(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040882
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】水位予測方法、水位予測プログラム及び水位予測装置
(51)【国際特許分類】
E02B 1/00 20060101AFI20220304BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20220304BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20220304BHJP
G06Q 10/04 20120101ALI20220304BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20220304BHJP
【FI】
E02B1/00 Z
G06N3/02
G01W1/00 Z
G06Q10/04
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145810
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小松 知滉
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
5L049CC20
(57)【要約】
【課題】本開示は、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、水位予測地点の上流域の「全流域」の雨量データを入力せず、水位予測地点の上流域の「河川上」の雨量データを入力する。そして、水位予測地点の上流域の「河川上」の雨量データに対して、「畳み込み処理」を実行せず、「全結合処理のみ」を実行する。ここで、水位予測地点の上流域の「河川上」の雨量データとして、以下の(1)又は(2)のデータを入力する:(1)地上の雨量観測所で計測された「観測所雨量」のデータ、(2)上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータが地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータを用いて補正された「解析雨量」のデータ。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水位予測地点の上流域の河川上及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータと、前記水位予測地点及び前記水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する雨量入力ステップと、
前記観測所雨量のデータと、前記水位データと、に対して、畳み込みレイヤを備えないニューラルネットワークの全結合処理を実行する全結合ステップと、
前記水位予測地点及び前記水位予測時刻の水位を予測する水位予測ステップと、
を順に備えることを特徴とする水位予測方法。
【請求項2】
水位予測地点の上流域の河川上及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータが地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータを用いて補正された解析雨量のデータと、前記水位予測地点及び前記水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する雨量入力ステップと、
前記解析雨量のデータと、前記水位データと、に対して、畳み込みレイヤを備えないニューラルネットワークの全結合処理を実行する全結合ステップと、
前記水位予測地点及び前記水位予測時刻の水位を予測する水位予測ステップと、
を順に備えることを特徴とする水位予測方法。
【請求項3】
前記雨量入力ステップでは、前記水位予測地点の上流域のうちの最上流域を除く流域の河川上及び前記水位予測時刻より以前の前記雨量データを入力する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の水位予測方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の水位予測方法の前記雨量入力ステップ、前記全結合ステップ及び前記水位予測ステップをコンピュータに実行させる水位予測プログラム。
【請求項5】
請求項4に記載の水位予測プログラムをインストールされた水位予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機械学習を用いて河川の水位を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習を用いて河川の水位を予測する技術が、特許文献1等に開示されている。
【0003】
従来技術の畳み込みニューラルネットワークを
図1に示す。従来技術の雨量データ及び水位データの分布を
図2に示す。従来技術の畳み込みニューラルネットワークCは、畳み込みレイヤ1、・・・、2、全結合入力レイヤ3、全結合隠れレイヤ4及び全結合出力レイヤ5を備える。
【0004】
まずは、水位予測地点の上流域の全流域及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータと、水位予測地点(水位予測地点の上流域を含めてもよい。)及び水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する。
【0005】
