(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040125
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】ガス発生剤組成物
(51)【国際特許分類】
C06D 5/00 20060101AFI20220303BHJP
C06B 31/06 20060101ALI20220303BHJP
C06B 23/00 20060101ALI20220303BHJP
C06B 43/00 20060101ALI20220303BHJP
B60R 21/26 20110101ALI20220303BHJP
【FI】
C06D5/00 Z
C06B31/06
C06B23/00
C06B43/00
B60R21/26
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201653
(22)【出願日】2021-12-13
(62)【分割の表示】P 2018079517の分割
【原出願日】2018-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 公昭
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃典
(72)【発明者】
【氏名】井上 優二
(57)【要約】
【課題】耐熱性能が向上したガス発生剤組成物を提供する。
【解決手段】硝酸グアニジンと、酸化剤成分である塩基性金属硝酸塩と、バインダー剤であるカルボキシメチルセルロース塩と、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群から選択される添加剤を1種以上含むことを特徴とするガス発生剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸グアニジンと、酸化剤成分である塩基性金属硝酸塩と、バインダー剤であるカルボキシメチルセルロース塩と、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群から選択される添加剤を1種以上含むことを特徴とするガス発生剤組成物であって、
前記硝酸グアニジンの含有量が40~50質量%であり、前記塩基性金属硝酸塩の含有量が30~40質量%であり、前記カルボキシメチルセルロース塩が0.1~10質量%であり、前記添加剤が4~10質量%であるガス発生剤組成物。
【請求項2】
前記添加剤が酸化マグネシウム及び/又は炭酸カルシウムからである請求項1に記載のガス発生剤組成物。
【請求項3】
前記酸化剤成分としてさらに過塩素酸カリウムを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のガス発生剤組成物。
【請求項4】
前記請求項1乃至3の何れか一項に記載のガス発生剤組成物を含有するガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エアバッグ用ガス発生器に用いられるガス発生剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の搭乗者に対する安全装置として、エアバッグやシートベルトプリテンショナーが採用されている。エアバッグの作動原理は、交通事故による衝撃を検知するセンサーがガス発生器へ電気信号を送り、瞬時にガス発生剤を燃焼させてガスを生成し、そのガス圧力によりエアバッグを展開し、衝突による乗員の衝撃をやわらげる働きをする。シートベルトプリテンショナーも同様であり、車両の衝突をセンサーが検知してガス発生器へ電気信号を発し、ガス発生器内に充填したガス発生剤を燃焼させてガスを生成し、そのガス圧力によりシートベルト巻き取り機構を作動させ、そのシートベルトの拘束力を高めることにより乗員を保護するというものである。自動車安全装置に用いられるガス発生器に要求される性能としては、所望の時間内に必要十分なガス圧力を発生させることが第一の要求性能である。
【0003】
車両に搭載されるエアバッグ用ガス発生器は、年々、増加している。このため、長期にわたるガス発生器の安定かつ確実な作動に対する要求が強くなっている。特にガス発生器に充填されるガス発生剤には熱により物性及び品質が劣化する懸念があるため、更なる改善が求められている。
【0004】
ガス発生剤の耐熱性を向上させる方法としては、アルカリ金属アルカリ土類金属の含有量を低減させる方法がある(特許文献1)。また、セルロース誘導体と高分子可塑剤とを組合せて使用する方法や(特許文献2)、粘度が1,000mPa・s以上であるカルボキシメチルセルロース塩を使用する方法がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-321293号公報
