(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039256
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】吸遮音壁
(51)【国際特許分類】
E04B 1/86 20060101AFI20220303BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20220303BHJP
E04B 1/84 20060101ALI20220303BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20220303BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
E04B1/86 K
E04B1/82 M
E04B1/82 W
E04B1/84 A
G10K11/16 120
G10K11/172
G10K11/16 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144189
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】財満 健史
(72)【発明者】
【氏名】大脇 雅直
【テーマコード(参考)】
2E001
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DF05
2E001FA03
2E001FA14
2E001GA01
2E001GA12
2E001HA03
2E001HA33
2E001KA05
5D061AA12
5D061AA22
5D061BB21
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】共鳴器のサイズを大きくすることなく、100Hz以下の低周波数領域における遮音と吸音とを効果的に行うことのできる吸遮音壁を提供する。
【解決手段】室1の壁面2aもしくは天井面3と室内5との間に、背後空気層15を介して、前記壁面2aもしくは天井面3に対向するように配置された内装壁としての石膏ボード11と、内部が中空である本体12Aと前記本体12Aの一面に取付けられた筒体12Bとから成る複数の共鳴器12、とを備えるとともに、前記複数の共鳴器12を、前記筒体12Bの開口部12sが、前記背後空気層15と連通するように、前記石膏ボード11に取付ける構成とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室の壁面もしくは天井面と室内との間に、空気層を介して、前記壁面もしくは天井面に対向するように配置された内装壁と、内部が中空である本体と前記本体の一面に取付けられた筒体とから成る複数の共鳴器、とを備えた吸遮音壁であって、
前記複数の共鳴器は、前記筒体の開口部が、前記空気層と連通するように、前記内装壁に取付けられていることを特徴とする吸遮音壁。
【請求項2】
前記内装壁の前記壁面側もしくは天井面側に多孔質材料からなる吸音材を配置したことを特徴とする請求項1に記載の吸遮音壁。
【請求項3】
室の壁面もしくは天井面と室内との間に、空気層を介して、前記壁面もしくは天井面に対向するように配置された内装壁と、内部が中空である本体と前記本体の一面に取付けられた筒体とから成る複数の共鳴器、とを備えた吸遮音壁であって、
前記複数の共鳴器は、前記空気層中に、前記筒体の開口部が前記内装壁側に向くように、かつ、前記内装壁と前記開口部との間に所定の空隙を隔てて、前記室の壁面もしくは天井面に取付けられていることを特徴とする吸遮音壁。
【請求項4】
前記内装壁の前記壁面側もしくは天井面側に多孔質材料からなる吸音材を配置したことを特徴とする請求項3に記載の吸遮音壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装壁を供えた室の吸音特性を向上させた吸遮音壁に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場などで設備機器の遮音対策を行う場合、低周波数領域についての対策が必要な場合が多い。このとき、壁の遮音性能を高くして対応しようとすると、重くて厚い材料を用いる必要があるため、費用や工費がかかってしまうといった問題点があった。
