(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039522
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220303BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220303BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20220303BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K9/08
A61K9/06
A61K47/06
A61P37/04
A61K47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144597
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】507330730
【氏名又は名称】学校法人城西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】森 健二
(72)【発明者】
【氏名】武井 千弥
(72)【発明者】
【氏名】押坂 勇志
(72)【発明者】
【氏名】杉林 堅次
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA11
4C076BB11
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB31
4C076CC06
4C076DD21
4C076DD34
4C076FF11
4C076FF68
4C084AA17
4C084MA16
4C084MA27
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB09
(57)【要約】
【課題】
本発明は、投与回数を低減可能な製剤を提供することにある。
【解決手段】
本発明の製剤は、磁性流体と生理活性物質とを含有する製剤であって、当該製剤は、半固形状又は液体状であることを特徴とする。また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記製剤は、皮膚、粘膜、皮下、皮内、筋肉内のいずれかに投与するための投与用製剤であることを特徴とする。また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記磁性流体の濃度は、5w/w%以上であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性流体と生理活性物質とを含有する製剤であって、当該製剤は、半固形状又は液体状であることを特徴とする製剤。
【請求項2】
前記製剤は、皮膚、粘膜、皮下、皮内、筋肉内のいずれかに投与するための投与用製剤であることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記磁性流体の濃度は、5w/w%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
前記磁性流体の濃度は、15w/w%以上であることを特徴とする請求項3記載の製剤。
【請求項5】
さらに、流動パラフィンを含有し、前記流動パラフィンの濃度は、10%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項6】
前記流動パラフィンの濃度は、20%以上であることを特徴とする請求項5記載の製剤。
【請求項7】
前記生理活性物質は、複数回の投与を必要とするものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項8】
前記生理活性物質は、ワクチンであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項9】
前記ワクチンは、不活化ワクチンであることを特徴とする請求項8記載の製剤。
【請求項10】
前記ワクチン又は前記不活性化ワクチンは、抗体産生までに複数回投与を必要とするものであることを特徴とする請求項8又は9に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤に関し、特に磁性流体を含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性流体は微細な強磁性コロイドの表面を親溶媒化処理し、水や油類に安定に分散させたものである(非特許文献1)。磁場下でも粒子の凝集や固液の分離が起こらず、液体全体が強磁性を有するような挙動を示す。この性質を利用して、回転軸のシールや振動系のダンバー、スピーカ―などの実用化されている。また磁性流体を容器に封入し磁場を与えると磁気の力で、磁性流体はスパイク現象と言われる釘状の突起になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】精密工学会誌、55巻、1965~1969ページ、1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医薬品などの生理活性物質を生体に投与した際、ほとんどの場合、十分な効果を発揮するためには複数回の投与が必要である。嚥下障害のない患者にとっては経口投与は簡便な投与方法であるので頻回投与は可能であるが、ほとんどの注射剤は医師、看護師が投与しなければならず複数回の投与はその都度通院が必要となる。インスリン、成長ホルモン、へパカルシウム、ヒト副甲状腺ホルモンなどは自己注射が認められ通院の必要はないが、患者にとって痛みを伴う注射の穿刺回数は減らしたい。鉱物油を含む液剤や粘度を有する液剤や半固形製剤を筋肉内または皮下、皮内に注射投与すると液剤や半固形製剤は生体内に広がらず投与部に滞留することが多い。このとき滞留した溶液や半固形製剤からの生理活性物質の放出は持続的にはならず、一定量放出したあとで停止してしまう。これは生理活性物質が枯渇するのではなく、液剤又は製剤などの基剤中から放出することができないためである。基剤を一旦撹拌すれば再度放出は開始されるが、体内の基剤を撹拌することはできない。撹拌ができれば再度穿刺しての投与の必要はない。
