(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039538
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】シート状の乾燥食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20220303BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144626
(22)【出願日】2020-08-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】511274248
【氏名又は名称】橋口 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100201536
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】橋口 亮
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LE01
4B016LG01
4B016LG05
4B016LK09
4B016LK18
4B016LP01
4B016LP02
4B016LP04
4B016LP05
4B016LP06
4B016LP08
4B016LP11
4B016LP13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】風味や食感だけでなく、シートとしての取り扱い性にも優れた新規なシート状乾燥食品の製造方法の提供。
【解決手段】野菜又は果物をブランチングする工程S1、野菜又は果物の粉砕物を得る工程S2、粉砕物にセルラーゼ及びペクチナーゼを添加して酵素処理する工程S3、セルラーゼ及びペクチナーゼを加熱失活させて酵素処理物を得る工程S4、酵素処理物を濾してメッシュ通過物を得る工程S5a、酵素処理物を固液分離して液体部分を得る工程S5b、メッシュ通過物と液体部分を重量比で1:0.1~1:1の比率で混合し、固形分換算で5.0~16.0重量%となるようにゲル化剤を添加し、加熱溶解して混合原料を得る工程S6、混合原料を乾燥用シートに展開する工程S7、混合原料がゲル化するまで冷却する工程S8、混合原料を減圧下で乾燥する工程S9、及び混合原料を乾燥用シートから剥離する工程S10を含む、シート状の乾燥食品の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の乾燥食品であって、
(a)82.0~92.0重量%(固形分換算)の野菜および/または果物由来の天然素材、(b)セルラーゼおよびペクチナーゼ、ならびに(c)5.0~16.0重量%(固形分換算)のゲル化剤を含有し、前記(a)天然素材は野菜および/または果物の粉砕物、野菜および/または果物のセルラーゼ分解物、野菜および/または果物のペクチナーゼ分解物からなり、前記(b)セルラーゼおよびペクチナーゼは失活状態であり、
(d)平均厚みが0.24~0.33mmであり、
(e)硬さが16~29N、(f)弾力性が8.4~9.0、(g)ヤング率が0.50~1.50N/m2である、
乾燥食品。
【請求項2】
前記(a)天然素材、前記(b)セルラーゼおよびペクチナーゼ、および前記(c)ゲル化剤からなる、請求項1に記載の乾燥食品。
【請求項3】
前記(c)ゲル化剤がジェランガムである、請求項1または2に記載の乾燥食品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の乾燥食品を含む、料理または加工食品。
【請求項5】
シート状の乾燥食品の製造方法であって、野菜または果物をブランチングする工程、
前記ブランチングされた野菜または果物を粉砕して粉砕物を得る工程、
前記粉砕物にセルラーゼおよびペクチナーゼを添加して酵素処理する工程、
前記添加されたセルラーゼおよびペクチナーゼを加熱により失活させて酵素処理物を得る工程、
前記酵素処理物を目開きが0.1~0.5mmのメッシュで濾してメッシュ通過物を得る工程、
前記酵素処理物を固液分離して液体部分を得る工程、
前記メッシュ通過物と前記液体部分を重量比で1:0.1から1:1の比率で混合し、固形分換算で5.0~16.0重量%となるようにゲル化剤を添加し、加熱溶解して、混合原料を得る工程、
前記混合原料を乾燥用シートに展開する工程、
前記展開された混合原料がゲル化するまで冷却する工程、
前記ゲル化された混合原料を減圧下で乾燥する工程、および
前記乾燥された混合原料を乾燥用シートから剥離する工程
を含む、製造方法。
【請求項6】
前記乾燥する工程が、ゲージ圧で-2kPa~-8kPaの減圧環境下で行われる、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥食品の平均厚みが0.24~0.33mmである、請求項5または6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なシート状の乾燥食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
他の食品を巻いたり他の食品に挟んだりすることにより各種の料理に使用することができ、幅広い用途に使用することのできるフィルム状の食品が提案されている(特許文献1)。
