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特開2022-40422金属の微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートの製造方法、ないしは、合金の微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040422
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】金属の微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートの製造方法、ないしは、合金の微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/22 20060101AFI20220304BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220304BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220304BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
B22F3/22
B22F1/00 K
H01B13/00 501Z
H01B1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145135
(22)【出願日】2020-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4K018AA02
4K018AA03
4K018AA07
4K018AA14
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA08
4K018BD04
4K018CA33
4K018KA33
5G301DA02
5G301DA03
5G301DA04
5G301DA07
5G301DA10
5G301DA11
5G301DA12
5G301DA42
5G301DD01
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】
金属粉末ないしは合金粉末を用いず、また、導電性フィラーを分散させるビヒクルを用いず、従来の導電性被膜を形成する方法とは全く新たな方法で、全く新たな構成からなる金属シートないしは合金シートを形成する。
【解決策】
金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、微細結晶の集まりの表面を板材で覆い、板材に加える圧縮応力を増やしながら容器を昇温し、微細結晶を熱分解させ、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートを、容器の底面に製造する。ないしは、複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、微細結晶の集まりの表面を板材で覆い、板材に加える圧縮応力を増やしながら容器を昇温し、複数種類の金属化合物の微細結晶を同時に熱分解させ、合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートを、容器の底面に製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートを製造する方法は、
メタノールに分散するが、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質を兼備する金属化合物をメタノールに分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成し、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、この後、該金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、該容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記金属化合物の微細結晶の集まりを前記容器内に最密充填させる、さらに、該最密充填された金属化合物の微細結晶の集まりの表面に板材を被せ、該板材によって前記最密充填された金属化合物の微細結晶の集まりの表面を覆う、この後、該板材の表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、前記容器を前記金属化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、前記金属化合物の微細結晶を熱分解させ、該容器に金属微粒子の集まりを析出させる、この際、該析出した金属微粒子同士が互いに接触する部位で金属結合し、前記容器の底面に、前記金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートが、該底面の形状として形成される、この後、前記板材を前記容器から取り出し、さらに、該容器に衝撃加速度を繰り返し加え、該容器から前記金属シートを引き剥がし、該金属シートを取り出す、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートを製造する方法。
【請求項2】
合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートを製造する方法は、
同一の温度で熱分解して互いに異なる複数種類の金属を同時に析出する第一の性質と、メタノールに分散するが、メタノールに溶解しない第二の性質を兼備する複数種類の金属化合物をメタノールに分散し、該複数種類の金属化合物のメタノール分散液を作成し、該複数種類の金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、この後、該複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、該容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりを前記容器内に最密充填させる、さらに、該最密充填された複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりの表面に板材を被せ、該板材によって前記最密充填された複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりの表面を覆う、この後、該板材の表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、前記容器を前記複数種類の金属化合物の熱分解が同時に完了する温度まで昇温し、前記複数種類の金属化合物の微細結晶を同時に熱分解させ、該容器に合金微粒子の集まりを析出させる、この際、該析出した合金微粒子同士が互いに接触する部位で金属結合し、前記容器の底面に、前記合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートが、該底面の形状として形成される、この後、前記板材を前記容器から取り出し、さらに、該容器に衝撃加速度を繰り返し加え、該容器から前記合金シートを引き剥がし、該合金シートを取り出す、合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートを製造する方法。
【請求項3】
請求項1に記載した金属シートを製造する方法は、請求項1に記載した金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンが配位子となって金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩で構成された無機金属化合物であり、該無機金属化合物を請求項1に記載した金属化合物として用い、請求項1に記載した金属シートを製造する方法に従って金属シートを製造する、9段落に記載した金属シートを製造する方法であり、
請求項2に記載した合金シートを製造する方法は、請求項2に記載した複数種類の金属化合物が、同一の無機物の分子ないしは同一の無機物のイオンが配位子となって互いに異なる金属イオンに配位結合した複数種類の金属錯イオンを有する同一の無機塩で構成された複数種類の無機金属化合物であり、該複数種類の無機金属化合物を請求項2に記載した複数種類の金属化合物として用い、請求項2に記載した合金シートを製造する方法に従って合金シートを製造する、請求項2に記載した合金シートを製造する方法。
【請求項4】
請求項1に記載した金属シートを製造する方法は、請求項1に記載した金属化合物が、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物であり、該カルボン酸金属化合物を請求項1に記載した金属化合物として用い、請求項1に記載した金属シートを製造する方法に従って金属シートを製造する、請求項1に記載した金属シートを製造する方法であり、
請求項2に記載した合金シートを製造する方法は、請求項2に記載した複数種類の金属化合物が、同一の飽和脂肪酸が互いに異なる金属イオンに共有結合した複数種類のカルボン酸金属化合物であり、該複数種類のカルボン酸金属化合物を請求項2に記載した複数種類の金属化合物として用い、請求項2に記載した合金シートを製造する方法に従って合金シートを製造する、請求項2に記載した合金シートを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属シートを製造する方法、ないしは、合金シートを製造する方法に係る。
すなわち、熱分解で金属を析出する金属化合物をメタノールに分散させ、該メタノール分散液からメタノールを気化させ、金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる。該金属化合物の微細結晶の集まりを容器に最密充填させ、該微細結晶の集まりの表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、前記容器を前記金属化合物の熱分解が完了する温度に昇温し、金属化合物の微細結晶を熱分解させ、容器の底面に、隣接する金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートが底面の形状として形成される。
ないしは、熱分解で互いに異なる複数種類の金属を同時に析出する複数種類の金属化合物をメタノールに分散させ、該メタノール分散液からメタノールを気化させ、複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる。該微細結晶の集まりを容器に最密充填させ、該微細結晶の集まりの表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、前記容器を前記複数種類の金属化合物の熱分解が同時に完了する温度に昇温し、前記複数種類の金属化合物の微細結晶を同時に熱分解させ、前記容器の底面に、隣接する合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートが底面の形状として形成される。
なお、本製造方法に依れば、従来では製造が困難であった厚みがサブミクロンよりさらに薄い金属シートないしは合金シートが製造できる。
【背景技術】
【0002】
本発明の金属シートないしは合金シートの製造に最も近い技術に、導電性膜を形成する技術があり、従来の導電性膜は、導電性ペーストを用いて導電性膜を形成している。また、従来の導電性ペーストは、樹脂系バインダと溶媒からなるビヒクル中に導電性フィラーを分散させた流動性組成物からなる。従って、スクリーン印刷で導電性ペーストを印刷すると、導電性フィラーが液状物質を介して被印刷物に映され、樹脂系バインダと溶媒からなる液状物質が導電性フィラーを運ぶ役割を担うため、液状物質をビヒクルと呼ぶ。
従来の導電性ペーストは、樹脂の硬化を介して導電性フィラー同士が圧着され、導電性フィラーによる導通が確保される樹脂硬化型と、焼成によって有機成分が揮発して導電性フィラー同士が焼結して導通が確保される焼成型に二分される。
