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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040440
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】搬送波再生回路
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/38 20060101AFI20220304BHJP
   H04L 27/00 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
H04L27/38 100
H04L27/00 J
H04L27/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145166
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢晃
(57)【要約】
【課題】シングルキャリア高多値QAM無線システムにおいて、性能の劣化の原因となる搬送波の位相ノイズが付加された条件下でも高い復調性能を実現する。
【解決手段】処理対象信号に相互に異なる位相オフセットを付与して位相オフセット付与後の処理対象信号を複数生成する位相オフセット付与部4と、位相オフセット付与後の処理対象信号それぞれの位相誤差を検出する位相誤差測定部5と、位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する判定部63と、選択された位相オフセット付与後の処理対象信号の位相誤差から位相オフセットを減算した値を用いて処理対象信号の位相を回転する第5の位相回転器8と、を有し、判定部63が、連続するシンボル間における位相誤差の変動量の絶対値を積算した位相誤差の変動量積算値に基づいて位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象信号に相互に異なる位相オフセットを付与して前記位相オフセット付与後の処理対象信号を複数生成する位相オフセット付与部と、
前記位相オフセット付与後の処理対象信号それぞれの位相誤差を検出する位相誤差測定部と、
前記位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する判定部と、
選択された前記位相オフセット付与後の処理対象信号の前記位相誤差から前記位相オフセットを減算した値を用いて前記処理対象信号の位相を回転する位相回転器と、を有する、
ことを特徴とする搬送波再生回路。
【請求項2】
前記判定部が、連続するシンボル間における前記位相誤差の変動量の絶対値を積算した位相誤差の変動量積算値に基づいて前記位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送波再生回路。
【請求項3】
前記判定部が、既知信号に関する位相差に基づいて前記位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送波再生回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、搬送波再生回路に関し、特に、デジタル無線伝送において搬送波・受信波を再生する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線トラフィックの増大に伴う周波数利用の高効率化の要求からデジタル無線伝送においては高多値QAM(QAM:Quadrature Amplitude Modulation の略;直角位相振幅変調)方式による高速伝送の要求が高まっている。
【0003】
高多値QAM方式では、送信装置や受信装置において生じる搬送波の位相ノイズ(位相誤差)などによって、復調性能が劣化する場合がある。このため、位相ノイズと熱雑音の影響度に基づいて復調性能(具体的には、符号誤り率)を向上させる、という搬送波再生回路が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-101177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高多値化変調においては搬送波再生の位相誤差検出範囲が著しく狭くなり、位相ノイズ環境下で位相ジッタが増加する状況になると搬送波再生の補正精度が大幅に劣化する、という問題がある。
【0006】
そこでこの発明は、シングルキャリア高多値QAM無線システムにおいて、性能の劣化の原因となる搬送波の位相ノイズが付加された条件下でも高い復調性能を実現することが可能な、搬送波再生回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、処理対象信号に相互に異なる位相オフセットを付与して前記位相オフセット付与後の処理対象信号を複数生成する位相オフセット付与部と、前記位相オフセット付与後の処理対象信号それぞれの位相誤差を検出する位相誤差測定部と、前記位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する判定部と、選択された前記位相オフセット付与後の処理対象信号の前記位相誤差から前記位相オフセットを減算した値を用いて前記処理対象信号の位相を回転する位相回転器と、を有する、ことを特徴とする搬送波再生回路である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の搬送波再生回路において、前記判定部が、連続するシンボル間における前記位相誤差の変動量の絶対値を積算した位相誤差の変動量積算値に基づいて前記位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の搬送波再生回路において、前記