(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022039920
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】不活性化方法、不活性化装置
(51)【国際特許分類】
A01N 59/12 20060101AFI20220303BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220303BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220303BHJP
A61L 9/12 20060101ALI20220303BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
A01N59/12
A01P1/00
A01P3/00
A61L9/12
A61L9/01 B
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035935
(22)【出願日】2021-03-08
(62)【分割の表示】P 2021034604の分割
【原出願日】2021-03-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020143859
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年8月に株式会社都ローラー工業が、株式会社イトー、菱樹商事株式会社、明和ゴム工業株式会社、松山商事株式会社、川口商工会議所、株式会社シクロケム、阪南化成株式会社、株式会社ヒットコーポレーション、富士フイルム株式会社、株式会社金陽社、島根中井工業株式会社、三井化学株式会社、AGC株式会社、埼玉りそな銀行鳩ケ谷支店、華為技術日本株式会社、川口市役所、あおば眼科医院、共和電機工業株式会社に、町田成司、町田成康及び寺尾啓 二が発明した抗菌・抗ウイルス液の試供品を配布した。
(71)【出願人】
【識別番号】391052622
【氏名又は名称】株式会社都ローラー工業
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】町田 成司
(72)【発明者】
【氏名】町田 成康
【テーマコード(参考)】
4C180
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA10
4C180AA16
4C180CA06
4C180EA20X
4C180EA52Y
4C180EB13Y
4C180GG17
4C180HH05
4C180LL20
4C180MM06
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC08
4H011DG02
4H011DG15
(57)【要約】
【課題】 対象物に付着しても着色しない無色の不活性化剤と、当該不活性化剤が固着した不活性化剤固着基材と、当該不活性化剤固着基材を用いた不活性化方法及び不活性化装置を提供する。
【解決手段】 本発明の不活性化剤は、電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水と、ヨウ素CD包接体と、ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンを含む無色の液体である。本発明の不活性化剤固着基材は前記不活性化剤が基材に固着したものである。本発明の不活性化方法は、不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させる方法である。本発明の不活性化装置は、不活性化剤固着基材と、不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させるブロワを備えたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス又は/及び菌を不活性化する不活性化剤であって、
電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水と、ヨウ素をシクロデキストリンで包接したヨウ素CD包接体と、前記ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンを含む無色の液体である、
ことを特徴とする不活性化剤。
【請求項2】
請求項1記載の不活性化剤において、
電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水として、クラスター化された電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水が用いられた、
ことを特徴とする不活性化剤。
【請求項3】
請求項1記載の不活性化剤において、
ヨウ素CD包接体が不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%、ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンが不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%含まれた、
ことを特徴とする不活性化剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の不活性化剤において、
銀ナノ粒子が不活性化剤の全重量に対して10重量%未満含まれた、
ことを特徴とする不活性化剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の不活性化剤が基材に固着した、
ことを特徴とする不活性化剤固着基材。
【請求項6】
請求項5記載の不活性化剤固着基材において、
基材がシート材である、
ことを特徴とする不活性化剤固着基材。
【請求項7】
請求項5又は請求項6記載の不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させることによって、空間中のウイルス又は/及び菌を不活性化させる、
ことを特徴とする不活性化方法。
【請求項8】
請求項5又は請求項6記載の不活性化剤固着基材と、
前記不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させるブロワを備えた、
ことを特徴とする不活性化装置。
【請求項9】
請求項8記載の不活性化装置において、
フレーム又はケーシングを備え、
前記フレーム又はケーシングに不活性化剤固着基材及びブロワが設けられ、
前記不活性化剤固着基材は、前記ブロワの空気吹き出し方向先方側に設けられ、
前記ブロワから不活性化剤固着基材に空気が吹き付けられると、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分が徐放されて、前記フレーム又はケーシングの内側のウイルス又は/及び菌が不活性化される、
ことを特徴とする不活性化装置。
【請求項10】
請求項9記載の不活性化装置において、
フレーム又はケーシングが複数層構造であり、
前記複数層の最内層が不活性化剤固着基材を含む素材で構成され、
前記最内層の外側の層にブロワが設けられた、
ことを特徴とする不活性化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌又は/及び抗ウイルス作用を有する液剤(以下「不活性化剤」という)と、当該不活性化剤が固着した不活性化剤固着基材、当該不活性化剤固着基材を用いた不活性化方法及び不活性化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症が世界的に大きな問題となっている。従来、コロナウイルスを不活性化させる不活性化剤として、溶媒にヨウ素とシクロデキストリンとが溶解したものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記特許文献1の不活性化剤のようにヨウ素が含まれた液は黄色く、対象物に付着した際に対象物が着色してしまうという難点がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、対象物に付着しても着色しない無色の不活性化剤と、当該不活性化剤が固着した不活性化剤固着基材と、当該不活性化剤固着基材を用いた不活性化方法及び不活性化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[不活性化剤]
本発明の不活性化剤は、ウイルス又は/及び菌を不活性化させる不活性化剤であって、電気伝導率0.01~1mS/m(ミリジーメンスパーメートル)の水又は比抵抗0.1~10MΩ・cm(メグオーム・センチメートル)の水と、ヨウ素をシクロデキストリンで包接した(カプセル化した)CD包接体(以下「ヨウ素CD包接体」という)と、ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンを含む無色の液体である。なお、電気伝導率0.01~1mS/mはSI単位系での表記であり、工業単位系であるμS/cm(マイクロジーメンスパーセンチメートル)に換算すると、0.1~10μS/cmである。
【0007】
[不活性化剤固着基材]
本発明の不活性化剤固着基材は、本発明の不活性化剤が基材に固着したものである。
【0008】
[不活性化方法]
本発明の不活性化方法は、本発明の不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させ、空間中のウイルスや菌を不活性化させる方法である。
【0009】
[不活性化装置]
本発明の不活性化装置は、本発明の不活性化剤固着基材と、不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させるブロワを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の不活性化剤は、溶媒として不活性化剤の着色の原因となる金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水を用いているため、無色(無色透明)の不活性化剤を得ることができ、これを用いる不活性化剤固着基材は着色のないものとなる。本発明の不活性化方法及び不活性化装置は、本発明の不活性化剤固着基材を用いて不活性化作用の強いヨウ素成分を徐放させることができるので、空間中のウイルスや菌を効果的に不活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の不活性化剤固着基材の一例を示すフローチャート。
【
図4】(a)はゲート型の不活性化装置の一例を示す正面図、(b)は(a)のIVb-IVb断面図。
【
図5】(a)はトンネル型の不活性化装置の一例を示す正面図、(b)は(a)のVb-Vb断面図。