樹脂硬化型導電性ペーストは、金属粉末ないしは合金粉末からなる導電性フィラーと、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂からなる有機バインダを含んだペースト状の組成物であり、熱を加えることによって熱硬化型樹脂が導電フィラーとともに硬化収縮し、樹脂を介して導電フィラー同士が圧着されて互いに接触状態となり、導通性がもたらされる。この樹脂硬化型導電性ペーストは200℃程度の比較的低い温度領域で処理されるため熱ダメージが少なく、プリント配線基板や熱に弱い樹脂基板などの用途に使用されている。
いっぽう、焼成型導電性ペーストは、金属粉末ないしは合金粉末からなる導電フィラーとガラスフリットとを有機ビヒクル中に分散させたペースト状の組成物であり、900℃程度までの高温領域で焼成し、有機ビヒクルを揮発させ、次にガラスフリットを融解させ、さらに、金属粉末同士が、ないしは、合金粉末同士が焼結することによって導通性がもたらされる。この際、ガラスフリットは、金属粉末ないしは合金粉末からなる導電膜を基板に接合させる作用を有し、有機ビヒクルは、金属粉末ないしは合金粉末およびガラスフリットを印刷可能にするための液状媒体として作用する。焼成型導電性ペーストは焼成温度が高いため、プリント配線基板や樹脂材料には使用できないが、焼結して金属が一体化することから低抵抗化を実現することができ、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極などに使用されている。
【0003】
導電性ペーストは、導電性フィラーとして金属粉末ないしは合金粉末を用い、金属粉末ないしは合金粉末とガラスフリットとを、樹脂系バインダと溶媒とからなるビヒクル中に分散させた分散液で構成される。このため、導電性フィラーとして金属粉末ないしは合金粉末を用いることと、この金属粉末ないしは合金粉末を分散させることに起因する諸課題を持っている。
第一の課題は、熱処理後に抵抗値が増大する。すなわち、樹脂硬化型導電性ペーストでは、絶縁性の熱硬化性樹脂が金属粉末同士のないしは合金粉末同士の接触を妨げる。また、焼成型導電性ペーストでは、導電度が低いガラスフリットが金属粉末同士ないしは合金粉末同士の焼結を妨げる。このため、こうした導電性ペーストを加熱処理した導電性膜を、電気回路の配線、電極、電磁波シールド膜、帯電防止膜に用いると、導電性膜の電気抵抗が増大し、電気エネルギーが損失すると共に導電性膜に発熱現象がもたらされる。
第二の課題は、金属粉末ないしは合金粉末の分散性である。つまり、金属粉末ないしは合金粉末のビヒクル中への分散性が悪いと、導電性ペーストの熱処理後に金属粉末ないしは合金粉末が偏在する。この結果、前記と同様に、導電性ペーストの加熱後における導電性膜の電気抵抗が増大し、電気回路の配線、電極、電磁波シールド膜、帯電防止膜の電気抵抗の増大をもたらす。
第三の課題は、金属粉末ないしは合金粉末を焼結する際に金属粉末ないしは合金粉末が収縮する。つまり、金属粉末ないしは合金粉末が収縮することで、積層セラミックスコンデンサの内部電極においては、電極と誘電体とのデラミネーション(層間剥離)や電極層にクラックが発生などの構造欠陥が起きる。
第四の課題は、金属粉末同士ないしは合金粉末同士の凝集である。また、金属粉末ないしは合金粉末が微細になるほど凝集しやすい。金属粉末ないしは合金粉末の凝集が起こると、ビヒクル中への金属粉末ないしは合金粉末の分散性が悪化し、結果として、前記した導電性膜の電気抵抗の増大をもたらす。
前記した4つの課題はいずれも、導電性フィラーとして金属粉末ないしは合金粉末を用いることと、この金属粉末ないしは合金粉末を分散させる分散媒体に起因するため、根本的な解決は難しい。
第五の課題に、厚みがサブミクロンより薄い極めて軽量で一定の面積を持つ導電性膜が形成できない。つまり、金属粉末ないしは合金粉末の大きさが数ミクロンから十数ミクロンの偏差を持つため、金属粉末ないしは合金粉末の集まりを用いて形成した導電性膜の厚みは、百ミクロンを優に超える。
【0004】
前記した導電性ペーストの課題を解決する様々な試みがなされている。
例えば、特許文献1に、相対的に卑な金属の金属粉が相対的に貴な金属によって被覆された金属フィラーと、被覆剤で被覆された金属ナノ粒子と、有機溶剤とからなり、バインダの樹脂成分を含まない導電性ペーストが提案されている。金属ナノ粒子を導電性ペーストに分散させるため、金属ナノ粒子は、有機溶剤に親和性を持ち、かつ、沸点が有機溶剤の沸点に近いアルキルアミンで被覆される。塗布された導電性ペーストを熱処理すると、金属のナノ粒子が析出し、金属のナノ粒子によって金属フィラーが結合され、樹脂成分を含まない導電性膜が形成される。
しかし、金属ナノ粒子は極めて凝集しやすく、一度凝集するとナノ粒子であるが故に、凝集を解除することはできない、取り扱いが厄介な微粒子である。また、金属ナノ粒子を生成する際に、生成された金属ナノ粒子同士が凝集する。このため、生成された金属ナノ粒子にアルキルアンミンを吸着させることはできず、アルキルアンミンを含む液体中で金属ナノ粒子を析出させ、アルキルアミンで金属ナノ粒子を覆い、アルキルアンミンを除く液体成分を気化させ、アルキルアンミンで被覆された金属ナノ粒子が製造できる。このため、アルキルアミンで被覆された金属ナノ粒子を製造する費用は、導電性ペーストを製造する費用を大きく上回る。従って、電気回路の配線、電極、電磁波シールド膜、帯電防止膜などの汎用性のある導電性膜を形成する費用としては高価になる。なお、特許文献1に、アルキルアンミンで被覆された金属ナノ粒子を用いる記載はあるが、アルキルアミンで被覆された金属ナノ粒子の製造方法に関する記載はない。
【0005】
また、特許文献2に、酸化銀と、アミノ基を1個以上有する脂肪酸銀からなる導電性ペーストが提案されている。つまり、導電性ペーストを塗布した塗膜を熱処理すると、脂肪酸銀塩が熱処理により銀に分解され、分解で生じた脂肪酸またはその分解物が揮発する一方で、分解により生じた一部の脂肪酸と酸化銀とが反応し、再び脂肪酸銀塩を生成し、この脂肪酸銀が銀と脂肪酸とに分解されるサイクルを繰り返し、銀からなる導電性膜が形成される。
しかし、アミノ基を1個以上有する脂肪酸銀は、2-アミノイソ酪酸、DL-トレオニン、DL-セリン、DL-ノルバリンおよび6-アミノヘキサンからなる少なくとも1種類の水酸基を持つα-アミノ酸を、ブチルカルビトール、メチルエチルケトン、イソホロン、α-テルピネオールなどからなる溶媒に溶解し、この溶解液に酸化銀の粉末を加え、室温で長時間反応させることで生成される。このため、上記の特殊な薬品を用いて脂肪酸銀を製造する費用は、導電性ペーストを製造する費用を上回る。従って、前記した特許文献1と同様に、電気回路の配線、電極、電磁波シールド膜、帯電防止膜などの汎用性のある導電性膜を形成する費用としては高価になる。
【0006】
特許文献1及び2に記載された技術は、3段落に記載した4つの課題のうち、第三の課題を除く3つの課題を解決することを目的とした技術であるが、4段落と5段落とに記載したように、導電性ペーストの原料が高価になる。このため、導電性膜を形成する第六の課題として、安価な原料を用いて、安価な費用で導電性膜を形成することが挙げられる。つまり、電気回路の配線、電極、電磁波シールド膜、帯電防止膜などの汎用性のある工業製品の製造は、安価な原料を用い、安価な費用で導電性膜を形成することが必須になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-035974号公報
【特許文献2】特開2010-102884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した導電性ペーストの6つの課題は、導電性膜を形成する課題であり、本発明の金属シートないしは合金シートを形成する課題でもある。これらの課題は、導電性フィラーとして金属粉末ないしは合金粉末を用いることと、この金属粉末ないしは合金粉末をビヒクル中に分散させることによって起こる。つまり、導電性ペーストを構成する2つの基本要素によって起こる。従って、従来の2つの基本要素からなる導電性ペーストを用いず、全く新たな製法によって、全く新たな構成からなる金属シートないしは合金シートを形成することで、上記の課題が解決される。このため、新たな製法に基づく、新たな構成からなる金属シートないしは合金シートを製造する技術が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートを製造する方法は、
メタノールに分散するが、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質を兼備する金属化合物をメタノールに分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成し、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、この後、該金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、該容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加え、前記金属化合物の微細結晶の集まりを前記容器内に最密充填させる、さらに、該最密充填された金属化合物の微細結晶の集まりの表面に板材を被せ、該板材によって前記最密充填された金属化合物の微細結晶の集まりの表面を覆う、この後、該板材の表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、前記容器を前記金属化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、前記金属化合物の微細結晶を熱分解させ、該容器に金属微粒子の集まりを析出させる、この際、該析出した金属微粒子同士が互いに接触する部位で金属結合し、前記容器の底面に、前記金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートが、該底面の形状として形成される、この後、前記板材を前記容器から取り出し、さらに、該容器に衝撃加速度を繰り返し加え、該容器から前記金属シートを引き剥がし、該金属シートを取り出す、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートを製造する方法である。
【0010】
つまり、本製造方法によれば、次の4つの極めて簡単な処理を連続して実施すると、容器の底面に、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートが、該底面の形状として形成される。
第一の処理は、金属化合物をメタノールに分散するだけの処理である。第二の処理は、メタノール分散液からメタノールを気化するだけの処理である。第三の処理は、金属化合物の微細結晶の集まりが充填された容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加えるだけの処理である。第四の処理は、容器に最密充填された金属化合物の微細結晶の集まりに板材を被せ、この後、該板材の表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、容器を前記金属化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、金属化合物の微細結晶を熱分解させるだけの処理である。これら極めて簡単な4つの処理を連続して実施すると、容器の底面に、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属シートが、底面の形状として形成される。
次に、前記した4つの処理における現象と各々の処理の効果とを説明する。
第一の処理において、熱分解で金属を析出する金属化合物をメタノールに分散すると、金属化合物が分子状態となってメタノールに分散する。これに対し、金属化合物がメタノールに溶解すると、金属化合物を構成する金属が金属イオンとなってメタノール中に溶出し、溶解した金属化合物は、溶解前の金属化合物に戻ることができない。このため、メタノール溶解液からメタノールを気化させると、溶解前の金属化合物の結晶が析出しない。従って、メタノールに溶解せず分散する金属化合物を用いる。つまり、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい金属化合物の微細結晶として析出する。
