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2022-39500ウイルス吸着剤およびその製造方法、ならびにマスクおよびスワブ
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  • -ウイルス吸着剤およびその製造方法、ならびにマスクおよびスワブ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039500
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】ウイルス吸着剤およびその製造方法、ならびにマスクおよびスワブ
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/04 20060101AFI20220303BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220303BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20220303BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220303BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20220303BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
B01J20/04 A
B01J20/30
A61L9/014
A61L9/01 B
C01B25/32 Q
C12N7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144565
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】501249076
【氏名又は名称】久保木 芳徳
(71)【出願人】
【識別番号】520330858
【氏名又は名称】江蘇雅盟新材料有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】520330869
【氏名又は名称】北京福原科技有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】518298533
【氏名又は名称】株式会社ANTS JAPAN
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保木 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】郁 小兵
(72)【発明者】
【氏名】福原 理加
【テーマコード(参考)】
4B065
4C180
4G066
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AC20
4B065BD18
4B065CA60
4C180AA07
4C180CC04
4C180EA22X
4C180EA23X
4C180EA24X
4G066AA35A
4G066AA36A
4G066AA43A
4G066AA43D
4G066AA50A
4G066AA50B
4G066BA01
4G066BA09
4G066BA32
4G066BA33
4G066CA56
4G066DA03
4G066FA03
4G066FA05
4G066FA17
4G066FA33
4G066FA36
(57)【要約】
【課題】従来のウイルス吸着剤よりもよりウイルスを吸着することができるウイルス吸着剤を提供すること。
【解決手段】本発明のウイルス吸着剤は、ヒドロキシアパタイトの針状結晶および非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子を含む。本発明のウイルス吸着剤は、塩化ナトリウム、カルシウム塩およびリン酸塩を含み、pHが5~6.5の水溶液を準備する工程と、前記水溶液のpHを7~9.5に変化させてヒドロキシアパタイトを析出させる工程と、前記水溶液から前記ヒドロキシアパタイトを分離する工程と、により製造されうる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアパタイトの針状結晶および非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子を含む、ウイルス吸着剤。
【請求項2】
前記ヒドロキシアパタイトの針状結晶と前記非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子とは、部分的に融合している、請求項1に記載のウイルス吸着剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のウイルス吸着剤を含むマスク。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のウイルス吸着剤を含むスワブ。