そこで、工場内や設備機器室内にて低周波数領域の吸音対策ができれば、室内の音圧レベルが小さくなるため、その分だけ遮音対策のウエイトを軽減することができる。
低周波数領域の吸音対策としては、「板状吸音体を用いる方法」や「共鳴器を用いる方法」が一般に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、板状吸音体は、一般的な背後空気層厚さでは、周波数領域が100~200Hz程度であり、機械室などで要求される、100Hz以下の低周波数領域では、十分な吸音率を得ることが困難であった。
一方、共鳴器(ヘルムホルツレゾネータ)は狭帯域での吸音効果が高く、特定の音に絞った対策には有効であるが、共鳴器の孔が室内側に露出するため、ほこりや水が多く発生する場所では、設置方法を工夫する必要がある。また、低周波数領域を対象とする場合には、共鳴器のサイズが大きくなるため、場所によっては、設置が困難であった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、共鳴器のサイズを大きくすることなく、100Hz以下の低周波数領域における遮音と吸音とを効果的に行うことのできる吸遮音壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、室の壁面と室内との間に配置された内装壁との間の空気層の振動を、共鳴器を用いて吸音する構成とすれば、サイズの小さな共鳴器であっても、室内で発生した100Hz以下の低周波数領域の遮音及び吸音を効果的に行うことができることを見出し、本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、室の壁面もしくは天井面と室内との間に、空気層を介して、前記壁面もしくは天井面に対向するように配置された内装壁と、内部が中空である本体と前記本体の一面に取付けられた筒体とから成る複数の共鳴器、とを備えた吸遮音壁であって、前記複数の共鳴器は、前記筒体の開口部が、前記空気層と連通するように、前記内装壁に取付けられていることを特徴とする。
これにより、共鳴器のサイズを大きくすることなく、室内で発生し、内装壁に伝播された100Hz以下の低周波数領域における振動を効果的に吸音することができるので、内装壁を供えた室の吸音特性を大幅に向上させることができる。
また、共鳴器の孔が内装壁の内側にあるので、共鳴器の開口部からのほこりや水の侵入の心配がない、という利点もある。
また、前記複数の共鳴器を、前記空気層中に、前記筒体の開口部が前記内装壁側に向くように、かつ、前記内装壁と前記開口部との間に所定の空隙を隔てて、前記室の壁面もしくは天井面に取付けても、同様の効果を得ることができる。
また、前記内装壁の前記壁面側もしくは天井面側に多孔質材料からなる吸音材を配置したので、吸遮音壁の吸音効果が更に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】従来の遮音壁と吸遮音壁の一例を示す図である。
【
図3】共鳴器の吸音率とネック長さとの関係を調べた結果を示す図である。
【
図4】実施の形態1の共鳴器の設置方法と共鳴周波数の関係を示す図である。
【
図5】実施の形態1の共鳴器の設置方法の追加実験の結果を示す図である。
【
図7】実施の形態2の共鳴器の設置方法と共鳴周波数の関係をを示す図である。
【
図8】実施の形態2の共鳴器の設置方法の追加実験の結果を示す図である。
【
図9】吸音対策の計算に用いた設備機械室の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施の形態1.
図1(a)~(c)は本実施の形態1を示す図で、(a)図は上から見たときの吸遮音壁10の断面図、(b)図は(a)図の白抜きの矢印方向からみた平面図、(c)図は吸遮音壁10に用いた共鳴器12の詳細を示す図である。
吸遮音壁10は、内装壁としての石膏ボード11と、複数個の共鳴器12と、多孔質部材としてのグラスウール(以下、GW13という)とを備え、吸音及び遮音対策を行う室1の壁2a側に設置される。また、符号14は、前記石膏ボード11を支持する支持部材、3は天井、4は床、5は室内である。
支持部材14は、一端が天井3に取付けられ他端が床4に取付けられて、上下方向に延長する棒状の部材で、本例では、壁2aから所定距離離れて設置されている。
壁2a,2b、天井3、床4は、通常、ALC板やRCなどのコンクリート板から構築される、また、支持部材14としては、軽鉄スタッドなどが一般的に用いられる。
