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  • 特開-咀嚼筋電位検査装置 図1
  • 特開-咀嚼筋電位検査装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039590
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】咀嚼筋電位検査装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/389 20210101AFI20220303BHJP
【FI】
A61B5/04 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144701
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】藤澤政紀
(72)【発明者】
【氏名】三浦賞子
(72)【発明者】
【氏名】勅使河原大輔
(72)【発明者】
【氏名】村上小夏
(72)【発明者】
【氏名】藤田崇史
(72)【発明者】
【氏名】森山毅
(72)【発明者】
【氏名】奥田啓之
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA04
4C127GG13
4C127GG16
(57)【要約】
【課題】歯軋りの際に発生する筋電位が最大咬合力の30%や20%など個人差があるため、患者毎に応じて、測定開始後に筋電位をチェックし報知設定を変更できる検査装置が求められていた。
【解決手段】本発明は咀嚼筋の電位差を検出する表面電極と、表面電極で検出する電位差が任意の電位差を超えると報知する報知装置と、報知装置が報知する任意の電位差の値を使用者自らが変更できる設定変更装置を備えることを特徴とする咀嚼筋電位検査装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
咀嚼筋の電位差を検出する表面電極と、
表面電極で検出する電位差が任意の電位差を超えると報知する報知装置と、
報知装置が報知する任意の電位差の値を測定開始後に使用者自らが変更できる設定変更装置
を備えることを特徴とする咀嚼筋電位検査装置。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
咀嚼筋の電位を検査し、咀嚼筋の過剰な筋活動を防止する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
筋電図検査(electromyography - EMG)とは、神経から筋にかけての疾患の有無を調べる生理学的検査のひとつである。 一般に、刺激電極と、測定電極(関電極)、不関電極(基準電位用、いわゆるアース)を持ち、電気刺激装置と、オペアンプ等による信号増幅器、表示、記録部を持つ。古い機械は、移動するロール紙の上をペンが左右に動くアナログ式であるが、20世紀末からは、ADコンバータを通し、得られた信号を電子計算機を用い、表示処理だけではなく、解析機能を持つ装置が主流となって来ている。

現在主流となっている計測方法の1つは、表面電極を用い極力低インピーダンスで皮膚に貼り付ける。表面電極は使用が容易で、針電極と異なり被験者に苦痛を与えない点で優れている。顎口腔領域において、咬筋、側頭筋前部と顎二腹筋全腹が表面電極でよく記録される。その先にシールドされた2本のリード線で中継し、増幅器へ接続する。筋電位は0.1uVから数mVの非常に微小な信号でありノイズ成分を極力除き信号のみを増幅する必要がある。ノイズ成分除去のためフィルターを使用し必要な周波数成分のみを通過させる。筋電計用増幅器に必要とされる周波数帯域は一般的に10Hz~10kHzの領域である。筋電位と無関係なノイズとして最も頻繁にみられるものは商用電源による50Hzまたは60Hzの干渉である。

筋電位は細胞膜の興奮に伴って起こる膜電位の変化のことであり、特に歯科分野における筋電図検査は咬合と顎機能の関係を解明することを目的として研究が行われてきた。一例として睡眠時や覚醒時の歯軋りを検出するための筋電図検査が行われている。歯軋りは咀嚼筋群が何らかの理由で異常な緊張状態となり、咀嚼、嚥下、発音などの機能的な運動と無関係に、上下顎の歯をすり合わせたり、くいしばったりする習癖のことである。これら異常を伴う筋の緊張を緩和する治療として習癖を認識し、為害性を自覚させる自己暗示法、オクルーザルスプリント療法、バイオフィードバックによる金の緊張緩和療法、咬合調整などが報告されている。この中で覚醒時の歯軋り時に術者があらかじめ設定した値を超えると被験者に音や振動で伝えるバイオフィードバック機能を搭載した筋電計が開発されてきた。バイオフィードバック機能付き筋電計は、歯科分野では、最大噛みしめ時の筋電位と定められた値を比較して音や振動で、被験者に知らせて、無意識の噛みしめをやめさせることで夜間の歯軋りを低減することができるとの研究結果がある。