【特許文献2】特開2008-260658号公報
【特許文献3】特開2016-160152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐熱性に優れたガス発生剤組成物をすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、燃料成分として硝酸グアニジンと、酸化剤成分として塩基性金属硝酸塩と、バインダー剤としてカルボキシメチルセルロース塩と、添加剤を用いることにより、耐熱性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下のとおりである。
【0008】
(1)硝酸グアニジン、酸化剤成分である塩基性金属硝酸塩、及び、バインダー剤であるカルボキシメチルセルロース塩を含み、さらにケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群から選択される添加剤を1種以上を含むガス発生剤組成物。
(2)前記酸化剤成分としてさらに過塩素酸カリウムを含む(1)に記載のガス発生剤組成物。
(3)前記硝酸グアニジンの含有量が40~50質量%であり、前記塩基性金属硝酸塩の含有量が30~40質量%であり、前記過塩素酸カリウムの含有量が5~15質量%であり、前記カルボキシメチルセルロース塩が1~9質量%であり、前記添加剤が1~10質量であることを特徴とする(2)に記載のガス発生剤組成物。
(4)(1)~(3)の何れか一項に記載のガス発生剤組成物を含有するガス発生器。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガス発生剤は、硝酸グアニジン、塩基性金属硝酸塩、カルボキシメチルセルロース塩を主成分とするガス発生剤において、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群から選択される添加剤を1種以上をさらに用いることにより、耐熱性に優れたガス発生剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の詳細について説明する。本発明は硝酸グアニジンを含有し、塩基性金属硝酸塩を含有し、カルボキシメチルセルロース塩を含有し、さらにケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群から選択される添加剤を1種以上を含有するガス発生剤組成物に関する。
【0011】
本発明のガス発生剤組成物は、燃料成分として硝酸グアニジンが含まれる。硝酸グアニジンは、分子中に酸素を含有するため、酸化剤成分の配合量を低減でき、また良好な熱安定性を有し、更には低コスト、燃焼時の高いガス化率が期待できる等のメリットがある。
【0012】
本発明において、硝酸グアニジンは、取り扱いが容易であることから粉末状若しくは顆粒状であることが好ましく、その50%粒径は、3~80μmが好ましく、5~50μmが更に好ましい。なお、硝酸グアニジンの50%粒径は、大き過ぎるとガス発生剤組成物成形体の強度が低下する一方で、小さ過ぎると粉砕に多大なコストを必要とする。なお、本発明において50%粒径とは、測定粒子数基準の50%粒径を意味し、例えばレーザー回折・散乱法等で測定できる。
【0013】
本発明のガス発生剤組成物中に占める硝酸グアニジンの含有率(配合割合)は20~60質量%が好ましく、40~50質量%が更に好ましい。硝酸グアニジンの含有率(配合割合)が20質量%未満では、ガス発生剤組成物100g当たりの発生ガスモル数が減少し、酸素過剰で窒素酸化物の発生が増加する傾向にある。一方、硝酸グアニジンの含有率(配合割合)が60質量%を超えると酸化剤成分が不足するために有害な一酸化炭素が多く発生する傾向にある。
【0014】
本発明は燃料成分として、他の含窒素有機化合物を共存させて用いてもよい。該含窒素有機化合物としては、特に限定されず、車両搭乗者安全装置用ガス発生器用ガス発生剤組成物に通常使用される含窒素有機化合物を好適に使用できる。用いることが好ましい例としては、グアニジン又はその誘導体、トリアゾール又はその誘導体、テトラゾール又はその誘導体、ビトリアゾール又はその誘導体、ビテトラゾール又はその誘導体、アゾジカルボンアミド又はその誘導体、ヒドラジン又はその誘導体、及びヒドラジド誘導体が挙げられる。
【0015】
