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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039306
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】金属スルホネート
(51)【国際特許分類】
   C10M 135/10 20060101AFI20220303BHJP
   C10L 1/24 20060101ALI20220303BHJP
   C07C 309/30 20060101ALN20220303BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20220303BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220303BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20220303BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20220303BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20220303BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20220303BHJP
【FI】
C10M135/10
C10L1/24
C07C309/30
C10N20:04
C10N10:04
C10N10:02
C10N40:20
C10N30:04
C10N30:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144263
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】中川 美里
【テーマコード(参考)】
4H006
4H013
4H104
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB60
4H013CA06
4H104BG06C
4H104EA03C
4H104EA22C
4H104FA01
4H104FA02
4H104LA02
4H104LA06
4H104PA21
(57)【要約】
【課題】優れた分散性および防錆性を有する金属スルホネートを提供すること。
【解決手段】アルキルアリールスルホン酸基を有し、前記アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が510~1000であり、全塩基価が0~10mgKOH/gである、金属スルホネート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルアリールスルホン酸基を有し、
前記アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が510~1000であり、
全塩基価が0~10mgKOH/gである、金属スルホネート。
【請求項2】
前記全塩基価が0~1mgKOH/gである、請求項1に記載の金属スルホネート。
【請求項3】
カルシウムスルホネート、バリウムスルホネートおよびナトリウムスルホネートから選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の金属スルホネート。
【請求項4】
潤滑油組成物、燃料油組成物および金属加工油組成物から選択される少なくとも1つの組成物の添加剤として使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属スルホネート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた分散性および防錆性を有する油溶性の金属スルホネートに関する。
【背景技術】
【0002】
油溶性の金属スルホネートは、例えば、鉄鋼業、自動車産業等の様々な工業において、油組成物の乳化剤、分散剤、防錆剤、清浄剤または酸中和剤として使用されることが知られている。金属スルホネートとしては、例えば、ナトリウムスルホネート、カルシウムスルホネート、バリウムスルホネート等が知られている。添加される対象である潤滑油組成物、金属加工油組成物等に対する各々の作用目的に応じて、金属スルホネートにおける各種金属、中性または塩基性(高塩基性(ハイベース)もしくは低塩基性(ローベース))等が選択される。
【0003】
例えば、特許文献1には、潤滑油基油に対して、中性金属スルホネート、過塩基性金属スルホネートおよびアスパラギン酸誘導体が添加されている潤滑油組成物が記載されている。さらに、当該潤滑油組成物によると、潤滑油としての基本性能、すなわち、摩擦係数の低減および耐摩耗性に優れ、かつ防錆性に優れることが開示されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、各種乾燥装置のチェーン部等に対する潤滑油組成物が開示されている。当該潤滑油組成物は、ポリオールエステルを基油とし、ポリブテンと、金属系分散剤と、グラファイトと、ハードケーキ防止剤とを含有することが開示されており、金属系分散剤として金属スルホネートが好適に用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-162774号公報
