(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039675
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】新規なプラセオジムホウ化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 35/04 20060101AFI20220303BHJP
C04B 35/58 20060101ALN20220303BHJP
C04B 35/50 20060101ALN20220303BHJP
【FI】
C01B35/04 C
C04B35/58 050
C04B35/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144821
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111707
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 斉
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 文俊
(57)【要約】
【課題】これまで合成することができなかった多ホウ化プラセオジムであって、機能性材料としてポテンシャルの高い多ホウ化プラセオジムを生成する。
【解決手段】一般式がPrB
nで表すことができる化合物であって、9<n<15であることを特徴とするホウ化プラセオジム化合物を提供する。多ホウ化プラセオジム化合物は、半導性、超伝導性、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性、光吸収性、熱電性、又は硬質性のような種々の機能性のような種々の機能性を備えると考えられる。プラセオジムは重希土類元素よりもイオン半径などが大きく、これまで合成されてこなかった。そこで、超高圧及び高温条件下で、12ホウ化プラセオジムを含む多ホウ化プラセオジム化合物を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がPrBnで表すことができる化合物であって、9<n<15であることを特徴とするホウ化プラセオジム化合物。
【請求項2】
更に、PrB12結晶を含むことを特徴とする請求項1に記載のホウ化プラセオジム化合物。
【請求項3】
前記PrB12結晶の結晶構造は、Fm-3mの空間群に属する立方晶構造であってもよく、空間群番号は225であってもよいことを特徴とする請求項2に記載のホウ化プラセオジム化合物。
【請求項4】
PrB12結晶において、格子定数a=7.5767±0.4Åであってもよいことを特徴とする請求項3に記載のホウ化プラセオジム化合物。
【請求項5】
一般式がPrBn(9<n<15)で表される化合物を含むことを特徴とする磁性材料。
【請求項6】
一般式がPrBn(9<n<15)で表される化合物を含むことを特徴とする光学材料。
【請求項7】
一般式がPrBn(9<n<15)で表される化合物を含むことを特徴とする熱電材料。
【請求項8】
1種以上のPrBm化合物(0<m≦6)及びホウ素を所定の比率で混合した原料を、超高圧下で、2000K以上の温度に加熱する、一般式がPrBn(9<n<15)で表されることを特徴とする化合物の製造方法。
【請求項9】
超高圧が、20GPa以上の圧力であってもよいことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
ダイヤモンドアンビルセルを用いレーザー加熱することを特徴とする請求項8又は9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なプラセオジムホウ化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタノイド等の希土類元素は、ホウ素過剰ホウ化物を形成することが知られている。これらは、高温でも比較的安定で、難溶性であり、半導体、超伝導体、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性の材料として注目されている(例えば、非特許文献1)。例えば、6ホウ化ランタンは、耐熱性があり、不活性及び難溶性化合物で、電極の放出のための低い仕事関数のために熱カソードに適しており、また、光吸収材として優れることが知られている(例えば、特許文献1)。また、ホウ化イットリウム(YB6、YB12、YB25、YB50、YB66)は、硬質の固体で高い融点を有することが知られており、特に、YB6は、比較的高い温度(8.4 K)で超電導を示し(例えば、非特許文献2)、LaB6と同じく陰極線管に適しているが、LaB6などの他の六ホウ化物と同じ構造を持つ。また、YB12の構造は立方晶で、その密度は3.44 g・cm-3であり、ピアソン記号はcF52、空間群はFm-3m(No.225)、格子定数はa=0.7468 nmであり、優れた熱電材料とされている。他の希土類ホウ化物も、その特性から、半導体、超伝導体、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性の材料並び光吸収材及び熱電材料(例えば、特許文献2)、更には、硬質材料(又は硬質物質)として用いられている(例えば、特許文献3)。
