(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039796
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】加圧下着、これに用いられるクッション材及び被覆体
(51)【国際特許分類】
A41D 13/12 20060101AFI20220303BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20220303BHJP
A41D 13/05 20060101ALI20220303BHJP
A41C 3/00 20060101ALI20220303BHJP
A41C 3/10 20060101ALI20220303BHJP
A41C 3/14 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
A41D13/12 145
A41D13/00 107
A41D13/05 118
A41C3/00 A
A41C3/10 Z
A41C3/14 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144991
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】508345645
【氏名又は名称】株式会社シーエス
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】前田 訓子
(72)【発明者】
【氏名】山本 滋
【テーマコード(参考)】
3B011
3B131
【Fターム(参考)】
3B011AA01
3B011AB08
3B011AC21
3B131AA14
3B131AB01
3B131BA04
3B131BA21
3B131BA31
3B131BB09
(57)【要約】
【課題】胸部の創部に対応して配置されたクッション材の大きさを増大することが、創部に対する効率的な加圧をもたらし得ることにより、創部の回復を十分に促進可能な加圧下着を提供する。
【解決手段】伸縮性布素材を有する前身頃2及び後身頃3を備え、着用時に胸部の創部に加圧可能な加圧下着1であって、前身頃2は、この前身頃2を左右に分割する位置の中心線CLについて対称的に配置されるポケット4,4を備え、ポケット4,4は、それぞれ、表側に設けられる表布と、この表布の裏面に設けられる裏布が重なり合わされてなり、表布と裏布との間にクッション材を収容可能であって、裏布は、表布よりも強伸縮性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性布素材を有する前身頃及び後身頃を備え、着用時に胸部の創部に加圧可能な下着であって、
前記前身頃は、この前身頃を左右に分割する位置の中心線を超えないように配置される少なくとも1個のポケットを備え、
前記ポケットは、表側に設けられる表布と、この表布の裏面に設けられる裏布が重なり合わされてなり、前記表布と前記裏布との間にクッション材を収容可能であって、
前記裏布は、前記表布よりも強伸縮性を有することを特徴とする加圧下着。
【請求項2】
前記ポケットの前記表布は、縦伸縮性を有することを特徴とする請求項1に記載の加圧下着。
【請求項3】
前記前身頃は、前記ポケットの上方に配置される上方部を備え、
前記上方部は、少なくとも1枚の横伸縮性布素材からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加圧下着。
【請求項4】
前記前身頃は、前記中心線に沿って前方接合部が形成されるとともに、前記後身頃との境界に一対の側方接合部がそれぞれ形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の加圧下着。
【請求項5】
前記ポケットは、前記中心線について対称的に設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の加圧下着。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の加圧下着に用いられる前記クッション材であって、第1の面と、第2の面を有するとともに、その内部に気体を注入及び排出するための注排口が前記第1の面と前記第2の面の境界に設けられ、前記内部の容積を調整可能な袋体であることを特徴とするクッション材。
【請求項7】
請求項6に記載のクッション材を備え、前記表布は、前記クッション材を前記ポケットに収容した際に、前記注排口に対応する箇所に貫通孔が設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の加圧下着。
【請求項8】
請求項6に記載のクッション材を構成する前記第1及び第2の面の少なくとも一方を被覆した状態で、前記ポケットに収容される被覆体であって、
前記被覆体は、前記第1の面を構成する第1の面部材よりも低伸縮性を有し、かつ前記第2の面を構成する第2の面部材よりも低伸縮性を有する1枚以上の第3の面部材を備え、
前記第3の面部材のうちの少なくとも1枚が、前記ポケットの前記表布と、前記クッション材の間に配置されることを特徴とする被覆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳房手術後の創部を加圧するための加圧下着等に係り、特に、この加圧下着に収容されるクッション材の大きさを調整することが、創部を効率的に加圧する効果をもたらし得る加圧下着、これに用いられるクッション材及び被覆体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、乳房全切除後では、創部からの出血を防止するため、例えば、幾層にも重ねたガーゼを創部に当てた後、幅広のテープ素材や伸縮性の布素材からなる市販のバストバンドを用いて、胸部を締め付けるといった圧迫方法が採られてきた。