【
図6】収納ケース型の不活性化装置の一例を示す内部構造図。
【
図7】(a)は個室型の不活性化装置の一例を示す斜視説明図、(b)は(a)の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(不活性化剤の実施形態)
本発明の不活性化剤の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。この実施形態の不活性化剤は、溶媒と、ヨウ素CD包接体と、当該ヨウ素を包接するシクロデキストリンとは別のアンカー用のシクロデキストリン(以下「アンカー用デキストリン」という)を含む液剤である。液剤はスプレーノズルを備えたUVカット容器に収容されている。容器はUVカット効果のないものやスプレーノズルのないものであってもよい。業務用として販売する場合には、大型の容器などに収容しておくこともできる。
【0013】
前記溶媒には金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/m(0.1~10μS/cm)の水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水を用いることができる。好ましくは、電気伝導率0.01~0.1mS/m(0.1~1μS/cm)の水又は比抵抗1~10MΩ・cm以下の水を用いることができる。電気伝導率1mS/m(10μS/cm)の水はいわゆるRO処理水であり、電気伝導率0.1mS/m(1μS/cm)の水はいわゆるイオン交換処理水である。
【0014】
前記金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水は、たとえば、RO膜(逆浸透膜)を備えたRO装置(逆浸透膜濾過装置)や、イオン交換樹脂を備えた純水装置などを用いて生成することができる。
【0015】
溶媒には、金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水をクラスター化したもの(いわゆる活性水)を用いることもできる。ここでいうクラスターとは、二個以上の分子又は原子がファンデルワールス力や水素結合などの比較的に弱い相互作用で集合したものをいう。クラスター水を用いることで、抗菌力(不活性化力)の向上が期待できる。また、クラスター水を用いることで、RO装置で造水する際の造水量の向上が期待できる。
【0016】
ヨウ素はハロゲン族に属するものであり、溶媒(水)中に金属イオンが含まれているとそれら金属を酸化させ、液体が着色する一因となる。この点、溶媒として、電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水(たとえば、金属イオンの含有率が低いRO処理水やイオン交換処理水)を用いることで、液体の着色の進行を抑えることができる。金属イオンが完全に除去された水を用いれば、着色自体を避けることができるが、若干の金属イオンが含まれていても着色の進行を抑えて長期間無色の状態を維持することができる。
【0017】
このように、溶媒として金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水を用いることで、ヨウ素が含まれていても液体が着色せず、無色な不活性化剤を得ることができる。無色な不活性化剤は、白衣やマスクのような白色の素材にも用いても着色しないため、利用範囲が大きく広がる。
【0018】
前記ヨウ素CD包接体には、三井化学株式会社製の水溶性抗菌・防カビ剤「ヨートルDP-CD(「ヨートル」は登録商標。以下同じ。)」を用いることができる。ヨウ素CD包接体はこれ以外であってもよく、たとえば、α-シクロデキストリンやβ-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンといった各種シクロデキストリンに市販のヨウ素液を投入し、それを混ぜることによって生成されたものなどを用いることもできる。
【0019】
前記アンカー用デキストリンにはα-シクロデキストリンやβ-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンなどを用いることができる。この実施形態では、アンカー用デキストリンとして、株式会社シクロケムの「MTC-βCD」を用いている。ヨウ素CD包接体は不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%程度、アンカー用デキストリンは不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%程度の範囲で適宜選択することができる。なお、ヨウ素CD包接体とアンカー用デキストリンは、ヨウ素CD包接体の含有量がアンカー用デキストリンの含有量よりも多くなるようにすることも、アンカー用デキストリンの含有量がヨウ素CD包接体の含有量よりも多くなるようにすることもできる。
【0020】
この実施形態の不活性化剤には含まれていないが、本発明の不活性化剤には、溶媒(電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水)、ヨウ素CD包接体、アンカー用デキストリンのほか、香料(アロマ)や抗菌性を有する銀ナノ粒子を含めることもできる。この場合、香料や銀ナノ粒子の混合比率は不活性化剤の全重量に対して10重量%未満、好ましくは5重量%未満とすることができる。
【0021】
(不活性化剤固着基材の実施形態)
次に、本発明の不活性化剤固着基材の実施形態の一例について説明する。この実施形態の不活性化剤固着基材は、基材に前記不活性化剤の実施形態で説明した不活性化剤が固着したものである。
【0022】
前記基材には、繊維や糸、布(織布や不織布などの布地)、生地、紙、皮革、樹脂(フイルムを含む)、ゴム、金属、木材などのほか、これら材料で製造された各種製品が含まれる。繊維には天然繊維のほか化学繊維も含まれ、皮革には天然皮革のほか合成皮革も含まれる。ただし、基材は後述する加熱温度に耐えうるものである必要がある。
【0023】
具体例としては、医療用マスク、透明マスク、フェイスシールド、手袋、靴下、保温着、インナーウエア(下着・ブラジャー等を含む)、傘、レインコート、アウトウエア用品(スポーツウエア等を含む)、アウトドア用品、敷き布団、掛け布団、シーツ、枕カバー、病院用シーツ、医療用ウエア、タイツ、壁紙、ペット用シート、家畜用ウエア、カーペット、カーテン、布地家具製品、樹脂フィルム、換気用フィルタ等があげられる。
【0024】
不活性化剤固着基材は、たとえば、
図1に示すように、不活性化の対象である基材に不活性化剤を付着させる工程(塗布工程)S001と、不活性化剤を付着させた基材を加熱する工程(加熱工程)S002を経て得ることができる。
【0025】
前記塗布工程S001では、容器(UVカット容器)のスプレーノズルから不活性化剤を噴霧し、基材に付着させればよい。不活性化剤には、前述の不活性化剤を用いることができる。付着量に特に限定はなく、基材の大きさや素材に応じて適宜量を付着させればよい。洗濯をしない基材であれば、付着させた不活性化剤を乾燥させるだけで、不活性化剤固着基材を得ることができる。
【0026】
前記加熱工程S002では、不活性化剤が付着した基材を加熱して、不活性化剤中のヨウ素CD包接体を固着させる。基材は、たとえば、一般家庭であればアイロンやドライヤーなどを用いて加熱することができ、工場などの現場であれば工業用の加熱装置を用いて加熱することができる。加熱方法に特に限定はなく、基材の大きさや素材に応じて適宜の方法で加熱すればよい。加熱機器を用いずに、太陽光などで加熱してもよい。たとえば、車のシートなどの場合、不活性化剤を付着させたのち、そのまま放置しておくだけでも太陽光の熱によって加熱される。不活性化剤は自然乾燥させてもよい。
【0027】
基材は、ヨウ素が基材に固着する温度以上であってヨウ素が溶融する温度未満、具体的には80℃以上160℃未満の範囲で加熱するようにする。80℃未満だとヨウ素CD包接体が基材に固着しにくく、160℃以上だとヨウ素が分解するおそれがある。ただし、この温度範囲は一例であり、温度範囲はこれ以外であってもよい。
【0028】
本発明の不活性化剤には即効性のあるヨウ素が含まれているため、ウイルスなどの感染対策として好適に利用することができる。また、本発明の不活性化剤はアンカー用デキストリンのアンカー効果によってヨウ素CD包接体が基材に固着するため、洗濯を繰り返しても抗菌あるいは抗ウイルス効果が持続する。さらに、本発明の不活性化剤に含まれるヨウ素CD包接体によって、抗菌作用や抗ウイルス作用のほか、制菌作用や防カビ作用、消臭作用などが発揮される。本発明の不活性化剤固着基材は前記方法以外の方法で製造することもできる。
【0029】
このような作用効果を奏する不活性化剤を用いる本発明の不活性化剤固着基材は、不活性化作用の持続性に優れた基材となる。また、本発明の不活性化剤固着基材には、防カビ効果や消臭効果も期待することができる。
【0030】
なお、前述の例では、不活性化剤を容器(UVカット容器)のスプレーノズルから噴霧する場合を一例としているが、ロールトゥーロール方式の装置を用いる場合、当該装置内においてスプレー噴霧によって不活性化剤を付着させることができる。また、不活性化剤は、スプレー噴霧方式以外の方法、たとえば、ディッピング方式やグラビア印刷方式、サクション式噴出方式(ロール内部から液を噴出させる方法)等によって物品に付着させることもできる。
【0031】
本件出願人は、本発明の不活性化剤の効果を実証するため、株式会社産業分析センター草加試験所(計量証明事業所 埼玉県知事登録 濃度 第512号)に、試験(EN14582に準拠する燃焼試験)を依頼した。試験は二回に分けて行われた。各試験の概要と結果は次のとおりである。
【0032】
[試験1]
試験1ではA4サイズの4枚の試験片を用意した。4枚の試験片のうち2枚は厚さ0.4mmの綿生地(厚手生地)、他の2枚は厚さ0.2mmの綿生地(薄手生地)である。4枚の生地は最初に洗浄し、80℃で乾燥させた。その後、2枚の厚手生地のうち1枚(表1及び3の「A未」)には何ら処理をせずにそのまま試料とし、他の1枚(表1及び3の「A処」)にはヨートルDP-CD1%溶液を含浸させ、乾燥させて試料とした。また、2枚の薄手生地のうち1枚(表1及び3の「B未」)には何ら処理をせずにそのまま試料とし、他の1枚(表1及び3の「B処」)にはヨートルDP-CD1%溶液を含浸させ、乾燥させて試料とした。
【0033】
試験1は次の手順で行われた(
図2参照)。
(1)試料を常温水でモミ洗いにより1セット洗濯した(S101)。なお、試験1ではモミ洗い30回を1セットとしてカウントした。
(2)洗濯した各試料を乾燥炉で乾燥させた(S102)。
(3)乾燥させた各試料を燃焼し(S103)、燃焼後の各試料の燃焼物を吸収液中に入れて撹拌した(S104)。
