(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039178
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】既存堤防の補強構造
(51)【国際特許分類】
E02B 3/10 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
E02B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144072
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】594067368
【氏名又は名称】ワールドエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】和木 多克
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA02
2D118AA05
2D118AA10
2D118AA20
2D118BA01
2D118BA03
2D118BA05
2D118BA12
2D118CA07
2D118CA08
2D118FA01
2D118FB30
2D118GA07
2D118GA09
2D118GA11
(57)【要約】
【課題】既存の堤防等をほぼそのままそのまま活用することで費用の低減と工期の短縮とをはかることができるとともに、異常気象により流下水量が増えた場合であっても、浸食、洗堀、浸透、越水、地震による破壊から堤防等を護り、洪水の発生を防止することができる既存堤防等の補強構造を提供することを目的とする。
【解決手段】堤防5と地盤15とに入り込み堤防5に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第1の支持杭7と、地盤15に入り込み堤防5に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第2の支持杭9と、第1の支持杭7と第2の支持杭9とに設けられ水平方向に展開している床版11と、複数の第1の支持杭7の間、複数の第2の支持杭9の間の少なくともいずれかに設置されている仕切り壁13とを有する既存堤防の補強構造1である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第1の支持杭と、
上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の前記地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第2の支持杭と、
前記堤防の幅方向では、前記第1の支持杭と前記第2の支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記第1の支持杭の上側の部位と前記第2の支持杭の上側の部位とで、前記第1の支持杭と前記第2の支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、
前記堤防に沿って前記複数の第1の支持杭の間、前記複数の第2の支持杭の間の少なくともいずれかに設置されており、前記複数の第1の支持杭の間、前記複数の第2の支持杭の間の少なくともいずれかを閉じている仕切り壁と、
を有することを特徴とする既存堤防の補強構造。
【請求項2】
上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第1の支持杭と、
前記第1の支持杭よりも外側で、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第2の支持杭と、
前記堤防の幅方向では、前記第1の支持杭と前記第2の支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記第1の支持杭の上側の部位と前記第2の支持杭の上側の部位とで、前記第1の支持杭と前記第2の支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、
を有することを特徴とする既存堤防の補強構造。
【請求項3】
上側の部位が露出し下側の部位が堤防に入り込み、前記堤防に沿って設置されているキイと、
上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の前記地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の支持杭と、
前記堤防の幅方向では、前記キイと前記支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記キイの上側の部位と前記支持杭の上側の部位とで、前記キイと前記支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、
を有することを特徴とする既存堤防の補強構造。
【請求項4】
上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防に沿って設置されている支持体と、
上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の前記地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の支持杭と、
前記堤防の幅方向では、前記支持体と前記支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記支持体の上側の部位と前記支持杭の上側の部位とで、前記支持体と前記支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、
前記堤防に沿って前記複数の支持杭の間に設置されており、前記複数の支持杭の間を閉じている仕切り壁と、
を有することを特徴とする既存堤防の補強構造。
【請求項5】
上側の部位が露出し、中間の部位が堤防に入り込み、下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防の長手方向で連続して設けられている支持体と、
上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の前記地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の支持杭と、
前記堤防の幅方向では、前記支持体と前記支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記支持体の上側の部位と前記支持杭の上側の部位とで、前記支持体と前記支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、
を有することを特徴とする既存堤防の補強構造。
【請求項6】
上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込むようにして前記堤防沿い設置されているか、もしくは、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の内側の地盤に入り込むようにして前記堤防に沿い設置されている第1の支持体と、
上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込むようにして前記堤防沿い設置されているか、もしくは、上側の部位と下側の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の地盤に入り込むようにして、第1の支持体の外側で前記堤防に沿い設置されている第2の支持体と、