より具体的には、5-オキソ-1,2,4-トリアゾール、テトラゾール、5-アミノテトラゾール、硝酸アミノテトラゾール、ニトロアミノテトラゾール、ビテトラゾール(5,5'-ビ-1H-テトラゾール)、5,5'-ビ-1H-テトラゾールジアンモニウム塩、アゾビステトラゾール、5,5'-アゾビステトラゾールジグアニジウム塩、グアニジン、ニトログアニジン、シアノグアニジン、トリアミノグアニジン硝酸塩、硝酸アミノグアニジン、ビウレット、アゾジカルボンアミド、カルボヒドラジド、カルボヒドラジド硝酸塩錯体、シュウ酸ヒドラジド、ヒドラジン硝酸塩錯体、アンミン錯体等が好適に挙げられる。これらの含窒素有機化合物の中でも、安価で反応性が良く比較的取り扱いが容易であることから、テトラゾール誘導体、ビテトラゾール誘導体及びグアニジン誘導体が好ましく、ニトログアニジン、ビテトラゾール、アゾビステトラゾール及び5-アミノテトラゾールが更に好ましい。
【0016】
本発明は、酸化剤として塩基性金属硝酸塩を含有する。該塩基性金属硝酸塩としては、具体的には、塩基性硝酸銅、塩基性硝酸コバルト、塩基性硝酸亜鉛、塩基性硝酸マグネシウム、塩基性硝酸鉄等が挙げられる。これらの中でも、燃焼温度が低く、熱安定性が良い塩基性硝酸銅が特に好ましい。
【0017】
本ガス発生剤中の塩基性硝酸金属塩の配合割合は、用いられる硝酸グアニジンと後述するバインダー剤や添加剤の種類と量により異なるが、通常は当該ガス発生剤組成物に対して25~75質量%の範囲が好ましく、特に発生ガス中の一酸化炭素と窒素酸化物濃度を低減させるために30~50質量%の範囲に設定することがより好ましい。
【0018】
上記塩基性金属硝酸塩は、取り扱いが容易であることから粉末若しくは顆粒状であることが好ましく、その50%粒径は、1~80μmが好ましく、1~50μmが更に好ましい。なお、塩基性金属硝酸塩の50%粒径は、大き過ぎるとガス発生剤組成物成形体の強度が低下する。一方で、粉体の粒径が小さ過ぎるものは、燃料成分との均一な混合が困難な場合がある。また小粒径の塩基性金属硝酸塩の調製には粉砕に多大なコストを必要とする問題もある。
【0019】
本発明のガス発生剤組成物は、更に共酸化剤として硝酸塩や過塩素酸塩を加えても良い。該硝酸塩とは、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩、硝酸アンモニウムであり、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム等を用いることでできる。また、硝酸アンモニウムはカリウム塩や銅塩を添加した相安定化硝酸アンモニウムを用いても良い。また、該過塩素酸塩とは、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸アンモニウム等を用いることができる。
【0020】
なお、これら硝酸塩及び過塩素酸塩は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
酸化剤として、塩基性金属硝酸塩と併せて用いる好ましい共酸化剤としては、硝酸ストロンチウムであり、塩基性硝酸銅と硝酸ストロンチウムの混合酸化剤を用いることが好ましい。また、過塩素酸カリウムも好ましく、塩基性硝酸銅と過塩素酸カリウムの混合酸化剤を用いることが好ましい。
【0022】
共酸化剤を用いる場合、塩基性金属硝酸塩と共酸化剤の混合比率(w/w)は、10:1~1:10で用いることが好ましく、より好ましくは、5:1~1:5である。
【0023】
本発明のガス発生剤組成物はカルボキシメチルセルロース塩を含む。ガス発生剤の燃焼特性は、ガス発生剤の成型体形状に影響を受ける。カルボキシメチルセルロース塩は、ガス発生剤が所望の燃焼特性を発揮させるために、成形性、形状保持性を付与するバインダー剤であり、ガス発生器が使用される過酷な環境下であってもガス発生剤の成形体形状を保たせることにより、燃焼性能を維持させる機能を担う。また、バインダー剤として、カルボキシメチルセルロース塩を用いると、一酸化炭素や窒素酸化物等の有害ガスの生成を有意に抑制することができる。
【0024】
本発明において用いられるカルボキシメチルセルロース塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等を用いることができる。中でも、ナトリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
【0025】
本発明は、バインダー剤として、カルボキシメチルセルロース塩の他のバインダー剤を含んでも良い。ガス発生剤組成物の燃焼挙動に大幅な悪影響を与えなければ特に制限なく他のバインダー剤を使用できる。例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、微結晶性セルロース等のセルロース類、グアガム、デンプン等の多糖誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等の水溶性合成ポリマー類等の水溶性有機バインダー類が好ましい。その他、二硫化モリブデン、合成ヒドロタルサイト、酸性白土、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、カオリン、シリカ、アルミナ等の無機バインダーも用いることができる。本発明のガス発生剤組成物は、水を媒体とした押出成形によるガス発生剤の調製に好適であることから、共使用するバインダー剤としては、水溶性のバインダー剤であることが好ましく、セルロース類、多糖誘導体、水溶性合成ポリマー類を用いることが好ましい。
