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特開2022-40534磁気共鳴イメージング装置、画像処理装置、および、画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040534
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置、画像処理装置、および、画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20220304BHJP
   G06T 3/00 20060101ALI20220304BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
A61B5/055 380
G06T3/00
G06T1/00 290C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145298
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 康雄
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 将宏
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 延之
【テーマコード(参考)】
4C096
5B057
【Fターム(参考)】
4C096AA03
4C096AA17
4C096AD06
4C096AD14
4C096BA18
4C096BA20
4C096DC15
4C096DC27
4C096DC33
4C096DC36
5B057BA07
5B057DA07
5B057DA08
5B057DC14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】MRI装置を用いて取得した、血流画像等の機能画像を、精度よく標準形態に一致させる解剖学的正規化を行う。
【解決手段】被検体の同一の撮像領域について、形態が表れた形態画像と、機能が表れた機能画像とを撮像する。演算処理部は、変形パラメータを用いて形態画像を変形させ、形態画像内の1以上の構造物の位置をそれぞれ予め定められた標準形態の構造物の位置に移動させる処理を行った後、形態画像を変形させる際に用いた変形パラメータの値を用いて、機能画像を変形させることにより、機能画像内の領域の位置を標準形態の対応する領域の位置に一致させる。もしくは、変形パラメータの値を用いて、標準形態を逆方向に変形させることにより、標準形態の前記構造物の領域の位置を、機能画像内の対応する領域の位置に一致させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体が配置される撮像空間に静磁場を印加する静磁場発生部と、前記撮像空間に傾斜磁場を印加する傾斜磁場発生部と、前記撮像空間の前記被検体に高周波磁場を送信する送信コイルと、前記被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信コイルと、前記傾斜磁場発生部、前記送信コイルおよび受信コイルを制御して撮像シーケンスを実行し、画像を撮像する計測制御部と、演算処理部とを有し、
前記計測制御部は、前記被検体の同一の撮像領域について、形態が表れた形態画像と、機能が表れた機能画像とを撮像し、
前記演算処理部は、変形パラメータを用いて前記形態画像を変形させ、前記形態画像内の1以上の構造物の位置をそれぞれ予め定められた標準形態の構造物の位置に移動させる処理を行った後、前記形態画像を変形させる際に用いた前記変形パラメータの値を用いて、前記機能画像を変形させることにより、前記機能画像内の領域の位置を前記標準形態の対応する領域の位置に一致させるか、もしくは、前記変形パラメータの値を用いて、前記標準形態を逆方向に変形させることにより、前記標準形態の前記構造物の領域の位置を、前記機能画像内の対応する領域の位置に一致させることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、前記演算処理部は、前記機能画像を変形させる前に、前記機能画像内の領域の位置を前記形態画像の対応する領域の位置に一致させる処理を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、前記機能画像は、脳血流画像であり、
前記標準形態は、標準脳であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、前記形態画像は、T1強調画像であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、前記撮像シーケンスは、血液をラベリングしてから撮像するまでの時間を複数種類設定してそれぞれ撮像するMulti-PLD ASL(arterial spin labeling)法を実現するシーケンスであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、前記機能画像は、血流の到達時間(Arterial transit time :ATT)の画像、および/または、血流量(Cerebral blood flow:CBF)の画像であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、前記演算処理部は、健常人について予め求めておいた機能画像を標準形態の対応する領域の位置に一致させるように変形させた健常機能画像に対する、前記被検体の変形後の前記機能画像の乖離度を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、前記演算処理部は、前記被検体の変形後の機能画像に関心領域を設定し、前記関心領域内の前記機能画像と、前記健常機能画像の対応する領域との乖離度を算出し、ユーザに対して表示することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記演算処理部は、前記変形後の機能画像に関心領域を設定し、前記関心領域内の前記機能画像について予め定めた特徴量を算出し、当該特徴量が、予め求めておいた複数の健常人の前記特徴量の分布と複数の疾患を持つ人の前記特徴量の分布との境界のどちら側に位置するか、ならびに、前記境界からの距離を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記撮像シーケンスは、血液をラベリングしてから撮像するまでの時間を1種類に設定して撮像するSingle PLD ASL(arterial spin labeling)法を実現するシーケンスであり、
