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特開2022-39526細胞内の高次構造RNA中の検出困難な部位にある塩基配列を検出する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039526
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】細胞内の高次構造RNA中の検出困難な部位にある塩基配列を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20220303BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20220303BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220303BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20220303BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20220303BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6876 Z
C12Q1/02
G01N21/64 F
A61K31/7088
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144604
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 健造
【テーマコード(参考)】
2G043
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043FA02
2G043LA03
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ06
4B063QQ07
4B063QQ08
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR56
4B063QR75
4B063QR76
4B063QR77
4B063QR78
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX02
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086NA20
(57)【要約】
【課題】 細胞内の高次構造RNA中の検出困難な部位にある塩基配列を検出する手段を提供する。
【解決手段】 光架橋性人工核酸プローブを、RNA分子中の標的塩基配列と、二重鎖形成させて光架橋する方法であって、光架橋性人工核酸プローブとRNA分子中の標的塩基配列の二重鎖形成と同時に又は二重鎖形成に先立って、光架橋性人工核酸アシストプローブをRNA分子と二重鎖形成させて光架橋する工程、を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光架橋性人工核酸プローブを、RNA分子中の標的塩基配列と、二重鎖形成させて光架橋する方法であって、
光架橋性人工核酸プローブとRNA分子中の標的塩基配列の二重鎖形成と同時に又は二重鎖形成に先立って、光架橋性人工核酸アシストプローブをRNA分子と二重鎖形成させて光架橋する工程、を含む、方法。
【請求項2】
RNA分子中の標的塩基配列が、部分的二重鎖構造の領域内にあり、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端のうちの一方には、標的塩基配列を越えて部分的二重鎖構造が続いており、
標的塩基配列を越えて続く部分的二重鎖構造の領域をA領域とし、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端のうちのもう一方に、RNAの多分岐構造があり、
上記RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB領域とし、もう1つの分岐の領域をC領域とし、
上記光架橋性人工核酸アシストプローブとして、以下の:
A領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブA、
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB、及び
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RNA分子中の標的塩基配列が、部分的二重鎖構造の領域内にあり、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端に、RNAの多分岐構造があり、
両端のRNAの多分岐構造のうちの一方のRNAの多分岐構造において、RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB領域とし、もう1つの分岐の領域をC領域とし、
両端のRNAの多分岐構造のうちのもう一方のRNAの多分岐構造において、RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB’領域とし、もう1つの分岐の領域をC’領域とし、
上記光架橋性人工核酸アシストプローブとして、以下の:
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB、
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC、
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB’、及び
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC’、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
RNAの多分岐構造が、RNAの3分岐構造、又はRNAの4分岐構造である、請求項2~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
RNA分子が細胞内のRNA分子である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
光架橋性人工核酸プローブを、RNA分子中の標的塩基配列と、二重鎖形成させて光架橋することによって、RNA分子中の標的塩基配列を検出する方法である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
光架橋性人工核酸プローブが、検出用標識を備えたプローブである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
光架橋性人工核酸プローブが、FISH法用ビーコン型蛍光標識を備えたプローブである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
光架橋性人工核酸プローブが、
以下の式(I)で表される光架橋性人工ヌクレオシドがリン酸ジエステル結合によって塩基配列中に導入された光架橋性人工核酸プローブであり、
光架橋性人工核酸アシストプローブが、
以下の式(I)で表される光架橋性人工ヌクレオシドがリン酸ジエステル結合によって塩基配列中に導入された光架橋性人工核酸アシストプローブである、請求項1~8のいずれかに記載の方法:

式(I):
ただし、式Iにおいて、
R11は、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2~C7のアルコキシカルボニル基、又は水素原子であり、
R12及びR13は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2~C7のアルコキシカルボニル基、又は水素原子であり、
R14は、水酸基、C1~C3のアルコキシ基、C1~C3のアルキルスルファニル基、ニトロ基、フッ素原子、フッ化メチル基、又は水素原子であり、
基Yは、次の式II又は式IIIで表される基である:

式II:
ただし、式IIにおいて、
R21は、水素原子又はC1~C3のアルキル基であり、

式III:
ただし、式IIIにおいて、
