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▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040092
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】試料注入器
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/24 20060101AFI20220303BHJP
   G01N 30/18 20060101ALI20220303BHJP
   G01N 30/20 20060101ALI20220303BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
G01N30/24 E
G01N30/18 G
G01N30/20 E
G01N30/72 C
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021138628
(22)【出願日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】20193241
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100172041
【弁理士】
【氏名又は名称】小畑 統照
(72)【発明者】
【氏名】インドラニル・ミトラ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高スループットおよびランダムアクセスに適する液体クロマトグラフィシステムを提供する。
【解決手段】試料受容導管6を介して試料入力ポート11に流体接続された試料吸引ニードル5と、試料吸引ニードルが試料コンテナ2に挿入され、かつ吸引ポンプポート12が試料入力ポートに接続されるときに試料吸引ニードルを介して試料1を吸引する、吸引ポンプポートに接続された吸引ポンプ20とを備える。さらに、ニードルシート導管18を介してニードルシートポート13に接続されたニードルシート17と、LCカラムポート16に接続されたLCカラム50と、試料吸引ニードルがニードルシートに着座し、かつLCポンプポート15がニードルシートポートに接続され、試料入力ポート11がLCカラムポート16に接続されるときに、試料受容導管内の試料をLCカラム内に注入する、LCポンプポート15に接続されたLCポンプ60とを備える。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィ(LC)システム(100)であって、
- 試料入力ポート(11)、吸引ポンプポート(12)、ニードルシートポート(13)、廃液ポート(14)、LCポンプポート(15)、およびLCカラムポート(16)を備えるLCスイッチング弁(10)と、
- 試料受容導管(6)を介して前記試料入力ポート(11)に流体接続された試料吸引ニードル(5)と、
- 前記試料吸引ニードル(5)が試料コンテナ(2)に挿入されているときに、かつ前記吸引ポンプポート(12)が前記試料入力ポート(11)に接続されているときに、前記試料吸引ニードル(5)を介して試料(1)を吸引するための、前記吸引ポンプポート(12)に流体接続された吸引ポンプ(20)と、
- ニードルシート導管(18)を介して前記ニードルシートポート(13)に流体接続されたニードルシート(17)と、
- 前記LCカラムポート(16)に流体接続されたLCカラム(50)と、
- 前記試料吸引ニードル(5)が前記ニードルシート(17)内に着座しているときに、かつ前記LCポンプポート(15)が前記ニードルシートポート(13)に流体接続され、前記試料入力ポート(11)が前記LCカラムポート(16)に流体接続されるときに、前記試料受容導管(6)内に吸引された前記試料(1)の少なくとも一部を前記LCカラム(50)内に注入するための、前記LCポンプポート(15)に流体接続されたLCポンプ(60)と
を備える、LCシステム(100)。
【請求項2】
前記カラム(50)内に注入された前記試料の液体クロマトグラフィのために、かつ洗浄ポンプ(80)または前記吸引ポンプ(20)によって洗浄液(81)を圧送することによる、前記試料受容導管(6)、前記試料吸引ニードル(5)、および前記ニードルシート導管(18)の並列洗浄のために、前記LCポンプポート(15)が前記LCカラムポート(16)に流体接続されるときに、前記試料入力ポート(11)は前記吸引ポンプポート(12)に流体接続され、前記ニードルシートポート(13)は前記廃液ポート(14)に流体接続される、請求項1に記載のLCシステム(100)。
【請求項3】
少なくとも前記試料受容導管(6)と前記試料入力ポート(11)との間に、本質的にゼロのデッドボリューム接続を備える、請求項1または2に記載のLCシステム(100)。
【請求項4】
前記試料受容導管(6)と前記試料吸引ニードル(5)との間に、本質的にゼロのデッドボリューム接続をさらに備える、請求項3に記載のLCシステム(100)。
【請求項5】
前記試料吸引ニードル(5)および前記試料受容導管(6)は、ニードル先端から前記試料入力ポート(11)まで一定内径を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のLCシステム(100)。
【請求項6】
前記試料吸引ニードル(5)および前記試料受容導管(6)は、互いから分離不能な固定構成を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のLCシステム(100)。
【請求項7】
前記試料受容導管(6)は前記試料吸引ニードル(5)と異なる材料からなり、前記試料吸引ニードル(5)が前記試料コンテナ(2)に挿入されると、前記試料受容導管(6)は、前記試料吸引ニードル(5)の外側および前記試料受容導管(6)の内側のみが前記試料(1)に接触するような液密方式で、前記試料吸引ニードル(5)を通してニードル先端まで延在する、請求項1~6のいずれか一項に記載のLCシステム(100)。
【請求項8】
前記試料受容導管(6)および前記試料吸引ニードル(5)は、1つの内径および場合によっては異なる外径を有する、単一モノリシックブロックと同じ材料で作られる、請求項1~6のいずれか一項に記載のLCシステム(100)。
【請求項9】
試料入力ポート(11)、吸引ポンプポート(12)、ニードルシートポート(13)、廃液ポート(14)、液体クロマトグラフィ(LC)ポンプポート(15)、およびLCカラムポート(16)を備えるLCスイッチング弁(10)の使用を含む液体クロマトグラフィ(LC)方法であって、
- 前記吸引ポンプポート(12)を前記試料入力ポート(11)に接続することにより前記吸引ポンプポート(12)に流体接続された吸引ポンプ(20)によって、試料コンテナ(2)から或る容積の試料(1)を、試料吸引ニードル(5)を介して、前記試料入力ポート(11)に流体接続された試料受容導管(6)内に吸引すること、
