(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040970
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】丸編機におけるジャカード編地編成機構、その編成機構を用いた編成方法及びその編成機構で用いられるシンカー
(51)【国際特許分類】
D04B 15/06 20060101AFI20220304BHJP
D04B 15/32 20060101ALI20220304BHJP
D04B 15/38 20060101ALI20220304BHJP
D04B 15/68 20060101ALI20220304BHJP
D04B 9/38 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
D04B15/06
D04B15/32
D04B15/38
D04B15/68
D04B9/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145950
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000154510
【氏名又は名称】株式会社福原精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087815
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 昭二
(72)【発明者】
【氏名】古川 智之
(72)【発明者】
【氏名】辻郷 淳
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博之
【テーマコード(参考)】
4L054
【Fターム(参考)】
4L054AA01
4L054AB04
4L054AB05
4L054AB07
4L054BA03
4L054JA04
4L054KA23
4L054LA02
4L054NA06
4L054NA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プレーティング糸とグラウンド糸が反転しにくいシンカー及びそのシンカーを用いた編成機構を提供する。
【解決手段】丸編機のプレーティング編成を可能とする編成機構において、シンカーがシンカートップ上に第一移行面と第二移行面を有する。シンカーは動作軌道が第一軌道と第二軌道のどちらかに選択される。第一軌道は、編針の下降中に、第一移行面を編針に最も近接させ、そのまま編針を編針の動作軌道の最下点に下降させる。第二軌道は、編針の下降中に、第二移行面を編針に最も近接させ、そのまま前記編針を編針の動作軌道の最下点に下降させる。これにより丸編機のプレーティング編成中に第一糸と第二糸の位置を入れ換えて編成することが可能である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸編機のプレーティング編成において、丸編機の稼働中に第一糸と第二糸の位置を入れ換えて編成することを可能とする編成機構であって、
前記編成機構は上下運動する編針と、前記編針に対して直交するよう水平に前後運動するシンカーを有し、
前記シンカーはシンカートップ上に第一移行面と第二移行面を有し、前記第一移行面はシンカートップの高さである第一高さから第一高さとは異なる第二高さへ前方に向かって移行する面であり、第二移行面は前記第二高さから前記第一高さへ前方に向かって移行する面であり、
前記シンカーは動作軌道を第一軌道と第二軌道のどちらか一方の軌道をとり、
前記第一軌道は、前記編針の下降中に、前記第一移行面を前記編針に最も近接させ、そのまま前記編針を編針の動作軌道の最下点に下降させるものであり、
前記第二軌道は、前記編針の下降中に、前記第二移行面を前記編針に最も近接させ、そのまま前記編針を編針の動作軌道の最下点に下降させるものであり、
これにより丸編機のプレーティング編成中に第一糸と第二糸の位置を入れ換えて編成することが可能である編成機構。
【請求項2】
前記編成機構は、各前記シンカーを前記第一軌道又は前記第二軌道に案内可能なシンカーカムと、前記各編針を案内するニードルカムを有することを特徴とする、請求項1の編成機構。
【請求項3】
前記各シンカーについて前記第一軌道と前記第二軌道のどちらかを選択するシンカー選択装置を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の編成機構。
【請求項4】
全ての前記編針は動作軌道が一定であることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の編成機構。
【請求項5】
第一糸及び第二糸を前記編針へ給糸するヤーンキャリアを有し、前記第二糸は前記第一糸より下方に位置するよう給糸され、前記第一糸よりも早いタイミングで前記第一移行面又は前記第二移行面に案内されることを特徴とする、請求項1乃至5の何れかに記載の編成機構。
【請求項6】
前記第一移行面は前方が高く後方が低い斜面であり、前記第二移行面は前方が低く後方が高い斜面であり、これにより前記シンカーが前記第一軌道のときは前記第一糸は前方、前記第二糸は後方に位置したループが形成され、前記シンカーが前記第二軌道のときは前記第一糸は後方、前記第二糸は前方に位置したループが形成されることを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載の編成機構。
【請求項7】
第一移行面の上方においてシンカーノーズは後方から前方に向かって突出しており、かつシンカーノーズの前端は第一移行面の前端よりも後方に位置するよう形成されていることを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載の編成機構。
【請求項8】
第一移行面の水平に対する傾斜角は、第二移行面の水平に対する傾斜角と同じであることことを特徴とする、請求項1乃至8の何れかに記載の編成機構。
【請求項9】
2フィーダリピートのプレーティング編成であり、最初のフィーダで第二糸を編針のフック内に給糸し、次のフィーダで第一糸を編針のフック内に給糸することを特徴とする、請求項1乃至9の何れかに記載の編成機構。
【請求項10】
1フィーダリピートのプレーティング編成であり、全フィーダで第二糸を第一糸よりも高い位置から編針のフック内に給糸することを特徴とする、請求項1乃至9の何れかに記載の編成機構。