【特許文献2】特開2015-4036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した通り、金属スルホネートには様々な種類が存在するが、例えば、防錆油組成物、金属加工油組成物等に添加される防錆剤または工業用潤滑油組成物等に添加される粉体分散剤等として使用される場合、分散性および防錆性の性能に特化した金属スルホネートが求められる。しかしながら、分散性および防錆性の性能のみに着目した場合、塩基性の金属スルホネートは中性の金属スルホネートと比較して分散性および防錆性、特に分散性に劣るという問題がある。さらに、低分子量の金属スルホネートも高分子量の金属スルホネートと比較して分散性および防錆性に劣るという問題がある。
【0007】
一般的に市販されている金属スルホネートは、その製造方法の容易さから水酸化物を用いた直接中和法により製造されていることが多いため、完全に中性である金属スルホネートはほとんど流通していない。例えば、特許文献1には、中性金属スルホネートについて、その全塩基価(以下、TBN(Total Base Number)とも称する)は0以上50mgKOH/g未満であると記載されている。すなわち、このような広い全塩基価の数値範囲を有する金属スルホネートには、低塩基性(ローベース)のスルホネートも多く含まれており、実質的に中性であるとは言えず、中性の場合よりも分散性および防錆性、特に分散性に劣ることが想定される。
【0008】
また、分子量についても、一般的に流通している金属スルホネートの分子量は500を超えない程度である(例えば特許文献2に記載の中性ナトリウムスルホネート(モレスコアンバーSN-60、MORESCO社製)参照)。そのため、高分子量の金属スルホネートの場合と比較すると、分散性および防錆性に劣ることが想定される。そのため、分散性および防錆性の両方の性能においてより改善された金属スルホネートが求められる。
【0009】
そこで、本発明は、優れた分散性および防錆性を有する金属スルホネートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、以下の構成を有する金属スルホネートにより優れた分散性および防錆性が達成できることを確認し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
【0011】
本発明の局面に係る金属スルホネートは、アルキルアリールスルホン酸基を有し、前記アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が510~1000であり、全塩基価が0~10mgKOH/gである。
【0012】
前述の金属スルホネートにおいて、前記全塩基価が0~1mgKOH/gであることが好ましい。
【0013】
前述の金属スルホネートにおいて、カルシウムスルホネート、バリウムスルホネートおよびナトリウムスルホネートから選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0014】
前述の金属スルホネートにおいて、潤滑油組成物、燃料油組成物および金属加工油組成物から選択される少なくとも1つの組成物の添加剤として使用されることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた分散性および防錆性を有する金属スルホネートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0017】
[金属スルホネート]
本実施形態における金属スルホネートは、アルキルアリールスルホン酸基を有し、当該アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が510~1000であり、全塩基価が0~10mgKOH/gである。
【0018】
本実施形態における金属スルホネートの金属としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属に属する金属を挙げることができる。具体的には、例えば、リチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、ストロンチウム等を挙げることができる。
【0019】
これらのうち、金属スルホネートは、後述する金属スルホネートの製造方法により安定的に製造することができるとの観点から、好ましくは、カルシウムスルホネート、バリウムスルホネートおよびナトリウムスルホネートから選択される少なくとも1つである。より好ましくは、さらに優れた分散性および防錆性を発揮するとの観点から、金属スルホネートは、カルシウムスルホネートおよびバリウムスルホネートから選択される少なくとも1つである。
【0020】
一般的に、ナトリウムスルホネートは、バリウムスルホネートまたはカルシウムスルホネートとは異なり、親水性が低くないため、分散剤または防錆剤として使用されず、乳化剤として使用されていることが多い。しかしながら、本実施形態における金属スルホネートの1例であるナトリウムスルホネートは、高分子量であるため、親水性が低く、後の実施例で示すように優れた分散性および防錆性を有する。
【0021】
本明細書において、アルキルアリールスルホン酸基とは、下記一般式(I)で表される構造である。
【化1】
【0022】
本実施形態の金属スルホネートにおいて、金属がアルカリ土類金属の場合は、2個のアルキルアリールスルホン酸基と結合する。式中、Rは、置換または非置換の炭素数25~62、好ましくは炭素数26~47、より好ましくは炭素数31~40の直鎖状または分岐状の飽和脂肪族炭化水素基、直鎖状または分岐状の不飽和脂肪族炭化水素基、環状構造を有する飽和脂環式炭化水素基、不飽和脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基から選択される1つ以上を含む炭化水素基である。炭化水素基は、アルキル基およびアリール基(例えばフェニル基)から選択される1つ以上の基を含むと好ましい。置換されている場合としては、本実施形態における金属スルホネートの分散性および防錆性の効果を阻害しなければ特に限定されず、例えば、1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよく、または、窒素原子、硫黄原子もしくは酸素原子を有する官能基で置換されていてもよい。あるいは、さらに好ましくは、アルキルアリールスルホン酸基は、鎖状の場合、(C(2n-7)SOで表される基である。また、環状の場合、アルキルアリールスルホン酸基は、特に限定されないが、例えばフェニル基1つを有する(C(2n-15)SOで表される基である。