特許文献1に記載の発明は、従来のフィルム状食品の風味が必ずしも良好なものとはいえなかったことに鑑みてなされたものであり、それ自体が十分に美味であるフィルム状食品を提供することを目的としてなされたものである。
特許文献1の実施例では、ニンジンの風味を有するフィルム状食品の製造方法が、以下の通りに記載されている。蒸煮したニンジンを破砕した後、酵素を添加して反応させた酵素分解物のペーストを得る。このペーストを加熱して酵素を不活性化する。次いで、このペーストに水を加えた後、プルラン、アルギン酸ソーダ、馬鈴薯澱粉及び蔗糖脂肪酸エステルを溶解し、さらに若干の調味料を添加してフィルム原液とする。このフィルム原液を温風で乾燥し、冷却・調湿した後ロール状に巻き取ることにより、フィルム状食品を製造する。
【0003】
また、テクスチャー(食感)が改善されたシート状食品が提案されている(特許文献2)。
特許文献2の実施例では、ニンジンを用いたシート状食品の製造方法が以下の通りに記載されている。ブランチングしたニンジンをミンチ状に細切する。得られた細切野菜の33重量%を酵素分解処理用とする。酵素分解処理用の細切野菜1.0に対して2.0(重量比)の水を加えたものに、食物繊維分解酵素であるセルラーゼオノズカ及び植物細胞分解酵素を加えて混合し酵素分解を行う。酵素分解処理が終了した野菜は、酵素を失活させ、冷却後、製品の食感の向上とシート状食品の骨格を構築させるため前記の細切野菜(残余の67重量%)と混合する。混合割合は酵素分解処理した野菜1.5に対し残余の野菜1の割合(重量比)とする。海苔のようなテクスチャーを与えるために混合野菜に寒天を1.0重量%添加し、撹拌機でゆっくり撹拌しながら80℃になるまで加熱した後、60℃まで冷却する。その後、原料をミスに海苔状に広げて塗り付け、70℃で3時間通風して乾燥する。
【0004】
一方、野菜又は果実のみを原料とした乾燥シートが提案されている(特許文献3)。
特許文献3には、乾燥シートの製造方法が、以下の通りに記載されている。野菜又は果実をブランチングした後、破砕してペースト状にする。製品が中央付近から引き剥がされるようにセットされた剥離紙や乾燥用トレーに、乾燥後の厚さが2mmから0.01mmとなるように、ペーストを敷き詰める。含水量が40~16%になるまでペーストを一次乾燥した後に製品を一旦剥離する。剥離した製品を再度目的の含水率まで再度乾燥させて仕上げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-167779号公報
【特許文献2】特開2013-102708号公報
【特許文献3】特開2016-198091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに、野菜や果物を原料として種々の方法により製造されたシート状の乾燥食品が提案されてきた。
特許文献1に記載の製造方法により得られるフィルム状食品は、当時の従来品と比較して美味であった可能性があった。
しかしながら、このフィルム状食品は、他の食品を巻くときに割れやすく、他の食品を包むために十分な柔軟性を有していなかった。
【0007】
特許文献2に記載の製造方法により得られるシート状食品は、従来品と比較して食感が改善された可能性があった。
しかしながら、このシート状食品は、不溶性成分を多く含んでいるため、野菜や果物の風味を担う成分の濃度が低くなり、味が薄く感じられるという問題があった。また、この食品は、他の食品を巻くときに割れやすく、他の食品を包むために十分な柔軟性を有していなかった。
【0008】
特許文献3に記載の製造方法により得られる乾燥シートは、従来品と比較して風味が改善された可能性があった。
しかしながら、この乾燥シートは、他の食品を巻くときに割れやすく、他の食品を包むために十分な柔軟性を有していなかった。
【0009】
上記の通り、野菜や果物を主原料とする従来のシート状の乾燥食品は、さまざまな食材や料理を巻いたり、包んだりするために十分な柔軟性を有していなかった。すなわち、これまでのシート状の乾燥食品は、シートとしての取り扱い性が十分ではなかった。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、風味や食感のような嗜好性だけでなく、取り扱い性にも優れた、シート状の乾燥食品およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、野菜や果物を主原料とし、風味や食感のような嗜好性だけでなく、シートとしての取り扱い性にも優れたシート状の乾燥食品を提供することを目的として、鋭意検討を行った。
その結果、シート状の乾燥食品の製造工程において、乾燥前の混合原料に含まれるパルプ質(天然の野菜や果物に含まれている不溶性固形分であって、本発明に用いるセルラーゼおよびペクチナーゼによって分解しきれなかった物質)の量とその内容、および乾燥条件が乾燥後のシートの形状と柔軟性に大きな影響を与えることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、以下の構成を含む。
【0011】
(構成1)
(a)82.0~92.0重量%(固形分換算)の野菜および/または果物由来の天然素材、(b)セルラーゼおよびペクチナーゼ、ならびに(c)5.0~16.0重量%(固形分換算)のゲル化剤を含有し、上記(a)天然素材は野菜および/または果物の粉砕物、野菜および/または果物のセルラーゼ分解物、野菜および/または果物のペクチナーゼ分解物からなり、上記(b)セルラーゼおよびペクチナーゼは失活状態であり、(d)平均厚みが0.24~0.33mmであり、(e)硬さが16~29N、(f)弾力性が8.4~9.0、(g)ヤング率が0.50~1.50N/m2である、乾燥食品。