【請求項11】
請求項1乃至11の何れかに記載の編成機構を用いたプレーティングジャカード編成方法。
【請求項12】
下向きの水平面であるシンカー基部下面を有するシンカー基部と、シンカー基部の後方から上方向に突出するシンカーバットと、シンカー基部の前方から上方及び前方に形成されたシンカー前部を有し、
前記シンカー前部は、
最上部に形成されたシンカーノーズと、
シンカーノーズ上面、下向きの水平面であるシンカーノーズ下面、及びシンカーノーズ下面の高さ以上の高さでシンカーノーズ上面とシンカーノーズ下面の間に形成されたシンカーノーズ移行面、により形成された前記シンカーノーズと、
シンカーノーズ下面に平行に面する上向きの水平面である第一シンカートップと、
前記シンカーノーズ下面と前記第一シンカートップの間に形成されたシンカースロート移行面と、
前記第一シンカートップと同じ高さの上向きの水平面である第二シンカートップと、
前記第一シンカートップの高さからシンカーノーズ下面より低い第二高さへ前方に向かって移行する第一移行面と、
前記第二高さから第二シンカートップの高さへ前方に向かって移行する第二移行面と、
を有することを特徴とする、プレーティングジャカード編成用シンカー。
【請求項13】
前記シンカーノーズ上面は上向きの水平面であって、前記シンカーノーズ移行面は前記シンカーノーズ上面以下の高さであることを特徴とする、請求項13または14に記載のプレーティングジャカード編成用シンカー。
【請求項14】
第一移行面と第二移行面の間に、上向きの水平面であって前後両端が第二高さに位置する第三シンカートップが形成されていることを特徴とする、請求項13乃至15の何れかに記載のプレーティングジャカード編成用シンカー。
【請求項15】
第一移行面の上方においてシンカーノーズが後方から前方に向かって突出しており、かつシンカーノーズの前端は第一移行面の前端よりも後方に位置するよう形成されていることを特徴とする、請求項13乃至16の何れかに記載のプレーティングジャカード編成用シンカー。
【請求項16】
前記シンカー基部よりも後方に、選択部が設けられていることを特徴とする、請求項12乃至15の何れかに記載のプレーティングジャカード編成用シンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸編機におけるプレーティング編成によりジャカード編地を編成するための編成機構、その編成機構を用いた編成方法及びその編成機構で用いられるシンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばグラウンド糸とプレーティング糸の2本を編針に給糸し、引き揃えて編成することで、2本の糸により1つの編目を形成するプレーティング編成が知られている。これにより、表面には表側の糸のループが、裏面には裏側の糸のループが表れ、裏面と表面で異なった糸によるループを表す編地を編成することができる。
【0003】
一方で、選針装置によりジャカード編地を編成する方法は一般的によく知られている。これは編針の選針装置により編針1本ごとの軌道をニット、タック、ウエルトから選択することで、自由な柄を編地表面に表すものである。
【0004】
そして近年、さらなる高品質の編地への要求により、より自由な柄でかつより軽くフラットな編地へのニーズが高まっている。このような編地を編成する方法の一つとして、プレーティング編成を行い、かつその編成中にこの2本の糸の位置を入れ換えることで自由な柄を編地表面に表すプレーティングジャカード編成が従来より実施されている。
【0005】
例えば米国特許第1977590号は、複数種類のシンカーを使って糸位置を変える編成機構を開示している。これは複数種類のシンカーを使用することで、糸の位置を入れ換えるものである。
【0006】
ここで、シンカートップとは、通常のシングルニット編成において編針がフックに糸を捉えて編針の動作軌道の最下点まで下がりきったときに糸が接触しているシンカー上の上向きの水平面であり、編針とシンカートップの間の距離でループの大きさが決定される。シンカーノーズは、シンカートップの上方に、シンカートップと空間を開けて、かつシンカートップと一体的に形成されている。シンカーノーズは、ニードルシリンダの中心方向である前方へ、突出している部分である。ニードルシリンダとは丸編機の編針を収容する円形部材である。シンカーノーズはシンカートップとの間に溝(シンカースロート)を形成する。このシンカースロートは針の上下時にオールドループを押さえる役割を果たすものである。シンカーの後方に形成されたシンカーバットはシンカーカムの溝に係合しており、シンカーを収容するシンカーダイヤルが回転することにより、シンカーバットは固定のシンカーカムのガイドを受けシンカーが前後に動く。シンカーバットが突出する方向を上、その逆方向を下とする。シンカー全体から見てシンカーバットが形成されている方向は後、その逆方向は前となる。
【0007】
また例えば日本特許6696035号は、特殊なシンカーと編針の選針装置を使用した編成機構を開示している。これはシンカーを1度押すタイミングに対して編針の下りるタイミングを変えることで、グラウンド糸の位置を押し込むか否かを選択し、これにより2本の糸の位置を変えるものである。シンカースロートにグラウンド糸を入れるか、シンカーノーズでグラウンド糸を押して糸の位置を変えるか選択する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第1977590号
【特許文献2】日本特許6696035号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の編成機構は、丸編機1台につき複数の種類のシンカーが必要であり、部品点数が増えかつ費用も増える。また、複数の種類のシンカーを入れるスペースを確保すると、その分、編針を設けるスペースを取られるため、ゲージを下げることになり、よりハイゲージの細かな密度の編地への要求に対応できないという問題があった。
【0010】
また特許文献2に記載の編成機構は、シンカーノーズ以上の高さでフック内の糸の位置を操作するため、ループを形成するシンカートップまでの距離が遠く、2本の糸がシンカートップに下りるまでは糸の位置が不安定であるため2本の糸の位置が入れ替わる、いわゆる反転が起きやすい。またグラウンド糸をシンカーノーズで押すなど糸の動きが大きく、糸に負荷をかけてしまうため、ブレを発生させ、これも反転を生じさせる原因となる。
【0011】