判定部が、既知信号に関する位相差に基づいて前記位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、予め位相オフセットを加えた処理対象信号を複数生成してそれらを切り替えながら位相誤差を検出して位相回転を行うようにしているので、処理対象信号のコンスタレーションが大きく回転し処理対象信号の多くが位相誤差検出範囲から外れて位相誤差の測定を適切に行うことができないために搬送波再生の補正精度が劣化してしまうことを防ぐことができ、コンスタレーションの回転に適合的/適応的に対処して位相誤差への追従性能を向上させ、延いては高い復調性能を実現することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、位相誤差の変動量積算値に基づいて位相オフセット付与後の処理対象信号を選択するようにしているので、位相オフセットを加えた処理対象信号の切り替えを適切に行うことができ、コンスタレーションの回転に一層確実に対処して位相誤差への追従性能を向上させ、延いては高い復調性能を一層確実に実現することが可能となる。特に、バーストエラーが発生する区間では位相誤差が大きく揺らいで位相誤差の変動量が増加するので、位相誤差の変動量積算値を用いることにより、バーストエラーが発生する区間(言い換えると、バーストエラーが起こりうる残留位相誤差がある区間)を正確に検出することができ、搬送波の再生を適切に行うことが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、既知信号に関する位相差に基づいて位相オフセット付与後の処理対象信号を選択するようにしているので、位相オフセットを加えた処理対象信号の切り替えを適切に行うことができ、コンスタレーションの回転に一層確実に対処して位相誤差への追従性能を向上させ、延いては高い復調性能を一層確実に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施の形態1に係る搬送波再生回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】位相変動の補償前後の位相誤差を示す図である。(A)は補償前の位相誤差を示す図である。(B)はこの発明に係る搬送波再生回路による補償後の位相誤差を示す図である。
図3】位相変動の補償手法の違いによる符号誤り率の違いを示す図である。
図4】この発明の実施の形態2に係る搬送波再生回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
図5】実施の形態2に係る搬送波再生回路において利用される既知信号を含む送信信号のイメージを示す図である。
図6】実施の形態2に係る搬送波再生回路のタイミング検出部における相互相関値を算出する区間の考え方を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に係る搬送波再生回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0016】
この搬送波再生回路は、デジタル無線伝送において搬送波・受信波を再生する機序であり、主として、第1の搬送波再生ループ1と、第2の等化器2と、第2の搬送波再生ループ3と、位相オフセット付与部4と、位相誤差測定部5と、切替制御部6と、第3のNCO7と、第5の位相回転器8と、第3の遅延回路9と、を有する。搬送波再生回路に関係する信号の変調方式として、QAM(Quadrature Amplitude Modulation の略;直角位相振幅変調)方式を仮定する。
【0017】
第1の搬送波再生ループ1は、第1の位相回転器11、第1の等化器12、第1の検出器13、第1のLPF14、第1のNCO15、第2の位相回転器16、および第1の遅延回路17を含む。
【0018】
第1の位相回転器11は、入力される信号の位相を回転する回転器・乗算器であり、第1のNCO15から出力される位相回転制御信号に基づいて、入力される信号の位相を回転する。
【0019】
第1の位相回転器11は、具体的には、送信側において直交変調されたIF信号が入力される直交復調器(図示していない)によって直交復調されたうえでA/D変換器(図示していない)によってデジタル信号に変換された同相成分Ichのベースバンド信号および直交成分Qchのベースバンド信号の入力を受け、前記同相成分Ichおよび直交成分Qchのベースバンド信号のそれぞれに対して、第1のNCO15から出力される位相回転制御信号としての正弦波および余弦波に基づいて位相回転を行う。なお、図においては、同相成分Ichと直交成分Qchとを1本の信号線によって示している。
【0020】
第1の等化器12は、第1の位相回転器11から出力される信号(「位相回転信号」と呼ぶ)の周波数特性の劣化(伝搬路および無線装置内の回路で変動した周波数特性)を補償する適応等化器であり、つまり位相回転信号の線形歪やデータ誤りを解消する等化器である。第1の等化器12は、具体的には例えば判定帰還型等化器や線形等化器によって構成され、判定指向アルゴリズムやCMAアルゴリズムに基づいてタップ係数を更新する機能を備える。
【0021】
第1の検出器13は、第1の等化器12による補償後の位相回転信号に含まれる位相誤差を検出して出力する位相誤差検出器である。位相誤差には、位相の回転方向(即ち、進み方向か遅れ方向か)と位相誤差量(即ち、回転量)とが含まれる。
【0022】
第1の検出器13による位相誤差の検出の仕法は、特定の手法には限定されないものの、例えば特開2008-244918号公報に記載の手法や特開2019-220942号公報に記載の手法などが用いられ得る。
【0023】
第1のLPF14は、第1の検出器13によって検出された位相誤差の高周波成分を、所定の帯域幅(言い換えると、カットオフ周波数)に応じて除去するフィルタであり、具体的にはローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter の略)によって構成される。