第二の処理において、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化すると、100nmより小さい金属化合物の微細結晶の集まりが析出する。つまり、金属化合物のメタノール分散液において、金属化合物が分子状態となってメタノールに均一に分散したため、メタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい微細結晶として析出する。なお、微細結晶は、分子状態でメタノール中に分散した金属化合物が、微細結晶として析出したため、金属化合物の単分子が形成する結晶が積層した結晶の集まりからなる。従って、微細結晶に応力を加えると、微細結晶が破砕し、さらに微細な結晶なる。しかし、結晶が微細になるほど、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。なお、気化したメタノールは回収機で回収し、再利用する。
第三の処理において、金属化合物の微細結晶の集まりが充填された容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加えると、軽量な金属化合物の微細結晶が、振動方向に移動するとともに、金属化合物の微細結晶が容器内で再配列する。最後に、上下方向の振動加速度を加え、振動加速度を停止すると、容器内に金属化合物の微細結晶の集まりが最密充填する。なお、容器に加える振動加速度は、金属化合物の微細結晶が軽量であるため、容器の底面積の大きさに応じて、0.1-0.3Gの振動加速度を加え、金属化合物の微細結晶を振動方向に移動させる。
第四の処理において、板材で覆われた金属化合物の微細結晶の集まりに対し、板材を介して加える圧縮応力を徐々に増やすと、最密充填された金属化合物の微細結晶は、容器内で移動できず、微細結晶同士が互いに接触し、接触した微細結晶に圧縮応力が加わり、さらに微細な金属化合物の結晶に砕かれる。しかし、圧縮応力を加え続けても、結晶が微細になるほど、結晶に応力が加わることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。このように増大する圧縮荷重が加え続けられるため、破砕された金属化合物の結晶は、破砕によってできた空隙を埋めるように移動する。この金属化合物の結晶の破砕と移動とが短時間で繰り返される。なお、容器に充填した金属化合物の微細結晶の大きさにばらつきがあるため、破砕よってできた空隙の大きさにもばらつきがあり、破砕が進んだ金属化合物の結晶の大きさにもばらつきが発生する。従って、金属化合物の結晶の破砕が完了した時点で、金属化合物の結晶の大きさにばらつきがある。なお、増大する圧縮荷重が加え続けられるため、破砕と移動とを繰り返す金属化合物の結晶の集まりは、最密充填の状態を容器内で維持し続ける。この後、金属化合物の微細結晶の熱分解が完了する温度に至り、微細結晶が熱分解され、金属微粒子の集まりが析出する。金属化合物の熱分解は、最初に、金属化合物が、無機物ないしは有機物の分子と金属の分子とに分解し、さらに昇温されると、無機物ないしは有機物の分子が気化熱を奪いながら気化し、無機物ないしは有機物の分子の気化が完了した時点で、金属化合物の熱分解が完了し、金属分子が集まって10-20nmの大きさからなる金属微粒子を形成し、金属微粒子の集まりが析出する。金属化合物の熱分解の途上においても、増大する圧縮荷重が加え続けられているため、析出した金属微粒子同士が互いに接触し、析出した金属が不純物を一切持たない活性状態にあるため、金属微粒子同士は、接触する部位で金属結合する。この結果、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりが、積層した金属微粒子の集まりからなる金属シートを形成し、容器の底面に、該底面の形状として形成される。なお、板材に加える圧縮応力は、金属化合物の熱分解が完了する際に最大になるが、最大の圧縮応力は、形成される金属シートの面積に応じて、圧縮荷重に換算して、10-100kg重を加える。
この後、板材を容器から取り出し、さらに、容器に衝撃加速度を繰り返し加え、容器から金属シートを引き剥がし、金属シートを取り出す。容器に加える衝撃加速度は、金属シートの面積に応じて、0.2-0.6Gである。
ここで、本発明の製造方法で製造した金属シートの作用効果を説明する。
第一に、金属シートは、金属微粒子の集まりのみで構成されるため、3段落に記載した第一から第四の課題は解決される。
第二に、金属シートの厚みは、容器に投入した金属化合物の微細結晶の集まりの量と、容器の底面の面積の大きさで決まる。このため、10-20nmの大きさからなる金属微粒子の4層が積層して金属シートを形成する場合は、金属シートの厚みは、僅かに60nm前後の厚みになる。これによって、3段落に記載した第五の課題は解決される。なお、金属シートの厚みに制約はない。
第三に、前記した極めて簡単な4つの処理によって、金属シートが容器の底面に、該底面の形状として形成される。容器から金属シートを取り出す方法も、極めて簡単な方法である。さらに、原料として用いる金属化合物は、汎用的な工業用の薬品である。このため、安価な材料を用い、極めて簡単な処理によって、金属シートが形成できる。これによって、6段落に記載した第六の課題は解決される。この結果、全ての課題が解決される。
第四に、金属シートは、金属に準ずる導電性と熱伝導性を持つ。また、高温、極低温、真空、高圧下などの過酷な環境でも使用できる。また、熱分解で鉄、ニッケルないしはコバルトを析出する金属化合物を原料として用いれば、金属シートは強磁性の性質を持つ。さらに、熱分解で触媒作用を持つ白金族や貴金属の金属を析出する金属化合物を原料として用いれば、僅かに60nm前後の厚みからなる触媒作用を有する金属シートになる。
第五に、金属シートが、10-20nmの大きさからなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりで構成されるため、金属シートの表面は極めて平坦度が高く、平滑性に優れる。このため、摺動部材が金属シートの表面に摺動すると、摺動部材は金属シートの表面で滑る。従って、金属シートは、摩擦係数が小さい潤滑被膜として作用する。このため、金属シートは、摩耗速度が著しく遅く、寿命が長い導電性で熱伝導性を兼備する潤滑被膜として用いることができる。
第六に、金属シートの表面の平坦度が極めて高いため、金属シートの表面は撥水性と防汚性を持つ。例えば、金属シートを、電磁波シールドのシートや帯電防止のシートとして使用する際は、電磁波シールドシートや帯電防止シートの表面に異物が付着しにくい。
第七に、金属シートが、可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の数値を持つニッケルないしはアルミニウムの微粒子の集まりで構成すれば、微粒子の大きさが10-20nmで可視光線の波長より1桁小さい微粒子であるため、金属シートは、導電性で熱伝導性を兼備する透明シートになる。詳しくは、11段落以降で説明する。
第八に、金属シートは容器の底面に、該底面の形状として形成され、容器の底面の形状と大きさは自在に変えられるため、金属シートの形状と大きさの制約はない。
以上に説明したように、本発明の金属シートの製造方法は、従来の導電性ペースト用いた導電性被膜の形成方法と全く異なるため、従来の導電性ペーストを用いて形成する導電性被膜の課題はなく、従来の導電性被膜にはない多くの優れた作用効果がもたらす。
【0011】
ニッケルないしはアルミニウムは、可視光線の波長領域(380-750nm)での屈折率が0.4以上で2.4以下であり、空気の屈折率1に近い。このため、7割以上の可視光線が、ニッケルないしはアルミニウムの微粒子の集まりからなるシートに入射する。さらに、シートを構成するニッケルないしはアルミニウムの微粒子の大きさが、可視光線の波長より1桁小さいため、微粒子の集まりにおいて可視光線は殆ど散乱せず、高い透明性をもってシートを透過する。この結果、シートは透明性を持つ。なお、光線の表面反射率と全光線透過率とは、下記の12段落で説明する。また、微粒子の集まりにおける光の散乱は、下記の13段落で説明する。
すなわち、ニッケルの屈折率は、380nmの波長で1.61、波長が長くなるとと共に増大し、539nmの波長で1.75、709nmの波長で2.21、729nmの波長で2.28、750nmの波長で2.34である。従って、ニッケル微粒子の集まりからなるシートの表面で、空気とニッケルとの屈折率の違いで光が反射する。この際、シートへの光の透過率は、380nmの波長の光が89%、539nmの波長の光が86%、709nmの波長の光が74%、729nmの波長の光が72%、750nmの波長の光が70%透過する。また、10-20nmの大きさからなるニッケル微粒子は、可視光線の波長より1桁小さい。従って、赤色の可視光線の成分の一部がニッケルのシートの表面で反射されるが、シートに入り込んだ光は、殆ど散乱することなくニッケル微粒子の集まりを透過する。
また、アルミニウムの屈折率は、800nmの波長で最大の2.80で、波長が短くなるにつれ急減し、750nmの波長で2.40、708nmの波長で1.91、560nmの波長で空気の屈折率1に最も近づき、450nmの波長で0.620、380nmの波長で0.45となる。従って、アルミニウム微粒子の集まりからなるシートの表面で、空気とアルミニウムとの屈折率の違いで光が反射する。この際、光の透過率は、750nmの波長の光が69%、708nmの波長の光が81%、560nmの波長の光が100%、450nmの波長の光が89%、380nmの波長の光が73%透過する。また、10-20nmの大きさからなるアルミニウム微粒子は、可視光線の波長より1桁小さい。このため、シートの表面で、赤色と紫色との可視光線の一部が反射され、シートに入り込んだ光は、殆ど散乱することなくアルミニウム微粒子の集まりを透過する。
以上に説明したように、金属がアルミニウムの場合では、可視光線を構成する光線の一部がシートの表面で反射され、この光線に相当する色彩を放つが、シートは透明性を持つ。また、金属がニッケルの場合は、シートは無色に近く、また、透明性を持つ。
【0012】
表面反射率と全光線透過率とを説明する。光が基材に入射する際に、空気と基材との屈折率の差に応じて表面反射が生じる。従って、透明のガラスでも表面反射によるロスが発生し、全光線透過率は100%にならない。ちなみに、厚さが2mmのフロートガラスでは、可視光線の波長領域において全光線透過率は約90%である。基材に垂直に入射した光の表面における表面反射率Rは、基材の屈折率nと空気の屈折率mとからなる数式1によって算出される。また、全光線透過率Tは表面反射率Rからなる数式2によって算出される。従って、金属の屈折率が0.4の場合は、シートに入射する全光線透過率は67%になり、金属の屈折率が2.4の場合は、シートに入射する全光線透過率は69%となり、7割以上の可視光線がシートに入射する。
数1
R=(n―m)/(n+m)
数2
T=(1-R)
【0013】
次に、光の散乱を説明する。可視光線が粒子の集まりに照射された際の光の散乱は、数式3に示すレイリー散乱式が適応できる。数式3におけるSは散乱の比率を意味する散乱係数で、λは可視光線の波長で、Dは粒子径で、mは粒子の屈折率で、πは円周率である。従って、散乱係数Sの大きさは、可視光の波長λに対する粒子径Dの比率D/λの4乗に依存し、また、粒子径Dの2乗と、屈折率mにも依存する。金属微粒子の大きさDが、可視光の波長λより1桁小さいため、比率D/λは小さく、また、粒子径Dも10-20nmと十分に小さい。さらに、金属の屈折率mが0.4以上で2.4以下の値である。従って、散乱係数Sは極めて小さく、金属シートは高い透明性を示す。
数3
S=4/3・π/λ・D{(m-1)/(m+1)}
【0014】
合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートを製造する方法は、