前記機能画像は、脳血流量(Cerebral blood flow:CBF)の画像であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記機能画像は、脳血流画像と、定量的磁化率マッピング画像とを含み、前記形態画像は、T1強調画像であり、
前記演算処理部は、前記被検体についての前記脳血流画像と、前記定量的磁化率マッピング画像と、前記T1強調画像の対応する領域内の画像の、健常人の前記脳血流画像と、前記定量的磁化率マッピング画像と、前記T1強調画像の対応する領域内の画像からの乖離度を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
被検体の同一の撮像領域について撮像された、形態が表れた形態画像と、機能が表れた機能画像とを受け取る演算処理部を有し、
前記演算処理部は、前記形態画像内の1以上の構造物の位置をそれぞれ、変形パラメータを用いて、予め定められた標準形態の構造物の位置に移動させる処理を行った後、前記変形パラメータの値を用いて、前記機能画像を変形させることにより、前記機能画像内の領域の位置を前記標準形態の対応する領域の位置に一致させるか、もしくは、前記変形パラメータの値を用いて、前記標準形態を逆方向に変形させることにより、前記標準形態の前記構造物の領域の位置を、前記機能画像内の対応する領域の位置に一致させることを特徴とする画像処理装置。
【請求項13】
被検体の同一の撮像領域について撮像された、形態が表れた形態画像と、機能が表れた機能画像とを受け取り、
前記形態画像内の1以上の構造物の位置をそれぞれ、変形パラメータを用いて、予め定められた標準形態の構造物の位置に移動させ、
前記変形パラメータの値を用いて、前記機能画像を変形させることにより、前記機能画像内の領域の位置を前記標準形態の対応する領域の位置に一致させるか、もしくは、前記変形パラメータの値を用いて、前記標準形態を逆方向に変形させることにより、前記標準形態の前記構造物の領域の位置を、前記機能画像内の対応する領域の位置に一致させる
ことを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置、または画像表示装置に関し、特に、血流画像から脳血流動態を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮像時には、NMR信号に傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
脳血流動態を評価することによって、認知症や脳梗塞、血管狭窄などの脳血管障害、てんかんなどの脳血流に異常を認める脳疾患の画像診断が行われている。
【0004】
MRIを用いた脳血流の画像化手法として、arterial spin labeling (ASL) 法がある(非特許文献1参照)。ASL法は、撮像領域よりも血流の上流側に設定したラベル面にRFパルスを照射することにより、ラベル面を通過する血液のプロトンのスピンを反転させる(ラベリング)。このスピンの反転した血液が血流によって撮像領域に到達すると、毛細血管において撮像領域の組織中のプロトンのスピンと交換されることにより、組織のT1緩和時間が変化する。その状態の撮像領域を撮像したラベル画像と、血液プロトンを反転させずに撮像したコントロール画像の差分を求めることにより、血流画像を取得することができる。この方法は、RFパルスで血液をラベリングすることができるため、非侵襲で血流画像を生成することができる。
【0005】
一方、PET(Positron Emission Tomography)やMRI等により得た被検者の脳画像を標準脳座標系に変換し、標準脳に合わせるに解剖学的標準化(正規化)という手法が広く用いられている。この解剖学的標準化により、形態的に個人差のある脳画像を標準脳に変換することにより、血流や代謝の画像を被検者間でピクセルごとに比較したり、被検者群間で比較することができる。解剖学的標準化の方法として、多数のパラメータを用いて非線形の変換を行うdiffeomorphic anatomical registration through exponentiated Lie algebra (DARTEL) 処理等が知られている。
【0006】
また、特許文献1には、放射性同位元素で標識された薬剤を被検体に投与した後、放出される放射線を検出して投影データを得て、画像再構成を行うSPECT( Single Photon Emission Computed Tomography)により、脳血流画像を得る技術が開示されている。特許文献1の技術では、再構成画像を標準脳に合わせて変形させることにより標準脳画像を得て(解剖学的正規化)、標準脳画像に対して定量化を行い、各種の定量値画像を得ている。また、得られた定量値画像を用いて、血流動態の評価を行うことにより、定量評価による病態解析などを行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kimura, Kabasawa, Yonekura, et al, Cerebral perfusion measurements using continuous arterial spin labeling: accuracy and limits of a quantitative approach, International Congress Series, 1256: 236-247, 2004
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-119022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
MRI装置を用いて脳血流画像を撮像するASL法は、SPECTと比較した場合、薬剤を使用する必要がなく非侵襲で撮影することができ、被検体にとってメリットが大きい。また、ASL法で得た脳血流画像を標準脳座標系に変換することができれば、被検体と健常者との血流を同じ座標系で比較することができるため、診断等に有用である。
【0010】
しかしながら、ASL法で撮影した脳血流画像は、脳の形状情報を含んでいないため、脳血流画像を標準脳座標系に精度よく変換することは難しい。
【0011】
特許文献1には、SPECTで得た脳血流画像を標準脳に合わせるように変形させる変形パラメータを求めることが開示されているが、SPECTで得られる脳血流画像も形状情報は含んでいないため、標準脳に合わせて精度よく座標変換するのは実際に容易ではないと推測される。
【0012】
また、特許文献1に記載のSPECTにより脳血流画像を得る技術は、非特許文献1のようにMRI装置で撮像する場合と比較すると検査時間が長く、検査費用も高額になる。
【0013】
