(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039457
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】回路基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20220303BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20220303BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H05K1/02 P
H05K3/46 Z
H05K9/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144480
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】592166137
【氏名又は名称】河村産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】藤平 恵
【テーマコード(参考)】
5E316
5E321
5E338
【Fターム(参考)】
5E316AA13
5E316AA15
5E316AA27
5E316AA29
5E316AA42
5E316BB11
5E316CC02
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5E316CC32
5E316DD02
5E316DD17
5E316DD24
5E316DD32
5E316EE31
5E316FF04
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5E316GG17
5E316GG28
5E316HH01
5E316HH04
5E321AA17
5E321AA23
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5E321BB53
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5E321GG05
5E321GG09
5E338AA03
5E338AA16
5E338BB01
5E338CC05
5E338EE11
5E338EE13
(57)【要約】
【課題】高速での移動体通信機器での使用が可能な、伝送ロスが少なく、折り曲げても割れ等の不具合が発生し難い回路基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】回路基板10は、回路付きコア基材13及びシールド用金属層15を備える。回路付きコア基材13は、コア基材11の一方の面または両方の面に形成された導体回路12を有する。シールド用金属層15は、回路付きコア基材13の両面に配置されている。コア基材11は、周波数10GHzで測定したときの誘電率が1.9~3.5であるとともに、誘電正接が0.004以下である。コア基材11と導体回路12とは、接着剤を介することなく直接形成、または誘電率が1.9~3.5の低誘電性接着剤により貼り合わされている。回路付きコア基材13とシールド用金属層15とは、誘電率が1.9~3.5であって、誘電正接が0.004以下の低誘電性接着剤16で接合されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア基材の一方の面または両方の面に形成された導体回路を有する回路付きコア基材と、
前記回路付きコア基材の両面に配置されているシールド用金属層と、
を備える回路基板であって、
前記コア基材は、周波数10GHzで測定したときの誘電率が1.9~3.5であるとともに、誘電正接が0.004以下であり、
前記コア基材と前記導体回路とは、接着剤を介することなく直接形成、または誘電率が1.9~3.5の低誘電性接着剤により貼り合わされ、
前記回路付きコア基材と前記シールド用金属層とは、誘電率が1.9~3.5であって、誘電正接が0.004以下の低誘電性接着剤で接合されている回路基板。
【請求項2】
前記コア基材は、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、フッ素樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリフェニレンサルファイドから選択される高分子フィルムである請求項1記載の回路基板。
【請求項3】
前記低誘電性接着剤は、弾性率が、0.2~100MPaである請求項1または2記載の回路基板。
【請求項4】
前記シールド用金属層は、180℃で30分間の熱処理を行った後に8%以上の破断伸度を示す銅もしくは銅合金である請求項1~3のいずれか一項記載の回路基板。
【請求項5】