R31は、水素原子又は水酸基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内の高次構造RNA中の検出困難な部位にある塩基配列を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内のRNAに含まれる特定の塩基配列を検出する技術は、分子生物学における基本的な技術の一つである。基本的な技術であると同時に、遺伝子診断、微生物の菌種の検出などの応用においても、直接に利用可能な技術である。このような検出技術として、Fluorescence in situ hybridization法(FISH法)が知られている。
【0003】
FISH法では、蛍光標識した核酸を検出用のプローブとして用いて、これを細胞に導入し、標的とする特定の塩基配列と二重鎖形成させて、標的の塩基配列を選択的に検出する。
【0004】
一方で、RNAは細胞内で、単純な一本鎖状態で存在しているわけではなく、複雑な高次構造を形成していることが知られている。そのため、RNA中の特定の塩基配列を、検出用のプローブと二重鎖形成させて、選択的に検出しようとする場合には、RNAの複雑な高次構造中でどのように配置されているかに依存して、検出されやすい塩基配列や、検出されにくい塩基配列がある。
【0005】
非特許文献1は、大腸菌の16S rRNAについて、複雑な高次構造中のいろいろな部位の塩基配列について、検出用プローブによる検出されやすさを、Class IからClassVIの6段階に分けて評価したことを報告している。
【0006】
特許文献1は、光クロスリンク能を有する光応答性ヌクレオチドアナログを開示しており、この光応答性ヌクレオチドアナログが、光反応性架橋剤として使用できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2014/157565号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】BERNHARD MAXIMILIAN FUCHS,et al.,“Flow Cytometric Analysis of the In Situ Accessibility of Escherichia coli 16S rRNA for Fluorescently Labeled Oligonucleotide Probes”,APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,Dec.1998,p.4973-4982,Vol.64,No.12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
もし、非特許文献1において、大腸菌の16S rRNAの複雑な高次構造中において、最も検出が難しいとされたClassVIに相当する塩基配列の検出を、容易に実現する手段があれば、分子生物学における基本的な技術を大きく前進させる。
【0010】
したがって、本発明の目的は、細胞内の高次構造RNA中の検出困難な部位にある塩基配列を検出するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、後述する手段によって、上記目的を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0012】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
光架橋性人工核酸プローブを、RNA分子中の標的塩基配列と、二重鎖形成させて光架橋する方法であって、
光架橋性人工核酸プローブとRNA分子中の標的塩基配列の二重鎖形成と同時に又は二重鎖形成に先立って、光架橋性人工核酸アシストプローブをRNA分子と二重鎖形成させて光架橋する工程、を含む、方法。
(2)
RNA分子中の標的塩基配列が、部分的二重鎖構造の領域内にあり、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端のうちの一方には、標的塩基配列を越えて部分的二重鎖構造が続いており、
標的塩基配列を越えて続く部分的二重鎖構造の領域をA領域とし、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端のうちのもう一方に、RNAの多分岐構造があり、
上記RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB領域とし、もう1つの分岐の領域をC領域とし、
上記光架橋性人工核酸アシストプローブとして、以下の:
A領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブA、
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB、及び
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC、を含む、(1)に記載の方法。
(3)
RNA分子中の標的塩基配列が、部分的二重鎖構造の領域内にあり、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端に、RNAの多分岐構造があり、
両端のRNAの多分岐構造のうちの一方のRNAの多分岐構造において、RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB領域とし、もう1つの分岐の領域をC領域とし、
両端のRNAの多分岐構造のうちのもう一方のRNAの多分岐構造において、RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB’領域とし、もう1つの分岐の領域をC’領域とし、
上記光架橋性人工核酸アシストプローブとして、以下の:
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB、
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC、
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB’、及び
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC’、を含む、(1)に記載の方法。
(4)
RNAの多分岐構造が、RNAの3分岐構造、又はRNAの4分岐構造である、(2)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)
RNA分子が細胞内のRNA分子である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)
光架橋性人工核酸プローブを、RNA分子中の標的塩基配列と、二重鎖形成させて光架橋することによって、RNA分子中の標的塩基配列を検出する方法である、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)
光架橋性人工核酸プローブが、検出用標識を備えたプローブである、(6)に記載の方法。
(8)
光架橋性人工核酸プローブが、FISH法用ビーコン型蛍光標識を備えたプローブである、(7)に記載の方法。
(9)
光架橋性人工核酸プローブが、
以下の式(I)で表される光架橋性人工ヌクレオシドがリン酸ジエステル結合によって塩基配列中に導入された光架橋性人工核酸プローブであり、
光架橋性人工核酸アシストプローブが、
以下の式(I)で表される光架橋性人工ヌクレオシドがリン酸ジエステル結合によって塩基配列中に導入された光架橋性人工核酸アシストプローブである、(1)~(8)のいずれかに記載の方法:

式(I):
ただし、式Iにおいて、
R11は、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2~C7のアルコキシカルボニル基、又は水素原子であり、
R12及びR13は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2~C7のアルコキシカルボニル基、又は水素原子であり、
R14は、水酸基、C1~C3のアルコキシ基、C1~C3のアルキルスルファニル基、ニトロ基、フッ素原子、フッ化メチル基、又は水素原子であり、
基Yは、次の式II又は式IIIで表される基である:

式II:
ただし、式IIにおいて、
R21は、水素原子又はC1~C3のアルキル基であり、

式III:
ただし、式IIIにおいて、
