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特開2022-39514学習モデル生成方法、識別方法、学習モデル生成システム、識別システム、学習モデル生成プログラム、識別プログラム及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039514
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】学習モデル生成方法、識別方法、学習モデル生成システム、識別システム、学習モデル生成プログラム、識別プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20220303BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20220303BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
G06T7/00 630
G01N15/14 C
G01N15/14 B
G01N21/17 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144584
(22)【出願日】2020-08-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「先進的医療機器・システム等技術開発事業 基盤技術開発プロジェクト」、「三次元像フローサイトメトリー細胞診による血中循環腫瘍細胞の質的診断法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【弁理士】
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】大手 希望
(72)【発明者】
【氏名】橋本 二三生
(72)【発明者】
【氏名】安彦 修
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀直
【テーマコード(参考)】
2G059
5L096
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB12
2G059CC16
2G059KK04
2G059KK10
2G059MM09
2G059MM10
5L096AA06
5L096AA09
5L096FA66
5L096FA69
5L096HA11
5L096JA11
5L096KA04
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】 予め多くの画像を用意することができない場合であっても適切に細胞の識別を行う。
【解決手段】 学習モデル生成方法は、細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する学習モデルを生成する方法であって、細胞が撮像されたと共に学習モデルの生成に用いるモデル生成用ホログラムを取得するモデル生成用取得ステップ(S01)と、取得されたモデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムを生成して、モデル生成用ホログラムを増やすモデル生成用生成ステップ(S02)と、増やされたモデル生成用ホログラムを用いて機械学習を行って学習モデルを生成する学習モデル生成ステップ(S03)とを含む。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する学習モデルを生成する学習モデル生成方法であって、
細胞が撮像されたと共に学習モデルの生成に用いるモデル生成用ホログラムを取得するモデル生成用取得ステップと、
前記モデル生成用取得ステップにおいて取得されたモデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムを生成して、モデル生成用ホログラムを増やすモデル生成用生成ステップと、
前記モデル生成用生成ステップにおいて増やされたモデル生成用ホログラムを用いて機械学習を行って前記学習モデルを生成する学習モデル生成ステップと、
を含む学習モデル生成方法。
【請求項2】
前記モデル生成用生成ステップにおいて、モデル生成用ホログラムに対して焦点位置の変更以外の収差を追加又は除去することで、モデル生成用ホログラムを増やす請求項1に記載の学習モデル生成方法。
【請求項3】
前記学習モデル生成ステップにおいて、前記モデル生成用生成ステップにおいて増やされた複数のモデル生成用ホログラムをまとめて1つの入力として用いて機械学習を行って前記学習モデルを生成する請求項1又は2に記載の学習モデル生成方法。
【請求項4】
識別対象の細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する識別方法であって、
前記識別対象の細胞が撮像された識別用ホログラムを取得する識別用取得ステップと、
前記識別用取得ステップにおいて取得された識別用ホログラムから、焦点位置が異なる新たな識別用ホログラムを生成して、識別用ホログラムを増やす識別用生成ステップと、
前記識別用生成ステップにおいて増やされた識別用ホログラムに基づいて前記識別対象の細胞を識別する識別ステップと、
を含む識別方法。
【請求項5】
前記識別用生成ステップにおいて、識別用ホログラムに対して焦点位置の変更以外の収差の追加又は除去をすることで、識別用ホログラムを増やす請求項4に記載の識別方法。
【請求項6】
前記識別ステップにおいて、請求項1~3の何れか一項に記載の学習モデル生成方法によって生成された学習モデルを用いて前記識別対象の細胞を識別する請求項4又は5に記載の識別方法。
【請求項7】
前記識別ステップにおいて、増やされた識別用ホログラム毎に前記識別対象の細胞を識別し、識別用ホログラム毎の識別結果に基づいて最終的に前記識別対象の細胞を識別する請求項4~6の何れか一項に記載の識別方法。
【請求項8】
前記識別ステップにおいて、前記識別用生成ステップにおいて増やされた複数の識別用ホログラムをまとめて1つの入力として用いて前記識別対象の細胞を識別する請求項4~7の何れか一項に記載の識別方法。
【請求項9】
細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する学習モデルを生成する学習モデル生成システムであって、
細胞が撮像されたと共に学習モデルの生成に用いるモデル生成用ホログラムを取得するモデル生成用取得手段と、
前記モデル生成用取得手段によって取得されたモデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムを生成して、モデル生成用ホログラムを増やすモデル生成用生成手段と、
前記モデル生成用生成手段によって増やされたモデル生成用ホログラムを用いて機械学習を行って前記学習モデルを生成する学習モデル生成手段と、
を備える学習モデル生成システム。
【請求項10】
識別対象の細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する識別システムであって、
前記識別対象の細胞が撮像された識別用ホログラムを取得する識別用取得手段と、
