(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039381
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】誘導加熱方法
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20220303BHJP
H05B 6/10 20060101ALN20220303BHJP
【FI】
H05B6/36
H05B6/10 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144375
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】中井 靖文
(72)【発明者】
【氏名】小林 貞則
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB09
3K059AB20
3K059AB23
3K059AB24
3K059AC62
3K059AD01
3K059AD13
3K059CD52
3K059CD75
(57)【要約】
【課題】容積に大小の部分を有するワークを、一つの誘導加熱コイルで、一様に誘導加熱することができる誘導加熱方法を提供することである。
【解決手段】誘導加熱コイル1は、軸状ワークWの大容積部w1を加熱する大容積加熱部2と、小容積部w2、w3を加熱する小容積加熱部3を有し、大容積加熱部2は、大容積部w1を加熱する際に、大容積部w1に近接する第一加熱機能部2aと、小容積部w2、w3から離れた位置にくる第一アイドル部2b、2cを有し、小容積加熱部3は、小容積部w2、w3を加熱する際に、小容積部w2、w3に近接する第二加熱機能部3a、3bと、大容積部w1から離れた位置にくる第二アイドル部3cを有し、誘導加熱コイル1が移動可能であり、誘導加熱コイル1を移動させて、小容積部w2、w3のみを誘導加熱し、続いて誘導加熱コイル1を移動させて、大容積部w1のみを誘導加熱する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積に大小の部分を有するワークを、誘導加熱コイルを使用して誘導加熱する誘導加熱方法において、
前記誘導加熱コイルは、
前記ワークの主として容積が大きい大容積部を加熱する大容積加熱部と、
前記ワークの主として容積が小さい小容積部を加熱する小容積加熱部を有し、
前記大容積加熱部は、前記大容積部を加熱する際に、当該大容積部に近接する第一加熱機能部と、前記大容積部を加熱する際に、前記小容積部から離れた位置にくる第一アイドル部を有し、
前記小容積加熱部は、前記小容積部を加熱する際に、当該小容積部に近接する第二加熱機能部と、前記小容積部を加熱する際に、前記大容積部から離れた位置にくる第二アイドル部を有し、
前記ワークと誘導加熱コイルの少なくともいずれか一方が移動可能であり、
前記ワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させて、前記ワークの大容積部と小容積部の一方を誘導加熱し、
続いて前記ワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させ、前記ワークの大容積部と小容積部の他方を誘導加熱することを特徴とする誘導加熱方法。
【請求項2】
前記大容積加熱部は、直線状であることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱方法。
【請求項3】
前記第二アイドル部は、前記第二加熱機能部に対して屈曲又は湾曲していることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導加熱方法。
【請求項4】
ワーク及び/又は誘導加熱コイルが、前記ワークの端面を正面視して上下左右斜めのいずれかの方向に移動することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の誘導加熱方法。
【請求項5】
ワークの軸方向に、ワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させながら誘導加熱することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の誘導加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積に大小の部分を有するワークの誘導加熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークを高周波誘導加熱する場合、ワークの長手方向に沿う加熱コイルを使用し、ワークを回転させる方法と、軸状ワークの長手方向の一部の周面を囲う環状の加熱コイルを、ワークの長手方向に沿って移動させる、いわゆる「移動焼き」と称される方法のいずれかが採用されている。