前記シールド用金属層は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金である請求項1~3のいずれか一項記載の回路基板。
【請求項6】
前記シールド用金属層の一部または全部を覆うカバー層をさらに備える請求項1~5のいずれか一項記載の回路基板。
【請求項7】
曲げ加工が施された曲板状である請求項1~6のいずれか一項記載の回路基板。
【請求項8】
周波数10GHzで測定したときの誘電率が1.9~3.5であり、誘電正接が0.004以下であるコア基材の一方の面または両方の面に導体回路が形成された回路付きコア基材を準備する工程と、
前記回路付きコア基材の両面に、誘電率が1.9~3.5、誘電正接が0.004以下の範囲にある低誘電性接着剤を介してシールド用金属層を形成する工程と、
を含む回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板、特に高周波での伝送ロスの少ない高周波用の回路基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、需要が急速に拡大している多機能携帯電話やタブレット端末等の移動体通信機器を用いた移動体情報通信分野では、第五世代移動通信システム(5G)の検討が進められている(特許文献1参照)。それに伴い、大容量のデータの高速での送受信が求められており、それに伴い電気信号の高周波数化が検討されている。この第五世代移動通信システムの通信速度は前世代の数十倍と言われており、これを実現するために電気信号は10GHz以上の高周波数帯域の利用が検討されている。
【0003】
しかしながら、従来の回路基板では、高周波数帯域の信号の大容量・高速通信を行う前提で使用する材料や回路基板の設計を行っていないため、回路基板に使用される絶縁用材料の誘電率や誘電正接が大きく、信号伝達の際の伝送ロスが起こるとともに、電磁波ノイズの影響を受けやすいという問題があり、第五世代移動通信システムで求められる高速通信に対応できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高速での移動体通信機器での使用が可能な、伝送ロスが少なく、折り曲げても割れ等の不具合が発生し難い回路基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定の誘電率と誘電正接を有するコア基材の片面もしくは両面上に導体回路を形成して回路付きコア基材とした後、回路付きコア基材の両面を所定の誘電率と誘電正接を有する低誘電性接着剤を用いてシールド用金属層と貼り合わせることで、高周波に対応した回路基板が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示す回路基板が提供される。
【0008】
本発明の回路基板は、コア基材の一方の面または両方の面に貼り合わされた導体回路を有する回路付きコア基材と、前記回路付きコア基材の両面に配置されているシールド用金属層と、を備える。前記コア基材は、周波数10GHzで測定したときの誘電率が1.9~3.5であるとともに、誘電正接が0.004以下である。前記コア基材と前記導体回路とは、接着剤を介することなく直接、または誘電率が1.9~3.5の低誘電性接着剤により貼り合わされ、前記回路付きコア基材と前記シールド用金属層とは、誘電率が1.9~3.5であって、誘電正接が0.004以下の低誘電性接着剤で接合されている。
【0009】
また、本発明によると、以下に示す回路基板の製造方法が提供される。
すなわち、本発明の回路基板の製造方法では、周波数10GHzで測定したときの誘電率が1.9~3.5であり、誘電正接が0.004以下であるコア基材の一方の面または両方の面に導体回路が形成された回路付きコア基材を準備する工程と、前記回路付きコア基材の両面に、誘電率が1.9~3.5、誘電正接が0.004以下の範囲にある低誘電性接着剤を介してシールド用金属層を形成する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の回路基板において、コア基材の片面に直接導体回路を形成した状態を示す模式的な断面図
【
図2】本実施形態の回路基板において、コア基材の片面に低誘電性接着剤を介して導体回路を形成した状態を示す模式的な断面図
【
図3】本実施形態の回路基板において、コア基材の両面に導体回路を形成した状態を示す模式的な断面図
【
図4】
図1に示す回路基板に、さらにカバーレイを形成した状態を示す模式的な断面図
【
図5】
図1に示す回路基板に、スルーホールめっき加工を施した後、さらにカバーレイを形成した状態を示す模式的な断面図
【
図6】
図2に示す回路基板に、スルーホールめっき加工を施した後、さらにカバーレイを形成した状態を示す模式的な断面図
【
図7】