同一の温度で熱分解して互いに異なる複数種類の金属を同時に析出する第一の性質と、メタノールに分散するが、メタノールに溶解しない第二の性質を兼備する複数種類の金属化合物をメタノールに分散し、該複数種類の金属化合物のメタノール分散液を作成し、該複数種類の金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、この後、該複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、該容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加え、前記複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりを前記容器内に最密充填させる、さらに、該最密充填された複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりの表面に板材を被せ、該板材によって前記最密充填された複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりの表面を覆う、この後、該板材の表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、前記容器を前記複数種類の金属化合物の熱分解が同時に完了する温度まで昇温し、前記複数種類の金属化合物の微細結晶を同時に熱分解させ、該容器に合金微粒子の集まりを析出させる、この際、該析出した合金微粒子同士が互いに接触する部位で金属結合し、前記容器の底面に、前記合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートが、該底面の形状として形成される、この後、前記板材を前記容器から取り出し、さらに、該容器に衝撃加速度を繰り返し加え、該容器から前記合金シートを引き剥がし、該合金シートを取り出す、合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートを製造する方法である。
【0015】
つまり、本製造方法によれば、次の4つの極めて簡単な処理を連続して実施すると、容器の底面に、合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートが、該底面の形状として形成される。
第一の処理は、複数種類の金属化合物をメタノールに分散するだけの処理である。第二の処理は、メタノール分散液からメタノールを気化するだけの処理である。第三の処理は、複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりが充填された容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加えるだけの処理である。第四の処理は、容器に最密充填された複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりに板材を被せ、この後、該板材の表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、容器を複数種類の金属化合物の熱分解が同時に完了する温度まで昇温し、複数種類の金属化合物の微細結晶を同時に熱分解させるだけの処理である。これら極めて簡単な4つの処理を連続して実施すると、容器の底面に、合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりからなる合金シートが、該底面の形状として形成される。
次に、前記した4つの処理における現象と各々の処理の効果とを説明する。
第一の処理において、熱分解で互いに異なる複数種類の金属を同時に析出する複数種類の金属化合物をメタノールに分散すると、複数種類の金属化合物が分子状態となってメタノールに分散する。これに対し、複数種類の金属化合物の少なくとも一つの金属化合物がメタノールに溶解すると、該金属化合物を構成する金属が金属イオンとなってメタノール中に溶出し、溶解した金属化合物は、溶解前の金属化合物に戻ることができない。このため、メタノール溶解液からメタノールを気化させると、溶解前の金属化合物の結晶が析出しない。従って、メタノールに溶解せず、メタノールに分散する複数種類の金属化合物を用いる。これによって、複数種類の金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させると、分散前の複数種類の金属化合物が、100nmより小さい複数種類の金属化合物の微細結晶として析出する。
第二の処理において、複数種類の金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化すると、100nmより小さい複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりが析出する。つまり、複数種類の金属化合物のメタノール分散液において、複数種類の金属化合物が分子状態となってメタノールに均一に分散したため、メタノールを気化させると、分散前の複数種類の金属化合物が、100nmより小さい微細結晶として析出する。なお、微細結晶は、分子状態でメタノール中に分散した複数種類の金属化合物が、微細結晶として析出したため、金属化合物の単分子が形成する結晶が積層した結晶の集まりからなる。従って、微細結晶に応力を加えると、微細結晶が破砕し、さらに微細な結晶なる。しかし、結晶が微細になるほど、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。なお、気化したメタノールは回収機で回収し、再利用する。
第三の処理において、複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりが充填された容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加えると、軽量な複数種類の金属化合物の微細結晶が振動方向に移動するとともに、複数種類の金属化合物の微細結晶が容器内で再配列する。最後に、上下方向の振動加速度を加え、振動加速度を停止すると、複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりが、容器内に最密充填する。なお、容器に加える振動加速度は、微細結晶が軽量であるため、容器の底面積の大きさに応じて、0.1-0.3Gの振動加速度を加え、複数種類の金属化合物の微細結晶を振動方向に移動させる。
第四の処理において、板材で覆われた複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりに対し、板材を介して加える圧縮応力を徐々に増やすと、最密充填された複数種類の金属化合物の微細結晶は、容器内で移動できず、微細結晶同士が互いに接触し、接触した微細結晶に圧縮応力が加わり、さらに微細な金属化合物の結晶に砕かれる。しかし、圧縮応力を加え続けても、結晶が微細になるほど、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。こうして増大する圧縮荷重が加え続けられるため、破砕された複数種類の金属化合物の結晶は、破砕によってできた空隙を埋めるように移動する。この複数種類の金属化合物の結晶の破砕と移動とが短時間で繰り返される。なお、容器に充填した複数種類の金属化合物の微細結晶の大きさにばらつきがあるため、破砕よってできた空隙の大きさにもばらつきがあり、破砕が進んだ複数種類の金属化合物の結晶の大きさにもばらつきが発生する。従って、複数種類の金属化合物の結晶の破砕が完了した時点で、複数種類の金属化合物の結晶の大きさにばらつきがある。この際も、増大する圧縮荷重が加え続けられるため、破砕と移動とを繰り返す複数種類の金属化合物の結晶の集まりは、最密充填の状態を容器内で維持し続ける。この後、複数種類の金属化合物の微細結晶の熱分解が同時に完了する温度に至り、微細結晶が熱分解され、合金微粒子の集まりが析出する。
つまり、同一種類の無機物が異なる金属イオンに配位結合した複数種類の無機金属化合物は、ないしは、同一種類の有機物が異なる金属イオンに共有結合した複数種類の有機金属化合物は、複数種類の金属化合物が同一の温度で熱分解し、互いに異なる複数種類の金属を同時に析出し、複数種類の金属が不純物を含まず活性状態にあるため、複数種類の金属化合物のモル比からなる組成の合金が生成される。すなわち、複数種類の金属化合物の微細結晶の熱分解は、最初に、複数種類の金属化合物の微細結晶が、同一種類の無機物の分子と、ないしは、同一種類の有機物の分子と、互いに異なる複数種類の金属の分子とに分解し、さらに昇温すると、同一種類の無機物ないしは同一種類の有機物の分子が気化熱を奪いながら気化し、同一種類の無機物ないしは同一種類の有機物の分子の気化が完了した時点で、複数種類の金属化合物の微細結晶の熱分解が同時に完了し、互いに異なる複数種類の金属分子が集まって、15-25nmの大きさからなり、複数種類の金属化合物のモル比からなる組成の合金微粒子を形成し、合金微粒子の集まりが析出する。複数種類の金属化合物の熱分解の途上においても、増大する圧縮荷重が加え続けられているため、析出した合金微粒子同士が互いに接触し、析出した合金が不純物を一切持たない活性状態にあるため、合金微粒子同士は、接触する部位で金属結合する。この結果、合金微粒子同士が金属結合した該合金微粒子の集まりが、積層した合金微粒子の集まりからなる合金シートが、容器の底面に、該底面の形状として形成される。なお、板材に加える圧縮応力は、複数種類の金属化合物の熱分解が同時に完了する際に最大になり、最大の圧縮応力は、形成される合金シートの面積に応じて、圧縮荷重に換算して10-100kg重を加える。
この後、板材を容器から取り出し、さらに、容器に衝撃加速度を繰り返し加え、容器から合金シートを引き剥がし、合金シートを取り出す。容器に加える衝撃加速度は、合金シートの面積に応じて、0.2-0.6Gである。
ここで、本発明の製造方法で製造した合金シートの作用効果を説明する。
第一に、合金シートの厚みは、容器に投入した複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりの量と、容器の底面の面積の大きさで決まる。このため、15-25nmの大きさからなる合金微粒子の4層が積層して合金シートを形成する場合は、合金シートの厚みは、僅かに80nm前後の厚みになる。従って、貴金属ないしは白金族を合金の組成とする触媒作用を持つ合金シートの製造に当たっては、シートの表面が触媒作用を持つため、貴金属ないしは白金族からなる高価な金属化合物の使用量が少なく、安価な費用で触媒作用を持つ厚みが薄い合金シートが製造できる。なお、金属シートの厚みに制約はない。
第二に、同一種類の無機物が異なる金属イオンに配位結合した複数種類の無機金属化合物は、様々な金属イオンに配位結合した金属化合物が存在する。また、同一種類の有機物が異なる金属イオンに共有結合した複数種類の有機金属化合物は、様々な金属イオンに共有結合した金属化合物が存在する。さらに、複数種類の金属化合物におけるモル比の制約はない。従って、合金シートを構成する合金の種類と合金の組成に係る制約が少ない。
さらに、合金シートは、10段落に記載した金属シートの第四から第七の作用効果を発揮する。
【0016】
9段落に記載した金属シートを製造する方法は、9段落に記載した金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンが配位子となって金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩で構成された無機金属化合物であり、該無機金属化合物を9段落に記載した金属化合物として用い、9段落に記載した金属シートを製造する方法に従って金属シートを製造する、9段落に記載した金属シートを製造する方法であり、
14段落に記載した合金シートを製造する方法は、14段落に記載した複数種類の金属化合物が、同一の無機物の分子ないしは同一の無機物のイオンが配位子となって互いに異なる金属イオンに配位結合した複数種類の金属錯イオンを有する同一の無機塩で構成された複数種類の無機金属化合物であり、該複数種類の無機金属化合物を14段落に記載した複数種類の金属化合物として用い、14段落に記載した合金シートを製造する方法に従って合金シートを製造する、14段落に記載した合金シートを製造する方法である。
【0017】