前者の誘導加熱コイルは、例えば特許文献1に開示されており、後者の誘導加熱コイルは、例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平3-81354号公報
【特許文献2】実開昭55-172365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワークの直径が長手方向に一様ではなく、部分的に相違していて、容積に大小の部分を有する場合には、ワークの周面から環状の加熱コイルの内面までの距離が変動してしまうため、「移動焼き」は採用しにくい。そこで、ワークの長手方向に沿うように加熱コイルの形状を工夫し、ワークを全長に渡って同時に誘導加熱する方法が考えられる。
【0005】
しかし、この方法を本発明者が試したところ、ワークの大径の部位と小径の部位とでは、小径の部位の方が、焼入深さが深くなる傾向がある。そのため、ワークを一様に誘導加熱(高周波焼入)するために、小径の部位と加熱コイルの間隔(クリアランス)を、大径の部位と加熱コイルの間隔(クリアランス)よりも大きくしたり、ケイ素鋼等で構成されたコアを使用するなどすることにより、直径が異なる部位を有するワークの焼入深さの一様化を図った。
ところがこのような手法は、ワークと加熱コイルの適正なクリアランスを発見したり、加熱コイルにおけるコアを配置する適切な位置を発見するなどの熟練が必要であり、作業者の負担が大きい。
また、ワークの各部の加熱量が適正になるように、複数の加熱コイルを使用することも考えられるが、装置が複雑化してしまう。
【0006】
そこで本発明は、容積に大小の部分を有するワークを、一つの誘導加熱コイルで、一様に誘導加熱することができる誘導加熱方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、容積に大小の部分を有するワークを、誘導加熱コイルを使用して誘導加熱する誘導加熱方法において、前記誘導加熱コイルは、前記ワークの主として容積が大きい大容積部を加熱する大容積加熱部と、前記ワークの主として容積が小さい小容積部を加熱する小容積加熱部を有し、前記大容積加熱部は、前記大容積部を加熱する際に、当該大容積部に近接する第一加熱機能部と、前記大容積部を加熱する際に、前記小容積部から離れた位置にくる第一アイドル部を有し、前記小容積加熱部は、前記小容積部を加熱する際に、当該小容積部に近接する第二加熱機能部と、前記小容積部を加熱する際に、前記大容積部から離れた位置にくる第二アイドル部を有し、前記ワークと誘導加熱コイルの少なくともいずれか一方が移動可能であり、前記ワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させて、前記ワークの大容積部と小容積部の一方を誘導加熱し、続いて前記ワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させ、前記ワークの大容積部と小容積部の他方を誘導加熱することを特徴とする誘導加熱方法である。
【0008】
請求項1に記載の発明において、「容積に大小の部分を有するワーク」とは、太さが一様ではないワークを意味している。
本発明によると、誘導加熱コイルは、ワークの主として容積が大きい大容積部を加熱する大容積加熱部と、ワークの主として容積が小さい小容積部を加熱する小容積加熱部を有し、一つの誘導加熱コイルで、ワークの大容積部と小容積部を誘導加熱することができる。
大容積加熱部は、大容積部を加熱する際に、当該大容積部に近接する第一加熱機能部と、大容積部を加熱する際に、小容積部から離れた位置にくる第一アイドル部を有し、
小容積加熱部は、小容積部を加熱する際に、当該小容積部に近接する第二加熱機能部と、小容積部を加熱する際に、大容積部から離れた位置にくる第二アイドル部を有し、ワークと誘導加熱コイルの少なくともいずれか一方が移動可能であり、ワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させて、ワークの大容積部と小容積部の一方を誘導加熱し、続いてワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させ、ワークの大容積部と小容積部の他方を誘導加熱する。
