(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039584
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】回線制御装置及び無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04M 3/42 20060101AFI20220303BHJP
H04W 48/02 20090101ALI20220303BHJP
H04W 24/02 20090101ALI20220303BHJP
H04W 84/08 20090101ALI20220303BHJP
H04M 11/04 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H04M3/42 101
H04W48/02
H04W24/02
H04W84/08
H04M11/04
H04M3/42 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144691
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮介
(72)【発明者】
【氏名】河野 日向子
【テーマコード(参考)】
5K067
5K201
【Fターム(参考)】
5K067AA21
5K067BB12
5K067EE10
5K067EE16
5K201BA03
5K201BB08
5K201CC02
5K201EA07
5K201EC08
5K201ED04
5K201FA05
5K201FB06
(57)【要約】
【課題】 運用状況に応じて通信時限を適切に制御して、運用の柔軟性を上げると共に、移動局に対して公平に通信を提供でき、更に複数の業種に応じた設定を備え、適用先を広げることができる回線制御装置及び無線通信システムを提供する。
【解決手段】 指令設備1と、複数の基地局30とに接続し、回線制御を行う回線制御装置であって、適用先業種と運用状況の種別に対応して複数の通信種別における通信の上限時間を規定する通信時限を記憶する記憶部22と、通信の要求を受けると、該当する適用先業種と当該通信時に判断された運用状況の種別に基づいて記憶部22を参照して、要求された通信の通信種別に対応する通信時限で回線接続を行う制御部21とを有する回線制御装置としている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令設備と、複数の基地局とに接続し、回線制御を行う回線制御装置であって、
適用先業種と運用状況の種別に対応して複数の通信種別における通信の上限時間を規定する通信時限を記憶する記憶部と、
通信の要求を受けると、該当する適用先業種と当該通信時に判断された運用状況の種別に基づいて前記記憶部を参照して、前記要求された通信の通信種別に対応する通信時限で回線接続を行う制御部とを有することを特徴とする回線制御装置。
【請求項2】
記憶部が、運用状況の種別に対応して、通信時限の設定パターンを複数記憶するパターンテーブルと、通信種別に対応して、前記設定パターン毎の通信時限を規定する通信時限テーブルとを、複数の業種毎に備え、
制御部が、通信の要求を受けると、設定された適用先業種と、当該時点で判断された運用状況の種別に基づいて前記適用先業種に対応するパターンテーブルを参照して設定パターンを特定し、前記適用先業種に対応する前記通信時限テーブルを参照して、前記要求された通信の通信種別及び前記特定された設定パターンに対応した通信時限を、前記要求された通信の通信時限として設定することを特徴とする請求項1記載の回線制御装置。
【請求項3】
運用状況の種別が、通信の着信先の基地局における輻輳の状況と、指令設備から通知される外部からの応援の状況との組み合わせによって特定されることを特徴とする請求項1又は2記載の回線制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の回線制御装置を備えたことを特徴とする無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回線制御装置及び無線通信システムに係り、特に運用状況に応じて通信時限を適切に制御して、移動局に対して公平に通信を提供でき、更に複数の業種に応じた設定を備え、適用先を広げることができる回線制御装置及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明:
図8]