本発明の目的は、MRI装置を用いて取得した、血流画像等の機能画像を、精度よく標準形態に一致させる解剖学的正規化を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明によれば、被検体が配置される撮像空間に静磁場を印加する静磁場発生部と、撮像空間に傾斜磁場を印加する傾斜磁場発生部と、撮像空間の被検体に高周波磁場を照射する照射コイルと、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信コイルと、傾斜磁場発生部、照射コイルおよび受信コイルを制御して撮像シーケンスを実行し、画像を撮像する計測制御部と、演算処理部とを有する。計測制御部は、被検体の同一の撮像領域について、形態が表れた形態画像と、機能が表れた機能画像とを撮像する。演算処理部は、変形パラメータを用いて形態画像を変形させ、形態画像内の1以上の構造物の位置をそれぞれ予め定められた標準形態の構造物の位置に移動させる処理を行った後、形態画像を変形させる際に用いた変形パラメータの値を用いて、機能画像を変形させることにより、機能画像内の領域の位置を標準形態の対応する領域の位置に一致させるか、もしくは、変形パラメータの値を用いて、標準形態を逆方向に変形させることにより、標準形態の構造物の領域の位置を、機能画像内の対応する領域の位置に一致させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、MRI装置を用いて取得した、血流画像等の機能画像を精度よく標準形態に一致させる解剖学的正規化を行うことができるため、健常人の機能画像と比較して、容易に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態1に係るMRI装置の全体構成の一例を示すブロック図。
図2】ASL法の撮像パルスシーケンスの例を説明する図。
図3】実施形態1のMRI装置の演算処理部8の処理フローを示すフローチャート。
図4図2の撮像パルスシーケンスの撮像条件の一例を示す図。
図5】(a-1)~(a-3)3DT1強調画像の解剖学的正規化の手順を示す説明図、(b-1)~(b-2)CBF画像およびATT画像の解剖学的正規化の手順を示す説明図。
図6】実施形態1のMRI装置の演算処理部8の生成した画像および解析結果等を示すGUIの例を示す図。
図7】実施形態2のMRI装置の演算処理部8の処理フローを示すフローチャート。
図8】実施形態3のMRI装置の演算処理部8の処理フローを示すフローチャート。
図9】実施形態4のMRI装置の演算処理部8の処理フローを示すフローチャート。
図10】実施形態5のMRI装置の演算処理部8の処理フローを示すフローチャート。
図11】実施形態6のMRI装置の演算処理部8の処理フローを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
<実施形態1>
まず、本実施形態1のMRI装置の概要について説明する。
【0019】
本実施形態1のMRI装置は、一例としては図1に示す構造であり、被検体1が配置される撮像空間に静磁場を印加する静磁場発生部2と、撮像空間に傾斜磁場を印加する傾斜磁場発生部3と、撮像空間の被検体1に高周波磁場を照射する照射コイル14aと、被検体1からの核磁気共鳴信号を受信する受信コイル14bと、傾斜磁場発生部3、照射コイル14aおよび受信コイル14bを制御して撮像シーケンスを実行し、画像を撮像する計測制御部(シーケンサ)4と、演算処理部8とを有する。
【0020】
計測制御部4は、被検体1の同一の撮像領域について、形態が表れた形態画像と、機能が表れた機能画像とを撮像する。
【0021】
演算処理部8は、変形パラメータを用いて前記形態画像を変形させ、形態画像内の1以上の構造物の位置をそれぞれ、変形パラメータを用いて、予め定められた標準形態の構造物の位置に移動させる処理(解剖学的正規化処理)を行う。演算処理部8は、形態画像を変形させる際に用いた変形パラメータの値を用いて、機能画像を変形させることにより、機能画像内の領域の位置を標準形態の対応する領域の位置に一致させる。
【0022】
もしくは、演算処理部8は、上記変形パラメータの値を用いて、標準形態を逆方向に変形させることにより、標準形態の構造物の領域の位置を、機能画像内の対応する領域の位置に一致させる。
【0023】
これにより、MRI装置を用いて血流画像等のように、脳の形態が表れていない機能画像の座標を、標準形態の座標に精度よく一致させる解剖学的正規化を行うことができる。したがって、被検体1と健常者との血流画像等の機能画像を同じ座標系で比較することができるため、診断等に有用である。
【0024】
ここでいう形態画像とは、被検体の形態が表れている画像であり、ここではT1強調画像を用いる。なお、T1強調画像に限らず、被検体の形態が表れている画像であればよく、絶対値画像やT2強調画像、プロトン密度強調画像等の他の画像であってもよい。
【0025】
機能画像とは、被検体の機能が表されている画像である。本実施形態では、機能画像が、脳血流画像であるASL(arterial spin labeling)画像、特にMulti-PLD ASL画像から算出した、動脈血流の到達時間(Arterial transit time :ATT)画像、および/または、脳血流量(Cerebral blood flow:CBF)画像である例について説明する。なお、これらの画像に限らず、被検体の機能が表れている画像であればよく、例えば、T2,T2*、拡散係数、流速、磁化率、弾性率、造影剤濃度など様々な物性値や定量値を画素値とする画像や、水の信号を抑制したFluid Attenuated IR(FLAIR)画像等を用いることができる。
【0026】
一方、標準形態としては、1以上の構造物の座標が定められたものであればどのようなものであってもよい。例えば、Talairach(タレイラッハ)の標準脳を用いることができる。
【0027】
このように、本実施形態では、脳血流画像のような機能画像を標準形態(標準脳等)に対して直接的に正規化するのではなく、同一の撮像領域について撮像した形態画像をまず変形させて標準形態(標準脳等)の構造物の座標に一致させ(正規化)、その変形に用いた変形パラメータの値で、機能画像を変形させることにより、機能画像が形態情報を含まない場合であっても、機能画像を精度よく正規化することができる。
【0028】
なお、形態画像は、機能画像の撮像に連続して、同一の撮像領域について撮像したものであることが好ましいが、同一被検体の同一の撮像領域について撮像されたものであれば、事前、または事後に撮像したものであってもよい。
【0029】
<MRI装置の構成>
以下、本実施形態のMRI装置を詳細に説明する。
【0030】