【0012】
(構成2)
上記(a)天然素材、上記(b)セルラーゼおよびペクチナーゼ、および上記(c)ゲル化剤からなる、構成1に記載の乾燥食品。
【0013】
(構成3)
上記(c)ゲル化剤がジェランガムである、構成1または2に記載の乾燥食品。
【0014】
(構成4)
構成1から3のいずれか1つに記載の乾燥食品を含む、料理または加工食品。
【0015】
(構成5)
シート状の乾燥食品の製造方法であって、野菜または果物をブランチングする工程、上記ブランチングされた野菜または果物を粉砕して粉砕物を得る工程、上記粉砕物にセルラーゼおよびペクチナーゼを添加して酵素処理する工程、上記添加されたセルラーゼおよびペクチナーゼを加熱により失活させて酵素処理物を得る工程、上記酵素処理物を目開きが0.1~0.5mmのメッシュで濾してメッシュ通過物を得る工程、上記酵素処理物を固液分離して液体部分を得る工程、上記メッシュ通過物と上記液体部分を重量比で1:0.1から1:1の比率で混合し、固形分換算で5.0~16.0重量%となるようにゲル化剤を添加し、加熱溶解して、混合原料を得る工程、上記混合原料を乾燥用シートに展開する工程、展開された混合原料がゲル化するまで冷却する工程、上記ゲル化された混合原料を減圧乾燥する工程、および上記乾燥された混合原料を乾燥用シートから剥離する工程を含む、製造方法。
【0016】
(構成6)
上記乾燥する工程が、ゲージ圧で-2kPa~-8kPaの減圧環境下で行われる、構成5に記載の製造方法。
【0017】
(構成7)
上記乾燥食品の平均厚みが0.24~0.33mmである、構成5または6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、風味や食感だけでなく、シートとしての取り扱い性にも優れた新規なシート状の乾燥食品およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るシート状の乾燥食品の製造工程を示す図である。
【
図2】乾燥前の混合原料が展開された状態を上から見た平面図である。
【
図3】乾燥後の混合原料が乾燥用シートから剥離される状態を示す断面図である。
【
図4】本発明のシート状の乾燥食品の厚みを測定する位置を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、例示的に説明する。当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内において、本発明を変形や改良することが可能である。また、本発明の単純な変形または変更は、いずれも本発明の範囲に属するものである。よって、以下に記載する実施形態は、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0021】
以下、本発明に係るシート状の乾燥食品の製造方法を説明する。
図1に示される通り、野菜または果物を主原料として用いる本発明のシート状の乾燥食品は、ブランチング工程(S1)、粉砕工程(S2)、酵素処理工程(S3)、酵素失活処理工程(S4)、メッシュ処理工程(S5a)、固液分離工程(S5b)、混合・加熱工程(S6)、展開工程(S7)、冷却工程(S8)、減圧乾燥工程(S9)、剥離工程(S10)を含む製造方法によって得られる。
【0022】
(主原料)
本発明のシート状の乾燥食品の主原料は、野菜または果物である。野菜と果物を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
(ブランチング工程(S1))
ブランチング工程は、野菜および果物に含まれる酵素を加熱により失活させる工程である。酵素を失活させることにより、時間の経過による野菜および果物の風味や栄養成分の変化を防止することができる。本工程により、後に詳述する酵素処理工程において不要な酵素反応が進まないようにすることができる。
ブランチング方法としては、熱水処理や蒸煮処理などが挙げられる。
熱水処理としては、例えば、70~100℃、好ましくは80~100℃の熱水中で、野菜または果物を60~240秒間、好ましくは60~180秒間処理する方法などが挙げられる。緑色野菜を用いる場合には、炭酸カルシウムなどの炭酸塩や酸化カルシウムなどの塩基性の物質を熱水に溶解しておくことにより、野菜の緑色をより鮮やかにすることができる。
蒸煮処理は、常圧または加圧下において、野菜および果物を水蒸気により蒸煮することにより行われる。野菜または果物の種類に応じて、蒸煮処理と冷却処理とを繰り返す、間歇的蒸煮処理を採用することもできる。
ブランチングされた野菜および果物は、直ちに冷却することが好ましい。冷却方法としては、冷水への浸漬、冷蔵、冷風による冷却などが挙げられる。
【0024】
(粉砕工程(S2))
粉砕工程は、ブランチングされた野菜または果物を粉砕して粉砕物を得る工程である。
粉砕方法としては、ブレンダー、ミキサー、ミルなどの機器を用いた湿式粉砕が挙げられる。
本発明では、必要に応じて、ブランチングされた100重量部の野菜または果物に対して100重量部までの水を添加して希釈し、後に詳述する酵素処理を行う。水の添加は酵素反応時までに行われていれば良く、粉砕前であっても良い。
【0025】
(酵素処理工程(S3))
