることができる。
【0023】
図2は他の実施の形態である凹凸欠陥の検出装置10aを示しており、図1に示した検出装置10と共通性を有する部材には同一の符号が付されている。この検出装置10aにおいては、弾性散乱用光検出器21と非弾性散乱用光検出器22とがそれぞれ被検査物Wに対向するとともに相互にずらして配置されている。被検査面Sからの散乱光は、集光部材としての集光レンズ18により集光されて弾性散乱用光検出器21に入射される。さらに、被検査面Sからの散乱光は、集光部材としての集光レンズ24により集光されて非弾性散乱用光検出器22に、光学フィルター23を透過して入射される。光学フィルター23は、レーザ光と同じ波長の光つまり弾性散乱光と正反射光が非弾性散乱用光検出器22に入射されるのを遮断する。
【0024】
図1においては、共通の反射光軸をハーフミラー19により分岐して散乱光を弾性散乱用光検出器21と非弾性散乱用光検出器22とに照射しているのに対し、図2においては、相違した反射光軸に弾性散乱用光検出器21と非弾性散乱用光検出器22とを配置している。いずれの形態においても、弾性散乱用光検出器21には散乱光のうち弾性散乱(レイリー散乱)が入射され、非弾性散乱用光検出器22には散乱光のうち非弾性散乱(ラマン散乱)が入射される。
【0025】
図3は、入射光と同じ波長の散乱光である弾性散乱(レイリー散乱)と、被検査面Sの上の異物等の物質の固有振動によって生じる非弾性散乱(ラマン散乱)の波長(振動数)毎の差と、各散乱光強度のイメージとを示す線図である。縦軸は光の強度を示し、横軸はラマンシフト量(=波数:cm-1)を示す。図3において、入射光はどのような波長でも良く、物質に応じて入射光とは異なる波長の光が生じる。
【0026】
ラマン散乱のなかで、入射光の波長(振動数)よりも高い振動数の領域をアンチストークス散乱と言い、入射光の波長(振動数)よりも低い振動数の領域をストークス散乱と言う。高い振動数は短波長であり、アンチストークス散乱の領域である。低い振動数は長波長であり、ストークス散乱の領域である。各ストークスの光強度自体は微弱であるが、レイリー散乱生きの両側に現れるストークス光の総和を非弾性散乱用光検出器22で1つの信号している。
【0027】
被検査面上の異物に含まれる物質によっては、生じる非弾性散乱の数等が相違する。例えば、水であれば、超純水でない限り、HOだけでなく、不純物がいくつも含まれており、水以外にもラマン散乱が生じ、不純物の数だけ信号が現れる。
【0028】
図3に示されるように、ストークス散乱やアンチストークス散乱の1つ1つは光の波長毎に分散するため非常に微弱であるが、非弾性散乱用光検出器22で捉える光は各々の微弱な光が合算されたものとなるために総和された信号も合算されたものとなる。
【0029】
図4(A)は、被検査面Sに異物Qが存在した場合における散乱光の強度イメージを示す線図であり、図3に示した場合と同様に異物Qによって、入射光と同じ波長の散乱光である弾性散乱と、異物Qの物質の固有振動によって生じる非弾性散とが発生した場合を示す。したがって、弾性散乱用光検出器21には、異物Qからの弾性散乱光が入射され、非弾性散乱用光検出器22には非弾性散光が入射される。図4(B)は弾性散乱用光検出器21により検出された異物Qによる弾性散乱光の検出信号Dqを示し、図4(C)は非弾性散乱用光検出器22による非弾性散乱光の検出信号Eqを示す。図4(B)および図4(C)においては、検出信号の出力強度イメージを示す。
【0030】
検出信号Dqとしては、図4(A)においてレイリー散乱と記載された領域の信号の総和が1つの信号として出力される。検出信号Eqとしては、図4(A)において非弾性散乱と記載された領域の信号の総和が1つの信号として出力される。それぞれの出力信号に閾値Th1および閾値Th2を設定することにより、弾性散乱用光検出器21は、閾値Th1を越える強度の信号が検出されたときに、異物Qからの弾性散乱の検出信号Dqを出力し、非弾性散乱用光検出器22は、閾値Th2を越える強度の信号が検出されたときに、非弾性散乱の検出信号Eqを出力する。なお、それぞれの閾値Th1、Th2としては、1つだけでなく、複数の閾値を設定することもできる。
