(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039818
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 167/04 20060101AFI20220303BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220303BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220303BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220303BHJP
【FI】
C09J167/04
C09J11/08
C09J11/06
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145016
(22)【出願日】2020-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000202350
【氏名又は名称】綜研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】清水 政一
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 容一
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA15
4J004AB01
4J040ED011
4J040JB09
4J040KA26
(57)【要約】
【課題】ポリ乳酸系共重合体を使用した優れた粘着力を有する粘着剤組成物、および該組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートを提供する。
【解決手段】meso-ラクチドおよびDL-ラクチドから選ばれる少なくとも1種の単量体成分(a1)を40~90質量%と、ラクトンおよびラクタムから選ばれる少なくとも1種の単量体成分(a2)を10~60質量%とを含む単量体成分の共重合体であるポリ乳酸系共重合体(A)と、
以下の樹脂(b1)および樹脂(b2)から選ばれる少なくとも1種の粘着付与樹脂(B)とを含む、粘着剤組成物。
樹脂(b1):水酸基価が100mgKOH/g以上、または酸価が250mgKOH/g以上であるロジン系粘着付与樹脂。
樹脂(b2):水酸基価が150mgKOH/g以上であるテルペンフェノール系粘着付与樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
meso-ラクチドおよびDL-ラクチドから選ばれる少なくとも1種の単量体成分(a1)を40~90質量%と、ラクトンおよびラクタムから選ばれる少なくとも1種の単量体成分(a2)を10~60質量%とを含む単量体成分の共重合体であるポリ乳酸系共重合体(A)と、
以下の樹脂(b1)および樹脂(b2)から選ばれる少なくとも1種の粘着付与樹脂(B)とを含む、粘着剤組成物。
樹脂(b1):水酸基価が100mgKOH/g以上、または酸価が250mgKOH/g以上であるロジン系粘着付与樹脂。
樹脂(b2):水酸基価が150mgKOH/g以上であるテルペンフェノール系粘着付与樹脂。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系共重合体(A)の重量平均分子量が1000~150000である、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸系共重合体(A)100質量部に対して、前記粘着付与樹脂(B)を0.1~20質量部含む請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂(B)の軟化点が80℃以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記粘着付与樹脂(B)がロジン変性ジオールである請求項1~4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
環境対応として、バイオマス由来や生分解性である素材のニーズが高まっている。特に、食品分野、農業分野および医薬品分野などでは、包装ラベルなどに用いられる粘着剤については、使用する原料からバイオマス由来および生分解性であることが求められている。また、カーボンニュートラルの点から、これらの分野において石化由来の原料の使用について極力敬遠される傾向にある。
【0003】
しかし、バイオマス由来でありかつ生分解性である樹脂において、工業的に取り扱われているものは選択肢が少なく、それらを元に粘着剤としているケースは今のところ少ない。そんな中、ポリ乳酸(PLA)を使用した樹脂が数少ない選択肢の一つとして検討されている。
【0004】
特許文献1は、所定の乳酸残基を含む生分解ポリエステルとロジン化合物を所定の配合量で含有する生分解性ヒートシールラッカー組成物を開示している。特許文献2は、ポリ乳酸とガラス転移温度低下剤と、粘着性付与剤を含有する粘着剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-2199号公報