前記識別用取得手段によって取得された識別用ホログラムから、焦点位置が異なる新たな識別用ホログラムを生成して、識別用ホログラムを増やす識別用生成手段と、
前記識別用生成手段によって増やされた識別用ホログラムに基づいて前記識別対象の細胞を識別する識別手段と、
を備える識別システム。
【請求項11】
コンピュータを、細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する学習モデルを生成する学習モデル生成システムとして動作させる学習モデル生成プログラムであって、
当該コンピュータを、
細胞が撮像されたと共に学習モデルの生成に用いるモデル生成用ホログラムを取得するモデル生成用取得手段と、
前記モデル生成用取得手段によって取得されたモデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムを生成して、モデル生成用ホログラムを増やすモデル生成用生成手段と、
前記モデル生成用生成手段によって増やされたモデル生成用ホログラムを用いて機械学習を行って前記学習モデルを生成する学習モデル生成手段と、
として機能させる学習モデル生成プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載の学習モデル生成プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項13】
コンピュータを、識別対象の細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する識別システムとして動作させる識別プログラムであって、
当該コンピュータを、
前記識別対象の細胞が撮像された識別用ホログラムを取得する識別用取得手段と、
前記識別用取得手段によって取得された識別用ホログラムから、焦点位置が異なる新たな識別用ホログラムを生成して、識別用ホログラムを増やす識別用生成手段と、
前記識別用生成手段によって増やされた識別用ホログラムに基づいて前記識別対象の細胞を識別する識別手段と、
として機能させる識別プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載の識別プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する学習モデルを生成する学習モデル生成方法、学習モデル生成システム、学習モデル生成プログラム及び記録媒体、並びに細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する識別方法、識別システム、識別プログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
原発腫瘍組織又は転移腫瘍組織から遊離し血液中に浸潤した細胞は、血中循環腫瘍細胞(CTC:Circulating Tumor Cells)と呼ばれる。このCTCは固形癌患者の抹消血液中に極微量に存在し転移に関わるとされ、近年研究が盛んに行われている。一方で、抹消血液中の有核細胞はその殆どが白血球であるため、白血球と癌細胞とを識別することが重要となる。CTCの臨床応用では、乳癌患者において全血7.5mL中にCTCが5個未満であれば1年後の死亡率が19%であり、CTCが5個以上であれば1年後の死亡率が53%であったと、報告されている。このように、CTCを識別し検査することは、予後の予測に役立つ等、臨床応用価値が高いと考えられる。癌種によっては白血球と癌細胞とは、大きさでは判別がつかない報告もある。細胞の形態情報(外形状だけでなく、内部構造が反映されている画像情報)を用いて、細胞を識別する方法が報告されている。
【0003】
細胞の形態情報は、例えば、液体と共に流れる細胞を撮像することによって取得される。しかし、撮影時に通常どのような向きで流れてくるかわからない。そのため、3次元形状をしている細胞を正しく識別させるためには、3次元的な情報が必要である。そこで流れる細胞を3次元的に撮影する方法が考案されている(例えば、特許文献1,2、非特許文献1,2参照)。また、細胞の形態情報を用いて細胞を識別する方法として、機械学習を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-148798号公報
【特許文献2】特許第5981443号公報
【特許文献3】国際公開第2016/017533号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N. Lue, et al, Optics Express, 16, 20 (2008)
【非特許文献2】H. Iwai, et al, Opt. Comm. 319, 159-169 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械学習によって細胞の識別を行う場合、例えば、識別を行うための学習モデルを生成する場合、機械学習に用いる細胞の画像が多く必要になる。そこで、細胞の識別に用いる画像として、上記の3次元的に撮像された画像を用いることが考えられる。しかしながら、3次元的に撮像を行う上記の方法では、撮像に用いる光学系が複雑な上、画像再構成に時間を要することが問題である。また、フォーカス変化による2.5次元画像を得ることもできるが、イメージングフローサイトメーターにおいては、流れる細胞に対して焦点位置を変えながらの連続撮影は困難である。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、予め多くの画像を用意することができない場合であっても適切に細胞の識別を行うことができる学習モデル生成方法、識別方法、学習モデル生成システム、識別システム、学習モデル生成プログラム、識別プログラム及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る学習モデル生成方法は、細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する学習モデルを生成する学習モデル生成方法であって、細胞が撮像されたと共に学習モデルの生成に用いるモデル生成用ホログラムを取得するモデル生成用取得ステップと、モデル生成用取得ステップにおいて取得されたモデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムを生成して、モデル生成用ホログラムを増やすモデル生成用生成ステップと、モデル生成用生成ステップにおいて増やされたモデル生成用ホログラムを用いて機械学習を行って学習モデルを生成する学習モデル生成ステップと、を含む。
【0009】
本発明に係る学習モデル生成方法では、モデル生成用ホログラムが増やされて、学習モデルが生成される。従って、本発明に係る学習モデル生成方法によれば、予め多くの画像を用意することができない場合であっても適切な学習モデルを生成することができ、その結果適切に細胞の識別を行うことができる。
【0010】
モデル生成用生成ステップにおいて、モデル生成用ホログラムに対して焦点位置の変更以外の収差を追加又は除去することで、モデル生成用ホログラムを増やすことしてもよい。この構成によれば、更に適切な学習モデルを生成することができ、その結果更に適切に細胞の識別を行うことができる。