- ニードルシート導管(18)を介して、前記試料吸引ニードル(5)を、前記ニードルシートポート(13)に流体接続されたニードルシート(17)に着座させることによって、かつ、前記LCポンプポート(15)を前記ニードルシートポート(13)に接続し、前記試料入力ポート(11)をLCカラムポート(16)に接続することによって、前記LCポンプポート(15)に流体接続されたLCポンプ(60)により、前記試料受容導管(6)内に吸引された前記試料(1)の少なくとも一部を、前記LCカラムポート(16)に流体接続されたLCカラム(50)内に注入すること
を含む、液体クロマトグラフィ(LC)方法。
【請求項10】
前記カラム(50)内に注入された前記試料の液体クロマトグラフィのために、かつ洗浄ポンプ(80)または前記吸引ポンプ(20)によって洗浄液(81)を圧送することによる、前記試料受容導管(6)、前記試料吸引ニードル(5)、および前記ニードルシート導管(18)の並列洗浄のために、前記試料入力ポート(11)を前記吸引ポンプポート(12)に、前記ニードルシートポート(13)を前記廃液ポート(14)に、かつ前記LCポンプポート(15)を前記LCカラムポート(16)にそれぞれ流体接続することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィシステム(100)および前記液体クロマトグラフィシステム(100)に結合した質量分析計(150)を備える臨床診断システム(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体クロマトグラフィシステムおよび液体クロマトグラフィのために試料を注入することを含む方法に関し、また、臨床診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、液体クロマトグラフィ(LC)試料注入を実施するために、試料は、試料ループであって、予め規定された内部容積を有するチュービングであり、2つの端部がマルチポート高圧LCスイッチング弁のそれぞれのポートに接続される、試料ループ内に、試料ループからLCカラムまで高圧LCポンプによって圧送される前に、ロードされ、LCポンプおよびLCカラムは共に、同じ弁の他のポートに流体接続される。試料は、負圧および/または正圧を発生する同じ弁にも接続された、専用ポンプ、典型的にはシリンジポンプによって、試料ラインから試料ループ内に引き込むまたは押し込むことができる。
【0003】
多くの連続的な試料注入サイクルを必要とする高スループット用途のために、また特に、異なる注入条件、例えば、異なる試料容積、異なる流量、異なる圧力をおそらくは必要とする異なる試料のランダムアクセス分析のために、スケジュールされるシーケンスにおける各試料についての試料ローディング速度および条件に適合するときの柔軟性が重要である。柔軟性を増す試みにおいて、例えば、オンライン希釈を可能にするために、(異なる内部容積の)複数の試料ループを使用する改良型試料注入器も、例えば、欧州特許出願公開第1536228号の場合のように提案されている。しかしながら、そのような解決策は、標準的な解決策よりさらにゆっくりしている。さらに、種々の流体導管および接続部を含む複雑な流体構成は、洗浄プロセスを非効率的にし、デッドボリューム(dead volume)および異なる試料間のキャリーオーバー(carryover)のリスクを増加させ、小さい試料容積に適さない。
【発明の概要】
【0004】
高スループットおよびランダムアクセス液体クロマトグラフィに適し、以下の利点の1つまたは複数を有することができる液体クロマトグラフィシステムがここで開示される。液体クロマトグラフィシステムは、短い注入サイクル時間を可能にすることができる。液体クロマトグラフィシステムは、小さい容積の場合でさえも、精度を維持しながら、注入条件に適合するときの、例えば、注入される分析試料の容積に適合するときの柔軟性を可能にすることができる。液体クロマトグラフィシステムは、デッドボリュームを最小にするかまたはさらになくす。液体クロマトグラフィシステムは試料キャリーオーバーを最小にする。液体クロマトグラフィシステムは、内部流体容積を最小にし、したがって、低い総試料量を必要とし、マイクロLC(μLC)および/またはスモールボアLCに関する適合性を可能にする。液体クロマトグラフィシステムは、1つの高圧LCスイッチング弁および1つのニードルシート等の最小数のコンポーネントのみを必要とし、したがって、簡単で、制御し維持するの容易で、コンパクトで、費用効果的であるままである。
【0005】
同じ利点の任意の1つまたは複数を有する液体クロマトグラフィ方法も開示される。
【0006】
同じ利点の任意の1つまたは複数を提供する本開示の液体クロマトグラフィシステムを備える臨床診断システムも本明細書で開示される。
【0007】
本開示の液体クロマトグラフィ(LC)システムは、試料入力ポート、吸引ポンプポート、ニードルシートポート、廃液ポート、LCポンプポート、およびLCカラムポートを備えるLCスイッチング弁を備える。LCシステムは、試料受容導管を介して試料入力ポートに流体接続された試料吸引ニードルと、試料吸引ニードルが試料コンテナに挿入されているときに、かつ吸引ポンプポートが試料入力ポートに接続されているときに、試料吸引ニードルを介して試料を吸引するための、吸引ポンプポートに流体接続された吸引ポンプと、ニードルシート導管を介してニードルシートポートに流体接続されたニードルシートと、LCカラムポートに流体接続されたLCカラムとをさらに備える。LCシステムは、試料吸引ニードルがニードルシート内に着座しているときに、かつLCポンプポートがニードルシートポートに流体接続され、試料入力ポートがLCカラムポートに流体接続されるときに、試料受容導管内に吸引された試料の少なくとも一部をLCカラム内に注入するための、LCポンプポートに流体接続されたLCポンプをさらに備える。
【0008】
「液体クロマトグラフィすなわちLC(:liquid chromatography or LC)」は、例えば、後続の検出、例えば、質量分析検出に依然として干渉する場合がある、マトリックス成分、例えば、試料調製後の残留マトリックス成分から関心の被分析物を分離するために、および/または、それらの個々の検出を可能にするために関心の被分析物を互いから分離するために、試料注入器によって注入される試料に、LCカラムを通してクロマトグラフ分離を受けさせる分析プロセスである。「マイクロ液体クロマトグラフィ」すなわちμLC(:micro liquid chromatography)および「スモールボア液体クロマトグラフィ」すなわちスモールボアLC(:small-bore liquid chromatography)を含む「高性能液体クロマトグラフィ」すなわちHPLC(:high-performance liquid chromatography)、「超高性能液体クロマトグラフィ」すなわちUHPLC(:ultra-high-performance liquid chromatography)は、所定の圧力下で実施される液体クロマトグラフィの形態である。