【0003】
しかるに、希土類元素の中のイットリウム、ランタン等の限られた元素のみにこれらの材料が依存するのは生産性を考えると好ましくはなく、希土類元素の希少性を考慮すれば、他の種類の希土類元素のホウ化物も利用できるようにすることが好ましい。希土類元素は、互いに共通性質があり、代替可能と考えられる。
【0004】
特に、ホウ素により骨格が形成される多ホウ化物結晶においては(例えば、非特許文献3)、結晶の硬さ等、性質が共通するため、含まれる希土類元素の種類により、機能性の高さが増すこともある。例えば、TbB12、DyB12、HoB12、ErB12、TmB12等では、反強磁性転移温度が、それぞれ、TN=19.2、16.5、7.5、6.7、3.4 Kとなっている(例えば、非特許文献4)。これらの希土類元素のイオン半径は、この順で小さくなっている。
【0005】
上述のように、希土類多ホウ化物の研究は、磁性体や電界放射電子源等の研究から古くから合成研究がおこなわれてきたが、ホウ素の融点(2180℃)が高いため高温の発生が可能なFZ(フロートゾーニング)法により、一気圧下で合成されてきた。希土類ホウ素化合物は、極めて硬い物質であるが、これはホウ素のカゴ状構造の極めて高い安定性に起因すると考えられる。そして、常圧下では、TbB12からLuB12迄の重希土類化合物でしか合成に成功しないが、ランタニド収縮により重い元素ほどイオン半径が小さくなっていくからと考えられる。5~10GPaの高圧力下でGdB12及びSmB12の合成が報告された(例えば、非特許文献5、非特許文献6)。GdB12は、反強磁性転移点TN=38Kを有していた。SmB12は、TN1=17K、TN2=9Kと2回逐次転移するとされた(例えば、非特許文献5)。しかしながら、CeB12やPrB12は、合成できておらず、また、高圧をかけるにしても、どこまで圧力をかければこの物質が合成できるかという見通しがたっていない(例えば、非特許文献5)。特に、20GPa以上の超高圧は、装置において種々の問題を引き起こし易く、容易には達成できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-84385号公報
【特許文献2】特開2012-44201号公報
【特許文献3】特開2002-294384号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ホウ素・ホウ化物および関連物質の基礎と応用」 株式会社シーエムシー出版 2008年 ISBN:978-4-88231-955-9
【非特許文献2】「Superconducting energy gap of YB6 studied by point-contact spectroscopy」 Volumes 460-462, Part 1, 1 September 2007, Pages 626-627
【非特許文献3】無機材質研究所研究報告書第102号 「希土類多ホウ化物の研究」 編集・発行:科学技術庁 無機材質研究所 発行日:平成10年11月30日 ISSN 1342-5129
【非特許文献4】「Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earths」, Vol. 38 2008年 Elsevier B.V. ISSN 0168-1273
【非特許文献5】「希土類ホウ化物の高圧合成」 高圧力の科学と技術 vol.26, No.3 216-224 (2016)
【非特許文献6】「High Pressure Syntheses of SmB2 and GdB12」 Journal of the Less-Common Metals, 56 (1977) 83-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、希土類元素のホウ化物は、半導性、超伝導性、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性、光吸収性、熱電性、及び/又は硬質性のような種々の機能性を備え、半導体材料、超伝導体材料、反磁性材料、常磁性材料、強磁性材料、反強磁性材料、光吸収性材料、熱電性材料、及び/又は硬質性材料を構成する素材となり得る。しかしながら、多ホウ化物は必ずしも容易には合成できない。