【0031】
図5(A)は被検査面Sに凹凸欠陥Rが存在した場合における散乱光の強度イメージを示す線図である。凹凸欠陥Rが存在すると、弾性散乱が発生するが、非弾性散乱は微弱であり、実質的には発生しないと同様である。したがって、弾性散乱用光検出器21には、上述のように、異物Qによる弾性散乱のみならず、凹凸欠陥Rによる弾性散乱が入射される。これに対し、凹凸欠陥Rによる非弾性散乱は微弱であり、非弾性散乱用光検出器22は凹凸欠陥Rからの非弾性散乱を検出することができない。
【0032】
図5(B)は弾性散乱用光検出器21により検出された凹凸欠陥Rによる弾性散乱の検出信号Drを示す。図5(C)は非弾性散乱用光検出器22が検出した凹凸欠陥Rによる微弱な非弾性散乱の検出信号Erを示しており、閾値Th2を設定することにより、非弾性散乱用光検出器22は被検査面Sに凹凸欠陥Rが存在していても、それを検出しない。図5(B)および図5(C)においては、検出信号の出力強度イメージを示す。
【0033】
このように、弾性散乱用光検出器21は、異物Qからの弾性散乱の検出信号Dqと、凹凸欠陥Rからの弾性散乱の検出信号Drとを出力する。しかし、両方の検出信号Dq、Drによって、異物Qであるか、凹凸欠陥Rであるかを判定することはできない。
【0034】
これに対し、非弾性散乱用光検出器22は、異物Qからの弾性散乱を検出するが、凹凸欠陥Rを検出しない。したがって、凹凸欠陥Rに対応した弾性散乱の検出信号Drを非弾性散乱の検出信号Erを検出しないことにより、被検査面Sに凹凸欠陥が存在するか否かを検出することができる。つまり、異物Qに応じた弾性散乱の検出信号Dqと異物Qに応じた非弾性散乱の検出信号Eqとが検出された場合にはこれらを相殺し、弾性散乱の凹凸欠陥Rに応じた検出信号Drのみにより、被検査面Sに凹凸欠陥Rが存在することを特定することができる。
【0035】
非弾性散乱の光強度の総和は異物の大きさに準じるものではないが、弾性散乱の光強度は(同形状の被検査物であれば)概ねその大きさに準じて大きくなる。したがって、その信号強度により欠陥の凡その大きさを知ることができる。
【0036】
上述のように、弾性散乱用光検出器21は、異物Qが存在していると検出信号Dqを出力し、凹凸欠陥Rが存在していると検出信号Drを出力するが、検出信号のみでは異物Qであるか、凹凸欠陥Rであるかを特定することができない。これに対し、非弾性散乱用光検出器22による異物Qによる検出信号Eqを利用し、検出信号Eqが検出されたら検出信号Dqは異物Qによる弾性散乱であると判定する。これにより、弾性散乱用光検出器21の検出信号Drが凹凸欠陥Rに基づく検出信号であることを特定することができる。つまり、非弾性散乱用光検出器22は、凹凸欠陥Rを検出することができないことから、凹凸欠陥Rの存在を特定することができる。
【0037】
図6は欠陥判定処理制御部を示すブロック図である。欠陥判定処理制御部はデータ処理回路31を有し、弾性散乱用光検出器21の出力信号は、I/V変換器32aにより電圧信号に変換され、増幅器33aにより増幅された後に、A/D変換器34aによりデジタル信号に変換されて、データ処理回路31に送られる。同様に、非弾性散乱用光検出器22の出力信号は、I/V変換器32b、増幅器33bおよびA/D変換器34bを介してデータ処理回路31に送られる。
【0038】
凹凸欠陥の検出装置10、10aは、走査時における回転モータ13または回転軸14の回転角度を検出するための回転エンコーダ35と、走査時における移動ステージ12の移動距離を検出するためのリニアエンコーダ36とを有し、それぞれのエンコーダ信号はデータ処理回路31に送られる。データ処理回路31は、異物Qと凹凸欠陥Rの弾性散乱の検出信号Dq、Drと、異物Qの非弾性散乱の検出信号Eqとに基づいて、凹凸欠陥Rの弾性散乱の検出信号のデータを特定し、凹凸欠陥Rが存在しているか否かを演算する。
【0039】