図3に示す回路基板に、スルーホールめっき加工を施した後、さらにカバーレイを形成した状態を示す模式的な断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態による回路基板について、詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように本実施形態の回路基板10は、コア基材11及び導体回路12を有する回路付きコア基材13を備える。コア基材11は、周波数10GHzで測定したときの誘電率が1.9~3.5、誘電正接が0.004以下である。導体回路12は、
図1に示すようにコア基材11の一方の面に、接着剤を介することなく直接形成されている。また、導体回路12は、
図2に示すようにコア基材11の一方の面に、誘電率が1.9~3.5の低誘電性接着剤14により貼り合わせてもよい。さらに、導体回路12は、
図3に示すようにコア基材11の両方の面に、接着剤を介することなく直接形成してもよい。回路基板10は、
図1~
図3に示すように回路付きコア基材13の両方の面に配置されたシールド用金属層15を備える。回路付きコア基材13とシールド用金属層15とは、誘電率が1.9~3.5であって、誘電正接が0.004以下の低誘電性接着剤16で接合されている。なお、導体回路12は、コア基材11の両方の面に、低誘電性接着剤14を用いて貼り合わせてもよい。
【0013】
回路基板10に使用されるコア基材11は、周波数10GHzで測定したときの誘電率が1.9~3.5、誘電正接が0.004以下の高分子フィルムが使用される。コア基材11に使用される高分子フィルムとしては、誘電率と誘電正接が上記値を満たせば任意のフィルムが使用可能であり、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、フッ素樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリフェニレンサルファイド等の高分子基材が好適に使用できる。ポリエーテルエーテルケトンフィルムとしては、Victrex社製のAPTIVフィルム等が使用できる。液晶ポリエステルとは高温にすることで液晶性を示すポリエステルの総称であり、株式会社クラレ製のベクスターや千代田インテグレ株式会社製のペリキュールLCP等がある。フッ素樹脂は、高分子中にフッ素原子を含むポリマーの総称であり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)等の種類がある。シクロオレフィンポリマーフィルムとしては、日本ゼオン株式会社のゼオノア、またポリフェニレンサルファイドフィルムとしては、東レ株式会社のトレリナ等がある。
【0014】
コア基材11の好ましい材質は前述のとおりであるが、水分の影響によりコア基材11の誘電特性が変化するおそれがあることから、コア基材11の吸水率は低いことが好ましい。具体的には、乾燥したコア基材11を25℃の純水に24時間浸漬させた後の吸水率は、0.6%以下であることが好ましく、0.4%以下であることがより好ましい。
【0015】
コア基材11の厚みは、ハンドリング性に加えて、必要な絶縁性の確保や伝送損失の低減、さらには柔軟性や耐折り曲げ性等の観点から決定されるが、好ましくは5~500μmの範囲であり、より好ましくは10~300μm、さらに好ましくは25~200μmである。
【0016】
導体回路12は、コア基材11に形成されている。導体回路12は、必要な電気を通すことができれば任意の金属の回路が可能であるが、導電性や回路加工の行いやすさから銅を用いることが好ましい。コア基材11への導体回路12の形成は、コア基材11の片面もしくは両面の概ね全面に導体回路12となる金属層を形成した後、サブトラクティブ法により回路を形成してもよく、アディティブ法で回路を形成してもよい。サブトラクティブ法で回路を形成する場合、導体回路12となる金属層は、例えば蒸着やスパッタリング法でシード層と呼ばれるニッケル、クロム、銅やそれらの合金の薄膜層を形成し、その後電解めっきにより銅等の金属を所定の厚みにする方法、低誘電性接着剤を用いてコア基材11上に銅箔等の金属箔を貼り合わせる方法が挙げられる。本実施形態では、導体回路12と接している成分の誘電率1.9~3.5、誘電正接0.004以下の条件を満たしておけばよい。
【0017】
導体回路12の厚みは、好ましくは5~50μm、より好ましくは7~35μm、さらに好ましくは9~25μmである。
【0018】
アディティブ法で導体回路12を形成する場合、例えばコア基材11上にめっきレジストを形成し、無電解めっきで導体となる金属層を形成するいわゆるフルアディティブ法や、スパッタリングや蒸着等で薄膜のシード層を形成した後、シード層の上にめっきレジストを形成し、その後電解めっきで所定の部分にのみ導体を厚付けし、めっきレジスト層を除去した後、ソフトエッチングによりシード層を取り除くセミアディティブ法を用いることができる。
【0019】