前記堤防の幅方向では、前記第1の支持体と前記第2の支持体との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記第1の支持体の上側の部位と前記第2の支持体の上側の部位とで前記第1の支持体と前記第2の支持体とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、
を有し、前記第1の支持体、前記第2の支持体のうちのいずれかが、または、いずれもが、前記堤防の内側を流れる水の止水壁になっていることを特徴とする既存堤防の補強構造。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の既存堤防の補強構造であって、
前記床版の上面から上方に所定の高さ突出しているとともに、前記堤防に沿って連続して長く延びているパラペットを有することを特徴とする既存堤防の補強構造。
【請求項8】
請求項7に記載の既存堤防の補強構造であって、
前記パラペットは、幅方向で前記床版の外側に位置していることを特徴とする既存堤防の補強構造。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の既存堤防の補強構造であって、
前記パラペットは、突出高さの値を変えることができるように構成されていることを特徴とする既存堤防の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存堤防の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
河川における堤防や貯水を目的とした溜池や貯水池の堤や土手は、主に土質系材料を構築材料として用いていることで、止水(遮水)を目的としている「土構造物」である。以下、河川堤防を例に掲げて説明する。
【0003】
従来、
図15で示すような河川303の堤防301が知られている。堤防301では、河川303を流れる水位の最大値(常態における最大値)として計画高水位が設定されている。しかしながら、気候変動による台風等の大雨によって非常態となり河川303を流れる水の量が増え堤防301を越水(越流)する水位になると、越水によって洪水が発生する(矢印A11~A13参照)。河川303の水が越流すると、越流した水が堤防301の裏法311を洗堀し、裏法311が崩れ、河川裏側の堤防301の部位が崩壊する。なお、
図15に参照符号305で示すものは家屋である。
【0004】
また、非常態となり河川303を流れる水の量が増えると、堤防301への水の浸透によって堤防301の浸透破壊が生じ洪水が発生したり(矢印A14~A17参照)、地盤307を流れる水の流れによる洗堀によって堤防301の洗堀破壊が生じ洪水が発生する(矢印A18~A23参照)。すなわち、水の流れで堤防301の浸食・洗堀が進行し、堤防301が崩壊する。また、堤防301内の水位が上がると、河川303の水が堤防301内に浸透し、パイピング現象が生じ(
図16の破線313を参照)堤防301の強度が低下して、堤防301が浸透崩壊する。
【0005】
また、非常態となり河川303を流れる水の量が増えると、水の流れ(矢印A24参照)により表法が浸食され堤防301が崩壊し洪水が発生する。すなわち、
図15で示す破線309が次第に
図15の左側から右側に移行し、堤防301が崩壊し洪水が発生する。なお、河川303における水の流れる方向は、
図15の紙面に対して直交する方向であるので、矢印A24は、矢印の形状になっておらず円形で示されている。
【0006】
ところで、気候変動が一因とみられる降雨の激甚化で、現状の降雨による洪水を河道内(いわゆる堤防301内)ので抑え込む対策は最善ではないという考え方から、計画的に水をあふれさせる流域治水という考え方がある。
【0007】
流域治水の概念は次のようなものである。
【0008】
遊水池の整備、霞堤の整備や活用、ダムの洪水調整機能の強化等をすることによって、遊水、貯留機能を向上させる。土地利用の制限、家屋の移転、住宅の嵩上げ等をすることによって、土地利用・住まい方の工夫をする。
【0009】
流域治水での、対象地域の移転や水を計画的にあふれさせる方針は、移転に対する住民感情や費用や事業期間に大きな問題が伴うとともに、計画的にあふれさせる事で、事後の復旧、復興に多大な費用と工期が必要になると思われる。
【0010】
また、従来の堤防301を高規格堤防とすることが考えられる。
【0011】
高規格堤防では、堤防の幅を広くし越水しても堤防上に緩やかに水を流して堤防の決壊を防ぐようにしている。また、高規格堤防では、堤防の幅を広くし水が浸透しても堤防内部の浸食による決壊を防ぎやすくしている。また、高規格堤防では、コアとなる構造体(コンクリートや鋼材製や粘土製)を設け、越水時における堤防の崩壊を防ぎ堤防の形状を保持するようにしている。
【0012】
ここで、従来の技術に関する文献として特許文献1を掲げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、高規格堤防を設置するとなると、堤防の作り直しもしくは大幅は改造が必要となり、工期が長くなり、コスト増になってしまう。
【0015】
本発明は、既存の堤防(堤体)や溜池や貯水池の堤や土手をほぼそのままそのまま活用することで費用の低減と工期の短縮とをはかることができるとともに、計画高水位を越える流下水量となった場合であっても、浸食、洗堀、浸透、越水、地震による破壊から堤防や溜池や貯水池の堤や土手を護り、洪水の発生を防止することができる既存堤防や溜池や貯水池の堤や土手の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第1の支持杭と、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の前記地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第2の支持杭と、前記堤防の幅方向では、前記第1の支持杭と前記第2の支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記第1の支持杭の上側の部位と前記第2の支持杭の上側の部位とで、前記第1の支持杭と前記第2の支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、前記堤防に沿って前記複数の第1の支持杭の間、前記複数の第2の支持杭の間の少なくともいずれかに設置されており、前記複数の第1の支持杭の間、前記複数の第2の支持杭の間の少なくともいずれかを閉じている仕切り壁とを有する既存堤防の補強構造である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第1の支持杭と、記第1の支持杭よりも外側で、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第2の支持杭と、前記堤防の幅方向では、前記第1の支持杭と前記第2の支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記第1の支持杭の上側の部位と前記第2の支持杭の上側の部位とで、前記第1の支持杭と前記第2の支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版とを有する既存堤防の補強構造である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、上側の部位が露出し下側の部位が堤防に入り込み、前記堤防に沿って設置されているキイと、側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の前記地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の支持杭と、堤防の幅方向では、前記キイと前記支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記キイの上側の部位と前記支持杭の上側の部位とで、前記キイと前記支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、を有する既存堤防の補強構造である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防に沿って設置されている支持体と、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の前記地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の支持杭と、前記堤防の幅方向では、前記支持体と前記支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記支持体の上側の部位と前記支持杭の上側の部位とで、前記支持体と前記支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版と、前記堤防に沿って前記複数の支持杭の間に設置されており、前記複数の支持杭の間を閉じている仕切り壁とを有する既存堤防の補強構造である。