【0011】
学習モデル生成ステップにおいて、モデル生成用生成ステップにおいて増やされた複数のモデル生成用ホログラムをまとめて1つの入力として用いて機械学習を行って学習モデルを生成することしてもよい。この構成によれば、更に適切な学習モデルを生成することができ、その結果更に適切に細胞の識別を行うことができる。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る識別方法は、識別対象の細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する識別方法であって、識別対象の細胞が撮像された識別用ホログラムを取得する識別用取得ステップと、識別用取得ステップにおいて取得された識別用ホログラムから、焦点位置が異なる新たな識別用ホログラムを生成して、識別用ホログラムを増やす識別用生成ステップと、識別用生成ステップにおいて増やされた識別用ホログラムに基づいて識別対象の細胞を識別する識別ステップと、を含む。
【0013】
本発明に係る識別方法では、新たな識別用ホログラムが生成されて、識別対象の細胞が識別される。従って、本発明に係る識別方法によれば、予め多くの画像を用意することができない場合であっても適切に細胞の識別を行うことができる。
【0014】
識別用生成ステップにおいて、識別用ホログラムに対して焦点位置の変更以外の収差の追加又は除去をすることで、識別用ホログラムを増やすこととしてもよい。この構成によれば、更に適切に細胞の識別を行うことができる。
【0015】
識別ステップにおいて、上記の学習モデル生成方法によって生成された学習モデルを用いて識別対象の細胞を識別することとしてもよい。この構成によれば、更に適切に細胞の識別を行うことができる。
【0016】
識別ステップにおいて、増やされた識別用ホログラム毎に識別対象の細胞を識別し、識別用ホログラム毎の識別結果に基づいて最終的に識別対象の細胞を識別することとしてもよい。この構成によれば、識別の精度を向上することができる。
【0017】
識別ステップにおいて、識別用生成ステップにおいて増やされた複数の識別用ホログラムをまとめて1つの入力として用いて識別対象の細胞を識別することとしてもよい。この構成によれば、更に適切に細胞の識別を行うことができる。
【0018】
ところで、本発明は、上記のように学習モデル生成方法の発明として記述できる他に、以下のように学習モデル生成システム、学習モデル生成プログラム及び記録媒体の発明としても記述することができる。また、本発明は、上記のように識別方法の発明として記述できる他に、以下のように識別システム、識別プログラム及び記録媒体の発明としても記述することができる。これらはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0019】
即ち、本発明に係る学習モデル生成システムは、細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する学習モデルを生成する学習モデル生成システムであって、細胞が撮像されたと共に学習モデルの生成に用いるモデル生成用ホログラムを取得するモデル生成用取得手段と、モデル生成用取得手段によって取得されたモデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムを生成して、モデル生成用ホログラムを増やすモデル生成用生成手段と、モデル生成用生成手段によって増やされたモデル生成用ホログラムを用いて機械学習を行って学習モデルを生成する学習モデル生成手段と、を備える。
【0020】
また、本発明に係る識別システムは、識別対象の細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する識別システムであって、識別対象の細胞が撮像された識別用ホログラムを取得する識別用取得手段と、識別用取得手段によって取得された識別用ホログラムから、焦点位置が異なる新たな識別用ホログラムを生成して、識別用ホログラムを増やす識別用生成手段と、識別用生成手段によって増やされた識別用ホログラムに基づいて識別対象の細胞を識別する識別手段と、を備える。
【0021】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、コンピュータを、細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する学習モデルを生成する学習モデル生成システムとして動作させる学習モデル生成プログラムであって、当該コンピュータを、細胞が撮像されたと共に学習モデルの生成に用いるモデル生成用ホログラムを取得するモデル生成用取得手段と、モデル生成用取得手段によって取得されたモデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムを生成して、モデル生成用ホログラムを増やすモデル生成用生成手段と、モデル生成用生成手段によって増やされたモデル生成用ホログラムを用いて機械学習を行って学習モデルを生成する学習モデル生成手段と、として機能させる。
【0022】
また、本発明に係る記録媒体は、上記の学習モデル生成プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0023】
また、本発明に係る識別プログラムは、コンピュータを、識別対象の細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する識別システムとして動作させる識別プログラムであって、当該コンピュータを、識別対象の細胞が撮像された識別用ホログラムを取得する識別用取得手段と、識別用取得手段によって取得された識別用ホログラムから、焦点位置が異なる新たな識別用ホログラムを生成して、識別用ホログラムを増やす識別用生成手段と、識別用生成手段によって増やされた識別用ホログラムに基づいて識別対象の細胞を識別する識別手段と、として機能させる。
【0024】
また、本発明に係る記録媒体は、上記の識別プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、予め多くの画像を用意することができない場合であっても適切に細胞の識別を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る学習モデル生成システム及び識別システムの構成を示す図である。
図2】ホログラムの例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る学習モデル生成システムで実行される処理である学習モデル生成方法を示すフローチャートである。