本発明は、これらの問題に鑑み、プレーティング編成中にグラウンド糸とプレーティング糸の位置を入れ換えるプレーティングジャカード編成において、シンカーの種類を増やすことなく、かつハイゲージの編地の編成の要求に応えうるものであって、プレーティング糸とグラウンド糸が反転しにくい編成機構及びその編成機構を用いたシンカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の編成機構は、丸編機のプレーティング編成中に第一糸と第二糸の位置を入れ換えて編成することを可能とするものであって、
前記編成機構は上下運動する編針と、前記編針に対して直交するよう水平に前後運動するシンカーを有し、
前記シンカーはシンカートップ上に第一移行面と第二移行面を有し、前記第一移行面はシンカートップの高さである第一高さから第一高さとは異なる第二高さへ前方に向かって移行する面であり、第二移行面は前記第二高さから前記第一高さへ前方に向かって移行する面であり、
前記シンカーは前記シンカーごとに動作軌道を第一軌道と第二軌道のどちらか一方の軌道をとり、
前記第一軌道は、前記編針の下降中に、前記第一移行面を前記編針に最も近接させ、その近接した位置のまま前記編針を編針の動作軌道の最下点に下降させるものであり、
前記第二軌道は、前記編針の下降中に、前記第二移行面を前記編針に最も近接させ、その近接した位置のまま前記編針を編針の動作軌道の最下点に下降させるものであり、
これにより丸編機のプレーティング編成中に第一糸と第二糸の位置を入れ換えて編成することが可能である編成機構である。
【0013】
本発明においては上下方向において上が高い、下が低いと表す。シンカートップは基本的に高さが一定の上向きの水平面である。この高さを第一高さとする。本発明はシンカートップ上に第一移行面と第二移行面を有する。そして、一般的なシングルニット丸編機用シンカーと同じように、シンカートップはシンカーノーズ下面に平行に面している。第一移行面は、前方に向かって、第一高さから、第一高さとは異なる第二高さへ移行する。このため第一移行面はシンカートップ上から第二高さへ移行する斜面又は曲面であるといえる。第二移行面は、前方に向かって、第二高さから第一高さへ移行する斜面又は曲面であるといえる。これにより前後方向において第一移行面と第二移行面は互いに逆方向が高い方向となる。また第二高さはシンカーノーズ下面の高さより低い。これにより第一移行面や第二移行面がループに接触してループの動きを阻害することを防止又は軽減している。
【0014】
本発明では、シンカーは一枚ごとに第一軌道と第二軌道のどちらかを選択する。一部のシンカーは第一軌道をとり、他のシンカーは第二軌道をとる。第一軌道では第一移行面が編針に最も近接するようにシンカーが移動する。その後、編針が動作軌道の最下点に下降するまで、シンカーはその位置をキープする。第二軌道では第二移行面が編針に最も近接するようにシンカーが移動する。その後、編針が最下点に下降するまで、シンカーはその位置をキープする。第一又は第二移行面が編針に最も近接するとき、第一又は第二移行面の一部または全部が、隣接する編針の間の領域内に位置するものとなる。編針が糸を捉え動作軌道の最下点に達したとき、編針のフックとその編針に隣接するシンカートップによりループが形成される。第一軌道では、前記第二糸は前後方向のうち前記第一移行面の低い方向に移動し、その後編針が下がり前記第一糸は前記第二糸が移動した方向とは逆の方向に位置した状態でループが形成される。また第二軌道では、前記第二糸は前後方向のうち前記第二移行面の低い方に移動し、その後編針が下がり前記第一糸は前記第二糸が移動した方向とは逆の方向に位置した状態でループが形成される。第一移行面と第二移行面は低い位置が逆方向であるため、編針のフック内において糸の位置が第一軌道とは逆になる。これにより、前記第一軌道で形成されたループと前記第二軌道で形成されたループは第一糸と第二糸の位置が逆となってループが形成される。
【0015】
これにより、プレーティング編成において第一糸と第二糸の位置を入れ換えることができ、第一糸と第二糸はシンカートップに比較的近い位置で前後案内されるので、反転する可能性をより抑えることができる。また、シンカーが糸を押したりするといった糸への負担を減らし、糸の移動量を減らすことができ、反転する可能性をより抑えることができる。
【0016】
前記編成機構は、各シンカーを第一軌道又は第二軌道に案内可能なシンカーカムと、各編針を案内するニードルカムを有する。
【0017】
これにより、シンカーはシンカーカムにより第一軌道又は第二軌道のどちらかの動作軌道に案内され、編針はニードルカムにより動作軌道に案内される。編針の動作軌道により編針は上下運動する。編針はシンカーの動作に対応して、第一移行面又は第二移行面が近接した状態で下降し、編針の動作軌道の最下点まで下降した後、再度上昇するといった上下運動を行う。シンカーカムはシンカーの動作軌道の全てを案内するものでなくてもよい。例えば第一軌道も第二軌道もとれる構造になっており、シンカー選択装置によってどちらか一方に案内されるものであってもよい。
【0018】
また、前記編成機構は、各シンカーの動作軌道について第一軌道と第二軌道のどちらかを選択するシンカー選択装置を有するものであることが好ましい。
【0019】
本発明は、本来はシンカーの動作軌道の選択方法は問わない。しかし、柄の大きさなどに制限のないシンカー選択装置を有することは好ましい。ただし、例えばカムとそれに対応するシンカーバットを有するシンカーの種類を増やすことで、選択装置がなくても第一軌道と第二軌道の選択を行い、プレーティング編成において第一糸と第二糸の位置を入れ換え、柄を編むことは可能である。
【0020】
また、前記編成機構における前記編針は動作軌道が一定である。
【0021】
本発明の編成機構では従来から存在するニット、タック、ウエルトといった編針が糸を受けるために上昇した後降下する部分の動作軌道の3ルートを編針の選針装置により選択して、例えばメッシュ組織など、違う編み組織を入れることもできる。その場合、ニット、タック、ウエルトで動作軌道が異なる部分以外の軌道は全ての編針が同じ軌道である。そういった編針の選針装置による柄を編成しない場合は、編針の動作軌道は全て同じ軌道でよく、シンカーの動作軌道を選択することで第一糸と第二糸の位置を入れ換え、プレーティングジャカード編成をすることができる。
【0022】