【0020】
請求項5に記載の発明は、上側の部位が露出し、中間の部位が堤防に入り込み、下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込み、前記堤防の長手方向で連続して設けられている支持体と、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の前記地盤に入り込み、前記堤防に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の支持杭と、前記堤防の幅方向では、前記支持体と前記支持杭との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記支持体の上側の部位と前記支持杭の上側の部位とで、前記支持体と前記支持杭とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版とを有する既存堤防の補強構造である。
【0021】
請求項6に記載の発明は、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込むようにして前記堤防沿い設置されているか、もしくは、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の内側の地盤に入り込むようにして前記堤防に沿い設置されている第1の支持体と、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込むようにして前記堤防沿い設置されているか、もしくは、上側の部位と下側の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の地盤に入り込むようにして、第1の支持体の外側で前記堤防に沿い設置されている第2の支持体と、前記堤防の幅方向では、前記第1の支持体と前記第2の支持体との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記第1の支持体の上側の部位と前記第2の支持体の上側の部位とで前記第1の支持体と前記第2の支持体とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版とを有し、前記第1の支持体、前記第2の支持体のうちのいずれかが、または、いずれもが、前記堤防の内側を流れる水の止水壁になっている既存堤防の補強構造である。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の既存堤防の補強構造であって、前記床版の上面から上方に所定の高さ突出しているとともに、前記堤防に沿って連続して長く延びているパラペットを有する既存堤防の補強構造である。
【0023】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の既存堤防の補強構造であって、前記パラペットは、幅方向で前記床版の外側に位置している既存堤防の補強構造である。
【0024】
請求項9に記載の発明は、請求項7または請求項8に記載の既存堤防の補強構造であって、前記パラペットは、突出高さの値を変えることができるように構成されている既存堤防の補強構造である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、既存の堤防(堤体)や溜池や貯水池の堤や土手をほぼそのままそのまま活用することで費用の低減と工期の短縮とをはかることができるとともに、計画高水位を越える流下水量となった場合であっても、浸食、洗堀、浸透、越水、地震による破壊から堤防や溜池や貯水池の堤や土手を護り、洪水の発生を防止することができる既存堤防や溜池や貯水池の堤や土手の補強構造を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る既存堤防の補強構造の平面図である。
【
図2】
図1におけるII―II断面を示す図である。
【
図3】
図1におけるIII―III断面を示す図である。
【
図4】
図3におけるIV―IV断面を示す図である。
【
図8】(a)は
図2におけるVIIIA部の拡大図であり、(b)は
図3におけるVIIIB部の拡大図である。
【
図9】
図2や
図3に対応する図であって、本発明の第1の実施形態に係る既存堤防の支持杭や仕切り壁の位置の変更例を示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る既存堤防の補強構造の断面図であって、
図2に対応する図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態に係る既存堤防の補強構造の断面図であって、
図2に対応する図である。
【
図12】本発明の第4の実施形態に係る既存堤防の補強構造の断面図であって、
図2に対応する図である。
【
図13】本発明の第5の実施形態に係る既存堤防の補強構造の断面図であって、
図2に対応する図である。
【
図14】本発明の第6の実施形態に係る既存堤防の補強構造の断面図であって、
図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る既存堤防の補強構造1は、たとえば河川3の治水構造物である堤防(既存堤防;既存の構築構造の堤防)5を補強するものであり、
図1~
図4で示すように、第1の支持杭7と第2の支持杭9と床版(人工床版)11と仕切り壁13とを備えて構成されている。
【0028】
ここで、説明のために上下方向(鉛直方向;高さ方向)に対して直交する所定の一方向を幅方向とし、上下方向と幅方向とに対して直交する所定の一方向を上下流方向とする。幅方向の内側で河川3の水14が上下流方向の上流側から下流側に流れているものとする。
【0029】
なお、
図1~
図4では、1つの堤防(堤体)しか示されていないが、河川3を挟んだ反対側にも同様なもう1つ堤防が設けられていることがあり、この反対側の堤防にも、既存堤防の補強構造1が適用されることがある。また、堤防5やこれを補強している既存堤防の補強構造1が、上下流方向で必ずしも直線状になって延びていることはなく、湾曲しもしくは屈曲して延びている場合もある。
【0030】
第1の支持杭7は、細長い棒状に形成されている。第1の支持杭7の長手方向は概ね上下方向になっている。第1の支持杭7は、堤防5の幅方向では、堤防5の天端(堤防5の頂部)6のところに位置している。
【0031】
第1の支持杭7は、上側の部位が堤防5から露出している。また、第1の支持杭7は、中間の部位が打設されたことで堤防5に入り込み下側の部位が堤防5の下側の地盤15に打設されたことで堤防5と地盤15とに入り込んでいる。
【0032】
第1の支持杭7は、複数本設けられている。複数本の第1の支持杭7は、堤防5に沿い堤防5の長手方向(上下流方向)で所定の間隔をあけて堤防5と地盤15とに設置されている。
【0033】