(4)撹拌後の吸収液を定容した(S105)。
(5)定容した吸収液中におけるヨウ素の濃度(以下「残存ヨウ素濃度」という)をEN14582に準拠のイオンクロマトグラフィー(IC:DIONEX ICS-1100 RFIC)にて測定した(S106)。
【0034】
【0035】
表1において、「洗濯後噴霧」は洗濯及び乾燥後燃焼前に噴霧した液剤の種類を、「洗濯回数(セット)」は試料の洗濯セット数を、「試料No.」は試料の整理番号を、「濃度(ppm)」は吸収液中における残存ヨウ素濃度を、「洗濯後噴霧」の「なし」は何ら噴霧しなかったことを意味する。
【0036】
[試験2]
試験2では、試験片として試験1で用いた厚手生地及び薄手生地と同じものを9枚ずつ(合計18枚)用意した。18枚の試験片を洗浄し、80℃で乾燥させたのち、すべての試験片に本発明の不活性化剤を1平方メートルあたり1~1.4g(乾燥後生地重量増加分)を固着させた。使用した不活性化剤は、電気伝導率0.01~1mS/m(比抵抗1MΩ・cm)の水と、DMTS濃度2.7重量%のヨートルDP-CDと、1.0重量%のβ-シクロデキストリンで構成されたものである。不活性化剤は、各試験片に塗布したのち145℃で乾燥させることによって各試験片に固着させ、この固着後の各試験片を試料とした。後述する表2及び表3では、9枚の厚手生地を「厚1」~「厚9」と、9枚の薄手生地を「薄1」~「薄9」と表記した。
【0037】
試験2は次の手順で行われた(
図3参照)。
(1)各試料を常温水でモミ洗いにより洗濯した(S201)。洗濯は、厚1、厚3、厚5、薄1、薄3及び薄5は1セット、厚6及び薄6は5セット、厚2、厚4、厚7、薄2、薄4、薄7は10セット、厚8及び薄8は20セットとし、その他は洗濯なしとした。試験1同様、試験2でもモミ洗い30回を1セットとしてカウントした。
(2)洗濯した各試料を乾燥炉で乾燥させた(S202)。
(3)乾燥させた各試料のうち、厚1、厚2、厚9、薄1、薄2及び薄9には、前記ヨートルDP-CD1%溶液を噴霧し(S203a)、厚3、厚7、薄3及び薄7には抗菌剤(日華化学株式会社の繊維加工用抗ウイルス・抗菌防臭剤「ニッカノンRB」(「ニッカノン」は登録商標。以下同じ。))3%溶液を噴霧し(S203b)、その他の試料には何ら噴霧しなかった。
(4)ヨートルDP-CD1%溶液又は抗菌剤3%溶液を噴霧した各試料を乾燥させた(S204a、204b)。
(5)乾燥させた各試料(前記ヨートルDP-CD1%溶液又は抗菌剤3%溶液を噴霧したものはそれらを乾燥させた各試料)を燃焼した(S205)。
(6)燃焼後の燃焼物を吸収液中に入れて撹拌した(S206)。
(7)撹拌後の吸収液を定容した(S207)。
(8)定容した吸収液中における残存ヨウ素濃度をEN14582に準拠のイオンクロマトグラフィー(IC:DIONEX ICS-1100 RFIC)にて測定した(S208)。
【0038】
【0039】
表2における「洗濯後噴霧」「洗濯回数(セット)」「試料No.」及び「濃度(ppm)」の意味は表1と同様である。また、表2における「洗濯後噴霧」の「DP-CD1%」はヨートルDP-CD1%溶液を噴霧したことを、「抗菌剤3%」は抗菌剤3%溶液を噴霧したことを、「なし」は何ら噴霧しなかったことを意味する。
【0040】
表1に、表2のうち本発明の不活性化剤を固着した試料であって洗濯後に何ら噴霧しなかった試料(厚5及び薄5)の結果を組み合わせたものを表3に示す。
【表3】
【0041】
表3に示すとおり、何ら処理を施さなかった試料からはヨウ素は検出されなかった。厚手生地については、前記ヨートルDP-CD1%溶液を含浸させて乾燥させた試料(A処)では残存ヨウ素濃度が180ppmであったのに対し、本発明の不活性化剤を付着させて加熱した試料(厚5)では残存ヨウ素濃度が450ppmであった。
【0042】
また、薄手生地については、前記ヨートルDP-CD1%溶液のみを含浸させて乾燥させた試料(B処)ではヨウ素が検出されなかったのに対し、本発明の不活性化剤を付着させて加熱した試料(薄5)では残存ヨウ素濃度が130ppmであった。
【0043】
これらの結果から、前記ヨートルDP-CD1%溶液のみを含浸させて乾燥させた場合に比べて、本発明の不活性化剤を付着させて加熱した場合の方が、ヨウ素が残存しやすいことが確認できた。
【0044】
表2に示す厚手生地のうち洗濯後噴霧「なし」の試料を比較すると、洗濯を1セット行った試料(厚5)の残存ヨウ素濃度は450ppm、洗濯を5セット行った試料(厚6)の残存ヨウ素濃度は410ppm、洗濯を10セット行った試料(厚4)の残存ヨウ素濃度は340ppm、洗濯を20セット行った試料(厚8)の残存ヨウ素濃度は51ppmであり、洗濯回数の増加と共に残存ヨウ素濃度は低下するものの、本発明の不活性化剤を付着させて加熱した試料については、洗濯を20セット行ってもヨウ素が残存すること、すなわち、不活性化効果が持続することが確認できた。
【0045】
同様に、表2に示す薄手生地のうち洗濯後噴霧「なし」の試料を比較すると、洗濯を1セット行った試料(薄5)の残存ヨウ素濃度は130ppm、洗濯を5セット行った試料(薄6)の残存ヨウ素濃度は110ppm、洗濯を10セット行った試料(薄4)の残存ヨウ素濃度は110ppm、洗濯を20セット行った試料(薄8)の残存ヨウ素濃度は130ppmであり、洗濯回数の増加と共に残存ヨウ素濃度は多少の幅をもって変化するものの、本発明の不活性化剤を付着させて加熱した試料については、洗濯を20セット行ってもヨウ素が残存すること、すなわち、不活性化効果が持続することが確認できた。
【0046】
表2に示す厚手生地のうち洗濯後噴霧「DP-CD1%」の試料を比較すると、洗濯を行わなかった試料(厚9)の残存ヨウ素濃度は790ppm、洗濯を1セット行った試料(厚1)の残存ヨウ素濃度は510ppm、洗濯を10セット行った試料(厚2)の残存ヨウ素濃度は330ppmであった。このことから、洗濯後に前記ヨートルDP-CD1%溶液を噴霧したとしても、結果的に残存ヨウ素濃度は洗濯回数に応じて低下しており、単にヨートルDP-CDを噴霧しただけでは、試料に定着(固着)しないことが確認できた。
【0047】
同様に、表2に示す薄手生地のうち洗濯後噴霧「DP-CD1%」の試料を比較すると、洗濯を行わなかった試料(薄9)の残存ヨウ素濃度は340ppm、洗濯を1セット行った試料(薄1)の残存ヨウ素濃度は260ppm、洗濯を10セット行った試料(薄2)の残存ヨウ素濃度は100ppmであった。このことから、洗濯後に前記ヨートルDP-CD1%溶液を噴霧したとしても、結果的に残存ヨウ素濃度は洗濯回数に応じて低下しており、単にヨートルDP-CDを噴霧しただけでは、試料に定着(固着)しないことが確認できた。
【0048】
表2に示す厚手生地のうち洗濯後噴霧「抗菌剤3%」の試料を比較すると、洗濯を1セット行った試料(厚3)の残存ヨウ素濃度は340ppm、洗濯を10セット行った試料(厚7)の残存ヨウ素濃度は270ppmであった。このことから、洗濯後に前記抗菌剤3%溶液を噴霧したとしても、結果的に残存ヨウ素濃度は洗濯回数に応じて低下しており、単に抗菌剤を噴霧しただけでは、試料に定着(固着)しないことが確認できた。
【0049】
同様に、表2に示す薄手生地のうち洗濯後噴霧「抗菌剤3%」の試料を比較すると、洗濯を1セット行った試料(薄3)の残存ヨウ素濃度は150ppm、洗濯を10セット行った試料(薄7)の残存ヨウ素濃度は100ppmであった。このことから、洗濯後に前記抗菌剤3%溶液を噴霧したとしても、結果的に残存ヨウ素濃度は洗濯回数に応じて低下しており、単に抗菌剤を噴霧しただけでは、試料に定着(固着)しないことが確認できた。
【0050】
[試験3]
本件出願人は、本発明の不活性化剤の効果を実証するため、協力会社を通じて一般財団法人カケンテストセンターに、繊維製品の抗菌性試験を依頼した。
【0051】
【0052】
本抗菌性試験では、試験片として、試験1及び2で用いた厚手生地及び薄手生地と同じものを各2枚(合計4枚)用意した。4枚の試験片を洗浄して乾燥させたのち、すべての試験片に本発明の不活性化剤を固着させて試料とした。使用した不活性化剤及びその固着方法は、試験2の場合と同様である。
【0053】
試験3は次の手順で行われた。
(1)4枚の試料のうち、厚手生地1枚と薄手生地1枚を常温水で50回モミ洗いにより洗濯した。残りの厚手生地1枚と薄手生地1枚は洗濯をしなかった。
(2)洗濯した各試料を乾燥炉で乾燥させた。
(3)4枚の試料について、JIS L1902-2015.8.8菌液吸収法による試験を行った。
【0054】
【0055】
表5から、本発明の不活性化剤及び不活性化剤固着基材には、洗濯をしない場合のみならず、50回モミ洗いした後においても、黄色ブドウ球菌、肺炎かん菌及びMRSAのいずれの菌に対して高い抗菌効果があることが確認できた。表5において「原品」とは洗濯をしなかった試料を、「洗濯50回後」とは50回モミ洗いした試料を意味する。なお、表5の「対照試料」は洗浄して乾燥させた綿100%の白布であり、本発明の不活性化剤を固着させていない試料である。
【0056】
(不活性化方法の実施形態)
本発明の不活性化方法の実施形態の一例について説明する。本発明の不活性化方法は、前記不活性化剤固着基材を用いてウイルスや菌を不活性化する方法であり、特に、空間中に浮遊する浮遊ウイルスを不活性化する方法である。
【0057】
この実施形態の不活性化方法は、不活性化剤固着基材に空気を吹き付け、当該不活性化剤固着基材に固着した不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させることによって、ウイルスや菌を不活性化することができる。
【0058】
この実施形態の不活性化方法には、各種不活性化剤固着基材を用いることができ、たとえば、織物や不織布などの可撓性を有するシート材を用いるのが好ましい。
【0059】
不活性化剤固着基材には、ブロワなどによって空気を吹き付けることができる。空気は一方向から吹き付けることも、複数方向から吹き付けることもできる。不活性化剤固着基材が織物や不織布などのシート状の場合、それらの一方の面側から空気を吹き付けることで、当該不活性化剤固着基材の反対側にヨウ素成分が徐放される。
【0060】
吹き付ける空気は雰囲気中の空気の温度でもよいが、図示しない加熱手段で加熱した空気を吹き付けるようにしてもよい。熱風を吹き付けることによって、不活性化剤中のヨウ素成分の徐放量が増え、不活性化作用が高まることが期待できる。
【0061】
また、図示しない加湿手段で不活性化したい空間の湿度を50~70%程度に上げた状態で空気を吹き付けるようにしてもよい。空間の湿度を上げることによって、ウイルスが不活性化しやすくなり、不活性化作用が高まることが期待できる。
【0062】
本発明の不活性化方法では、不活性化剤固着基材に空気を吹き付けることによって、不活性化剤固着基材中のヨウ素成分が徐放され、空間中に存在するウイルスや菌のほか、空間中に存在する物に付着したウイルスや菌を不活性化することができる。