なお、本例では、吸遮音壁10を壁2aのみに取付けているが、実際には、吸遮音壁10は、天井3や、(a)図の白抜きの矢印方向からみたときに、壁2aの左右に、壁2aに隣接して設けられた壁2bにも取付けられる。
【0009】
吸遮音壁10を構成する石膏ボード11は、前記壁2aに対向するように配置される。そして、この石膏ボード11の裏面側(壁2a側)にはGW13が配置されている。
石膏ボード11及びGW13の上端部は天井3に当接し、下端部は床4に当接し、左右の端部はそれぞれ壁2b,2bに当接している。すなわち、壁2aは、内装壁である石膏ボード11により、室内5と区画されている。壁2aと石膏ボード11との間の空気層を、以下、背後空気層15という。
共鳴器12は、一般に、ヘルムホルツレゾネータとして知られているもので、本例では、内部に中空部を有する直方体状の容器(以下、本体12Aという)と、この本体12Aの一面に取付けられる筒体12Bとを備えたものを用いた。以下、本体12Aの筒体12Bが取付けられた面を上面12a、上面12aに対向する面を底面12b、上面12aと底面12bとに連結される4つの面を側面12cという。
筒体12Bは、一端が本体12Aの上面12aに取付けられ、他端が本体12A内部に延長する中空円筒状の部材で、円筒状の中空部(以下、孔12hという)の一端側で、上面12aに開口している箇所を、以下、共鳴器12の開口部(あるいは、単に開口部12s)という。なお、共鳴器12では、当然のことながら、筒体12Bの中空部を構成する孔12hは、開口部12sと反対側の端部で、本体12A内部の中空部と連通している。
円筒状の中空部を有する共鳴器12の共鳴周波数frは、以下の式(1)で表せる。
fr=(c/2π)・{πr2/(V・Leff)}1/2 ……(1)
ここで、cは音速、rは筒体12Bの中空部の半径、Vは本体12Aの中空部の体積、Leffは有効ネック長である。有効ネックLeffは、筒体12Bの中空部の長さであるネック長(もしくは孔12hの深さ)をLとすると、Leff=L+0.8・(2r)で表せる。
また、吸音率をαとすると、αは、周波数毎に、以下の式(2)から求められる。
α=(入射音の強さIi-反射音の強さIr)/(入射音の強さIi) ……(2)
本例の吸遮音壁10は、石膏ボード11に複数の共鳴器12(ここでは、9個)を取付けるとともに、各共鳴器12の開口部12sを背後空気層15に連通させる構成とすることで、同じサイズの共鳴器12の共鳴周波数frよりも更に低い周波数領域の音を吸音するようにしている。
【0010】
ところで、
図2(a)に示すように、石膏ボード11とGW13とは、室内5で発生した音が壁2aに伝播されることを防止する、いわゆる、遮音壁50Aを構成している。しかし、上記構成の遮音壁50Aでは、室内5で発生した低周波数領域の遮音が必ずしも十分ではなかった。そのため、従来は、上記遮音壁50Aに代えて、
図2(b)に示すような、石膏ボード11の室内5側の面にもグラスウール(GW13F)を配置して、室内5で発生した低周波数領域の音を吸音する構成の吸遮音壁50Bが用いられている。
しかしながら、一般的な吸遮音壁50Bで用いられるグラスウールは、125Hz帯域以上の周波数領域では吸音効果を発揮するが、100Hz以下の低周波数領域、特に、63Hz帯域では、効果が殆ど見込めなかった。
本例では、吸遮音壁10を、共鳴器12の開口部12sを、室内5側ではなく、背後空気層15側になるように石膏ボード11に取付けることで、室内5で発生し、石膏ボード11を介して伝播された背後空気層15の振動を吸音する構成としたので、石膏ボード11の室内5側の面にもGW13Fを配置した場合には実現できなかった100Hz以下の低周波数領域の音を効果的に吸音することができた。
本発明者らは、共鳴器12の開口部12sを背後空気層15側とすれば、共鳴器12の共鳴周波数f
rの周波数領域だけでなく、共鳴器12の共鳴周波数f
rよりも更に低い周波数領域での吸音率αが高くなることを、実際の1/5縮尺の共鳴器試験体を用いた模型実験により確かめた。
模型実験について、以下に説明する。
【0011】
図3(a)は、ネック長Lの異なる共鳴器の吸音率αを調べた実験結果を示す図で、横軸は周波数f[Hz]、縦軸は吸音率αである。なお、吸音率αのデータは、
図3(b),(c)に示すような、実際の1/5縮尺の4×4個の共鳴器12kを一体にした共鳴器試験体(以下、試験体12Kという)を用いた模型実験のデータで、