【請求項5】
カルシウム塩、リン酸塩および塩化ナトリウムを含み、pHが5~6.5の水溶液を準備する工程と、
前記水溶液のpHを7~9.5に変化させてヒドロキシアパタイトを析出させる工程と、
前記水溶液から前記ヒドロキシアパタイトを分離する工程と、
を有する、ウイルス吸着剤の製造方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシアパタイトは、ヒドロキシアパタイトの針状結晶および非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子を含む、請求項5に記載のウイルス吸着剤の製造方法。
【請求項7】
前記水溶液は、前記カルシウム塩としての塩化カルシウムと、前記リン酸塩としてのリン酸カリウムと、塩化ナトリウムと、炭酸水素ナトリウムとを含む、請求項5または請求項6に記載のウイルス吸着剤の製造方法。
【請求項8】
前記水溶液を準備する工程では、前記水溶液に二酸化炭素を吹き込むことでpHを5~6.5の範囲内に調整し、
前記ヒドロキシアパタイトを析出させる工程では、前記水溶液中の二酸化炭素を除去することでpHを7~9.5の範囲内に調整する、
請求項5~7のいずれか一項に記載のウイルス吸着剤の製造方法。
【請求項9】
前記ヒドロキシアパタイトを析出させる工程では、前記水溶液中の二酸化炭素を空気に置換することでpHを7~9.5の範囲内に調整する、請求項8に記載のウイルス吸着剤の製造方法。
【請求項10】
前記ヒドロキシアパタイトを析出させる工程では、前記水溶液中の二酸化炭素を6時間以上かけて徐々に除去する、請求項8または請求項9に記載のウイルス吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス吸着剤およびその製造方法、ならびに前記ウイルス吸着剤を含むマスクおよびスワブに関する。
【背景技術】
【0002】
2019年後半から2020年の現在まで、新型コロナウイルス(SARSコロナウイルス2)が原因となる、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるっている。その主な感染経路は、飛沫感染および接触感染であると言われている。飛沫感染および接触感染を防ぐために、マスクをしたり、エタノールなどの消毒剤を用いた消毒をしたりしている。しかしながら、現在までのところ、飛沫感染および接触感染を完全には防ぐことができていない。
【0003】
一方、ウイルスの感染を検査する際に、検体中のウイルスを濃縮または精製することがある。特許文献1および特許文献2には、ヒドロキシアパタイトの焼結体(セラミックヒドロキシアパタイト)を用いて検体中のウイルスを濃縮または精製することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-216906号公報
【特許文献2】特開2017-86090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、マスクや消毒などでは、ウイルスの飛沫感染および接触感染を完全には防ぐことができていない。ウイルスの感染を防ぐ別の手段としては、ウイルスを吸着するウイルス吸着剤を用いて空気中または物体表面に存在するウイルスを除去することが考えられる。特許文献1および特許文献2には、検体中のウイルスを濃縮または精製するためのウイルス吸着剤としてヒドロキシアパタイトの焼結体(セラミックヒドロキシアパタイト)を用いることが開示されているが、これらのウイルス吸着剤にはウイルスの吸着能に改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、従来のウイルス吸着剤よりもよりウイルスを吸着することができるウイルス吸着剤およびその製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記ウイルス吸着剤を含むマスクおよびスワブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のウイルス吸着剤は、ヒドロキシアパタイトの針状結晶および非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子を含む。
【0008】
本発明のマスクは、本発明のウイルス吸着剤を含む。
【0009】
本発明のスワブは、本発明のウイルス吸着剤を含む。
【0010】
本発明のウイルス吸着剤の製造方法は、カルシウム塩、リン酸塩および塩化ナトリウムを含み、pHが5~6.5の水溶液を準備する工程と、前記水溶液のpHを7~9.5に変化させてヒドロキシアパタイトを析出させる工程と、前記水溶液から前記ヒドロキシアパタイトを分離する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来のウイルス吸着剤よりもよりウイルスを吸着することができるウイルス吸着剤、ならびに前記ウイルス吸着剤を含むマスクおよびスワブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明のウイルス吸着剤の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.ウイルス吸着剤