酵素処理工程は、野菜または果物の粉砕物に酵素(セルラーゼおよびペクチナーゼ)を添加し、野菜および果物中に含まれるセルロースおよびペクチンを酵素反応により分解する工程である。よって、本発明の乾燥食品には、酵素反応により分解された野菜または果物由来のセルラーゼ分解物およびペクチナーゼ分解物が含まれている。これらの分解物は糖質であり、原料に適度な糖度と流動性を付与し、シート状の乾燥食品(最終製品)の成形に寄与する。
本発明では、必要に応じて、ブランチングされた100重量部の野菜または果物に対して100重量部までの水を添加して希釈し、酵素処理を行う。水の添加は酵素反応時までに行われていれば良く、粉砕前であっても良い。主原料として水分含量が低い野菜または果物を用いる場合には、水を添加するのが好ましい。
加水量は、糖度と酵素反応に影響を与える。加水量が多いと糖度が低下し、後に詳述する乾燥工程において、乾燥中の混合原料がたわむ、割れるなどの傾向があり、最終製品が硬化し外観が悪くなると同時に破損しやすくなる。
添加する酵素の量は、反応温度、時間などの酵素処理条件によって適宜設定することができる。例えば、最終製品において、固形分換算でそれぞれ0.5~4.0重量%となるようにセルラーゼおよびペクチナーゼを添加して、40~60℃で1.5~3時間かけて酵素処理を行うことができる。
好ましい実施態様において、セルラーゼおよびペクチナーゼは、最終製品における含有量がそれぞれ1.0~3.0重量%(固形分換算)となるように添加される。これよりも低い量では、酵素処理時間が長くなってしまうためである。一方、これよりも高い量を添加しても、期待するほど酵素処理時間を短縮できないためである。
別の実施態様において、野菜または果物に含まれるパルプ質を分解できる他の酵素が追加して添加され得る。他の酵素としては、例えば、リグニン分解酵素などが挙げられる。
【0026】
(酵素失活処理工程(S4))
酵素失活処理工程は、加熱により酵素を失活させて酵素反応を停止し、酵素処理物を得る工程である。この工程における加熱は、殺菌処理を兼ねることができる。
酵素失活処理工程は、例えば、90℃で10~20分間の条件で行われる。
【0027】
(メッシュ処理工程(S5a))
メッシュ処理工程は、酵素処理物を目開きが0.1~0.5mmのメッシュで濾して、メッシュを通過する成分(メッシュ通過物)を回収する工程である。この工程により得られるメッシュ通過物では、粉砕された野菜または果物由来であって、特定の範囲の目開きのメッシュを通過しない不溶性成分が除去されている。また、メッシュ通過物に含まれる不溶性成分の粒径は、目開きが0.5mmのメッシュを有する篩を通過するものである。
メッシュで濾す方法としては、金属製の金網を用いた裏ごし、綿などの繊維製のメッシュなどを用いた圧搾などが挙げられる。
このメッシュ通過物では、乾燥時の成形性や乾燥後の柔軟性を低下させる大きさの不溶性成分が除去されており、最終製品がシート状に成形されるために必要な大きさの不溶性成分が適当な量で含まれている。よって、メッシュ通過物を用いることにより、最終製品の柔軟性を向上させることができる。
【0028】
(固液分離工程(S5b))
固液分離工程は、酵素処理物から不溶性固形成分を除去して液体部分を回収する工程である。この液体部分には、最終製品から口内で溶けだす野菜または果物の風味成分が含まれている。
固液分離工程は、当業者に公知の遠心分離機やフィルタープレスのようなろ過装置などを用いて、固体と液体を分離して行われる。例えば、遠心分離機を用いて、1500~1800×Gで10~15分間、遠心して、液体部分である上澄み液を回収することにより行われる。
固液分離工程をメッシュ通過物に対して行っても良い。
【0029】
(混合・加熱工程(S6))
混合・加熱工程は、メッシュ通過物と固液分離工程により得られた液体部分を組み合わせ、さらにゲル化剤を添加して混合し、加熱によりゲル化剤を溶解して、混合原料を得る工程である。
メッシュ通過物と固液分離工程により得られた液体部分の混合比は、重量比で「メッシュ通過物」:「固液分離工程により得られた液体部分」が1:0.1から1:1が好ましく、1:0.2から1:0.5がより好ましい。好ましい条件とすることにより、最終製品の風味と食感だけでなく、柔軟性を向上させることができる。
メッシュ通過物と固液分離工程により得られる液体部分は、同一バッチ内で得られたものである必要はなく、異なる日に製造されたものを組み合わせても良い。また、メッシュ通過物と固液分離工程により得られる液体部分のそれぞれが異なる種類の野菜または果物から得られたものであっても良い。
ゲル化剤は、最終製品における含有量が5.0~16.0重量%(固形分換算)となるように添加される。5.0重量%より少ないと、ゲル化が弱く離水し、最終製品が薄く破損してしまう傾向がある。一方、16.0重量%より多いと、ゲル化力の強さから乾燥時間が長くなるとともに最終製品が硬くなる傾向がある。
好ましい実施態様において、ゲル化剤は、最終製品における含有量が7.0~15.0重量%(固形分換算)となるように添加される。
ゲル化剤の溶解は、撹拌しながら80~100℃まで加熱して行われる。
ゲル化剤としては、加熱溶解後の冷却によりゲル化するものであれば特に限定されず、寒天、アガー、ジェランガム、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、コラーゲンなどが挙げられる。
ゲル化剤を添加することにより、乾燥前に混合原料全体を固めることができ、均一な厚みの最終製品に成形することができる。また、最終製品に可塑性のある柔らかい食感を付与することができる。