R31は、水素原子又は水酸基である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞内の高次構造RNA中の検出困難な部位にある塩基配列を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、非特許文献1において開示されたEscherichia coli 16S rRNAの高次構造予測モデルの全体構造の部分拡大図である。
図2A図2Aは、385nmで0秒間光照射されたEco627によって染色されたE.coliのCLSM画像である。
図2B図2Bは、385nmで360秒間光照射されたEco627によって染色されたE.coliのCLSM画像である。
図2C図2Cは、385nmで0秒間光照射されたEco627及びEco567(1)~763(8)によって染色されたE.coliのCLSM画像である。
図2D図2Dは、385nmで360秒間光照射されたEco627及びEco567(1)~763(8)によって染色されたE.coliのCLSM画像である。
図3A図3Aは、385nmで0秒間又は360秒間光照射されたEco627によって染色されたE.coliの相対蛍光強度を示すグラフである。
図3B図3Bは、385nmで0秒間又は360秒間光照射されたEco627及びEco567(1)~763(8)によって染色されたE.coliの相対蛍光強度を示すグラフである。
図4図4は、標的領域である二重鎖領域の左側に位置する二重鎖領域(A領域)、3分岐構造の上方に位置する二重鎖領域(B領域)、3分岐構造の下方に位置する二重鎖領域(C領域)の配置を示す説明図である。
図5A図5Aは、表3の値に基づく相対蛍光強度のグラフである。
図5B図5Bは、表3の値に基づく相対蛍光強度のグラフである。
図6図6は、CLSM画像の観察の結果を、実施例1と同様の手法で定量化して作成したグラフである。
図7図7は、組み合わせ番号14(Eco567(1)、Eco603(4)、Eco745(7)の組み合わせ)について、各アシストプローブのハイブリダイズ対象となる領域の配置を示す説明図である。
図8図8は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
図9図9は、組み合わせ番号41(Eco624(3)、Eco650(5)、Eco738(6))について、各アシストプローブのハイブリダイズ対象となる領域の配置を示す説明図である。
図10図10は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
図11図11は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
図12図12は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
図13図13は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
[光架橋性人工核酸プローブを、RNA分子中の標的塩基配列と、二重鎖形成させて光架橋する方法]
本発明によれば、光架橋性人工核酸プローブとRNA分子中の標的塩基配列の二重鎖形成と同時に又は二重鎖形成に先立って、光架橋性人工核酸アシストプローブをRNA分子と二重鎖形成させて光架橋する工程、を含む方法によって、光架橋性人工核酸プローブを、RNA分子中の標的塩基配列と、二重鎖形成させて光架橋することができる。
【0017】
[標的塩基配列の一端に多分岐構造を有するRNA構造における検出]
好適な実施の態様において、RNA分子中の標的塩基配列が、部分的二重鎖構造の領域内にあり、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端のうちの一方には、標的塩基配列を越えて部分的二重鎖構造が続いており、
標的塩基配列を越えて続く部分的二重鎖構造の領域をA領域とし、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端のうちのもう一方に、RNAの多分岐構造があり、
上記RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB領域とし、もう1つの分岐の領域をC領域とし、
上記光架橋性人工核酸アシストプローブとして、以下の:
A領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブA、
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB、及び
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC、を含むものとできる。
【0018】
[標的塩基配列の両端に多分岐構造を有するRNA構造における検出]
好適な実施の態様において、RNA分子中の標的塩基配列が、部分的二重鎖構造の領域内にあり、
標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域の両端に、RNAの多分岐構造があり、
両端のRNAの多分岐構造のうちの一方のRNAの多分岐構造において、RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB領域とし、もう1つの分岐の領域をC領域とし、
両端のRNAの多分岐構造のうちのもう一方のRNAの多分岐構造において、RNAの多分岐構造による分岐のうち、標的塩基配列が含まれる上記部分的二重鎖構造の領域に塩基配列上で近い2つの分岐のうちで、1つの分岐の領域をB’領域とし、もう1つの分岐の領域をC’領域とし、
上記光架橋性人工核酸アシストプローブとして、以下の:
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB、
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC、
B領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブB’、及び
C領域中の塩基配列と二重鎖形成させて光架橋できる塩基配列を有する光架橋性人工核酸アシストプローブC’、を含むものとできる。
【0019】
[光架橋性人工核酸プローブによる標的塩基配列の検出]
本発明者は、これまで核酸の二重鎖形成と光架橋技術を鋭意研究してきた。光架橋性の人工塩基を有する人工ヌクレオチドアナログを、天然のヌクレオチド同様に導入して制作された人工核酸をプローブとして使用すると、その塩基配列に依存して二重鎖形成し、光架橋することによって、標的とする特定の塩基配列を検出することができる。この光架橋性人工核酸プローブによる二重鎖形成は、光架橋が形成されることによって不可逆的なものとなるから、エネルギー的に大変に有利な反応となり、検出の感度は高いものとなる。
【0020】
なお、光架橋性人工核酸プローブは、二重鎖形成と光架橋形成が達成されれば、あらかじめ結合させていた検出用標識によって、プローブを検出することは容易であるから、光架橋形成の達成度とそれによる検出の感度は、実質的に同様の意義を有する。
【0021】
このような観点から、光架橋性人工核酸プローブを用いれば、二重鎖形成させて光架橋させれば、複雑な高次構造を有するRNA分子中の標的塩基配列であっても、高感度に検出できると本発明者は予想していた。ところが、このような光架橋性人工核酸プローブを用いても、非特許文献1において、大腸菌の16S rRNAの複雑な高次構造中において、最も検出が難しいとされたClassVIに相当する塩基配列となると、十分な高感度を得ることはできなかった。
【0022】
そこで、本発明者は、このような複雑な高次構造のRNAにおける検出困難な部位の構造を解析してみたところ、標的塩基配列の近傍に、多分岐構造を備えた構造となっているという傾向を発見した。多分岐構造とは、例えば、RNAが分子中で二重鎖構造を形成して、その二重鎖構造が、ある位置から道路の分岐のように多数に分岐している構造をいう。多分岐構造には、例えば、3分岐構造、4分岐構造がある。
【0023】
そして、本発明者は、この多分岐構造が何らかの制約となって、標的塩基配列と光架橋性人工核酸プローブとの二重鎖形成と光架橋形成が抑制されているのではないかとの着想に至った。そのうえで、本発明者は、光架橋性人工核酸プローブと標的塩基配列との二重鎖形成と光架橋形成に際して、これを助ける光架橋性人工核酸アシストプローブを添加して、光架橋性人工核酸アシストプローブとこれに対応する塩基配列との二重鎖形成と光架橋形成を行うことによって、複雑な高次構造のRNAにおける検出困難な部位に位置する標的塩基配列に対しても、十分な高感度をもって検出できることを見いだして、本発明に到達した。