図4】ホログラムの水増しの処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係る識別システムで実行される処理である識別方法を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態に係る識別の評価結果を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態に係る学習モデル生成プログラムの構成を、記録媒体と共に示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る識別プログラムの構成を、記録媒体と共に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面と共に本発明に係る学習モデル生成方法、識別方法、学習モデル生成システム、識別システム、学習モデル生成プログラム、識別プログラム及び記録媒体の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
図1に本実施形態に係る学習モデル生成システム及び識別システムであるコンピュータ1を示す。本実施形態に係るコンピュータ1は、細胞が撮像された画像に基づく当該細胞の識別に係る情報処理を行う装置(システム)である。コンピュータ1は、機能的な構成として、細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別(分類)する学習モデルを生成する、本実施形態に係る学習モデル生成システム10と、識別対象の細胞が撮像された画像に基づいて当該細胞を識別する、本実施形態に係る識別システム20とを含む。
【0029】
例えば、コンピュータ1は、細胞の種別を識別(予測)する。具体的には、コンピュータ1は、被験者の血中の細胞を識別対象物として、血中の細胞が癌細胞(例えば、上述したCTC)及び非癌細胞の何れの種別であるかを識別する。上述したように血中にCTCが含まれているか否かの推定は、臨床応用価値が高い。あるいは、コンピュータ1は、血中の細胞がどの癌の種別に該当するか、即ち、癌細胞の種別を識別してもよい。なお、コンピュータ1は、上記以外の細胞の種別を識別するものであってもよく、更に細胞の識別を行うものであれば種別以外の識別(例えば、細胞の特徴の度合いに応じた識別)を行うものであってもよい。また、識別は機械学習によって生成された学習モデルによって行われる。即ち、識別はAI(人工知能:Artificial Intelligence)によって行われる。
【0030】
コンピュータ1において細胞の識別に用いられる画像は、ホログラム(複素振幅像)である。ホログラムは、物体を照らす物体照明光と、同じ光源から得られる参照光とを用いて、光の電場の振幅と位相とを記録した画像である。例えば、単色のホログラムの場合、ホログラムのデータは、画素毎に振幅の値と位相の値とを持つ。
【0031】
図2にホログラムのデータの例を示す。図2(a)(b)は、対象物に焦点(ピント)があっていない非合焦ホログラムの例である。図2(c)(d)は、対象物に焦点があっている合焦ホログラムの例である。図2(a)(c)は、各画素における振幅を示す振幅像である。図2(b)(d)は、各画素における位相を示す位相像である。各画像における線L上の値をグラフGで示している。なお、ホログラムに写っているものは、ポリスチレンビーズ(直径4.5μm)である。
【0032】
コンピュータ1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、通信モジュール等のハードウェアを含む従来のコンピュータである。また、コンピュータ1は、複数のコンピュータを含むコンピュータシステムであってもよい。また、コンピュータ1は、クラウドコンピューティングで構成されていてもよい。コンピュータ1の後述する各機能は、これらの構成要素がプログラム等により動作することによって発揮される。
【0033】
撮像装置30は、細胞を撮像して、コンピュータ1における識別に用いられるホログラムを取得する装置である。撮像装置30としては、撮像によってホログラムを取得する従来の任意の撮像装置を用いることができる。具体的には、撮像装置30としては、従来のイメージングフローサイトメーター(定量位相顕微鏡)(例えば、特許文献2に示されるもの)を用いることができる。あるいは、撮像装置30として微分干渉顕微鏡が用いられてもよい。これらの顕微鏡で得られる画像は、ほぼ無色透明な細胞をコントラストよく可視化できるものとして、生物学・医学の分野で広く利用されている。但し、撮像装置30は、ホログラムを撮像可能なものであれば、これらの顕微鏡以外の装置であってもよい。
【0034】
撮像装置30において撮像されてコンピュータ1において用いられるホログラムには、モデル生成用ホログラムと識別用ホログラムとがある。モデル生成用ホログラムは、細胞を識別する学習モデルの生成に用いられる(即ち、学習モデル生成システム10によって用いられる)訓練データ(学習データ、教師データ)であるホログラムである。モデル生成用ホログラムは、当該ホログラムに写った細胞の種別が既知であるもの、即ち、既知細胞のホログラムである。識別用ホログラムは、識別対象の細胞が写った(即ち、識別システム20によって用いられる)ホログラムである。識別用ホログラムは、当該ホログラムに写った細胞の種別が未知であるもの、即ち、未知細胞のホログラムである。
【0035】
なお、モデル生成用ホログラムと識別用ホログラムとは、異なる撮像装置30によって取得されてもよい。また、複数のモデル生成用ホログラムが取得されて1つの学習モデルの生成に用いられてもよい。その場合、互いに異なる複数の被験者の細胞をそれぞれ撮像して、複数のモデル生成用ホログラムとしてもよい。また、既知細胞と未知細胞とは、互いに異なる被験者の細胞であってもよい。
【0036】
コンピュータ1と撮像装置30とは、撮像装置30からコンピュータ1にホログラムの送信が可能なように互いに接続されている。撮像装置30は、取得した画像をコンピュータ1に送信する。
【0037】
引き続いて、本実施形態に係るコンピュータ1に含まれる学習モデル生成システム10と識別システム20との機能を説明する。図1に示すように学習モデル生成システム10は、モデル生成用取得部11と、モデル生成用生成部12と、学習モデル生成部13とを備えて構成される。
【0038】
モデル生成用取得部11は、細胞が撮像されたと共に学習モデルの生成に用いるモデル生成用ホログラムを取得するモデル生成用取得手段である。モデル生成用取得部11は、撮像装置30から送信されたモデル生成用ホログラムを受信して取得する。より多くの訓練データを用いた機械学習を行うため、モデル生成用取得部11は、1つの学習モデルを生成するための複数のモデル生成用ホログラムを取得してもよい。なお、モデル生成用ホログラムの取得は、必ずしも撮像装置30から送信されたものを受信して行われる必要はなく、コンピュータ1のユーザの入力操作等によって行われてもよい。モデル生成用取得部11は、取得したモデル生成用ホログラムをモデル生成用生成部12に出力する。
【0039】
また、モデル生成用取得部11は、モデル生成用ホログラムに対応付いた、当該モデル生成用ホログラムに写っている細胞の種別を示す情報を取得する。当該情報は、例えば、当該細胞が癌細胞及び非癌細胞の何れであるかを示す情報、又は当該細胞が該当する癌細胞の種類を示す情報である。当該情報の取得は、例えば、コンピュータ1のユーザの入力操作等に応じて行われる。モデル生成用取得部11は、取得した細胞の種別を示す情報を学習モデル生成部13に出力する。
【0040】