【特許文献2】特開2006-70091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来技術におけるポリ乳酸を含む粘着剤は、生分解性を有するため環境への負荷が低減できるものの、粘着力の点で未だ改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、上記現状を鑑み、ポリ乳酸系共重合体を使用した優れた粘着力を有する粘着剤組成物、および該組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を行った。その結果、以下の構成のポリ乳酸系共重合体と粘着付与樹脂を含む粘着剤組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、例えば以下の[1]~[6]に関する。
【0009】
[1]meso-ラクチドおよびDL-ラクチドから選ばれる少なくとも1種の単量体成分(a1)を40~90質量%と、ラクトンおよびラクタムから選ばれる少なくとも1種の単量体成分(a2)を10~60質量%とを含む単量体成分の共重合体であるポリ乳酸系共重合体(A)と、
以下の樹脂(b1)および樹脂(b2)から選ばれる少なくとも1種の粘着付与樹脂(B)とを含む、粘着剤組成物。
樹脂(b1):水酸基価が100mgKOH/g以上、または酸価が250mgKOH/g以上であるロジン系粘着付与樹脂。
樹脂(b2):水酸基価が150mgKOH/g以上であるテルペンフェノール系粘着付与樹脂。
[2]前記ポリ乳酸系共重合体(A)の重量平均分子量が1000~150000である、[1]に記載の粘着剤組成物。
[3]前記ポリ乳酸系共重合体(A)100質量部に対して、前記粘着付与樹脂(B)を0.1~20質量部含む[1]または[2]に記載の粘着剤組成物。
[4]前記粘着付与樹脂(B)の軟化点が80℃以上である[1]~[3]のいずれかに記載の粘着剤組成物。
[5]前記粘着付与樹脂(B)がロジン変性ジオールである[1]~[4]のいずれかに記載の粘着剤組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリ乳酸系共重合体を使用した優れた粘着力を有する粘着剤組成物、および該組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
<粘着剤組成物>
本発明の一実施形態は、meso-ラクチドおよびDL-ラクチドから選ばれる少なくとも1種の単量体成分(a1)を40~90質量%と、ラクトンおよびラクタムから選ばれる少なくとも1種の単量体成分(a2)を10~60質量%とを含む単量体成分の共重合体であるポリ乳酸系共重合体(A)と、以下の樹脂(b1)および樹脂(b2)から選ばれる少なくとも1種の粘着付与樹脂(B)とを含む、粘着剤組成物である。
樹脂(b1):水酸基価が100mgKOH/g以上、または酸価が250mgKOH/g以上であるロジン系粘着付与樹脂。
樹脂(b2):水酸基価が150mgKOH/g以上であるテルペンフェノール系粘着付与樹脂。
【0012】
本発明の一実施形態である粘着剤組成物は、後述するポリ乳酸系共重合体(A)と粘着付与樹脂(B)とを含む。粘着剤組成物において、ポリ乳酸系共重合体(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(B)を0.1~20質量部含むことが好ましく、0.5~10質量部含むことがより好ましい。
【0013】
本発明の粘着剤組成物は、組成物に含まれる成分が生分解性を有するため、通常生分解性を有する。なお、本発明において生分解性とは、自然環境の中で微生物および酵素などによって分解可能であることを意味する。
【0014】
[ポリ乳酸系共重合体(A)]
本発明で用いられるポリ乳酸系共重合体(A)は、単量体成分(a1)と単量体成分(a2)とを含む単量体成分の共重合体である。単量体成分は、単量体成分(a1)および(a2)に加えて、その他の単量体成分(a3)を含んでも良い。
【0015】
ポリ乳酸系共重合体(A)は、特に限定されないが公知の方法によって得ることができる。例えば、単量体成分(a1)と単量体成分(a2)を加熱して溶融混合しアルゴンおよび窒素などの不活性ガス雰囲気下で重合させる方法により得ることができる。
【0016】
反応時の温度は、通常は180℃以上、好ましくは200℃以上であり、通常は220℃以下、好ましくは210℃以下である。反応時間は、通常は1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、通常は5時間以下、好ましくは3時間以下である。
【0017】
ポリ乳酸系共重合体(A)の重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは10000以上であり、好ましくは150000以下、より好ましくは100000以下である。重量平均分子量は、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー法(GPC法)により求めることができる。
【0018】
ポリ乳酸系共重合体(A)は、単量体成分(a1)と単量体成分(a2)とを含む単量体成分によって形成されていれば、共重合体の形態については特に限定されない。共重合体の形態としては、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラディエント共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体またはこれらの組合せが挙げられる。共重合体の形態は、用途などに応じて適宜選択することができるが、軟質なポリマーを得ることができる点からランダム共重合体または交互共重合体が好ましい。
【0019】