【0063】
(不活性化装置の実施形態1)
本発明の不活性化装置の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。本発明の不活性化装置は、前記不活性化剤固着基材を用いてウイルスや菌を不活性化する装置であり、特に、空間中に浮遊する浮遊ウイルスを不活性化する装置として好適に利用することができる。
【0064】
本発明の不活性化装置は、たとえば、
図4(a)(b)に示すようなゲート型や
図5(a)(b)に示すようなトンネル型、
図6に示すような収納ケース型、
図7(a)(b)に示すような個室型の装置として実施することができる。
【0065】
はじめに、
図4(a)(b)に示すゲート型の不活性化装置の一例について説明する。ゲート型の不活性化装置は、たとえば、デパートや病院、学校、映画館といった各種建物の入口など屋内の任意の場所に設置して使用するほか、競技場や運動施設など、屋外の任意の場所に設置して使用することもできる。
【0066】
この実施形態の不活性化装置は、ゲート型のフレーム11と、当該フレーム11の内面に内向きに設けられたブロワ12と、当該ブロワ12の吹き出し方向先方側に配置された不活性化剤固着基材13を備えている。
【0067】
前記フレーム11は、上材11a、左材11b及び右材11cによって三方が囲われた門型であり、その三つの部材11a~11cの内側には人が通過できる広さの通過部11dを備えている。フレーム11の構造は一例であり、内側に人が通過する通過路11dを備えていれば、どのような構造でもよい。たとえば、正面視円弧状の構造や、左材11bと右材11cだけの構造(上材11aのない構造)とすることもできる。
【0068】
前記ブロワ12は不活性化剤固着基材13に空気を吹き付けるものであり、既存のブロアファンなどを用いることができる。この実施形態では、ブロワ12を三つ設ける場合を一例としているが、ブロワ12は三つより少なくても多くてもよい。ブロワ12は通過路11dを通過する人に向けて設けるのが好ましい。具体的には、高い位置に設置するブロワ12は下向き(斜め下向きを含む)に設置し、低い位置に設置するブロワ12は上向き(斜め上向きを含む)に設置することができる。
【0069】
前記不活性化剤固着基材13は、ブロワ12によって徐放するヨウ素成分を含む部材である。この実施形態では前記不活性化剤固着基材の実施形態で説明した不活性化剤固着基材13を用いている。不活性化剤固着基材13は、各ブロワ12の空気の吹き出し方向先方(各ブロワ12の前面)に設けられている。
【0070】
各ブロワ12から空気が吹き付けられると、各不活性化剤固着基材に含まれるヨウ素成分がフレーム11の内側の空間に徐放され、フレーム11の内側の通過路11dを通過する人の洋服や帽子などに付着したウイルスや菌が不活性化される。ヨウ素には即効性があるため、ヨウ素成分が付着した部分のウイルスや菌が即座に不活性化される。
【0071】
(不活性化装置の実施形態2)
次に、
図5(a)(b)に示すトンネル型の不活性化装置の一例について説明する。トンネル型の不活性化装置も、デパートや病院、学校、映画館といった各種建物の入口など屋内の任意の場所に設置して使用するほか、競技場や運動施設など、屋外の任意の場所に設置して使用することもできる。
【0072】
図5(a)(b)に示すように、この実施形態の不活性化装置は、トンネル状の外層14と、当該外層14の内側に配置されるトンネル状の内層15と、外層14の内面に内向きに設けられたブロワ12を備えている。
【0073】
前記外層14は断面視半円状であり、不活性化装置の骨格をなす部分である。一例として
図5(a)(b)に示す外層14は全長3m程度のトンネルであり、内側には内層15が収まる広さの空間が確保されている。外層14は図示しない固定具などで床(地面)に設置されている。
【0074】
前記ブロワ12は内層15の不活性化剤固着基材13部分に空気を吹き付けるものであり、既存のブロアファンなどを用いることができる。この実施形態では、ブロワ12を九つ設ける場合を一例としているが、ブロワ12は九つより少なくても多くてもよい。不活性化装置の実施形態1のブロワ12と同様、ブロワ12は通過路15aを通過する人に向けて設けるのが好ましい。
【0075】
前記内層15は断面視半円状であり、内側に人が通過する通過路15aが設けられている。この実施形態の内層15は前記不活性化剤固着基材の実施形態で説明した不活性化剤固着基材13で構成されている。この実施形態では、内層15の全体が不活性化剤固着基材で構成された場合を一例としているが、内層15は全体を不活性化剤固着基材で構成する必要はなく、一部に不活性化剤固着基材が含まれていればよい。不活性化剤固着基材13には、前記不活性化剤固着基材の実施形態で説明した不活性化剤固着基材13を用いることができる。
【0076】
各ブロワ12から空気が吹き付けられると、各不活性化剤固着基材に含まれるヨウ素成分が内層15の内側の空間に徐放され、内層15の内側の通過路15aを通過する人の洋服や帽子などに付着したウイルスや菌が不活性化される。ヨウ素には即効性があるため、ヨウ素成分が付着した部分のウイルスや菌が即座に不活性化される。
【0077】
なお、この実施形態では、外層14の内側に不活性化剤固着基材13で構成された内層15が設けられた場合を一例としているが、内層15を設ける代わりに、不活性化装置の実施形態1のように、不活性化剤固着基材を各ブロワ12の前面に設け、内層15を省略することもできる。また、トンネル型の不活性化装置においては、入口と出口の双方又はいずれか一方にエアカーテンを設けることもできる。
【0078】
(不活性化装置の実施形態3)
次に、
図6に示す収納ケース型の不活性化装置の一例について説明する。収納ケース型の不活性化装置は、医師や看護師などが着用する医療用の防護服や白衣など、各種衣服(帽子や靴などを含む)を収納するケースとして使用することもできる。
【0079】
一例として
図6に示す不活性化装置は、ケース16と、ケース16内に設けられたブロワ12と、ブロワ12に空気を供給する空気供給源17と、不活性化剤固着基材13を備えている。
【0080】
前記ケース16は仕切り板16aで仕切られた上部空間16bと下部空間16cを備えている。上部空間16bは各種衣服が収容される空間、下部空間16cは空気供給源17が収容される空間である。上部空間16bの天井面にはブロワ12が設けられている。ブロワ12には下部空間16cに収容された空気供給源17から空気が供給されるようにしてある。ブロワ12は天井面以外の壁面に設けることもできる。図示は省略しているが、上部空間16bには衣服を出し入れする出し入れ用の開口部と、当該開口部を開閉する扉が設けられている。
【0081】
上部空間16bには、使用前の衣服や使用後の衣服を入れることができる。使用前の衣服を入れた状態でブロワ12を動作させると、不活性化剤固着基材13に空気が吹き付けられ、不活性化剤固着基材13に含まれるヨウ素成分が上部空間16b内に徐放されて上部空間16b内の衣服にヨウ素成分が付着する。
【0082】
この衣服を着用することで、ウイルスや菌が浮遊する空間内で作業をしても、衣服に付着したウイルスや菌が不活性化され、ウイルスや菌を吸い込むことによる感染を防止することができる。
【0083】
他方、使用後の衣服を入れた状態でブロワ12を動作させると、不活性化剤固着基材13に空気が吹き付けられ、不活性化剤固着基材13に含まれるヨウ素成分が上部空間16b内に徐放されて上部空間16b内の衣服にヨウ素成分が付着する。
【0084】
徐放されたヨウ素成分が衣服に付着することで、衣服に付着しているウイルスや菌が不活性化され、次に当該衣服を着用する際に、衣服に付着して残存するウイルスや菌を吸い込むことによる感染を防止することができる。
【0085】
この実施形態の不活性化装置は屋内の所定位置に固定して使用するほか、屋外の任意の場所に設置して使用することもできる。ウイルスなどの感染症外来は、屋外の敷地に設置されたテントやプレハブ小屋などで診療が行われることがある。本発明の収納ケース型の不活性化装置は、このような場合に特に好適に利用することができる。
【0086】
(不活性化装置の実施形態4)
次に、
図7(a)(b)に示すような個室型の不活性化装置の一例について説明する。個室型の不活性化装置は、医師や看護師などが利用する更衣室など、衣服の着脱を行う個室内などで使用することができる。
【0087】
一例として
図7(a)(b)に示す不活性化装置は、個室18と、個室18に設置されたブロワ12と、ブロワ12の前面に設けられた不活性化剤固着基材13を備えている。個室18は建物内に設置された更衣室などのほか、プレハブ小屋やテントのような移動可能なものであってもよい。
【0088】
前記ブロワ12は不活性化剤固着基材13に空気を吹き付けるものであり、既存のブロアファンなどを用いることができる。この実施形態では、ブロワ12を一つ設ける場合を一例としているが、ブロワ12は二つ以上設けることもできる。
【0089】
前記不活性化剤固着基材13は、ブロワ12によって徐放するヨウ素成分を含む部材である。この実施形態では前記不活性化剤固着基材の実施形態で説明した不活性化剤固着基材13を用いている。不活性化剤固着基材13は、各ブロワ12の空気の吹き出し方向先方(各ブロワ12の前面)に設けられている。
【0090】
ブロワ12から空気が吹き付けられると、各不活性化剤固着基材13に含まれるヨウ素成分が個室18内に徐放され、個室18内で着脱する衣服などに付着したウイルスや菌が不活性化される。ヨウ素には即効性があるため、ヨウ素成分が付着した部分のウイルスや菌が即座に不活性化される。
【0091】
(その他の実施形態)
前記各実施形態で説明した構成は一例であり、本発明の不活性化剤、不活性化剤固着基材、不活性化方法及び不活性化装置は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。また、前記各実施形態で説明した構成はすべてが必須の構成というわけではなく、不要な構成は適宜省略することができる。
【0092】
前記各実施形態の構成は、適宜他の実施形態の構成として適用することもできる。たとえば、
図4(a)(b)のゲート型の不活性化装置や
図6の収納ケース型の不活性化装置、
図7(a)(b)の個室型の不活性化装置の不活性化剤固着基材13を設ける代わりに、不活性化剤固着基材13で構成された内層(不活性化剤固着基材13を一部に含む材料で構成された内層を含む)を設けて、
図5(a)(b)に示すような二層(複数層)構造とすることができる。
【0093】