モデル生成用生成部12は、モデル生成用取得部11によって取得されたモデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムを生成して、モデル生成用ホログラムを増やすモデル生成用生成手段である。モデル生成用生成部12は、モデル生成用ホログラムに対して焦点位置の変更以外の収差を追加又は除去することで、モデル生成用ホログラムを増やしてもよい。モデル生成用生成部12によるモデル生成用ホログラムの増加は、機械学習を行うための訓練データの水増しであるデータ拡張(DA:Data Augmentation)である。モデル生成用生成部12は、具体的には以下のようにモデル生成用ホログラムを増やす。
【0041】
モデル生成用生成部12は、モデル生成用取得部11からモデル生成用ホログラムを入力する。ホログラムは位相の情報を持つため、任意の奥行位置dに逆伝搬することによってdに焦点があった別のホログラムを計算(生成)することができる。これをデジタルリフォーカス(DR)と呼ぶ。奥行位置dは、モデル生成用ホログラムに対して、当該モデル生成用ホログラムの面と垂直な方向の位置である。
【0042】
モデル生成用生成部12は、モデル生成用取得部11から入力したモデル生成用ホログラムに対してDRを行って、新たなモデル生成用ホログラムを生成する。DRに係る奥行位置dは、予め設定されてモデル生成用生成部12に記憶されている。DRについては、従来の方法で行うことができる。例えば、非特許文献2又はWu, Y. et al, Optica, (2018). “Extended depth-of-field in holographic imaging using deep-learning-based autofocusing and phase recovery.”(非特許文献3)に示される方法で行うことができる。
【0043】
モデル生成用生成部12は、1つのモデル生成用ホログラムに対して、互いに異なる複数の奥行位置dに対してDRを行って、複数の新たなモデル生成用ホログラムを生成してもよい。例えば、モデル生成用生成部12は、元のモデル生成用ホログラムの手前側の複数の奥行位置d、及び奥側の複数の奥行位置dのそれぞれに対してDRを行って、それぞれの奥行位置dについての新たなモデル生成用ホログラムを生成する。N個の奥行位置d(n=1~N)それぞれに対してDRを行うことで、N枚の新たなモデル生成用ホログラムを得ることができる。例えば、1μm刻みで±10μmの範囲の奥行位置dそれぞれに対してDRを行う。この場合、N=20となる。なお、生成するモデル生成用ホログラムの焦点位置は、元のモデル生成用ホログラムの手前側及び奥側の両方である必要はなく、何れか一方側だけであってもよい。
【0044】
上記のDRの処理は、ホログラムのデフォーカスを解消する処理、又はホログラムにデフォーカスを生じさせる処理に相当する。デフォーカスは波面収差の一つであり、デフォーカス以外の波面収差(ピストン、傾き、非点収差、コマ収差又は球面収差等)をモデル生成用ホログラムに追加又は除去することで、新たなモデル生成用ホログラムを生成してもよい。
【0045】
波面収差は、通常、画像の質を劣化させるものであり、一般には補正されることが好まれる(例えば、D. Hillmann, H. Spahr, C. Hain, H. Sudkamp, G. Franke, C. Pfaffle, C. Winter, and G. Huttmann, “Aberration-free volumetric high-speed imaging of in vivo retina,”Sci. Rep. 6, (2016)(非特許文献4)参照)。モデル生成用生成部12は、ホログラムに対する従来の波面収差補正の方法を用いて、モデル生成用ホログラムに対して意図的に波面収差を加えることにより新たなモデル生成用ホログラムの生成、即ち、データの水増しを行う。なお、ホログラムに加えられる波面収差は、予め設定されてモデル生成用生成部12に記憶されている。あるいは、モデル生成用生成部12は、モデル生成用ホログラムに含まれる波面収差を除去して、新たなモデル生成用ホログラムを生成してもよい。
【0046】
デフォーカスを含む波面収差をホログラムに加える演算方法としては、以下の方法を用いることができる。非特許文献2の式(4)(5)に記載の通り、像面ホログラムを一旦フーリエ変換した後、波面収差を加える。その後、逆フーリエ変換し、像面ホログラムを得る。又は、像面ホログラムにフーリエ変換後の波面収差を畳み込み積分してもよい。
【0047】
DR以外の波面収差の追加又は除去の対象となるモデル生成用ホログラムは、DR後のモデル生成用ホログラムであってもよい。あるいは、モデル生成用取得部11から入力したモデル生成用ホログラムに対して、DRとあわせて波面収差の追加又は除去がなされてもよい。なお、モデル生成用生成部12は、波面収差以外の収差を、モデル生成用ホログラムに追加又は除去して新たなモデル生成用ホログラムを生成してもよい。また、モデル生成用生成部12は、モデル生成用ホログラムに対して上記以外のDA(例えば、ホログラムの回転、拡大、縮小等)を行ってもよい。
【0048】
モデル生成用生成部12は、生成したモデル生成用ホログラムを学習モデル生成部13に出力する。モデル生成用生成部12は、モデル生成用取得部11から入力した元のモデル生成用ホログラムも学習モデル生成部13に出力してもよい。即ち、生成されたモデル生成用ホログラムに加えて元のモデル生成用ホログラムも機械学習に用いられてもよい。但し、生成したモデル生成用ホログラムだけでDAができていれば、モデル生成用生成部12は、元のモデル生成用ホログラムを学習モデル生成部13に出力しなくてもよい。即ち、元のモデル生成用ホログラムは、必ずしも機械学習に用いられる必要はない。
【0049】
学習モデル生成部13は、モデル生成用生成部12によって増やされたモデル生成用ホログラムを用いて機械学習を行って学習モデルを生成する学習モデル生成手段である。学習モデル生成部13は、モデル生成用生成部12によって増やされた複数のモデル生成用ホログラムをまとめて1つの入力として用いて機械学習を行って学習モデルを生成してもよい。
【0050】
学習モデル生成部13によって生成される学習モデルは、識別対象の細胞が撮像されたホログラムに基づく情報を入力して、識別対象の細胞の種別を示す情報を出力するモデルである。学習モデルは、例えば、ニューラルネットワークを含んで構成される。ニューラルネットワークは、多層のものであってもよい。即ち、学習モデル生成部13は、深層学習(ディープラーニング)を行って学習モデルを生成してもよい。また、ニューラルネットワークは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)であってもよい。
【0051】