また、伝送損失を低減するという観点から、導体回路12となる金属層の表面粗さを小さくすることが好ましい。そのため、サブトラクティブ法で導体回路12を形成する場合でも、アディティブ法で導体回路12を形成する場合でも、導体回路12となる金属層の形成を、スパッタリング法もしくは蒸着法で薄膜のシード層を形成した後に、電解めっき法により厚い金属層とすることが好ましい。この方法により、十点表面粗さ(Rz)が0.3μm程度と平滑な表面を有する導体回路12とすることができる。
【0020】
また、サブトラクティブ法やアディティブ法で導体回路12を形成した後、防錆等を目的として、防錆処理やニッケルや金のめっき処理などを行うことも可能である。
【0021】
このようにして得られた回路付きのコア基材13とシールド用金属層15とは、低誘電性接着剤16で貼り合わせられる。本実施形態で用いる低誘電性接着剤16は、誘電率が1.9~3.5、誘電正接が0.004以下のものである。低誘電性接着剤16の厚みは、配線のインピーダンス特性及び高周波の伝送特性を主として、導体回路12の厚みや導体回路12とシールド用金属層15との間の絶縁性などを考慮して決められるが、好ましくは5~500μm、より好ましくは10~300μm、さらに好ましくは20~200μmである。また、低誘電性接着剤16はコア基材11の両面に使用するが、その厚みはそれぞれ同じであってもよく、異なっていても差し支えない。
【0022】
低誘電性接着剤16は、シート状のものを用いても良く、液状のものをシールド用金属層15もしくは回路付きコア基材13の上に塗膜・乾燥して用いてもよい。また、シート状の低誘電性接着剤16を使用する場合、厚みの調整等の目的で2層以上の低誘電性接着剤16のシートを重ねて使用することも可能である。
【0023】
低誘電性接着剤16による回路付きコア基材13とシールド用金属層15との接合は、熱プレスや熱ラミネート等の方法で行うことができる。
【0024】
本実施形態の回路基板10に使用するシールド用金属層15は、回路付きコア基材13
の導体回路12を電磁波ノイズ等の影響を受けずに正常に作動させることを目的に設けられるものであり、任意の金属箔を使用可能である。そして、回路基板10を折り曲げて使用する場合、シールド用金属層15が破断して導体回路12も損傷するおそれがある。そのため、シールド用金属層15は、金属箔として銅箔を用いることが好ましい。特に、回路基板10にシールド用金属層15として熱プレス等により貼り合わされた状態で折り曲げられることがあるため、貼り合わせの際の熱履歴を考慮して、シールド用金属層15に銅箔を使用する場合、180℃30分の熱処理後の破断伸度が8%以上の銅箔であることが好ましい。シールド用金属層15に使用する他の好ましい金属箔としては、アルミニウム箔もしくはアルミニウム合金箔が挙げられる。180℃30分の熱処理後の破断伸度が8%以上の銅箔もしくは銅合金箔、又はアルミニウム箔もしくはアルミニウム合金箔を使用することで、回路基板10を折り曲げた際にシールド用金属層15が回路基板10の破断のきっかけとなることを防ぎ、回路基板10の耐折り曲げ性を向上させることができる。また、シールド用金属層15の厚みは、任意であるが、シールド効果を発現しつつ、耐折曲げ性を維持するという観点から、好ましくは1~50μmであり、より好ましくは2~30μm、さらに好ましくは2~20μmである。
【0025】
このようにして得られたシールド用金属層15を備える回路基板10は、表層のシールド用金属層15の保護のために、
図4に示すようにカバー層17を備えていてもよい。カバー層17は、シールド用金属層15の全体又は一部を覆うように設けられている。カバー層17は、例えばカバーレイフィルムやソルダーレジスト等を用いて形成され、シールド用金属層15を保護する。
【0026】
本実施形態の回路基板10は、
図5~
図7に示すように導体回路12とシールド用金属層15との間で導通を取る構成としてもよい。このように、導体回路12とシールド用金属層15との間で導通を取ることにより、信号の伝送時におけるノイズの低減等を図ることができる。導体回路12とシールド用金属層15との間の導通方法は任意であるが、例えば
図5~
図7に示すようにコア基材11にシールド用金属層15を貼り合わせた後、図示しないドリルによってスルーホール21を形成し、このスルーホール21の内壁面に導電性の金属層22をめっきによって形成するスルーホールめっき法が用いられる。この他にも、例えばレーザー等によりシールド用金属層15と回路付きコア基材13とを接合する低誘電性接着剤16にビアホールを形成し、めっき法や導電性ペーストを充填する方法等によって導通を図ってもよい。
【0027】