本発明に係るMRI装置の構造を図1に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施形態の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、図1に示すように、MRI装置は、静磁場発生系(静磁場発生部)2と、傾斜磁場発生系(傾斜磁場発生部)3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ(計測制御部)4と、中央処理装置(CPU)(演算処理部)8とを備えて構成される。
【0031】
静磁場発生系2は、被検体が配置される撮像空間に静磁場を印加する。静磁場発生系2が垂直磁場方式であれば被検体1の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば被検体1の体軸方向に均一な静磁場を発生させる。被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0032】
傾斜磁場発生系3は、撮像空間に傾斜磁場を印加する。傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とを備える。後述のシ-ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス選択傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0033】
シーケンサ4は、傾斜磁場発生系2、送信系5および受信計6を制御して撮像シーケンスを実行し、画像を撮像する。すなわち、シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段であり、演算処理部8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0034】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルス(高周波磁場)を照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。高周波発振器11から出力されたRFパルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調されたRFパルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。
【0035】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を受信するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル) 14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うものでる。信号処理系7は、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。
【0036】
演算処理部(CPU)8は、受信系6からのデータを受け取り、所定の信号処理を施した後、画像再構成処理を実行することにより被検体1の断層画像を生成する。生成した画像は、ディスプレイ20に表示されるとともに、外部記憶装置である磁気ディスク18等に記録される。
【0037】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0038】
なお、図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。一方、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0039】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0040】
<機能画像の撮影>
計測制御部(シーケンサ)4は、機能画像として、脳血流の画像をASL(arterial spin labeling)法により撮影する。撮像シーケンスの一例を図2に示す。ASLのラベリング法にはPulsed ASL法と、pseudo-continious ASL (pASL) 法があり、図2のシーケンスはpASL法のシーケンスの一例である。計測制御部(シーケンサ)4は、傾斜磁場発生部3と照射コイル14aと受信コイル14b等を制御することにより図2の撮像シーケンスを実行させる。ASL法では、RFパルスと傾斜磁場の調整により、撮像領域よりも血流の上流に設定したラベル面を通過する血液に対して、プロトンを反転させる高周波パルスを照射してラベリングした後、この血液が撮像領域に到達するディレイタイムPLD(post labeling delay time:ラベリング後経過時間)の経過したタイミングで、画像(ラベル画像)を撮像する。同様に、血液プロトンを反転させずに同一の撮像領域について画像(コントロール画像)を撮像する。ラベル画像とコントロール画像の差分を求めることにより、血流情報を画像化する。
【0041】
図2のpASL法のシーケンスでは、ラベル面を通過する血液をラベリング後、関心領域へのラベル血液の流入を待つため、ディレイタイムPLD(post labeling delay time)を待って撮像を行う。
【0042】
具体的には、計測制御部(シーケンサ)4は、図2のように、ラベル画像を撮像するラベル撮像シーケンスと、コントロール画像を撮像するコントロール撮像シーケンスとを実行させる。これらはいずれも、以下のRFパルス51~58と傾斜磁場パルスを順次照射および印加等するシーケンスである。まず、スピンを90度傾斜させるプリサチパルス51を撮像領域に照射しながら、傾斜磁場を印加して横磁化をディフェイズ(Dephase)させる。つぎに、反転回復パルスであるIRパルス52が、撮像領域に選択的にまたは非選択に照射される。つぎに、ラベル撮像シーケンスでは、血液プロトンを180度反転させるASLパルス53が、ラベル面(例えば、小脳下端から1-2cmの領域)に選択的に照射される。コントロール撮像シーケンスでは、血液プロトンを反転させないパルス53が、同様にラベル面に照射される。つぎに、反転回復パルスであるIRパルス54、55が、撮像領域に選択的に照射される。さらに、撮像領域に脂肪抑制パルス56が照射され、続けて、血流信号抑制パルス57が非選択に照射される。ASLパルス53を撮像領域に照射してから、予め定めたディレイタイム(PLD)が経過したタイミングで、リードアウト処理58が実行され、撮像領域からNMR信号が取得される。リードアウト処理58は、具体的には、撮像領域にRFパルスが照射され、これによりスピンを励起した後に、読み出し傾斜磁場および位相エンコード傾斜磁場を印加しながら、NMR信号が受信コイル14bにより取得される。
【0043】