しかし、テープ素材を用いた場合、表皮剥離、水疱形成または皮膚炎といった症状が起こり易いという課題があった。
また、バストバンドを用いた場合では、患者毎の圧力調整がし難い、ガーゼがずれ易いといった問題点があり、創部を必要な圧力で均一に圧迫することが困難であった。その結果、創部の皮膚と胸壁を均一に密着させて新生血管の増生を促進することが不十分になるという課題があった。さらに、着用時の見た目が悪い、執刀医が自ら締め付けの強さを調節する必要があるために煩雑であるといった課題もあった。
そこで、近年、上記のような課題を解決するための下着に関する技術が開発されており、それに関して既にいくつかの考案が開示されている。
【0003】
特許文献1には「サポーター」という名称で、乳がん等の手術後に、包帯代わりに使用されるサポーターに関する考案が開示されている。
以下、特許文献1に開示された考案について説明する。特許文献1に開示された考案は、弾性繊維素材からなる前身頃と後身頃を備え、前身頃は乳房を被う左右1対のカップを有し、着用者の両肩及び前胸部中央は接合分離可能な接合部がそれぞれ設けられることを特徴とする。
このような特徴を有する考案においては、前身頃と後身頃がいずれも弾性繊維素材で形成されるため、表皮剥離等が起こらず、着用者の苦痛を軽減させることができる。また、接合部が設けられることにより、着用者のサイズまたは希望する強さに左右の前身頃と後身頃との接合を容易に調節可能である。さらに、カップが設けられるため、このカップにガーゼやパッドを入れることで、そのずれを防止可能であるとともに、容姿を整えるための苦労を軽減することもできる。
【0004】
また、特許文献2には「サイズ調整可能なブラジャー」という名称で、サイズ調節が可能なブラジャーに関する考案が開示されている。
特許文献2に開示された考案は、吸汗性の綿織布からなる内層と、弾性材質からなるカップ状の外層と、内層と外層の間に挿入されるカップ形の空気嚢からなり、この空気嚢は、外層の周縁と、内層の周縁同士が貼り合わされてなるとともに空気を注入及び排出可能な入気口及び空気抜き弁を備え、空気嚢の外層は内層よりも軟質粘着性を有することを特徴とする。
このような特徴を有する考案においては、空気嚢に空気を注入及び排出してその大きさを簡単かつ自在に調整できるほか、前述の表皮剥離等を防止できる。したがって、特許文献2に係る考案を、乳房手術後においても好適に使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実願昭53-51740号(実全昭54-154690号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
【特許文献2】実開平5-85807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された考案によれば、接合部同士を接合させると、弾性繊維素材からなる前身頃や後身頃が伸展することで、復元力が体表面に沿った方向に発生する。その結果、前方に膨らみ難くなった前身頃と、後方に膨らみ難くなった後身頃によって、胸部全体が締め付けられることになる。
しかし、カップは弾性繊維素材で形成されておらず、復元力が前身頃程度に高くないため、カップ内のガーゼ等によりカップは主に前方へ膨らむことになる。よって、ガーゼ等がカップによって創部に押し付けられるという作用は乏しいものと考えられる。したがって、特許文献1に開示された考案においては、接合部同士をより接近させることが、創部を効率的に加圧する効果を確実にもたらすとはいえず、創部の回復を十分に促進できないおそれがある。
【0007】
次に、特許文献2に開示された考案においては、空気嚢の外層は内層よりも軟質粘着性を有するため、空気嚢は、空気が充填されると主に外層側へ膨張する。そのため、弾性材質からなるカップ状の外層が外側方向へ拡張し、綿織布からなる内層は創部に密着し難くなる。したがって、特許文献2に開示された考案においては、空気嚢の大きさを増大させることが、創部を効率的に加圧する効果を確実にもたらすとはいえず、特許文献1に開示された考案と同様に、創部の回復を十分に促進できないおそれがある。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、胸部の創部に対応して配置されたクッション材の大きさを増大することが、創部に対する効率的な加圧をもたらし得ることにより、創部の回復を十分に促進可能な加圧下着、これに用いられるクッション材及び被覆体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1の発明は、伸縮性布素材を有する前身頃及び後身頃を備え、着用時に胸部の創部に加圧可能な下着であって、前身頃は、この前身頃を左右に分割する位置の中心線を超えないように配置される少なくとも1個のポケットを備え、ポケットは、表側に設けられる表布と、この表布の裏面に設けられる裏布が重なり合わされてなり、表布と裏布との間にクッション材を収容可能であって、裏布は、表布よりも強伸縮性を有することを特徴とする。
このような構成の発明において、前身頃及び後身頃は、1種類の伸縮性布素材で形成されても、複数種類の伸縮性布素材で形成されても良い。
【0010】
また、ポケットは、創部が胸部の右側及び左側のいずれに形成されているかに対応して前身頃の中心線よりも右側のみ、または左側のみにそれぞれ1個ずつ設けられるほか、中心線について対称的に1対設けられる。
このうち、1個のポケットのみが設けられる場合、前身頃のうち、このポケットと中心線について対称的な部分は、例えば、ポケットを構成する表布のみから構成されるほか、この表布と、ポケットを構成する裏布が重ね合わされて構成されても良く、ポケットの表布や裏布のいずれとも異なる伸縮性布素材から構成されても良い。