そこで、より望ましい機能を目指して、このような機能性材料を構成する新規な希土類元素のホウ化物、特に多ホウ化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施例に係る多ホウ化物は、プラセオジムのホウ化物を含んでもよい。PrBnで表したとき、nが6より大きい化合物を含んでもよい。また、十二ホウ化プラセオジム(n=12)を含んでもよい。二十五ホウ化プラセオジム(n=25)を含んでもよい。これらは、ホウ化プラセオジム化合物の高密度相である。これは、希土類元素をRとして、RB12で表現される化合物であってもよい。そのような化合物は、ホウ素原子による14面体構造(切頂八面体)内に希土類元素Rが囲まれたものであってもよい。例えば、希土類元素Rのイオン半径等の大きさにより特徴的な磁性特性を有すると考えられる。このような機能性の新規な希土類ホウ化物は、半導性、超伝導性、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性、光吸収性、熱電性、又は硬質性のような種々の機能性を備える。そのため、半導体材料、超伝導体材料、反磁性材料、常磁性材料、強磁性材料、反強磁性材料、光吸収性材料、熱電性材料、又は硬質性材料を構成することができると考えられる。これらの材料は、所定の処理を行い、賦形して、それぞれの素子を形成することができる。
【0010】
プラセオジムホウ化物としては、PrB4及びPrB6がそれぞれ、正方晶及び立方晶として知られている。特に6ホウ化プラセオジムは、黒色で、密度4.840g/cm3、融点2610℃を有している。しかしながら、想定されるPrB12結晶は、ホウ素のカゴ状構造に特徴があり、種々の機能を有する硬質材料として期待されているが、本発明者らの知る限りにおいて、PrB12結晶(又はCeB12結晶)は、未だ合成に至っていない。また、他の希土類ホウ化物から類推されるこのカゴ状構造以外の構造を有するPrBn結晶(n>6、例えば、n=12)は、より好ましい機能を備えることも期待される。PrBn化合物は、これらの可能性のある結晶構造を有するものを含んでよい。
【0011】
上述のように、RB12で表現される結晶において、ホウ素原子による14面体構造は、硬質であり、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロニウム(Dy)、ホロニウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イットリビウム(Yb)、又はルテチウム(Lu)に比べ、原子・イオン半径が大きいプラセオジム(Pr)の場合は、その中に入るのが困難であると考えられる。RBn、特にRB12といったホウ素濃度の大きな多ホウ化物結晶は、切頂八面体のホウ素ケージ構造をとり、その中心に希土類元素が位置する構造となるため、大きな元素は取り入れ難いと考えられる。
【0012】
重希土類元素に比べて、サイズの大きな軽希土類元素をホウ素ケージ構造に取り込むためには、原子サイズを縮めた状態での合成法が適していると考えられる。しかしながら、高圧下では、原子サイズだけでなく、ホウ素ケージ構造もサイズを縮めるとも考えられる。一方、一気圧での合成法と同様に、ホウ化物合成はホウ素の融点が高いので、高圧下での合成でも、より高い温度が求められる。そこで、高圧下でレーザー加熱を組み合わせることにより、高圧高温状態を発生させることでプラセオジム多ホウ化物の合成を行った。
【0013】
より具体的には、以下のものを提供することができる。
一般式がPrBnで表すことができる化合物であって、9<n<15であることを特徴とするホウ化プラセオジム化合物。
更に、PrB12結晶を含むことを特徴とするホウ化プラセオジム化合物。
前記PrB12結晶の結晶構造は、Fm-3mの空間群に属する立方晶構造であってもよく、空間群番号は225であってもよいことを特徴とするホウ化プラセオジム化合物。
PrB12結晶において、格子定数a=7.5767±0.4Åであってもよいことを特徴とするホウ化プラセオジム化合物。
一般式がPrBn(9<n<15)で表される化合物を含むことを特徴とする磁性材料。
一般式がPrBn(9<n<15)で表される化合物を含むことを特徴とする光学材料。
一般式がPrBn(9<n<15)で表される化合物を含むことを特徴とする熱電材料。
1種以上のPrBm化合物(0<m≦6)及びホウ素を所定の比率で混合した原料を、超高圧下で、2000K以上の温度に加熱する、一般式がPrBn(9<n<15)で表されることを特徴とする化合物の製造方法。
超高圧が、20GPa以上の圧力であってもよいことを特徴とする上述の製造方法。
ダイヤモンドアンビルセルを用いレーザー加熱することを特徴とする上述の製造方法。