すなわち、誘導加熱コイルは、ワークの大容積部と小容積部に同時には近接せず、大容積部を誘導加熱する際には小容積部から離間し、小容積部を誘導加熱する際には大容積部から離間する。
そのため、ワークの大容積部と小容積部を、個々に適切に誘導加熱することができる。
その結果、大容積部と小容積部を一様に誘導加熱(熱処理)することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記大容積加熱部は、直線状であることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明では、大容積加熱部は直線状であるので、大容積加熱部の第一加熱機能部と第一アイドル部が直線状に繋がっている。よって、大容積加熱部の構造は簡素である。
そして、第一加熱機能部がワークの大容量部に近接する際には、第一アイドル部がワークの小容積部から離間する。すなわち、小容積部が大容積部よりも小さい分だけ第一アイドル部が小容積部から離間する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記第二アイドル部は、前記第二加熱機能部に対して屈曲又は湾曲していることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導加熱方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明では、第二アイドル部は、第二加熱機能部に対して屈曲又は湾曲しているので、小容積加熱部がワークの小容積部に近接する際に、第二アイドル部が大容積部から離間することができる。そのため、第二アイドル部は、大容積部の誘導加熱に実質的に寄与しない。
【0013】
ワーク及び/又は誘導加熱コイルが、前記ワークの端面を正面視して上下左右斜めのいずれかの方向に移動するのが好ましい(請求項4)。
【0014】
請求項5に記載の発明は、ワークの軸方向に、ワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させながら誘導加熱することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の誘導加熱方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明では、ワークの軸方向に、ワーク及び/又は誘導加熱コイルを移動させながら誘導加熱するので、加熱量を調整することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の誘導加熱方法によると、ワークの大容積部と小容積部を、個々に一様に誘導加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は、本実施形態に係る誘導加熱コイルの斜視図であり、(b)は、(a)とは別方向から見た誘導加熱コイルの斜視図である。
【
図2】(a)は、加熱対象の軸状ワークの斜視図であり、(b)は、(a)のA-A断面斜視図である。
【
図3】(a)は、
図1の誘導加熱コイルが、
図2の軸状ワークの小径部に近接した状態を示す斜視図であり、(b)は、(a)とは別の方向から見た誘導加熱コイル及び軸状ワークの斜視図である。
【
図4】(a)、(b)は、それぞれ
図3の状態の誘導加熱コイル及び軸状ワークの正面図、右側面図である。
【
図5】(a)は、
図1の誘導加熱コイルが、
図3の軸状ワークの大容積部に近接した状態を示す斜視図であり、(b)は、(a)とは別の方向から見た誘導加熱コイル及び軸状ワークの斜視図である。
【
図6】(a)、(b)は、それぞれ
図5の状態の誘導加熱コイル及び軸状ワークの正面図、右側面図である。
【
図7】(a)~(f)は、それぞれ
図1の誘導加熱コイルの正面図、平面図、底面図、左側面図、右側面図、背面図である。
【
図8】(a)~(c)は、別の実施形態に係る誘導加熱方法で使用される誘導加熱コイルが、軸状ワークの小容積部を誘導加熱可能な状態で、軸状ワークに対して軸芯方向に揺動している状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係る誘導加熱方法を実施する誘導加熱コイル1は、銅又は銅合金等の良導体で構成された一本の管部材が、屈曲又は湾曲して形成されている。又は、複数の管部材が接合されて一続きの管部材を構成したものである。
【0019】