【0024】
本発明者の検討によれば、この光架橋性人工核酸アシストプローブは、標的塩基配列に対してある特定の位置関係を有することが求められる。
【0025】
具体的には、標的塩基配列を含む二重鎖構造部分の一端の近傍に多分岐構造がある場合に、その多分岐構造の複数の分岐のうち、標的塩基配列に近い2つの分岐のそれぞれにおいて、二重鎖形成可能な塩基配列となっている2つの光架橋性人工核酸アシストプローブを使用することが好ましい。また、同時に、標的塩基配列を含む二重鎖構造部分のもう一方の端には、二重鎖構造が続くことになるから、この二重鎖構造にある塩基配列に対して、二重鎖形成可能な塩基配列となっている1つの光架橋性人工核酸アシストプローブを、上記2つの光架橋性人工核酸アシストプローブと同時に使用することが好ましい。
【0026】
また、具体的には、標的塩基配列を含む二重鎖構造部分の両端に多分岐構造がある場合には、それぞれの多分岐構造について、多分岐構造の複数の分岐のうち、標的塩基配列に近い2つの分岐のそれぞれにおいて、二重鎖形成可能な塩基配列となっている2つの光架橋性人工核酸アシストプローブを使用することが好ましい。
【0027】
[高次構造RNA中の光架橋性人工核酸プローブの位置]
高次構造RNA中において、光架橋性人工核酸プローブが二重鎖形成し、光架橋形成する位置とは、標的塩基配列の位置である。好適な実施の態様において、標的塩基配列の塩基長は、例えば15~20塩基、あるいは20~25塩基とすることができる。好適な実施の態様において、標的塩基配列は、上記塩基長のうち、例えば15~20塩基、あるいは20~25塩基の二重鎖形成部分を含む。好適な実施の態様において、標的塩基配列の多分岐の中心に近い端部の塩基が、その近傍の多分岐構造の分岐の中心から、例えば20~30塩基目、あるいは30~40塩基目となる距離の範囲にある。多分岐構造の分岐の中心からの距離を示す塩基数は、多分岐構造から分岐した2本の鎖の間で形成された最初の塩基対を第1塩基目として数える。例えば、多分岐構造から分岐した直後の2本の鎖の間に、塩基対形成していない塩基配列が続けば、その塩基配列の後に出現する最初の塩基対形成塩基が、第1塩基目となる。
【0028】
[光架橋性人工核酸アシストプローブの位置]
高次構造RNA中において、光架橋性人工核酸アシストプローブが二重鎖形成し、光架橋形成する対象塩基配列の位置は、上記のA領域、B領域、C領域のいずれか、あるいは上記のB領域、C領域、B’領域、C’領域のいずれかに位置する。
【0029】
好適な実施の態様において、A領域に位置する対象塩基配列の塩基長は、例えば15~20塩基、あるいは20~25塩基とすることができる。好適な実施の態様において、A領域に位置する対象塩基配列は、上記塩基長のうち、例えば15~20塩基、あるいは20~25塩基の二重鎖形成部分を含む。好適な実施の態様において、A領域に位置する対象塩基配列の標的塩基配列に近い端部の塩基が、標的塩基配列のすぐ隣の塩基を第1塩基目とした場合に、例えば20~30塩基目、あるいは30~40塩基目となる距離の範囲にある。A領域に位置する対象塩基配列は、その内部に非二重鎖構造部分を含んでいてもよい。
【0030】
好適な実施の態様において、B領域に位置する対象塩基配列の塩基長は、例えば15~20塩基、あるいは20~25塩基とすることができる。好適な実施の態様において、B領域に位置する対象塩基配列は、上記塩基長のうち、例えば15~20塩基、あるいは20~25塩基の二重鎖形成部分を含む。好適な実施の態様において、B領域に位置する対象塩基配列の多分岐の中心に近い端部の塩基が、その近傍の多分岐構造の分岐の中心から、例えば20~30塩基目、あるいは30~40塩基目となる距離の範囲にある。B領域に位置する対象塩基配列は、その内部に非二重鎖構造部分を含んでいてもよい。好適な実施の態様において、B’領域に位置する対象塩基配列についても、B領域に位置する対象塩基配列と同様に設けることができる。
【0031】
好適な実施の態様において、C領域に位置する対象塩基配列の塩基長は、例えば15~20塩基、あるいは20~25塩基とすることができる。好適な実施の態様において、C領域に位置する対象塩基配列は、上記塩基長のうち、例えば15~20塩基、あるいは20~25塩基の二重鎖形成部分を含む。好適な実施の態様において、C領域に位置する対象塩基配列の多分岐の中心に近い端部の塩基が、その近傍の多分岐構造の分岐の中心から、例えば20~30塩基目、あるいは30~40塩基目となる距離の範囲にある。C領域に位置する対象塩基配列は、その内部に非二重鎖構造部分を含んでいてもよい。好適な実施の態様において、C’領域に位置する対象塩基配列についても、B領域に位置する対象塩基配列と同様に設けることができる。
【0032】
[光架橋性人工ヌクレオシド]
好適な実施の態様において、光架橋性人工核酸プローブは、次の式(I)で表される光架橋性人工ヌクレオシドがリン酸ジエステル結合によって塩基配列中に導入された光架橋性人工核酸プローブとすることができる。好適な実施の態様において、光架橋性人工核酸アシストプローブは、次の式(I)で表される光架橋性人工ヌクレオシドがリン酸ジエステル結合によって塩基配列中に導入された光架橋性人工核酸アシストプローブとすることができる。
【0033】
式(I):
【0034】
好適な実施の態様において、R11は、例えば、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2~C7のアルコキシカルボニル基、又は水素原子とすることができ、好ましくは、シノア基又は水素原子とすることができる。
【0035】
好適な実施の態様において、R12及びR13は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2~C7のアルコキシカルボニル基、又は水素原子とすることができ、好ましくは、シノア基又は水素原子とすることができる。
【0036】
好適な実施の態様において、R14は、水酸基、C1~C3のアルコキシ基、C1~C3のアルキルスルファニル基、ニトロ基、フッ素原子、フッ化メチル基、又は水素原子とすることができ、好ましくは、ニトロ基又は水素原子とすることができる。
【0037】
好適な実施の態様において、基Yは、次の式II又は式IIIで表される基とすることができる。
【0038】
式II:
【0039】
好適な実施の態様において、R21は、例えば、水素原子又はC1~C3のアルキル基とすることができ、好ましくは、メチル基又は水素原子とすることができる。
【0040】
式III:
【0041】
好適な実施の態様において、R31は、例えば、水素原子又は水酸基とすることができる。
【0042】
[光架橋形成]
光架橋性人工核酸プローブ及び光架橋性人工核酸アシストプローブは、いずれも、それぞれ二重鎖形成した後に、光照射することによって、光架橋を形成することができる。この光架橋は、光架橋性人工核酸プローブ及び光架橋性人工核酸アシストプローブ中に導入された、上記の光架橋性人工ヌクレオシドの光化学反応によって形成される。光架橋性人工ヌクレオシドは、光架橋可能な位置に配置されたピリミジン塩基との間に光架橋を形成できる。ピリミジン塩基としては、例えば、チミン(T)、シトシン(C)、ウラシル(U)、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシンをあげることができ、高次構造RNAにおいては、好ましくはシトシン(C)、ウラシル(U)をあげることができる。
【0043】
光架橋性人工ヌクレオシドの光架橋性人工塩基は、相補的な塩基配列を有する核酸の塩基配列中において、光架橋性人工塩基と相補的な位置にある塩基から1塩基だけ5’末端側に位置する塩基(相補的な位置にある塩基の5’末端側の隣の塩基)との間に、光架橋を形成できる。すなわち、相補的な塩基配列中において、光架橋性人工塩基と相補的な位置にある塩基から1塩基だけ5’末端側の位置が、光架橋可能な位置である。
【0044】
光照射による光架橋の形成は、光化学反応であるために、温度、溶媒、塩濃度、pH等について、広範な条件下で実施することができる。このため、生理的な条件下でも実施することができて、細胞内の条件においても、好適に使用することができる。光架橋形成は、二重鎖形成と同じ条件下で、行うことができる。