畳み込みレイヤ1、・・・、2は、レーダ雨量のデータのみに対して、畳み込み処理を実行する。全結合入力レイヤ3、全結合隠れレイヤ4及び全結合出力レイヤ5は、レーダ雨量のデータと、水位データと、に対して、全結合処理を実行する。
【0006】
よって、水位予測地点及び水位予測時刻の水位を予測することができる。ここで、レーダ雨量のデータ及び水位データの学習時には、水位予測誤差の逆伝搬に基づいて、畳み込みレイヤ1、・・・、2、全結合入力レイヤ3及び全結合隠れレイヤ4のパラメータを設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の水位予測結果を
図3に示す。水位予測時間は、6時間後である(後述の
図8を参照。)。予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。この理由として、以下の理由が考えられる。
【0009】
第1の理由として、水位予測地点の上流域の全流域の雨量データは、畳み込み処理により、経度、緯度及び距離の情報を失う可能性が高い。第2の理由として、水位予測地点の上流域の全流域の雨量データは、水位予測地点の水位と相関が低い可能性が高い。水位予測地点の上流域の全流域の地形データ及び地下水データを考慮すれば、水位予測精度が高くなるであろうが、入力データ量が多くなり学習時間及び予測時間が長くなる。
【0010】
第3の理由として、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量は、実際に降る雨量を必ずしも反映しないことが考えられる。従来技術のレーダ雨量と観測所雨量との間の関係を
図4及び
図5に示す。
図4では、レーダ雨量と観測所雨量との間に、大きな相違が生じている。
図5では、レーダ雨量と観測所雨量とのプロットが、レーダ雨量=観測所雨量の直線上に分布していない。これは、レーダ反射強度から実際に降る雨量への換算処理に多くの仮定が含まれるうえに、雨雲が降雨とならずに上空を流れるからと考えられる。
【0011】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、水位予測地点の上流域の「全流域」の雨量データを入力せず、水位予測地点の上流域の「河川上」の雨量データを入力する。そして、水位予測地点の上流域の「河川上」の雨量データに対して、「畳み込み処理」を実行せず、「全結合処理のみ」を実行する。ここで、水位予測地点の上流域の「河川上」の雨量データとして、以下の(1)又は(2)のデータを入力する:(1)地上の雨量観測所で計測された「観測所雨量」のデータ、(2)上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータが地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータを用いて補正された「解析雨量」のデータ。
【0013】
具体的には、本開示は、水位予測地点の上流域の河川上及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータと、前記水位予測地点及び前記水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する雨量入力ステップと、前記観測所雨量のデータと、前記水位データと、に対して、畳み込みレイヤを備えないニューラルネットワークの全結合処理を実行する全結合ステップと、前記水位予測地点及び前記水位予測時刻の水位を予測する水位予測ステップと、を順に備えることを特徴とする水位予測方法である。
【0014】
この構成によれば、まず、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、全結合処理のみにより、経度、緯度及び距離の情報を失う可能性が低い。また、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、水位予測地点の水位と相関が高い可能性が高い。また、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、水位予測地点の上流域の全流域の雨量データと比べて、入力データ量が少ない。また、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量は、実際に降る雨量を当然に反映している。よって、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くすることができる。
【0015】
また、本開示は、水位予測地点の上流域の河川上及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータが地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータを用いて補正された解析雨量のデータと、前記水位予測地点及び前記水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する雨量入力ステップと、前記解析雨量のデータと、前記水位データと、に対して、畳み込みレイヤを備えないニューラルネットワークの全結合処理を実行する全結合ステップと、前記水位予測地点及び前記水位予測時刻の水位を予測する水位予測ステップと、を順に備えることを特徴とする水位予測方法である。
【0016】