データ処理回路31は、制御プログラム、演算式、マップデータが格納されるメモリと、制御信号を演算するプロセッサなどを有し、凹凸欠陥Rの検出信号Drを検出した被検査面Sにおける位置情報のデータをそれぞれのエンコーダ信号に基づいて演算する。さらに、異物Qの検出信号Dq、Eqとエンコーダ信号とに基づいて、異物Qの被検査面Sにおける位置信号のデータを演算する。それぞれの位置信号のデータと検出信号のデータは、マッピング部37に送られ、異物Qと凹凸欠陥Rの被検査面Sにおけるマップが作られる。異物Qの位置はマッピング部37に設けられたディスプレイに表示される。さらに、欠陥判定処理制御部は、欠陥判定部38を有し、位置信号のデータと検出信号のデータとに基づいて、最終的に欠陥として判定された形状変化などの凹凸欠陥Rが欠陥判定部38に設けられた総合マップのディスプレイに表示される。マッピング部37および欠陥判定部38は、パーソナルコンピュータ39ソフトウエアにより構成されている。
【0040】
次に、上述した検出装置10、10aによる凹凸欠陥の検出方法についいて、図7および図8を参照しつつ説明する。
【0041】
図7はアルミ基板を被検査物Wとしてその表面からの散乱光により、被検査面Sにおける凹凸欠陥Rを検出する手順を示す。図7(A)は異物Qと凹凸欠陥Rに応じた弾性散乱用光検出器21の検出信号と被検査面の被検査物の位置のイメージを示し、図7(B)は異物Qに応じた非弾性散乱用光検出器22の検出信号と被検査面の被検査物の位置のイメージを示す。図7(C)は凹凸欠陥に対応した弾性散乱光の検出信号を非弾性散乱光の検出信号により特定した被検出面における凹凸欠陥の検出信号と被検査面の被検査物の位置のイメージを示す。上述した検出装置10、10aは被検査物Wをレーザ光に対して走査移動させているが、説明の便宜のために、図7においては回転モータ13により被検査物Wを回転移動させることにより、被検査物Wが基準位置(回転角度0°)から時間t1経過したときにレーザ光が異物Qを照射し、時間t2経過したときにレーザ光が凹凸欠陥Rを照射した場合を示す。
【0042】
図8は判定手順のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0043】
検出装置10、10aが起動されると、欠陥判定処理制御部は、ステップS1において、検査条件等の初期設定が行われる。これにより、移動ステージ12やレーザ発振器16等の機器は駆動可能な状態に設定される。検出装置10、10aに設けられた図示しない操作盤のスタートスイッチがステップS2において操作されると、回転モータ13と移動ステージ12が駆動されるとともにレーザ発振器16が点灯され、レーザ光が被検査面Sに向けて照射される。これにより、走査移動工程が実行されて、レーザ光の被検査面に対する照射位置が走査移動され、被検査面Sにおけるレーザ光の照射位置データがデータ処理回路31に読み込まれる(ステップS3)。
【0044】
被検査面Sに異物Qが付着していたり、凹凸欠陥Rが存在していたりすると、ステップS4において、弾性散乱用光検出器21は、それぞれの部位からの弾性散乱光を受光し、異物Qに起因した検出信号Dqと、凹凸欠陥Rに起因した検出信号Drとがデータ処理回路31に読み込まれる。さらに、非弾性散乱用光検出器22は、異物Qからの非弾性散乱光を受光し、異物Qに起因した検出信号Eqがデータ処理回路31に読み込まれる。
【0045】
例えば、図7(A)に示すように、基準位置からt1時間後に異物Qからの弾性散乱光が検出され、t2時間後に凹凸欠陥Rからの弾性散乱光が検出されたとすると、検出信号Dq、Drがデータ処理回路31に読み込まれる。一方、図7(B)に示すように、非弾性散乱用光検出器22は、基準位置からt1時間後に異物Qからの非弾性散乱光を検出するが、基準位置からt2時間後における凹凸欠陥Rからの非弾性散乱光は検出しない。それぞれの検出信号Dq、Dr、Eqが読み込まれた被検査面Sにおける被検査対象物の位置情報がデータ処理回路31に読み込まれ、異物Qと凹凸欠陥Rについての欠陥位置データが演算され、それぞれの位置データがメモリに格納される(ステップS5、S6)。