ここで、上述するnについて、11<nであってもよく、n<13であってもよく、11<n<13と、表現されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
超高圧下(例えば、33.7GPa~47.5GPa)でプラセオジム多ホウ化物の原料となる化合物を閉じ込め、そこに更にレーザーにより高温に加熱することにより、高温(例えば、2000~3000K)の条件下で、プラセオジム多ホウ化物を合成することができる。合成されるプラセオジム多ホウ化物は、常圧常温下で取り出しても安定である。そのプラセオジム多ホウ化物において、主にPrB12結晶が含まれ得る。また、PrB25結晶も存在し得る。これらのPrB12結晶又はPrB25結晶はいずれもこれまでに報告がなされていない新規な結晶であり、化合物でもある。このようにプラセオジム多ホウ化物は、常圧常温下で安定であるので、種々の形態でその機能を活用する分野の素材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例において、PrB
12の結晶構造を示す模式図である。
【
図2】ダイヤモンドアンビルを備えたダイヤモンドアンビルセルの全体を示す模式図である。
【
図3】
図2のダイヤモンドアンビルセルの細部を示す模式図である。
【
図4】X線構造解析のための測定系を示す図である。
【
図5】本発明の実施例において、実験例7の試料のX線回折結果を示す図である。
【
図6】本発明の実施例において、実験例7の試料のX線回折結果を計算値と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0017】
これまで、希土類ホウ化物は、例えば、希土類酸化物粉末及びホウ素粉末を所定の割合で混合し、圧粉し、真空中又は不活性ガス中で加熱することにより、得られてきた。この時の化学反応は、次の式が期待される。ここで、Rは希土類元素である。
R2O3+(2n+3)B → 2RBn+3BO↑
このときnを変化させながら、希土類ホウ化物を製造することができ、例えば、YB50(直方晶系で、格子定数は、a=1.66251(9), b=1.76198(11), c=0.94797(3) nm である。)が得られた(非特許文献3)。また、希土類多ホウ化物は、一般に、高温の発生が可能なFZ(フロートゾーニング)法により、一気圧下で合成されてきた。しかし、プラセオジム(Pr)等の原子・イオン半径が重希土類元素、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロニウム(Dy)、ホロニウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イットリビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)に比べ、大きい。RB6やRB12といったホウ素濃度の大きな多ホウ化物は、切頂立方体や切頂八面体のホウ素ケージ構造をとり、その中心に希土類元素が位置する構造となると考えられ、大きな元素は取り入れ難いと考えられる。このように、本発明の実施例において、PrBn(n>6)化合物は、従来からの方法では未だ得ることができていない。
【0018】
本願発明者らは、超高圧と高温を両立させる方法及び装置を見出し、所定の量の原料粉末を超高圧下で高温にすることにより、PrBn(n>6)化合物を製造することに成功した。製造された多ホウ化プラセオジムは、n=12、25の十二ホウ化プラセオジム、二十五ホウ化プラセオジムを含む。これらの12ホウ化プラセオジム及び25ホウ化プラセオジムは、これまで報告されていない化合物で、本願発明者らが新規に合成に成功した化合物である。また、それらの化合物の結晶構造解析により、何れも新規結晶であることが確認された。
【0019】
本発明の実施例において、
図1は、12ホウ化プラセオジム(PrB
12)の結晶構造を図解する。本発明者らが合成したPrB
12結晶について行った単結晶構造解析によれば、PrB
12結晶結晶は、立方晶系に属し、Fm-3m(ここで、“-”は、3のオーバーラインを示す)空間群(International Talbes for Crystallographyの225番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータ及び原子座標位置を占める。この結晶構造は、切頂八面体となる14面体の24個の頂点にBが配置された14面体構造の中にPrが入っているような構造となっている。表1において、格子定数aは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は、単位格子中の各原子の位置を示す。格子定数は、a=7.5767±0.4Å(又は±5%)の範囲内であってもよい。単位格子の軸間の角度α、β、γは、それぞれ、90度±4度の範囲内あってもよい。