図3(a)の(63),(125),……で示した値が実際の周波数となる。
(c)図は、(b)図のA-A断面図で、試験体12Kは、同図に示すように、コンクリート製の床面4kの上に、開口部12sを上側に向くように設置されている。
なお、実際の模擬実験では、上記構成の試験体12Kを4ユニット用いている。
(a)図に示すように、共鳴器12kのネック長Lを、2mm(同図の●),7mm(同図の○),18mm(同図の□)と大きくしていくと、試験体12Kの共鳴周波数f
rは順に低周波数側に移動していくがL=18mmでも、共鳴周波数f
rを目標の63Hz帯域まで低くすることはできなかった。
なお、実験では、共鳴器12kの中空部の半径をr=6mm、本体12Aの中空部の体積をV=74993.5~78650.0mm
3とした(VはLが長いほど小さい)。
ところで、L=18mmは模型の寸法であり、実際のネック長はL
0=90mmとなる。この値は、室の吸音に使用する共鳴器としては大きすぎる。このように、共鳴器でも、100Hz以下の低周波数領域の音を効果的に吸音することは困難である。
【0012】
一方、
図4(a),(b)に示すように、試験体12Kを床面4kから離すとともに、試験体12Kを裏返しに(開口部12sが床面4kを向くように)設置したところ、
図4(c)の■で示すように、吸音率αは、試験体12Kの共鳴周波数(共鳴器12kの共鳴周波数f
r)近傍で大きくなっているだけでなく、共鳴器12kの共鳴周波数f
rより更に低い周波数領域でも大きくなっていることがわかった。
なお、実験では、試験体12Kを、所定の厚さの空気層(以下、下部空気層15uという)を挟んで、共鳴器12kの開口部12sが形成されている側の面である上面12aが床面4k側を向くように設置し、(b)図の上側から試験体12Kに入射する音の吸音率αを測定した。
また、試験体12Kは、共鳴器12が石膏ボード11に取付けられているのと同様に、上面12aと床面4kとの距離が下部空気層15uの厚さになるように、図示しない保持部材により保持されている。
図4(a)の■で示すデータは、ネック長がL=2mm、下部空気層15uの厚さは20mmのデータで、この模型実験で吸音性能が高くなった周波数は350Hz前後なので、実際の共鳴器12では、70Hz程度と考えられる。
これにより、
図1に示すように、共鳴器12を、開口部12sが壁2aなどの反射体の方向を向くように裏返しに設置し、かつ、反射体との間に空気層(背後空気層15)を設ければ、共鳴器12kの共鳴周波数f
r近傍だけでなく、共鳴器12の共鳴周波数f
rよりも低い周波数領域での吸音性能についても高めることができることが確認された。
なお、
図4(a)では、ネック長がL=2mm、下部空気層15uの厚さがD=20mmの場合の実験結果を示したが、ネック長Lや下部空気層15uの厚さを変化させた場合でいでも、共鳴器12の共鳴周波数よりも低い周波数領域での吸音性能を高めることができることを確認している。
【0013】
次に、共鳴器と空気層との関係を確認するため、共鳴器の周囲に側壁を設けた場合について追加実験を行った結果を、
図5(a)~(c)に示す。(a)図は、試験体12Kの四面(前後左右)に側壁16uを設けたもので、(b)図は、側壁16uを2面(左右)に設けたものである。また、(c)図は、側壁16uを設けなかったときの吸音特性を示す。本例では、側壁16uをアクリル板から構成した。なお、前後方向は、
図5(a)~(c)の紙面に垂直な方向、左右方向は同図の左右方向を指す。
各図において、横軸は横軸は周波数f[Hz]、縦軸は吸音率αで、△は下部空気層15uの厚さがD=5mmのデータ、○は下部空気層15uの厚さがD=10mmのデータ、□は下部空気層15uの厚さがD=20mmのデータである。
追加実験の結果、(a)図に示すように、試験体12Kの周囲に側壁16uを設けて下部空気層15uを塞いでも、低周波数領域での吸音性能は高くなることがわかる。また、(b)図に示すように側壁16uを減らすか、または、(c)図に示すように側壁16uを撤去した場合には、更に低周波数領域での吸音性能は高くなることも確認した。
なお、
図1(a),(b)に示した本例の吸遮音壁10の構成は、背後空気層15が壁2bと壁2bの間と、天井3と床4との間とで連続しているので、
図5(c)の側壁16uがない状態に相当する。
【0014】
実施の形態2.