【0045】
好適な実施の態様において、光照射は、例えば、340nm~390nmの範囲、360nm~390nmの範囲の波長を含む光、例えば385nmの波長を含む光の照射によって行うことができる。光照射は、例えば0.1秒~60秒、1秒~30秒、5秒~15秒の範囲の照射時間によって行うことができる。光照射は、例えば0℃~40℃、0℃~30℃、0℃~20℃、0℃~10℃の範囲の温度で行うことができる。
【0046】
[光架橋性人工核酸プローブの標識]
好適な実施の態様において、光架橋性人工核酸プローブによる二重鎖形成と光架橋形成は、RNA分子中の標的塩基配列の検出のために、実施することができる。この場合に、光架橋性人工核酸プローブは、検出用の標識を備えるものとすることができる。このような検出用の標識としては、公知の検出用標識を使用することができる。このような検出用の標識として、例えば、FITC、FAM、TAMRA、Rhodamine、Cy3、Cy5、好ましくはCy3、Cy5をあげることができる。好適な実施の態様において、光架橋性人工核酸プローブは、FISH法用ビーコン型蛍光標識を備えたプローブとすることができる。好適な実施の態様において、FISH法用ビーコン型蛍光標識は、蛍光基と消光基のセットからなり、プローブが標的となる塩基配列と二重鎖形成することによって、蛍光基から消光基が隔離されて、消光基の消光作用が働かなくなり、蛍光基からの蛍光が観察可能となる構成を備えている。
【0047】
[光架橋性人工核酸アシストプローブの添加]
好適な実施の態様において、上述のように、光架橋性人工核酸アシストプローブによる二重鎖形成と光架橋形成は、光架橋性人工核酸プローブによる二重鎖形成と光架橋形成を、促進する。光架橋性人工核酸アシストプローブによる二重鎖形成と光架橋形成は、光架橋性人工核酸プローブによる二重鎖形成と光架橋形成に先だって行ってもよく、光架橋性人工核酸プローブによる二重鎖形成と光架橋形成と同時に行ってもよい。そのため、被検体となる試料への光架橋性人工核酸アシストプローブの添加は、光架橋性人工核酸プローブの添加に先だって行ってもよく、光架橋性人工核酸プローブの添加と同時に行ってもよく、あるいは光架橋性人工核酸プローブの添加の後に行ってもよい。
【0048】
好適な実施の態様において、光架橋性人工核酸アシストプローブは、光架橋性人工核酸プローブによる二重鎖形成と光架橋形成を促進するためのものであるから、典型的には、それぞれの光架橋性人工核酸アシストプローブの分子は、光架橋性人工核酸プローブの分子と、同じモル数程度を目安に添加することができるが、これに限られるものではない。好適な実施の態様において、それぞれの光架橋性人工核酸アシストプローブの分子のモル数は、光架橋性人工核酸プローブの分子のモル数に対して、例えば、1/10~10/1の範囲、あるいは1/1.5~1.5/1の範囲の比率で添加してもよい。
【0049】
好適な実施の態様において、上述のように、光架橋性人工核酸アシストプローブとして、A領域に位置する対象塩基配列と二重鎖形成し光架橋形成する光架橋性人工核酸アシストプローブと、B領域に位置する対象塩基配列と二重鎖形成し光架橋形成する光架橋性人工核酸アシストプローブと、C領域に位置する対象塩基配列と二重鎖形成し光架橋形成する光架橋性人工核酸アシストプローブとの3種類のプローブ分子を、同時にセットとして使用することが好ましい。この3種類の光架橋性人工核酸アシストプローブ分子を用いることで、光架橋性人工核酸プローブの二重鎖形成と光架橋形成の促進作用が、好適に発揮される。好適な実施の態様において、この3種類の光架橋性人工核酸アシストプローブ分子による促進作用を妨げない範囲で、さらに別な種類の光架橋性人工核酸アシストプローブ分子を追加することも本発明の範囲内である。
【実施例0050】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1:光架橋性分子ビーコン型プローブによる検出に対する光架橋性アシストプローブによるアシスト効果の検討]
[プローブODNsの合成]
実施例で使用したプローブODNsの合成を以下のように行った。実施例で使用したプローブは相対蛍光強度が1%であるEco627領域を標的としている光架橋性分子ビーコン型プローブ、そして標的の高次構造を崩すための光架橋性アシストプローブである(表1参照)。光架橋性分子ビーコン型プローブEco1437はStem領域、3’末端に消光基であるDabcyl、5’末端に蛍光基であるCy3を修飾し、Roop領域に3-Cyanovinylcarbazole(CNVD)付加した。光架橋性分子ビーコン型プローブ、光架橋性アシストプローブどちらもS化ODNとした。DNA合成は3400 DNA Synthesizerを使用して固相合成法にて実施した。使用したプローブの一覧を、次の表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1において示した相対蛍光強度は、非特許文献1(APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,Dec.1998,p.4973-4982,Vol.64,No.12)において示された値を記載した。
【0054】
非特許文献1は、Escherichia coli 16S rRNAを対象として、高次構造を備えたRNAを多数の領域に分けて、その領域に対する相補的プローブを作成し、プローブがRNAの対応領域へハイブリダイズしたことを、プローブにあらかじめ結合させた蛍光基からの蛍光発光によって検出して、蛍光強度によって各領域におけるハイブリダイズのしやすさを定量化して対比した結果を開示している。
【0055】
上記の表1において、最も左の列には、本実施例で使用した各プローブの名称を記載しており、各プローブの配列は表1の中央の列に示す通りである。本実施例で使用した各プローブは、非特許文献1で同じ領域を認識するものとして記載されている各プローブの名称にならった名称となっており、非特許文献1で使用された各プローブが示した相対蛍光強度(Relative Probe Fluorescence)が、上記の表1の最も右の列にそれぞれ記載されている。
【0056】
この相対蛍光強度は、非特許文献1において、Eco1482領域を認識するプローブが示した蛍光強度を100%とした相対値であり、数値が大きいほど、各プローブの認識する領域が、高次構造RNA中でハイブリダイズしやすい部位であったこと、すなわち検出しやすい部位であったことを意味する。
【0057】
そして、上記の表1に示されるように、Eco627プローブに対応する領域は、非特許文献1の開示によれば、Eco1482領域と対比して、約1%の蛍光強度しか示さない領域であり、この領域を検出することは極めて難しい領域であった。なお、表1の相対蛍光強度の数値の隣に、Class II、Class III、Class IV、Class V、Class VIの分類の記載があるが、非特許文献1において、これらは相対蛍光強度の値に応じて、それぞれの領域の検出困難性を示した指標であり、Class VIは、高次構造RNA中で最も検出困難な領域に分類されることを意味する。
【0058】
表1の配列中に記載されたDはCNVDである。CNVDは、以下の構造を有する光架橋性の人工ヌクレオシドである。CNVDは、ヌクレオシドにおける塩基部分として3-Cyanovinylcarbazoleを有しており、ヌクレオシドにおける糖骨格部分としてセリノール(2-アミノ-1,3-プロパンジオール)構造を有している。CNVDは、天然のヌクレオシドと同様に、オリゴヌクレオチド配列中に導入することができる。
【0059】
[観察サンプルの調製の準備]
[Escherichia coli グリセロールストックの調製]
実施例では、Escherichia coli(One Shot(登録商標) TOP10 Chemically Competent E.coli)を使用した。37℃に加温したLB液体培地で培養したE.coliを対数増殖期に収集した。培養したE.coliコンピテントセルのグリセロールストック(終濃度20%)を調製したのち、-80℃で保管した。
【0060】
[buffer調製]
Hybridization bufferを次のように調製した。1.0M Tris HCl pH7.2(終濃度20mM)、Sodium chloride(終濃度900mM)、Sodium dodecyl sulfate(0.01%v/v)を混合した。