歯軋りが行われているとき筋は持続的に収縮し続け、その際の筋電図波形は咬合力と発現時間に関し咀嚼や嚥下などの機能運動時の数倍に及ぶこともある。よって筋電図波形の振幅と持続時間の組み合わせにより歯軋りと咀嚼を識別することが確認できる。側頭筋や咬筋に電極を取り付けることによる咀嚼筋電位の波形計測によりグラインディングやクレンチングといったタイプの歯軋りを検出することが可能となる。グラインディングとは上下顎の歯を強く接触させながらすり合わせる運動で、主に睡眠中に行われる。接触によって強い摩擦運動が生じることになり、歯、歯周組織、咀嚼筋や顎関節に多大な負荷をかけ、障害をもたらすようになる。一方クレンチングは下顎をほとんど動かさずに上下顎の歯を咬頭嵌合位で強くかみしめる動作である。クレンチング習癖があると、持続的な筋活動によって歯周組織に強い圧力が長時間作用するので、歯周組織の破壊が進行する。歯周疾患患者においては歯軋りが発現する割合が高く、特にクレンチングが多いとの報告がある。
ただし個人によって咀嚼筋電位の波形の振幅や持続時間の様相が異なるため、それらが歯軋りの検出感度に影響を及ぼすケースがある。最も力を加えた際の筋電図の波形の振幅を100%としたとき、歯軋り発生時の波形の振幅は一般的に30%程度となることが多いが、個人差によりこれより小さな振幅となる場合には正しく検出できないことがある。そのため個人ごとに歯軋りの検出閾値を設定する必要があり、あらかじめ閾値を設定し、それら設定値を機器に記憶させる必要がある。ただし、測定前に閾値を設定することは従来の機器で可能であったが、測定しながら被験者自ら設定値を変更し、歯軋りの検出感度を調節できる機器は存在しなかった。
【0003】
特許文献1には、基準最大筋電位が所定の条件を満たす場合、ボツリヌストキシン投与単位の基準と判定することを特徴とする筋電位取得装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-122655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯軋りの際に発生する筋電位が最大咬合力の30%や20%など個人差があるため、患者毎に応じて、測定開始後に筋電位をチェックし報知設定を変更できる検査装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は咀嚼筋の電位差を検出する表面電極と、表面電極で検出する電位差が任意の電位差を超えると報知する報知装置と、報知装置が報知する任意の電位差の値を使用者自らが変更できる設定変更装置を備えることを特徴とする咀嚼筋電位検査装置である。
【発明の効果】
【0007】
患者毎に応じて、測定開始後に報知設定を変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る実施形態の咀嚼筋電位検査装置のブロック図である。
図2】電極から得られた電位差から任意の電位差を超えると報知する処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0009】
1…表面電極
2…アンプ部
3…AD変換部
4…演算処理部
5…スイッチ
6…報知部
【発明を実施するための形態】
【0010】
過剰な咀嚼筋活動とは、食いしばりや、歯軋りを行うときの咀嚼筋活動であり、報知装置とは閾値を超えた場合に被験者に知らせる装置で振動させる振動子や、最も好ましいのは音を鳴らすブザーである。
任意の電位差とは、最大かみしめ時の筋活動の何パーセントで報知装置を起動させるかを設定した値である。任意の電位差の値は好ましくは30%または20%であるが、最も好ましいのは10%から40%まで5%ごとに設定変更できる機能である。ただし設定変更の要否は測定中に患者の状態を見て術者が判断する。
過剰な咀嚼筋活動を検知する装置において、報知する報知装置を備え、過剰な咀嚼筋活動を報知する任意の電位差の値を使用者自らが変更でき、測定開始後においてもそれらの変更内容を反映し続けることが可能とすることで、過剰な報知や、過小な報知を自ら調整することができる。術者が設定した閾値を超える咀嚼筋活動を検出したとき報知装置は起動する。
【0011】
本発明の咀嚼筋電位検査装置は、表面電極と報知装置と設定変更装置を備える。
表面電極とは、被験者が咀嚼筋を動かす際に生じる電位差を検出するものであり、使い捨て電極が好ましい。咀嚼筋の電位差を検出するため側頭筋前方付近もしくは咬筋前方付近に頭頚部に表面電極を付着させ、表面電位を取得する電極である。表面電極は粘着力を持つものが好ましい。
【0012】
報知装置は、表面電極で検出する電位差が任意の電位差を超えると報知する装置である。報知装置は表面電極で検出する電位差が閾値を超えたことを被験者に知らせる役割を持つ。