学習モデルには、入力層に識別対象の細胞が撮像されたホログラムに基づく情報を入力するためのニューロンが設けられる。例えば、学習モデルに入力される情報は、ホログラムの各画素の位相の値である。この場合、入力層には、ホログラムの画素の数のニューロンが設けられ、それぞれのニューロンには対応する画素の位相の値が入力される。学習モデルに入力される情報は、ホログラムの各画素の位相の値に加えて、各画素の振幅の値を含んでいてもよい。この場合、入力層には、上記のニューロンに加えて、ホログラムの画素の数の振幅の値を入力するニューロンが設けられる。この場合、位相と振幅とで、ホログラムの画素の数×2のニューロンが設けられる。上記のように画素単位の情報を学習モデルに入力する場合には、モデル生成用ホログラムと識別用ホログラムとは、予め設定されたサイズのホログラムとされる。
【0052】
また、上記に加えてあるいは代えて、ホログラムの複素振幅の実部及び虚部の何れか又は両方を学習モデルの入力としてもよい。また、学習モデルへの入力は、識別対象の細胞が撮像されたホログラムに基づくものであれば、上記以外の情報であってもよい。また、学習モデルへの入力は、識別対象の細胞が撮像されたホログラムに基づく情報以外の情報を含んでいてもよい。
【0053】
学習モデルには、出力層に識別対象の細胞の種別を示す情報を出力するためのニューロンが設けられる。例えば、識別される種別毎のニューロン、即ち、当該種別の数のニューロンが設けられ、当該ニューロンから出力される数値が大きい程、識別対象の細胞が当該ニューロンに対応する種別である度合いが大きいことを示している。なお、学習モデルからの出力は、識別対象の細胞の種別を示す情報であれば、上記以外の情報であってもよい。
【0054】
なお、学習モデル生成部13によって生成される学習モデルは、ニューラルネットワーク以外によって構成されていてもよい。
【0055】
学習モデル生成部13は、モデル生成用生成部12からモデル生成用ホログラムを入力する。入力されるモデル生成用ホログラムは、1つの元のモデル生成用ホログラムに対してDAが行われた複数のモデル生成用ホログラムである。通常、元のモデル生成用ホログラムが複数あり、それに応じたモデル生成用ホログラムが入力される。学習モデル生成部13は、モデル生成用取得部11から、モデル生成用ホログラムに対応する細胞の種別を示す情報を入力する。DAが行われた複数のモデル生成用ホログラムは、全て元のモデル生成用ホログラムに対応する細胞の種別に対応する。
【0056】
学習モデル生成部13は、入力したモデル生成用ホログラムに基づく情報を学習モデルへの入力値とし、対応する細胞の種別を示す情報に基づく情報を学習モデルの出力値として機械学習を行って学習モデルを生成する。この際の学習モデルの出力値は、例えば、対応する細胞の種別に対応するニューロンの値を1とし、それ以外の種別に対応するニューロンを0とする。このように出力値を設定することで、上述したように出力層のニューロンから出力される数値が大きい程、識別対象の細胞が当該ニューロンに対応する種別である度合いが大きいことを示すものとなる。
【0057】
学習モデル生成部13による機械学習は、従来の学習モデルの生成の機械学習と同様に行われる。例えば、当該機械学習は、モデル生成用ホログラムに基づく情報を入力値としたときに、対応する細胞の種別を示す情報に基づく情報が出力値となるようにCNNの重み付け係数等のパラメータを最適化することによって行われる。学習モデル生成部13は、生成した学習モデルを示す情報(例えば、CNNの構造及び最適化されたパラメータを示す情報)を識別システム20に出力する。
【0058】
上述した学習モデルは、ホログラム単位で情報を入力するものであったが、学習モデルは、複数のホログラムに基づく情報を1回の入力とするものであってもよい。例えば、学習モデルは、1つの元のホログラムからDAによって得られた複数のホログラムに基づく情報を1回の入力とするものであってもよい。なお、複数のモデル生成用ホログラムには、元のモデル生成用ホログラムも含まれていてもよい。例えば、学習モデルは、異なる奥行位置dに焦点のあった複数のホログラムをまとめた(例えば、スタックして)疑似的な3次元画像に基づく情報を入力としてもよい。この場合、学習モデルに入力される情報に係るホログラムの数は予め設定されている。各ホログラムについて入力される情報は上述したものと同様でよく、その場合、複数のモデル生成用ホログラムに応じた数のニューロンが入力層に設けられる。
【0059】
あるいは、元のホログラムの面をXY座標上の面(断層面)、奥行方向をZ座標とした場合に、疑似的な3次元画像のXZ平面(冠状断面)及びYZ平面(矢状断面)に基づく情報を学習モデルへの入力としてもよい。これらの場合も、上述した方法と同様の機械学習によって学習モデルを生成することができる。以上が、学習モデル生成システム10の機能である。
【0060】
引き続いて、本実施形態に係る識別システム20の機能を説明する。図1に示すように識別システム20は、識別用取得部21と、識別用生成部22と、識別部23とを備えて構成される。
【0061】
識別用取得部21は、識別対象の細胞が撮像された識別用ホログラムを取得する識別用取得手段である。識別用取得部21は、撮像装置30から送信された識別用ホログラムを受信して取得する。なお、識別用ホログラムの取得は、必ずしも撮像装置30から送信されたものを受信して行われる必要はなく、コンピュータ1のユーザの入力操作等によって行われてもよい。識別用取得部21は、取得した識別用ホログラムを識別用生成部22に出力する。
【0062】
識別用生成部22は、識別用取得部21によって取得された識別用ホログラムから、焦点位置が異なる新たな識別用ホログラムを生成して、識別用ホログラムを増やす識別用生成手段である。識別用生成部22は、識別用ホログラムに対して焦点位置の変更以外の収差の追加又は除去をすることで、識別用ホログラムを増やしてもよい。
【0063】
識別用生成部22は、識別用取得部21から識別用ホログラムを入力する。識別用生成部22は、モデル生成用生成部12によるモデル生成用ホログラムの水増しと同様に、入力した識別用ホログラムの水増しを行う。但し、識別用生成部22による水増しは、識別システム20における識別が可能であれば(即ち、識別システム20での学習モデルへの入力とすることができれば)、必ずしも、モデル生成用生成部12による水増しと全く同様に行われる必要はない。
【0064】
例えば、新たに生成される識別用ホログラムに係る奥行位置dは、必ずしも、新たに生成されるモデル生成用ホログラムに係る奥行位置dと同一である必要はない。あるいは、モデル生成用ホログラムに対して追加又は除去された、デフォーカス以外の波面収差が、識別用ホログラムに対しては追加又は除去されなくてもよい。又は、モデル生成用ホログラムに対して追加又は除去されていない、デフォーカス以外の波面収差が、識別用ホログラムに対しては追加又は除去されてもよい。
【0065】
識別用生成部22は、生成した識別用ホログラムを識別部23に出力する。識別用生成部22は、識別用取得部21から入力した元の識別用ホログラムも識別部23に出力してもよい。即ち、生成された識別用ホログラムに加えて元の識別用ホログラムも識別に用いられてもよい。但し、生成した識別用ホログラムだけでDAができていれば、識別用生成部22は、元の識別用ホログラムを識別部23に出力しなくてもよい。即ち、元の識別用ホログラムは、必ずしも識別に用いられる必要はない。
【0066】