無線通信システムは、公共業務から民間業務に至るまで幅広い業種で活用されており、防災無線や消防無線に用いられるものがある。
無線通信システムの概略構成について
図8を用いて説明する。
図8は、無線通信システムの概略構成例を示す説明図である。
図8に示すように、無線通信システムは、指令設備10と、回線制御装置20と、基地局31,32(区別が不要な場合には、基地局30と称することもある)と、複数の移動局4(4a,4b,4c,4d)とを備えている。
【0003】
指令設備10は、無線通信システムの全移動局4を対象とした一斉指令や、移動局4間の通話への割込みなど、特に重要となる指令業務を円滑に行うための機能を有する。
回線制御装置20は、無線通信システムの中核装置であり、指令設備10、基地局30、移動局4からの要求に応じて音声・データ転送のための通信路を確立する回線制御機能を有する。
基地局30は、回線制御装置20と有線接続され、移動局4間、及び移動局4と指令設備10間の無線通信の中継機能を有する。
移動局4は、主に陸上を移動して、基地局30や、他の移動局4等との無線通信を行う。
【0004】
[基地局の無線チャネル]
基地局30には、有限個(1つまたは複数)の無線機装置が設けられ、各無線機装置は有限個の無線チャネルを備えている。
そして、各基地局30が提供できる通信数の上限は、各基地局30が保有する無線チャネル数によって決まる。
【0005】
図8の例では、基地局31及び基地局32は、それぞれch1、ch2の2つの無線チャネルを保有している。尚、基地局31と基地局32が隣接している場合には、無線チャネルの周波数は異なるものとする。
【0006】
回線制御装置20は、各基地局30における無線チャネルの使用状況を把握している。
そして、回線制御装置20では、移動局4からの発呼要求を受信すると、着呼対象となる基地局30の無線チャネルに空きがあるかどうかを確認する。空きがあれば、通信確立のための処理を行うが、全て埋まっている(使用中である)場合は、そこで通信確立不可となる。
【0007】
図8では、基地局31のch1は図示しない移動局4によって使用中となっている。
この状態で、基地局32のエリアにいる(基地局32に在圏する)移動局4cから基地局31に在圏する移動局4bに発呼があった場合、基地局31ではch2が未使用であって無線チャネルに空きがあるため、回線制御装置20は、通信を確立させることができる。
【0008】
[輻輳がある場合:
図9]
基地局30で提供可能な通信数の上限を超えた移動局4が基地局30の圏内に集中し、各々通信を要求することにより、移動局4が無線チャネルを奪い合うケースがある。このような状態のことを、輻輳(基地局の輻輳)という。
【0009】
輻輳状態で発呼があった場合の例について
図9を用いて説明する。
図9は、輻輳時の例を示す説明図である。
図9に示すように、
図8での移動局4cから移動局4bへの発呼により通信が確立されると、基地局31では無線チャネルch1,ch2が両方とも使用中となる。
この状態で、基地局32に在圏する移動局4dから基地局31に在圏する移動局4aに発呼がなされると、回線制御装置20は、基地局31の無線チャネルに空きがないことを検出するため、通信確立させることはできない。
【0010】
[優先制御:
図10、
図11]
また、回線制御装置20は、通信種別毎に優先度をつけて高優先度通信を優先して提供する優先制御を行う。
図10、
図11を用いて優先制御の例について説明する。
図10は優先制御(1)を示す説明図、
図11は優先制御(2)を示す説明図である。
図10の例では、基地局31の無線チャネルch1は、図示しない移動局4の通信に用いられ、ch2は、移動局4bによって移動局4cとの通常通信に用いられている。この状態で、指令設備10から移動局4a宛に発呼要求があったとすると(1)、指令設備10からの発呼は優先度が高い通信種別であるため、回線制御装置20は、移動局4bと移動局4cとの通信を強制的に切断する(2)。
【0011】
これにより、
図11に示すように、基地局31の無線チャネルch2は開放されて、回線制御装置20は、指令設備10からの発呼要求を受け付けて、移動局4aとの通信が行われる。このように、優先度の高い通信種別は、発呼要求を受け付けようにしている。
【0012】
しかし、優先度の高い通信種別は、指令設備10から発呼される通信であり、移動局4からの通常通信は、現在通信中のものが優先されるため、基地局20の無線チャネルが全て使用中の状態であれば、移動局4からの発呼要求は拒否されることが多い。
【0013】