【0026】
本発明のガス発生剤組成物中におけるバインダー剤の含有量は0.1~10質量%が好ましく、1~8質量%であることがより好ましい。バインダー剤の含有量が高いと、成形体の破壊強度を高めることができるが、組成物中の炭素元素及び水素元素の数が増大し、炭素元素の不完全燃焼生成物である一酸化炭素ガスの濃度が増大し、発生ガスの品質を低下させ、また燃焼を阻害してしまうおそれがある。このため、ガス発生剤組成物の形状を維持できる最低量での使用が好ましい。特に、バインダー剤の含有量が10質量%を超えると、酸化剤成分の相対的存在割合の増大が必要となり、ガス発生剤組成物中における燃料成分の相対的存在割合が低下し、ガス発生器の実用化が困難になるおそれがある。
【0027】
本発明のガス発生剤組成物は、耐熱性を向上させるための添加剤を含有する。該添加剤はケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群から選択される1種以上の添加剤である。
【0028】
本発明のガス発生剤組成物中における添加剤の含有量は0~15質量%が好ましく、0.5~15質量%であることがより好ましい。4~10質量%の含有量で用いることが特に好ましい。添加剤の含有量が高いと、燃焼性能の低下や燃焼で生じる残渣量が増加する問題が生じる。
【0029】
本発明のガス発生剤組成物は、スラグ形成剤、滑剤、燃焼調整剤等のガス発生剤で通常用いる添加剤を更に含んでいてもよい。
【0030】
スラグ形成剤とは、ガス発生剤組成物の燃焼後に生成する燃焼残渣を容易にろ過することを可能にする添加剤であり、インフレータの外に放出することを防ぐことを目的に添加される。該スラグ形成剤の具体例としては、例えば、窒化珪素、炭化珪素、二酸化珪素、珪酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸性白土、クレー等の天然鉱物等が挙げられる。
【0031】
本発明においてスラグ形成剤を用いる場合、ガス発生剤組成物中における含有量は、0.5~10質量%が好ましく、1~5質量%が更に好ましい。スラグ形成剤の含有量が高いと、燃焼性を低下させ、更には発生ガスのモル数を低下させることから、乗員保護性能が十分に発揮されないおそれがある
【0032】
滑剤とは、ガス発生剤組成物の調製時において原料成分の混合性向上、流動性改善を目的として添加される。該滑剤の具体例としては、例えば、グラファイト、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、窒化ホウ素、高分散シリカ(二酸化珪素)、タルク等が挙げられる。これらの中でも、高分散シリカ(二酸化珪素)は、原料混合時の固着や凝集を抑制して均一に分散混合する機能を有しており、各成分の粒度特性・作用を維持する効果があり、特に有用である。
【0033】
本発明において滑剤を用いる場合、ガス発生剤組成物中における滑剤の含有量は、0.1~5質量%が好ましく、0.1~2質量%が更に好ましい。滑剤の含有量が高いと、燃焼性の低下、発生ガスのモル数の低下、更には発生ガス中の一酸化炭素の濃度の増大等が起きるおそれがある。
【0034】
燃焼調整剤の具体例としては、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化クロム、酸化コバルト、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン等の金属酸化物、水酸化銅、水酸化コバルト、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、活性炭粉末、グラファイト、カーボンブラック等の炭素類等が挙げられる。
【0035】
本発明において燃焼調整剤を用いる場合、ガス発生剤組成物中における燃焼調整剤の含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0036】
本発明のガス発生剤組成物は、適当な形状を有する成形体として使用することが好ましい。以下、ガス発生剤組成物の成形体をガス発生剤とも称する。本発明のガス発生剤は、燃焼性能、ガス発生器の燃焼特性に合わせて様々な形状に成形することができる。
【0037】