前記各実施形態では説明を省略しているが、各不活性化装置には、加熱手段や加湿手段を設けることもできる。加熱手段を設けて不活性化剤固着基材13に加熱した空気を吹き付けることによって、不活性化作用が高まることが期待できる。また、加湿手段を設けて、フレームやケーシング(個室を含む)内の湿度を、たとえば55~70%程度まで上げることによっても、不活性化作用が高まることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の不活性化剤、不活性化剤固着基材、不活性化方法及び不活性化装置は、新型コロナウイルスのほか、SARSやMERS、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス等の各種ウイルスの感染対策として利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
11 フレーム
11a 上材
11b 左材
11c 右材
11d 通過路
12 ブロワ
13 不活性化剤固着基材
14 外層
15 内層
15a 通過路
16 ケース
16a 仕切り板
16b 上部空間
16c 下部空間
17 空気供給源
18 個室
【手続補正書】
【提出日】2021-05-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌又は/及び抗ウイルス作用を有する液剤(以下「不活性化剤」という)が固着した不活性化剤固着基材を用いた不活性化方法及び不活性化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症が世界的に大きな問題となっている。従来、コロナウイルスを不活性化させる不活性化剤として、溶媒にヨウ素とシクロデキストリンとが溶解したものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記特許文献1の不活性化剤のようにヨウ素が含まれた液は黄色く、対象物に付着した際に対象物が着色してしまうという難点がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、対象物に付着しても着色しない無色の不活性化剤が固着した不活性化剤固着基材を用いた不活性化方法及び不活性化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[不活性化剤]
本願における不活性化剤は、ウイルス又は/及び菌を不活性化させる不活性化剤であって、電気伝導率0.01~1mS/m(ミリジーメンスパーメートル)の水又は比抵抗0.1~10MΩ・cm(メグオーム・センチメートル)の水と、ヨウ素をシクロデキストリンで包接した(カプセル化した)CD包接体(以下「ヨウ素CD包接体」という)と、ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンを含む無色の液体である。なお、電気伝導率0.01~1mS/mはSI単位系での表記であり、工業単位系であるμS/cm(マイクロジーメンスパーセンチメートル)に換算すると、0.1~10μS/cmである。
【0007】
[不活性化剤固着基材]
本願における不活性化剤固着基材は、本願における不活性化剤が基材に固着したものである。
【0008】
[不活性化方法]
本発明の不活性化方法は、電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水と、ヨウ素をシクロデキストリンで包接したヨウ素CD包接体と、前記ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンを含む無色の液体の不活性化剤が基材に固着した不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させ、空間中のウイルスや菌を不活性化させる方法である。
【0009】
[不活性化装置]
本発明の不活性化装置は、電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水と、ヨウ素をシクロデキストリンで包接したヨウ素CD包接体と、前記ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンを含む無色の液体の不活性化剤が基材に固着した不活性化剤固着基材と、不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させるブロワを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の不活性化方法及び不活性化装置は、不活性化作用の強いヨウ素成分を徐放させることができるので、空間中のウイルスや菌を効果的に不活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本
願における不活性化剤固着基材の一例を示すフローチャート。
【
図4】(a)はゲート型の不活性化装置の一例を示す正面図、(b)は(a)のIVb-IVb断面図。
【
図5】(a)はトンネル型の不活性化装置の一例を示す正面図、(b)は(a)のVb-Vb断面図。
【
図6】収納ケース型の不活性化装置の一例を示す内部構造図。
【
図7】(a)は個室型の不活性化装置の一例を示す斜視説明図、(b)は(a)の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(不活性化剤の参考例)
本願における不活性化剤の参考例を、図面を参照して説明する。この参考例の不活性化剤は、溶媒と、ヨウ素CD包接体と、当該ヨウ素を包接するシクロデキストリンとは別のアンカー用のシクロデキストリン(以下「アンカー用デキストリン」という)を含む液剤である。液剤はスプレーノズルを備えたUVカット容器に収容されている。容器はUVカット効果のないものやスプレーノズルのないものであってもよい。業務用として販売する場合には、大型の容器などに収容しておくこともできる。
【0013】
前記溶媒には金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/m(0.1~10μS/cm)の水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水を用いることができる。好ましくは、電気伝導率0.01~0.1mS/m(0.1~1μS/cm)の水又は比抵抗1~10MΩ・cm以下の水を用いることができる。電気伝導率1mS/m(10μS/cm)の水はいわゆるRO処理水であり、電気伝導率0.1mS/m(1μS/cm)の水はいわゆるイオン交換処理水である。
【0014】
前記金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水は、たとえば、RO膜(逆浸透膜)を備えたRO装置(逆浸透膜濾過装置)や、イオン交換樹脂を備えた純水装置などを用いて生成することができる。
【0015】
溶媒には、金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水をクラスター化したもの(いわゆる活性水)を用いることもできる。ここでいうクラスターとは、二個以上の分子又は原子がファンデルワールス力や水素結合などの比較的に弱い相互作用で集合したものをいう。クラスター水を用いることで、抗菌力(不活性化力)の向上が期待できる。また、クラスター水を用いることで、RO装置で造水する際の造水量の向上が期待できる。
【0016】
ヨウ素はハロゲン族に属するものであり、溶媒(水)中に金属イオンが含まれているとそれら金属を酸化させ、液体が着色する一因となる。この点、溶媒として、電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水(たとえば、金属イオンの含有率が低いRO処理水やイオン交換処理水)を用いることで、液体の着色の進行を抑えることができる。金属イオンが完全に除去された水を用いれば、着色自体を避けることができるが、若干の金属イオンが含まれていても着色の進行を抑えて長期間無色の状態を維持することができる。
【0017】
このように、溶媒として金属イオンの含有率が低い電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水を用いることで、ヨウ素が含まれていても液体が着色せず、無色な不活性化剤を得ることができる。無色な不活性化剤は、白衣やマスクのような白色の素材にも用いても着色しないため、利用範囲が大きく広がる。
【0018】
前記ヨウ素CD包接体には、三井化学株式会社製の水溶性抗菌・防カビ剤「ヨートルDP-CD(「ヨートル」は登録商標。以下同じ。)」を用いることができる。ヨウ素CD包接体はこれ以外であってもよく、たとえば、α-シクロデキストリンやβ-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンといった各種シクロデキストリンに市販のヨウ素液を投入し、それを混ぜることによって生成されたものなどを用いることもできる。
【0019】
前記アンカー用デキストリンにはα-シクロデキストリンやβ-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンなどを用いることができる。この参考例では、アンカー用デキストリンとして、株式会社シクロケムの「MTC-βCD」を用いている。ヨウ素CD包接体は不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%程度、アンカー用デキストリンは不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%程度の範囲で適宜選択することができる。なお、ヨウ素CD包接体とアンカー用デキストリンは、ヨウ素CD包接体の含有量がアンカー用デキストリンの含有量よりも多くなるようにすることも、アンカー用デキストリンの含有量がヨウ素CD包接体の含有量よりも多くなるようにすることもできる。
【0020】
この参考例の不活性化剤には含まれていないが、本願における不活性化剤には、溶媒(電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水)、ヨウ素CD包接体、アンカー用デキストリンのほか、香料(アロマ)や抗菌性を有する銀ナノ粒子を含めることもできる。この場合、香料や銀ナノ粒子の混合比率は不活性化剤の全重量に対して10重量%未満、好ましくは5重量%未満とすることができる。
【0021】
(不活性化剤固着基材の参考例)
次に、本願における不活性化剤固着基材の参考例について説明する。この参考例の不活性化剤固着基材は、基材に前記不活性化剤の参考例で説明した不活性化剤が固着したものである。
【0022】
前記基材には、繊維や糸、布(織布や不織布などの布地)、生地、紙、皮革、樹脂(フイルムを含む)、ゴム、金属、木材などのほか、これら材料で製造された各種製品が含まれる。繊維には天然繊維のほか化学繊維も含まれ、皮革には天然皮革のほか合成皮革も含まれる。ただし、基材は後述する加熱温度に耐えうるものである必要がある。