【0005】
また、ワクチンはほとんどが注射による複数回投与である。癌の治療のためのがんワクチンも研究されているが、実用化されているほとんどのワクチンはヒトなどの動物に接種して感染症の予防に用いる医薬品で、一般に毒性を無くしたか、あるいは弱めた病原体から作られ、弱い病原体を注入することで体内に抗体を作り、以後感染症にかかりにくくするためのものである。
【0006】
このように、ワクチンの接種方法としては、ポリオのような経口投与もあるものの、ほとんどが侵襲的な注射による投与が一般的である。またBCGは数本の針を有するスタンプ式の投与方法で、比較的痛みの少ない接種方法ではあるが侵襲的である。このようにポリオ以外はほとんどが侵襲的な投与方法で、感染などの危険性を伴う他、医療機関での投与が必須となるため、数回の投与を必要とするワクチンの投与に対しては簡便なものではなかった。またワクチンでは免疫活性を有するまでの十分量の抗体を産生させるまでに複数回の注射による投与が必要なものもあり簡便とは言えない。
【0007】
また、皮膚や粘膜から軟膏や貼付剤などに含有させた生理活性物質を投与する際、塗布、貼付した軟膏や貼付剤から放出される生理活性物質は、皮膚と軟膏や貼付剤の界面付近からしか放出されないこともあり、軟膏や貼付剤の内部の生理活性物質を放出させるためには軟膏や貼付剤を撹拌する必要があるが、その際には軟膏を塗り直すか貼付剤を貼り直すなど再投与が必要となる。このように注射剤や皮膚や粘膜に投与する製剤の投与回数を軽減することが有意義なことであるが、そのような製剤は現存していない。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、投与回数を低減可能な製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者は、製剤の構成成分について鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0010】
すなわち、本発明の製剤は、磁性流体と生理活性物質とを含有する製剤であって、当該製剤は、半固形状又は液体状であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記製剤は、皮膚、粘膜、皮下、皮内、筋肉内のいずれかに投与するための投与用製剤であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記磁性流体の濃度は、5w/w%以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記磁性流体の濃度は、15w/w%以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、さらに、流動パラフィンを含有し、前記流動パラフィンの濃度は、10%以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記流動パラフィンの濃度は、20%以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記製剤の粘度について、37℃において回転速度が50回転/分の回転粘度計で測定したとき、900秒後の粘度が約160ミリパスカル・秒以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記生理活性物質は、複数回の投与を必要とするものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記生理活性物質は、ワクチンであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記ワクチンは、不活化ワクチンであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記ワクチン又は前記不活性化ワクチンは、抗体産生までに複数回投与を必要とするものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製剤によれば、(1)皮内、皮下、筋肉内に滞留している生理活性物質を放出することができる、(2)複数回の投与を必要とする生理活性部物質の投与回数を減らすことができる、(3)生理活性部物質が免疫獲得まで複数回のワクチンの場合では、1度の注射投与で皮内、皮下、筋肉内に滞留している抗原の放出を生体外部から制御することで、効率よく免疫を獲得できる、(4)皮膚や粘膜に投与する場合は塗布や貼付の回数を減らすことができる等という有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様における製剤の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施態様における製剤の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明で用いた放出試験器を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施態様における製剤の放出速度と時間との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施態様における製剤の放出速度と時間との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施態様における製剤の放出速度と時間との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施態様における製剤の粘度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の製剤は、磁性流体と生理活性物質とを含有する製剤であって、当該製剤は、半固形状又は液体状であることを特徴とする。