本発明の粘着剤組成物における、ポリ乳酸系共重合体(A)の含有量は、粘着剤組成物の使用目的に応じて適宜選択されるが、通常30質量%~99.9質量%、好ましくは50質量%~99質量%である。
【0020】
ポリ乳酸系共重合体(A)の製造に使用される単量体成分において、単量体成分(a1)は40~90質量%、好ましくは50~70質量%であり、単量体成分(a2)は、10~60質量%、好ましくは30~50質量%である。なお、単量体成分全体を100質量%とする。
【0021】
(単量体成分(a1))
本発明で用いられる単量体成分(a1)は、meso-ラクチドおよびDL-ラクチドから選ばれる少なくとも1種の単量体成分である。本発明において、meso-ラクチドは、L-乳酸単位とD-乳酸単位を一つずつ有する乳酸の環状二量体である。また、本発明において、DL-ラクチドは、D-ラクチドとL-ラクチドの混合物であり、その量比はD-ラクチド/L-ラクチド(モル比)が1/2~2/1であり、1/1が好ましい。
【0022】
(単量体成分(a2))
本発明で用いられる単量体成分(a2)は、ラクトンおよびラクタムから選ばれる少なくとも1種の単量体成分である。
【0023】
本発明において、ラクトンは、開環することにより単量体成分(a1)とエステル結合できるものであれば特に制限されず、ラクトン環の炭素上に置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、アルキル基が挙げられる。ラクトンとしては、例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-ウンデカラクトン、メバロノラクトン、1,5-ジオキセパン-2-オン、トリメチレンカーボネート(1,3-ジオキサン-2-オン)、およびグリコリド、およびそれらの誘導体などが挙げられる。このうち、ラクチドとの共重合性の点からε-カプロラクトンが好ましい。
【0024】
本発明において、ラクタムは、開環することにより単量体成分(a1)とアミド結合やエステル結合ができるものであれば特に制限されず、ラクタム環の炭素上に置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、カルボキシル基などが挙げられる。ラクタムとしては、例えば、α-ラクタム、β-ラクタム、γ-ラクタム、δ-ラクタム、ε-ラクタムなどが挙げられ、より具体的には、β-プロピオラクタム、γ-ブチロラクタム、δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、ω-ヘプタラクタム、ω-オクタラクタムおよびピログルタミン酸、およびそれらの誘導体などが挙げられる。このうち、単量体成分(a1)との反応性や、得られる共重合体の水溶性の点からε-カプロラクタムおよびω-ヘプタラクタムが好ましく、ε-カプロラクタムがより好ましい。
【0025】
(その他の単量体成分(a3))
本発明で用いられるポリ乳酸系共重合体(A)は、前述した単量体成分(a1)および(a2)に加えて、その他の単量体成分(a3)に由来する構造単位を有してもよい。その他の単量体成分(a3)としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族アミノカルボン酸および水酸基含有化合物などが挙げられる。
【0026】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、ヒドロキシル基とカルボキシル基を有する化合物であり、単量体成分(a1)または(a2)とエステル結合できるものであれば特に制限されないが、下記式(1)で示される化合物が好ましい。
【0027】
HO-R-COOH・・・・(1)
式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1~9のアルカンジイル基である。置換基としては、例えば、アルキル基およびカルボキシル基などが挙げられる。
【0028】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、3-ヒドロキシプロピオン酸、4-ヒドロキシブタン酸、5-ヒドロキシペンタン酸、6-ヒドロキシヘキサン酸、7-ヒドロキシペンタン酸、8-ヒドロキシオクタン酸、グリコール酸などが挙げられる。
【0029】
脂肪族アミノカルボン酸は、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物であり、単量体成分(a1)または(a2)とアミド結合またはエステル結合できるものであれば特に制限されないが、下記式(2)で示される化合物が好ましい。
【0030】
NH2-R-COOH・・・・(2)
式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1~9のアルカンジイル基である。置換基としては、例えば、アルキル基およびカルボキシル基などが挙げられる。
【0031】
脂肪族アミノカルボン酸としては、例えば、3-アミノプロピオン酸、4-アミノブタン酸、5-アミノペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0032】
水酸基含有化合物は、前述した脂肪族ヒドロキシカルボン酸を除く、水酸基を1つ以上有する化合物であり、単量体成分(a1)または(a2)の重合反応に取り込まれるものであれば特に制限されない。
【0033】