第2の支持杭9も、第1の支持杭7と同様に、細長い棒状に形成されている。第2の支持杭9の長手方向も概ね上下方向になっている。
【0034】
既存堤防の補強構造1を設けたことによる堤防5の幅寸法(堤防敷の寸法)が大きくなることを極力防ぎ堤防5の裏法の上側に床版11を設けるために、第2の支持杭9は、堤防5の幅方向では、堤防5の裏法(堤防5の上から見て陸側の堤防斜面)17の裏法尻(堤防斜面の下部)19のところ、もしくは、
図2等で示すように、堤防5の裏法17の裏法尻19の近傍に位置している。
【0035】
第2の支持杭9が、堤防5の幅方向で、堤防5の裏法17のところに位置していてもよいし、堤防5の裏法17の裏法尻19から堤防5の外側に所定の距離だけ離れたところ(たとえば側帯21のところ)に位置していてもよい。なお、側帯21が、いわゆるゼロメートル地帯(地表の標高が満潮時の平均海水面以下の土地)になっていることもある。
【0036】
第2の支持杭9は、たとえば、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が堤防5の外側の地盤15に打設されたことで地盤15に入り込んでいる。第2の支持杭9も第1の支持杭7と同様に複数本設けられている。複数本の第2の支持杭9は、堤防5に沿い堤防5の長手方向(上下流方向)で所定の間隔をあけて地盤15に設置されている。
【0037】
床版11は、堤防5の幅方向では、第1の支持杭7と第2の支持杭9との間に設けられている。すなわち、床版11は、堤防5の幅方向では、少なくとも第1の支持杭7から第2の支持杭9にわたって延びている。
【0038】
床版11は、堤防5の長手方向では、堤防5に沿って長く延びている。また、床版11は、上下方向では、堤防5の上側で第1の支持杭7の上側の部位(たとえば上端面)と第2の支持杭9の上側の部位(たとえば上端面)とのところで、第1の支持杭7と第2の支持杭9とに一体的に設置されている。
【0039】
床版11の厚さ方向は概ね上下方向になっており、床版11は、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している。床版11の下面の一部(幅方向の内側の部位)は、緩衝工(図示せず)を介して堤防5の天端6に設置されているか、もしくは、堤防5の天端6に直接接している。また、床版11の表法55側上面には、係船柱(図示せず)が設置されている。
【0040】
仕切り壁13は、堤防5に沿って(堤防5の長手方向で)複数の第1の支持杭7の間に設置されており、さらに、堤防5に沿って複数の第2の支持杭9の間にも設置されている。そして、仕切り壁13によって、複数の第1の支持杭7の間が閉じられており、複数の第2の支持杭9の間も閉じられている。
【0041】
なお、仕切り壁13が、堤防5に沿って複数の第1の支持杭7の間、複数の第2の支持杭9の間の少なくともいずれかに設置されており、複数の第1の支持杭7の間、複数の第2の支持杭9の間の少なくともいずれかを閉じている構成になっていてもよい。
【0042】
仕切り壁13の厚さ方向は概ね幅方向になっている。仕切り壁13は、複数の支持杭7、9に沿って概ね上下方向に展開しているとともに、堤防5の長手方向にも展開している。
【0043】
仕切り壁13が設けられていることで、堤防5の堤体内側を流れる水14の止水壁が形成されている。すなわち、複数の第1の支持杭7の間に仕切り壁13が設けられていることで、第1の支持杭7と仕切り壁13とで、堤防5の堤体内側を流れる水の止水壁(ハイブリッド鉛直止水壁)23が形成されている。また、複数の第2の支持杭9の間に仕切り壁13が設けられていることで、第2の支持杭9と仕切り壁13とで、堤防5の堤体内側を流れる水の止水壁(ハイブリッド鉛直止水壁)25が形成されている。
【0044】
なお、仕切り壁13が複数の第1の支持杭7の間と第2の支持杭9の間と両方に設けられている態様では、止水壁が二重に設けられたフェイルセーフ構造(フォルトトレランスシステム)が形成される。
【0045】
第1の支持杭7や堤防5や第2の支持杭9が設けられている部位では、地盤15が、硬い地盤(たとえば不透水層)27と硬い地盤の上側の柔らかい地盤(たとえば透水層)29とから成っている。
【0046】
第1の支持杭7の下側の部位のうちの上部は柔らかい地盤29を貫通しており、第1の支持杭7の下側の部位のうちの下部は、硬い地盤27内に入り込んでいる。第2の支持杭9の下側の部位のうちの上部も柔らかい地盤29を貫通しており、第2の支持杭9の下側の部位のうちの下部も硬い地盤27内に入り込んでいる。
【0047】
また、既存堤防の補強構造1には、パラペット31が設けられている。パラペット31は、床版11の上面から上方に所定の高さ突出しているとともに、堤防5に沿って(堤防の長手方向で)連続して長く延びている。また、パラペット31は、幅方向で床版11の外側(河川3とは反対側)の端部に位置している。さらに、パラペット31は、
図7で示すように、床版11からの突出高さの値を変えることができるように構成されている。
【0048】
ここで、堤防5および既存堤防の補強構造1についてさらに詳しく説明する。
【0049】
堤防5は、堤体本体33とこの堤体本体33を覆っている捨石35とを備えて構成されている。堤防5の断面(上下流方向に対して直交する平面による断面)は、たとえば等脚台形状に形成されている。
【0050】
第1の支持杭7と第2の支持杭9とは、たとえば、鋼管で構成されており、お互いが同形状になっている。第1の支持杭7の上端面が堤防5の天端6で堤防5から露出している。そして、上下方向では、第1の支持杭7の上端面と堤防5の天端6との位置がお互いにほぼ一致している。上下方向では、第1の支持杭7と第2の支持杭9との位置がお互いにほぼ一致している。
【0051】
仕切り壁13は、たとえば、
図5(a)で示すように、矢板等の鋼材で構成されており、上下流方向では、お互いが隣接している第1の支持杭7(第2の支持杭9)の間に延びて設けられている。また、仕切り壁13は、上下方向では、床版11から地盤15の内部まで延びている。なお、
図5(b)で示すように、仕切り壁13が、支持杭7、9と同様な鋼管で構成されていてもよい。
【0052】
また、
図6(a)で示すように、仕切り壁13の下端は、硬い地盤27の上面のところに位置している。なお、
図6(b)で示すように、仕切り壁13の下端が、硬い地盤27内に位置してもよいし、
図6(c)で示すように、仕切り壁13の下端が、硬い地盤27の上面よりも上側で柔らかい地盤29内に位置してもよい。
【0053】
床版11は、たとえば矢板やデッキプレート等の鋼材とか、プレキャストコンクリートスラブとか、プレキャストコンクリートスラブに代わり現所打コンクリートスラブ等で構成されており、床版11の下面が第1の支持杭7の上端面と第2の支持杭9の上端面とが接合されている。
【0054】
ここで、パラペット31の床版11からの突出高さの値を変えることができるように構成について
図7を参照しつつ説明する。
【0055】
図7(c)で示す構成では、パラペット31が、パラペット本体37とパラペット嵩上げ体39とを備えて構成されている。パラペット嵩上げ体39は、ヒンジ部41を介してパラペット本体37に設置されており、パラペット本体37に対して回動するようになっている。
【0056】
そして、水位が堤防を越水する水位以下である場合に、実線で示すように、パラペット嵩上げ体39がパラペット本体37に被さっている。一方、水位が堤防を越水する水位をさらに越えそうな場合には、二点鎖線で示すように、パラペット嵩上げ体39がパラペット本体37に対してたとえば180°回動し、パラペット31の嵩上げがされるようになっている。
【0057】
なお、ヒンジ部41のところでは、許容できる程度の若干の水漏れがあるが、この水漏れを防止するために、ヒンジ部41のところにシール材やパッキンを設けてもよい。
【0058】
図7(a)で示す構成では、第2の支持杭9(第1の支持杭7)が上側部材43と下側部材45とで構成されている。上側部材43は下側部材45に対して上下方向に移動位置決め自在になっている。そして、