なお、クッション材は、1対のポケットが設けられる場合、これらのポケットの少なくとも一方に収容される。そして、クッション材として、例えば、エアバッグや、布、スポンジ、シリコンからなるパッドといった、伸縮性を有してその大きさを変化させたり、柔軟性を有してその形状を変化させたりすることができるものが用いられる。なお、このクッション材は、創部を均一に加圧するために、面状をなしていることが望ましい。
【0011】
上記構成の加圧下着においては、前身頃及び後身頃が伸縮性布素材を有するため、この加圧下着を胸部に着用すると、前身頃及び後身頃が体表面に密着し、着用者の動きにかかわらずポケットの位置が創部からずれることなく配置される。次いで、1個のポケット、または1対のポケットのうち、創部が形成された側の一方に、例えばエアバッグからなるクッション材を収容し、その内部に空気を注入して大きさを増大させると、ポケットの裏布は表布よりも強伸縮性を有することから、裏布の方が表布よりも膨張する。また、この裏布が表布よりも高柔軟性を有していても良く、この場合も裏布の方が表布よりも膨張する。
すなわち、クッション材の膨張が、従来の場合と比較して、創部に加わる圧力を効率的に増大させる。
【0012】
次に、第2の発明は、第1の発明において、ポケットの表布は、縦伸縮性を有することを特徴とする。
このような構成の発明において、縦伸縮性とは、主に前身頃の中心線に略平行する縦方向に沿って伸縮する性質をいう。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、例えば、ポケットに収容されたクッション材の大きさを増大させると、表布は主に縦方向に沿って伸展するから、表布の縦方向の長さを短縮しようとする方向に復元力が発生する。
よって、表布が伸展すると、クッション材は主に表布の縦方向の中央に向かう方向の圧力を受ける。
【0013】
続いて、第3の発明は、第1又は第2の発明において、前身頃は、ポケットの上方に配置される上方部を備え、上方部は、少なくとも1枚の横伸縮性布素材からなることを特徴とすることを特徴とする。
このような構成の発明において、横伸縮性とは、主に前身頃の中心線に略直交する横方向に沿って伸縮する性質をいう。
上記構成の発明においては、第1又は第2の発明の作用に加えて、上方部の復元力は、主に横方向に沿って、その長さを短縮する方向へ発生する。そのため、上方部の下方に配置されるポケットが縦方向に沿って伸展することや、ポケット自体が上方へ移動することが抑制される。特に、第3の発明が第2の発明の構成を備える場合、ポケットの表布が縦方向に沿って伸展した際に、ポケットの表布に発生した復元力が、上方部に発生した復元力と相殺して弱まることが防止される。
なお、1個のポケットのみが設けられる場合、上方部と中心線について対称的な部分を構成する布素材は、例えば、上方部と同一の布素材から構成されるほか、上方部と異なる伸縮性布素材から構成されても良い。
【0014】
続いて、第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前身頃は、中心線に沿って前方接合部が形成されるとともに、後身頃との境界に一対の側方接合部がそれぞれ形成されることを特徴とする。
このような構成の発明において、前方接合部は、1枚の前身頃を中心線に沿って左右に分離かつ接合可能であり、例えば面ファスナーや線ファスナーで構成される。また、一対の側方接合部は、左右の前身頃と後身頃をそれぞれの境界部に沿って分離かつ接合可能であり、前方接合部と同様に、例えば面ファスナー等で構成される。
上記構成の発明においては、第1乃至第3のいずれかの発明の作用に加えて、前身頃が前開きとなるとともに、両脇部分も開閉可能となるため、着用や脱衣が容易となる。また、加圧下着を着用時には、両脇部分における前身頃と後身頃同士の間隔がそれぞれ調整される。そのため、体表面に対する締め付け力が過不足になることが防止される。
【0015】
さらに、第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、ポケットは、中心線について対称的に設けられることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第3の発明を構成する上方部を備える場合、この上方部も中心線について対称的に設けられる。また、前述したように、クッション材は、2個のポケットの少なくとも一方に収容される。よって、上記構成の発明においては、第1乃至第4のいずれかの発明と同様の作用を有する。
【0016】
さらに、第6の発明は、第1乃至第5の発明のいずれかに係る加圧下着に用いられるクッション材であって、第1の面と、第2の面を有するとともに、その内部に気体を注入及び排出するための注排口が第1の面と第2の面の境界に設けられ、内部の容積を調整可能な袋体であることを特徴とする。
このような構成の発明においては、注排口が第1の面と第2の面の境界に設けられ、この境界を含む面を中心に第1の面側と第2の面側を対称とする位置に注排口が存在するため、クッション材を加圧下着の左右いずれのポケットに収容するかに関わらず、注排口の通気が確保される共通のクッション材として成立するように作用する。
【0017】
次に、第7の発明は、第6の発明に記載のクッション材を備え、表布は、クッション材をポケットに収容した際に、注排口に対応する箇所に貫通孔が設けられることを特徴とする。
このような構成の発明においては、注排口に対応する箇所に貫通孔が設けられるため、クッション材に気体を注排する場合に、クッション材を取り出し不要である。
また、クッション材が第5の発明に係る加圧下着に用いられる場合、貫通孔も1対のポケットの表布にそれぞれ設けられる。この場合、貫通孔が中心線について対称的に配置されると、クッション材の裏表を一方のポケットに収容したときと逆にすることで、他方のポケットにおいても、注排口が無理なく貫通孔に一致して配置される。