本発明に係るウイルス吸着剤は、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))の針状結晶および非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子を含む。ヒドロキシアパタイトの針状結晶と非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子とは、部分的に融合していてもよい。これらのヒドロキシアパタイトは、焼結されておらず、セラミックヒドロキシアパタイトではない。
【0014】
図1は、本発明のウイルス吸着剤の顕微鏡写真である。図1に示されるように、ウイルス吸着剤は、ヒドロキシアパタイトの針状結晶(図中「A」で示す)および非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子(図中「B」で示す)を含む。図1に示される例では、ヒドロキシアパタイトの針状結晶と非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子とは、部分的に融合している。
【0015】
ヒドロキシアパタイトの針状結晶は、ヒドロキシアパタイトのアスペクト比が大きい微細結晶である。針状結晶の太さは、特に限定されないが、例えば10~1000nmであり、針状結晶の長さは、特に限定されないが、例えば1~10μmであり、針状結晶のアスペクト比(長さ/太さ)は、特に限定されないが、例えば3~10である。針状結晶の太さ、長さおよびアスペクト比は、顕微鏡観察により測定することができる。
【0016】
非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子は、主としてアモルファス(非晶質)のヒドロキシアパタイトからなる粒子である。粒子の形状は、特に限定されない。粒子の平均粒径は、500~5000nmである。粒子の平均粒径は、顕微鏡観察により測定することができる。
【0017】
ヒドロキシアパタイトの針状結晶と非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子との量比は、特に限定されないが、例えば1:2~2:1の間である。ヒドロキシアパタイトの針状結晶と非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子との量比は、顕微鏡観察により測定することができる。
【0018】
本発明に係るウイルス吸着剤は、吸着成分としてヒドロキシアパタイトを含むが、従来のヒドロキシアパタイトの焼結体(セラミックヒドロキシアパタイト)よりもウイルスをより効率的に吸着することができる。その理由は、以下のように推察されるが、これに限定されるものではない。すなわち、ヒドロキシアパタイトの針状結晶は、表面積が大きく、ウイルスの吸着能が非常に高い。そして、このヒドロキシアパタイトの針状結晶は、ウイルスの吸着能が非常に高い状態を維持しつつ、非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子により保護されている。結果として、本発明に係るウイルス吸着剤は、長期間に亘って高いウイルス吸着能を発揮することができる。
【0019】
上記のとおり、本発明に係るウイルス吸着剤は、非常に高いウイルス吸着能を有している。また、本発明に係るウイルス吸着剤は、アパタイトの特性から、吸着したウイルスを不活性化すると考えられる。たとえば、本発明に係るウイルス吸着剤は、ウイルスのタンパク質から水分子を取り外してタンパク質を変性させることで、ウイルスを不活性化すると考えられる。
【0020】
2.ウイルス吸着剤の製造方法
本発明に係るウイルス吸着剤は、(1)カルシウム塩、リン酸塩および塩化ナトリウムを含み、pHが5~6.5の水溶液を準備する工程と、(2)前記水溶液のpHを7~9.5に変化させてヒドロキシアパタイトを析出させる工程と、(3)前記水溶液から前記ヒドロキシアパタイトを分離する工程と、により製造されうる。以下、各工程について説明する。
【0021】
まず、工程(1)では、カルシウム塩、リン酸塩および塩化ナトリウムを含み、pHが5~6.5の水溶液を準備する。この水溶液は、さらに炭酸水素ナトリウムを含むことが好ましい。
【0022】