図7(a)で示す状態から上側部材43を上方に移動して
図7(b)で示す状態にすることで、パラペット31の嵩上げがされるようになっている。
【0059】
なお、
図7(a)(b)では示していないが、仕切り壁13も、支持杭7、9と同様に上側部材と下側部材とで構成されている。仕切り壁13の上側部材は、支持杭7、9の上側部材43に一体的に設置されており、仕切り壁13の下側部材は、支持杭7、9の下側部材45に一体的に設置されている。そして、
図7(a)(b)で示すように、パラペット31の高さ位置を変えても、仕切り壁13の上側部材と仕切り壁13の下側部材とがお互いに滑り対偶をなしていることで、ハイブリッド鉛直止水壁23、25での止水がほぼされるようになっている。
【0060】
次に、既存堤防の補強構造1による補強がされた堤防5における河川3の水14の流れについて説明する。
【0061】
常態では、
図2等で示すように、計画高水位以下の水位で水14が河川3を流れる。一方、大雨等によって河川3が増水すると、計画高水位以上の水位で水14が河川3を流れるようになる。しかし、河川3の増水があっても、堤防を越水する水位以下の水位であれば、パラペット31によって越水が防止される(矢印A1参照)。なお、計画高水位とは、堤防整備で基準となる水位であり、堤防5の高さは、計画高水位の高さに余裕高を加えて決定される。
【0062】
また、河川3の増水があっても、ハイブリッド鉛直止水壁23によって、堤防5に浸透した水や地盤15(柔らかい地盤29)を流れる水が遮断される(矢印A2、A3、A4参照)。さらに、河川3の増水による水の流れ(矢印A5参照)によって堤防5の内側も部位が洗堀(
図2に示す破線30を参照)されても、この洗堀は、ハイブリッド鉛直止水壁23のところで止まる。
【0063】
既存堤防の補強構造1は、中間の部位が堤防5に入り込み下側の部位が堤防5の下側の地盤15に入り込み堤防5に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第1の支持杭7と、下側の部位が堤防5の外側の地盤15に入り込み堤防5に沿い所定の間隔をあけて設置されている複数本の第2の支持杭9とを備えて構成されている。
【0064】
また、既存堤防の補強構造1には、床版11が設けられている。床版11は、堤防5の幅方向では第1の支持杭7と第2の支持杭9との間に設けられ、堤防5の長手方向では堤防5に沿って長く延びており、上下方向では第1の支持杭7の上側の部位と第2の支持杭9の上側の部位とで第1の支持杭7と第2の支持杭9とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している。
【0065】
さらに、既存堤防の補強構造1には、堤防5に沿って第1の支持杭7の間、第2の支持杭9の間に設置されて複数の支持杭7、9の間を閉じている仕切り壁13が設けられている。
【0066】
既存堤防の補強構造1がこのように構成されているので、既存の堤防(堤体)5をほぼそのままそのまま活用することができ、費用の低減と工期の短縮とをはかることができる。すなわち、堤防5内に第1の支持杭7をたとえば打設して設置することで、既存の堤防5に大きな改造を加えることなく、既存の堤防5をほぼそのままそのまま活用することができる。
【0067】
また、既存堤防の補強構造1が上述したように構成されていることで、水量が増えた場合であっても、浸食、洗堀、浸透、越水、地震による破壊から堤防5を護ることができる。すなわち、床版11と支持杭7、9と仕切り壁13とが設けられているので、増えた水による浸食、洗堀、浸透を支持杭7、9と仕切り壁13で抑えることができ、また、越水による堤防5の破壊を床版11等で防ぐことができる。
【0068】
また、既存堤防の補強構造1によれば、床版11が第1の支持杭7と第2の支持杭9との間に設けられており、第2の支持杭9が堤防5の裏法17の裏法尻19のところに設けられているので、堤防5を補強した場合においても、幅方向で堤防5が河川3とは反対側に広がることが防止される。すなわち、堤防5の幅寸法(堤防敷の寸法)の値が大きくなることを極力防ぐことができる。
【0069】
また、既存堤防の補強構造1によれば、床版11が第1の支持杭7の上端面と第2の支持杭9の上端面とで、第1の支持杭7と第2の支持杭9とに設置されており、しかも、床版11の厚さ方向が上下方向になっているので、上下方向で堤防5の天端6よりも僅かに上側に床版11が位置しており、床版11の上面によって、堤防5の天端6が幅方向の外側に延長された態様になっている。これにより、床版11を堤防5の天端6よりも幅の広い遊歩道等として活用することができる。
【0070】
また、既存堤防の補強構造1によれば、床版11の下面の一部が天端6に接合されているので、堤防5の天端6と床版11との間に水が流れにくくなり、堤防5の崩壊を防ぐことができるとともに、支持杭7、9の長さ寸法の値を小さくすることができる。
【0071】
また、既存堤防の補強構造1によれば、床版11の上面から上方に所定の高さ突出しているとともに堤防5に沿って連続して長く延びているパラペット31が設けられているので、これによる越水対策がされている。すなわち、越水防止のため堤防の嵩上げがはかられており、越水防止のため河川3の幅の拡充をはかることができており、洪水に対する流下能力が向上している。
【0072】
また、既存堤防の補強構造1によれば、パラペット31が幅方向で床版11の外側に位置しているので、平面視において床版11における水が流れる部位の面積が広くなり、河川3の流量が増えてもパラペット31で水をせき止めることができ、越水をさらに一層防止することができる。
【0073】
また、既存堤防の補強構造1によれば、パラペット31が突出高さの値を変えることができるように構成されているので、水量に応じた越水対策を講じることができる。すなわち、既存堤防の補強構造1によれば、既存の堤防5を利用し、越水対策を施し、浸食、洗堀、浸透防止工を加え、さらに地震に強い強靭な堤防に改善することができる。
【0074】
また、堤防5よりも上部に構築されている床版11は、堤防5の天端6よりも圧倒的に広い面積を有する。これにより、従来の機能(たとえば、人道や車道)の他、また、土嚢や防災用具の保管ヤードの他、異常時には救護ヤードとして、異常事態発生後には、大量の災害ゴミの集収分別ヤードや一時保管ヤードとして、復旧・復興ヤードとして活用できる。
【0075】
次に、
図9を参照しつつ、支持杭7、9と仕切り壁13との、幅方向での設置位置の変更について説明する。
【0076】
図1~
図4等で示した既存堤防の補強構造1では、
図9に二点鎖線47で示すところに第1の支持杭7と仕切り壁13(ハイブリッド鉛直止水壁23)を配置しており、
図9に二点鎖線49で示すところに第2の支持杭9と仕切り壁13(ハイブリッド鉛直止水壁25)を配置している。
【0077】
しかし、幅方向におけるハイブリッド鉛直止水壁23やハイブリッド鉛直止水壁25の位置は、
図1~
図4等で示すものに限定されるわけではない。
【0078】
すなわち、ハイブリッド鉛直止水壁23を、二点鎖線51で示すところ(堤防5の表法(堤防5の上から見て河川側の堤防斜面)55の表法尻(堤防斜面の下部)57のところもしくはこの近傍)に配置してもよいし、二点鎖線47と二点鎖線51との間の任意の位置に配置してもよい。なお、表法尻57と裏法尻17とをつないでいる部位(地盤15の上面の部位)は、堤防敷と呼ばれている。
【0079】
また、ハイブリッド鉛直止水壁25を、二点鎖線53で示すところ(堤防5の天端6のところ)に配置してもよいし、二点鎖線49と二点鎖線53との間の任意の位置に配置してもよい。
【0080】
ハイブリッド鉛直止水壁23を二点鎖線51のところに配置している構成では、床版11も幅方向の内側に延長されている。また、この場合、ハイブリッド鉛直止水壁23や床版11の内側の端には、フェンダー59が設置されている。フェンダー59の詳細については後述する。