【0024】
第1のNCO15は、第1のLPF14によって高周波成分が除去された位相誤差に基づいて位相回転制御信号を生成する機器であり、数値制御発振器(NCO:Numerically Controlled Oscillator の略)によって構成される。
【0025】
第1のNCO15は、具体的には、第1のLPF14から出力される位相誤差に基づいて逆位相の正弦波および余弦波を生成して、生成した前記逆位相の正弦波および余弦波を位相回転制御信号として第1の位相回転器11へと出力して該第1の位相回転器11による位相回転を制御するとともに、前記逆位相の正弦波および余弦波を位相回転制御信号として第2の位相回転器16へも出力する。
【0026】
上記により、第1の位相回転器11において、IF信号の搬送波周波数と直交復調に用いられるローカル周波数との差分の周波数成分が取り除かれて搬送波周波数同期がとられる。
【0027】
第2の位相回転器16は、入力される信号の位相を回転する回転器・乗算器であり、第1のNCO15から出力される位相回転制御信号に基づいて、入力される信号の位相を回転する。
【0028】
第2の位相回転器16は、具体的には、第1の等化器12によって周波数特性の劣化が補償されたうえで(即ち、線形歪などが解消されたうえで)第1の検出器13によって検出された位相誤差に基づいて第1のNCO15から出力される位相回転制御信号としての正弦波および余弦波に基づいて、第1の遅延回路17から出力される信号の位相回転を行う。
【0029】
第1の遅延回路17は、第1の位相回転器11へと入力される信号(具体的には、同相成分Ichのベースバンド信号および直交成分Qchのベースバンド信号)を主に第1の位相回転器11から第1のNCO15までの処理時間の合計に相当する時間だけ遅延させた信号を生成して第2の位相回転器16に対して出力する。
【0030】
上記のように、第1の搬送波再生ループ1は、信号処理ループのなかに第1の等化器12が組み込まれることにより、周波数特性の劣化を補償した後(即ち、線形歪などが解消された後)に推定した位相誤差に基づいて入力信号の位相ノイズのキャンセル処理が施される。これにより、マイクロ波無線システムはマルチパスフェージング環境下での無線伝送が前提となるため、フェージングによる受信信号の位相回転やレベル変動によって搬送波の位相ノイズの推定精度が著しく低下する場合があるのに対し、信号処理ループのなかに等化器が組み込まれることで、フェージング環境下における搬送波の位相ノイズの推定精度が向上し、延いては高い搬送波再生性能/復調性能が実現される。
【0031】
第2の等化器2は、第2の位相回転器16から出力される信号の周波数特性の劣化を補償する等化器である。第2の等化器2は、具体的には例えば判定帰還型等化器や線形等化器によって構成され、判定指向アルゴリズムやCMAアルゴリズムに基づいてタップ係数を更新する機能を備える。
【0032】
第2の搬送波再生ループ3は、第3の位相回転器31、第2の検出器32、第2のLPF33、第2のNCO34、第4の位相回転器35、および第2の遅延回路36を含む。
【0033】
第3の位相回転器31は、入力される信号の位相を回転する回転器・乗算器であり、第2のNCO34から出力される位相回転制御信号に基づいて、入力される信号の位相を回転する。
【0034】
第3の位相回転器31は、具体的には、第2の等化器2から出力される同相成分Ichの信号および直交成分Qchの信号の入力を受け、前記同相成分Ichおよび直交成分Qchの信号のそれぞれに対して、第2のNCO34から出力される位相回転制御信号としての正弦波および余弦波に基づいて位相回転を行う。
【0035】
第2の検出器32は、第3の位相回転器31から出力される信号に含まれる位相誤差を検出して出力する位相誤差検出器である。位相誤差には、位相の回転方向(即ち、進み方向か遅れ方向か)と位相誤差量(即ち、回転量)とが含まれる。
【0036】
第2のLPF33は、第2の検出器32によって検出された位相誤差の高周波成分を、所定の帯域幅(言い換えると、カットオフ周波数)に応じて除去するフィルタであり、具体的にはローパスフィルタ(LPF)によって構成される。
【0037】
第2のLPF33の帯域幅は、第1のLPF14の帯域幅よりも広く設定されることが好ましい。第2のLPF33の帯域幅と第1のLPF14の帯域幅との間の関係は、第2のLPF33の帯域幅の方が第1のLPF14の帯域幅よりも広い方が好ましいものの、特定の関係に限定されるものではなく、搬送波再生ループの処理が発散しないことが考慮されるなどしたうえで、適当な関係に適宜設定される。第2のLPF33の帯域幅は、例えば、熱雑音が小さく発散し難いと考えられる場合には第1のLPF14の帯域幅の1.5~2.0倍程度に設定されることが考えられ、熱雑音が大きく発散し易いと考えられる場合には第1のLPF14の帯域幅の1.0~1.5倍程度に設定されることが考えられる。
【0038】
第2のNCO34は、第2のLPF33によって高周波成分が除去された位相誤差に基づいて位相回転制御信号を生成する機器であり、数値制御発振器(NCO)によって構成される。
【0039】
第2のNCO34は、具体的には、第2のLPF33から出力される位相誤差に基づいて逆位相の正弦波および余弦波を生成して、生成した前記逆位相の正弦波および余弦波を位相回転制御信号として第3の位相回転器31へと出力して該第3の位相回転器31による位相回転を制御するとともに、前記逆位相の正弦波および余弦波を位相回転制御信号として第4の位相回転器35へも出力する。
【0040】
第4の位相回転器35は、入力される信号の位相を回転する回転器・乗算器であり、第2のNCO34から出力される位相回転制御信号に基づいて、入力される信号の位相を回転する。