この構成によれば、まず、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、全結合処理のみにより、経度、緯度及び距離の情報を失う可能性が低い。また、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、水位予測地点の水位と相関が高い可能性が高い。また、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、水位予測地点の上流域の全流域の雨量データと比べて、入力データ量が少ない。また、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量が地上の雨量観測所で計測された観測所雨量を用いて補正された解析雨量は、実際に降る雨量を精度よく反映していると考えられる。よって、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くすることができる。そして、将来的な地上の雨量観測所の削減に対しても、この構成を適用可能である。
【0017】
また、本開示は、前記雨量入力ステップでは、前記水位予測地点の上流域のうちの最上流域を除く流域の河川上及び前記水位予測時刻より以前の前記雨量データを入力することを特徴とする水位予測方法である。
【0018】
ここで、最上流域にダム放流等の人為的要因が存在することがある。そして、最上流域から水位予測地点まで河川の流れが水位予測時間より長い時間を要することがある。この構成によれば、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データとして、これらの最上流域の河川上の雨量データを除外する。よって、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データとして、水位予測地点の水位と相関が高い雨量データのみを抽出することができる。
【0019】
また、本開示は、以上に記載の水位予測方法の前記雨量入力ステップ、前記全結合ステップ及び前記水位予測ステップをコンピュータに実行させる水位予測プログラムである。
【0020】
この構成によれば、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くするプログラムを提供することができる。
【0021】
また、本開示は、以上に記載の水位予測プログラムをインストールされた水位予測装置である。
【0022】
この構成によれば、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くするコンピュータを提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本開示は、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】従来技術の畳み込みニューラルネットワークを示す図である。
【
図2】従来技術の雨量データ及び水位データの分布を示す図である。
【
図4】従来技術のレーダ雨量と観測所雨量との間の関係を示す図である。
【
図5】従来技術のレーダ雨量と観測所雨量との間の関係を示す図である。
【
図6】第1、2実施形態のニューラルネットワークを示す図である。
【
図7】第1実施形態の雨量データ及び水位データの分布を示す図である。
【
図8】第1、2実施形態の雨量データ及び水位データの内容を示す図である。
【
図9】第1実施形態の水位予測結果を示す図である。
【
図10】第1比較例の雨量データ及び水位データの分布を示す図である。
【
図11】第1比較例の水位予測結果を示す図である。
【
図12】第1実施形態及び第1比較例の水位予測結果を示す図である。
【
図13】第1比較例の水位予測結果を示す図である。
【
図14】第2比較例の観測所雨量の算出方法を示す図である。
【
図15】第2比較例の観測所雨量の算出方法を示す図である。
【
図16】第2比較例の観測所雨量の予測方法を示す図である。
【
図17】第2比較例の観測所雨量の予測方法を示す図である。
【
図18】第2比較例の観測所雨量の予測方法を示す図である。
【
図19】第2比較例の観測所雨量の予測方法を示す図である。
【
図20】第2比較例の観測所雨量の予測方法を示す図である。
【
図21】第2比較例の観測所雨量の予測方法を示す図である。
【
図22】第2比較例の水位予測結果を示す図である。
【
図23】第2実施形態の雨量データ及び水位データの分布を示す図である。
【
図24】第2実施形態の水位予測結果を示す図である。
【
図25】第2実施形態の解析雨量と観測所雨量との間の関係を示す図である。
【
図26】第2実施形態の解析雨量と観測所雨量との間の関係を示す図である。
【
図27】第1、2実施形態の雨量データ及び水位データの選択を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0026】
(第1実施形態の水位予測方法)
第1実施形態のニューラルネットワークを
図6に示す。第1実施形態の雨量データ及び水位データの分布を
図7に示す。第1実施形態のニューラルネットワークNは、全結合入力レイヤ6、全結合隠れレイヤ7及び全結合出力レイヤ8を備え、以下の処理を実行する水位予測プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現可能である。
【0027】
まずは、水位予測地点の上流域の河川上及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータと、水位予測地点(水位予測地点の上流域を含めてもよい。)及び水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する。ここで、水位予測地点の上流域の河川上は、水位予測地点の上流域の河川直上のみならず、地上の雨量観測所の設置位置等の、水位予測地点の上流域の河川近傍を含むものである。
【0028】
全結合入力レイヤ6、全結合隠れレイヤ7及び全結合出力レイヤ8は、観測所雨量のデータと、水位データと、に対して、全結合処理を実行する。ここで、ニューラルネットワークNは、畳み込みニューラルネットワークCと異なり、畳み込みレイヤを備えない。