【0009】
「液体クロマトグラフィシステムすなわちLCシステム(liquid chromatographic system or LC system)」は、液体クロマトグラフィを実施するための分析装置またはモジュールあるいは分析装置内のユニットである。LCシステムは、並列におよび/または直列に配置された1つまたは複数のLCカラムを備えることができる単一チャネルまたはマルチチャネルシステムとして具現化することができる。LCシステムは、例えば、液体を混合する、液体のガスを抜く、液体を強化する、および同様のことを行うための、弁、液体源、流体接続部、およびパーツ等の要素、圧力センサ、温度センサ、および同様なもの等の1つまたは複数のセンサ、および特に少なくとも1つのLCポンプを備えることもできる。リストは網羅的でない。或る実施形態によれば、LCシステムは、特に、質量分析計による検出の前に関心の被分析物を分離するために、質量分析のために試料を調製するようにおよび/または調製済み試料を質量分析計まで移動させるように設計された分析モジュールである。特に、典型的には、LC実行中に、質量分析計は、特定の質量範囲をスキャンするように設定することができる。LC/MSデータは、個々の質量スキャンにおいてイオン電流を加算し、その「総計の(totaled)」イオン電流を、時間に対する強度ポイントとしてプロットすることによって示すことができる。結果得られるプロットは、被分析物ピークを有するHPLC UVトレースのように見える。LCシステムは、普通なら、UV検出器等のそれ自身の検出器を備えることができる。
【0010】
用語「液体(liquid)」は、液体クロマトグラフィで一般に使用される液体、例えば、溶媒または使用される溶媒の混合物、例えば、移動相すなわち溶出液を指し、当技術分野で知られている。
【0011】
用語「試料(sample)」は、関心の1つまたは複数の被分析物を含むことが疑われ、(定性的および/または定量的な)その検出を臨床状態に関連付けることができる生物学的物質を指す。試料は、血液、唾液、眼内レンズ流体、脳脊髄液、汗、尿、母乳、腹水、粘液、滑液、腹腔液、羊水、組織、細胞、または同様なものを含む生理液等の任意の生物学的供給源から生じるとすることができる。試料は、血液から血漿または血清を調製して、粘性流体を希釈して、溶解させて、または同様なことを行って等で、使用前に前処理することができる;処理の方法は、濾過、遠心分離、蒸留、濃縮、干渉成分の不活性化、および試薬の添加を含むことができる。試料は、或る場合には供給源から得られると直接使用することができる、または、例えば、インビトロ診断試験のうちの1つまたは複数を実施することを可能にするため、または、関心の被分析物を富化(抽出/分離/濃縮)するため、および/または、関心の被分析物(複数可)の検出におそらくは干渉するマトリックス成分を除去するため、例えば、内部標準を添加した後に、別の溶液を用いて希釈された後に、または試薬と混合された後に、試薬の性質を修正する前処理および/または試料調製ワークフローに続いて使用することができる。関心の被分析物の例は、一般に、ビタミンD、乱用薬物、治療薬物、ホルモン、および代謝物質である。しかしながら、リストは網羅的でない。
【0012】
「LCカラム(LC column)」は、クロマトグラフ性質の分離を実施するための、カラム、カートリッジ、キャピラリー、および同様なもののうちの任意のものを指すことができる。カラムは、典型的には、固定相を用いてパックまたはロードされ、カラムを通して移動相が圧送されて、選択された条件下で、例えば、一般に知られているように、被分析物の極性または対数P値、サイズ、または親和性に応じて、関心の被分析物をトラップおよび/または分離し、溶出および/または移動させる。この固定相は、微粒子状またはビード様または多孔質モノリシックであるとすることができる。しかしながら、用語「カラム(column)」は、固定相を用いてパックまたはロードされるのではなく、分離を行うために内部キャピラリー壁の表面積に依存するキャピラリーを指すこともできる。LCカラムは、交換可能であるおよび/または1つまたは複数の他のLCカラムに対して並列にまたはシーケンスで動作することができる。LCカラムは、例えば、迅速トラップおよび溶出LCカラムまたは短縮して「トラップカラム(trap-column)」、高性能LC(HPLC)カラムまたは超高性能LC(UHPLC)カラムであるとすることができ、また、任意のサイズであるとすることができ、1mm以下の内径を有するマイクロLCカラムおよびスモールボアLCカラムを含む。トラップカラムの場合、関心の被分析物を保持する固定相が選択され、一方、いずれの塩、緩衝液、洗剤、および他のマトリックス成分も、保持されず、洗い流される。このプロセスは、典型的には、例えば、異なる移動相または溶媒グラジエント(solvent gradient)を用いるバックフラッシュモードにおいて、被分析物の溶出を伴う。被分析物に応じて、一部の被分析物の分離を、或る場合に予想することができる。一方、多重反応モニタリング(MRM:multiple reaction monitoring)において同一(等圧)質量および/またはオーバーラップする娘イオンスペクトルを有する被分析物の場合、質量分析のことになると、より広範囲のクロマトグラフ分離が好ましい場合がある。その場合、HPLCまたはUHPLCカラムにおける分離が有利でありうる。
【0013】
「液体クロマトグラフィポンプすなわちLCポンプ(liquid chromatography pump or LC pump)」は、耐圧強度(pressure capacity)が変動する場合があるが、LCチャネルを通して一定かつ再現性のある体積流量を生み出すことができる高圧ポンプである。HPLCの圧力は、典型的には、60MPaほどの高い値または約600気圧に達することができ、一方、UHPLCおよびμLCシステムは、さらに高い圧力で、例えば、140MPaまたは約1400気圧まで、働くように開発されており、したがって、LCカラム内でずっと小さい(<2μm)粒子サイズを使用することができる。LCポンプは、例えば、溶出グラジエントの使用を必要とする条件の場合、バイナリポンプ(binary pump)として構成することができる。
【0014】
1つの実施形態によれば、LCポンプは、60MPa~140MPa、例えば、75MPa~100MPa、例えば、80MPaの圧力を生み出すことができる。
【0015】
1つの実施形態によれば、LCポンプは、1μl/分と500μl/分以上との間の流量で動作するように、また典型的には、100μl/分と300μl/分との間の流量で、かつ、例えば、約±5%以下の正確度(accuracy)で動作するように構成することができる。