本実施形態の回路基板10は、コア基材11とその両面に配置されたシールド用金属層15とが、低誘電性接着剤16で接合されている。そのため、高周波での伝送損失が起こり難く、またシールド用金属層15によりノイズの発生を抑制できることから、低伝送損失、低ノイズの回路基板10を得ることができる。また、耐折り曲げ性に優れていることから回路基板10を折り曲げた際のクラックの発生が起こり難く、曲げ加工等を行っても損傷のない信頼性の高い回路基板10を得ることができる。そのため、本実施形態の回路基板10は、小さな筐体中で高速の信号伝送が必要となる第五世代移動体通信等の高速通信用デバイスに対して好適に使用可能である。また、回路基板10は、自動車分野等におけるミリ波レーダー用の信号伝送用としても好適に使用することが可能である。
【0028】
以下、本発明の実施形態を実施例に基づき具体的に説明する。なお、以下の実施例は、理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
<コア基材及び接着剤シートの誘電率、誘電正接の測定方法>
コア基材11に使用する高分子フィルム及び低誘電性接着剤シートを3cm×5cmにカットして、25℃50%RHにコントロールされた室内に24時間放置し、その後スプリットポスト誘電体共振器を用いて10GHzの周波数で比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0030】
<コア基材の吸水率の測定方法>
コア基材11に使用している高分子フィルムを10cm×10cmのサイズに切り出して、23℃で1%以下の湿度にコントロールされたデシケータ中に高分子フィルムを12時間放置して乾燥状態のコア基材11とし、その重量を測定してw1とした。次に、当該高分子フィルムを25℃の純水に24時間浸漬した後、純水から取り出して直ちにワイピング材を用いて表面に付着した純水が目視で確認できなくなる程度まで純水を拭き取り、その重量を測定してw2とした。コア基材11である高分子フィルムの吸水率は以下の式から求めた。
吸水率(%)=(w2-w1)/w1 × 100
【0031】
<低誘電性接着剤の弾性率の測定方法>
低誘電性接着剤14、16のシートを10mm×150mmのサイズに切り出して、引張試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAGS-H)を用いて、引張速度50mm/分の条件で引張試験を行い、低誘電性接着剤14、16のシートの弾性率を求めた。
【0032】
<回路基板の耐折り曲げ性の試験方法>
各実施例もしくは比較例で作成した回路基板10について、ステンレス製の丸管(2mmφ)を折り曲げ部に添えて、折り曲げのRがステンレス製の丸管の径になるよう構成品を折り曲げ、導体回路12の断線有無を抵抗計で計測し、かつ目視で外層となるシールド用金属層15の割れを観察した。
【0033】
<シールド用金属層の破断伸度の測定方法>
回路基板10のシールド用金属層15として使用する電解銅箔又はアルミニウム箔を準備して、回路基板10の製造時に回路付きコア基材13とシールド用金属層15との接合の際のプレス条件である180℃30分と同じ熱履歴を、接合に用いた熱プレス装置を用いて与えた。その後、電解銅箔もしくはアルミニウム箔を5mm×150mmのサイズに切り出して、引張試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAGS-H)を用いて、引張速度50mm/分の条件で引張試験を行い、シールド用金属層15として使用する金属箔の伸度を求めた。
【0034】
<回路基板の高周波伝送特性>
回路基板10の導体回路12の両端にBtoBコネクタ(NOVASTACK 35-HDN、10PIN PLUG(20864-010E-01))を取り付け、PNAネットワークアナライザを用いて、周波数10GHzにおける伝送損失を計測した。
【0035】
(実施例1)
実施例1は、コア基材11として、50μmの厚みのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム(Victrex社製、APTIV1103、誘電率3.3、誘電正接0.003、吸水率0.29%)を用いた。コア基材11の片面にアルゴンガスを用いて真空プラズマ処理を行った後、ニッケル80%及びクロム20%の合金層10nm、銅200nmを順次スパッタリングして導体回路12となる薄膜の導体層を形成し、電解めっきにより銅を全面に厚付けして導体層の総厚みを12μmとした。次に、サブトラクティブ法により、導体層に所定の導体回路12を形成して、
図1に示すようにコア基材11の片面に導体回路12を有する回路付きコア基材13を作成した。
【0036】
次に、厚み25μmのエポキシ系の低誘電性接着剤16の層となるシート(東亞合成株式会社製、アロンマイティAF-711、誘電率2.4、誘電正接0.002、弾性率0.5MPa)を、コア基材11の導体回路12側には100μmの厚みになるように4枚重ね合わせて用いるとともに、反対側には2枚を重ねて用いた。そして、図示しない熱プレス装置を使って、180℃30分の条件で回路付きコア基材13の両面にシールド用金属層15として電解銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、CF-T49A-DS-HD2-12、12μm厚み)を、低誘電性接着剤16により貼り合わせて、