【0020】
【0021】
PrB12で示される結晶(PrB12結晶)は、構成成分であるPrとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることによって格子定数が変化し得るが、結晶構造と、原子が占めるサイト及びその座標によって与えられる原子位置とは、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。ここで、PrとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることにより、その一般式が、PrB12±dEe(d及びeは0以上の実数、Eは置換する元素)であってもよい。本発明の実施例において、対象となる物質のX線回折等の結果をFm-3mの空間群でリートベルト解析して求めた格子定数と原子座標とから計算されたPr-Bの化学結合の長さが、表1に示すPrB12結晶の格子定数と原子座標とから計算されたそれと比べて±5%以内の場合は同一の結晶構造と判定できる。化学結合の長さが±5%を超えると、化学結合が切れて別の結晶となり得る。別の簡易的な判定方法として、PrB12結晶のX線回折の主要ピーク(例えば、回折強度の強い10本程度)と、対象となる物質のそれとを比較してもよい。本発明の実施例において、ホウ化プラセオジム化合物は、PrB12結晶を含んでもよい。PrB12結晶が主成分であってもよい。
【0022】
このような観点から、本発明の実施例のホウ化プラセオジム化合物において、PrB12で示される結晶は、PrB12それ自身、PrとBとのモル比がその当量からずれているもの(即ち、Prリッチ又はBリッチ)、又は、Pr及びBの一部が他の元素(例えば、C、N、O、H等)で置き換わったものも含むことができる。本発明の実施例において、PrB12で示される結晶は、表1に示すように、立方晶系の結晶であり、空間群Fm-3mの対称性を有するが、格子定数aは、a=7.5767±0.4Å(又は±5%)の範囲内であってもよい。この範囲内であれば、結晶が安定であると考えられる。
【0023】
本発明の実施例において、ホウ化プラセオジム化合物に含まれる12ホウ化プラセオジム(PrB12)化合物は、PrB12結晶を主成分としてよい。12ホウ化プラセオジム(PrB12)化合物は、PrB12結晶を70重量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、90重量%以上含有する。更に、好ましくは、95重量%以上含有する。
【0024】
本発明の実施例において、PrBnn表すことができる化合物に含まれる12ホウ化プラセオジム化合物は、PrB12で示される結晶から構成されてよいが、PrB12で示される結晶以外に、PrBx(9<x<12又は12<x<15)で示されるホウ化プラセオジム結晶若しくは化合物を含有してもよい。また、PrBxにおいて、11<x<12又は12<x<13であってもよい。このようなPrBxの含有量は、0重量%以上であってもよい。また、5重量%未満であってもよい。
【0025】
本発明の実施例において、12ホウ化プラセオジム化合物は、好ましくは、Prに対するBのモル比が9以上であってもよく、15以下であってもよい。また、Prに対するBのモル比が11以上であってもよく、13以下であってもよい。また、Prに対するBのモル比が11.5以上であってもよく、12.5以下であってもよい。
【0026】
本発明の実施例において、ホウ化プラセオジム化合物は、25ホウ化プラセオジム結晶を含む25ホウ化プラセオジム化合物を含んでもよい。PrB25で示される結晶(PrB25結晶)は、構成成分であるPrとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることによって格子定数が変化し得るが、結晶構造と、原子が占めるサイト及びその座標によって与えられる原子位置とは、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。PrB25結晶は、B12二十面体を基にした構造を持つ。PrB25結晶のホウ素骨格は、二十面体からなるホウ化物としては最も単純なもので、1種類の二十面体と、それを橋渡しをしているホウ素原子からなる。橋渡しホウ素は、4つのホウ素と四面体方向に結合している。そのうち1つは別の橋渡しホウ素で、他の3つは二十面体ホウ素である。プラセオジムは空間的に多くを占めていて、組成式PrB25は原子数の比を単純に反映させたにすぎない。Pr原子とB12二十面体はx軸方向にジグザグに配置している。橋渡しホウ素は、3つの二十面体ホウ素と結合していて、これは互いに平行ないくつもの(101)結晶平面を成す。橋渡しホウ素と二十面体ホウ素の結合距離は、典型的なB-B共有結合のものと同じである。一方、橋渡しホウ素同士の結合距離は大きいので、平面同士の結合力は弱い。