水酸基含有化合物としては、例えば、1,4-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリカーボネートジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンジオールおよびイソソルバイドなどのジオール系化合物(粘着付与樹脂(B)に用いられるものを除く)、ラウリルアルコールおよびステアリルアルコールなどの脂肪族アルコール、並びにグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ひまし油ポリオール、アクリルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、脂肪族ポリオール、環状ポリオール、単糖類、糖アルコール、二糖類および多糖類などのポリオール系化合物などが挙げられる。
【0034】
[粘着付与樹脂(B)]
本発明で用いられる粘着付与樹脂(B)は、樹脂(b1)および樹脂(b2)から選ばれる少なくとも1種の樹脂である。該樹脂を使用することで本発明の粘着剤組成物に優れた粘着性を付与することができる。
【0035】
粘着付与樹脂(B)の軟化点は耐熱性の点から80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。
【0036】
粘着剤組成物における、粘着付与樹脂(B)の使用量は、粘着剤組成物の使用目的に応じて適宜選択されるが、通常0.1質量%~20質量%、好ましくは0.5質量%~10質量%である。
【0037】
粘着付与樹脂(B)は、相溶性の点から後述のロジン変性ジオールおよび酸変性ロジンが好ましく、ロジン変性ジオールがさらに好ましい。
【0038】
(樹脂(b1))
樹脂(b1)は好ましくは、水酸基価が100mgKOH/g以上、または酸価が250mgKOH/g以上であるロジン系粘着付与樹脂であり、好ましくは水酸基価が100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下、または酸価が250mgKOH/g以上400mgKOH/g以下、より好ましくは水酸基価が110mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、または酸価が250mgKOH/g以上350mgKOH/g以下であるロジン系粘着付与樹脂である。
【0039】
樹脂(b1)のロジン系粘着付与樹脂としては、例えば、ウッドロジン、ガムロジンおよびトール油ロジンなどの天然ロジン、水素化ロジン、不均化ロジン、酸変性ロジンおよび重合ロジンのような変性ロジン、並びにこれらのアルカリ金属塩、エステル化合物およびジオール化合物が挙げられる。これらは、単独または複数で使用してもよい。
【0040】
上記樹脂(b1)の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のロジン変性ジオールであるパインクリスタルD-6011(水酸基価:110~125mgKOH/g、軟化点:84~99℃))、および酸変性ロジンであるパインクリスタルKR-120(酸価:305~345mgKOH/g、軟化点:110~130℃)などが挙げられる。
【0041】
(樹脂(b2))
樹脂(b2)は、水酸基価が150mgKOH/g以上、好ましくは150mgKOH/g以上250mgKOH/g以下、より好ましくは150mgKOH/g以上230mgKOH/g以下であるテルペンフェノール系粘着付与樹脂である。
【0042】
テルペンフェノール系粘着付与樹脂としては、例えば、テルペン化合物とフェノール化合物とを公知の方法で反応させたテルペンフェノール樹脂およびその水素化した樹脂などが挙げることができる。テルペン化合物としては、例えば、ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネンおよびカンフェンなどが挙げられる。フェノール化合物としてはフェノール、クレゾール、キシレノールおよびビスフェノールなどが挙げられる。これらは、単独または複数で使用してもよい。
【0043】
上記樹脂(b2)の市販品としては、例えば、ヤスハラケミカル株式会社製のYSポリスターK125(水酸基価:200~210mgKOH/g、軟化点:120~130℃)、YSポリスターN125(水酸基価:150~170mgKOH/g、軟化点:120~130℃)などが挙げられる。
【0044】
(架橋剤)
本発明の粘着剤組成物は、前述したポリ乳酸系共重合体(A)および粘着付与樹脂(B)に加えて、架橋剤を含んでもよい。粘着剤組成物中の架橋剤の成分は、10質量%未満が好ましく、5質量%未満がより好ましい。
【0045】
架橋剤としては、ポリ乳酸系共重合体(A)と反応し、架橋構造を形成することができる成分であれば特に制限されない。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、カルボジイミド系化合物、金属キレート系化合物などが挙げられる。架橋剤を含むことで、本発明の粘着剤組成物から形成される粘着剤層を有する粘着シートの保持力を向上させることができる。
【0046】
(その他の成分)
粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋剤以外のその他の成分を目的に応じて適宜含んでもよい。その他の成分としては、生分解性を有する成分であっても、有さない成分であってもよい。その他の成分としては例えば、溶媒、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機粒子、無機粒子、顔料、金属腐食防止剤、金属不活性化剤、架橋促進剤、粘度調整剤、分散剤、熱安定剤、硬化剤、可塑剤および薬剤などが挙げられる。粘着剤組成物中のその他の成分の含有量は、70質量%未満が好ましく、50質量%未満であることがより好ましい。この範囲であれば、本発明の生分解性および粘着力の効果を得ることができる。