これにより、ラベル撮像シーケンスでは、ラベリングされた血液が撮像領域に到達した状態の撮像領域のNMR信号が取得され、演算処理部8は、取得されたNNR信号からラベル画像を再構成する。また、コントロール撮像シーケンスでは、血液のラベリングを行わずに同一の撮像領域についてNMR信号が取得され、演算処理部8は、取得されたNNR信号からコントロール画像を再構成する。
【0044】
また、計測制御部(シーケンサ)4は、ディレイタイム(PLD)(ASLパルス53の印加終了からリードアウト58の開始までの時間)を変更しながら、繰り返し撮像シーケンスを実行する(Multi-PLD ASL法)。これにより、演算処理部8は、ディレイタイム(PLD)の異なる複数のラベル画像を再構成する。
【0045】
演算処理部8は、得られたASL画像から、Cerebral blood flow (脳血流量、以下CBFと呼ぶ)画像とArterial transit time (動脈血流到達時間、以下ATTと呼ぶ)画像を算出する。
【0046】
<機能画像の正規化>
つぎに、演算処理部8は、ATT画像とCBF画像に対して、解剖学的正規化を適用する。さらに、演算処理部8は、解剖学的に正規化したATT画像とCBF画像に対して、ROI解析、Voxel解析を行い、統計分析を行う。これにより、演算処理部8は、統計分析の結果から、異常な血流を可視化して表示する。
【0047】
<演算処理部8の制御および演算処理>
図3のフローチャートを用いて、演算処理部8の制御および演算処理を具体的に説明する。図4は、撮像条件の一例を示す図であり、図5は、実施形態1のフローの工程において得られる画像を示し、図6は、実施形態1の撮像結果を表示する画面例を示す。
【0048】
演算処理部8の図3のフローの制御および演算処理の動作は、ここでは、磁気ディスク18等に予め格納しておいたプログラムを演算処理部8内のCPUが読み込んで実行することによりソフトウエアにより実現される。なお、演算処理部8の一部または全部をハードウエアによって実現することも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて演算処理部8の一部または全部を構成し、その機能を実現するように回路設計を行えばよい。
【0049】
まず、操作者は、被検者1を撮像領域の寝台に搭載する。
【0050】
(ステップS201)
演算処理部8は、操作部25を介して、ユーザから、Multi-PLD ASL画像、および、3DのT1強調画像、プロトン密度強調画像の撮像シーケンスの撮像条件の設定を受け付ける。例えば、図4に示す撮像条件の設定をそれぞれ受け付ける。撮像領域は、Multi-PLD ASL、TI強調画像およびプロトン密度強調画像の撮像シーケンスのいずれにおいても全脳領域である。Multi-PLD ASLの撮像シーケンスにおいて、ディレイタイム(PLD)は、ここでは500msから3000msの7種類の時間が設定されている。
【0051】
(ステップS202)
演算処理部8は、シーケンサ(計測制御部4)4に対して、ステップS201で設定された撮像条件で、図2に示したMulti-PLD ASL撮像シーケンスを実行するよう指示する。これにより、シーケンサ4は、傾斜磁場発生部3と照射コイル14aと受信コイル14b等を制御し、撮像シーケンスを実行する。演算処理部(CPU)8は、受信系6からのデータを受け取り、上記撮像領域のMulti-PLDのディレイタイム(PLD)ごとのASL画像を再構成する。
【0052】
また、演算処理部8は、Multi-PLD ASL撮像シーケンスの前、または、後に、シーケンサ(計測制御部)4に対して、例えば、公知のグラディエントエコーシーケンスを実行させる。これにより、演算処理部(CPU)8は、受信系6からのデータを受け取り、上記撮像領域の3D T1強調画像を再構成する。さらに、ASL撮像シーケンスと同じ公知のGRACEシーケンスなどを用いて、上記撮像領域のプロトン密度強調画像を撮像する。なお、プロトン密度強調画像の撮像領域、FOV、MatrixはASLと同一とする。異なる場合は、再構成後にASL画像とプロトン密度強調画像のレジストレーションを行うなどでもよい。
【0053】
演算処理部8は、再構成した各画像データを磁気ディスク18に記憶する。
(ステップS203)
演算処理部8は、操作部25を介して、操作者からCBFおよびATTの算出に用いるディレイタイム(PLD)のASL画像の選択を受け付ける。なお、このASL画像の選択は、自動で行ってもよい。
(ステップS204)
演算処理部8は、ステップS203で選択されたMulti-PLD ASLの画像の画素値からATTとCBFを画素ごとに算出し、ATT画像とCBF画像を生成する。例えば、式(1),(2)のTwo compartment modelに基づく理論式を用いてASL信号の理論値を、ディレイタイム(PLD)ごとに算出する。このASL信号の理論値のディレイタイム(PLD)による変化を、各PLDのASL信号の実測値(すなわち、PLDごとに撮像されたASL画像の画素値)に非線形最小二乗法に基づくCurve Fitting等によりフィットさせることにより、ATTとCBFを画素ごとに算出する。画素ごとのATT値とCBF値から、画素値としてATTの値を表示するATT画像とCBFの値を表示するCBF画像を生成することができる。なお、式(1),(2)の理論式の解法については、上述の非特許文献1に記載されている公知の方法を用いることができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【数1】
【数2】
【0054】
式(1)において、tは、時間であり、T1mは、血管内の見かけのT1値である。T1eは、血管外のみかけのT1値である。M0は、プロトン密度強調画像の磁化(画素値)を用い、Mm0は、プロトン密度強調画像の毛細血管内の値であり、Me0は、プロトン密度橋梁画像の血管外の値である。他の変数および計数は、以下の表1の通りである。
【表1】
【0055】
なお、ここでは、ATT、CBFを、式(1)、(2)により、Two Compartment Modelに基づく非線形最小二乗法で算出しているが、公知の他の理論式モデルやFitting手法を用いて算出してもよい。
【0056】
(ステップS205)
演算処理部8は、ステップS202で撮像された3D T1強調画像を変形させて標準脳に一致させる処理(解剖学的正規化)を実行し、3D T1強調画像を標準脳に一致させるための変形場を求める。
【0057】
具体的には、まず演算処理部8は、図5(a-1)~(a-3)のように、公知の手法を用いて、3D T1強調画像内の構造物(灰白質、白質等)の位置や形状をそれぞれ、予め定められた標準脳の構造物の座標に移動させる処理を行う(解剖学的正規化(標準化))。例えば、多数のパラメータを用いて非線形の変換を行うdiffeomorphic anatomical registration through exponentiated Lie algebra (DARTEL) 処理を用いて正規化を行う。DARTEL処理では、事前に作成した標準脳Templateに従って、対象脳の構造物を変形させる(解剖学的に正規化する)。