【0016】
或る実施形態によれば、LCポンプは、第1の1次ポンプヘッドおよび第1の2次ポンプヘッドを備える第1のポンプヘッドならびに第2の1次ポンプヘッドおよび第2の2次ポンプヘッドを備える第2のポンプヘッドをそれぞれ備えるバイナリポンプである。
【0017】
用語「弁(valve)」は、流れを制御する、方向転換させる、制限する、または停止させる流れ調節デバイスを指す。「LCスイッチング弁(LC switching valve)」は、ポートに接続された要素間で流れを制御するマルチポート弁である。これは、典型的には、異なる要素間の連通を切り換えるために1つまたは複数の弁導管を移動させることによって達成される。要素は、パイプ、チューブ、キャピラリー、マイクロ流体チャネル、および同様なもののような、さらなる導管を介して、かつ、ネジ/ナットおよびフェルールのようなフィッティング、または、例えば、クランプ機構によって所定の場所に維持される代替の液密シールによって、ポートに流体接続することができる。LCスイッチング弁は、通常、HPLCのために使用される大きさ以上のオーダーの液体圧力を可能にすることができる。
【0018】
本開示のLCスイッチング弁は、試料入力ポート、吸引ポンプポート、ニードルシートポート、廃液ポート、LCポンプポート、およびLCカラムポートを備える。
【0019】
或る実施形態によれば、LCスイッチング弁は、0.6mm未満の、例えば、約0.5mmと0.2mmとの間の、例えば、約0.3mmまたは約0.25mmの内径を有する内部弁導管(複数可)を有する。
【0020】
或る実施形態によれば、LCスイッチング弁は、約500ms以下のスイッチング時間を有する。
【0021】
「LCカラムポート(LC column port)」は、LCカラムが流体接続される弁ポートである。
【0022】
「試料入力ポート(sample input port)」は、試料受容導管に、また、試料受容導管を介して試料吸引ニードルに流体接続された弁ポートであり、試料入力ポートがLCポートに流体接続されているときに、そのポートを通して、試料を、弁に入れ、LCカラムに注入することができる。
【0023】
「吸引ポンプポート(aspiration pump port)」は、試料吸引ニードルが試料コンテナに挿入されているときに、かつ吸引ポンプポートが試料入力ポートに接続されているときに、試料受容導管内に試料を吸引するための、吸引ポンプポートに流体接続された弁ポートである。
【0024】
本開示による「吸引ポンプ(aspiration pump)」は、試料吸引ニードルが試料コンテナに挿入されているときに、かつ吸引ポンプポートが試料入力ポートに接続されているときに、負圧を生成することによって、液体コンテナから試料受容導管内に試料を吸引する機能を、主のまたは唯一の機能として有するポンプである。吸引ポンプは、典型的には、構成がより単純かつより安価であり、LCポンプと比較してかなり低い圧力で動作する。吸引ポンプは、典型的には、シリンジポンプであるが、他のタイプのポンプを、精度および速度要件に応じて使用することができる。或る実施形態において、吸引ポンプは、例えば、40μl以下、例えば、20μl以下の小容積の精密な吸引のために構成される調量ポンプ(metering pump)であり、用語「精密な(precise)」は、+/-10%以下の、例えば、+/-5%以下の公差を包含することができる。
【0025】
或る実施形態によれば、吸引ポンプは、緩衝液試料ループ内に吸引された試料からの試料の調量された容積を、分析試料ループ内に吐出するための調量ポンプでもある。この場合、吸引/調量ポンプは、速度と精度との間の最良の兼ね合いのために最適化することができる。
【0026】
「LCポンプポート(LC pump port)」は、LCポンプが流体接続されるポートである。
【0027】
「ニードルシートポート(needle seat port)」は、ニードルシートが、ニードルシート導管を介して流体接続されるポートである。
【0028】
本開示による「ニードルシート(needle seat)」は、当技術分野で知られているニードルシートと構造的に同一または同様であるとすることができる。特に、知られているニードルシートは、試料吸引ニードルがニードルシート内に着座すると、ニードルシート導管を介して試料を注入するために使用されるが、本開示による試料の流れの方向は反転する、すなわち、試料は、試料吸引ニードルがニードルシート内に着座すると、ニードルシート導管を介してではなく、試料受容導管を介して注入される。
【0029】
特に、LCポンプは、試料吸引ニードルがニードルシート内に着座するときに、かつLCポンプポートがニードルシートポートに流体接続され、試料入力ポートがLCカラムポートに流体接続されるときに、試料受容導管内に吸引された試料の少なくとも一部をLCカラム内に注入するために使用される。
【0030】
LCスイッチング弁は、廃液部につながる廃液ポートをさらに備える。
【0031】
特に、或る実施形態によれば、LCスイッチング弁は、カラム内に注入された試料の液体クロマトグラフィのために、および、別個の洗浄ポンプまたは吸引ポンプによって洗浄液を圧送することによる、試料受容導管、試料吸引ニードル、およびニードルシート導管の並列洗浄のために、LCポンプポートがLCカラムポートに流体接続されるときに、試料入力ポートが吸引ポンプポートに流体接続され、ニードルシートポートが廃液ポートに流体接続されるように構成される。そのため、吸引ポンプは、試料を吸引するために使用されないとき、洗浄流体を最初に吸引し、その後、種々の導管を通して洗浄流体を圧送することによって、洗浄ポンプとしてのさらなる機能を有するように適合することができる。
【0032】
或る実施形態によれば、LCシステムは、少なくとも試料受容導管と試料入力ポートとの間に、本質的にゼロのデッドボリューム接続を備える。
【0033】
用語「試料受容導管(sample receiving conduit)」は、予め規定された長さおよび径、したがって、予め規定された内部容積を有する、導管、典型的にはチュービングを指し、導管は、LCカラム内に注入されるある容積の試料を受容するように適合され、一端のみが、同じLCスイッチング弁の、或るポート、特に試料入力ポートに接続されており、他端は、試料吸引ニードルに接続されるかまたはその一部である。試料吸引ニードルの内部容積に加えて、試料受容導管の予め規定された内部容積は、LCカラムに注入することができる試料の最大容積を決定する。しかしながら、注入することができる試料の容積は、どれだけの量の試料容積が、試料受容導管内に吸引されるかに依存し、吸引される試料容積は、総内部容積の何分の1かであり、したがって、時によって特定のLC条件に応じて可変であるとすることができる。そのため、注入される分析試料の容積に適合することによって、注入条件に適合するときの柔軟性を達成することができる。
【0034】