つまり、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を、還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了して金属が析出する。また、同一の無機物からなる分子ないしは同一の無機物からなるイオンが配位子となって、互いに異なる金属イオンに配位結合した複数種類の金属錯イオンを有する同一の無機塩からなる複数種類の無機金属化合物を、還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、同一の無機物と互いに異なる金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し、互いに異なる複数種類の金属が不純物を含まず活性状態にあるため、複数種類の金属化合物のモル比からなる組成の合金が析出する。
つまり、無機金属化合物を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きく、金属イオンと配位子との距離が最も長い。この無機金属化合物を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了すると金属が析出し、熱分解を終える。金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属が析出する温度の中で最も低い。従って、多くの合成樹脂が、還元雰囲気の無機金属化合物の熱分解温度では熱分解が開始しないため、合成樹脂からなる容器を用いて金属シート及び合金シートが製造できる。また、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、メタノールに10重量%近く分散し、メタノールに溶解しない。このため、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、9段落に記載した金属化合物として、用いることができる。また、同一の無機物からなる分子ないしは同一の無機物からなるイオンが配位子となって、互いに異なる金属イオンに配位結合した複数種類の金属錯イオンを有する同一の無機塩からなる複数種類の無機金属化合物は、14段落に記載した複数種類の金属化合物として、用いることができる。
すなわち、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNHが配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水HOが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OHが配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンClが、ないしは塩素イオンClとアンモニアNHとが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンなどがある。さらに、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる無機金属化合物は、合成が容易で、無機塩の分子量が小さいため、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。こうした無機金属化合物は、汎用的な工業用の薬品である。
【0018】
9段落に記載した金属シートを製造する方法は、9段落に記載した金属化合物が、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物であり、該カルボン酸金属化合物を9段落に記載した金属化合物として用い、9段落に記載した金属シートを製造する方法に従って金属シートを製造する、9段落に記載した金属シートを製造する方法であり、
14段落に記載した合金シートを製造する方法は、14段落に記載した複数種類の金属化合物が、同一の飽和脂肪酸が互いに異なる金属イオンに共有結合した複数種類のカルボン酸金属化合物であり、該複数種類のカルボン酸金属化合物を14段落に記載した複数種類の金属化合物として用い、14段落に記載した合金シートを製造する方法に従って合金シートを製造する、14段落に記載した合金シートを製造する方法である。
【0019】
つまり、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物は、金属イオンが最も大きいイオンであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物を、大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超える温度になると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、カルボン酸と金属とに分離する。カルボン酸が飽和脂肪酸から構成される場合は、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、カルボン酸の分子量と数とに応じて、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。また、カルボン酸金属化合物は、メタノールに10重量%近く分散し、メタノールに溶解しない。このため、2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物は、9段落に記載した金属化合物として用いることができる。
また、同一の飽和脂肪酸が互いに異なる複数種類の金属イオンに共有結合した複数種類のカルボン酸金属化合物を、大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超える温度になると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、カルボン酸と互い異なる複数種類の金属とに分離する。カルボン酸の分子量と数とに応じて、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると、複数種類の金属が不純物を含まず活性状態にあるため、複数種類のカルボン酸金属化合物のモル比からなる組成の合金が析出する。このため、同一の飽和カルボン酸が互いに異なる複数種類の金属イオンに共有結合した複数種類のカルボン酸金属化合物は、14段落に記載した複数種類の金属化合物として用いることができる。
こうしたカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。なお、オクチル酸の沸点は228℃で、ラウリン酸の沸点は296℃で、ステアリン酸の沸点は361℃である。従って、これらのカルボン酸金属化合物は、290-430℃の大気雰囲気で熱分解が完了する。
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べて、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物、例えば、オレイン酸銅の場合は、酸化第一銅CuOと酸化第二銅CuOとが同時に析出し、酸化第一銅CuOと酸化第二銅CuOとを銅に還元する処理を要する。特に、酸化第一銅CuOは、大気雰囲気より酸素がリッチな雰囲気で一度酸化第二銅CuOに酸化させ、さらに、還元雰囲気で銅に還元させるため、処理費用がかさむ。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるカルボン酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、17段落で説明した無機金属化合物より熱処理温度が高いが、無機金属化合物より安価な有機金属化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】銀の微粒子が金属結合した該銀微粒子の集まりから銀シートの側面の一部を、拡大して模式的に図示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態1
本実施形態は、17段落に記載した無機金属化合物に関わる。9段落に記載した金属化合物は、メタノールに分散し、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質を兼備する。ここでは金属を銀とし、銀化合物を例にして説明する。
最初に、メタノールに分散する銀化合物を説明する。硝酸銀はメタノールに溶解し、銀イオンが溶出し、多くの銀イオンが銀微粒子の析出に参加できない。従って、銀化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銀、塩化金、硫酸銀、水酸化銀、炭酸銀などの無機銀化合物はメタノールに分散しない。このため、このような無機金化合物は、銀化合物として適切でない。
いっぽう、銀化合物は銀を析出する性質を持つ。銀化合物から銀が生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。さらに、銀化合物の熱分解温度が低ければ、銀シートが安価に製造できる。従って、熱分解温度が低い銀化合物は、銀微粒子の原料になる。このような銀化合物に、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって銀イオンに配位結合する銀錯イオンを有する無機塩からなる無機銀化合物がある。つまり、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機銀化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解する温度は低い。さらに、こうした無機銀化合物は分子量が小さいため、他の銀錯イオンからなる銀化合物より合成が容易で安価である。
無機銀化合物を構成する分子の中で、銀イオンが最も大きい。ちなみに、銀原子の単結合の共有結合半径は128pmで、窒素原子の単結合の共有結合半径の71pmで、酸素原子の単結合の共有結合半径は63pmである。このため、配位子が銀イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理では、最初に配位結合部が分断され、銀と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に銀が析出する。
このような無機銀化合物からなる銀錯塩として、アンモニアNHが配位子となって銀イオンに配位結合するジアンミン銀イオン[Ag(NHを有する銀錯塩と、シアン化物イオンCNが配位子となって銀イオンに配位結合するジシアノ銀イオン[Ag(CN)を有する銀錯塩は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他の銀錯イオンを有する銀錯塩に比べて、合成が容易であり安価に製造できる。こうした銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で無機物の気化が完了して銀が析出する。また、メタノールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銀錯塩として、塩化ジアンミン銀[Ag(NH]Cl、硫酸ジアンミン銀[Ag(NHSO、硝酸ジアンミン銀[Ag(NH]NOなどがある。
また、熱分解で銅を析出する無機銅化合物からなる銅錯塩に、アンモニアNHが配位子となって銅イオンに配位結合するテトラアンミン銅イオン[Cu(NH2+やヘキサアンミン銅イオン[Cu(NH2+を有する銅錯塩や、塩素イオンClが配位子になって銅イオンに配位結合するテトラクロロ銅イオン[CuCl2―を有する銅錯塩は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他の銅錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうした銅錯イオンを有する無機銅化合物からなる銅錯塩は、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の比較的低い温度で熱分解が完了する。さらに、メタノールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銅錯塩に、テトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH](NOや、ヘキサアンミン銅硫酸塩[Cu(NH]SOがある。