本発明において、磁性流体(Magnetorheological fluid, Magnetic Fluid, Ferrofluid)とは、流体でありながら、磁性を帯び、砂鉄のように磁石に吸い寄せられる性質を持つ機能性流体(smart fluid)の一つとすることができる。本発明において、適用可能な磁性流体としては、特に限定されないが、例えば、マグネタイトやマンガン亜鉛フェライトなどの強磁性微粒子、その表面を覆う界面活性剤、ベース液(水や油)の3つで構成される磁性コロイド溶液等を挙げることができる。磁性流体中の強磁性微粒子は、界面活性剤とベース液の親和力と界面活性剤同士の反発力によりベース液中で凝集したり沈降したりすることなく安定した分散状態を保っている。本発明においては、このような磁性流体は、市販により入手可能であり、当該磁性流体を製剤中に混合して使用することが可能である。
【0024】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記生理活性物質は、ワクチンであることを特徴とする。すなわち、本発明において、適用可能な生理活性物質としては、複数回の投与を必要とする治療用診断用医薬品に該当するものやワクチンが挙げられる。また本発明において、適用可能なワクチンとしては、BCG、経口生ポリオワクチン、痘苗、麻疹ワクチン、風疹ワクチ、麻疹・風疹混合ワクチン、流行性耳下腺炎ワクチン、黄熱ワクチン、ロタウイルスワクチン、帯状疱疹ワクチン、麻疹・風疹・おたふく混合ワクチン、 MMRV( 麻疹・風疹・おたふく・水痘)、インフルエンザウイルスワクチン、狂犬病ワクチン、コレラワクチン、三種混合(DPT)ワクチン(百日咳・ジフテリア・破傷風混合ワクチン)、二種混合(DT)ワクチン(ジフテリア・破傷風混合ワクチン)、日本脳炎ワクチン、百日咳ワクチン、23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン、A型肝炎ウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、多価蛋白結合肺炎球菌ワクチン、炭疽菌ワクチン、不活化ポリオワクチン、髄膜炎菌ワクチン、腸チフスワクチン、ダニ媒介脳炎ワクチン、インフルエンザ桿菌b型ワクチン、A型肝炎ワクチン、ジフテリア・破傷風混合ワクチン、 新型・不活化経口コレラワクチン、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
すなわち、ワクチンとして、上述のように、癌の治療のためのがんワクチンも研究されているが、実用化されているほとんどのワクチンはヒトなどの動物に接種して感染症の予防に用いる医薬品で、一般に毒性を無くしたか、あるいは弱めた病原体から作られ、弱い病原体を注入することで体内に抗体を作り、以後感染症にかかりにくくするためのものであり、このようなワクチンも本発明に適用可能である。
【0026】
生ワクチンは毒性を弱めた微生物やウイルスを使用し、液性免疫のみならず細胞免疫も獲得できるため、一般に不活化ワクチンに比べて獲得免疫力が強く免疫持続期間も長いが生ワクチンも本発明に適用可能である。これらの例としてはBCG、経口生ポリオワクチン、痘苗、麻疹ワクチン、風疹ン、麻疹・風疹混合ワクチン、流行性耳下腺炎ワクチン、黄熱ワクチン、ロタウイルスワクチン、帯状疱疹ワクチン、麻疹・風疹・おたふく混合ワクチン、MMRV(麻疹・風疹・おたふく・水痘)などがある。
【0027】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記ワクチンは、不活化ワクチンであることを特徴とする。不活化ワクチンは死ワクチンとも呼ばれる。狭義の不活化ワクチンは化学処理などにより死んだウイルス、細菌、リケッチアを使用する。これらと同様の効果を示し、効果において同様であることから、抗原部分のみを培養したものを含めて不活化ワクチンと称されることもある。不活化ワクチンは、生ワクチンより副反応が少ないが、液性免疫しか獲得できずその分免疫の続く期間が短いことがあり、このため複数回接種が必要なものが多い。これらの例としてはインフルエンザウイルスワクチン、狂犬病ワクチン、コレラワクチン、三種混合(DPT)ワクチン(百日咳・ジフテリア・破傷風混合ワクチン)、二種混合(DT)ワクチン(ジフテリア・破傷風混合ワクチン)、日本脳炎ワクチン、百日咳ワクチン、23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン、A型肝炎ウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、多価蛋白結合肺炎球菌ワクチン、炭疽菌ワクチン、不活化ポリオワクチン、髄膜炎菌ワクチン、腸チフスワクチン、ダニ媒介脳炎ワクチン、インフルエンザ桿菌b型ワクチン、A型肝炎ワクチン、ジフテリア・破傷風混合ワクチン、 新型・不活化経口コレラワクチン、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンなどが使用されている。これらの不活性ワクチンも本発明に適用可能である。
【0028】
また、肺炎球菌ワクチンなどのように蛋白ではない抗原を用いるワクチンや免疫活性の弱い抗原では、抗原(ハプテン)部分だけでは免疫を惹起できないことがあるため、別の蛋白と抗原を結合させるなどの工夫がされているが、これらも本発明に適用可能である。
【0029】
また、本発明において、当該製剤は、半固形状又は液体状であることを特徴とする。すなわち、本発明において、半固形製剤、液剤等に適用可能である。
【0030】