前記実施の形態1では、共鳴器12の開口部12sを背後空気層15側になるように石膏ボード11に取付けて、背後空気層15の振動を吸音する構成の吸遮音壁10について説明したが、
図6に示すように、複数の共鳴器12を背後空気層15内(ここでは、壁2a)に取付けた構成の吸遮音壁10Zでも、100Hz以下の低周波数領域の音を効果的に吸音することができる。
吸遮音壁10Zの構成要素である石膏ボード11、共鳴器12、GW13、支持部材14、及び、背後空気層15は、実施の形態1と同一構成であるが、本例では、吸遮音壁10Zの共鳴器12は、内装壁である石膏ボード11と壁2aとの間に、開口部12sが石膏ボード11側に向くように、壁2aに取付けられている。
以下に、開口部12sが内装壁(石膏ボード11)側となるように、共鳴器12を壁2a、壁2bもしくは天井3に取付けたときも、共鳴器12kの共鳴周波数f
rより低い周波数領域で吸音率αが大きくなることを、実際の1/5縮尺の試験体12Kを用いた模型実験により確かめた結果について説明する。
【0015】
図7(a)に示すように、試験体12Kを、共鳴器12kの開口部12sが上側(床面4kとは反対側)を向くよう設置するとともに、共鳴器12kの上面から厚さ20mmの空気層(以下、上部空気層15vという)を挟んで、ポリ塩化ビニル(PVC)から成る仕切り板17を設置したところ、
図7(b)の□で示すように、試験体12Kの共鳴周波数(共鳴器12kの共鳴周波数f
r)で吸音率αが大きくなっているだけでなく、共鳴器12kの共鳴周波数f
rより低い周波数領域でも吸音率αが大きくなっていることがわかった。
なお、ここで、仕切り板17は、
図6の内装壁である石膏ボード11に相当する部材である。模型実験で吸音性能が高くなった周波数は、実施の形態1の模型実験と同様に、350Hz前後なので、実寸では、70Hz程度と考えられる。
このように、内装壁の内側に共鳴器を設置しても、共鳴器12kの共鳴周波数f
rより低い周波数領域での吸音性能を高めることができることが確認された。
【0016】
次に、共鳴器と空気層との関係を確認するため、共鳴器の周囲に側壁を設けた場合について追加実験を行った結果を、
図8(a)~(c)に示す。(a)図は、試験体12Kの四面(前後左右)に側壁16vを設けたもので、(b)図は、側壁16vを2面(左右)に設けたものである。また、(c)図は、側壁16vを設けなかったときの吸音特性を示す。側壁16vは、仕切り板17と同じPVC板から構成した。
各図において、横軸は横軸は周波数f[Hz]、縦軸は吸音率αで、△は上部空気層15vの厚さがD=5mmのデータ、○は上部空気層15vの厚さがD=10mmのデータ、□は上部空気層15vの厚さがD=20mmのデータである。
追加実験の結果、(a)図に示すように、試験体12Kの周囲に側壁16vを設けて上部空気層15vを塞いでも、低周波数領域での吸音性能は高くなることがわかる。また、(b)図に示すように側壁16vを減らすか、または、(c)図に示すように側壁16vを撤去した場合には、更に低周波数領域での吸音性能は高くなることも確認した。
図6に示した吸遮音壁10Zの構成は、背後空気層15が壁2bと壁2bの間と、天井3と床4との間とで連続しているので、
図8(c)の側壁16vのない状態に相当する。
【0017】
[吸音対策の計算例]
工場の設備機械室に、吸音対策を行った場合の吸音効果の大きさを計算した。
図9に示すように、設備機械室20の室内の寸法は、(L)12.25m×(W)5.2m×(H)4.2mである。
吸音効果の大きさPは、各壁面21~24(wall1~wall4)、天井面25(ceiling)、及び、床面26(floor)の等価吸音面積A
kの和の対数で評価した。添字k=1~4が各壁面、k=5が天井面、k=6が床面である。
各室内面(wall1~wall4,ceiling,floor)の表面積をS
k、吸音率をα