【0058】
つぎに、演算処理部8は、対象脳を変形させる際に用いた正規化パラメータ(DARTEL変形式のパラメータに設定した値のセット)を変形パラメータとして保存する。
【0059】
ここで、解剖学的正規化パラメータの取得方法は、DARTEL処理のみならず、そのほかの既知の正規化手法であってもよい。
【0060】
(ステップS206)
演算処理部8は、ステップS204で生成したATT画像とCBF画像を、図5(b-1)、(b-2)に示したように、ステップS202で撮像された3D T1強調画像に位置合わせする。例えば、既知のRegistration技術によって、ATT画像とCBF画像を3D T1強調画像に位置合わせする。
【0061】
位置合わせ方法としては、例えば、以下の式(3)~(6)によりATT画像と3D T1強調画像、CBF画像と3D T1強調画像の相互情報量MIをそれぞれ算出し、相互情報量MIが最大になるように位置を合わせる(例えば、回転移動と並進移動させる)方法を用いる。
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0062】
ただし、aiは、ATT画像またはCBF画像のある画素の画素値(階調)であり、bjは、3D T1強調画像の対応する画素の画素値(階調)である。h(ai,bj)は、対応する全ての画素の画素値の組み合わせ(ai,bj)について、画素値(階調)の組み合わせの頻度を数え、それらをマッピングした2次元ヒストグラムである。p(ai,bj)は、画素値aiとbjが同時に起こる確率(同時確率)を表し、式(4)により算出される。p(ai),p(bj)は、画素値aiと画素値bjがそれぞれが起こる確率(周辺確立)を表し、式(5)、(6)により、それぞれ算出される。
【0063】
(ステップS207)
演算処理部8は、ステップS205で保存した変形パラメータの値を用いて、ステップS206において位置合わせした後のATT画像とCBF画像をそれぞれ変形させる。
【0064】
これにより、ATTとCBFの解剖学的正規化を行うことができる。
【0065】
なお、変形処理には、ステップS205と同様の処理を用いることが望ましく、ここではDARTEL処理を用いるが、その他の既知の変形処理を用いてもよい。
【0066】
(ステップS208)
演算処理部8は、ステップS207で解剖学的に正規化したATT画像、CBF画像を用いて、脳血流動態の解析を行う。例えば、健常データベース(健常人のATT画像とCBF画像を解剖学的正規化したものを例えば50人分集めたデータベース)から、ステップ207で算出した被検体の正規化後のATT画像とCBF画像がどの程度乖離しているかを算出する。例えば、voxelごとにz-scoreとして算出し、被検体の正規化後のATT画像とCBF画像の健常画像からの乖離の程度(乖離度)を数値(z-score)として算出する。
【0067】
(ステップS209)
演算処理部8は、ステップ208で算出した血流量(CBF画像)および/または血流到達時間(ATT画像)の乖離度(Zスコア)をディスプレイ20に表示する。表示画面としては、例えば、図6に示すように、CBF画像、ATT画像の各断面画像と3D画像とを表示し、その上にz-scoreをグレースケールで表示する。表示するATT画像および/またはCBF画像は、正規化された画像であってもよいし、正規化前の画像であってもよい。なお、本実施形態では、図6において血流量(CBF画像)および/または血流到達時間(ATT画像)の乖離度(Zスコア)をグレースケールで表示しているが、カラーで表示することももちろん可能である。
【0068】
以上が、実施形態1の演算処理部8の処理フローの説明である。
【0069】
上述してきたように、本発明の実施形態1では、演算処理部8が、脳の形状情報を含んでいない機能画像(ATT画像とCBF画像)を算出した後、解剖学的正規化を行うことができる。これにより、解剖学的に正規化した機能画像(ATT画像やCBF画像)に対して、Voxel解析を行い、統計分析等を行うことができる。よって、統計分析の結果から、健常人の画像から乖離異常な血流を可視化して表示でき、脳血流の低下が認められるような認知症、脳血管障害、てんかんなどにおける脳血流量の評価を、MRI装置のみで評価可能になる。
【0070】
なお、上述のステップ203において、機能画像(ATT画像とCBF画像)の算出に用いる画像(Multi-PLD ASL画像)の選択をユーザから受け付ける構成であったが、演算処理部8が予め定めた基準にしたがって自動で選択してもよい。
【0071】
また、選択した画像を磁気ディスク18等に格納しておき、ステップ204以降を後日行う構成とてもよい。
【0072】
<<実施形態2>>
本発明の実施形態2のMRI装置について説明する。
【0073】
実施形態2のMRI装置は、実施形態1と同様に、ATT画像とCBF画像を算出した後、ATT画像とCBF画像に対して解剖学的正規化を適用する。解剖学的に正規化したATT画像とCBF画像に対して、ROI解析を行い、統計分析を行うことにより、異常な血流を可視化して表示する。
【0074】
図7は、実施形態2の演算処理部8の処理フローである。以下、図7を用いて演算処理部78の処理を説明する。なお、図7のフローにおいて、実施形態1の図3のフローと同じステップには同じステップ符号を付け、説明を省略する。
【0075】
(ステップS201~S207)
演算処理部8は、実施形態1のステップS201~S207と同様のステップS201~S207を行って、解剖学的に正規化されたATT画像とCBF画像を生成する。
【0076】
(ステップS301)
演算処理部8は、ステップS207で解剖学的に正規化されたATT画像とCBF画像に対して、1以上のROI(関心領域)を設定する。ROIは、標準脳の構造物の形状であってもよいし、ユーザが描いた所望の形状のROIでもよい。例えばAAL(Automated Anatomical Labeling)アトラスなどの既知の脳アトラスのROIを選択してもよいし、ユーザが画像上にROIを描画するなどしてもよい。
【0077】
演算処理部8は、解剖学的に正規化されたATT画像とCBF画像のROI内の脳血流動態の解析を行う。例えば、ATT画像とCBF画像の健常データベースからの乖離の程度をROIごとにz-scoreとして算出し、血流到達時間と血流量の健常人からの乖離度を解析する。具体的には例えば、健常データベースの50人分のROIの血流到達時間または血流量の平均値に対して、被検体のROIの血流到達時間または血流量がどれだけ乖離しているかを示すz-scoreを求める。これにより、領域(ROI)が複数ある場合には、ROIごとに乖離の程度を示す値(z-score)度を算出できる。