例えば、第一移行面は前方が高く後方が低い斜面であり、第二移行面は前方が低く後方が高い斜面であり、これによりシンカーが第一軌道のときは、第一糸は前方、第二糸は後方に位置したループが形成され、シンカーが第二軌道のときは第一糸は後方、第二糸は前方に位置したループが形成されるものであってもよい。
【0023】
これによればシンカートップ上には突出部が形成されており、第一移行面と第二移行面は当該突出部上に形成されているものとなる。そして、その突出部の後方に第一移行面が、前方に第二移行面が形成されているものとなる。シンカーは第一軌道のとき、前方へ案内されて第一移行面が編針に近接するように制御される。一方、第二軌道のときは、シンカーは第一軌道よりも後方へ案内されて第二移行面が編針に近接するように制御される。これによりフック内における糸の位置を変えて、編成されるプレーティングループの糸の位置を前後逆にすることができる。
【0024】
本発明の編成機構では、第一移行面の上方においてシンカーノーズが後方から前方に向かって突出しており、かつシンカーノーズの前端は第一移行面の前端よりも後方に位置するよう形成されている。
【0025】
これにより、シンカーノーズの前端は第一移行面の後方の一部の垂直方向において上方に位置するものとなる。丸編機のニードルシリンダの円周の接線方向から見たとき、編成工程において、編針のフックがシンカーノーズ付近まで下りたとき、編針のフック内の領域にシンカーノーズの前方に空間が空く。本発明においては、編針のフックがシンカーノーズ上面の高さを通過するまでに、シンカーは編針の真横に第一移行面又は第二移行面がくる位置をとる。この真横とは、隣接する編針同士の間の領域である。丸編機のニードルシリンダの円周の接線方向から見て、編針と、第一移行面又は第二移行面が重なる位置である。その後編針が動作軌道の最下点に達するまでシンカーはその位置をキープする。このため編針が糸を捉えて下降するときに糸はその空間を通ることになり、糸は自然と前方へ案内される。これにより後方へ案内された糸との距離が大きくなり、反転可能性が減少する。
【0026】
別の構成では、第一移行面は後方が高く前方が低い斜面であり、第二移行面は後方が低く前方が高い斜面であり、これによりシンカーが第一軌道のときは、第一糸は後方、第二糸は前方に位置したループが形成され、シンカーが第二軌道のときは、第一糸は前方、第二糸は後方に位置したループが形成されるものであってもよい。
【0027】
これによればシンカートップ上には陥没部が形成されており、第一移行面と第二移行面は当該陥没部上に形成されているものとなる。そして、その陥没部の後方に第一移行面が、前方に第二移行面が形成されているものとなる。シンカーは第一軌道のとき、前方へ案内されて第一移行面が編針に近接するように制御される。一方、第二軌道のときは、シンカーは第一軌道よりも後方へ案内されて第二移行面が編針に近接するように制御される。これによりシンカーの動作軌道の第一軌道と第二軌道でフック内における糸の位置を変えて、編成されるプレーティングループの糸の位置を前後逆にすることができる。
【0028】
第一移行面の水平に対する傾斜角は、第二移行面の水平に対する傾斜角と同じであることが好ましい。
【0029】
本発明においては、例えば第二高さが第一高さより高いとき、第一移行面は前方に向かって上り斜面、第二移行面は前方に向かって下り斜面の突起がシンカートップ上に存在するものとなる。このとき第一移行面により第二糸は第一移行面の後端に、第二移行面により第二糸は第二移行面の前端に案内される。これらの位置は、シンカートップと同じ第一高さである。一方、第一糸は、編針のフックがシンカートップの高さ付近を通過するとき、第一移行面または第二移行面により第二糸のある方向へ案内される。第二糸は既に第一高さである第一移行面の後端又は第二移行面の前端に位置しており、第一糸は、第二糸に各移行面側に隣接する位置に案内される。第一移行面のシンカートップに対する傾斜角が第二移行面の第二シンカートップに対する傾斜角と同じであれば、どちらの軌道であっても、第一糸の高さはほぼ同じとなり、そこから編針が動作軌道の最下点へステッチすることにより形成される第一糸のループの長さも同じである。第一糸は第二糸に隣接するため、第一軌道と第二軌道では第一糸の位置は第二糸に対して前後逆ではあるが、シンカーがどちらの軌道であっても第一糸のループの長さはほぼ同じとなる。
【0030】
本発明の編成機構は、第一糸及び第二糸を前記編針へ給糸するヤーンキャリアを有し、第二糸は第一糸より下方に位置するよう給糸され、第一糸よりも早いタイミングで第一移行面又は第二移行面に案内されることが好ましい。
【0031】
これによれば、本発明の編成機構はヤーンキャリアを含み、第一糸より下方に位置するよう第二糸が給糸される。これにより第二糸は第一糸よりも早く第一移行面又は第二移行面に到達し、第一移行面又は第二移行面の前後低い方向に案内され移動する。第二糸はシンカートップ上に形成された第一移行面又は第二移行面で案内されるため、シンカートップ上で第二糸が案内されることとなる。その後、編針が下がるにつれて第一糸も第一移行面又は第二移行面に案内される。第一糸は第二糸より遅いタイミングで第一移行面又は第二移行面によって前後低い方向へ案内され、既に案内された第二糸に隣接するように位置するものとなる。よって、シンカートップ上で糸の位置を案内し、それぞれの糸はそのまま大きく動くことがない状態で編針のフックがシンカートップより下へ下がることになり、糸の位置は確定しその後反転する余地が少なく、反転の可能性は低いものとなる。
【0032】
好ましくは、2フィーダリピートのプレーティング編成であり、最初のフィーダで第二糸を編針のフック内に給糸し、次のフィーダで第一糸を編針のフック内に給糸することである。
【0033】
反転防止のために、最初のフィーダで編針を上昇させて第二糸を編針のフック内に給糸し、一旦編針のフックをシンカートップあたりまで下降させる。次のフィーダで再度編針を上昇させ、このとき編針は上昇しても第二糸はシンカーノーズ下面に押さえられ、シンカートップあたりの位置で編針の開いたラッチに第二糸が架かった状態となり、第一移行面の低い方に案内される。一方、第一糸は上方でフック内に給糸され、第一糸と第二糸の位置を離すことができ、反転をより抑えることができる。2フィーダリピートのプレーティング編成のため、第1フィーダでは編針が軌道の最下点へ下降しない。これによりオールドループは編針から脱げない(ノックオーバーしない)。第2フィーダの後で編針が軌道の最下点へ下降し、オールドループはノックオーバーする。
【0034】