さらに、熱分解でニッケルを析出する無機ニッケル化合物からなるニッケル錯塩に、アンモニアNHが配位子となって、ニッケルイオンに配位結合するヘキサアンミンニッケルイオン[Ni(NH2+からなるニッケル錯塩は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他のニッケル錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうしたニッケル錯イオンを有する無機ニッケル化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で熱分解が完了する。また、メタノールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このようなニッケル錯錯体に、例えば、ヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH]Clがある。
また、熱分解でパラジウムを析出する無機パラジウム化合物からなるパラジウム錯塩として、アンミン錯体であるジクロロジアンミンパラジウム[Pd(NH]Cl、ジブロモジアンミンパラジウム[Pd(NH]Br、テトラアンミンパラジウム塩化物[Pd(NH]Cl、テトラアンミンパラジウム臭化物[Pd(NH]Br、テトラアンミンパラジウム硝酸塩[Pd(NH](NO、テトラアンミンパラジウム硫酸塩[Pd(NH](SO、テトラアンミンパラジウム酢酸塩[Pd(NH](CHCOO)がある。また、クロロ錯体であるテトラクロロパラジウム酸ジアンモニウム(NH[PdCl]、ヘキサクロロパラジウムアンモニウム(NH[PdCl]や、ブロム錯体であるテトラブロモパラジウム酸アンモニウム(NH[PdBr]などがある。これらパラジウム錯塩は、アンモニアガスや水素ガスなどの還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部が最初に分断され、200℃前後の比較的低い温度でパラジウムが析出する。さらに、メタノールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。
さらに、熱分解で白金を析出する白金錯イオンを有する無機白金化合物として、アンミン錯体であるジアンミン白金塩化物[Pt(NH]Cl、テトラアンミン白金塩化物[Pt(NH]Cl、テトラアンミン白金酢酸塩[Pt(NH](CHCOO)、テトラアンミン白金硫酸塩[Pt(NH](SO、ペンタアンミンクロロ白金塩化物[PtCl(NH]Clや、クロロ錯体であるテトラクロロ白金酸アンモニウム(NH[PtCl]、ジクロロジアンミン白金[PtCl(NH]や、ブロモ錯体であるヘキサブロモ白金酸アンモニウム(NH[PdBr]などがある。これらの白金錯塩は、配位子と無機物が低分子量の物質であるため、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で白金を析出する。
また、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で、ロジウムを析出するロジウム錯イオンを有する無機ロジウム化合物として、アンミン錯体であるペンタアンミンクロロロジウム塩化物[RhCl(NH]Cl、ヘキサアンミンロジウム塩化物[Rh(NH]Cl、ヘキサアンミンロジウム硝酸塩[Rh(NH](NOや、クロロ錯体であるヘキサクロロロジウム酸アンモニウム(NH[RhCl]などがある。
さらに、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で、ルテニウムを析出するルテニウム錯イオンを有する無機ルテニウム化合物として、アンミン錯体であるヘキサアンミンルテニウム塩化物[Ru(NH]Cl、ヘキサアンミンルテニウム硫酸塩[Ru(NH](SO、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩[Ru(NH](NO、クロロペンタアンミンルテニウム塩化物[Ru(NHCl]Clなどがある。
このように、無機金属化合物からなる錯体は、様々な金属錯イオンで構成され、また、金属錯塩の合成が容易である。
以上に説明したように、無機金属化合物からなる錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解温度が最も低く、合成が容易で最も安価な金属錯塩である。このため、無機金属化合物からなる錯体を用いて、安価な金属シートが製造できる。
【0022】
実施形態2
本実施形態は、19段落に記載したカルボン酸金属化合物に関わる。9段落に記載した金属化合物は、メタノールに分散し、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質を兼備する。ここでは金属をアルミニウムとし、アルミニウム化合物を説明する。
最初に、メタノールに分散する性質を持つアルミニウム化合物を説明する。塩化アルミニウムは水に溶け、水酸化アルミニウムと塩酸に加水分解する。また、水酸化アルミニウムはメタノールに分散しない。さらに、硫酸アルミニウムはメタノールに溶解し、アルミニウムイオンが溶出してしまい、多くのアルミニウムイオンがアルミニウムの析出に参加できなくなる。また、酸化アルミニウムは、メタノールに分散しない。このため、これらの無機アルミニウム化合物は、アルミニウム化合物として適切でない。
アルミニウム化合物はアルミニウムを析出する。アルミニウム化合物からアルミニウムを析出する最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。つまり、アルミニウム化合物を大気雰囲気で昇温するだけでアルミニウムが析出する。さらに、アルミニウム化合物の合成が容易でれば、アルミニウム化合物が安価に製造できる。こうした性質を兼備するアルミニウム化合物にカルボン酸アルミニウム化合物がある。
つまり、カルボン酸アルミニウム化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンはアルミニウムイオンである。従って、カルボン酸アルミニウム化合物におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、アルミニウムイオンと共有結合すれば、アルミニウムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、イオン同士の距離の中で最も長い。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸アルミニウム化合物を大気雰囲気で昇温させると、カルボン酸の沸点において、カルボン酸とアルミニウムとに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にアルミニウムが析出する。従って、飽和脂肪酸の沸点が低いほど、カルボン酸アルミニウム化合物の熱分解が始まる温度は低く、飽和脂肪酸の分子量が小さいほど飽和脂肪酸の気化が進み、アルミニウムが析出する温度は低い。つまり、カルボン酸金属化合物の熱分解反応は、構成する金属の金属元素によらず、構成するカルボン酸の沸点で熱分解が始まる。このため、熱分解が完了して金属が析出する温度は、従来の金属の融点を超える温度で金属の原料を溶解して金属を精製する溶製材の製造温度に比べると著しく低くなる。
いっぽう、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウム化合物が熱分解すると、アルミニウムの酸化物が析出する。さらに、カルボン酸アルミニウム化合物の中で、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となってアルミニウムイオンに近づいて配位結合するカルボン酸アルミニウム化合物では、アルミニウムイオンと酸素イオンとの距離が短くなり、反対に、酸素イオンがアルミニウムイオンと反対側で結合するイオンとの距離が最も長くなる。このようなカルボン酸アルミニウム化合物の熱分解反応では、酸素イオンがアルミニウムイオンと反対側で結合するイオンとの結合部が最初に分断され、この結果、酸化アルミニウムが析出する。このようなカルボン酸アルミニウム化合物は、酸化アルミニウムを析出する原料になる。
さらに、カルボン酸アルミニウム化合物は合成が容易で、安価な有機アルミニウム化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸アルミニウムなどの無機アルミニウム化合物と反応させると、カルボン酸アルミニウム化合物が生成される。
飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウム化合物の組成式は、Al(RCOO)で表わせられる。Rはアルカンで、この組成式はCである(ここでmとnとは整数)。カルボン酸アルミニウム化合物を構成する物質の中で、組成式の中央に位置するアルミニウムイオンAl3+が最も大きい。従って、アルミニウムイオンAl3+とカルボキシル基を構成する酸素イオンOとが共有結合するカルボン酸アルミニウム化合物は、アルミニウムイオンAl3+と酸素イオンOとの距離が最大になる。ちなみに、アルミニウムイオン原子の共有結合半径は121±4pmであり、酸素イオン原子の共有結合半径は66±2pmであり、炭素原子の共有結合半径は73pmである。このため、カルボン酸アルミニウム化合物が昇温すると、カルボン酸の沸点を超えると、結合距離が最も長いアルミニウムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、アルミニウムとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を奪いながら気化し、カルボン酸の気化が完了した後にアルミニウムが析出する。こうしたカルボン酸アルミニウム化合物として、オクチル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウムなどがある。
さらに、飽和脂肪酸の沸点が低いほど低い温度で熱分解が始まり、飽和脂肪酸の分子量が小さいほど飽和脂肪酸の気化が進み、アルミニウムが析出する温度は低い。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点は高い。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃で、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。従って、長鎖構造の飽和脂肪酸の分子量が相対的に小さい飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウム化合物は、熱分解温度が相対的に低い。なお、ラウリン酸アルミニウムは大気雰囲気の360℃で熱分解が完了し、ステアリン酸アルミニウムは大気雰囲気の430℃で熱分解が完了する。
また、飽和脂肪酸が分岐鎖構造の飽和脂肪酸である場合は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点がさらに低くなり、アルミニウムが析出する温度も低くなる。さらに、分岐鎖構造の飽和脂肪酸は極性を持ち、分岐鎖構造の飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウム化合物も極性を持ち、相対的に高い割合で極性物質であるアルコールに分散する。こうした分岐構造の飽和脂肪酸としてオクチル酸がある。オクチル酸は示性式がCH(CHCH(C)COOHで示され、CHでCH(CHとCとのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、ラウリン酸より沸点が68℃低い。このため、オクチル酸アルミニウムはカルボン酸アルミニウム化合物の中で最も低い温度で熱分解する。ちなみに、オクチル酸アルミニウムは、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了してアルミニウムが析出し、メタノールやn-ブタノールなどに10重量%近くまで分散する。