【0061】
Embedding bufferを次のように調製した。1xPBS buffer(130mM Sodium chloride,10.8mM Na2HPO4,4.2mM NaH2PO4[pH7.2])、0.1% Low-melting-point temp.agarose(0.1%v/v)、Sodium dodecyl sulfate(0.01%v/v)を混合した。
【0062】
[観察サンプルの調製]
各プローブをHybridization bufferを用いて希釈した溶液を、それぞれ終濃度1.0μMとなるようにコンピテントセル溶液と混合した。この混合溶液を氷上に15min静置したのち、42℃、40secのヒートショックを与え、氷上に3min静置したのち37℃、4.0hのインキュベーションを行ない、ハイブリダイゼーションさせた。光照射は4.0℃下で行なった(波長:385nm/照射時間:360sec)。光照射後のサンプル溶液(5.0μL)およびEmbedding buffer(8.0μL)をスライドグラス上で混合し、r.t.で10min自然乾燥させたのちカバーグラスを載せた。
【0063】
[共焦点レーザー顕微鏡による観察]
FISHサンプルの観察には、共焦点レーザー顕微鏡(Nikon,C2Si(with use Ti-u))、ニコン画像統合ソフトウェア(NIS-Elements)を使用し、画像撮影には顕微鏡付属のCCDカメラを使用した。観察の条件は以下のように設定した。
励起波長: 561nm、検出波長: 573-613nm
対物レンズ: x60(油浸レンズ)
NIS-ElementsのCy3蛍光画像検出感度(HV):50、閾値(Offset): -127
明視野検出感度(HV):128、閾値(Offset): -127
【0064】
[各プローブと標的との位置的情報]
実施例においては、複雑な高次構造を有しており、プローブ親和性が最も低い領域であるEco627を標的とし、光応答性人工核酸(CNVD)含有プローブ(Table2.1)の組み合わせによって、CNVD含有ビーコン型プローブで相対Cy3蛍光強度の増加にどれほど影響が出るのかを検証した。図1に、標的と高次構造を崩す役割の各ノーマル型プローブの位置的情報を示す。
【0065】
図1は、非特許文献1において開示されたEscherichia coli 16S rRNAの高次構造予測モデルの全体構造の部分拡大図である。図1中の「600」、「650」、「750」は、それぞれ16sRNAの5’末端からの塩基数を示している。Eco627プローブのハイブリダイズ対象となる領域を、図1中に示した。同様に、表1に示した各プローブのハイブリダイズ対象となる領域を、図1中に、ぞれぞれのプローブ番号によって示した。非特許文献1にも示されているように、このEco627プローブのハイブリダイズ対象となる領域は、Escherichia coli 16S rRNAのなかでも、最もハイブリダイズ困難な領域であり、いわゆる分子ビーコン型プローブを用いて検出しようとしても、通常であれば、ほとんど検出することができない領域である。
【0066】
[観察結果と評価]
光応答性人工核酸(CNVD)含有プローブの組み合わせによって、CNVD含有ビーコン型プローブで相対Cy3蛍光強度の増加にどれほど影響が出るのかを検証した。まず初めに、ビーコン型プローブEco627のみを加えた場合と、ビーコン型プローブEco627と高次構造を崩す役割を担うノーマル型プローブ8種類を加えた場合で、どれほど相対Cy3蛍光強度の増加の影響が出るのかの検討を行った。相対Cy3蛍光強度は、共焦点レーザー走査顕微鏡により撮影した画像を画像解析ソフトウェアImage Jを使用して輝度を定量し、Microsoft Office Excelを使用してビーコン型プローブEco627のみを加えた場合の光照射0秒時点のCy3蛍光強度を基準とし、各光照射時間後のCy3蛍光強度の相対値を算出した。光照射時間はEco1437シリーズ同様、波長385nmで360秒間とした。
【0067】
得られた観察の結果を、図2A図2Dに例示して示す。図2A図2DにE.coliのCLSM画像(共焦点レーザー顕微鏡画像)を示す。図2A及び図2Bは、385nmで0秒間(図2A)又は360秒間(図2B)光照射されたEco627によって染色されたE.coliのCLSM画像である。図2C及び図2Dは、385nmで0秒間(図2C)又は360秒間(図2D)光照射されたEco627及びEco567(1)~763(8)によって染色されたE.coliのCLSM画像である。スケールバーは、20μmである。
【0068】
図2A図2DのCLSM画像から観察されるように、FISHの結果、明視野画像(PC)において細胞であると定義された範囲にCy3による蛍光発光の凝集が観察されたことから、プローブが細胞内に取り込まれたことが示唆された。また、ビーコン型プローブEco627と高次構造を崩す役割を担うノーマル型プローブ8種類を加えた場合で光照射によって相対Cy3蛍光強度の増加が確認されたことから、プローブが標的RNAに対して結合したということが示唆された。蛍光強度の定量化は、共焦点顕微鏡により得られたCy3蛍光画像の輝度をImage Jにより定量し、Excelにより解析して行った。定量化により作成したグラフを、図3A図3Bに示す。
【0069】
図3Aは、385nmで0秒間又は360秒間光照射されたEco627によって染色されたE.coliの相対蛍光強度を示すグラフである。図3Bは、385nmで0秒間又は360秒間光照射されたEco627及びEco567(1)~763(8)によって染色されたE.coliの相対蛍光強度を示すグラフである。
【0070】
図3A及び図3Bにおいて、グラフの縦軸の相対蛍光強度は、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627のみを加えた場合の光照射時間0秒時を、「1」として、この相対値によって示した。光架橋性分子ビーコン型プローブEco627のハイブリダイズによる相補性領域の検出が、光架橋によってどの程度まで高感度化されるか、さらに光架橋性アシストプローブによってどの程度まで高感度化されるかを、容易に把握できるようにするためである。
【0071】
図3Aに示されるように、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627のみを加えた場合での光照射360秒後の相対Cy3蛍光強度は、光照射0秒後と対比して、7倍へ増加した。蛍光強度が7倍となる増加は大きな増加ではあるけれども、光架橋による高感度化としては期待されるよりも小さい。このことは、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627の検出対象とする領域が、複雑な高次構造を有していて、検出困難な領域であることを意味する。すなわち、非特許文献1において最も検出困難であったとされるClass VIと評価された通りに、極めて検出困難である領域であることが確認された。
【0072】
これに対して、図3Bに示されるように、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627と、光架橋性アシストプローブ8種(表1に示したEco567(1)~Eco763(8))とを加えた場合には、光照射360秒後の相対Cy3蛍光強度は、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627のみの光照射0秒後と対比して、39倍へ増加した。このことから、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627と、光架橋性アシストプローブとを組み合わせることによって、複雑な高次構造を有していて検出困難な領域に対しても、驚くほどの高感度化を達成して、検出可能とできることがわかった。この理由は不明であるが、本発明者は、光架橋性アシストプローブが、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627の標的領域付近の高次構造を変化させて、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627の光架橋が形成可能な状態を作り出したのではないかと考えている。
【0073】
[実施例2:光架橋性アシストプローブの組み合わせとアシスト効果の検討]
[高次構造RNA中の領域]