【0041】
第4の位相回転器35は、具体的には、第2の等化器2によって周波数特性の劣化が補償されたうえで(即ち、線形歪などが解消されたうえで)第2の検出器32によって検出された位相誤差に基づいて第2のNCO34から出力される位相回転制御信号としての正弦波および余弦波に基づいて、第2の遅延回路36から出力される信号の位相回転を行う。
【0042】
第2の遅延回路36は、第2の等化器2から出力されて第3の位相回転器31へと入力される信号を主に第3の位相回転器31から第2のNCO34までの処理時間の合計に相当する時間だけ遅延させた信号を生成して第4の位相回転器35に対して出力する。
【0043】
第4の位相回転器35から出力される信号のことを「処理対象信号」と呼ぶ。
【0044】
上記のように、第2の搬送波再生ループ3は、信号処理ループのなかに等化器が組み込まれていないので、信号処理ループ内の遅延量が第1の搬送波再生ループ1と比べて小さいため、位相誤差の推定精度が向上する。さらに、第2の搬送波再生ループ3における第2のLPF33の帯域幅を第1のLPF14の帯域幅よりも広く設定することにより、位相ノイズを補償できる帯域を広げることが可能となる。すなわち、前段の第1の搬送波再生ループ1によって位相ノイズの第1段階の補償が既に行われているので、第2段階の補償としては、搬送波再生ループの処理を発散させないことに留意しても、第1のLPF14の帯域幅よりも広く設定して位相ノイズを補償できる帯域を広げることが可能となる。
【0045】
そして、実施の形態1に係る搬送波再生回路は、処理対象信号に相互に異なる位相オフセットを付与して位相オフセット付与後の処理対象信号を複数生成する位相オフセット付与部4と、位相オフセット付与後の処理対象信号それぞれの位相誤差を検出する位相誤差測定部5と、位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する判定部63と、選択された位相オフセット付与後の処理対象信号の位相誤差から位相オフセットを減算した値を用いて処理対象信号の位相を回転する第5の位相回転器8と、を有し、判定部63が、連続するシンボル間における位相誤差の変動量の絶対値を積算した位相誤差の変動量積算値に基づいて位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する、ようにしている。
【0046】
位相オフセット付与部4は、第2の搬送波再生ループ3(具体的には、第4の位相回転器35)から出力される信号(即ち、処理対象信号)に相互に異なる位相オフセットを付与した(言い換えると、信号のコンスタレーションの傾きを変化させた)信号を複数生成するための仕組みであり、第1の付与部41A、第2の付与部41B、および第3の付与部41Cを含む。
【0047】
位相オフセット付与部4は、すなわち、同相成分のI軸と直交成分のQ軸との直交座標系である複素平面上に分布する処理対象信号(別言すると、受信シンボル)に位相オフセット(別言すると、位相回転角)を付与する。位相オフセット付与部4による処理は、言い換えると、複素平面上に分布する処理対象信号のコンスタレーションの傾きを変化させる処理である。
【0048】
図に示す例では、位相オフセット付与部4は3つの付与部を有し、処理対象信号に対して、第1の付与部41Aはα1[deg]の位相オフセットを付与し、第2の付与部41Bはα2[deg]の位相オフセットを付与し、さらに、第3の付与部41Cはα3[deg]の位相オフセットを付与する。
【0049】
位相オフセットの角度α1,α2,およびα3は、それぞれ、特定の値に限定されるものではなく、例えばQAM方式の多値数に応じて変化する位相誤差検出範囲の大きさが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。なお、位相誤差検出範囲は、例えば、複素平面上に縦横等間隔に配置される各理想シンボル点間を縦横等間隔に格子状に区切って区画される、各理想シンボル点を中心とする四角形の各領域の大きさに相当する。
【0050】
位相オフセットの角度α1,α2,およびα3は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、QAM方式の多値数が4096である場合に、α1=+1.6[deg],α2=0[deg],およびα3=-1.6[deg]に設定されることが考えられる。
【0051】
ただし、位相オフセット付与部4に設けられる付与部の個数は、3つに限定されるものではなく、2つでもよく、また、4つ以上でもよい。例えば、4つの付与部が設けられるようにして、各付与部の位相オフセットの角度β1~β4について、β1=+1.8[deg],β2=+0.6[deg],β3=-0.6[deg],およびβ4=-1.8[deg]に設定されるようにしてもよい。
【0052】
位相誤差測定部5は、位相オフセット付与部4から出力される(図に示す例では)3種類の位相オフセット付与後の処理対象信号のそれぞれについて、複素平面上において各理想シンボル点に対して位相オフセット付与後の処理対象信号が進み方向もしくは遅れ方向にどの程度ずれているかという位相誤差を検出するための仕組みであり、第1の測定部51A、第2の測定部51B、および第3の測定部51Cを含む。位相誤差測定部5による位相誤差の検出はシンボルごとに行われる。
【0053】
第1の測定部51Aは、位相オフセット付与部4の第1の付与部41Aから出力される位相オフセット(この実施の形態では即ち、α1=+1.6[deg])付与後の処理対象信号についての、理想シンボル点に対する進み方向もしくは遅れ方向のずれの程度に相当する位相誤差を測定して出力する。
【0054】
第2の測定部51Bは、位相オフセット付与部4の第2の付与部41Bから出力される位相オフセット(この実施の形態では即ち、α2=0[deg])付与後の処理対象信号についての、理想シンボル点に対する進み方向もしくは遅れ方向のずれの程度に相当する位相誤差を測定して出力する。