図1に示すように、誘導加熱コイル1は、具体的には、リード部4a、直線部5a(第一加熱機能部、第一アイドル部)、湾曲部6、直線部10(第二加熱機能部)、傾斜部14(第二アイドル部)、中央直線部18(第二アイドル部)、傾斜部15(第二アイドル部)、直線部11(第二加熱機能部)、湾曲部7、直線部5b(第一加熱機能部、第一アイドル部)、湾曲部8、直線部13(第二加熱機能部)、傾斜部17(第二アイドル部)、中央直線部19(第二アイドル部)、傾斜部16(第二アイドル部)、直線部12(第二加熱機能部)、湾曲部9、リード部4bが、この順で接続された構造を有する。
【0020】
リード部4a、4bは、誘導加熱コイル1の両端部分に形成されている。リード部4a、4bは、図示しない高周波電源(高周波発振器)に接続されている。リード部4aには、直線部5aの一端が接続されている。
【0021】
直線部5aは、誘導加熱コイル1の約全長に渡って真っ直ぐ延びており、後述の大容積加熱部2(第一加熱機能部2a、第一アイドル部2b、2c)を構成する部位である。
【0022】
直線部5aの他端には、湾曲部6の一端が接続されている。湾曲部6は、直線部5aと交差(直交)する仮想面に沿って円弧状に湾曲している。湾曲部6は、中心角が約90度の円弧形状を呈している。湾曲部6の他端における内周面側の部位には、直線部10の一端が接続されている。
【0023】
直線部10は、直線部5aと平行であり、直線部5aより長さが短く、後述の小容積加熱部3(第二加熱機能部3b)として機能する。
図7(b)に示すように、誘導加熱コイル1を平面視すると、直線部10と直線部5aは重ならず、両者は近接して平行に並んでいる。
【0024】
直線部10の他端には、傾斜部14の一端が接続されている。傾斜部14は、直線状ではあるが、直線部10に対して傾斜している。すなわち、
図7(b)に示すように、誘導加熱コイル1を平面視すると、傾斜部14は直線部10に対して傾斜し、傾斜部14の他端は、直線部5aから離れた位置にある。
【0025】
また、傾斜部14の他端には、中央直線部18の一端が接続されている。中央直線部18は、直線部5a、10と平行に直線状に延びる部位である。すなわち、中央直線部18は、直線部5aから離間した位置で直線部5aと平行に延びている。中央直線部18は、直線部5aよりは短く、直線部10よりは長い。
【0026】
中央直線部18の他端には、傾斜部15の一端が接続されている。傾斜部15は、傾斜部14と同じ長さの直線状の部位であり、傾斜部14とは傾斜の向きが相違している。すなわち、傾斜部15の他端は、平面視すると、直線部5aに近接した位置に配置されている。傾斜部15と傾斜部14は、中央直線部18の両側に配置されていて、互いに対向している。
【0027】
傾斜部15の他端には、直線部11の一端が接続されている。直線部11は、平面視して直線部5aと近接し、直線部5aと平行に延びている。直線部11と直線部10は、同じ長さである。直線部11は、小容積加熱部3(第二加熱機能部3a)を構成する部位である。
【0028】
直線部11の他端には、湾曲部7の一端が接続されている。湾曲部7は、湾曲部6と同じ半径の中心角が約90度の円弧状の部位である。湾曲部7の他端は、リード部4aと交差して延び、直線部5bの一端に接続されている。
【0029】
直線部5bは、直線部5aと同等の長さを有し、直線部5aに近接し、直線部5aと平行に延びている。すなわち、直線部5bは、直線部5aに沿って延びる直線状の部位である。直線部5bも、直線部5aと同様に、大容積加熱部2として機能する。
【0030】
直線部5bの他端には、湾曲部8の一端が接続されている。湾曲部8は、湾曲部6、7と同じ半径の中心角が約90度の円弧状の部位である。湾曲部8の他端における内周面側の部位には、直線部13の一端が接続されている。
【0031】
直線部13は、直線部10と平行であり、直線部10と同じ長さを有する。直線部13は、直線部10と共に小容積加熱部3(第二加熱機能部3b)として機能する部位である。
図7(b)に示すように、誘導加熱コイル1を平面視すると、直線部13、直線部5b、直線部5a、直線部10は平行に並んでいる。
【0032】
直線部13の他端には、傾斜部17の一端が接続されている。
図7(b)に示すように、平面視すると、傾斜部17は、他端へいくほど直線部5bから離れるように傾斜している。また、傾斜部17は、間に直線部5a、5bを挟んで、傾斜部14と対称の形状を呈している。
【0033】
傾斜部17の他端には、中央直線部19の一端が接続されている。中央直線部19は、中央直線部18と同じ長さを有し、中央直線部18と平行に延びている。