本発明のガス発生剤の形状は、特に限定されず、ペレット状、ディスク状、球状、棒状、円柱状、円筒状、金平糖状、テトラポット状等が挙げられる。また、該成形体は、無孔のものでもよいし、単孔又は多孔といった有孔のもの(例えば、単孔円筒状又は多孔円筒状)でもよい。更に、ペレット状、ディスク状の成形体は、片面又は両面に1個乃至複数個程度の突起を設けてもよい。突起の形状は特に制限されず、例えば、円柱状、円筒状、円錐状、多角錘状等が挙げられる。
【0038】
本発明のガス発生剤の成形方法としては、加圧成形方法、押出成形方法が挙げられる。
【0039】
初めに、本発明のガス発生剤の成形体の加圧成形方法による製造方法を例示する。加圧成形により、錠剤状、ペレット状又はディスク状にガス発生剤組成物を成形する場合、燃料成分、酸化剤成分、及び添加剤等の任意の各種添加剤をV型混合機又はロッキングミキサー等の乾式混合機にて混合する。混合の際には、該成分の混合物中に球体を分散し介在させることで、該成分の粉末が球体による力を細部にわたって受けるため、組成物中に各成分が均一に分散する。ロッキングミキサーのような回転と揺動運動を行う混合機を用いることで、各成分がより均一に分散したガス発生剤組成物を得ることができるため望ましい。得られたガス発生剤組成物(粉末)に、バインダー剤を含有する溶液(バインダー溶液)を添加し、撹拌造粒機等の湿式造粒機を用いて該ガス発生剤組成物を造粒する。バインダー溶液の添加量は、一概には言えないが、混合粉末に対して1~100質量%添加することができる。
【0040】
その後、80~100℃にて熱処理して顆粒を得る。熱処理後の顆粒の水分量は、1%を超えると流動性の低下が起こり、安定して次工程の加圧成形を行うことができないおそれがあるため、顆粒中の水分量は1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下が望ましい。
【0041】
次に、該顆粒をロータリー打錠機によって所望の形状に加圧成形する。加圧成形の際、通常使用されるステアリン酸マグネシウム等の滑剤を0.1~5質量%の範囲で添加することも可能である。加圧成形された成形体は、100~110℃で5~20時間熱処理した後、ガス発生剤として使用できる。熱処理後のガス発生剤中の水分量は1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下が望ましい。
【0042】
一方、押出成形方法により本発明のガス発生剤組成物の成形体を製造する場合には、燃料成分、酸化剤成分、バインダー剤、添加剤と燃焼調整剤等の任意の各種添加剤を混合機にて混合し、得られた混合粉末に外割で1~100質量%の水及び/又は有機溶媒を加えて十分に混練し、粘性を有する湿薬にする。その後、所望の形状に押出成形可能なダイスに該湿薬を通し、押出成形体を適宜切断していく。押出成形体は柱状体であり、より好ましい形体としては長尺円柱状成形体である。
【0043】
その後、押出成形体を50~150℃の温度で5~50時間程度熱処理を行うことにより、経時変化の少ないガス発生剤組成物の成形体を得ることができる。
【0044】
押出成形による製造方法では、水分を10~20質量%含んだ成形体を熱処理するため、低温で長時間熱処理することが必要である。特に、107℃×400時間の過酷な耐熱老化試験に適合するためには、この熱処理が極めて有効である。なお、熱処理時間は、得られるガス発生剤の含水量が1質量%以下になるまで行えば任意に設定して良い。50~150℃の温度で熱処理する場合、一般的には5時間未満では、熱処理が不十分であり、一方、5時間を超える熱処理時間も意味が無いが、熱処理時間は、ガス発生剤の形状や大きさに応じて、適宜、設定されるべきである。但し、熱処理温度は80℃を超える温度で急激に水分を蒸発させると、成形体内に気泡が生じ成形体の強度不足をもたらし、ガス発生剤が粉砕されて異常燃焼の原因となる。そのため、50~70℃にて一次熱処理を行い、ガス発生剤中の水分量を7%以下、好ましくは5%以下とし、その後、80~150℃にて二次熱処理を行い、ガス発生剤中の水分量を1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下にするような段階的な熱処理を施すことが望ましい。
【0045】
本発明のガス発生剤はガス発生器に装填して使用される。好適なガス発生器としては、エアバッグ展開に用いられるインフレータである。したがって、本願は当該ガス発生剤を用いたエアバッグ用インフレータも本発明に含む。本発明のエアバッグ用インフレータは、通常、車両に搭載される構造のインフレータであれば特に限定されるものではなく採用することができる。
【0046】
[実施例1]