識別部23は、識別用生成部22によって増やされた識別用ホログラムに基づいて識別対象の細胞を識別する識別手段である。識別部23は、学習モデル生成システム10によって生成された学習モデルを用いて識別対象の細胞を識別してもよい。識別部23は、増やされた識別用ホログラム毎に識別対象の細胞を識別し、識別用ホログラム毎の識別結果に基づいて最終的に識別対象の細胞を識別してもよい。識別部23は、識別用生成部22によって複数の識別用ホログラムをまとめて1つの入力として用いて識別対象の細胞を識別してもよい。
【0067】
識別部23は、学習モデル生成システム10から学習モデルを示す情報を入力して記憶しておき、識別対象の細胞の識別に用いる。識別部23は、識別用生成部22から識別用ホログラムを入力する。入力される識別用ホログラムは、1つの元の識別用ホログラムに対してDAが行われた複数の識別用ホログラムである。識別部23は、元の識別用ホログラム(識別用取得部21によって取得された識別用ホログラム)毎に識別対象の細胞の種別を識別する。
【0068】
学習モデルが、1つのホログラムに基づく情報を入力とするものである場合、識別部23は、以下のように識別を行う。識別部23は、入力した複数の識別用ホログラム毎に、ホログラムに基づく情報を学習モデルへの入力値として、学習モデルからの出力値を得る。出力値は、細胞の各種別についての識別対象の細胞が当該種別である度合いを示す数値である。識別部23は、識別用ホログラム毎に当該数値が最も大きい種別を、識別対象の細胞の種別とする。識別部23は、複数の識別用ホログラム全てについて、識別用ホログラム毎の識別を行って、最も多く識別された種別を最終的な識別対象の細胞の種別の識別結果とする。即ち、識別部23は、DRを利用して複数の識別の多数決を取る。複数の予測の多数決を取り精度を改善することを機械学習の用語で「アンサンブル」と呼ぶため、これをDRアンサンブルと呼ぶ。
【0069】
学習モデルが、複数のホログラムに基づく情報を1回の入力とするものである場合、識別部23は、以下のように識別を行う。識別部23は、入力した複数の識別用ホログラムをまとめたものに基づく情報(例えば、上述した疑似的な3次元画像に基づく情報、あるいは、3次元画像のXY平面(断層面)、XZ平面(冠状断面)及びYZ平面(矢状断面)に基づく情報)を学習モデルへの入力値として、学習モデルからの出力値を得る。識別部23は、学習モデルからの出力値に基づいて識別対象の細胞の種別を識別する。
【0070】
なお、識別部23による識別は、水増しされた識別用ホログラムに基づいて行われるものであれば、必ずしも上記のように行われる必要はない。例えば、識別部23は、学習モデルを用いない識別を行ってもよい。
【0071】
識別部23は、識別結果を出力する。例えば、識別部23は、識別結果を示す情報をコンピュータ1に備えられた表示装置に表示させる。当該表示は、例えば、識別部23のユーザにより参照される。なお、識別部23による出力は、上記以外の態様で行われてもよい。例えば、コンピュータ1から別の装置に識別結果を示す情報を送信して出力することとしてもよい。以上が、識別システム20の機能である。
【0072】
引き続いて、図3図5のフローチャートを用いて、本実施形態に係るコンピュータ1で実行される処理(コンピュータ1が行う動作方法)を説明する。まず、図3及び図4のフローチャートを用いて、学習モデルを生成する際に実行される処理、即ち、本実施形態に係る学習モデル生成システム10で実行される処理である学習モデル生成方法を説明する。本処理ではまず、モデル生成用取得部11によって、既知細胞のホログラムであるモデル生成用ホログラムが取得される(S01、モデル生成用取得ステップ)。また、モデル生成用ホログラムの取得とあわせて、モデル生成用取得部11によって、モデル生成用ホログラムに写っている既知細胞の種別を示す情報が取得される。続いて、モデル生成用生成部12によって、モデル生成用ホログラムから、焦点位置が異なる新たなモデル生成用ホログラムが生成される。即ち、モデル生成用ホログラムの水増しが行われる(S02、モデル生成用生成ステップ)。
【0073】
モデル生成用ホログラムの水増しの処理の例を図4のフローチャートを用いて説明する。この例では、新たにN枚のモデル生成用ホログラムが生成される。まず、ホログラムの奥行位置(焦点位置)のインデックスnが1とされる(S201)。続いて、元のモデル生成用ホログラムが、奥行位置dに逆伝搬されて、奥行位置dに対応する新たなモデル生成用ホログラムが生成される(S202)。生成された新たなモデル生成用ホログラムは、コンピュータ1に保存されて以降の処理に用いられる(S203)。続いて、n<Nであるか否かが判断される(S204)。n<Nであった場合、n=n+1とされて(S205)、S202~S204の処理が再度、行われる。n<Nでなかった場合、新たなN枚のモデル生成用ホログラムが生成及び保存されており、モデル生成用ホログラムの水増しの処理が終了する。
【0074】
図3に戻り、続いて、学習モデル生成部13によって、水増しされたモデル生成用ホログラムが用いられて機械学習が行われて学習モデルが生成される(S03、学習モデル生成ステップ)。生成された学習モデルは、学習モデル生成部13から識別システム20に出力され、識別部23によって記憶されて識別に用いられる。以上が、本実施形態に係る学習モデル生成システム10で実行される処理である。
【0075】
続いて、図5のフローチャートを用いて、ホログラムを用いて細胞の種別を識別する際に実行される処理、即ち、本実施形態に係る識別システム20で実行される処理である識別方法を説明する。本処理ではまず、識別用取得部21によって、未知細胞のホログラムである識別用ホログラムが取得される(S11、識別用取得ステップ)。続いて、識別用生成部22によって、識別用ホログラムから、焦点位置が異なる新たな識別用ホログラムが生成される。即ち、識別用ホログラムの水増しが行われる(S12、識別用生成ステップ)。識別用ホログラムの水増しは、図4のフローチャートを用いて説明したモデル生成用ホログラムの水増しと同様に行われる。
【0076】
続いて、識別部23によって、水増しされたモデル生成用ホログラム及び学習モデル生成システム10によって生成された学習モデルが用いられて、識別用ホログラムに写っている未知細胞の種別が識別される(S13、識別ステップ)。続いて、識別部23によって、識別結果を示す情報の出力が行われる(S14)。以上が、本実施形態に係る識別システム20で実行される処理である。
【0077】
上述したように本実施形態では、元のモデル生成用ホログラムから新たなモデル生成用ホログラムが生成されて、即ち、モデル生成用ホログラムの水増しが行われて、学習モデルが生成される。また、本実施形態では、元の識別用ホログラムから新たな識別用ホログラムが生成されて、即ち、識別用ホログラムの水増しが行われて、識別対象の細胞が識別される。本実施形態では、焦点位置を変化させてホログラムの水増しを行っているので、撮像時に3次元形状を有する細胞がどのような向きで流れてきても、正確に識別が行えるよう学習モデルを訓練でき、あるいは、正確な識別を行うことができる。また、焦点を変換させることで画像に含まれる内容(核小体の数等)が変化するため、ホログラムの水増しの効果が大きいと考えられる。このように、本実施形態によれば、予め多くの画像を用意することができない場合であっても適切な学習モデルを生成することができ、その結果適切に細胞の識別を行うことができる。