【0081】
ここで、既存堤防の補強構造1についてさらに説明する。この説明は、上記記載等と重複している場もある。また、既存堤防5は、溜池や貯水池の堤(既存の堤)や土手(既存の土手)を含むものとする。
【0082】
支持杭7、9は、床版11に作用する全荷重(床版11、上昇水位、作業重機、地震力など)を支持できる層(硬い地盤)27まで建込まれている(打設されている)。
【0083】
支持杭7、9と連結されている仕切り壁(鉛直止水壁)13は、
図6等で示すように、堤防崩壊作用要素(浸食、洗堀、浸透、越水、地震)に対応した任意の深さまで建込まれている。
【0084】
床版11と堤防5の天端部6との間に僅かな隙間が形成され、この隙間が水道となることを防止するために、堤防5の天端部6に床版11を直接設置するのではなく、堤防5の天端部6と床版11との間に、上述した緩衝工を設けることが望ましい。緩衝工として、アスファルトマット、アスファルトマスチック、コンクリート等の層を用いるものとする。また、緩衝工は、床版11を築造する前に築造しておいてもよい。
【0085】
支持杭7、9と仕切り壁13(鉛直止水壁23、25)とは、施工上、鋼製(鋼管杭、鋼矢板)がよいが、コンクリート製や他のもので構成されていてもよい。
【0086】
たとえば、鋼製鉛直止水壁23、25として、鋼矢板、鋼管矢板、組み合わせ鋼矢板、箱形矢板、H鋼矢板、鋼板、場所打ちコンクリート系矢板等が採用される。支持杭7、9として、鋼材系杭、コンクリート系杭、場所打杭等が採用されてもよい。
【0087】
ところで、気候変動による降雨量の増加(たとえば、2016年のパリ協定など)に基づき、世界の平均気温が2℃上昇すると想定したとする。この想定により、降雨量が従来の1.1倍、洪水発生頻度が2倍に増加することが想定される。この場合の水害対策として堤防強化と言った従来のハード整備に加え、ソフト対策を強化することとする技術基準の見直しや堤防の嵩上げなどに着手するとの報道がされている。
【0088】
そもそも、いくら降水量が増加しても堤防5の決壊(崩壊)や堤防5からの越水がなければ洪水はおこりえない。一方、堤防5のない区画から水が溢れること(溢水)による被害もある。
【0089】
ここで、堤防5の被害と主因と結果について説明する。
【0090】
被害を招く主因が想定外の地震である場合には、結果として堤防5が崩壊し不健全な状態になる。そして、計画高水位や計画高水流量に達していなくても洪水が発生する。
【0091】
被害を招く主因が地震による地盤の液状化である場合も、結果として堤防5が崩壊し不健全な状態になる。そして、計画高水位や計画高水流量に達していなくても洪水が発生する。
【0092】
被害を招く主因が堤防5の圧密沈下である場合には、結果として堤防5の天端6の高さが不足し不健全な状態になる。そして、氾濫危険水位や計画高水位以下でも洪水が発生する。
【0093】
被害を招く主因が想定外の降雨による越水である場合には、堤防5の決壊は起こらず堤防5は健全な状態を維持するが、水が堤防5を乗り越えることによって洪水が発生する。
【0094】
被害を招く主因が水による堤防5の浸食である場合、水による堤防5の洗堀である場合、および、水の堤防5への浸透である場合には、結果として堤防5が崩壊し不健全な状態になる。そして、計画高水位や計画高水流量に達していなくても洪水が発生する。
【0095】
しかし、既存堤防の補強構造1が採用された堤防5によれば、上述した堤防5の被害を防止することができる。すなわち、上述した堤防5の被害を招いた主因を総てクリアにした健全な堤防を提供することができる。
【0096】
既存堤防の補強構造1では、現堤防5が健全な状態になっているが、不健全な状態になっているかを問わず、現在の堤防5を活用する。また、既存堤防の補強構造1では、現堤防5の前後の行政敷地内を活用する。すなわち、既存堤防の補強構造1が採用されたからと言って、堤防5の幅方向における寸法(堤防敷の寸法)がむやみに大きくならない(広がらないように)なっている。
【0097】
既存堤防の補強構造1では、気候変動による異常時高水位に対応した、水14の流下能力向上のために、堤防5の天端6高さ(より精確には、天端6高さに相当する既存堤防の補強構造1の上端の高さ)を、パラペット(cooping;parapet;かさ石)31により高めている。
【0098】
また、既存堤防の補強構造1では、気候変動による異常時高水流量に対応した、水14の流下能力向上のための床版11やパラペット31を設けている。
【0099】
現堤防5の崩壊の要因(想定外の地震、地震時の液状化、圧密沈下、越水、浸食、洗堀、浸透)により堤防5が崩壊状態になっても、既存堤防の補強構造1の工事がされていれば、堤防5の崩壊の要因となる作用外力に抗して洪水の危機から担保される。
【0100】
床版11および上載荷重および作用外力から伝達される各荷重を支持層(硬い地盤)27に伝達する支持杭7、9と、床版11との取合部(結合部;
図8参照)、および、堤防5の被害を招く主因となる要因に抗する鉛直止水壁23、25と床版11との取合部(結合部;
図8参照)は、一般的には、支承部(support;bearing;shoe)といわれている。支承部の主な役割は、上部構造物(床版11)の荷重を、下部構造物(支持杭7、9)に伝達するための機能を持っている。
【0101】
また、既存堤防の補強構造1では、ハイブリッド鉛直止水壁23、25の頭部(上端部)が、たとえば、
図8(a)(b)で示すように、床版11に止水を目的とした埋め込みがされている。つまり、ハイブリッド鉛直止水壁23、25の界面と床版11のハイブリッド鉛直止水壁23、25が埋め込まれている界面が、止水が必要とされる長さ埋め込まれている。
【0102】
なお、
図8で示す構成では、ハイブリッド鉛直止水壁23、25の上端部が、
図8で示すように、床版11の下面に形成されている溝部に埋め込まれているが、床版11の下面に溝部を設けることなく。ハイブリッド鉛直止水壁23、25の上端が、床版11の下面に接合されている構成であってもよい。
【0103】
また、ゴムパッキン等の止水を目的とした介在物(図示せず)により、ハイブリッド鉛直止水壁23、25(埋め込まれている範囲)の界面と床版11の界面とに、水道が発生しない工夫がされていてもよい。
【0104】
また、ハイブリッド鉛直止水壁23、25を構成する部材(たとえば、鉄板類、矢板類)同士の鉛直継手(上下方向に延びている接合部)および支持杭との鉛直継手に、止水工(たとえば、膨潤性止水材等の塗布がされていること)が施されていれば、より安定な構造体となる。
【0105】
また、床版11の上面は水平なレベルになっているが、床版11の上面(表面)に勾配がついていてもよい。たとえば、床版11の上面が、排水を考慮し河川3側に傾斜していてもよい。すなわち、幅方向において、床版11の上面に、河川3側で低く河川3側とは反対側で高くなるような勾配がついていてもよい。
【0106】
床版11からのパラペット31の天端の高さ(突出高さ)は、一定である必要は無い。陸地側(堤防5の外側;河川3とは反対側)に貯水池や洪水が発生しても問題の無い荒れ野原等がある場合には、当該地域(貯水池等)への排水を容易にして河口に向かう流下流量を削減し洪水災害の発生を防止し抑制するために、上下方向でのパラペット31の天端位置(パラペット31の高さ寸法の値)を堤防5の長手方向で適宜変えてもよい。すなわち、パラペット31の一部を切り下げたり、パラペット31の形状を櫛形にしたり、パラペット31に穴を穿ったりした構造にしてもよい。つまり、パラペット31に断面欠損部を予め構築してあってもよい。
【0107】
また、仕切り壁13を支持杭として用いてもよい。この場合、ハイブリッド鉛直止水壁23、25を構成している支持杭は不要になる。
【0108】