カルシウム塩は、ヒドロキシアパタイトを構成するCaの供給源である。カルシウム塩の種類は、水に適切に溶解することができれば特に限定されない。カルシウム塩の例には、塩化カルシウム、硫酸カルシウムなどが含まれる。水溶液中のカルシウム塩の濃度は、工程(2)でヒドロキシアパタイトを適切に析出させることができれば特に限定されないが、例えば12.5mM~17.5mM(例えば15mM)である。カルシウム塩の濃度が低すぎると、ヒドロキシアパタイトを適切に析出させることができないおそれがある。カルシウム塩の濃度が高すぎると、粗大な結晶が析出してしまうおそれがある。なお、ヒドロキシアパタイトを析出させる観点からは、水溶液中のCa:POが概ね10:6になるようにカルシウム塩の濃度を調整することが好ましい。
【0023】
リン酸塩は、ヒドロキシアパタイトを構成するPOの供給源である。リン酸塩の種類は、水に適切に溶解することができれば特に限定されない。リン酸塩の例には、リン酸カリウム、リン酸ナトリウムなどが含まれる。水溶液中のリン酸塩の濃度は、工程(2)でヒドロキシアパタイトを適切に析出させることができれば特に限定されないが、例えば7.5mM~10.5mM(例えば9mM)である。リン酸塩の濃度が低すぎても高すぎても、ヒドロキシアパタイトを所定の形態で適切に析出させることができないおそれがある。前述のとおり、ヒドロキシアパタイトを析出させる観点からは、水溶液中のCa:POが概ね10:6になるようにリン酸塩の濃度を調整することが好ましい。
【0024】
塩化ナトリウムは、工程(2)において析出速度を調整するために加えられる。水溶液中の塩化ナトリウムの濃度は、工程(2)でヒドロキシアパタイトを適切な速度で析出させることができれば特に限定されないが、例えば0.6M~0.8M(例えば0.7M)である。塩化ナトリウムの濃度が低すぎると、ヒドロキシアパタイトの析出速度が速くなりすぎ、ヒドロキシアパタイトの針状結晶を適切に成長させることができないおそれがある。
【0025】
水溶液には、工程(2)においてヒドロキシアパタイトをより適切に析出させるために炭酸水素ナトリウムがさらに加えられてもよい。水溶液中の炭酸水素ナトリウムの濃度は、特に限定されないが、例えば0.018M~0.022M(例えば0.02M)である。
【0026】
カルシウム塩およびリン酸塩を溶解させるために、水溶液のpHは5~6.5の範囲内となるように調整される。水溶液のpHの調整方法は、特に限定されないが、例えば水溶液に二酸化炭素を吹き込んで水溶液に二酸化炭素を含ませればよい。また、水溶液に酸性の水溶液を添加してもよい。
【0027】
次いで、工程(2)では、工程(1)で調製した水溶液のpHを7~9.5に変化させてヒドロキシアパタイトを析出させる。
【0028】
ヒドロキシアパタイトの針状結晶を適切に成長させる観点からは、ヒドロキシアパタイトの析出速度が速くなりすぎないことが好ましい。具体的には、ヒドロキシアパタイトは、6時間以上かけて徐々に析出させることが好ましく、12時間以上かけて徐々に析出させることがより好ましい。
【0029】
ヒドロキシアパタイトを析出させるために、水溶液のpHは7~9.5の範囲内となるように調整される。水溶液のpHの調整方法は、特に限定されないが、例えば工程(1)で二酸化炭素を吹き込んだ水溶液から二酸化炭素を除去すればよい。また、水溶液にアルカリ性の水溶液を添加してもよい。
【0030】
水溶液から二酸化炭素を除去する方法は、特に限定されない。たとえば、水溶液を空気中に静置して、水溶液中の二酸化炭素を空気に置換してもよい。また、空気またはその他のガスを水溶液に吹き込んで、水溶液中の二酸化炭素を空気またはその他のガスに置換してもよい。また、水溶液を減圧して二酸化炭素を除去してもよい。また、水溶液を加熱して二酸化炭素を除去してもよい。いずれの方法においても、ヒドロキシアパタイトは、6時間以上かけて徐々に析出させることが好ましく、12時間以上かけて徐々に析出させることがより好ましい。
【0031】
最後に、工程(3)では、工程(2)で析出させたヒドロキシアパタイトを水溶液から分離して、ヒドロキシアパタイトの針状結晶および非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子を含む本発明に係るウイルス吸着剤を得る。
【0032】
ヒドロキシアパタイトを水溶液から分離する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択されうる。たとえば、濾過によりヒドロキシアパタイトを水溶液から分離してもよい。分離されたヒドロキシアパタイトは、洗浄されることが好ましい。また、分離されたヒドロキシアパタイトは、乾燥されてもよい。
【0033】
以上の手順により、本発明に係るウイルス吸着剤を製造することができる。
【0034】
なお、本発明に係るウイルス吸着剤の製造方法は、上記の製造方法に限定されず、本発明に係るウイルス吸着剤は、他の製造方法により製造されてもよい。
【0035】
3.ウイルス吸着剤の用途
本発明に係るウイルス吸着剤は、様々な用途に用いることができる。たとえば、本発明に係るウイルス吸着剤をマスクやフィルターなどに含ませることで、マスクやフィルターのウイルスの遮蔽率を向上させることができる。また、本発明に係るウイルス吸着剤を、ウイルス感染の検査などにおいて検体を採取するために用いられるスワブ(綿棒)に含ませることで、ウイルスの採取率を向上させることができる。また、本発明に係るウイルス吸着剤を樹脂フィルムなどに担持させることで、ウイルス吸着フィルムを製造することもできる。