或る実施形態によれば、試料受容導管は、0.5mm未満、またはさらに0.3mm未満、例えば、0.2mmの内径、および、約40μl未満、例えば、20μl未満、例えば、約10μlの総内部容積を有する。
【0035】
或る実施形態によれば、LCシステムは、試料受容導管と試料吸引ニードルとの間に、本質的にゼロのデッドボリューム接続を備える。
【0036】
或る実施形態によれば、試料吸引ニードルおよび試料受容導管は、ニードル先端から試料入力ポートまで一定内径を有する。
【0037】
或る実施形態によれば、試料受容導管は試料吸引ニードルと異なる材料からなり、試料吸引ニードルが試料コンテナに挿入されると、試料吸引ニードルの外側および試料受容導管の内側のみが試料に接触するような液密方式で、試料受容導管は、試料吸引ニードルを通してニードル先端まで延在する。これは、一方が他方にピッタリ嵌るように、試料吸引ニードルの内径と実質的に同じである外径を有する試料受容導管を設計することによって達成することができる。2つのパーツを、別々に製造し、後で接合し、最終的に、例えば、接着または溶接プロセスを使用して互いに固定することができる、または、永久的な2コンポーネント構造を得るために等で、例えば、2コンポーネント成形プロセスで製造することができる。
【0038】
或る実施形態によれば、試料吸引ニードルおよび試料受容導管は、互いから分離不能な固定構成を有する。
【0039】
或る実施形態によれば、試料受容導管は、内部空間の有意の変形および内部容積の変化なしで、LC用途で使用される典型的な液体圧力に抗するのに十分に硬質である、LC用途で一般に使用されるポリマー材料、例えば、PEEKで作られ、材料は、LC用途で使用される典型的な液体に耐性もあり、接触する試料に対する微々たる反応性を有する。或る実施形態によれば、試料吸引ニードルは、例えば、試料コンテナまたはニードルシートに対する、例えば、移動および精密な位置決めおよびフィッティングのために、キャップ貫入のために、および同様なことのために、上記で述べた特性以外に、強化された硬質性および形状安定性も有する鋼のような金属で作られる。
【0040】
或る実施形態によれば、試料受容導管および試料吸引ニードルは、1つの内径および場合によっては異なる外径を有する、単一モノリシックブロック(例えば、鋼で作られる)と同じ材料で作られる。特に、試料吸引ニードルパーツは、強化された硬質性および形状安定性のために、試料受容導管パーツより肉厚であるとすることができる。
【0041】
一定内径、および、ジョイントおよびフィッティングパーツがない連続構造は共に、試料受容導管と試料吸引ニードルとの間のゼロデッドボリュームを達成する方法であり、それは、幅広のまたは尾を引くピーク、解像度の喪失、および、デッドボリュームに関連する全体的に不十分なクロマトグラフ性能を回避することによって、試料受容導管内に試料を吸引するときの試料容積のより高い調量精度、および、LCカラム内への試料の注入後におけるLC分離のより高い解像度に寄与する。さらに、微量試料(sample trace)が取り残される可能性がある場所が存在しないため、試料キャリーオーバーも最小化され、したがって、洗浄プロセスをより効率的にする。
【0042】
上記範囲に寄与するために、試料吸引ニードルからLCカラムまでシステム全体を通して本質的にゼロのデッドボリュームを有することが重要であるとすることができる。これはまた、試料受容導管と試料入力ポートとの間の接続、および、LCポートとLCカラムとの間の接続を含む。連続構造および一定内径によって、試料受容導管と試料吸引ニードルとの間で達成することができる「ゼロ(zero)」デッドボリューム接続と対照的に、「本質的にゼロの(essentially zero)」デッドボリューム接続は、試料受容導管と試料吸引ニードルとの間の接続のためにおよび/または他の接続のために得ることができる。
【0043】
用語「本質的にゼロのデッドボリューム(essentially zero dead vulolume)」は、LC性能に対するデッドボリュームの効果を、無視できるほどにする、したがって、許容可能にするときの接続の有効性を指す。本質的にゼロのデッドボリューム接続を達成することが可能であるHPLCについてのフィッティング、例えば、ばね式設計を有する、Agilent社によるInfinityLab(商標)クイックコネクトまたはクイックターンフィッティングは当技術分野で知られており、市販されている。
【0044】
試料をLCカラムに導く流体経路内のデッドボリュームは、他の導管、例えば、試料受容導管と同じかまたは同様の内径を有する、LCスイッチング弁のすなわち試料入力ポートとLCポートとの間の内部弁導管を、或る実施形態に従って有することによって、さらに低減するまたはなくすことができる。
【0045】
LCポンプが、試料受容導管/試料吸引ニードルから直接試料を注入するためのものである開示するLCシステム構成は、特に、ゼロのまたは本質的にゼロのデッドボリューム接続および吸引ポンプ(試料注入のためではなく、吸引のためにのみ使用される)としての高精度調量ポンプと組み合わされると、最小数のコンポーネント(例えば、1つのニードルシートのみおよび弁ポート間の試料ループなし)、最小数の動作ステップ、および最小の移動によって、LCシステムを簡単かつ高速に維持しながら、変動する試料容積を、試料受容導管(試料吸引ニードル)の総容積まで吸引することによって、精度および柔軟性を維持することを可能にする。
【0046】
或る実施形態によれば、LCシステムは、試料が接触するLCシステムの少なくとも一部を通って洗浄流体を圧送するために、2次弁に接続された洗浄ポンプをさらに備える。洗浄ポンプは、吸引ポンプと構成および設計が同様であるとすることができる。しかしながら、洗浄ポンプは、より大きい容積を圧送するおよび/またはより高い流量で圧送するように、そしておそらくは、精度の点でより低い要件を有するように構成することができ、速度および容積は、ここでは精度より重要である。洗浄流体は、異なる試料間のキャリーオーバーを最小にするために、連続する試料注入の間で試料が接触するパーツを洗浄するために、水、溶媒、あるいは、1つまたは複数の添加剤、例えば、洗剤または反応性物質を含む液体溶液を含む任意の流体であるとすることができる。
【0047】
試料入力ポート、吸引ポンプポート、ニードルシートポート、廃液ポート、LCポンプポート、およびLCカラムポートを備えるLCスイッチング弁の使用を含む液体クロマトグラフィ(LC)方法も本明細書で開示される。方法は、吸引ポンプポートを試料入力ポートに接続することによって吸引ポンプポートに流体接続された吸引ポンプによって、試料コンテナから、或る容積の試料を、試料吸引ニードルを介して試料入力ポートに流体接続された試料受容導管内に吸引することを含む。方法は、ニードルシート導管を介して、試料吸引ニードルを、ニードルシートポートに流体接続されたニードルシート内に着座させることによって、かつ、LCポンプポートをニードルシートポートに接続し、試料入力ポートをLCカラムポートに接続することによって、LCポンプポートに流体接続されたLCポンプにより、試料受容導管内に吸引された試料の少なくとも一部を、LCカラムポートに流体接続されたLCカラム内に注入することをさらに含む。