別の構成では、1フィーダリピートのプレーティング編成であり、全フィーダで、第一糸を第二糸よりも高い位置から編針のフック内に給糸し、第二糸を第一糸よりも低い位置から編針のフック内に給糸する。
【0035】
この構成によれば、第一糸と第二糸を1フィーダで挿入するため両方の糸は近くなり反転可能性が高くなるが、フィーダ数が増えるため生産量を向上させることができる。糸の種類や度目などの編成条件が、反転しにくい条件であれば有効である。
【0036】
本発明の編成方法は、上記編成機構を用いたプレーティングジャカード編成方法である。
【0037】
これにより、丸編機のプレーティング編成において、上下運動する編針及び前記編針に対して直行するよう水平に前後運動するシンカーにより、丸編機の稼働中に第一糸と第二糸の位置を入れ換えて編成する編成方法であって、
前記シンカーはシンカートップ上に第一移行面と第二移行面を有し、前記第一移行面はシンカートップの高さである第一高さから第一高さとは異なる第二高さへ前方に向かって移行する面であり、第二移行面は前記第二高さから前記第一高さへ前方に向かって移行する面であり、
前記シンカーは動作軌道を第一軌道と第二軌道のどちらかに選択され、
前記第一軌道は、前記編針の下降中に、前記第一移行面を前記編針に最も近接させ、そのまま前記編針を編針の動作軌道の最下点に下降させ、
前記第二軌道は、前記編針の下降中に、前記第二移行面を前記編針に最も近接させ、そのまま前記編針を編針の動作軌道の最下点に下降させ、
これにより丸編機のプレーティング編成中に第一糸と第二糸の位置を入れ換えることができる編成方法で編成することができる。
また、前述の編成機構を用いた編成方法で編成することができる。
【0038】
本発明のシンカーは、シンカーノーズと、シンカートップとを有するプレーティングジャカード編成用シンカーであって、前記シンカーノーズのシンカーノーズ下面はシンカートップに平行に面する下向きの水平面であり、前記シンカートップは前記シンカーノーズ下面の下方で前記シンカーノーズ下面に平行に面する上向きの水平面である第一シンカートップと、前記第一シンカートップの高さである第一高さと同じ高さの上向きの水平面であって前記第一シンカートップとは前方向に離れて形成されている第二シンカートップと、前記第一シンカートップの前端に接続されており、前記第一シンカートップの高さである第一高さから、前記シンカーノーズ下面より低い高さであって前記第一シンカートップの高さとは異なる第二高さへ、前方に向かって移行する第一移行面と、前記第二高さから、前記第一高さへ、前方に向かって移行し、かつ前端が第二シンカートップに接続する第二移行面とを有することを特徴とする。
【0039】
一般的にシングル丸編機で使用されるシンカーは、薄板状であって、下向きの水平面であるシンカー基部下面を有するシンカー基部と、シンカー基部の後方から上方向に突出するシンカーバットと、シンカー基部の前方上端から上方及び前方に形成されたシンカー前部で構成されている。シンカー前部においては、最上部にシンカーノーズが形成されている。シンカーノーズは前方へ突出した形状である。シンカーノーズの下方には、シンカーノーズとは間をあけてシンカートップが形成されている。このような一般的なシンカーは基本的に、シンカートップは上向きの水平面である。また基本的にシンカートップは全体が同じ高さである。また基本的に、シンカートップとシンカーノーズ下面は平行に面する。
【0040】
本発明におけるシンカーは、シンカーノーズがシンカーノーズ上面と、シンカーノーズ下面と、シンカーノーズ移行面により構成されている。シンカーノーズ下面は下向きの水平面である。シンカーノーズ移行面は、上下方向(高さ方向)において、シンカーノーズ上面の高さ以下でシンカーノーズ下面の高さ以上の高さの範囲内で、シンカーノーズ上面とシンカーノーズ下面の間に形成されている。上下方向において上が高い、下が低いと表す。
【0041】
また本発明においてシンカートップは後方に第一シンカートップ、前方に第二シンカートップを有する。第一シンカートップ及び第二シンカートップは上向きの水平面である。第一シンカートップ及び第二シンカートップは全体が同じ高さであって第一高さである。第一シンカートップはシンカーノーズ下面に平行に面している。第一シンカートップと第二シンカートップの間には、第一高さとは異なる第二高さへ前方に向かって移行する第一移行面と、第二高さから第一高さへ前方に向かって移行する第二移行面が形成されている。第二高さはシンカーノーズ下面の高さより低い。
【0042】
本発明は、下向きの水平面であるシンカー基部下面を有するシンカー基部と、シンカー基部の後方から上方向に突出するシンカーバットと、シンカー基部の前方から上方及び前方に形成されたシンカー前部と、前記シンカー前部の最上部に形成されたシンカーノーズと、シンカーノーズ上面、下向きの水平面であるシンカーノーズ下面、及びシンカーノーズ下面の高さ以上の高さでシンカーノーズ上面とシンカーノーズ下面の間に形成されたシンカーノーズ移行面により形成された前記シンカーノーズと、シンカーノーズ下面に平行に面する上向きの水平面である第一シンカートップと、前記シンカーノーズ下面と前記第一シンカートップの間に形成されたシンカースロート移行面と、前記第一シンカートップと同じ高さの上向きの水平面である第二シンカートップと、前記第一シンカートップの高さからシンカーノーズ下面より低い第二高さへ前方に向かって移行する第一移行面と、前記第二高さから第二シンカートップの高さへ前方に向かって移行する第二移行面と、を有するプレーティングジャカード編成用シンカーであることを特徴とする。
【0043】
これによれば、第一シンカートップ及び第二シンカートップの高さは第一高さであり、第一移行面は第一高さから第二高さへ前方に向かって移行するものであって、第二移行面は第二高さから第一高さへ前方に向かって移行するものである。第一シンカートップの前端と第一移行面の後端、第二移行面の前端と第二シンカートップの後端は接続されている。このため第一高さである第一シンカートップの前端から第一高さである第一移行面の後端を経て、第二高さである第一移行面の前端へ移行する。また第二高さである第二移行面の後端から第一高さである第二移行面の前端を経て、第一高さである第二シンカートップへ移行する。
【0044】
本発明のシンカーはシンカーノーズ上面は上向きの水平面であって、前記シンカーノーズ移行面はシンカーノーズ上面以下の高さであってもよい。
【0045】