【0018】
そして、第8の発明は、第6の発明に記載のクッション材を構成する第1及び第2の面の少なくとも一方を被覆した状態で、ポケットに収容される被覆体であって、被覆体は、第1の面を構成する第1の面部材よりも低伸縮性を有し、かつ第2の面を構成する第2の面部材よりも低伸縮性を有する1枚以上の第3の面部材を備え、第3の面部材のうちの少なくとも1枚が、ポケットの表布と、クッション材の間に配置されることを特徴とする。
このような構成の発明において、1枚以上の第3の面部材を備える被覆体として、(1)2枚の第3の面部材が重ね合わされて袋状に形成される構成や、(2)1枚の第3の面部材と、1枚の他の面部材が重ね合わされて袋状に形成される構成、または、(3)1枚の第3の面部材のみからなる構成が考えられる。
【0019】
このうち、(1)の構成では、被覆体の内部にクッション材が収められた状態で、これらがポケットに収容される。よって、第3の面部材によって、第1の面と、第2の面がともに被覆される。
また、(2)の構成では、(1)の構成と同様に、クッション材が被覆体の内部に収められた状態で、ポケットに収容される。よって、第3の面部材によって、第1の面と、第2の面のうちのいずれか一方が被覆される。この場合、被覆体の内部に収められた状態のクッション材を、一対のポケットの双方で使用可能とするには、クッション材の左右の向きを入れ替えて被覆体に収めれば良い。
さらに、(3)の構成では、被覆体とクッション材が重なり合った状態でポケットに収容される。よって、第3の面部材によって、第1の面と、第2の面のうちのいずれか一方が被覆される。
【0020】
このような構成の発明においては、上記(1)乃至(3)のいずれの構成においても、第3の面部材がポケットの表布とクッション材の間に配置され、さらに第3の面部材は第1の面部材と第2の面部材の双方よりも低伸縮性を有していることから、第3の面部材によって、クッション材の第1及び第2の面のうち、少なくともポケットの表布側に配置された一方の膨張が抑制される。
よって、被覆体を使用すると、使用しない場合と比べて、空気が注入されたクッション材の厚みが均等に減少するため、クッション材の容量が実質的に減少したことになる。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によれば、着用者の動きにかかわらずポケットの位置が創部からずれることなく配置されるので、その内部に収容されるクッション材が創部を加圧した状態を維持できる。
また、クッション材の膨張と収縮が、従来の場合と比較して、創部に加わる圧力を効率的に増大させるため、特に手術直後において創部の回復を十分に促進可能である。
【0022】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、表布が縦伸縮性を有するために、クッション材は主に表布の縦方向の中央に向かう方向の圧力を受けることから、クッション材の上縁寄りと下縁寄りの部分の各厚みが増大し、中央部の厚みが不足することを防止できる。また、着用時には、クッション材が胸部に押し付けられるため、クッション材がほぼ均一な厚みとなり、創部を均一に加圧することが可能である。
さらに、中央部の厚みが不足することを防止できるので、着用時のシルエットも健側と比べて遜色ないものとなる。
【0023】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、ポケットの縦方向に沿った伸展や、ポケット自体の移動が抑制されるので、ポケットが上方に過剰に拡大したり、創部からずれたりすることを防止できる。また、特に、第3の発明が第2の発明の上方部を備える場合、ポケットの表布に発生した復元力が、上方部に発生した復元力と相殺して弱まることが防止されることから、創部を一層均一に加圧することができる。よって、創部全体をより早期に回復させることができる。
【0024】
第4の発明によれば、第1乃至第3のいずれかの発明の効果に加えて、加圧下着の着用や脱衣が容易となるため、手術直後の意識のない患者に着用させたり、体を動かし難い患者が自力で着用したりする際の負担を軽減できる。
【0025】
第5の発明によれば、第1乃至第4のいずれか発明の効果に加えて、ポケットが中心線について対称的に設けられるため、創部が右側にある患者と、創部が左側にある患者の双方に対し、共通した構成の加圧下着を適用可能である。したがって、製造コストを抑制できるため、着用者の費用負担を軽減可能である。
【0026】
第6の発明によれば、クッション材を左右いずれのポケットに収容するかに関わらず、注排口の通気が確保されるため、左右のポケット毎に異なる形状のクッション材を製造する必要がない。また、着用者がクッション材をポケットに装着する際に、その裏表に注意する必要もないため、使い勝手が良い。
【0027】
第7の発明によれば、第1乃至第5の発明の作用に加えて、クッション材を取り出すことなく気体を注排できるから、クッション材の大きさを手早く調整できる。
また、加圧下着が一対のポケットを備えて、貫通孔が中心線について対称的に配置される場合、クッション材の裏表を一方のポケットに収容したときと逆にすることで、他方のポケットにおいても、注排口が無理なく貫通孔に一致して配置することができる。
【0028】
第8の発明によれば、第3の面部材によって、クッション材の容量が実質的に減少したことになる。そのため、被覆体を使用すると、使用しない場合と比べて、わずかな空気量で創部に加わる圧力を増大させることができる。したがって、圧力の調整を手早く行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】(a)は実施例1に係る加圧下着を前身頃側から見た場合の正面図であり、(b)は同加圧下着を後身頃側から見た場合の背面図である。
【