つまり、従来の回線制御装置20では、基地局30の無線チャネルが全て使用中である場合、優先度の高い通信要求については優先して通信を提供するが、優先度の低い通信要求は受け付けることができず、移動局4の間で通信機会の不公平が生じる。
【0014】
[通信時限]
また、回線制御装置20は、通信種別毎に通信時間の上限時間(通信時限)を設定することもある。
通信時限が設定されている場合、通信時間が当該通信時限に達した際に、回線制御装置20は強制的に通信を切断し、無線チャネルのリソースを開放するものである。
優先度が高い通信種別の通信時限を長くすることで、高優先の通信をより優先的に提供することができるものである。
【0015】
[適用先業種]
また、無線通信システムは、様々な業種に適用されており、適用先業種によって通信種別やその優先度(段階、優先順)が異なる。更に、運用中の状態も、輻輳の有無だけでなく、業種に特有の状態が生じることがある。
例えば、防災無線や消防無線に適用される場合、災害発生時に他の自治体から応援の移動局が集まってくることが想定される。
【0016】
これにより、通常の運用時に在圏する移動局4に加えて、応援移動局が通信に加わるため、輻輳の度合いが大きくなることがある。また、指令設備1は、通常より多くの移動局4に対して確実に指示を伝える必要が生じる。
【0017】
しかし、従来の回線制御装置20は、特定の適用先業種に専用のものとして、通信種別、優先度、通信時限等の設定が固定されており、運用中の輻輳の度合いや、応援の状況に合わせて、設定を動的に変えることはできない。
【0018】
[関連技術]
回線制御装置に関する従来技術としては、特開2010-157880号公報「無線通信システム」(特許文献1)がある。
特許文献1には、回線制御装置が、予備用基地局無線装置を備えた第1の基地局装置と第2の基地局装置の通信量に応じて、第1又は第2の基地局装置のいずれか一方の予備用基地局無線装置に、共通周波数による通信を行わせることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述したように、従来の回線制御装置では、基地局の無線チャネルが全て使用中の状況で、当該基地局圏内の移動局に対して優先度の低い通信要求が発生した場合には、提供中の通信を優先するため、要求を受け付けず、移動局に対して公平に通信を提供できないという問題点があった。
【0021】
また、従来の回線制御装置は、適用先の業種に合わせて、通信種別の種類、優先順、通信時限等の設定が固定されており、運用状況に応じて設定を変更することはできず、運用の柔軟性に欠けるという問題点があった。
更に、従来の回線制御装置は、適用先の業種専用の設定となるため、別の業種に転用することはできず、適用先が限定されるという問題点があった。
【0022】
尚、特許文献1には、運用状況の種別に対応して複数の通信種別における通信時限を記憶しておき、通信の要求を受けた際に、運用状況の種別に基づいて当該要求された通信の通信種別に対応する通信時限を設定することは記載されていない。
【0023】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、運用状況に応じて通信時限を適切に制御して、運用の柔軟性を上げると共に、移動局に対して公平に通信を提供でき、更に複数の業種に応じた設定を備え、適用先を広げることができる回線制御装置及び無線通信システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、指令設備と、複数の基地局とに接続し、回線制御を行う回線制御装置であって、適用先業種と運用状況の種別に対応して複数の通信種別における通信の上限時間を規定する通信時限を記憶する記憶部と、通信の要求を受けると、該当する適用先業種と当該通信時に判断された運用状況の種別に基づいて記憶部を参照して、要求された通信の通信種別に対応する通信時限で回線接続を行う制御部とを有することを特徴としている。
【0025】
また、本発明は、上記回線制御装置において、記憶部が、運用状況の種別に対応して、通信時限の設定パターンを複数記憶するパターンテーブルと、通信種別に対応して、設定パターン毎の通信時限を規定する通信時限テーブルとを、複数の業種毎に備え、制御部が、通信の要求を受けると、設定された適用先業種と、当該時点で判断された運用状況の種別に基づいて適用先業種に対応するパターンテーブルを参照して設定パターンを特定し、適用先業種に対応する通信時限テーブルを参照して、要求された通信の通信種別及び前記特定された設定パターンに対応した通信時限を、要求された通信の通信時限として設定することを特徴としている。