この構成によれば、シンカーノーズ移行面はシンカーノーズ上面の高さ以下であってシンカーノーズ下面の高さ以上の高さの領域に形成される。このためシンカーノーズ移行面はシンカーノーズ移行面の高さがシンカーノーズ上面の高さより高くなったり、シンカーノーズ下面の高さより低くなったりしている部分がない。これにより、シンカーノーズ上面は、例えばダブルフリース編成用シンカーやパイル編成用シンカーのように、シンカーノーズ上面又はシンカーノーズ下面に段が付いているものでない。シンカーノーズ上面は上向きの水平面であって一様に同じ高さであり、途中で高さが変わっている部分はない。
【0046】
本発明のシンカーは、第一移行面と第二移行面の間に、上向きの水平面であって前後両端が第二高さに位置する第三シンカートップが形成されていることを特徴とする。
【0047】
第一移行面と第二移行面は逆方向に傾斜した斜面や曲面等である。本発明では各シンカーを制御して第一移行面又は第二移行面を編針に接近させる。これにより第一移行面や第二移行面を編針の真横に位置させるようにする。このシンカーの制御が細かく設定できない場合は、第一移行面と第二移行面は少し離れて設けることが望ましい。そのため、第一移行面と第二移行面の間には、前後両端が第二高さに属する第三シンカートップが設けられていることが好ましい。この第三シンカートップは前端と第二移行面の後端が、後端と第一移行面の前端がそれぞれ段差なく繋がっている。第二移行面の後端と第一移行面の前端はともに高さが第二高さであるため、第三シンカートップの前後両端の高さは第二高さであればよい。この両端の間はどのような形状でも問題はないが、ループ形成に影響を与えにくい上向きの水平面であることが好ましい。このとき、第一移行面と第二移行面と第三シンカートップによりシンカートップ上に突起が形成されているものとなる。第三シンカートップ全体はシンカーノーズ下面より低い位置であることが好ましい。シンカーノーズ下面より高いと、第一移行面と第三シンカートップと第二移行面でシンカートップ上にシンカースロートより大きな突起ができた状態となる。これによりループがこの突起を超えるときに接触し悪影響を及ぼす可能性がある。
【0048】
上記発明において、第一移行面の上方においてシンカーノーズが後方から前方に向かって突出しており、かつシンカーノーズの前端は第一移行面の前端よりも後方に位置するよう形成されていることが好ましい。
【0049】
シンカーが第一軌道で選択され、前後方向において後方が第一移行面の低い方向であるときにおいては、これが好ましい。編成工程において、第一移行面が編針の真横に位置するものとなり、その後編針のフックがシンカーノーズ付近まで下がったとき、シンカーノーズの前端は第一移行面の前後方向における範囲内に位置するものとなる。丸編機のニードルシリンダの円の接線方向から見たとき、シンカーノーズの前端は編針のフック内で後端から前方へ進出し編針に接近するが重ならず、シンカーノーズ上面より上の空間からシンカーノーズ下面より下の空間までを繋ぐ空間が、シンカーノーズ移行面と編針との間にできるものとなる。これにより上方で給糸される第一糸の前方への案内経路をフック内で形成することになる。このようにして第一糸はフックの下降とともに案内経路を通り第二糸の前方へ、より確実に案内されるものとなる。シンカーに押されたりするといった糸への負荷は無く、反転の可能性を減らすことができる。
【0050】
また、本発明のシンカーはシンカー基部よりも後方に選択部が形成され設けられていてもよい。
【0051】
この構成によれば、選択部がシンカー選択装置の作用を受けることにより、各シンカーの動作軌道を第一軌道と第二軌道のどちらか選択することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、丸編機のプレーティング編成において、丸編機の稼働中に各シンカーの動作軌道を第一軌道と第二軌道のどちらか選択することにより、シンカーの第一移行面又は第二移行面を用いて、各編針のフック内における第一糸の位置と第二糸の位置を入れ換えることができる。そして、シンカーは一種類であって種類を増やすことなく、余分なコストがかからない。また、ハイゲージの編地の編成の要求に応えうるものである。かつ、第一糸と第二糸が反転しにくい編成機構及びその編成機構に用いられるシンカーを提供することを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図2】実施例1の編成機構の概観図である。周知部分の断面を表すハッチングを省略している。
【
図4】実施例1のシンカー及び編針の動作軌道を表す動作線図である。
【
図5】実施例1のシンカーの(A)第一軌道および(B)第二軌道における編針降下時のフック内の糸の位置を表す概略図である。
【
図6】実施例2のシンカー及び編針の動作軌道を表す動作線図である。
【
図8】実施例3のシンカーの(A)第一軌道および(B)第二軌道における編針降下時のフック内の糸の位置を表す概略図である。
【実施例0054】
以下、本発明の内容を具体的な実施例を用いて説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0055】
本実施例においては、
図1のようなシングルニット丸編機Mを使用して、プレーティングジャカード編成を行う。本実施例の編成部周辺の断面図を
図2に示す。シングルニット丸編機Mは従来からある一般的な丸編機と同様の構成である。シングルニット丸編機Mは、編針8を収容するニードルシリンダ9と、シンカー1を収容するシンカーダイヤル10を有する。編針8が上下運動し、シンカー1は編針8に対して直交するように水平に前後運動する。編針8は、ドライブモータからの動力により編針8を収容するニードルシリンダ9が回転し、編針のバット83が丸編機に固定されたニードルカム91の案内を受けて上下運動する。同様に、シンカー1を収容するシンカーダイヤル10をニードルシリンダ9と同期して回転させ、それによりシンカー1は丸編機に固定されたシンカーカム101の案内を受けて前後運動する。そしてヤーンキャリア12から糸が編針8へ供給され、シンカートップ4(
図3)より下へ編針8が降下し、編針8がステッチした(動作軌道の最下点に達した)ときに、編針8のフック81とその編針8に隣接するシンカー1のシンカートップ4に糸が跨ることよりループが形成される。本発明におけるシンカー1は、一般的なシングルニット丸編機のシンカー1と同様に、薄板状であって、下向きの水平面であるシンカー基部下面を有するシンカー基部と、シンカー基部の後方から上方向に突出するシンカーバット102(