【0055】
第3の測定部51Cは、位相オフセット付与部4の第3の付与部41Cから出力される位相オフセット(この実施の形態では即ち、α3=-1.6[deg])付与後の処理対象信号についての、理想シンボル点に対する進み方向もしくは遅れ方向のずれの程度に相当する位相誤差を測定して出力する。
【0056】
切替制御部6は、後段の第5の位相回転器8の制御に用いられる位相回転制御信号を生成するための位相誤差を選択するための仕組みであり、第1の算出部61A、第2の算出部61B、および第3の算出部61C、ならびに、第1の加算部62A、第2の加算部62B、および第3の加算部62C、さらに、判定部63およびスイッチ64を含む。
【0057】
第1の算出部61Aは、位相誤差測定部5の第1の測定部51Aから出力される位相誤差について、連続するシンボル間における位相誤差の変動量(即ち、n番目のシンボルの位相誤差-(n-1)番目のシンボルの位相誤差)を算出してその絶対値を出力する。第1の算出部61Aによる位相誤差の変動量の算出はシンボルごとに行われ、位相オフセットの角度α1=+1.6[deg]を付与した場合の1シンボルあたりの(別言すると、連続する2シンボル間における)位相誤差の変動量の絶対値が出力される。
【0058】
第2の算出部61Bは、位相誤差測定部5の第2の測定部51Bから出力される位相誤差について、連続するシンボル間における位相誤差の変動量(即ち、n番目のシンボルの位相誤差-(n-1)番目のシンボルの位相誤差)を算出してその絶対値を出力する。第2の算出部61Bによる位相誤差の変動量の算出はシンボルごとに行われ、位相オフセットの角度α2=0[deg]を付与した場合の1シンボルあたりの(別言すると、連続する2シンボル間における)位相誤差の変動量の絶対値が出力される。
【0059】
第3の算出部61Cは、位相誤差測定部5の第3の測定部51Cから出力される位相誤差について、連続するシンボル間における位相誤差の変動量(即ち、n番目のシンボルの位相誤差-(n-1)番目のシンボルの位相誤差)を算出してその絶対値を出力する。第3の算出部61Cによる位相誤差の変動量の算出はシンボルごとに行われ、位相オフセットの角度α3=-1.6[deg]を付与した場合の1シンボルあたりの(別言すると、連続する2シンボル間における)位相誤差の変動量の絶対値が出力される。
【0060】
第1の加算部62Aは、第1の算出部61Aからシンボルごとに出力される位相誤差の変動量の絶対値について、連続する所定の数のシンボル分を加算して位相誤差の変動量積算値として出力する。加算するシンボルの数は、特定の値には限定されないものの、例えば処理対象の位相誤差の変動速度に合わせて調整することやシンボル間隔をふまえて即時的な信号処理に支障が生じないことが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。加算するシンボルの数は、具体的には例えば5~15程度の範囲のうちの適当な値に設定されることが考えられる。加算するシンボルの数は、第1の加算部62A、第2の加算部62B、および第3の加算部62Cのすべてに対して同じに設定される。
【0061】
第2の加算部62Bは、第2の算出部61Bからシンボルごとに出力される位相誤差の変動量の絶対値について、連続する前記所定の数のシンボル分を加算して位相誤差の変動量積算値として出力する。
【0062】
第3の加算部62Cは、第3の算出部61Cからシンボルごとに出力される位相誤差の変動量の絶対値について、連続する前記所定の数のシンボル分を加算して位相誤差の変動量積算値として出力する。
【0063】
判定部63は、第1の加算部62A、第2の加算部62B、および第3の加算部62Cのそれぞれから出力される位相誤差の変動量積算値の入力を受け、これら位相誤差の変動量積算値のうちの最小値を特定し、前記最小値を出力した加算部が含まれる系の情報をスイッチ64へと出力する。
【0064】
判定部63は、具体的には、第1の加算部62Aから出力される位相誤差の変動量積算値が最小である場合には第1の系(即ち、第1の付与部41A、第1の測定部51A、第1の算出部61A、および第1の加算部62Aからなる系)の位相誤差を第3のNCO7へと出力すべきことを内容とする切替信号をスイッチ64へと出力し、また、第2の加算部62Bから出力される位相誤差の変動量積算値が最小である場合には第2の系(即ち、第2の付与部41B、第2の測定部51B、第2の算出部61B、および第2の加算部62Bからなる系)の位相誤差を第3のNCO7へと出力すべきことを内容とする切替信号をスイッチ64へと出力し、さらにまた、第3の加算部62Cから出力される位相誤差の変動量積算値が最小である場合には第3の系(即ち、第3の付与部41C、第3の測定部51C、第3の算出部61C、および第3の加算部62Cからなる系)の位相誤差を第3のNCO7へと出力すべきことを内容とする切替信号をスイッチ64へと出力する。
【0065】
スイッチ64は、判定部63から出力される切替信号(即ち、系の選択情報)の入力を受け、入力された前記切替信号に従ってスイッチを切り替える。スイッチ64は、具体的には、前記切替信号において第1の系が指示されているときは第1の測定部51Aによって測定された位相誤差から第1の付与部41Aによって付与された位相オフセットの角度α1を減算した値を第3のNCO7へと出力し、また、前記切替信号において第2の系が指示されているときは第2の測定部51Bによって測定された位相誤差から第2の付与部41Bによって付与された位相オフセットの角度α2を減算した値を第3のNCO7へと出力し、さらにまた、前記切替信号において第3の系が指示されているときは第3の測定部51Cによって測定された位相誤差から第3の付与部41Cによって付与された位相オフセットの角度α3を減算した値を第3のNCO7へと出力する。