【0023】
具体例としては、医療用マスク、透明マスク、フェイスシールド、手袋、靴下、保温着、インナーウエア(下着・ブラジャー等を含む)、傘、レインコート、アウトウエア用品(スポーツウエア等を含む)、アウトドア用品、敷き布団、掛け布団、シーツ、枕カバー、病院用シーツ、医療用ウエア、タイツ、壁紙、ペット用シート、家畜用ウエア、カーペット、カーテン、布地家具製品、樹脂フィルム、換気用フィルタ等があげられる。
【0024】
不活性化剤固着基材は、たとえば、
図1に示すように、不活性化の対象である基材に不活性化剤を付着させる工程(塗布工程)S001と、不活性化剤を付着させた基材を加熱する工程(加熱工程)S002を経て得ることができる。
【0025】
前記塗布工程S001では、容器(UVカット容器)のスプレーノズルから不活性化剤を噴霧し、基材に付着させればよい。不活性化剤には、前述の不活性化剤を用いることができる。付着量に特に限定はなく、基材の大きさや素材に応じて適宜量を付着させればよい。洗濯をしない基材であれば、付着させた不活性化剤を乾燥させるだけで、不活性化剤固着基材を得ることができる。
【0026】
前記加熱工程S002では、不活性化剤が付着した基材を加熱して、不活性化剤中のヨウ素CD包接体を固着させる。基材は、たとえば、一般家庭であればアイロンやドライヤーなどを用いて加熱することができ、工場などの現場であれば工業用の加熱装置を用いて加熱することができる。加熱方法に特に限定はなく、基材の大きさや素材に応じて適宜の方法で加熱すればよい。加熱機器を用いずに、太陽光などで加熱してもよい。たとえば、車のシートなどの場合、不活性化剤を付着させたのち、そのまま放置しておくだけでも太陽光の熱によって加熱される。不活性化剤は自然乾燥させてもよい。
【0027】
基材は、ヨウ素が基材に固着する温度以上であってヨウ素が溶融する温度未満、具体的には80℃以上160℃未満の範囲で加熱するようにする。80℃未満だとヨウ素CD包接体が基材に固着しにくく、160℃以上だとヨウ素が分解するおそれがある。ただし、この温度範囲は一例であり、温度範囲はこれ以外であってもよい。
【0028】
本願における不活性化剤には即効性のあるヨウ素が含まれているため、ウイルスなどの感染対策として好適に利用することができる。また、本願における不活性化剤はアンカー用デキストリンのアンカー効果によってヨウ素CD包接体が基材に固着するため、洗濯を繰り返しても抗菌あるいは抗ウイルス効果が持続する。さらに、本願における不活性化剤に含まれるヨウ素CD包接体によって、抗菌作用や抗ウイルス作用のほか、制菌作用や防カビ作用、消臭作用などが発揮される。本願における不活性化剤固着基材は前記方法以外の方法で製造することもできる。
【0029】
このような作用効果を奏する不活性化剤を用いる本願における不活性化剤固着基材は、不活性化作用の持続性に優れた基材となる。また、本願における不活性化剤固着基材には、防カビ効果や消臭効果も期待することができる。
【0030】
なお、前述の例では、不活性化剤を容器(UVカット容器)のスプレーノズルから噴霧する場合を一例としているが、ロールトゥーロール方式の装置を用いる場合、当該装置内においてスプレー噴霧によって不活性化剤を付着させることができる。また、不活性化剤は、スプレー噴霧方式以外の方法、たとえば、ディッピング方式やグラビア印刷方式、サクション式噴出方式(ロール内部から液を噴出させる方法)等によって物品に付着させることもできる。
【0031】
本件出願人は、本願における不活性化剤の効果を実証するため、株式会社産業分析センター草加試験所(計量証明事業所 埼玉県知事登録 濃度 第512号)に、試験(EN14582に準拠する燃焼試験)を依頼した。試験は二回に分けて行われた。各試験の概要と結果は次のとおりである。
【0032】
[試験1]
試験1ではA4サイズの4枚の試験片を用意した。4枚の試験片のうち2枚は厚さ0.4mmの綿生地(厚手生地)、他の2枚は厚さ0.2mmの綿生地(薄手生地)である。4枚の生地は最初に洗浄し、80℃で乾燥させた。その後、2枚の厚手生地のうち1枚(表1及び3の「A未」)には何ら処理をせずにそのまま試料とし、他の1枚(表1及び3の「A処」)にはヨートルDP-CD1%溶液を含浸させ、乾燥させて試料とした。また、2枚の薄手生地のうち1枚(表1及び3の「B未」)には何ら処理をせずにそのまま試料とし、他の1枚(表1及び3の「B処」)にはヨートルDP-CD1%溶液を含浸させ、乾燥させて試料とした。
【0033】
試験1は次の手順で行われた(
図2参照)。
(1)試料を常温水でモミ洗いにより1セット洗濯した(S101)。なお、試験1ではモミ洗い30回を1セットとしてカウントした。
(2)洗濯した各試料を乾燥炉で乾燥させた(S102)。
(3)乾燥させた各試料を燃焼し(S103)、燃焼後の各試料の燃焼物を吸収液中に入れて撹拌した(S104)。
(4)撹拌後の吸収液を定容した(S105)。
(5)定容した吸収液中におけるヨウ素の濃度(以下「残存ヨウ素濃度」という)をEN14582に準拠のイオンクロマトグラフィー(IC:DIONEX ICS-1100 RFIC)にて測定した(S106)。
【0034】
【0035】
表1において、「洗濯後噴霧」は洗濯及び乾燥後燃焼前に噴霧した液剤の種類を、「洗濯回数(セット)」は試料の洗濯セット数を、「試料No.」は試料の整理番号を、「濃度(ppm)」は吸収液中における残存ヨウ素濃度を、「洗濯後噴霧」の「なし」は何ら噴霧しなかったことを意味する。
【0036】
[試験2]
試験2では、試験片として試験1で用いた厚手生地及び薄手生地と同じものを9枚ずつ(合計18枚)用意した。18枚の試験片を洗浄し、80℃で乾燥させたのち、すべての試験片に本願における不活性化剤を1平方メートルあたり1~1.4g(乾燥後生地重量増加分)を固着させた。使用した不活性化剤は、電気伝導率0.01~1mS/m(比抵抗1MΩ・cm)の水と、DMTS濃度2.7重量%のヨートルDP-CDと、1.0重量%のβ-シクロデキストリンで構成されたものである。不活性化剤は、各試験片に塗布したのち145℃で乾燥させることによって各試験片に固着させ、この固着後の各試験片を試料とした。後述する表2及び表3では、9枚の厚手生地を「厚1」~「厚9」と、9枚の薄手生地を「薄1」~「薄9」と表記した。
【0037】
試験2は次の手順で行われた(
図3参照)。
(1)各試料を常温水でモミ洗いにより洗濯した(S201)。洗濯は、厚1、厚3、厚5、薄1、薄3及び薄5は1セット、厚6及び薄6は5セット、厚2、厚4、厚7、薄2、薄4、薄7は10セット、厚8及び薄8は20セットとし、その他は洗濯なしとした。試験1同様、試験2でもモミ洗い30回を1セットとしてカウントした。
(2)洗濯した各試料を乾燥炉で乾燥させた(S202)。
(3)乾燥させた各試料のうち、厚1、厚2、厚9、薄1、薄2及び薄9には、前記ヨートルDP-CD1%溶液を噴霧し(S203a)、厚3、厚7、薄3及び薄7には抗菌剤(日華化学株式会社の繊維加工用抗ウイルス・抗菌防臭剤「ニッカノンRB」(「ニッカノン」は登録商標。以下同じ。))3%溶液を噴霧し(S203b)、その他の試料には何ら噴霧しなかった。
(4)ヨートルDP-CD1%溶液又は抗菌剤3%溶液を噴霧した各試料を乾燥させた(S204a、204b)。
(5)乾燥させた各試料(前記ヨートルDP-CD1%溶液又は抗菌剤3%溶液を噴霧したものはそれらを乾燥させた各試料)を燃焼した(S205)。
(6)燃焼後の燃焼物を吸収液中に入れて撹拌した(S206)。
(7)撹拌後の吸収液を定容した(S207)。
(8)定容した吸収液中における残存ヨウ素濃度をEN14582に準拠のイオンクロマトグラフィー(IC:DIONEX ICS-1100 RFIC)にて測定した(S208)。
【0038】
【0039】
表2における「洗濯後噴霧」「洗濯回数(セット)」「試料No.」及び「濃度(ppm)」の意味は表1と同様である。また、表2における「洗濯後噴霧」の「DP-CD1%」はヨートルDP-CD1%溶液を噴霧したことを、「抗菌剤3%」は抗菌剤3%溶液を噴霧したことを、「なし」は何ら噴霧しなかったことを意味する。
【0040】
表1に、表2のうち本
願における不活性化剤を固着した試料であって洗濯後に何ら噴霧しなかった試料(厚5及び薄5)の結果を組み合わせたものを表3に示す。
【表3】
【0041】
表3に示すとおり、何ら処理を施さなかった試料からはヨウ素は検出されなかった。厚手生地については、前記ヨートルDP-CD1%溶液を含浸させて乾燥させた試料(A処)では残存ヨウ素濃度が180ppmであったのに対し、本願における不活性化剤を付着させて加熱した試料(厚5)では残存ヨウ素濃度が450ppmであった。
【0042】
また、薄手生地については、前記ヨートルDP-CD1%溶液のみを含浸させて乾燥させた試料(B処)ではヨウ素が検出されなかったのに対し、本願における不活性化剤を付着させて加熱した試料(薄5)では残存ヨウ素濃度が130ppmであった。
【0043】
これらの結果から、前記ヨートルDP-CD1%溶液のみを含浸させて乾燥させた場合に比べて、本願における不活性化剤を付着させて加熱した場合の方が、ヨウ素が残存しやすいことが確認できた。
【0044】
表2に示す厚手生地のうち洗濯後噴霧「なし」の試料を比較すると、洗濯を1セット行った試料(厚5)の残存ヨウ素濃度は450ppm、洗濯を5セット行った試料(厚6)の残存ヨウ素濃度は410ppm、洗濯を10セット行った試料(厚4)の残存ヨウ素濃度は340ppm、洗濯を20セット行った試料(厚8)の残存ヨウ素濃度は51ppmであり、洗濯回数の増加と共に残存ヨウ素濃度は低下するものの、本願における不活性化剤を付着させて加熱した試料については、洗濯を20セット行ってもヨウ素が残存すること、すなわち、不活性化効果が持続することが確認できた。
【0045】
同様に、表2に示す薄手生地のうち洗濯後噴霧「なし」の試料を比較すると、洗濯を1セット行った試料(薄5)の残存ヨウ素濃度は130ppm、洗濯を5セット行った試料(薄6)の残存ヨウ素濃度は110ppm、洗濯を10セット行った試料(薄4)の残存ヨウ素濃度は110ppm、洗濯を20セット行った試料(薄8)の残存ヨウ素濃度は130ppmであり、洗濯回数の増加と共に残存ヨウ素濃度は多少の幅をもって変化するものの、本願における不活性化剤を付着させて加熱した試料については、洗濯を20セット行ってもヨウ素が残存すること、すなわち、不活性化効果が持続することが確認できた。
【0046】
表2に示す厚手生地のうち洗濯後噴霧「DP-CD1%」の試料を比較すると、洗濯を行わなかった試料(厚9)の残存ヨウ素濃度は790ppm、洗濯を1セット行った試料(厚1)の残存ヨウ素濃度は510ppm、洗濯を10セット行った試料(厚2)の残存ヨウ素濃度は330ppmであった。このことから、洗濯後に前記ヨートルDP-CD1%溶液を噴霧したとしても、結果的に残存ヨウ素濃度は洗濯回数に応じて低下しており、単にヨートルDP-CDを噴霧しただけでは、試料に定着(固着)しないことが確認できた。