図1に示される構成の回路基板10を得た。なお、使用したシールド用金属層15の電解銅箔のみに180℃30分の熱履歴をかけた後に前述の方法で引張試験を行ったところ、伸度は14%であった。
【0037】
その後、積層した全層を貫通するように図示しないドリルで直径0.2mmのスルーホール21を開け、スルーホールめっき処理にて金属層22を形成し、シールド用金属層15と導体回路12とを導通させた。
【0038】
次に、シールド用金属層15である電解銅箔を、ポリイミド系のカバーレイフィルムを用いたカバー層17で覆い、これを保護した。これにより、
図5に示される構成の回路基板10を完成させた。
【0039】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-3.5dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0040】
(実施例2)
実施例2は、コア基材11として、50μmの厚みのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム(Victrex社製、APTIV1103、誘電率3.3、誘電正接0.003、吸水率0.29%)を用いた。次に、PEEKフィルムと12μmの電解銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、CF-T49A-DS-HD2-12)との間を、厚み25μmのエポキシ系の低誘電性接着剤14のシート(東亞合成株式会社製、アロンマイティAF-711、25μm厚み)を用いて、180℃30分の条件で真空熱プレス装置を用いて圧着し、PEEKフィルムからなるコア基材11/低誘電性接着剤14/電解銅箔からなる導体層の構成となる材料を得た。
【0041】
次に、実施例1と同様にサブトラクティブ法により、導体層に所定の導体回路12を形成し、回路付きコア基材13を作成した。
【0042】
さらに、実施例1と同様に厚み25μmのエポキシ系の低誘電性接着剤16のシート(東亞合成株式会社製、アロンマイティAF-711、誘電率2.4、誘電正接0.002)を、コア基材11の導体回路12側には100μmの厚みになるように4枚重ね合わせて用いるとともに、反対側には1枚を用いた。そして、図示しない熱プレス装置を使って、180℃30分の条件で回路付きコア基材13の両面にシールド用金属層15として電解銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、CF-T49A-DS-HD2-12、12μm厚み)、低誘電性接着剤16により貼り合わせて、
図2に示される構成の回路基板10を得た。
【0043】
その後、積層した全層を貫通するように図示しないドリルで直径0.2mmのスルーホール21を開け、スルーホールめっき処理にて金属層22を形成し、シールド用金属層15と導体回路12とを導通させた。
【0044】
次に、実施例1と同様にシールド用金属層15である電界銅箔を、ポリイミド系のカバーレイフィルムを用いたカバー層17で覆い、これを保護した。これにより、
図6に示される構成の回路基板10を完成させた。
【0045】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-3.7dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0046】
(実施例3)
実施例3は、コア基材11の両面に、スパッタリング及び電解めっきにより、それぞれ12μmの厚みの導体層を形成した後、サブトラクティブ法により導体回路12を形成し、厚さ25μmの低誘電性接着剤16のシートを各面側に4枚ずつ用いた。これら以外は、実施例1と同様に回路基板10を形成した。これにより、コア基材11の両面に導体回路12を有し、その外側に低誘電性接着剤16で電解銅箔がシールド用金属層15として接合された回路基板10を得た。
【0047】
そして、実施例1と同様に、スルーホール21及び金属層2の形成とともに、カバー層17を設け、
図7に示される構成の回路基板10を完成させた。
【0048】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-3.3dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0049】
(実施例4)
実施例4は、実施例1におけるポリエーテルエーテルケトンフィルム(PEEKフィルム)に代えて、50μm厚みの液晶ポリエステルフィルム(誘電率3.3、誘電正接0.002、吸水率0.03%)を用いた。