【0048】
或る実施形態によれば、方法は、カラム内に注入された試料の液体クロマトグラフィのために、かつ洗浄ポンプまたは吸引ポンプによって洗浄液を圧送することによる、試料受容導管、試料吸引ニードル、およびニードルシート導管の並列洗浄のために、試料入力ポートを吸引ポンプポートに、ニードルシートポートを廃液ポートに、かつLCポンプポートをLCカラムポートにそれぞれ流体接続することをさらに含む。
【0049】
液体クロマトグラフィシステムおよび液体クロマトグラフィシステムに結合した質量分析計を備える臨床診断システムが本明細書で開示される。
【0050】
「臨床診断システム(clinical diagnostics system)」は、インビトロ診断のために試料を分析するための実験室自動化装置である。臨床診断システムは、必要性に応じておよび/または所望の実験室ワークフローに応じて、異なる構成を有することができる。さらなる構成は、複数の装置および/またはモジュールを共に結合することによって得ることができる。「モジュール(module)」は、専用機能を有する、臨床診断システム全体よりサイズが典型的には小さい作業セルである。この機能は、分析的であるとすることができるが、事前分析的または事後分析的であるとすることもできる、あるいは、機能は、事前分析機能、分析機能、または事後分析機能のうちの任意の機能に対する補助機能であるとすることができる。特に、モジュールは、例えば、1つまたは複数の事前分析ステップおよび/または分析ステップおよび/または事後分析ステップを実施することによって、試料処理ワークフローの専用タスクを実施するために1つまたは複数の他のモジュールと協働するように構成することができる。そのため、臨床診断システムは、1つの分析装置、または、それぞれのワークフローを有するそのような分析装置のうちの任意の分析装置の組み合わせを備えることができ、事前分析および/または事後分析モジュールを、個々の分析装置に結合するかまたは複数の分析装置が共有することができる。代替法において、事前分析および/または事後分析機能は、分析装置に統合されたユニットによって実施することができる。臨床診断システムは、試料および/または試薬および/またはシステム流体のピペッティングおよび/または圧送および/または混合のための液体ハンドリングユニット等の機能ユニット、および同様に、ソートする、格納する、輸送する、識別する、分離する、検出するための機能ユニットを備えることができる。特に、臨床診断システムは、互いに結合した個々のかつ交換可能なユニットとして識別可能な、または、共通システムハウジング内に少なくとも部分的に統合された、液体クロマトグラフィシステムおよび液体クロマトグラフィシステムに結合した質量分析計を備える、
【0051】
より詳細には、臨床診断システムは、試料の自動化調製のための試料調製モジュール、試料調製モジュールに結合した液体クロマトグラフィシステム、および、LC/MSインタフェースを介して液体クロマトグラフィシステムに結合した質量分析計(MS)を備えることができる。
【0052】
「質量分析計(MS:mass spectrometer)」は、液体クロマトグラフィシステムから溶出された被分析物を、それらの質量電荷比に基づいてさらに分離するおよび/または検出するように設計された質量分析器を備える分析装置である。或る実施形態によれば、質量分析計は高速スキャン質量分析計である。或る実施形態によれば、質量分析計は、親分子イオンを選択し、衝突誘起フラグメント化によってフラグメントを生成し、フラグメントまたは娘イオンを、それらの質量電荷(m/z)比に応じて分離することが可能なタンデム質量分析計である。或る実施形態によれば、質量分析計は、当技術分野で知られているように、トリプル4重極質量分析計である。4重極以外に、飛行時間、イオントラップ、またはその組み合わせを含む、他のタイプの質量分析器を使用することもできる。LC/MSインタフェースは、帯電被分析物分子(分子イオン)を生成し、帯電被分析物分子を気相内に移動させるために、イオン化源を備える。特定の実施形態によれば、イオン化源は、エレクトロスプレーイオン化(ESI:electro-spray-ionization)源または加熱式エレクトロスプレーイオン化(HESI:heated-electrospray-ionization)源または大気圧化学イオン化(APCI:atmospheric-pressure-chemical-ionization)源または大気圧光イオン化(APPI:atmospheric-pressure-photo-ionization)源または大気圧レーザーイオン化(APLI:atmospheric-pressure-laser-ionization)源である。しかしながら、LC/MSインタフェースは、2重イオン化源、例えば、ESI源とAPCI源の両方またはモジュール式交換可能イオン化源を備えることができる。
【0053】
臨床診断システムはコントローラをさらに備えることができる。本明細書で使用する用語「コントローラ(controller)」は、任意の物理的または仮想的処理デバイス、および特に、命令を備えるコンピュータ可読プログラムを実行するプログラム可能論理コントローラを包含し、命令は、動作プランによる、そして特に、LCスイッチング弁によって液体クロマトグラフィのために試料を注入する方法に関連する動作を実施するためのものであり、方法は、LCスイッチング弁のスイッチングを制御すること、および、試料吸引ニードル、LCポンプ、吸引ポンプ、および洗浄ポンプのうちの任意の1つまたは複数の動作を制御することを含む。コントローラは、液体クロマトグラフィシステムの一部である、または、液体クロマトグラフィシステムと通信している別個の論理実体であるとすることができる。幾つかの実施形態において、コントローラは、データ管理ユニットと一体である場合がある、サーバーコンピュータによって含まれる、および/または、1つの臨床診断システムの一部である、またはさらに、複数の臨床診断システムにわたって分散される場合がある。
【0054】
コントローラは、ワークフロー(複数可)およびワークフローステップ(複数可)が、上記方法に関連するものを除いて、臨床診断システムによって行われるように、臨床診断システムを制御するように構成可能であるとすることもできる。
【0055】