【0023】
式中、Rは、高分子量の炭化水素基であるとよりさらに好ましい。これは、アルキルアリールスルホン酸基の塩、すなわち本実施形態における金属スルホネートは金属表面へ吸着することによって水の透過を防ぐ膜を形成するため、炭化水素基が高分子量であるほど防錆性が向上するためである。
【0024】
本実施形態における金属スルホネートのアルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は、510~1000である。アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量を510以上にすることによって、本実施形態における金属スルホネートにおいて優れた分散性および防錆性を得ることができる。具体的には、炭化水素基が高分子量であることによって、前述した理由から防錆性が向上する。加えて、アルキルアリールスルホン酸基が高分子量であることによって、金属スルホネートが添加された際に微粒化した分散質が分散媒になじみ易くなり、分散性の向上に繋がる。
【0025】
アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は、好ましくは520以上であり、より好ましくは600以上である。また、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は、好ましくは800以下であり、さらに好ましくは700以下である。
【0026】
本明細書において、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は、後述する実施例と同様に、ASTM D 3712:2005の液体クロマトグラフィーによる油溶性石油スルホネートの分析の標準試験方法に準拠して測定される値とする。
【0027】
本実施形態における金属スルホネートの全塩基価は、0~10mgKOH/gである。金属スルホネートの全塩基価を10mgKOH/g以下にすることにより、すなわちその全塩基価を概ね中性に近い値にすることにより、全塩基価が10mgKOH/g超の高塩基性(ハイベース)または低塩基性(ローベース)の金属スルホネートよりも分散媒中の分散質に多く作用させることができるため、分散性および防錆性を向上することができる。なお、金属スルホネートの全塩基価の下限値は、0mgKOH/g以上である。
【0028】
金属スルホネートの全塩基価は、好ましくは5mgKOH/g以下であり、より好ましくは3mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは1mgKOH/g以下であり、よりさらに好ましくは0mgKOH/gである。金属スルホネートの全塩基価が0mgKOH/gであることによって、金属スルホネートを実質的に中性とすることができ、顕著に優れた分散性および防錆性を発揮させることができる。
【0029】
本明細書において、金属スルホネートの全塩基価は、後述する実施例と同様に、JIS K 2501:2003の石油製品および潤滑油における中和価試験方法に準拠して測定される値とする。
【0030】
本実施形態における金属スルホネートは、油溶性であり、油分中に溶解した塩の形態または固体の形態で、後述する方法によって製造することができる。
【0031】
本実施形態における金属スルホネートは、好ましくは、潤滑油組成物、燃料油組成物および金属加工油組成物から選択される少なくとも1つの組成物の添加剤として使用される。具体的には、本実施形態における金属スルホネートは、例えば、鉄鋼業、金属加工業、自動車産業等の様々な工業において使用される前述したような油組成物に、分散作用および防錆作用から選択される少なくとも1つを目的とした添加剤として使用される。
【0032】
本実施形態における金属スルホネートを、分散作用および防錆作用から選択される少なくとも1つを目的とした添加剤として使用する場合、使用の形態は特に限定されない。具体的には、本実施形態における金属スルホネートを、希釈せずにそのまま分散剤もしくは防錆剤として使用してもよく、または必要に応じてベース油で希釈して油組成物に添加してもよい。また、前述した油組成物には、例えば、必要に応じて流動点降下剤、摩耗防止剤、無灰清浄分散剤、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、摩擦調整剤、抗乳化剤、金属不活性化剤等のさらなる添加剤を含ませて使用しても構わない。
【0033】
[金属スルホネートの製造方法]
本実施形態における金属スルホネートの製造方法は、特に限定されず、当業者に公知の方法で行うことができるが、例えば、以下に詳細に述べる複分解での製造方法によると、本実施形態における金属スルホネートを安定的に製造することができる。
【0034】
具体的には、本実施形態における金属スルホネートの製造方法としては、例えば、重量平均分子量が510~1000であるアルキルアリールスルホン酸基を有するスルホン酸を準備する工程と、当該アルキルアリールスルホン酸からアルキルアリールスルホン酸塩を得る工程と、当該アルキルアリールスルホン酸塩とアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のハロゲン化合物(例えば塩化物等)との塩交換により所望の金属スルホネートを得る工程とを含む方法が挙げられる。