【0078】
(ステップS209)
演算処理部8は、実施形態1のステップS209と同様に、ATT画像および/またはCBF画像と、ROIについて算出したz-scoreをディスプレイ20に表示する。例えば、z-scoreをATT画像またはCBF画像のROIの位置に重ねて表示する。
【0079】
以上説明したように、本発明の実施形態2では、統計分析の結果からz-scoreを算出し、これをATT画像および/またはCBF画像とともに表示できるため、z-scoreが大きい、すなわち健常人の画像から乖離しているROIを可視化して表示することができる。これによって、前述の実施形態1と同様に、脳血流の低下が認められるような認知症、脳血管障害、てんかんなどにおける脳血流量の評価をMRIのみで評価可能になる。
【0080】
また、実施形態2では、ROIを設定して、ROI内を解析するため、ROIの血流が健常人よりも低下しているかどうかを、簡易に、かつ、少ない計算量で決定することが可能になる。
【0081】
なお、本実施形態では、ステップS301において、AALアトラスなどの既知のROIアトラスまたは、ユーザが描画したROIをROIとして設定する例について説明したが、演算処理部8が設定してもよい。例えば、演算処理部8は、予め健常データベースと疾患データベースで血流に有意な差のある領域を抽出してROIとして定義しておき、ステップS301においてROIとして設定してもよい。
【0082】
また、演算処理部8は、ステップS207において生成したATT画像および/またはCBF画像と、健常データベースの画像とを比較して、有意な差のある領域を抽出し、ステップS301においてROIとして設定してもよい。
<<実施形態3>>
実施形態3のMRI装置について説明する。
【0083】
実施形態3のMRI装置は、ATT画像およびCBF画像を用いて、被検体の疾患を持つ確率を算出する機能を備えている。
【0084】
図8は、実施形態3の演算処理部8の処理フローを示すフローチャートである。以下、図8の各ステップについて説明する。
【0085】
(ステップS201~S208)
実施形態1または実施形態2と同じであり、演算処理部8は、解剖学的に正規化したATT画像およびCBF画像を生成する。
【0086】
(ステップS401)
演算処理部8は、予め、健常データベース(健常人のATT画像とCBF画像を解剖学的正規化したものを集めたデータベース)と疾患データベース(疾患を持つ人のATT画像とCBF画像を解剖学的正規化したものを集めたデータベース)のATT画像およびCBF画像に例えば脳アトラス等により所定のROIを設定し、ROIごとに特徴量を求める。例えば、特徴量としては、画素値(ATT値またはCBF値)の平均値を用いることができる。演算処理部8は、複数の健常人のATT画像とCBF画像の特徴量の分布と、複数の疾患を持つ人の特徴量の分布との境界(判別面)を予め求めておく。判別面を求める方法としては、公知の方法(例えばSupport Vector Machineなどの機械学習アルゴリズム)を用いる。
【0087】
演算処理部8は、ステップ208により求めた、被検体の正規化されたATT画像およびCBF画像に上述の所定のROIを設定し、特徴量を算出し、算出した特徴量が、上記判別面に対して健常人側にあるのか疾患をもつ人側にあるのか、ならびに、判断面からの距離を算出する。算出した距離に基づいて、被検体が疾患を持つ人に属する確率を公知の方法により算出する。
【0088】
(ステップS402)
演算処理部8は、正規化されたATT画像およびCBF画像と、ステップS401で算出した結果(被検体が疾患を持つ人に属する確率)とを表示する。このとき、ステップS401で算出した距離を確立とともに表示してもよい。
【0089】
以上が、実施形態3の演算処理部8の処理フローの説明である。
【0090】
上述してきた実施形態3のMRI装置によれば、ATT画像およびCBF画像から、被検体が疾患を持つ確率を算出することができるため、医師の診断を支援することができる。
【0091】
なお、上記判別面(境界)の算出方法は、Support Vector Machineなどの機械学習アルゴリズムに限定されず、疾患を持つ人と健常人のATT画像およびCBF画像の類否を判別できるものであればどのような方法でもよい。例えば、Support Vector Machine以外の深層学習の手法や、クラスタリング、統計分析の手法などでもよい。
【0092】
<<実施形態4>>
実施形態4のMRI装置について説明する。
【0093】
実施形態4では、Multi-PLD ASLではなく、Single PLDの画像(血流量の画像)を用いて、血流の解析を行う。すなわち、Single PLDの画像から、CBF画像を算出し、実施形態1,2と同様に解剖学的正規化、統計分析を行い、結果を表示する。
【0094】
図9は、本発明の実施形態4の演算処理部8の処理フローを示すフローチャートである。以下、図9の各ステップについて説明する。なお、図9のステップにおいて、図3のステップと同様の処理を行う場合には、説明を省略する。
【0095】
(ステップS901~S903)
演算処理部8は、図3のステップ201~202と同様に、操作部25を介して、ユーザから撮像条件の設定を受け付けた後、実施形態1の図2のMulti-PLD ASLの撮像シーケンスをSingle PLD(一つのディレイタイムPLD)で実行させ、ラベル画像(label image)とコントロール画像(control image)を撮像する。
【0096】
また、演算処理部8は、3DT1強調画像、プロトン密度強調画像を撮像する。
【0097】
演算処理部8は、CBFの算出に用いる画像として、Single PLD(一つのディレイタイムPLD)で撮像したラベル画像(label image)とコントロール画像(control image)を選択する。
【0098】
(ステップS904)
演算処理部8は、Single PLDの画像とプロトン密度からCBF画像を算出する。算出方法は、例えば式(7)を用い、ラベル画像(label image)とコントロール画像(control image)の画素値の差ΔMと、ディレイタイムPLDと、PDの画素値を式(7)に与えて、CBF (式(7)中のf)を算出する。演算処理部8は、画素値ごとにCBF値を算出することによりCBF画像を生成する。
【0099】
【数7】
ΔM: the change in signal between the label image and control image
M: the proton density image
α: the efficiency of inversion
f: CBF
T1a: the arterial blood water relaxation time