特に、コントローラは、いつそしてどの試料が調製されなければならないか、そして、各試料についていつそしてどの調製ステップが実行されなければならないかを決定するため、到来する分析オーダーおよび/または受信される分析オーダーならびに分析オーダーの実行に関連する多数のスケジュールされたプロセス動作を考慮するために、スケジューラおよび/またはデータマネジャーと通信および/または協働することができる。異なるタイプの試料および/または同じまたは異なるタイプの試料に含まれる異なる関心の被分析物が、異なる調製条件、例えば、異なる試薬または異なる数の試薬、異なる容積、異なる培養時間、異なる洗浄時間等…を必要とする場合があるため、異なる試料の調製は、異なる試料調製ワークフローを必要とする場合がある。そのため、コントローラは、試料を、予め規定された試料調製ワークフローに割り当てるようにプログラムすることができ、予め規定された試料調製ワークフローはそれぞれ、例えば、異なるステップおよび/または異なる数のステップを含む試料調製ステップの予め規定されたシーケンスを含み、例えば、2、3分~数分の、終了するための予め規定された時間を必要とする。
【0056】
コントローラは、異なる試料について、並列にまたは交互に起こるように試料調製をスケジュールすることができる。論理的方法でそうすることによって、コントローラは、競合を回避しながら効率を上げるために、試料調製ステーションの機能資源の使用をスケジュールし、調製済み試料を吸引し、LCカラムおよび/または液体クロマトグラフィシステム内に注入することができる或るペースで試料を調製することによってスループットを最大にする。そのため、試料のバッチを前もって調製する(それは、もちろん、可能でもある)のではなく、コントローラは、到来するオーダー、例えば、優先順位、調製時間、機能資源の必要とされる使用、試料調製が終了するときまでにその試料がそのために意図されるLCチャネルの可用性を考慮しながら、必要に応じて、または、特に、個々のLCチャネルによって液体クロマトグラフィシステムから取得されるように、試料を調製するように、試料調製ステーションに指令することができる。
【0057】
他のおよびさらなる目的、特徴、および利点は、原理をより詳細に説明するのに役立つ、例示的な実施形態および添付図面の以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1A】LCシステムの或る実施形態およびLCスイッチング弁の使用を含むそれぞれのLC方法のステップを概略的に示す図である。
図1B図1Aの場合と同様のLCシステムの同じ実施形態および同じLC方法の別のステップを概略的に示す図である。
図1C図1A~1Bの場合と同様のLCシステムの同じ実施形態および同じLC方法の別のステップを概略的に示す図である。
図2A】試料吸入ニードルおよび試料受容導管の第1の実施形態を概略的に示す図である。
図2B】試料吸入ニードルおよび試料受容導管の第2の実施形態を概略的に示す図である。
図3図1A~1CのLCシステムを備える臨床診断システムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1A~1Cは、総合すると、本開示によるLCシステム100の例およびそれぞれのLC方法の種々のステップを概略的に示し、圧送される流体の存在は肉厚の太線で示され、流れの方向は矢印の方向で示される。LCシステム100は、試料入力ポート11、吸引ポンプポート12、ニードルシートポート13、廃液部19につながる廃液ポート14、LCポンプポート15、およびLCカラムポート16を備えるLCスイッチング弁10を備える。LCシステム100は、試料受容導管6を介して試料入力ポート11に流体接続された試料吸引ニードル5と、試料吸引ニードル5が試料コンテナ2に挿入されているときに、かつ吸引ポンプポート12が試料入力ポート11に接続されているときに、試料吸引ニードル5を介して試料1を吸引するための、吸引ポンプポート12に流体接続された吸引ポンプ20とをさらに備える。LCシステム100は、ニードルシート導管18を介してニードルシートポート13に流体接続されたニードルシート17と、LCカラムポート16に流体接続されたLCカラム50と、試料吸引ニードル5がニードルシート17に着座しているときに、かつLCポンプポート15がニードルシートポート13に流体接続され、試料入力ポート11がLCカラムポート16に流体接続されるときに、試料受容導管6内に吸引された試料1の少なくとも一部をLCカラム50内に注入するための、LCポンプポート15に流体接続されたLCポンプ60とをさらに備える。
【0060】
LCシステム100は、試料1が接触するLCシステム100の少なくとも一部を通して、洗浄流体供給部82から洗浄流体81を圧送するための、2次弁70を介して吸引ポンプポート12にも接続された洗浄ポンプ80をさらに備える。
【0061】
LCスイッチング弁10は、この実施形態において、2つのスイッチ位置をとることが可能な6ポート弁である。
【0062】
特に、図1Aは、第1のスイッチ状態にあるLCスイッチング弁10を示し、試料入力ポート11は吸引ポンプポート12に流体接続され、LCポンプポート15はLCカラムポート16に流体接続され、ニードルシートポート13は廃液ポート14に流体接続される。図1Aはまた、試料1内に試料吸引ニードルを挿入することによりかつ吸引ポンプポート12を試料入力ポート11に接続することにより吸引ポンプポート12に流体接続された吸引ポンプ20によって、試料コンテナ2から、或る容積の試料1を、試料吸引ニードル5を介して、試料入力ポート11に流体接続された試料受容導管6内に吸引する方法ステップを示す。吸引ポンプ20は、小さい試料容積の精密な吸引のための高精度調量ポンプである。試料受容導管6内に受容される試料1の容積は、試料受容導管6の総内部容積の何分の1であるとすることができ、したがって、時によって特定のLC条件に応じて可変であるとすることができる。特に、方法は、試料受容導管6の内部容積より小さい試料1の調量済み容積を、試料受容導管6内に吸引することを含むことができる。これは、異なる内部容積のさらなる試料ループの必要性なしで、柔軟性の増加を可能にする。
【0063】
図1Bは、第2のスイッチ状態にあるLCスイッチング弁10を示し、試料入力ポート11はLCカラムポート16に流体接続され、LCポンプポート15はニードルシートポート13に流体接続され、吸引ポンプポート12は廃液ポート14に流体接続される。図1Bはまた、試料吸引ニードル5を、ニードルシート導管18を介して、ニードルシートポート13に流体接続されたニードルシート17内に着座させることによって、かつ、LCポンプポート15をニードルシートポート13にまた試料入力ポート11をLCカラムポート16に接続することによって、LCポンプポート15に流体接続されたLCポンプ60により試料吸引導管6内に吸引された試料1の少なくとも一部を、LCカラムポート16に流体接続されたLCカラム50内に注入する方法ステップを示す。こうして、LCポンプ60は、試料吸引のために使用される同じポンプ20を使用する代わりに、LCカラム50内に試料を注入するために使用される。図1Bの流れの方向に留意することが重要である。特に、知られているニードルシートは、試料吸引ニードルがニードルシート内に着座すると、ニードルシート導管を介して試料を注入するために使用される(典型的には、試料吸引のために使用される同じポンプを使用して)が、試料の流れの方向は、ここでは反転する。すなわち、試料は、試料吸引ニードルがニードルシート内に着座すると、ニードルシート導管を介してではなく、試料受容導管を介して注入される。同様に、例えば、吸引された試料容積全体が注入される前に試料注入を中断することによって、試料受容導管6内に受容された試料の何分の1かのみを、LCカラム50に注入することが可能である。特に、方法は、試料受容導管6内に吸引された試料1の容積より小さい或る容積の試料1をLCカラム50に注入すること含むことができる。これは、さらなる柔軟性を達成することを可能にする。