【0047】
[製造方法]
粘着剤組成物の製造方法としては、例えば、ポリ乳酸系共重合体(A)と粘着付与樹脂(B)を溶解させることで得られる。溶解させる際に、溶媒を用いても良い。
【0048】
溶媒としては、特に制限されないが、例えば、メタノールおよびエタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンおよびメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、乳酸メチルおよび乳酸エチルなどの乳酸エステル系溶媒、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテルおよびエチレンモノエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、および酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶媒などが挙げられる。これらのうち、環境負荷抑制の点から酢酸エチルが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて用いても良い。溶媒は、本発明の効果を損なわない範囲内で使用する。例えば、ポリ乳酸系共重合体(A)100質量部に対して、溶媒量は70質量部未満が好ましく、50質量部未満がより好ましい。この範囲であれば、塗工性に優れ、平滑な塗膜を得ることができる。なお、環境負荷低減の観点からは溶媒を用いずに、粘着剤組成物を製造することが、好ましい態様の一つである。溶媒を用いずに製造された粘着剤組成物は、ホットメルトタイプの粘着剤として好適に用いることができる。
【0049】
[用途]
粘着剤組成物は、生分解性化合物を主成分として使用しており生分解性を有するため、例えば、生分解性のフィルム、紙、および不織布などの基材などを接着するために使用したり、これらの基材と、粘着剤層とを有する粘着シートとして好適に使用することができる。
【0050】
<粘着シート>
本発明の一実施形態は、本発明の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートである。本発明の粘着シートは、上記粘着剤組成物から形成された粘着剤層のみからなる粘着シートであってもよく、基材層と粘着剤層とを有する積層体である粘着シートであってもよい。
【0051】
本発明の粘着シートが粘着剤組成物より作製された粘着剤層のみからなる粘着シートである場合には、例えば、粘着剤組成物を、剥離処理された基材上に塗布し、必要に応じて、さらに該塗布面上に剥離処理された基材を配置することにより、粘着剤層を形成することにより得られる。該粘着剤層のみからなる粘着シートは、保管時、移動時等は、剥離処理された基材と共に、保管、移動等されるが、使用時には、剥離処理された基材が剥がされ、粘着剤層のみからなる粘着シートとして使用される。
【0052】
本発明の粘着シートが、基材層と、粘着剤層とを有する積層体である場合には、例えば、粘着剤組成物を、基材上に塗布し、必要に応じて、さらに該塗布面上に剥離処理された基材を配置することにより、基材上に粘着剤層を形成することにより得られる。該粘着剤層は、使用時には、剥離処理された基材が剥がされ、基材層および粘着剤層からなる粘着シートとして使用される。
【0053】
また、別の例としては、基材層の両側に粘着剤層を設け、さらにその両側に剥離処理された基材を配置することにより、粘着シートを得てもよい。
【0054】
基材としては、例えば、生分解性基材ポリ乳酸フィルム、パルプを主成分した紙および生分解性不織布などの生分解性基材が挙げられる。また、生分解性基材以外の基材としては、例えば、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)などのプラスチック基材およびアルミニウム箔などの金属箔が挙げられる。
【0055】
粘着剤組成物の塗布方法としては、公知の方法、例えばスピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、バーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法により、所定の厚さになるように塗布・乾燥する方法を用いることができる。
【0056】
粘着剤層の厚さとしては、粘着シートの用途等に応じて適宜設定すればよく、特に制限は無いが、通常は1~500μmであり、好ましくは5~300μmである。
【0057】
本発明の粘着シートの用途としては、特に制限は無いが、例えば、生分解性が要される用途、例えば、包材、梱包、農業、捕虫、医療および生体などの用途に使用することができる。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0059】
<実施例1>
撹拌機、還流冷却器、温度計および窒素導入管を備えた反応装置に、meso-ラクチド70質量部およびε-カプロラクトン(ε-CL)30質量部、オクチル酸スズ0.5質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら160℃に昇温し、3時間反応させ、重量平均分子量(Mw)38000(GPCにより測定)のポリ乳酸系共重合体を製造した。