【0026】
また、本発明は、上記回線制御装置において、運用状況の種別が、通信の着信先の基地局における輻輳の状況と、指令設備から通知される外部からの応援の状況との組み合わせによって特定されることを特徴としている。
【0027】
また、本発明は、無線通信システムにおいて、上記のいずれか記載の回線制御装置を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、指令設備と、複数の基地局とに接続し、回線制御を行う回線制御装置であって、適用先業種と運用状況の種別に対応して複数の通信種別における通信の上限時間を規定する通信時限を記憶する記憶部と、通信の要求を受けると、該当する適用先業種と当該通信時に判断された運用状況の種別に基づいて記憶部を参照して、要求された通信の通信種別に対応する通信時限で回線接続を行う制御部とを有する回線制御装置としているので、適用先業種と輻輳の状況や応援の有無といった実際の運用状況に合わせて、通信種別ごとの通信時限を柔軟に制御することができ、移動局に対して公平に通信を提供でき、更に複数の業種に共通な構成として適用先を広げることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本無線通信システム及び本回線制御装置の構成を示す説明図である。
【
図3】防災無線用通信時限テーブルの例を示す説明図である。
【
図4】消防無線用通信時限テーブルの説明図である。
【
図5】防災無線の通信時限の例を示す説明図である。
【
図6】消防無線の通信時限の例を示す説明図である。
【
図7】防災無線における通信時限設定処理を示すフローチャートである。
【
図8】無線通信システムの概略構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る回線制御装置(本回線制御装置)は、指令設備と、複数の基地局に接続する回線制御装置であって、記憶部が、運用状況の種別に対応して複数の通信種別における通信時限を記憶しておき、制御部が、通信の要求を受けると、当該通信時に判断された運用状況の種別に基づいて記憶部を参照して、当該要求された通信の通信種別に対応する通信時限で回線接続を行うようにしており、実際の運用状況及び通信種別の優先度に応じて通信時間を柔軟に制御することで、優先度の高い通信を確実に実現すると共に、一部の移動局が通信し続けるのを防ぎ、全移動局に対して公平に通信を提供することができ、また、本回線制御装置により複数の適用先を拡大することができるものである。
【0031】
また、本回線制御装置は、記憶部が、運用状況の種別に対応する通信時限を複数業種ごとに記憶しており、制御部が、運用開始時に選択された適用業種に合わせて通信時限の制御に用いるようにしており、装置の適用先を広げることができるものである。
また、本発明の実施の形態に係る無線通信システム(本無線通信システム)は、本回線制御装置を備えたものである。
【0032】
[本無線通信システム及び本回線制御装置の構成:
図1]
本無線通信システム及び本回線制御装置の構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本無線通信システム及び本回線制御装置の構成を示す説明図である。
図1に示すように、本無線通信システムは、指令設備1と、回線制御装置(本回線制御装置)2と、複数の基地局31,32,…(個々を区別しない場合には基地局30と称することがある)とを備えている。
また、
図8と同様に、各基地局30と無線通信を行う複数の移動局4がある。
【0033】
ここでは、本無線通信システムは、防災無線システム又は消防無線システムに適用されるものとする。つまり、適用先業種が、防災無線又は消防無線の場合である。但し、これ以外の業種についても適用可能であり、適用先の業種に応じて、後述する通信時限管理データを備えるものとする。
【0034】
基地局30及び移動局4は、従来と同様の構成及び動作であるため説明は省略する。
指令設備1は、基本的な構成及び動作は従来と同様であるが、本無線通信システムでは、運用状況を示す情報の一つとして、応援の有無の情報を回線制御装置2に送出する。応援の有無の情報とは、他の自治体からの応援の移動局をシステム内に含めるかどうかを示す情報である。
尚、指令設備1は、応援の有無の情報として、応援ありの場合のみに回線制御装置2に送出するようにしてもよい。
【0035】
回線制御装置2は、従来と同様に指令設備1と複数の基地局30とを接続し、指令設備1と移動局4、又は移動局4同士の通信について回線制御を行うものである。