kとすると、等価吸音面積はA
k=S
k・α
k、吸音効果の大きさはP=10log
10(ΣA
k)である。
なお、ΣA
k=A
1+A
2+A
3+A
4+A
5+A
6である。
また、wall1,wall3の表面積は、S
1=S
3=51.45m
2、wall2,wall4の表面積は、S
2=S
4=21.84m
2、ceilingとfloorの表面積は、S
5=S
6=63.7m
2である。
(1)室内全面がコンクリート打ち放し
コンクリート打ち放し面の吸音率をα
k=0.01(k=1~6)とすると、
吸音効果の大きさは、P1=4.4(dB)であった。
(2)各壁面と天井面はGW張りで、床面はコンクリート打ち放し
GW(50mm厚)を張った面の吸音率をα
k=0.05(k=1~5)とすると、
吸音効果の大きさは、P2=10.5(dB)で、室内全面がコンクリート打ち
放しに比べて、6.1(dB)の効果があった。
(3)wall1とwall2が、
図1に示した吸遮音壁10、その他はコンクリート打ち放し
(但し、共鳴器12は、壁のほぼ全面に配置)
吸遮音壁10の吸音率をα
k=0.9(k=1,2)とすると、
吸音効果の大きさは、P3=18.3(dB)で、室内全面がコンクリート打ち
放しに比べて、13.9(dB)の効果があった。
(4)wall1~wall4に吸遮音壁10を配置、天井面はGW張りで、
床面はコンクリート打ち放し(但し、共鳴器12は、壁のほぼ全面に配置)
吸音効果の大きさは、P4=19.6(dB)で、室内全面がコンクリート打ち
放しに比べて、15.2(dB)の効果があった。
(5)wall1とwall2とに吸遮音壁10を配置、wall1とwall2と天井面とはGW張りで、
床面はコンクリート打ち放し(但し、共鳴器12は、壁のほぼ全面に配置)
吸音効果の大きさは、P5=17.1(dB)で、室内全面がコンクリート打
ち放しに比べて、12.7(dB)の効果があった。
(6)壁面、天井面が(GW張り+空気層)で、床面はコンクリート打ち放し
吸音効果の大きさは、P6=16.3(dB)で、室内全面がコンクリート打ち
放しに比べて、11.9(dB)の効果があった。
これらの計算結果から、本願発明の吸音対策では、共鳴器を半分の壁面(wall1とwall2)のみに配置した場合であっても、十分な吸音効果が得られることがわかった。
なお、
図1の吸遮音壁10に代えて、
図6の吸遮音壁10Zを配置しても、吸音効果の大きさPは若干小さくなるものの、同様の結果が得られた。
【0018】
以上、本発明を実施の形態及び計算例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0019】
例えば、前記実施の形態1,2では、吸遮音壁10,10Zを壁2aのみに取付けているが、天井3や壁2bに取付けてもよい。また、吸遮音壁10,10Zを天井3、壁2a、壁2bの全てに取付ければ、吸音効果を更に高めることができる。
また、共鳴器12については、石膏ボード11、もしくは、壁2aの全面に設けてもよい。共鳴器12の個数が多いほど、吸音効果は向上する。
また、前記実施の形態1,2では、内装壁として石膏ボード11を用いたが、合板や珪酸カルシウム板(珪カル板)を用いてもよい。
また、多孔質部材の材料グラスウールに限るものではなく、フェルトやロックウールなどの他の多孔質部材を用いてもよい。
なお、多孔質部材料から成る吸音材(多孔質部材)は、本発明の必須の要素ではないが、多孔質部材を配置すれば、吸遮音壁の吸音効果は更に向上する。
【符号の説明】
【0020】
1 室、2a,2b 壁、3 天井、4 床、5 室内、
10 吸遮音壁、11 石膏ボード、12 共鳴器、12A 本体、12B 筒体、
12a 上面、12b 底面、12c 側面、12h 孔、12s 開口部、
13 グラスウール、14 支持部材、15 背後空気層、16u,16v 側壁、
17 仕切り板。