図2)と、シンカー基部の前方上端から上方及び前方に一体的に形成されたシンカー前部2を有する。
【0056】
図3は本発明の実施例1のシンカー1の拡大側面図を示す。シンカー前部2においては、最上部にシンカーノーズ3が形成されている。シンカーノーズ3は前方へ突出した形状である。シンカーノーズ3の下方には、シンカーノーズ3とは間をあけてシンカートップ4が形成されている。一般的なシンカーと同様、シンカートップ4は上向きの水平面である。また一般的なシンカーと同様、シンカートップ4は全体が同じ高さである。また一般的なシンカーと同様、シンカートップ4と、シンカーノーズ3の下面は平行に面する。各部分は別個のものを繋ぎ合わせたものではなく一体的に形成されている。
【0057】
本発明におけるシンカー1は、シンカーノーズ3が一般的なシングルニット丸編機のレースウェイ用シンカーと同様に、シンカーノーズ上面31と、シンカーノーズ下面33と、シンカーノーズ移行面32により構成されている。そして、シンカーノーズ上面31は上向きの水平面である。シンカーノーズ下面33は下向きの水平面である。
【0058】
本実施例の丸編機Mのシンカー1の形状は1種類のみである。本実施例におけるシンカー1には、シンカートップ4上に突起が形成されているような形状となっている。この突起には第一移行面42及び第二移行面43が形成されている。第一移行面42が前上がりの傾斜面である。第二移行面43は前下がりの傾斜面である。そしてシンカートップ4の突起より後方に第一シンカートップ41を有する。またシンカートップ4の突起より前方に第二シンカートップ44を有する。第一シンカートップ41及び第二シンカートップ44は上向きの水平面である。また、第一シンカートップ41及び第二シンカートップ44は全体が同じ高さ(「第一高さ」とする)である。また第一移行面42と第二移行面43の間に、第三シンカートップ45が形成されている。本実施例では第三シンカートップ45は上向きの水平面である。第三シンカートップ45は全体が同じ高さ(「第二高さ」とする)である。第二高さは第一高さとは異なる高さである。本実施例では第二高さは第一高さよりも高い。第一シンカートップ41はシンカーノーズ下面33に平行に対面している。シンカースロートはシンカーノーズ下面33と、第一シンカートップ41と、シンカーノーズ下面33と第一シンカートップ41の間に形成されたシンカースロート移行面34と、により形成されている。第一シンカートップ41と第二シンカートップ44の間に、第一シンカートップ41の前端から、後端の第一高さを経て第一高さとは異なる前端の第二高さへ後方から前方へ向かって移行する第一移行面42が形成されている。また、後端の第二高さから前端の第一高さへ、そして第二シンカートップ44後端へ後方から前方へ向かって移行する第二移行面43が形成されている。第二高さはシンカーノーズ下面33の高さより低い。これはシンカーノーズ下面33以上の高さだと、シンカートップ上の突起がシンカースロートを塞ぐような形となり、糸の動きを阻害する可能性が高いためである。第一移行面42と第一シンカートップ41との間の角度と、第二移行面43と第二シンカートップ44との間の角度は等しい。このため、第一移行面42の水平に対する傾斜角は、第二移行面43の水平に対する傾斜角と同じとなる。これにより、第一移行面42と第二移行面43で形成されるループの大きさがほぼ同じとなる。
【0059】
第一移行面42及び第二移行面43は直線状の斜面である。ただし、本発明では第一移行面42又は第二移行面43は曲面であってもよい。水平面でなければ本発明の目的を達成できる。
【0060】
シンカーノーズ移行面32は、上下方向である高さ方向において、シンカーノーズ下面33の高さより低い部分がない。これにより糸に余分な動きをなるべく伝えないようにして、反転の可能性を下げている。また、シンカーノーズ移行面32は、シンカーノーズ上面31の高さより高い部分がない。本発明では、例えばプレーティング糸を案内しやすいように、シンカーノーズ移行面32をシンカーノーズ上面31より高くすることは可能である。しかし、例えばフリースやパイル用シンカーのシンカーではない。つまり、フリースやパイル用シンカーのようにシンカーノーズ上面に複数の段が付いているものではない。シンカーノーズ上面は1つの水平面で構成されていることが好ましい。
【0061】
また本実施例ではシンカーノーズ下面33や第一シンカートップ41、第二シンカートップ44には、フリースやパイル用シンカーのような傾斜がついている部分はない。シンカースロート移行面32は前記シンカーノーズ下面33の高さから前記第一シンカートップ41の高さまでの範囲内で形成されている。これによりシンカースロートは真っすぐな形状となっている。しかし、本発明においては、シンカースロート移行面は、例えばシンカーノーズ下面33の高さより高い部分やシンカートップ41より低い部分があってもよい。
【0062】
図4は実施例1の編針及びシンカーの動作軌道を表す動作線図である。第1フィーダ1Fと第2フィーダ2Fの繰り返しによりプレーティングジャカード編成が行われる。ニードルカム91(
図2)は第1フィーダ1Fと第2フィーダ2Fで軌道が異なる。これにより第1フィーダ1Fの編針8の動作軌道5と第2フィーダ2Fの編針8の動作軌道5は異なる。ニードルカム91は2フィーダごとに同じニードルカム91が配置されている。つまり2フィーダごとの編針8の動作軌道は同じである。これにより全ての編針8が2フィーダリピートで、第1フィーダ1F及び第2フィーダ2Fの動作軌道を繰り返す。
【0063】
シンカーカム101(
図2)は第1フィーダ1Fと第2フィーダ2Fで動作軌道は異なり、第1フィーダ1Fは同じシンカーカム101により全てのシンカー1が同じ動作軌道6をとる。第2フィーダ2Fでは、シンカー1は第一軌道61と第二軌道62の二種類の動作軌道をとる。
【0064】
本実施例においては、反転防止のため、2フィーダを使用したプレーティングジャカード編成を行う。第1フィーダ1Fでグラウンド糸72(第二糸)を編針8に供給する。その軌道は、まず編針8は上昇してオールドループをフック81(
図5)内から脱がし、その後に下降し、グラウンド糸72を供給して編針のフック81内に挿入し、その後シンカー1を前進させて、グラウンド糸72をシンカースロート内に入れる。その後、第2フィーダ2Fで再度編針8が上昇し、プレーティング糸71(第一糸)を編針8に供給する。このとき、グラウンド糸72はシンカーノーズ下面で押さえられ上昇しないため、グラウンド糸72はシンカースロート付近に残る。