【0027】
25ホウ化プラセオジム化合物は、PrB25結晶から構成されることが望ましいが、PrB25で示される結晶以外に、PrBy(22<y<25又は25<y<28)で示されるホウ化プラセオジム結晶若しくは化合物を含有してもよい。また、PrByにおいて、24<y<25又は25<x<26であってもよい。PrB25結晶は、PrB25それ自身、PrとBとのモル比がその当量からずれているもの(即ち、Prリッチ又はBリッチ)、又は、Pr及びBの一部が他の元素(例えば、C、N、O、H等)で置き換わったものも含むことができる。
【0028】
本発明の実施例において、25ホウ化プラセオジム(PrB25)化合物は、PrB25結晶を主成分としてよいが、25ホウ化プラセオジム化合物は、PrB25結晶を70重量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、90重量%以上含有する。更に、好ましくは、95重量%以上含有する。
【0029】
本発明の実施例において、25ホウ化プラセオジム化合物は、PrB25で示される結晶から構成されてよいが、PrB25で示される結晶以外に、PrBy(22<y<25又は25<x<28)で示されるホウ化プラセオジム結晶若しくは化合物を含有してもよい。また、PrByにおいて、24<y<25又は25<x<26であってもよい。このようなPrByの含有量は、0重量%以上であってもよい。また、5重量%未満であってもよい。
【0030】
本発明の実施例において、25ホウ化プラセオジム化合物は、好ましくは、Prに対するBのモル比が24以上であってもよく、26以下であってもよい。例えば、Prに対するBのモル比が24.5以上であってもよく、25.5以下であってもよい。
【0031】
本発明の実施例において、PrBn化合物は、12ホウ化プラセオジム(PrB12)結晶を含んでもよい。主成分であってもよい。PrBy化合物は、25ホウ化プラセオジム(PrB25)結晶を含んでもよい。
【0032】
本発明の実施例において、PrBy化合物を製造する例示的な方法を説明する。
【0033】
本発明の実施例において、原料粉末として、Pr単体及び/又はPrを含む酸化物、炭酸塩等の化合物及びB単体(例えば、結晶性ホウ素)及び/又はBの化合物を利用することができる。また、一旦、低ホウ化プラセオジムを調製し、それを原料とすることもできる。原料粉末は、100nm以上500μm以下の粒径を有する粉末が好ましい。これにより、反応を更に促進させることができる。好ましくは、200nm以上200μm以下の粒径を有する粉末であってもよい。粒径は、マイクロトラックやレーザー散乱法によって測定される体積基準のメディアン径(d50)としてもよい。原料粉末は、12ホウ化プラセオジム(PrB12)を合成する反応式に従う当量を秤量し、乳鉢等により撹拌混合してもよい。この混合原料粉末は、CIP等により圧粉してもよく、そのまま次の高温高圧処理を行ってもよい。
【0034】
本発明の実施例において、製造工程で、出発原料に低ホウ化プラセオジム(PrBm(m≦6))及びホウ素を用いてもよい。例えば、PrB6(例えば、自作、或いは、Materion社製、P-1019、12008-27-4、PrB6)を用いることができる。本願発明者らは、切頂八面体のホウ素ケージ構造は非常に強固であり、高温及び超高圧条件下では、ホウ素ケージ構造を構成するホウ素相互の結合長の変化が、少なくとも相対的に小さいことを見出した。そのため、同条件下で、プラセオジム原子又はイオンが、相対的に小さくなり、ホウ素ケージ構造内に取り込まれるため、高ホウ化プラセオジム化合物が生成することを見出した。
【0035】
高温高圧処理の時間は、原料の量や用いる装置によって異なるが、例示的には、5分以上24時間以下の時間であってもよい。このような処理工程は、例えば、ダイヤモンドアンビルセル、マルチアンビル装置、及びベルト型高圧装置からなる群から選択される少なくとも1種類の装置を用いた高温高圧処理法又は衝撃圧縮法によって行われてもよい。これらの方法は、例えば、2000K以上、2200K以上、又は2500K以上の温度の温度範囲を実現できるものであってよい。上限は特にないが、工業的観点から若しくは生産性から、3300K以下、3100K以下、又は3000K以下の温度範囲を実現できるものであってもよい。また、10GPa以上、20GPa以上、30GPa以上、又は40GPa以上の圧力範囲を実現できるものであってもよい。上限は特にないが、工業的観点から若しくは生産性から、100GPa以下、80GPa以下、又は60GPa以下の圧力範囲を実現できるものであってもよい。但し、所定の温度及び圧力が達成される限りは、上述する装置に限定される必要はない。
【0036】