【0035】
(スルホン酸を準備する工程)
重量平均分子量が510~1000であるアルキルアリールスルホン酸基を有する高分子量のスルホン酸は、例えば、いわゆる石油スルホン酸、合成スルホン酸等が挙げられる。石油スルホン酸としては、例えば、鉱油の潤滑油留分のアルキルベンゼン化合物をスルホン化した化合物、ホワイトオイル製造時に副生する炭化水素系スルホン酸等が挙げられる。合成スルホン酸は、例えば、アルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物としてアルキルアリールスルホン酸を回収することにより得ることができる。あるいは、合成スルホン酸は、例えば、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化して直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを得る工程と、当該アルキルベンゼンをスルホン化する工程とを含む方法により得ることができる。なお、アルキルベンゼン化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に限定されず、例えば、無水硫酸や発煙硫酸を用いることができる。
【0036】
(アルキルアリールスルホン酸塩を得る工程)
次いで、前述の工程で準備された重量平均分子量が510~1000であるアルキルアリールスルホン酸基を有するスルホン酸からそのアルキルアリールスルホン酸塩を得る。具体的には、例えば、前述の工程で準備したアルキルアリールスルホン酸を、後述する所望のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属以外の金属の水酸化物またはハロゲン化合物(例えば塩化物等)と反応させて水抽出により精製し、アルキルアリールスルホン酸塩を得る。
【0037】
(塩交換により所望の金属スルホネートを得る工程)
前述の工程で得られたアルキルアリールスルホン酸塩を、所望のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化合物(例えば塩化物等)の水溶液と混合し、複分解が起こるよう充分な時間撹拌する。その後、水相を除去し、必要に応じて溶媒も除去または濃縮する。最終的に、塩交換により、重量平均分子量が510~1000であるアルキルアリールスルホン酸基を有する所望の金属スルホネートを得ることができる。
【0038】
上述したような製造方法によれば、全塩基価が10mgKOH/g以下、好ましくは0mgKOH/gの中性である高分子量の金属スルホネートを安定的に製造することができる。これは、全塩基価を0~10mgKOH/gの範囲内、特に完全な中性である0mgKOH/gとなるように金属スルホネートを製造するには、直接中和法ではアルカリ成分が残留してしまい困難であるためである。全塩基価が0~10mgKOH/g、好ましくは0mgKOH/gであることによって、本実施形態における金属スルホネートの分子は、より直接的に金属や粉体に作用することができ、分散性および防錆性の向上に寄与すると考えられる。
【0039】
加えて、従来は、高分子量のカルシウムスルホネートまたはバリウムスルホネートを製造することは困難とされてきた。しかしながら、上述した製造方法によれば、例えば、高分子量のナトリウムスルホネートを塩化カルシウムまたは塩化バリウムで塩交換することによって、中性で高分子量である本実施形態におけるカルシウムスルホネートまたはバリウムスルホネートを安定的に製造することができる。後の実施例で示すように、このような方法で製造された中性で高分子量のカルシウムスルホネートまたはバリウムスルホネートは、従来のカルシウムスルホネートまたはバリウムスルホネートよりも顕著に優れた分散性および防錆性を有する。
【実施例0040】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0041】
まず、各実施例および各比較例で調製した金属スルホネートの物性の測定方法および当該金属スルホネートの評価方法について説明する。
【0042】
[金属スルホネートの全塩基価の測定方法]
JIS K 2501:2003の石油製品および潤滑油における中和価試験方法に準拠して、後述する方法で製造した金属スルホネートの全塩基価(TBN)を測定した。
【0043】
[アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量の測定方法]
ASTM D 3712:2005の液体クロマトグラフィーによる油溶性石油スルホネートの分析の標準試験方法に準拠して、後述する方法で製造した金属スルホネートのアルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量を測定した。
【0044】
[カーボンブラック分散性試験]
金属スルホネートの分散性は、カーボンブラック分散性試験を行って評価した。金属スルホネートをその濃度が0.5重量%となるように灯油で希釈し、次いでカーボンブラックをその濃度が1重量%となるように添加した。その後、5分間にわたり3000rpmでホモミキサー(特殊機化工業社製、「T.K. HOMO MIXER(MODEL M)」)で攪拌し静置した。攪拌および静置してから1週間後、そのサンプルを灯油で10倍に希釈して、色彩・濁度同時測定器(日本電色社工業社製、「COH 400」)を用いて試験溶液の濁度(ヘイズ値)を測定した。評価基準として、濁度が20以上である場合は◎とし、濁度が10以上20未満である場合は〇とし、濁度が5以上10未満である場合は△とし、濁度が5未満である場合は×とした。
【0045】
[軒下暴露試験]