【0060】
得られたポリ乳酸系共重合体を100質量部と、粘着付与樹脂としてパインクリスタルD-6011(荒川化学工業株式会社製)を5質量部とを反応装置に入れ、160℃で溶解し、粘着剤組成物を得た。
【0061】
<実施例2~8>
原料を表1に記載した組成に変更したこと以外は実施例1と同様に行いポリ乳酸系共重合体をそれぞれ製造し、表3に記載した粘着付与樹脂を使用して実施例2~8の粘着剤組成物を得た。DL-ラクチドはモル比が1/1のものを使用した。パインクリスタルKR-120、パインクリスタルKE-359、エステルガムHP、ペンセルD-135およびスーパーエステルA-100は荒川化学工業株式会社、並びにYSポリスターN125、YSポリスターS145、YSポリスターT160およびYSポリスターG150はヤスハラケミカル株式会社より購入した。
【0062】
<比較例1~5、7~14>
原料を表2に記載した組成に変更したこと以外は実施例1と同様に行いポリ乳酸系共重合体を製造し、表3の粘着付与樹脂を使用して比較例1~5、7~14の粘着剤組成物を得た。
【0063】
<比較例6>
攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、n-ブチルアクリレート(BA)90部、アクリル酸(AA)10部、酢酸エチル100部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコの内容物を70℃に加熱した。次いで、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.05部を撹拌下フラスコ内に添加した。フラスコ内の内容物の温度を70℃に維持し、5時間重合反応を行い、アクリル系共重合体を含む比較例6の粘着剤組成物を得た。
【0064】
<粘着シート作製>
実施例1~8並びに比較例1~5および7~14で得られた粘着剤組成物をそれぞれ固形分50wt%となるように酢酸エチルで希釈した粘着剤組成物、並びに比較例6で得られた粘着剤組成物を、それぞれ剥離処理されたPETフィルム上に塗布し、乾燥後の厚さが20μmとなるように粘着剤層を形成した。その後、露出した粘着剤層に、厚さ25μmのPETフィルムへ貼り合わせ、粘着シートを作製した。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
<評価>
[相溶性試験]
ポリ乳酸系共重合体(meso-ラクチド/ε-カプロラクトン=60/40)と各粘着付与樹脂の量比が、ポリ乳酸系共重合体/粘着付与樹脂=100/10(質量比)となる酢酸エチル50wt%溶液で、直径50mm厚さ5mmのガラスシャーレを満たし、80℃、10時間かけて酢酸エチルを乾燥除去した。その後、23℃/60%RH環境下で24時間静置し、樹脂層の透明性を目視で確認した。結果を表3に示した。表中、樹脂層が透明なものを「相溶性有り」として○、白濁したものを「相溶性無し」として×を表示した。
【0069】
[粘着力試験]
作製した粘着シートを25mm幅に裁断し、アクリル板またはポリプロピレン(PP)板に貼着して、23℃/50%RH環境下で15分間静置した後、剥離角度180°、引張速度300mm/分で剥離した際の粘着力を測定した。結果を表1および2に示した。表2中の「-」は、密着不良により測定できなかったことを示す。
【0070】
[保持力試験]
作製した粘着シートを25mm幅に裁断し、貼付面積が25mm×25mmとなるようにステンレス板に貼着して、23℃/60%RH環境下で15分間静置した後、同環境下で粘着シートの貼付面のせん断方向に500gの荷重をかけ、荷重付加開始から60分後の試験片のずれ量、または粘着シートが落下するまでの時間を測定した。結果を表1および2に示した。表2中の「NC」は粘着シートがほとんどずれなかったことを示し、「-」は密着不良で測定できなかったことを示す。
【0071】
[重量平均分子量]
実施例で得られたポリ乳酸系共重合体の重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー法(GPC法)により、以下の条件で測定した。
・測定装置:HLC-8320GPC(東ソー製)
・GPCカラム構成:TSKgel G3000PWXL-CP(7.8mm D.×30cm)×2本(東ソー製)
・流速:1.0mL/分
・カラム温度:40℃
・サンプル濃度:0.4wt%
・移動相溶媒:0.1M-NaNO3水溶液
・検量線:標準ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキシド(Agilent Technologies製)
【0072】
各実施例と比較例1,2および5との対比から、単量体成分(a1)が40~90質量%でないポリ乳酸系共重合体を含む粘着剤組成物から得られた粘着シートは、十分に粘着物性を発現しないことが示されている。
【0073】
各実施例と比較例3および4との対比から、粘着付与樹脂(B)を含まない粘着剤組成物から得られた用いた粘着シートは、特に対ポリプロピレン粘着力が低いことが示されている。
【0074】
各実施例と比較例7~14との対比から、樹脂(b1)または(b2)でない粘着付与樹脂を用いた粘着剤組成物から得られた粘着シートは、十分に粘着物性を発現しないことが示されている。
【0075】
特に、実施例4,5,7および8と比較例6との対比から、実施例4,5,7および8の粘着シートは、アクリル系粘着剤組成物から得られた粘着シートに匹敵する粘着物性を発現していることが示されている。