ここで、原料粉末をダイヤモンドアンビルセルに充填し、処理する場合を説明する。
図2は、ダイヤモンドアンビルセル(Diamond Anvil Cell(DAC))の全体を示す模式図である。
図3は、
図2のダイヤモンドアンビルセルの細部を示す模式図である。ダイヤモンドアンビルセルは既存のものを使用でき、
図2に示すように、底面が平らになるよう研磨されたダイヤモンドアンビル10が、底面を対向した状態で設置されており、この底面に圧力が印加される。
図3に示すように、12ホウ化プラセオジム(PrB
12)の原料となる原料粉末を、ガスケット12とダイヤモンドアンビルとで保持する。高圧部には、塩化ナトリウム14が充填されており、内部にセットされる加熱部分16に温度及び圧力を伝達する媒体として機能する。特に、反応試料(原料)18が黒等の有色に対して、塩化ナトリウムは無色であるので、レーザービーム20からのエネルギーは、もっぱら反応試料又は反応試料を包含するキャプセル等による加熱部分に集中する。そのため高温を局所に達成し易い。
【0037】
次いで、ダイヤモンドアンビルセルに上述の圧力を印加し、ファイバーレーザー等のレーザービームを原料粉末に照射すればよい。加熱温度は、色温度から判断され、レーザーの照射時間は、温度が一定になってから数分~数十分等であってもよい。上述の処理を
図2や
図3に示すダイヤモンドアンビルセル又はマルチアンビル装置を用いた高温高圧処理法によって行う場合、好ましくは、圧力範囲は、処理前において、20GPa以上55GPa以下の範囲であり、処理後において、15GPa以上60GPa以下の範囲を満たしてもよい。本発明の実施例においては、加熱前(処理前)の圧力と加熱後(処理後)の圧力とが大きく異なり得ることが分かっており、これらの圧力がそれぞれ上述の範囲を満たすように調整することにより、上述の12ホウ化プラセオジム(PrB
12)結晶を有する多ホウ化プラセオジムを製造することができる。更に好ましくは、圧力範囲は、処理前において、25GPa以上50GPa以下の範囲であってよく、処理後において、20GPa以上55GPa以下の範囲を満たしてもよい。加熱前の圧力と加熱後の圧力とがそれぞれ上述の範囲を満たすように調整することができる。このようにして、上述の12ホウ化プラセオジム(PrB
12)結晶を含む多ホウ化プラセオジムを主成分とする化合物を製造することができる。
【0038】
また、上述の処理を
図2や
図3に示すダイヤモンドアンビルセル又はマルチアンビル装置を用いた高温高圧処理法によって行う場合、好ましくは、温度範囲は、1000K(727℃)以上4000K(3727℃)以下の温度範囲であってもよい。この範囲内において、上述の12ホウ化プラセオジム(PrB
12)結晶を含む多ホウ化プラセオジムを製造することができる。更に好ましくは、温度範囲は、1500K(1227℃)以上3500K(3227℃)以下の温度範囲であってもよい。また、圧力範囲は、処理前において、20GPa以上55GPa以下の範囲であってもよい。また、処理後において、15GPa以上60GPa以下の範囲を満たしてもよい。このような条件を選択することができる。このようにして、上述の12ホウ化プラセオジム(PrB
12)結晶を含む多ホウ化プラセオジムを主成分とする化合物を高収率で製造することができる。
【0039】
本発明の実施例について、以下に示す例によって更に詳しく説明するが、これはあくまでも本発明の実施例において、容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[使用した原料]
用いた原料粉末は、酸化プラセオジム粉末(型番:Pr6O11、純度:99.99%、平均粒径:8μm、株式会社レアメタリック製)及びホウ素粉末(形態:crystalline、純度:99%、株式会社高純度化学研究所製)であった。
【0041】
[PrB6の調製]
PrB6は、次のような反応式により生成されてよい。
Pr6O11+47B → 6PrB6+11BO↑
上記酸化プラセオジム粉末及びホウ素粉末を、上記式の当量に合わせて秤量し、自動乳鉢で30分間、攪拌混合を行った。この混合粉末を、φ8mm、長さ5~10cmのイマムラのラテックススリーブに棒状に詰め、株式会社日機装製CIPにより、2500気圧で粉末試料の圧粉体を形成した。この圧粉体をラバーから取り出し、高周波誘導加熱炉(株式会社セレック製の真空炉。加熱用電源:トランジスタインバータ方式(200kHz、20kW、株式会社日新技研製)。)内に配置した石英管中に加熱用の原料棒+BN筒+カーボンるつぼ+カーボンフェルトを挿入した。真空雰囲気下で、約1700℃の温度で1時間誘導加熱を行った。その後、室温近くまで冷却し、大気圧下で原料棒を取り出した。この原料棒を粉砕して、以下のように調べると、多結晶試料が生成したことが、粉末のX線回折解析により分かった。尚、未反応の金属プラセオジムが残っていた場合は、試料粉末は塩酸で1日洗浄して除去してもよい。或いは、イメージ炉に焼成後の原料棒をFZ法により帯域溶融を行い純良化することもできる。