【0078】
また、本実施形態のように、ホログラムの水増し時に、ホログラムに対して焦点位置の変更以外の収差を追加又は除去することで、モデル生成用ホログラムを増やしてもよい。この構成によれば、ホログラムの水増し率を上げることができる。あるいは、ホログラムを適切に水増しすることが可能となる。その結果更に適切に細胞の識別を行うことができる。但し、ホログラムの水増し時の焦点位置の変更以外の収差の追加又は除去は、必ずしも行われる必要はない。
【0079】
また、本実施形態のように、水増しされた複数のホログラムをまとめて1つの入力として、学習モデルの生成及び識別を行ってもよい。例えば、上述したように水増しされた複数のホログラムを疑似的な3次元画像として、学習モデルの生成及び識別を行ってもよい。この構成によれば、例えば、3次元形状が特徴的な細胞の種別について、更に適切に細胞の識別を行うことができる。但し、必ずしもこのような構成を取る必要はなく、学習モデルの生成及び識別において、ホログラム毎の情報を学習モデルへの入力としてもよい。
【0080】
また、本実施形態のように、細胞の種別の識別時にDRアンサンブルを行ってもよい。この構成によれば、識別の精度を向上することができる。但し、必ずしもDRアンサンブルを行う必要はない。
【0081】
なお、本実施形態では、コンピュータ1は、学習モデル生成システム10と、識別システム20とを含むこととしたが、学習モデル生成システム10と、識別システム20とが独立してそれぞれ実施されてもよい。この場合、学習モデル生成システム10によって生成された学習モデルは、必ずしも水増しされたホログラムを用いた識別に用いられる必要はない。また、識別システム20で用いられる学習モデルは、必ずしも水増しされたホログラムに基づいて機械学習されたものである必要はない。
【0082】
また、学習モデル生成システム10によって生成される学習モデルは、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとしての利用が想定される。当該学習モデルは、CPU及びメモリを備えるコンピュータにて用いられる。具体的には、コンピュータのCPUが、メモリに記憶された学習モデルからの指令に従って、ニューラルネットワークの入力層に情報を入力して、ニューラルネットワークにおける学習済の重み付け係数等に基づく演算を行って、ニューラルネットワークの出力層から結果を出力するように動作する。
【0083】
本実施形態の有効性を確認するため、以下の評価を行った。定量位相顕微鏡によって取得された5種類の樹立癌細胞株のホログラム各1,000枚(合計5,000枚)を用いて、10分割交差検証により評価を行った。10分割交差検証は、5,000例のデータを500例ずつ10個の部分集合に分割し、部分集合の内1つをテストデータ、残りを訓練データとすることを、テストデータとする部分集合を変えながら繰り返すことで、全データに対するテスト結果を得る方法である。評価指標には、以下の式によって算出される精度を用いた。
精度 = 識別結果が正しかった数 / 全データ数 × 100 %
【0084】
DRによるホログラムの水増しでは、1μm刻みで±10μmの範囲の奥行位置のホログラム21枚を作成し、モデル生成用ホログラムの数(訓練データ数)を21倍の94,500例に水増しした。
【0085】
図6に評価結果を示す。DR-DAは、本実施形態に係るDRによるモデル生成用ホログラムの水増しあり(識別時には水増しなし)、DR-DA+DR-Eは、本実施形態に係るDRによるモデル生成用ホログラムの水増しあり、かつ識別時のDRアンサンブルありを意味する。データ数5,000の場合、従来法(機械学習時及び識別時何れも水増しなし)、DR-DA、DR-DA+DR-Eの精度は97.06%、97.92%及び98.54%であった。データ数を10分の1に減らした場合、従来法、DR-DA、DR-DA+DR-Eの精度は88.4%、95.6%および96.2%であった。
【0086】
データ数を10分の1に減らすと従来法では精度が10%近く低下した。一方、本実施形態に係るDR-DAでは精度低下は約1.5%に抑えられた。これらの結果から、データ数を減らして計測時間を10分の1に減らしても、DRによるホログラムの水増しにより少ない精度低下で識別を行うことが示唆された。
【0087】
引き続いて、上述した一連の学習モデル生成システム10及び識別システム20による処理を実行させるための学習モデル生成プログラム及び識別プログラムを説明する。図7に示すように、学習モデル生成プログラム50は、コンピュータに挿入されてアクセスされる、あるいはコンピュータが備える、コンピュータ読み取り可能な記録媒体40に形成されたプログラム格納領域41内に格納される。
【0088】
学習モデル生成プログラム50は、モデル生成用取得モジュール51と、モデル生成用生成モジュール52と、学習モデル生成モジュール53とを備えて構成される。モデル生成用取得モジュール51と、モデル生成用生成モジュール52と、学習モデル生成モジュール53とを実行させることにより実現される機能は、上述した学習モデル生成システム10のモデル生成用取得部11と、モデル生成用生成部12と、学習モデル生成部13との機能とそれぞれ同様である。
【0089】
図8に示すように、識別プログラム70は、コンピュータに挿入されてアクセスされる、あるいはコンピュータが備える、コンピュータ読み取り可能な記録媒体60に形成されたプログラム格納領域61内に格納される。なお、記録媒体60は、記録媒体40と同一であってもよい。
【0090】
識別プログラム70は、識別用取得モジュール71と、識別用生成モジュール72と、識別モジュール73とを備えて構成される。識別用取得モジュール71と、識別用生成モジュール72と、識別モジュール73とを実行させることにより実現される機能は、上述した識別システム20の識別用取得部21と、識別用生成部22と、識別部23との機能とそれぞれ同様である。
【0091】
なお、学習モデル生成プログラム50及び識別プログラム70は、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、学習モデル生成プログラム50及び識別プログラム70の各モジュールは、1つのコンピュータでなく、複数のコンピュータのいずれかにインストールされてもよい。その場合、当該複数のコンピュータによるコンピュータシステムよって上述した一連の処理が行われる。
【符号の説明】
【0092】
1…コンピュータ、10…学習モデル生成システム、11…モデル生成用取得部、12…モデル生成用生成部、13…学習モデル生成部、20…識別システム、21…識別用取得部、22…識別用生成部、23…識別部、30…撮像装置、40…記録媒体、41…プログラム格納領域、50…学習モデル生成プログラム、51…モデル生成用取得モジュール、52…モデル生成用生成モジュール、53…学習モデル生成モジュール、60…記録媒体、61…プログラム格納領域、70…識別プログラム、71…識別用取得モジュール、72…識別用生成モジュール、73…識別モジュール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8