【0034】
中央直線部19の他端には、傾斜部16が接続されている。
図7(b)に示すように、誘導加熱コイル1を平面視すると、傾斜部16は、他端側へいくほど直線部5bに接近するように傾斜している。
【0035】
傾斜部16の他端には、直線部12の一端が接続されている。直線部12は、直線部11と同じ長さを有し、直線部11と平行に配置されている。直線部12は、直線部11と共に、小容積加熱部3(第二加熱機能部3a)として機能する部位である。
【0036】
直線部12の他端には、湾曲部9の一端の内周面側の部位が接続されている。湾曲部9は、湾曲部6、7、8と同じ半径の中心角が約90度の円弧状の部位である。湾曲部9の他端は、直線部5bに近接し、リード部4bの一端に接続されている。
【0037】
誘導加熱コイル1の約全長に渡って延びる直線部5a、5bは、大容積加熱部2を構成している。すなわち、大容積加熱部2は、全長に渡って直線状である。また、直線部5a、5bには、軸状ワークWと近接し、軸状ワークWの誘導加熱に寄与する第一加熱機能部2aと、軸状ワークWの誘導加熱に寄与しない第一アイドル部2b、2cを有する。
【0038】
誘導加熱コイル1は、一本の管部材で構成されており、誘導加熱コイル1に通電すると、近接した直線部5a、5bには同方向の電流が流れる。すなわち、誘導加熱コイル1に高周波電流を供給すると、直線部5a、5bには高周波電流が同方向に同期して流れる。
【0039】
ここで、大容積加熱部2は、直線部5a、5bで構成されており、軸状ワークWの大容積部w1の長さに対応する長さ部分が、第一加熱機能部2aを構成する。また、大容積加熱部2における第一加熱機能部2a以外の部位が、第一アイドル部2b、2cを構成する。第一加熱機能部2aは、大容積加熱部2の中央部分に構成され、第一アイドル部2b、2cは、第一加熱機能部2aの両側に構成される。
【0040】
また、誘導加熱コイル1は、
図7(b)に示すように、対向する直線部11、12が小容積加熱部3の第二加熱機能部3aを構成し、対向する直線部10、13が小容積加熱部3の第二加熱機能部3bを構成している。
【0041】
そして、第二加熱機能部3a、3bの間に、小容積加熱部3の第二アイドル部3cが構成されている。第二アイドル部3cは、傾斜部15、16、中央直線部18、19、傾斜部14、17によって構成されている。
【0042】
直線部10、13の間隔と、直線部11、12の間隔は、中央直線部18、19の間隔よりも狭い。すなわち、中央直線部18、19は、傾斜部14~17によって、直線部10、13、及び直線部11、12よりも互いに離間している。また、誘導加熱コイル1の各部の長さ、傾斜角度等は、誘導加熱対象の軸状ワークWの各部の大きさに対応している。
【0043】
すなわち、小容積加熱部3の第二加熱機能部3a(直線部11、12)、第二加熱機能部3b(直線部10、13)、第二アイドル部3c(傾斜部15、16、中央直線部18、19、傾斜部14、17)の各部の寸法は、軸状ワークWの小容積部w2、w3、大容積部w1の大きさにそれぞれ対応している。具体的には、第二加熱機能部3aを構成する直線部11、12の間に、軸状ワークWの小容積部w2を配置することができ、同様に、第二加熱機能部3bを構成する直線部10、13の間に、軸状ワークWの小容積部w3を配置することができる。すなわち、小容積部w2に直線部11、12を近接対向させることができると共に、小容積部w3に直線部10、13を近接対向させることができる。
【0044】
また、第二加熱機能部3a、3bが、軸状ワークWの小容積部w2、w3に近接対向する際には、第二アイドル部3cは、軸状ワークWの大容積部w1から大きく離間する。すなわち、誘導加熱コイル1に高周波電流が供給された際に、大容積部w1に高周波誘導電流がほとんど励起することがない程度に、第二アイドル部3cを構成する直線部18、19、及び傾斜部14~17は、大容積部w1と離間する。
【0045】
また、大容積加熱部2と小容積加熱部3は、湾曲部6~9を介して接続されている。湾曲部6~9は、それぞれ中心角が約90度の同じ半径の円弧であり、大容積加熱部2が属する平面と、小容積加熱部3が属する平面は、湾曲部6~9の半径の距離だけ離間している。湾曲部6~9の半径は、軸状ワークWの大容積部w1の半径の2倍以上、又は、軸状ワークWの小容積部w2、w3の半径の3倍以上であるのが好ましい。
【0046】