【0036】
本発明に係るウイルス吸着剤を、マスクやフィルター、スワブ、樹脂フィルムなどの基材に担持させる方法は、特に限定されない。たとえば、0.1%アルギン酸ナトリウム水溶液に本発明に係るウイルス吸着剤を2%の濃度となるように懸濁して得られる液体を基材に噴霧し、60℃にて乾燥させればよい。
【0037】
また、本発明に係るウイルス吸着剤を含む液体を局所空間に散布することで、局所空間内のウイルスを除去することも可能である。
【実施例0038】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、これらの記載によって本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0039】
(1)本発明に係るウイルス吸着剤の調製
水に二酸化炭素(CO)ガスを吹き込みながら、塩化ナトリウム(NaCl)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)および塩化カルシウム(CaCl)を加えて水溶液を調製した。得られた水溶液中のNaClの濃度は0.7M、NaHCOの濃度は0.02M、CaClの濃度は15mMであった。この水溶液を37℃に加熱した状態で、二酸化炭素(CO)ガスを吹き込みながら撹拌を続け、1M KPO水溶液を全容量の0.9%加えた。得られた水溶液中のKPOの濃度は9mMであった。KPO水溶液を加えた時に濁りが生じたが、二酸化炭素ガスを吹き込みながら撹拌を続けることで濁りが消失して透明になった。水溶液のpHは6.01であった。この水溶液は、密閉容器中において二酸化炭素の飽和状態を維持しながら保管することが可能である。
【0040】
上記のpHが6.01の水溶液を大気中に静置して、水溶液中の二酸化炭素を徐々に空気に置換して、pHを6.01から9.0に12時間以上かけて徐々に上昇させたところ、溶液全体に均一な濁りが生じて沈殿した。この沈殿物を回収して、本発明に係るウイルス吸着剤を得た。この沈殿物をX線解析した結果、ヒドロキシアパタイトであることが確認された。また、この沈殿物を顕微鏡観察したところ、ヒドロキシアパタイトの針状結晶および非晶質ヒドロキシアパタイトの粒子が観察された。図1は、この沈殿物(本発明に係るウイルス吸着剤)の顕微鏡写真(Axioscope(ZEISS社)で撮影)である。
【0041】
(2)ウイルス吸着剤の評価
本発明に係るウイルス吸着剤および比較のため従来の吸着剤について、ウイルスの吸着能を評価した。従来の吸着剤としては、ホタテガイの貝殻粉(細)、ホタテガイの貝殻粉(中)、ホタテガイの貝殻粉(粗)、牛骨炭、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)を使用した。また、ネガティブコントロールとして石英砂を使用した。
【0042】
ホタテガイの貝殻粉は、ホタテガイの貝殻を800℃で12時間加熱した後、粉砕し、粒度によって分別したものである。ホタテガイの貝殻粉(細)は100メッシュ以下のも、ホタテガイの貝殻粉(中)は50~100メッシュのもの、ホタテガイの貝殻粉(粗)は50メッシュ以上のものである。
【0043】
牛骨炭(2020-5-16 F1、鳴門化学産業株式会社製)は、牛骨を800℃以上の温度で蒸し焼きにして得られる多孔質の粒状の炭である。牛骨炭の成分は、原料によって異なるが、主としてリン酸三カルシウム(またはヒドロキシアパタイト)57~80質量%、炭酸カルシウム6~10質量%、活性炭7~10質量%を含む。
【0044】
β-TCP(大平化学産業株式会社)は、焼結体であり、セラミックヒドロキシアパタイトに類似するものである。
【0045】
吸着剤2mgを入れた容器に、センダイウイルス(HVJ)の外皮タンパク質(石原産業株式会社のGenomONE-NeoのHVJ-E)の懸濁液125μLを入れ、撹拌した。2時間静置した後、上澄みを回収した。吸着剤に接触させる前の懸濁液の波長388nmの吸光度と、回収した上澄みの波長388nmの吸光度を測定した。これらの測定結果から、吸着剤1mgあたりのウイルス吸着量(吸光度の減少量)を算出した。各吸着剤のウイルス吸着量の測定結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の結果から、本発明に係るウイルス吸着剤は、従来の吸着剤に比べて、より優れたウイルス吸着能を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のウイルス吸着剤およびマスクは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などのウイルスによる感染症の感染防止に有用である。また、本発明のウイルス吸着剤およびスワブは、ウイルス感染の検査などにおいて、検体中のウイルスを濃縮または精製するのにも有用である。
図1