【0050】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-2.8dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0051】
(実施例5)
実施例5は、実施例1におけるPEEKフィルムに代えて、50μm厚みのフッ素樹脂フィルム(AGC株式会社製EA-2000、誘電率2.0、誘電正接0.001、吸水率0.02%)を用いた。
【0052】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-2.7dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0053】
(実施例6)
実施例6は、実施例1におけるPEEKフィルムに代えて、50μm厚みのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン株式会社製ZF-16、誘電率2.3、誘電正接0.0004、吸水率0.02%)を用いた。
【0054】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-2.7dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0055】
(実施例7)
実施例7は、実施例1におけるPEEKフィルムに代えて、50μm厚みのポリフェニレンサルファイドフィルム(東レ株式会社製トレリナ3030、誘電3.1、誘電正接0.002、吸水率0.15%)を用いた。
【0056】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-3.6dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0057】
(実施例8)
実施例8は、シールド用金属層15として、実施例1における厚み12μmの電解銅箔に代えて、厚み20μmのアルミニウム箔(株式会社UACJ製8021箔)を用いた。実施例8で使用したアルミニウム箔について、回路付きコア基材13と低誘電性接着剤16とを接合する熱プレス条件である180℃30分の熱履歴をかけた後の伸度は、12%であった。
【0058】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-3.5dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0059】
(実施例9)
実施例9は、回路付きコア基材13とシールド用金属層15との接合に使用する低誘電性接着剤16として、実施例1における弾性率が0.5MPaのエポキシ系接着剤シートの代わりに、弾性率が46MPaのエポキシ系接着剤シート(東亞合成株式会社製、AF-700、誘電率2.3、誘電正接0.002)を用いた。
【0060】
得られた回路基板10の10GHzでの伝送損失は、-3.4dBと小さく高周波での伝送特性に優れていることが確認された。また折曲げ試験によるクラックの発生がなく、耐折り曲げ性にも優れていることが確認された。
【0061】
(比較例1)
比較例1は、実施例1におけるPEEKフィルムに代えて、50μm厚みのポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製、カプトン200EN、誘電率3.2、誘電正接0.007、吸水率1.7%)を用いた。その結果、外観上は良好な回路基板10を得ることができたが、コア基材13であるポリイミドフィルムの誘電正接が0.007と高かったため、伝送特性の試験において、10GHzでの伝送損失が-5.0dBと大きく、高周波で使用する回路基板10としては不適切なものであった。
【0062】
(比較例2)
比較例2は、実施例1におけるエポキシ系の低誘電性接着剤16の代わりに、アクリル系接着剤(誘電率4.0、誘電正接0.02)を用いた。その結果、外観上は良好な回路基板10を得ることができたが、回路付きコア基材13とシールド用金属層15である電解銅箔との接合に誘電率が4.0、誘電正接が0.02のアクリル系接着剤を用いたため、伝送特性の試験において、10GHzでの伝送損失が-4.8dBと大きく、高周波で使用する回路基板としては不適切なものであった。
【0063】
(比較例3)
比較例3は、実施例1におけるシールド用金属層15を用いることなく、回路付きコア基材13の両面にカバー層17を直接圧着して回路基板10とした。比較例3は、伝送特性の試験において、10GHzでの伝送損失が-4.5dBと大きく、高周波で使用する回路基板10としては不適切なものであった。
【符号の説明】
【0064】
図面中、10は回路基板、11はコア基材、12は導体回路、14は低誘電性接着剤、15はシールド用金属層、16は低誘電性接着剤、17はカバー層を示す。