回線制御装置2は、回線制御に加えて本無線通信システムの特徴である通信時限の制御を行う制御部21と、通信時限の制御を行うのに必要な情報(通信時限管理データ)を記憶する記憶部22とを備えている。記憶部22には、制御部21内のメモリを含むものとする。
通信時限管理データについては後述する。
【0036】
本回線制御装置2の制御部21は、従来のように、通信種別やその優先度、それに対する通信時限の設定が一つに固定されているのではなく、適用先の業種と、運用状況とに対応した複数のパターン(設定パターン)を備えており、状況に応じて適宜パターンを選択して、通信時限の制御を行う。
【0037】
上述したように、ここでは、適用先の業種を防災無線又は消防無線としており、運用開始時にいずれかの業種が選択されることによって、使用する設定パターンを特定して運用する。設定パターンについては後述する。
また、運用状況としては、輻輳の状況及び応援の状況を利用する。ここでは、輻輳の状況と応援の状況の組み合わせを「イベント種別」と称することがある。
【0038】
具体的には、本回線制御装置2の制御部21は、従来と同様に基地局30の無線チャネルの使用状況を常時監視しており、無線チャネルの数以上の発呼があると、輻輳状態であることを検出する。そして、制御部21は、基地局30毎の輻輳の有無(輻輳状況)を記憶部22に記憶する。
また、制御部21は、指令設備1から応援の有無を示す情報を受信して、応援の状況を記憶部22に記憶する。
【0039】
そして、輻輳状態にある場合には、基地局30で提供できる上限を超えて、通信したい移動局4が存在していることを示しているので、回線制御装置2は、一部の移動局4が長く通信しないように、通信時限を短く設定して、なるべく多くの移動局4に通信機会を与えるように制御する。
【0040】
また、応援ありの場合には、災害等の事象が発生していることが予想されるため、回線制御装置2は、指令設備1からの高優先度通信を確実に提供できるように、低優先度の通信の通信時限は短く設定する。
通信時限の制御については、後述する。
【0041】
記憶部22には、通信時限管理データとして、パターンテーブル51と、防災無線用通信時限テーブル52と、消防無線用通信時限テーブル53と、応援状況54と、輻輳状況55と、適用先業種56とを記憶している。
パターンテーブル51、防災無線用通信時限テーブル52、消防無線用通信時限テーブル53については後述する。
【0042】
応援状況54は、指令設備1から受信した応援の有無を示す情報に基づいて、応援の有無を記憶しているものである。
輻輳状況55は、各基地局30(31,32…)における無線チャネルの使用状況と発呼の状況に基づいて輻輳の度合いを算出し、基地局30毎に記憶しているものである。
【0043】
輻輳の度合いは、例えば、基地局30の無線チャネル数に対する単位時間当たりの移動局の通信要求数(通信要求度)として求められる。
例えば、制御部21は、定期的に各基地局30の通信要求度を算出して記憶部22の輻輳状況55に記憶しておき、通信の要求があった場合に、輻輳状況55を参照して、着信先の基地局30の輻輳の度合いを判断する。
【0044】
つまり、通信要求時に判断される輻輳の度合いは、その時点での瞬間値ではなく、通信要求時に輻輳状況55に記憶されている通信要求度の値に基づいて判断されるものであり、であり、その時点までに算出された最新の輻輳の度合いを示すものである。
そして、輻輳の度合いが大きい(予め設定した閾値を超える)場合には、輻輳状態にあるとする。閾値は、例えば1としてもよい。
【0045】
尚、ここでは、イベント種別を3種類としているが、応援の要素を除いてイベント種別を2種類とし、適用先業種と輻輳の有無のみでパターンを分けてもよい。
更に、ここでは、輻輳の状況(輻輳の度合い)として、輻輳があるかないかの2段階で分けているが、通信要求度の値に基づいてより細かく段階を分けて、それに応じて通信時限を制御してもよい。この場合には、各段階に応じたパターン番号及びそれに対応する通信時限テーブルが設定されることになる。
【0046】
適用先業種56は、運用開始時に設定された適用先の業種であり、本回線制御装置では、防災無線又は消防無線が記憶され、制御部21は、適用先業種56に記憶された業種に対応して通信時限を制御する。
【0047】
[パターンテーブル:
図2]
次に、本回線制御装置2の記憶部22に記憶されているパターンテーブル51の例について
図2を用いて説明する。
図2は、パターンテーブルの例を示す説明図である。
パターンテーブル51は、運用状況に応じた通信時限の設定パターンに対応するパターン番号を規定するものであり、