【0064】
図1Cは、図1Aの場合のようにやはり第1のスイッチ状態のLCスイッチング弁10を示し、試料入力ポート11は吸引ポンプポート12に流体接続され、LCポンプポート15はLCカラムポート16に流体接続され、ニードルシートポート13は廃液ポート14に流体接続される。こうして、並列の、先行するステップで注入された試料1のLCクロマトグラフィおよびサイクル前に試料が先行して接触した流体パーツの洗浄が、最終的に反復される。図1Aとの差は、試料吸引ニードル5がニードルシート17内に着座し(図1Bの場合と同様に)、試料1を吸引するために吸引ポンプ20を使用するのではなく、洗浄ポンプ80が、試料受容導管6、試料吸引ニードル5、および試料シート導管18を洗浄するために使用されることである。図1Cはまた、カラム50内に注入された試料の液体クロマトグラフィのために、かつ洗浄ポンプ80によって洗浄液81を圧送することによる、試料受容導管6、試料吸引ニードル5、および試料シート導管18の並列洗浄のために、試料入力ポート11を吸引ポンプポート12に、ニードルシートポート13を廃液ポート14に、かつLCポンプポート15をLCカラムポート16にそれぞれ流体接続する方法ステップを示す。吸引ポンプ20は、小さい試料容積の高精度吸引のために構成されるが、洗浄ポンプ80は、代わりに、大きい容積の洗浄流体を圧送するおよび/またはより高い流量を圧送するように構成され、したがって、試料吸引および洗浄のための単一ポンプを有するのではなく、それぞれがそのそれぞれの機能について最適化された2つの別個のポンプを有することによって、これらの2つの機能を分離することが有利でありうる。
【0065】
図2Aは、試料吸引ニードル5および試料受容導管6の第1の実施形態を概略的に示す。試料吸引ニードル5および試料受容導管6は、ニードル先端5から試料入力ポート(図2Aに示さず)まで一定内径7を有する。試料受容導管6は試料吸引ニードル5と異なる材料からなり、試料吸引ニードル5が試料コンテナ2に挿入されると、試料受容導管6は、試料吸引ニードル5の外側および試料受容導管6の内側のみが試料に接触するような液密方式で、試料吸引ニードル5を通してニードル先端8まで延在する。特に、試料受容導管6は、一方が他方にピッタリ嵌るように、試料吸引ニードル5の内径と実質的に同じである外径を有し、2つのパーツは、互いから分離不能な固定構成を有する。試料吸引ニードル材料およびニードル先端8は、少なくとも試料を注入するために使用される圧力で、液密方式でニードルシート17(図2Aに示さず)内にドッキングするのに適するように選択され構成される。この実施形態は、試料吸引ニードル5と試料受容導管6との間のゼロデッドボリューム接続をどのように達成することができるかの例を提供する。
【0066】
図2Bは、試料吸引ニードル5’および試料受容導管6’の第2の実施形態を概略的に示す。図2Aの試料吸引ニードル5および試料受容導管6との唯一の差は、試料吸引ニードル5’および試料受容導管6’が、1つの内径7’および異なる外径を有する、単一モノリシックブロックと同じ材料で作られることである。特に、試料吸引ニードルパーツ5’は、硬質性および形状安定の強化のために試料受容導管パーツ6’より肉厚である。
【0067】
図3は、図1A~1CのLCシステム100およびLCシステム100に結合した質量分析計150を備える臨床診断システム200を概略的に示す。臨床診断システム200は、LCシステム100に対して注入され結合される試料の自動化調製のための試料調製モジュール120をさらに備える。臨床診断システム200は、本明細書で開示されるLC方法に少なくとも関連するコントローラ130をさらに備え、LC方法は、液体クロマトグラフィのために試料を注入することを含み、注入することは、LCスイッチング弁10および2次弁70のスイッチング、および、種々の弁(20、60、80)の動作、および、1つ、2つ、または3つの移動方向への移動が可能なロボットアーム等の自動化機構による、図1Aおよび図1B図1Cに示す2つの位置の間での試料吸入ニードル5のそれぞれの移動を制御することを含む。例えば、試料吸入ニードル5は、回転する、または、水平平面内で、例えば、ガイドレールに沿って並進することができる、および/または、平面に直交する垂直移動方向に並進することができる。代替的に、または、試料吸入ニードル5の移動と組み合わせて、試料コンテナは、例えば、ローター等のコンベヤ機構または把持機構によって、試料吸入ニードル5に対して自動的に移動することもできる。
【0068】
上記明細書において、本開示の徹底的な理解を提供するために、多数の特定の詳細が述べられる。しかしながら、本教示を実施するために特定の詳細を使用する必要がないことが当業者に明らかになるであろう。他の事例において、よく知られている材料または方法は、本開示を曖昧にすることを回避するために、詳細に述べられていない。
【0069】
特に、開示される実施形態の修正および変形は、上記説明を考慮すると、間違いなく可能である。したがって、添付特許請求項の範囲内で、上記例で具体的に考案された以外の方法で本発明を実施することができることが理解される。
【0070】
上記明細書全体を通して、「1つの実施形態(one embodiment)」、「或る実施形態(an embodiment)」、「1つの例(one example)」、または「或る例(an example)」に対する参照は、実施形態または例に関連して述べられる特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。そのため、本明細書全体を通した種々の場所におけるフレーズ「1つの実施形態において(in one embodiment)」、「或る実施形態(in an embodiment)」、「1つの例(one example)」、または「或る例(an example)」の出現は、必ずしも、全てが同じ実施形態または例を参照するわけではない。
【0071】
さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態または例において、任意の適切な組み合わせおよび/または部分的組み合わせで組み合わすことができる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
【外国語明細書】