報知装置は表面電極で検出する電位差を任意の電位差と比べるために、アンプ部、AD変換部、演算処理部、報知部を備えることが好ましい。振動で知らせる場合は振動子、音で知らせる場合はブザーが好ましい。被検者が本装置を使用する場合日常生活で使用するため周囲の人に音を聞かれにくいよう、ブザーを耳のそばに設置するのが好ましい。電極から検出された電位差を、アンプ部で増幅し微弱な電位差をA/D変換部で検出できる電圧レベルに変換し、AD変換部でアナログ信号からデジタル信号に変換することが好ましい。AD変換部で変換されたデジタル信号を元に演算処理部にて、任意の閾値を決定することが好ましい。
任意の電位差は一定期間検出したデジタル信号を平均化し、平均値をもとに特定の割合で閾値の設定することが好ましい。具体的には、20%、25%、30%、35%、40%などの特定の値とすることができることが好ましい。場合によっては、アンプ部で増幅させ、AD変換部で変換されデジタル信号に換算した閾値であることが好ましい。AD変換部で変換された任意の電位差のデジタルデータは演算処理部の記憶領域へ、例えば半導体記憶装置に保存されることが好ましい。
【0013】
前記の様に、任意の電位差決定後において、表面電極から検出される電位差が任意の閾値を超えた状態の時に、報知部は作動する。報知部は音声及びまたは振動での報知がなされ、音声での報知が好ましい。振動の報知は振動子を備え、音声での報知は、ブザーを備え、光での報知はLEDを点灯させる。一例としてブザーを使い音を鳴らすことで知らせる、振動素子を使い振動を感じさせるにより知らせる、電気的な刺激を与えることで知らせる方法等が想定される。
報知部が報知している状態において、表面電極から検出される電位差が任意の閾値を下回った状態時に、報知部は報知を停止する。
【0014】
設定変更装置は、報知装置が報知する任意の電位差の値を筋電位の測定前、測定後にかかわらず、使用者自らが変更できる装置である。
具体的には、一定期間検出したデジタル信号を元に、報知装置の演算処理部で算出した平均値を元に、設定された任意の電位差である閾値を変更する装置である。変更は報知装置の演算処理部で算出した平均値を元に、特定の割合で変更されることが好ましい。例えば設定変更装置による設定値を30%と設定した場合、報知装置の演算処理部で算出した最大値の30%の値が閾値となり、検出電圧がその閾値を超えた場合に報知部が報知する。
設定変更装置は設定変更スイッチであってもよい。設定変更スイッチはデジタル信号を読みとる際の判定閾値を調整するためのスイッチである。好ましくは、切り替えスイッチを押圧することで、閾値から特定の割合で切り替えることが好ましい。切り替えた閾値は演算処理部の記憶領域へ、閾値として保存されることが好ましい。スイッチにより判定閾値を切り替えられるタイミングは表面電極から検出される電位差が検出される前、検出された後のどちらでも判定閾値の切り替え可能である。
設定変更スイッチはダイヤルスイッチであってもよい。最大電位の0%~100%の範囲内で決められる閾値として認定することが好ましい。この検出閾値は被測定者の個人差によって任意の閾値として決定する。
変更された任意の閾値はその値が小さいほど報知部が報知する感度が高くなり、値が大きいほど報知部が報知する感度が低くなる。被測定者は表面電極から検出される電位差や所望する報知部が報知する感度によって自由に閾値を変更することが可能となる。例えば歯軋りが発生する際に発生する筋電位は最大値の30%程度の割合であることが多いが、個人差によりその割合が20%程度であることがある。その場合、任意の閾値の値を小さくすることで報知部が報知する感度を高めることが可能となる。
設定変更のタイミングは表面電極による電位の測定開始前でも後でも可能とする。設定変更装置の設定は常時報知装置により監視され続け、報知部が報知する電位差の値を変更することが可能となる。
【0015】
次に各図について説明する。
図1には本発明に係る実施形態の咀嚼筋電位検査装置の構成を記載している。咀嚼筋電位検査装置は表面電極、報知装置、スイッチにより構成される。報知装置はアンプ部、AD変換部、演算処理部、報知部により構成される。1の表面電極により検出された電位差は、2のアンプ部へ出力され演算可能な電圧レベルまで増幅される。その後3のAD変換部へ出力されアナログデータからデジタルデータへ変換される。その後4の演算処理部へ出力され平均値が算出される。5のスイッチは演算処理部への信号により任意の電位差の設定を変更する。演算部は4で演算された平均値が任意の電位差を超えた場合に6の報知部へ出力する。
図2には測定開始後に任意の電位差が設定変更された場合の処理手順のフローチャートを記載している。スイッチの操作により閾値を特定の割合で切り替える。切り替え操作が行われた後は切り替え後の閾値に応じて報知部が起動する。例えば、切り替え操作により閾値が演算後の平均値を下回った場合は報知部が起動する。切り替え操作により閾値が演算後の平均値を上回った場合に報知部は停止する。
【産業上の利用可能性】
【0016】
過剰な咀嚼筋活動を検知する装置に関する発明であり、産業上利用できる。


図1
図2