【0046】
同一の異物Qについては、弾性散乱用光検出器21による検出信号Dqと、非弾性散乱用光検出器22による検出信号Eqとが検出されるので、ステップS7においては、検出信号Eqに対応する検出信号Dqは、凹凸欠陥Rではないと判定し、両方の検出信号Dq、Eqを相殺する。
【0047】
ステップS8において、非弾性散乱用光検出器22が非弾性散乱を検出せずに、弾性散乱用光検出器21が検出信号Drを検出したとき、つまり検出信号Drのみが検出されたときには、検出信号Drは図7(C)に示されるように、凹凸欠陥Rの検出信号であると判定する。凹凸欠陥がある場合には、その被検査物は不良品であり、凹凸欠陥がなければその被検査物は良品であると判定し、1枚の被検査物に対する検査を終了する(ステップS9、S10)。
【0048】
1枚の被検査物Wについての検査が終了したら、ステップS11において、被検査面Sにおける凹凸欠陥Rの存否と、存在する場合にはその位置が最終的にマッピング処理されてメモリに記憶される。凹凸欠陥の位置はディスプレイに表示することもでき、表示されたデータをプリンタによりプリントすることもできる。
【0049】
特定の波長の光を発する物質が予め存在することが分かっている場合、入射光とその波長の両方を遮断する光学フィルターを設けると、非弾性散乱用光検出器22では何れの光も検出することができないことになるが、上述したアルゴリズムによって結果的に金属製部材の凹凸欠陥とその特定物質を弾性散乱光の信号から選択して検出することができる。
【0050】
ハードディスク用のアルミ基板にレーザ光を照射すると、金属結合の物質の中には入り込めないので、非弾性散乱つまりラマン散乱は実質的に殆ど発生しない。このため、非弾性散乱によりアルミ基板の表面の凹凸欠陥を検出することができないが、非弾性散乱を補助的に利用することにより、弾性散乱のうち凹凸欠陥に起因して発生する散乱光により、凹凸欠陥を高精度で検出することができる。被検査物Wとしては、ハードディスク用のアルミ基板に限定されることなく、平面基板であれば良く、例えば、被覆層が形成されたものなども被検査物とすることができる。
【0051】
上述した検出装置においては、弾性散乱用光検出器21と非弾性散乱用光検出器22には、高い応答周波数を有する光電子倍増管などの光検出器が用いられており、被検査物にレーザが照射された瞬間に高速信号化されて判定を行うことができる。光電子倍増管は、複数の受光素子が集約された撮像素子、例えばCCDやCMOSセンサーの反応速度では追い付かないほどの高速で処理することができる。
【0052】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した個体レーザに限られずファイバーレーザや半導体レーザを使用しても良く、レーザの波長も488nmに限られず、出力も300mWに限られず、500mWや1Wなど非弾性散乱光が得られる単波長レーザであれば良い。レーザ光の被検査物に対する入射角度や散乱光の集光ミラーや集光レンズの種類および受光角度は、弾性散乱と非弾性散乱を集光できる角度や機器であれば良い。また、被検査面Sにレーザ光を相対的に走査移動する方式としては、スパイラルスキャン方式に限られることなく、ラスター式またはプログレッシブ式走査方式を使用しても良い。
【符号の説明】
【0053】
10、10a 検出装置
11 支持台
12 移動ステージ
13 回転モータ
14 回転軸
15 チャック
16 レーザ発振器
17、18 集光レンズ
19 ハーフミラー
21 弾性散乱用光検出器
22 非弾性散乱用光検出器
23 光学フィルター
24 集光レンズ
31 データ処理回路
32a、32b I/V変換器
33a、33b 増幅器
34a、34b A/D変換器
35 回転エンコーダ
36 リニアエンコーダ
37 マッピング部
38 欠陥判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8