【0030】
(展開工程(S7))
展開工程は、メッシュ通過物と固液分離工程により得られた液体部分とゲル化剤が混合され、ゲル化剤が溶解されている混合原料を、所望の厚みと大きさに成形するための型枠を有する乾燥用シートに注入して展開する工程である。
後の冷却工程の前に、混合原料がゲル化しない温度まで粗熱をとってから展開しても良い。例えば、ゲル化剤として寒天を用いた場合、混合原料を水浴中で撹拌して、混合原料の温度を80℃まで下げてから展開することができる。
1つの実施態様において、展開工程は
図2に示されるように、乾燥用シートが有する型枠内に混合原料を展開することにより行われる。型枠の面積に応じて、流し込む混合原料の量を決定して、最終製品の厚みを調整することができる。
好ましい実施態様において、乾燥用シートは、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂製もしくはシリコーン樹脂製、またはフッ素樹脂もしくはシリコーン樹脂でコーティングされている、折り曲げ可能なシートである。これらを用いることにより、後の剥離工程がスムーズに行われる。
分離可能な型枠が設置された乾燥用シートを用いることもできる。例えば、分離可能なシリコーン樹脂製の型枠を有するフッ素樹脂製の乾燥用シートを用いる場合、後の冷却工程において混合原料がゲル化したことを確認した後にあらかじめ型枠を外してから乾燥することにより、乾燥用シートから最終製品を容易に剥離することができる。あるいは、混合原料を乾燥させた後に、先に型枠を外しておくことにより、乾燥用シートから最終製品を容易に剥離することができる
【0031】
(冷却工程(S8))
冷却工程は、展開された混合原料を冷却してゲル化する工程である。ゲル化は、展開された混合原料の表面の光沢が消えたことを指標として目視で確認することができる。ゲル化剤が寒天である場合、混合原料の表面温度が40~50℃程度になるとゲル化を確認できる。
冷却方法としては、放冷、冷風をあてる方法などが挙げられる。本発明の食品は薄いシート状であるため、常温下での放冷によっても短時間でゲル化が確認される。
【0032】
(減圧乾燥工程(S9))
減圧乾燥工程は、表面がゲル化した混合原料を減圧乾燥する工程である。減圧乾燥は、市販の減圧乾燥機を用いて行うことができる。
乾燥温度は、減圧度によって適宜設定できる。
好ましい実施形態において、乾燥工程は、ゲージ圧で-2kPa~-8kPaの減圧環境下、50~80℃で行われる。この条件により、混合原料をより均一に乾燥することができる。
例えば、ゲージ圧で-4kPaの減圧環境下、60℃で3時間乾燥することにより、厚みが0.24~0.33mmで水分含有量が10.5~13.5重量%の最終製品が得られる。
減圧乾燥機内で気流が発生するが、混合原料の表面は既にゲル化されているため、均一な厚みの最終製品に成形することができる。本発明ではこの気流が均一な乾燥に寄与していると考えられる。
好ましい実施態様において、上記のフッ素樹脂製もしくはシリコーン樹脂製の折り曲げ可能な乾燥用シートは、熱伝導性の高い金属板の上に配置される。熱伝導性の高い金属板上に配置されることにより、上下からの乾燥を均一にすることができると同時に剥離も容易になる。
別の実施態様において、フッ素樹脂もしくはシリコーン樹脂でコーティングされている折り曲げ可能な乾燥用シートには、熱伝導性の高い金属板が用いられている。熱伝導性の高い金属板上にこれらの樹脂がコーティングされていることにより、上下からの乾燥を均一にすることができると同時に剥離も容易になる。そのような乾燥用シートとしては、例えば、薄いアルミ板の表面がフッ素樹脂でコーティングされた乾燥用シートが挙げられる。
厚みが薄いシート状の乾燥食品の製造では、乾燥工程において均一な加熱が行われない結果、経時的に乾燥ムラが大きくなり、たわんだり、割れたりしてしまうのと同時に最終製品に十分な柔軟性が得られない問題があった。本発明者が鋭意検討した結果、風味と食感と柔軟性に優れたシート状の乾燥食品を製造するためには、乾燥条件の変更だけでは足りないことが明らかとなった。また、被乾燥物である混合原料に含まれる、水分、糖質、不溶性成分のバランスとゲル化剤の添加が最終製品の成形と柔軟性に影響を与えていることが明らかとなった。すなわち、野菜または果物由来の天然素材を一定量以上で含有するシート状の乾燥食品の製造方法において、加水量が多い場合、パルプ質が多い場合、野菜または果物由来であって特定の範囲の目開きのメッシュを通過しない不溶性成分の量が多い場合、混合原料の表面をゲル化するのに必要な量のゲル化剤を添加しない場合、常圧(大気圧)下で通風乾燥を行う場合では、最終製品の厚みを薄く設計するほど、乾燥時にたわんだり、割れたりしてしまうのと同時に最終製品に十分な柔軟性が得られなかった。そこで、さらに検討した結果、上記の通り、酵素反応、メッシュ通過物と固液分離工程により得られた液体部分との組みあわせ、ゲル化剤の添加、減圧乾燥を組み合わせることにより、きれいな平面状であり、十分な柔軟性を備えたシート状の乾燥食品の成形を達成できた。
【0033】
(剥離工程(S10))
剥離工程は、乾燥された混合原料を乾燥用シートから剥離する工程である。
展開工程において、分離可能なシリコーン樹脂製の型枠を有するフッ素樹脂製の乾燥用シートを用いる場合、剥離前に型枠を外しておくことにより、最終製品を乾燥用シートから容易に剥離することができる。この場合、