【0066】
第3のNCO7は、スイッチ64から出力される位相誤差に基づいて位相回転制御信号を生成する機器であり、数値制御発振器(NCO)によって構成される。
【0067】
第3のNCO7は、具体的には、スイッチ64から出力される位相誤差に基づいて逆位相の正弦波および余弦波を生成して、生成した前記逆位相の正弦波および余弦波を位相回転制御信号として第5の位相回転器8へと出力して該第5の位相回転器8による位相回転を制御する
【0068】
第5の位相回転器8は、入力される信号の位相を回転する回転器・乗算器であり、第3のNCO7から出力される位相回転制御信号に基づいて、入力される信号の位相を回転する。
【0069】
第5の位相回転器8は、具体的には、スイッチ64から出力される位相誤差に基づいて第3のNCO7から出力される位相回転制御信号としての正弦波および余弦波に基づいて、第3の遅延回路9から出力される信号の位相回転を行う。
【0070】
第3の遅延回路9は、第2の搬送波再生ループ3(具体的には、第4の位相回転器35)から出力されて位相オフセット付与部4へと入力される信号(即ち、処理対象信号)を主に位相オフセット付与部4から第3のNCO7までの処理時間の合計に相当する時間だけ遅延させた信号を生成して第5の位相回転器8に対して出力する。
【0071】
上記のような搬送波再生回路の作用効果の検証例として、位相変動の補償前後の位相誤差を図2に示す。図2に示す結果から、補償前(即ち、第1の位相回転器11へと入力される信号)は同図(A)に示すように位相誤差が大きく変動しているのに対し、この発明に係る搬送波再生回路による補償後は同図(B)に示すように残留位相誤差が大幅に少ないことが確認される。
【0072】
上記のような搬送波再生回路の作用効果の他の検証例として、位相変動の補償手法の違いによる符号誤り率(BER:Bit Error Rate の略)の違いを図3に示す。図3では、4096QAMにおける従来手法の符号誤り率とこの発明に係る搬送波再生回路の符号誤り率とを示す。図3に示す結果から、従来手法に対して、この発明に係る搬送波再生回路の符号誤り率が改善していることが確認され、特に搬送波対雑音比(CNR:Carrer-to-Noise Ratio の略)が大きい領域において符号誤り率が大きく改善していることが確認される。
【0073】
上記のような搬送波再生回路によれば、予め位相オフセットを加えた処理対象信号を複数生成してそれらを切り替えながら位相誤差を検出して位相回転を行うようにしているので、処理対象信号のコンスタレーションが大きく回転し処理対象信号の多くが位相誤差検出範囲から外れて位相誤差の測定を適切に行うことができないために搬送波再生の補正精度が劣化してしまうことを防ぐことができ、コンスタレーションの回転に適合的/適応的に対処して位相誤差への追従性能を向上させ、延いては高い復調性能を実現することが可能となる。
【0074】
上記のような搬送波再生回路によれば、また、位相誤差の変動量積算値に基づいて位相オフセット付与後の処理対象信号を選択するようにしているので、位相オフセットを加えた処理対象信号の切り替えを適切に行うことができ、コンスタレーションの回転に一層確実に対処して位相誤差への追従性能を向上させ、延いては高い復調性能を一層確実に実現することが可能となる。特に、バーストエラーが発生する区間では位相誤差が大きく揺らいで位相誤差の変動量が増加するので、位相誤差の変動量積算値を用いることにより、バーストエラーが発生する区間(言い換えると、バーストエラーが起こりうる残留位相誤差がある区間)を正確に検出することができ、搬送波の再生を適切に行うことが可能となる。
【0075】
(実施の形態2)
図4は、この発明の実施の形態2に係る搬送波再生回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0076】
この実施の形態は切替制御部6の構成が実施の形態1と異なる一方で他の構成や処理の内容は実施の形態1と同様であるので、実施の形態1と同等の構成や処理の内容については同一符号を付することでその説明を省略する。
【0077】
実施の形態2に係る搬送波再生回路は、処理対象信号に相互に異なる位相オフセットを付与して位相オフセット付与後の処理対象信号を複数生成する位相オフセット付与部4と、位相オフセット付与後の処理対象信号それぞれの位相誤差を検出する位相誤差測定部5と、位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する判定部67と、選択された位相オフセット付与後の処理対象信号の位相誤差から位相オフセットを減算した値を用いて処理対象信号の位相を回転する第5の位相回転器8と、を有し、判定部67が、既知信号に関する位相差に基づいて位相オフセット付与後の処理対象信号のうちのいずれかを選択する、ようにしている。
【0078】
切替制御部6は、後段の第5の位相回転器8の制御に用いられる位相回転制御信号を生成するための位相誤差を選択するための仕組みであり、タイミング検出部65、位相差測定部66、判定部67、およびスイッチ68を含む。
【0079】
タイミング検出部65は、第2の搬送波再生ループ3(具体的には、第4の位相回転器35)から出力される信号(即ち、処理対象信号)の入力を受け、前記処理対象信号と既知信号との間の相互相関値を計算する。
【0080】
既知信号は、送信データに組み込まれて周期的に送信される。既知信号は、具体的には例えば、図5に示すように、送信側において、送信データのデータ部を構成する所定の数(図5に示す例では、x)のシンボル数ごとに、所定の数(図5に示す例では、y;具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、5~10程度)のシンボル数の信号として組み込まれる。既知信号は、送信側と受信側である搬送波再生回路とで共有する所定のパターンの変調波として送信データに一定周期で組み込まれる。また、既知信号の前記所定のパターンは、例えば、切替制御部6に備えられる記憶素子(図示省略)などに予め記憶さる。