【0047】
同様に、表2に示す薄手生地のうち洗濯後噴霧「DP-CD1%」の試料を比較すると、洗濯を行わなかった試料(薄9)の残存ヨウ素濃度は340ppm、洗濯を1セット行った試料(薄1)の残存ヨウ素濃度は260ppm、洗濯を10セット行った試料(薄2)の残存ヨウ素濃度は100ppmであった。このことから、洗濯後に前記ヨートルDP-CD1%溶液を噴霧したとしても、結果的に残存ヨウ素濃度は洗濯回数に応じて低下しており、単にヨートルDP-CDを噴霧しただけでは、試料に定着(固着)しないことが確認できた。
【0048】
表2に示す厚手生地のうち洗濯後噴霧「抗菌剤3%」の試料を比較すると、洗濯を1セット行った試料(厚3)の残存ヨウ素濃度は340ppm、洗濯を10セット行った試料(厚7)の残存ヨウ素濃度は270ppmであった。このことから、洗濯後に前記抗菌剤3%溶液を噴霧したとしても、結果的に残存ヨウ素濃度は洗濯回数に応じて低下しており、単に抗菌剤を噴霧しただけでは、試料に定着(固着)しないことが確認できた。
【0049】
同様に、表2に示す薄手生地のうち洗濯後噴霧「抗菌剤3%」の試料を比較すると、洗濯を1セット行った試料(薄3)の残存ヨウ素濃度は150ppm、洗濯を10セット行った試料(薄7)の残存ヨウ素濃度は100ppmであった。このことから、洗濯後に前記抗菌剤3%溶液を噴霧したとしても、結果的に残存ヨウ素濃度は洗濯回数に応じて低下しており、単に抗菌剤を噴霧しただけでは、試料に定着(固着)しないことが確認できた。
【0050】
[試験3]
本件出願人は、本願における不活性化剤の効果を実証するため、協力会社を通じて一般財団法人カケンテストセンターに、繊維製品の抗菌性試験を依頼した。
【0051】
【0052】
本抗菌性試験では、試験片として、試験1及び2で用いた厚手生地及び薄手生地と同じものを各2枚(合計4枚)用意した。4枚の試験片を洗浄して乾燥させたのち、すべての試験片に本願における不活性化剤を固着させて試料とした。使用した不活性化剤及びその固着方法は、試験2の場合と同様である。
【0053】
試験3は次の手順で行われた。
(1)4枚の試料のうち、厚手生地1枚と薄手生地1枚を常温水で50回モミ洗いにより洗濯した。残りの厚手生地1枚と薄手生地1枚は洗濯をしなかった。
(2)洗濯した各試料を乾燥炉で乾燥させた。
(3)4枚の試料について、JIS L1902-2015.8.8菌液吸収法による試験を行った。
【0054】
【0055】
表5から、本願における不活性化剤及び不活性化剤固着基材には、洗濯をしない場合のみならず、50回モミ洗いした後においても、黄色ブドウ球菌、肺炎かん菌及びMRSAのいずれの菌に対して高い抗菌効果があることが確認できた。表5において「原品」とは洗濯をしなかった試料を、「洗濯50回後」とは50回モミ洗いした試料を意味する。なお、表5の「対照試料」は洗浄して乾燥させた綿100%の白布であり、本願における不活性化剤を固着させていない試料である。
【0056】
(不活性化方法の実施形態)
本発明の不活性化方法の実施形態の一例について説明する。本発明の不活性化方法は、前記不活性化剤固着基材を用いてウイルスや菌を不活性化する方法であり、特に、空間中に浮遊する浮遊ウイルスを不活性化する方法である。
【0057】
この実施形態の不活性化方法は、不活性化剤固着基材に空気を吹き付け、当該不活性化剤固着基材に固着した不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させることによって、ウイルスや菌を不活性化することができる。
【0058】
この実施形態の不活性化方法には、各種不活性化剤固着基材を用いることができ、たとえば、織物や不織布などの可撓性を有するシート材を用いるのが好ましい。
【0059】
不活性化剤固着基材には、ブロワなどによって空気を吹き付けることができる。空気は一方向から吹き付けることも、複数方向から吹き付けることもできる。不活性化剤固着基材が織物や不織布などのシート状の場合、それらの一方の面側から空気を吹き付けることで、当該不活性化剤固着基材の反対側にヨウ素成分が徐放される。
【0060】
吹き付ける空気は雰囲気中の空気の温度でもよいが、図示しない加熱手段で加熱した空気を吹き付けるようにしてもよい。熱風を吹き付けることによって、不活性化剤中のヨウ素成分の徐放量が増え、不活性化作用が高まることが期待できる。
【0061】
また、図示しない加湿手段で不活性化したい空間の湿度を50~70%程度に上げた状態で空気を吹き付けるようにしてもよい。空間の湿度を上げることによって、ウイルスが不活性化しやすくなり、不活性化作用が高まることが期待できる。
【0062】
本発明の不活性化方法では、不活性化剤固着基材に空気を吹き付けることによって、不活性化剤固着基材中のヨウ素成分が徐放され、空間中に存在するウイルスや菌のほか、空間中に存在する物に付着したウイルスや菌を不活性化することができる。
【0063】
(不活性化装置の実施形態1)
本発明の不活性化装置の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。本発明の不活性化装置は、前記不活性化剤固着基材を用いてウイルスや菌を不活性化する装置であり、特に、空間中に浮遊する浮遊ウイルスを不活性化する装置として好適に利用することができる。
【0064】
本発明の不活性化装置は、たとえば、
図4(a)(b)に示すようなゲート型や
図5(a)(b)に示すようなトンネル型、
図6に示すような収納ケース型、
図7(a)(b)に示すような個室型の装置として実施することができる。
【0065】
はじめに、
図4(a)(b)に示すゲート型の不活性化装置の一例について説明する。ゲート型の不活性化装置は、たとえば、デパートや病院、学校、映画館といった各種建物の入口など屋内の任意の場所に設置して使用するほか、競技場や運動施設など、屋外の任意の場所に設置して使用することもできる。
【0066】
この実施形態の不活性化装置は、ゲート型のフレーム11と、当該フレーム11の内面に内向きに設けられたブロワ12と、当該ブロワ12の吹き出し方向先方側に配置された不活性化剤固着基材13を備えている。
【0067】
前記フレーム11は、上材11a、左材11b及び右材11cによって三方が囲われた門型であり、その三つの部材11a~11cの内側には人が通過できる広さの通過部11dを備えている。フレーム11の構造は一例であり、内側に人が通過する通過路11dを備えていれば、どのような構造でもよい。たとえば、正面視円弧状の構造や、左材11bと右材11cだけの構造(上材11aのない構造)とすることもできる。
【0068】
前記ブロワ12は不活性化剤固着基材13に空気を吹き付けるものであり、既存のブロアファンなどを用いることができる。この実施形態では、ブロワ12を三つ設ける場合を一例としているが、ブロワ12は三つより少なくても多くてもよい。ブロワ12は通過路11dを通過する人に向けて設けるのが好ましい。具体的には、高い位置に設置するブロワ12は下向き(斜め下向きを含む)に設置し、低い位置に設置するブロワ12は上向き(斜め上向きを含む)に設置することができる。
【0069】
前記不活性化剤固着基材13は、ブロワ12によって徐放するヨウ素成分を含む部材である。この実施形態では前記不活性化剤固着基材の参考例で説明した不活性化剤固着基材13を用いている。不活性化剤固着基材13は、各ブロワ12の空気の吹き出し方向先方(各ブロワ12の前面)に設けられている。
【0070】
各ブロワ12から空気が吹き付けられると、各不活性化剤固着基材に含まれるヨウ素成分がフレーム11の内側の空間に徐放され、フレーム11の内側の通過路11dを通過する人の洋服や帽子などに付着したウイルスや菌が不活性化される。ヨウ素には即効性があるため、ヨウ素成分が付着した部分のウイルスや菌が即座に不活性化される。
【0071】
(不活性化装置の実施形態2)
次に、
図5(a)(b)に示すトンネル型の不活性化装置の一例について説明する。トンネル型の不活性化装置も、デパートや病院、学校、映画館といった各種建物の入口など屋内の任意の場所に設置して使用するほか、競技場や運動施設など、屋外の任意の場所に設置して使用することもできる。
【0072】
図5(a)(b)に示すように、この実施形態の不活性化装置は、トンネル状の外層14と、当該外層14の内側に配置されるトンネル状の内層15と、外層14の内面に内向きに設けられたブロワ12を備えている。
【0073】
前記外層14は断面視半円状であり、不活性化装置の骨格をなす部分である。一例として
図5(a)(b)に示す外層14は全長3m程度のトンネルであり、内側には内層15が収まる広さの空間が確保されている。外層14は図示しない固定具などで床(地面)に設置されている。
【0074】
前記ブロワ12は内層15の不活性化剤固着基材13部分に空気を吹き付けるものであり、既存のブロアファンなどを用いることができる。この実施形態では、ブロワ12を九つ設ける場合を一例としているが、ブロワ12は九つより少なくても多くてもよい。不活性化装置の実施形態1のブロワ12と同様、ブロワ12は通過路15aを通過する人に向けて設けるのが好ましい。
【0075】
前記内層15は断面視半円状であり、内側に人が通過する通過路15aが設けられている。この実施形態の内層15は前記不活性化剤固着基材の参考例で説明した不活性化剤固着基材13で構成されている。この実施形態では、内層15の全体が不活性化剤固着基材で構成された場合を一例としているが、内層15は全体を不活性化剤固着基材で構成する必要はなく、一部に不活性化剤固着基材が含まれていればよい。不活性化剤固着基材13には、前記不活性化剤固着基材の参考例で説明した不活性化剤固着基材13を用いることができる。
【0076】
各ブロワ12から空気が吹き付けられると、各不活性化剤固着基材に含まれるヨウ素成分が内層15の内側の空間に徐放され、内層15の内側の通過路15aを通過する人の洋服や帽子などに付着したウイルスや菌が不活性化される。ヨウ素には即効性があるため、ヨウ素成分が付着した部分のウイルスや菌が即座に不活性化される。
【0077】
なお、この実施形態では、外層14の内側に不活性化剤固着基材13で構成された内層15が設けられた場合を一例としているが、内層15を設ける代わりに、不活性化装置の実施形態1のように、不活性化剤固着基材を各ブロワ12の前面に設け、内層15を省略することもできる。また、トンネル型の不活性化装置においては、入口と出口の双方又はいずれか一方にエアカーテンを設けることもできる。
【0078】
(不活性化装置の実施形態3)
次に、
図6に示す収納ケース型の不活性化装置の一例について説明する。収納ケース型の不活性化装置は、医師や看護師などが着用する医療用の防護服や白衣など、各種衣服(帽子や靴などを含む)を収納するケースとして使用することもできる。