図3に示されるように、乾燥用シートの一端をしならせることにより乾燥された混合原料を剥離して、本発明のシート状の乾燥食品が得られる。
【0034】
上記のようにして得られる本発明のシート状の乾燥食品の水分含有量(水分率)は、好ましくは16重量%以下であり、より好ましくは10.0~15.0重量%であり、さらにより好ましくは10.5~13.5重量%である。
本発明の乾燥食品は、水分含有量がこれらの範囲であっても他の食品を巻いたり包んだりするのに十分な柔軟性を有しているため、従来品のように使用前に水で濡らす必要性がなく、シートとしての取り扱い性に優れている。
【0035】
本発明のシート状の乾燥食品は、野菜または果物由来の天然素材、セルラーゼおよびペクチナーゼ、ならびにゲル化剤を含んでいる。
この天然素材は上記のようにして調製され、野菜または果物の粉砕物、野菜または果物のセルラーゼ分解物、野菜または果物のペクチナーゼ分解物からなる。また、セルラーゼおよびペクチナーゼは失活状態である。
1つの実施形態において、本発明の製造方法により得られる最終製品は、この天然素材の含有量が82.0~92.0重量%(固形分換算)である。また、最終製品におけるこのゲル化剤の含有量が5.0~16.0重量%である。野菜または果物に由来する成分が多く含まれることにより、それらの風味が増強されている。
【0036】
好ましい実施形態において、本発明の製造方法により得られる最終製品は、平均厚みが薄く、0.24~0.33mmであって、シートとしての取り扱い性に優れている。
本発明において、平均厚みは、正方形または長方形に成形もしくはカットされたシート状の乾燥食品を縦方向と横方向でそれぞれ3等分以上に分割して作成された領域の中心点の厚みの平均値である。中心点の厚みは、例えば、シート状の乾燥食品を高精度固定挟み込み治具に固定し、(株)キーエンス製CMOSレーザアプリセンサを用いて、その食品の表と裏面から挟み込み測定を行うことにより得られる。分割する数は、測定に用いる機器によって中心点の厚みを測定できる大きさになるような数に決めることができる。
例えば、25cm×20cm程度の四角形のシート状の乾燥食品の平均厚みを、(株)キーエンス製CMOSレーザアプリセンサを用いて測定する場合、縦方向と横方向に3等分して作成された9つのエリアの中心点は、
図4のように示される。
本発明の製造方法により得られる最終製品は、平均厚みに基づいて算出される密度が、従来品に比べて高く、野菜または果物由来の機能性成分や風味を担う成分が凝縮されている。
【0037】
より好ましい実施形態において、本発明の最終製品は、平均厚みが0.24~0.33mmであって、柔軟性の指標となる「硬さ」、「弾力性」、および「ヤング率」が一定の数値範囲内にあり、シートとしての取り扱い性に優れている。
本実施形態において、本発明の最終製品の「硬さ」は16~29Nの範囲であり、より好ましくは18~26Nの範囲である。
本実施形態において、本発明の最終製品の「弾力性」は8.4~9.0の範囲であり、より好ましくは8.5~8.8の範囲である。
本実施形態において、本発明の最終製品の「ヤング率(垂直応力/縦ひずみ)」は、0.50~1.50N/m2の範囲であり、より好ましくは0.8~1.2N/m2の範囲である。
さらにより好ましい実施態様において、本発明の最終製品の「圧縮試験」は11.0~27.2Nの範囲であり、より好ましくは15.0~25.0Nの範囲である。
柔軟性の指標となる、「硬さ」、「弾力性」、「圧縮試験」、「ヤング率」は、それぞれに適切な治具を用いて、(株)島津製作所製のテクスチャーアナライザー EZ-TESTを用いて評価することができる。
柔軟性を示すこれらの物性値は、通常、厚みが増すのに依存して柔軟性が低下する方向に変化するが、本発明の製造方法によって得られる最終製品では、「硬さ」、「弾力性」、および「ヤング率」が上記の数値範囲を満たし、平均厚みに対する柔軟性が高い。よって、本発明の最終製品はシートとしての取り扱い性に優れている。
また、「圧縮試験」が上記の数値範囲を満たすことにより、柔軟性が高いのに加えて、最終製品に歯ごたえがある。
【0038】
1つの好ましい実施態様において、天然素材としてニンジンを用いて製造された本発明の最終製品は、平均厚みが0.24~0.33mmであって、柔軟性の指標となる「硬さ」が18.8~23.5Nであり、「弾力性」が8.5~8.9であり、「ヤング率」が0.5~0.9N/m2である。より好ましい実施態様において、この最終製品の「圧縮試験」が15.0~17.0Nである。
厚みと柔軟性を示す指標がこの数値範囲にあることにより、柔軟性が高く、シートとしての取り扱い性に優れている。
【0039】
また、本発明の製造方法により得られる最終製品は、従来品に比べて、主原料とした野菜や果物の色を保持している。これには、天然素材の含有量だけでなく、乾燥条件が影響していると考えられる。
【0040】
1つの好ましい実施態様において、本発明に用いるゲル化剤はジェランガムである。
シート状の乾燥食品を用いて料理や加工食品を製造する場合、その製造工程に加熱処理があると、シート状の乾燥食品が有していた「弾力性」が低下する傾向にある。
本発明の製造方法において、ゲル化剤としてジェランガムを用いることにより、寒天を用いる場合と比較して、その「弾力性」の低下を抑制することができる。
【0041】