λ: the tissue blood partition coefficient of water
τ: the duration of labeling
PLD: the post labeling delay
δα: the arterial transit time
【0100】
(ステップS205~209)
演算処理部8は、実施形態1の図3のステップ205~209と同様に、3DT1強調画像を標準脳に一致させる解剖学的正規化を実行し、その時の変形パラメータを用いてCBF画像を解剖学的に正規化する。そして、正規化後のCBF画像が、健常データベースのCBF画像からどの程度乖離しているかを示す乖離度(z-score)を算出する。算出した乖離度をCBF画像と共に表示する。
【0101】
以上が、実施形態4の演算処理部8の処理フローの説明である。
【0102】
上述してきたように本発明の実施形態4では、Single PLDのCBFを用いて、血流動態(CBF)の解析を行うことができる。よって、Multi-PLD ASLの撮像が困難な場合でも、本実施形態4によれば、Single PLDのASL画像を用いて、血流動態の解析が可能になる。
【0103】
<<実施形態5>>
実施形態5のMRI装置について説明する。
【0104】
実施形態5では、脳アトラスのROI形状を、個人(被検体)の脳形態に一致させるように変形することによって、個人脳空間における解析を行う。すなわち、実施形態1~4のように、変形パラメータを用いてATT画像やCBF画像を標準脳に一致させるように変形するのではなく、脳アトラスに対して、変形パラメータを逆方向に適用することによって、脳アトラスを被検体の個人の脳空間に合うように変形させ、変形後の脳アトラスのROIを用いてATT画像やCBF画像の解析を行う。
【0105】
図10は、本発明の実施形態3の演算処理部8の処理フローを示すフローチャートである。以下、図10の各ステップについて詳細に説明する。
【0106】
(ステップS201~S205)
演算処理部8は、実施形態1と同様に、ステップS201~S205を行う。
【0107】
(ステップS601)
演算処理部8は、ステップS205で保存した変形パラメータを用いて、脳アトラスを逆方向に変形する。これにより、脳アトラスは、被検体の正規化前の3DT1強調画像に一致する形状に変形される。
【0108】
さらに、演算処理部8は、逆変形した脳アトラスを、ATT画像とCBF画像にRegistrationする。変形の手法は例えばDARTELなどの手法を用いる。
【0109】
(ステップS602)
演算処理部8は、ステップS601で算出した被検体の脳空間に一致した脳アトラスと、ATT画像と、CBF画像を用いてステップS208と同様に、健常人との乖離度を算出する。
【0110】
(ステップS209)
演算処理部8は、実施形態1のステップS209と同様に、乖離度とATT画像やCBF画像を表示する。
【0111】
以上が、実施形態5の演算処理部8の処理フローの説明である。
【0112】
上述してきたように、発明の実施形態5では、アトラスを逆変形することによって、脳血流動態の解析を行う。CBF、ATTを標準脳変形することによる値の変化を回避することができ、より正確な血流評価が可能になる。
【0113】
<<実施形態6>>
実施形態6のMRI装置について説明する。
【0114】
実施形態6では、ATT画像、CBF画像、3D T1強調画像に加えて、QSM(定量的磁化率マッピング(Quantitative Susceptibility Mapping))画像も用いて、統計分析を行う。
【0115】
図11は、本発明の実施形態3の演算処理部8の処理フローを示すフローチャートである。以下、図11の各ステップについて詳細に説明する。
【0116】
(ステップS1101~S1102)
演算処理部8は、実施形態1のステップS201~S202と同様に、Multi-PLD ASL画像、および、3DのT1強調画像、プロトン密度強調画像の撮像条件の設定を受け付け、撮像を実行するが、本実施形態では、これらに加えて、QSM画像の撮像条件の設定も受け付け、撮像を実行する。
【0117】
(ステップS203~S205)
演算処理部8は、実施形態1のステップS203~S205を行って、CBF画像とATT画像を生成するとともに、3D T1強調画像を標準脳に一致させるための変形パラメータを求める。
【0118】
(ステップS1106)
演算処理部8は、QSMの解析を行う。例えば、公知の手法を用いて、収集した位相画像から位相折り返しを除去した全体磁場マップを作成し、さらに背景磁場を除去した局所磁場マップを取得する。これに対して、双極子磁場を推定することで、磁化率マップ(QSM)を取得する。
(ステップS1107~S1109)
演算処理部8は、実施形態1のステップS206~S208と同様に、CBF画像とATT画像に加えてQSM画像を3DT1強調画像に位置合わせした後、ステップS205で保存した変形パラメータで変形させることにより、解剖学的に正規化する。
【0119】
さらに演算処理部8は、解剖学的に正規化したATT画像、CBF画像、QSM画像および3DT1強調画像を用いて、統計分析を行う。例えば、実施形態1と同様に、健常人の画像との乖離度を算出する。
【0120】
演算処理部8は、ATT画像およびCBF画像の他に、QSM画像および3DT1強調画像等の複数の画像種を用いて解析を行い、同一領域での血流の乖離度、磁化率の乖離度、脳容積の乖離度を同時に算出することも可能である。
【0121】
(ステップS209)
演算処理部8は、解析結果を画像表示する。
【0122】
以上が、実施形態6の演算処理部8の処理フローの説明である。
【0123】
上述してきたように、本発明の実施形態6では、複数の画像種を用いて解析することにより、同一領域での血流の乖離度、磁化率の乖離度、脳容積の乖離度を同時に算出することが可能になる。血流、磁化率、脳容積を同時に解析することによって、診断を容易にすることができる。
【0124】
以上、本発明の実施形態1~6について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0125】
1:被検体、2:静磁場発生系、3:傾斜磁場発生系、4:シーケンサ、5:送信系、6:受信系、7:信号処理系、8:演算処理部(CPU)、9:傾斜磁場コイル、10:傾斜磁場電源、11:高周波発信器、12:変調器、13:高周波増幅器、14a:高周波コイル(送信コイル)、14b:高周波コイル(受信コイル)、15:信号増幅器、16:直交位相検波器、17:A/D変換器、18:磁気ディスク、19:光ディスク、20:ディスプレイ、21:ROM、22:RAM、23:トラックボール又はマウス、24:キーボード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11