【0029】
よって、水位予測地点及び水位予測時刻の水位を予測することができる。ここで、観測所雨量のデータ及び水位データの学習時には、水位予測誤差の逆伝搬に基づいて、全結合入力レイヤ6及び全結合隠れレイヤ7のパラメータを設定することができる。
【0030】
第1実施形態の雨量データ及び水位データの内容を
図8に示す。訓練期間は、2006年1月1日から2011年12月31日までである。テスト期間は、2012年1月1日から2012年7月31日までである。水位予測時間は、6時間後である。地上の水位観測所の台数は、水位予測地点での1か所及び水位予測地点の上流域の河川上の8か所である。地上の雨量観測所の台数は、水位予測地点の上流域の河川上の20か所である。
【0031】
水位予測地点及び水位予測時刻の水位を予測するための水位データとして、水位予測地点及び水位予測地点の上流域の河川上において、過去12時間の各時刻の水位データと、過去12時間にわたる水位変化データと、を入力する。ただし、水位データ抽出閾値は、最頻値(標準水位)+0.5m以上であり、ピーク近傍水位を抽出する。
【0032】
水位予測地点及び水位予測時刻の水位を予測するための雨量データとして、水位予測地点の上流域の河川上において、過去12時間の各時刻の雨量データと、過去12時間にわたる累加雨量データと、将来6時間の各時刻の雨量データと、将来6時間にわたる累加雨量データと、を入力する。ただし、将来6時間の各時刻の雨量データは、水位学習時には既知の雨量データであるが、水位予測時には予報された雨量データである。
【0033】
第1実施形態の水位予測結果を
図9に示す。水位予測時間は、6時間後である(前述の
図8を参照。)。予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じにくく、水位自体にも相違が生じにくい。この理由として、以下の理由が考えられる。
【0034】
第1の理由として、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、全結合処理のみにより、経度、緯度及び距離の情報を失う可能性が低い。第2の理由として、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、水位予測地点の水位と相関が高い可能性が高い。しかも、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、水位予測地点の上流域の全流域の雨量データと比べて、入力データ量が少なくなり学習時間及び予測時間が短くなる。
【0035】
第3の理由として、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量は、実際に降る雨量を当然に反映している。よって、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くすることができる。
【0036】
ここで、将来的な地上の雨量観測所の削減に対して、第1実施形態を適用不能である。そこで、将来的な地上の雨量観測所の削減に対して、まず第1、2比較例を適用不能であることを説明し、次に第2実施形態を適用可能であることを説明する。
【0037】
(第1比較例の水位予測方法)
第1比較例の雨量データ及び水位データの分布を
図10に示す。第1比較例のニューラルネットワーク、雨量データ及び水位データは、
図6及び
図8とほぼ同様である。
【0038】
図10では、水位予測地点の上流域の全流域及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータと、水位予測地点(水位予測地点の上流域を含めてもよい。)及び水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する。ここで、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータは、水位予測地点から0~10kmでの平均レーダ雨量のデータと、水位予測地点から10~20kmでの平均レーダ雨量のデータと、水位予測地点から20~30kmでの平均レーダ雨量のデータと、水位予測地点から30~40kmでの平均レーダ雨量のデータと、に集約される。
【0039】
第1比較例の水位予測結果を
図11に示す。水位予測時間は、6時間後である(前述の
図8を参照。)。予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。この理由として、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量は、実際に降る雨量を必ずしも反映しないことが考えられる。
【0040】
第1実施形態及び第1比較例の水位予測結果を
図12に示す。理想的には、避難判断水位(4m)又は氾濫注意水位(3m)に到達したことを、実時刻と同時刻に予測及び発令すればよい。第1実施形態では、避難判断水位(4m)又は氾濫注意水位(3m)に到達したことを、実時刻より早く予測及び発令してしまうものの、避難勧告上の問題はない。第1比較例では、避難判断水位(4m)又は氾濫注意水位(3m)に到達したことを、実時刻より遅く予測及び発令してしまうとともに、避難判断水位(4m)に到達したことを、予測及び発令しないことがあるため、避難勧告上の問題がある。
【0041】
第1比較例の水位予測結果をもう一つのみ
図13に示す。地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータを用いて、水位予測地点の水位を学習するものの、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータを用いて、水位予測地点の水位を予測している。