総てのハイブリッド鉛直止水壁23、25(支持杭7、9や仕切り壁13)は鉛直方向に延びているが、作用外力に対し、最も効果的(有効的)な反力が期待できる角度としてもよい(斜杭)。ただし、総てを斜杭(斜めに延びている杭)とする必要はなく、鉛直杭と組み合わせた複合杭としてもよい。さらに、斜杭の傾きの方向を支持杭毎に適宜変えてあってもよい。
【0109】
ハイブリッド鉛直止水壁23、25(支持杭7、9や仕切り壁13)に供することができる材料としては、杭、矢板で代表されるが、鋼材、杭、地下連続壁で代表されるプレキャスト系(工場で予め製造)および現所打系(現場で設けるコンクリート系)であってもよい。
【0110】
既存堤防の補強構造1は、既存の堤防5の天端6を常時活用(歩道、車道等)している場合の応用補強構造であり、脆弱堤防5でも強靭堤防であっても、既存堤防の補強構造1を採用することができる。
【0111】
ハイブリッド鉛直止水壁23、25の設置位置は、堤防5内でも堤防5外でもよいが、河川3側に設置すれば、従来通りの堤防5の天端6の活用が可能になる。
【0112】
図9で示されているフェンダー59に加えてタラップを設置してもよい。フェンダー59やタラップは、救助・救援活動等に活躍する船舶の接岸設備である。フェンダー59やタラップを設けることで、防災準備、復旧、復興の一躍を担うことができる。また、床版11の内側(表法55側)上部に係船柱(図示せず)を設けることで、船舶の接岸がより効果的となる。
【0113】
〔第2の実施形態〕
図10で示す第2の実施形態に係る既存堤防の補強構造1aは、床版11が堤防5から上側に離れている点が、本発明の第1の実施形態に係る既存堤防の補強構造1と異なり、その他の点は、既存堤防の補強構造1と同様に構成されており、既存堤防の補強構造1と同様に変更を加えることができるようになっている。
【0114】
既存堤防の補強構造1aでは、床版11の厚さ方向が概ね上下方向になっており、床版11が堤防5の上側で堤防5から離れている。また、支持杭7、9や仕切り壁13も、上側に延長されている。
【0115】
既存堤防の補強構造1aによれば、床版11が堤防5の上側で堤防5から離れているので、ハイブリッド鉛直止水壁23、25が堤防5よりも上側に突出していることになり、河川3の水14の流量が増えてもハイブリッド鉛直止水壁23、25によって水14をせき止めることができ、越水を一層防止することができる。また、堤防5の天端6や床版11の上面を、人や車の通り道等として有効活用することができる。
【0116】
〔第3の実施形態〕
図11で示す第3の実施形態に係る既存堤防の補強構造1bは、強靭な堤防5に採用されるものである。既存堤防の補強構造1bは、第1の支持杭7の代わりに止水キイ(キイ)61が用いられている等の点が、本発明の第1の実施形態に係る既存堤防の補強構造1と異なり、その他の点は、既存堤防の補強構造1と同様に構成されており、既存堤防の補強構造1とほぼ同様な変更を加えることができるようになっている。
【0117】
第3の実施形態に係る既存堤防の補強構造1bは、キイ61と支持杭(第2の支持杭)9と床版11とパラペット31とを備えて構成されている。
【0118】
キイ61は、上側の部位が堤防5から露出し下側の部位が堤防5(堤防5の上側の部位のみ)に入り込んでいる。また、キイ61は、堤防5に沿って(堤防の長手方向で)堤防5に設置されている。キイ61は、堤防5が想定外の河川の水量に対しても十分な強度を備えており崩壊等のおそれが無い場合に、第1の支持杭7の代わりに設置されている。キイ61は、堤防5の中央の上部に設置されており、逆等脚台形状になっている。
【0119】
支持杭9は、複数本設けられている。支持杭9は、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が堤防5の外側の地盤15に打設されたことで入り込んでいる。複数本の支持杭9は、堤防5に沿い、堤防5の長手方向で所定の間隔をあけて地盤15に設置されている。
【0120】
床版11は、堤防5の幅方向ではキイ61と支持杭9との間に設けられており、堤防5の長手方向では堤防5に沿って長く延びており、上下方向では、堤防5の上側でキイ61の上側の部位(たとえば上端面)と支持杭9の上側の部位(たとえば上端面)とで、キイ61と支持杭9とに一体的に設置されている。床版11は、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開しており、床版11の厚さ方向は概ね上下方向になっている。
【0121】
また、既存堤防の補強構造1bには、仕切り壁13が設けられている。仕切り壁13は、堤防5に沿って(堤防の長手方向)で)複数の支持杭9の間に設置されており、複数の支持杭9の間を閉じている。仕切り壁13の厚さ方向は概ね幅方向になっている。なお、仕切り壁13が削除されていてもよい。
【0122】
既存堤防の補強構造1bでは、キイ61が、堤防5にのみ入り込み堤防5に沿って設置されているので、第1の支持杭7を用いる場合よりもキイ61の設置が容易になっている。すなわち、ハイブリッド鉛直止水壁23の代わりにキイ61(たとえばコンクリート製)を用いることで施工がしやすくなる。
【0123】
なお、キイ61にせん断抵抗力を持たせたせん断キイとし、床版11の水平移動を抑制してもよい。
【0124】
堤防5が強靭で被害を招いた主因の総てに抗する場合には、河川3を流下する流量(水の容積)を増大させるためにのみ、堤防5に既存堤防の補強構造1bを適用することにする。
【0125】
堤防5が強靭なものである場合には、上述したようにハイブリッド鉛直止水壁25(支持杭9の仕切り壁13)が不要になる。また、既存堤防の補強構造1bでは、床版11から伝わる荷重に、堤防5の地盤反力と支持杭9の反力で抗する構造になっている。
【0126】
堤防5が強靭で被害を招く主因の総てに抗することができる強靭堤防である場合には、河川3を流下する流量のポケット(容積)の増大をはかり、壊れることのない強靭堤防を越水(オーバーフロー)し洪水を引き起こすことを防止する目的で、床版11やパラペット31が構築されている。
【0127】
床版11と堤防5の天端6の間には、隙間を埋めるための緩衝材(たとえば、アスファルトマット、アスファルトマスチックとかのクッション材;図示せず)を介在させる場合がある。なお、フェイルセーフの構造として最も信頼に足るキイ61を構築してもよい。このキイ61は、現所打ちコンクリート造でも、各種プレキャスト材でも、矢板系の錠剤であってもよい。
【0128】
〔第4の実施形態〕
図12で示す第4の実施形態に係る既存堤防の補強構造1cは、第1の支持杭7の代わりに支持体63が用いられている等の点が、本発明の第1の実施形態に係る既存堤防の補強構造1と異なり、その他の点は、既存堤防の補強構造1と同様に構成されており、既存堤防の補強構造1とほぼ同様な変更を加えることができるようになっている。
【0129】
第4の実施形態に係る既存堤防の補強構造1cは、支持体63と支持杭9と床版11と仕切り壁13とパラペット31とを備えて構成されている。
【0130】
支持体63は、上側の部位が堤防5から露出し中間の部位が堤防5に入り込み下側の部位が堤防5の下側の地盤15に入り込み、堤防5に沿って(堤防の長手方向で)堤防5に設置されている。支持体63の下端は、硬い地盤27の上面に当接しているが、破線で示すように、支持体63の下端部が、硬い地盤27内に入り込んでいてもよい。また、支持体63がキイ61と同様にコンクリート等で構成されていることが望ましい。
【0131】
支持杭9は、複数本設けられている。支持杭9は、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が堤防5の外側の地盤15に打設されたことで入り込んでいる。複数本の支持杭9は、堤防5に沿い、堤防5の長手方向で所定の間隔をあけて地盤15に設置されている。
【0132】
床版11は、堤防5の幅方向では支持体63と支持杭9との間に設けられており、堤防5の長手方向では堤防5に沿って長く延びており、上下方向では、堤防5の上側で支持体63の上側の部位(たとえば上端面)と支持杭9の上側の部位(たとえば上端面)とで、支持体63と支持杭9とに一体的に設置されている。床版11は、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開しており、床版11の厚さ方向は概ね上下方向になっている。