本発明の原理について説明すれば以下の通りである。すなわち、本発明は生理活性物質と磁性流体を含み、外部から磁場を与えることで生理活性物質の放出を制御することが可能となる。本発明においては、外部から製剤に磁場を与えることによって、発明を実施するための最良の形態の投与剤形としては注射により投与する製剤または皮膚や粘膜に適用することが可能な製剤である。
【0031】
すなわち、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記製剤は、皮膚、粘膜、皮下、皮内、筋肉内のいずれかに投与するための投与用製剤であることを特徴とする。注射剤は通常、静脈内や筋肉内、皮下、皮内に投与するが、このうち本発明が有効であるのは、生体外から磁場を与えることで基剤を撹拌し、滞留している生理活性物質を再度放出させることができるという観点から、特に筋肉内、皮下、皮内に投与する製剤とすることができる。鉱物油を含む液剤や粘度を有する液剤や半固形製剤を筋肉内、皮下、皮内に投与した際、投与した液剤や半固形製剤は生体内に広がらず投与部に滞留することが多い。このとき滞留した溶液や半固形製剤からの生理活性物質の放出は持続的にはならず、一定量放出したあとで停止してしまう。これは生理活性物質が枯渇するのではなく、基剤中から放出することができないためである。本発明は生体外から磁場を与えることで基剤を撹拌し、再度放出させることができる。このような観点から注射剤では筋肉内、皮下、皮内に投与する製剤が有効である。
【0032】
また皮膚や粘膜に貼付あるいは塗布する製剤でも基剤中で生理活性物質の拡散が遅くなり、その結果、放出量が減少し、皮膚や粘膜からの吸収速度が低下することがある。このときも製剤などの基剤を撹拌できれば再度放出は始まる。発明を実施するための皮膚や粘膜に投与する製剤としては、特に限定されないが、例えば、パップ剤、テープ剤、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、スプレー剤を挙げることができる。
【0033】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記磁性流体の濃度は、外部磁場に応答した撹拌能の観点から、5w/w%以上であることを特徴とする。
【0034】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記磁性流体の濃度は、粘度の比較的高い半固形製剤でも十分な撹拌能を持たせるという観点から、15w/w%以上であることを特徴とする。
【0035】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、さらに、流動パラフィンを含有し、前記流動パラフィンの濃度は、製剤の粘度を減少させるという観点から、10%以上であることを特徴とする。
【0036】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記流動パラフィンの濃度は、製剤の粘度大幅に減少させるという観点から、20%以上であることを特徴とする。
【0037】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、前記製剤の粘度について、37℃において回転速度が50回転/分の回転粘度計で測定したとき、900秒後の粘度が約160ミリパスカル・秒以下であることを特徴とする。
【0038】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、体内(皮内、皮下、筋肉内に投与したとき)または製剤(皮膚や粘膜に適用したとき)に滞留している生理活性物質が外部から磁場を与えたときのみ放出されるので、パルス的に投与できるという利点から、前記生理活性物質は、複数回の投与を必要とするものであることを特徴とする。
【0039】
また、本発明の製剤の好ましい実施態様において、体内に滞留しているワクチンが外部から磁場を与えたときのみ放出されるので、パルス的に投与できるという利点から、前記ワクチン又は前記不活性化ワクチンは、抗体産生までに複数回投与を必要とするものであることを特徴とする。
【0040】
また、本発明において、他の添加剤を用いることが可能である。例えば、本発明に用いることが可能な添加剤としてはアジピン酸やアスコルビン酸などの安定化剤、グリセリン脂肪酸エステルやポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどの界面活性剤、マクロゴールなどの可塑剤、流動パラフィンなどの可溶化剤、リン酸塩などの緩衝剤、ワセリンやゼラチン、ポリアクリル酸塩、ポリイソブチレン、天然ゴムラテックスなどの基剤、アラビアゴム、ケイ酸マグネシウムアルミニウムなどの懸濁化剤、アクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体、アクリル酸エステル・酢酸ビニルコポリマー、アクリル酸2-エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体溶液、アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体溶液、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン、シスポリイソプレンゴム、ジブチルヒドロキシトルエン、脂肪族炭化水素樹脂、 ジメチルポリシロキサン、水素添加ロジングリセリンエステル、 スチレンイソプレンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンゴム、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸水溶液(20%)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸部分中和物、ポリイソブチレン、ポリビニルアルコールなどの粘着剤、キサンタンガム、ゼラチンなどの粘稠剤、安息香酸、クロロブタノールなどの防腐剤・保存剤が挙げられるがこれに限定されない。