【0081】
タイミング検出部65は、処理対象信号のうち既知信号を受信している区間(言い換えると、既知信号に該当する区間)を検出するため、処理対象信号のうちの一部区間/範囲と既知信号との間の相互相関値を算出し、算出された相互相関値が所定の閾値以上である場合に、相互相関値が高いとされた区間のシンボル群が既知信号であると判断し、前記シンボル群を既知信号の組み込みのタイミングの同期をとるための基準に設定する。基準に設定されたシンボル群のことを「基準シンボル群」と呼ぶ。相互相関値を算出する区間のシンボル数は既知信号としての所定のパターンを構成するシンボル数に合わせてyに設定され、基準シンボル群のシンボル数はyである。
【0082】
タイミング検出部65は、具体的には、図6に示すように、処理対象信号(図中、「受信信号」と表記)について、相互相関値を算出する対象区間/範囲を1シンボルずつずらしながら(同図(A)参照)、当該処理対象信号(受信信号)のうちのyシンボルのそれぞれについて相互相関値S(n),S(n+1),S(n+2),・・・を算出する(但し、nは序数を構成する例えば自然数;同図(B)参照)。この際、タイミング検出部65は、相互相関値が低い部分はデータ部(図5参照)であるとしてデータ部を構成するシンボル数xを同時にカウントしながら相互相関値を算出する。
【0083】
タイミング検出部65は、また、処理対象信号のうちの基準シンボル群の終わりからデータ部に該当する(と考えられる)xシンボルだけ隔てたyシンボルについて既知信号との相互相関値を算出する。そして、算出された相互相関値が所定の閾値以上である場合は、タイミング検出部65は、上記でカウントしたxが既知信号の組み込みの一定周期(言い換えると、既知信号と既知信号との間のデータ部のシンボル数)であると判断する。一方、算出された相互相関値が所定の閾値未満である場合は、タイミング検出部65は、上記でカウントしたxをリセットし、処理対象信号と既知信号との間の相互相関値を算出して基準シンボル群を検出する処理に戻る。
【0084】
タイミング検出部65は、上記で特定した既知信号の組み込みの一定周期(即ち、データ部のシンボル数x)ごとに、既知信号を受信するタイミングであることを表す受信フラグ信号を位相差測定部66に対して出力する。
【0085】
なお、タイミング検出部65は、既知信号の組み込みの一定周期を一旦特定した後も、データ部に該当する(と考えられる)xシンボルだけ隔てたyシンボルについて既知信号との相互相関値を算出する処理を継続して行い、相互相関値が所定の回数(具体的には例えば、3回)連続して所定の閾値を下回った場合には、一旦特定したxをリセットし、処理対象信号と既知信号との間の相互相関値を算出して基準シンボル群を検出する処理に戻るようにしてもよい。
【0086】
位相差測定部66は、第2の搬送波再生ループ3(具体的には、第4の位相回転器35)から出力される信号(即ち、処理対象信号)の入力を受けつつ、タイミング検出部65から出力される受信フラグ信号が入力されるまで待機する。
【0087】
位相差測定部66は、受信フラグ信号が入力されると、受信フラグが入力されたタイミングに対応する処理対象信号(具体的には、既知信号に該当するシンボル群)について、既知信号の真値に対する進み方向もしくは遅れ方向のずれの程度に相当する、複素平面上における位相差を前記既知信号に該当するシンボル群を構成するシンボルごとに測定する。位相差測定部66は、また、前記で測定したシンボルごとの位相差について、既知信号に該当するシンボル群に関する平均値(「既知信号位相差平均値」と呼ぶ)を算出する。
【0088】
位相差測定部66は、既知信号位相差平均値の算出が完了したタイミングで、算出した前記既知信号位相差平均値と既知信号位相差平均値が算出され更新されたことを表す更新フラグ信号とを判定部67に対して出力する。
【0089】
判定部67は、位相差測定部66から出力される既知信号位相差平均値および更新フラグ信号の入力を受け、入力された前記既知信号位相差平均値を最新の既知信号位相差平均値として保持する。
【0090】
判定部67は、さらに、上記最新の既知信号位相差平均値の大きさと、位相オフセット付与部4の各付与部41A,41B,41Cによって付与される位相オフセットの角度α1,α2,α3に応じて特定される各系の位相誤差検出範囲と、の比較の結果として選択される系の情報をスイッチ68へと出力する。
【0091】
上記最新の既知信号位相差平均値の大きさと各系の位相誤差検出範囲との比較は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、下記のように行われる。なお、第1の系は第1の付与部41Aおよび第1の測定部51Aからなる系であり、第2の系は第2の付与部41Bおよび第2の測定部51Bからなる系であり、第3の系は第3の付与部41Cおよび第3の測定部51Cからなる系である。
【0092】
ここでは、QAM方式の多値数が4096であり、位相オフセットの角度がα1=+1.6[deg],α2=0[deg],およびα3=-1.6[deg]に設定されている場合を例に挙げる。この場合、各系の位相誤差検出範囲は下記のようになる。
第1の系:位相オフセットが+1.6°→位相誤差検出範囲は+0.8°~+2.4°
第2の系:位相オフセットが 0°→位相誤差検出範囲は-0.8°~+0.8°
第3の系:位相オフセットが-1.6°→位相誤差検出範囲は-2.4°~-0.8°
【0093】