図3】(a)は実施例1に係る加圧下着を表側から見た場合の展開図であり、(b)は同加圧下着を裏側から見た場合の展開図である。
【
図4】(a)は実施例1に係る加圧下着を構成するポケットをその表布側から見た場合の平面図であり、(b)は同ポケットをその裏布側から見た場合の平面図である。
【
図5】(a)は実施例1に係る加圧下着を構成するポケットに収容されるクッション材の平面図であり、(b)は同クッション材をポケットに収容した加圧下着の正面図である。
【
図7】(a)は実施例2に係る被覆体の平面図であり、(b)は同被覆体がその内部にクッション材を収容した場合の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0030】
本発明の実施の形態に係る加圧下着について、まず、
図1乃至
図3を用いて説明する。
図1(a)は実施例1に係る加圧下着を前身頃側から見た場合の正面図であり、
図1(b)は同加圧下着を後身頃側から見た場合の背面図である。
図2は、実施例1に係る加圧下着の斜視図である。
図3(a)は実施例1に係る加圧下着を表側から見た場合の展開図であり、
図3(b)は同加圧下着を裏側から見た場合の展開図である。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、実施例1に係る加圧下着1は、伸縮性布素材を有する前身頃2及び後身頃3を備え、着用時に胸部の創部、例えば乳房切除手術や乳房温存手術後の創部を加圧可能なブラジャータイプの下着である。
前身頃2は、この前身頃2を左右に略均等分割する位置の中心線CLについて対称的に配置される1対のポケット4,4と、このポケット4,4の上方に配置される上方部5,5と、ポケット4,4の下方に配置されるアンダーベルト部6,6を備える。
【0031】
また、ポケット4,4と上方部5,5の境界は、中心線CLと略直交して設けられる縫合部7,7によって、連通不能にそれぞれ仕切られている。そして、ポケット4,4とアンダーベルト部6,6の境界も、中心線CLと略直交して設けられる縫合部8,8によって、連通不能にそれぞれ仕切られている。したがって、ポケット4,4は、平面視で、それぞれ略五角形状をなしている。
なお、前身頃2の左右方向とは、着用時に、着用者の正中線と略直交する方向である。そして、中心線CLとは、前身頃2及び後身頃3をそれぞれ左右方向に略均等分割する位置にあると概念される仮想の線である。
【0032】
さらに、前身頃2は、中心線CLに沿って前方接合部9が形成され、前開きが可能となっている。この前方接合部9は、具体的には、線ファスナー9aと、この線ファスナー9aが縫着される短冊状の布片9bで構成される。しかし、線ファスナー9aの代わりに、面ファスナーや点ファスナーが用いられても良い。そして、布片9bの上端は外方へ略三角形状に折り返されて、線ファスナー9aのスライダーと引き手をカバーするためのカバー部9cを形成している。
【0033】
次に、後身頃3は、上方部5,5と連なる中央部10と、この中央部10の下方に配置され、アンダーベルト部6,6の間に配置されるアンダーベルト部11を備える。そして、上方部5,5と中央部10の境界は縫合部12,12によって連通不能にそれぞれ仕切られている。同様に、中央部10とアンダーベルト部11の境界も縫合部13によって連通不能に仕切られている。
また、加圧下着1の襟繰りと、脇繰りは、いずれも帯状の布ゴム14が縫着され、補強されている。
【0034】
次に、
図2及び
図3に示すように、前身頃2と後身頃3との2箇所の境界は、一対の側方接合部15,15がそれぞれ形成される。この側方接合部15は、具体的には、前身頃2の端縁2aと、後身頃3の端縁3aに沿ってそれぞれ面ファスナー16a,16bが縫着されて構成される。
このうち、前身頃2に縫着された面ファスナー16aの方が、後身頃3に縫着された面ファスナー16bよりも左右方向に幅広になっているため、面ファスナー16aに対する面ファスナー16bの係着位置を変更することで、加圧下着1の胴周りのサイズを調整可能である。なお、これ以外にも、側方接合部15,15が線ファスナーや点ファスナーで構成されても良い。
【0035】
また、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、前身頃2において、ポケット4は、表側に設けられる表布17と、この表布17の裏面に設けられる裏布18が重なり合わされてなり、表布17と裏布18との間に面状のクッション材28(
図5参照)を収容可能である。
詳細には、表布17は、立体裁断された合成繊維製の伸縮性布素材である2片の表布片17a,17bが、中心線CLに対してやや傾斜した縫合部17cによって縫合されて形成されたものである。表布17として、例えば荷重14.7(N)を加えた場合の布地の縦方向の伸び率が190±20(%)であり、横方向の伸び率が90±20(%)(「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法」に記載の伸び率試験B法に準拠した試験方法による値)の布素材が選択される。ただし、これ以外の伸び率が選択されても良い。また、表布17は、クッション材28をポケット4,4のいずれかに収容した際に、注排口30を挿通可能な箇所に、貫通孔17dが設けられている。
そして、裏布18も同様に、立体裁断された合成繊維製の伸縮性布素材である2片の裏布片18a,18bが、縫合部17cと同位置に配置される縫合部18cによって縫合されて形成されたものである。ただし、裏布18は、表布17よりも強伸縮性を有している。すなわち、同一の大きさの表布17と裏布18に、同じ強さの下向きの荷重を一定時間加えた場合、伸展した長さは表布17よりも裏布18の方が長い。例えば、裏布18における布地の縦方向及び横方向の伸び率は、表布17の各伸び率に対して、10~30(%)増大したものが選択されるが、これ以外の伸び率が選択されても良い。