なお、オクチル酸とカプリル酸(オクタン酸とも言う)とは、同一の分子式C16であるが、分子構造が異なる異性体である。つまり、オクチル酸は前記したように分岐構造を持つ脂肪酸である。いっぽう、カプリル酸は直鎖構造を持つ脂肪酸で、示性式はCH(CHCOOHである。従って、オクチル酸金属化合物とカプリル酸金属化合物とは、同一の分子式であるが、オクチル酸とカプリル酸とが分子構造が異なるため、オクチル酸金属化合物とカプリル酸金属化合物とは分子構造が異なる。カプリル酸金属化合物は、カプリル酸が電離して生じるアニオンであるカルボキシラートアニオンに、金属イオンが配位結合するため、カプリル酸金属化合物は、大気雰囲気での熱分解で金属酸化物を析出する。つまり、カプリル酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンにカルボキシラートイオンが近づいて配位結合するため、金属イオンと、カルボキシラートイオンを構成する酸素イオンとの距離は短くなる。これによって、酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカプリル酸金属化合物は、カプリル酸の沸点を超えると、酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカプリル酸とに分解する。さらに昇温すると、カプリル酸が気化熱を奪って気化し、カプリル酸の気化が完了した直後に、金属酸化物が析出する。
以上に説明したように、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物は金属微粒子の原料になる。また、これらのカルボン酸金属化合物は、様々な金属元素からなる金属化合物が存在し、金属微粒子を構成する金属元素は制約されない。
さらに、同一の飽和脂肪酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、互いに異なる金属イオンに共有結合する複数種類のカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、飽和脂肪酸の沸点を超えると、複数種類のカルボン酸金属化合物が同時に飽和脂肪酸と互いに異なる複数種類の金属とに分解され、さらに、飽和脂肪酸の分子量に応じて飽和脂肪酸の気化が進み、気化が完了した後に互いに異なる複数種類の金属が同時に析出する。これら複数種類の金属はいずれも不純物を持たない活性状態にあるため、カルボン酸金属化合物のモル数に応じた金属の比率からなる合金が生成される。このため、複数種類のオクチル酸金属化合物、複数種類のラウリン酸金属化合物ないしは複数種類のステアリン酸金属化合物は、合金微粒子の原料になる。
なお、オクチル酸銅Cu(C15COO)が銅を析出する原料として、オクチル酸鉄Fe(C15COO)が鉄を析出する原料として、オクチル酸ニッケルNi(C15COO)がニッケルを析出する原料として望ましい。このようにオクチル酸金属化合物は、様々な金属イオンで構成されるとともに、合成が容易なカルボン酸金属化合物でもある。
【0023】
実施例1
本実施例は、銀の微粒子同士が金属結合した銀の微粒子の集まりからなる銀のシートを製造する実施例である。銀の微粒子の原料は、最も合成が容易な銀錯イオンの一つである、2個のアンミンが銀イオンに配位結合したジアンミン銀イオン[Ag(NH+1の塩化物であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH]Cl(田中貴金属販売株式会社の試作品)を用いた。
最初に、ジアンミン銀塩化物の35.4g(0.2モルに相当する)を10重量%の割合でメタノールに分散し、メタノール分散液を作成した。このメタノール分散液からメタノールを気化し、ジアンミン銀塩化物の結晶を析出させた。次に、100cm×100cm×10cmの容器に、ジアンミン銀塩化物の結晶を充填させ、容器の側面に0.1Gからなる左右、前後方向の振動加速度を、容器の底面に0.1Gから上下方向の振動加速度を繰り返し加えた。さらに、容器に100cm×100cm×1cmの板材を載せ、1kg/分の増加率で圧縮荷重が増加するように、板材に圧縮荷重を加えるとともに、容器を水素雰囲気の熱処理装置に入れ、180℃まで昇温し、180℃に5分間放置した。この後、容器を熱処理装置から取り出し、さらに、板材を容器から取り出し、容器の側面と底面に0.3Gの衝撃加速度を加え、容器から試料を引き剥がした。試料は、容器の底面の面積を持ち、厚みが極めて薄いシートであった。
試料表面の複数個所を、表面抵抗計によって表面抵抗を測定した(例えば、シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。表面抵抗値は1×10Ω/□であったため、金属に近い表面抵抗を有した。
さらに、試料表面の複数個所の摩擦係数を測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS-Xからなる摩擦係数測定装置)を用い、静止摩擦係数と動摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.08±0.01で、動摩擦係数が0.07±0.01であった。いずれの摩擦係数も極めて小さい。
次に、試料の表面と側面とを、電子顕微鏡で観察と分析を行った。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接表面が観察できる。
最初に、表面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。10-20nmの大きさの微粒子の集まりで構成され、微粒子同士が接触部位で接合していた。また、側面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。微粒子の集まりが積層し、4層を形成して60nmに近い厚みを形成した。
次に、微粒子の集まりの反射電子線の900-1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。いずれの微粒子も濃淡が認められなかったため、単一原子から構成されていることが分かった。
さらに、微粒子の集まりの表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素の種類を分析した。微粒子の原子は銀であった。この結果から、銀の微粒子同士が接合し、銀の微粒子の集まりが、ごく厚みが薄いシートを形成した。図1に、シートの一部を拡大して模式的に図示する。1は銀の微粒子である。
銀は、金属の中で最も導電率が高く、熱伝導率も最も高い。従って、導電性と熱伝導性の高いシートとして利用できる。また、銀の表面における光の反射率は、可視光線の波長の一方の端部である380nmでは90%と高く、波長が長くなるほどさらに反射率が増大し、600nm以上の波長では、反射率が98%と高い。従って、作成した銀シートの厚みは60nm前後であるため、極めて軽量な可視光線の反射シート、つまり、装飾用のシートとして、また、近赤外線から遠赤外線に至る赤外線を反射させるため、極めて軽量な熱線の反射シートとしても利用できる。
なお、作成した試料を容器から取り出し、この後、試料表面の表面抵抗を測定し、さらに、摩擦係数を測定した後に、試料表面を電子顕微鏡で観察した。このため、試料を再三移動させることによっても、厚みが極めて薄いシートは変形しなかったため、シートは一定の機械的強度を持つ。
なお、金属からなる厚みが薄いシートを作成させる手段に、蒸着やメッキなどの手段によって、析出した粒子を積層させ、シートを形成させる手段がある。しかし、蒸着やメッキで析出する粒子の大きさは、ミクロンサイズと大きく、厚みが60nmに近い極薄いシートの作成は困難である。また、蒸着やメッキなどの手段によって析出した粒子を積層させたシートは、粒子同士が結合していないため、シートの厚みが薄くなるほど、シートの破断が起きやすい。いっぽう、金属からなる厚みが薄い物質に金属箔がある。しかし、金属粒子を、一定の面積を持つシートに圧延することは困難であり、金属箔の面積は小さい。また、銀箔は0.3μm以上の厚みを持つ。従って、本実施例における厚みが極めて薄い銀シートは、様々な用途に用いられる。
【0024】
実施例2
本実施例は、アルミニウムの微粒子同士が金属結合したアルミニウムの微粒子の集まりからなるアルミニウムのシートを製造する実施例である。アルミニウムの微粒子の原料は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物の中で、最も熱分解温度が低いオクチル酸アルミニウムAl(C15COO)(例えば、ホープ製薬株式会社の製品)を用いた。
最初に、オクチル酸アルミニウムの91g(0.2モルに相当する)を10重量%の割合でメタノールに分散し、メタノール分散液を作成した。このメタノール分散液からメタノールを気化し、オクチル酸アルミニウムの結晶を析出させた。次に、100cm×100cm×10cmの容器に、オクチル酸アルミニウムの結晶を充填させ、容器の側面に0.1Gからなる左右、前後方向の振動加速度を、容器の底面に0.1Gから上下方向の振動加速度を繰り返し加えた。さらに、容器に100cm×100cm×1cmの板材を載せ、1kg/分の増加率で圧縮荷重が増加するように、板材に圧縮荷重を加えるとともに、容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れ、290℃まで昇温し、290℃に1分間放置した。この後、容器を熱処理装置から取り出し、さらに、板材を容器から取り出し、容器の側面と底面に0.3Gの衝撃加速度を繰り返し加え、容器から試料を引き剥がした。試料は、実施例1と同様に、容器の底面の面積を持ち、厚みが極めて薄いシートであった。
次に、実施例1と同様に、試料表面の複数個所の表面抵抗を測定したが、実施例1に近い表面抵抗であった。また、試料表面の複数個所の摩擦係数も、実施例1に近い摩擦係数であった。
さらに、作成した試料の表面と側面とを、実施例1と同様に、電子顕微鏡で観察と分析を行った。アルミニウムの微粒子の集まりが積層し、4層を形成して60nmに近い厚みを形成した。
アルミニウムは、銀、銅、金に次いで導電率と熱伝導率の双方が高いため、作成した試料は、導電性で熱伝導性の厚みが極めて薄いシートになる。また、アルミニウムの表面における光の反射率は、可視光線の波長の一方の端部である380nmでは93%と高く、波長が長くなるほどさらに反射率が増大し、600nm以上の波長では、反射率が95%と高い。従って、実施例1の銀のシート同様に、極めて軽量な可視光線の反射シート、つまり、装飾用のシートとして、また、極めて軽量な熱線の反射シートとして利用できる。
作成したアルミシートの厚みは60nm前後である。これに対し、従来のアルミ箔の厚みは5μm以上である。なお、25μmより薄い従来のアルミ箔は、製造工程でピンホールができる。本実施例で作成したアルミシートは、10-20nmのアルミニウム微粒子が結合した微粒子の集まりで構成され、ピンホールなどの欠陥はない。従って、本実施例における厚みが極めて薄いアルミシートは、様々な用途に用いられる。
【0025】
実施例3
本実施例は、パラジウムとルテニウムとの合金からなる合金の微粒子同士が金属結合した合金の微粒子の集まりからなる合金のシートを製造する実施例である。パラジウムの原料として、ヘキサクロロパラジウム酸ジアンモニウム(NH[PdCl](CAS番号19168-23-1、輸入品)を用いた。また、ルテニウムの原料として、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム(NH[RuCl](例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。
最初に、ヘキサクロロパラジウム酸ジアンモニウムの53g(0.15モルに相当する)と、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの18g(0.05モルに相当する)とを、10重量%の割合でメタノールに分散し、メタノール分散液を作成した。このメタノール分散液からメタノールを気化し、ヘキサクロロパラジウム酸ジアンモニウムの結晶と、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの結晶を析出させた。次に、100cm×100cm×10cmの容器に、ヘキサクロロパラジウム酸ジアンモニウムの結晶と、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの結晶を充填させ、容器の側面に0.1Gからなる左右、前後方向の振動加速度を、容器の底面に0.1Gからなる上下方向の振動加速度を繰り返し加えた。さらに、容器に100cm×100cm×1cmの板材を載せ、1kg/分の増加率で圧縮荷重が増加するように、板材に圧縮荷重を加えるとともに、容器をアンモニア雰囲気の熱処理装置に入れ、200℃まで昇温し、200℃に5分間放置した。この後、容器を熱処理装置から取り出し、板材を容器から取り出し、容器の側面と底面に0.3Gの衝撃加速度を繰り返し加え、容器から試料を引き剥がした。試料は、実施例1と同様に、容器の底面の面積を持ち、厚みが極めて薄いシートであった。