この場合には、判定部67は、例えば、上記最新の既知信号位相差平均値が+2°である場合には第1の系(即ち、第1の付与部41Aおよび第1の測定部51Aからなる系)の位相誤差を第3のNCO7へと出力すべきことを内容とする切替信号をスイッチ68へと出力し、また、上記最新の既知信号位相差平均値が+0.5°や-0.5°である場合には第2の系(即ち、第2の付与部41Bおよび第2の測定部51Bからなる系)の位相誤差を第3のNCO7へと出力すべきことを内容とする切替信号をスイッチ68へと出力し、さらにまた、上記最新の既知信号位相差平均値が-2°である場合には第3の系(即ち、第3の付与部41Cおよび第3の測定部51Cからなる系)の位相誤差を第3のNCO7へと出力すべきことを内容とする切替信号をスイッチ68へと出力する。
【0094】
スイッチ68は、判定部67から出力される切替信号(即ち、系の選択情報)の入力を受け、入力された前記切替信号に従ってスイッチを切り替える。スイッチ68は、具体的には、前記切替信号において第1の系が指示されているときは第1の測定部51Aによって測定された位相誤差から第1の付与部41Aによって付与された位相オフセットの角度α1を減算した値を第3のNCO7へと出力し、また、前記切替信号において第2の系が指示されているときは第2の測定部51Bによって測定された位相誤差から第2の付与部41Bによって付与された位相オフセットの角度α2を減算した値を第3のNCO7へと出力し、さらにまた、前記切替信号において第3の系が指示されているときは第3の測定部51Cによって測定された位相誤差から第3の付与部41Cによって付与された位相オフセットの角度α3を減算した値を第3のNCO7へと出力する。
【0095】
上記により、既知信号を受信するたびに、判定部67において保持される最新の既知信号位相差平均値が更新され、前記最新の既知信号位相差平均値に基づいて選択される系が(具体的には、位相オフセットの種別が)スイッチ68によって切り替えられる。
【0096】
上記のような搬送波再生回路によれば、予め位相オフセットを加えた処理対象信号を複数生成してそれらを切り替えながら位相誤差を検出して位相回転を行うようにしているので、処理対象信号のコンスタレーションが大きく回転し処理対象信号の多くが位相誤差検出範囲から外れて位相誤差の測定を適切に行うことができないために搬送波再生の補正精度が劣化してしまうことを防ぐことができ、コンスタレーションの回転に適合的/適応的に対処して位相誤差への追従性能を向上させ、延いては高い復調性能を実現することが可能となる。
【0097】
上記のような搬送波再生回路によれば、また、既知信号に関する位相差に基づいて位相オフセット付与後の処理対象信号を選択するようにしているので、位相オフセットを加えた処理対象信号の切り替えを適切に行うことができ、コンスタレーションの回転に一層確実に対処して位相誤差への追従性能を向上させ、延いては高い復調性能を一層確実に実現することが可能となる。
【0098】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0099】
例えば、上記の実施の形態では第1の搬送波再生ループ1に加えて第2の搬送波再生ループ3を有するようにしているが、第2の搬送波再生ループ3はこの発明において必須の構成ではなく、第2の位相回転器16から出力される信号または第2の等化器2から出力される信号がそのまま処理対象信号として位相オフセット付与部4や第3の遅延回路9へと入力されるようにしてもよい。
【0100】
また、上記の実施の形態では第1の搬送波再生ループ1と第2の搬送波再生ループ3との2つの搬送波再生ループを有するようにしているが、3つ以上の搬送波再生ループを有するようにしてもよい。
【0101】
また、上記の実施の形態1では、連続するシンボル各々の位相誤差の差分としての位相誤差の変動量の絶対値について連続する所定の数のシンボル分を加算して得られる位相誤差積算値に基づいて、位相回転制御信号を生成する際に用いる位相誤差を出力する系(図に示す例では、第1の系、第2の系、および第3の系のうちのいずれか)が選択されるようにしている。しかしながら、位相回転制御信号を生成する際に用いられる位相誤差を出力する系を位相誤差の程度に基づいて選択する場合の仕法は、上記の実施の形態1における手順や方法に限定されるものではなく、1シンボルごとの位相誤差や連続する2シンボル間における位相誤差の変動の程度が小さかったり、連続する複数のシンボルにわたる位相誤差や位相誤差の変動の程度が小さかったりする系を選択することができる手順や方法であれば、他の手順や方法が用いられるようにしてもよい。例えば、連続する所定の数のシンボルにわたる位相誤差の絶対値の平均値が最小である系が選択されたり、連続する所定の数のシンボルにわたる位相誤差の変動量の絶対値の平均値が最小である系が選択されたりするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 第1の搬送波再生ループ
11 第1の位相回転器
12 第1の等化器
13 第1の検出器
14 第1のLPF
15 第1のNCO
16 第2の位相回転器
17 第1の遅延回路
2 第2の等化器
3 第2の搬送波再生ループ
31 第3の位相回転器
32 第2の検出器
33 第2のLPF
34 第2のNCO
35 第4の位相回転器
36 第2の遅延回路
4 位相オフセット付与部
41A 第1の付与部
41B 第2の付与部
41C 第3の付与部
5 位相誤差測定部
51A 第1の測定部
51B 第2の測定部
51C 第3の測定部
6 切替制御部
61A 第1の算出部
61B 第2の算出部
61C 第3の算出部
62A 第1の加算部
62B 第2の加算部
62C 第3の加算部
63 判定部(実施の形態1)
64 スイッチ(実施の形態1)
65 タイミング検出部
66 位相差測定部
67 判定部(実施の形態2)
68 スイッチ(実施の形態2)
7 第3のNCO
8 第5の位相回転器
9 第3の遅延回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6