【0042】
図13では、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。この理由として、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量は、実際に降る雨量を必ずしも反映しないことが考えられる。
【0043】
(第2比較例の水位予測方法)
第2比較例の観測所雨量の算出方法を
図14及び
図15に示す。第2比較例の観測所雨量の予測方法を
図16から
図21までに示す。第2比較例のニューラルネットワーク、雨量データ及び水位データは、
図6及び
図8とほぼ同様である。
【0044】
図14から
図21まででは、水位予測地点の上流域の河川上及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータと、水位予測地点(水位予測地点の上流域を含めてもよい。)及び水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する。ここで、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータに基づいて、以下のように算出/予測される。
【0045】
図14では、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、その雨量観測所を中心とする円内の平均レーダ雨量のデータと等しいとして算出される。すると、算出された観測所雨量は、実際の観測所雨量と大きく相違している。よって、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。
【0046】
図15では、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、その雨量観測所を中心とする円内の上位レーダ雨量のデータと等しいとして算出される。すると、算出された観測所雨量は、実際の観測所雨量と多少は相違している。よって、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。
【0047】
図16では、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、その雨量観測所を中心とする円内の平均レーダ雨量のデータを入力として学習される。すると、予測された観測所雨量は、実際の観測所雨量と大きく相違している。よって、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。
【0048】
図17では、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、その雨量観測所を中心とする円内の上位レーダ雨量のデータを入力として学習される。すると、予測された観測所雨量は、実際の観測所雨量と大きく相違している。よって、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。
【0049】
図18では、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、その雨量観測所を中心とする同心円内の平均レーダ雨量のデータを入力として学習される。すると、予測された観測所雨量は、実際の観測所雨量と大きく相違している。よって、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。
【0050】
図19では、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、その雨量観測所の周囲の各矩形内の平均レーダ雨量のデータを入力として学習される。すると、予測された観測所雨量は、実際の観測所雨量と大きく相違している。よって、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。
【0051】
図20では、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、その雨量観測所を中心とする円内の各点レーダ雨量のデータを入力として学習される。すると、予測された観測所雨量は、実際の観測所雨量と大きく相違している。よって、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。
【0052】
図21では、地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータは、その雨量観測所を共有する各円内の平均レーダ雨量のデータを入力として学習される。すると、予測された観測所雨量は、実際の観測所雨量と大きく相違している。よって、予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。
【0053】
第2比較例(
図15の場合)の水位予測結果を
図22に示す。水位予測時間は、6時間後である(前述の
図8を参照。)。予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じやすく、水位自体にも相違が生じやすい。この理由として、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量は、実際に降る雨量を必ずしも反映しないことが考えられる。
【0054】
(第2実施形態の水位予測方法)
第2実施形態のニューラルネットワークを
図6に示す。第2実施形態の雨量データ及び水位データの分布を