上記のようにして得られる本発明のシート状の乾燥食品は、野菜または果物由来の天然素材を高濃度で含んでいるため、それらの風味が濃縮されている。また、その天然素材は、セルロースおよびペクチンが酵素分解されており、目開きが0.1~0.5mmのメッシュを通過しない成分が除去されており、固液分離工程によって不溶性成分の量が低減されているため、口溶けがよく野菜または果物の風味を感じやすい。また、舌触りがなめらかな食感を有しているため嗜好性において優れている。
【0042】
本発明の乾燥食品は、その製造工程において、加水する場合にもその量が適当であり、柔軟性を低下させる原因となるパルプ質のうちセルロースとペクチンが酵素分解により糖質に変換され、特定の大きさ以上の不溶成分が除去されると同時に不溶性成分の総量が低減され、ゲル化剤が添加され、混合原料の表面がゲル化された後に減圧乾燥されているため、たわみがほとんどなく、柔軟性も高いため、シートとしての取り扱い性に優れている。
【0043】
別の実施形態において、本発明は、本発明のシート状の乾燥食品を含む、料理または加工食品に関する。本発明の乾燥食品は、他の食品を巻いたり包んだりするのに十分な柔軟性を有しているため、シートとしての取り扱い性に優れており、他の料理や加工食品に組み合わせて用いられる。
本発明のシート状の乾燥食品を含む料理としては、例えば、本発明の乾燥食品を巻いたおにぎり、寿司、蒸し物、本発明の食品で包んだサラダ、デザート、本発明の食品を挟んだ調理パン、餃子、春巻き、中華の点心、パスタなどが挙げられる。
本発明のシート状の乾燥食品を含む加工食品としては、例えば、本発明の乾燥食品と他の食品素材と調味料を組み合わせたふりかけ、スナック菓子、ジェラートなどが挙げられる。また、携帯できる漬物(キムチ、ウメボシなど)としての利用もできる。
【0044】
1つの好ましい実施態様において、本発明の料理または加工食品に用いられる、本発明のシート状の乾燥食品は、ゲル化剤としてジェランガムが用いられている。
ゲル化剤としてジェランガムが用いられた本発明のシート状の乾燥食品は、料理または加工食品の製造において加熱処理された場合にも、その「弾力性」の低下が小さいため、料理または加工食品への応用性において優れている。
【0045】
以上の通り、本発明の製造方法により得られる新規なシート状の乾燥食品は、野菜または果物の風味や食感だけでなく、シートとしての取り扱い性にも優れている。このような特性を有する本発明のシート状の乾燥食品は、従来品に比べて極めて有用性が高い。
また、ベジタリアンやビーガンに対応した食材として利用されるのに加え、口どけや食感から高齢者、幼児向けの食材として、野菜不足を補う食材としての利用もできる。また、軽量で輸送しやすく保存性の高さから、宇宙食への利用も考えられる。
【実施例0046】
<実施例1>
(シート状の乾燥食品の製造)
(1)試験例1~3の調製
ブランチングしたニンジン(1000g)に水(500g)を加えて粉砕し、ニンジンの粉砕物を得た。
得られた粉砕物(1500g)に、セルラーゼ(2g)およびペクチナーゼ(2g)を添加して、酵素処理(40℃で2時間)した後、添加した酵素を加熱により失活させて、酵素処理物を得た。
得られた酵素処理物を目開きが0.3mmのメッシュで濾して、酵素分解できなかったパルプ質を除き、メッシュ通過物を得た。
また、メッシュ通過物の一部(500g)を遠心分離(1800×Gで15分間)して不溶性の沈殿物を取り除いた液体部分(固液分離工程により得られた液体部分)を得た。
メッシュ通過物(1000g)と固液分離工程により得られた液体部分(250g)を混合した後、ゲル化剤として寒天(6.3g)を添加し、90℃以上に加熱して寒天を溶解させた混合原料を調製した。
混合原料の温度が80℃になるまで粗熱を取った後、20cm×20cmのシリコーン樹脂製の型枠を乗せたポリテトラフルオロエチレン樹脂製の乾燥用シート上に、混合原料を展開した。このとき、厚みが異なる乾燥食品が得られるように、種々の重量(200、400、600g)で混合原料を展開した。
展開した混合原料のゲル化を確認した後、型枠を外し、混合原料が展開された乾燥用シートをステンレス板に乗せて、減圧乾燥機を用いて-3kPa(ゲージ圧)の減圧環境下、混合原料を乾燥(60℃で4時間)した。
乾燥した混合原料を乾燥用シートから剥離し、きれいな正方形となるように周囲をカットして、厚みが異なる本発明のシート状の乾燥食品(試験例1~3)を製造した。
【0047】
<実施例2>
(平均厚み、密度の測定)
得られた試験例1~3のシート状の乾燥食品を、縦横方向に均等に3分割して、面積が等しい9つのエリアに分け、それぞれのエリアの中心点の厚みを測定した。厚みの測定は、シート状の乾燥食品を高精度固定挟み込み治具に固定し、(株)キーエンス製CMOSレーザアプリセンサを用いて、その食品の表と裏面から挟み込み測定を行った。9点の厚みの平均値を本発明の食品の平均厚みとした。また、試験例1~3の水分率(w/w%)と水分活性(20.0~20.6℃)を測定した。そして、平均厚みと食品の面積から本発明の食品の密度(固形分換算)を算出した。
また、比較例1として、試験例と同様ににんじんを主原料とする市販のシート状の乾燥食品(商品名:VEGHEET(ベジート)にんじん(株式会社アイル製))を用いて、同様の項目について、測定した。
結果を表1に示す。なお、表中の平均厚みの標準偏差は測定した9点により算出したものである。また、平均厚み、水分率、水分活性の括弧内の数値は、測定した9点の最小値と最大値を示す。
【0048】
【0049】