上述のように、実施例1の結果から、本発明者は、光架橋性アシストプローブが、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627の標的領域付近の高次構造を変化させたと考えた。そこで、この高次構造変化の効率的な促進のために、光架橋性アシストプローブの組み合わせとアシスト効果の検討を行った。
【0074】
図1に示す高次構造RNAは、実際には図示できないほどに、複雑な高次構造を備えているとされているが、本発明者は、図1に示す高次構造RNAの光架橋性分子ビーコン型プローブEco627の標的領域付近の構造の本質を、次のような構造へとモデル化して考えた。すなわち、図1において、Eco627の標的領域である二重鎖領域があり、標的領域である二重鎖領域の左側に位置する二重鎖領域(A領域)があり、標的領域の右側に位置する3分岐構造があり、3分岐構造の左側の分岐には二重鎖領域(標的領域)があり、3分岐構造の上方に位置する二重鎖領域(B領域)があり、3分岐構造の下方に位置する二重鎖領域(C領域)がある。このA領域、B領域、及びC領域の配置を、次の図4に示す。
【0075】
本発明者は、各アシストプローブの相補性領域の位置情報から、上記の3つの領域へのアシストプローブによるハイブリダイズと光架橋が、標的領域におけるハイブリダイズと光架橋を容易にするような、高次構造の変化をもたらすとの仮説をたてて、さらに検討を行った。
【0076】
[アシストプローブの組み合わせ]
表1に示したアシストプローブから、3つのプローブの組み合わせを抽出して、56通りの組み合わせに対して、アシスト効果を検討することとした。この組み合わせを次の表2に示す。表2において、表1に示したプローブ番号で、各プローブを示している。例えば、表2の左端の列の第2行目の欄に「1.2」とあるのは、表1におけるEco567(1)とEco645(2)との組み合わせの記載を意味し、表2の左端から2番目の列の第1行目の欄に「3」とあるのは、表1におけるEco614(3)を意味し、表2の左端から2番目の列の第2行目の欄に「1」とあるのは、表1におけるEco567(1)とEco645(2)とEco614(3)の組み合わせを、組み合わせ番号「1」とすることを意味している。
【0077】
【表2】
【0078】
[実験、観察及び評価]
実施例1においては、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627のみを加えた場合と、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627と光架橋性アシストプローブ8種類とを全て加えた場合とで、対比実験を行っていたところ、この実施例2においては、光架橋性分子ビーコン型プローブEco627のみを加えた場合と、上記光架橋性アシストプローブの組み合わせ番号1~56のいずれかの組み合わせと光架橋性分子ビーコン型プローブEco627とを加えた場合の実験を行った。組み合わせを追加した以外については、実施例1と同様に実験、観察、及び評価を行った。この結果を、次の表3に示す。
【0079】
表3に、各プローブの組み合わせと、その組み合わせによって検出された相対Cy3蛍光強度を示す。例えば、組み合わせ1(1.2.3)と記載されている組み合わせは、組み合わせ番号1であって、表1に記載した光架橋性アシストプローブの(1)と(2)と(3)を組み合わせたことを示したものであって、得られた相対蛍光強度が21.0であったことを示している。
【0080】
【表3】
【0081】
表3の値に基づく相対蛍光強度のグラフを、図5A及び図5Bに示す。
【0082】
表3、図5A及び図5Bにおいては、プローブの組み合わせとして、56通りの組み合わせの結果が示されている。56通りの組み合わせのうち、より大きな相対Cy3蛍光強度の増加が得られた組み合わせは以下の通りである。
【0083】
これらの組み合わせのうち、最も高い相対Cy3蛍光強度が得られた組み合わせは、上述したA領域、B領域、及びC領域の3つの領域のそれぞれに対して、相補性領域を有する光架橋性アシストプローブを1つずつ備えた組み合わせであった。この最も高い相対Cy3蛍光強度が得られた組み合わせにおいては、相対Cy3蛍光強度35.5倍という増加が観察された。この35.5倍という増加は、プローブ8種類を加えた場合と同程度の相対Cy3蛍光強度であった。この結果より、上記の3つの領域へのアシストプローブによるハイブリダイズと光架橋が、標的領域におけるハイブリダイズと光架橋を容易にするような、高次構造の変化をもたらすとの仮説が、確かなものとなった。すなわち、3つの領域の高次構造を崩すことが標的を蛍光検出するための必要条件であることが明らかとなった。
【0084】
また、さらに結果を詳細に検討すると、最も大きな相対Cy3蛍光強度の増加が得られた組み合わせ番号14(Eco567(1)、Eco603(4)、Eco745(7)の組み合わせ)は、A領域をEco603(4)が、B領域をEco745(7)、C領域をEco567(1)が、それぞれの領域の構造を崩していると考えられる。特にEco745(7)は、本発明者の仮説によれば、3分岐構造を崩す役割を担っていると予想されたところ、実際に重要なプローブであることが上記実験結果から明らかとなった。
【0085】
[相対蛍光強度の増加の大きな組み合わせの抜粋と詳細な評価]
相対蛍光強度の増加の大きな組み合わせを抜粋して、実施例1と同様に実験、観察、及び評価と検討を行った。CLSM画像の観察の結果を、実施例1と同様の手法で定量化して作成したグラフを、図6に示す。図6は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
【0086】
図6から、組み合わせ番号14(Eco567(1)、Eco603(4)、Eco745(7)の組み合わせ)の相対蛍光強度が最も大きな増加を示したことがわかった。この組み合わせ番号14(Eco567(1)、Eco603(4)、Eco745(7)の組み合わせ)について、各アシストプローブのハイブリダイズ対象となる領域の配置を、図7に示す。
【0087】
[相対蛍光強度の増加の小さな組み合わせの抜粋と詳細な評価]
相対蛍光強度の増加の小さな組み合わせを抜粋して、実施例1と同様に実験、観察、及び評価と検討を行った。CLSM画像の観察の結果を、実施例1と同様の手法で定量化して作成したグラフを、図8に示す。図8は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
【0088】
図8に示されるように、相対蛍光強度は、最も低い組み合わせ41(3.5.6)で5.1倍という結果となった。このなかで比較的に高い組み合わせ16(1.5.6)でも、9.4倍であった。
【0089】
これらの組み合わせに共通する点は、上述したA領域、B領域、C領域の3つの領域に関して、1つの領域に対して、2つのアシストプローブが含まれている点である。最も増加率が低かった組み合わせ41(Eco624(3)、Eco650(5)、Eco738(6))を例とすると、B領域に対するアシストプローブとして、Eco650(5)、Eco738(6)の2つが含まれている。このEco650(5)、Eco738(6)は、ハイブリダイゼーションによるアシストの及ぶ領域が同じ領域となり、一方で、C領域に対してはほとんどアシストの効果が及ばないことから、全体としてアシストの効率が他の組み合わせよりも低くなったと考えられる。加えて、Eco650(5)、Eco738(6)は、ほとんど相補鎖となっているため、Eco650(5)とEco738(6)との相補鎖形成的な相互作用も生じて、結果として、RNA構造に対して有効に結合するEco650(5)、Eco738(6)の割合が少なくなったことも考えられる。相補鎖の関係だけでなく、アシストプローブ同士が数塩基分被ってしまう組み合わせに関しても、同様の理由で相対Cy3蛍光強度の増加率が低くなったと考えられる。
【0090】
図9に、組み合わせ番号41(Eco624(3)、Eco650(5)、Eco738(6))について、各アシストプローブのハイブリダイズ対象となる領域の配置を示す。
【0091】
[実施例3:4つの光架橋性アシストプローブを組み合わせた検討]
[4つめのアシストプローブを追加する組み合わせ番号の選択]
実施例2においては、光架橋性アシストプローブの組み合わせの検討にあたって、3つのアシストプローブの組み合わせを検討した。実施例3では、4つの光架橋性アシストプローブを組み合わせた検討を以下のように行った。
【0092】