【0042】
[PrB
12の調製(例1~9)]
上述のPrB
6粉末及びホウ素粉末(フルウチ化学株式会社製、純度:99%)を以下の反応式の当量に合わせて秤量し、自動乳鉢で30分間、攪拌混合を行った。
PrB
6+6B → PrB
12
この混合粉末を、レニウムガスケット中に充填し、
図3に示すレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルの試料部(加熱部分)にセットした。ダイヤモンドアンビルセルの処理前(加熱前)の圧力を印加し、100Wのファイバーレーザーからレーザービームを原料粉末に照射した。なお、レーザービームは、20μmφに集光されており、原料粉末全体をスキャンし、表2に示す温度範囲内とした。なお、加熱温度は色温度から判断した。レーザーの照射時間は、温度が一定になってから数分(5分~10分)であった。また、処理後(加熱後)の圧力が表2に示す圧力となるよう制御した。なお、圧力値は、DAC高圧観察実験の場合はダイヤモンドアンビルのラマン散乱スペクトルと試料に混合した塩化ナトリウムのX線回折線を用いて測定した。
【0043】
図4は、X線構造解析のための測定系を示す図である。処理後の試料について、
図4に示すように、ダイヤモンドアンビルセルを減圧することなくそのまま測定系セルに使用し、X線構造解析を行った。放射光(Spring-8)からのX線をシリコンで単色化し(λ=0.33256Å)、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンからX線構造解析を行い、格子定数等結晶構造パラメータを求めた。
【0044】
次いで、処理後の試料について、ダイヤモンドアンビルセルを1気圧に減圧し、セルから試料を取り出し、X線構造解析を行い、格子定数等の結晶構造パラメータを求めた。このようにして、表2の例1~9の試料を準備した。例1及び例2において、例1にある圧力(47.5GPa)とレーザー加熱温度(2000-3000K)により得られた試料の高圧下でのX線構造解析から得たaの長さは、7.1341(13)Åであったが、例1の試料を取り出して1気圧下で得たaの長さは、7.5762(5)Åであった。同様なことが、例3及び例4、例6及び例7、例8及び例9において得られた。高圧下では、aの長さは、それぞれ、約5.8%、約4.7%、約5.2%、約4.5%縮んだことになる。体積も同様に縮んだ。製造工程の圧力は、33.8GPa、36.3GPa、41.5GPa、42.7GPa、及び47.5GPaであり、20GPa以上、25GPa以上、又は30GPa以上が好ましいと考えられる。製造温度は、2000-3000K(1727-2727℃)の範囲であり、1500K以上、1750K以上、又は2000K以上が好ましいと考えられる。
【0045】
【0046】
例7で得られた試料のXRDパターンを
図4に示す。特筆すべきピークには、帰属する結晶構造及び面指数が記載されている。NaClの強いピークは、混入した媒体である塩化ナトリウムに帰属する。大部分は、PrB
12に帰属するが、一部PrB
25に帰属するピークもあり、生成物中の主成分がPrB
12結晶であるが、第2成分としてPrB
25結晶が含まれていることがわかる。
図6は、計算から求めたPrB
12結晶及びPrB
25結晶のピークを並べで表した図である。図中*が付されたピークは、帰属が未定のものである。ここから、明らかに生成した多ホウ化プラセオジム化合物は、PrB
12結晶を主成分とし、PrB
25結晶を副成分として含んでいることが分かる。これらは、既知の方法で分離も可能である。
【0047】
以上より、原料粉末としてPrを含む化合物及びホウ素を用い、2000K以上の温度範囲で、30GPa以上の圧力範囲で処理することによって、少なくともPrB12結晶を含む多ホウ化プラセオジム化合物が製造されたことが分かる。
【0048】
また、得られたPrB12結晶は、表1に記載の結晶パラメータを有するが、これはこれまで報告されていない新規な結晶であり、多ホウ化プラセオジム化合物を示している。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の実施例において、少なくともPrB12結晶を含む多ホウ化プラセオジム化合物は、磁性材料として、他の希土類多ホウ化物と同様使用することができる。また、少なくともPrB12結晶を含む多ホウ化プラセオジム化合物は、光吸収材としてガラスに使用され得る。更に、熱電特質から、熱電材料や半導体としての応用が期待される。また、B元素により強固なケージ構造を取り、硬質物質として硬質材料に適用され得る。