金属スルホネートの防錆性は、軒下暴露試験を行って評価した。金属スルホネートをその濃度が2重量%となるようにベース油(ISO VG 10)で希釈した試験溶液中に、試験片を浸漬させた。試験片としては、そのサイズが60mm×80mmであるSPCC-SBから構成されている金属片を用いた。その後、試験片を軒下に吊り下げて防錆性を評価した。具体的には、試験片の中央を5mm四方の碁盤目に分けて、錆の発生のある碁盤目の割合を確認した。評価基準として、30日後において、当該割合が、0%以上10%以下である場合は◎とし、10%超25%以下である場合は〇とし、25%超50%以下である場合は△とし、50%超である場合は×とした。
【0046】
[湿潤試験]
金属スルホネートの防錆性は、さらに湿潤試験を行って評価した。具体的には、JIS K 2246:2018の防錆油の規定に準拠して試験を実施した。金属スルホネートをその濃度が2重量%となるようにベース油(ISO VG 10)で希釈した試験溶液中に、試験片を浸漬させた。試験片としては、そのサイズが60mm×80mmであるSPCC-SBから構成されている金属片を用いた。試験片は、温度49℃、相対湿度95%以上の湿潤状態において保持した。20日後に、試験片の中央を5mm四方の碁盤目に分けて、錆の発生のある碁盤目の割合を確認した。当該割合が、0%以上10%以下である場合は◎とし、10%超25%以下である場合は〇とし、25%超50%以下である場合は△とし、50%超である場合は×とした。
【0047】
次に、各実施例および各比較例における金属スルホネートの製造方法について詳細に説明する。
【0048】
<実施例1>
還流冷却器、温度計および攪拌機を備えた2Lの四つ口分液ロートに、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が520であるナトリウムスルホネート500gと、トルエン500mLと、30重量%の塩化カルシウム水溶液100gとを入れ、還流温度で加熱および攪拌を1時間行った。その後、水層とトルエン層とを分離して、水層を除去した。この反応操作をさらに2回繰り返した後、水100mLを加えて、還流温度まで加熱し、攪拌した。次いで、水層とトルエン層とを分離後、水層を除去し、この反応操作をさらに3回繰り返した。その後、トルエン層を遠心分離し、上澄みのトルエン溶液から揮発成分を蒸発により留去することによって、カルシウムスルホネート550gを得た。
【0049】
得られたカルシウムスルホネートの全塩基価は0mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は520であった。これらの値は上述した方法で測定した。
【0050】
その後、得られたカルシウムスルホネートについて、上述した方法で、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果を、カルシウムスルホネートの物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0051】
<実施例2>
原材料において、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が520であるナトリウムスルホネートではなくアルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が600であるナトリウムスルホネートを用いたこと以外は実施例1と同様にして、カルシウムスルホネート550gを得た。実施例2におけるカルシウムスルホネートの全塩基価は0mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は600であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたカルシウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0052】
<実施例3>
温度計を備えた1Lの四つ口セパラブルフラスコに、ニュートラル油(ISO VG 1000)1Lを注ぎ、無水硫酸で反応させた。硫酸層を遠心分離で取り除き、水酸化ナトリウムで中和した後、IPA水で抽出を行った。得られたIPA水層に対してトルエンを用いてさらに抽出を行い、得られたトルエン層を蒸発することにより、ナトリウムスルホネートを得た。実施例3におけるナトリウムスルホネートの全塩基価は0mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は720であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたナトリウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0053】
<実施例4>
ニュートラル油(ISO VG 1000)ではなくニュートラル油(ISO VG 85)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ナトリウムスルホネートを得た。実施例4におけるナトリウムスルホネートの全塩基価は0mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は600であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたナトリウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0054】
<実施例5>