表1に示される通り、本発明の製造方法により得られるシート状の乾燥食品では、展開する混合原料の重量と厚みが比例関係にあった。また、密度はほぼ一定であった。すなわち、本発明の製造方法によれば、展開する混合原料の量を調整することにより所望の厚みの乾燥食品を得ることができる。
また、本発明の食品では厚みのばらつきが小さく、本発明のシート状の乾燥食品の物性を平均厚みによって明確に表現できることが明らかとなった。
一方、市販品の比較例1と比較して、本発明の食品の密度は約4倍であった。本発明の食品では、従来品に比べて天然素材に由来する成分が凝縮されていることが明らかとなった。
【0050】
<実施例3>
(柔軟性の評価)
本発明の食品(試験例1)の柔軟性を(株)島津製作所製のテクスチャーアナライザー EZ-TESTを用いて評価した。
「硬さ」と「弾力性」では、治具として10mmの圧盤を用いて測定を行った。
「引張試験」では、シートの上下を挟み、下を固定する治具を用いて、上に引っ張り上げて破断する強度を測定した。
「圧縮試験」では、シート状食品強度評価試験用の治具を用いて、破損するまでの応力を測定する突き刺し試験を行った。
また、圧縮試験により得られる縦方向のひずみと破損する応力(垂直応力)により「ヤング率」を算出した。
また、比較例として実施例2と同様の市販品(比較例1)を用いた。
結果を表2に示す。なお、表中の数値は、それぞれの項目について3回測定した平均値である。また、表中の括弧内の数値は、測定値の最小値および最大値を示す。
【0051】
【0052】
表2に示されるとおり、本発明の食品では、比較例と比べて、「硬さ」と「弾力性」が低いことから、柔軟性が高いことが明らかとなった。
また、本発明の食品では、比較例と比べて「圧縮試験」が高いことから、柔軟性は高いが歯ごたえのある製品であることが明らかとなった。
さらに、本発明の食品では、比較例と比べて、変形しにくさを示す「ヤング率」が低いことから、柔軟性があり変形しやすい製品であることが明らかとなった。
【0053】
<実施例4>
(含有成分の評価)
本発明の食品(試験例1)に含まれる遊離アミノ酸の含量を高速液体クロマトグラフィー法により測定した。
また、比較例として実施例2と同様の市販品(比較例1)を用いた。
結果を表3に示す。なお、表中の数値は、それぞれの項目について3回測定した平均値である。また、表中の括弧内の数値は、測定値の最小値および最大値を示す。
【0054】
【0055】
表3に示される通り、本発明の食品におけるγ‐アミノ酪酸(GABA)の含量は、比較例の2倍以上であった。また、旨味や甘味を持つ各種アミノ酸の含量においても、本発明の食品は、比較例より高い値を示していた。特にアスパラギン酸およびグルタミン酸では、本発明の食品は、比較例に比べて4倍以上の高い含量を示していた。
これらの結果より、本発明の食品では、従来品に比べて天然素材に由来する機能性成分と風味を担う成分が凝縮されていることが明らかとなった。
【0056】
<実施例5>
(味覚の評価)
本発明の食品(試験例1)について、比較例1を対照として、味覚の評価を行った。評価は、熱水で処理した試料をホモジナイズ後ろ過して得たろ液について、味覚センサー((株)IRIE社製の味認識装置 TS-5000Z型)を用いて、酸味、苦味(先味、後味)、渋味(先味、後味)、旨味、塩味、旨味コクを測定することにより行った。なお、試験品と比較品との間で、味覚センサーによって得られた数値に0.5以上の差がある場合、ヒトによる官能検査においても、明らかな差異が存在することが既に明らかになっている。
結果を表4に示す。
【0057】
【0058】
表4に示される通り、渋味(先味)と旨味において、本発明の食品と比較例との間で0.5以上の差が認められた。渋味(先味)は、旨味に関連する指標であり、この値が高いほど旨味の向上に寄与することが知られている。
よって、本発明の乾燥食品では、従来品に比べて旨味が向上されており、ニンジンの旨味が保持されていることが明らかとなった。
【0059】
<実施例6>
(色度の評価)
本発明の食品(試験例1)の色度の評価を行った。測定は、コニカミノルタ社製の色彩色差計CR-300型を用いて行い、L*、a*、b*を求めた。なお、L*は明度を示し、+の値が大きいほど白く明るく、-の値が大きいほど黒く暗いことを示す。a*は+の値が大きいほど赤色が強く、-の値が大きいほど緑色が強くなることを示す。b*は、+の値が大きくなるほど黄色が強く、-の値が大きいほど青色が強くなることを示す。a*とb*は、+、-のそれぞれにおいて、数値が大きいほど鮮やかさが増すことを意味する。
比較例として実施例2と同様の市販品(比較例1)を用いた。
また、生のニンジンを粉砕し、均一なペースト状にしたものを生鮮品の色度として測定した。
結果を表5に示す。
【0060】
【0061】
表5に示される通り、本発明の食品では、a*値が高かった。これは、本発明の食品がニンジンの有する赤色を濃く保持していることを示す。
一方、比較例では、本発明の食品と比べて、L*値とb*値が少し高かった。これは、比較例が、明るい黄色を有していることを示す。この黄色は、ニンジンの赤色が退色したことに起因すると考えられた。
これらの結果より、本発明の食品は天然素材として用いたニンジンに特徴的な赤色を保持して製品化されていることが明らかとなった。
【0062】
以上の結果から、本発明のシート状の乾燥食品は、主原料である野菜または果物の風味や食感において優れている。また、本発明の食品は、他の食品を巻いたり包んだりするのに十分な柔軟性を有しており、シートとしての取り扱い性においても優れていることが理解できる。