【0041】
貼付剤に磁性流体を含有させる場合には、本発明に適用可能な製剤として、粘着剤中に分散させたマトリックス型製剤や放出制御膜を有するリザバー型製剤が挙げられる。マトリックス製剤は
図1に断面図で示したように支持体(11)とそこに積層された基剤からなり、基剤中(図中円形で拡大)に分散させた磁性流体(12)と生理活性物質と粘着剤やその他添加剤を含む粘着層(13)からなる。リザバー型製剤は
図2に断面図で示したように支持体(21)、磁性流体を分散させた基剤(22)、放出制御膜(23)からなることができる。
【0042】
磁性流体の含有量としては5w/w%以上が望ましく、15w/w%以上がより好ましい。流動パラフィンを含有させる場合、その濃度は10w/w%以上が望ましく、20 w/w%以上がより望ましい。磁性流体に磁場を与え、撹拌するためには基剤の粘度が重要でその粘度は実施例に示した方法で測定した場合、約160ミリパスカル・秒以上であることが望ましい。
【実施例0043】
ここで、本発明の一実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
【0044】
実験例1-5 放出試験と処方
試薬について、白色ワセリンは丸石製薬株式会社 (大阪、日本)、磁性流体DS-60は株式会社シグマハイケミカル (神奈川、日本)、流動パラフィンとドデシル硫酸ナトリウムは富士フィルム和光純薬株式会社 (大阪、日本)、リドカインは東京化成工業株式会社 (東京、日本) から購入したものを用いた。
【0045】
本発明の機能の評価は、磁性流体を含む半固形製剤を調製し、外部から磁場を与えたときにそれに応答し生理活性物質が放出されるか否かで行った。具体的には生理活性物質としてリドカインを選択し、以下に示した処方で調製し、放出されるリドカイン量を測定した。放出試験は
図3に示した自作の試験器を用いて評価した。アクリル板(31)の一部を円柱状 (直径46 mm、深さ1 mm) に削って、そこに製剤を充てんした(32)。円筒形の溶出層(34)に溶出液を入れ、外側に温度を37℃に保つための水を循環させるために円柱状のアクリル(33)で覆った。溶出液は日本薬局方溶出試験第1液を100 mL入れた。溶出液はプロペラ撹拌機(35)で撹拌し (100 rpm)、経時的に溶出液をサンプリングし、4時間後に試験器の下から磁石をあて、手で動かして磁場を与えた (1分)。その後も引き続きサンプリングを行った。リドカインの定量には、TSKgel ODS-80 TsQA (粒子径5μm、カラムサイズ150×4.6 mm、東ソー株式会社、東京、日本) を使用した。リン酸 (0.05%) とドデシル硫酸ナトリウム (5.0 mM) を含有した50 v/v%アセトニトリル水溶液 (流速1.0 mL/min) で溶出させ、262 nmにおける吸光度を測定して定量した。
【0046】
処方(いずれも質量パーセントを示す)
実施例1:白色ワセリン84%、磁性流体15%、リドカイン1%
実施例2:白色ワセリン69%、磁性流体30%、リドカイン1%
実施例3:白色ワセリン54%、磁性流体5%、流動パラフィン40%、リドカイン1%
実施例4:白色ワセリン79%、磁性流体10%、流動パラフィン10%、リドカイン1%
実施例5:白色ワセリン74%、磁性流体5%、流動パラフィン20%、リドカイン1%
【0047】
(比較例)
放出試験は実施例と同様に行った。比較例に用いた処方を以下に示す。
【0048】
処方(いずれも質量パーセントを示す)
比較例1:白色ワセリン99%、リドカイン1%
比較例2:白色ワセリン59%、流動パラフィン40%、リドカイン1%
【0049】
図4には比較例1と実施例1、2の経時的な放出速度を示した。いずれも初期にバーストと見られる放出があり、、その後3時間目までほとんど放出は見られなかった。4時間目に外部磁場を与えると実施例1、2では放出が見られたが比較例1では放出が見られなかった。このことから本発明は外部磁場を与えることで生理活性物質であるリドカインを放出させることができた。
【0050】
図5には比較例2と実施例3の経時的な放出速度を、
図6には比較例1と実施例2、4の経時的な放出速度を示した。
図5のように流動パラフィンを加えても実施例3では磁場に応答した生理活性性物質の放出がみられたのに対し、磁性流体を含まない比較例2では放出は見られなかった。さらに
図6実施例4に示したように流動パラフィンを加えることで磁性流体を10%に減らしても、30%含む実施例2と同等の生理活性性物質の放出量が確認された。このように流動パラフィンを10%加えることにより磁場による応答性が増加した。図示しないが、実施例5の態様においても良好な放出結果が得られた。
【0051】
実験例6 放出試験と粘度
実施例1と比較例1の処方の粘度を測定した。粘度の測定は回転粘度計 (RE-215H、東機産業、東京、日本) で測定した(回転数50 rpm、温度37℃)。粘度が一定になる900秒の値を粘度とした。
図6に示した磁場に応答して生理活性物質を放出した実施例1の処方では粘度は159ミリパスカル秒であったのに対し、生理活性物質を放出しなかった比較例1では178ミリパスカル秒であった。このことから磁場に応答して生理活性物質を放出すか否かはその粘度により異なり、条件によって効率良く放出するためには約160ミリパスカル秒以下の粘度とすることが望ましいこと分かる。
【0052】
このように、本発明によれば、磁性流体を含有することから、生理活性物質の放出を制御する可能で有ることが判明した。すなわち、磁性流体とワクチンなどの生理活性物質を含有し、外部から磁場を与えることで生理活性物質の放出を制御することができる製剤を提供することが可能となった。したがって、本発明によれば、注射により筋肉内、皮内、皮下に投与した生理活性物質、また皮膚や粘膜に投与した生理活性物質を複数回にわたって放出させ、投与回数を減らすことも可能であることが判明した。