次に、作成した試料の表面と側面とを、実施例1と同様に、電子顕微鏡で観察と分析を行った。最初に、表面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。15-25nmの大きさの微粒子の集まりで構成され、微粒子同士が接触部位で接合していた。また、側面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。微粒子の集まりが積層し、4層を形成して80nmに近い厚みを形成した。
次に、微粒子の集まりの反射電子線の900-1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。いずれの微粒子も濃淡が認められたため、複数の原子から構成されていることが分かった。
さらに、微粒子の集まりの表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素の種類を分析した。この結果、微粒子は、パラジウムの割合が3で、ルテニウムの割合が1からなる合金であった。この結果から、パラジウムとルテニウムとの合金からなる合金の微粒子同士が金属結合した合金の微粒子の集まりからなる合金のシートを形成した。このパラジウムとルテニウムとの合金からなる合金のシートは、触媒作用を持つ
【0026】
実施例4
本実施例は、白金とルテニウムとの合金からなる合金の微粒子同士が金属結合した合金の微粒子の集まりからなる合金のシートを製造する実施例である。白金の原料として、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム[NH[PtCl](例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用い、ルテニウムの原料として、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム[NH[RuCl](三津和薬品工業株式会社の製品)を用いた。
最初に、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムの67g(0.15モルに相当する)と、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの18g(0.05モルに相当する)とを、10重量%の割合でメタノールに分散し、メタノール分散液を作成した。このメタノール分散液からメタノールを気化し、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムの結晶と、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの結晶を析出させた。次に、100cm×100cm×10cmの容器に、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムの結晶と、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの結晶を充填させ、容器の側面に0.1Gからなる左右、前後方向の振動加速度を、容器の底面に0.1Gから上下方向の振動加速度を繰り返し加えた。さらに、容器に100cm×100cm×1cmの板材を載せ、1kg/分の増加率で圧縮荷重が増加するように、板材に圧縮荷重を加えるとともに、容器を水素雰囲気の熱処理装置に入れ、200℃まで昇温し、200℃に5分間放置した。この後、容器を熱処理装置から取り出し、板材を容器から取り出し、容器の側面と底面とに0.3Gの衝撃加速度を繰り返し加え、容器から試料を引き剥がした。試料は、実施例1と同様に、容器の底面の面積を持ち、厚みが極めて薄いシートであった。
次に、作成した試料の表面と側面とを、実施例1と同様に、電子顕微鏡で観察と分析を行った。最初に、表面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。15-25nmの大きさの微粒子の集まりで構成され、微粒子同士が接触部位で接合していた。また、側面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。微粒子の集まりが積層し、4層を形成して80nmに近い厚みを形成した。
次に、微粒子の集まりの反射電子線の900-1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。いずれの微粒子も濃淡が認められたため、複数の原子から構成されていることが分かった。
さらに、微粒子の集まりの表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素の種類を分析した。この結果、微粒子は、白金の割合が3で、ルテニウムの割合が1からなる合金であった。この結果から、白金とルテニウムとの合金からなる合金の微粒子同士が金属結合した合金の微粒子の集まりからなる合金のシートを形成した。この白金とルテニウムとの合金からなる合金のシートは、触媒作用を持つ。
【0027】
実施例5
本実施例は、パーマロイと呼ばれるニッケルと鉄とからなる合金の微粒子でシートを製造する実施例である。本実施例におけるパーマロイは、モル比がニッケル47、鉄53の割合からなるPBパーマロイである。このPBパーマロイの直流磁気特性は、初透磁率が4,500、最大透磁率が45,000、飽和磁束密度が1.5テスラ、保持力が12A/m、固有抵抗が0.45μΩmの特性を持つ。なお、透磁率が大きいほど、また、磁気抵抗が小さいほど、大きな磁気シールド効果が得られる。磁気抵抗は透磁率に反比例するため、透磁率が大きいパーマロイからなるシートは、磁気シールド効果が高い。このため、電気機器からの漏洩磁界、電流送配電線からの交流磁界、都市磁気雑音、環境磁界など、外部磁界が比較的小さな領域で、パーマロイからなるシートは、磁気をシールドするシートとして有効である。なお、パーマロイは延性があるため、圧延することはできるが、圧延時の歪を除去するために磁気焼鈍が必要になる。しかし、箔のような薄い材料を磁気焼鈍することが技術的に難しい。このため、パーマロイからなるシートの厚みは、30μm以上である。さらに、1000℃に近い水素雰囲気で磁気焼鈍を行うため、磁気焼鈍できるシートの面積に制約がある。これに対し、本発明では、パーマロイのシートを製造する際に、パーマロイの微粒子に歪が発生しないため、磁気焼鈍は不要になる。また、製造するパーマロイのシートの面積に係る制約はない。
ニッケルの原料としてステアリン酸ニッケルNi(C1735COO)を、鉄の原料としてステアリン酸鉄Fe(C1735COO)(いずれも、三津和薬品工業株式会社の製品)を用いた。
最初に、ステアリン酸ニッケルの59g(0.094モルに相当する)と、ステアリン酸鉄の96g(0.0106モルに相当する)とを、10重量%の割合でメタノールに分散し、メタノール分散液を作成した。このメタノール分散液からメタノールを気化し、ステアリン酸ニッケルの結晶と、ステアリン酸鉄の結晶を析出させた。次に、100cm×100cm×10cmの容器に、ステアリン酸ニッケルの結晶と、ステアリン酸鉄の結晶を充填させ、容器の側面に0.1Gからなる左右、前後方向の振動加速度を、容器の底面に0.1Gから上下方向の振動加速度を繰り返し加えた。さらに、容器に100cm×100cm×1cmの板材を載せ、1kg/分の増加率で圧縮荷重が増加するように、板材に圧縮荷重を加えるとともに、容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れ、430℃まで昇温し、430℃に1分間放置した。この後、容器を熱処理装置から取り出し、板材を容器から取り出し、容器の側面と底面とに0.3Gの衝撃加速度を繰り返し加え、容器から試料を引き剥がした。試料は、容器の底面の面積を持ち、厚みが極めて薄いシートであった。
次に作成した試料の表面と側面とを、実施例1と同様に、電子顕微鏡で観察と分析を行った。最初に、表面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。15-25nmの大きさの微粒子の集まりで構成され、微粒子同士が接触部位で接合していた。また、側面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。微粒子の集まりが積層し、4層を形成して80nmに近い厚みを形成した。
次に、微粒子の集まりの反射電子線の900-1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。いずれの微粒子も濃淡が認められたため、複数の原子から構成されていることが分かった。
さらに、微粒子の集まりの表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素の種類を分析した。この結果、微粒子は、ニッケルの割合が50より少なく、鉄の割合が50より多い割合からなる合金であった。この結果から、ニッケルと鉄との合金からなるパーマロイの微粒子同士が金属結合したパーマロイの微粒子の集まりからなる合金シートが形成された。このニッケルと鉄との合金からなる軽量な合金シートは、磁気シールドのシートになる。
【0028】
以上に本発明に関わる金属ないしは合金からなるシートを製造する5つの実施例を説明したが、実施例はこれらに限定されない。
なぜなら、金属シートの製造方法は、次の4つの極めて簡単な処理からなり、熱分解で金属を析出する金属化合物は、実施例1で用いた銀を析出する金属化合物と、実施例2で用いたアルミニウムを析出する金属化合物に限定されない。すなわち、第一に、金属化合物をメタノールに分散する。第二に、メタノール分散液からメタノールを気化する。第三に、金属化合物の微細結晶の集まりが充填された容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加える。第四に、容器に最密充填された金属化合物の微細結晶の集まりに板材を被せ、この後、該板材の表面全体に加える圧縮荷重を増やしながら、容器を前記金属化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、金属化合物の微細結晶を熱分解させる。従って、熱分解で銀とアルミニウムとを除く金属を析出する金属化合物を用いれば、実施例1及び実施例2以外の金属シートが製造される。
合金シートの製造方法は、前記した4つの極めて簡単な処理において、熱分解で互いに異なる金属が同時に析出する複数種類の金属化合物を用いる。いっぽう、合金は、実施例3におけるパラジウムとルテニウムとの合金、実施例4における白金とルテニウムとの合金、実施例5におけるニッケルと鉄との合金に限定されない。従って、熱分解でパラジウムとルテニウムとが同時に析出する2種類の金属化合物と、熱分解で白金とルテニウムとが同時に析出する2種類の金属化合物と、熱分解でニッケルと鉄とが同時に析出する2種類の金属化合物とを除く、熱分解で互いに異なる金属が同時に析出する複数種類の金属化合物を用いれば、実施例3-5以外の合金からなるシートが製造できる。
また、5つの実施例のいずれもが、微粒子の集まりが4層を形成して積層し、60nm前後の厚みからなる金属シートを形成する、ないしは、80nm前後の厚みからなる合金シートを形成する実施例である。金属シートの厚みは、容器に投入した金属化合物の微細結晶の集まりの量と、容器の底面の面積の大きさで決まるため、金属シートの厚みは、自在に設定できる。また、合金シートの厚みは、複数種類の金属化合物の微細結晶の集まりの量と、容器の底面の面積の大きさで決まるため、合金シートの厚みについても、自在に設定できる。
【符号の説明】
【0029】
1 銀微粒子
図1