図2に示すように、パターン番号に対応して、適用先業種とイベント種別とを記憶している。
【0048】
適用先業種は、本無線通信システムが適用される業種を示すものであり、ここでは防災無線又は消防無線としている。パターン番号1~3が防災無線用の設定パターン、パターン番号4~6が消防無線用の設定パターンとなる。
【0049】
イベント種別は、運用状況を示すものであり、輻輳なし、通常時輻輳、応援時輻輳の3種類のイベント種別がある。
「輻輳なし」は、応援の有無にかかわらず、着信先の基地局において輻輳がない状況を示している。輻輳の有無は、輻輳状態55の輻輳の度合いによって制御部21が判定する。
「通常時輻輳」は、応援がない状態(通常時)で、着信先の基地局が輻輳状態であることを示す。
「応援時輻輳」は、応援があり、且つ着信先の基地局で輻輳がある状態を示している
【0050】
そして、適用先業種とイベント種別の組み合わせによって、パターン番号1~6が規定されている。
つまり、回線制御装置2は、本無線通信システムがどの業種に適用され、現在どのような運用状況であるかによって、
通信時限を設定するパターン番号を特定するものである。
【0051】
尚、パターンテーブルは適用先業種ごとに分離してもよく、
図2の例では、パターン番号1~3が防災無線用パターンテーブル、パターン番号4~6が消防無線用テーブルとなる。請求項に記載したテーブル及びパターンテーブルは、分離したパターンテーブルに相当している。
【0052】
[通信時限テーブル:
図3,4]
次に、通信時限テーブルについて
図3,4を用いて説明する。
通信時限テーブルは、通信種別ごとに、選択されたパターン番号に対応する通信時限を規定するものであり、適用業種によって通信種別や優先度が異なるため、防災無線用と消防無線用とを備えている。
【0053】
[防災無線用通信時限テーブル52:
図3]
防災無線用通信時限テーブルについて
図3を用いて説明する。
図3は、防災無線用通信時限テーブルの例を示す説明図である。
防災無線用通信時限テーブル52は、防災無線に適用される通信時限テーブルであり、
図3に示すように、防災無線で用いられる通信種別と、それに対応する優先度、パターン番号に対応する通信時限が記憶されている。
【0054】
防災無線における通信種別は、専用通信、統制通信、一斉通信、同報通信、通常通信がある。各通信種別について簡単に説明する。
専用通信は、指令設備1の通信卓と移動局4との専用のホットラインであり、例えば、県防災施設と市町村防災との間の通信がある。
統制通信は、
図10に示したように、指令設備1の通信卓が移動局4に対して、移動局4の通話を切断してでも通話したい場合に用いられる通信であり、移動局4からの折り返しも認められ(移動局4が通話に参加でき)、通話の種類は個別通話とグループ通話がある。
【0055】
防災無線の一斉通信は、指令設備1の通信卓が移動局4に対して、一方的に通話したい場合に用いられる通信であり、グループを対象としている。移動局4からの折り返しも認められる。
同報通信は、指令設備1の通信卓が待ち受け中の移動局4に対して、一方的に通話したい場合に用いられる通信であり、グループを対象とする。
通常通信は、通信卓、移動局4が、待ち受け中の移動局4と通話したい場合に用いられる。移動局4の折り返しも認められ、通話の種類は個別通話とグループ通話がある。
【0056】
また、防災無線用通信時限テーブル52では、各通信種別に対応して優先度が記憶されている。優先度は、防災無線の場合3段階に分かれており、専用通信の優先度が最も高く優先度1、統制通信と一斉通信がその次に高くて優先度2、同報通信と通常通信が最も低く優先度3と規定されている。
【0057】
そして、防災無線用通信時限テーブル52では、通信種別ごとに、優先度と、パターン番号に対応した通信時限が記憶されている。同一優先度には、同一の通信時限が記憶される。
例えば、パターン番号1(パターン1)の場合、優先度1の専用通信の通信時限は10分、優先度2の統制通信と一斉通信は8分、優先度3の同報通信と通常通信は6分としている。優先度の高い通信種別の通信時限は長く、低い通信種別の通信時限は短く規定している。
【0058】
パターン番号2(パターン2)、パターン番号3(パターン3)についても、それぞれ通信時限が規定されており、これにより、パターン番号が特定されると通信時限が一義的に決定されるものである。
【0059】
[消防無線用通信時限テーブル53:
図4]
次に、消防無線用通信時限テーブル53について
図4を用いて説明する。