そのため、小容積加熱部3の第二加熱機能部3a、3bに、軸状ワークWの小容積部w2、w3が近接対向する際には、大容積加熱部2は、軸状ワークWから離間している。すなわち、誘導加熱コイル1に高周波電流が供給された際に、大容積加熱部2は、軸状ワークW(大容積部w1)に高周波誘導電流をほとんど励起させることがない。
【0047】
以上説明した誘導加熱コイル1は、リード部4a、4bが、図示しない高周波電源(高周波発振器)に接続されており、高周波誘導加熱の実施時には、高周波電源から高周波電力が供給される。また、誘導加熱コイル1は、図示しない移動機構を備えており、軸状ワークWに接近したり、離間することができる。
【0048】
次に、誘導加熱コイル1によって、軸状ワークWを誘導加熱する場合について説明する。軸状ワークWには、誘導加熱対象の部位として、大容積部w1と、大容積部w1の両側に小容積部w2、w3がある。
【0049】
具体的には、
図2(a)、
図2(b)に示すように、軸状ワークWは、中央に直径が比較的大きい大容積部w1を有し、両端に直径が比較的小さい小容積部w2、w3を有する軸状のワークである。
図2(b)に示すように、大容積部w1は、内部に中空部hが設けられた中空構造を呈しており、小容積部w2、w3は中実構造である。軸状ワークWは、図示しない支持機構によって回転可能に両端支持されており、当該支持機構によって回転駆動される。
【0050】
図1(a)、
図1(b)に示す誘導加熱コイル1は、図示しない移動機構によって移動することができ、
図3(a)、
図3(b)、
図4(a)、
図4(b)に示すように、誘導加熱コイル1は、軸状ワークWに接近することができる。
【0051】
図3(a)、
図3(b)に示すように、軸状ワークWの小容積部w2の周面には、誘導加熱コイル1の小容積加熱部3の直線部11、12(第二加熱機能部3a)が近接対向しており、小容積部w3には、小容積加熱部3の直線部10、13(第二加熱機能部3b)が近接対向している。
【0052】
このとき、小容積加熱部3の第二アイドル部3cは、
図3(b)に示すように、傾斜部14~17によって、軸状ワークWの大容積部w1から大きく離間し、退避している。すなわち、第二アイドル部3c(中央直線部18、19、傾斜部14~17)は、大容積部w1に高周波誘導電流を励起させることはなく、大容積部w1を高周波誘導加熱しない。
【0053】
一方、大容積加熱部2(直線部5a、5b)は、
図4(a)に示すように、軸状ワークWから離間した位置にある。そのため、大容積加熱部2は、軸状ワークWの高周波誘導加熱には寄与しない。
【0054】
この状態で軸状ワークWを回転駆動するとともに、誘導加熱コイル1に高周波電力を供給すると、小容積部w2、w3が小容積加熱部3の第二加熱機能部3a、3bによって高周波誘導加熱されて昇温する。
【0055】
小容積部w2、w3が所定温度(焼入温度)まで昇温すると、
図5(a)、
図5(b)、
図6(a)、
図6(b)に示すように、誘導加熱コイル1を移動させ、軸状ワークWの大容積部w1に、大容積加熱部2の第一加熱機能部2a(直線部5a、5b)を近接させる。すなわち、誘導加熱コイル1を下方に移動させる。
【0056】
この移動によって、小容積加熱部3の第二加熱機能部3a、3bは、小容積部w2、w3から離間する。すなわち、第二加熱機能部3a、3bは、小容積部w2、w3に高周波誘導電流をほとんど励起させることがない程度まで小容積部w2、w3から離間する。小容積加熱部3の第二アイドル部3cは、大容積部w1からさらに大きく離間している。
【0057】
また、このとき、小容積部w2、w3は、直線部5a、5bから離間している。すなわち、直線部5a、5bは、小容積部w2、w3に高周波誘導電流をほとんど励起させることがない程度に小容積部w2、w3から離間している。ここで、直線部5a、5bにおける小容積部w2、w3に対向する領域部分が、大容積加熱部2の第一アイドル部2b、2cを構成する。
【0058】
誘導加熱コイル1には、引き続き高周波電力が供給されており、今度は、直線部5a、5b(大容積加熱部2)の第一加熱機能部2aによって、大容積部w1が高周波誘導加熱されて昇温する。大容積部w1の温度が、所望する温度(焼入温度)に達すると、誘導加熱コイル1への通電を停止し、図示しない冷却設備(冷却液を噴射する冷却ジャケット、浸漬用の冷却液を貯留した冷却液槽)によって、軸状ワークWを急冷する。
【0059】
本実施形態では、軸状ワークWの小容積部w2、w3を先に高周波誘導加熱する場合について説明したが、大容積部w1を先に高周波誘導加熱してもよい。この場合には、大容積部w1を高周波誘導加熱した後、誘導加熱コイル1を上方へ移動させ、小容積加熱部3を軸状ワークWに近接させる。