【0036】
続いて、上方部5は、いずれも合成繊維製の伸縮性布素材からなる表布19と、裏布20が重なり合わされて形成される。このうち、表布19は、ポケット4の表布17と同一種類の布素材からなり、この表布17と同程度の伸縮性を有している。また、上方部5の裏布20は、ポケット4の裏布18よりも低伸縮性を有しているが、ポケット4の表布17よりも強伸縮性を有している。
ただし、上方部5の表布19と裏布20の伸縮方向は、いずれもポケット4の表布17の伸縮方向とは異なる。この点については、
図4を用いて詳細に説明する。
【0037】
そして、アンダーベルト部6は、帯状の布ゴム22が、ポケット4の表布17と同一の布素材からなる表布21に縫着されて形成される。具体的には、表布21と、表布17は、同じ1枚の布素材から構成される。また、布ゴム22は、着用時に主に前身頃2の中心線CLに略直交する横方向に沿って伸縮する横伸縮性を有し、その収縮力は、加圧下着1を構成する布素材のうちで最大である。
【0038】
次に、後身頃3において、中央部10は、表側に設けられる表布23と、この表布23の裏面に設けられる裏布24が重なり合わされてなる。このうち、表布23は、前身頃2の表布17と同一種類の布素材からなり、この布素材が立体裁断された3片の表布片23a,23b,23bが、中心線CLに対してやや傾斜した縫合部23c,23cによって縫合されて形成されたものである。
そして、裏布24は、上方部5の裏布20と同一種類の布素材からなる。よって、中央部10においても、裏布24は、表布23よりも強伸縮性を有している。
【0039】
また、アンダーベルト部11は、前身頃2の布ゴム22と同一の布素材からなる布ゴム26が、表布23と同一の布素材からなる表布25に縫着されて形成される。このうち、布ゴム26は、布ゴム22と同様の素材からなり、横伸縮性を有している。したがって、布ゴム26の収縮力の強さも、加圧下着1を構成する布素材のうちで最大である。
【0040】
続いて、加圧下着を構成するポケットの構成について、
図4を用いてより詳細に説明する。
図4(a)は実施例1に係る加圧下着を構成するポケットをその表布側から見た場合の平面図であり、
図4(b)は同ポケットをその裏布側から見た場合の平面図である。なお、
図1乃至
図3で示した構成要素については、
図4においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図4(a)に示すように、前身頃2のうち、布片9bを備える一方においては、ポケット4の表布片17a,17bは、いずれも矢印A
1で示す縦伸縮性を有している。ここで、縦伸縮性とは、主に前身頃2の中心線CLに略平行する縦方向Yに沿って伸縮する性質をいう。具体的には、表布17の伸び率のうち、前述の縦方向の伸び率が縦方向Yの伸び率である。
また、ポケット4の表布片17a,17bと、アンダーベルト部6の表布21は、同じ1枚の布素材から構成されるため、表布21も縦伸縮性を有している。これに対し、上方部5の表布19は、矢印A
2で示す横伸縮性を有している。
【0041】
次に、
図4(b)に示すように、ポケット4の裏布片18a,18bは、伸縮性を有しているが、これは特定方向に沿ったものではない。これに対し、上方部5の裏布20と、アンダーベルト部6の布ゴム22は、それぞれ矢印A
2で示す横伸縮性を有している。
また、裏布片18a,18bにおいては、縫合部18cと縫合部13が交わる位置に、クッション材28をポケット4へ収容および取り出しをするための収容口27が設けられる。前身頃2のうち、布片9bを備えない他方においても、上記と同様の構成を備える。
【0042】
続いて、実施例1に係る加圧下着を構成するポケットに収容されるクッション材について、
図5を用いて説明する。
図5(a)は実施例1に係る加圧下着を構成するポケットに収容されるクッション材の平面図であり、
図5(b)は同クッション材をポケットに収容した加圧下着の正面図である。なお、
図1乃至
図4で示した構成要素については、
図5においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図5(a)に示すように、前身頃2のポケット4,4の少なくともいずれか一方に収容されるクッション材28は、その内部に気体を注入及び排出する注排口30を介して、内部の容積を調整可能な袋体である。
【0043】
クッション材28は、平面視で、略長方形状をなす第1の面28aと、この第1の面28aと同一形状の第2の面28bを有している。詳細には、クッション材28は、第1の面28aを構成する第1の面部材29aの周縁部と、第2の面28bを構成する第2の面部材29bの周縁部同士が貼り合わされてなり、略長方形状の角部の一つが面取りされた面取り部28cが形成されている。この面取り部28cは、クッション材28がポケット4,4に収容された際に、着用者の腋下寄りに配置されることを想定したものである。また、第1の面部材29aと、第2の面部材29bは、いずれも伸縮性を有する布素材から形成される。なお、第1の面部材29aと、第2の面部材29bは、縦伸縮性を有していても良い。
【0044】
さらに、クッション材28には、一の角部28dにおいて、注排口30が、第1の面28aと、第2の面28bの境界に設けられる。
この注排口30は、具体的には、柔軟性を有することで、屈曲可能な合成樹脂製であって、一端の開口部に開閉蓋を備え、2cm程度の長さと1cm程度の直径を有する有蓋チューブ30aと、この有蓋チューブ30aの他端と一体的に設けられ、クッション材28の内部に収納される逆止弁30bからなる。より正確には、有蓋チューブ30aの先端寄りの大部分が第1の面28aと、第2の面28bの境界を貫通して突出し、逆止弁30bはクッション材28の内部において第1の面部材29aに接着固定されている。
そのため、