図4は、消防無線用通信時限テーブルの説明図である。
図4に示すように、消防無線用通信時限テーブル53は、消防無線に適用される通信時限テーブルであり、消防無線で用いられる通信種別と、それに対応する優先度、パターン番号に対応する通信時限が記憶されている。
【0060】
消防無線における通信種別は、緊急通信、一斉通信、通常通信である。
緊急通信は、防災無線における統制通信とほぼ同様であり、移動施設10の通信卓が移動局に対して、移動局4の通話を切断してでも通話したい場合に用いられる通信である。
消防無線の一斉通信は、防災無線の一斉通信とは若干異なり、通信卓及び移動局4が、待ち受け中の移動局4と通話したい場合に用いられる通信であり、移動局4の折り返しも認められ、グループを対象とする。
また、通常通信は、上述した防災無線の通常通信と同様である。
【0061】
消防通信では、緊急通信が優先度1、一斉通信と通常通信が優先度2と規定されている。
そして、上述した防災無線と同様に、パターン番号に応じて各通信種別の通信時限が規定されている。
例えば、パターン番号4(パターン4)の場合、優先度1の緊急通信は通信時限10分、優先度2の一斉通信及び通常通信は通信時限は8分である。
同様に、パターン番号5、パターン番号6についても各通信種別に対応した通信時限が規定されている。
【0062】
[運用状況に応じた通信時限の設定例:
図5,6]
運用状況に応じた通信時限の設定例を、
図5、
図6を用いて説明する。
図5は、防災無線の通信時限の例を示す説明図であり、
図6は、消防無線の通信時限の例を示す説明図である。
尚、
図5,6のグラフは、
図3,4の通信時限テーブルに対応している。
【0063】
図5,6では、運用状況(パターン番号)の違いによって、通信時限がどのように変化しているかを優先度毎に示している。
図5,6に示すように、「輻輳なし」(パターン1,パターン4)の場合、優先度1(優先度高)の通信の通信時限が最も長く、優先度が低くなるに従って通信時限を順次短くして運用する。
【0064】
また、「通常時輻輳」(パターン2,パターン5)の場合、システムを利用する移動局4に平等に通信機会を与えるため、全ての優先度の通信について、輻輳なしの場合よりも通信時限を短くして運用する。この場合も、高優先度から順次通信時限が短くなる。
ここで示した例よりも、もっと短くしてもよく、例えば輻輳なしの場合の半分程度の時間に設定してもよい。
【0065】
「応援時輻輳」(パターン3,パターン6)の場合には、前提として災害等の事象が発生しているため、必須通信である高優先度通信は確実に提供する必要がある。
そのため、優先度1の通信は、輻輳なしの場合と同じ通信時限とし、それ以外の通信は輻輳なしの場合の半分以下に短縮して、その分、より多くの通信機会を提供できるようにして、全ての移動局4をつながりやすくする運用としている。
【0066】
[本回線制御装置2の運用開始時の動作:
図1]
本通信回線装置2の動作について
図1を用いて説明する。
本通信回線装置2は、運用開始時に、外部から「適用先業種」が設定されると、記憶部2の適用先業種56にその業種の情報を記憶すると共に、運用時に使用するテーブルを特定する。
【0067】
例えば、適用先業種として防災無線が設定された場合には、本通信回線装置2の制御部21は、パターンテーブル51のパターン番号1~3に対応する部分と、防災無線用通信時限テーブル52を用いるよう設定し、パターンテーブル51のパターン番号4~6に対応する部分と、消防無線用通信時限テーブル53は使用しない。
【0068】
また、適用先業種として消防無線が設定された場合には、制御部21は、パターンテーブル51のパターン番号4~6に対応する部分と、消防無線用通信時限テーブル53を用いるよう設定し、パターンテーブル51のパターン番号1~3に対応する部分と、防災無線用通信時限テーブル52は使用しない。
【0069】
このように、本回線制御装置2は、複数の業種に適用可能となるようテーブル情報を備えており、運用開始時にいずれの業種に適用するかが設定されることで、用いるテーブルを特定して動作するものである。
ここでは2つの業種を例として挙げたが、これ以外の業種に適用可能とするテーブル情報を備えておけば、適用業種を広げることができるものである。
【0070】
そして、運用開始後は、本回線制御装置2は、基地局30から輻輳の状況を取得すると共に、指令設備1から応援の状況を取得して、記憶部22に保持し、指令設備1や移動局4から通信の要求があると、上述したようにパターンテーブル51及び防災無線用通信時限テーブル52又は消防無線用通信時限テーブル53を参照して、要求のあった通信の通信時限を設定し、通信時限に達したら通信を切断するよう制御する。