硝酸グアニジン44.1質量部、塩基性硝酸銅36.9質量部、過塩素酸カリウム10.0質量部、ケイ酸マグネシウム5.0質量部、1%(w/w)水溶液にした場合の25℃におけるB型粘度計で測定される粘度が3,340mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩4.0質量部をロッキングミキサーで混合し、混練機で外割り20質量部の脱イオン水および3質量部のエタノールを加え均一に混練した。ダイスを備えた押出機にてストランド状に成形し、この成形体を引き取りベルトで引き取りながら、成形用歯車間に送り出し、成形用歯車の凸歯によって窪み部分を形成し、その窪み部分で折るようにして切断した。その後、55℃で8時間乾燥し、次いで110℃で8時間乾燥して実施例1のガス発生剤を得た。
【0047】
[実施例2]
硝酸グアニジン44.1質量部、塩基性硝酸銅36.9質量部、過塩素酸カリウム10.0質量部、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム5.0質量部、1%(w/w)水溶液にした場合の25℃におけるB型粘度計で測定される粘度が3,340mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩4.0質量部をロッキングミキサーで混合し、混練機で外割り20質量部の脱イオン水および3質量部のエタノールを加え均一に混練した。ダイスを備えた押出機にてストランド状に成形し、この成形体を引き取りベルトで引き取りながら、成形用歯車間に送り出し、成形用歯車の凸歯によって窪み部分を形成し、その窪み部分で折るようにして切断した。その後、55℃で8時間乾燥し、次いで110℃で8時間乾燥して実施例2のガス発生剤を得た。
【0048】
[実施例3]
硝酸グアニジン44.1質量部、塩基性硝酸銅36.9質量部、過塩素酸カリウム10.0質量部、酸化マグネシウム5.0質量部、1%(w/w)水溶液にした場合の25℃におけるB型粘度計で測定される粘度が3,340mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩4.0質量部をロッキングミキサーで混合し、混練機で外割り20質量部の脱イオン水および3質量部のエタノールを加え均一に混練した。ダイスを備えた押出機にてストランド状に成形し、この成形体を引き取りベルトで引き取りながら、成形用歯車間に送り出し、成形用歯車の凸歯によって窪み部分を形成し、その窪み部分で折るようにして切断した。その後、55℃で8時間乾燥し、次いで110℃で8時間乾燥して実施例3のガス発生剤を得た。
【0049】
[実施例4]
硝酸グアニジン44.1質量部、塩基性硝酸銅36.9質量部、過塩素酸カリウム10.0質量部、炭酸カルシウム5.0質量部、1%(w/w)水溶液にした場合の25℃におけるB型粘度計で測定される粘度が3,340mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩4.0質量部をロッキングミキサーで混合し、混練機で外割り20質量部の脱イオン水および3質量部のエタノールを加え均一に混練した。ダイスを備えた押出機にてストランド状に成形し、この成形体を引き取りベルトで引き取りながら、成形用歯車間に送り出し、成形用歯車の凸歯によって窪み部分を形成し、その窪み部分で折るようにして切断した。その後、55℃で8時間乾燥し、次いで110℃で8時間乾燥して実施例4のガス発生剤を得た。
【0050】
[比較例]
硝酸グアニジン46.8質量部、塩基性硝酸銅39.2質量部、過塩素酸カリウム10.0質量部、1%(w/w)水溶液にした場合の25℃におけるB型粘度計で測定される粘度が3,340mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩4.0質量部をロッキングミキサーで混合し、混練機で外割り20質量部の脱イオン水および3質量部のエタノールを加え均一に混練した。ダイスを備えた押出機にてストランド状に成形し、この成形体を引き取りベルトで引き取りながら、成形用歯車間に送り出し、成形用歯車の凸歯によって窪み部分を形成し、その窪み部分で折るようにして切断した。その後、55℃で8時間乾燥し、次いで110℃で8時間乾燥して比較例のガス発生剤を得た。
【0051】
[試験例]耐熱性の評価
実施例1~4及び比較例のガス発生剤各10gを内容積22.3ccの密閉容器に充填し、110℃の恒温槽に投入した。800時間後、1,200時間後、2,000時間後に恒温槽から密閉容器を取り出し、充填されたガス発生剤の重量変化率を測定した。
以下の評価基準にて、2,000時間の耐熱試験後における重量減少率から耐熱性を評価
した。試験結果を表1に示した。
○:重量減少率が5%未満
△:重量減少率が5%以上9%未満
×:重量減少率が9%以上
【0052】
【0053】
試験例の結果から、実施例1~4は比較例と比較して、重量減少率を低減させることが明らかになった。