検討において、まず最初に、実施例2の検討において相対Cy3蛍光強度の増加が最も大きかった組み合わせ番号14(Eco567(1)、Eco603(4)、Eco745(7)の組み合わせ)と、相対Cy3蛍光強度の増加が最も小さかった組み合わせ41(Eco624(3)、Eco650(5)、Eco738(6))を選択した。そして、この組み合わせ番号14及び41を元にして、さらに、1つのアシストプローブを加えることによってどのような影響が及ぶのか検討した。
【0093】
実施例2の組み合わせ番号14に関してはもうすでに、A領域、B領域、及びC領域の全てに対してそれぞれアシストプローブが添加されており、Eco627が標的領域へとハイブリダイズと光架橋するために必要と思われる程度に、RNA高次構造は崩れていると考えられる。この状態でアシストプローブをさらに追加すると、アシストプローブ同士の相互作用により、むしろ、相対Cy3蛍光強度が減少する可能性も考えられたために、この点について検討を行った。
【0094】
実施例2の組み合わせ番号41に関しては、A領域に対するアシストプローブが1つ(Eco614(3))、B領域に対するアシストプローブが2つ(Eco650(5)、Eco738(6))含まれていた。実施例2の組み合わせ番号41では、B領域に対するこの2つのアシストプローブ同士の負の協同性により、相対Cy3蛍光強度の増加が得られなかったとも考えられた。そこで、実施例2の組み合わせ番号41に対して、C領域に対するアシストプローブが加わることでプローブ同士の正の協同性により、相対Cy3蛍光強度の増加が得られるのかを検討した。また、さらに、A領域、及びB領域に対するアシストプローブが加わることにより、負の協同性によって相対Cy3蛍光強度がさらに減少するのか検討した。
【0095】
実験と評価は、実施例1と同様に行った。
【0096】
[組み合わせ番号14に対してアシストプローブを追加した検討]
実施例2の組み合わせ番号14に対して、さらに1つのアシストプローブを追加した実験を行った。CLSM画像の観察の結果を、実施例1と同様の手法で定量化して作成したグラフを、図10に示す。図10は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
【0097】
[組み合わせ番号41に対してアシストプローブを追加した検討]
実施例2の組み合わせ番号41に対して、さらに1つのアシストプローブを追加した実験を行った。CLSM画像の観察の結果を、実施例1と同様の手法で定量化して作成したグラフを、図11に示す。図11は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
【0098】
[4つの光架橋性アシストプローブを組み合わせた実験の評価]
組み合わせ14(Eco567(1)、Eco603(4)、Eco745(7))に関しては、プローブを追加することでプローブ同士の負の協同性により、相対Cy3蛍光強度の減少が見られた。Eco645(2)を加えた場合では27.6倍(22.2%減少)だったのに対して、Eco614(3)を加えた場合では16.5倍(53.5%減少)、Eco763(8)を加えた場合では17.8倍(49.9%減少)となった。このような減少率になった原因として、Eco645(2)はEco745(7)と一部相補鎖となるが、標的との位置関係も近く、T字構造を崩す役割を担っているプローブであるため、それほど負の協同性による相対Cy3蛍光強度の減少は起こらなかったと考えられる。
【0099】
組み合わせ41(Eco624(3)、Eco650(5)、Eco738(6))に関しては、プローブを追加することで各プローブの協同性が正に働き、相対Cy3蛍光強度の増加が得られた。こちらの組み合わせに関しても、3つの領域だけでなく標的との位置関係も重要であることがこの結果から示唆された。3つの領域にのみ着目して予測したとすれば、C領域に対するプローブEco567(1)およびEco763(8)を加えることで、3つの領域の構造は崩すことができて、相対Cy3蛍光強度の増加が得られると考えられる。しかし、実験の結果からはEco645(2)、Eco745(7)を加えた場合には、それぞれ25.6倍、23.9倍の相対Cy3蛍光強度が得られた。このEco645(2)、Eco745(7)は標的との位置関係も近く、3分岐構造を崩す役割を担っているプローブである。よって、3つの領域だけでなく標的との位置関係も近い3分岐構造を崩す役割を担っているプローブの有無も重要であることが示唆された。
【0100】
[実施例4:2つの光架橋性アシストプローブを組み合わせた検討]
実施例2の組み合わせ番号14(Eco567(1)、Eco603(4)、Eco745(7))と組み合わせ番号41(Eco624(3)、Eco650(5)、Eco738(6))に対して、1つプローブを減らすことによってどのような影響が及ぶのか検討した。相対蛍光強度増加の大きい組み合わせ番号14については、標的の高次構造を崩すために必要であろうと予測される3つの領域のうち、どの領域の高次構造を崩すことが重要なのか、2つの領域を崩してしまえば標的とのハイブリダイゼーション効率は大幅に向上するのか、を検討した。相対蛍光強度増加の小さい組み合わせ番号41に関しては、相補鎖となっており負の協同性が働いているEco650(5)及びEco738(6)のどちらか片方のプローブを除いた場合に、相対Cy3蛍光強度の増加が得られるのかの検討を行った。
【0101】
実験と評価は、実施例1と同様に行った。
【0102】
[組み合わせ番号14からアシストプローブを減らした検討]
実施例2の組み合わせ番号14から、1つのアシストプローブを減らした実験を行った。CLSM画像の観察の結果を、実施例1と同様の手法で定量化して作成したグラフを、図12に示す。図12は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
【0103】
[組み合わせ番号41からアシストプローブを減らした検討]
実施例2の組み合わせ番号41から、1つのアシストプローブを減らした実験を行った。CLSM画像の観察の結果を、実施例1と同様の手法で定量化して作成したグラフを、図13に示す。図13は、Eco627によって染色されたE.coliの蛍光強度について、Eco627のみを添加した場合を基準にして、それぞれ記載のアシストプローブの組み合わせを使用した場合の相対的な蛍光強度のグラフである。
【0104】
[2つの光架橋性アシストプローブを組み合わせた実験の評価]
組み合わせ番号14に関しては、アシストプローブを1つ減らすことにより、相対Cy3蛍光強度の減少が見られた。各組み合わせについて、それぞれ、Eco567(1)・Eco614(3) : 12.9倍、Eco567(1)・Eco745(7) : 18.1倍、 Eco745(7)・Eco603(4) : 11.5倍であった。この結果から、3つの領域のうち1つの領域の高次構造を崩すことができなくなると、3つの領域全てを崩す場合と比較して、相対Cy3蛍光強度が減少することがわかった。
【0105】
組み合わせ番号41に関しては、アシストプローブを1種類減らすことにより、相対Cy3蛍光強度の増加が得られた。組み合わせでの増加率を比較すると、Eco650(5)を除いた場合では18.6倍、Eco738(6)を除いた場合では19.1倍に増加した。これに対して、Eco614(3)を除いた場合、すなわちEco650(5)とEco738(6)の組み合わせの場合では9.6倍とそこまでの増加は得られなかった。これらの結果から、相補鎖となっており負の協同性が働いているEco650(5)、Eco738(6)のどちらか片方のプローブを除くことで、相対Cy3蛍光強度の増加が得られることがわかった。
【0106】
2つの光架橋性アシストプローブの組み合わせ検討結果より、標的の複雑な高次構造を崩し標的を蛍光検出するためには、3つの領域全ての高次構造を変化させることが必要であることがわかった。また、2種類の組み合わせでA領域、B領域、C領域のうち3つの領域の重要性は、B領域が最も重要であり、次にC領域、その次にA領域であることがこれらの結果からわかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、細胞内の高次構造RNA中の検出困難な部位にある塩基配列を検出する手段を提供する。本発明は産業上有用な発明である。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13