【0079】
一例として
図6に示す不活性化装置は、ケース16と、ケース16内に設けられたブロワ12と、ブロワ12に空気を供給する空気供給源17と、不活性化剤固着基材13を備えている。
【0080】
前記ケース16は仕切り板16aで仕切られた上部空間16bと下部空間16cを備えている。上部空間16bは各種衣服が収容される空間、下部空間16cは空気供給源17が収容される空間である。上部空間16bの天井面にはブロワ12が設けられている。ブロワ12には下部空間16cに収容された空気供給源17から空気が供給されるようにしてある。ブロワ12は天井面以外の壁面に設けることもできる。図示は省略しているが、上部空間16bには衣服を出し入れする出し入れ用の開口部と、当該開口部を開閉する扉が設けられている。
【0081】
上部空間16bには、使用前の衣服や使用後の衣服を入れることができる。使用前の衣服を入れた状態でブロワ12を動作させると、不活性化剤固着基材13に空気が吹き付けられ、不活性化剤固着基材13に含まれるヨウ素成分が上部空間16b内に徐放されて上部空間16b内の衣服にヨウ素成分が付着する。
【0082】
この衣服を着用することで、ウイルスや菌が浮遊する空間内で作業をしても、衣服に付着したウイルスや菌が不活性化され、ウイルスや菌を吸い込むことによる感染を防止することができる。
【0083】
他方、使用後の衣服を入れた状態でブロワ12を動作させると、不活性化剤固着基材13に空気が吹き付けられ、不活性化剤固着基材13に含まれるヨウ素成分が上部空間16b内に徐放されて上部空間16b内の衣服にヨウ素成分が付着する。
【0084】
徐放されたヨウ素成分が衣服に付着することで、衣服に付着しているウイルスや菌が不活性化され、次に当該衣服を着用する際に、衣服に付着して残存するウイルスや菌を吸い込むことによる感染を防止することができる。
【0085】
この実施形態の不活性化装置は屋内の所定位置に固定して使用するほか、屋外の任意の場所に設置して使用することもできる。ウイルスなどの感染症外来は、屋外の敷地に設置されたテントやプレハブ小屋などで診療が行われることがある。本発明の収納ケース型の不活性化装置は、このような場合に特に好適に利用することができる。
【0086】
(不活性化装置の実施形態4)
次に、
図7(a)(b)に示すような個室型の不活性化装置の一例について説明する。個室型の不活性化装置は、医師や看護師などが利用する更衣室など、衣服の着脱を行う個室内などで使用することができる。
【0087】
一例として
図7(a)(b)に示す不活性化装置は、個室18と、個室18に設置されたブロワ12と、ブロワ12の前面に設けられた不活性化剤固着基材13を備えている。個室18は建物内に設置された更衣室などのほか、プレハブ小屋やテントのような移動可能なものであってもよい。
【0088】
前記ブロワ12は不活性化剤固着基材13に空気を吹き付けるものであり、既存のブロアファンなどを用いることができる。この実施形態では、ブロワ12を一つ設ける場合を一例としているが、ブロワ12は二つ以上設けることもできる。
【0089】
前記不活性化剤固着基材13は、ブロワ12によって徐放するヨウ素成分を含む部材である。この実施形態では前記不活性化剤固着基材の参考例で説明した不活性化剤固着基材13を用いている。不活性化剤固着基材13は、各ブロワ12の空気の吹き出し方向先方(各ブロワ12の前面)に設けられている。
【0090】
ブロワ12から空気が吹き付けられると、各不活性化剤固着基材13に含まれるヨウ素成分が個室18内に徐放され、個室18内で着脱する衣服などに付着したウイルスや菌が不活性化される。ヨウ素には即効性があるため、ヨウ素成分が付着した部分のウイルスや菌が即座に不活性化される。
【0091】
(その他の参考例及び実施形態)
前記各参考例及び各実施形態で説明した構成は一例であり、本願における不活性化剤や不活性化剤固着基材、本発明の不活性化方法及び不活性化装置は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。また、前記各参考例や実施形態で説明した構成はすべてが必須の構成というわけではなく、不要な構成は適宜省略することができる。
【0092】
前記各
参考例及び実施形態の構成は、適宜他の
参考例及び実施形態の構成として適用することもできる。たとえば、
図4(a)(b)のゲート型の不活性化装置や
図6の収納ケース型の不活性化装置、
図7(a)(b)の個室型の不活性化装置の不活性化剤固着基材13を設ける代わりに、不活性化剤固着基材13で構成された内層(不活性化剤固着基材13を一部に含む材料で構成された内層を含む)を設けて、
図5(a)(b)に示すような二層(複数層)構造とすることができる。
【0093】
前記各実施形態では説明を省略しているが、各不活性化装置には、加熱手段や加湿手段を設けることもできる。加熱手段を設けて不活性化剤固着基材13に加熱した空気を吹き付けることによって、不活性化作用が高まることが期待できる。また、加湿手段を設けて、フレームやケーシング(個室を含む)内の湿度を、たとえば55~70%程度まで上げることによっても、不活性化作用が高まることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本願における不活性化剤や不活性化剤固着基材、本発明の不活性化方法及び不活性化装置は、新型コロナウイルスのほか、SARSやMERS、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス等の各種ウイルスの感染対策として利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
11 フレーム
11a 上材
11b 左材
11c 右材
11d 通過路
12 ブロワ
13 不活性化剤固着基材
14 外層
15 内層
15a 通過路
16 ケース
16a 仕切り板
16b 上部空間
16c 下部空間
17 空気供給源
18 個室
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水と、ヨウ素をシクロデキストリンで包接したヨウ素CD包接体と、前記ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンを含む無色の液体の不活性化剤が基材に固着した不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させることによって、空間中のウイルス又は/及び菌を不活性化させる、
ことを特徴とする不活性化方法。
【請求項2】
請求項1記載の不活性化方法において、
電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水として、クラスター化された電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水が用いられた、
ことを特徴とする不活性化方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の不活性化方法において、
ヨウ素CD包接体が不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%、ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンが不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%含まれた、
ことを特徴とする不活性化方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の不活性化方法において、
銀ナノ粒子が不活性化剤の全重量に対して10重量%未満含まれた、
ことを特徴とする不活性化方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の不活性化方法において、
基材がシート材である、
ことを特徴とする不活性化方法。
【請求項6】
電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水と、ヨウ素をシクロデキストリンで包接したヨウ素CD包接体と、前記ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンを含む無色の液体の不活性化剤が基材に固着した不活性化剤固着基材と、
前記不活性化剤固着基材に空気を吹き付けて、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分を徐放させるブロワを備えた、
ことを特徴とする不活性化装置。
【請求項7】
請求項6記載の不活性化装置において、
電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水として、クラスター化された電気伝導率0.01~1mS/mの水又は比抵抗0.1~10MΩ・cmの水が用いられた、
ことを特徴とする不活性化装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7記載の不活性化装置において、
ヨウ素CD包接体が不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%、ヨウ素CD包接体中のシクロデキストリンとは別のシクロデキストリンが不活性化剤の全重量に対して0.1~20重量%含まれた、
ことを特徴とする不活性化装置。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の不活性化装置において、
銀ナノ粒子が不活性化剤の全重量に対して10重量%未満含まれた、
ことを特徴とする不活性化装置。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の不活性化装置において、
基材がシート材である、
ことを特徴とする不活性化装置。
【請求項11】
請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の不活性化装置において、
フレーム又はケーシングを備え、
前記フレーム又はケーシングに不活性化剤固着基材及びブロワが設けられ、
前記不活性化剤固着基材は、前記ブロワの空気吹き出し方向先方側に設けられ、
前記ブロワから不活性化剤固着基材に空気が吹き付けられると、当該不活性化剤固着基材に固着された不活性化剤中のヨウ素成分が徐放されて、前記フレーム又はケーシングの内側のウイルス又は/及び菌が不活性化される、
ことを特徴とする不活性化装置。
【請求項12】
請求項11記載の不活性化装置において、
フレーム又はケーシングが複数層構造であり、
前記複数層の最内層が不活性化剤固着基材を含む素材で構成され、
前記最内層の外側の層にブロワが設けられた、
ことを特徴とする不活性化装置。