【0060】
このように、誘導加熱コイル1を上下方向に移動させることにより、軸状ワークWの大容積部w1と小容積部w2、w3を個別に高周波誘導加熱することができる。本実施形態では、軸状ワークWの大容積部w1は、中空構造を呈しており、中空部hが設けられている。そのため、中実構造よりも熱容量が小さく、大容積部w1を高周波誘導加熱する際には、大容積部w1の温度のみに注意しながら高周波誘導加熱することができる。その結果、大容積部w1を高周波誘導加熱する際に、小容積部w2、w3が高周波誘導加熱されることがなく、軸状ワークWの温度管理が容易である。
【0061】
例えば、大容積部w1が、本実施形態のように中空部hを有している場合と、中実である場合とで、大容積部w1の誘導加熱時間を相違させても、小容積部w2、w3の温度にはほとんど影響を与えることがない。本実施形態では、小容積部w2、w3が中実であったが、中空形状であっても、大容積部w1の温度にはほとんど影響を及ぼすことなく、小容積部w2、w3のみを適切に高周波誘導加熱して昇温させることができる。
【0062】
また、誘導加熱コイル1の向きを、軸状ワークWの軸芯周りに回転させ、誘導加熱コイル1を斜め方向に往復移動させてもよい。
さらに、誘導加熱コイル1の小容積加熱部3の第二加熱機能部3a、3bを構成する直線部10、13の間隔、直線部11、12の間隔を広げ、軸状ワークW又は誘導加熱コイル1を軸状ワークWの端面を正面視して左右方向に揺動させて小容積部w2、w3を高周波誘導加熱することもできる。
【0063】
すなわち、軸状ワークW及び/又は誘導加熱コイル1が、軸状ワークWの端面を正面視して上下左右斜めのいずれかの方向に移動させながら、軸状ワークWを高周波誘導加熱することもできる。
【0064】
本実施形態の誘導加熱方法では、軸状ワークWにおける直径が比較的大きい大容積部w1と、直径が比較的小さい小容積部w2、w3を個別に誘導加熱するので、大容積部w1と小容積部w2、w3をそれぞれ適切に昇温させることができる。
【0065】
また、本実施形態に係る誘導加熱方法では、一つの誘導加熱コイル1で、軸状ワークWの大容積部w1と小容積部w2、w3を個別に誘導加熱することができるので、誘導加熱装置が複雑化することがなく、装置の簡素化を図ることができる。
【0066】
本実施形態では、小容積加熱部3の第二加熱機能部3a、3bが、軸状ワークWの小容積部w2、w3の全長に渡って近接対向することができる長さを有している場合について説明した。
【0067】
ここで、軸状ワークWの小容積部w2、w3の軸方向長さが、
図8(a)に示すように、誘導加熱コイル21の小容積加熱部3の第二加熱機能部3a、3bの領域内に収まらない長さである場合(すなわち、小容積部w2、w3の長さが、直線部10~13よりも長い場合)には、軸状ワークWと誘導加熱コイル21を、軸状ワークWを回転させながら、軸状ワークWを軸芯方向に揺動させる。
図8に示す誘導加熱コイル21は、
図1等に示す誘導加熱コイル1と同様の構造を有するものであるが、小容積加熱部3の各部の長さが相違している。
【0068】
すなわち、
図8(b)に示すように、軸状ワークWに対して、誘導加熱コイル21を矢印A方向に移動させ、さらに、
図8(c)に示すように、誘導加熱コイル1を矢印Bで示す方向に移動させる動作を繰り返しながら小容積部w2、w3の周面を高周波誘導加熱する。誘導加熱コイル21の位置を固定し、軸状ワークWを軸芯方向に揺動させてもよい。
【0069】
このように、軸状ワークWと誘導加熱コイル21を、軸芯方向に相対移動(揺動)させることにより、小容積部w2、w3の周面に略均一な高周波誘導電流を励起させることができる。
【0070】
また、軸状ワークWと誘導加熱コイル21を軸芯方向に揺動させる際、大容積加熱部2は、軸状ワークWに接触又は衝突しない。すなわち、大容積加熱部2は、軸芯方向と平行な直線状の直線部5a、5bで構成されているため、軸状ワークWと誘導加熱コイル21を軸芯方向に相対的に揺動させても、軸状ワークWは、直線部5a、5b(大容積加熱部2)に沿って往復移動するだけである。そのため、軸状ワークWが、大容積加熱部2と接触することはなく、軸状ワークWを良好に高周波誘導加熱することができる。
【符号の説明】
【0071】
1、21 誘導加熱コイル
2 大容積加熱部
2a 第一加熱機能部
2b、2c 第一アイドル部
3 小容積加熱部
3a、3b 第二加熱機能部
3c 第二アイドル部
5a、5b 直線部
W 軸状ワーク
w1 大容積部
w2、w3 小容積部