図5(b)に示すように、表布17,17は、クッション材28をポケット4,4に収容した際に、注排口30の有蓋チューブ30aを挿通可能な箇所に、それぞれ貫通孔17d,17dが設けられている。よって、着用者は、有蓋チューブ30aの先端寄りの大部分を貫通孔17dから露出させ、開口部に空気ポンプを接続することによりクッション材28に給気することができる。
【0045】
また、貫通孔17d,17dは、中心線CLを挟んで互いに接近して設けられる。これは、クッション材28をポケット4,4のいずれに収容した場合でも、有蓋チューブ30aを前方接合部9寄りに配置することを可能としたものである。そのため、クッション材28における注排口30の配置によっては、貫通孔17d,17dは、ポケット4,4の範囲内で、中心線CLを挟んで側方接合部15,15寄りに離隔して設けられても良い。
なお、クッション材28の注排口30を第1の面28aと、第2の面28bの境界に設けたため、第1の面部材29aと第2の面部材29bを略同一形状とすると、この境界を含む面を中心に第1の面28a側と第2の面28b側を対称とする位置に注排口30を存在させることができるため、クッション材28を加圧下着1の左右いずれのポケット4に収容するかに関わらず、注排口30の通気が確保される共通のクッション材となる。よって、左右のポケット4,4毎に異なる形状のクッション材28を製造する必要がなく、着用者がクッション材28をポケット4,4に装着する際に、その裏表に注意する必要もないため、使い勝手が良い。
【0046】
次に、ポケットの作用について、
図6を用いてより詳細に説明する。
図6(a)及び
図6(b)は、それぞれ
図5におけるA-A線での断面図である。なお、
図1乃至
図5で示した構成要素については、
図6においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図6(a)に示すように、加圧下着1を着用する前に、ポケット4に収容されたクッション材28に注排口30(
図7参照)を介して給気し、その大きさを増大させると、ポケット4の表布17と裏布18が伸展し、膨張する。ただし、裏布18は表布17よりも強伸縮性を有することから、裏布18の方が表布17よりも大きく膨張する。
よって、加圧下着1においては、クッション材28の膨張が、表布と裏布の伸縮性が同等な場合や、表布が裏布よりも強伸縮性を有する従来の場合と比較して、創部に加わる圧力を効率的に増大させる。
【0047】
一方、着用者が創部に加わる圧力が過剰であると感じた場合は、注排口30を介して排気し、クッション材28の大きさを減少させると、裏布18の方が表布17よりも形状が変化し易いために、主に裏布18がクッション材28の側に向かって凹むことになる。すなわち、クッション材28の収縮が、従来の場合と比較して、創部に加わる圧力を効率的に減少させる。
【0048】
また、表布17は主に縦方向Yに沿って伸展するから、表布17の縦方向Yの長さを短縮しようとする方向に復元力F,Fが発生する。この復元力F,Fがクッション材28に加わる圧力となるから、クッション材28は、縦方向Yに沿って互いに離れる方向へ分散されない方向に圧力を受ける。よって、クッション材28は、その縦方向における中央部分の厚みが増すことになる。
【0049】
よって、
図6(b)に示すように、着用時においても、クッション材28の大きさが増大すると、主に裏布18が膨張し、胸部50を圧迫する。加えて、表布17の復元力F,Fにより、クッション材28自体もその縦方向における中央部分の厚みが増すことになるから、縫合部7寄りと縫合部13寄りのクッション材28の厚みが薄くなることが防止される。ただし、クッション材28は、厚みが増した中央部分が胸部50によって押され、この中央部分が緩やかに凹むことになる。
その結果、クッション材28は、着用時に、全体的にほぼ同等な厚みとなるため、創部(図示せず)は均一な力で加圧されることになる。
なお、表布17に加えて裏布18も縦伸縮性を有していても良い。この場合、創部は、一層均一に加圧される。
【0050】
また、上方部5の表布19は、横伸縮性(
図4(a)参照)を有していることから、ポケット4の表布17が縦方向Yに沿って伸展した際に、表布19の復元力は、主に横方向に沿って、表布19の長さを短縮する方向へ発生する。そのため、ポケット4の表布17に発生した復元力Fが、上方部5の表布19に発生した復元力と相殺して弱まることが防止される。上方部5の裏布20も横伸縮性(
図4(b)参照)を有していることから、裏布20によっても上記の作用が発揮される。
【0051】
上記構成の加圧下着1においては、前身頃2及び後身頃3が伸縮性布素材を有するため、この加圧下着1を胸部に着用すると、前身頃2及び後身頃3が体表面に密着する。特に、アンダーベルト部6,6とアンダーベルト部11が、最も強力に横伸縮性を有していることから、着用者の動きによって、加圧下着1が胸部からずれることが防止される。したがって、ポケット4,4の位置が創部からずれることなく配置されて、クッション材28を収容した際に創部が持続的に加圧される。
【0052】
また、加圧下着1においては、前方接合部9と、側方接合部15,15が設けられるため、着用や脱衣が容易となる。そして、加圧下着1を着用時には、両脇部分における面ファスナー16aと面ファスナー16b同士の間隔がそれぞれ調整されるため、体表面に対する締め付け力が過不足になることが防止される。さらに、側方接合部15,15は、柔軟性を有する面ファスナー16a,16bから構成されるため、就寝する際に両脇部分に痛みを感じることがない。
【0053】
加えて、加圧下着1においては、クッション材28の注排口30が第1の面28aと、第2の面28bの境界の角部28dに設けられ、かつ注排口30を構成する有蓋チューブ30aは屈曲可能な長さを有しているため、貫通孔17d,17dのいずれに対しても、有蓋チューブ30aが無理なく貫通孔17d,17dに挿通される。