【0071】
[通信時限設定処理:
図7]
次に、本回線制御装置2の制御部21における通信時限設定処理について
図7を用いて説明する。
図7は、防災無線における通信時限設定処理を示すフローチャートである。
図7に示すように、制御部21は、通信が発生すると(S10)、当該通信の種別を識別し(S12)、更に、着信先の基地局30の無線チャネルが埋まっておらず、接続可能かどうかを判定する。
【0072】
接続可能であれば、輻輳状況55の情報に基づいて着信先の基地局30において輻輳があるかどうかを判断する(S14)。
【0073】
上述したように、制御部21は、定期的に通信要求度を算出して輻輳状況55の情報に記憶しており、通信要求時に着信先の基地局30の通信要求度を読み取って輻輳の有無を判断する。
処理S14で、輻輳がない場合(Noの場合)、制御部21は、パターン1を選択して(S16)、処理S24に移行する。
【0074】
また、処理S14で、着信先の基地局30で輻輳がある場合(Yesの場合)、制御部21は、更に応援状況54の情報に基づいて応援があるかどうかを判断する(S18)。
応援がない場合(Noの場合)、制御部21はパターン2を選択し(S20)、処理S24に移行する。
また、処理S14で応援があると判断された場合、制御部21は、パターン3を選択して(S22)処理S24に移行する。
【0075】
そして、制御部21は、防災通信用通信時限テーブル52を参照して、処理S12で識別した通信種別と、処理S16、S20,S22のいずれかで選択したパターン番号に対応する通信時限を読み取って、当該通信の通信時限として設定する。
【0076】
尚、ここでは防災無線について説明したが、消防無線も同様の処理であり、
図7の処理S16、S20,S22における「パターン1」、「パターン2」、「パターン3」を、それぞれ「パターン4」、「パターン5」、「パターン6」に置き換えることにより、消防無線における処理となる。
このようにして、本回線制御装置2における通信時限設定処理が行われるものである。
【0077】
[実施の形態の効果]
本回線制御装置2によれば、指令設備1と、複数の基地局30に接続し、記憶部22に、輻輳の度合いや応援移動局の有無といった運用状況の種別に対応して、通信時限の設定パターンを複数記憶するパターンテーブル51と、通信種別ごとに設定パターンに対応した通信時限を記憶した通信時限テーブル52,53とを備え、制御部21が、通信の要求を受けると、当該通信の通信種別と、当該通信の着信先となる基地局30での輻輳の度合い及び応援移動局の有無に基づいて、パターンテーブル51を参照して設定パターンを特定し、通信時限テーブル52,53を参照して、当該通信の通信種別及び当該設定パターンに応じた通信時限を設定する回線制御装置としているので、実際の運用状況と通信種別の優先度に応じて通信時間を柔軟に制御することで、優先度の高い通信を確実に実現すると共に、一部の移動局4が通信し続けるのを防ぎ、全移動局4に対して公平に通信を提供することができる効果がある。
【0078】
また、本回線制御装置2によれば、複数の適用業種に応じたパターンテーブル51及び通信時限テーブル52,53を備えているので、複数の業種の中から、運用開始時に設定された適用業種に応じたテーブルを特定することで、複数の業種に共通の装置とすることができるため、装置の適用範囲を広くして装置コストを低減すると共に、実際に適用される業種に合った通信時限の制御を行うことができる効果がある。
【0079】
尚、1業種に限定して使用されることが予めわかっている場合には、当該業種用のテーブルのみを備えるように構成してもよく、この場合でも、輻輳の有無や応援の有無に応じて柔軟に通信時限を設定して移動局4に通信機会を公平に与えると共に、緊急時等は優先度の高い通信を確実に提供することができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、運用状況に応じて通信時限を適切に制御して、移動局に対して公平に通信を提供でき、更に複数の業種に応じた設定を備え、適用先を広げることができる回線制御装置及び無線通信システムに適している。
【符号の説明】
【0081】
1…指令設備、 2…回線制御装置、 30,31,32…基地局、 4…移動局、 21…制御部、 22…記憶部、 51…パターンテーブル、 52…防災無線用通信時限テーブル、 53…消防無線用通信時限テーブル、 54…応援状況、 55…輻輳状況、 56…適用先業種