図23に示す。第2実施形態のニューラルネットワークNは、全結合入力レイヤ6、全結合隠れレイヤ7及び全結合出力レイヤ8を備え、以下の処理を実行する水位予測プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現可能である。
【0055】
まずは、水位予測地点の上流域の河川上及び水位予測時刻より以前の雨量データとしての、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量のデータが地上の雨量観測所で計測された観測所雨量のデータを用いて補正された解析雨量のデータと、水位予測地点(水位予測地点の上流域を含めてもよい。)及び水位予測時刻より過去の水位データと、を入力する。ここで、水位予測地点の上流域の河川上は、水位予測地点の上流域の河川直上のみならず、地上の雨量観測所の設置位置等の、水位予測地点の上流域の河川近傍を含むものである。
【0056】
全結合入力レイヤ6、全結合隠れレイヤ7及び全結合出力レイヤ8は、解析雨量のデータと、水位データと、に対して、全結合処理を実行する。ここで、ニューラルネットワークNは、畳み込みニューラルネットワークCと異なり、畳み込みレイヤを備えない。
【0057】
よって、水位予測地点及び水位予測時刻の水位を予測することができる。ここで、解析雨量のデータ及び水位データの学習時には、水位予測誤差の逆伝搬に基づいて、全結合入力レイヤ6及び全結合隠れレイヤ7のパラメータを設定することができる。なお、第2実施形態の雨量データ及び水位データは、
図8とほぼ同様である。
【0058】
第2実施形態の水位予測結果を
図24に示す。水位予測時間は、6時間後である(前述の
図8を参照。)。予測水位では、実測水位と比べて、水位ピーク時刻に遅延が生じにくく、水位自体にも相違が生じにくい。この理由として、以下の理由が考えられる。
【0059】
第1の理由として、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、全結合処理のみにより、経度、緯度及び距離の情報を失う可能性が低い。第2の理由として、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、水位予測地点の水位と相関が高い可能性が高い。しかも、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データは、水位予測地点の上流域の全流域の雨量データと比べて、入力データ量が少なくなり学習時間及び予測時間が短くなる。
【0060】
第3の理由として、上空のレーダ反射で計測されたレーダ雨量が地上の雨量観測所で計測された観測所雨量を用いて補正された解析雨量は、実際に降る雨量を精度よく反映していると考えられる。第2実施形態の解析雨量と観測所雨量との間の関係を
図25及び
図26に示す。
図25では、解析雨量と観測所雨量との間に、ほぼ相違が生じない。
図26では、解析雨量と観測所雨量とのプロットが、解析雨量=観測所雨量の直線上にほぼ分布する。よって、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くすることができる。そして、将来的な地上の雨量観測所の削減(解析雨量を算出可能な削減程度)に対しても、第2実施形態を適用可能である。
【0061】
第1、2実施形態の雨量データ及び水位データの選択を
図27に示す。水位予測地点の上流域のうちの最上流域を除く流域の河川上及び水位予測時刻より以前の雨量データ(第1/2実施形態では、それぞれ、観測所雨量/解析雨量のデータ)を入力する。
【0062】
図27では、水位予測地点の上流域の河川上の水位観測所として、水位予測地点から上流域へ向けて、水位観測所#1、#2、#3、#4、#5を考慮する。そして、水位予測地点の上流域の河川上の雨量観測所(解析雨量算出点)として、水位予測地点から上流域へ向けて、雨量観測所(解析雨量算出点)#A、#B、#C、#D、#Eを考慮する。
【0063】
パターン1として、水位観測所#1、#2及び雨量観測所(解析雨量算出点)#A、#Bを考慮したときには、水位予測誤差は、0.5mであった。パターン2として、水位観測所#1~#3及び雨量観測所(解析雨量算出点)#A~#Cを考慮したときには、水位予測誤差は、0.2mであり、パターン1と比べて、大幅に減少した。パターン3として、水位観測所#1~#5及び雨量観測所(解析雨量算出点)#A~#Eを考慮したときには、水位予測誤差は、1.0mであり、パターン2と比べて、却って増加した。
【0064】
これは、最上流域(#4、#5、#D、#E)にダム放流等の人為的要因が存在することがあるからと考えられる。そして、最上流域(#4、#5、#D、#E)から水位予測地点まで河川の流れが水位予測時間より長い時間を要することがあるからと考えられる。
【0065】
そこで、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データとして、これらの最上流域の河川上の雨量データを除外する。よって、水位予測地点の上流域の河川上の雨量データとして、水位予測地点の水位と相関が高い雨量データのみを抽出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示の水位予測方法、水位予測プログラム及び水位予測装置は、機械学習を用いて河川の水位を予測するにあたり、入力データ量を少なくしつつ、水位予測精度を高くすることができる。
【符号の説明】
【0067】
C:畳み込みニューラルネットワーク
1、2:畳み込みレイヤ
3:全結合入力レイヤ
4:全結合隠れレイヤ
5:全結合出力レイヤ
N:ニューラルネットワーク
6:全結合入力レイヤ
7:全結合隠れレイヤ
8:全結合出力レイヤ