また、貫通孔17d,17dは中心線CLについて対称的に配置されることから、クッション材28の裏表を一方のポケット4に収容したときと逆にすることで、他方のポケット4においても上記と同様に、有蓋チューブ30aが無理なく他方の貫通孔17dに一致して配置される。
【0054】
以上説明したように、実施例に係る加圧下着1によれば、前着用者の動きにかかわらずポケット4,4の位置が創部からずれることなく配置されるので、クッション材28を収容した際に、クッション材が創部を加圧した状態を維持できる。
また、裏布18が表布17よりも強伸縮性を有することによって、クッション材の膨張と収縮が、従来の場合と比較して、創部に加わる圧力を効率的に増大させたり、減少させたりすることができる。そのため、特に手術直後において、創部の皮膚と胸壁を均一に密着させて新生血管の増生を十分に促進することができるとともに、術後の時間経過に応じた適切な圧力の大きさを容易に実現可能である。なお、このような圧力調整は、着用者自身や看護者が行うことができるため、執刀医の負担を軽減可能である。
【0055】
また、加圧下着1によれば、表布17の復元力F,Fにより、着用時に、クッション材28が全体的にほぼ同等な厚みとなり、その中央部の厚みが不足することを防止できるため、創部を均一に加圧することが可能である。よって、創部全体をより早期に回復させることができる。これと同時に、着用時のシルエットも健側と比べて遜色ないものとなるので、従来の課題であった着用時の見た目の悪さを解消可能である。
さらに、上方部5の表布19が横伸縮性を有していることで、ポケット4の表布17に発生した復元力Fが、表布19に発生した復元力と相殺して弱まることが防止されることから、創部を一層均一に加圧することができる。
【0056】
加えて、加圧下着1によれば、前方接合部9及び側方接合部15,15が設けられることにより、着用や脱衣が容易となるため、手術直後の意識のない患者に着用させたり、体を動かし難い患者が自力で着用したりする際の負担を軽減できる。
そして、加圧下着1を着用時に、体表面に対する締め付け力が過不足になることが防止されることから、手術直後のみならずその後一定期間に渡って着用する場合にも、創部の回復を十分に促進可能であるとともに、過剰な締め付けによる息苦しさといった不快感を軽減することができる。
さらに、貫通孔17d,17dが、中心線CLを挟んで互いに接近して設けられるため、着用者がクッション材28に給排気する際の操作性が良好である。また、貫通孔17d,17dのいずれに対しても、有蓋チューブ30aが無理なく貫通孔17d,17dに挿通されるため、貫通孔17d,17dに空気ポンプを接続し易く、左右のポケット4,4毎に、注排口30の配置が異なるクッション材を製造する必要がない。したがって、製造コストを抑制できるため、着用者の費用負担を軽減可能である。
詳細には、被覆体31は、その4辺のうちの3辺が閉じられ、残りの1辺は開放口32となっており、クッション材28をその内部に挿入可能な袋状に形成される。この開放口32においては、面ファスナー32a,32bが第3の面部材31a,31bにそれぞれ縫着されている。よって、第3の面部材31aを、第3の面部材31bの方へ折り畳むと、面ファスナー32a,32b同士が係着して開放口32が封止される。
また、被覆体31は、閉じられた角部の一方が切り欠かれ、クッション材28の有蓋チューブ30aを挿通可能な切り欠き部33が形成されている。
上記構成の被覆体31においては、第3の面部材31a,31bは第1の面部材29aと第2の面部材29bの双方よりも低伸縮性を有していることから、第3の面部材31a,31bによって、クッション材28の第1の面28a及び第2の面28bの膨張が抑制される。
よって、被覆体31を使用すると、使用しない場合と比べて、空気が注入されたクッション材28の厚みが均等に減少するため、クッション材28の容量が実質的に減少したことになる。
したがって、被覆体31を使用すると、使用しない場合と比べて、わずかな空気量で創部に加わる圧力を増大させることができる。したがって、圧力の調整を手早く行うことが可能になり、操作性が向上する。また、被覆体31を使用するか否かや、第3の面部材31a,31bの伸縮性の強さを選択することで、創部に対する細かな圧力調整が可能となる。
なお、本発明に係る加圧下着は、実施例に示すものに限定されない。例えば、加圧下着1は、ブラジャータイプであるほか、袖部を有するシャツタイプであっても良い。前者の場合、縫合部7,7を上方部5,5の方へ移動させてポケット4,4を縦方向に拡張し、かつクッション材28をこのポケット4,4の形状にほぼ一致させることで、着用者の腋下を加圧可能に構成しても良い。
また、後者の場合、縫合部7,7を袖部の方へ移動させてポケット4,4の上方を横方向に拡張し、着用者の腋下を加圧可能に構成しても良い。
さらに、前方接合部9と側方接合部15,15の代わりに、横伸縮性を有する布素材が用いられても良く、縫合部12,12の代わりに、接合分離可能な接合部が設けられても良い。
そして、加圧下着1は、ポケット4が中心線CLよりも右側のみ、または左側のみにそれぞれ1個ずつ設けられても良い。
加えて、ポケット4の裏布18が縦伸縮性を有していても良い。また、上方部5の表布19と、裏布20は、必ずしも横伸縮性を有していなくても良い。さらに、裏布20は、省略されても良い。
そして、クッション材28は、エアバッグである以外にも、布、スポンジ、シリコンからなるパッドが使用されても良い。この場合、ポケット4,4に収容するクッション材の個数や厚みを変化させることで、創部に加えられる圧力を調整できる。よって、貫通孔17d,17dを省略可能である。また、加圧下着1がクッション材28を取り外し可能又は不能に備えていても良い。
このほか、第3の面部材31a,31bの伸縮性の強さは、同一でなくても良い。