原材料において、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が520であるナトリウムスルホネートではなくアルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が600であるナトリウムスルホネート用い、30重量%の塩化カルシウム水溶液100gではなく30重量%の塩化バリウム水溶液200gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、バリウムスルホネート550gを得た。実施例5におけるバリウムスルホネートの全塩基価は0mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は600であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたバリウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0055】
<比較例1>
比較例1では、市販品のカルシウムスルホネートであるモレスコアンバーSC-45N(MORESCO社製)を用いた。比較例1におけるカルシウムスルホネートの全塩基価は0mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は410であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたカルシウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0056】
<比較例2>
比較例2では、市販品のカルシウムスルホネートであるスルホールCA-45(MORESCO社製)を用いた。比較例2におけるカルシウムスルホネートの全塩基価は23.7mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は500であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたカルシウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0057】
<比較例3>
比較例3では、実施例2で製造したカルシウムスルホネート230gに、HYBASE C-311(LANXESS社製)20gを加えて、塩基価を付与したカルシウムスルホネート250gを得た。比較例3におけるカルシウムスルホネートの全塩基価は23.2mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は600であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたカルシウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0058】
<比較例4>
比較例4では、市販品のナトリウムスルホネートであるスルホール500(MORESCO社製)を用いた。比較例4におけるナトリウムスルホネートの全塩基価は0mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は500であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたナトリウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0059】
<比較例5>
比較例5では、市販品のバリウムスルホネートであるモレスコアンバーSB-50N(MORESCO社製)を用いた。比較例5におけるバリウムスルホネートの全塩基価は0mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は410であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたバリウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0060】
<比較例6>
比較例6では、市販品のバリウムスルホネートであるSURCHEM 404(LANXESS社製)を用いた。比較例6におけるバリウムスルホネートの全塩基価は5.3mgKOH/gであり、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量は500であった。これらの値は上述した方法で測定した。その後、実施例1と同様に、得られたバリウムスルホネートについて、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験を行い、分散性と防錆性の評価を行った。これらの評価結果をその物性と共に、後の表1にまとめて示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[考察]
上記表1から分かるように、本発明におけるアルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量の条件および全塩基価の条件を満たす実施例1~実施例5の金属スルホネートは、カーボンブラック分散性試験、軒下暴露試験および湿潤試験のいずれの試験においても◎または〇の評価であった。一方、当該重量平均分子量の条件および全塩基価の条件のいずれかまたは両方の条件を満たさない比較例1~比較例6は、少なくともいずれか1つの試験において×の評価を有していた。
【0063】
詳細には、実施例1および実施例2と比較例1~比較例3との評価結果を比べると、カルシウムスルホネートにおいて、アルキルアリールスルホン酸基の重量平均分子量が小さい場合、分散性および防錆性の両方が低下してしまうことが分かる。さらに、全塩基価が大きい場合も、分散性および防錆性の両方、特に分散性が低下してしまうことが分かる。実施例3および実施例4と比較例4、ならびに、実施例5と比較例5および比較例6との評価結果を比べると、ナトリウムスルホネートおよびバリウムスルホネートにおいても、同様の傾向が見られることが分かる。