【0133】
また、既存堤防の補強構造1cには、仕切り壁13が設けられている。仕切り壁13は、堤防5に沿って(堤防の長手方向)で)複数の支持杭9の間に設置されており、複数の支持杭9の間を閉じている。
【0134】
なお、既存堤防の補強構造1cにおいて、支持杭9の間に設けられている仕切り壁13を削除してもよい。この場合、支持体63に止水壁としての機能を持たせることが望ましい。すなわち、支持体63を堤防5の長手方向で連続して堤防5に設け、止水壁としての機能を持たせることが望ましい。
【0135】
〔第5の実施形態〕
図13で示す第5の実施形態に係る既存堤防の補強構造1dは、設置対称である既存の堤防5が堀込み構造の堤防になっている等の点が、本発明の第1の実施形態に係る既存堤防の補強構造1と異なり、その他の点は、既存堤防の補強構造1と同様に構成されており、既存堤防の補強構造1とほぼ同様な変更を加えることができるようになっている。
【0136】
第5の実施形態に係る既存堤防の補強構造1dは、第1の支持杭7と第2の支持杭9と床版11と仕切り壁13とパラペット31とを備えて構成されている。
【0137】
第1の支持杭7は、上側の部位が堤防(堀込み構造の堤防)5から露出し中間の部位が堤防5に入り込み下側の部位が堤防5の下側の地盤15に入り込んでいる。第2の支持杭9も、上側の部位が堤防5から露出し中間の部位が堤防5に入り込み下側の部位が堤防5の下側の地盤15に入り込んでいる。
【0138】
床版11は、堤防5の幅方向では、第1の支持杭7と第2の支持杭9との間に設けられており、堤防5の長手方向では、堤防5に沿って長く延びており、上下方向では、堤防5の上側で第1の支持杭7の上側の部位(たとえば上端面)と第2の支持杭9の上側の部位(たとえば上端面)とで、第1の支持杭7と第2の支持杭9とに一体的に設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している。
【0139】
仕切り壁13は、堤防5に沿って複数の第1の支持杭7の間、複数の第2の支持杭9の間の少なくともいずれかに設置されており、複数の支持杭7、9の間を閉じている。なお、仕切り壁13が削除されていてもよい。
【0140】
また、既存堤防の補強構造1dでは、床版11の下面が緩衝工(図示せず)を介して堤防5の天端6に接合されているか、もしくは、堤防5の天端6に直接接合されている。
【0141】
〔第6の実施形態〕
図14で示す第6の実施形態に係る既存堤防の補強構造1eは、床版11が堤防5の上側で堤防5から離れている点が、本発明の第5の実施形態に係る既存堤防の補強構造1dと異なり、その他の点は、既存堤防の補強構造1dと同様に構成されており、既存堤防の補強構造1dとほぼ同様な変更を加えることができるようになっている。
【0142】
ここで、上述した既存堤防の補強構造1~1e等についてさらに説明する。
【0143】
河川3における堤防5や洪水時に一時的に水を貯留する遊水池の堤や土手、貯水を目的とした溜池や貯水池の堤や土手は、主に止水(遮水)を目的とした「土壌構造物」である。
【0144】
築堤(Embankment)を伴う河川堤防や、貯水池、遊水池、堰堤等の構造物は、土壌を主構築材料とした「止水(遮水)を目的とした土壌構造物」である。
【0145】
河川堤防の水理的な特徴は、高水が長期的なものでなく一時的なものであって、高水が短時間(短期間)のうちに減水していくことになる。このために、堤体内への水の浸透は、「非定常(非定常浸透流)」になる。
【0146】
貯水を目的とした溜池や貯水池や遊水池等の水理的な特徴は、長時間(長期間)にわたり水位を一定水位に近いレベルで保持することになる。これにより、堤体内への水の浸透は「定常(定常浸透流)」になる。
【0147】
溜池や貯水池は農林水産省の管轄であり、その堤の破壊モードについて3つに大別される。すなわち、
図15に参照符号313で示すパイピングによる浸透破壊、降水の浸透や貯水の浸透による滑り破壊、越流や越流浸食による越流破壊(
図15の破線315を参照)とに大別される。上述した既存堤防の補強構造1~1eによれば、上述した破壊を免れることができる。
【0148】
既存堤防の補強構造1~1eにおいて、支持杭7、9は人口床版11の荷重および上積載荷重および作用外力から伝達され各種荷重を、支持層27に伝えるための本数が必要になる。
【0149】
また、ハイブリッド鉛直止水壁23(25)を、1列のみとしてもよいし、複数列としてもよい。しかし、ハイブリッド鉛直止水壁23(25)は、管理型廃棄物埋立処分場に供される遮水工とは相違し、「遮水(水を遮る)」ではなく止水(水を止める)」ことを目的としている。ハイブリッド鉛直止水壁23(25)には、管理型廃棄物処分場のような漏水に関する性能規定は存在しない。これにより、ハイブリッド鉛直止水壁23(25)の構造は、浸透水ある程度止める構造であればよい。
【0150】
したがって、ハイブリッド鉛直止水壁23(25)に供する材料が、シート類でも木板類でも矢板類であっても、粘土類でも、鉄板類であっても、コンクリート類であっても、その性能を、十分に果たすことができる。
【0151】
堤防5に供する「土壌材料」は長大な堤防を安価にかつ、短工期で築造しなければならないから、品質の良い土壌材料を遠隔地からもとめることは、目的に合致せず、一般的に言っても不可能であるといわざるを得ない。
【0152】
したがって、ほとんどが、河川が搬送したその地点近傍の堤外地の土砂を用いることになるので、河川堤防5に供する土壌材料は、透水性材料が主体となる。このことが、河川堤防5の構造的弱点となってしまうといった宿命となる。しかし、上述した既存堤防の補強構造1~1eによれば、河川堤防5に供する土壌材料であっても、上述した破壊を免れることができる。
【0153】
堤防5内に補強構造1として新たに構築される杭群(支持7、9杭、ハイブリッド鉛直止水壁23、25)には、地震時の液状化防止とか、堤防5の強度増加等による耐震効果も期待される。
【0154】
なお、上述した既存堤防の補強構造1、1a、1b、1c、1d、1eは、次に示す既存堤防の補強構造の例である。
【0155】
すなわち、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込むようにして前記堤防沿い設置されているか、もしくは、上側の部位と中間の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の内側の地盤に入り込むようにして前記堤防に沿い設置されている第1の支持体と、上側の部位が露出し中間の部位が堤防に入り込み下側の部位が前記堤防の下側の地盤に入り込むようにして前記堤防沿い設置されているか、もしくは、上側の部位と下側の部位とが露出し下側の部位が前記堤防の外側の地盤に入り込むようにして、第1の支持体の外側で前記堤防に沿い設置されている第2の支持体と、前記堤防の幅方向では、前記第1の支持体と前記第2の支持体との間に設けられ、前記堤防の長手方向では、前記堤防に沿って長く延びており、上下方向では、前記第1の支持体の上側の部位と前記第2の支持体の上側の部位とで前記第1の支持体と前記第2の支持体とに設置されており、水平方向もしくは水平方向に近似した方向に展開している床版とを有し、前記第1の支持体、前記第2の支持体のうちいずれかが、または、いずれもが(前記第1の支持体、前記第2の支持体のうちの少なくともいずれかが、)前記堤防の内側を流れる水の止水壁になっている既存堤防の補強構造の例である。
【符号の説明】
【0156】
1a、1b、1c、1d、1e 既存堤防の補強構造
5 堤防(堤体)
6 天端
7 第1の支持杭
9 第2の支持杭
11 床版
13 仕切り壁
15 地盤
31 パラペット
61 キイ
63 支持体