【0065】
その後、シンカー1の動作軌道6について第一軌道61と第二軌道62とのどちらかの軌道をとる。第一軌道61のシンカー1は第一移行面42を編針8の真横に位置させる動作軌道となる。これは、第二軌道62におけるシンカー1の位置より少し前方の位置をキープするものとなる。こうして編針8の下降中、第一移行面42は編針8に最も近い位置となる。そして編針8は第一移行面42の真横を通過し、編針8の動作軌道5における最下点に達する(ステッチする)。第二軌道62のシンカー1は第二移行面43を編針8の真横に位置させる動作軌道となる。これは、第一軌道61におけるシンカー1の位置より少し後方の位置をキープするものとなる。こうして編針8の下降中、第二移行面43は編針8に最も近い位置となる。そして編針8は第二移行面43の真横を通過し、編針8の動作軌道5における最下点に達する。これにより編針からオールドループが脱げ、第1フィーダF1及び第2フィーダF2によるプレーティングのループが形成される。本実施例では編針はオールニットであり全ての編針が2フィーダリピートで同じ動作軌道をとる。ただし、オールニットでなく、一般的なタック、ウエルトを入れた柄を編成することもできる。その場合は編針の一部はタック軌道Tやウエルト軌道Wをとるが、そのニット・タック・ウエルトで軌道が変わる部分以外の編針の動作軌道は全て同じである。
【0066】
図5は実施例1のシンカー1の(A)第一軌道61および(B)第二軌道62における編針8降下時のフック81内の糸の位置を表す概略図である。フック81内とは、一般的に編針8のフック81とラッチ82によって囲まれた領域のことである。
【0067】
第一軌道61ではグラウンド糸72は低い方である後方へ案内される。そして、プレーティング糸71はグラウンド糸72より前方に位置するものとなる。これにより第一軌道61では
図5(a3)のようにプレーティング糸71が前方、グラウンド糸72が後方に位置するプレーティング編成となる。
【0068】
本発明では、グラウンド糸72はプレーティング糸71よりも早いタイミングで第一移行面又は第二移行面に接触し、第一移行面又は第二移行面の低い方へ案内される。その後プレーティング糸71がフック81内に案内され、編針が下降してプレーティング糸が第一移行面又は第二移行面に接触し、第一移行面又は第二移行面の低い方へ案内される。糸が第一移行面又は第二移行面に案内されるタイミングの違いにより、各糸を反転させることなく制御することができる。
【0069】
本実施例においては、編針8の上下動作において、シンカー1は、編針8の下がり始めから
図5(a1)のように編針8のフック81内に後方から前方へ向かってシンカーノーズ3が挿入されるような位置をキープしている。第一移行面の上方においてシンカーノーズ3の前端は第一移行面の前端よりも後方に位置する。このためプレーティング糸71が下がる際に自動的に前方へ案内する案内経路がシンカーノーズ移行面32によりフック81内に形成されている。そして
図5(a2)のように、プレーティング糸71は当該案内経路を通り前方へ、グラウンド糸72は後方へ案内されることとなり、両者間の距離を離すことにより反転可能性を低減している。
【0070】
一方、第二移行面43は前下がり、後ろ上がりの斜面であり、第二軌道62では、
図5(b2)のようにグラウンド糸72は低い方の前方へ案内される。そしてプレーティング糸71はグラウンド糸72より後方に位置するものとなる。これにより第二軌道62では、
図5(b3)のようにグラウンド糸72が前方、プレーティング糸71が後方に位置するプレーティング編成となる。
【0071】
このようにして、シンカー1の動作軌道6をシンカー1ごとに第一軌道61か第二軌道62かどちらか選択することで、グラウンド糸72とプレーティング糸71の位置を入れ換えることができる。シンカー1及び編針8の動作としては、編針8が糸を捉えた後、シンカー1は編針の真横にシンカー1の第一移行面42又は第二移行面43が位置するよう移動する。この動作時、シンカー1及び編針8は速度が細かく変化したり逆方向へ移動したりせず、スムーズに動く。ほぼ一定の速度で、あまり糸に負荷をかけない。その後は、編針8が動作軌道の最下点まで下がる(ステッチする)。この動作時も、シンカー1は静止しており、編針8は速度が細かく変化したり逆方向へ移動したりせず、スムーズに下降する。この動作でも編針8はほぼ一定の速度であり、シンカー1はステッチするまで動かない。こういった無理のない動作により、糸同士の反転可能性が低減される。
【0072】
本実施例においては、シンカー選択装置を使用している。また、シンカー基部よりも後方に選択部が設けられている。この選択部の上方にはシンカー選択装置が設けられている。このシンカー選択装置により、選択部がこのシンカー選択装置の作用を受けて、各シンカーの動作軌道6を第一軌道61と第二軌道62のどちらか選択することができる。これによりグラウンド糸72とプレーティング糸71の位置を入れ換え、プレーティングジャカード編成を行うことができる。
【0073】
なお、本発明は本実施例に限定されない。例えば、シンカートップ4上の突起は本実施例では台形であるが、これが三角形であったり、半円形であったりしても本発明の権利範囲に属することは言うまでもない。また例えば、本発明の構成は丸編機の稼働中にプレーティング編成におけるプレーティング糸71(第一糸)とグラウンド糸72(第二糸)の位置を入れ換えるプレーティングジャカード編成を行うために必要な構成であって、これに、編成する編地の種類に応じたアレンジを加えたものであっても、本発明の権利範囲内に属することは明らかである。その例としては、編針8は一般的な編針選択装置によりニット、タック、ウエルトを選択できるものであってもよい。編針選択装置により、さらに編成できる編地のバリエーションが豊富となる。本発明は編針が最下点へ降下するときのシンカーの位置が重要であり、ニット、タック、ウエルトの選択はこのシンカーの位置に影響を与えるものではないため、編針選択装置があってもなくても本発明の権利範囲に属する。
【0074】
他にも、本実施例に記載された構成が無くても本発明の権利範囲に属する。例えば本発明において、第一移行面と第二移行面が直接繋がっている場合は、第三シンカートップ45は無くてもいい。
【0075】
また本発明の構成に、本発明によるプレーティングジャカード編成に影響しない変更を加えても、例えば意味のない溝を設けたり、突出部を設けたりしたものであっても、本発明の権利範囲に属することは言うまでもない。